第2 【事業の状況】

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

(1)経営の基本方針(グループ理念)

 私たちは「究極の安全」を第一に行動し、グループ一体でお客さまの信頼に応えます。

 技術と情報を中心にネットワークの力を高め、すべての人の心豊かな生活を実現します。

 

(2)今後の経営環境の変化

 マイナス金利政策の転換などに象徴されるようにポストコロナの経済が本格始動します。人口減少や少子高齢化、人手不足、人材の流動化などは、想定を超えるスピードで進展しています。さらには、社会の価値観や人々のライフスタイルが大きく変容しました。生成AIの登場など技術革新は日を追って加速し、脱炭素社会に向けた取組みは地球規模の課題になっています。

 加えて、当社グループは、会社発足から37年が経過し、鉄道のシステムチェンジや社員の急速な世代交代など、様々な変革課題に直面しています。

 

(3)中期的な会社の経営戦略

 グループ経営ビジョン「変革 2027」において、将来の環境変化を先取りした経営を進めてきました。世の中の大きな変容を、これまで事業全般にわたって取り組んできた構造改革をさらに加速させる好機と捉え、新たな成長戦略を描きこれを果敢に推進することで、「変革 2027」を加速していきます。

 「究極の安全」を経営のトッププライオリティとして堅持し、お客さまに安全・安心なサービスを提供していきます。

 「ヒト起点」の発想で輸送サービス、生活サービス、IT・Suicaサービスの融合と連携による新たな価値創造に取り組み、鉄道を中心としたモビリティと、お客さまと地域の皆さまとの幅広い接点を持つ生活ソリューションの二軸で経営を支えます。成長余力の大きい事業に経営資源を積極的に振り向けてビジネスポートフォリオを変革し、いかなる経営環境の変化にあっても、サステナブルに成長を続けることができる強靭な経営体質を構築してまいります。

 より良い世の中を創るための事業活動を通じて利益成長をし、創出された利益を、お客さまや地域の皆さま、株主や投資家の皆さま、そして社員や家族の幸福の実現に還元するとともに、グループの成長にも振り分け、こうした成長と創造のサイクルを回していくことによりサステナブルに発展する、「四方良し」の志の高い企業グループをめざします。

 

(4)目標とする経営数値

 グループ経営ビジョン「変革 2027」において、第39期(2025年度)をターゲットとした数値目標を設定しておりましたが、コロナ禍で急激に変化した経営環境のその後の推移等を踏まえ、2023年4月に第41期(2027年度)を新たなターゲットとした数値目標を以下のとおり設定しました。今後も目標達成に向けてグループ一体となって取り組んでまいります。

 

 

 

 

第41期(2027年度)

数値目標

第37期(2023年度)

1月計画

第37期(2023年度)

実績

第37期(2023年度)

計画対比

連結営業収益

3兆2,760億円

2兆7,120億円

2兆7,301億円

100.7%

 

モビリティ

運輸事業

2兆190億円

1兆8,490億円

1兆8,536億円

100.2%

 

生活

ソリューション

流通・

サービス事業

6,540億円

3,750億円

3,796億円

101.2%

 

不動産・

ホテル事業

5,070億円

3,970億円

4,058億円

102.2%

 

その他

960億円

910億円

910億円

100.1%

連結営業利益

4,100億円

3,100億円

3,451億円

111.3%

 

モビリティ

運輸事業

1,780億円

1,300億円

1,707億円

131.3%

 

生活

ソリューション

流通・

サービス事業

800億円

600億円

540億円

90.1%

 

不動産・

ホテル事業

1,240億円

1,000億円

1,001億円

100.2%

 

その他

300億円

220億円

219億円

99.6%

 

調整額

△20億円

△20億円

△16億円

連結営業キャッシュ・フロー

(5年間の総額 ※1)

3兆8,000億円

6,881億円

(進捗率)

18.1%

連結ROA

4.0%程度

3.6%

(※2)

ネット有利子負債/EBITDA

中期的に5倍程度

長期的に3.5倍程度

6.2倍

※1 第37期(2023年度)から第41期(2027年度)までの総額を記載

※2 ネット有利子負債=連結有利子負債残高-連結現金及び現金同等物残高

EBITDA=連結営業利益+連結減価償却費

 

(5)対処すべき課題

 「変革 2027」の実現に向けて、「安全」を経営のトッププライオリティと位置づけ、「収益力向上(成長・イノベーション戦略の再構築)」、「経営体質の抜本的強化(構造改革)」、「成長の基盤となる戦略の推進」および「ESG経営の実践」に引き続きグループを挙げて取り組んでまいります。

 

○ 「安全」がトッププライオリティ

 当社グループを挙げて安全のレベルアップに取り組み、すべての基盤であるお客さまや地域の皆さまからの「信頼」を引き続き高めます。これまで、当社グループが一丸となり、安全レベルを高めるための取組みを推進し、社員一人ひとりが「安全について考え、議論し、行動していく」安全文化を醸成してきました。昨今、当社グループを取り巻く環境は、人口減少、自然災害の激甚化・頻発化など、激しく変化しています。これらの変化に対応するために、「これまでは想定外であったリスク」を本質の理解により想像し、安全を先取る取組みを進めていく、「グループ安全計画2028」を2023年11月に策定しました。これにより、「お客さまの死傷事故ゼロ、社員の死亡事故ゼロ」の実現をめざします。また、異常時におけるお客さまへの影響拡大防止など、サービス品質の改革に向けた取組みも推進していきます。

 

○ 収益力向上(成長・イノベーション戦略の再構築)

 世の中の大きな変容を、「変革 2027」で進めてきた構造改革をさらに加速させる好機と捉え、グループの持つポテンシャルを最大限に引き出します。「ヒト起点」の発想で商品やサービスをバリューアップし、さらなる飛躍をめざすことで、連結キャッシュ・フローの最大化に努めていきます。

 旅行気運の高まりや移動需要の増加を捉え、ライフスタイルの変化に対応した新しい商品・サービスを展開します。当社グループの強みである重層的でリアルなネットワークを活用し、お客さまの移動の目的地づくりや、DXによるお客さまとの接点強化などに取り組むことにより、新たな収益の柱を作ります。

 中央快速線グリーン車の導入に向けた工事や車両の新造を進めるとともに、2031年度の開業をめざして羽田空港アクセス線(仮称)の本格的な工事に着手しました。また、「はこビュン」の増売、海外プロモーションによるインバウンドの誘客、様々なエリアでのMaaS展開、「JRE MALL」の当社グループならではの品揃えの強化、「STATION WORK」ネットワークのさらなる拡大、「JRE BANK」によるデジタル金融サービスの展開など、「モビリティ」と「生活ソリューション」を融合したサービスの創造をさらに進めます。さらに、いよいよ2025年3月にまちびらきを迎える「TAKANAWA GATEWAY CITY」をはじめとした多様な魅力あるまちづくり、不動産事業における回転型ビジネスなど、攻めの戦略を加速していきます。

 

○ 経営体質の抜本的強化(構造改革)

 鉄道事業の将来にわたるサステナブルな運営に向けて、固定的なオペレーションコストの見直しを図り、柔軟なコスト構造をめざします。そのために、自動運転・スマートメンテナンスなど新技術の活用、現場第一線社員のアイディアを活かした技術開発などによる仕事の仕組みの見直しや、設備のスリム化を進めます。

 2023年3月に導入した「オフピーク定期券」サービスでは、さらに多くのお客さまにご利用いただくため、購入時のJRE POINT還元に加え、よりお求めやすい価格に改定を行います。

 また、2024年4月改正の収入原価算定要領に基づき収入・原価を精査しており、条件を満たせば、速やかに運賃改定の認可申請を行うとともに、認可対象の運賃・料金の見直しや、シンプルかつ柔軟な制度の実現に向けて、引き続き国に要望してまいります。さらに、地方ローカル線については、沿線自治体などと持続可能な交通体系の構築に向けた協議を進めます。

 急速なスピードで変化する経営環境に柔軟に対応し、一人ひとりの社員の働きがいの向上と生産性向上による経営体質の強化を図るため、組織改正を進めます。権限移譲および系統間や現業機関と企画部門の融合を進め、お客さまに近い場所でスピーディーに価値創造・課題解決に取り組むとともに、社員の活躍のフィールドを拡大していきます。

 

○ 成長の基盤となる戦略の推進

 これらの実現に向け、その基盤となる人材、DX・知的財産、財務・投資などの戦略を明確にし、グループ一体で取り組みます。

 人材戦略については、「多様性」「柔軟性」「成長」の観点から、人材・価値観の多様性を育むとともに、人物本位の柔軟な人事運用や重点・成長分野への人材の集中配置等を進め、働きがいと生産性のさらなる向上をめざすことで、経営戦略を加速する人的資本経営を推進します。

 DX・知的財産戦略については、各事業において戦略的な知的財産の取得・活用などを進めるとともに、オープンイノベーションをはじめとした社内外の技術・知見などを活用した技術開発、デジタルを使った業務改善や価値創造などDXの推進により、ビジネス創出と仕事の仕組みの変革を進めていきます。

 財務・投資戦略については、ビジネスごとに戦略やKPIを再定義し、中長期視点に基づく連結キャッシュ・フロー経営を追求するとともに、社員の発意・創意工夫を自ら実現できる仕組みのさらなる浸透を図ります。

 

○ 「ESG経営」の実践

 環境、社会、企業統治の観点から「ESG経営」を実践し、事業を通じて社会的な課題を解決することで、地域社会の持続的な発展に貢献するとともに、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた取組みを推進します。

 環境については、2020年度に公表した環境長期目標「ゼロカーボン・チャレンジ2050」において掲げる2050年度のCO₂排出量「実質ゼロ」の達成に向けた挑戦を続け、持続可能な社会の実現に向けた新たな価値を提供していきます。パリ協定に基づく温室効果ガスの排出削減目標であるSBTの認定取得をめざし、2025年8月までに削減目標を策定するとともに、グループ事業全体のサプライチェーンにおいて排出される温室効果ガス削減にも貢献していきます。また、2030年度の営業運転開始をめざし「HYBARI」で実証実験中の水素ハイブリッド電車の開発を進めます。

