第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

(1)経営方針

 当社グループは、社名の由来でもある「Value & Quality」をスローガンとして、創業以来、価値ある製品の研究、開発、信頼を生む品質の高い製品の提供に努力してまいりました。そのなかで企業理念として「THE VALQUA WAY」を制定し、それを全グループ社員が共有したうえで、それぞれの業務における指針としております。

 

(2)経営戦略等

当社グループは、次期を開始年度とする3か年中期経営計画NF2026で掲げた基本方針、

 

《世界の分断が急激に進み

デジタル化によるビジネスモデルが激変する環境下において

「THE VALQUA WAY」のもとマルチ視点で

ステークホルダーの最高満足に向けて新たな価値創造に邁進しよう》

 

1.激変する世界において本質を追求する目線の確立とそれに伴う人材育成

2.地政学リスクの増大に対応した更なるサプライチェーンの改革と強靭化

3.デジタルイノベーション加速による新たなAI/ITソリューション事業のマネタイズ

4.「技術流出」の徹底防止と新領域・新技術の見極め

5.「Think Globally, Act Locally」によるグローカリゼーションの徹底

 

のもと、さらなる将来における持続的な価値創造の実現を展望して、諸戦略を着実にかつ迅速に推進いたします。

 

(3)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

 当社は、創業100周年を展望する時期を迎えるにあたり、社員一人ひとりが改めてこの開拓者精神に立ち未知の領域を切り拓いていく必要があると考え、以下の通りに2027年3月期におけるありたい企業像と達成をめざす長期経営目標を設定いたしました。

 

創業100周年(2027年)のありたい企業像

未来と未知に挑むチャレンジングな企業

―人類の豊かさと地球環境に貢献するために ―

 

1.あくなき成長戦略の追求とモニタリング
2.成長をゆるぎないものにする経営基盤の強化
3.より良き地球市民として「環境・社会・企業統治」への積極的な取り組み

 

2027年3月期経営目標

・連結売上高 800億円

・連結ROE 15%

 

(4)経営環境

当連結会計年度におけるグローバル経済は、新型コロナウイルス感染症からの回復が進んだものの、世界各地における軍事的な衝突や米中関係の悪化、主要国におけるインフレの進行等の影響もあり、やや伸び悩む結果となりました。一方、わが国経済は、個人消費は物価高の影響や将来への警戒感を反映して伸び悩み、当社グループが属する製造業においては、一部の生産動向が回復を示すなど明るさが見えつつあったものの、国内設備投資の回復に足踏みがみられたことに加え海外からの需要減少もあり、全体的には停滞感が漂うこととなりました。

 

(5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

次期に向けては、東アジア・ウクライナ・中東の情勢、エネルギー・原材料の価格、インフレの進行など世界全体の経済回復に向けた動きに影響を与え得る多くの不透明要素が存在しております。また、当社グループ周辺においては、世界的な設備投資の減速、半導体関連景況の本格的な回復の遅れ、人手不足と人件費の上昇などが懸念され得る状況となっております。

このような事業環境下、当社グループは、(2)経営戦略等に掲げた方針を進めてまいります。

 

<事業展開について>

シール製品事業につきましては、既存基盤の選択と集中による収益力の強化を進めるとともに、産業構造の変化に対応した新市場・新事業への参入を積極的に推進いたします。そして、新規・既存領域を問わず当社グループ内の製販技の連携や各種販売チャネルを強化し、当社独自のシールエンジニアリングサービスの提供を行うことで、顧客の安全・安心に貢献してまいります。今後も半導体を中心に成長が期待される先端産業市場につきましては、高機能シール製品のソリューション展開を継続するとともに、今後の需要の拡大をキャッチアップするための生産力の強化を進めてまいります。

機能樹脂製品事業につきましては、今後も半導体関連市場への資源配分を強化し、またデジタルサービスを活用した事業の高付加価値化を積極的に展開することで、事業のスケールアップと収益力の強化を図ってまいります。

シリコンウエハーリサイクル事業他につきましては、NF2026の基本方針のひとつである「デジタルイノベーション加速による新たなAI/ITソリューション事業のマネタイズ」のもと、収益力向上および成長につながる投資を確実に実行し、デジタルビジネスの拡大と収益化を進めてまいります。地政学リスクへの対応につきましては、米中をはじめとする地域間の対立による経済安全保障への意識の高まりや経済デカップリングの動きに対応したサプライチェーンの改革・強靭化を引き続き行ってまいります。

 

<サステナビリティ活動の推進と人材開発の強化>

当社グループにおけるサステナビリティとは、企業理念である「THE VALQUA WAY」のもと、健全で持続的な成長と持続可能な社会を実現することであると考えております。人類の豊かさと地球環境に貢献するために、創業100周年のありたい企業像であるより良き地球市民として、「環境・社会・企業統治」へ積極的に取り組んでいます。この持続可能な社会の実現に向けた取り組みを「VALQUA Sustainable Action」として定義し、以下3点の活動を重点的に進め、基本理念であるValue(価値の創造)とQuality(品質の向上)につなげてまいります。

 

1. サステナビリティ経営に資する重要課題の見直し

2. 重要課題ごとの具体的な目標設定と進捗管理

3. コーポレートレポート等を通じた経営戦略とつながるサステナビリティ活動状況の開示拡充

 

また、当社はこれまで一貫して人材こそが最も重要な経営資源であり、競争力の源泉であると位置づけております。世界が未曾有の危機に直面している環境の中、「THE VALQUA WAY」を基軸とする本質の追求による「理と利(理念と利益)」の実現を目指し、改めてビジョナリー経営の強化へ立ち返り、「THE VALQUA WAY」の現場浸透を図るとともに人材開発を積極的に推進し、時代責任を担いうるバルカーパーソンの育成に積極的に取り組んでまいります。

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)TCFD提言に基づく情報開示

株式会社バルカーは、2021年5月に「気候関連財務情報開示タスクフォース」(TCFD)提言への賛同を表明するとともに、提言の推進を目的に設立された「TCFDコンソーシアム」に加入しました。

