文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末(2024年3月31日)現在において当社グループ(当社及び連結子会社)が判断したものであります。
(1) 会社の経営方針
当社グループは、企業理念として「進取と共創。ガスで未来を拓く。The Gas Professionals」を掲げております。「私たちは、革新的なガスソリューションにより社会に新たな価値を提供し、あらゆる産業の発展に貢献すると共に、人と社会と地球の心地よい未来の実現をめざします。」このような思いを企業活動の基本方針とし、持続的な成長と企業価値の向上を目指します。
(2) 中長期的な経営戦略及び対処すべき課題
当社では、グループビジョンの実現に向けた中期経営計画として2023年3月期から2026年3月期までの4か年を対象期間とした「NS Vision 2026 - Enabling the Future」(以下「NS Vision 2026」という。)を策定し、現在この中期経営計画に基づいた事業運営を行っております。
当社グループを取り巻く事業環境においては、欧米での物価上昇や、政策金利の引き上げによる経済への影響が全世界的に波及する中、地政学上ではロシア-ウクライナ、中東情勢悪化などによる新たな調達ルートの開拓の必要性や迂回輸送による航行時間の延長、コスト増加などの影響を受けました。また、エネルギー価格の変動や労働力の不足等も継続している状況でしたが、当社はこれらのコスト変動に対して、グループ全体での製品の価格マネジメントの推進と生産性向上活動等の施策を積極的に行い対応してまいりました。
今後もこれらの地政学リスクやサプライチェーンの混乱、エネルギー価格の変動などについては引き続き注視し、適切に対処してまいります。また、生成AIの活用促進などによるデジタル化のさらなる進展や米中間の緊張が高まる中での半導体製造会社による新たな生産拠点の拡充への対応、気候変動リスクに対応した社会全体でのカーボンニュートラルへの取組みの加速なども想定され、中長期的視点に立った新たな事業機会の獲得やガバナンス体制整備にも対処していく必要があります。
NS Vision 2026では財務KPI目標のみならず、非財務KPI目標を新たに定め、以下5点を重点戦略として設定しておりますが、以上のような環境認識を踏まえ、個別の施策については、各々適宜見直しを行いながら計画を遂行してまいります。
① サステナビリティ経営の推進:当社は、当期より経団連による「生物多様性宣言・行動指針」に賛同し、同イニシアティブへ参画しております。環境分野では、引き続き当社グループの事業活動で排出される温室効果ガス削減に努めるほか、顧客への環境貢献製商品、サービス拡充に注力してまいります。また、保安・安全の確保、製品・サービスの品質向上、さらに社会から信頼される企業であり続けるための人権尊重の取組みや人財の多様性確保、コンプライアンス推進活動の充実と浸透に努め、持続可能な事業運営を推進しております。
② カーボンニュートラル社会に向けた新事業の探求:当社グループは、環境貢献製商品やソリューションの提供により、顧客の温室効果ガス排出削減に貢献いたします。当期は、工業炉向けの酸素-アンモニアバーナや酸素-水素バーナ、アンモニア分解水素精製技術等における自社の技術開発を促進するとともに、技術パートナーとの戦略的な関係構築に向けた提携や出資等を行っております。さらに、当社グループの取組みをまとめた専用のウェブサイトの拡充を進めています。引き続きカーボンニュートラル社会に向けた当社グループの取組みのさらなる対外発信の強化に努めてまいります。
③ エレクトロニクス事業の拡大:地政学リスクの高まりによる半導体のサプライチェーン見直しの動きに対応するため、半導体材料ガス及び関連機器生産拠点の見直しと生産能力の拡充を行っております。当期においては台湾での半導体材料ガス関連機器工場の拡充を行い、需要の拡大に対処いたしました。また、日本での最先端半導体製造の量産化を目指す顧客のパイロットラインへのガス関連工事施工及びバルクガス供給者に選定されましたが、これらの旺盛な大規模半導体工場の新設に必要となる超高純度空気分離装置の製品化に向けた取組みも進めております。
④ オペレーショナル・エクセレンスの追求:各事業会社では業務の生産性向上活動を強く推進し、利益の最大化を図ることに取り組んでおります。また当期においてはグループ内の連携を強化し、生産性向上活動の効果をさらに高めるべくオペレーショナル・エクセレンス推進プロジェクトを始動いたしました。各事業会社のベストプラクティスは、オペレーショナル・エクセレンス・デイというイベントで紹介し、各社の生産性向上の意識を高める事と併せて、プロジェクトの水平展開をより活性化するために個別のワーキンググループを設けてグループ一丸で活動を推進しております。
⑤ 新しい価値創出へとつながるDX戦略:各事業会社では、各生産性向上活動や、製品価格マネジメントを推進するためにデジタルデータを活用した事業モデルの高度化に取り組んでおります。B to Cビジネスであるサーモスでは顧客とのメンバーズサイトの拡充やお客様サポートにおけるAI活用など、顧客満足度、従業員満足度を向上する取組みにおいてもデジタル活用を推進しております。
4極の産業ガス事業では上記5つの重点戦略に共通して取り組む一方、地域固有の経営課題にも取り組んでおります。
・日本:引き続き収益力の強化に向け、事業ポートフォリオの見直しや各種収益率向上プログラムを実施するとともに、国内エレクトロニクス産業の拡大を受けた各種需要の獲得と安定供給に向けた設備拡張を進め、新規商品・サービスの強化を図ってまいります。また、ガス利用を基点としたイノベーションを実現し、新たな事業領域の探索・拡大を目指してまいります。
・米国:新規オンサイト事業の拡大、消費者物価の上昇に伴うプライシング活動の継続、コールドチェーンにおけるドライアイス需要獲得に向けた生産拠点の拡充等による事業密度向上を目指します。また、再生可能燃料を原料とする大規模水素製造プラントプロジェクト等、大型設備投資の円滑な遂行を図ってまいります。
・欧州:食品、医療、金属加工などのレジリエンス市場に注力するとともに、欧州エレクトロニクス市場の拡大を受け、関連製品の需要獲得に向けた対応を進めます。また域内における環境関連でのビジネス機会獲得を目指しており、酸素燃焼技術領域の拡大とバイオメタン市場の拡大に向けた案件獲得活動を促進してまいります。
・アジア・オセアニア:大型オンサイト案件の獲得や空気分離装置の能力増強、域内での成長拡大余地の大きいエレクトロニクス市場に対する製品の拡充に取り組んでおります。また、エアセパレートガスのみならず、炭酸ガスなどの各種工業ガスの生産拡大にも取り組んでまいります。同地域においては今後も高い経済成長が見込まれていることから、引き続き新商材や事業エリアの拡大に注力するとともに、各事業会社の収益力強化に向けた生産性向上活動の浸透を図ってまいります。
また、当社グループ唯一のB to Cビジネスであるサーモス事業では、新商品を積極的に投入するとともに、機動的な広告宣伝並びに店頭プロモーションを実施することにより需要の底上げを目指します。また、販売チャネルの多角化を図るため、直営店拡大と電子商取引を拡大しております。
財務目標
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実績 (2024年3月期) |
NS Vision 2026最終年度目標 (2026年3月期) |
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売上収益 |
12,550億円 |
9,750~10,000億円 |
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コア営業利益 |
1,659億円 |
1,250~1,350億円 |
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EBITDAマージン(注1) |
グループ:22.2% 各セグメント:14.8~30.5% |
グループ:≧24% 各セグメント:≧17~33% |
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調整後ネットD/Eレシオ(注2) |
0.74 倍 |
≦0.7 倍 |
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ROCE after Tax(注3) |
6.7% |
≧6% |
(注)1.EBITDA(Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization)
コア営業利益に減価償却費及び償却費を加えて算出される利益です。国・地域により、金利水準、税率、減価償却費などに差異がありますが、この指標ではその差異を最小限に抑え、利益額を表示します。
2.調整後ネットD/Eレシオ
財務の安全性を示す指標であり、(純有利子負債-資本性負債)/(親会社の所有者に帰属する持分+資本性負債)で算出する比率です。
なお、格付機関により、ハイブリッドファイナンスで調達した金額(調達時2,500億円)のうち各連結会計年度末における残高の50%を「資本」として認められており、当社内ではこれを資本性負債と呼称しております。
3.ROCE after Tax (Return on Capital Employed after Tax:使用資本税引き後利益率)
[NOPAT:税引き後コア営業利益(+受取配当金)]((コア営業利益-コア営業利益に含まれる持分法による投資損益)×(1-実効税率)+コア営業利益に含まれる持分法による投資損益+受取配当金)/[使用資本](有利子負債+親会社の所有者に帰属する持分)で算出する収益性指標です。
非財務目標
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NS Vision 2026最終年度目標 (2026年3月期) |
ご参考:長期目標 (2031年3月期) |
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GHG総排出量削減(注4) |
18% |
32% |
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GHG排出量に関する考え方 |
当社グループが販売する環境貢献製商品によるGHG削減量>当社グループGHG総排出量 |
- |
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休業度数率(連結)(注5) |
≦1.6 |
- |
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女性従業員比率 |
≧22% |
25% |
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女性管理職比率 |
≧18% |
22% |
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コンプライアンス研修受講率 |
100% |
- |
(注)4.欧州事業買収が完了した2019年3月期の実績を補正し基準年度として、該当年度の削減目標を設定しま
す。
5.休業度数率
