(1) 帝人グループが目指す姿
帝人グループは、創業からの約100年、社会のニーズを先取りし、新たなビジネスへの変革と挑戦により事業基盤を構築してきました。一方、近年は厳しい経営状況に対する構造改革と将来に向けた成長投資を行ってきましたが、市場期待を上回る成長を示すことができず、中長期の成長期待も低下している状態が継続しています。
このような中、帝人グループが「One Teijin」となって成長軌道への回帰に向けた実行力を向上させるためには共通の価値観を持つ組織づくりが必要との認識のもと、帝人グループのパーパス「Pioneering solutions together for a healthy planet」を策定しました。このパーパス・存在意義を明確化・言語化するプロジェクト「Journey to One Teijin」では、社員参画・見える化のプロセスを重視して海外拠点を含む社員の共感の醸成を図った結果、策定されたパーパスには、帝人の原点に立ち戻り、美しい地球に人々がいつまでも暮らし続けるためのソリューションの提供に挑戦する会社でありたいという社員の思いが強く反映されています。
このパーパスを軸とし、併せて策定した3つのバリュー、「①すべての挑戦をリスペクトします、②多様な仲間と専門性を活かして成長します、③地球とあらゆる生命に寄り添い、守ります」を実践し、長期ビジョンである「未来の社会を支える会社」を目指していきます。具体的には、モビリティ、インフラ&インダストリアル領域において「地球の健康を優先し、環境を守り、循環型社会を支える会社」となること、ヘルスケア領域において、希少疾患・難病などの疾病領域を中心として「より支えを必要とする患者、家族、地域社会の課題を解決する会社」となることを目指して社会に価値を提供していきます。
(2) 対処すべき課題
当社は、2024年5月に「帝人グループ 中期経営計画2024-2025」を公表しました。
当社の対処すべき課題は、①収益性改善の完遂による基礎収益力の回復、②事業ポートフォリオ変革、③グローバル経営基盤の強化と捉えています。今中期経営計画を、これらの課題に取り組み、成長軌道に回帰するための第一歩として位置付け、強い決意を持って推進します。
① 収益性改善の完遂による基礎収益力の回復
2023年度は収益性改善に向けた改革の1年として、以下の施策に重点的に取り組みました。
1) 複合成形材料事業、アラミド事業、ヘルスケア事業の課題3事業の収益性改善
2) 経営判断・実行の迅速化を促す経営体制への見直し
これらの成果として、2023年度は目標として掲げた300億円以上の改善目標を概ね達成しました。
一方で、下図のように生産安定化に課題が残ったため、2025年度までコーポレート支援によるグローバルでの生産安定化実現に向けた取り組みに注力し、収益性改善のための諸施策とともに基礎収益力を回復し、事業利益500億円、税後事業利益ROIC4%以上、ROE6%以上(IFRSベース)を目指します。
<収益性改善の総括と改革の完遂に向けた対応>
② 事業ポートフォリオ変革
2026年度以降の次期中期経営計画期間において、変革後の事業ポートフォリオによる成長を実現していくために、今中期経営計画においては、不採算事業・非注力事業の戦略的オプションを実行し、運営する事業を絞るとともに、成長産業セクターにおいて素材単体から機能材料事業、加工・ソリューション型事業、在宅医療事業で培ったサービス基盤を活かした提供価値主体の事業展開へ変革するべく、当社に競争優位性があると考えるモビリティ、インフラ&インダストリアル、ヘルスケアの領域での成長投資を精査の上実行します。
<変革の過程>
*1 2023年度のIFRS実績値は概算値
*2 「税引後事業利益÷期首・期末平均投下資本」にて算出(投下資本=資本+有利子負債)
*3 事業利益は、営業利益に持分法による投資損益を加算し、非経常的な要因により発生した損益を除いて算出
*4 「親会社の所有者に帰属する当期利益÷期首・期末平均親会社の所有者に帰属する持分」にて算出
*5 劣後債資本性調整後のD/Eレシオ(グロス表示)(2021年7月21日 劣後債 600億円発行済)
また、2024年度および2025年度の2年間のキャピタルアロケーション並びに株主還元の方針は、収益性改善により既存事業のキャッシュ創出力を強化して得られたキャッシュを基盤投資や配当に優先的に充当し、政策保有株式・遊休資産の売却、不採算・非注力事業の戦略的オプション実行により創出したキャッシュを、成長投資および追加的な株主還元(自己株式取得を含む)に優先的に配分することとします。
<キャピタルアロケーション及び株主還元方針(2024-2025年度)>
③ グローバル経営基盤の強化
事業ポートフォリオ変革に併せて、グローバル経営基盤を強化し、パーパスを軸として実行力の向上を目指します。今中期経営計画においては特に、ガバナンス面で「グローバル企業・多角化企業に最適化されたガバナンス体制の確立」、生産・製造技術面で「国内外の知見・技術の融合による設備・運転・保全レベルの進化」、人的資本の面で「戦略を実装する『適所』の確立と『適材』の確保」の課題に取り組みます。
<グローバル経営基盤強化のロードマップ>
以上のように中期経営計画の経営戦略・事業戦略を着実に実行することにより、投資家をはじめとするステークホルダーの期待に応えられる持続的な成長と中長期的な企業価値向上を実現し、早期にROE10%以上、PBR1倍以上の達成を目指していきます。
帝人グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりです。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において帝人グループが判断したものです。
(1)マテリアリティ(重要課題)に関する取組
帝人グループは、社会・環境問題をはじめとするサステナビリティ(持続可能性)を巡る課題を経営課題と認識し、サステナビリティに関する方針のもと、自社にとっての機会とリスクを整理し、以下のとおり、重要課題を特定しました。それぞれにKPIを設定して取り組みを推進することで長期ビジョンの実現につなげています。
|
重要社会課題 |
1) 気候変動の緩和と適応 2) サーキュラーエコノミーの実現 3) 人と地球社会の安心・安全の確保 4) 人々の健康で快適な暮らしの実現 |
|
重要経営課題 |
5) 持続可能な経営基盤のさらなる強化 |
①ガバナンス
サステナビリティに関する方針やマテリアリティは、取締役会における決議事項であり、それらの方針に沿ったサステナビリティの取り組みは、執行側で管理指標も設定して進め、その対応状況については、適宜、CEOまたはサステナビリティ管掌から取締役会に報告され議論を行っています。
②戦略
重要社会課題を事業の成長機会と捉え、社会が必要とする新たな価値を創造・提供していくことで、事業と社会の持続的な発展を目指します。
1) 気候変動の緩和と適応
「気候変動の緩和」では、高機能・高付加価値材料によるモビリティの軽量化や高耐久化を中心としたソリューションを提供します。「気候変動への適応」では、高機能素材によるインフラ補強材や、ヘルスケアやIT等の技術やサービスを通し、自然災害発生時の被害低減と迅速な復旧に役立つソリューションの提供に取り組みます。また、事業活動に伴う地球環境への負荷低減として、脱石炭火力を図るとともに、省エネ・再エネ化の推進やプロセスイノベーション等の技術革新にも取り組みます。
2) サーキュラーエコノミーの実現
高性能タイヤ補強材やコンベヤーベルト等、製品の長寿命化につながる「高耐久・高品質素材」や、ポリエステル繊維やアラミド繊維等の「リサイクル技術」の提供を通じて、バリューチェーン全体での資源循環性の向上に貢献します。また、事業活動に伴う資源循環の取り組みとして、リユース、リサイクル等による廃棄物の削減や、水使用量の少ない製品の拡大と事業活動における水の効率的利用に努めます。
3) 人と地域社会の安心・安全の確保
火災の高熱にも耐えるアラミド繊維、地震災害時の天井落下リスクを軽減する超軽量天井材あるいは安否確認システム等、高機能素材やITを駆使したソリューションを提供します。また、ナノレベルの微細技術を活用したフィルターや環境エンジニアリング等により、地球環境汚染の防止・浄化に貢献します。事業活動における生態系の破壊や環境汚染につながる有害化学物質については、把握と管理を徹底し、事業活動に伴う有害化学物質排出量を計画的に削減します。
4) 人々の健康で快適な暮らしの実現
医薬品・医療機器・医療材料・食品・ITサービス等を総合的に活用し、人々の健康的で快適な生活を支えるソリューションを提供します。特に、希少疾患・難病等疾患領域を中心に、より支えを必要とする患者、家族、地域社会の課題を解決するソリューションを提供していくことを目指します。また、安全と健康に配慮した職場環境を提供するため、労働災害の撲滅、長時間労働の是正、メンタルヘルスの向上に取り組みます。
③リスク管理
サステナビリティに関するリスクについては、TRMのグループ重大リスクと位置付けTRM体制のもとで管理しています。詳細は、「
④指標と目標
環境関連課題に対して、下表の長期的なKPIを設定しています。自社グループ排出温室効果ガスの削減目標は「2℃を十分に下回る目標水準(Well-below2℃)」であるとして、パリ協定の定める目標に科学的に整合する温室効果ガスの排出削減目標「Science Based Targets(SBT)」の認定を受けており、長期目標達成のロードマップを設定して、ネット・ゼロの実現に向けて取り組んでいます。
*1 CO2以外に、メタン、一酸化二窒素を含んでいます。
*2 当社製品使用による、サプライチェーン川下でのCO2削減効果を貢献量として算出しています。
*3 事業基盤を強化するKPIはいずれも2018年度を基準年とする目標値です。
*4 スコープ3排出量のうち、カテゴリー1(購入した製品・サービス)の商社ビジネスを除く範囲を対象としています。