当社グループでは企業理念「THE VALQUA WAY」に基づくビジョナリー経営を推進しており、社員の一人ひとりが「安全・衛生・環境は人類共通の重要テーマの一つである」ことを強く意識した企業活動を実践しています。また、創業100周年(2027年)を区切りとする長期経営目標では、ありたい企業像として「未来と未知に挑むチャレンジングな企業-人類の豊かさと地球環境に貢献するために-」を掲げ、より良き地球市民として「環境・社会・企業統治」に積極的に取組、持続可能な社会の実現に貢献できる企業となることを目指しています。このような認識・考えのもと、企業価値向上に努めてまいります。

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①ガバナンス

当社グループでは、気候関連課題を重要な経営課題とし取締役会の監督のもと取り組んでいます。気候関連課題に関する当社グループのガバナンス体制は右図の通りです。

まず気候関連課題は「バルカーグループサステナビリティ委員会」において、サステナビリティ経営に伴う重要課題(マテリアリティ)のひとつとして特定され当該課題に対する基本的な方針及び取組を審議・決定し、定期的に常務会へ報告しています。特に気候変動関連のグループ全体で取り組むべき施策については、当社グループの「安全・衛生・環境(SHE)委員会」において審議・決定し、各部門・グループ各社の「安全・衛生・環境(SHE)推進チーム」の活動に反映させることで、グループ横断的かつ効果的な取組に繋げる体制とし、その内容は定期的に常務会へ報告しています。また「リスク管理委員会」では、気候変動関連のリスクを含むリスクを定期的に取締役会・常務会に報告し、監督・指示を受けています。

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②リスク管理

当社グループでは、リスクマネジメントを強化するため、「リスク管理委員会」を設置し、国内外の事業環境の急激な変化と事業領域の拡大に伴って多様化するグループ経営上のリスクを一元管理しています。

気候変動関連のリスクについては、バルカーグループサステナビリティ委員会および安全・衛生・環境(SHE)委員会のほか、コーポレート部門と事業部門が連携してリスク・機会の識別や評価、対応策の検討を行っており、特定された重要なリスク・機会は、リスク管理委員会に適宜情報共有され、必要に応じて全社リスクに統合しています。全社リスクの管理状況は定期的にリスク管理委員会から取締役会および常務会に報告し、監督を適切に受ける体制を整えています。

 

③戦略

当社グループの財務に影響を及ぼす気候変動関連リスク・機会の特定にあたり、IEA(※1)やIPCC(※2)などのデータを基に、4℃シナリオ(成り行きで温暖化が進行するシナリオ)と1.5℃シナリオ(脱炭素化が進展するシナリオ)の2つのシナリオに基づき分析を実施しました。

 

シナリオの定義

対象期間:2050年を想定してリスク・機会を特定(ただし、財務的影響の内容については2030年を念頭に評価)

対象範囲:バルカーグループ

参照シナリオ:1.5°CにおいてはIEA NZE、IPCC RCP1.9等

4°CにおいてはIEA STEPS、IPCC RCP8.5等

 

※1 IEA: International Energy Agency(国際エネルギー機関)
※2 IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change(気候変動に関する政府間パネル)

 

シナリオ分析の結果、特定した気候変動関連の主なリスク・機会、およびそれらに対する今後の対応策は以下の通りです。

 

「1.5シナリオ(脱炭素化が進展するシナリオ)」

シナリオの世界観

 

財務的影響の内容

程度

時間軸(※1)

対応策

脱炭素化への移行に伴う大きな社会変化が起こることを想定しています。

例えば、カーボンプライシングの導入や脱炭素エネルギーへのシフト、リサイクル技術の進展等を見込んでいます。

また、自動車産業では次世代車の普及が急速に進む他、様々な分野でGHG(※2)削減や省エネ化に寄与する技術や製品が求められるようになり、それらに用いられる半導体の需要はより拡大することを想定しています。

リスク

(政策・法規制)

GHG(※2)規制強化に伴い、電力会社の電源構成の変化(再エネ由来の電力比重の増加)によるエネルギーコストの増加

短期

・全社的な省エネ設備、再生エネルギーの導入

・製造工程における歩留まり向上、生産性改善による省エネ化、電力使用量の削減

・製造工程における省エネ設備の導入

(災害)

自然災害の激甚化により、生産拠点や事業所において操業停止による売上減少や、設備の被災による復旧コストの発生、サプライヤーからの材料調達の途絶

中期

・自社グループやサプライチェーンにおけるBCP(※3)策定と定期的な改定、実施状況のフォロー

・被災による損害を最小限に抑えるための、防災対策の見直し・強化

・損害保険の付保

 

機会

 

(半導体市場)

脱炭素・低炭素や省エネに貢献する製品需要の増加に伴う半導体装置等向け製品売上の増加

 

 

中期

・先端市場向け製品の研究開発体制の強化

・M&Aや業務提携による新技術の獲得(半導体市場のみ)

・顧客ニーズの調査や販売力の強化

・供給能力の拡大

(EV関連等市場)

EVおよびFCV等に使用されるシール製品等の売上増加

 

 

 

「4℃シナリオ (成り行きで温暖化が進行するシナリオ)」

シナリオの世界観

 

財務的影響の内容

程度

時間軸(※1)

対応策

低炭素・脱炭素への規制強化はそれほど進まず、気候変動に起因する平均気温上昇等により自然災害の激甚化を想定しています。

また、自動車産業では次世代車の普及は進展するものの、1.5℃シナリオと比べて緩やかであるため、当面はエンジン車の生産・販売が中心となることを想定しています。

ただし、技術革新の追求は止まることなく、半導体の需要はより拡大していくものと想定しています。

リスク

(災害)

自然災害の激甚化により、生産拠点や事業所において操業停止による売上減少や、設備の被災による復旧コストの発生、サプライヤーからの材料調達の途絶

短期

・自社グループやサプライチェーンにおけるBCP(※3)策定と定期的な改定、実施状況のフォロー

・被災による損害を最小限に抑えるための、防災対策の見直し・強化

・損害保険の付保

機会

(半導体市場)

脱炭素・低炭素や省エネに貢献する製品需要の増加に伴う半導体装置等向け製品売上の増加

短期

・先端市場向け製品の研究開発体制の強化

・M&Aや業務提携による新技術の獲得(半導体市場のみ)

・顧客ニーズの調査や販売力の強化

・供給能力の拡大

(市場/EV関連等)