労働災害の発生頻度を表す指標であり、休業災害被災者数÷延べ労働時間×100万時間で算出します。
6.2023年3月期の実績については、「第2 事業の状況 2.サステナビリティに関する考え方及び取組 (1)サステナビリティ全般 ④ 指標及び目標」をご参照ください。
当社はグループ理念に「進取と共創。ガスで未来を拓く。The Gas Professionals」を掲げており、革新的なガスソリューションにより社会に新たな価値を提供し、あらゆる産業の発展に貢献すると共に、人と社会と地球の心地よい未来の実現に貢献することを目標にしています。その実現の第一歩として、上記に掲げた課題に取り組んでまいります。
当社グループは、「革新的なガスソリューションにより社会に新たな価値を提供し、あらゆる産業の発展に貢献すると共に、人と社会と地球の心地よい未来の実現をめざします。」というビジョンのもと、ステークホルダーの皆様とのコミュニケーションを大切にし、サステナブルな成長及び企業価値のさらなる向上をめざしていきます。
なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末(2024年3月31日)現在において当社グループ(当社及び連結子会社)が判断したものであります。
(1)サステナビリティ全般
① ガバナンス
当社グループは、取締役会の決議により、当社グループが社会から信頼され、持続的に発展していけるよう、サステナビリティに関わる各種方針を制定し、開示しています。取締役会の決議にもとづきグローバル戦略検討会議、グローバルリスクマネジメント会議、グローバル・コンプライアンス・コミッティを設置し、これらの会議を通じて、各種方針に基づいたサステナビリティに関わる当社グループの具体的な対応を検討しています。
≪グローバル戦略検討会議≫
グローバル戦略検討会議は原則年1回開催され、代表取締役社長 CEO(Chief Executive Officer)を議長とし、執行役員、室長、監査役及び議長が指名する者で構成されています。当社グループの次年度予算の決議を行う前に、グローバル戦略検討会議にて、各事業会社の戦略について詳細を確認するとともに、当社グループ全体での最適な資源配分についての審議を行っています。また、当社グループの経営戦略の策定及び進捗管理を行います。中期経営計画を策定し、当該計画達成のため、GHG排出量目標などの非財務を含めた財務・非財務の定量的・定性的目標を設定し、定期的なモニタリングを通じて業績管理を行います。グローバル戦略検討会議で決定された事項のうち技術リスクに関する事項については、当社と各事業会社間で開催する技術リスク連絡会議などで具体的な対応策が決定され、グローバルに展開しています。
≪グローバルリスクマネジメント会議≫
グローバルリスクマネジメント会議は原則年1回開催され、代表取締役社長 CEOを議長とし、執行役員、室長、監査役、グループCCO(Chief Compliance Officer)、地域リスクマネジメント統括責任者及び議長が指名する者で構成されています。事業環境の変化の認識と企業価値の向上と毀損の両面からリスクの特定・評価を実施し、当社グループの重要リスクの選定、対応に関する事項、全社的なリスクマネジメントの基本方針、規程及び計画に関する事項などについて審議を行います。グローバルリスクマネジメント会議の詳細については、
≪グローバル・コンプライアンス・コミッティ≫
グローバル・コンプライアンス・コミッティは原則年1回開催され、グループCCOである議長と日本及び海外全7地域で任命された地域CCOで構成されています。当社グループのコンプライアンス推進と実効性の確保を目的に開催され、コンプライアンス推進方針及び各地域でのコンプライアンス違反事案、訴訟事案、コンプライアンス教育の実施状況報告を行うとともに、必要に応じて個別の課題などに関する審議を行います。審議事項には、当社グループ行動規範、方針の改廃、計画、内部通報制度の運用上の課題に関する事項などが含まれます。
≪サステナビリティ統括室≫
当社グループでは、CSO(Chief Sustainability Officer)の統括の下、「サステナビリティ統括室」が戦略やリスクの審議・策定をはじめ、サステナビリティに関わる活動全般について推進しています。
サステナビリティに関する取組みなどの活動については、取締役会で適宜、報告しております。
当社グループのサステナビリティに関するガバナンス体制図は、以下のとおりです。当社グループのサステナビリティの推進活動の充実・浸透を目的に、グローバル戦略検討会議を補完する会議体として、サステナビリティ推進委員会を2023年7月より新設いたしました。また、2024年4月より日本及び海外各地域に地域CSOを置き、各事業会社とのサステナビリティに関する議論・取組みを推進しています。
(図表1)サステナビリティに関する「ガバナンス体制図」
表:取締役会での主な非財務関連事項 報告・検討議題
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2024年3月期 |
・非財務関連実績報告 ・非財務KPI(NS Vision 2026)進捗報告 ・各事業会社の非財務プログラム進捗報告 |
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・CDP回答方針の報告 |
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・MOS(Management of Sustainability)指標の次年度目標及び前年度実績報告 |
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・取締役報酬に連動する非財務KPIの達成度報告 |
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・インターナルカーボンプライシング導入に関する報告 |
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・グローバル戦略検討会議及びグローバルリスクマネジメント会議報告 |
② 戦略
地球規模での環境問題やさまざまな社会課題の解決が求められる中で、企業活動においてもSDGsに代表されるようなサステナビリティへの取組みの重要性が増しています。このような状況の下、当社は2022年4月にスタートした中期経営計画「NS Vision 2026 - Enabling the Future」(以下、「NS Vision 2026」という。)の策定にあたり、企業存立の前提となる人権の尊重、保安安全、企業倫理という3項目を含め、24項目の新たなマテリアリティ(重要課題)を特定しました。当社グループは、革新的なガスソリューションの提供により、人と社会と地球の心地よい未来の実現に向け、新しいマテリアリティを踏まえた取組みを推進していくことで、サステナブルな成長及び企業価値のさらなる向上をめざしていきます。
当社グループのマテリアリティの特定プロセス及びマテリアリティは、以下のとおりです。
《マテリアリティ特定プロセス》
Step1:課題の抽出
GRIガイドライン、国連グローバル・コンパクト、ISO26000などの国際的ガイドライン、SDGsやESG評価機関の評価項目を参照し、当社の事業活動に関係する環境、社会課題を抽出
Step2:社内アンケートとマテリアリティ候補の特定
グローバルでの従業員アンケートを実施し、各リージョン事業との整合、妥当性の確認及び「ステークホルダー」及び「自社」2軸での重要度を定量評価
Step3:社内議論と確定
絞り込んだ重要課題及びその優先順位付けについて経営会議、グローバル戦略検討会議及び取締役会においてその妥当性の議論、総合的評価を実施し、マテリアリティ・マトリックスを作成
Step4:承認
取締役会での承認を得て、特定
(図表2)マテリアリティ
③ リスク管理
当社グループでは、当社グループ全体でリスクの管理体制を構築し、サステナビリティ関連の機会・リスクをマネジメントしています。具体的には、年1回開催するグローバル戦略検討会議及びグローバルリスクマネジメント会議において、サステナビリティ関連リスクの特定・評価を行っています。また、グローバル戦略検討会議では、各事業会社の機会についても議論・共有しています。これらの機会・リスクについては、サステナビリティ統括室が事務局を担当する、当社と各事業会社間で開催する技術リスク連絡会議などで具体的な対応策が決定され、グローバルに展開しています。
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会議体 |
リスクの特定・評価、マネジメントのプロセス |
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• グローバル戦略検討会議 • グローバルリスクマネジメント会議 • グローバル・コンプライアンス・コミッティ • 技術リスク連絡会議 |
• 長期リスクの早期発見とその顕在化の防止、また顕在化したときに迅速な対応ができるよう、当社グループ各社でリスク管理体制を構築 • リスクの重要度は、発生頻度×財務又は戦略面への影響度により決定 • 年1回開催のグローバル戦略検討会議(議長:CEO)により、事業に関する財務又は戦略面での影響を決定 • 年1回開催のグローバルリスクマネジメント会議(議長:CEO)により、事業環境の変化の認識と企業価値の向上と毀損の両面からリスクの特定・評価を実施し、重要リスクを選定 • グローバル・コンプライアンス・コミッティ(議長:グループCCO)において、コンプライアンスに関する重大なリスクを特定・評価し、各地域の施策に反映 • グローバル戦略検討会議で決定された事項は、当社と各事業会社間で開催する技術リスク連絡会議で具体的な対応策が決定され、グローバルに展開 |
④ 指標及び目標
当社グループは、特定したマテリアリティに対して、当社グループ全体で取り組む8つの非財務プログラムを策定しました。「NS Vision 2026」において、これら8つのプログラムの推進による取組みの強化、充実を図っていくことで、持続可能な社会の実現に貢献していきます。この取組みを進めるにあたり、非財務目標を設定し、各指標について毎年の進捗をモニタリングすることで、マテリアリティへの取組みを着実に推進してまいります。
2024年3月期実績は、2024年9月以降に当社ウェブサイト上で公表する
8つの非財務プログラムと非財務目標
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プログラム名 |
取組み内容 |
非財務目標 |
NS Vision 2026 最終年度目標 (2026年3月期) |
2023年3月期実績 |
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Carbon Neutral Program Ⅰ |
当社グループのGHG排出量の削減 |
GHG総排出量削減(注1) |
18% |
12.3% |
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Carbon Neutral Program II |
環境貢献製商品による顧客のGHG削減 |
GHG削減貢献量 |
当社グループが販売する環境貢献製商品によるGHG削減量>当社グループGHG総排出量 |
7,308>5,868千t-CO2e |