*5 各指標の売上高原単位は、連結売上高を分母に適用して算定しています。
(2)人的資本(人材の多様性を含む)に関する取組
帝人グループは、「人財」を究極の経営資本と位置付けています。「帝人グループ 中期経営計画2024-2025」で示した経営戦略・事業戦略を「組織」と「人財」を通じて実現するため、また、社員の自律的なキャリア形成を支援するとともにグローバル適所適材を進めるため、次のとおり人的資本の考え方を再定義しました。
■帝人グループに集う多様な社員が、それぞれの人間的成長や豊かな人生を実現できるよう、会社は魅力的な働く環境を整備し、社員の自律的なキャリア形成を支援します。
■事業の成長には、組織と人財の能力開発・発揮が不可欠であり、それに必要な「組織設計」「採用」「配置」「人財開発」「評価・処遇」等といった一連の人事施策を通じて、適所適材を実現します。
① ガバナンス
帝人グループは、全経営役員をメンバーとする「グループ人事/D&I会議」(2023年度は15回開催)にて、役員及びグローバルレベルで重要なポジションにおけるサクセッションプランの検討状況の共有や個別アサインメントの検討、また経営者育成に向けた施策に関する議論を実施しています。
また、人的資本や多様性を含めた人事・人財育成に関わる事項のうち重要なものについては経営会議及び取締役会に報告されます。
これらの活動は、人事・総務管掌(CHRO)を責任者として、国内の人事部門の部長、事業本部の人事トップマネージャー等と連携して進めています。加えて、Global HR Leadership Meeting を四半期ごとに開催し、グローバルレベルでの人事戦略、人事施策の検討、各事業における人事施策の進捗状況や課題の共有等を実施しています。
② 戦略(人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針)
経営戦略・事業戦略を実現するためには、組織及び人財の競争力を高める必要があります。そのため、人事戦略の大きな柱を、「戦略を実装する『適所』の確立と『適材』の確保」と「人財が活躍するための施策」としました。
1)「戦略を実装する適所の確立と適材の確保」を実現する上での主要な課題は、a.社内グローバル人財を最大限活用、b.人財ポートフォリオの最適化、c.社員のキャリア自律です。これら課題解決のため、日本を含むグローバルにおいては適所適材を実現するための施策、日本国内においては職務に基づく評価・処遇制度(いわゆるジョブ型の人事制度)への改定等を進めていきます。
2)「人財の活躍」を実現するための主要な課題は、d.多様な視点を合わせることによって、イノベーションを促進させること、e.社員エンゲージメント向上です。帝人グループの多様な人財が、自らの能力やスキルを最大限に発揮し生き生きと活躍できる環境を作るため、多様性をより一層富ませるとともに、社員エンゲージメントの阻害要因を特定し、改善アクションを設定、かつそれを実行していくことで、社員エンゲージメント向上を図っていきます。
当社は、グループ全体の経営戦略に基づき、各事業がそれぞれの事業戦略を策定、実行しています。戦略実行に適した組織を設計し、それぞれのポジションの職務を定義し、事業戦略を実行する人財を適所適材で確保し、グローバルで職務に適した処遇を行っていくことで、戦略の実現及び事業競争力強化を目指しています。
併せて、帝人グループに集う多様な人財が、それぞれの経験や価値観等からアイディアや考えを出し合い、時には衝突しながらも、それを乗り越えてより良いソリューションやイノベーションを創出していくとともに、多様な人財がエンゲージメント高く生き生きと活躍し、自分らしいキャリアを実現していくための施策を実行しています。
社員のキャリア自律を促すこと、グローバル適所適材を推進することにより、事業戦略に貢献する人財ポートフォリオを構築し、企業価値向上を図っていきます。
人事戦略の全体像は、次のとおりです。
上記を実現するために、2023年度は主に以下の取り組みを進めました。
1)グローバルでの適所適材の推進
a.戦略の実装に向けた組織設計
2023年4月に役員制度を改定し、経営役員と事業担当役員から構成される体制に改定しました。これに合わせて、ポジションにおける役割・責任と処遇の関連性を明確化するとともに、人事・評価のプロセスをより適切に整えることで、執行役員を担える人財を、グローバルレベルでより柔軟に任用・配置できる体制としました。
b.人財ポートフォリオの構築に着手
2023年度は、役員及び部門長クラスのサクセッションプランの目的、内容及びプロセスを全面的に改定し、トップ層の人財ポートフォリオ構築を実施しました。役員・部門長のポジションの職務と、サクセッサー候補の充足率を明確化し、そのギャップを埋めるための施策(採用、配置、人財開発)を実行しています。
今後は、2024年度から開始する新中期経営計画の事業ポートフォリオ変革を推進するため、事業本部と共同で必要な専門人財に関する人財ポートフォリオを策定し、最適化に向けた必要人財の獲得施策を検討・実施していきます。
c.コアポストのサクセッションプランの遂行
2023年度は、役員及び部門長クラスのサクセッションプランの目的、内容及びプロセスを全面的に改定しました。役員のサクセッションプランについては、各役員がサクセッションプランを策定した後、CEO及び人事・総務管掌との三者面談で確認、その後グループ人事/D&I会議にて議論をするというプロセスによって、サクセッションプランのアップデートを行います。またグループ人事/D&I会議の中で、役員ポジションを起点としたサクセッションプランにおけるコアポスト就任候補者の戦略的配置についても議論し、ポジションに就任させるまでの育成を加速しています。
部門長クラスのサクセッションプランについては、部門長本人がサクセッションプランを策定した後、各役員がサクセッションプランをアップデートさせ、人事・総務管掌と役員との事業別人事会議で議論を実施し、戦略的配置のほか、ポジション就任候補者の人財開発のための個別育成を実施しています。
d.グローバルジョブポスティングの拡充
社員がグローバルで自律的にキャリア形成できるよう、また、グローバルでの適所適材を推進する施策として、2023年度にトライアルとして社内公募をグローバルに展開しました。2024年度以降は、この実績を踏まえ、さらに海外グループ会社の対象範囲を拡大していく予定です。
2)日本における人事制度改革
a.職務に基づく評価・処遇の実現
2023年4月に役員層について、ポジションにおける役割・責任と処遇の関連性を明確にしたジョブ型人事・評価を導入しました。次いで、2024年4月に部門長以上の管理職について、職務の大きさ(幅、難易度、責任の重さなど)に応じて処遇を決める処遇制度に移行しました。
これらの制度改定により、ポジションの職務内容を明確化し、職務に応じた処遇を実現することで、優秀人財の採用、配置、人財開発を図ります。
さらに2024年度からは、部長以下の管理職についても職務基準の人事制度への改正について検討、実施していきます。
b. タレントアクイジション戦略
戦略を実現し、事業競争力を高めるためには、専門性の高い人財を獲得していく必要があります。2023年度は、キャリア入社者比率は40.9%(帝人、帝人ファーマ)でした。今後採用方法の多様化を進め、専門性の高い人財の確実な採用を図っていきます。
c.自律的なキャリア形成/成長支援
社員の自律的なキャリア形成を促すことは、会社と社員の健全な関係のベースとなるものであり、社員の社内・市場競争力を高めるための努力は、企業価値の向上に大きな貢献をするものであると考えています。日本では、1990年代から社内公募制度「ジョブチャレンジ制度」を実施しておりますが、社内公募の活性化とともに社内のキャリア機会を知ってもらう取り組み「ジョブポスティングウィーク」として、公募している部署の所属長が部署と仕事の魅力をPRするイベントを実施しました。その結果、国内の公募数は前年対比2.3倍に増加しました。
また、今後のキャリア形成について本人・上司が話し合う場としてのキャリア面談制度をトライアルとして開始しました。キャリア形成は自己責任ではあるものの、会社は社員のキャリア自律を最大限サポートする責任があります。2024年度以降は、全社に展開し、社員の自律的なキャリア形成・成長支援を行っていきます。
3)人財が活躍するための施策
グローバルで帝人グループに集う多様な社員が、自らの能力やスキルを最大限に発揮し生き生きと働き活躍することが必要です。社員が活躍できる環境を作るため、a.DE&Iの推進、b.エンゲージメント向上を進めています。
a.DE&Iの推進
帝人グループは、多様な人財を活用することが創造性を高め、イノベーションを促進すると考え、2000年より女性の活躍の推進、外国籍の社員の採用などに積極的に取り組んできました。事業のグローバル化に伴い、日本を中心とした取り組みを世界に広げ、役員層の多様性推進のためのKPIを設定しています。役員候補のパイプライン形成、また部課長として活躍している女性を増やすため、事業本部ごとに女性部課長の比率目標を設定し、事業本部内での計画的な育成と登用を実施しています。また、女性が自分らしいリーダーシップを発揮できるよう、2024年度よりトライアルとして異業種メンタリングを実施し、メンターからのアドバイスや示唆を受けて実際の業務の中で実行するというPDCAサイクルの中で、リーダーとしての成長を促していく予定です。
帝人グループでは、毎年エンゲージメントサーベイを実施していますが、2023年度に実施したサーベイの結果からDE&Iの方針や考え方のグローバルでの浸透度に課題があることが分かりました。そこで、国際女性デーに合わせて改めてトップメッセージを動画でグローバルに配信したほか、今後は、社員有志が実施しているDE&Iの活動をグローバルで情報共有するなど、トップダウンとボトムアップ双方の取り組みを継続しDE&Iの浸透と意識の向上を図っていきます。
