第2【事業の状況】

1【経営理念・経営方針】

 文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)経営理念・経営方針

当社グループは、2022年12月からの新たな経営体制のもと、2023年3月に経営理念を改訂しました。

近年、世界規模での社会・環境問題が深刻化し、その課題解決の重要性がますます高まっています。新たな経営理念では、当社グループの根幹にある普遍的な志と価値観は継承しつつ、社会・環境そして人類に対するわたしたちの使命を明示しました。この経営理念のもと、役員及び従業員が一丸となり、さらなる企業価値の向上と持続的な成長を目指し、光技術により調和、連携、共創する世界の創造に挑戦します。

 

 

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(2)中長期的な経営戦略等

当社は、電子管、光半導体、画像計測機器の大きく3つの事業から成っています。それぞれがお客様との密接な関係を構築して課題やニーズを把握し、それらを満たすユニークで価値の高い製品を企画、試作、開発、製造し提供しています。当社の製品を用いたお客様の装置が社会・環境・人類の課題を解決・貢献し、そこから生まれる新たな課題をまた取り込みサイクルを回し、さらに当社自身も解決策の提供に努めます。この付加価値創造サイクルが当社ビジネスの源泉であり、これをより速く、太く、強く回すことが企業価値の向上につながると考えています。

 

・課題・ニーズの共有、製品企画・設計における事業間の連携を強化します。

・当社は製造ラインを自社保有し、お客様の多種多様のニーズに的確に対応するデバイスやモジュールの少量多品種対応、カスタム化、高付加価値化に対応しています。この維持・発展のため、今後も適切な設備投資を行います。

・当社の特徴あるセンサの性能を最大限引き出すモジュールや、特定の機能に特化したインテリジェントモジュールなど、モジュール製品の強化による高付加価値化を加速します。

・中央研究所による社会・環境・人類の課題、ニーズの先取りと、それを解決する光技術の研究を進め、事業部との連携も深めます。また、設立したCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)にて、ベンチャー企業を支えながら彼らと先端分野・用途を観察し、先取りニーズを取り込みます。

・技術変革のスピードに対応する手段として、必要な技術を社外から取り入れるM&Aは選択肢の一つです。この方法も含んだ取り組みにて、レーザ事業を3つの既存主事業と並ぶ事業規模にしていく考えです。

 

一方で、長期的な技術開発を行うためにも安定的に利益を生み出し、継続的な成長を続ける必要があります。当社グループは光産業の拡大や経営環境の変化に柔軟かつ迅速に対応するため、中長期的なビジョンのもと、成長に向けた積極的な研究開発投資や設備投資を行うことで、持続的かつ安定的な高収益体制の構築を目指します。

 

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(3)経営上の目標達成状況を判断するための客観的な指標等

当社グループは、持続的な成長に向けて、収益性の観点からは、売上高営業利益率を重要視しており、具体的には当社連結ベース及び各セグメントにおける営業利益率を主要指標と定め、その向上に努力しております。一方、効率性の観点からは、資本コストを的確に把握した上で、中長期的に株主資本コストを上回るROE(自己資本当期純利益率)、つまり「正のエクイティ・スプレッド(ROE-株主資本コスト)」の創出を常に意識した経営を行っております。

 

 

(4)経営環境及び対処すべき課題

当社グループを取り巻く経営環境につきましては、新型コロナウイルス感染症が5類に移行し、社会環境がコロナ禍前に戻りつつあるものの、中国をはじめとした海外景気の下振れ懸念や物価上昇等の影響により、景気は厳しくかつ先行き不透明な状況にあると認識しております。

当社グループの足元の状況といたしましては、前期に引続き部材の調達難、高騰といったサプライチェーン上の影響や一部には海外を中心とした競合メーカーの台頭に伴う価格競争などもあり、市場における競争は激しさを増しております。

このような経営環境におきまして、当社グループは経営体制を刷新するとともに、経営理念を改定して地球規模で深刻化する社会・環境問題に対してより積極的に取り組む姿勢を明確にいたしました。新たな経営理念では、当社グループの根幹にある「光の未知未踏の領域を追求する」という普遍的な価値観は継承しつつ、それらを通じて新たな価値を創出し、豊かな社会・環境の実現ひいては人類の健康・幸福に貢献するという当社グループの使命を果たすことでより一層の企業価値の向上を目指しております。

そして、この使命を果たすため、グループ全体で取り組むべき重要事項と目標として8つのマテリアリティを策定いたしました。①事業を通じた社会・環境への貢献、②事業基盤の強化と企業の社会的責任という2つの観点で、今後各マテリアリティに対してグループ全体で取り組んでまいります。

