(経営方針、経営環境及び対処すべき課題)
当社グループは、2023年度からスタートいたしました経営計画「Mission 2030」を推進してまいりました。この経営計画は、当社が大切にするコアバリュー、羅針盤であるパーパス、そして2030年に成し遂げたい務めとしてのミッションから構成される「ビジョン」のもと、「事業価値創造」、「人財価値創造」、「経営価値創造」の3つを成長戦略として、財務・非財務の双方に重点を置いた取り組みを実行し、企業価値の向上につなげていくものです。経営計画の中核をなす成長戦略「事業価値創造」について、初年度である2023年度の具体的な取り組みの一例をご紹介いたします。
注力分野である「ICT & Energy」では、xEVのリチウムイオンバッテリーや洋上風力発電の高圧送電線ケーブル用途で使用されるアセチレンブラックについて、SCG Chemicals Public CompanyLimited(本社:タイ・バンコク)との共同出資により合弁会社を設立いたしました。併せて、タイへのアセチレンブラック生産プラントの建設も決定しており、今後の需要の伸長を見据え、生産・販売体制の強化と供給体制の安定化に取り組んでまいります。
そして、「Healthcare」分野では、当社は、VLP Therapeutics Japan株式会社、一般財団法人阪大微生物病研究会と次世代 mRNA技術を用いたインフルエンザワクチン開発に関する共同研究契約を締結しました。次世代 mRNA技術は、改変が容易で迅速に製造ができる従来のmRNA技術の利点を有するとともに、安全で、より少ない接種量で十分な効果を示し、免疫が長く持続するワクチンの創出に資することが期待されています。当社は、インフルエンザの流行に備え、既にインフルエンザワクチンの生産能力を増強し多くの方にワクチンをお届けできる体制を構築しておりますが、人々のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)向上に貢献し続けるため、次世代のワクチン技術の開発にも着手しております。
さらに、「Sustainable Living」分野では、当社と持分法適用会社である東洋スチレンは、使用済みポリスチレンの国内最大のケミカルリサイクルプラントを千葉工場に竣工させました。当社グループのケミカルリサイクルは、ポリスチレンを化学的に分解し、化学原料に戻してリサイクルするもので、新品同等の品質と物性で用途制限なく使用可能なリサイクル手法であるとともに、サーマルリサイクルに比べてCO2排出量が少なく、脱炭素・循環型社会の構築に資するものです。「事業価値創造」では、スペシャリティやメガトレンドに加え、サステナビリティも追求してまいります。
経営計画「Mission 2030」の初年度は、半導体需要低迷の長期化、中国経済の減速や世界的なインフレ等の経済環境の変化に加え、クロロプレンゴムの需要減等の理由により、前経営計画「Denka Value-Up」で計画された先行投資等のコストの増加に見合った販売数量の増加を十分に受けることができず、政策保有株式の売却による特別利益はあったものの、能登半島地震の影響やノロウイルスワクチン開発中止に伴う減損損失も重なり厳しい業績を余儀なくされました。
今後、先行投資した設備が続々と稼働する予定であり、その需要を確実に取り込みながら、経営計画「Mission 2030」における3つの成長戦略を推し進める長期的な戦略に変更はありません。しかしながら、経営計画の前提条件が変動したことへの対応が喫緊の課題であり、財務面のコントロールも行いながら、業績を成長軌道に回帰させてまいります。
具体的な対応策として、まずは、売却・撤退も含めたポートフォリオ変革を加速いたします。クロロプレンゴム事業の収支改善を最優先事項として位置付け、需要動向と最適生産能力等の精査を行い、抜本的な対策を決定いたします。また、スペシャリティ、メガトレンド、サステナビリティの3要素を備えることが困難な事業については、最終施策の見極め期限を設けるなど、ポートフォリオ変革を加速させ経営資源を成長分野に集中することで、業績面や財務面の改善を図ります。
次に、投資計画の見直しを行います。投資案件の優先順位を明確にし、より厳選することに加えて、環境の変化に伴う不急な案件は先送りするなど、厳選化と実施時期等を見直します。
さらには、経営トップの全面的なコミットメントのもと、全社をあげたコストダウンプロジェクトを強力に推進いたします。今回のコストダウンプロジェクトは単にコスト削減のみを目的とするのではなく、今まで当社が行っていなかったベストプラクティスを導入することによって、コストダウンや業務効率化のほか従業員の成長にもつなげ、「事業価値創造」のみならず、「人財価値創造」と「経営価値創造」に貢献するよう、全社一丸体制で取り組み、利益水準を再び成長軌道に戻してまいります。
2023年度は、製造会社として存続の基盤ともいえる「製造現場での安全確保」と「製品の品質保証」を脅かす重大な事象が発生いたしました。2023年6月14日に青海工場(新潟県糸魚川市)内にて製造設備のメンテナンス工事作業中に配管が破裂する事故が発生しました。本事故により、工事に携わっていた協力会社の1名の方が亡くなられ、2名の方が負傷されました。当社は事故発生以降、関係当局による事故原因の調査に全面的に協力するとともに、当社においても専門的な調査により徹底した事故原因の究明および再発防止策の策定を行うため、2023年7月11日に社外の有識者および専門家を中心に構成される事故調査委員会を設置しました。そして、2024年1月11日に、同委員会から最終報告書※1を受領しました。同委員会からの提言を重く受け止め、再発防止対策の確実な実行と安全文化の醸成に、鋭意取り組んでおります。
また、当社は、当社および持分法適用関連会社である東洋スチレン株式会社が製造・販売する樹脂製品の一部において、米国の第三者安全科学機関であるUnderwriters Laboratories Limited Liability Company等の認証に関する不適切な行為が判明し、2023年5月29日に公表するとともに、当社グループと利害関係を有しない社外有識者による外部調査委員会を設置し、本件不適切行為に関する徹底的な調査と原因究明、再発防止策の提言を委嘱いたしました。そして、2023年12月11日に同委員会から、調査報告書※2を受領しました。調査報告書では、不適切事案の申告に対する心理的安全性確保のための体制不足など、少なくない組織課題をご指摘いただきました。調査報告書の指摘を真摯に受け止め、コンプライアンス最優先の経営姿勢を当社グループ全体に浸透させるべく、抜本的な対応策を全力で進めております。
両事案に起因する業績影響は特段ありませんでしたが、「製造現場での安全確保」と「製品の品質保証」は製造会社としての必須条件であり、当社は、この2つの事案を非常に重く受け止め、関係役員の報酬の一部を返上いたしました。再発防止策として、ガバナンス、マネジメント、プロセス、人財育成まで幅広く対応することで、再びこのような事態を引き起こすことがないよう、確実に対処していく所存です。