これまでは、ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包摂性)を推進しておりましたが、社員の属性やニーズがさらに多様化している状況の中、今後は、一人ひとりがパフォーマンスを出せるよう、個々に合わせて支援内容を調整し、公平な土台をつくり上げる「エクイティ」の施策も検討、実施していきます。
障がい者活躍に関しては、特例子会社の帝人ソレイユで野菜・バラ・胡蝶蘭を中心とした農業事業と、オフィスサポート事業を実施し、障がい者一人ひとりの特性に応じた活躍の場を作っています。ハンディキャップがあっても農業において能力を発揮することで、会社・事業に貢献するだけでなく、自らが経済社会を構成する労働者の一員であることに“やりがい”と“誇り”を感じられることを目指しています。また、帝人ソレイユでは農業事業において売上増加及び営業利益黒字化を目標に販売拡大に取り組んでいます。なお、2024年3月時点での帝人・帝人ファーマ・帝人ヘルスケア・帝人ソレイユにおける障がい者の雇用率は2.62%で、法定雇用率である2.3%を上回っています。
LGBTQ+当事者の活躍のため、2017年以降、①会社としての方針明示、②社員への啓発活動、③当事者に配慮した人事給与の制度改定、④当事者への支援の取り組みを実施してきました。①及び③は既に実施済であることから、社員への啓発活動と当事者への個別支援に重点を置いております。2023年度はLGBTQ+当事者を理解するためのイベントや階層別研修でのLGBTQ+当事者についての研修を実施しました。数はまだ多くないものの、当事者からの個別相談が増えてきています。このような取り組みが評価され、Work with Pride のPride指標で4年連続Goldを受賞しました。
b.社員エンゲージメントの高い競争力ある企業へ
事業戦略の実現には、社員エンゲージメント向上が必要です。毎年1回サーベイを実施し、結果を分析して課題を特定し改善アクションを実施するというPDCAサイクルでエンゲージメント向上を図っています。2023年度は、日本・海外のグループ社員約19,500人を対象として実施し、回答率が71%と前年対比+3%増加したものの、エンゲージメントスコアは62と前年対比2スコアダウンしました。サーベイの結果分析から、サーベイ後の行動(改善アクション)に課題があるということが分かりました。2024年度以降は、部課長の改善アクション設定率をKPIに設定し、部や課といったフロントラインの組織でそれぞれ異なる課題に対して改善アクションを実施していくことでエンゲージメント向上を図ります。
③ リスク管理
人的資本に関するリスクについては、TRM体制のもとで対応すべきリスク領域として位置づけ管理しています。詳細は、「
④ 指標及び目標
人事戦略の柱の一つである「人財が活躍するための施策」の状況を測るため、役員層・管理職層の多様性と社員エンゲージメントに関する指標を設定しています。計画的な育成と登用で役員層・管理職層の多様性を改善し、エンゲージメント改善アクションの設定と実行で社員エンゲージメントを向上させ、目標の達成を目指します。
[多様性に関するKPI]
[社員エンゲージメントに関するKPI]
*1 取締役、監査役、グループ執行役員
*2 日本を含めたグローバルでラインポストに就く役職者
*3 前年9月実施分
(3) 社会貢献活動
帝人グループ社会貢献基本方針に則り、自然との調和を大切にし、地域コミュニティとともに発展するため、よき企業市民として事業特性や地域性を尊重した適切な社会貢献活動を推進しています。学術・教育、スポーツなどを通じた次世代の育成の支援としては、若き科学技術者の育成を目的に創設した公益財団法人帝人奨学会による帝人久村奨学金制度を通じ、70年にわたり約1,700人の理工系学生を支援しています。また、「全国高校サッカー選手権大会」への協賛や、公益財団法人日本ユニセフ協会「子どもの権利とスポーツの原則」への賛同など、青少年のスポーツ支援に取り組んでいます。その他、「令和6年能登半島地震」の被災地に対する復興支援や、社員のボランティア活動を支援する休職制度や社員参加型プログラムなどの様々な仕組みを継続的に運用しています。
(1) リスクマネジメントの基本原則
当社は、その株主価値を高め、さらに株主を始めとするステークホルダーが満足できる事業活動を継続する使命があり、その実現を脅かすあらゆるリスク(不確実性)に対処する必要があるとの認識のもと、グループ全体が晒されるかかるリスクを統合的かつ効率的に把握・評価・管理し、グループ経営に活かすための組織的・体系的アプローチを行うこととしています。
当社取締役会は、帝人グループ全体のリスクマネジメントを行い、経営戦略・経営計画策定、戦略的なアクション、個別投資プロジェクトの決定、会社に悪影響をもたらす様々な有害事象等のリスクアセスメントを、意思決定を行うに際しての重要な判断材料として位置付けています。
また、当社は、グループ会社とその役員に対し、上記の原則を充分理解し、会社活動を脅かすあらゆるリスクに対処するよう求めています。
上記の基本原則に則り、下記のとおりの施策を通じてリスクを統合的に管理するトータル・リスクマネジメント(TRM)の運営を行っています。
・ TRM 推進のため、業務運営リスクを担当するサステナビリティ管掌を置き、経営戦略リスクについてはCEOが直接
担当する。
・ 取締役会の下に、リスクを統合的に管理する「TRMコミティー」を設置する。
・ TRMコミティーの委員長はCEOとし、その他の委員は、サステナビリティ管掌及びCEOが指名した者とする。
・ 取締役会は、TRMコミティーから提案されるTRM基本方針、TRM年次計画等の審議・決定を行うとともに帝人グループとしての重要なリスクについて管理し、事業継続のための態勢を整備する。
なお、以下の文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において帝人グループが判断したものです。また、本有価証券報告書は、リスクと不確実性を伴う将来見通しに基づく情報も含んでいます。当社グループは、下記リスクのほか、本有価証券報告書中の他の箇所に記載されているリスクに直面しておりますが、これらのリスクの影響により、実際の業績が、将来見通しに基づく記述が想定しているものとは異なってくる可能性があります。
(2) 2024年度TRM基本計画
2024年度においては、取締役会の審議を経て、下記のとおり対応方針を設定しています。
■ 新中期経営計画実行の重要な年度において、リスク低減や未然防止を図り、リスクを許容範囲内に収めることで
確実な計画達成を目指す。
■ 経営戦略、経営管理(財務、人的資本等)、業務運営それぞれのリスク管理を強化させるとともに、中長期的
リスクについても認識・把握と発現時の対応施策を検討し、リスクと機会の適切な管理に取り組む。
2024年度は、上記方針に基づき、リスク領域を10領域(経営戦略、経営管理(財務)、経営管理(人的資本)、安全、情報、品質、法務・コンプライアンス、地政学、環境、社会)に整理し、それぞれの領域におけるリスクマネジメントオーナー(担当役員)を任命して、その責任と範囲を明確化したうえで、リスクの管理に取り組んでいます。各領域のリスクについて、①影響度、②発生確率、③発生時期から評価を行い、下表の主要なリスクから重大リスクを特定したうえ、リスクマネジメントの実効性を高めるため、重大リスクの中でも特に重点管理するリスクを絞り込んでいます。
|
リスク 領域 |
主要リスク |
リスク内容 |
対応方針 |
影響度 |
発生確率 |
発生時期 |
評価※ |
|
経営戦略 |
短中期経営計画未達 |
外部環境変化や不測の事象の発生等により、収益性改善遅延、生産安定化遅延、ポートフォリオ変革遅延、経営基盤強化遅延などから、業績不振が継続するリスクが高まる |
・短中期経営計画主要施策の進捗モニタリングとリスク発現予兆の分析・評価実施、リスク発現時に遅延なく対応策実施 |
大 |
中 |
短~中期 |
A |
|
経営管理 (財務) |
財務健全性毀損 |
キャッシュ・フロー悪化等により財務健全性を毀損し、資金調達困難、破綻などのリスクが高まる |
・運転資本圧縮によるキャッシュ・フローの改善と緊縮的なキャッシュマネジメント政策の立案・実行 |
大 |
中 |
中期 |
B |
|
経営管理 (人的資本) |
人財流出・採用 |
人事戦略の浸透不足、DE&I等の社会的要請への対応不十分等が要因となり人財流出や採用困難が持続し、経営基盤が弱体化 |
・人財が活躍するための施策(DE&I、エンゲージメント)の推進 ・事業ごとの戦略/懸案に適切に対応 |
大 |
中 |
中~長期 |
B |
|
安全 |
火災・爆発 |
事業所での火災・爆発の発生により、製造や供給停止が長期化し、顧客喪失や訴訟が発生 |
・会社存続に影響するリスクを重点的に管理 ・BCP検討 |
大 |
中 |
短期 |
A |
|
大規模災害 |
大地震等大規模自然災害への対策不備により、サプライチェーンへの被害、製造や供給停止の長期化、顧客喪失、訴訟が発生 |
・本社危機管理対応体制の点検と整備 |
大 |
高 |
短~長期 |
B |
|
|
情報 |
情報セキュリティ |
サイバー攻撃や産業スパイへの対策不備により情報や知財流出が発生、レピュテーション低下、訴訟、顧客喪失や資金調達困難により事業継続困難となる |
・コーポレート指導によりグループ各社の緊急対策実施 ・システム脆弱性評価、防御・検知システム構築 |
大 |
中 |
短期 |
A |
|
DX/AI |
デジタル化やデジタルサービス導入が世界的に進む中対応が遅れ、競争力が低下 |
・DX人財育成策継続 ・事業DX推進支援 |
中 |
中 |
中期 |
C |
|
|
品質 |
重大品質不正・偽装 |
当社製品の重大な品質不正・偽装が原因で人的被害が発生し、事業停止処分、巨額の補償が発生、他事業へも影響波及 |
・自己点検強化、ハイリスク事業の製造現場査察等により未然防止 |