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Safety First Program |
休業災害度数率の低減 |
休業度数率(連結)(注2) |
≦1.6 |
1.56 |
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Talent Diversity Program |
多様な人財活用の推進 |
女性従業員比率 |
≧22% |
19.9% |
|
女性管理職比率 |
≧18% |
14.5% |
||
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Compliance Penetration Program |
コンプライアンス教育の実施と徹底 |
コンプライアンス 研修受講率 |
100% |
99.7% |
|
Zero Waste Program |
廃棄物の排出削減 |
- |
- |
- |
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Sustainable Water Program |
水資源の有効活用 |
- |
- |
- |
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Quality Reliability Program |
品質・信頼性の向上をめざした取組み |
- |
- |
- |
(注)1.欧州事業買収が完了した2019年3月期の実績を補正し基準年度として、該当年度の削減目標を設定します。
2.休業度数率
労働災害の発生頻度を表す指標であり、休業災害被災者数÷延べ労働時間×100万時間で算出します。
(2)気候変動への対応
当社グループは、人と社会と地球の心地よい未来の実現に向け、環境負荷低減や省エネルギー活動の推進、GHG排出量削減に貢献する製商品の拡大に取り組んできました。そして、2019年11月にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への賛同を表明し、情報開示を進めてまいりました。今後も、新しいマテリアリティの一つである「気候変動の緩和と適応」を推進し、TCFDの提言に沿った情報開示を実施していきます。
〔TCFDに沿った情報開示〕
① ガバナンス
気候変動への対応にかかわるガバナンスに関しては、
② 戦略
当社グループでは、気候変動の事業への影響を把握し、気候変動の機会・リスクに対する当社グループ戦略のレジリエンスを評価することを目的として、シナリオ分析を実施しています。
「移行シナリオ(2℃未満シナリオ)」、「物理的気候シナリオ(4℃シナリオ)」による短期(~2025年)・中期(2025~2030年)・長期(2030~2050年)の時間軸を考慮し、機会・リスクの洗い出しを行い、各リージョンでの主にガスビジネスにおけるこれらの機会・リスクに対して〔影響を受ける可能性〕×〔影響の大きさ〕の指標を基に評価を行いました。当社グループにとって財務的に大きなインパクトを与えるマイナスの影響をリスクととらえ、プラスの影響を機会ととらえています。
「移行シナリオ」では、国際エネルギー機関(IEA)のSustainable Development Scenario(SDS)、「物理的気候シナリオ」では、国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次評価報告書(2014年発表)による地球温暖化シナリオ(RCP8.5)を参考にし、インパクト分析を行いました。
なお、シナリオ分析により特定した事業機会を獲得していくために、代表取締役社長 CEOを議長としたカーボンニュートラルステアリングコミッティを組織し、グローバルメンバーで構成されたカーボンニュートラルエグゼクティブチームのもと、各事業会社がカーボンニュートラル社会の実現に向けた取組みを推進しています。
当社グループの機会・リスクを整理し、調達、操業、製品・サービスにおいて考えられるインパクトを分析、統合化した結果は「図表3 TCFDシナリオ分析」のとおりです。
(図表3)TCFDシナリオ分析
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タイプ |
気候変動 |
評価 |
事業リスク |
事業機会 |
当社の対応 |
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移行 |
政策規制 |
カーボンプライシング制導入 |
大 |
〈中長期〉 ・税負担の増加による収益減少 |
〈中長期〉 ・早期対応の差別化による事業機会獲得 |
・PPAやグリーン電力証書による再生可能エネルギーの導入拡大 |
|
技術 |
低炭素な代替製品への置換・省エネの進展 |
中 |
〈中長期〉 ・低炭素製品選別による既存商材の売上減少 |
〈短中期〉 ・省エネによる収益幅増大 ・低炭素化に資する既存製品の需要拡大 〈中長期〉 ・低炭素化に寄与する環境貢献商材の事業機会拡大 |
・環境貢献商材の開発促進 ・DX技術の導入などの生産性改善による省エネルギー化促進(SAITEKI導入、配送最適化) |
|
|
市場 |
市場ニーズの変化 顧客の事業活動の変化 |
大 |
〈長期〉 ・既存顧客である鉄鋼・化学セクターのプロセス変更に伴う売上減少 ・水電解プロセスの需要拡大に伴う副生O2ガスを活用した新規参入による売上減少 |
〈中長期〉 ・ブルー/グリーンH2需要の拡大 ・グリーン燃料の需要拡大 ・CCUSに向けたCO2回収需要の拡大 |
・カーボンフリー(H2、 NH3)燃焼技術の導入推進/拡大 ・酸素燃焼の利用拡大 ・CCUSに対応した中規模CO2回収需要の獲得 ・HyCO事業によるH2供給事業の拡大 ・環境貢献商材の拡販 |
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評判 |
業界批判 |
大 |
〈中長期〉 ・GHG排出企業への投資家評価低下 |
〈中長期〉 ・GHG削減貢献を示すことで安定した資金調達の継続 |
・ ・非財務情報の開示促進 |
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物理 |
急性 |
災害の激甚化 台風頻発 豪雨・干ばつ |
中 |
〈中長期〉 ・異常気象に伴う災害による工場の操業停止 ・支払保険料の増加 |
- |
・災害対策の推進 ・保険の活用 |
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慢性 |
海面上昇 平均気温の上昇 |
小 |
〈長期〉 ・気温上昇に伴う空気分離装置のランニングコスト増による収益幅縮小 |
〈中長期〉 ・疾病治療に対する医療製品の需要拡大 |
・老朽化の進んだ空気分離装置のリプレースによるランニングコスト低減 ・医療用酸素などの提供 |
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③ リスク管理
気候変動への対応にかかわるリスク管理に関しては、
④ 指標及び目標
当社グループは、カーボンニュートラル社会の実現を目指し、2050年までに当社グループのGHG総排出量の実質ゼロに取り組んでいます。「NS Vision 2026」では、2019年3月期を基準値とした当社グループのGHG総排出量削減目標を設定し、カーボンニュートラル社会への移行を推進しています。
2024年3月期実績は、2024年9月以降に当社ウェブサイト上で公表する
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Scope1・2 |
単位 |
2019年3月期 (基準年) |
2023年3月期 (実績) |
2026年3月期 (目標) |
2031年3月期 (目標) |
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GHG総排出量実績 |
千t-CO2e |
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- |
- |
|
GHG量削減率 (基準年対比) |
% |
- |
△12.3 |
△18 |
△32 |
Scope1:事業者が所有又は管理する排出源から発生する温室効果ガスの直接排出
Scope2:電気、蒸気、熱の使用に伴う温室効果ガスの間接排出
(注)基準値である2019年3月期のGHG排出量は、
GHG排出量(千t-CO2e)
また、当社グループでは、2026年3月期までに当社グループが排出するGHG排出量を上回るGHG削減貢献量を計上する目標に取り組んでいます。2023年3月期時点で、目標はすでに達成済みであり、2026年3月期まで維持継続を目指していきます。
〔目標〕(環境貢献製商品(※)によるGHG削減貢献量)>(当社グループのGHG総排出量実績)
(※)SF6回収サービス、燃焼式排ガス処理装置、SCOPE-JETⓇ、エムジーシールド、レーザー加工用窒素ガス供給システム(PSA)、サーモスシャトルシェフ、水素ステーション、新冷媒、高炉/電炉の酸素富化燃焼、Ar溶接
集計範囲:日本、米国、欧州、アジア・オセアニアの連結子会社。なお、GHG削減貢献量実績には大陽日酸㈱の一部の関連会社を含んでいます。
「温室効果ガス削減貢献定量化ガイドライン(経済産業省2018年3月)」等に基づいて算定。
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単位 |
2023年3月期 (実績) |
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GHG総排出量実績 |
千t-CO2e |
5,868 |
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GHG削減貢献量実績 |
千t-CO2e |
7,308 |
(3)人的資本に関する開示
当社グループの事業は、世界各地で活躍する約2万人の社員一人ひとりの能力発揮により営まれています。世界4極で展開する産業ガス事業グループ各社とサーモスグループに企業理念とグループビジョンのさらなる浸透を図り、グローバルで共通の価値観を持った人財を育成していくことで、当社グループのさらなる発展と「NS Vision 2026」の実現を目指しています。
① 基本的な価値観
当社グループは、2021年2月に「人権の尊重と地域社会への貢献並びに雇用・労働・健康に関するグローバル方針」を制定し、すべてのグループ役員・従業員が本方針並びにグループ行動規範の下で、人権の尊重や適切な労働環境の整備などを通じて、企業としての社会的責任を果たすよう、社内研修等の機会を通して意識付けを行っています。
また、当社グループはグループ理念タグラインとして「The Gas Professionals」を掲げています。グローバルに事業を展開する産業ガスメーカーとして社会的貢献を果たしたいという使命感を持つ人財の育成に取り組んでいます。その育成の際に大切にしている価値観が「体・徳・知」です。これは当社の前身、旧大陽日酸㈱の時代から脈々と受け継がれてきたものでサーモス事業にも共通する価値観です。海外のグループ会社においても、「体・徳・知」のエッセンスを踏まえて各社独自の価値観を加味するなど理解しやすい形で共有されています。
② 持続的成長のための人財育成戦略