2024年4月9日(現地時間)、米国環境保護庁(以下「EPA」という)は、当社米国子会社のデンカパフォーマンスエラストマーLLC(以下「DPE」という)を含むクロロプレンゴム製造施設に適用される新たな化学物質の大気排出規制を発表しました。新たに発表された化学物質の大気排出規制(以下「新規制」という)の内容は、米国におけるクロロプレンゴム製造施設に対して、各種の排出対策を取ることにより、クロロプレンモノマー※3排出量の大幅な削減を求めるものとなっております。新規制は、EPAが行ったRTR(Riskand Technology Review)の結果を受けたものであり、そのベースはEPAが2010年に統合リスク情報システム(IRIS / Integrated RiskInformation System)で行ったクロロプレンモノマーの発がん性評価が用いられています。これに対し、DPEは、IRISにおいてクロロプレンモノマーの発がん性が過剰に評価されているとして、かねてからEPAに対して最新の科学に基づき発がん性評価を正当に見直しするよう求めておりました。なお、DPEは、2015年11月に同事業を取得以降、一貫してルイジアナ州の排出基準を遵守して操業しており、また、自発的な環境投資を行い、2019年時点で2014年比85%のクロロプレンモノマーの排出量削減を達成しております。
今回の新規制等においては、最新の科学に基づいた正当な発がん性評価の見直しが行われたとは考えられず、また、DPEの操業継続に重大な影響を与える可能性のある内容となっていることから、DPEでは、排出量削減対策の実施に関する猶予期間の定めの停止や、新規制の内容自体の見直しを求め、米国連邦控訴裁判所への提訴を行いました。DPEでは、新規制等の見直しに向け、引き続きあらゆる措置を講じていくこととしております。
当社グループ全体を挙げて、今一度、当社が大切にする「挑戦」「誠実」「共感」というコアバリューを見つめ、「化学の力で世界をよりよくするスペシャリストになる。」というパーパスの実現を目指して、「スペシャリティ」「メガトレンド」「サステナビリティ」を備えた3つ星事業へ集中するべく、新規事業の開発、既存事業の改革を行う「事業価値創造」、そして「人財価値創造」と「経営価値創造」にグループ一丸となって邁進してまいります。
※1 「青海工場クロロプレンモノマー製造設備事故調査最終報告書」
https://www.denka.co.jp/storage/news/pdf/1193/20240111_denka_omi_finalreport.pdf
※2 「当社および持分法適用関連会社の樹脂製品における第三者認証等の不適切行為に関する外部調査委員会による
調査報告書ならびに当社グループの対応策の公表について」
https://www.denka.co.jp/storage/news/pdf/1185/20231211_denka_report_measures.pdf
※3 クロロプレンモノマー:クロロプレンゴムの原料となる化学物質
2023年4月、デンカグループは新たな挑戦をはじめました。これまで指針としてきた「The Denka Value」(企業理念)、Denkaの使命、Denkaの行動指針は、従業員の声をふまえ、より未来のデンカを見据えた新たな「ビジョン」へと進化。同時に、2023~2030年度の8ヵ年を対象とする新経営計画「Mission 2030」が始動しました。
デンカの新たなビジョン
新たなビジョンは、デンカのDNAであるコアバリューを土台とし、デンカを導く北極星となるパーパス、2030年に成し遂げたい務めとしてのミッションを重ねた構成とすることで、文字の域を超え、全従業員が自分ごと化できる新しいデンカの未来像を表しました。

コアバリュー
「コアバリュー」とは、デンカのDNA。さまざまな判断をする上での拠り所にもなります。「挑戦」「誠実」「共感」は、デンカが脈々と受け継いできた姿勢を改めて言語化したものです。これからも一層大切にしていくべき信条です。
パーパス
「パーパス」とは、デンカを導く北極星。デンカが存在する根本的理由です。デンカは世界でどのような存在でありたいのか、デンカだからこそできることは何かを突き詰めて考え、「化学の力」「世界をよりよくする」「スペシャリスト」といった言葉一つひとつを選び出しました。
ミッション
「ミッション」は、デンカの務め。大胆で説得力のある野心的目標です。「コアバリュー」や「パーパス」が普遍性を持つものであるのに対して「ミッション」は明確なゴールと期限があり、例えるならば“登るべき山”です。2030年に、その頂上にたどり着くことを目指し、具体的な戦略を経営計画「Mission 2030」に落とし込んでいます。
コーポレートメッセージ
このデンカのビジョンを社内外に分かりやすく伝達する言葉としてコーポレートメッセージ「世界に誇れる、化学を。」を創りました。世界に誇れる唯一無二の存在(=スペシャリスト)として、化学の力で世界をよりよくすることを目指すという想いを込めました。
(ご参考)
経営計画「Mission 2030」
新たなビジョンの実現に向けて、2030年をゴールに取り組む経営計画が「Mission 2030」です。
事業価値創造、人財価値創造、経営価値創造の3つを成長戦略として、企業価値向上に取り組みます。事業価値創造では、デンカの全ての事業を、スペシャリティ・メガトレンド・サステナビリティの3要素をそなえた「3つ星事業」とすることを目指します。

2030年の主なKPI目標
3つの成長戦略
<事業価値創造>
事業価値創造では、想定される未来世界とメガトレンドから導き出された「3つの注力分野」である、ICT & Energy(アイシーティー・アンド・エナジー)、Healthcare(ヘルスケア)、Sustainable Living(サステナブル・リビング)に重点を置きます。そして、2030年までにスペシャリティ・メガトレンド・サステナビリティの3要素をそなえた「3つ星事業」を100%にしていきます。また、「3つ星事業」への転換が困難な事業については、売却・撤退を含め、ポートフォリオ変革を進めていきます。そのために、8年間合計で戦略投資3,600億円、研究開発費1,800億円をかけて、2030年に営業利益1,000億円以上を目指します。
並行して、地球への貢献と、企業のさらなる社会的価値向上を目指し、8年間合計で850億円の環境投資を行い、サステナビリティを追求します。
3つの注力分野
サステナビリティの追求

<人財価値創造>
社員一人ひとりが自己実現と成長を実感できる企業を目指し、人財投資と制度改革を実現します。
<経営価値創造>
ESG経営の観点から、企業存続の前提となる経営基盤の強化に取り組みます。
財務戦略
ROEとROICの改善
下記施策を通じて、ROE(株主資本利益率)とROIC(投下資本利益率)を改善させ、企業価値向上を図ります。
キャッシュアロケーション~総還元性向50%水準を維持~
営業キャッシュフローと負債を有効に活用して、8年間合計で7,400億円のキャッシュを生み出し、それを投資に5,700億円(注)、株主還元に1,700億円(総還元性向50%水準)配分します。
(注)2024年5月10日に公表した「2024年3月期 決算説明会資料」に記載のとおり、投資案件の優先順位明確化や、投資計画の更なる厳選、不急案件のスケジュール見直しなどにより、1,000億円削減し、4,700億円とすることを目指します。