 地方創生については、地方中核駅を中心としたまちづくり、6次産業化による地域経済の活性化などに取り組みます。

 さらに、企業統治については、意思決定や業務執行のさらなる迅速化および取締役会の監督機能の強化などを目的に、2023年6月に監査等委員会設置会社へと移行しました。急速なスピードで変化する経営環境に柔軟に対応するとともに、コーポレート・ガバナンスを一層充実させ、さらなる企業価値の向上をめざします。

 

 これらの戦略を着実に推進することで経済価値を創造するとともに、事業を通じて社会が抱える様々な課題の解決に取り組みます。また、地域社会の発展に貢献することにより、お客さまや地域の皆さまからの「信頼」を高めていきます。その「信頼」を基盤に社員一人ひとりの力とネットワークの力を結びつけ、すべての人の笑顔あふれる心豊かな生活を実現し、世の中に価値を提供し続けるサステナブルなグループをめざします。

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組の状況は、次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

 (1) サステナビリティ全般

  ① 戦略

 当社グループはお客さまの日常生活と広く関わり合いを持ち、地域や社会に不可欠な事業を営んでいます。適正な利益を確保しつつ、中長期的な視点で必要な施策を実行していくESG経営を実践し、事業を通じて社会的課題の解決に取り組みます。そして、地域社会の持続的な発展とSDGsを達成し、お客さまや地域の皆さまからの信頼を高め、企業価値の向上、グループの持続的な成長をめざしています。

中長期にわたり当社グループの経営方針・戦略等に影響を与える可能性のあるマテリアリティ(重要課題)に関連するリスクと機会を以下のように捉え、各取組みを実施しています。

 

  ② マテリアリティおよびリスクと機会

   a 安全安心なインフラを社会のために

安全を経営のトッププライオリティとし、安全安心な社会インフラを提供します。

(リスクと機会)

・事故等の発生は経営に重大な影響を与える可能性のあるリスクです。

・安全はすべての事業の基盤となる「信頼」をもたらし、高めます。

 

   b 活力ある社会のために

すべての人を包摂する便利で快適な質の高いサービスを提供します。地域と協働して活気あるまちをつくります。

(リスクと機会)

・人口減少のリスクなどを踏まえ、地域と協働して関係人口拡大によるご利用増につなげます。

・多様で公平な社会・共生社会への理解促進とアクセシビリティの向上、利便性・非接触ニーズへの対応により、ご利用増と活気あるまちにつなげます。

 

   c 豊かな地球環境のために

気候変動による事業影響を念頭に、カーボンニュートラルの実現やエネルギーの安定確保を行います。また資源循環社会の実現をめざした取組みをリードします。

(リスクと機会)

・気候変動が鉄道運行や事業に与えるリスクを踏まえ、エネルギーの消費量削減と安定確保を行い、環境優位性を向上、選ばれるサービスであり続けます。

 

   d 新たな技術とサービスを社会のために(イノベーション)

すべての事業で新技術・DXへ積極的に取り組み、また既存ビジネスの枠組みを超えてチャレンジすることにより、新たなサービスの創出と早期社会実装を実現します。

(リスクと機会)

・災害や事故への対応力を向上するソリューションとなるほか、省力化・効率化を行います。

・あらゆる事業においてサービス・付加価値を向上するとともに、事業創出による収益確保と雇用維持につなげます。

 

   e すべてのグループ社員が生き生きと活躍するために(エンゲージメント)

グループ社員が多様性を活かし、やりがいをもって能力を発揮できる企業にします。

(リスクと機会)

・多様な価値観と柔軟な発想力を持った人材の確保につなげます。

・融合と連携による事業の抜本的変革、新たな発想によるイノベーション、仕事の高度化による生産性向上につなげます。

 

   f 経営の信頼を高めるために

新たなチャレンジを促進するための変化に強いガバナンス体制を構築するとともに、人権を尊重し、信頼される企業経営を行います。

 

(リスクと機会)

・社員一人ひとりが経営への参画意識を持ち、ボトムアップでヒトを起点とした新しい価値創造をする企業へと変革します。

・創造した付加価値を幅広いステークホルダーに分配し、企業価値向上につなげます。

・実効性のある経営体制を構築し、「信頼」を支え高める企業文化をつくります。

 

  ③ マテリアリティの特定プロセス

 2023年、ポストコロナにおいてモードチェンジし、将来にわたってサステナブルに成長する企業グループをめざすため、企業価値向上や事業基盤へのインパクトを改めて議論しました。そのうえで、パーパスやビジョンに向けて具体的にめざすことをバックキャストで検討し、グループ経営におけるマテリアリティを見直しました。マテリアリティの見直しにあたっては、サステナビリティ戦略委員会のもとに設置した「統合報告書検討部会」において議論を重ねたものに対して、ステークホルダーからの意見を踏まえ、経営層で十分な議論を行い、サステナビリティ戦略委員会で決定しました。

 

  ④ 推進体制

 サステナビリティ戦略を実行するためのマネジメント体制として、代表取締役社長を委員長とする「サステナビリティ戦略委員会」を設置し、持続可能な社会の実現をめざし、様々な社会的課題の解決に向けた当社グループの基本方針等を定め、その推進を図っています。

 

  ⑤ マテリアリティを構成するサブマテリアリティと目標

マテリアリティ

サブマテリアリティ

目標

安全安心なインフラを社会のために

 

安全安心な輸送・商品・サービスの提供

活力ある社会のために

地方創生

東日本エリアにおける関係人口の拡大

地域経済の活性化の推進

快適な都市

付加価値の高い多様なサービスのワンストップでの提供

シームレス・ストレスフリーな移動の実現

環境、防災、コミュニティに配慮した多様な魅力あるまちづくり

共生社会

ホスピタリティマインドのある社員の育成

障害当事者との対話を通じたサービス品質の改善

パラスポーツの体験・支援等を通した共生社会への理解促進

豊かな地球環境のために

カーボンニュートラル

ゼロカーボン・チャレンジ2050

多様なエネルギー活用

サーキュラーエコノミー

3Rの推進

ネイチャーポジティブ

生物多様性の保全

新たな技術とサービスを社会のために(イノベーション)

技術革新

外部技術の活用とDXを通じた絶えざる技術革新で事業運営のソリューションの提供とソーシャルイノベーションを実現

デジタル人材の育成、活躍

新領域

新サービスの提供、新しい暮らしの提案

すべてのグループ社員が生き生きと活躍するために(エンゲージメント)

DE&Iの推進

多様な人材の活躍

柔軟な働き方の実現

人材育成

イノベーションマインドの醸成と多様なキャリア形成

活躍フィールドの拡大

健康経営

社員の健康推進

労働安全

事故のない安全な職場

経営の信頼を高めるために

果敢なチャレンジを促進する内部統制

新たなチャレンジを支えるためのリスクマネジメント

安定的で適正な業務運営の確保

法令遵守と企業倫理に従った事業運営、情報セキュリティの確保

人権尊重

人権尊重の浸透

サステナブル調達

 

 

 (2) 気候変動

  ① ガバナンス

 マネジメント体制として、代表取締役社長を委員長とする「サステナビリティ戦略委員会」にて、主に気候変動に関する目標の設定や進捗、リスク・機会等に関する監督と意思決定を行っています。委員は副社長・常務取締役等で構成されており、社外取締役(監査等委員である取締役を除く。)および常勤の監査等委員である取締役も出席しております。同委員会は年2回開催しているほか、「ゼロカーボンワーキンググループ」および「水素ワーキンググループ」では、CO排出量削減状況や水素利活用について報告・討議を行っています。

 

  ② 戦略

 グループ経営ビジョン「変革 2027」において、ESG経営の実践を掲げ、地球温暖化防止・エネルギーの多様化を指針としています。これらを実現するため、気候変動が事業活動に及ぼす重要なリスク・機会を特定、評価し、事業戦略の妥当性を検証しています。本開示においては、自然災害に係る物理的リスクを重要なリスクと特定し、国から公表されているハザード情報等を用いた精緻な手法でシナリオ分析を実施しています。

 

  ③ リスク管理

 リスク管理の枠組みの中で、気候変動の影響を受けるリスクは各部門において把握し、具体的な回避・低減策を講じています。気候変動の緩和に関しては、半年に1回以上、各事業に係るエネルギー使用量、CO排出量、フロン漏洩量、財務状況などを取りまとめ、詳細な分析を実施するとともに、法令改正などの重要な外部環境の変化を踏まえて、リスクの洗い出し・特定・評価を行っています。気候変動への適応に関しては、急性・慢性の気象災害について、輸送サービス事業における物理的リスクの低減に向け、取組みを強化、推進しています。

 

  ④ 指標及び目標

 「ゼロカーボン・チャレンジ2050」を当社グループ全体の目標に掲げ、2030年度までにCO排出量50%削減(2013年度比)、2050年度はCO排出量「実質ゼロ」を目標に設定しています。これらの進捗状況を定期的に管理するとともに、脱炭素社会の実現に向けた貢献をより確かなものにするため、グループ全体で取組みを推進しています。目標の進捗およびスコープは以下のとおりです。なお、2023年度の実績値等につきましては、「JR東日本グループレポート 2024」に掲載いたします。

 また、本項で掲載している環境パフォーマンスデータは、その信頼性を担保するため、KPMGあずさサステナビリティ㈱による限定的保証を受けています。なお、保証対象となっている情報を明確にするため、保証対象とした情報については「☆」を付しています。

 

 2030年度までのCO排出量及び各原単位の削減目標

項目

基準値(基準年度)

2030年度目標値

2022年度実績値

総量

削減

JR東日本グループのCO排出量(万t-CO₂)

265(2013年度)

133(50%削減)

226☆(14.7%削減)

鉄道事業のCO排出量

(万t-CO₂)

215(2013年度)

108(50%削減)

184☆(14.4%削減)

原単位

削減

列車運転用電力量(新幹線)

(kWh/車両キロ)

2.31(2020年度)

2.09(9.6%削減)

2.42☆(4.4%増加)

列車運転用電力量(在来線)

(kWh/車両キロ)

1.47(2020年度)

1.33(9.6%削減)

1.49☆(1.2%増加)

支社等におけるエネルギー使用量

(kL/㎡)

0.0354(2020年度)

0.032(9.6%削減)

0.0359(1.4%増加)

 

項目

目標値

2022年度実績

原単位削減

グループ会社各社の

エネルギー使用量

毎年1%削減(5年間平均)

1.7%削減(5年間平均)