「NS Vision 2026」では、5つの重点戦略の一つであるサステナビリティ経営の推進における施策の一つとして、持続的成長のための以下3点の人財育成戦略を当社グループ全体で取り組む人財戦略として掲げて推進しています。
1. 多様な人財の受入れ及び働きやすさの確保
変化の激しい事業環境や労働市場等に対応し、「NS Vision 2026」で掲げた5つの重点戦略やセグメント別戦略等を実現していくためには、性別や国籍に関係なく、またさまざまな経験を持つキャリア採用者など多様な人財の確保とその能力を十分に発揮できるよう働きやすい環境の整備が必要です。
多様な人財の受入れのうち、女性活躍については、主に勤務形態を含む職場・就業環境に起因する要因から日本を含む一部の地域で取組みが遅れていることを踏まえ、「NS Vision 2026」の最終年度(2026年3月期)の当社グループ全体の定量的な目標値を定めて取組み(※)を進めています。
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2023年3月期 (実績) |
(目標) |
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(※)取組み具体例
相対的に女性活躍が進んでいる欧州では、2021年から将来的に経営幹部の役割を担う意欲のある女性管理職の社内認知度向上や能力開発を支援するメンターシッププログラムを開始するとともに、女性間の社内ネットワーク活動を推奨・支援する取組み等を推進しています。
一方、取組みが遅れていた日本では、大陽日酸㈱において、社内意識調査やインタビュー等の活動をもとに導き出された女性活躍推進プロジェクトの提言から、会社と全ての社員が一体となり女性を含む多様な人財が活躍できる企業風土を醸成することが急務であるとの認識に立ち、社長メッセージや社内報による積極的な情報発信並びに経営層を皮切りにしたアンコンシャスバイアス研修を開始しました。また、2024年4月にはプロジェクト型組織からダイバーシティ&インクルージョン推進室へ組織と人員を強化し、教育研修、コミュニケーション、制度整備など実行フェーズの取組みを加速させています。
また、あらゆる人財が能力を十分に発揮できる働きやすい環境であるか、企業理念やグループビジョンは浸透しているかなど、当社グループ従業員と会社との間のエンゲージメントの強さを測定する手段として、2022年度よりグループエンゲージメント調査を実施しております。2023年度の調査では前回調査後にグループ各社がエンゲージメント向上の改善アクションに取り組んだ結果として、エンゲージメントレベルは前年度と比較して全体的に向上し、特に、企業理念やグループビジョンに関するレベルは大きく向上しました。今後も、調査から聞こえてくる「社員の声」やその変化に定期的に耳を傾け、社員が働きやすい環境を整備し、能力発揮の支援に繋げてまいります。
2. 地域を超えた人財交流の促進
イノベーションを生み、仕事の生産性を向上させるためには、人財交流は非常に有効な手段といえます。消費地立地のビジネスモデルである産業ガス事業では、長い間それぞれの国・地域で続けてきた仕事のやり方をより良い方向に転換していくためには、異なる価値観や経験を持った人が互いに意見を出し合い、新たな気付きを持つことが必要です。当社グループでは、すでに各事業会社の優れた取組みを他の国・地域の事業会社へ共有して生産性向上によるグループ総合力強化に大きな成果を出しています。
また、当社グループ全体で取り組むべき共通の課題への対応には、事業会社の枠を超えて、それぞれの分野で専門的な知見や経験を持つ世界中の優秀な人財が集まって施策に繋げることができるように、ネットワークや組織を構築することが有効です。当社グループでは、すでにグローバルITセキュリティ分野やカーボンニュートラル等のプロジェクトにおいてこのような体制を組んでいます。
さらに、地域を超えた人財交流はこのような事業面の効果のみならず、当社グループを将来牽引していくべきグローバル人財に必要なコミュニケーション力・主体性・積極性・異文化理解等のスキルやマインドを会得・醸成する機会としても非常に有効であると認識しており、あらゆる形態で人財交流を積極的に推進してまいります。
3. 後継者育成計画の強化
当社グループのガバナンス体制において、次世代経営者の育成は重要な課題であると認識しています。現在、指名・報酬諮問委員会で次世代経営者の育成計画について議論を重ねており、当社グループに必要となる次世代経営者の資質や育成計画について検討を続けています。当社グループは世界各国で事業を展開しており、グローバルな経験と事業知識を持つ人財を育成していく必要があることから、当社グループ各社の育成計画とも連携させて次世代経営者の育成に取り組んでいきます。
③ 人財育成戦略を実現するための体制
上記グループ全体で取り組む人財戦略を推進するため、グローバル戦略検討会議等においてグループ会社に施策を共有して理解を得ながら一体となって取組みを進めていきます。
また、世界各地に展開するグループ会社は、展開する国・地域ごとの労働関係法規や文化・慣習に沿ってそれぞれが直面しているさまざまな人事課題に対応しながら、各社の人事施策に関する先進事例や取組みを定期的に開催されるグループ人事責任者会議において相互に共有しグループ総合力の強化に貢献をしております。
(1)当社グループのリスクマネジメント体制
当社グループは、2020年10月の純粋持株会社体制への移行を機に、よりグローバルな視点に基づく、全社的なリスクマネジメント体制を構築いたしました。「グローバルリスクマネジメント会議」を中心に、グループにおける役割と責任を明確化し、経営上のリスクを中長期視点から評価し、リスクマネジメント活動の最適化を図っています。
代表取締役社長 CEOは、「グローバルリスクマネジメント統括責任者」として、全社的なリスクマネジメント体制の整備・運用に関する最終的な責任を担います。また、各事業会社社長等は「地域リスクマネジメント統括責任者」として、所管する地域のリスクマネジメント体制の整備・運用に関する責任を担います。地域リスクマネジメント統括責任者のもとには、「地域リスクマネジメント推進担当者」をおき、各地域のリスクマネジメントを推進しています。
「グローバルリスクマネジメント会議」は同時期に開催される「グローバル戦略検討会議」と連携し、グループ全体の事業戦略をリスクと機会の両面から捉えることに努めています。また、「グローバルITセキュリティ評議会」、「グローバルコンプライアンスコミッティ」ともリスク情報を共有しながら、全社的なリスクマネジメント活動を推進しています。当社グループのリスクマネジメントの体制図は、図表1をご参照ください。
(図表1)当社グループのリスクマネジメント体制図
(2)リスクマネジメントのプロセス
当社グループでは、事業を取り巻く外部環境・内部環境の変化をリスクと機会の両面から特定・評価します。リスク評価にあたっては、様々な国・地域・領域で事業を展開する事業会社のリスクと、持株会社としての当社のリスクをグループ共通の枠組み(リスクカテゴリ、リスク定義、リスク評価基準)で評価します。
グループ全体のリスク評価結果に基づき、「グローバルリスクマネジメント会議」にて、リスク認識、リスク対応を共有し、当社グループの重要リスクを選定します。経営トップの判断のもと、リスクの優先順位、対応方針を定め、重要リスク低減に向けた活動をグループ全体で推進してまいります。
リスクマネジメントプロセスは、「当社及び事業会社におけるリスクマネジメントプロセス」と、当社グループとして特に優先して組織的な対応が必要である「重要リスクに関するリスクマネジメントプロセス」があり、いずれもリスクの特定、リスクの評価、リスク対応方針の決定、リスク対応策の決定、リスクへの対応、モニタリング・見直しで構成されます。
また、事業環境の変化が著しい昨今は、変化に応じたリスク対応の強化・見直しが必要となります。当社グループでは、各事業会社とグローバルリスクマネジメント推進事務局が「リスクマネジメント連絡会」を定期的に開催し、事業環境の変化や、それに応じたリスク対応の強化・見直し等のモニタリングを実施し、リスク情報とベストプラクティスの共有を図っています。
(3)グローバルリスクマネジメント会議
当社グループは「グローバルリスクマネジメント会議」を原則年1回開催します。グローバルリスクマネジメント会議は、当社代表取締役社長 CEOを議長とし、執行役員、室長、監査役、グループCCO、地域リスクマネジメント統括責任者及び議長が指名する者で構成し、当社グループの重要リスクの選定、対応に関する事項、全社的なリスクマネジメントの基本方針、規程、及び計画に関する事項等について審議を行います。
当社グループの重要リスクの選定にあたっては、グループ共通のリスク評価基準である「発生頻度」(5段階)「影響度」(5段階)とともに、以下図表2の考え方を踏まえて検討します。
(図表2)当社グループの重要リスク選定の考え方
2023年度のグローバルリスクマネジメント会議では、昨年度の重要リスクテーマ、そしてこの1年間の環境変化を踏まえ、以下を当社グループの重要リスクテーマとして選定しました。
1.外部環境・内部環境の変化
地政学リスク・サプライチェーン、法規制、カーボンニュートラル
2.基盤事業の維持・強化
合弁事業におけるコーポレートガバナンス、技術開発の連携強化
3.上記を支える人材の確保・育成
人材不足、後継者計画
上記の重要リスクテーマごとに各事業会社、NSHD各室におけるリスク認識、リスク対応策を比較し共有しました。特に深刻さを増している地政学リスク、サプライチェーンリスクの他、技術開発の連携強化等について議論し、当社グループ全体でリスク対応を推進していくことを確認しました。それぞれの事業環境により、リスク認識、リスク対応策は異なりますが、その背景と違いを理解し、リスクを多面的に捉えることにより、当社グループにおけるリスクマネジメント活動の更なる向上を図ります。
今後も当社と各事業会社が連携しながら、重要リスクテーマの対応状況の確認や、リスク低減に向けた取組みを進めてまいります。上記を踏まえた当社グループの「事業等のリスク」は以下のとおりです。
(4)事業等のリスク
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあります。なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末(2024年3月31日)現在において当社グループ(当社及び連結子会社)が判断したものであります。
(1) 経営戦略・事業に関するもの
① グローバル事業展開について
当社グループは、現在、日本、米国、欧州、アジア・オセアニアの4極で、グローバルに事業を展開しております。各国における事業運営は、これらの国・地域における市場動向、政治、経済、慣習、宗教、テロ、紛争、大規模災害その他の要因によって、当社グループの事業活動、経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。当社は各地域を統括する事業会社との意思疎通と情報共有を進め、迅速な意思決定に努めております。
② 設備投資について
