当第1四半期累計期間において、当四半期報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項の発生はありません。また、前事業年度の有価証券報告書に記載した事業等のリスクについて重要な変更はありません。
本書において使用される専門用語につきましては、(*)印を付けて「第2 事業の状況 2 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の末尾に用語解説を設け説明しております。
また、文中の将来に関する事項は、当第1四半期会計期間の末日現在において判断したものであります。
(1)経営成績の状況
当第1四半期累計期間における国内外の経済環境は、ウクライナや中東情勢など地政学的リスクの継続、資源価格や原材料価格の高止まり、円安の継続など、依然として先行き不透明な状況が続きました。こうした外部環境の中、当第1四半期累計期間における当社業績につきましては、売上高129,644千円(前年同四半期比39,760千円減少)、研究開発費246,405千円(前年同四半期比52,768千円増加)、営業損失322,155千円(前年同四半期は225,994千円の営業損失)、経常損失303,019千円(前年同四半期は227,433千円の経常損失)、四半期純損失304,024千円(前年同四半期は227,683千円の四半期純損失)となりました。売上高につきましては、新規案件の検収時期のズレ及び既存顧客内における組織変更等の影響により取引が減少したこと等により、前年同期に比べ当第1四半期累計期間は減収となりました。また損益につきましては、研究開発費で主にCBA-1535に係るCMC費用の計上額が前期よりも増加したこと等により、営業損失、経常損失、四半期純損失ともに前期同期比で赤字幅が拡大しました。
当第1四半期累計期間における当社の事業活動の概況は次のとおりです。
創薬事業においては、自社開発中のがん治療用抗体CBA-1205およびCBA-1535の臨床第1相試験(*)を進めております。CBA-1205においては、現在、肝細胞がん患者さんを対象として本剤の安全性と初期の有効性を確認する後半パートが進行しております。さらに、肝細胞がん以外の適応症への展開に向けた海外研究機関との共同研究の推進や、DLK-1を標的とした更なる創薬探求の検討を進めるなど、導出(*)価値向上を企図する活動を積極的に推進しております。2つ目の臨床開発品目である多重特異性抗体CBA-1535においては、前半パートにおいて固形がん患者さんを対象に、段階的に治験薬の投与量を増やしながら安全性の確認を進めております。また創薬パイプライン(*)のPCDCについては、契約獲得に向けて導出候補先となりうる複数の海外製薬企業と科学面を中心とした協議を進めております。当社では今後のCBA-1205・CBA-1535・PCDC(*)の導出契約締結に伴う一時金収入により、単年度黒字化の達成に向けた事業展開を進めております。
その他、新規ターゲットに対するリード抗体(*)の創出及び知財化に向けた研究開発についても継続しており、今後の開発パイプラインの質・量の拡充に向けた取り組みを進めております。
創薬支援事業においては、2024年2月には武田薬品工業株式会社(以下、「武田薬品」)と新たに業務委託基本契約を締結するなど、本事業の拡大に向けた活動を推進いたしました。
・創薬パイプライン(外部臨床試験)
当社が創製しADC Therapeutics社に導出したLIV-1205に薬物を結合させ抗体薬物複合体としたADCT-701は、神経内分泌がんを対象に米国国立がん研究所(以下、「NCI」)での臨床試験に向けた準備が進められており、2024年の臨床入りが見込まれています。ADCT-701の開発主体がNCIに移行しNCIの予算を用いて臨床第1相試験を実施することになったことから、当社はADCT社とのLIV-1205のライセンス契約を終了いたしました。NCIが行うADCT-701の本治験において良好な成績が得られ、新たに臨床第2相試験以降の開発に興味を持つ製薬企業が現れた場合には、当該企業と当社がLIV-1205のライセンス契約を締結することとなります。
・創薬パイプライン(自社研究開発・導出候補品)
CBA-1205については、日本国内において臨床第1相試験を実施しております。本治験の主目的は、前半パートでは固形がん患者さん、後半パートでは肝細胞がんの患者さんにおける安全性と忍容性の評価です。前半パートの患者登録は終了しており、本抗体の高い安全性が示唆されております。また、前半パートの最終結果はすべての解析の終了を待つ必要がありますが、客観的な腫瘍評価法であるRECIST v1.1(*)による評価ではメラノーマ(悪性度の高い皮膚がんの一種)の患者さんで腫瘍縮小を伴うSD(安定)評価が長期間継続し、CBA-1205の投与期間は33ヶ月を超えて現在も投与が継続しております。一般的に固形がんを対象とした臨床第1相試験には、標準的な治療法に不応・不耐であり、切除不能な進行・再発の固形がん患者さんが参加されます。本治験の前半パートに参加された患者さんも既に複数の標準的治療法を受けておられることから、腫瘍縮小を伴うSD評価の継続は意義のある状況と考えております。上記症例における投与期間の継続は当初の当社想定を上回るものであったことから、当社では追加の治験薬製造を行い、臨床第1相試験の着実な遂行体制を整えております。また、肝細胞がんの患者さんで安全性・初期の有効性を評価する後半パートでは、既に1例のPR(部分奏功:30%以上の腫瘍縮小)が確認できたことにより、後半パートの治験登録患者さんの適格性基準を厳格化しております。