 

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また、当社グループ全体としての持続的発展にむけて、会社戦略の立案、運営、人事・情報交流の活性化等を目的に、2023年4月1日から財務・非財務・間接部門をまとめる各統括本部を設置いたしました。そして、事業を通じた社会・環境への貢献を目指し、課題解決に求められる社会や産業のニーズを適切に把握するとともに、事業部間や外部機関との連携の強化を図ることで高付加価値製品を供給する「付加価値創造サイクル」をより速く、太く、強く回し、持続的な成長を目指してまいります。

当社グループは、このような事業環境の変化に対応するとともに、将来の企業価値の向上を図るため、経営の土台となる人・モノ・コトへの投資を積極的に行ってまいります。

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組みは、次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

当社グループは「今日の非財務課題への挑戦は、明日の企業価値を生む」を合言葉に、サステナビリティを始めとした非財務課題に取り組んでいます。

 

(1)サステナビリティ全般に関するガバナンスとリスク管理

(ガバナンス)

 当社は、1953年の創業以来一貫して「光」を追求し、光技術を用いた世界一のものづくりを通じて、社会そして科学技術発展に貢献することを基本理念としております。健全で信頼される企業としての成長を目指し、すべてのステークホルダーと共に事業を推進していくためには、サステナビリティの意識を高く保つことが重要と認識しております。

 当社は2021年10月に「サステナビリティ基本方針」を定めるとともに、サステナビリティに関して全社横断的に取り組むことを目的とした「サステナビリティ統括委員会」を設置いたしました。当委員会は担当役員を委員長とし、当委員会に属する各委員会の活動状況を取締役会に報告し、取締役会の意思を各委員会の活動に反映させております。

 

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(リスク管理)

 サステナビリティ統括委員会は年2回以上開催し、サステナビリティに関して全社横断的な対応の推進を図るために必要な内容を討議しております。当事業年度においては、当社グループの経営理念、方針に基づき、取り組むべき重要事項と目標として、下記8つのマテリアリティを特定しました。特定は、サステナビリティの課題に対して、当社の事業活動が当社のバリューチェーンやステークホルダーに与える影響と、当社の経営や事業が将来の社会や環境の変化から受ける影響について、リスクと機会及びそのインパクトを分析して重要度を評価し、執行役員会並びに取締役会にて協議、決定しました。

 

当社グループのマテリアリティ(取り組むべき重要事項と目標)

事業を通じた社会・環境への貢献

① 高度な光技術を活用した社会・環境価値向上への貢献

② 持続的な高収益経営による、安定かつ豊かな経済・社会実現への貢献

③ 優れた安全性、品質、サービスの提供による、顧客価値向上への貢献

事業基盤の強化/企業の社会的責任

④ 地球と共生可能な事業活動の推進

⑤ 幸福度の高い雇用制度と職場づくり

⑥ グループの成長と社会への貢献を支える人づくり

⑦ 価値創造の安定と成長を実現するガバナンスとマネージメントの推進

⑧ 製品の安定供給体制と責任あるサプライチェーンの構築

 

 特定したマテリアリティの各テーマに対して、推進施策や達成度合いを測る重要業績指標(KPI)、目標及び実行計画の策定に取り組み、リスクの低減に努めております。

 

(2)気候変動への取組

 2020年8月、当社は気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)による提言への賛同を表明し、気候変動が当社グループの事業に与えるリスクや機会、財務的影響への分析を推進しております。

 

(戦略)

 当社は、気候変動による様々な変化が、当社の事業に影響を及ぼすと認識しています。その中でも特に重要なリスク・機会を特定するため、事業全体を対象に、1.5/2℃、4℃でのシナリオ分析を下記ステップで実施しており、シナリオ分析に基づくリスクと機会の特定を行うとともに、それぞれの事業インパクトを算定しております。

 

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・重要リスク・機会の特定

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・シナリオごとの当社事業への影響度の検討結果

 シナリオ1(1.5/2℃のケース(2030年))

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シナリオ2(4℃のケース(2030年))

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 今後、特定したリスクへの対応並びに機会の実現に向けて影響が大きなものより検討、実施を行ってまいります。

 

 

(リスク管理)

 当社は環境管理規定を定め、全社的な環境マネジメントシステムを運用しています。気候変動を含めた環境に対するリスク及び機会を評価し、期毎に定める環境目標を設定して活動しています。その実績や課題は経営層がレビューし、継続的改善により環境パフォーマンスの向上に努めています。

 複数の気候関連シナリオに基づき、財務的な影響を定量的に評価したリスクと機会に対して、今後、グループ全体でのリスク管理に活用していきます。

 