当社グループは、各国に工業ガスの製造拠点を有しており、大口顧客向けには、顧客の敷地・隣接地に空気分離装置等を設置し、パイピングによるガス供給(オンサイトプラント方式)を行っております。また、新たな分野を含め、今後ともビジネスチャンスの獲得に向けた投資を進めてまいりますが、産業構造、及び需要動向の変化による鉄鋼、化学、石油精製、半導体、自動車等、主力顧客の操業率の低下や、生産拠点の統廃合や移転などにより、当社グループの製造設備の稼働率が低下し、或いは設備の全部又は一部が不要になり、かつ、契約による補償でカバーできない場合には、設備の除却損等の発生により、当社グループの経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
③ 製造コストについて
主力の酸素、窒素、アルゴンの製造コストのうち大きな割合を占める電力コストは、原油やLNG価格の世界的な高騰を受けて大幅に上昇しており、主力製品の製造コストは高止まりが継続しております。それに対し、販売価格への転嫁を実施しておりますが、製造コストの上昇が継続し、転嫁が充分に行えない場合には、経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
また、各国の電力エネルギー市場は、電源構成の大幅な変動による大きな影響を受け、製造コストへの影響は予測が困難であり、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
④ サプライチェーンについて
当社グループが取り扱う産業ガス製品には、各種成分を混合させて製造する半導体特殊材料ガスや、産出される天然ガス田の大半を北米や中東が占めるヘリウムガスなど、グローバルなサプライチェーンが不可欠な製品があります。これらの製品は、生産状況の変動や生産国における地政学リスクの高まりによって、また近年の世界的なコンテナ不足や海上輸送状況の変動によって、お客様への安定供給に支障が生じるリスクがあり、支障が生じた場合、当社グループの事業活動及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
⑤ 情報セキュリティについて
当社はグループ全体でグローバル化とデジタル化への取組みを進めておりますが、一方でサイバー攻撃はますます巧妙化しており、当社及び当社グループ会社において業務の中断やデータの不正流出など、予期せぬ状況や損害が発生する恐れがあります。当社はこうした情報セキュリティリスクに対処するため、「グローバルITセキュリティ評議会」を設置し、サイバーセキュリティ等に関するコントロールを組織全体に導入しています。またシステムやネットワーク内の脆弱性や潜在的な侵入箇所を特定する目的で、包括的なリスク評価を実施しています。
⑥ 気候変動について
地球温暖化等環境課題に関する取組みや気候変動等のリスクを開示する要請が高まっています。当社グループは、全社的に環境マネジメントを推進し、2019年11月に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」賛同を表明しました。TCFD推奨事項に沿った開示を拡充していくことで、気候変動等に関するリスク及び機会の分析を進めております。
例えば、炭素税や排出権取引に代表される温室効果ガス排出にかかわる規制及び制度が導入された場合、間接的な温室効果ガス排出量が多い事業における税負担により利益が減少する可能性があります。そのため、エネルギー効率の向上、再生可能エネルギーの利用促進と電力のグリーン化、CO2回収とカーボンオフセット等の対応を進めてまいります。また、環境負荷低減にかかわる商材への切り替えや、鉄鋼・化学セクターにおける低環境負荷な製造プロセスへの変更を踏まえ、カーボンフリー(水素:H2/アンモニア:NH3)燃焼技術の導入及び拡大を図っております。
気候変動に関する当社の取組みについては、「第2 事業の状況 2.サステナビリティに関する考え方及び取組」にて、詳細に記載しております。
⑦ 法規制等について
当社グループは、日本、米国、欧州、アジア・オセアニアにおいて事業を展開しておりますが、各国において予想外の法規制の変更、法律・規則の制定や行政指導があった場合、対応コストの発生により経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
また、当社グループは、国内外において環境に配慮した事業活動を行っておりますが、環境関連法規の改定によって規制強化が図られた場合には、対応コストの増大により経営成績に影響を及ぼす可能性があります。また、当社グループは各国において輸出を規制する法律・規則の対象となる製品・サービスの輸出を行っております。国際情勢の変化により各国の輸出規制が強化された場合には、特定の国もしくは企業への製品・サービスの輸出が減少する可能性があります。この場合には輸出の減少により経営成績に影響を及ぼす可能性があります。また、国際情勢の変化により、当社グループが製品を輸入している特定の国もしくは企業が各国の法律により制裁対象となることがあります。その場合には当該製品の輸入を行うことができず、経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
さらに、当社グループは、国内外において事業を遂行する上で、産業ガス事業を規制する法律・規則だけでなく、競争法や環境保護又は輸出規制等に関する法規を担当する規制当局による調査を受けるリスクを有しており、調査の結果、罰金の支払命令、事業の停止命令、許認可の取消等の当社グループに不利益な決定がなされた場合、当社グループの事業展開、経営成績、財政状態及び信用に重大な影響を及ぼす可能性があります。
⑧ 人財について
当社グループは現在、日本、米国、欧州、アジア・オセアニアの4極で、グローバルに事業を展開しております。各地域の事業運営には安定的に労働力を確保することが不可欠であり、目標達成には、生産、エンジニアリング、マーケティング、販売、物流、管理等の各機能や経営全般を担う人財や関連法規で要求される資格や技能を有した人財、さらにグループ総合力の強化の取組みを促進するため、グローバルな視点をもった人財が必要です。そのため、多様な人財を受け入れる職場環境を醸成する施策や従業員のエンゲージメントを向上させる施策をグループ全体で促進し、人財の定着、及び採用の競争力向上に努めています。
⑨ 技術開発について
当社グループは、積極的な技術開発活動を行い、今後の事業拡大を目指しておりますが、新製品・新技術の開発にはリスクが伴います。例えば、商品化や事業化までに長い期間を要するような場合、関連市場の状況の大きな変化により、市場投入のタイミングを逸してしまう可能性や、他社の新技術・新製品、代替製品により当社グループ製品の競争力が低下する可能性があります。当社グループでは、各開発プロジェクトの進捗と市場環境の変化に合わせて、適時プロジェクトの見直しを図っています。また、グループ内で情報共有を行い、技術開発活動に反映することで、当社技術の競争力向上に努めています。
(2) 技術・保安に関するもの
当社グループは、保安、環境、品質・製品安全、知的財産に係るリスクを技術リスクとして定義し、原則年1回開催する「グローバル戦略検討会議」の中で、各事業会社の取組み状況を確認し、持株会社としての取組み方針を決定しています。また、当社と各事業会社の保安、環境、品質保証、知的財産の責任者を委員とする「技術リスク連絡会議」を年2回開催し、会議の決定事項に取り組み、技術リスクの低減に努めています。
① 保安について
当社グループは、高圧ガスの製造・販売等を行っており、これらの製品については、高圧力や極低温による危険性のほか、液晶や半導体関連向け製品等の毒性・可燃性を有するガスも含まれております。万が一、漏洩・発火・爆発等で人身や設備に多大な損害が生じた場合には、操業停止などにより当社グループの事業運営、経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。そのため、これら製品の製造・供給については、取り扱う従業員に対して階層別や応募型の教育を行っています。特に、体験型技能研修施設であるテクニカルアカデミーにおいて、ガスの物性や危険性及びその取扱いについて講習することで、設備事故はもとより労働災害事故の撲滅を目指します。また、アジア・オセアニア地域の海外現地法人向けにも講習を拡充し、安全文化の醸成による保安の確保に万全を期しています。
② 環境について
当社グループの事業は、大気汚染、水質汚濁、廃棄物処理など、事業展開する各国の環境規制に従って、業務を遂行しております。当社グループが現在及び将来の環境規制を遵守できなかった場合や当社グループが責任を負う汚染が発見された場合、罰金、汚染物質の除去費用又は損害賠償を含む費用や、施設及び設備を改良する投資が必要となる可能性があります。また、将来的に環境に対する法規制が強化され、新たな対策コストが発生する可能性があります。当社グループでは、環境マネジメントシステム、保安・環境監査などにより、環境法令遵守に努めています。
③ 品質・製品安全について
当社グループは、高圧ガス及び関連する機器類の製造・販売等の事業を行っており、これらの製品に万が一欠陥や品質不良、故障が生じた場合には、お客様からの信頼の低下や損害賠償の負担などにより当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。そのため、法令やお客様の要求事項を確実に満たすために品質管理を実施し、また、販売開始前に安全審査を行い、製品に起因するリスクを適切に管理しております。
④ 知的財産について
当社グループは、知的財産を企業の競争力を高めるための経営資源と位置づけており、必要な知的財産権の取得及び保護を推進しております。しかしながら、第三者が当社グループの知的財産権を侵害して不正に使用する可能性があります。そのため、必要に応じて弁護士、弁理士、政府機関等の協力を得ながら、当社グループの保有する特許、ブランド、デザイン及びその他の知的財産に関する侵害品、模倣品の監視及び排除に努めています。
一方、第三者の有効な知的財産権に対しては、代替技術の開発又は技術的な回避策を事業部門及び開発部門と連携して講じるなど、第三者の知的財産の侵害を回避する体制を構築しております。これまで当社グループが第三者の知的財産権を侵害したとして訴訟を提起された例は非常に少ない状況にありますが、訴訟を提起された場合には、当社グループの経営成績に影響を及ぼす可能性があります。そのため、第三者の知的財産権を尊重することをポリシーとして掲げ、定期的な知的財産教育を行うことで、当該リスクの低減と最小化に努めております。
(3) 財務に関するもの
① 為替レートの変動について
当社グループは、特殊ガス、機器・装置関連で原材料等の海外からの調達や製品の輸出を行っております。当該取引に関連しては、外貨建てで行っている取引があることから、為替予約などにより為替レートの変動リスク回避に努めておりますが、急激な為替の変動に対処できない場合には、経営成績に影響を及ぼす可能性があります。また、在外連結子会社の外貨建財務諸表金額は、連結財務諸表作成過程において円換算されるため、為替レートが予想を超えて大幅に変動した場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
② 金利の変動について
当社グループは、事業戦略に基づき設備投資、M&Aを実施し、その資金を主に金融機関からの借入や社債によって調達しております。当社グループは主に固定金利による借入を行っておりますが、2019年3月期に実施した米国Praxair, Inc.の欧州事業の買収のための調達は、大部分を変動金利による借入もしくは一定年数後に固定金利から変動金利に変更されるハイブリッドファイナンスで行っており、今後の金利変動によっては、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