※文中の将来に関する事項は、計画発表時において当社グループが判断したものであり、その達成を保証するものではありません。
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
当社は、すべての事業活動におけるESG(環境・社会・ガバナンス)課題に対する基本的な方針となる「デンカグループESG基本方針」を、取締役会の決議に基づき、2021年11月に制定しました。当社は、サステナビリティ(中長期的な持続性)を巡る課題への対応が、企業存続を左右する重要な経営課題(マテリアリティ)であると認識し、本基本方針の遵守に努め、高い倫理観に基づく実効性のあるコーポレートガバナンスを構築することで、企業価値の向上を目指します。

当社は、2023年度より開始した経営計画「Mission 2030」に基づき、サステナビリティ(中長期的な持続性)に向けた取り組みを推進し、活動内容に対する審議と提言を行う「サステナビリティ委員会(委員長:社長)」を設置しました。
「サステナビリティ委員会」は、執行部門内の組織として、経営計画「Mission 2030」のサステナビリティに係る活動と非財務目標・KPIの進捗及びリスク・収益機会への対応について、対象部門より定期的に報告を受け、審議・提言を行い、その結果を取締役会へ報告するとともに、経営計画の進捗状況として、ステークホルダーの皆様へご報告いたします。
(a)ESG経営推進体制

(b)主要なサステナビリティ推進主体の活動状況
当社は、企業としての社会的責任を果たし、長期にわたり事業を継続するためには、サステナビリティ関連のリスクと機会に適切に対処する取り組みが大前提であるという考えから、経営計画「Mission 2030」における「3つの成長戦略」において、サステナビリティを巡る重要経営課題(マテリアリティ)を考慮した基本的な方針を定め、施策を推進しています。
「事業価値創造」としては、デンカグループの「2050年までのカーボンニュートラルの実現」「サステナブルな都市と暮らしの充実」「環境の保全・環境負荷の最小化」を方針として、CO2を代表とする温室効果ガスの削減となる、低炭素アセチレンチェーンの確立を含むポートフォリオ変革の実施、再生可能エネルギーの拡大、SDGsに貢献する製品開発、循環型社会の実現となるスチレン系包装材料のサーキュラーエコノミー推進等の施策を進めます。
また、「人財価値創造」としては、社員一人ひとりが自己実現と成長を実感できる企業を目指し、「人財育成体制の強化」「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンの推進」「健康経営と働き方改革」を方針として、将来の経営層育成と全社一貫の教育体系の構築および自ら学ぶ文化の醸成、多様な考え方を持った人間が活躍できる職場環境・制度・文化の醸成、「明日も来たくなる職場」のための制度改革を推進します。
そして「経営価値創造」では、ESG経営の観点から、企業存続の前提となる経営基盤の強化を図るため、プロセス革新、人権の尊重、安全最優先、サプライチェーンマネジメント、製品安全、コーポレートガバナンスの高度化を基本方針として掲げています。
(a)事業価値創造~サステナビリティの追求~

(b)人財価値創造

サステナビリティ委員会は、経営計画「Mission 2030」のサステナビリティに係る活動指標と目標を、担当する担当部門から報告を受けて審議と提言を行い、取締役会への報告を行います。重要なテーマである気候変動問題と人権尊重の取り組みに関わるリスク管理および統合リスクマネジメントについては、以下の通り実施しており、さらにこれらの取り組みを推進いたします。
(a) 気候変動(TCFD)
中長期の気候変動問題への対応については、取締役会による監督の下、サステナビリティー推進担当執行役員が統括しています。デンカグループは、2050年までに地球温暖化を1.5℃未満に抑えることを目指す「TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)」の提言に、2020年9月に賛同を表明しました。
事業を通じた「リスク・機会」をシナリオ分析により特定すると共に、基本方針や重要施策、管理指標の設定及び評価などの重要事項を、サステナビリティ委員会で議論した後、取締役会が意思決定を行います。
気候変動に伴うシナリオ分析に基づく、デンカとしてのリスクと機会の抽出
(b) 人権尊重の取り組み
デンカグループESG基本方針では、人権の尊重の条項として、「デンカグループは、強制労働の撤廃、児童労働の実効的廃止、雇用と職場に関する差別の排除、労働者の結社の自由と団体交渉権の承認を含め、グループの事業に関わるすべての人々の人権を尊重するとともに、人権意識の啓発と向上に努め、企業責任を果たすために行動します。」を掲げています。
2023年度は、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」並びに「グローバルコンパクト」に則した「デンカグループ人権方針」を2023年9月に取締役会承認を経て制定しました。更に、デンカグループが取り組むべき重要人権リスク特定のためのヒアリングを実施し、優先的に取り組むべきリスク項目の特定を進めています。
今後はリスク特定とその軽減を進めるとともに、人権デュー・ディリジェンスプロセスの確立に向けた取り組みを行っていきます。
(c)統合リスクマネジメント
当社は、気候変動(TCFD)に関連した社会のレジリエンスの要請の高度化、人権尊重の高度化を含む急速な社会変化、めまぐるしい事業環境の変化や本格化する事業ポートフォリオ変革など、事業をめぐる不確実性が増大する中でも、これらの不確実性を自社の成長の機会と捉え、サステナビリティへの取り組みと事業活動とを統合していきます。これらの取り組みに際し、デンカグループを取り巻くさまざまなリスクを適切にコントロールし、資本コストを最小化していくため、当社は、社長を委員長とするデンカグループ・リスクマネジメント委員会を組織しております。同委員会は、統合リスクマネジメント(ERM)の仕組みと年間を通じた諸活動を通じて、デンカグループのリスク管理体制の強化を図っています。
デンカグループ・統合リスクマネジメント体制図

デンカグループ・リスクマネジメント委員会は、具体的な、リスクの識別・評価、リスクの管理、サステナビリティ推進活動への統合を、以下の手順で実施しています。
① リスクの識別・評価: 化学業界にある当社にとって脅威と考えられる56の主要なリスク項目を抽出し、それぞれのリスクを、❶発生頻度 ❷影響度 ❸対策度合い の評価軸を用いて5段階で評点化し、更にリスクオーナーとのディスカッションを経て最終的にデンカグループにとっての重大リスクを選定します。2023年度に、下表の10大重要リスクを抽出しています。
②リスクの管理: 重大リスクに対しては、課題の把握とリスク対策の進捗を継続的にモニタリングすることにより、リスク顕在時における業績への影響低減に努めています。とりわけ事業継続の脅威となる「大震災の発生リスク」に対しては、社長を含む経営陣に対し、リアルタイム、机上型の訓練を実施し、震災発生時の迅速な対応への感応度を高めています。