(指標及び目標)

 地球温暖化対策に係る当社グループの長期ビジョンのもと、当社の温室効果ガス削減目標(GHG削減目標)は、2021年10月にパリ協定に沿った科学的根拠に基づいたものとして、国際的な環境団体SBTイニシアチブから認定を受けました。一方、中長期の環境戦略での重要指標として、GHG排出量、水使用量、再生可能エネルギー使用量等を定め、評価、管理しています。これら環境関連並びにESGデータの詳細については下記当社ウェブサイトをご覧ください。

 

環境     :https://www.hamamatsu.com/jp/ja/our-company/sustainability-and-csr/environment.html

ESGデータ :https://www.hamamatsu.com/jp/ja/our-company/sustainability-and-csr/esgdata.html

 

 SBT認定目標(スコープ1、2)は、72期(2019年9月期)を基準とし、84期(2031年9月期)までにGHG排出量を30%削減としており、この実現に向けた施策を実施してまいります。

 

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(3)人材の育成及び社内環境整備に関する方針、戦略

・人材に関する全般的な戦略

 当社は、未知未踏領域を追求し、光技術を用いた新産業を創造して企業価値を向上させるのは社員一人ひとりに負うところが大きいと考えております。すなわち、経営の基盤の一つは“人”であり、この旨を「経営理念」にて明確にするだけでなく、CSR基本方針の中で、社員を尊重し、能力開発を支援し、働きやすく安全な職場環境を提供することを掲げています。

 さらに、「幸福度の高い雇用制度と職場づくり」と「グループの成長と社会への貢献を支える人づくり」を当社の人的資本に係る重要な課題(マテリアリティ)として特定し、取組みを進めてまいります。これらの取組みを通じ、事業部間連携を強化し付加価値創造サイクルをより大きく回すことで人類の健康と幸福に貢献する、という当社の事業戦略の基礎を築くことを目指しています。

 

・社内環境整備方針(幸福度の高い雇用制度と職場づくり)

(雇用制度について)

 当社にとって最も重要な資産の一つは“人”であるとの認識のもと、これまで職場づくりの各種施策を推進し、研究・開発・製造に限らず間接部署においても従業員一人ひとりのモチベーションを高く維持し、能力を高めてまいりました。これらの推進の結果、退職率は低く維持されてきました。労働市場環境の変化に伴い、継続して優秀な人材を採用・維持するためには、これまでに構築してきた社内環境の良い部分は維持しつつ、雇用制度の見直しが必要な部分については対応を進めます。

 

(ダイバーシティについて)

 当社の技術分野の中心である電気電子分野は元来女性の専門人材が少なく、結果として女性社員や女性管理職の数が少ない状況にありますが、種々の施策を実施したことにより、近年は、各職務における男女間での差は少なくなってきていると認識しています。ただし、女性の管理職登用など短期間で改善が難しい項目については、継続して施策の効果を把握することが必要であることから、女性管理職比率等を把握して取組みを推進し、グループの成長に寄与する人材には、性別を問わず活躍できる環境づくりを推進してまいります。

 また、当社グループは海外売上高比率が8割弱であり、今後さらにグローバル化を進めるにあたって、各国における社会ニーズを適切に収集することが重要です。当社の多分野でのグローバルな展開において、多様な背景を持つ人材の意見を事業に取り入れ、様々な人材の確保、活躍の機会の提供のためにダイバーシティの取組みを推進することは、当社にとって有用であると考え、取組みを検討してまいります。

 

(職場づくりについて)

 人・技術・知識が当社の経営基盤です。社員一人ひとりが日々の仕事を通じて研鑽し、「和」の精神のもと、グローバルな視点で総合力を発揮できる企業風土の醸成が重要であると認識しております。このことは社員一人ひとりが心身両面において健康でなければ成し得ません。社員の心身両面での健康保持・増進及び幸福度を高めるための施策は、企業経営を進める上での必須事項と捉え、積極的に推進してまいります。今後はすべての社員が仕事と家庭を両立しながら活き活きと長く働き続けることができるよう、社内の専門スタッフだけでなく、健康保険組合を始めとした関連組織と連携して、総合的・計画的な施策を行うと共に、効果検証を踏まえ、その結果を次なる施策実施へ結び付けてまいります。

 さらに当社では、創業当時から「失敗を許容する文化」を脈々と受け継いでおり、社員が積極的にチャレンジし成長する機会にあふれています。これまでの雇用制度や職場づくりは、このような文化や機会を支える基盤として非常に有用で重要なものであったと考えています。この「ホトニクスイズム」を継承していくために、引続き社内環境を維持・発展させてまいります。

