第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

髙島屋グループ(以下、当社)の経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社が判断したものであります。

 

(1)経営方針

 当社は、2031年の創業200年を超えてグループが目指す姿を「こころ豊かな生活を実現する身近なプラットフォーム」と定めました。その実現に向けた「あるべきグループ像」を、従業員からも意見を募ったうえで、「髙島屋グループ グランドデザイン」として策定いたしました。共通の価値観として社内に浸透を図り、あるべき姿の具現化に向けた具体的な課題解決へとつなげてまいります。

 2031年に向けた最初の3年間である2024~26年度について、最終年度に連結営業利益575億円の達成を目標とする「中期経営計画(3カ年)」を作成しました。その実現に向けて、百貨店事業では「短期的な需要の回復期」から「持続可能な成長期」への転換が必要であり、店別の中期計画へ落とし込み、店舗ごとの「まちづくり」を通じた魅力化を推進してまいります。その他事業においても「業界での強みを活かした事業ポートフォリオの明確化」と「外部収益拡大」をテーマとした各社別の中期計画を策定しており、成長戦略として確実に実行してまいります。

 

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 投資に関しては、百貨店各店は特選ゾーンなどの品揃え強化・特徴化につながるものや、施設の環境改善などエンゲージメントの向上につながるものに必要な投資を行ってまいります。グループ各社については、主に東神開発㈱でベトナムでの複合開発や、国内の非商業事業拡大・新拠点開発等の成長事業への投資を積極的に推進し、グループ計で3カ年累計で約2,080億円の投資を見込んでおります。

 2023年度、当社は中期経営計画(2021~2023年度)の最終年度にあたり、コロナ禍からの回復段階から持続的成長と飛躍に向けた経営の土台作りのための極めて重要な一年と位置づけ、「百貨店の営業力強化」「人的資本経営の推進」「グループ会社の業界競争力獲得」「グループESG戦略の深化」に取り組んでまいりました。

 これらの取り組みや、個人消費の緩やかな回復、インバウンド需要の拡大などの消費環境のもと、2023年度の連結業績は増収増益となり、当年度を最終年度とする中期経営計画の目標値も大きく上回りました。経常利益をはじめとし、各利益ともに最高益を更新しております。

 次年度は、当社の成長が外部環境による追い風を受けた一時的なものに留まるか、持続的な成長軌道に乗れるかの分かれ目の年です。前述の「グランドデザイン」や新たな中期経営計画(2024~2026年度)の初年度として、一つ一つの課題を着実に解決しつつ持続的成長を果たしていくために、以下3つの経営課題に取り組んでまいります。

 なお、ESGを価値提供の基盤とすることは変わりありません。事業活動を通じて社会課題の解決に貢献し、当社を含めた全てのステークホルダーがメリットや利益を分かち合える仕組みを作り上げることで、持続可能なビジネスを推進してまいります。

[経営目標]

「グループの『持続的成長』実現策の着実な実行」

   ~グランドデザイン実現に向けた確かな進化~

 

[主要な経営課題]

① ESG経営の推進

② 人材の確保・育成・活躍推進

③ まちづくりの推進

 

 

(2)経営上の目標達成状況を判断するための客観的な指標等

2026年度(中期経営計画の最終年度)の連結経営目標は以下の通りです。

〇営業利益             575億円 ( 2023年度比      + 116億円)

〇自己資本比率            42.1% (    同        + 6.4% )

〇ROE              8.0% (    同        + 0.7% )

○ROIC(投下資本利益率)     6.2% (    同        + 0.7% )

 

また2024年度の連結経営目標は以下の通りです。

〇総額営業収益              9,980億円 ( 2023年度比      + 458億円)

○総額営業収益販売管理費比率      24.5% (    同       + 0.1% )

〇営業利益             500億円 (    同        +  41億円)

〇自己資本比率            38.1% (    同        + 2.4% )

〇ROE(当期純利益/自己資本)   7.3% (    同        + 0.0% )

〇EBITDA総資産比率       5.8% (    同        + 0.2% )

〇純有利子負債EBITDA倍率    1.5倍 (    同        △ 0.2倍 )

○ROIC(投下資本利益率)     5.9% (    同        + 0.4% )

 

 

(3)経営環境及び対処すべき課題

日本経済は、本年3月に日本銀行がマイナス金利政策を解除し、17年ぶりに金利を引き上げるなど、長らく続いたデフレから、物価と賃金が上昇する好循環への転換が進みつつあります。当社では、この機を捉えて、将来を見据えた成長投資を着実に実行し、円安や株高、インバウンドなどの外部環境の変化に左右されない本質的な営業力の強化、強靭な経営基盤の構築に向けて取り組みを進めてまいります。

当社では、2031年に創業200周年を迎えます。更にその先も、社会に必要とされ存在意義を発揮し続け、持続的成長を果たしていくために当社がどうあるべきかについて、一年以上にわたりグループ全体で議論を重ねてまいりました。その中で、当社が目指す姿を「お客様・従業員・株主・地域社会など、全てのステークホルダーの『こころ豊かな生活を実現する身近なプラットフォーム 』」と定めました。お客様にとっては当社ならではの商品やサービスの提供を通じて感動体験が得られる場、従業員にとっては労働条件・環境の改善により意欲と能力を高め、働きたいと思える場など、ステークホルダーそれぞれの生活を豊かにするために欠かすことのできない存在としてあり続けることです。

その実現に向け新たな中期経営計画(2024~2026年度)を策定し、初年度は外部環境の変化に左右されない『持続的成長』実現策を着実に実行していく重要な一年と位置づけています。経営課題としては、「ESG経営の推進」、「人材の確保・育成・活躍推進」、「まちづくりの推進」を設定いたしました。

また、当社が成長し続けるためには、有形・無形の経営資源の将来価値を見極めた上で、より成長を見込める事業分野への資源再配分を迅速に行っていくことが必要です。そのため、経営資源の効果性を見極める基準として、投下資本に対する利益率を表す「ROIC」をグループ共通で採用し、事業別に資本コストを上回るROICを設定、マネジメントしていくことで、経営の効率性を高めてまいります。

 

□ESG経営の推進

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価値提供の基盤となるESG経営におきましては、事業活動を通じて、社会課題の解決に貢献していくことは、社会の一員である企業としての責務であり、全てのステークホルダーがメリットや利益を共に分かち合える仕組みを作りあげなければ、持続可能なビジネスを行うことはできません。

当社ESG経営の象徴的な取り組みである「TSUNAGU ACTION」におきましては、更なる認知度向上や、社会課題解決と事業成長の両立に向けて全社レベルで強化してまいります。美しい地球と豊かな自然を守り、未来をつなぐ「地球環境」、日本・地域の伝統や文化を受け継ぎ、発展させる「地域社会」、すべての人の自由と平等、笑顔を守り、寄り添う「すべての人に」、という3つのテーマを設定し、企画数を拡充すると共に、通年で展開いたします。更に数値目標を設定し、PDCAサイクルで運営していくことにより、企業価値向上や利益に直結する取り組みにしてまいります。具体的に「地域社会」のテーマでは、本年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」の復興支援を目的に文化の紹介や特産品の販売などの企画を検討しております。

ダイバーシティ(多様性)・エクイティ(公平性)&インクルージョン(包摂性)の観点からは、コンプライアンスを前提にSDGsが目指す「誰一人取り残さない」社会の実現に向けて、全ての人々の人権や価値観を尊重し、人種、年齢、性的指向・性自認、障がいの有無等に関係なく全員が活躍できる仕組みづくりに主体的に取り組んでまいります。また、消費者に身近な企業として、あらゆるお客様が楽しく時間を過ごし、お買物をしていただけるような施設環境や商品・サービスの整備・開発にも積極的に取り組んでまいります。

さらに、地球環境保全の観点からは、大規模な商業施設運営をはじめとする当社の事業活動が環境に与える影響が大きいことから、再生可能エネルギーの導入拡大など、循環型社会の実現に貢献してまいります。

なお、ESG経営のガバナンス・戦略・リスク管理とリスクに対する取り組み・指標と目標については、「2「サステナビリティに関する考え方及び取組」 (1)当社のESG経営」に記載しています。

 

□人材の確保・育成・活躍推進

当社は、経営理念に「いつも、人から。」を掲げ、これまでも「人」を大切にする経営を実行してまいりました。人材不足が深刻な社会課題となりつつある中、当社の持続的成長に向けては、人材の確保・育成・活躍推進など、人的資本経営の考え方に基づく人材への積極的な投資を行っていくことも最優先の課題です。

当社は、百貨店を核とした商業施設展開を主要事業とするビジネスモデルであり、営業力強化に向けては「百貨店の販売力を支える人材の確保・育成」が不可欠です。その実現に向け、店頭・営業現場において、お客様の潜在的なニーズまで読み取り、提案を行うことができる「販売のプロ」の育成を進めてまいります。

また、多様なグループ会社を有する当社では、人とノウハウの持続可能性や競争力の確保に向けて「各業務における専門性強化」が重要です。マーケティングや仕入を担う人材、また、金融事業の専門人材やデジタル人材など各業務におけるスペシャリスト育成に向けた取り組みを推進してまいります。

さらに、翌年のグループ商業施設の正月営業について、1月1日の元日に加え、新たに1月2日も原則休業日とする方針といたしました。当社のブランド価値を高めるために、従業員一人ひとりが誇りとやりがいを持ちながら長く働くことができる環境整備を進めることも重要です。当社が目指す将来の姿を共有し、前向きな職場風土を醸成することでエンゲージメント向上につなげてまいります。

 

□まちづくりの推進

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当社は、グループ総合戦略として「まちづくり」を掲げ、当社が目指す姿を実現していくための事業戦略の根幹の考え方には「グループの全員が主役のまちづくりを通じた価値提供」を据えております。

まちづくりは二つの考え方から成り立っております。一つ目は、「街のアンカーとしての役割発揮」、具体的には、人々が集うエリアを大きな「まち」としてとらえ、当社が中心的存在となって、地域社会や行政と連携して賑わいを創出し、まちの魅力を高めることです。二つ目は、「館の魅力最大化」、具体的には、館そのものを「まち」ととらえ、そのまちの魅力を最大化させるため、商業開発や金融、飲食、ECなど、グループ各事業のノウハウを結集し、お客様満足を追求した当社ならではの商業施設づくりを推進することです。つまり、当社が考えるまちづくりは不動産開発だけを意味するものではありません。グループで提供するあらゆる商品・サービス・空間が全て「まちづくり」の一環ということです。

これら二つの考えに基づき「まちづくり」を具現化していくためには、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進していくことが必要不可欠です。今後、人口減少に伴う国内マーケットの縮小や人手不足は避けられない状況の中、デジタル技術は加速度的に進化しており、企業の業務運営や人々の生活に大きな影響を与えています。そこで本年から社長をトップとする全社横断のDX推進プロジェクトを立ち上げ、デジタル技術を活用した業務変革に取り組んでまいります。既存の業務の流れを分析し、最適化したうえで、業務をデジタル化して生産性の向上を図り、これにより生み出した経営資源を営業力強化に振り向けていきます。また、営業や販売へのデジタル技術の活用方法についても検討を行い、お客様の新しい買物体験や利便性の向上につなげていくことで「まちづくり」を更に推進してまいります。