③ 全体への統合: また、デンカグループ・リスクマネジメント委員会は、リスク低減への取り組み状況を、気候変動(TCFD)や人権尊重への取り組みと併せて、定期的に取締役会へ報告しており、それぞれがサステナビリティ推進における機軸として認識されています。同委員会は、年間を通じてこれらのリスク低減活動を実施し、その結果を分析して翌年度のERM実施計画に反映しております。これらの一連の活動により、デンカグループのリスク管理が統合される仕組み・プロセスとなっています。
デンカグループ10大重要リスク一覧
統合リスクマネジメント(ERM)の全体図

サステナビリティ関連のリスク及び機会に関する連結会社の実績を長期的に評価し、管理し、及び監視するために用いる情報として、当社は、経営計画「Mission 2030」の事業価値創造、人財価値創造、経営価値創造という3つの成長戦略の中で、非財務KPIによる指標を設けるとともに、経営計画最終年度である2030年度目標を設定しています。経営計画「Mission 2030」における主要なKPI目標は、「
※提出会社単体の状況を記載しています。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。ただし、ここに記載した事項は、当社グループに関する全てのリスクを網羅したものではなく、現時点では予見出来ないまたは重要と見なされていないリスクの影響を将来的に受ける可能性があります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)外部事業環境等
当社グループの経営成績は、自動車や電子部品などの需要動向により影響を受けるほか、原油や基礎石油化学製品などの原燃料市況ならびに為替相場の変動の影響を受ける可能性があります。当社グループは、経営計画「Mission 2030」において、全ての事業をスペシャリティ・メガトレンド・サステナビリティの3要素をそなえた「3つ星事業」とすることを目指し、外部環境の変化に左右されにくい、企業体質の強化を進めてまいります。
(2)品質、製造物責任
当社グループは、社会および顧客の信頼を第一に考え、安心して使用できる製品の提供のため、各事業セグメントに品質保証部門をそれぞれ設置し、当社および主要子会社における全事業所の対象製品において継続的な品質改善に努め、ISO品質マネジメントシステム規格の認証を取得するなど、万全の対策を講じております。しかしながら、製品やサービスの提供は高度かつ複雑な技術の集積であり、また原材料の外部調達もあることなどから品質保証の管理は複雑化しております。当社グループの製品やサービスに予期せぬ品質問題が発生した場合は当社グループの業績と財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。
(第三者認証等における不適切行為について)
当社および持分法適用関連会社である東洋スチレン株式会社が製造・販売する樹脂製品の一部において、米国の第三者安全科学機関であるUnderwriters Laboratories Limited Liability Company等の認証に関する不適切な行為が判明し、2023年5月29日に公表するとともに、当社グループと利害関係を有しない社外有識者による外部調査委員会を設置し、本件不適切行為に関する徹底的な調査と原因究明、再発防止策の提言を委嘱いたしました。
そして、2023年12月11日に同委員会から、調査報告書を受領しました。調査報告書では、不適切事案の申告に対する心理的安全性確保のための体制不足など、少なくない組織課題をご指摘いただきました。調査報告書の指摘を真摯に受け止め、コンプライアンス最優先の経営姿勢を当社グループ全体に浸透させるべく、抜本的な対応策を全力で進めております。
外部調査委員会の調査報告書および当社グループにおける対応策の詳細につきましては、当社HP「当社および持分法適用関連会社の樹脂製品における第三者認証等の不適切行為に関する外部調査委員会による調査報告書ならびに当社グループの対応策の公表について」
(https://www.denka.co.jp/storage/news/pdf/1185/20231211_denka_report_measures.pdf)にて公表しております。
(3)事故・自然災害
当社グループは、安全最優先をすべての事業活動の基盤と位置付けております。2023年の配管破裂事故を教訓に、その再発防止対策であるリスクアセスメントの質的向上、工事安全管理、安全保安教育、安全監査など、すべての現場で災害を起こさないための総合的な対策を進めております。しかしながら、重大な産業事故や、地震、気候変動による急性の豪雨および大型台風などの自然災害が発生した場合、従業員や第三者への人的、物的な損害、生産設備の損壊や生産停止等が生じるリスクがあり、当社グループの業績と財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。
(当社青海工場 配管破裂事故について)
2023年6月14日に当社青海工場(新潟県糸魚川市)内にて製造設備のメンテナンス工事作業中に配管が破裂する事故が発生しました。本事故により、工事に携わっていた協力会社の1名の方が亡くなられ、2名の方が負傷されました。
当社は事故発生以降、関係当局による事故原因の調査に全面的に協力するとともに、当社においても専門的な調査により徹底した事故原因の究明および再発防止策の策定を行うため、2023年7月11日に社外の有識者および専門家を中心に構成される事故調査委員会を設置しました。
そして、2024年1月11日に、同委員会から最終報告書を受領しました。同委員会からの提言を重く受け止め、再発防止対策の確実な実行と安全文化の醸成に、鋭意取り組んでおります。
事故調査委員会の最終報告書および再発防止策等の詳細につきましては、当社HP「青海工場クロロプレンモノマー製造設備事故調査最終報告書」
(https://www.denka.co.jp/storage/news/pdf/1193/20240111_denka_omi_finalreport.pdf)にて公表しております。
(4)環境
当社グループは、環境に関する各種法律、規制を遵守するとともに、パリ協定および日本政府が掲げる目標を念頭に、2050年のカーボンニュートラル達成に向けた温室効果ガスの排出量削減に関する中長期目標を定め、自家水力発電所建設などを通じたクリーンエネルギーの利用拡大、温室効果ガスを回収・固定化・有効利用する革新技術の開発、製品のライフサイクルを通じた地球温暖化ガスの排出削減、グループ各工場の環境負荷物質排出削減など、環境負荷の低減に取り組んでおります。しかしながら、環境に関する規制の強化やカーボンプライシング(炭素税・排出権取引)が発動された場合、事業活動の制限や対応費用の負担等が発生し、当社グループの業績と財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。
(5)海外事業展開
当社グループは、アジア、米国、欧州等の国および地域に進出し、現地生産や販売をおこなうなど、海外展開を推進しております。海外での事業活動には予期できない法律や制度の変更、労使や人材確保の問題、テロや戦争などによる社会的混乱等のリスクが内在しており、これらのリスクが発生した場合、当社グループの業績と財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。