CBA-1535については、2022年6月末に前半パートにおける第一例目の固形がん患者さんへの投与を開始し、本剤の安全性および薬効シグナルの確認に向けて投与量を段階的に上げております。これまでのところ、患者さんの血液中において本剤の反応が見えつつありますが、軽微な副作用のみと開発上の懸念を示すような安全性にかかるデータは見られておらず、順調に治験が進行しております。後半パートの開始時期については、本剤の導出可能性も踏まえて自社での臨床開発投資を合理的にコントールできるよう、前半パートでの薬効シグナルを確認後に開始する計画へと変更しております。本試験は、がん細胞と免疫細胞(T細胞(*))の双方に結合し、T細胞を活性化してがん細胞を叩くというT cell engager(*)としての作用機作を検証するためのTribody™(*)フォーマットとして世界初の臨床試験であり、CBA-1535でこのコンセプトが確認されれば他のがん抗原に対するTribody™の適用の可能性が広がることになります。
PCDCはヒト化抗CDCP1抗体の薬物複合体として、ADC(*)用途を中心として導出活動に取り組んでおります。抗体医薬開発における世界的なADC開発の高まりの中でADC技術を保有する企業への導出活動を行い、現在複数の製薬企業と科学面を中心とした協議を進めております。
PTRY(*)は、CBA-1535のT cell engagerとしての機能に免疫チェックポイント阻害機能を加えることを期待したTribody™抗体であり、初期の動物モデルを用いた評価では強い抗腫瘍効果を示しております。現在、当社創薬パイプラインの一つとして研究開発を重点的に進めるとともに早期の導出機会も探っています。
PFKR(*)はGPCRの1種であるCX3CR1を治療標的としており、当社が国立精神・神経医療研究センターと共同研究を進める自己免疫性中枢神経領域の新しい導出候補品です。現在、本プログラムに興味を有する企業へのデータ紹介などを進めながら、今後の導出契約獲得に向けた活動を進めております。
PXLR(*)は胃がんや膵がんなどで高発現するCXCL1を治療標的とするがん治療用抗体で、当社が大阪公立大学と共同研究を進めてきた新たな導出候補品です。
BMAA(*)については、これまでに取得した抗セマフォリン3A抗体のデータを用い、アカデミア等との共同研究を推進しておりましたが、新たに取得した薬効データを付加し、導出活動を進めていく予定です。
LIV-2008/2008bは、TROP-2という治療標的としてバリデートされたターゲットに対するがん治療薬であり、現在、他の技術との組み合わせによる治療法の検討などを進めております。
その他、探索段階にある創薬プロジェクトについては、導出計画や開発計画を検討しながら事業化に資する研究活動を推進しております。当社では継続的な創薬シーズの創出と知財化を行うことにより、新たなパイプラインの拡充と導出機会の探索等を行ってまいります。また、国内のアカデミアと協働で、日本医療研究開発機構(AMED)の助成事業に係る感染症領域やADLib®システム(*)の技術改良に関する基礎研究も実施しており、今後当社の新たな創薬技術としての実装を目指し技術開発に注力しております。
以上の結果、創薬事業における当第1四半期累計期間の業績は、臨床開発の進展により246,405千円(前年同四半期比52,768千円増加)の研究開発費を計上、セグメント損失は246,405千円(前年同四半期は193,637千円のセグメント損失)となりました。
創薬支援事業は、安定的な収益確保に資する事業であり、当社独自の抗体作製手法であるADLib®システムを中心とした、抗体作製技術プラットフォームを活かした抗体作製業務や抗体の親和性向上業務、タンパク質調製業務を受託し、国内の主要製薬企業を中心にバイオ医薬の研究支援を展開しております。国内の製薬企業を中心に当社の技術サービス力をご評価いただいており、当第1四半期累計期間においては、新たに武田薬品と業務委託基本契約を締結いたしました。当社では収益基盤の強化のための新規顧客の開拓は継続して進めており、今後も本事業の伸長に向けて取り組んでまいります。
創薬支援事業における当第1四半期累計期間の業績は、新規案件の検収時期のズレと顧客内の組織変更の影響による取引案件の減少により、売上高は129,644千円(前年同四半期比39,760千円減少)となり、セグメント利益は主に受託事業の拡大を見越した設備投資等の要因により56,998千円(前年同四半期比38,941千円減少)、セグメント利益率は44.0%(目標50%)となりました。