EVおよびFCV等に使用されるシール製品等の売上増加

長期

 

※1 時間軸:短期3年以内、中期4~6年、長期10年以上

※2  GHG:Greenhouse Gas(二酸化炭素などの温室効果ガス)

※3  BCP:Business Continuity Plan(事業継続計画)

 

今回、当社グループの気候変動関連のシナリオ分析を実施した結果、分析で使用したいずれのシナリオにおいても、高いレジリエンスを有していると評価しました。

今後、特定したリスクへの対応と機会への実現に向けて、取組をより一層推進してまいります。

 

また当社グループは持続可能な社会の実現を目指しており、経営予算、事業計画の決議を行う際には、経営理念である「THE VALQUA WAY」や「創業100周年(2027年)のありたい企業像」に従い、気候変動問題を考慮しています。

例えば、設備投資予算では環境投資予算を区分管理し、常務会において決議しています。

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④指標と目標

当社グループでは、気候変動影響の緩和に向けて、合理化・原価低減活動や、老朽化設備の更新、太陽光発電による自家発電等の施策により、売上高原単位(t-CO2/百万円)(※1)前年度比1%減を目標として、温室効果ガスの排出量削減に取組んでいます。

また、その実績については右図のとおり、温室効果ガス排出量(Scope1(※2)、2(※3))を算定し、温室効果ガス排出量の状況をモニタリングしています。

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Scope3(※4) についてもモニタリングを続けており、HPで公開しています。

https://www.valqua.co.jp/social/environment/ (第124期データは2024年7月以降掲載予定)

※1 売上高原単位(t-CO2/百万円):Scope1、2として算出した温室効果ガス排出量を当該年度の売上高で除した

※2 Scope1:事業者自らによる温室効果ガス直接排出

※3 Scope2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出

※4 Scope3:Scope1、2を除いて、原料調達から生産、販売、廃棄までにおける間接排出

※ 温室効果ガス算定方法:「地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)」に基づく温室効果ガス排出量算 定・報告・公表制度の各燃料及び電力の排出係数、海外工場所在国の電力の排出係数を毎年再確認し算定

 

 

(2)人的資本

当社グループでは、人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針について、次の指標を用いております。当該指標に関する目標及び実績は、次のとおりであります。

指標

目標

実績(当連結会計年度)

管理職に占める女性労働者の割合

2027年3月まで15

13.8

男性労働者の育児休業取得率

90.0

労働者の男女の賃金の差異

69.5

 

①人材の育成に関する方針

当社では最も重要な経営資本は社員であり、人的資本が競争力の源泉だと考えており、グループ共通の企業理念である「THE VALQUA WAY」のもと、社員それぞれが最大限の力を発揮できる職場環境づくりと、人材の育成を推進しています。当社は2024年度、創業98年目を迎えます。創業100周年を超えて発展を続けるため、事業の変革を推進し、そのために必要な人材の育成と配置を実施しております。

事業の変革の一例として、シール製品や機能樹脂製品といったハード面に加え、お客様にさらなる安全性、効率性と快適性をお届けするために、設備の遠隔監視や定期点検を一元管理できるMONiPLATや樹脂部品・設計・調達業務をデジタルでサポートできるQuick Value等、デジタルを含めたサービスの拡充を行っております。このような新たな取組みを企画・実行し、当社の将来を作るために、グループ人材ポートフォリオに基づいた採用・育成計画を策定するとともに、グループの枠を超えて性別・年齢・経歴等にとらわれることなく、優秀な社員のチャレンジを支援しています。

 

②ダイバーシティエクイティ&インクルージョン(DE&I)

今後、日本を中心に労働人口が減少していく中で、多様な人材がそれぞれの能力を最大限に発揮することが求められます。当社では、執行役員や部長相当職に30代を登用する一方、優秀な人材については60歳を超えても関係会社の社長を任せる等、国籍・性別・年齢や新卒・中途等のバックグラウンドにとらわれず、適材適所の人材登用を行っています。その結果、当社単体では、経歴にとらわれない人材登用の指標としては、管理職にしめる中途採用者の比率は2019年度17.0%から2023年度は49.5%と大幅に増加しています。また、執行役員の平均年齢は2019年度58.0歳から2023年度は55.0歳となり、女性管理職比率は2019年度11.1%から2023年度は13.8%に上昇し、取締役の女性役員比率は2019年度以降2023年度まで28.6%を維持しています。

男女問わず、多様な人材のキャリアをサポートする仕組みの一つとして、副業制度や時間単位有給、キャリアリターン制度を導入しているほか、ライフイベントとキャリアを両立するための仕組み作りも推進しています。

 

③社内環境整備に関する方針

当社では階層別研修や昇格時研修、自己選択型研修、各部門でのOJTや業務研修に加え、選抜研修として「海外経営幹部養成」や役員候補の育成「CEO塾」等を実施し、個々人の成長とキャリア支援を促しております。2023年度からは新たに「生産会社経営者育成研修」も開始し、メーカーとして生産会社経営に特化したプログラムも開始しました。今後、さらに事業の在り方が変革する中で、社員のリスキリングや、高齢化に対応したコア技術継承等、攻めと守りの両面で育成を強化してまいります。

3【事業等のリスク】

当社グループは、事業活動に関するリスク管理を所管するリスク管理委員会(委員長CEO、副委員長COO)を設置し、経営上重要なリスクの抽出・評価および執行におけるリスク管理状況の確認を行い、常務会および取締役会に定期的に報告しております。また、特に品質、貿易管理、法令違反、安全・衛生・環境、経済安全保障、情報セキュリティのリスクについては、執行役員を中心に構成された各専門委員会でそれぞれ管理しており、リスク管理委員会はこれらの委員会の活動状況の報告を受け、最終的に全社リスクとして評価し、管理しております。

これらの管理を通じて、有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは以下のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

当社グループは、リスクの顕在化の不測の事態に備え、主要取引銀行との間で合計30億円のコミットメントラインを設定しており、緊急時の流動性を確保しております。

(1) 品質に関するリスク

<リスクの内容>

想定外の事情による製品の欠陥の発生およびそれに起因する事故の発生、ならびにこれらによるブランドイメージの低下が売上高の減少、収益の悪化原因となり、当社グループの業績および財政状態に影響を与える場合があります。