(6)財務
当社グループは、将来の安定的な成長を持続するため、良好な財務バランスを維持することが重要と考えており、資金需要に見合った資金調達をおこなうことを基本的な方針としております。資金の流動性については、適正な水準の現預金を保持した上で、不測の事態に対応するため、取引金融機関と貸出コミットメント契約を締結することで流動性を確保しております。また、長期借入金の金利を固定化する等、金利変動リスクの低減を図っております。しかしながら、金融環境が急激に悪化した場合、資金調達リスクや金利の上昇等が発生し、当社グループの業績と財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。
(7)固定資産の減損
当社グループは、固定資産の減損に係る会計基準を適用しております。当社グループが保有する固定資産について、事業環境の著しい悪化による収益性の低下等があった場合には、減損損失が発生し、当社グループの業績と財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。
(8)訴訟等
当社グループは、倫理規定をはじめ各種社内規定に基づき、国内外の法令遵守はもちろんのこと、当社グループの社会における信頼を維持・確保することに努めておりますが、広範な事業活動を行う中で訴訟やその他の法律的手続きの対象となり、重要な訴訟等の提起を受けた場合には、当社グループの業績と財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。
なお、訴訟等については「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (2) その他 ② 訴訟」をご参照下さい。
(9)新型コロナウイルス等の感染症
当社グループは、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、顧客、従業員、関係先等の安全・安心を第一に考え、国内外の事業所において各国の状況にあわせた感染防止対策をおこなっております。
今後、新型コロナウイルスやその他の感染症の流行が発生した場合には、ロックダウンなどによる活動の制限、サプライチェーンの停滞、世界経済の悪化などにより、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(10)ロシア・ウクライナ情勢
当社グループはESG基本方針に則り、人権の尊重やサステナビリティの観点から、ロシア・ウクライナ情勢に対する国際社会の動きや日本政府の方針を尊重するとともに、日本政府を含むステークホルダーと建設的な対話に努め、適切に対応してまいります。
今後、現下の情勢が長期化した場合には、一部原料の調達難に伴う操業への影響、およびナフサ・天然ガス・石炭など原燃料価格の継続的な高騰などにより、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
その他、国内外の経済・政治情勢、技術革新、株式相場の変動、繰延税金資産の取崩し等が、当社グループの業績と財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の概要は次のとおりであります。
当期のわが国経済は、物価上昇の影響を受け個人消費が伸び悩んだほか、設備投資も力強さを欠くなど、景気は緩やかな回復にとどまりました。世界経済は、中国で景気の減速感が強まったほか、欧米でも物価高や金融引き締めが進み、これらを背景に先行きに対する不透明感が高まりました。
このような状況下、当社グループは、本年度より新経営計画「Mission 2030」をスタートいたしました。新たに制定したビジョンを拠り所に「事業価値創造」、「人財価値創造」、「経営価値創造」の3つを成長戦略として、2030年度をゴールに財務・非財務の双方に重点をおいた取り組みを実行して企業価値向上につなげていくものです。成長戦略の中核をなす「事業価値創造」では、当社の持つ卓越した技術に裏付けられた「スペシャリティ」に、社会の要請である「メガトレンド」、そして事業運営の必須要件である「サステナビリティ」を加えた3要素を併せ持つ事業を「3つ星事業」と定義し、当社グループのポートフォリオを集中いたします。また、社員一人ひとりが共感力を発揮し、自己実現と成長を実感できる企業を目指すとともに、ESG経営の観点からコーポレートガバナンスの高度化などを通じた経営基盤の更なる強化に取り組むことで、人財価値と経営価値を高めてまいります。
当期の業績は、売上高は、前年度に実施した価格改定の効果や円安による手取り増がありましたが、電子・先端製品やクロロプレンゴムなど主力製品の販売数量が減少し、3,892億63百万円と前年同期に比べ182億95百万円(4.5%)の減収となりました。収益面では、営業利益は、主力製品の販売数量減少やスペシャリティ化進展のためのコストの増加があり、133億76百万円(前年同期比189億47百万円減、58.6%減益)となり、経常利益は54億74百万円(前年同期比225億50百万円減、80.5%減益)となりました。親会社株主に帰属する当期純利益は、事業整理損を特別損失として計上する一方、政策保有株式の縮減を進め投資有価証券売却益を特別利益に計上し、119億47百万円(前年同期比8億21百万円減、6.4%減益)となりました。
<電子・先端プロダクツ部門>
高純度導電性カーボンブラックは、xEV向けは当期の前半は好調に推移しましたが、後半に入り需要鈍化の影響を受け、高圧ケーブル向けは欧州での敷設工事遅延による一時的な減少があり減収となりました。球状アルミナは、xEV向けは需要が回復傾向にあるものの、民生向けは需要低調が続き減収となりました。このほか、電子部品・半導体関連分野向け高機能フィルムや球状溶融シリカフィラーはパソコン、スマートフォンなど民生向けの需要減により減収となり、自動車産業用向けの金属アルミ基板“ヒットプレート”の販売も前年を下回りました。
この結果、当部門の売上高は878億39百万円(前年同期比57億1百万円(6.1%)減収)となり、営業利益は90億22百万円と前年同期に比べ89億53百万円(49.8%)の減益となりました。
<ライフイノベーション部門>
POCT検査試薬は、新型コロナウイルス抗原迅速診断キットは前年を下回りましたが、インフルエンザの流行により新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスの同時診断キットが増加し、増収となりました。このほか、その他の検査試薬の販売は前年並みとなり、インフルエンザワクチンの出荷は前年並みにとどまりました。
この結果、当部門の売上高は470億78百万円(前年同期比4億47百万円(0.9%)減収)となり、営業利益は117億33百万円と前年同期に比べ26億45百万円(18.4%)の減益となりました。
<エラストマー・インフラソリューション部門>
クロロプレンゴムは、価格面では昨年度に実施した段階的な価格改定の寄与や円安による手取り増がありましたが、販売数量は、全般的な需要減や能登半島地震による一時的な操業停止の影響を受けて減少し、減収となりました。このほか、特殊混和材などの販売は概ね前年並みとなりましたが、肥料の販売は前年を下回りました。