大 |
中 |
中期 |
B |
|
法務・コンプライアンス |
重大不祥事 |
社会的注目を集めるコンプライアンス問題が発生し、マスコミ報道加熱、レピュテーション低下により、顧客喪失、事業継続困難となる |
・海外子会社、個別管理会社など、目の届きにくいグループ会社のコンプライアンス強化 |
大 |
中 |
中期 |
B |
|
地政学 |
経済安全保障 |
国際的な経済安全保障対応の強化、国家・地域間の対立激化や制裁措置導入等への適切な対応が遅れ、製品供給停止、事業喪失 |
・中国リスクに対し、サプライチェーン維持策とポートフォリオの変更(中国事業対応)を継続検討 |
大 |
中 |
中期 |
B |
|
環境 |
気候変動 (移行リスク) |
環境規制や情報開示義務への対応、顧客からのCO2削減要請への対応遅れにより、顧客喪失、投資家離れが発生 |
・グローバルの規制動向を継続的にモニターし、遅延なく対応をとる |
小 |
高 |
中~長期 |
C |
|
社会 |
サプライチェーン人権 |
規制強化への対応不備や人権侵害発覚により、レピュテーション低下、顧客喪失、訴訟、人財流出が発生 |
・外部リスクアセスメント(サーベイ)に基づくハイリスク事業の課題対応モニタリング |
中 |
低 |
中期 |
C |
※評価: A=重大リスク(重点管理) B=重大リスク C=その他リスク
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において帝人グループが判断したものです。
(1)経営成績等の状況の概要
① 財政状態及び経営成績の状況
2023年度における世界経済は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が収束し社会・経済活動の正常化が進んだものの、欧米各国の金融引き締めの長期化や、中国での不動産市況の低迷などに起因した景気回復の鈍化、ウクライナ情勢の長期化や中東情勢の緊迫化による地政学リスクの高まりなどにより、依然として先行き不透明な状況が継続しました。
帝人グループは、前中期経営計画での財務目標値が未達となったことを受け、2023年2月に「帝人グループ収益性改善に向けた改革」を公表し、成長回帰に向けて、2023年度は収益性改善を最優先課題として注力して参りました。経営判断・実行の迅速化を促すために変革した新経営体制のもと、課題3事業として掲げた複合成形材料、アラミド、ヘルスケアを中心に収益性改善に向けた取り組みを進めました。各収益性改善施策は概ね計画通り達成しましたが、複合成形材料事業では、工場の安定稼働化に苦戦し、この部分の通年での改善額は未達となりました。このような状況のもと、帝人グループの当連結会計年度の経営成績及び財政状態は以下のとおりとなりました。
1)経営成績
帝人グループの当連結会計年度の経営成績は、売上高1兆328億円(前期対比1.4%増)、営業利益135億円(同5.3%増)、経常利益156億円(同71.0%増)、親会社株主に帰属する当期純利益106億円(前期 親会社株主に帰属する当期純損失177億円)となりました。
(単位:億円)
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157期 (2023年3月期) |
158期 (2024年3月期) |
増減額 |
増減率 |
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売上高 |
10,188 |
10,328 |
140 |
1.4% |
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営業利益 |
129 |
135 |
7 |
5.3% |
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経常利益 |
91 |
156 |
65 |
71.0% |
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親会社株主に帰属する 当期純利益又は親会社株主に帰属する当期純損失(△) |
△177 |
106 |
283 |
- |
報告セグメントごとの経営成績の概況は次のとおりです。 (単位:億円)
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157期 (2023年3月期) |
158期 (2024年3月期) |
増減額 |
増減率 |
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売 上 高 |
マテリアル |
4,387 |
4,397 |
10 |
0.2% |
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繊維・製品 |
3,221 |
3,215 |
△6 |
△0.2% |
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ヘルスケア |
1,506 |
1,447 |
△59 |
△3.9% |
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IT |
580 |
721 |
140 |
24.2% |
|
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その他 |
494 |
548 |
55 |
11.1% |
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合計 |
10,188 |
10,328 |
140 |
1.4% |
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営 業 利 益 |
マテリアル |
△213 |
△62 |
151 |
- |
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繊維・製品 |
97 |
121 |
25 |
25.4% |
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ヘルスケア |
252 |
73 |
△178 |
△70.9% |
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IT |
81 |
95 |
14 |
17.7% |
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|
その他 |
△15 |
△8 |
8 |
- |
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消去又は全社 |
△73 |
△85 |
△13 |
- |
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合計 |
129 |
135 |
7 |
5.3% |
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マテリアル事業領域 |
:[売上高 4,397億円(前期比0.2%増)、営業損失 62億円(前期 営業損失213億円)] |
売上高は4,397億円と前期比10億円の増収、営業損失は62億円と前期比151億円の損失の縮小となりました。
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繊維・製品事業 |
:[売上高 3,215億円(前期比0.2%減)、営業利益 121億円(同25.4%増)] |
売上高は3,215億円と前期比6億円の減収、営業利益は121億円と前期比25億円の増益となりました。
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ヘルスケア事業領域 |
:[売上高 1,447億円(前期比3.9%減)、営業利益 73億円(同70.9%減)] |
売上高は1,447億円と前期比59億円の減収、営業利益は73億円と前期比178億円の減益となりました。
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IT事業 |
:[売上高 721億円(前期比24.2%増)、営業利益 95億円(同17.7%増)] |
売上高は721億円と前期比140億円の増収、営業利益は95億円と前期比14億円の増益となりました。
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その他 |
:[売上高 548億円(前期比11.1%増)、営業損失 8億円(前期 営業損失 15億円)] |
売上高は548億円と前期比55億円の増収、営業損失は8億円と前期比8億円の損失の縮小となりました。
2)財政状態

当期末の総資産は、前期末に比べて86億円増加し、12,510億円となりました。流動資産は、現金及び預金や売掛債権、たな卸資産、その他流動資産等の増減や主要通貨に対する円安の進行等により、前期末に比べて102億円増加しました。固定資産は、償却を上回る設備投資や主要通貨に対する円安の進行等により有形固定資産が222億円増加した一方で、主に武田薬品工業株式会社からの2型糖尿病治療剤の販売権の償却により販売権が150億円減少し、また、主に投資有価証券の売却により投資有価証券が139億円減少した結果、前期末に比べて16億円減少しました。
負債は、前期末に比べて223億円減少し、7,691億円となりました。主に長期借入金の返済により有利子負債が305億円減少しました。
純資産は、前期末に比べて308億円増加し、4,819億円となりました。主要通貨に対する円安の進行による為替換算調整勘定の増加や親会社株主に帰属する当期純利益の計上等により増加しました。