 

 

 

 JR東日本グループ全体のエネルギー使用量とCO排出量

0102010_001.png

 

 エネルギーフローマップ

 当社における、エネルギーのインプットから消費までの流れを示しています。自営の発電所と電力会社から供給された電力は、 電車の走行や駅・オフィスの照明・空調に使用しています。また、軽油や灯油等を気動車の走行や駅・オフィスの空調に使用しています。

0102010_002.png

 

 

 鉄道事業のCO排出量

0102010_003.png

 スコープ別のCO₂排出量

項目

スコープ1☆

スコープ2☆

スコープ3

2022年度排出量

(単体ベース)

141万t-CO₂

107万t-CO₂

373万t-CO₂

 

スコープ1:気動車の運転や自営火力発電所の稼働などに使用したすべての燃料の燃焼に伴い直接的に排出されるCO₂

スコープ2:電力会社から購入している電力などの使用に伴い間接的に排出されるCO₂

スコープ3:当社の事業活動に関連して他社から排出されるCO₂

※ スコープ1とスコープ2の合算値とCO₂総排出量が一致しないのは、スコープ1、2については、他社に供給した電力分も含めているためです。

※ スコープ3排出量の内訳は、カテゴリー1が91万t-CO₂☆(82万t-CO₂)、カテゴリー2が207万t-CO₂☆(194万t-CO₂)、カテゴリー3が47万t-CO₂(48万t-CO₂)、カテゴリー13が27万t-CO₂☆(29万t-CO₂)です。( )内は2021年度の数値です。

●算出基準について

各カテゴリーの算定基準については、以下のとおりです。

カテゴリー1:修繕関係、システム利用等に伴い購入した製品・サービスの購入金額(単体)×各種製品・サービスの排出原単位※1により算出

カテゴリー2:設備投資金額(単体)×鉄道輸送部門の資本財価格当たりの排出原単位※2により算出。なお、複数年にわたって建設・製造されているものは、当年度分のみ計上

カテゴリー3:購入した燃料、電力及び熱の使用量(単体)×エネルギー種別の使用量当たりの排出原単位※3により算出

カテゴリー13:JR東日本がオーナーとなる建物等の延床面積×建物用途別・単体面積当たりの排出原単位※2により算出

 

※1産業関連表による環境負荷原単位データブック(3EID)(2005年版)の原単位データ(2005年当時の消費税1.05を乗じた数値)を採用しています。

※2(2022年度):環境省「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース(Ver.3.3)(2023年3月)」(排出原単位DB V3.3)の原単位データを採用しています。なお、カテゴリー13の算定では、複合施設の建物に適用する原単位は、最も使用割合が大きい用途の原単位を代表値として採用しています。
(2021年度):環境省「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース(Ver.3.2)(2022年3月)」(排出原単位DB V3.2)の原単位データを採用しています。なお、カテゴリー13の算定では、飲食店の建物用途別・単位面積当たりの原単位データを一律で採用しています。

※3(2022年度):燃料は、IDEA(Inventory Database for Environmental Analysis)「データベース(サプライチェーン温室効果ガス排出量算定用)(v2.3)(2019年12月27日)」の原単位データを採用し、電力及び熱は排出原単位DB V3.3の原単位データを採用しています。
(2021年度):燃料は、IDEA(Inventory Database for Environmental Analysis)「データベース(サプライチェーン温室効果ガス排出量算定用)(v2.3)(2019年12月27日)」の原単位データを採用し、電力及び熱は排出原単位DB V3.2の原単位データを採用しています。

 

その他の目標や進捗の詳細については、「JR東日本グループレポート 2023」P85~87をご覧ください。

 

 (3) 人的資本

 当社グループの成長の原動力は、「社員一人ひとりの力」です。グループ経営ビジョン「変革 2027」で掲げる「ヒトを起点とした価値・サービスの創造」に向け、「ヒト」を極めて重要なリソースと捉え、当社グループの人的資本の価値を最大化する人財戦略を推進していきます。具体的には、社員の多様な意欲や挑戦に応えて、成長を後押しする人財戦略を推進することにより、社員が新たな挑戦を通じ自らを成長させ、その成長がグループの成長に結びつくという好循環を拡大していきます。

 

① ガバナンス

  当社グループにおける内部統制は、社員の発意や意欲に基づく新たなチャレンジが、グループの成長と構造改革につながるよう支援する仕組みでもあります。当社グループは、「変革 2027」のもと全ての社員を主役と位置づけ、社員の果敢なチャレンジを支援し、促すことを通じてグループを持続的に発展させ、当社グループの価値を高めるためのマネジメントを行っています。そして、社員が仕事を通じ達成感や充足感を味わい、働きがいを実感できるように、また、労働条件の向上等を通じ社員が働きやすいと実感できるように取り組んでいます。これらの取組みを通じて、トップマネジメントからの発信と社員からの様々な発信や挑戦が、経営というステージで融合することにより、社員一人ひとりが経営への参画意識をもって活躍できる「経営と社員との新たな関係」をつくります。

 

② 戦略

  当社グループは、人的資本の価値を最大化する人財戦略を「変革 2027」と連動させ、事業構造の変革を進めることによりモビリティと生活ソリューションの二軸により支えられる経営を実現するとともに、それぞれの事業領域において社員の活躍フィールドを拡大していきます。そして、社員の挑戦を後押しする様々な諸施策を進めることにより社員一人ひとりの成長期待にしっかりと応え、「社員と会社の新たなエンゲージメント」を創出していきます。

 

a DE&I経営の推進

  当社グループは、DE&I経営の推進を通じ、グループのサステナブルな成長・価値向上を生み出すとともに、「社員と会社の新たなエンゲージメント」を創出していきます。グループ一体で人材獲得や人事運用に関する多様性(価値観・属性)の拡大を図るとともに、ダイバーシティの観点から働き方改革に取り組み、生産性向上につなげていきます。

 

(女性社員の活躍推進および一般事業主行動計画)

  会社発足以来、女性活躍推進に力を入れて取り組んだ結果、全ての職域において女性社員が活躍しており、勤続年数も伸長しています。2024年4月より新たに策定した「第三期一般事業主行動計画」では、女性の採用および定着を進める取組みを継続し、加えてより広いフィールドで活躍する女性を育成するとともに責任あるポジションに登用していく取組みを加速していきます。

 

(社外人材の確保と活躍推進)

  高い技術力や知識、経験を持つ社外人材を積極的に採用し、経験者採用社員に様々な箇所でその経験を活かして活躍いただくことにより、当社グループ内における多様性を実現していきます。

  また、キャリアアップを目的に当社から転職した方に戻ってきていただく「ウェルカムバック採用」も実施しています。転職先で培った経験や価値観を活かし当社グループの新たな成長に向けて力を発揮いただくことを期待しています。

 

(障がいのある社員の活躍推進)

  障がいのある方の積極的な採用を進めるとともに、障がいのある社員が十分に能力を発揮できるよう必要な配慮を行うとともに、様々な職域で活躍できる環境の整備を進めています。障がいのある社員の活躍は、当社グループにおける多様性の実現と様々なお客さまに提供するサービスの更なる充実につながっています。

 

(外国籍社員の活躍推進)

  国籍を問わず優秀な人材の獲得に努めています。また、定期的に外国籍社員同士の意見交換の場を設ける等、外国籍社員が自身の持つ能力を最大限に発揮できる環境づくりに取り組んでいます。

 

(高齢者雇用と活躍推進)

  定年退職後にも継続雇用を希望する社員を、エルダー社員として再雇用しています。2024年4月現在、60歳以上のエルダー社員7,881名が在籍しており、グループ会社等を中心に当社グループで活躍しています。また、2021年4月改正の高年齢者雇用安定法の趣旨を踏まえ、当社グループ内において高年齢者に関する求人・求職者情報を相互に提供するサービスを実施しています。

 

(LGBTQ+社員等への理解に向けた取組み)

  様々な価値観をもった社員が自身の能力を最大限に発揮できるよう、偏見のない働きやすい環境をつくることが当社グループの責務です。同性パートナーに対して人事制度、福利厚生制度等の適用を拡大し、働きやすい環境を整備しています。また、全社員教育等を通じて、様々な価値観をもった社員が「隠さず」「ストレスなく」働ける職場づくりを進めています。

 

(育児、介護など両立支援の推進)

  少子高齢化、労働人口減少が進む中、ライフイベントの変化にかかわらず活躍し続けられるよう育児、介護などの両立支援をさらに推進することが喫緊の課題です。多様な働き方を可能とし、社員の活躍と働きやすさの実現をめざしています。具体的には、育児介護などの両立支援について法定水準を上回る内容の制度を導入しているほか、育児・介護の両立に対する職場の理解を深める取組みを行っています。

 

b 技術力を高め、イノベーションを創出する取組み

  当社グループは、イノベーションの創出を通じて、地域社会の発展に貢献するとともに、すべてのヒトの心豊かな生活を実現することを目指しています。そのため、重点・成長分野の指定した事業領域で活躍する人材を対象に「ジョブ型人事運用」を開始するなど、高度な技術力・専門性を持つ社員の獲得・育成を進め、イノベーションに挑戦する人材が伸び伸びと活躍できるフィールドを拡大していきます。あわせて、リスキリング等によりグループ内の人材流動性を高め、重点・成長分野への人的資源の再配置を進めていきます。

 

(重点・成長分野における社外・社内人材の活用と人材配置)

  重点・成長分野における知見、経験等の高い専門性を有する人材を、積極的かつ柔軟に採用していきます。

  また、特定の事業領域内でキャリアを積む領域別のジョブ型の採用の強化を進めています。

  社内人材の活用においては、モビリティと生活ソリューションの二軸経営を進めていくために、社内公募制異動等も活用しながら、より生産性の高い重点・成長分野に人材を配置していきます。

 

(採用・運用・育成体系の再構築)

  「社員と会社の新たなエンゲージメント」を実現し、経営戦略を進めていくためには、「仕事の進化」「働き方の進化」「職場の進化」の3つの側面の課題を乗り越える必要があります。“技術の追求”、“高い専門性”、“多様な役割”、“柔軟な働き方”を重要なポイントとし、採用・運用・育成体系における人事施策を構築していきます。

 

(グループ一体となった人材育成)