この結果、当部門の売上高は1,113億54百万円(前年同期比124億72百万円(10.1%)減収)となり、92億95百万円の営業損失(前年同期は営業損失11億円)となりました。
<ポリマーソリューション部門>
デンカシンガポール社のMS樹脂は、販売数量が前年を上回り増収となりました。一方、スチレンモノマーは原材料価格の下落に応じた販売価格の見直しを行ったことから減収となり、透明樹脂は中国経済減速の影響を受け販売数量が減少しました。このほか、食品包材用シートおよびその加工品や、合繊かつら用原糸“トヨカロン”の販売も低調に推移しました。
この結果、当部門の売上高は1,242億40百万円(前年同期比33億29百万円(2.6%)減収)となり、1億2百万円の営業損失(前年同期は営業損失12億28百万円)となりました。
<その他部門>
YKアクロス株式会社等の商社は、取扱高が概ね前年並みとなりました。
この結果、当部門の売上高は187億50百万円(前年同期比36億56百万円(24.2%)増収)となり、営業利益は18億96百万円と前年同期に比べ6億15百万円(24.5%)の減益となりました。
当連結会計年度末の総資産は、前連結会計年度末に比べ240億85百万円増加の6,162億44百万円となりました。
流動資産は、現金及び預金の増加などにより前連結会計年度末に比べ136億54百万円増加の2,654億47百万円となりました。固定資産は有形固定資産の増加などにより、前連結会計年度末に比べ104億30百万円増加の3,507億96百万円となりました。
負債は、仕入債務の増加などにより、前連結会計年度末に比べ75億22百万円増加の2,993億29百万円となりまし
た。
非支配株主持分を含めた純資産は前連結会計年度末に比べ165億63百万円増加の3,169億15百万円となりました。
以上の結果、自己資本比率は前連結会計年度末の50.1%から49.9%となり、1株当たり純資産は3,438円28銭から3,568円69銭となりました。
当連結会計年度末における現金及び現金同等物は、353億86百万円となり、前連結会計年度末と比べ151億86百万円の増加となりました。なお、当連結会計年度におけるキャッシュ・フローの状況は以下のとおりです。
営業活動によるキャッシュ・フローは、運転資金の減少などにより、362億60百万円の収入となりました。
投資活動によるキャッシュ・フローは、設備投資の支払いなどが増加した一方で、政策保有株式の売却を進めたことにより、225億72百万円の支出となりました。
財務活動によるキャッシュ・フローは、連結子会社設立に伴う非支配株主からの払込みによる収入などにより、7億12百万円の収入となりました。
なお、キャッシュ・フロー指標のトレンドは以下のとおりです。
自己資本比率………………………………自己資本/総資産
時価ベースの自己資本比率………………株式時価総額/総資産
債務償還年数………………………………有利子負債/営業キャッシュ・フロー
インタレスト・カバレッジ・レシオ……営業キャッシュ・フロー/利息支払額
(注) 1.いずれの指標も連結ベースの財務数値により算出しております。
2.株式時価総額は、期末株価終値×期末発行済株式数(自己株式控除後)により算出しております。
3.有利子負債は、連結貸借対照表に計上されている負債のうち利子を支払っている全ての負債を対象としております。
当社グループの生産・販売品目は広範囲かつ多種多様であり、同種の製品であっても、その容量、構造、形式等は必ずしも一様ではなく、また受注生産形態をとらない製品がほとんどであるため、セグメントごとに生産規模および受注規模を金額あるいは数量で示すことは行っておりません。
このため「生産、受注及び販売の実績」については、「①財政状態及び経営成績の状況」におけるセグメントの経営成績に関連付けて記載しております。
文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
当期のわが国経済は、物価上昇の影響を受け個人消費が伸び悩んだほか、設備投資も力強さを欠くなど、景気は緩やかな回復にとどまりました。世界経済は、中国で景気の減速感が強まったほか、欧米でも物価高や金融引き締めが進み、これらを背景に先行きに対する不透明感が高まりました。
このような状況下、当社グループは、本年度より新経営計画「Mission 2030」をスタートいたしました。新たに制定したビジョンを拠り所に「事業価値創造」、「人財価値創造」、「経営価値創造」の3つを成長戦略として、2030年度をゴールに財務・非財務の双方に重点をおいた取り組みを実行して企業価値向上につなげていくものです。成長戦略の中核をなす「事業価値創造」では、当社の持つ卓越した技術に裏付けられた「スペシャリティ」に、社会の要請である「メガトレンド」、そして事業運営の必須要件である「サステナビリティ」を加えた3要素を併せ持つ事業を「3つ星事業」と定義し、当社グループのポートフォリオを集中いたします。また、社員一人ひとりが共感力を発揮し、自己実現と成長を実感できる企業を目指すとともに、ESG経営の観点からコーポレートガバナンスの高度化などを通じた経営基盤の更なる強化に取り組むことで、人財価値と経営価値を高めてまいります。
この結果、当期の業績は、売上高は、前年度に実施した価格改定の効果や円安による手取り増がありましたが、電子・先端製品やクロロプレンゴムなど主力製品の販売数量が減少し、売上高は減収となりました。収益面では、主力製品の販売数量減少やスペシャリティ化進展のためのコストの増加などにより、営業利益および経常利益は、それぞれ大きく減益となりました。親会社株主に帰属する当期純利益は、事業整理損を特別損失として計上する一方、政策保有株式の縮減を進め投資有価証券売却益を特別利益に計上したため、前年度から若干の減益となりました。
セグメントごとの財政状態及び経営成績の状況に関する認識および分析・検討内容は、以下のとおりであります。
電子・先端プロダクツ部門は、高純度導電性カーボンブラックでは高圧ケーブル向けが欧州での敷設工事遅延による一時的な減少があり、球状アルミナや電子部品・半導体関連分野向け高機能フィルム、球状溶融シリカフィラーは民生向けの需要が減少しました。コスト面では増産体制構築や販売体制強化による費用が増加したことなどから、前年から大きく減益となりました。
ライフイノベーション部門は、POCT検査試薬は、新型コロナウイルス抗原迅速診断キットは前年を下回りましたが、インフルエンザの流行により新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスの同時診断キットが増加しました。また、インフルエンザワクチンの出荷は前年並みにとどまりました。コスト面ではインフルエンザワクチンの原料価格高騰や研究費の増加等により、前年から減益となりました。
エラストマー・インフラソリューション部門は、クロロプレンゴムは、全般的な需要減や能登半島地震による一時的な操業停止の影響を受けて減少し、減収となりました。加えて米国子会社における修繕費や労務費等の増加などにより、前年から営業損失が拡大しました。