 

事業のセグメント別取り組みは、次のとおりであります。

なお、当社は、新たな中期経営計画の初年度(2024年度)より、事業ポートフォリオの最適化、事業別の投資効率、収益性などを明確にするROIC経営を更に推進するために、報告セグメントを変更いたします。

具体的には、「百貨店業」に含まれておりました国内、海外百貨店を「国内百貨店業」、「海外百貨店業」に分割いたします。また、「商業開発業」に含まれておりました国内、海外商業開発を同じく「国内商業開発業」、「海外商業開発業」に分割いたします。加えて、「百貨店業」に含まれておりましたレストランや喫茶・カフェなどを出店、運営している株式会社アール・ティー・コーポレーションを「飲食業」として「その他の事業」に移行いたします。

 

<国内百貨店業>

国内百貨店業におきましては、これからもあらゆるお客様を対象として、多様なニーズに応える上質な商品やサービスの拡充、知的欲求に応える文化発信を推進することで、実店舗の強みを生かしたワンストップでの買物体験を提供いたします。具体的には、消費動向の変化を踏まえた新規ブランドの導入、百貨店ならではのアイテム平場や自主編集売場の再構築、新たなイベント開発など、成長に向けた投資は積極的に実施することで、店舗の魅力向上、売上高の増大につなげてまいります。

ECにおきましては、引き続きお客様のニーズに沿った展開ブランドの拡充やサイト、アプリの特徴化、利便性を高める取り組みを推進していきます。また、実店舗を持つ強みを生かし、店頭とECの相互送客により顧客接点を創出、新たなお客様の獲得、収益力の向上につなげてまいります。

さらに、正価品の売上高増大など商品利益率の改善に向けた取り組みや店舗運営体制の更なる効率化などコスト削減に向けた取り組みも同時に進め、利益拡大を図ってまいります。

 

<海外百貨店業>

海外百貨店業におきましては、各国の景気、消費動向を踏まえながら、適切に経営資源を投下し、地域ごとのお客様のニーズに応えてまいります。シンガポール髙島屋では、ファッション関連商品や食料品などの品揃えを強化し、国内顧客やツーリストの更なる取り込みを図ってまいります。上海高島屋では、景気低迷による消費減速リスクが顕在化する中、市場変化に対応した収益基盤の確立に継続して取り組んでまいります。また、ホーチミン髙島屋では、商品カテゴリー・ブランドの再編や催、イベントの強化により店舗の集客力を高めると共に、売上高の増大につなげていきます。また、ベトナムを有望な市場と位置づけ、更なる営業機会の拡大を図ってまいります。サイアム髙島屋では日本ブランドの品揃え強化を図り、収益力の向上につなげてまいります。

 

<国内商業開発業>

国内商業開発業におきましては、東神開発株式会社が段階的に改装を実施している「柏髙島屋ステーションモール」が、ニーズの高いテナントやコミュニティ機能を取り入れてリニューアルオープンいたします。引き続き、地域に根ざした魅力的なSCを実現することでリアル施設ならではの体験価値の向上と新たなお客様層の開拓を進めてまいります。

 

<海外商業開発業>

海外商業開発業におきましては、シンガポールでの実績やベトナム・ホーチミンでの成功を足掛かりに、ハノイでの開発を段階的に進めております。住宅・オフィス・商業の複合開発事業など、ベトナムでは将来的に大きなリターンを見込んでいます。今後もベトナム開発には集中的に投資を行い、シンガポールに次ぐ第2の収益の柱として、持続的な成長につなげてまいります。

 

<金融業>

金融業におきましては、髙島屋ファイナンシャル・パートナーズ株式会社の収益の柱であるカード事業で既存のカードに合わせて、新たに発行したビジネスカードの新規会員の獲得強化と利用促進を図ってまいります。ライフパートナー事業におきましては、顧客接点の拡大を通じ、収益力向上を目指してまいります。また、M&Aやアライアンスも視野に入れ、事業拡大や新しい領域の開拓を進めてまいります。本年3月には不動産投資やアセットマネジメントを展開する株式会社Fantaと新たに提携いたしました。今後は両社でヘルスケア施設を対象とした投資法人創設を目指して協業し、収益拡大を図ると共に、高齢化時代における社会課題解決にも貢献してまいります。

 

<建装業>

建装業の髙島屋スペースクリエイツ株式会社におきましては、専門人材の育成、補強により、更なる先行提案営業の強化を図り、ラグジュアリーブランドやホテルの受注増につなげてまいります。また、課題を残した原価管理など経営マネジメント体制を強化し、安定的な収益基盤の構築に努めてまいります。

 

<その他の事業>

飲食業の株式会社アール・ティー・コーポレーションにおきましては、今秋、セントラルキッチンの新拠点が始動いたします。既存拠点と併せて活用することで製造加工・調達物流の効率化を図ると共に、独自性のある商品開発を推進してまいります。また、「鼎泰豐」や日本国内での店舗運営の独占契約を有する「リナストアズ」など、日本マーケットで支持されるための品質・サービスの改善を図ることで、取り扱いブランドの魅力向上につなげてまいります。

通信販売業のクロスメディア事業におきましては、品揃え強化、編集力向上を図り、カタログ紙面の魅力を高め、既存のお客様の満足を高めると共に、店舗と連携したお客様づくりを推進し、収益基盤の拡大につなげてまいります。

また、広告宣伝業の株式会社エー・ティ・エーにおきましては、デジタル領域の専門性強化、人材派遣業の株式会社センチュリーアンドカンパニーにおきましては、百貨店で培ったクオリティの高い業務運営力を生かした受注拡大など、グループ各社におきましては、成長に向けた取り組みを進めてまいります。

 

(4)資本政策の基本的な方針

<基本的な考え方>

当社は、将来の事業リスクへの備えおよび持続的な成長投資に向けた資金調達のため、自己資本拡充と有利子負債の縮減により財務健全性を高めていきます。

主要な経営指標(KPI)として、ROIC(投下資本利益率)、EBITDA、自己資本比率、DOE(株主資本配当率)、TSR(株主総利回り)を設定しております。ROICにつきましては、資本コストを意識した経営の実現に向け、事業別にWACC(加重平均資本コスト)を想定し、それを上回るROIC目標を設定のうえ、事業ごとに投資に対するリターンを意識した経営を実践します。2023年度末時点のWACCは、4.6%であり、持続的に5%を上回る水準の達成を目指します。EBITDAについては、財務安定性の観点から、純有利子負債EBITDA倍率、現金創出力の観点から、総資産対EBITDA比率を設定しております。

各経営指標については、決算説明会資料(※)で開示しております。

※ https://www.takashimaya.co.jp/corp/ir/tanshin/

 

<キャッシュアロケーションの想定>

当社では、営業活動によるキャッシュ・フロー(営業CF)に占める、持続的成長に向けた設備投資への配分が約80%から90%と想定されます。その内訳は、商業開発を中心にした国内外成長投資に約70%、店舗の安全安心投資、ESG・人的資本投資に約30%です。

また、財務健全性の観点については、2027年度導入が予定されているリース会計を見越した有利子負債圧縮に向けた支出が営業CFの3%から5%想定されます。

株主還元へは、営業CFの7%から10%を想定します。

 

<株主還元>

配当は、純資産増加をベースとした累進配当に加え、EBITDA又は営業CF比率を考慮します。業績が好調に推移するなど、フリーキャッシュ・フローが想定以上に改善した場合は、投資額の増加、さらなる有利子負債圧縮、追加の株主還元から総合的に判断します。

 

 

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社のサステナビリティに関する考え方及び取組は、以下のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社が判断したものであります。

 

(1)当社のESG経営

 当社のグループ経営理念「いつも、人から。」は、SDGsが目指す「誰一人取り残さない」社会の実現と強く結び付くものです。2006年には、経営理念をもとにCSR活動領域を策定し、現在もそれに即した経営の推進や情報の開示を行っています。活動領域には、事業活動を通じて得た利益をさまざまな人々に還元する「経済的役割」や「コンプライアンス(法令遵守)」といった基本的な活動に加え、「企業倫理」に基づく行動や新しい価値の創造、社会問題の解決など「社会的役割」の実現といった活動があります。

 

 こうした従来のCSR経営にSDGsの概念を融合し推進しているのが、「グループのESG経営」です。「環境に優しいより豊かな生活・文化の提案」・「多様な価値観への対応、多様な人材の活用」・「お客様視点に立った経営」など、当社ならではの価値提供を通じ、ステークホルダーの皆様からの共感を獲得することで、「すべての人々が21世紀の豊かさを実感できる社会の実現」に貢献していくことを目指しています。

 

 当社は、ESG経営重点課題として、「脱炭素化推進RE100」や「ダイバーシティ推進」をはじめとする10の項目を設定しています。脱炭素化推進では、LED化による電力使用量の削減、再生可能エネルギー由来電力への転換を進めています。また、ダイバーシティ推進では、女性の活躍・ジェンダー平等に向けた取り組みや、外国人の労働者としての受け入れと生活者としての支援など、多様な価値観や能力を尊重し、あらゆる人材がその能力を最大限発揮でき、やりがいを感じられるダイバーシティ&インクルージョンの実現に向けた環境整備や意識啓発に取り組んでいます。

 

 グループESG経営を推進することで、従来型のビジネスモデルから脱却し、時代や社会の要請に合わせて変革していくことが重要であり、結果として社会課題の解決はもちろんのこと、事業成長の好機にもつながるものと考えます。

 

 当社がグループ総合戦略として位置づける「まちづくり」(以下、まちづくり戦略)も、コミュニティやサステナビリティの観点からESG経営と密接な関係にあります。「街の賑わいを創出し、地域との共生を図る」「商品や環境、サービスを通じて新しい価値を提案・提供する」ことは、さまざまな社会問題の解決に応用・発展させていくことができます。さらに当社は百貨店を中核に国内外で各グループ事業を展開しており、また優良な顧客基盤や店舗の立地、お取引先とのネットワークを有していることから、地球上のさまざまな問題にアプローチできる強みやポテンシャルを持ち合わせています。まちづくり戦略を推進する中で、短期的・中長期的両方の視点で社会課題の解決に取り組むことで、グループのさらなる成長を目指すと共に、持続可能な社会の実現に貢献していきます。

 

●グループESG経営概念図

 

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  なお、ESG経営については、「1「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」 (3)

  経営環境及び対処すべき課題 □ESG経営の推進」にも記載しています。

 

 

 

① ガバナンス

a.取締役会がサステナビリティ関連課題について報告を受けるプロセス、議題として取り上げる

  頻度、監視対象

 

