第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 当社の経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものであります。

 

(1)経営方針

 当社は、「我々は現在の医療を見つめ明日の医療の創造を通して社会に貢献します。」という企業理念の下に、新しい医療の世界を切り開くべく未知なる技術と価値ある製品開発に全知全能を傾けております。

 一.私たちは医療現場と協力し常に新しい医療機器の開発と需要の創造に努めます。

 二.私たちは一人ひとりが不可能を可能にできるよう挑戦的に仕事にあたります。

 三.私たちは社会人として又企業人として全人格的な成長を通して企業の発展のため励みます。

 以上の基本方針3項目を掲げて当社事業運営の目的としており、全役職員が徹底実行し、医療を進化させ社会貢献できるよう日々取り組んでおります。また、当社製品ブランド名であるクーデック(COOPDECH)はクーデターバイテクノロジーという意味を持つ造語であり、独創の技術でドラスティックな医療革命を目指すという想いを表現しております。安易に時流に乗らず、常に新しい可能性に挑戦し続け、人が誰もやらない、しかも人類の生命に関する極めて価値の高い仕事を、当社の研究開発製品を通して形にしていきたいと考えております。

 

(2)中長期的な会社の経営戦略

 当社の研究開発の特徴は、麻酔・手術室関連の医師、看護師及び臨床工学技士を中心とした医療現場の潜在ニーズをできるだけ同じ目線で開発担当者が捉えるように努め、特許を含め独創的な技術を駆使して製品化することを基本理念としていることであります。また、当社は研究・開発から製造・販売に至るまで、基本的に全て一貫して行っており、量産に係わる生産技術・品質管理においてもISO規格(EN ISO13485:2016)に基づき管理運営しております。今後とも現場第一主義を貫き、革新性・安全性を担保した新製品を確実に上市できる体制を維持強化してまいります。

 以上のことを今後も継続させていきつつ、既存のトップラインの製品については更なるシェア向上を目指し、また、価格競争が激しい海外市場でも拡販でき、かつ新たな領域への進出を可能にする新製品の研究開発を進め、飛躍的な業績及び企業価値の拡大をできるだけ早い時期に実現させていく所存であります。

 

(3)目標とする経営指標

 当社は、医療機器製造と医療機器販売が事業のほとんどであるため、売上高総利益率と売上高経常利益率が本業の収益性を明確に計るための有用な指標であると考えております。

 新製品開発においては、ターゲットとする売上高総利益率を一律に定め、増加する研究開発費等の将来の成長に向けた投資を抑えることなく、会社全体として売上高経常利益率20%を念頭においた経営戦略の検討、活動を基本としております。

 当面の中期的な経営目標指標として、2027年3月期に売上高110億円、経常利益18億円、当期純利益12.6億円、1株当たり当期純利益43.8円を目指しております。

 今後とも株主の出資金を有効に活用することを大前提とし、収益改善に努め、企業経営に取り組んでまいります。

 

(4)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

 今後の当社を取り巻く環境は、2024年度診療報酬についてプラス改定があったものの、物資の高騰や医療従事者の慢性的な人手不足等各医療機関の経営環境はより一層厳しさが増していくことが想定される中で、国内外のメーカーとの価格競争などにより、引き続き厳しい状況で推移するものと思われます。このような状況のもと、当社の営業・技術・製造が一体となって、医療現場においてより効率的で効果的な医療サービスを提供できるよう市場競争力を高め、さらなる業績の向上、企業価値の増大に向けて邁進するとともに、顧客にとって不可欠なパートナーであり続けることを目指して取り組んでおります。また当社が対処すべき課題として以下のことに取り組んでまいります。

 

① 既存製品の拡充・新製品の開発とその拡販

  当社は、国内市場のマーケットリーダーとして「サクションの大研(吸引器…フィットフィックス、キューインポット)」、「ポンプの大研(注入器…シリンジェクター、バルーンジェクター)」のイメージをより一層定着させるとともに、独創的な製品の研究開発活動をさらに強化し、最先端医療を支える当社のイメージを確立するよう取り組んでおります。

  中長期的な成長戦略として注力している「マイクロポンプ関連製品」の第1弾となる、「クーデックエイミーPCA」は、注入器の次世代製品であり、ポンプの大研医器として注入器分野でのさらなる医療現場のイノベーションを創出することを期待しております。2021年度よりの本格発売以降、医療現場からの評価が高く、急性期の術後疼痛緩和から無痛分娩や在宅分野まで着実に売上を伸ばし、普及が進んでおります。

 今後もさらなる「マイクロポンプ関連製品」の早期開発、早期上市を実現することで新たな市場開拓、市場創出を推進し、新たな事業の柱へと育成してまいります。

② 海外販売の拡充

  当社の売上はそのほとんどを国内販売に依存しており、海外売上高の割合は、2024年3月期において3.3%となっております。国内だけでなく「世界で戦える競争力のもった医療機器メーカー」への変遷を掲げる中で、「クーデックエイミーPCA」の海外での拡販に向けた体制準備につきましては、現地認証取得や有力パートナーの選定等を着実に進めております。今後も海外市場における製品ラインアップ及び販売網の拡充に努め、海外での競争力をより一層高めていけるよう取り組みます。

③ 優秀な人材の確保、教育の強化

  当社の企業価値は個々の従業員から創出されるものです。当社の競争力を高めるため、積極的に採用活動を行い、優秀な人材の確保・教育の強化に取り組みます。今般では、従業員の給与水準の向上及び効率的な働き方を実践するなど、競争力確保のための人的投資強化施策を積極的に実施しております。

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社のサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものであります。

 

 当社は、ステークホルダーの皆様との対話を尊重し、「明日の医療の創造を通して社会に貢献します」という経営理念の実践を通じ持続可能な社会の実現並びに企業価値の向上を目指すうえで、下記のとおり、サステナビリティ基本方針を策定しております。

1.地球環境問題を見据えた独創的な製品の提供を通じて社会の持続的な発展に貢献します。

2.人材の多様性を尊重し国籍、性別、年齢等を問わない人材を採用、育成、活用することにより企業価値の創出に努めます。

3.法令や社会規範等を遵守し公正な企業活動を行うことにより企業価値の向上に努めます。

 