  一般社員から管理者層まで幅広く、グループ会社社員も受講可能な横断的で新たな価値創造に向けたイノベーションマインド・スキルの強化に必要な集合研修カリキュラムを展開しています。その他、社内・社外通信研修もグループ会社社員が受講可能な環境を整えています。

 

(職場主体の学びの場の創出)

  社員の伸びゆく力と果敢な挑戦に応えるため、職場主体の学びの場の拡大を図っています。社外の知見も活用しながら、DXやロジカルシンキング、企画業務スキルなど、社員の発意を起点とした多様な研修の展開やリスキリングの推進により、実務力の向上とオープンマインドの醸成を図っています。

 

(応募型の各種人材育成プログラム)

  技術や海外実務、財務、語学など、社員のキャリア自律に資する応募型の人材育成プログラムを展開しています。修了生は専門性や経験を活かし、幅広いフィールドで活躍しています。また、こうしたプログラムの見える化や、活用しやすい仕組み・制度の充実を図り、社員の果敢な挑戦を継続的にサポートしていきます。

 

c 健康経営の実践

  当社グループは、社員一人ひとりの健康レベルのさらなる向上とグループの持続的な成長を目指し、「グループ健康ビジョン2029」を2024年度に策定しました。これを踏まえ、健康情報システムを活用した健康状態の見える化など、グループ全体の新しい健康創りの取組みを展開していきます。

 

(グループ健康ビジョン2029)

  社員一人ひとりの健康レベルのさらなる向上とグループの持続的な成長を目指し、 『「からだ」「こころ」「つながり」から創る社員と家族の豊かなミライ』をキャッチフレーズに、当社グループで働く社員一人ひとりを健康創りの主役とし、「からだ」「こころ」「つながり」の3つのテーマ、および「ヒトと技術のコラボレーション」「グループ総合力の結集」「オープンイノベーション」の3つのメソッド(手法)により、戦略的な健康経営を推進します。

 

③ リスク管理

  「変革 2027」のもと「すべてのヒトの心豊かな生活」を実現するためには、社員の幅広い活躍・成長の機会を更に広げ、事業の融合と連携を進めることにより、これまでの事業構造を抜本的に変革していく必要があります。しかしながら、その実現に向けては、構造的な労働人口減少等による人員不足や採用難などのリスクに対応する必要があります。今後は、社内人材の育成と社外人材の獲得を同時に進め、より多様な価値観をもつ人材や高い専門性を備えた人材の充実を図るとともに、デジタル技術等を活用した業務プロセスの抜本的な生産性向上を進め、より少ない人員での事業運営を実現することを通じ、これらのリスクに対し対応していきます。

 

④ 指標及び目標

a DE&I経営の推進

(女性社員の活躍推進および一般事業主行動計画)

  第三期一般事業主行動計画(計画期間:2024年4月1日~2028年3月31日の4年間)

    目標1:採用者に占める女性比率を35%以上とする。(2024年4月1日時点採用者実績 32.2%)

   目標2:10事業年度前およびその前後の年度に採用された女性社員の定着率を85%以上とする。
(2023年度実績 82.5%)

   目標3:男性社員の育児休職等取得率を85%以上とする。(2023年度実績 61.9%)

   目標4:管理職に占める女性比率を10%以上とする。(2023年度実績 7.8%)

   目標5:自律的なキャリア形成に資する応募型の研修等に挑戦する社員に占める女性比率を25%以上とする。(2019~2023年度実績平均 18.2%)

 

(社外人材の確保と活躍推進)

  経験者採用数 2023年度実績※2024年4月1日入社を含む (単体)134名 (連結)1,281名

  管理者に占める経験者採用比率 単体目標 20.0%(2027年度末時点)

  2023年度実績 (単体)19.9% (連結)27.3%

 

(障がいのある社員の活躍推進)

  障がい者雇用率 単体目標 2.70%(2027年度末時点) 2024年6月時点実績 (単体)2.76%

 

(外国籍社員の活躍推進)

  外国籍在籍社員数 2024年4月1日時点実績 (単体)18か国・地域107名

    外国籍社員採用者数 2023年度実績※2024年4月1日入社含む (単体)22名 (連結)211名

 

(LGBTQ+社員等への理解に向けた取組み)

  多様な人材(LGBTQ+等)に対応した設備整備(新築または大規模改修時)

  単体目標 100%(2027年度末時点) 2023年度実績 100%

 

(育児、介護など両立支援の推進)

  男性の育児休職等取得率 単体目標 85%以上(2027年度末時点)

  2023年度実績 (単体)61.9% (連結)61.8%

 

b 技術力を高め、イノベーションを創出する取組み

(重点・成長分野における社外・社内人材の活用と人材配置)

  重点成長分野への人材配置 目標 累計2,000名以上(2027年度末時点) 2023年度実績 408名

 

(グループ一体となった人材育成)

  新たな価値創造に関する自己啓発講座受講人数 単体目標 累計25,000名(2027年度末時点)

  2023年度実績 (単体)5,169名

 

(職場主体の学びの場の創出)

  職場主体の研修実績 2023年度実績 (単体)949件(定例的な訓練等を除く)

 

c 健康経営の実践

  定期健康診断受診率 目標 100% 2023年度実績 (単体)100%

  ストレスチェック受検率 目標 95%以上 2023年度実績 (単体)91.2%

 

(4) 人権

① ガバナンス

 当社グループは、人権尊重の取組みを推進する体制として、人権を担当する取締役または執行役員を委員長、本社における部門長を委員として構成する「人権啓発推進委員会」を設置し、人権デュー・ディリジェンス(人権DD)の実施、人権に関する教育、人権セミナーや人権啓発標語などの人権への理解を浸透させる活動を通じて、社員の人権尊重に対する意識の向上を図るとともに、安全で働きやすい職場環境の構築に取り組んでいます。

 

② 戦略

当社グループはグループ理念に掲げるすべての人の心豊かな生活の実現に向けて国連が策定したビジネスと人権に関する指導原則等の人権に関する国際規範を踏まえお客さま地域の皆さまビジネスパートナー社員等すべての人の人権尊重の取組みを推進するため2023年3月にJR東日本グループ人権基本方針を策定しました同方針に基づき人権デュー・ディリジェンス(人権DD)の取組みを通じて人権侵害リスクの低減を図っています。

また、サプライチェーンの観点では、JR東日本グループとしての調達に関する行動基準となる調達方針等に基づき、サプライチェーン全体で人権や環境等に配慮した調達を実施しています。

 

③ リスク管理

当社グループの広範な事業領域の特徴を理解し、国連指導原則報告フレームワーク等を参考に、人権侵害リスクの深刻度と発生可能性を考慮し、重要なテーマ(顕著な人権課題)を特定しました。

特定した顕著な人権課題の中には、差別・ハラスメント、お客さまの安全とプライバシー、強制・児童労働や労働安全衛生等が含まれています。これらの人権侵害リスクに対して、リスクマネジメントの仕組みを活用した人権デュー・ディリジェンス(人権DD)と国際規範等に基づいた対話等を通じて、その低減に取り組んでいます。

また、サプライチェーンの観点では、アンケートの実施や意見交換等を通じて取引先と課題を共有し、ともに解決に向けて歩みを進め、人権や環境等に関する取組みのサプライチェーンへの浸透を推進しています。

 

④ 指標及び目標

サプライチェーンに関する指標として、「人権・環境等に関する取組みの主要サプライヤーへの浸透(サプライチェーン浸透率)」を定めています。成長の基盤となる目標を2027年度末において100%に設定しています。

指標

2023年度

実績

2024年度

計画

2027年度

目標

人権・環境等に関する取組みの主要サプライヤーへの浸透(サプライチェーン浸透率)

66.7%

85%

100%

 

 

3 【事業等のリスク】

 当社グループでは、各事業に共通・特有のリスクの回避・低減に取り組んでおります。具体的には、毎年事業全体のリスクを外部の知見や社内の意見等をもとに洗い出し、発生頻度および影響度を踏まえた分析・評価を行ったうえでその年度の重要リスクを定め、回避・低減策を検討・実施しております。このように、PDCAサイクルを回してリスクの見直し等を図り、取締役会でリスク回避・低減に向けた取組みの達成度・進捗をモニタリングするとともに今後の方針について検討を行い、リスクマネジメントの実効性を確保しております。

 今後、グループが変革のスピードアップをめざして収益力の向上や経営体質の抜本的強化に取り組むためには、リスクを損失回避等のマイナス要素を減らす観点から捉えるだけでなく、リスクテイクも含め、グループの価値を積極的に向上させる観点を含めた「幅広いリスクマネジメント」が重要です。

 これにより、安定的で適正な業務の運営の確保に加えて、グループ社員の成長に向けた果敢なチャレンジを支援・促進してまいります。

 有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響をおよぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあります。

 なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1) 鉄道事業における事故等の発生

 鉄道事業において事故等が発生した場合、当社グループに対するお客さまの信頼や社会的評価が失墜するだけでなく、お客さまへの補償や事故等の影響による事業の中断等により経営に重大な影響を与える可能性があります。

 当社グループは、安全を経営のトッププライオリティと位置づけ、ハード、ソフトの両面から安全性の高い鉄道システムづくりに取り組み、会社発足時から7回目となる安全5ヵ年計画「グループ安全計画2023」に基づき施策を着実に実施しました。

 具体的には、当社グループに起因する鉄道運転事故を防止するため、自動列車停止装置(ATS-P)整備などの列車脱線事故等の対策や、駅や車両基地等の屋根の落下対策などの基幹設備の強靭化を進めました。

 踏切事故対策については、踏切の整理統廃合を進めるとともに、踏切支障報知装置の増設や障害物検知装置の高機能化等を行いました。ホームドアについては、2023年度末までに線区単位の117駅233番線に整備が完了しました。鉄道駅バリアフリー料金の活用等により、2031年度末頃までに東京圏在来線の主要路線330駅758番線の整備をめざしていきます。

 2023年11月には、8回目となる安全5ヵ年計画「グループ安全計画2028~本質をふまえ、想定外も想像して安全を先取る~」を策定しました。当社グループを取り巻く環境は、人口減少、自然災害の激甚化・頻発化など、激しく変化しています。これらの変化に対応するために、築いてきた「安全文化」や安全の「しくみ」「設備」など、安全の基盤を強固にし「これまでは想定外であったリスク」を本質の理解により想像し、安全を先取る取組みを進め「究極の安全」をめざしてまいります。