(2)財政状態の分析
(資産)
当第1四半期会計期間末における総資産は、売掛金が減少したものの、受託事業の技術開発に関する特許使用料として長期前払費用等を計上したことにより、前事業年度末に比べ2,479千円増加の1,753,934千円となりました。
(負債)
当第1四半期会計期間末における負債の残高は506,366千円となり、前事業年度末と比較して87,364千円減少いたしました。これは主にCBA1205治験薬の追加製造費用等の支払により未払金が73,915千円減少したこと等によるものであります。
(純資産)
当第1四半期会計期間末における純資産の残高は1,247,567千円となり、前事業年度末に比べ89,843千円増加いたしました。これは主に、四半期純損失の計上により利益剰余金が減少したものの、新株予約権の行使により資本金及び資本準備金が増加したことによるものであります。
(3)経営方針・経営戦略等
当第1四半期累計期間において、当社の経営方針・経営戦略等について重要な変更はありません。
(4)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当第1四半期累計期間において、当社が優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題について重要な変更はありません。
<用語解説>(50音、アルファベット順)
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用語 |
意味・内容 |
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導出(ライセンスアウト) |
特許権やノウハウ等を他者に売却したり、実施許諾することをいいます。 |
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パイプライン |
新薬として開発している医薬品候補化合物等のことを「パイプライン」といいます。創薬研究から臨床開発を経て関係当局の承認を受けるまでの活動を「創薬」と呼び、「創薬パイプライン」とは創薬のいずれかの段階にあるパイプラインのことをいいます。また、創薬パイプラインのうち開発段階に入ったパイプラインのことを、特に「開発パイプライン」ということがあります。 |
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リード抗体 |
ADLib®システム、ハイブリドーマ法、B cell cloning法などの様々な手法で作製した抗体の中から、親和性、特異性、生物活性、安定性などのスクリーニングによって見出された医薬品になる可能性を有する抗体群をリード候補抗体と呼び、これらのリード候補抗体群のうち、医薬品としてその後の最適化などのステップに進めるための抗体をリード抗体と呼びます。 |
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臨床試験 |
臨床試験には、次の3段階があります。 第1相試験(フェーズ1):少数の治験参加者を対象に、治験薬の安全性と治験薬が体内に入ってどのような動きをするのかを確認する試験 第2相試験(フェーズ2):第1相試験で安全性が確認された用量の範囲で、比較的少数の患者さんを対象に、治験薬の有効性(効果)、安全性、用法(投与の仕方:投与回数、投与期間、投与間隔など)・用量(最も効果的な投与量)を確認する試験 第3相試験(フェーズ3):第2相試験で確認された用法・用量で、多数の患者さんに治験薬を対象に、有効性と安全性を検証する試験 初期臨床試験は主に第1相試験及び初期の第2相試験のことを指し、治験薬の安全性を主に、有効性の兆しを観察します。 |
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ADC |
抗体薬物複合体(Antibody drug conjugate)のことを指します。例えば、悪性腫瘍の細胞表面だけに存在するタンパク質(抗原)に特異的に結合する抗体に毒性の高い薬剤を結合させると、そのADCは悪性腫瘍だけを死滅させることができます。このため、比較的副作用が少なく効き目の強い薬剤となる可能性があります。 |
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ADLib®(アドリブ)システム |
ADLib®システムは、多種多様な抗体を産生する細胞集団であるライブラリから、特定の抗原を固定した磁気ビーズを用いて目的の抗原に結合する抗体産生細胞を取り出す仕組みです。ADLib®システムで用いるライブラリは、ニワトリのBリンパ細胞由来のDT40細胞の持つ抗体遺伝子の自律的な相同組換えを活性化することによって(当社特許技術)、抗体タンパク質の多様性が増大しております。既存の方法に比べ、迅速性に優れていること及び従来困難であった抗体取得が可能になる場合があること等の点に特徴があると考えております。 |