 上記サステナビリティ方針に基づき、地球環境問題やダイバーシティの問題に継続的に取り組んでおります。具体的な取り組み事項としては、気候変動に係るリスク対応としてのCO2排出削減、プラスチックごみの削減や女性、外国人の管理職への登用等であります。とりわけ気候変動への取組みは、気候変動が当社の財務に与える影響に適切に対処するため、気候変動のリスクと機会を正確に把握し、適切な目標を設定した上で必要な対策を行っております。TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に従い、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標及び目標について積極的な開示を推進してまいります。

 

(1)ガバナンス

①気候関連のリスク及び機会に関する取締役会の監視体制

 当社は、2008年にリスク管理規程を定め、役職員が中心となり会社に対するリスク管理体制を強化してまいりました。この体制において役職員はコンプライアンスに関するリスク、品質・研究開発に関するリスク、内部統制・財務報告・情報システムに関するリスク、事務手続に関するリスク、(機密)情報漏洩に関するリスク、インサイダー取引に関するリスク、環境・災害・事件等に関するリスク、反社会的勢力に関するリスク等を認識し、その分析及び排除を徹底するという方針を定めております。特に部門長はリスクの洗い出し及び防止に努め、総合的な調整を行う必要があると判断する場合には、代表取締役社長を筆頭とする内部統制委員会に報告するとともに必要な処置を講じております。加えて、取締役会が内部統制委員会からのリスクに関する報告を受け、その進捗状況を管理できる体制を構築しており、会社全体で気候関連も含むリスク防止に取り組んでおります。

 

②気候関連のリスク及び機会を評価・管理する上での経営者の役割

 当社代表取締役社長は、前述のとおり、内部統制委員会の長として当社のリスクのうち総合的な調整を行う必要があるものについて報告を受け、各部門長に対して対応策の実施を指示するという役割を担っております。気候関連のリスク及び機会の評価・管理は、会社全体の総合調整を要するものであり、内部統制の対象となります。

 

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(2)戦略

 当社は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)、が公表するRCP8.5℃シナリオ(緩和策を取らず産業革命の前と比べて平均気温が4前後上昇するシナリオ)、国際エネルギー機関(IEA: International Energy Agency)が公表するNZE2050(2050年にネットゼロを達成し気温上昇が1.5未満の上昇に抑えられるシナリオ)に基づき、気候変動のリスク及び機会による組織のビジネス戦略や財務計画への影響を把握するよう努めております。そのうえで、識別したリスクと機会に対する対策を講じる体制を整えることで気候変動に対する強靭性を高めて参ります。

短期・中期・長期における気候関連リスク及び機会と組織に与える影響

 気候変動に関するリスクには大別して移行リスクと物理的リスクがあります。移行リスクとは気候変動に順応するうえで生じるリスクであり、現行の規制に伴うリスク、新たな規制に伴うリスク、法規制に伴うリスク、技術リスク、市場リスク、評判リスクがあります。また、物理的リスクは、文字どおり物理的に生じるリスクをいい、急性リスクと慢性リスクに分けることができます。反対に、機会は気候変動によって生じる正の影響であり、市場、レジリエンス、資源の効率性、エネルギー源、製品・サービスに分類することができます。当社では、これらの分類ごとに、当社の調達と売上に対する短期(1年未満)、中期(1~3年)、長期(3~10年)の財務的影響を定性的に評価・分析しております。

 

 2022年度の分析結果は以下のとおりであります。

 

<1.5℃シナリオ>

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 気温が1.5上昇するシナリオでは、カーボンプライシング制度(炭素税、GX-ETSなど)、温室効果ガスを多く排出する産業やエネルギー源への規制強化、技術革新の進展、新たなエネルギーへの転換といった移行リスクがより顕著になると想定されています。特に、当社グループの調達先の業界においても、電力使用量や燃料使用量の多い製造業などにおいて、カーボンプライスの影響や技術開発の投資失敗など長期的に大きな変化が起き、当社が購入する機器のコストが増加することが考えられます。さらに長期的には、こうした市場価格の変化が当社の顧客である医療機関の運営にも影響を与え、当社の財務に対するリスクになる可能性も示唆されます。また機会については、資源の効率性により輸送手段や生産・物流の効率化が進むことや、エネルギー源の多様化、環境負荷の少ない製品開発などが進むことで当社のコスト減にもつながると予測しています。また、これが製品・サービスの売上にも好影響をもたらし、長期的には売上面でも当社の財務に好影響を与える可能性が大きいと分析しています。

 

<4℃シナリオ>

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 4シナリオでは物理的リスクとして、自然災害や気温上昇の影響が強く生じると想定されています。当社の調達先においても各種経費の高騰、災害時におけるロジスティクスの混乱やコスト増等を原因として、長期の急性・慢性ともに中程度のリスクが発生する可能性があります。一方で売上につきましては、気候変動がある場合におきましても医療の需要がなくなることはなく、リスクとしては低いものと考えております。

 

②組織戦略のレジリエンス

 当社では、このような組織に対するリスクと機会の分析結果を踏まえ、組織戦略において、その対策を講じることで組織のレジリエンス強化に努めています。具体的には、内部統制委員会においてリスクへの対策を議論・決定し、部門長を通じて各部門において対策を実施しております。1.5℃シナリオにおける気候変動のリスクに対し、購入する機器や製品のCO2排出量を算定し、気候変動の影響を受けやすい機器や製品の特定とその代替品の検討を行う予定です。また、顧客である医療機関についても、業種別に気候変動の影響を分析し、負の影響がより少ない機関への営業努力を行うことを検討して参ります。また、気候変動による正の影響については、新たな輸送手段、新製品、新市場の把握に努め、当社の調達コストの低減につなげていきます。4℃シナリオにおけるリスクに対しては、自然災害の影響による調達コストの増大に備え、代替製品や機器の検討を行う予定です。このように、当社では、シナリオ分析の結果を組織のレジリエンス強化に役立てております。

 