これらの結果、D/Eレシオは1.1倍、自己資本比率は36.3%となりました。(前期末 D/Eレシオ1.2倍、自己資本比率34.2%)
なお、当期末のBS換算レートは、151円/米ドル、163円/ユーロ、1.08米ドル/ユーロ(前期末134円/米ドル、146円/ユーロ、1.09米ドル/ユーロ)となっています。
② キャッシュ・フローの状況
当期の営業活動によるキャッシュ・フローは、運転資本の増加による支出等があった一方、税引前利益の計上や、減価償却費及びその他の償却費等の非資金費用、保険金受け取りによる収入により、合計で695億円の収入(前期は551億円の収入)となりました。
投資活動によるキャッシュ・フローは、投資有価証券の売却による収入があった一方、複合成形材料事業の生産性改善及び能力増強を目的とした設備投資の実施等により、461億円の支出(前期は524億円の支出)となりました。
この結果、営業活動に投資活動を加えたフリー・キャッシュ・フローは234億円の収入(前期は27億円の収入)となりました。
財務活動によるキャッシュ・フローは、長期借入金の返済による支出や配当の支払により、432億円の支出(前期は72億円の収入)となりました。
これらの結果、現金及び現金同等物に係る換算差額等も加え、当期における最終的な現金及び現金同等物の減少額は167億円となりました。
③ 生産、受注及び販売の実績
帝人グループの生産・販売品目は広範囲かつ多種多様であり、同種の製品であっても、その形態、単位等は必ずしも一様ではなく、また受注生産形態をとらない製品も多いため、セグメントごとに生産規模及び受注規模を金額あるいは数量で示すことはしていません。
このため生産、受注及び販売の状況については、「① 財政状態及び経営成績の状況」における各報告セグメントの経営成績に関連付けて示しています。
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容等
経営者の視点による帝人グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。
① 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
帝人グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成しています。その作成においては、経営者による会計方針の選択・適用、資産・負債及び収益・費用の報告金額及び開示に影響を与える見積りを必要とします。経営者は、これらの見積りについて過去の実績等を勘案し合理的に判断していますが、実際の結果は、見積り特有の不確実性の存在により、これらの見積りと異なる場合があります。
連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりです。
また、帝人グループの連結財務諸表で採用する重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」に記載していますが、特に次の重要な会計方針が連結財務諸表作成における重要な見積りの判断に影響を及ぼすと考えています。
1) 貸倒引当金の計上基準
帝人グループでは、債権の貸倒れによる損失に備えるため、一般債権については貸倒実績率により、貸倒懸念債権等特定の債権については個別に回収可能性を検討し、回収不能見込額を繰入計上しています。将来、顧客の財務状況等が悪化し支払能力が低下した場合には、引当金の追加計上または貸倒損失が発生する可能性があります。
2) 棚卸資産の評価基準
帝人グループの販売する製品の価格は、市場相場変動の影響を強く受ける傾向にあるので、その評価基準として主に原価法(貸借対照表価額は収益性の低下に基づく簿価切下げの方法により算定しています。)を採用しています。
3) 投資有価証券の減損処理
帝人グループは、金融機関や、製造・販売等に係る取引会社及び関係会社の株式を保有しています。これらの株式は、株式市場の価格変動リスクや、経営状態・財務状況の悪化による価値下落リスクを負っているため、合理的な基準に基づき、投資有価証券の減損処理を行っています。
4) のれんを含む固定資産の評価
帝人グループは、のれんを含む固定資産について、「固定資産の減損に係る会計基準」、IFRS及び米国会計基準に基づき、減損処理の要否を検討しています。事業損益見込みの悪化や事業撤収の決定等があった場合には、将来キャッシュ・フローや回収可能価額を合理的に見積り、減損損失を計上しています。
5) 繰延税金資産の回収可能性
帝人グループは、繰延税金資産の回収可能性の評価に際し、将来の課税所得を合理的に見積っています。繰延税金資産の回収可能性は、将来の課税所得の見積りに依存するので、課税所得の見積額が減少した場合は繰延税金資産が減額され税金費用が計上される可能性があります。
② 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
1) 経営成績等
a. 経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
帝人グループの当期の経営成績は、売上高が前期対比で1.4%増の1兆328億円となり、営業利益は同5.3%増の135億円となりました。経常利益は持分法による投資利益の増加等により前期対比71.0%増の156億円、親会社株主に帰属する当期純利益は106億円(前期は減損損失の計上等により、177億円の当期純損失)となりました。営業利益に関して、マテリアル事業領域では、一部用途で需要軟化影響を受けたものの、収益性改善策の効果や保険金収入等により損失は縮小しました。また繊維・製品事業は、販売が堅調に推移し増益となりました。ヘルスケア事業領域においては、医薬品導入一時金の支払いや痛風・高尿酸血症治療剤「フェブリク」の後発品参入による販売数量の減少、薬価改定影響等により減益となりました。またIT事業は、販売が好調に推移し増益となりました。
その結果、収益性を示すROEは2.4%、営業利益ROICは1.6%となり、キャッシュ創出力を示すEBITDAについては924億円となりました。
なお、当連結会計年度より、マテリアル事業統轄、ヘルスケア事業統轄で推進していた新事業組織につき、それぞれ「マテリアル」セグメント、「ヘルスケア」セグメントから「その他」セグメントへ変更しています。これは、2023年2月に公表した「帝人グループ収益性改善に向けた改革」に基づき、経営体制の見直しを行う中、将来に向けた協創によるイノベーション創出をコーポレートが管轄し横断的に実施することを目的に、新事業組織をコーポレート新事業本部に再編・集約したことに伴うものです。これにより前期比較については、前期の数値を変更後のセグメント区分に組み替えた数値で比較しています。
また、当連結会計年度より、セグメントの記載順序を変更しています。
セグメントごとの経営成績等の状況に関する認識及び分析は次のとおりです。
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マテリアル事業領域 |
:[売上高 4,397億円(前期比 0.2%増)、営業損失 62億円(前期 営業損失213億円)、EBITDA 321億円(同 117.9%増)] |
自動車関連用途を中心に需要は概ね堅調に推移するも一部用途での在庫調整や経済減速による需要減の影響を受けたほか、複合成形材料におけるUAW(全米自動車労働組合)のストライキ等の影響で販売量が減少しました。一方、販売価格改定などの収益性改善効果の発現や原燃料価格の低下、保険金収入等が利益に貢献しました。
売上高は4,397億円と前期対比10億円の増収(0.2%増)、営業損失は62億円と前期対比151億円の損失の縮小となりました。EBITDAは前期対比174億円増の321億円となり、営業利益ROICは-2%となりました。
アラミド事業分野では、主力のパラアラミド繊維「トワロン」において、労務費単価の高騰を含む工場固定費等の増加や前年度コスト増加に伴う期首在庫高などの影響を受けたものの、前年度の原燃料価格高騰に対応して進めてきた販売価格改定の効果や天然ガス価格の低下、前年度第3四半期に発生した原料工場火災事故に対する保険金収入が増益要因となりました。一方、上期前半に残った工場火災の影響、一部生産設備の特殊補修部品の調達制約、自動車や光ファイバー用途でのサプライチェーンにおける在庫調整により販売量が減少しました。これらを合わせた結果、前期対比微増収・増益となりました。
樹脂事業分野では、主力のポリカーボネート樹脂において、中国での景気低調や欧州での経済減速などにより需要の低迷が継続し、販売量は前期並みとなりました。また、原料価格の下落を受けた販売価格の低下および販売構成の悪化が収益に影響しました。結果、前期対比減収・微減益となりました。
炭素繊維事業分野では、航空機向け用途で旅客需要は回復したものの、サプライチェーン上での調達制約により、足元での炭素繊維需要は小幅な伸びとなり、またレクレーション用途等でのサプライチェーンにおける在庫調整等により販売量が減少しました。円安および原燃料価格低下が収益に貢献しましたが、前期対比微増収・減益となりました。
複合成形材料事業分野では、収益性改善に向けて進めた前年度の原材料価格高騰に対する販売価格改定、コスト削減などが、北米での一部プログラムでの需要減およびUAWのストライキ影響による販売減少をカバーし、前期対比増収・増益となりました。
マテリアル事業領域の営業利益の増減分析(前期対比)は以下のとおりです。
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繊維・製品事業 |
: [売上高 3,215億円(前期比 0.2%減)、営業利益 121億円(同 25.4%増)、EBITDA 197億円(同 18.4%増)] |