<リスクへの対応>

当社グループは、社名の由来である「Value & Quality」(価値の創造と品質の向上)を基本理念として、厳格な品質管理基準に従い製品の製造を行っております。また、部門横断的な品質保証委員会を中心とした品質保証体制を構築し、顧客満足を高める品質の向上活動を継続しており、定期的に常務会にその活動が報告されております。なお、万が一事故が発生し多額の賠償費用が必要となる可能性に備え、製造物責任保険(PL保険)に加入しております。

(2) 他社との業務提携等に伴うリスク

<リスクの内容>

当社グループは、新中期経営計画(NF2026)に基づき、新素材・新市場・新事業への参入を促進するために、他社との業務提携やM&Aを積極的に進めております。しかしながら、市場環境の変化や当社の戦略との不一致により、期待した成果が得られない場合、当社グループの業績および財政状態に影響を与える場合があります。

<リスクへの対応>

他社との業務提携やM&Aに際しては、投資先や提携先の事業状況や財務状況をデューデリジェンスなどを通じて慎重に評価し、リスクを最小限に抑えるための対策を講じております。また、事後的には成果が当初想定した計画からの乖離を適宜確認しており、必要な改善や方針の変更を行っております。

 (3) 海外事業展開に関するリスク

<リスクの内容>

当社グループは、製品の輸出や海外における現地生産など、幅広く海外で事業を展開しております。各国における法律や規制の変更、テロ、戦争、政治的不安定さなどの要因により、グループの事業活動に支障が生じ、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼすおそれがあります。

<リスクへの対応>

当社グループは、サプライチェーンの再構築をすすめており、その中でカントリーリスクの分散化を図っております。また、特に注意すべき国・地域については、有事リスクへの対応を見据えた体制の構築をすすめ、政治的・社会的状況を定期的にモニタリングしております。なお、これらの国や地域でリスクが顕在化した際には、本社と現地子会社が連携して対応にあたることとしております。

(4) 原材料価格変動と調達に伴うリスク

<リスクの内容>

当社グループは、国内外から部品や原材料を購入して製品の製造を行っており、一部の部品や原材料については、市場ニーズに応えるための高い品質・性能を追求する結果、供給が滞った際の代替調達先や十分な物量を確保できない可能性があります。これらによる需給の逼迫や為替変動などにより調達コストが増大した場合、当社グループの業績および財政状態に影響を与える場合があります。

<リスクへの対応>

当社グループは、調達のマルチソース化や適時適量の在庫確保などをすすめております。また、重要な調達先については定期的に評価を行い、調達リスクの低減に努めております。

 

(5) 為替相場の変動に伴うリスク

<リスクの内容>

為替相場の変動は、外国通貨建ての売上高や原材料の調達コストなどに影響を及ぼし、当社グループの業績および財政状態に影響を与える場合があります。

<リスクへの対応>

当社グループは、取引に伴う為替の変動リスクについては、先物為替等によるヘッジ策を行うなど、そのリスクを極小にすべく細心の注意を払っております。

(6) 情報セキュリティに関わるリスク

<リスクの内容>

当社グループは、半導体市場をはじめ高度な技術を用いた製品を多く製造しており、重要な技術情報や取引先・顧客情報、その他様々な情報を保有しております。サイバー攻撃を含む意図的な行為や過失等により、重要な情報が外部に流出した場合、当社グループの業績に影響を与える可能性があります。

<リスクへの対応>

当社グループでは、情報セキュリティ委員会が中心となって最新のテクノロジーを使用したセキュリティシステムの導入など、グループ全体のセキュリティ管理体制を強化しております。

(7) 人材に関するリスク

<リスクの内容>

当社戦略を担う人材の確保・教育ができない場合や、人材の流出を防止できない場合、当社グループの業績および成長計画に影響を与える場合があります。

<リスクへの対応>

当社グループは、「人」を成長の源泉と考え、性別・年齢・経歴・国籍等にとらわれない多様な人材を登用し、人材投資や労働環境・体制の継続的な見直しを実施しております。また、エンゲージメントサーベイを定期的に実施しており、その結果を踏まえた改善やウェルビーイングな職場環境づくりにも積極的に取り組んでおります。

(8) 大規模災害やパンデミックに関わるリスク

<リスクの内容>

大規模災害やパンデミック等事業の継続を脅かす事象に対して、全ての被害や影響を回避できるとは限らず、結果的に生産活動の停止・サプライチェーンの混乱を招く可能性があり、当社グループの業績および財政状態に影響を与える場合があります。

<リスクへの対応>

当社グループは、大規模災害や感染症によるパンデミック等事業の継続を脅かす事象が発生した場合に備えて、従業員の安全確保や事業中断に伴う影響の極小化ならびに迅速な事業継続を実現するためのBCP(事業継続計画)を策定しております。

また、定期的な防災訓練や必要物資の備蓄等を実施、安否確認システムを導入する等リスクの分散、極小化に取り組んでおります。

(9) 環境規制・気候変動対応

<リスクの内容>

気候変動がもたらす異常気象がサプライチェーンに与える影響や低炭素社会が実現できなかった場合、エネルギー価格の高騰等が事業に影響を与える場合があります。また、各国の環境法規制強化、または予期せぬ事故や自然災害等により非意図的な環境汚染等が発生した場合、事業活動への制限や多額の対策費用が必要となり、当社グループの業績および財政状態に影響を与える場合があります。

<リスクへの対応>

当社グループは、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」に賛同するとともに、事業活動への影響の分析を行っております。TCFDの詳細は、前述の「2.サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載をご参照ください。また、部門横断的な取組みである、SHE(安全・衛生・環境)委員会を設置し、安全や衛生と一体となって課題への取組みをすすめており、その活動を定期的に常務会に報告しております。

(10) 法的規制に関するリスク

<リスクの内容>

当社グループは、グローバルに事業活動を展開しており、各国の法律、規則等の適用を受けております。各国において、より厳格な法規制の導入や解釈・運用の変更、または政策転換などが発生した場合、対応コスト増や事業活動の制約となり、当社グループの業績および財政状態に影響を与える場合があります。