③ 三菱ケミカルグループ㈱との資本関係について
三菱ケミカルグループ㈱は当社発行済株式数の50.59%の株式を所有しております。また、同社は、2014年5月13日付けで締結いたしました資本業務提携関係のさらなる強化及び企業価値の向上を目的とした基本合意書の中で、当社に対する持株比率の維持について合意しており、現状において持株比率を増減させる方針はないと認識しております。
しかしながら、今後、同社グループとの資本関係に変更が生じた場合、当社グループの事業運営、経営成績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
④ のれん及び無形資産について
当社グループは、企業買収等に伴い、のれん及び無形資産(以下、「のれん等」という。)を連結財政状態計算書に計上しております。当社グループが将来新たに企業買収等を行うことにより、新たなのれん等を計上する可能性があります。当社グループは、のれん及び耐用年数の確定できない無形資産について毎期減損テストを実施し評価しております。経済の著しい悪化等により対象事業の成長率が大幅に低下した場合や、市場利率等の上昇により処分コスト控除後の公正価値及び使用価値の計算に用いられている割引率が大きく上昇した場合などには、回収可能価額が著しく減少して減損損失が発生し、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(4) その他
大規模自然災害、感染症等について
大規模自然災害が発生した場合、当社グループの事業拠点が甚大な被害を受ける可能性があります。大規模な各種自然災害によって大型の製造拠点が被災した場合、労働力や生産機能の大幅な低下、巨額の復旧費用等の発生は避けられず、経営成績に影響を及ぼす可能性があります。また、予期せぬ事態や複合的災害、感染症などが発生した場合は、当社グループの事業活動、経営成績に影響を及ぼす可能性があります。これらの緊急事態発生に備え、当社グループでは、平時において事業継続計画(BCP)に必要となる発災直後の迅速な情報収集体制を整え、役職員の人命と安全を守る活動と、中核となる事業の継続や早期復旧に必要な取組みを進めております。
当連結会計年度における当社グループの経営成績、財政状態及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
(1) 経営成績
① 業績全般
当連結会計年度(2023年4月1日から2024年3月31日まで)における当社グループの事業環境は、ウクライナ・中東の地政学的問題、米中貿易摩擦、世界的な物価上昇、円安の進行、主要顧客のひとつである半導体産業の稼働状況などにより、引き続き、先行きを見通すことは困難な状況でした。
このような状況の下、当社グループ全体として主に鉄鋼、化学、石油精製向けにオンサイトで供給するセパレートガス(酸素、窒素、アルゴン)の出荷数量は、前期比で減少しました。一方、一部の地域ではセパレートガスの製造原価に多く占める電力コストの負担は前期に比べ緩和されました。また、コスト増加分の販売価格への転嫁等のグループ全体での価格マネジメント、さまざまな生産性向上に取り組みました。これらの結果、当連結会計年度における業績は、売上収益1兆2,550億81百万円(前連結会計年度比 5.8%増加)、コア営業利益1,659億96百万円(同 34.8%増加)、営業利益1,720億41百万円(同 43.9%増加)、親会社の所有者に帰属する当期利益1,059億1百万円(同 44.9%増加)となりました。
為替の影響については、期中平均レートが前連結会計年度に比べ、米ドルで136円0銭から145円31銭へと9円31銭(同 6.8%円安)、ユーロで141円62銭から157円72銭へと16円10銭(同 11.4%円安)となるなど、売上収益は全体で約598億円、コア営業利益は全体で約75億円多く表示されています。
なお、コア営業利益は営業利益から非経常的な要因により発生した損益(事業撤退や縮小から生じる損失等)を除いて算出しております。
(単位:百万円)
|
|
前連結会計年度 |
当連結会計年度 |
増減額 |
増減率(%) |
|
売上収益 |
1,186,683 |
1,255,081 |
68,397 |
5.8 |
|
コア営業利益 |
123,124 |
165,996 |
42,872 |
34.8 |
|
非経常項目 |
△3,599 |
6,044 |
9,644 |
- |
|
営業利益 |
119,524 |
172,041 |
52,516 |
43.9 |
|
金融収益 |
2,182 |
4,391 |
2,209 |
- |
|
金融費用 |
△16,203 |
△25,711 |
△9,508 |
- |
|
税引前利益 |
105,503 |
150,720 |
45,217 |
42.9 |
|
法人所得税 |
△29,538 |
△41,356 |
△11,817 |
- |
|
当期利益 |
75,965 |
109,364 |
33,399 |
44.0 |
|
親会社の所有者に帰属する当期利益 |
73,080 |
105,901 |
32,821 |
44.9 |
|
非支配持分に帰属する当期利益 |
2,884 |
3,463 |
578 |
- |
② セグメント業績
セグメント業績は、次のとおりです。
なお、セグメント利益はコア営業利益で表示しております。
〔日本〕
産業ガス関連の売上収益は、主力製品であるセパレートガス、及びLPガスの出荷数量は減少しましたが、コスト上昇を背景とした価格マネジメントの効果により、増収となりました。また、エレクトロニクス関連での電子材料ガスの出荷数量は軟調でした。機器・工事では、産業ガス関連、エレクトロニクス関連共に、中大型案件の工事の進捗に伴う売上等により、増収となりました。一方、特定顧客向けにオンサイト供給を担う子会社のジョイント・オペレーション化及び民生用LPガス事業を担う子会社の非連結化による減収影響がありました。
以上の結果、日本セグメントの売上収益は、4,143億65百万円(前連結会計年度比 1.4%減少)、セグメント利益は、429億98百万円(同 35.7%増加)となりました。
〔米国〕
産業ガス関連の売上収益は、主力製品であるセパレートガスの出荷数量は減少しましたが、価格マネジメントの効果及び円安の影響により、増収となりました。機器・工事では、産業ガス関連は前期並みでしたが、エレクトロニクス関連は順調に推移し、増収となりました。
以上の結果、米国セグメントの売上収益は、3,470億54百万円(前連結会計年度比 14.5%増加)、セグメント利益は、500億4百万円(同 34.9%増加)となりました。
〔欧州〕
産業ガス関連の売上収益は、主力製品であるセパレートガスにおいては、出荷数量が減少したものの、価格マネジメントの効果及び円安の影響もあり、増収となりました。機器・工事では、ガス関連機器及び医療関連機器の販売が好調で増収となりました。
以上の結果、欧州セグメントの売上収益は、3,024億77百万円(前連結会計年度比 10.8%増加)、セグメント利益は、532億59百万円(同 52.6%増加)となりました。
〔アジア・オセアニア〕
産業ガス関連では、主力製品であるセパレートガスの出荷数量は減少しましたが、円安の影響及びコスト上昇等を背景とした価格マネジメントの効果により、売上収益は増加しました。なお、主に豪州地域での販売が多くを占めるLPガスでは、販売数量は微減となりました。エレクトロニクス関連では、東アジアで、客先による在庫調整や設備投資の先送りに伴い、ガス・機器ともに軟調で大きく減収となりました。
以上の結果、アジア・オセアニアセグメントの売上収益は、1,603億27百万円(前連結会計年度比 0.2%増加)、セグメント利益は、159億48百万円(同 3.1%増加)となりました。
〔サーモス〕
日本では、ケータイマグ及びスポーツボトルの販売が好調で、売上収益は増加しました。また、海外での販売は前期並みでした。セグメント利益は、物価上昇による原材料価格の上昇と円安による製造コストの増加で、減益となりました。
以上の結果、サーモスセグメントの売上収益は、307億65百万円(前連結会計年度比 1.9%増加)、セグメント利益は、55億66百万円(同 7.6%減少)となりました。
各セグメントの売上収益及びセグメント利益の状況は以下のとおりです。
(単位:百万円)
|
|
前連結会計年度 |
当連結会計年度 |
増減 |
|||||
|
売上収益 |
セグメント利益 |
売上収益 |
セグメント利益 |
売上収益 |
増減率(%) |
セグメント利益 |
増減率(%) |
|
|
日本 |
420,452 |
31,680 |
414,365 |
42,998 |
△6,087 |
△1.4 |
11,318 |
35.7 |
|
米国 |
303,090 |
37,074 |
347,054 |
50,004 |
43,963 |
14.5 |
12,930 |
34.9 |
|
欧州 |
272,888 |
34,904 |
302,477 |
53,259 |
29,588 |
10.8 |
18,354 |
52.6 |
|
アジア・ オセアニア |
159,965 |
15,465 |
160,327 |
15,948 |
362 |
0.2 |
482 |
3.1 |
|
サーモス |
30,190 |
6,021 |
30,765 |
5,566 |
575 |
1.9 |
△455 |
△7.6 |
|
調整額 |
95 |
△2,021 |
90 |
△1,780 |
△4 |
- |
241 |
- |
|
合計 |
1,186,683 |
123,124 |
1,255,081 |
165,996 |
68,397 |
5.8 |
42,872 |
34.8 |
(注)セグメント間の取引については相殺消去しております。
③ 経営成績
当連結会計年度における売上収益は1兆2,550億81百万円となり、前連結会計年度に比べ683億97百万円の増収となっております。為替の影響については、期中平均レートが前連結会計年度に比べ米ドルで9円31銭の円安、ユーロで16円10銭の円安、豪ドルで2円65銭の円安となるなど、売上収益は全体で約598億円多く表示されております。
売上原価は7,441億3百万円(前連結会計年度比 39億49百万円減少)、販売費及び一般管理費は3,464億5百万円(同 312億14百万円増加)、その他の営業収益は138億63百万円(同 86億81百万円増加)、その他の営業費用は104億1百万円(同 22億49百万円減少)、持分法による投資利益は40億6百万円(同 4億53百万円増加)となっております。以上の結果、営業利益は1,720億41百万円となり、前連結会計年度比で525億16百万円の増益となりました。また営業利益から非経常的な要因により発生した損益を除いたコア営業利益は1,659億96百万円となっており、前連結会計年度比で428億72百万円の増益となりました。非経常的な要因により発生した損益の主な内容は、支配の喪失に伴う利得88億92百万円、減損損失15億14百万円などとなっております。