売上高は3,215億円と前期対比6億円の微減収(0.2%減)、営業利益は121億円と前期対比25億円の増益(25.4%増)となりました。EBITDAは前期対比31億円増の197億円となり、営業利益ROICは8%となりました。
衣料繊維は、北米や中国向けのテキスタイル・衣料品の販売が堅調に推移し、国内向けも衣料品の販売好調が継続しました。産業資材では、水処理フィルター向けのポリエステル短繊維、人工皮革、インフラ補強材の販売が好調を維持するとともに、自動車関連の海外事業が一部用途を除き好調に推移しました。また、原燃料価格高騰や円安影響により仕入れコストが上昇しましたが、生産効率改善や販売価格改定を進めました。
繊維・製品事業の営業利益の増減分析(前期対比)は以下のとおりです。
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ヘルスケア事業領域 |
:[売上高 1,447億円(前期比 3.9%減)、営業利益 73億円(同 70.9%減)、EBITDA 333億円(同 34.8%減)] |
在宅医療機器のレンタルは堅調に推移し、医薬品「オスタバロ」は投薬期間制限解除に伴い販売量を拡大しました。一方で、医薬品導入一時金の支払いおよび医薬品「フェブリク」の後発品参入による販売量減少および薬価改定が収益に影響しました。
売上高は1,447億円と前期対比59億円の減収(3.9%減)、営業利益は73億円と前期対比178億円の減益(70.9%減)となりました。EBITDAは前期対比178億円減の333億円となり、営業利益ROICは4%となりました。
医薬品分野では、2023年11月に、Ascendis Pharma, A/Sが希少内分泌疾患治療剤として開発中の3剤について、日本における研究、開発、製造、販売に関する独占的ライセンス契約を締結し、契約一時金70百万ドルを研究開発費に計上しました。また、2022年6月からの「フェブリク」の後発品参入による販売量の減少、および長期収載品を中心とした2023年4月の薬価改定が収益に影響しました。一方で、2023年1月に上市した骨粗鬆症治療剤「オスタバロ」の採用活動を進めており、2023年12月の投薬期間制限解除に伴い販売量は拡大しました。また、「ソマチュリン*1」や「ゼオマイン*2」は順調に販売量を拡大しました。さらに、2024年3月には、自社創生のナルコレプシー治療薬の候補化合物に関してBioprojet社に全世界における独占的開発・製造・販売の権利を供与するライセンス契約を締結し、契約一時金として30百万ドルを収益計上しました。
*1 先端巨大症・下垂体性巨人症/甲状腺刺激ホルモン産生下垂体腫瘍/膵・消化管神経内分泌腫瘍治療剤 ソマチュリン®/Somatuline®は、Ipsen Pharma(仏)の登録商標です。
*2 上肢・下肢痙縮治療剤 ゼオマイン®/Xeomin®は、Merz Pharma GmbH &Co, KGaA(独)の登録商標です。
在宅医療分野では、在宅持続陽圧呼吸療法(CPAP)市場において、検査数が回復基調となり、レンタル台数の増加が継続し(前期末対比約7%増)、検査数/新規処方件数ともに過去最高値を達成しました。一方、在宅酸素療法(HOT)市場では、COVID-19に伴う呼吸器疾患患者増が収束し、レンタル台数は微減となりました。新機種開発では従来品からさらに小型・軽量化した携帯型酸素濃縮装置「ハイサンソポータブルαⅢ」を2023年7月に上市し投入を拡大しています。
ヘルスケア事業領域の営業利益の増減分析(前期対比)は以下のとおりです。
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IT事業 |
:[売上高 721億円(前期比 24.2%増)、営業利益 95億円(同 17.7%増)、EBITDA 106億円(同 20.0%増)] |
売上高は721億円と前期対比140億円の増収(24.2%増)、営業利益は95億円と前期対比14億円の増益(17.7%増)となりました。EBITDAは前期対比18億円増の106億円となり、営業利益ROICは66%となりました。
ネットビジネス分野では、電子コミックサービスにおいて効果的な広告投資を継続した結果、販売が好調に推移しました。ITサービス分野では、病院向けを中心に堅調に推移しました。
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その他 |
: [売上高 548億円(前期比 11.1%増)、営業損失 8億円(前期 営業損失15億円)] |
売上高は548億円と前期対比55億円の増収(11.1%増)、営業損失は8億円と前期対比8億円の損失の縮小となりました。
電池部材事業分野では、リチウムイオンバッテリー用セパレータ「リエルソート」が前期に引き続き、好調な販売を維持しました。また、高機能メンブレン「ミライム」は、最先端の半導体用途向けの販売が伸長しました。
人工関節・吸収性骨接合材等の埋込医療機器事業は、COVID-19の5類感染症移行後、手術件数が回復傾向にあり、販売量は堅調に推移しました。また、2023年7月に、心・血管修復パッチ「シンフォリウム」が製造販売承認を取得しました。
再生医療事業では、(株)ジャパン・ティッシュエンジニアリングは再生医療受託事業および研究開発支援事業の売上が順調に伸長し、前期対比増収となりました。またCDMO*事業の立ち上げも順調に進捗しました。
* Contract Development and Manufacturing Organization 製品の開発・製造を受託する機関
b. 財政状態及びキャッシュ・フローの状況
当連結会計年度の財政状態、キャッシュ・フローの状況については、「(1) 経営成績等の状況の概要 2)財政状態、② キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりです。
(帝人グループの資本の財源及び資金の流動性について)
帝人グループの資金需要の主なものは、製品製造のための原材料等の購入、製造費、販売費やサービス提供費用等の運転資金需要に加え、設備投資や研究開発活動費等の投資があります。これらに必要な資金を安定的に確保するため、内部資金の活用、金融機関からの借入及び社債発行等により資金調達を行っているほか、複数の金融機関とのコミットメントライン契約や当座貸越枠を含む十分な借入枠を有しています。このように、帝人グループの事業運営に必要な運転資金や投資資金の調達に関しては問題なく実施可能と認識しており、高水準で維持している現預金も含め、緊急時の流動性を確保しています。
また、帝人グループではグループ内余剰資金を活用するため、日米欧中の各拠点においてキャッシュ・マネジメント・システムを導入し、資金効率の向上に努めています。資金調達にあたっては、D/Eレシオ0.9を目安に財務体質の健全性を維持しながら、資金需要の見通しや金融情勢に応じて最適な手段を選択しています。なお、資金調達コストの低減に努める一方、設備投資に対応する借入の大部分については長期調達するとともに、過度に金利変動リスクに晒されないよう金利スワップ等の手段を活用し、固定化しています。
2) 経営成績に重要な影響を与える要因
経営成績に重要な影響を与える要因については、「3 事業等のリスク」に記載のとおりです。
3) 経営方針、経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
2023年度は、2023年2月に公表した「帝人グループ 収益性改善に向けた改革」のとおり、2023年度までに300億円以上の収益改善を目指し、将来の成長回帰に向けて、収益性改善を最優先課題として取り組んでまいりました。経営判断・実行の迅速化を促すために変革した新経営体制のもと、課題3事業として掲げた複合成形材料、アラミド、ヘルスケアを中心に収益性改善に向けた取り組みを進め、2023年度の経営指標は、ROE3%、営業利益ROIC4%、営業利益350億円を見通し、全社として収益性改善に注力いたしました。
しかしながら「帝人グループ 収益性改善に向けた改革」は概ね達成するも、複合成形材料、アラミドの生産安定化に課題を残し、2023年度のROEは2.4%、営業利益ROICは1.6%、営業利益は135億円となり、すべての指標が計画未達となりました。このような状況を背景とし、当社経営に対する市場評価の一つであるPBR(Price Book-value Ratio: 株価純資産倍率)が1倍割れの状況にあります。
また、各種指標の推移は以下のとおりです。
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第154期 (2020年3月期) |
第155期 (2021年3月期) |
第156期 (2022年3月期) |
第157期 (2023年3月期) |
第158期 (2024年3月期) |
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ROE(%) |
6.3 |
△1.7 |
5.5 |
△4.1 |
2.4 |
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営業利益ROIC(%) |
8.7 |
8.6 |
5.5 |
1.6 |
1.6 |
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営業利益(億円) |
562 |
549 |
442 |
129 |
135 |
(注)各指標はいずれも当社連結ベースの財務数値を用いて算出しています。
・ROE:親会社株主に帰属する当期純利益/期首・期末平均自己資本
・営業利益ROIC:営業利益/期首・期末平均投下資本
※投下資本・・・純資産+有利子負債-現金及び預金