 

(2) 気候変動および自然災害等

 近年、集中豪雨や大型化した台風などの異常気象リスクが高まっております。これらの集中豪雨や台風だけでなく、大規模地震・津波、洪水、火山といった自然災害等によって、当社グループの鉄道および関連施設等が損壊し、大きな被害を受ける可能性があります。また、自然災害等に起因する大規模停電により、鉄道の運行を継続できない可能性があります。さらに、大規模災害時においてサプライヤーの被災や配送網の寸断により事業継続に必要な物品の安定的な供給を受けることができなくなることも考えられます。

 自然災害に対するリスクの低減として、当社グループは次の取組みを進めています。大規模地震対策として、新幹線高架橋柱や新幹線電柱の耐震補強を進めています。さらに新幹線の線路からの逸脱防止対策の改良にも取組んでまいります。局地的大雨に対しては、詳細に雨を把握し運転規制を行う「レーダ雨量規制」を従来の運転規制に追加して在来線全線区に導入し、浸水対策としては「車両疎開判断支援システム」を浸水の可能性のある車両留置箇所に導入しています。また、津波・火山噴火については、発生時の対応力を向上するための訓練を実施しています。今後も「グループ安全計画2028」に基づき、自然災害に対するリスク低減の取組みを進めてまいります。

 一方、自然災害等による大規模停電に備えて、主要なターミナル駅などにおける非常用発電機の運転時間の長時間化を進めております。さらに、安定した調達を継続するため、複数のサプライヤーから調達できるように取組みを進めております。

 

(3) 感染症の発生等

 重大な感染症が国内外において流行した場合、経済活動の制限やお客さまの外出自粛、社員の罹患等により、当社グループの事業が継続できなくなるおそれがあり、当社グループの財政状態および経営成績に多大な影響を与える可能性があります。

 新型コロナウイルス感染症が国内外で拡大した際には、政府から緊急事態宣言が発令され、経済活動の制限や外出の自粛等が要請されました。これに伴い、鉄道の輸送量の大幅な減少、当社グループの商業施設の休業や利用者の減少等が発生したほか、海外からの入国制限等によりインバウンド需要が減少し、当社グループの業績は大きな影響を受けました。当社グループでは、政府のガイドラインに基づき、駅への消毒液の設置や機器設備の消毒・清掃、列車内の換気、駅や列車内における混雑情報の提供を行うとともに、社員等のマスク着用等による感染拡大防止を再徹底してきました。今後も社会に影響を与えるような感染症の発生・拡大に際しては、政府・自治体等と連携しながら、お客さまの安全・安心の確保を最優先に、適切な輸送を確保するため必要な措置を講じてまいります。

 

(4) 他事業者等との競合および外部環境の変化

 当社グループは、鉄道事業において他の鉄道および航空機、自動車、バス等の対抗輸送機関と競合関係にあるほか、生活サービス事業においても、既存および新規の事業者と競合しております。これらに加え、外部環境の変化の加速や、当社グループではコントロールできない要因などにより、当社グループの財政状態および経営成績に影響を与える可能性があります。

 鉄道事業においては、格安航空会社(LCC)の路線拡大、高速道路の拡充、自動運転技術の実用化などによる交通市場の競争激化や人口減少、少子高齢化の進行、在宅勤務などの働き方改革の浸透等により、輸送量が減少し、同事業の収益等に影響を与える可能性があります。また、採用難による人材不足や資材の供給不安などにより、事業の正常な運営に影響を与える可能性があります。

 このような中、当社グループは、グループ経営ビジョン「変革 2027」および2020年9月に発表した「変革のスピードアップ」において、MaaSや「えきねっと」をはじめ、移動のシームレス化と多様なサービスのワンストップ化を推進し、お客さまのあらゆる生活シーンで最適な手段を組み合わせて移動・購入・決済等のサービスを提供するほか、テレワークやワーケーションに適した施設や商品の拡充、オフピーク定期券やオフピークポイント・リピートポイントサービス等で多様化する生活スタイルへの対応を加速させていくなど、経営環境の変化を先取りした新たな価値を社会に提供していくことをめざし取り組んでおります。また、ワンマン運転の拡大、将来の自動運転やドライバレス運転の実現、設備のスリム化の推進、メンテナンス業務の仕組みの見直しといった、技術革新・生産性向上に取り組むことにより、鉄道事業を質的に変革してまいります。そのほか、安定した人材確保に向けたグループ全体での採用活動や、安定調達を継続するための新たなサプライヤーの開拓などにも取り組んでおります。

 

(5) 犯罪・テロ行為および情報システム障害等の発生

 犯罪・テロ行為の発生により、当社の鉄道事業等における安全性が脅かされる可能性があります。

 当社グループでは、鉄道のセキュリティ強化に向け、車両の防犯カメラの増設や、鉄道施設におけるカメラの増設・ネットワーク化による集中監視を実施しているほか、新幹線車両や主要駅等に防犯・護身用具を配備する等の対策を実施しております。

 また、当社グループは、モビリティに関する事業と生活ソリューションにつながる様々な業務分野で、多くの情報システムを用いております。当社グループと密接な取引関係にある他の会社や鉄道情報システム株式会社等においても、情報システムが重要な役割を果たしております。サイバー攻撃や人為的ミス等によってこれらの情報システムの機能に重大な障害が発生した場合、当社グループの業務運営に影響を与える可能性があります。さらに、コンピュータウイルスの感染や人為的不正操作等により情報システム上の個人情報等が外部に流出した場合やデータが改ざんされた場合、社会的信用の失墜等により、当社グループの財政状態および経営成績に影響を与える可能性があります。

 当社グループでは、日常より情報システムの機能向上やセキュリティの常時監視、関係する社員の教育など、障害対策およびセキュリティ対策を講じるとともに、万一問題が発生した場合においても速やかに初動体制を構築し、各部署が連携して対策をとることで、影響を最小限のものとするよう努めております。また、社内規程を整備し、個人情報の厳正な取扱いについて定め、個人情報を取り扱う者の限定、アクセス権限の管理を行うほか、社内のチェック体制を構築するなど、個人情報の厳正な管理・保護に努めております。

 

(6) 企業不祥事

 当社グループは、モビリティに関する事業と生活ソリューションにつながる事業などの様々な業務分野において、鉄道事業法をはじめとする関係法令を遵守し、企業倫理に従って事業を行っておりますが、これらに反する行為が発生した場合、行政処分や社会的信用の失墜などにより、当社グループの財政状態および経営成績に影響を与える可能性があります。

 当社グループでは、「法令遵守及び企業倫理に関する指針」を策定しているほか、法令遵守に関する社員教育の強化、業務全般に関わる法令の遵守状況の点検を進めております。さらに、全社員に対して内部通報窓口の周知等を行うなど、コンプライアンスの確保に努めるとともに、他企業で発生した事象に類似する不祥事の防止に取り組んでおります。

 

(7) 国内外の経済情勢等の変化

 国内外の経済情勢の変化や、金利・為替・物価等の動向などにより、当社グループの財政状態および経営成績が影響を受ける可能性がある他、サプライチェーン上の問題により社会的評価が失墜する可能性があります。

 日本経済および世界経済の情勢は、経済的要因だけではなく、戦争やテロ行為等の地政学的リスク、世界的な感染症の流行および大規模な自然災害等により影響を受ける可能性があります。このような事象が発生した場合、経済の低迷が長期化し、当社グループのモビリティに関する事業と生活ソリューションにつながる事業などの様々な業務分野において、需要が減少する可能性があります。また、国内外の経済情勢の変化や金利・為替・物価等の動向などにより、物品調達コストや資金調達コストが上昇し、当社グループの収益に影響を与える可能性があります。さらに、グローバル化したサプライチェーンは様々な要因により寸断される可能性がある他、人権課題の多様化・複雑化により調達活動に影響が生じる可能性があります。

 当社グループは、経費全般にわたるコストダウンに努めていくとともに、生活ソリューション関連の事業に経営資源を重点的に振り向け、新たな「成長エンジン」にしていくなど、経営体質を抜本的に強化してまいります。また、物品調達コストの上昇については、国内外を問わない幅広い調達やスケールメリットを活用した価格交渉等を通じて、調達コスト上昇を抑制しております。資金調達コストの上昇については、債務償還額の平準化および債務の長期化、債務の円建払いや支払金利の長期固定化を行うことにより、将来の金利変動リスク・為替変動リスクを抑制しております。サプライチェーンを維持し、寸断を回避するため取引先とのコミュニケーションを強化するとともに、複数のサプライヤーから調達ができるように取組みを進めています。人権問題等については、当社グループ調達方針に基づき浸透を図る取組みに努めてまいります。

 

(8) 海外での事業展開

 当社グループは、社員が活躍・成長する場を海外においても提供しており、国際事業に従事することを通じてグローバル人材の育成に努めています。当社グループがこれまで培ってきた技術・ノウハウ等を生かした製品・サービス等を海外で展開して、新たな事業の柱を確立することをめざしています。

 国際事業においては、政治体制や社会的要因の変動、投資規制・税制や環境規制等に関する現地の法令変更、商慣習の相違、契約の履行やルールの遵守に関する意識の違いおよびそれらに起因する工期等の遅延、経済動向、為替レートの変動等様々なリスク要因があります。海外で政治リスクや遅延リスク等が顕在化すると債権回収に影響をおよぼすことがあるため、プロジェクトごとにきめ細やかな収支管理を行っています。現に、政変や紛争等によるリスクが顕在化していますが、予期せぬ情勢変化等が生じた場合に当社グループの財政状態および経営成績、またグループ社員の身の安全に影響を与えることのないよう、これら様々なリスクについて、弁護士やコンサルタント等、専門家の助言を踏まえたリスク分析を行ったうえで、場合によっては日本政府の協力を得ながら対応に努めております。

 

(9) 特有の法的規制

① 鉄道事業に対する法的規制

 当社は、「鉄道事業法(昭和61年法律第92号)」の定めに基づき事業運営を行っており、鉄道事業者は営業する路線および鉄道事業の種別ごとに国土交通大臣の許可を受けなければならない(第3条)とされております。また、旅客の運賃および新幹線特急料金の上限について国土交通大臣の認可を受け、その範囲内での設定・変更を行う場合は、事前届出を行うこととされております(第16条)。さらに、鉄道事業の休廃止については、国土交通大臣に事前届出(廃止の場合は廃止日の1年前まで)を行うこととされております(第28条、第28条の2)。