<リスクへの対応>

当社グループでは、各国の法律、規則等の変化に対して、外部の専門家を活用しながら対応しておりますが、判断や対応の担い手である人や組織における不正を排除するため、「正正堂堂と」の経営理念を原点として、「コンプライアンス遵守と誠実な行動」を重要な行動指針とし、コンプライアンス委員会を中心とした活動を監査、執行の両面からすすめております。定期的にコンプライアンス意識調査を行うなどして会社の課題を把握し、改善活動を行うとともに、通報、報告、相談ルートの活用をすすめ、早期に違反を発見し適切な対応を行える、風通しのよい職場づくりに力を入れております。

 

(11) 石綿問題に関するリスク

<リスクの内容>

石綿による健康被害について、当社規定に基づく補償金や見舞金の支払いによる費用負担は、限定的なものでありますが、今後も継続する可能性があります。また、健康被害に関して損害賠償請求の訴訟を受けており、当社グループの業績および財政状態に影響を与える場合があります。

<リスクへの対応>

当社グループは、2006年9月1日施行の労働安全衛生法施行令による「アスベスト全面禁止」に先立ち、2006年7月31日をもって一切の石綿製品の供給を停止いたしました。石綿代替品(ノンアスベスト製品)の品揃えは他社に先駆け完了しておりますので、今後ともノンアスベスト製品の強力な販売活動を展開していく所存であります。2006年3月27日施行の「石綿による健康被害の救済に関する法律」に基づく被害者救済策が講じられておりますが、当社といたしましては、以下の措置を継続して講じております。

・石綿関連の質問や相談に応じるための「相談窓口」の開設

・従業員および元従業員のうち、希望された方への健康診断の実施

・当社ホームページでのアスベストに関する情報の開示

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1) 経営成績等の状況の概要

当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。

 

①経営成績の状況

当連結会計年度におけるグローバル経済は、新型コロナウイルス感染症からの回復が進んだものの、世界各地における軍事的な衝突や米中関係の悪化、主要国におけるインフレの進行等の影響もあり、やや伸び悩む結果となりました。一方、わが国経済は、個人消費は物価高の影響や将来への警戒感を反映して伸び悩み、当社グループが属する製造業においては、一部の生産動向が回復を示すなど明るさが見えつつあったものの、国内設備投資の回復に足踏みがみられたことに加え海外からの需要減少もあり、全体的には停滞感が漂うこととなりました。

このような事業環境下当社グループは、あらゆる状況変化への対応を速めるとともに、業務効率化を一段と進めるなど、収益確保と収益性改善に向けた施策を実施しました。

また、当期を最終年度とする中期経営計画“New Frontier 2023”(NF2023)で掲げた「成長を守る」という視点に立ち、将来に亘る「健全で持続的な成長」を実現するために、地政学リスクの増大に対応したサプライチェーンの見直し、半導体など成長市場に向けた製品競争力・供給能力の強化、DX(デジタルトランスフォーメーション)を柱とする攻守両面の企業改革等に取り組みました。

この結果、当社グループの当連結会計年度の経営成績につきましては、売上高が617億4千4百万円(前年同期比0.7%減)、営業利益が71億2百万円(同20.0%減)、経常利益が73億9千9百万円(同18.1%減)、親会社株主に帰属する当期純利益が49億9百万円(同27.2%減)となりました。

なお、第4四半期連結会計期間(3か月)における受注高は143億2千9百万円、当四半期末の受注残高は107億9千万円となりました。

 

 セグメント別の業績は次のとおりであります。

 

(シール製品事業)

シール製品事業は、機器市場向けが自動車生産の回復等により増加したものの、先端産業市場向けは半導体関連景況の変動を受けて減少し、371億6千万円(前年同期比7.4%減)、セグメント利益は31億4千万円(前年同期比53.4%減)となりました。

(機能樹脂製品事業)

機能樹脂製品事業は、販売価格の見直しの実施や、フッ素樹脂特殊タンク製品の先端産業市場とプラント市場向け拡大を反映し、売上高は215億8千万円(前年同期比14.0%増)、セグメント利益は39億9千6百万円(前年同期比78.7%増)となりました。

(シリコンウエハーリサイクル事業他)

シリコンウエハーリサイクル事業他は、主力事業の需要は堅調に推移したものの、新規事業分野を含むH&S事業は開発費用が先行し、売上高は30億2百万円(前年同期比3.6%減)、セグメント損失は3千4百万円(前年同期はセグメント損失9千9百万円)となりました。

 

②財政状態の状況

当連結会計年度末の資産につきましては、総資産が前連結会計年度末に比べ59億7千9百万円増加し、744億8千7百万円となりました。流動資産は438億1百万円となり、25億7千万円増加しました。この主な要因は、主に先端産業市場における需要の回復に備えた積み増し分を含む原材料及び貯蔵品の増加51億1千6百万円、商品及び製品の増加1億7千4百万円、現金及び預金の減少18億5百万円、売掛金の減少7億8千7百万円、未収入金の減少1億1千2百万円等によるものであります。有形固定資産は197億7千2百万円となり、18億8百万円増加しました。この主な要因は、建設仮勘定の増加13億1千4百万円、機械装置及び運搬具の増加2億9千6百万円、建物及び構築物の増加1億8千7百万円等によるものであります。無形固定資産は19億3千万円となり、5億5千2百万円増加しました。この主な要因は、無形固定資産のその他に含まれる借地権の増加3億9千7百万円、ソフトウエアの増加6千1百万円等によるものであります。投資その他の資産は89億8千3百万円となり、10億4千8百万円増加しました。この主な要因は、退職給付に係る資産8億3千6百万円、投資有価証券の増加1億8千8百万円等によるものであります。それらの結果、固定資産は306億8千6百万円となり、34億9百万円増加しました。

負債につきましては、前連結会計年度末に比べ29億2千5百万円増加し、257億5千5百万円となりました。流動負債は165億6千万円となり、3千1百万円減少しました。この主な要因は、支払手形及び買掛金の減少9億1千1百万円、未払法人税等の減少6億4千3百万円、契約負債の減少3億9千8百万円、短期借入金の増加10億5百万円、1年内返済予定の長期借入金の増加8億8千4百万円等によるものであります。

固定負債は91億9千5百万円となり、29億5千7百万円増加しました。この主な要因は、主に先端産業市場に向けた供給能力の拡大を目的とする長期借入金の増加23億7千5百万円、繰延税金負債の増加5億2千7百万円等によるものであります。