 

 

・人材育成方針(グループの成長と社会への貢献を支える人づくり)

 当社グループの成長に向けて、製品の高付加価値化は重要であり、これを担う人材育成は重要な課題です。当社では「未知未踏領域を追求する人材」の育成と「事業部間連携」を進めており、例えば 研究開発への積極的な投資を持続し、日々の仕事を通じた現場での挑戦経験が「未知未踏領域を追求する人材」の育成の場と考えており、社内ベンチャー制度による新規事業の立ち上げ支援によって新しい光のビジネスを創出するとともに、次世代リーダー育成も目指しています。

 また「事業部間連携」に関する人材育成として、若手社員の教育を重視しております。例えば総合職の新入社員は、当社での仕事のスタイルや基礎知識を学ぶだけでなく、全社の技術・業務を幅広く把握し、かつ社内の人的ネットワークを構築することを目指し、入社から6ヶ月間は各事業部や研究所を短期間でまわります。また、自ら求めて学ぶ姿勢を重要視した、当社社員が講師となる自由参加型の社内教育制度や、事業部の垣根を越えた試作発表会も開催しています。さらに新入社員が各事業部等に配属された後においても、2年目の特許研修や3年目の若手フォローアップ研修など実施しており、事業部合同で若手の能力開発に注力しています。

 また若手だけでなく、自部署の適切な管理運営力の強化並びに自部署を越えた連携強化のため、組織の最小単位(部門、グループ)の責任者である部門長・グループ長向けの育成にも注力しています。2022年度には158名(受講率98%)が研修に参加しましたが、次期以降も受講対象者の拡大、講義内容の充実を図ります。このような研修を通して、コミュニケーション力、調整・交渉力などプロジェクトの推進能力の底上げ・共通化することで、将来「事業部を越えた経営を担える人材の育成」を目指しています。

 

 

(4)人的資本に関するリスク管理と指標及び目標

<社内環境整備(幸福度の高い雇用制度と職場づくり)>

リスク・機会

対応方針・将来目標

2022年度実績

退職者の増加による技術・知識に係る高い専門性の喪失(リスク)

・従業員エンゲージメント調査による退職率

 変動の兆候把握

離職率

0.8% (注)1

ワークエンゲージメント

2.66点(注)2

・新入社員に対する半年間の事業部研修と丁寧

 な配属先の検討による、3年間離職率の低水

 準の維持

3年間離職率

2.1%

(注)1

・従業員の幸福度を高めるための課題を調査

 し、将来目標を設定検討

エンゲージメント調査

検討課題の洗い出し着手

心身の不調や疾病休業による

労働生産性低下の防止(機会)

・様々な効果に関連する健康投資

アブセンティーズム

1.62%(注)3

プレゼンティーズム

7.52%(注)4

ダイバーシティの充実を通じた優秀な人材の確保(機会)

・管理職登用率等を把握し、女性従業員の活躍

 機会の取組推進

女性管理職比率

3.3%

・女性活躍推進に向けたワークショップの開催

ダイバーシティ等の

eラーニングを2回実施

 (注)1 当事業年度ではなく、2022年4月~2023年3月の集計値を使用しております。

2 社内調査において、ユトレヒト・ワークエンゲージメント尺度の超短縮版3項目を組み入れて測定を実施しており、3項目のスコア(0=全くない~6=いつも感じる)の全従業員の平均値であります(スコアは大きい方が良い)。

3 全社員の1年間における疾病及び負傷による休業日数率(全休業日数/在籍労働者の延所定労働日数×100)。

4 東大1項目版を用いて、社内調査を実施しております(スコアは小さい方が良い)。

 

<人材育成(グループの成長と社会への貢献を支える人づくり)>

リスク・機会

対応方針

2022年度実績

未知未踏を追求する人材の拡充(機会)

・研究開発投資を通じた現場での挑戦経験機会の確保

・売上高研究開発費の維持

指標の検討開始

事業部間連携を推進する人材の拡充(機会)

・入社時事業部研修を軸とした、若手の能力開発

・若手育成施策の客観的な検証

若手育成施策や面談を通じた

課題把握の実施

・次々世代の経営を担う世代の育成

・部門長研修の実施と受講対象役職の拡大

研修受講者

(累計)158名(受講率98%)

 

 

 