 当社では、グループESG経営の推進を通じ、社会課題解決と企業価値の向上・持続的成長を図り、お客様や株主・投資家をはじめとしたステークホルダーの皆様からのご期待に応えるため、コーポレート・ガバナンスの強化及び内部統制システムの整備に取り組んでいます。内部統制システムに関わる主な会議としては、社長を委員長とする「髙島屋グループCSR委員会」および「髙島屋グループリスクマネジメント委員会」を設置しており、サステナビリティに関する重要事項について議論・確認を行い、取締役会に報告を行っております。

 

 「髙島屋グループCSR委員会」は、半期に一度開催し、コンプライアンス経営の徹底に加えて内部統制の状況や、ESG重点課題の進捗状況及び新しい社会課題に対する取り組み状況をグループ横断的に検証し、強化する体制を整えています。議論された内容については取締役会に報告し、取締役会による監督体制のもと、取り組みに対するガバナンスの強化に努めています。

 

 「髙島屋グループリスクマネジメント委員会」は、必要に応じ都度開催し、主管部門が各部門と連携し、案件ごとにラインを通じて内部統制の強化を図っています。コンプライアンスリスク・自然災害リスク等の予防、極小化に向けグループ横断的に統制を図っています。また、新たなビジネスへのチャレンジ等、事業戦略上発生するリスクに対しては、リターンとのバランスを考慮しながら的確にコントロールし、グループ全体のリスクマネジメント体制の確立に取り組んでおり、協議された内容については、取締役会へ報告を行っています。

 

 さらに、ESG経営を組織内に浸透させ、設定した重点課題に対する取り組みを確実に推進していくため、グループ視点での方針管理、進捗管理を充実させる「グループ環境・社会貢献部会」を四半期毎に開催し、より一体的でかつ実効性が発揮できる体制を整えています。

 

 

b.経営者のサステナビリティ関連課題に対する責任、報告を受けるプロセス(委員会等)、モニ

  タリング方法

 

 取締役会は、当社の業務執行がグループ全体として適正かつ健全に行われるために、取締役の職務執行状況を適切に監督するとともに、実効性あるグループ全体の内部統制システムの基本方針に基づく運用状況や課題について定期的に確認しています。

 

 社長が委員長を務める「髙島屋グループCSR委員会」は、ESG重点課題の進捗状況を報告し、改善点に対しては速やかに次年度の活動へ反映するなどPDCAサイクルを徹底し、毎年度モニタリングを行っています。その内容については取締役会に報告し、取締役会による監督体制のもと、サステナビリティ課題の取り組みに対するガバナンスの強化に努めています。

 

 また、社長が委員長を務める「髙島屋グループリスクマネジメント委員会」は、当社の業務執行に伴うさまざまなリスクを抽出し、リスク発生時の損失極小化に向けた対応等、協議された内容については、取締役会へ報告を行っています。

 

●内部統制システム体制図

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●ESG重点課題 推進体制図

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② 戦略

 当社は、事業活動を通じ、SDGsの達成に強く寄与できる取り組みを環境・社会2領域に落とし込み、領域ごとに10項目の重点課題(マテリアリティ)を策定し、取り組みを推進しています。

 

 また、ESGの考え方を経営の中心に据え、広範囲かつビジネスに直結する取り組みとするためには、より多くのステークホルダーの支持・共感を獲得することが重要です。当社が、生活・文化・地域社会を支えるプラットフォームとしての役割を一層発揮し、お客様・お取引先・地域社会と共に、チャネル全体でESG経営を推進することで、持続可能でこころ豊かな生活の実現に貢献していきます。

 

 その一環として、2023年度よりお客様・お取引先との共創による当社のサステナブル活動

「TSUNAGU ACTION」を拡大展開。「環境負荷軽減とデザイン性・機能性」を両立する商品開発や、多様性を尊重する(インクルーシブ化)商品提案や施設・サービスなど、当社ならではの価値提供を通じて、サステナブルなライフスタイルを提案しています。また、企業の持続的成長や価値向上に直結する「人的資本」への投資は、社会のサステナビリティと企業の利益創出を両立する上で不可欠な戦略投資です。当社は、専門性や多様な価値観を持つすべての人の価値を最大限引き出し、お取引先からの派遣スタッフを含めた従業員が、主体的に生き生きと成果発揮できる企業を目指し、人的資本経営を推進していきます。

 

●重点課題とアクションプラン

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③ リスク管理とリスクに対する取り組み

a.サステナビリティ関連リスクの特定・評価プロセスの詳細、重要性の決定方法

 当社は、サステナビリティ課題を含む事業へのリスクについて、社長を委員長とする「髙島屋グループCSR委員会」及び「髙島屋グループリスクマネジメント委員会」にて、当社の業務執行に関わる様々なリスクを抽出・評価を実施し、リスクの未然防止及びリスク発生時の損失極小化に向けた対応等、協議を行っています。なお、リスク特定・評価に関する議論内容は最終的に取締役会へ報告しています。

 

b.サステナビリティ関連リスクの管理プロセスの詳細、優先順位付けの方法

 サステナビリティ関連のリスクと機会は、当社の事業活動に大きな影響を及ぼすため、「髙島屋グループ環境・社会貢献部会」や「髙島屋グループCSR委員会」において、グループESG経営重点課題で掲げた環境課題に対し、年度計画に基づく取り組み内容や進捗状況を確認し、取締役会へ報告しています。

 「髙島屋グループリスクマネジメント委員会」で特定したサステナビリティ関連リスクは、「発生頻度・可能性」・「事業への影響度」を評価基準にリスクマップを策定し、その重要性を評価しました。

 当社は、リスク管理体制を含む内部統制システムの整備に取り組み、リスクの予防・極小化に向け、グループ横断的に統制を図るとともに、新たなビジネスへのチャレンジ等、事業戦略上発生するリスクに対しては、リターンとのバランスを考慮しながら的確にコントロールするなど、グループ全体のリスクマネジメント体制の確立に取り組んでいます。

 

c.全社リスク管理への仕組みの統合状況

 サステナビリティ関連リスクは、当社の事業活動に甚大な影響を及ぼす可能性があり、当社は、「髙島屋グループCSR委員会」及び「髙島屋グループリスクマネジメント委員会」を通じ、リスク発生時の対応やリスク管理体制の強化に努めています。リスクに対する取り組みとして、脱炭素社会の実現に向けた「RE100」や「EV100」の推進、廃棄プラスチックや食品ロスの削減、循環型ビジネスの構築等に取り組むとともに、自然災害の激甚化に伴う営業機会損失を最小限に抑制するため、店舗や施設のレジリエンスを高める設備投資や、サプライチェーン上の人権リスクの未然防止・軽減に向けた人権デューデリジェンスの体制整備等に取り組んでいます。

 

 リスク管理の詳細は、「3事業等のリスク」に記載しています。

気候変動に関するリスク(シナリオ分析に基づくリスク・機会及び財務影響等)については、

(2)サステナビリティに関する個別課題 <気候変動への対応>」に記載しています。

 

 

④ 指標と目標

 ESG重点課題に関するKPIを設定し、取り組みの実践とモニタリングを行っています。

気候変動に関する指標と目標については、「(2)サステナビリティに関する個別課題 <気候変動への対応>」にも記載しています。

 

●重要課題とKPI

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(2)サステナビリティに関する個別課題

 

 <気候変動への対応>

 当社は、グループ経営理念体系の「5つの指針」のひとつに「地球環境を守るためのたゆまぬ努力」を掲げています。また「髙島屋グループ環境方針」においても、地球温暖化の防止やCO2排出量の削減に重点を置くなど、持続可能な社会の実現に貢献することを目指しています。

 

 このグループ環境方針は、ESG経営で掲げる環境課題を解決につなげる基本的姿勢でもあります。お客様やお取引先、地域社会など、多くの人々との直接的な接点をもつという事業特性を生かしながら、環境方針に基づくさまざまな活動に取り組んでいます。

 

 しかし一方で、近年は気候変動や資源の枯渇、生物多様性の減少といった環境問題がより深刻化しており、環境問題への取り組みの重要性や緊急性が高まっています。特に中核事業である百貨店事業では、化石燃料などの地下資源による電力の大量消費や、プラスチックや食品ごみの大量廃棄、衣料品の過剰在庫など、現行のビジネスモデルが環境負荷を前提としていることをリスクと捉えています。

 

 そこで当社は、従来型のビジネスモデルから、地球資源を再生・修復するビジネスモデルへと変革し、環境課題解決と事業成長の両立に取り組みます。また、TCFD提言に賛同し、TCFD提言が推奨する「ガバナンス」「戦略」「リスク管理とリスクに対する取り組み」「指標と目標」の4つの開示項目に基づき情報開示のさらなる拡充を図ってまいります。

 

 

{TCFD提言が推奨する開示項目に沿った情報開示}

 TCFD提言が推奨する4つの開示項目<ガバナンス><戦略><リスク管理><指標と目標>と、項目毎の具体的な開示内容に基づき、当社は、気候関連情報を開示しています。

 

① ガバナンス

 気候変動に関するガバナンスは、サステナビリティ全般のガバナンスに組み込まれています。体制図を含む詳細については、「(1)当社のESG経営 ① ガバナンス」に記載しています。

 

 

② 戦略(気候関連シナリオ分析)

a.短期・中期・長期のリスク・機会の詳細

 当社は、将来の気候変動が事業活動に与えるリスクと機会、財務影響を把握するため、従業員選抜型ワークショップを開催し、TCFDが提唱するフレームワークに則り、シナリオ分析の手法を用いて、2050年時点における外部環境変化を予測し、分析を実施しました。気候変動に伴う自然環境の変化や資源の枯渇等は、長期間にわたり当社の事業活動に大きな影響を与えるため、百貨店のみならずグループ事業全体において、従来型のビジネスから、地球資源を再生・修復するビジネスへと変革していくことが必要であると認識しています。当社が目指す将来社会を見据え、環境・社会領域におけるESG重点課題10項目は、2030年時点の達成目標(中長期)や、年度毎の数値目標(ロードマップ)を設定し、PDCAサイクルにて進捗管理を行っています。

 

b.リスク・機会が事業・戦略・財務計画に及ぼす影響の内容・程度

 TCFDが推奨する気候変動関連リスクを移行リスク・物理的リスクの2つのカテゴリーに分類し、当社の事業活動に甚大な影響を及ぼす可能性がある主要なリスク項目を特定しました。また、「2℃以下シナリオを含む、様々な気候変動関連シナリオに基づく検討」を行うため、当社は、IPCCやIEA等のシナリオを参考に、事業活動や財務に及ぼす影響を分析し、持続可能な成長に向け、その対応策を検討・推進しています。当社のシナリオ分析は、パリ協定の目標である「2℃未満」と、CO2排出量削減が不十分な「4℃」の2つのシナリオを想定し、TCFDが推奨する典型的な気候関連リスクと機会を参考に分析を行いました。

 

 

 

想定シナリオ

 