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BMAA(抗セマフォリン3A抗体) |
セマフォリン3Aは神経の先端の伸長を制御する因子として発見されました。これまでの研究により、セマフォリン3Aを阻害することにより神経再生が起こること、また炎症・免疫反応やがん、骨の形成、アルツハイマー病、糖尿病合併症等とも関連していることが報告されております。抗セマフォリン3A抗体は、この因子の働きを抑えることによりアンメットニーズの高い各種疾患の治療薬開発に結びつくことが期待される抗体です。本抗体は、当社独自の抗体作製技術であるADLib®システムで取得されました。 |
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PCDC(抗CDCP1抗体の社内コード) |
標準治療耐性のがん種を含む幅広い固形がんで発現(肺、結腸直腸、膵臓、乳、卵巣がんなど)するファースト・イン・クラスとなる標的分子CDCP1に対するヒト化抗体です。細胞内に入り込むインターナリゼーション能が高いことから、薬物との複合体であるADCとしての効果が期待されます。 |
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PFKR(社内コード) |
CX3CR1/Fractalkine receptorの機能阻害抗体であり、自己免疫性神経疾患の病態進行を抑制する治療用抗体です。 |
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PTRY(社内コード) |
53L10 型 Tribody™(PTRY) は、3つの抗原結合部位の標的をそれぞれ、固形がんに発現が認められる 5T4、免疫細胞である T 細胞上の CD3、残る 1 つを免疫チェックポイント阻害に関与する PD-L1 とした、がん治療用抗体です。Tb535H (開発コード:CBA-1535、標的分子:5T4×CD3×5T4)よりも強力な抗腫瘍活性を示し、特に 53L10 型の組み合わせにおいて最も強い腫瘍増殖抑制効果を発揮することが示されています。 |
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PXLR(社内コード) |
CXCR2発現細胞の走化性因子であるCXCL1/2/3/5の機能阻害抗体であり、薬剤耐性のがん微小環境を改善させるがん治療抗体です。 |
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RECIST 1.1 |
固形がんの治療効果判定のための 新ガイドライン (RECIST ガイドライン) 改訂版 version 1.1のこと。成人および小児のがんの臨床試験において使用する、固形がんの測定の標準的な方法と、腫瘍のサイズの変化の客観的評価の定義について記述したものです。 |
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T細胞 |
リンパ球の一種で、免疫反応の司令塔として重要な役割を果たす細胞。T細胞はその機能によって、免疫応答を促進するヘルパーT細胞、逆に免疫反応を抑制するサプレッサーT細胞、病原体に感染した細胞や癌細胞を直接殺すキラーT細胞などに分類されます。 |
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T cell engager |
T細胞エンゲージャー(T Cell Engager、TCE)は、疾患の原因となっている細胞(例えばがん細胞)や病原体に、キラーT細胞のような異物を駆除する役割を持つ免疫細胞を近づけ、疾患の原因を取り除いて治療することを狙った医薬品・化合物のことです。がん治療薬としての研究開発が進んでいます。 |
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Tribody™ |
多重特異性抗体を作製する自社の技術であるTrisoma®で作製された抗体の商標です。バイスペシフィック抗体は2種類の標的(抗原)に結合することができますが、Tribody™は抗原結合部位が3ヶ所あるので最大3種類の抗原に結合することができ、より特異性の高い抗体を作製することができます。 |
当第1四半期会計期間において、新たに締結した重要な契約は次のとおりであります。
(業務委受託契約)
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相手方の名称 |
相手先 の 所在地 |
契約締結年月 |
契約期間 |
契約内容 |
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武田薬品工業株式会社 |
日本 |
2024年2月 |
2024年2月13日から 2025年2月12日まで (1年毎の自動更新) |
新規抗体作製等の業務 |