3【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)経済情勢の変化について

 当社グループは、日本及び欧米など世界各国に製品を供給しております。当社グループの製品需要は、日本のみならず進出国又は販売地域の経済情勢の変化に大きく影響を受けます。このような経済情勢の変化が、当社グループの予想を超えた場合、当社グループの業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。
 当該リスクに対し、医用分野などの景気の影響を受けにくい業界分野への販売を推進する一方で、産業用機器分野、分析用機器分野、計測用機器分野、学術研究分野などの様々な業界分野に広く販売することでリスクの分散化並びに平準化に努めております。

(2)市場における競争の激化について

 当社グループの電子管事業及び光半導体事業は、世界の主要な医用機器、産業用機器、分析用機器、輸送用機器メーカーに対して、それらのキーデバイスとしての光電子部品を供給しております。画像計測機器事業は、産業用機器、学術研究、医用などのエンドユーザー向けに最終製品を供給しております。これら当社グループの中核をなす3事業が競合他社との価格及び開発競争の激化などにより収益率が著しく低下した場合には、当社グループの業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。
 当該リスクに対し、継続的な新製品の投入並びに生産能力の増強により、新市場、市場占有率及び収益性の拡大に努めております。

(3)技術革新における競争について

 当社グループは、「光を使いこなす技術を開発して社会に役立てる会社」であります。しかしながら、光の本質はほんの一部しか解明されておらず、他から学べるような問題ではなく、当社グループが自ら解決していかなければならない問題であると認識しております。このような状況において、今後、当社グループが、光の本質に関する新たな知識を獲得できなかった、又は、当社グループ以外によって、新たな光に関する技術的な発見があった場合には、当社グループは現在の市場さえも失う可能性とともに、当社グループの行っている研究開発投資は、必ずしも将来の売上高及び収益向上に結びつくとは限らず、将来の当社グループの業績及び成長見通しに大きな影響を及ぼす可能性があります。
 当該リスクに対し、光子工学についての未知未踏の世界を拓くため、光に関する新技術及び新製品開発に必要な研究開発投資を積極的に行っております。創業以来のベンチャー精神を忘れることなく、新規技術を企画し挑戦し続けること並びにそれを担う人材の育成にも取り組んでおります。

(4)人材の確保、育成について

当社グループの持続的成長は、高い専門性を有し、創業以来のベンチャー精神をもって、人類の未知未踏分野に粘り強く挑戦し続けられる人材の確保・育成並びに「和」の精神のもと、個々の能力の総和以上の総合力を発揮できる企業風土の醸成が重要であると認識しております。こうした人材の確保・育成及び企業風土の醸成が想定通りに進まなかった場合には、当社グループの経営の基盤が揺らぎ、業績や事業遂行に影響を及ぼす可能性があります。

当該リスクに対し、より高い専門性を有したグローバル展開を踏まえた人材の確保を積極的に推し進めるほか、採用後の教育制度の充実、高度なOJTにより専門性の伝承に努めております。また、高水準な研究開発投資を維持する一方で、失敗を恐れず挑戦し続けるマインドを醸成し、絶え間のない挑戦機会を創出することが個々の能力の開発に資するものと考えております。

 

(5)為替変動について

 当社グループの連結売上高に占める海外売上高の比率は8割弱であり、海外子会社の収益、費用、資産等の現地通貨を円換算する換算レートには、現地通貨での価値が変わらなくても、円換算後の価値を変動させるリスクを有しております。ビジネスレベルにおいては、当社は輸出の大部分を円建てで行っており、海外販売子会社において為替リスクを負っております。海外子会社は顧客との交渉により円建てもしくは現地通貨建て等を取り決めておりますが、現地通貨建ての取引の場合は、急激な円高が起こった場合、または、円高傾向が長期にわたる場合には、顧客への価格転嫁等の交渉が必要になり、収益確保に影響を及ぼす可能性があります。
 当該リスクに対し、為替変動に対する価格の弾力性が最小化するような高付加価値の製品を投入するよう努めるとともに、海外子会社において顧客との取引を円建てで行うほか為替予約を活用するなど通貨間の為替変動による影響を最小化するよう努めております。

(6)知的財産について

当社グループは、未知未踏を追求し、光技術を用いた新しい産業を創造し、企業価値を向上させるとともに科学技術の発展にも寄与することを経営の基本方針としており、光センサなどのコア技術を高めるための研究開発投資を推進し、それにより得られた知見を知的財産として適切に維持、管理することが事業遂行上重要と認識しております。当社グループは様々な新技術やノウハウを開発しており、独自の光技術を背景に日本、欧米等世界各国に製品を供給しております。当社グループが事業を行う海外の地域によっては、知的財産権の保護が十分ではない場合があり、第三者が当社グループの知的財産を使用して類似製品を製造することを効果的に防止できない可能性があります。一方で、当社グループが知り得ない知的財産権が存在した場合に、第三者の知的財産権を侵害するとともに当社グループが研究開発投資により得られた知的財産の利用を制限される可能性があり、これら知的財産の適切な管理がなされないことで業績上又は事業遂行上の悪影響が及ぶ可能性があります。