(3)リスク管理

①気候関連リスク及び機会を識別・評価・管理するプロセス

 当社では、先述の内部統制体制において、気候変動に関連するリスク及び機会を識別・評価・管理しております。そのプロセスは各部門におけるリスクの識別、部門長への報告、部門長の評価を経て内部統制委員会への報告、同委員会における対応策の決定・各部門長への指示、部門長から各部門への指示、各部門における対応策の実施というプロセスで管理されております。また各部門では常時リスクの識別を行い、リスクのうち総合的調整が必要となるリスクが把握された場合、その都度内部統制委員会に付議しております。このように当社では常時リスクのモニタリングを行い、リスクの発生に応じて対応する体制を整えております。

組織のリスク管理における気候リスクの統合

 気候関連リスクは、当社の総合的調整を要するリスクのひとつであり、組織における他のリスクとともに当社の内部統制体制において統合されています。元々、当社の想定するリスクには、環境や災害に関するものが含まれていますが、気候変動に伴うリスクもこの一環であり、その性質から組織全体で総合的に対応すべきものと認識しています。このように、気候関連リスクは当社の内部統制体制を通じて組織のリスク管理に適切に統合されております。

 

(4)指標及び目標

①気候関連リスク及び機会の評価指標

 気候関連のリスクと機会の評価指標は表のとおりです。当社では、シナリオ分析において用いたリスクと機会の分類ごとに指標を設定し、これら指標をモニタリングして当社の財務に対する影響度を評価しております。

 リスクに関しては、移行リスクと物理的リスクに大別していますが、特に、CO2排出規制、市場リスクにおけるコスト増、さらに評判リスクにつきましては、当社への影響が大きいと予測されるため、特に注視しています。また、機会に関しては、資源の効率性、エネルギー源、製品・サービス、市場、強靭性がありますが、特に、交通の効率性、新エネルギー、新製品、新市場の動向による影響が大きいと認識しており、これらの指標の動向を把握し、その分析に努めております。

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②Scope別温室効果ガス(GHG)排出量と関連リスク

 当社の温室効果ガス排出量に関し、今回、2022年度(2022年4月~2023年3月)における当社のサプライチェーンにおけるScope1、2、3全項目のCO2 排出量を算定しております。その結果、Scope1及び2は全体の4%程度に過ぎませんでしたが、Scope3が全体の約96%と最大の割合を占めています。Scope3は、当社にとって、サプライチェーンにおける間接的なCO2排出であり、その削減には、取引相手の削減努力が必要となります。しかし、取引相手企業におけるCO2削減にはコストがかかり、そのコストが当社の購入する製品や原材料価格に転嫁される可能性があることから、調達価格の上昇につながるリスクがあると認識しております。

 

Scope1

207.498 t-CO2eq

Scope2

786.388 t-CO2eq

Scope3

23,497.549 t-CO2eq

総排出量

24,491.435 t-CO2eq

※ 本算定は、GHGプロトコルに基づき、外部専門組織であるカーボンフリーコンサルティング株式会社の監修により実施しました。

 

③気候関連リスク及び機会を管理する目標及び実績

 上記温室効果ガス排出量の算出結果を踏まえ、当社では2030年までにScope1及び2の温室効果ガス排出量(CO2 相当量)の大幅な削減を目指しております。具体的な施策といたしましては、LED電球の導入等、社内施設及び設備の省エネ化、より一層のペーパーレス化、離席時のPC電源オフの習慣化、社用車使用時のエコドライブ推進等を検討して参ります。

 Scope3につきましては、カテゴリ1の算定対象を徐々に増やしていき、全体の算定結果に基づき目標設定を検討していきます。Scope3は、当社にとって間接的な排出であるため、調達先の理解と協力が必要となります。そのため、当社では、より排出量の少ない原材料の調達に向け、機器や製品の精査を進めると同時に、調達先に対し、その機器や製品の製造過程におけるCO2排出量を下げるよう働きかけを行うことを検討しております。また、カテゴリ4の輸送については、複数製品を混載するなどして一回の輸送における積載率を高めることを検討してまいります。また、現時点では、EV車両など低排出のモダリティを使った輸送網は整備されていませんが、輸送会社のサービスを注視し、より低排出な輸送手段を検討する予定です。さらに、当社サプライチェーンの外に位置付けられるものの、森林や樹木によるCO2吸収や蓄積は、実際に大気中からCO2を削減し、地域や国、さらには地球全体にとって利益をもたらすものです。この観点から、当社では、日本国内及び海外において、植林活動を支援することを検討して参ります。

 また当社は製品や部材の内製化を進めており、その結果、Scope3の割合を低減し、Scope1及び2の割合を増やすことで、トータルの温室効果ガス排出量(CO2相当量)の大幅な削減を目指します。

 このように、当社では気候変動のリスク及び機会を管理するため、今後も、これらの取組みを積極的に推進していく所存であります。

 

(5)人的資本・多様性への取組

当社の人材育成方針、社内環境整備方針は下記のとおりです。

 

人材育成方針

 社員は重要な経営資源、社員の育成は重要な経営投資と位置づけ、「明日の医療の創造を通して社会に貢献します」という経営理念のもと、個の力を強くすることにより企業価値の向上、企業の競争力の強化を目指します。

1.部下育成は上長の最も重要な責務のひとつと位置づけ業務を通じたOJTを実施します。

2.中長期的な育成の観点から計画的な教育や人事異動を実施します。

3.人材の質をより高めていくために研修制度の構築を行います。

 

社内環境整備方針

 社員が長く働きやすい職場環境を整備するため、職場の安全と心身の健康を守るとともに、差別のない健全な職場環境の確保に取り組みます。

1.健康診断やストレスチェックを実施し、相談窓口を設け社員ひとりひとりの心と身体の健康保持・増進に努めます。

2.各種ハラスメントの禁止を周知徹底すると共に、相談窓口を設置することで職場における良好なコミュニケーションを確保します。

3.有給休暇の時間単位の取得を制度化し、より働きやすい環境を整備します。

 

指標

目標

実績(2022年度)

実績(2023年度)

管理職に占める女性労働者の割合

2027年6月まで15

0%

3.8

男性労働者の育児休業取得率

2027年6月まで50

16.7%

0

年次有給休暇取得率

2027年6月まで80

30.6%

64.5

 

3【事業等のリスク】

 本書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものであります。

 