 これらの手続きが変更される場合、または何らかの理由により手続きに基づいた運賃・料金の変更を機動的に行えない場合には、当社の収益に影響を与える可能性があります。当社では、運賃値上げに依存しない強固な経営基盤を確立すべく、収入の確保と経費削減による効率的な事業運営に努めておりますが、経営環境の変化等により適正な利潤を確保できない場合は、運賃改定を適時実施する必要があると考えております。

 なお、当社は、「旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律(昭和61年法律第88号)」の平成13年改正により、同法の適用対象からは除外されているものの、同法の改正附則に基づき「当分の間配慮すべき事項に関する指針」等が定められております。指針に定められた事項は以下の3点です。

・会社間における旅客の運賃および料金の適切な設定、鉄道施設の円滑な使用その他の鉄道事業に関する会社間における連携および協力の確保に関する事項

・日本国有鉄道の改革の実施後の輸送需要の動向その他の新たな事情の変化を踏まえた現に営業している路線の適切な維持および駅その他の鉄道施設の整備に当たっての利用者の利便の確保に関する事項

・新会社がその事業を営む地域において当該事業と同種の事業を営む中小企業者の事業活動に対する不当な妨害またはその利益の不当な侵害を回避することによる中小企業者への配慮に関する事項

 指針に定められているこれらの事項については、当社は、従来から十分留意した事業運営を行っております。しかしながら、鉄道を取り巻く環境は当時から大きく変化していることから、これらが経営に及ぼす影響を踏まえ、必要により柔軟な運用について関係者のご理解を求めていく考えです。

 

② 整備新幹線

 日本国有鉄道の分割民営化後、当社は、北陸新幹線(高崎市~上越市)および東北新幹線(盛岡市~青森市)の2路線の整備新幹線の営業主体とされ、1997年10月1日に北陸新幹線高崎~長野間が、2002年12月1日に東北新幹線盛岡~八戸間が、2010年12月4日に東北新幹線八戸~新青森間が、2015年3月14日に北陸新幹線長野~上越妙高間がそれぞれ開業しました。

 「独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構法施行令」第6条において、整備新幹線の貸付料の額は、当該新幹線開業後の営業主体の受益に基づいて算定された額に、貸付けを受けた鉄道施設に関して独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構が支払う租税および同機構の管理費の合計額を加えた額を基準として、同機構において定めるものとされております。このうち受益については、開業後30年間の需要予測および収支予測に基づいて算定されることとなり、この受益に基づいて算定される額については、開業後30年間は原則定額とされております。

 貸付けから30年経過後の取扱いについては、協議により新たに定めることになっております。なお、貸付けを受けている整備新幹線区間と貸付終了年度は、次のとおりです。

a 北陸新幹線(高崎~長野間) 2027年度

b 北陸新幹線(長野~上越妙高間) 2044年度

c 東北新幹線(盛岡~八戸間) 2032年度

d 東北新幹線(八戸~新青森間) 2040年度

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1) 経営成績等の状況の概要

 当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社および持分法適用関連会社)の財政状態、経営成績およびキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という)の状況の概要は次のとおりであります。

 

① 財政状態及び経営成績の状況

 当連結会計年度におけるわが国経済は、足元では足踏みもみられるものの、緩やかな回復が続きました。

 このような状況の中、当社グループは、「安全」を経営のトッププライオリティに位置づけ、「収益力向上」、「経営体質の抜本的強化」、「成長の基盤となる戦略の推進」および「ESG経営の実践」に取り組み、グループ経営ビジョン「変革 2027」の実現に向けた歩みを加速してまいりました。

 「究極の安全」を実現するため、「グループ安全計画2023」の最終年度として、一人ひとりの「安全行動」および「安全マネジメント」の進化と変革に、グループ一体で取り組みました。安全設備では新幹線早期地震検知システムの改良や2021年・2022年の福島県沖地震を踏まえた新幹線耐震補強計画の見直し、鉄道駅バリアフリー料金制度を活用したホームドアなどの整備を着実に進めました。

 「収益力向上(成長・イノベーション戦略の再構築)」では、「ポストコロナ」と「インバウンド」をキーワードに、平日限定のおトクな商品「旅せよ平日!JR東日本たびキュン早割パス」の販売、インバウンド施策のさらなる拡充や訪日外国人旅行者向け鉄道パスの価格改定など、JR東日本エリアにおけるお客さまの流動促進と収益の拡大に取り組みました。また、㈱JR東日本スマートロジスティクスの設立、不動産事業の戦略的展開など、生活ソリューションにつながる事業のさらなる成長によるビジネスポートフォリオの変革に向けた施策を推進しました。

 「経営体質の抜本的強化(構造改革)」では、オフピーク定期券の浸透、メンテナンス業務におけるAIの活用をはじめとするDXの加速など、柔軟なコスト構造の実現をめざした取組みを実施しました。また、お客さまに近い場所でスピーディーに価値創造・課題解決に取り組むとともに、より柔軟な働き方を実現するため、統括センターや営業統括センターの設置を進め、系統間や現業機関と企画部門における融合と連携をさらに推進しました。

「成長の基盤となる戦略の推進」では、多様なデジタル人材の育成に向けて、DXリテラシーを牽引する専任担当であるDXプロを新たに配置するとともに、アジャイル開発の推進や生成AIなどへのガバナンス問題の対応を担う本社内組織「Digital&Dataイノベーションセンター」を新設しました。また、新卒初任給の引上げや子育て等に関する支援の拡充など、社員の意欲と多様な働き方に応える柔軟な制度・環境の整備を進めました。

 「ESG経営の実践」では、環境について、生物多様性・自然資本の保全に向けて土地固有の樹木を植えて森を再生する「ふるさとの森づくり」の取組みや、信濃川水力発電所周辺での魚道の整備などの取組みを継続してきました。また、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)が2023年9月に公表した開示提言に賛同を表明し、提言を採用する「TNFD Adopter」として2024年3月に鉄道会社として初めて登録されました。地方創生の実現に向けて、「東北の宝ものプロジェクト」や「東北復興ツーリズム推進ネットワーク」の設立、「沿線まるごとホテルプロジェクト」などを推進しました。

  今後も、グループ経営ビジョン「変革 2027」の実現に向けてグループ一体で取り組みます。

 当連結会計年度の決算については、鉄道の利用増やエキナカ店舗、ホテル、ショッピングセンターの売上増に伴い、すべてのセグメントで増収となったことなどにより、営業収益は前期比13.5%増の2兆7,301億円となりました。また、これに伴って営業利益は前期比145.4%増の3,451億円、経常利益は前期比167.4%増の2,966億円、親会社株主に帰属する当期純利益は前期比98.0%増の1,964億円となりました。

 

 セグメントの業績は次のとおりであります。

 

a 運輸事業

 運輸事業では、安全・安定輸送およびサービス品質の確保にグループの総力を挙げて取り組みました。

 この結果、鉄道の利用増に伴い、鉄道運輸収入が増加したことなどにより、売上高は前期比14.1%増の1兆9,180億円となり、営業利益は1,707億円(前期は営業損失240億円)となりました。

 

b 流通・サービス事業

 流通・サービス事業では、駅を交通の拠点からヒト・モノ・コトがつながる暮らしのプラットフォームへと転換する「Beyond Stations構想」などを推進しました。

 この結果、お客さまのご利用増に伴い、エキナカ店舗の売上が増加したことなどにより、売上高は前期比14.3%増の4,156億円となり、営業利益は前期比53.1%増の540億円となりました。

 

c 不動産・ホテル事業

 不動産・ホテル事業では、大規模ターミナル駅開発や沿線開発など「くらしづくり(まちづくり)」を推進し、地域とともにまちの魅力を高めました。

 この結果、お客さまのご利用増に伴い、ホテルやショッピングセンターの売上が増加したことなどにより、売上高は前期比6.2%増の4,349億円となりましたが、不動産販売の利益が減少したことなどにより、営業利益は前期比10.2%減の1,001億円となりました。

 

d その他

 その他の事業では、Suicaの利用シーンのさらなる拡大と、シームレスでストレスフリーな移動を実現する「MaaSプラットフォーム」の拡充などに取り組みました。

 この結果、ICカード事業の売上が増加したことなどにより、売上高は前期比13.9%増の2,540億円となり、営業利益は前期比27.2%増の219億円となりました。

 

(注) 当社は、「セグメント情報等の開示に関する会計基準」(企業会計基準第17号 平成22年6月30日)および「セグメント情報等の開示に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第20号 平成20年3月21日)におけるセグメント利益又は損失について、各セグメントの営業利益又は営業損失としております。

 

(参考)

当社の鉄道事業の営業実績

 当社の鉄道事業の最近の営業実績は次のとおりであります。

 

輸送実績

 

区分

単位

第36期

(自 2022年4月1日

至 2023年3月31日)

第37期

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

営業日数

365

366

営業キロ

新幹線

キロ

1,194.2

1,194.2

在来線

6,108.0

6,108.0

7,302.2

7,302.2

客車走行キロ

新幹線

千キロ

493,528

532,998

在来線

1,717,560

1,714,971

2,211,088

2,247,969

輸送人員

定期

千人

3,184,088

3,331,650

定期外

2,139,530

2,365,793

5,323,619

5,697,444

新幹線

定期

千人キロ

1,563,002

1,670,516

定期外

14,931,346

19,560,252

16,494,348

21,230,768

在来線

関東圏

定期

54,766,761

57,474,481

定期外

31,590,035

35,912,814

86,356,796

93,387,296

その他

定期

2,697,719

2,763,384

定期外

1,929,024

2,319,661

4,626,743

5,083,046

定期

57,464,480

60,237,865

定期外

33,519,059

38,232,476

90,983,540

98,470,342

合計

定期

59,027,482

61,908,382

定期外

48,450,406

57,792,728

107,477,888

119,701,111

乗車効率

新幹線

48.1

57.7

在来線

37.8

40.9

39.1

43.2

(注)1 乗車効率は次の方法により算出しております。

乗車効率=

輸送人キロ

×100

客車走行キロ×客車平均定員

2 「関東圏」とは、当社首都圏本部、横浜支社、八王子支社、大宮支社、高崎支社、水戸支社および千葉支社管内の範囲であります。

 