金融収益は43億91百万円(同 22億9百万円増加)、金融費用は257億11百万円(同 95億8百万円増加)、これにより税引前利益は1,507億20百万円となり、前連結会計年度に比べて452億17百万円の増益となりました。主な内容は、為替差益が8億35百万円(同 3億34百万円増加)、受取利息が26億77百万円(同 19億35百万円増加)、支払利息が256億31百万円(同 94億65百万円増加)などとなっております。
これらの結果、法人所得税と非支配持分を控除した親会社の所有者に帰属する当期利益は1,059億1百万円となり、前連結会計年度比で328億21百万円の増益となりました。
(2) 財政状態
当連結会計年度末の資産合計は2兆4,090億83百万円で、前連結会計年度末比で2,501億32百万円の増加となっております。為替の影響については、前連結会計年度末に比べ期末日レートが米ドルで17円88銭の円安、ユーロで17円52銭の円安となるなど、約2,040億円多く表示されております。
当連結会計年度では、価格改定活動等による増収効果で営業債権が増加したほか、財務健全性を意識した有利子負債の計画的な返済を進めました。不透明な事業環境下においても、債券市場や金融機関との適切なコミュニケーションを続け、資金流動性と調達力を向上していきます。
また、2019年1月及び同年3月に調達したハイブリッドファイナンスは合計2,500億円であり、格付機関(㈱日本格付研究所及び㈱格付投資情報センター)から、この調達額の50%を「資本」として認められており、当社では資本性負債と呼称しています。加えて、2019年1月に調達した公募ハイブリッド社債のうち、1,000億円については、2024年1月に全額期限前償還しましたため、当連結会計年度末時点でハイブリッドファイナンスは合計1,500億円となっております。このハイブリッドファイナンスを考慮した財務安全性指標として、当社では調整後ネットD/Eレシオ(※)を重要業績指標の1つとして定めており、負債及び資本の最適な構成を意識しています。なお、調整後ネットD/Eレシオは0.74倍で前連結会計年度末に比べ0.07ポイント改善しております。
(※)調整後ネットD/Eレシオ:(純有利子負債-資本性負債)/(親会社の所有者に帰属する持分+資本性負債)
〔資産〕
流動資産は、営業債権の増加や現金及び現金同等物の減少、米ドルやユーロ等の主要通貨で円安が進んだこと等により、前連結会計年度末比で411億27百万円増加し、5,682億1百万円となっております。非流動資産は、有形固定資産やのれんの増加、主要通貨で円安が進んだこと等により、前連結会計年度末比で2,090億5百万円増加し、1兆8,408億81百万円となっております。
〔負債〕
流動負債は、その他の流動負債や社債及び借入金の増加、主要通貨で円安が進んだこと等により、前連結会計年度末比で728億62百万円増加し、4,980億19百万円となっております。非流動負債は、社債及び借入金の減少や繰延税金負債の増加、主要通貨で円安が進んだこと等により、前連結会計年度末比で108億45百万円減少し、9,649億51百万円となっております。
〔資本〕
資本は、親会社の所有者に帰属する当期利益の計上による増加や、利益剰余金の配当による減少、在外営業活動体の換算差額の増加等により、前連結会計年度末比で1,881億16百万円増加し、9,461億12百万円となっております。
なお、親会社所有者帰属持分比率は38.0%で前連結会計年度末に比べ4.5ポイント高くなっております。
(3) キャッシュ・フロー
〔営業活動によるキャッシュ・フロー〕
税引前利益、減価償却費及び償却費、法人所得税の支払額又は還付額等により、営業活動によるキャッシュ・フローは2,159億80百万円の収入(前連結会計年度比 14.9%増加)となりました。
〔投資活動によるキャッシュ・フロー〕
有形固定資産の取得による支出等により、投資活動によるキャッシュ・フローは1,246億54百万円の支出(前連結会計年度比 27.1%増加)となりました。
〔財務活動によるキャッシュ・フロー〕
社債の償還による支出、社債の発行による収入、長期借入金の返済による支出等により、財務活動によるキャッシュ・フローは1,100億72百万円の支出(前連結会計年度比 102.2%増加)となりました。
これらの結果に、為替換算差額等を加えた当連結会計年度の現金及び現金同等物の期末残高は、1,261億0百万円(前連結会計年度比 4.6%減少)となりました。
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2020年3月期 |
2021年3月期 |
2022年3月期 |
2023年3月期 |
2024年3月期 |
|
親会社所有者帰属持分比率(%) |
23.4 |
27.9 |
31.8 |
33.5 |
38.0 |
|
時価ベースの親会社所有者 帰属持分比率(%) |
39.6 |
49.6 |
51.1 |
47.8 |
85.4 |
|
債務償還年数(年) |
6.7 |
6.4 |
6.2 |
5.0 |
4.3 |
|
インタレスト・カバレッジ・レシオ(倍) |
12.8 |
12.9 |
13.7 |
14.7 |
9.3 |
(注)親会社所有者帰属持分比率:親会社の所有者に帰属する持分/資産合計
時価ベースの親会社所有者帰属持分比率:株式時価総額/資産合計
債務償還年数:有利子負債/キャッシュ・フロー
インタレスト・カバレッジ・レシオ:キャッシュ・フロー/利払い
1.各指標は、いずれも連結ベースの財務数値により計算しております。
2.株式時価総額は、期末株価終値×期末発行済株式数により算出しております。
3.キャッシュ・フローは、連結キャッシュ・フロー計算書の営業活動によるキャッシュ・フローを使用しております。
有利子負債は、連結財政状態計算書に計上されている負債のうち利子を支払っているすべての負債を対象としております。また、利払いについては、連結キャッシュ・フロー計算書の利息の支払額を使用しております。
(4) 生産、受注及び販売の実績
セグメントごとの販売実績については、「(1) 経営成績 ② セグメント業績」に記載のとおりであります。
なお、当社グループの生産品目は広範囲かつ多種多様であり、また、受注生産形態をとらない製品も多いため、セグメント毎に生産規模及び受注規模を金額あるいは数量で示すことはしておりません。
(5) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」第93条の規定により国際会計基準に準拠して作成しております。この連結財務諸表の作成に当たって、必要と思われる見積りは、合理的な基準に基づいて実施しております。
なお、当社グループの連結財務諸表で採用する重要性がある会計方針、会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定は、「第5 経理の状況 1.連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 2.作成の基礎 及び 3.重要性がある会計方針」に記載しております。
(6) 資本の財源及び資金の流動性についての分析
当社グループは、運転資金及び設備資金については、内部資金又は金融機関からの借入金、社債等により調達しております。また、当社グループとしての資金の効率的な活用と金融費用の削減を目的として、CMS(キャッシュ・マネジメント・システム)を導入しております。
資金の流動性については、安定的な営業活動によるキャッシュ・フローに加え、金融機関とのコミットメント・ライン契約の締結やコマーシャル・ペーパー発行枠の設定等により十分な手元流動性を確保しております。
該当事項はありません。
当社グループ(当社及び連結子会社)では、「進取と共創。ガスで未来を拓く。The Gas Professionals」を企業理念として、産業ガス事業の拡大を進め持続的な成長と企業価値の向上を目指しています。
技術開発において、独自のガステクノロジーを基盤とした、ガスアプリケーション、エレクトロニクス、ガス分離精製、医療・ライフサイエンス、ファインマテリアル、環境、先端技術分野に向けた新商品・新技術の開発に取り組むことで収益拡大に貢献しています。またオープンイノベーションによる海外を含めたベンチャー企業との事業提携を通じ、成長分野における先端技術の取込みと、コア技術を最大限に利用した商材開発を促進しています。
当連結会計年度に支出した研究開発費の総額は
〔日本〕
日本セグメントにおいては、大陽日酸株式会社つくば事業所、山梨事業所、SIイノベーションセンター、メディカル・テクニカル・サービスセンター及び京浜事業所の5拠点が連携して技術開発を実施しています。事業部門と開発部門の連携を強化し、工業ガスビジネス、エレクトロニクスガスビジネス、プラントビジネス、メディカルビジネス、新規事業開発に向けた基盤事業を支える技術開発を推進しています。カーボンニュートラルについてはグループ共通の重点課題として取り組んでいます。
カーボンニュートラルに向けた取組み
当社グループが所有する酸素燃焼技術をベースに、カーボンフリー燃料を利用する新たな酸素燃焼技術を開発しカーボンニュートラル社会の実現に貢献します。
・カーボンフリー燃料である水素ガスに注目し、工業炉分野でのCO2排出削減への貢献に取り組んでいます。当社酸素バーナのラインナップである高速酸素バーナランス「SCOPE-JETⓇ」、超低NOx酸素バーナ「Innova-JetⓇ」、自励振動型酸素バーナ「Innova-JetⓇSwing」について、水素を燃料として利用することを可能にしました。
・半導体封止材料の充填剤(フィラー)の製造工程に用いられる、純酸素燃焼を用いた粉体溶融・球状化システム「CERAMELTⓇ」に水素燃焼技術を組み合わせる技術を開発しました。燃焼工程におけるCO2排出量の削減とともに、カーボン不純物を低減させた高品質な球状粒子の製造に貢献することができます。
・国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「燃料アンモニア利用・生産技術開発/工業炉における燃料アンモニアの燃焼技術開発」に参画し、アンモニア-酸素燃焼技術の開発を進めています。2023年度は、AGC株式会社横浜テクニカルセンターのガラス溶融炉で、アンモニア-酸素燃焼技術の実証試験を世界で初めて成功させました。
・石灰製造炉などの高濃度CO2排出源をターゲットとして、10t/日規模のCO2回収装置(回収CO2濃度98%)を開発・商品化しました。中小規模排出源(排ガス量1,000Nm3/hクラス)向けの装置であり、ユニット化して導入・設置が容易に行えます。
・国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業「競争的な水素サプライチェーン構築に向けた技術開発事業/大規模外部加熱式アンモニア分解水素製造技術の研究開発」に参画し、水素精製装置の開発を進めています。
工業ガス分野
産業ガスの使用に関する様々な工業製品を開発しています。
<溶接技術>
・配管の自動溶接に関する市場ニーズに対応し、大陽日酸株式会社と日酸TANAKA株式会社は、溶接状態を可視化するカメラ「サンアークⓇアイ」シリーズを共同で開発し、2019年4月より販売しています。新たに商品化した「サンアークⓇパイプコントローラ」は、回転管自動溶接の高品位と自動化を両立する制御装置です。配管自動溶接の各段階の溶接条件を予め設定して自動制御させることができるため、溶け込み不足といった不具合を回避し、全周に渡り安定した高品位な配管自動溶接を実現します。