2℃未満

シナリオ

気候変動対応の厳しい法規制施行による事業運営コストの増加

エネルギーコストや商品価格の高騰に伴う、商品調達リスクの拡大

消費者の環境意識の高まりによる新たなマーケット獲得

4℃

シナリオ

自然災害の多発・激甚化に伴う店舗被災、サプライチェーンの断絶など、営業機会の損失

エネルギー価格の高騰や資源不足に伴う商品調達リスクの拡大

環境負荷を前提としたビジネスモデルから脱却できない企業に対する市場からの淘汰

 

●髙島屋グループのリスク・機会の概要と事業及び財務への影響

リスク・機会

の分類

髙島屋グループ 気候変動関連リスク・機会の概要

事業及び
財務への影響

+2℃未満

+4℃

市場と

技術

* 再生可能エネルギーへの転換に伴う調達コスト増加

* 環境マーケット需要の獲得遅れに伴う競争力低下

大きい

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大きくなる

評判

* 環境課題への対応遅れに伴うステークホルダーからの

  信用失墜、ブランド価値の毀損、組織会員離反

非常に

大きい

0102010_011.png

非常に

大きくなる

政策と

* 炭素税の導入、プラスチック循環促進法への対応など、

  規制強化に伴う事業運営コストの増加

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軽微

物理的

リスク

* 大規模自然災害の発生に伴う店舗閉鎖や、サプライ

  チェーン断絶に伴う営業機会損失

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エネルギー源

* 省エネ推進に伴う電力使用コスト削減

* 災害に備えた事業活動のレジリエンス確保

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市場

* ESG経営の推進によるステークホルダーからの共

  感獲得、企業価値向上

* 高まる環境意識に対応した商品・サービスの提供による

  マーケット獲得

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c.シナリオに基づくリスク・機会及び財務影響とそれに対する戦略・レジリエンス

 2030年時点を想定した2つのシナリオにおける事業及び財務への影響に関し、規制強化に伴う炭素税の導入や、再生可能エネルギー由来の電力調達コストが財務に影響を及ぼすものと考え、2℃未満シナリオにおける財務影響を試算しています。

 

●髙島屋グループへの財務影響

2030年時点を想定した財務影響

炭素税導入

約25億円

コスト増

・IEA(※)の2℃未満シナリオにおける2030年の先進国

 国際炭素税価格(約11千円/t-CO2)を基準に、当社

 2019年時点のCO2排出量(約230,516t)より算出

再エネ由来の

電力調達

約16億円

コスト増

・現状の調達電気との料金格差(約4円/KWh)に、当社

 2019年時点の電力使用量(約392,824MWh)より算出

 

IEA(国際エネルギー機関)発行「世界エネルギー展望 World Energy
 Outlook2019」
参照

 

 当社は、気候変動関連リスクに対する事業活動や財務に与える影響などを踏まえ、持続可能な社会の実現に貢献することを目指し、社会課題解決と事業成長の両立を図る「グループESG経営」を推進しています。その一環として、2019年、事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギー由来の電力で調達することを目指す国際的イニシアチブ「RE100」に参加し、「2050年までに事業活動で使用する電力の100%を再生可能エネルギーに転換すること」を目標とし、脱炭素社会の実現に向けた取り組みを推進しています。また、店舗ごとに設備を省エネ効率の高い機器へと順次更新すると共に、既存照明をLED照明へ変更することにより、使用電力及びCO2の削減に努めており、国内百貨店では2011年~2021年までに約22,500MWhの電力使用量を削減し、約10,000t-CO2のCO2排出量削減を実現しています。2022年度についても約5.2億円のLED化投資により、CO2排出量を△2,500t-CO2削減しました。

 さらに当社は、まちづくり戦略を通じ、「街のアンカーとして役割発揮」「館の魅力最大化」に取り組むとともに、「TSUNAGU ACTION」などを通じ、環境に配慮した商品やサービス、店舗施設の提供など、新しい価値を提案する次世代商業施設づくりを推進し、新たなマーケット獲得に取り組んでいます。グループ経営においても、これまで百貨店に集中していた経営資源をグループ内で有効活用し、既存事業の収益強化と将来の成長に向け事業規模の拡大や新規事業の開発を進めるなど、気候変動関連リスクの抑制に努めると共に、マーケット変化に積極的に対応し、新たなビジネス機会獲得に取り組んで参ります。

 

③ リスク管理とリスクに対する取り組み

 気候変動に関するリスク管理及びリスクに対する取り組みは、サステナビリティ全般のガバナンスに組み込まれています。詳細については、「(1)当社のESG経営 ③ リスク管理とリスクに対する取り組み」に記載しています。

 

④ 指標と目標

a.気候関連リスク・機会の管理に用いる指標

 当社は、気候関連リスク・機会を管理するための指標として、Scope1・2・3温室効果ガス排出量、及び事業活動で使用する電力に占める再生可能エネルギー比率を指標として定めています。

 

b.温室効果ガス排出量(Scope1・2・3)

 百貨店事業を中核に位置付ける当社は、環境負荷を前提とした現行のビジネスモデルをリスクと捉え、環境課題の解決に向けて取り組んでいます。2019年、事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギー由来の電力で調達することを目指す国際的イニシアチブ「RE100」に参加し、脱炭素化推進に取り組んでいます。当社の2022年度Scope1・2温室効果ガス排出量は、約199.2千t-CO2、国内百貨店におけるScope3温室効果ガス排出量は、約4,264.2千t-CO2排出しています。

 

●温室効果ガス排出量

 

 

範囲

2019

2020

2021

2022

温室効果ガス排出量

CO2

連結

Scope1

(t)

24,953

21,055

20,197

19,910

Scope2

(t)※1

205,563

178,090

183,301

179,377

Scope1・2合計

(t)

230,516

179,145

203,497

199,286

国内

百貨店

Scope3

(t)

3,382,417

2,495,547

2,772,244

4,264,236

フロン類

※2

連結

(海外除く)

t-CO2

1,552

1,609

1,580

967

 ※1 CO2排出量Scope2はマーケット基準で算出しています。

 ※2 店内で使用している冷凍・冷蔵庫のフロン漏えい量を、フロン排出抑制法に基づき、CO2換算した数値

    です。

 

c.気候関連リスク・機会の管理に用いる目標及び実績

 当社は、2019年「RE100」に参加いたしました。「2030年度にScope1・2温室効果ガス排出量30%以上削減」、「2050年度までにScope1・2温室効果ガス排出量ゼロ」を目標として設定し、毎年度の数値目標を設定したロードマップに基づき、脱炭素社会の実現に向け、取り組んでいます。当社は、2019年度Scope1・2温室効果ガス排出量を基準に、中長期の温室効果ガス排出量削減目標とRE達成目標を設定し、脱炭素化を推進しています。

 2020年度より施設電力の再生可能エネルギー由来電力転換を実施して以来、近年は2022年度流山おおたかの森S・C ANNEX2、こもれびテラスなど5施設に再生可能エネルギー由来の電力を導入、2023年度は横浜店の電力使用量の一部にコーポレートPPAによる再生可能エネルギー由来電力を導入するなど、再エネ転換を推進しています。

 

Scope1・2

単位

2019年度

2025年度

2030年度

2050年度

温室効果ガス排出量

t-CO2

230,516

208,961

161,361

0

削減量(19年度比)

△21,555

△69,155

△230,516

温室効果ガス削減目標

△9.4%

△30%以上

△100%

RE達成率

0%

8.6%

30%以上

100%

 

 

<人的資本・多様性>

 百貨店を中核事業とする当社において、企業の競争優位性の源泉や、価値向上の大きな推進力となる「ヒト」や「ノウハウ」など、無形資産である「人的資本」への投資は、企業成長や価値向上に直結する重要な戦略投資であり、社会のサステナビリティと企業の利益創出を両立する上でも必須となります。

 時代の変化がますます加速していく中、百貨店の営業力強化やグループ会社の業界競争力獲得・事業領域拡大を果たしていくためには、確立された事業ノウハウと変化対応力の両方をあわせ持つことが必要であり、これを実現する上では人的資本への投資による専門性の育成・多様性の確保が不可欠です。

 当社においては、創業200周年である2031年に向けてあるべき姿として策定した「グランドデザイン」の中でも「企業と個人が共感し成長していくことで、働きたい・働き続けたいと思える企業文化・風土を実現」を目標の1つに掲げています。

 具体的には、経営理念やビジョンの共有、従業員の労働条件向上や各種制度の拡充に加え、人材育成やキャリアサポートの拡充、従業員エンゲージメントの可視化・向上、ダイバーシティやワークライフバランスの推進など、人材の価値や意欲を引き出し、企業価値向上につなげる「人的資本経営」を推進しています。

 また、お取引先従業員も当社にとって重要な存在であることから、当社従業員だけでなく、お取引先従業員からの声も収集し、当社で働きたい・働きやすい職場環境の整備に取り組んでいます。具体的には、各店舗や施設で働く従業員が利用する社員食堂の魅力化、後方施設の改善や煩雑な販売手続きの簡素化、百貨店店舗の労働改善に向けた営業時間短縮・休業日の設定など、一人ひとりの事情や状況に合わせた働き方で「個」を活用し、それぞれの価値を最大限に引き出す活動を推進しています。

 人的資本経営の推進を通じ、当社が目指す将来像の実現に向け、グループ会社やお取引先からの派遣従業員を含め、一人ひとりが主体的に生き生きと働き、取得した専門性・能力を発揮して成果を最大化できる「場」を確立していきます。また、多様な価値観・働き方を認め合い、相互にコミュニケーションを図ることによりイノベーションを生み出す「場」への好循環を確立することで、持続的成長が実現できる体制を構築していきます。

 

① 戦略

 当社は、「営業力強化」「組織力の向上」「働きがいの向上」に向け、人材育成の基本方針を定め、社内外や時代を見据えた人材育成に取り組んでいます。

 

a.人材育成方針

●社会環境が急激に変化する中、企業の持続的成長には、未来を見据えた事業のトランスフォームが不可欠となります。そのために、多様な人材が主体的に能力開発に取り組み、自律的にキャリアを形成していくことを大切にしています。

 

●当社の人材育成の根幹は「OJT」です。「OJT」により、業務現場でしか得られない仕事の進め方や知識・技能を習得し、実務能力や問題解決力を高めます。また、多様な「Off・JT」により、業務現場以外の急変する環境に即した教育を有機的に組み合わせることで、クリエイティブ・イノベーティブな発想力・構想力を養っていきます。

 

 

 

●能力開発体系

 

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b.キャリアサポート(アセスメント制度、オープンエントリー・FA制度)

 当社の人事に関する制度運営は、「個人の自主性の尊重」を基本的な考え方とし、一人ひとりの個性と意欲を尊重した人材育成を目指しています。国内百貨店においては、キャリア実現に向けたサポートの一環として、職務別の「職務基準書」を整備し、求められる「業務内容・職務経験・資格(講座)・資質・人材要件定義」などを明示し、自律的にキャリアルートを描く人事管理体制を整えています。「職務基準書」に明記された「人材要件定義」を核とし、自らの現状と現職に求められる能力との差や、自ら目指すキャリアに必要な能力との差を、本人と上長間で可視化し、計画的な能力開発の実現を目指しています。また、一人ひとりが自らのキャリア開発のための意向を伝える仕組みとして、以下の制度を整備しています。