収入実績

 

区分

単位

第36期

(自 2022年4月1日

至 2023年3月31日)

第37期

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

新幹線

定期

百万円

21,207

22,551

定期外

400,721

514,875

421,929

537,427

在来線

関東圏

定期

354,175

378,800

定期外

602,127

698,784

956,302

1,077,584

その他

定期

16,141

16,513

定期外

37,389

45,054

53,530

61,568

定期

370,316

395,314

定期外

639,517

743,838

1,009,833

1,139,153

合計

定期

391,524

417,865

定期外

1,040,238

1,258,714

1,431,762

1,676,580

荷物収入

4

2

合計

1,431,767

1,676,582

鉄道線路使用料収入

5,663

5,389

運輸雑収

170,944

166,143

収入合計

1,608,376

1,848,115

 

② キャッシュ・フローの状況

 当連結会計年度の営業活動によるキャッシュ・フローについては、税金等調整前当期純利益の増加などにより、流入額は前連結会計年度に比べ1,063億円増の6,881億円となりました。

 投資活動によるキャッシュ・フローについては、有形及び無形固定資産の取得による支出が増加したことなどにより、流出額は前連結会計年度に比べ1,251億円増の6,906億円となりました。

 財務活動によるキャッシュ・フローについては、流入額は前連結会計年度に比べ392億円増の661億円となりました。

 なお、当連結会計年度末の現金及び現金同等物の残高は、前連結会計年度末に比べ658億円増の2,808億円となりました。

 また、当連結会計年度末のネット有利子負債残高は4兆5,874億円となりました。なお、「ネット有利子負債」とは、連結有利子負債残高から連結現金及び現金同等物の期末残高を差し引いた数値であります。

 

③ 生産、受注及び販売の実績

 当社および当社の連結子会社の大多数は、受注生産形態をとらない業態であります。

 なお、販売の実績については、「(1)経営成績等の状況の概要」におけるセグメントの業績に関連づけて示しております。

 

(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

 経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容は次のとおりであります。

 なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

① 財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容

a 経営成績

○ 営業収益

 当連結会計年度の営業収益は、鉄道の利用増やエキナカ店舗、ホテル、ショッピングセンターの売上増に伴い、すべてのセグメントで増収となったことなどにより、前期比13.5%増の2兆7,301億円(対1月業績予想181億円増)となりました。

 

 運輸事業の外部顧客への売上高は、前期比14.5%増の1兆8,536億円(対1月業績予想46億円増)となりました。

 これは、鉄道の利用増に伴い、鉄道運輸収入が増加したことなどによるものであります。

 新幹線に関しては、鉄道の利用増に伴い、輸送人キロは前期比28.7%増の212億人キロとなりました。定期収入は前期比6.3%増の225億円、定期外収入は前期比28.5%増の5,148億円となり、全体では前期比27.4%増の5,374億円となりました。

 関東圏の在来線に関しては、鉄道の利用増に伴い、輸送人キロは前期比8.1%増の933億人キロとなりました。定期収入は前期比7.0%増の3,788億円、定期外収入は前期比16.1%増の6,987億円となり、全体では前期比12.7%増の1兆775億円となりました。

 関東圏以外の在来線に関しては、鉄道の利用増に伴い、輸送人キロは前期比9.9%増の50億人キロとなりました。定期収入は前期比2.3%増の165億円、定期外収入は前期20.5%増の450億円となり、全体では前期比15.0%増の615億円となりました。

 

 運輸事業以外の事業の外部顧客への売上高については、以下のとおりであります。

 流通・サービス事業では、お客さまのご利用増に伴い、エキナカ店舗の売上が増加したことなどにより、前期比15.8%増の3,796億円(対1月業績予想46億円増)となりました。

 不動産・ホテル事業では、お客さまのご利用増に伴い、ホテルやショッピングセンターの売上が増加したことなどにより、前期比6.2%増の4,058億円(対1月業績予想88億円増)となりました。

 その他の事業では、ICカード事業の売上が増加したことなどにより、前期比18.4%増の910億円(対1月業績予想0億円増)となりました。

 

○ 営業費用

 営業費用は、前期比5.3%増の2兆3,849億円となりました。営業収益に対する営業費用の比率は、前連結会計年度の94.2%に対し、当連結会計年度は87.4%となりました。

 運輸業等営業費及び売上原価は、前期比4.6%増の1兆7,656億円となりました。これは、物件費が増加したことなどによるものであります。

 販売費及び一般管理費は、前期比7.3%増の6,193億円となりました。これは、物件費が増加したことなどによるものであります。

 

○ 営業利益

 営業利益は、前期比145.4%増の3,451億円(対1月業績予想351億円改善)となりました。営業収益に対する営業利益の比率は、前連結会計年度の5.8%に対し、当連結会計年度は12.6%となりました。

 

○ 営業外損益

 営業外収益は、前期比30.6%減の291億円となりました。これは、持分法による投資利益が減少したことなどによるものであります。

 営業外費用は、前期比8.2%増の777億円となりました。これは、支払利息が増加したことなどによるものであります。

 

○ 経常利益

 経常利益は、前期比167.4%増の2,966億円(対1月業績予想446億円改善)となりました。営業収益に対する経常利益の比率は、前連結会計年度の4.6%に対し、当連結会計年度は10.9%となりました。

 

○ 特別損益

 特別利益は、前期比56.4%減の406億円となりました。これは、受取補償金や工事負担金等受入額が減少したことなどによるものであります。

 特別損失は、前期比16.6%減の631億円となりました。これは、工事負担金等圧縮額が減少したことなどによるものであります。

 

○ 税金等調整前当期純利益

 税金等調整前当期純利益は、前期比113.5%増の2,740億円となりました。営業収益に対する税金等調整前当期純利益の比率は、前連結会計年度の5.3%に対し、当連結会計年度は10.0%となりました。

 

○ 親会社株主に帰属する当期純利益

 親会社株主に帰属する当期純利益は、税金等調整前当期純利益の増加などにより、前期比98.0%増の1,964億円(対1月業績予想314億円改善)となりました。1株当たり当期純利益は、前連結会計年度の87.79円に対し、当連結会計年度は173.82円となりました。また、当連結会計年度の営業収益に対する親会社株主に帰属する当期純利益の比率は、前連結会計年度の4.1%に対し、当連結会計年度は7.2%となりました。

 

b 財政状態

 当連結会計年度末の資産残高は前連結会計年度末に比べ4,195億円増の9兆7,714億円、負債残高は前連結会計年度末に比べ1,780億円増の7兆322億円、純資産残高は前連結会計年度末に比べ2,415億円増の2兆7,392億円となりました。

 運輸事業においては、大規模地震対策やホームドア整備、車両新造、中央快速線等グリーン車導入に伴う工事などに4,366億円の投資を行ったことなどにより、当連結会計年度末の資産残高は7兆2,549億円となりました。

 流通・サービス事業においては、仙台駅北部高架下開発など、新規店舗の展開や既存店舗の改良などに225億円の投資を行ったことなどにより、当連結会計年度末の資産残高は3,903億円となりました。

 不動産・ホテル事業においては、TAKANAWA GATEWAY CITYや大井町駅周辺広町地区開発(仮称)、JR青森駅東口ビルなど、ショッピングセンターやオフィスビル、ホテルの建設などに2,256億円の投資を行ったことなどにより、当連結会計年度末の資産残高は1兆9,820億円となりました。

 その他の事業においては、システム開発などに288億円の投資を行ったことなどにより、当連結会計年度末の資産残高は1兆1,741億円となりました。

 

② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

a キャッシュ・フロー

 営業活動によるキャッシュ・フローは、前連結会計年度より1,063億円増加し、6,881億円の流入となりました。これは、税金等調整前当期純利益の増加などによるものであります。

 投資活動によるキャッシュ・フローは、前連結会計年度より1,251億円増加し、6,906億円の流出となりました。これは、有形及び無形固定資産の取得による支出が増加したことなどによるものであります。

 なお、設備投資の概要は以下のとおりです。

 運輸事業に関しては、大規模地震対策やホームドア整備、車両新造、中央快速線等グリーン車導入などの設備投資を実施しました。流通・サービス事業に関しては、仙台駅北部高架下開発など、新規店舗の展開や既存店舗の改良などを行いました。不動産・ホテル事業に関しては、TAKANAWA GATEWAY CITYや大井町駅周辺広町地区開発(仮称)、JR青森駅東口ビルなど、ショッピングセンターやオフィスビル、ホテルの建設などの設備投資を実施しました。その他の事業においては、システム開発などの設備投資を実施しました。

 また、フリー・キャッシュ・フローは、前連結会計年度より187億円減少し、25億円の流出となりました。

 財務活動によるキャッシュ・フローは、前連結会計年度より392億円増加し、661億円の流入となりました。

 なお、現金及び現金同等物の期末残高は、前連結会計年度末の2,150億円から658億円増加し、2,808億円となりました。

 

b 財務政策

 グループ経営ビジョン「変革 2027」の早期実現に向けて、設備投資に関して、成長投資においては、収益力向上や生産性向上に資する投資を積極的に実施します。維持更新投資においては、大規模地震対策やホームドア整備など安全のレベルアップに資する投資を引き続き着実に進めるとともに、安全の確保を大前提とした投資の選択と集中を徹底します。さらに、「脱炭素社会」実現などの社会的課題の解決、地域社会など多様なステークホルダーへの貢献、長期的視点での生産性向上や業務変革をめざし、地方創生やDXなどの設備投資を厳選して実施します。2023年度から2027年度まで総額3兆8,900億円の投資を計画しています。また、株主還元については、中長期的に総還元性向40%を目標とし、配当性向は30%をめざすこととしております。このために必要な資金については、営業キャッシュ・フローによるほか、社債の発行や金融機関からの借入等による資金調達を行っており、連結有利子負債残高は、連結営業収益、利益に応じた水準とすることを中長期的な考え方としております。具体的には、ネット有利子負債/EBITDAを中期的に5倍程度、長期的に3.5倍程度とすることをめざしております。