ポリマーソリューション部門は、デンカシンガポール社のMS樹脂は、販売数量が前年を上回ったものの、透明樹脂は中国経済減速の影響を受け販売数量が減少しました。一方、スチレンモノマーが非定修年であったことによりコストが減少し、前年から営業損失が縮小しました。
当社グループの当連結会計年度におけるキャッシュ・フローは、経営計画「Mission2030」にもとづき設備投資の支払いが増加した一方で、営業活動によるキャッシュ・フローが362億60百万円の収入となり、また政策保有株式の売却を進めた結果、当連結会計年度末のネット有利子負債残高は前連結会計年度末比で105億48百万円減少し、1,389億82百万円となりました。なお、自己資本比率は49.9%、ネットD/Eレシオは0.45倍となり、引き続き良好な財政状態を維持しているものと判断しております。
資本の財源及び資金の流動性については、当社グループでは将来の安定的な成長を持続するため、良好な財務バランスを維持することが重要と考えており、資金需要に見合った資金調達を行うことを基本的な方針としております。
当社グループの資金需要のうち主なものは、運転資金、設備投資資金等であり、必要資金の調達については、自己資金を主とし、運転資金の一部を短期借入金やコマーシャル・ペーパーによって、設備資金等の長期資金の一部を長期借入金や社債によって外部調達しております。
資金の流動性については、適正な水準の現預金を保持した上で、不測の事態に対応するため、取引金融機関と貸出コミットメント契約を締結することで流動性を確保しております。
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に準拠して作成されております。連結財務諸表の作成にあたっては、重要な会計方針と合理的と考えられる見積りに基づき、収益、費用、資産、負債の計上について判断しております。
当社グループの連結財務諸表の作成においては、例えば一般債権に対する貸倒引当金の引当については主として過去の貸倒実績率を、繰延税金資産の計上については将来の税務計画を、退職給付債務については、昇給率、割引率などを使用して見積っておりますが、見積りにつきましては不確実性があるため、実際の結果と異なる場合があります。
連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、主なものは以下のとおりであります。
(a) 固定資産(のれんを含む)
当社グループは、固定資産のうち減損の兆候がある資産または資産グループについて、当該資産または資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローを見積り、その総額が帳簿価額を下回る場合には、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、減損損失として計上しております。また、年次の減損テストが必要な場合、のれんを含む資産グループの公正価値を算定し、その帳簿価額が公正価値を超過する場合には、公正価値まで減額を行います。将来キャッシュ・フローの見積りにあたっては、事業計画をもとに最新の事業環境に関する情報等を反映しているほか、必要に応じて外部専門家による評価を活用しております。
減損損失の認識及び測定に当たっては、慎重に検討をおこなっておりますが、将来の予測不能な事業環境の著しい悪化等により見直しが必要となった場合、減損損失が発生する可能性があります。
(b) 繰延税金資産の回収可能性
繰延税金資産の回収可能性は、収益力もしくはタックス・プランニングに基づく将来の課税所得の十分性により判断しており、課税所得の算定にあたっては、各納税主体の事業計画をもとに最新の事業環境に関する情報等を反映し見積っております。
当該見積り及び当該仮定について、将来の予測不能な経営環境の著しい悪化等により見直しが必要となった場合、評価性引当額が変動し損益に影響を及ぼす可能性があります。
(c) 退職給付債務の算定
当社グループでは、簡便法を採用している連結子会社を除き、確定給付制度の退職給付債務および関連する勤務費用について、数理計算上の仮定を用いて算定しております。数理計算上の仮定には、割引率、昇給率、期待運用収益率等の計算基礎があり、これらの計算基礎については、例えば期待運用収益率であれば前提となる企業年金の運用方針などを、定期的かつ合理的な見直しをおこなっております。
当該見積り及び当該仮定について、将来の不確実な経済条件の変動等により見直しが必要となった場合、退職給付債務および関連する勤務費用が変動する可能性があります。
技術援助契約の概要
当社グループは、「一番上手にできる技術」の幅を広げ、持続可能な社会に貢献できるデンカならではの製品開発を推進し、新たな価値を生み出す魅力的な新規事業・製品の創出を加速していきます。そのために、複数の異種技術を融合し、組織の境界、領域を超えたデンカグループ全体のシナジー効果を発揮すべく、グループの総合力を活かす研究開発を推進しております。
デンカイノベーションセンターを中核拠点として、多くの国内外産学官とのオープンイノベーションを推進しております。物質材料研究機構(NIMS)とのNIMS-Denka次世代材料研究センター、山形大学および新潟大学との包括共同研究を展開する等、引き続き積極的な外部連携強化を推進致します。
これらの研究開発、製品化をさらに加速するため、新事業開発部門を再編、コーポレート研究部門・デンカイノベーションセンター・既存事業部門の研究開発体制を強化して、新事業創出の強化と既存事業の更なる発展、研究の責任・運営体制を明確化して、市場の動向を直視し、次世代の市場ニーズに確実かつ迅速に対応することで、早期の実需化につなげたいと考えております。
また、ESG(環境・社会・統治)の視点を常に意識し、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)を羅針盤として研究開発に注力致します。
当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は
(1)電子・先端プロダクツ
電子部材分野では、市場が拡大するパワーモジュール、車両電動化向けなど電子回路基板や放熱材料の多様なニーズに対応したソリューションを提案すべく、当社固有のセラミックスの開発技術や有機・無機材料の複合化技術の進化による高機能材料や新規部材の研究開発を、産学官との連携も行いながら推進しております。
高機能粘接着分野では、ハードロックSGA(高機能構造用接着剤)の新グレード、新規用途開発を推進するとともに、ハードロックOP/UVでは紫外線硬化技術を応用した特殊高機能接着剤の新製品開発の他、有機EL製造プロセス、半導体製造プロセスへの適用などの新規市場開拓にも取り組んでおります。
高機能フィルム分野では、当社保有の樹脂素材技術、有機・無機複合材料設計技術に加え、シートやフィルムの先端加工技術を活かし、電子部品半導体搬送テープ、半導体ウェハやパッケージの保護・仮固定用粘着テープや5Gの伝送損失低減フィルムなど、最先端ニーズを先取りした新規製品を供給すべく開発を進めております。