(1)製品開発の進度に係るリスク

 当社は、新技術や新製品の開発を目指し、研究開発投資や設備投資を行っておりますが、様々な環境動向等により、当社の事業成長を可能にする新製品研究開発の対応不足が生じると、当社の業績に影響を及ぼす可能性があります。

 当該リスクが生じる可能性については、研究開発テーマの新規性や進歩性の程度による部分が大きいと考えますが、数ある開発テーマの中から現場ニーズと製品コンセプト、想定される投資採算などから開発テーマの選択と集中を慎重に検討実施し、製品開発過程の常時見直しと進行テーマの各フェーズにおけるチェック・確認機能の強化に取り組み、当社の開発リソースを最大限有効に活用できるよう取り組んでおります。

 

(2)製品の販売価格引下げに伴うリスク

 国策としての医療費抑制政策によって償還価格(病院が特定保険医療材料を使用した場合に、国に対して請求する価格)は低下傾向にあり、医療機器販売業者による医療機関への販売価格もこれに連動し、低下傾向にあります。また、複数の医療機関の購買をまとめ上げた共同購買体制等もあり、医療機関のメーカーに対する販売価格下落圧力は強まっております。

 当社において、原価低減や業務効率全般にわたっての改善を進めておりますが、効果が限定される場合は、当社の業績に影響を及ぼす可能性があります。

 当該リスクに対する対応策として、製品の市場動向、競合他社の状況、行政の動向等当社を取り巻く経営環境

に関する情報を的確かつ早期にキャッチアップし、中長期的な視点から次世代製品開発に反映することを前提

に、当社の強みである医療現場のニーズを汲み取った独創性の高い医療機器の開発、提供を強化、推進してまい

ります。

 

(3)法的規制に伴うリスク

 当社が行っております医療機器の開発、製造及び販売については、国内では医薬品医療機器法により規制を受けますが、改正法が2014年11月に施行され、品質管理、安全管理体制の一層の強化と充実が求められております。

 これまで当社は医薬品医療機器法に係る許認可の否認や承認の取消しを受けたことはありませんが、医薬品医療機器法第75条においては当該取消事由が定められており、何らかの理由により当該取消事由が生じた場合には、当社の業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

 

 

許可の種類

有効期限

関連する法令

取消等となる事由

第一種医療機器製造販売業許可

2025年3月

医薬品

医療機器法

第75条に該当した場合の取消

又は更新漏れ

医療機器製造業登録

2025年3月

高度管理医療機器等販売業許可

2025年3月~

2030年4月

医療機器修理業許可

2024年10月~

2029年5月

 

 なお、欧州市場へ輸出するにはMDD/MDR(欧州医療機器指令/規則)の要求事項を満たす必要があり、米国市場へはFDA(連邦食品・医薬品・化粧品法)の要求事項を満たす必要があります。当社は輸出先国の法律に係る許認可の否認や承認の取消しを受けたことはありませんが、法規制等が変更、強化された場合は当社の業績及び事業の継続に影響を及ぼす可能性があります。

 当社の海外売上比率は、2024年3月期において3.3%であり、海外における法規制のリスクが当社の現状の業績に与える影響は小さいものと考えます。しかしながら、今後は、海外売上比率を高めていくことを中長期の成長の柱としておりますことから、海外市場の規制要求対応を含め海外拡販体制強化のための人員確保、育成に努め、中長期の事業拡大につなげてまいります。

 

(4)製品の安全性に係るリスク

 当社は、高度な技術を要する医療機器を取り扱っており、品質管理の充実に常に努めておりますが、様々な要因による不良品発生や医療現場での不適切な取扱いの可能性を完全に否定することはできません。医療事故等が発生した場合には製造物責任によって係争等に発展する可能性があり、また製造工程での不具合発生により、自主回収を行う可能性があります。その場合は、特別的な損失として自主回収関連費用が発生し、当社の業績に影響を及ぼす可能性があります。

 なお、当社の責に帰すべき事由による賠償責任の発生に対しましては、生産物賠償責任保険に加入することでそのリスクの軽減を図っております。

 

(5)特定製品への依存に係るリスク

 当社の主力製品であるフィットフィックスを中心とした吸引器関連製品の売上比率が全体の60%を超えてきており、過度な価格競争による販売価格低下等により、当社の業績及び事業の継続に影響を及ぼす可能性があります。吸引器関連の売上高及び売上比率は、2023年3月期 5,820百万円(63.7%)、2024年3月期 6,190百万円(63.5%)であります。

 このため、当社の収益性は、より一層厳しさの増す医療機関の経営環境と特定製品への依存度の高い商品構成に起因した主力製品の販売単価下落に大きく影響を受けるリスクがあります。

 ただし、吸引器関連でも病棟向けのキューインポットなど今後も高い成長性が見込まれるものもあり、中長期的には「マイクロポンプ関連製品」をはじめとしたラインナップ拡充に加え、大きな伸びしろとなりうる海外販売の拡大に向けた製品開発、体制準備を強力に進めることで収益構造の改善を図ってまいります。

 

(6)知的財産権に係るリスク

 当社は研究開発に注力しており、知的財産権の確保並びに他社による知的所有権への侵害防止に努めておりますが、係争に発展する可能性を完全には否定できず、その場合、当社の業績に影響を及ぼす可能性があります。

 また、医療機器の製造販売には許可や承認を必要とし、比較的参入障壁が高い業界ではありますが、さらに競合他社を排除するため、当社は、自社開発製品を知的財産権で保護しております。医療現場と密接な関係を築き営業活動を行っておりますが、権利満了に伴う新規参入により競争が激化した場合には、当社の業績に影響を及ぼす可能性があります。

 医療機関の医療事故に対する意識が非常に高いことから、総じて医療機器の商品サイクルは長くなっております。当社のトップライン製品につきましては、特許切れ以降も引き続き医療現場では高い評価を頂いておりますが、価格競争の点からも、当社といたしましては、信頼を得ている顧客を維持し、さらに満足度を高めるため、新たな特許を織り込んだ新製品開発を進めることで、権利満了による影響を最小化するよう努めております。

 

(7)人材確保、育成に係るリスク

 医療現場の顧客満足度を高めていくためには、顧客の業務及び先進技術に関する専門知識を常に習得・蓄積する必要があり、事業推進に必要な人材を適時適切に確保し育成・活用できない場合には、当社の業績に影響を及ぼす可能性があります。