 

●アセスメント制度

 年に一度、「能力評価アセスメント(各職務に求められる「能力・スキル」などと現在の自分との差異を明確化し、今後の能力開発計画に反映)」、「自己申告(進路・キャリアプランなどの意思表明)」について確認し、ジョブローテーションの参考にしています。

 

●オープンエントリー・FA制度

 自らのキャリアを自らの意思で実現していくため、本人の具体的職務への強い希望を、ジョブローテーションに活用する制度です。自らが希望する職務に自ら手を上げ、その意欲を配置で実現する仕組みにより、一人ひとりが専門能力を持ったプロとして自立できることをサポートしています。

 

c.従業員エンゲージメントの可視化・向上

 人的資本経営推進の大きな柱として、従業員エンゲージメントの可視化・向上の取り組みを推進しています。

 まず、健康経営の推進に向け、全従業員を対象に実施している「ストレスチェック」調査項目に、エンゲージメント関連項目を新たに追加しました。メンタルヘルス(ストレス)とエンゲージメントを同時に測定し、より高い生産性実現のための組織づくりを進めています。

 従業員エンゲージメントの向上においては、職場環境や組織風土の改善、各種制度の拡充や納得性のある人事制度運営などに加え、各社・各部・各店・各職場の調査結果を踏まえ、課題把握と改善策を職場単位で検討・実施し、PDCAサイクルに基づき、進捗状況を検証・確認していきます。

 加えて、百貨店の店頭で販売の最前線を担うお取引先従業員(百貨店におけるローズスタッフ)も当社において非常に重要な存在であり、さらなる営業力強化を図るためには、働きやすい職場環境を整備し、満足度や一体感を高めていくことが不可欠です。そのために、ローズスタッフを対象としたアンケート調査を定期的に実施、「満足度」や「悩み・不満」を可視化し、改善に向けたアクションを適時行うことで満足度の向上を図っていきます。こうした取り組みを通じ、働きがいの創出や生産性の向上、人材の定着化や一体感の醸成につなげ、持続的成長が可能な体制構築を目指していきます。

 

d.ダイバーシティ推進

 SDGsが目指している「誰一人取り残さない」社会の実現には、すべての人の人権や個性、価値観を尊重するとともに、文化や慣習などの違いを相互に受容することで、人種や国籍、年齢や性別、性的指向・性自認や障がいの有無などに関係なく、すべての人々が活躍できる社会の構築が不可欠です。

 当社は、多様な価値観や生活背景を有する人材の能力が最大限に発揮できる環境を整備し、「人と企業の双方の成長」を実現するための取り組みを行っています。2020年に策定した「ダイバーシティ推進方針」に基づき、多様な価値観や能力を尊重し、企業の成長に結びつける取り組みを推進しており、今後も、あらゆる人材がその能力を最大限発揮でき、やりがいを感じられるダイバーシティ&インクルージョンの実現を目指していきます。

 

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 女性の活躍推進・ジェンダー平等に向けては、固定的な性別役割分担意識を払拭し、男女問わず育児と仕事の両立を実現することが不可欠です。㈱髙島屋は、「男性育休100%宣言」に賛同するとともに、女性活躍に関する数値目標の設定や課題抽出を行い「女性活躍推進行動計画」を策定するなど、性別に関係なく働きやすい職場づくりに取り組んでいます。

 その一環として、管理監督者を対象に、女性活躍・ジェンダー平等をはじめとする「ダイバーシティ教育」を実施しています。具体的には、ダイバーシティ&インクルージョンが組織に与える影響や、具体的事例の共有など、従業員の意識や行動の気づきにつなげることを目的とした、アンコンシャス・バイアス(無意識バイアス)研修等を実施しています。

 また、「多様な部下育成研修」において、育児介護など、さまざまな制約や事情を抱えた部下とのコミュニケーションや、潤滑な職場運営について学ぶ機会を設定しています。管理監督者向けダイバーシティ教育の実施により、コミュニケーションの活性化や、多様な人々が活躍できる風通しの良い職場風土の醸成につなげています。

e.ワークライフバランス推進

 当社は、生活文化を提案していく企業です。豊かな生活提案のためには、従業員がゆとりある生活者であることが必要です。

 それぞれが「キャリアビジョン」と「ライフスタイル」をしっかりと設計し、実現するためにサポートの仕組みや制度を都度整備し、働く「人」とその家族が「豊かでゆとりある生活者」として生活を築き上げる努力を支援する制度を、広く整えていきます。

 2015年、「子育てサポート企業」として厚生労働大臣の認定(くるみん認定)を受けている企業のうち、より高水準の取り組みを行った企業として㈱髙島屋、㈱岡山高島屋は「プラチナくるみん」の認定を受けました。

 2017年には、役員・管理職への女性登用に関する方針、取り組みおよび実績並びにそれらの情報開示において、顕著な功績があったと認められ、女性が輝く先進企業「内閣総理大臣表彰」を受賞しました。(㈱髙島屋として受賞)

 また、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組む法人として、経済産業省「健康経営優良法人2023」大規模法人部門に認定されました。(㈱髙島屋として認定) 従業員の健康保持・増進やワークライフバランスのさらなる実現のために、時間外労働の削減や安全衛生に向けた取り組みを行っています。

 

② 指標と目標

 当社は、人的資本経営を推進する指標としてESG重点課題で掲げた「ダイバーシティ推進」や「働き方改革推進」に関する指標と下記数値目標を設定し、全社的に取り組みを推進しています。

 

指標

実績

目標

2023年度

2025年度

2026年度

2030年度

女性管理職比率 ※1

28.6%

35.4%

36.4%

40.0%以上

有給休暇取得率 ※2

75.9%

80.0%

82.0%

100.0%

人当生産性 ※3

(営業利益/従業員)

6.8百万円

4.7百万円

5.0百万円

6.6百万円

※1 女性活躍推進法の管理職の定義に基づき算定しております。対象は、提出会社、国内連結子会社および非連

   結子会社のタカシマヤトランスコスモスインターナショナルコマースジャパン㈱の数値であります。

   (3月1日時点)

 

※2 労働基準法に基づく年次有給休暇の付与日数を分母、取得日数を分子として算定しております。対象は、提

   出会社、国内連結子会社および非連結子会社のタカシマヤトランスコスモスインターナショナルコマースジ

   ャパン㈱の数値であります。

 

※3 当該年度末の海外子会社を含む連結従業員数を分母とし、年度連結営業利益を分子に算出しております。

 

3【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のあるリスクには、以下のようなものがあります。

文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社が判断したものであります。また、以下の記載は、当社の事業等のリスクをすべて網羅することを意図したものではないことにご留意ください。

なお、以下に記載したリスクのうち、新たな成長領域への事業拡大に関する法令違反や情報漏洩、お客様が損失を被るような事故等により、レピュテーションが低下するリスクは全ての項目において常に内在しています。当社は「コンプライアンスの徹底」を何よりも優先すべく、経営トップが強い意志を持って、グループ全体のリスクマネジメント体制の強化、内部統制システムの充実、取締役会の機能強化に取り組んでまいります。

 

(1)外部環境に起因するリスク

  主に、主業である百貨店業の外部環境を想定しております。

①社会構造の変化による国内人口の減少と地方都市空洞化

<リスクと機会> ・・・影響度=大

リスク

*少子高齢化、地方都市空洞化に伴うマーケットの縮小

*労働人口の減少に伴う必要人材の確保難

機 会

*リスキルによる人材有効活用の促進

 

<対応策>

抗えないこれらの外部環境変化に対応するため、百貨店においてはお客様の興味・関心に即した売場の再編、エシカルな消費行動に対応した独自商品の販売を強化し、魅力ある品揃えの実現に努めてまいります。また多様化するニーズに対応した販売の仕組みづくりや、単なる商品販売に止まらず、金融サービスや介護サービスなどライフタイムバリュー(LTV)全般の向上に寄与する商品提供による来店動機・機会の向上に努めてまいります。更に、実店舗に頼らないECの訴求力向上、百貨店のないエリアへの通販カタログ配布などを通じて商圏の拡大およびお客様との接点の拡大を図ります。

また、街のアンカーとしての機能強化につながる拠点開発や異業種・外部企業とのアライアンスによって非商業分野も取り込んだ新たなコンテンツ開拓、各拠点における複合的な機能・サービス・空間としての魅力訴求による来店頻度の向上も積極的に推進してまいります。

一方、労働人口減少への対策としては、新卒にこだわらない採用活動、専門人材の登用、外国人労働者の受け入れを積極的に推進するほか、品揃え強化に向けたバイイング能力の向上、リスキルなど社内の人材育成にも努めてまいります。

 

②自然災害(地震・台風・洪水等)、戦争・テロ等

<リスクと機会> ・・・影響度=大

リスク

*店舗など営業用資産の損壊によるビジネス機会の逸失

*交通機関や通信網の破綻によるビジネス機会の逸失

*金融市場の混乱による資金調達への悪影響

機 会

*地域の安心・安全に向けた取り組みへの貢献

 

<対応策>

当社は関西・関東隔たりなく拠点を展開しており、大規模かつ広域にわたる甚大な災害が起きた場合でも、関西・関東のいずれかに危機管理対策本部を速やかに設置し、情報連携および指示命令系統を損なわない体制を整えております。また被災店舗への救援体制の整備、重要データ消失を防ぐクラウド化の推進、事業を最低限継続できる各種インフラや備品の整備など、BCP対策の徹底を図っております。

主要都市に拠点を持つ企業として求められる社会的使命を果たす観点から、大規模災害時に帰宅困難者を受け入れるスペースを店舗施設内に予め確保するほか、生活関連物資を中心とした店頭商品の拠出ができるよう、あらかじめ仕入先と取り決めておくなど、直ちに被災者救援活動を行う体制を整えております。

また、戦争・テロ等に関しましては、世界的規模で各種市場が混乱し、適正な価格形成が果たせず、予期せぬ損失が発生する可能性があります。金融市場に及んだ場合には、当社が通常求める条件での資金調達ができないリスクが考えられます。現時点で必要な資金は確保しておりますが、将来におけるリスクシナリオを想定し、多様な資金調達手段により十分な手元流動性を確保してまいります。

 

 

 

 

 

③新たなパンデミックの発生

<リスクと機会> ・・・影響度=特に大

リスク

*店舗の休業・営業時間の短縮によるビジネス機会の逸失

*消費マインドの低下および来店頻度の減少

機 会

*新たな社会環境や消費行動に対応した事業展開

*アセットの多角化、経営資源の有効活用によるグループ事業の成長

 

<対応策>

コロナ禍の経験と反省を踏まえ、このようなパンデミック影響の極小化に向けて事業ポートフォリオを見直し、経営の更なる安定化を図ります。百貨店の事業基盤を一層強化すると共に、商業開発業、金融業などの成長領域事業の積極拡大を進めてまいります。