 「ネット有利子負債」とは、連結有利子負債残高から連結現金及び現金同等物の期末残高を差し引いた数値であり、当連結会計年度末のネット有利子負債残高は4兆5,874億円となりました(なお、当連結会計年度末の有利子負債残高は4兆8,682億円であります)。また、「EBITDA」とは、連結営業利益に連結減価償却費を加えた数値であり、当連結会計年度のEBITDAは7,373億円となりました。

 当社グループはキャッシュマネジメントシステム(CMS)を導入しており、CMS参加各社の余裕資金の運用と資金調達の管理を一括して行い、連結ベースでの資金効率の向上に努めております。また、グループ間決済の相殺やグループ内の支払業務を集約する支払代行制度などの資金管理手法を採用しております。

 当社は、健全な財務体質の維持・向上および十分な手元流動性の確保を基本方針に置き、社債の発行や金融機関からの借入等により資金調達を行っております。また、金利上昇リスクの抑制を目的とし、支払金利の固定化や、調達年限の長期化による支払金利の長期固定化を行っております。さらに、年度ごとの債務償還額の抑制および平準化に資する年限選択を行うことで、将来の借換リスク抑制を図っております。

 当社は、当連結会計年度に国内において償還期限を2033年から2073年の間とする11本の無担保普通社債を総額1,480億円発行いたしました。これらの社債については、㈱格付投資情報センターよりAA+の格付けを取得しております。また、海外において償還期限を2032年および2043年とする2本の無担保普通社債を総額13億ユーロ(2,060億円)発行いたしました。これらの社債は、S&Pグローバル・レーティング・ジャパン㈱よりA+、ムーディーズ・ジャパン㈱よりA1の長期債格付けを取得しております。その他、金融機関から1,083億円の長期資金を借り入れました。

 新幹線鉄道施設に関連する鉄道施設購入長期未払金は、元利均等半年賦支払であり、年利6.55%の固定利率により2051年9月30日までに支払われる3,107億円であります。

 このほか、当連結会計年度末現在、東京モノレール㈱が2億円の鉄道施設購入長期未払金を有しております。

 

 短期資金の需要に対応するため、当連結会計年度末現在、主要な銀行に総額3,600億円の当座借越枠を設定しております。また、コマーシャル・ペーパーについては、当連結会計年度末現在、㈱格付投資情報センターよりa-1+、㈱日本格付研究所よりJ-1+の短期債(CP)格付けを取得しております。なお、当連結会計年度末における当座借越残高およびコマーシャル・ペーパーの発行残高はありません。さらに、当連結会計年度末現在、銀行からのコミットメント・ライン(一定の条件のもと契約内での借入れが自由にできる融資枠)を600億円設定しておりますが、当連結会計年度末におけるコミットメント・ラインの使用残高はありません。

 

③ 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 当社の連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に基づき作成されており、連結財務諸表の作成に当たっては、連結決算日における資産・負債および当連結会計年度における収益・費用の数値に影響を与える事項について、過去の実績や現在の状況に応じ合理的と考えられる様々な要因に基づき見積りを行った上で、継続して評価を行っております。ただし、実際の結果は、見積り特有の不確実性があるため、見積りと異なる場合があります。

 連結財務諸表の作成に当たって用いた見積りや仮定のうち、財政状態および経営成績に重要な影響を与える可能性がある項目は以下のとおりです。

 

a 繰延税金資産の回収可能性

 繰延税金資産の回収可能性に関する仮定に関しては、「第5 経理の状況 1 (1) 連結財務諸表 注記事項 重要な会計上の見積り」に記載しております。

 

b 固定資産の減損

 固定資産の減損に関する仮定に関しては、「第5 経理の状況 1 (1) 連結財務諸表 注記事項 重要な会計上の見積り」に記載しております。

 

c 退職給付債務の見積り

 従業員の退職給付債務は、割引率、昇給率、退職率、死亡率等の数理計算上の前提条件を用いて見積りを行っております。数理計算上の前提条件と実績が異なる場合または前提条件の変更があった場合は、翌連結会計年度の退職給付債務の見積りに影響を与える可能性があります。

 

5 【経営上の重要な契約等】

(1) 当社は、「新幹線鉄道に係る鉄道施設の譲渡等に関する法律」(平成3年法律第45号)に基づき、東北および上越新幹線鉄道に係る鉄道施設(車両を除く)を1991年10月1日、新幹線鉄道保有機構(現独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構)より3兆1,069億円で譲り受け、このうち2兆7,404億円については25.5年、3,665億円については60年の元利均等半年賦により鉄道整備基金(現独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構)に支払うことなどに関して、新幹線鉄道保有機構との間に契約を結んでおります。なお、2兆7,404億円については2017年1月に支払が完了しております。

 

(2) 当社は、乗車券等の相互発売等旅客営業に係る事項、会社間の運賃および料金の収入区分ならびに収入清算の取扱い、駅業務ならびに車両および鉄道施設の保守等の業務の受委託、会社間の経費清算の取扱い等に関して、他の旅客会社との間に契約を結んでおります。

 なお、上記の契約では、2社以上の旅客会社間をまたがって利用する旅客および荷物に対する運賃および料金の算出に当たっては、通算できる制度によることとし、かつ、旅客運賃については、遠距離逓減制が加味されたものでなければならないこと、また、旅客会社において、他の旅客会社に関連する乗車券類を発売した場合は、当該他の旅客会社は、発売した旅客会社に販売手数料を支払うものとされております。

 

(3) 当社は、貨物会社が当社の鉄道線路を使用する場合の取扱い、駅業務ならびに車両および鉄道施設の保守等の業務の受委託、会社間の経費清算の取扱い等に関して、貨物会社との間に契約を結んでおります。

 なお、上記の契約では、貨物会社が鉄道線路を使用するために当社に支払う線路使用料は、貨物会社が当社鉄道線路を使用することにより追加的に発生する額とされております。

 

(4) 当社は、旅客会社6社共同で列車の座席指定券等の発売を行うための旅客販売総合システム(マルスシステム)の使用、各旅客会社間の収入清算等のシステム利用に関して、鉄道情報システム㈱との間に契約を結んでおります。

 

6 【研究開発活動】

 当社グループは、IoTやビッグデータ、AI等の技術の進展を見据え、時代を先取りした技術革新の実現に向け、「技術革新中長期ビジョン」を策定しており、その主な内容は以下のとおりであります。

○ IoT、ビッグデータ、AI等を活用して、当社グループが提供するサービスをお客さま視点で徹底的に見直し、従来の発想の枠を超えて「モビリティ革命」の実現をめざします。

○ 「安全・安心」、「サービス&マーケティング」、「オペレーション&メンテナンス」、「エネルギー・環境」の4分野において、当社グループのあらゆる事業活動で得られたデータからAI等により新しい価値を生み出します。

○ その実現に向け、世界最先端の技術を取り入れるため、さらなるオープンイノベーションを推進し、モビリティ分野で革新的なサービスを提供し続ける「イノベーション・エコシステム」を構築します。

 

 「技術革新中長期ビジョン」の実現をめざし、次のような研究開発を行いました。なお、当連結会計年度の研究開発費の総額は、219億円であります。

 

(1) 運輸事業

① 「安全・安心」~危険を予測しリスクを最小化する~

a より安全な駅ホームの実現に向けて、車両側面に設置したカメラの画像からお客さまが車両に接近し、接触する可能性を検知するシステムの開発を進めております。

b 2022年3月16日に発生した福島県沖地震を受けて、地震発生時の状況を分析し、今後の地震対策について検討を進めました。「構造物が壊れないようにする(耐震補強対策)」「走行中の列車を早く止める(列車緊急停止対策)」「脱線後の被害を最小限にする(列車の線路からの逸脱防止対策)」の3点を柱として各種対策につながる研究開発を実施しました。

 

② 「サービス&マーケティング」~お客さまへ"Now(今だけ),Here(ここだけ),Me(私だけ)"の価値を提供する~

a 「次世代新幹線の実現に向けた開発」を進めるために、新幹線の試験車両「ALFA-X」を使用して、様々な試験を実施しました。

b より安全・安心な駅環境をお客さまに提供していくため、AIを活用した「非対面」「非接触」によるお客さま案内の装置を5駅(幕張豊砂、新習志野、目黒、大崎、新橋)の一部改札に実装しました。

 

③ 「オペレーション&メンテナンス」~生産年齢人口20%減を見据えた仕事のしくみをつくる~

a 線路や電力設備、車両機器などを走行しながらモニタリングする装置を営業列車に搭載し、CBM(Condition Based Maintenance)等のスマートメンテナンスの実現に向けた研究開発等の取組みを進めております。現在はモニタリング装置により得られた高頻度なデータをもとに、各分野におけるデータ分析・評価手法・活用方法について検討しております。

b 列車の安全性向上や将来のドライバレス運転で必要とされる技術開発として、車両前方にステレオカメラを搭載して障害物をリアルタイムで自動検知するシステムの開発を進めております。

c 車両や地上設備のメンテナンス業務の効率化や負担軽減を目的に、作業の自動化や機械化(ロボット化)に向けた開発を進めております。

 

④ 「エネルギー・環境」~エネルギーの3E(環境性、経済性、安定性)を向上させ、C(地域社会の発展)につなげる~

a 水素を活用した取組みを推進し、脱炭素社会への動きを加速していくため、水素を燃料とする水素ハイブリッド電車「HYBARI」を製作し、実証試験を進めております。

b 列車の運転エネルギー削減をめざし、乗務員の運転操作による省エネ運転の研究に取り組んでおります。

 

⑤ その他

 2023年4月に、前身のモビリティ変革コンソーシアムの知見・ノウハウを活かし、ウェルビーイングな社会の実現に向けて、移動×空間価値の向上をめざす場として「WaaS共創コンソーシアム」を設立しました。オープンイノベーションのプラットフォームを通じ、1社単独では難しいより広範な領域における社会課題の解決に取り組んでおります(2024年6月3日現在、様々な業種・領域より112社・団体に参加いただいております)。また、より基礎的な分野の研究開発は、「研究開発等に関する協定」に基づき公益財団法人鉄道総合技術研究所に委託しており、当連結会計年度における同研究所に対する負担金は、48億円であります。

 そのほか、現場第一線の技術革新を担う人材育成のため、研究開発部門への社内公募制インターンシップ制度としてイノベーションカレッジを引き続き実施しております。

 

(2) 流通・サービス事業、不動産・ホテル事業、その他の事業

 特に記載する事項はありません。