 こうした課題に対処するため、当社は、従業員の給与水準の向上及び効率的な働き方を実践するなど、競争力確保のための人的投資強化施策を積極的に実施しております。働くうえで一層魅力的な企業となり、企業文化の継承力と創造性を併せ持った人材を育成して適所に配置することに努めてまいります。

 

(8)製造拠点の集中、自然災害に係るリスク

 当社が販売している注入器関連製品は主に大阪府和泉市の当社アセンブリーセンターにて製造しております。製造工場が地震や火災等の災害を被った場合、生産設備の機能停止による製造停止、修繕費用発生等により当社の業績に影響を及ぼす可能性があります。また、製造委託先の業績悪化等サプライチェーンの崩壊により、生産に支障をきたした場合には、当社の業績に影響を及ぼす可能性があります。

 当社といたしましては、複数社の購買体制、複数生産拠点体制を基本とし、リスクとコストのバランスを図りながら、最大限リスク低減を図れるよう取り組んでおります。

 

(9)新型コロナウイルス感染症等の感染症蔓延に関するリスク

 新型コロナウイルス感染症の拡大の第1波から第2波の期間においては、外来患者の減少、手術の延期などの影響から医療現場の逼迫した状況が継続し、手術件数等に影響が出ておりましたが、ワクチン接種の普及拡大、感染防止策の定着等により、医療現場が正常化へ変遷し、いまでは安定した医療体制が形成されております。

 今後も感染防止対策を徹底しながら医療提供体制の確保には最善の努力が継続される中、新型コロナウィルスの新たな変異株の出現やその他未知の感染症の出現等により、深刻な医療逼迫の状況が生じる可能性もあり、そのような状況が生じた場合には、当社の業績に影響を及ぼす可能性があります。

 当社は、事業継続計画(BCP)の策定、安全在庫の確保など、従業員の安全と医療機器の安定供給のための体制整備に努め、最大限リスク低減を図れるよう取り組んでおります。

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

 当事業年度における当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。

 

① 財政状態及び経営成績の状況

 当事業年度におけるわが国経済は、新型コロナウイルス感染症による行動制限の緩和を契機として、社会経済活動の正常化が着実に進み、賃上げや企業の投資意欲の改善等も見られ、ゆるやかな回復基調で推移いたしました。しかしながら、各国の金融引き締め・中国経済の先行き不安による世界的な景気後退懸念、円安の進行による物価上昇、ウクライナやパレスチナ紛争の長期化によるエネルギー価格の高止まりなど、企業を取り巻く環境は依然として先行き不透明な状況が続いております。

 また、当社を取り巻く事業環境は、物資の高騰や医療従事者の慢性的な人手不足等、各医療機関の経営環境はよ

り一層厳しさが増してきており、医療現場においてより効率的で効果的な医療サービスを提供できるような製品供

給体制が望まれております。

 このような状況のもと、当社は、高品質製品の常時安定供給を優先事項と掲げ、医療現場と密着した営業活動の推進、品質を確保しながらもコスト競争力をもった生産体制の構築並びに独創的な製品の研究開発活動の強化に取り組んでまいりました。

 これらの結果、当事業年度の財政状態及び経営成績は以下のとおりとなりました。

 

a.財政状態

 当事業年度末の資産合計は、前事業年度末に比べて7百万円減少し、11,006百万円となりました。

 当事業年度末の負債合計は、前事業年度末に比べて432百万円減少し、3,983百万円となりました。

 当事業年度末の純資産合計は、前事業年度末に比べて425百万円増加し、7,022百万円となりました。

 

b.経営成績

 当事業年度の経営成績については、次のとおりです。

  売上高   9,750百万円   (前期比増減 613百万円増 (前期比  6.7%増) )

  営業利益  1,442百万円   (前期比増減 388百万円増 (前期比 36.8%増) )

  経常利益  1,450百万円   (前期比増減 396百万円増 (前期比 37.6%増) )

  当期純利益  988百万円   (前期比増減 276百万円増 (前期比 38.8%増) )

 

 なお、経常利益の前事業年度との増減内容は次のとおりです。

  販売数量の増加等による売上総利益の増加                    +370百万円

  前期に計上した棚卸資産の滞留に伴う一過性の評価損の影響がなくなったことによる

  売上総利益の増加(前期計上のため当期影響なし)                +172百万円

  その他製造原価増減等による売上総利益の減少                   △90百万円

  販管費等の増加による減少                            △55百万円

 

② キャッシュ・フローの状況

 当事業年度末における現金及び現金同等物は、前事業年度末に比べて222百万円増加し、2,739百万円となりました。

 

③ 生産、受注及び販売の実績

 当社の事業は、医療機器等の製造販売及びこれらの付随業務の単一セグメントであるため、生産、受注及び販売の実績につきましては、当社の製品群別に記載しております。

a.生産実績

当事業年度における生産実績を製品群別に示すと、次のとおりであります。

製品群

生産高(千円)

前期比(%)

吸引器関連

3,384,349

△3.9

注入器関連

1,444,675

+3.7

電動ポンプ関連

187,181

+52.3

手洗い設備関連

269,676

+5.4

その他

244,996

+1.6

合計

5,530,879

△0.0

(注)金額は、製造原価により算定しております。

 

b.受注実績

当社は、見込み生産を行っているため、該当事項はありません。

 

c.販売実績

当事業年度における販売実績を製品群別に示すと、次のとおりであります。

製品群

販売高(千円)

前期比(%)

吸引器関連

6,190,922

+6.4

注入器関連

2,104,731

+4.8

電動ポンプ関連

262,575

+5.5

手洗い設備関連

678,884

+16.0

その他

513,052

+8.3

合計

9,750,166

+6.7

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

 経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において判断したものであります。

 