また、リアル店舗の魅力向上と合わせて、ECなどの無店舗販売チャネルの強化拡大、デジタル技術を活用したリモート接客システムの導入など非接触型販売の仕組みを積極的に導入してまいります。

 

(2)グループ経営におけるリスク

 

①事業活動における人権問題の発生

<リスクと機会> ・・・影響度=特に大

リスク

*接客時や媒体表現における差別的対応(国籍・ジェンダー等)によるレピュ

 テーション低下

*プライバシー保護に関する不備によるレピュテーション低下

*サプライチェーン上における人権問題(不当労働、差別等)に起因するレピ

 ュテーション低下、不買運動などによる損失の発生

機 会

*人権を尊重する経営の実践によるステークホルダーからの信頼獲得と髙島屋

 ファンの増大

 

<対応策>

当社は、1831年の創業以来、商いの行動規範である「店是(てんぜ)」において、「顧客の待遇を平等にし、いやしくも貧富貴賤(ひんぷきせん)に依りて差等を附すべからず」を掲げるなど、人権を尊重する創業の精神を受け継いできました。

この「店是」の精神を起点に、人権の尊重を従業員一人ひとりに浸透、徹底させてまいります。

人権を尊重する経営については社長を委員長とする「髙島屋グループCSR委員会」においてグループ横断的な進捗確認と対応を推進していきます。

また、取引先やビジネスパートナーに対しても、当社の人権尊重に対する考えや姿勢を理解・支持して頂き、事業活動を通じた社会課題に向け、協働して取り組んでいくことを積極的に働きかけていきます。

サプライチェーン上の人権リスクの防止・是正に向けては、国連人権理事会で採択された「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づく人権デューデリジェンスの仕組みを構築してまいります。

 

②ESG経営への取り組みの遅れ

<リスクと機会> ・・・影響度=特に大

リスク

*ステークホルダーからの信用喪失

*グループ収益の根幹となるブランド価値の毀損

*法令違反によるレピュテーションの低下、営業損失

機 会

*当社の社会的評価、存在意義の確立

 

<対応策>

当社のESG戦略においては、環境・社会・ガバナンスそれぞれの面において、ステークホルダーに対して当社ならではの価値を提供することで共感を獲得し、社会課題解決と事業成長を両立しつつ、最終的には全ての人々が21世紀の豊かさを実感できる社会の実現を目指しております。

ESG経営を確実に推進していくために、グループの視点での方針管理、進捗管理を充実するための「グループ環境・社会貢献部会」を設置し、より一体的でかつ実効性が発揮できる体制を整えております。

そのうえで、環境面の主な取り組み内容としては、省エネ対策や再生エネルギー転換などによる脱炭素化推進、「環境負荷軽減とデザイン性・機能性」を両立する商品開発や、多様性を尊重する(インクルーシブ化)商品提案や施設・サービスなど、当社ならではの価値提供を通じて、新たな文化を創造し、次代のトレンドをけん引する主体的な役割を当社が果たしていきます。

社会面におきましては、人権尊重に基づく雇用関係確立、国籍や人種・宗教、LGBTQ+などに係わらない平等な賃金、教育機会、福利厚生の提供など、多様な価値観を受け入れる基本指針の策定と、その浸透に向けた意識の醸成を推進してまいります。

ガバナンス面では、取締役会が果たすべき責務・役割が発揮できているか、機能発揮のための適切な体制整備や取締役会運営ができているかという視点で、年1回、全取締役・監査役対象のアンケートと、その結果に基づく社外取締役・監査役への個別ヒアリングを通して取締役会の実効性評価を行っております。更に、評価結果から得られた改善点に対しては速やかに次年度取締役会に反映するなどPDCAサイクルを徹底し、取締役会の実効性向上に努めてまいります。

また当社では社長を委員長とする「髙島屋グループCSR委員会」を設置し、コンプライアンス経営の徹底に加えて内部統制の状況や新しい社会課題に対するCSR領域への取り組み状況等をグループ横断的に検証し強化する体制を整えております。また、不正行為等の通報を匿名でも受け付ける窓口「髙島屋グループ・コンプライアンス・ホットライン」「ハラスメント・ホットライン」「就労相談窓口」「法務相談窓口」を設置し、通報者に不利益が及ばないことを確保しつつより多くの内部通報を受け付けて自浄作用を高める仕組みを整えております。国内、海外問わず事業拡大に応じて増えつつある子会社・孫会社などグループ全体に行きわたるモニタリングと三線ディフェンスの一層強化に努めてまいります。

 

③デジタルトランスフォーメーションへの対応の遅れ

<リスクと機会> ・・・影響度=大

リスク

*新たなニーズの掘り起こしと新たな顧客層開拓への支障

*グループコスト構造への悪影響

*情報漏洩事故

*ITシステム維持コストの増大

機 会

*着実なデジタルトランスフォーメーションの推進による事業効率の向上

*新たな情報発信手法による顧客ターゲットへの確実な訴求

 

<対応策>

デジタルトランスフォーメーションの着実な推進と効果の最大化に向け、グループ従業員および各組織のITリテラシーの向上を図ってまいります。そのうえで、デジタル技術を活用したオンライン予約システムやリモート接客などお客様の新しいニーズへの対応策を展開してまいります。コスト構造改革の観点からはデジタル技術を活用した販売手続き・業務手続きの簡素化を進めて業務の効率化と要員の最適化を図ってまいります。情報セキュリティーの観点からは、セキュリティーポリシーを随時見直し、それに基づく厳格なシステム運用を行っていきます。また、経営計画と連動し、IT関連の長期投資計画、予算の適正化に努めてITシステム維持コストの抑制に努めてまいります。

 

④成長事業に関するリスク

a.EC事業拡大戦略の遅れ

<リスクと機会> ・・・影響度=大

リスク

*実店舗依存型ビジネスモデルからの脱却の遅れ

*物流費などをはじめとする高コスト構造改善の遅れ

機 会

*新しい生活様式、消費行動に順応した事業展開

 

<対応策>

ECの売上高と強固な収益基盤の確立を早期に達成するため、単なる営業施策としての取り組みではなく、社長直轄の推進プロジェクトを構築、全社・グループ横断的な検討を強力に推進してまいります。このプロジェクトを通じて、EC専業の事業者にはできない、百貨店ならではの魅力ある商品・独自商品の訴求とサービスの提供、実店舗とオンラインの垣根をなくして相乗効果を図るOMO(Online Merges with Offline)による他社との差別化を図ります。

2024年4月の労働基準法改正(自動車運転業務における時間外労働時間の上限規制)に伴う物流コストの上昇も見据え、EC出荷倉庫を準備し、配送スキームの効率化とコスト削減により収益基盤の確立に努めてまいります。

 

b.金融業拡大戦略の遅れ

<リスクと機会> ・・・影響度=大

リスク

*グループ事業拡大の遅れ

機 会

*新たな顧客層の開拓

 

<対応策>

金融業がグループ全体の盤石な顧客基盤形成に寄与するよう、百貨店売場や外商との連携をより一層緊密化した新たなサービスの開発、コンサルティングの強化、商品メニューの充実により、継続的に顧客満足度の向上に取り組んでまいります。

また、金融事業拡大を加速するため、資産運用事業会社とのアライアンスを通じた投資・アセットマネジメント事業への参入も進めてまいります。

c.海外事業の展開におけるリスク

<リスクと機会> ・・・影響度=大

リスク

*突発的な政治・経済情勢の変化や為替変動に伴う資産価値の変動と
投資回収の遅れ

*現地採用従業員の文化・宗教等の違いからくるガバナンス破綻

機 会

*カントリーリスクを踏まえた展開による盤石な事業基盤の確立と

 海外における事業拡大

 

<対応策>

当社においては、経営における迅速な判断・軌道修正を可能とするため、現地法人を設立して当該法人にイニシアチブを持たせています。その上で、グループ本社とはリモート会議等によるタイムリーな情報共有や、自主点検シートを活用した経営状況のチェックなど、三線ディフェンスの強化によるグローバルガバナンスの徹底を図ってまいります。また、現地従業員との人権尊重に基づく雇用関係確立、国籍や人種・宗教・LGBTQ+などに係わらない平等な賃金・教育機会・福利厚生を提供してまいります。そのうえで、現地従業員の幹部登用も視野に入れた能力開発を積極的に進め、同じ当社の一員としての共通目標、意識の共有を図ってまいります。

 

⑤サプライチェーンの破綻

<リスクと機会> ・・・影響度=大

リスク

*取引先の倒産や事業終了による百貨店の商品調達への支障、品揃えの

 魅力度低下

*テナントの賃料支払能力低下による賃貸収入の減少

*売場レイアウト破綻による売場空間の魅力低下

機 会

*取引先との強固な関係構築による品揃えの魅力度向上と安定的な利益確保

サプライチェーン上における人権問題(不当労働、差別等)に起因するレピュテーション低下、不買運動などによる損失の発生リスクに関しては「(2)-①事業活動における人権問題の発生」において記載しております。

 

<対応策>

当社は、生産・製造・流通過程における一連の取引において、法令順守はもとより、幅広い視点でCSRに基づいた取引を推進し、共存共栄を図るための「髙島屋 取引指針」を策定し運用を続けております。

これまでの指針は、商品の仕入取引先を対象としたものでしたが、2024年1月、様々な取引関係を有するお取引先とのパートナーシップのもと事業活動を推進していくために「髙島屋グループ 取引指針」として改訂を行いました。

新しい「髙島屋グループ 取引指針」は、「人権の尊重」の視点を新たに加え、法令順守、持続可能なサプライチェーンの構築などを事業活動において重視すべき項目に掲げています。この指針に則り、主要なお取引先と目標を共有し協働でそれを達成するための具体策推進、新たなお取引先開拓による品揃えの鮮度維持向上、川上企業との直接取引拡大による商品調達力の向上を図ってまいります。

国内商業開発業・海外商業開発業においては、専門店テナントとの共同販促活動を一層強化推進するほか、経営状態が厳しいテナントに対しては、敷金からの一時的な家賃への充当、当面の家賃支払猶予など資金支援を行い、共存共栄を原則とした取り組みに努めてまいります。

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の概要

当連結会計年度における当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況は次のとおりであります。

 

 ①財政状態及び経営成績の状況

a.財政状態                              (単位:百万円)

 

当連結会計年度

前連結会計年度

前年増減高

前年比

総資産

1,270,475

1,178,201

92,274

7.8%

負債

791,673

741,718

49,954

6.7%

純資産

478,802

436,482

42,319

9.7%

自己資本比率

35.7%

35.1%

0.6%

 

b.経営成績                              (単位:百万円)

 

当連結会計年度

前連結会計年度

前年増減高

前年比

営業収益

466,134

443,443

22,691

5.1%

営業利益

45,937

32,519

13,417

41.3%

経常利益

49,199

34,520

14,678

42.5%

親会社株主に帰属する当期

純利益

31,620

27,838

3,781

13.6%

 