2024年度は、2024年5月に公表した「帝人グループ 中期経営計画2024-2025」のとおり、2023年度で積み残した収益性改善施策を完遂し、本社費を含む固定費削減を計画通り実行していくほか、新たに構築した事業ポートフォリオ戦略を実現するため、不採算・非注力事業の戦略的オプションの実行によるキャッシュ創出を原資に、成長投資と追加的株主還元を積極的に実施してまいります。また、目標達成に向けた実行力を強化するため、ガバナンス・人的資本等のグローバル経営基盤を強化してまいります。2024年度の通期の連結業績見通しは、2024年6月18日公表の「連結子会社の異動(株式譲渡)及び業績予想の修正に関するお知らせ」の通り、売上収益は9,750億円、事業利益は200億円と予想しています。帝人グループは2025年3月期第1四半期よりIFRSを任意適用するため、連結業績見通しはIFRSに基づき算出しています。なお、親会社の所有者に帰属する当期利益、重要経営指標としているROE、ROICの予想については、精査中であり未定です。また、「帝人グループ 中期経営計画2024-2025」を着実に実行することで、本中期経営計画以降早期にPBR1倍以上を目指します。
当連結会計年度において締結した経営上の重要な契約等は以下のとおりです。
(1) アクセリード(株)との創薬研究に関する合弁会社設立の契約
当社は、海外において先行する非臨床研究をはじめとする創薬研究機能の水平分業化と、新たな創薬研究サービス形態の拡大を背景として、アクセリード(株)との間で、帝人ファーマ(株)の創薬研究機能を中核的な経営資源とする創薬研究に関する合弁会社を設立する契約を2023年6月30日付で締結しました。
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契約会社名 |
相手先 |
内容 |
契約時期 |
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帝人(株) (当社) |
アクセリード(株) |
創薬研究に関する合弁会社設立 出資比率 帝人(株)49% アクセリード(株)51% 事業開始時期 2024年4月1日 |
2023年6月30日 |
(2) Teijin Automotive Technologies(Tangshan)Co., Ltdの株式譲渡
当社は、自動車向け複合成形材料事業について、重点地域である北米拠点へ集中的な資源配分を実施し、収益性改善に向けた施策を実行するとともに、その他の拠点(欧州、中国、日本)については選択と集中に関する検討を行ってまいりました。そのような中、中国拠点であるTeijin Automotive Technologies(Tangshan)Co., Ltdについては株式譲渡をすることが帝人グループならびに当該会社にとって望ましいと考え、青島科達時代智能装備有限公司に対し、株式を譲渡する契約を締結し、2023年12月に株式譲渡を完了しました。
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契約会社名 |
相手先 |
内容 |
契約時期 |
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帝人(中国)投資有限公司 (連結子会社) Teijin Automotive Technologies, Inc.(連結子会社) |
青島科達時代智能装備有限公司 |
譲渡対象子会社: Teijin Automotive Technologies(Tangshan)Co., Ltd 譲渡価格(注): 帝人(中国)投資有限公司の持分に対して1人民元 Teijin Automotive Technologies, Inc.の持分に対し 1米ドル 譲渡後の当社出資持分: 0%(譲渡前100%) |
2023年8月7日 |
(注)譲渡価格には上記の1人民元及び1米ドルの他にも、クロージング時点における対象会社の銀行預金残高に関わる調整額が含まれています。
(3) Ascendis Pharma, A/S.との希少内分泌疾患のホルモン治療薬に関するライセンス契約締結
当社及び当社の子会社である帝人ファーマ株式会社は、パイプラインを拡充する取り組みを推進し収益基盤の構築を図ることを目的として、Ascendis Pharma, A/S.との間で、希少内分泌疾患のホルモン治療薬として開発中の3剤の日本における研究、開発、製造、販売に関する独占的ライセンス契約を2023年11月29日付で締結しました。
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契約会社名 |
相手先 |
内容 |
契約時期 |
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帝人(株) (当社) 帝人ファーマ(株) (連結子会社) |
Ascendis Pharma, A/S. |
希少内分泌疾患のホルモン治療薬として開発中の「TransCon hGH」、「TransCon PTH」、及び「TransCon CNP」の日本における研究、開発、製造、販売に関する独占的ライセンス契約 契約一時金 70百万米ドル 開発マイルストンの達成により最大175百万米ドル、売上に応じた販売マイルストン並びに売上に対するロイヤルティを支払い |
2023年11月29日 |
(1) 研究開発活動
帝人グループは、持続可能な社会の実現に向けて、長期ビジョンである「未来の社会を支える会社」になることを目指しています。
具体的には、モビリティ、インフラ&インダストリアル領域において「地球の健康を優先し、環境を守り、循環型社会を支える会社」となること、ヘルスケア領域において、希少疾患・難病などの疾病領域を中心として「より支えを必要とする患者、家族、地域社会の課題を解決する会社」となることを目指して社会に価値を提供していきます。
帝人グループは未来を想像し、未来の社会を支える製品・サービスの創造に挑戦し続けています。テクノロジーの進化により、社会がこれまでにない速さで変容していく中、イノベーション創出に向け、研究開発においては、技術の連携・活用と融合・複合化により、グループとしての総合力・機動力を発揮することを推進しています。加えて、デジタルトランスフォーメーション(DX)についても、IoTモニタリング技術、機械学習やAI技術、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)による研究開発力の強化を図ると同時に、スマートプラントの推進などによる製造現場の生産性向上など、多様な事業、分野において積極的に取り組んでいます。こうしたDX活動を加速するために、2023年4月にDX推進体制を強化し、デジタル技術やデータ活用の全社戦略策定の他、社内外との連携支援や情報発信、さらには”自律的DX”実現のための人財育成を実施しています。
研究開発体制については、国内12ヵ所、海外13ヵ所の拠点からなるグローバルなネットワークを有しており、グループ各社の連携を強化して組織を活性化するとともに、2023年4月からは、将来投資の領域となる新規事業関連、事業間の協創によるイノベーションの創出を全社横断的に実施するために、各事業統轄下で育成してきた新事業及びコーポレートビジネスインキュベーション部門をコーポレート新事業本部として統合し、多様な人財が能力を発揮してイノベーション創出を加速する仕組みを取り入れています。
なお、当連結会計年度の研究開発費は
報告セグメントごとの研究開発活動の概要は次のとおりです。
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<マテリアル事業領域> アラミド事業分野では、その高い機能性を活かして自動車、航空用コンテナ、消防服、ロープやケーブル補強など幅広い分野に使用されており、ライフプロテクション、プロテクティブアパレル、オートモーティブ、エアロスペース、インダストリーの5つを主力テーマとして、アラミド繊維製造技術及び新商品の開発に取り組んでいます。パラ系アラミド繊維である「トワロン」「テクノーラ」の海洋ロープ用途開発では、蘭FibreMax B.V.社とともにJust Transition Fund Groningen-Emmen(JTF)から4百万ユーロの助成金を得て浮体式洋上風力発電を推進しています。2023年度はリサイクル原料を用いた生産機でのリサイクルトワロンの試作に成功しており、2030年までにトワロンリサイクル率25%を目指し長期的な取り組みを継続しています。また、メタ系アラミド繊維である「コーネックス」においては、最新技術への投資により、現在ではパントンカラーの約75%を再現できるようになりました。
樹脂事業分野では、今後成長が見込まれる次世代情報端末、自動車先進化、カーボンニュートラルに対応した高機能材料の研究開発を行っています。ポリカーボネート樹脂では、高度な分子設計技術と重合制御技術を活かして、多様な屈折率要求に対応するスマートフォンカメラレンズ向け樹脂の開発を進めました。コンパウンド製品では、持続可能な社会の実現に向けてリサイクル技術を活用した環境対応材料の開発を進めています。加工製品では多様な用途に適用可能な成形加工用加飾シート、車載ディスプレイ大型化に対応する高機能シート・フィルムの開発を行っています。また、これらの樹脂材料開発全般において、マテリアルズ・インフォマティクスを活用することで研究の加速に役立っています。
炭素繊維事業分野では、高収益・高成長分野での事業拡大を進めるとともに、環境規制の高まりに伴う低燃費化の要請に応え、「軽くて強い」高機能素材の拡大を図っています。特に未来の最新鋭航空機に向けたソリューションとして、炭素繊維原糸から織物基材、熱可塑性及び熱硬化性樹脂を使用した中間材料や工法の開発に積極的に取り組んでいます。環境負荷低減へのニーズに対しては、炭素繊維製品に関わる LCA(ライフサイクルアセスメント)評価の確立などを実施しており、持続可能な国際的認証の一つである ISCC PLUS 認証を取得し、同認証に基づいたマスバランス方式を適用し、環境配慮型の原料を用いた「テナックス」の生産と販売を開始しました。また、炭素繊維リサイクル技術の開発、リサイクル炭素繊維を使用した製品の生産・供給体制の構築に向けた取り組みを進めており、幅広い潜在ニーズに応える製品の開発をより一層強化し、革新的な高性能材料とソリューションを提供していきます。