① 重要な会計方針及び見積り

 当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。

 このうち重要な会計上の見積りとして「変動対価(売上取引に係る未確定の値引額)の額の見積り」があります。当社の顧客が当社製品をユーザーに販売した後、値引の請求を当社が受ける場合がありますが、同一製品であっても顧客がどのユーザーに販売するかによって値引額は変動することとなります。そのため、事業年度末において顧客からユーザーへの販売がまだ行われておらず、顧客からの値引請求額が未確定の部分について、顧客と約束した対価のうち変動する可能性のある部分であり、変動対価に該当します。当社は、当該変動対価の額を見積り、売上高に反映させています。なお、顧客が保有する製品をどのユーザーに販売するかは事業年度末時点で未確定であることから、顧客が過去実績と同一の販売比率でユーザーに販売するという仮定の下、主要な顧客や製品群ごとの過去一定期間の実績値引率に基づいて、変動対価の額を見積っております。

 その他の重要な会計方針及び見積りについては、「第5 経理の状況 1財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項(重要な会計方針)及び(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。

 なお、会計上の見積りに対する新型コロナウイルス感染症の影響に関して、当事業年度における財務諸表における影響は軽微なものと判断しております。

 

② 当事業年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

 a.経営成績等

1)財政状態

(資産合計)

 当事業年度末の資産合計は、前事業年度末に比べて7百万円減少し、11,006百万円となりました。

 流動資産は、前事業年度末に比べて92百万円増加し、6,730百万円となりました。これは主として、製品が87百万円、売掛金が58百万円それぞれ減少したものの、現金及び預金が222百万円、電子記録債権が42百万円それぞれ増加したこと等によるものです。

 固定資産は、前事業年度末に比べて99百万円減少し、4,275百万円となりました。これは主として、長期前払費用が5百万円増加したものの、有形固定資産が83百万円、繰延税金資産が25百万円それぞれ減少したこと等によるものです。

 

(負債合計)

 当事業年度末の負債合計は、前事業年度末に比べて432百万円減少し、3,983百万円となりました。

 流動負債は、前事業年度末に比べて29百万円減少し、3,339百万円となりました。これは主として、未払金が171百万円、短期借入金が80百万円、未払消費税等が61百万円それぞれ増加したものの、1年内返済予定の長期借入金が270百万円減少したこと等によるものです。

 固定負債は、前事業年度末に比べ402百万円減少し、643百万円となりました。これは主として、長期借入金が389百万円減少したこと等によるものです。

 

(純資産合計)

 純資産は、前事業年度末に比べて425百万円増加し、7,022百万円となりました。これは主として、当期純利益を988百万円計上し、配当金を574百万円支払ったことによる繰越利益剰余金の差引増加等によるものです。

 

2)経営成績

(売上高)

 売上高は、9,750百万円(前年同期比6.7%増)となりました。これは主として、手術件数の堅調な推移により、主力製品である吸引器関連(フィットフィックス、キューインポット)の販売が好調に推移したこと等によるものです。

 

(営業利益)

 営業利益は、1,442百万円(前年同期比36.8%増)となりました。これは主として、原油価格高騰や急激な為替変動によるコスト上昇要因等があるものの、前期に計上した棚卸資産の滞留に伴う一過性の評価損の影響がなくなったことに加えて、売上高の増加により売上総利益が増加したこと等によるものです。

 

(経常利益)

 経常利益は、1,450百万円(前年同期比37.6%増)となりました。これは主として、営業利益が増加したこと等によるものです。

 

(当期純利益)

 当期純利益は、988百万円(前年同期比38.8%増)となりました。これは主として、経常利益が増加したこと等によるものです。

 

3)キャッシュ・フローの状況

 当事業年度末における現金及び現金同等物(以下、「資金」という。)は、前事業年度末に比べて222百万円増加し、2,739百万円となりました。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 営業活動により得られた資金は1,555百万円(前期比566百万円増)となりました。これは主として、税引前当期純利益を1,436百万円、減価償却費を214百万円それぞれ計上したものの、法人税等を438百万円支払ったこと等によるものです。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

 投資活動により使用した資金は168百万円(前期比41百万円減)となりました。これは主として、有形固定資産の取得により、161百万円支出したこと等によるものです。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

 財務活動により使用した資金は1,163百万円(前期比382百万円増)となりました。これは主として、長期借入金の返済額として659百万円支出し、配当金を573百万円支払ったこと等によるものです。

 

 b.経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

 当社の経営に影響を与える大きな要因として、医療費抑制政策をはじめとする国による社会保障政策への動向があります。医療費の抑制に加え、医療現場における新型コロナウイルス感染症への対応、物資の高騰や医療従事者の慢性的な人手不足等、各医療機関の経営環境はより一層厳しさが増してきており、国内外メーカーとの競争激化等により、当社の経営環境は依然として厳しい状況で推移するものと認識しております。

 このような状況の中、当社の強みである医療現場と密着した製品開発、営業活動にもとづく新たな医療サービスを提供できる独創的な新製品開発と生み出された新製品の販売推進により他社の追随を許さないトップメーカーとしての地位の確保と新市場創出、開拓を推進してまいります。

 当社の主力製品の状況は次のとおりです。

 

 (吸引器関連)

 主に手術室で使用される吸引器であるフィットフィックスについては、1990年の発売から30年超が経過しておりますが、手術件数の伸びとともに、販売数量も増加する傾向にあります。しかしながら、医療費抑制政策等による医療機関の経営環境の変化から競合他社との競争が激化しており、販売単価の下落が顕著になっております。

 当社は、吸引器の国内トップシェアメーカーとして現状の市場環境の変化に対応するべく、医療現場のニーズに合致した現行フィットフィックスの後継機種となる次世代吸引器の開発を進め、現在、複数の医療施設でのマーケットトライアルを実施しており、評価結果を受けて迅速に市場投入を実施してまいります。

 次に、病棟で使用されるキューインポットについては、院内感染防止と看護師の業務負荷軽減を目的として急速に普及が進んでおります。

 当社は手術室で培ったノウハウをもとに300床以上の急性期の大手病院への納入から始まり、現在では300床未満の中小病院、さらには慢性期の病院への展開にも注力しております。特に、院内感染防止等の観点からニーズは非常に高く、300床未満の中小病院、慢性期の病院への納入が顕著に増加しており、今後も伸びが期待できる市場環境にあります。

 