当該リスクに対し、専門の部門を組織し、当社グループが開発した新技術やノウハウは知的財産権として、網羅的に出願、権利化を行うとともに、製品に関わる分野の知的財産権について国内、海外を問わず情報収集を行い、弁護士事務所などと連携し、第三者の知的財産権を侵害しないよう対応を強化することでリスクの最小化に努めております。

 

(7)地震等自然災害について

 当社グループは、当社の本社、生産及び研究開発拠点が静岡県に集中しており、予想される東海大地震、東南海地震が発生した場合、製造ライン、研究開発施設、情報システム及びサプライチェーンの機能麻痺により、生産能力に重大な影響を与え、売上げの大幅な減少や施設の修復等に伴う多額の費用負担等が発生し、当社グループの業績と財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
 当該リスクに対し、事業継続計画(BCP)の整備を行うとともに、地震保険、地震コミットメントライン契約によるリスクファイナンスの手当を行い、被災からの早期事業復旧に備えております。

 

(8)感染症等の流行について

当社グループは国内外において事業活動を展開しており、新型コロナウイルスのような各種感染症の各国への拡大・長期化に伴い、航空便減便による製品出荷に対する懸念、当社出張制限による国内外顧客への受注機会の減少並びに製品納入遅延などが生じ、特にサプライチェーン不安による部材調達懸念が顕在化する場合には、当社グループの業績と財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

当該リスクに対し、感染予防・拡大防止のための措置を講じるとともに、当社グループが事業を行う各国、各地域の指針やガイドラインに沿った適時・的確な施策を実施することとしております。資金面においても万が一に備えてのコミットメントラインの締結や社債発行枠の設定などの対策を行っております。

 

 

(9)国際的な事業活動について

 当社グループの連結売上高に占める海外売上高の比率は8割弱であり、グローバルに事業を展開しております。進出国における政治不安や経済情勢悪化等、法規制や行政指導への抵触及び労使関係・人材確保のリスクなどのほか、テロ、戦争、疾病などによる社会的混乱により事業遂行に影響を及ぼす可能性があります。
 当該リスクに対し、当社における窓口担当部署を決定し、定期的な情報収集・情報交換を図るほか、進出国で問題が発生した場合には、窓口担当部署と連携し、問題の早期収拾に努めております。

 

(10)情報セキュリティリスクについて

 当社グループは、事業活動を通じて、事業に関する取引情報、技術情報のほか個人情報などの重要情報を有しております。ネットワークウイルスの感染、サイバー攻撃他によるコンピュータシステムの休止などによりこれら重要情報の漏洩が発生した場合、事業遂行上の悪影響が及ぶ可能性があります。
 当該リスクに対し、社内規定の整備、定期・不定期による従業員の教育等の対策を講じるほか、セキュリティシステムの導入を行うことでリスクの最小化に努めております。また、万が一セキュリティ事故が発生した場合におけるリスクファイナンスの手当て並びに専門家との連携による被害の最小化などを目的としてサイバー保険に加入するなどの対策も並行して行っております。

 

(11)環境問題について

当社グループは、事業を行う各国の環境規制などの法的規制を遵守することは勿論のこと、世界各地で深刻化する環境問題に適切に対応し、解決に貢献することが重要と考えております。これら環境問題に対する取組みが十分ではない場合、顧客の要望に応えられないばかりか社会的な信用を失い事業遂行上の悪影響が及ぶ可能性があります。

当該リスクに対し、環境マネジメントシステムを構築し、環境に対する影響を定期的に評価し改善する活動を継続的に行うとともに、再生可能エネルギーの導入をはじめとしたカーボンニュートラルの実現に取り組むなど、各種環境課題への様々な取組みを継続的に行うことでリスクの最小化に努めております。また、気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言に賛同し、気候変動が事業に与えるリスク・機会の財務的な影響を分析しております。

 

(12)企業買収や業務提携による効果について

 当社グループの持続的な成長のためには、将来を見据えた戦略的な挑戦が必要であり、その手段として企業買収や業務提携を行う場合があります。それらの企業買収や提携によるシナジー効果の創出や事業展開が当初見込み通りに進まなかった場合は、当社グループの業績と財政状況に影響を及ぼす可能性があります。