(事業のセグメント別業績)                       (単位:百万円)

 

当連結会計年度

前連結会計年度

前年増減高

前年比

連結営業収益

466,134

443,443

22,691

5.1%

百貨店業

338,521

321,220

17,301

5.4%

商業開発業

51,948

47,512

4,435

9.3%

金融業

17,437

17,205

231

1.3%

建装業

27,945

22,691

5,254

23.2%

その他

30,281

34,812

△4,531

△13.0%

連結営業利益又は

連結営業損失(△)

45,937

32,519

13,417

41.3%

百貨店業

29,650

18,410

11,239

61.1%

商業開発業

12,042

9,266

2,775

30.0%

金融業

4,609

4,513

95

2.1%

建装業

△731

16

△747

その他

1,491

1,418

72

5.1%

 

 

 

 

 ②キャッシュ・フロー                           (単位:百万円)

 

当連結会計年度

前連結会計年度

前年増減高

前年比

営業活動キャッシュ・フロー

59,536

36,497

23,039

63.1%

投資活動キャッシュ・フロー

△38,501

△10,707

△27,794

財務活動キャッシュ・フロー

△20,600

△32,428

11,828

現金及び現金同等物

92,898

88,631

4,267

4.8%

 

 

 ③生産、受注及び販売の実績

a.生産実績

 当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

生産高(百万円)

前年比(%)

建装業

27,111

21.9

合計

27,111

21.9

  (注)1 セグメント間取引については、相殺消去をしております。

  2 金額は、販売価格によっております。

  3 上記以外のセグメントについては該当事項はありません。

 

 

b.受注実績

 当連結会計年度における受注実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

受注高(百万円)

前年比(%)

受注残高(百万円)

前年比(%)

建装業

33,726

15.5

21,773

43.6

合計

33,726

15.5

21,773

43.6

  (注)1 セグメント間取引については、相殺消去をしております。

  2 上記以外のセグメントについては該当事項はありません。

 

 

c.販売実績

 当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

販売高(百万円)

前年比(%)

百貨店業

338,521

5.4

商業開発業

51,948

9.3

金融業

17,437

1.3

建装業

27,945

23.2

その他

30,281

△13.0

合計

466,134

5.1

  (注)1 セグメント間取引については、相殺消去をしております。

  2 販売高には、「その他の営業収入」を含めて表示しております。

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当社が当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 

 ①当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

a.経営成績等の状況に関する認識

当連結会計年度における我が国の社会経済は、昨年5月に新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の位置づけが「5類感染症」に移行し、正常化が一段と進みました。

消費環境におきましては、昨年は物価上昇に賃金の伸びが追い付かない実質賃金のマイナスが続く中でも個人消費が緩やかに回復し、円安を背景にインバウンド需要にも拡大の動きがみられました。一方、今後コロナ禍の自粛反動消費が一巡する状況におきまして、生活防衛意識の更なる高まりによる個人消費の減速リスクも懸念されます。また、高水準で推移する株価や円安基調の為替など、消費に影響を与える外部環境の動向は引き続き、注視が必要な状況にあります。

こうした中、当社におきましては、中期経営計画(2021-2023年度)の最終年度である当年度を、コロナ禍からの回復段階から、更に持続的な成長と飛躍に向けた経営の土台づくりを果たすための極めて重要な一年と位置づけ、グループ総合戦略「まちづくり」の下、経営課題である「百貨店の営業力強化」、「人的資本経営の推進」、「グループ会社の業界競争力獲得」、「グループESG戦略の深化」に取り組み、グループ全体で髙島屋ブランドの価値に磨きを掛けてまいりました。

特に価値提供の基盤となるESG経営におきましては、当社が生活・文化・地域社会を支えるインフラの役割を発揮し、お客様やお取引先、地域社会と共に、こころ豊かな生活を実現していくための取り組みを推進してまいりました。

象徴的な取り組みとして、エコ&エシカルをテーマにした商品やサービスの提供を通じて、サステナブルなライフスタイルを提案していく営業活動「TSUNAGU ACTION」を強化いたしました。不要となった衣料品を回収・再生・販売する循環型ビジネス「Depart de Loop(デパートデループ)」の取り組みでは、前年度に回収したデニムを再生した商品の販売を実現すると共に、回収の対象を新たに化粧品やその容器にも広げてまいりました。

脱炭素化推進に向けては、再生可能エネルギー由来の電力を事業者から直接調達する契約を新たに締結し、昨年4月から横浜店で消費する電力の一部として供給を受け始めました。

社会課題に向けた取り組みにおきましては、お取引先を含む従業員の就労環境の改善、働く場としての魅力向上による人材確保の観点から、グループ商業施設の休業日を拡大いたしました。また、「物流の2024年問題」(※1)への対応として、深夜の検品を見直し、開店前であった納品時間を開店後に切り替えることで、ドライバーの負担軽減につなげる取り組みを業界で先行して実施いたしました。

 

b.財政状態

当連結会計年度末の総資産は、1,270,475百万円と前連結会計年度末に比べ92,274百万円増加しました。これは、海外子会社におけるリース契約更新及び円安による為替換算影響等による使用権資産の増加46,849百万円、株価上昇や関連会社株式追加取得、持分法適用関連会社の業績伸長に伴う投資有価証券の増加22,796百万円、売上増加に伴う受取手形、売掛金及び契約資産の増加13,503百万円が主な要因です。

負債については、791,673百万円と前連結会計年度末に比べ49,954百万円の増加となりました。これは、有利子負債の減少4,631百万円があったものの、海外子会社におけるリース契約更新及び円安による為替換算影響等によるリース債務の増加46,636百万円があったことが主な要因です。

純資産については、478,802百万円と前連結会計年度末に比べ42,319百万円増加しました。これは、親会社株式に帰属する当期純利益による増加31,620百万円及び株式配当の支払いによる減少4,889百万円等による利益剰余金の増加26,738百万円、円安に伴う為替換算調整勘定の増加5,238百万円、金利上昇による割引率の変更に伴う退職給付に係る調整累計額の増加5,196百万円、株価上昇に伴うその他有価証券評価差額金の増加3,578百万円が主な要因です。

以上の結果、自己資本比率は35.7%(前年比0.6ポイント増)となり、1株当たり純資産額は2,878円82銭(前年比258円39銭増)となりました。

c.経営成績

当連結会計年度の連結業績につきましては、連結営業収益は466,134百万円(前年比5.1%増)、連結営業利益は45,937百万円(前年比41.3%増)、連結経常利益は49,199百万円(前年比42.5%増)となり、親会社株主に帰属する当期純利益は31,620百万円(前年比13.6%増)となりました。

ROE(自己資本利益率)は7.3%、EBITDA(※2)総資産比率は5.6%、純有利子負債EBITDA倍率は1.7倍、自己資本比率は35.7%、総額営業収益販売管理費比率は24.4%となりました。

また、当事業年度の単体業績につきましては、売上高は287,325百万円(前年比1.1%増)、営業利益は19,580百万円(前年比90.3%増)、経常利益は32,152百万円(前年比102.1%増)となり、当期純利益は25,031百万円(前年比46.9%増)となりました。

 

事業のセグメント別業績は、次のとおりであります。

 

 <百貨店業>

百貨店業での営業収益は338,521百万円(前年比5.4%増)、営業利益は29,650百万円(前年比61.1%増)となりました。

 

国内百貨店におきましては、社会経済活動の正常化に伴い入店客数が増加、インバウンドを除く国内顧客売上高は、婦人服、紳士服、化粧品などファッション関連商品を中心に堅調に推移いたしました。インバウンド売上高もラグジュアリーブランドをはじめとする高額品が好調であり、円安による客単価の上昇も売上高を押し上げました。また、「大北海道展」などの物産展や、人気テレビ番組と連動した新規催のほか、シーズンに合わせた関連イベントは、年間を通し多くのお客様にご来場いただきました。また、当社のアーカイヴス活動の拠点である髙島屋史料館(大阪)や、新しい生活文化の発信拠点である髙島屋史料館TOKYO、民藝展をはじめとする特徴・文化催などを通じ、歴史や文化の発信に努めてまいりました。さらに、店頭の魅力向上を目指した取り組みとして、お取引先とのコラボレーション業態であるライフスタイルショップを主要店舗にオープンし、新たなお客様の獲得にもつながっております。

アフターコロナの消費動向変化を踏まえ、お客様ニーズに即応する話題性と品質を両立する品揃え、高鮮度な催事やプロモーションの企画開発など、営業力強化に向けた取り組みは着実に進捗いたしました。

各店の店頭における商品利益率におきましても下げ止まり、持ち直しております。利益率が高いファッション関連商品の売上高が伸長したことに加え、各カテゴリーにおきまして、同じく利益率が高い正価品などの売上高増大に向けた取り組み効果も全体を押し上げております。

また、前年度から主要店舗でスタートしたコスト構造改革におきまして、当年度は全店レベルに拡大するなどコスト削減を推進いたしました。

品揃え魅力拡大による売上高増大、商品利益率改善、コスト削減に向けた一連の取り組みは成果を得ており、安定的に利益を創出できる経営体質への転換が進んでおります。

ECにおきましては、化粧品の品揃え拡充や、各店で行っていた出荷作業の共通倉庫一元化による配送リードタイムの短縮など、オンラインストアの魅力向上に取り組んでまいりましたが、店頭への来店客数増加の影響により、売上高の目標には至りませんでした。一方、新たな取り組みとして、世界最大級のメタバース(※3)イベントである「バーチャルマーケット」に独立ブースを初出展いたしました。若い世代のお客様を中心に多数のお客様がブースにご来場され、髙島屋オンラインストアの認知度向上に寄与いたしました。

レストランや喫茶・カフェなどを出店、運営している株式会社アール・ティー・コーポレーションにおきましては、昨年6月、横浜店に洋食、和食、中華を取り揃える「レストラン ローズ」をリニューアルオープンし、地域のお客様の多様なニーズに応えてまいりました。また、昨年11月に国内28店舗目となる台湾台北市の点心料理店「鼎泰豐」を東京自由が丘にオープンいたしました。こだわりの食材を使ったメニューと様々なニーズに対応する個室や屋外テラス席などマーケットに合わせた店づくりを行ったことで多くのお客様から支持を得ております。

海外百貨店におきましては、開店30周年を迎えたシンガポール髙島屋では、国内顧客の堅調な推移やツーリストの回復もあり、売上高、営業利益とも大きく伸長、全体をけん引いたしました。また、ホーチミン髙島屋では、ベトナム初となる日本ブランドの導入など新たな取り組みを推進したことで増収増益となり、着実に成長しております。さらに、サイアム髙島屋では、ツーリストを含む入店客数の増加に伴い売上高が伸長し、赤字幅が縮小しております。一方、上海高島屋では、前年度のコロナ影響による休業(67日間)反動もあり大きく増収となりましたが、コスト増も同じく大きく、減益となりました。引き続き、各国の景気、消費動向を注視しながら、海外事業の成長につなげてまいります。