 このような状況のもと、当事業年度におきましては、新型コロナウイルス感染症の影響は軽微なものとなり、徹底した感染症の防止策が講じられながらも、正常化した安定的な医療が提供されております。これにより、手術室で使用される吸引器であるフィットフィックスの販売量が堅調に推移したこと、病棟用の吸引器であるキューインポットの販売が好調に推移したことにより、吸引器関連の年間売上は6,190百万円となりました(前期比6.4%増)。

 引き続き、競合他社との競争は厳しく、販売単価下落の影響はあるものの、フィットフィックスの堅調な伸びと病棟で使用されるキューインポットの拡販、市場拡大に注力することで増収確保に向けた取組みを進めております。

 

 (注入器関連)

 手術後の疼痛管理目的で使用されるディスポーザブル持続注入器であるシリンジェクター、バルーンジェクターについては、麻酔手技の変化と医療経済性の観点から医療現場のニーズに変化が見られます。

 医療現場のニーズ変化に対応すべく、製品ラインナップ強化に向けてマイクロポンプを使用したより流量精度が高く、医療従事者が管理しやすい持続注入器の新製品開発を進め、完成した新製品「クーデックエイミーPCA」について拡販を進めてまいりました。当初想定していた急性期の医療機関での需要に加えて、在宅市場などをはじめとして多方面からの引き合いも引き続き増加してきており、そのポテンシャルは当社事業領域拡大の余地を大きく含んでおります。

 このような状況のもと、当事業年度におきましては、吸引器と同様に手術件数が堅調に推移したことに加えて、新製品の「クーデックエイミーPCA」の好調な販売推移により、注入器関連の年間売上は2,104百万円となりました(前期比4.8%増)。

 差別化された圧倒的な製品力とトップシェアメーカーである営業力を発揮し、新施品の拡販に注力し、市場シェアのさらなる拡大を進め、増収確保に向けた取組みを進めております。

 

 上記に記載した主力製品が当社事業の大半を占めるため、その売上進展及びその収益性が当社の営業利益、経常利益、当期純利益に大きく影響することとなります。

 

 新型コロナウイルス感染症の拡大が当事業年度の経営成績に与える影響については、「3 事業等のリスク (9)新型コロナウイルス感染症等の感染症蔓延に関するリスク」にも記載いたしましたとおり、新型コロナウイルス感染症の拡大の第1波から第2波の期間においては、外来患者の減少、手術の延期などの影響から医療現場の逼迫した状況が継続し、手術件数等に影響が出ておりましたが、ワクチン接種の普及拡大、感染防止策の定着等により、医療現場が正常化へ変遷し、いまでは安定した医療体制が形成されております。

 今後も感染防止対策を徹底しながら医療提供体制の確保には最善の努力が継続される中、新型コロナウィルスの新たな変異株の出現やその他未知の感染症の出現等により、深刻な医療逼迫の状況が生じる可能性もあり、そのような状況が生じた場合には、当社の業績に影響を及ぼす可能性があります。

 当社といたしましては、医療に従事するメーカーとして人命の安全を確保しながらも製品の安定供給を果たすための生産・供給体制の構築を経営課題と認識し、取り組んでおります。

 また、「医療現場第一主義」の研究開発型メーカーとして当社の特徴でもある独創的な製品を開発し、供給することにより医療現場が抱える課題解決を図っていくことを第一に考えながら、新製品については、国内のみならず海外での販売拡大を目指し、海外販売比率を高めることで事業規模の拡大とさらなる経営基盤の強化・確立を図ってまいります。

 

 c.資本の財源及び資金の流動性

(資金需要)

 当社の事業活動における運転資金需要につきましては、製品を製造するための国内外の仕入先からの部材仕入、製造経費、営業管理費や荷造運賃などの販売費及び一般管理費があります。

 設備資金需要につきましては、製品製造にあたっての設備の維持・金型の更新投資や新製品開発にあたっての設備や金型の新規投資があります。さらには、インフラとして生産効率や事務効率の向上を目的とした投資等があります。

 

(財務政策)

 当社の事業活動の維持拡大に必要な資金を安定的に確保するため、内部資金の活用及び金融機関からの借入による資金調達を行っております。基本的に、経常的な設備投資については、減価償却費の範囲内にとどめ、一定程度のキャッシュポジションを維持した上で余剰資金については有利子負債の削減に充当しております。

 また、過度に金利変動リスクに晒されないよう短期借入と長期借入のバランスを図りつつ、タイミングをみて長期借入へシフトするなど、資金調達コストの低減・安定にも努めております。

 

 d.経営方針、経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等の達成・進捗状況

 当社は、医療機器製造と医療機器販売が事業のほとんどであるため、売上高総利益率と売上高経常利益率が本業の収益性を明確に図るための有用な指標であると考えております。当事業年度における「売上高総利益率」は、40.8%(前期比2.2ポイント好転)であります。また、「売上高経常利益率」については、14.9%(前期比3.4ポイント好転)であります。

 主要2指標の好転の主要因は、前期に計上した棚卸資産の滞留に伴う一過性の評価損の影響がなくなったことに加えて、販売面においては、主力製品の堅調な売れ行きと新製品(特にクーデックエイミーPCA)が好調に推移していること、原価面においても徹底したコスト低減に取り組み、売上総利益率の改善に繋がりました。

 売上高経常利益率の改善につきましては、売上総利益が増加したこと等の影響によります。

 当面の中期的な経営目標指標として2027年3月期に売上高110億円、経常利益18億円、当期純利益12.6億円、1株当たり当期純利益43.8円を目指しております。

 当該経営目標数値の達成に向けた計画骨子として、下記3点の重点施策を実施してまいります。

 

1.既存事業の成長

 病棟用吸引器であるキューインポットのさらなる拡販に取り組んでまいります。

 急性期病院から慢性期病院への拡販を積極展開し、潜在市場への普及拡大を図ります。

 

2.生産性の向上と原価改善

 新製品開発が主体であったリソース配分を見直し、原価改善に向けたリソースの適正化を実施の上、下記3点の項目に集中的に取り組み、コストダウンを図ることで粗利益増加、粗利率の改善を図ります。

 ①設計変更による部品と工数のスリム化

 ②生産設備改善による省力化

 ③サプライチェーンの更なる適正化

 