複合成形材料事業分野では、自動車分野におけるカーボンニュートラルの実現に貢献すべく、特に次世代自動車向けに、環境配慮型の材料やソリューション技術の開発に注力しています。素材から加工、成形、リサイクルに至るバリューチェーン全体のライフサイクルにおけるCO₂排出量削減に向けた技術開発や様々な取り組みの強化を続けており、自動車業界が求める軽量化、安全性と耐久性を実現しながら、素材及び製品の開発・設計の段階から環境負荷低減を組み込んでいくことができる世界にも類をみないTier1サプライヤーとしてのポジションの確立を進めています。また、積極的に自動化及びICT技術の導入を進めることで、製品の性能安定性と品質を向上させると同時に、生産効率やコスト効率を高め、顧客が要求する、より軽く、より複雑な形状の自動車パーツを、安定して量産供給することを可能にしています。今後は過酷な環境でも長く使えるパーツや、リユース・リサイクルが可能なパーツの開発と量産供給を通して、地域ごとに異なるサステナブル要求に応え、自動車の製造段階から使用段階の脱炭素化に貢献していきます。
当セグメントに係る研究開発費は |
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<繊維・製品事業> 繊維・製品事業では、環境戦略「THINK ECO」のもと、独自に開発したポリエステル繊維製造時のCO2排出量算出システム「TLC3(テレックサン)」について、第三者認証機関からの認証を取得し、信頼性の高いライフサイクルアセスメント対応を可能としました。さらに、ポリウレタン弾性繊維を含むポリエステル衣料品から、ポリウレタンを除去する技術を開発するなど、衣料品を回収・分別し、再び繊維にリサイクルする循環型社会の実現に向けた事業戦略を推進しました。また、ICタグをピンポイントで的確に読み取ることで、物流・医療現場におけるピッキングや仕分け作業を効率化するハンズフリータイプのウエアラブル型 RFIDリーダー「RecoHand(レコハンド)」を開発するとともに、フェムテックブランド「itoomof.」を上市し、高機能繊維を活用することで技術的な視点から女性をサポートする製品を開発するなど、暮らしを豊かにするソリューションを提供しました。
当セグメントに係る研究開発費は |
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<ヘルスケア事業領域> 骨・関節、呼吸器、代謝・循環器の領域を中心に、医薬品と在宅医療をキーワードに、患者さんのQuality of Life 向上、新たな治療選択肢の提供につながる医薬品、医療機器、そして付加価値サービスを生み出すために、積極的な研究開発を行っています。今後は、当社の在宅医療分野で培ってきたサービス基盤を活用し、より支えを必要とする患者、家族、地域社会の課題を解決する製品やサービスのパイプラインを提供していきます。
医薬品分野では、「フェブリク錠 10mg、20mg、40mg」について、2023年6月に小児の痛風・高尿酸血症患者に対する用法・用量の追加承認を取得しました。また、希少内分泌疾患のホルモン治療薬として開発中の3剤「TransCon hGH」、「TransCon PTH」、及び「TransCon CNP」の日本における研究、開発、製造、販売に関する独占的ライセンス契約を、2023年11月にAscendis Pharma, A/S.と締結しました。日本での販売に向け、国内臨床開発及び製造販売承認申請を実施します。 医薬品研究では、ナルコレプシー治療を対象とした自社創生候補化合物について、2024年3月に全世界における独占的開発・製造・販売権をフランスの製薬企業であるBioprojet社に供与するライセンス契約を締結しました。また、アクセリード株式会社との創薬研究に関する合弁会社を2024年4月1日に設立及び事業開始する契約を、2023年6月30日に同社と締結し、その会社名を「Axcelead Tokyo West Partners株式会社」とすることを2024年2月に公表しました。設立する合弁会社との連携によって、創薬研究の効率化と、より幅広い研究分野の強化を目指すとともに、国内外の創薬プレイヤーとの協働による創薬研究の強化を図ります。これまで欧米の大手製薬企業等に研究成果を早期導出してきた能力や実績を活かし、研究開発機能が独自に収益を生む、製薬企業としての新たなビジネスモデル確立を図ります。
在宅医療分野では、小型・軽量の携帯型酸素濃縮装置「ハイサンソポータブルαⅢ」を2023年7月に上市しました。本装置は通信端末を搭載しており、当社の携帯型酸素濃縮装置で初めて「HOT 見守り番Web」と連携できるようになりました。これにより医療関係者が携帯型酸素濃縮装置使用においても運転状況や、患者さんの日々の SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)や脈拍数の状態をWeb 上で閲覧し、治療状況を把握することができるようになりました。なお、2020年4月に出資した米国ヘルスケアベンチャーキャピタルファンドであるMedtech Convergence Fundでは米国を中心に医療機器のスタートアップ企業に対する投資やインキュベーション活動を継続しており、これらを通じて画期的なヘルスケア領域の新規製品・サービスの獲得を目指します。
当セグメントに係る研究開発費は |
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<IT事業> ネットビジネス分野において、電子コミック配信サービス「めちゃコミック」へのAIの活用について、またITサービス分野において、ヘルスケア領域等でのクラウドサービス開発等に加え、生成系AIの業務適用に関する調査・研究を行いました。
当セグメントに係る研究開発費は
上記セグメントに属さない研究開発活動として、再生医療・埋込医療機器分野では、医療・健康サポートを通じて、人々の健康維持・健康寿命の延伸に貢献する素材の開発に取り組んでおり、大阪医科薬科大学、福井経編興業(株)と共同で開発を進めていた「心・血管修復パッチOFT-G1(開発コード)」が、2023年7月11日付で厚生労働省より製造販売承認を取得しました。今後、製造販売を担う帝人メディカルテクノロジー株式会社が中心となり、販売名「シンフォリウム」として、国内にて上市するとともに、海外での事業化も検討していきます。また、再生医療CDMO(開発製造受託機関)需要の拡大を見据え、2022 年には、日本におけるライフサイエンスの新たな拠点を目指す「柏の葉スマートシティ(千葉県柏市)」に、再生医療等製品の 研究・開発から、事業計画策定、商用生産までの過程をワンストップで実現する 柏の葉「再生医療プラットフォーム」の構築を開始しました。さらに2023 年 8 月には、 再生医療CDMOを専業とする帝人リジェネット(株)を設立し、2024年2月14日より「柏の葉ファシリティ」の稼働を開始しました。本施設は、再生医療 CDMO 事業のうち CDO(製法開発受託機関)事業の拠点として運用していきます。 電池部材・メンブレン事業分野では、高機能素材の活用で、安全性・強靭性を備えた社会の構築に貢献する素材として、リチウムイオン二次電池(LIB)の性能を飛躍的に向上させることのできる革新的セパレータの製造販売及び新製品の開発に取り組んでいます。エンドユーザーや基材メーカーとの連携による次世代製品の開発を進めるとともに、取得した知的財産権のライセンスビジネスも実現しています。
この他、事業間の協創によるイノベーションの創出に取り組んでいるほか、エンジニアリング分野に関する研究開発等を行っています。 これに係る研究開発費は65億円です。 |
(2) 知的財産活動
帝人グループでは、知的財産が、重要な無形の経営基盤の一つであるとの認識の下、経営戦略への積極的な関与として、以下の知財活動を重点的に遂行しています。
① 事業ポートフォリオ評価への知財情報活用
事業ポートフォリオの評価に際して、事業の属する技術分野における特許件数のCAGR(年平均成長率)と、事業の総特許価値(Patent Asset IndexTM)の情報を活用した、独自のプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)手法を用いることで、帝人グループ各事業の競争優位性や成長性、ライフサイクルの状況を知的財産の観点から客観的に可視化・評価し、その結果を事業ポートフォリオマネジメントに役立てる取り組みを実施しています。
② 経営陣・事業本部における知財情報活用に関する仕組み作り
経営や事業での重要な決定案件については、検討の初期段階からIPランドスケープによる客観分析を実施する仕組みを構築することで、知財情報を経営戦略や事業戦略に役立てる取り組みを実施しています。これにより、例えば投資判断時において、知財情報を意思決定プロセスに活用することで、その投資案件の合目的性をより客観的に判断できるようになります。
③ 知財ガバナンス体制とその運用
帝人グループの知財・無形資産に関するガバナンス体制として、知的財産部は、経営戦略・事業戦略に対応した知財戦略に関する全社的な事項と各事業における知財に関連する事項を、事業本部等は、各部門の競争優位につながる事項を取締役会へそれぞれ報告することで、取締役会が、全社の知財・無形資産に関する戦略、投資活動を実効的に監督するガバナンス体制を構築しています。本体制において、知的財産部は、各事業責任者と事業知財戦略会議を定期的に実施し、知財面からみた事業の強みと弱みの分析や、それに基づく課題と対策を議論することで、実効的な知財戦略を遂行するとともに、事業知財戦略会議を通して集約された知財状況・結果を取締役会へ報告し、監督を受けています。