純資産につきましては、前連結会計年度末に比べ30億5千4百万円増加し、487億3千1百万円となりました。この主な要因は、利益剰余金の増加20億1千万円、退職給付に係る調整累計額の増加4億9千7百万円、為替換算調整勘定の増加4億7千9百万円等によるものであります。

 

 

 

③キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、前連結会計年度末に比べ18億5百万円減少し、当連結会計年度末には63億8千6百万円となりました。

当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動によって得られた資金は、17億5千8百万円(前年同期比60.1%減)となりました。

これは主に、税金等調整前当期純利益71億円、減価償却費26億1千2百万円、売上債権の減少7億9千5百万円、棚卸資産の増加51億7千2百万円、法人税等の支払額26億7千4百万円、仕入債務の減少7億2千5百万円等によるものであります。

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動の結果使用した資金は、47億5千4百万円(前年同期比256.3%増)となりました。

これは主に、有形固定資産の取得・売却による純支出38億5千2百万円、無形固定資産の取得による支出9億5千8百万円等によるものであります。

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動の結果収入となった資金は、9億2千3百万円(前年同期は34億4百万円の支出)となりました。

これは主に、長期借入金の純収入31億3千1百万円、短期借入金の純収入8億9千2百万円、配当金の支払額28億8千9百万円、リース債務の返済による支出1億9千1百万円等によるものであります。

 

④生産、受注及び販売の実績

 a. 生産実績

 当連結会計年度の生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

前年同期比(%)

シール製品事業(百万円)

12,491

75.4

機能樹脂製品事業(百万円)

11,396

90.0

シリコンウエハーリサイクル事業他(百万円)

2,870

100.0

合計(百万円)

26,758

83.3

 (注) 上記の金額は、販売価格によっております。

b. 仕入実績

 当連結会計年度の仕入実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

前年同期比(%)

シール製品事業(百万円)

12,585

102.7

機能樹脂製品事業(百万円)

6,908

109.8

シリコンウエハーリサイクル事業他(百万円)

54

30.4

合計(百万円)

19,548

104.4

 

c. 受注実績

 当連結会計年度の受注実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

受注高(百万円)

前年同期比(%)

受注残高(百万円)

前年同期比(%)

シール製品事業

36,116

87.2

5,741

84.6

機能樹脂製品事業

19,240

99.6

4,630

66.4

シリコンウエハーリサイクル事業他

3,247

107.2

418

241.2

合  計

58,604

91.9

10,790

77.5

 

d. 販売実績

 当連結会計年度の販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

前年同期比(%)

シール製品事業(百万円)

37,160

92.6

機能樹脂製品事業(百万円)

21,580

114.0

シリコンウエハーリサイクル事業他(百万円)

3,002

96.4

合計(百万円)

61,744

99.3

 

(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

  経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 

①当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

当期の事業環境は、上期においては自動車生産台数の回復などがあったものの、半導体関連景況の悪化、海外における設備投資の減速、そして、原材料が高止まりとなったことなどを反映し、必ずしも芳しい状況とはなりませんでした。下期には半導体関連に明るさが見え始めたものの、一部自動車メーカーの生産停止や能登半島地震の影響等もあり、大きな回復を示すには至りませんでした。

このような状況下当社グループは、当期を最終年度とする2か年中期経営計画NF2023で掲げた「成長を守る」という視点に立ち、かねてから取り組んできた全社的な収益性向上策を徹底しました。

しかしながら、高機能シール製品の落ち込みが大きく影響し、連結業績は、前期比減収減益、業績予想値に対しても未達となりました。その厳しい業績下においても、機器市場・プラント市場における収益性向上策の効果が確認できたことなど多くの収穫がございました。また、価値創造力をより強いものとするための投資も先行し実施しました。当社グループといたしましては、これらを新たな中期経営計画NF2026におきましては、皆さまのご期待に応えてまいります。

業績の半期推移につきまして、当下期は、売上高及び全利益科目、そして利益率で前年度下期を下回る結果となりました。また、当上期との比較においては、高機能シール製品の底打ちもあって売上総利益が上昇したものの、荷造運送費などの経費の増加により販管費が増え、営業利益は減少しました。

前期からの営業利益の変動要因につきまして、当期の売上高と売上総利益の前期比はそれぞれ4億円強の減額となりましたが、高機能シール製品の販売減少が大きく影響しております。

しかしながらかつての当社の収益体質からすれば、高機能シール製品の売上高がそのような状況となれば、利益はさらに大きく落ち込んでいたと考えられます。その面からは、機能樹脂製品事業の収益力の拡大と、製品を問わずに進めている機器市場・プラント市場向けの収益性改善の効果が下支えしたとの認識も持っております。

売上総利益の減少には、原材料価格上昇による影響の推計値約8億円も含まれております。一方、販管費については前期比で13億超増えましたが、これには、戦略製品の拡充やDX推進に向けた人材の獲得費用に加え、物流費用の増加が反映されております。

なお、当期でも円安方向に動いた外国為替の変動による影響ですが、売上高で前期比7億円超、営業利益では約2億円の増加要因になったと認識しております。

当期末のバランスシートにつきましては、資産は増加し、うち流動資産には半導体関連需要の再拡大に備えた原材料の確保、固定資産には愛知県田原市における新工場に関する資産がそれぞれ反映されております。負債・純資産においては、有利子負債が増加しておりますが、これは、先端産業市場における供給能力の増強に向けて借入れを増やしたことを反映しております。

キャッシュ・フローにつきましては、営業キャッシュ・フローが、原材料を積み増しした結果を反映して減り、その一方で、投資キャッシュ・フローは愛知県田原市の新工場建設等により増加したため、フリー・キャッシュ・フローは減少しました。