 当該リスクに対して、買収・提携前のデューデリジェンスを通じたリスクの洗い出しと共に、取得後はPMI(Post Merger Integration)を進め、定期的に事業計画と実績を比較検討し、迅速な対策を行える体制を構築するとともに、被買収企業とのコミュニケーションを密に行うことで事業戦略への適合を効率的に図れるよう努めております。

 

 

(13)材料の調達について

当社グループの生産活動に使用される部品のうち、特殊な原材料で調達先が限定されているなどの理由から調達の遅れや不足が生じた場合に、生産が遅延する可能性があります。当社グループの製品は、顧客における部品にあたるため、顧客等での生産にも影響を与える可能性があります。このように、材料等の調達に関するリスクが顕在化する場合、当社グループの事業戦略と財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

当該リスクに対し、調達先との関係強化に努める一方で、海外も含む調達先並びに調達先生産拠点の分散化・多様化を図るとともに、代替材料への切り替えや代替素材の研究開発などにより当該リスクを最少化するよう努めております。

 

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

 当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。

 

①経営成績

 当連結会計年度におけるわが国経済は、新型コロナウイルス感染症の5類移行により回復傾向にあるものの、長期化する部材の調達難、世界的な金融引締めに伴う影響や中国をはじめとした海外景気の下振れが懸念されるなど景気は厳しくかつ先行き不透明な状況のなかで推移いたしました。

 このような状況におきまして、当社グループは新たな経営体制のもと、財務・非財務の両輪で企業価値を向上させるための変革に取り組むとともに、将来の市場拡大を見据えた設備投資を継続するほか、当社独自の光技術をいかした研究・製品開発を推進することで、売上高、利益の確保に努力してまいりました。

 当連結会計年度の業績につきましては、売上高は221,445百万円と前期に比べ12,642百万円(6.1%)の増加となりました。また、利益面につきましては、営業利益は56,676百万円と前期に比べ306百万円(0.5%)減少したものの、経常利益は59,415百万円と前期に比べ536百万円(0.9%)増加、親会社株主に帰属する当期純利益は42,825百万円と前期に比べ1,529百万円(3.7%)増加いたしました結果、売上高、利益とも過去最高となりました。

 

 セグメントの経営成績は、次のとおりであります。

 

 [電子管事業]

 光電子増倍管、イメージ機器及び光源は、産業分野におきまして、シリコンウエハを高速・高品位に切断するステルスダイシングエンジン及び半導体検査装置向けの光電子増倍管や光源が、半導体市場の低迷を受け、売上げが減少したものの、車載用リチウムイオンバッテリーやEV・データセンター等に用いられる電子基板の検査需要の高まりを受けて、非破壊検査用マイクロフォーカスX線源の売上げがアジアを中心に増加いたしました。また、医用分野において、血液や生細胞などを分析する検体検査装置向け光電子増倍管の売上げも、国内外での需要の高まりを受けて増加いたしました。

 この結果、電子管事業といたしましては、売上高は86,242百万円(前期比6.6%増)、営業利益は34,040百万円(前期比3.4%増)となりました。

 [光半導体事業]

 光半導体素子は、医用分野におきまして、歯科用診断装置向けのフラットパネルセンサの売上げが、部材調達難の影響を受けたほか、海外における競合メーカーの台頭による価格競争の影響を受け減少したものの、X線CT向けのシリコンフォトダイオードの売上げが、新型コロナウイルス感染症により需要が伸びた低級機種から高級機種への需要の移行により、上期を中心に増加いたしました。また、学術分野においても、高エネルギー物理学実験向けのフォトダイオードアレイなどの光半導体センサの売上げが、欧州における新プロジェクトの発足を受けて増加いたしました。

 この結果、光半導体事業といたしましては、売上高は97,189百万円(前期比1.7%増)、営業利益は32,581百万円(前期比7.5%減)となりました。

 [画像計測機器事業]

 画像処理・計測装置は、半導体故障解析装置が、市場要求に沿った高い操作性・機能性を評価され、海外を中心に売上げが好調に推移したほか、デジタルカメラの売上げが、微弱光を広視野・高感度に撮像できることから、生命科学やバイオ分野のほか、量子や天文などの物理分野においても増加いたしました。また、非破壊検査用X線カメラも、電子基板検査向けにアジアを中心に売上げが増加いたしました。

 この結果、画像計測機器事業といたしましては、売上高は31,708百万円(前期比18.9%増)、営業利益は11,511百万円(前期比39.8%増)となりました。

 [その他事業]

 半導体レーザーに係る事業、子会社の㈱磐田グランドホテルが営むホテル事業及び子会社の北京浜松光子技術股份有限公司の独自製品に係る事業を含んでおります。

 その他事業の売上高は6,305百万円(前期比10.5%増)、営業利益は796百万円(前期比76.7%増)となりました。

 