 

 <商業開発業>

商業開発業での営業収益は51,948百万円(前年比9.3%増)、営業利益は12,042百万円(前年比30.0%増)となり、国内、海外事業いずれも増収増益となりました。

 

東神開発株式会社の国内事業におきましては、商業施設の売上高増大や賃料収入の回復もあり、堅調に推移いたしました。

昨年10月には京都店の隣接地に専門店ゾーン「T8」が新たにオープンし「京都髙島屋S.C.」を開業いたしました。地下1階から7階までの各フロアが、現代アートや日本が世界に誇るサブカルチャー、エンターテインメント、フードなど特徴的な8つの異なる空間で成り立っております。開業後、国内外の多数のお客様にご来店いただき、若い世代のお客様、広域からのお客様が増加するなど、百貨店とのシナジー効果発揮につながっております。百貨店と専門店、更に金融や飲食など優良なコンテンツをグループ内に有する当社が、それらを柔軟に組み合わせ展開する商業施設は、当社独自のビジネスモデルです。これにより、様々な地域の特性や将来のマーケット変化に迅速に対応し、持続的な成長を実現してまいります。

さらに、昨年11月には「立川髙島屋S.C.」がリニューアルオープンいたしました。デイリー性の強いテナントや体験型のコンテンツを導入するなど、地域のニーズに応じた商品、サービスの提供に努めております。

また、昨年3月に千葉県流山市と「地域活性化に関する包括連携協定」を締結いたしました。街づくり、子育て、災害対応などで連携を強化し、行政と一体となって地域活性化に取り組んでおります。「流山おおたかの森S・C」では、昨年5月につくばエクスプレス高架下の空間を活用した商業施設をリニューアルオープン、昨年6月には近隣住民の交流の場・機会を提供する新たな地域コミュニティ拠点を発足いたしました。

新たな事業では、東京都足立区六町駅前の区有地活用におきまして、当社初となるPPP(※4)事業へ参画いたします。つくばエクスプレス六町駅前の区有地におきまして、複合商業施設と駐輪場の整備及び運営を行う本事業を機に、今後も行政と連携した事業拡大を検討してまいります。

海外事業におきましては、トーシンディベロップメントシンガポールPTE.LTD.が賃料収入が回復したことにより堅調に推移いたしました。また、ベトナムでは、教育施設を対象とした賃貸事業や住宅・オフィス・商業の複合開発事業など、現地での事業基盤の拡大を着実に進めております。

 

 <金融業>

金融業での営業収益は17,437百万円(前年比1.3%増)、営業利益は4,609百万円(前年比2.1%増)となりました。

 

髙島屋ファイナンシャル・パートナーズ株式会社におきましては、収益の柱であるカード事業の取扱高伸長やライフパートナー事業における顧客基盤の拡大による効果もあり、増収増益となりました。

カード事業におきましては、百貨店・専門店への入店客数が増加する中、新規会員の獲得強化を継続して進めると共に、外部加盟店を含め利用促進を図ったことにより取扱高が伸長いたしました。さらに、昨年8月からビジネスオーナー・個人事業主を対象とするビジネスカード「タカシマヤカード《ビジネスプラチナ》アメリカン・エキスプレス®」の発行を開始しました。順調に会員を獲得しており、百貨店とのシナジー発揮による顧客満足度の向上につながっております。

ライフパートナー事業におきましては、本年からスタートした新しいNISA制度(※5)や人生100年時代のライフプランなどをテーマとしたセミナーを開催いたしました。また、NISAと保険を組み合わせて相談ができるコーナーを設置するなど、相談数・申込数が着実に増加しております。

さらに、ソーシャルレンディング事業におきましては、昨年10月に貸付型クラウドファンディング(※6)に関する豊富な実績とノウハウを有する株式会社バンカーズと業務提携し、本年1月に第1号、2月に第2号ファンドを組成いたしました。本提携を機に新たに「髙島屋ファンディング」として取扱いの幅を広げ、金融事業の収益及び、グループとしての顧客接点拡大を図ってまいります。

「髙島屋ネオバンク」の「スゴ積み」(※7)におきましては、昨年7月より積立の満期を迎えられたお客様の決済利用が始まりました。若い世代のお客様、男性のお客様が多く、平均積立額も高いといった特性に合わせたアプローチを推進し、会員数の拡大、継続率アップ及び、決済の利用促進につなげてまいりました。

 

 <建装業>

建装業での営業収益は27,945百万円(前年比23.2%増)、営業損失は731百万円(前年同期は営業利益16百万円)となりました。

 

髙島屋スペースクリエイツ株式会社におきましては、ホテルなどの大型物件やラグジュアリーブランドを中心とした商業施設の受注が増加し、増収となりましたが、大型物件における一過性の原価増大の影響もあり、赤字となりました。

 

 <その他の事業>

その他の事業全体での営業収益は30,281百万円(前年比13.0%減)、営業利益は1,491百万円(前年比5.1%増)となりました。

 

百貨店の店頭売上高回復の影響により、通信販売業のクロスメディア事業におきましては、減収となった一方、卸売業のタカシマヤ トランスコスモス インターナショナルコマースPTE.LTD.におきましては、増益となったことから、その他の事業全体におきましては、減収増益となりました。

 

※1:物流の2024年問題

2018年6月改正の「働き方改革関連法」に基づき、自動車の運転業務の時間外労働について、2024年4月より、年960時間(休日労働含まず)の上限規制が適用される。併せて、トラックドライバーの拘束時間を定めた「改善基準告示」(貨物自動車運送事業法に基づく行政処分の対象)により、拘束時間等が強化されることに伴う諸問題。

 

※2:EBITDA

会社の純粋な現金創出力を評価する指標。

当社では、連結営業利益に連結減価償却費(海外グループ会社における、IFRS16号適用によるリース資産に対する減価償却費を除く)を加算したもの。

 

※3:メタバース

多人数が参加可能で、参加者がその中で自由に行動できる、通信ネットワーク上に作成された仮想空間のこと。

 

※4:PPP(Public Private Partnership)

公共施設等の建設、維持管理、運営等を行政と民間が連携して行うことにより、民間の創意工夫等を活用し、財政資金の効率的使用や行政の効率化等を図るもの。

 

※5:新しいNISA制度

通常、株式や投資信託などの金融商品に投資をした場合、これらを売却して得た利益や受け取った配当に対して約20%の税金がかかる。NISAは、「NISA口座(非課税口座)」内で、毎年一定金額の範囲内で購入したこれらの金融商品から得られる利益が非課税になる制度。2024年1月からは「家計の安定的な資産形成」を更に推し進めることを目的に非課税保有期間の無期限化、口座開設期間の恒久化、年間投資枠の拡大などを図った新制度に移行。

 

※6:貸付型クラウドファンディング

「資金調達をしたい企業」と「お金を貸して利回りを得たい投資家」を結びつけるサービス。少額から投資ができるミドルリスク・ミドルリターンの金融商品として、投資家からの注目が集まっている。

 

 

 

※7:スゴ積み

「髙島屋のスゴイ積立」のことで、髙島屋ネオバンクアプリに搭載された機能の一つ。毎月一定額を12ヵ月積み立てると1ヵ月分のボーナスをプラスした「お買物残高」がアプリにチャージされ、髙島屋のお買物にお使いいただけるサービスのこと。

 

 

d.キャッシュ・フロー

営業活動によるキャッシュ・フローは、59,536百万円の収入となり、前年同期が36,497百万円の収入であったことに比べ23,039百万円の収入の増加となりました。主な要因は、税金等調整前当期純利益が5,645百万円増加したことなどによるものです。

投資活動によるキャッシュ・フローは、38,501百万円の支出となり、前年同期が10,707百万円の支出であったことに比べ27,794百万円の支出の増加(収入の減少)となりました。主な要因は、有価証券及び投資有価証券の売却及び償還による収入が11,344百万円減少したこと、関係会社株式の取得による支出が11,235百万円増加したことなどによるものです。

財務活動によるキャッシュ・フローは、20,600百万円の支出となり、前年同期が32,428百万円の支出であったことに比べ11,828百万円の支出の減少となりました。主な要因は、自己株式の取得による支出が16,693百万円減少したことなどによるものです。

これらに換算差額を加えた結果、当連結会計年度末の現金及び現金同等物は、前連結会計年度末に比べ4,267百万円増加し、92,898百万円となりました。

 

 ②資本の財源及び資金の流動性

資本の財源及び資金の流動性に関し、当社は運転資金及び設備資金等の必要資金につきましては、内部資金、売掛債権流動化資金、又は外部調達(借入もしくは社債)により資金調達することとしております。このうち外部調達に関しましては、主として長期・安定した資金にて実施しております。

また、当社は国内金融機関から相対取引による十分な借入枠を有しており、TMS(トレジャリー・マネジメント・サービス:グループ会社間で一元的に資金を管理する仕組み)により国内グループ会社間の資金融通を行うことで資金効率を高め、海外グループ会社は十分な手許資金を保有することで事業運営上の流動性を確保しております。

なお、当連結会計年度末の有利子負債(リース債務は含まない)の残高は208,951百万円であります。

 

 ③重要な会計方針並びに重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社の連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められる会計基準に基づき作成しております。その作成には経営者による会計方針の選択・適用、資産・負債や収益・費用の報告金額及び開示に影響を与える見積りを必要とします。経営者は、これらの見積りについて、過去の実績等を勘案し合理的に判断しておりますが、実際の結果は見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合があります。

当社の連結財務諸表で採用する重要な会計方針は、第5「経理の状況」の1「連結財務諸表等」の(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)に記載しております。

また、連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び仮定は、第5「経理の状況」の1「連結財務諸表等」の(重要な会計上の見積り)に記載しております。

 

 

 ④経営方針、経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

 

指標

2023年度

経営上の目標

増 減

総額営業収益

9,521億円

9,980億円

458億円

総額営業収益販売管理費比率

24.4%

24.5%

0.1%

営業利益

459億円

500億円

41億円

自己資本比率

35.7%

38.1%

2.4%

ROE(自己資本当期純利益率)

7.3%

7.3%

0.0%

EBITDA総資産比率

5.6%

5.8%

0.2%

純有利子負債EBITDA倍率

1.7倍

1.5倍

△0.2倍

ROIC(投下資本利益率)

5.5%

5.9%

0.4%

 

当社では、「総額営業収益」、「総額営業収益販売管理費比率」、「営業利益」、「自己資本比率」、「ROE(自己資本当期純利益率)」、「EBITDA総資産比率」、「純有利子負債EBITDA倍率」、「ROIC(投下資本利益率)」を経営成績の客観的な分析指標として採用しております。

達成状況を判断するため、当連結会計年度実績との比較をしておりますが、目標値設定過程に関しては、1「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の(2)「経営上の目標達成状況を判断するための客観的な指標等」及び(3)「経営環境及び対処すべき課題」をご覧ください。

 

 

5【経営上の重要な契約等】

 特記事項はありません。

 

 

6【研究開発活動】

 特記事項はありません。