当社グループの経営成績に重要な影響を与えた要因としては、市場別・地域別の売上高推移について分析しました。

まず、当期における先端産業市場向けの売上高は、高機能シール製品の業績悪化を反映して減少しましたが、

ふっ素樹脂特殊タンク製品などは高水準を維持しました。

機器市場では、半導体・部品不足の影響が和らいだこともあり、自動車の生産台数などの回復の動きを反映した実績となりました。

プラント市場では、国内外の高純度・高機能化学品向けふっ素樹脂特殊タンク製品の販売が下支えしました。

なお、機器市場及びプラント市場においては、販売価格の見直しの効果も売上高の増加に反映されております。

一方、地域別の販売実績では、国内が機器市場及びプラント市場向けの伸長を反映し増加したものの、海外は先端産業市場向けの減速による影響を受けた水準となりました。

当社グループの経営上の目標の達成状況につきましては、「総資産当期純利益率(ROA)」及び「自己資本利益率(ROE)」を重要な指標として位置付けております。当連結会計年度における「総資産当期純利益率(ROA)」は6.9%(前年同期比3.6ポイント悪化)、「自己資本利益率(ROE)」は10.5%(前年同期比5.4ポイント悪化)となりました。

セグメントごとの財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容は、次のとおりであります。

 

(シール製品事業)

シール製品事業では、売上高・セグメント利益とも前期を下回り、収益性も悪化するという結果になりました。

これには、先端産業市場向け高機能シール製品の減少が大きく影響しておりますが、その一方で、機器市場向けの販売が伸長し、下支えをしました。当期のシールの先端産業市場向けの需要動向は、期首における見通しの下限値水準にとどまりましたが、既に底打ちも果たしております。

当社グループといたしましては、高機能シール製品の中長期的な戦略は変更せず、必要な投資を推進し、将来獲得する果実の最大化を図っております。

セグメント資産につきましては、439億5千4百万円(前年同期比8.8%増)となりました。

(機能樹脂製品事業)

機能樹脂製品事業では、ふっ素樹脂加工品が国内半導体製造装置メーカー向けで、また、高機能シール製品とともに戦略製品として位置付けているふっ素樹脂特殊タンク製品が販売を伸ばし、業績をけん引しました。

一方、利益の面では、売上増加に加え、サプライチェーンの整備や販売価格の見直しの効果もあり、前期比で80%近い増益を達成しましたが、この利益率は、大型案件や顧客の納期要請に対応したことによる高収益案件の寄与も大きく、「出来過ぎ」とも言える水準です。それは主にふっ素樹脂特殊タンク製品によるものですが、ここにきて、主要顧客の設備投資が端境期を迎え、また競合状況も変化しており、当期末の受注残高にも反映されております。

当社グループといたしましては、この厳しくなりつつある状況を乗り越え、実行中の投資の効果を確実かつ大きなものとするべく、早期の受注の積み増しに注力してまいります。

セグメント資産につきましては、163億2千3百万円(前年同期比10.6%増)となりました。

 

(シリコンウエハーリサイクル事業他)

主力のシリコンウエハーリサイクル事業は、半導体メモリーメーカーの生産動向が必ずしも良かったとは言えませんが、売上高を維持することができました。一方、新たな顧客価値の創造を目的としたAI/ITソリューションにつきましては、業績寄与に向け、ラインアップの充実、各商材のブラッシュアップ、そして販売活動の強化を図りました。

AI/ITソリューションにつきましては、順調に実績を積み重ねております。当面は開発などの費用負担が大きくなってしまうことが想定されますが、当社グループならではのソリューションは、既に顧客から高い評価を得ており、将来は機器・プラント市場向けの中核になるものと確信しております。

セグメント資産につきましては、25億9千万円(前年同期比0.7%減)となりました。

 

 

 

経営者の問題認識と今後の方針について

次期に向けては、東アジア・ウクライナ・中東の情勢、エネルギー・原材料の価格、インフレの進行など世界全体の経済回復に向けた動きに影響を与え得る多くの不透明要素が存在しております。また、当社グループ周辺においては、世界的な設備投資の減速、半導体関連景況の本格的な回復の遅れ、人手不足と人件費の上昇などが懸念され得る状況となっております。

このような事業環境下において当社グループは、次期を開始年度とする3か年中期経営計画NF2026で掲げた基本方針、

 

《世界の分断が急激に進み

デジタル化によるビジネスモデルが激変する環境下において

「THE VALQUA WAY」のもとマルチ視点で

ステークホルダーの最高満足に向けて新たな価値創造に邁進しよう》

 

1.激変する世界において本質を追求する目線の確立とそれに伴う人材育成

2.地政学リスクの増大に対応した更なるサプライチェーンの改革と強靭化

3.デジタルイノベーション加速による新たなAI/ITソリューション事業のマネタイズ

4.「技術流出」の徹底防止と新領域・新技術の見極め

5.「Think Globally, Act Locally」によるグローカリゼーションの徹底

 

のもと、創業100周年期にあたる2027年3月期に向けて設定した長期経営目標数値『連結売上高800億円、ROE15%以上』の達成をより確かなものにするとともに、さらなる将来における持続的な価値創造の実現を展望して、諸戦略を着実にかつ迅速に推進いたします。

 

②キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

当連結会計年度はエラストマー製品等のシール製品事業、ふっ素樹脂製品等の機能樹脂製品事業、シリコンウエハーリサイクル等のシリコンウエハーリサイクル事業他にて設備投資を実施するなどの既存事業の成長に向けた投資を着実に推進しました。

このように、当社グループにおける主な資金需要は、健全で持続的な成長を実現するための成長投資と考えており、これらの投資資金は、内部留保金の配分とともに、金融機関からの借入金等により充当しております。なお、借入金のうち、短期借入金は、主に営業取引に係る資金調達であり、長期借入金は、主に設備投資に係る資金調達であります。

手許の運転資金につきましては、グループファイナンスを通じて、国内連結子会社における余剰資金を当社へ集中し、一元管理を行うことで、資金効率の向上を図っております。

また、現預金残高と有利子負債残高を一定範囲にコントロールし、経営環境の変化に対応するための資金の流動性を確保しながら資金管理を行っております。

当社グループにおける当連結会計年度における流動比率は264.5%(前連結会計年度248.5%)となっており、キャッシュ・フロー対有利子負債比率は5.7倍となりました。直近5ヵ年における以下の数表の通りであります。

 

第120期

2020年3月期

第121期

2021年3月期

第122期

2022年3月期

第123期

2023年3月期

第124期

2024年3月期

流動比率(%)

254.9

275.9

261.9

248.5

264.5

自己資本比率(%)