<低温利用技術>
・液体冷媒を液化窒素で冷却・循環・供給するクールマイスターⓇシリーズ(低温反応制御システム)に、新たに「クールマイスターⓇAC」を商品化しました。窒素やヘリウムなどの不活性ガスを液化窒素で冷却し、-60~-180℃の任意温度の極低温不活性ガスを供給することで、材料試験や機器の環境試験における極低温環境形成に貢献します。
エレクトロニクス分野
社会のデジタル化の加速的な普及、カーボンニュートラルな社会を支えるエレクトロニクス産業の発展に貢献するために、電子材料ガスや関連機器の販売やサービスのグローバルな提供とともに、技術開発を強化しています。
・大陽日酸株式会社とRasirc, Inc.社は共同でALD成膜技術の開発に取り組んでいます。窒化膜ALDには無水ヒドラジンが、酸化膜ALDには過酸化水素ガスがそれぞれ既存の窒化材、酸化材よりも良好なプロセスを実現できることを実証しています。2023年度には、有機溶媒と混合させることで安全性を高めた無水ヒドラジン供給ソース(Rasirc製BRUTEⓇ-Hydrazine)を供給源とする高純度ヒドラジンガス供給システムを開発しました。
・当社グループが製造しているジボランガスは、ロジック(演算素子)、メモリ(記憶素子)など幅広い半導体デバイスの製造において不可欠な材料です。日本、韓国、中国での製造能力を順次増強するため、製造システムを進化(深化)させています。
・当社グループが開発したインテリジェント・ガス・サプライングシステム(IGSS)は、IoTやRPAを活用したデジタル革新技術と、長年蓄積した当社グループのガスハンドリング・ノウハウを融合した次世代ガス供給システムです。人とロボットが共に働く協働社会の実現、新たなサービスの付加提供によって、お客様の業務効率化、省力化に貢献するべく、改良改善を進めています。
・導電性ペースト・インク用途向け表面改質銅ナノ粒子を開発しました。銅ナノ粒子が有機溶媒中に均一に分散するため、小型電子部品の電極薄膜やセラミック基板の微細配線を実現するための銅ペーストの製造に有効です。
プラント分野
深冷空気分離プラントについては当社グループのコア技術の深化(高性能・高品質・低コスト)に取り組むとともに、プラント製作、工場操業、ロジスティックスに革新を起こすため、DXを推進しています。
・DX推進によって保安や品質管理、生産性の向上に努め、遠隔監視システムやプラント運転条件制御システムを深化させました。
メディカル分野
高品質の医療用ガスの安定供給を行うとともに、在宅酸素療法のためのさまざまな機器の開発・製造、機器の定期点検や遠隔監視システム、医療用ガスの24時間体制の緊急配送など、トータルサポートに貢献しています。さらに、当社グループの持つガステクノロジーを応用し、生体試料の凍結保存をはじめとするバイオ分野、SI(Stable Isotope 安定同位体)や混合ガス等を利用した高度診断・治療分野にも取り組んでいます。
・医療ガス供給設備の容器(O2、N2、Air)内ガス残量などを遠隔地で監視するシステムの最新版となる次世代医療ガス監視システムTerm-3を開発しました。通信規格をLTE(4G)とし、サーバ機能をクラウド化することで、手持ちの端末による監視データの閲覧を可能にしました。信頼性の向上、ガス安定供給の強化、異常発生時の重大事故回避に貢献しています。
新規事業分野
当社グループでは、自社開発技術やオープンイノベーションにより獲得した製品・技術の事業化を加速しています。アディティブ・マニュファクチャリング(AM)事業、化合物半導体製造装置やSI(Stable Isotope 安定同位体)をはじめ、今後市場の発展が見込まれる分野の事業拡大を推進しています。
・アディティブ・マニュファクチャリング(AM)事業では技術の開発と造形物品質安定化に寄与するソリューション「3DProⓇシリーズ製品」の拡充に注力しています。当連結会計年度においては、従来のパウダードライキャビネット、超高純度窒素発生装置に加え、アドオン型循環精製装置「3DProⓇPrintPure™」及び統合遠隔モニタリングシステム「MiruGas™ For AM」を開発・商品化しました。また、金属3Dプリンターメーカーとの業務提携を進めており、2023年度はAdditive Technologies, LLC(米国)、Rapidia Tech Inc.(カナダ)両社製品の日本における販売権を取得しました。
・化合物半導体の製造に必要となるMOCVD装置及びHVPE装置の製造・販売するとともに、用途拡大、改良改善のための開発に取り組んでいます。2023年度は、GaN(窒化ガリウム)系量産型MOCVD装置UR26Kに新機構として「基板自動搬送システム」と「一体型ドライ洗浄システム」を追加することに成功しました。従来機に比べ、およそ50%の大幅な生産効率向上に貢献します。
・国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業「脱炭素社会実現に向けた省エネルギー技術の研究開発・社会実装促進プログラム/生産性に優れたSi基板上GaN系パワー半導体向けMOCVD装置の開発」に採択され、GaN/Siエピ基板を安定的に供給可能なMOCVD装置の開発に取り組んでいます。
・世界初の酸素蒸留による酸素安定同位体(17O、18O)濃縮技術を開発し、水や酸素ガス、それらを使用した同位体標識化合物を製造・販売しています。
・重水素化アンモニアの製造プロセスを確立し、国内で初めて量産体制を構築しました。また、使用済み重水を再濃縮する装置を開発し、国内企業として初めて商業化しました。重水リサイクル体制の構築により、効率的でサステナブルな重水の利用を可能にするとともに、重水素化アンモニアをはじめとする重水素標識化合物のグローバルからの需要に対し、安定供給に貢献します。
・大陽日酸株式会社は無細胞タンパク質合成技術を活かし、クロマトグラフィー技術に強みを有する株式会社ワイエムシィと共同で、バイオ医薬分野で需要が見込まれる難発現タンパク質の合成から精製までの一貫した開発に取り組んでいます。
〔米国〕
米国セグメントは、技術対応力の強化、顧客へのより良いサービスの提供、及び既存ガス商権とエレクトロニクス向け事業の拡大を目指して、コロラド州ロングモントにあるAdvanced Technology Centerにて技術開発活動に取り組んでいます。半導体市場は長期的にも強靭な経済状態が維持されており、電子チップの需要増大が続いています。あらゆるデバイスの需要が増加していますが、特に、FinFET、GAA(Gate All Around)トランジスタ、3D-NANDメモリ、DRAMなどの最先端デバイスの需要増大が顕著です。これら3次元集積デバイスの製造には、より多くのプロセスステップが必要であることから、不活性ガス、エッチング、成膜、洗浄、ドーピングガスなどプロセス材料の消費量も増えています。
このような中で、米国セグメントは、エレクトロニクス顧客との密接な関係を構築し、グローバル市場で日々変化する顧客の要望に応えております。研究開発においても、顧客の技術課題に協力して対応し、得られた知見を既存商品の改善や新商品の開発に活用しております。米国セグメントはこれらの活動を通して、製造からロジスティクスまでの最適化されたサプライチェーンに基づき、高品質・高付加価値商品の開発企業としての地位を確立しています。とりわけ、研究開発活動では、事業、技術、安全、環境に関するリスクを最小限に抑えつつ、最大限の財務貢献が見込めるプロジェクトに重点を置いています。
当連結会計年度において、次世代デバイス製造企業からの要望に基づいた既存製品へのサポート、関連技術課題の診断とトラブルシューティングによる顧客支援、並びに新商品及び新技術の開発、その分析評価技術の開発を進めました。特に、半導体チップ製造に存在する微少汚染や不純物の制御と低減に注力し、最近では2つの半導体プロセスガス中不純物精製装置を新たに開発し、製造効率向上に貢献するとともに、米国での精製装置メーカーポジションを強化してきました。
加えて、溶接や金属加工など産業用として使用されるカートリッジ型精製器であるWeld Knight™シリーズの設計変更に取り組み、交換時の効率・迅速化を達成しました。さらに半導体向けに、不活性ガス及びプロセスガス用カードリッジ型精製器3機種を新たに製品化しました。ppbレベルでの不純物の除去が可能で、また交換も容易に行うことができます。
また大型の一般工業ガス向けの精製アプリケーションにも注力しており、近年では金属3Dプリンタ向けの精製装置である3DProⓇRecircを販売しています。これはプロセス中の水分と酸素を除去することにより生産効率及び造形品質向上に貢献するものです。
また前連結会計年度と同様に、各生産拠点において、ガス製造プロセスの品質向上に貢献するとともに、新規機器の技術開発により商品の安全性を向上してきました。
〔サーモス〕
サーモスセグメントにおいては「人と社会に快適で環境にもやさしいライフスタイルを提案します」という理念に従い、断熱技術を利用することで省エネルギーに貢献するとともに、快適なライフスタイルを実現すべく、積極的な商品開発を推進しております。
当連結会計年度においては、コロナ禍によって変化した消費者の暮らしに合わせたキッチンアイテム、コロナ後で需要の戻りつつある携帯用まほうびんやスポーツボトルといったカテゴリに重点を置いて新商品を投入しました。
フライパンシリーズや調理器具からなるキッチンプラスシリーズを更に拡充して、補助取っ手付きの『サーモス デュラブルシリーズ マルチパン』2種8アイテムと、『サーモス ミトン』、『サーモス デュラブルシリーズ 取っ手のとれる玉子焼きフライパン』など、キッチンウェア17アイテムを開発しました。
マルチパン『KFJ/KFKシリーズ』は煮込み等もできる超深型の炒め鍋で、持ち上げて傾ける際に安定して傾けられるように補助取っ手を付属させています。ミトン『KT-M001』はこの補助取っ手を掴む際に便利で、洗濯機対応としました。これによりマルチパンで重量のある料理があってもしっかり安全に支えて持ち上げることができるよう設計しています。
取っ手のとれる玉子焼きフライパン『KEA-015』は取っ手の留め具をフライパン内面ではなく、外側につけてお手入れしやすい構造としています。専用のガラス蓋『KLI-001』も発売して調理の幅が拡げられるようにしました。
携帯用まほうびんケータイマグシリーズとして、楽に持ち歩ける『ラク持ち』できるキャリーシリーズの新商品、『JOS シリーズ』と 『JOV シリーズ』を開発しました。JOSは初めてワンタッチオープン栓の上面にはまり込むキャリーループを搭載、JOVは広口タイプのスクリュー栓の上面に前後に折りたためるキャリーハンドルを搭載しており、各々持ち運び性の向上だけではなく、栓と一体化した形状となり、使用時や収納時の利便性を高めています。また、食洗機にも対応し洗浄性も高い商品となっております。
スポーツボトルの新商品として、今までの商品と差別化を図るためアメリカのサーモス社にデザインを依頼し、従来と異なるユーザーに向けたスタイリッシュなデザインテイストの『FJUシリーズ』を開発しました。新機構の飲み口「クイックオープン構造」を採用し、素早い水分補給ができます。「持ち運びやすいキャリーループ」や「握りやすいボディリング」、「衝撃に強いソコカバー」の採用に加え食洗機にも対応し、使いやすさとお手入れのしやすさにもこだわった商品となっております。
このように引き続き積極的に新商品を投入し、お客様に快適なライフスタイルを提案しております。