先端機能材料分野では、半導体封止材向け球状シリカ、放熱材料向け球状アルミナ等、フィラーの高性能化を進めるとともに、5Gに対応する低誘電正接材料(シリカ等)など、先進的な各種機能材料の開発を積極的に推進しております。新規開発品として、回路基板などに用いられる低誘電有機絶縁材料(LDM、商品名スネクトン)の量産設備の投資を行う予定です。
機能性セラミックス分野では液晶ディスプレイ・照明に用いるLED向けサイアロン蛍光体や放熱材料として用いられる各種窒化物等の特性向上にも取り組んでおります。
特殊導電材料分野では、車両電動化に必要不可欠なリチウムイオン二次電池市場での事業を更に拡大すべく超高純度かつ高機能なカーボンブラックの新製品開発と事業化に取り組んでおります。
当セグメントに係わる研究開発費は
(2)ライフイノベーション
ヘルスケア分野では、デンカイノベーションセンター(東京都町田市)、五泉事業所(新潟県五泉市)、Denka Life Innovation Research (シンガポール)、Icon Genetics(ドイツ)の4拠点体制で、(ポテンシャル)ニーズ優先の研究開発に取り組んでおります。グローバルな視点で最先端の技術を積極的に導入しつつ、スペシャリティー事業の成長加速化を進めるため、予防・早期診断の取り組みに加え、がん領域・遺伝子領域など新規事業展開のための研究開発を推進しております。
当社最重点事業であるがん治療用ウイルスG47Δ事業については、生産技術の深耕ならびに更なる品質の向上に継続的に取り組むとともに、東大医科研内に設置された寄付研究部門との連携により、先端的大規模製造法等の研究開発も推進しております。G47Δを用いたがんウイルス療法は、従来のがん治療法とは全く異なる新規治療法であり、がん治療の体系を根本から変革する可能性のあるものです。当社は、G47Δ製剤の製造を通じ、この治療法の普及に取り組んで行きます。遺伝子領域においては、戦略的パートナーであるPlexBio社(台湾)の保有する迅速かつ簡便に同時多項目の細菌同定を可能とする測定技術IntelliPlex™を活用し、感染症領域での遺伝子検査システムの開発を推進しており、敗血症の検査薬は早期上市を目標に取り組んでおります。
また、22年度からの新たな取り組みとして、国立大学法人東北大学との共同研究成果をもとに国内外の医療技術発展への貢献を目指す「Medical Rising STAR」プロジェクトを始動しており、プロジェクト第1弾として内視鏡的止血術のシミュレータモデルの試験販売を23年8月に開始しました。続いて、プロジェクトの第2弾として胆膵内視鏡シミュレータモデルの開発を行い、24年2月にプレスリリースを実施、24年夏には試験販売を始める予定です。
既存技術周辺においても、当社グループの開発リソースを集結させ、高品質ワクチンの開発、および感染症検査試薬や健康管理に欠かせない臨床生化学検査試薬や免疫検査試薬の新技術・新製品開発を推進しております。感染症分野では、すでに上市している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、ならびにCOVID-19・インフルエンザ同時診断用抗原定性キットをはじめ、その他の項目も含めての弊社製品ユーザーの利便性を追求した自動読み取りリーダーの上市を致しました。また、新たな感染症に挑むべく産学連携の元での開発活動も引き続き推進しており、Mission2030に向けた製品開発活動を活発化させています。
当セグメントに係わる研究開発費は
(3) エラストマー・インフラソリューション
クロロプレンゴム、ERゴムなどのエラストマー分野においては、海外市場を含めた事業拡大のために、スペシャリティー製品の開発および生産技術の強化を進めております。クロロプレンゴムは世界トップシェア維持を確実なものとすべく、独自の技術で差別化した新規グレードを開発してラテックス事業の拡大を推進するとともに、米国デンカパフォーマンスエラストマー(DPE)社との、研究開発、生産技術を含む総合的なシナジー効果による一体運営の強化を図っています。また、エラストマー加工技術を保有するデンカエラストリューション社との連携も強化しております。
特殊混和材分野では、従来からの鉄道や道路などのトンネル建設向けコンクリート混和材に加え、コンクリート製品の製造時に二酸化炭素を吸収・固定化できる環境対応技術、3Dプリンティングやコンクリート二次製品の生産性向上、工事現場施工時の仕上げ時間短縮といった省力化に繋がる技術、老朽箇所修繕、構造物の長寿命化に貢献する技術といった、次世代型技術・製品の開発と事業化に注力しております。また社会資本の維持補修に関する調査・診断ソリューションの研究開発として、3Dデジタル計測技術を活用した文化財等を含む建築構造物の設計・維持管理への応用展開に取り組んでおります。
無機製品分野では、無機材料設計の基盤技術を応用し、結晶質アルミナ短繊維と多孔質セラミック材料を複合した耐火炉用高断熱ボードを開発し、事業化を進めております。
アグリプロダクツ分野では国内のみならず海外市場に向けた次世代農業資材として、従来の肥料開発で蓄積した製品技術と遺伝子発現解析技術を基盤とした高機能性バイオスティミュラント製品の開発を推進しております。
当セグメントに係わる研究開発費は
(4)ポリマーソリューション
透明樹脂、耐熱樹脂、シュリンクラベル用樹脂など、特長あるスチレン系機能性樹脂の分野では、市場トレンドにマッチした新規用途展開並びに新規な高機能性樹脂の開発、そして更なる品質向上や生産技術の深耕をシンガポール子会社と一体となり推進しております。
さらに、新しい重合技術やポリマーアロイ技術を駆使した新規高分子材料の開発にチャレンジし、新規機能性樹脂の開発に取り組んでおります。
機能樹脂分野においては、ABS樹脂の耐熱性付与剤であるデンカIP®に関して、当社が長年にわたって高分子樹脂設計で培ってきたスチレン系の精密・重合技術をより深化させ、塗装性等の特性に優れるグレード デンカIPXシリーズの市場開発を進めております。光学用途では、液晶テレビの高輝度化・高精細化に対応した導光板用透明樹脂の市場展開を推進中です。更に今後の市場トレンドにマッチした開発、および環境対応にフォーカスした各種開発も進めております。
化成品分野においては、PVA樹脂の水溶性、生分解性などの特長を活かした開発を推進しております。
樹脂加工製品分野においては、市場のトレンドにマッチしたウィッグ・ヘアピース用合成繊維、食品包装用の耐熱耐油性透明シート、電子レンジ対応容器等に用いる耐熱性透明シート、産業用高機能フィルムなどの製品群の開発を引き続き推進しております。
食品包装材料分野においては、バイオマス材料の活用等による各種環境対応新規製品、フードロス低減に対応した製品を開発し市場展開を進めております。産業用高機能フィルム分野に関しても環境負荷低減ニーズに対応した製品の開発を進めております。ウィッグ・ヘアピース用合成繊維分野に関しては、市場ニーズにマッチした製品を開発し市場展開を進めております。
当セグメントに係わる研究開発費は
(5) その他事業
産業設備の設計・施工等を行なっているデンカエンジニアリング㈱では効率的な粉体の空気輸送設備の技術開発や廃水設備等の研究開発をおこなっている他、各事業所に設置している生産技術部を中心に、デジタル技術を活用した生産性向上について検討する等、研究段階から事業化を見据えたプロセス設計、開発の充実を図っております。
その他事業に係わる研究開発費は