69.3

67.7

66.0

66.0

64.7

時価ベースの自己資本比率(%)

64.0

71.4

78.1

88.3

121.1

キャッシュ・フロー対有利子負債比率(倍)

0.6

0.9

1.0

1.3

5.7

インタレスト・カバレッジ・レシオ(倍)

71.6

66.3

84.3

39.5

9.0

 

当社グループでは、業績の大幅な悪化による手許資金減少、或いは生産会社の稼働停止や主要顧客の稼働停止等不測の事態に備え、主要取引銀行との間で30億円のコミットメントラインの締結を行っております。このように、リスクに対応するとともに、今後の事業展開においても、感染症をめぐる市場の変化や、回復後に訪れるであろう変化の芽を的確に捉え、スピーディーに対応してまいりたいと考えております。2025年3月期の新規の設備投資は、事業基盤の再構築を目指し、キャッシュ・フローを重視しながら、次なる飛躍に繋げてまいります。

 

 

③重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しております。

連結財務諸表の作成に際しては、決算日における資産・負債の報告数値及び偶発債務の開示、報告期間における収益・費用の報告数値に影響を与える見積り及び予測を行わなければなりません。したがって、当該見積り及び予測については不確実性が存在するため、将来生じる実際の結果はこれらの見積り及び予測と異なる場合があります。

当社は、特に以下の会計上の見積りが当社グループの連結財務諸表に重要な影響を与えるものと考えております。

 

a. 固定資産の減損処理

当社グループは、固定資産のうち減損の兆候がある資産又は資産グループについて、当該資産又は資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額を下回る場合には、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として計上しております。減損の兆候の把握、減損損失の認識及び測定に当たっては慎重に検討しておりますが、事業計画や市場環境の変化により、その見積り額の前提とした条件や仮定に変更が生じ減少した場合、減損処理が必要となる可能性があります。

 

b. 繰延税金資産

当社グループは、繰延税金資産について、将来の利益計画に基づいた課税所得が十分に確保できることや、回収可能性があると判断した将来減算一時差異について繰延税金資産を慎重に計上しておりますが、繰延税金資産の回収可能性は将来の課税所得の見積に依存するため、その見積り額の前提とした条件や仮定に変更が生じ減少した場合、繰延税金資産が減額され税金費用が計上される可能性があります。

 

 

5【経営上の重要な契約等】

(提出会社)

製品売買契約

独占販売権の保有契約

① 相手方の名称

米国ガーロック社(GARLOCK SEALING TECHNOLOGIES,LLC)

② 契約品目

当社及びガーロック社の主要ブランド製品

③ 契約内容

当社主要製品について、ガーロック社がアメリカ(北米、南米及び中米)及び欧州における通常販売権を、ガーロック社の主要製品について、当社が日本における独占販売権及び中国、韓国、台湾における通常販売権をそれぞれ保有する契約

④ 契約期間

自 2011年7月26日 至 2013年7月25日(満了日以降は1年毎の自動更新)

 

6【研究開発活動】

当社グループは、高度なシール技術を核としたトータルシールエンジニアリングと機能樹脂加工技術の応用により、顧客価値を高めるための市場課題へのソリューションおよび新市場開拓を重視した技術開発、製品開発、システム開発を軸にした研究開発活動を推進するとともに、当社創業100周年を見据えた研究開発体制及び技術インフラ整備を進めております。当連結会計年度においては、引き続き外部技術探索とオープンイノベーションによる外部技術の活用、取り込みの充実を図るとともに、環境、エネルギー、半導体、プラント、産業機器等の市場分野を対象に、グローバルに顧客の高度な要求に応えることができる高収益ハード(高機能商品)およびサービス開発(H&S開発)を実施しております。又、デジタルトランスフォーメーションに向けた活動として、マテリアルインフォマティクスの活用技術等、H&S商品開発へのデータサインエス技術の応用、開発プロセスの高度化に向けたITインフラの充実を進めております。

当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は1,270百万円であり、各製品事業分野別の研究開発の概要は下記のとおりであります。

 

(1) シール製品事業

シール製品におきましては、シールエンジニアリングをコア技術として、グローバル市場に対して、ニーズに合わせた技術開発、製品開発、周辺システム開発を継続的に進めております。プラント・機器関連分野では、コア技術の高度化による継続性のある差別化技術開発により、顧客の環境対応や安定操業に貢献する製品、メンテナンス管理を容易にする製品やシステムの開発等を進めております。エラストマー分野におきましては、外部技術探索による新素材と、当社保有技術との融合により、成長が期待される水素等の新エネルギー市場に対応可能な製品や持続可能な資源活用に主眼を置いた開発、半導体次世代製造装置へのスペックイン開発活動をグローバルに展開しております。また、各種製造現場を対象に、設備の定期点検におけるデジタル化を促進するサービスの開発も進めております。

当製品事業に係る研究開発費は、877百万円であります。

 

(2) 機能樹脂製品事業

機能樹脂製品におきましては、半導体産業で使用される薬液の要求性能が継続して高くなっており、製品由来による系内汚染低減への要求レベルを満たすための技術ソリューションの開発を継続的に進めております。コア技術となる樹脂加工技術については、オープンイノベーションを積極的に活用することにより、品質の向上を行うとともに、樹脂材料の改質、複合をはじめとした差別化技術開発により、独創的な機能材料の開発を進めております。また、半導体産業等の各種プラントを対象に、薬液ライニングタンクの安定・安全稼働に貢献する保全技術の開発を進めております。

当製品事業に係る研究開発費は、167百万円であります。

 

(3) シリコンウエハーリサイクル事業他

シリコンウエハーリサイクル事業他におきましては、外部先端技術をグローバルに探索し、オープンイノベーションによる外部研究機関や企業とのコラボレーションを推進しつつ、デジタルイノベーションを軸として、最大限の顧客価値を提供できる新規事業を創出する取り組みを進めております。また、外部技術を適切に取り込むことによって、ハード(H)としての製品開発だけではなくサービス(S) 開発にも注力し、新素材探索や新製造プロセス技術の取り込み等、当社保有のコア技術と組み合わせることで、材料技術の高度化と、お客様の安全・安心につながる予知保全、日常保全に繋がる価値・サービスの構築・開発を進めております。

当事業に係る研究開発費は、225百万円であります。