3.中長期的成長エンジンとなるマイクロポンプ関連製品の投入と開発

 マイクロポンプ関連製品の第1弾製品として上市した「クーデックエイミーPCA」の拡販を進めてまいります。

 当社の主戦場である急性期の医療機関への拡販に本腰を置きながらも潜在的にニーズの高い在宅市場やクリニックへの展開も積極的に推進してまいります。

 さらには、マイクロポンプをキーデバイスとした注入器分野での派生商品の開発にも着手しており、早期上市、拡販に向けた取り組みを進めております。

 

 当社といたしましては、医療現場のニーズを汲み取った改良品の上市や既存製品の拡販により競争力強化を図ること、新製品の上市により新たな事業の柱を創出することにより、特定製品に依存した収益構造からの脱却を図り、売上高総利益率の改善に努めるとともに、生産効率の改善や固定費削減にも取り組み収益性の改善に努めてまいります。

 

5【経営上の重要な契約等】

 該当事項はありません。

 

6【研究開発活動】

 当社は、研究開発型の医療機器メーカーとして、血液凝固技術、メカトロニクス技術、エンジニアリングプラスチックによる接着、溶着等の接合技術、MEMS(※)開発に必要な精密加工技術等のコア技術を蓄積し、新たな技術開発の基盤としております。また大学や研究機関等との共同研究にも積極的に取り組み、各分野の医師のご理解、ご協力のもと、協力体制を構築し、医療現場の課題を当社の課題として捉え、細部までこだわりぬいた製品の開発を行っております。

 これら強固な基盤の上に、今後は当社の強みを発揮できる分野、将来有望な新製品の開発に経営資源を集中させ、顧客が望んでおられる新しい医療機器を一日も早く医療現場にお届けすることが当社の研究開発の基本戦略であります。

 加えて当社は、顧客に信頼される製品を開発することは当然のこと、医療の「現場ニーズ」の源泉に立ち返り、他社との差別化・高付加価値を伴った独創的な製品に結びつくような企画、研究、開発を推し進めております。企画、研究段階では、医療従事者との人脈を活かしたマーケティング活動を通して医療現場の潜在ニーズを探り、近い将来において、医療に貢献しうる新技術の研究や製品のプロトタイプ(試作品)による妥当性を確認することで本ニーズの信憑性を確実なものとし、開発段階では、量産性を可能とするべく、開発の初期段階から設計部門と生産部門とで、生産方法や製造原価等の情報を共有しながら進める“設計製造コンカレント開発”を常態化させております。

 当社研究開発部門の2024年3月期末の在籍者数は33名であり、当事業年度における当社が支出した研究開発費の総額は249百万円であります。

(※) Micro Electro Mechanical Systemsの頭文字からMEMSと呼ばれています。その技術範囲として、機械要素部品、センサー、作動装置、電子回路の集積化などが挙げられ、今後は自動車、家電、産業用のみならず、医療への適用拡大のための研究開発及び採用が加速すると考えられております。

 

 現在、主に取り組んでいる研究開発活動は次のとおりであります。

 

 (1)高性能低コストマイクロポンプを用いた薬液注入器とその派生商品の開発

 本件は、2014年に国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が実施する医工連携事業化推進事業として採択され、国立大学法人岡山大学及び学校法人川崎学園川崎医科大学と共同で実施した研究開発であります。

 現在の薬液注入器は、薬剤の種類、量、投与精度等により使い分ける必要があるため種々の装置に分類されています。これらは医療機関にとって機器の導入費用や管理コストを増大させており、また薬剤の種類、機器の操作性も様々であるため、間違いを誘発させるという医療安全面での課題があります。

 そこで、当研究開発では、高性能低コストマイクロポンプをキーデバイスとして、数ある薬液注入器を統合していくのと同時に、安全で使い易い製品にすることで、患者のQOL向上、医療従事者の負担軽減や医療安全の向上を目指しております。

 また、2015年11月27日付にて「マイクロポンプ(MEMSデバイス)を用いたディスポーザブル型医療機器の開発」について、内閣総理大臣より関西圏国家戦略特区における事業として認定されました。「高性能低コストマイクロポンプを用いた薬液注入器」は、「マイクロポンプを用いたディスポーザブル型医療機器の開発」の一端を担うものであります。

 さらに、2018年12月に国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が実施する「医工連携事業化推進事業(補助事業)」に採択され、2019年12月には、マイクロポンプを搭載した医薬品注入器「クーデックエイミーPCA」の製造販売承認を取得し、2020年12月に上市決定を実施し、その後本格的な拡販を進めております。上市後、急性期の医療機関に加えて、在宅市場などでの引き合いも多く出てきており普及が着実に進んでおります。

 次の展開といたしましては、海外市場での販売に向けた体制準備を進めており、現地認証取得や有力パートナー等の選定を進めております。

 キーデバイスであるマイクロポンプを活用した薬液注入器「クーデックエイミーPCA」を第一弾として、次なる派生商品の開発も推進しております。

 

(2)化学療法向けのマイクロポンプを用いた薬液注入器開発

 近年、通院しながら抗がん薬治療を受ける外来化学療法が増加しているほか、再発予防のため、手術後に長時間かけて抗がん薬を投与する術後補助化学療法が普及し、外来に加え自宅で持続注入するなど、化学療法の多様化が進んでいます。そうした中で、安全・安心な化学療法の推進を支える医療機器の開発が求められています。

 当社は、株式会社ジェイ・エム・エス(以下、JMS社という。)と相互連携を図り、当社の安全で正確な輸液を行うことができる超小型マイクロポンプ「クーデックエイミーPCA」とJMS社の閉鎖式薬剤移注システム「ネオシールド」をはじめとする抗がん薬を安全に取り扱うためのデバイスを組み合わせることで、抗がん薬の曝露リスク低減を目的とした新たなソリューション提供を目指しております。

 両社で共同プロジェクトCOOPDECH Amy × NEOSHIELD Project(CAN Project)を立ち上げ、製品仕様を検討するための市場調査を実施しました。がん診療連携拠点病院を中心に36病院に対する聞き取り調査の結果、CAN Project提案システムによる新たな価値の提供を通じて、化学療法の発展に貢献できると判断し、2023年5月19日に業務提携契約を締結いたしました。

 当該製品については、2024年度内での薬事申請、製品上市を予定しております。