②財政状態

 財政状態の状況は次のとおりであります。

 

 [流動資産]

 流動資産の主な変動は、現金及び預金が6,870百万円減少したものの、棚卸資産が16,478百万円増加したことなどから、流動資産は前連結会計年度末に比べ14,812百万円増加しております。

 [固定資産]

 固定資産の主な変動は、新棟の建設などにより建物及び構築物が7,936百万円増加したことなどから、固定資産は前連結会計年度末に比べ21,931百万円増加しております。

 [流動負債]

流動負債の主な変動は、仮受金(流動負債その他)が1,989百万円、短期借入金が1,055百万円それぞれ増加したものの、未払法人税等が4,719百万円減少したことなどから、流動負債は前連結会計年度末に比べ1,021百万円減少しております。

 [固定負債]

 固定負債の主な変動は、リース債務(固定負債その他)が1,382百万円増加したものの、退職給付に係る負債が1,979百万円減少したことなどから、固定負債は前連結会計年度末に比べ388百万円減少しております。

 [純資産]

 純資産は、親会社株主に帰属する当期純利益の計上などにより利益剰余金が30,726百万円、為替換算調整勘定が3,829百万円それぞれ増加したことなどから、当連結会計年度末の純資産は、前連結会計年度末に比べ38,154百万円増加し、320,059百万円となりました。

 

③キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度末の現金及び現金同等物(以下「資金」という。)の残高は、前連結会計年度末に比べ8,645百万円減少し、114,419百万円となりました。

当連結会計年度のキャッシュ・フローの状況を、前年同期と比較しますと次のとおりであります。

 [営業活動によるキャッシュ・フロー]

営業活動により得られた資金は34,253百万円となりました。これは主として、税金等調整前当期純利益及び減価償却費の計上によるものであり、前連結会計年度に得られた資金45,126百万円に比べ10,873百万円の収入減となりました。

 [投資活動によるキャッシュ・フロー]

投資活動により使用した資金は32,897百万円となりました。これは主として、有形固定資産の取得などによるものであり、前連結会計年度に使用した資金13,331百万円に比べ19,566百万円の支出増となりました。

 [財務活動によるキャッシュ・フロー]

財務活動により使用した資金は11,913百万円となりました。これは主として、配当金の支払によるものであり、前連結会計年度に使用した資金7,759百万円に比べ4,154百万円の支出増となりました。

 

④生産、受注及び販売の実績

a 生産実績

 当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

 セグメントの名称

 当連結会計年度

(自 2022年10月1日

  至 2023年9月30日)

金額(百万円)

前年同期比(%)

電子管事業

86,550

6.9

光半導体事業

96,184

0.8

画像計測機器事業

33,638

24.1

その他事業

6,652

12.6

合計

223,026

6.5

 (注)1 セグメント間の取引については相殺消去しております。

2 金額は販売価格によっております。

 

b 受注実績

 当社グループは主に見込み生産を行っているため、該当事項はありません。

c 販売実績

 当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

 セグメントの名称

 当連結会計年度

(自 2022年10月1日

  至 2023年9月30日)

金額(百万円)

前年同期比(%)

電子管事業

86,242

6.6

光半導体事業

97,189

1.7

画像計測機器事業

31,708

18.9

その他事業

6,305

10.5

合計

221,445

6.1

 (注)1 セグメント間の取引については相殺消去しております。

2 主要な販売先については、総販売実績に対する販売割合が10%以上の相手先はありません。

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

 当連結会計年度における当社グループ経営成績等の状況に関する分析・検討内容は以下のとおりであります。

 

①当連結会計年度の経営成績等

 当社は自社の資本コストを的確に把握したうえで、3年の経営計画を策定し、公表しております。(ローリング方式)また、中長期的ビジョンに基づき、成長に向けた積極的な設備投資や研究開発を行うことで、持続的かつ安定的な高収益体制の構築を目指しております。

当連結会計年度の業績につきましては、国内売上げ、海外売上げともに増加いたしました結果、売上高は221,445百万円と前期に比べ12,642百万円(6.1%)の増加となりました。新型コロナウイルス感染症を端緒とした世界的な新型コロナウイルスによる急激な需要増に、当社グループの業績も一時的に急上昇したことで、さらなる上昇トレンドを見込んだものの、その反動による需要減少から、半導体業界などで在庫調整局面となり、昨年度算定した見直しの計画には及びませんでした。しかしながら、需要急増時の受注残高等の影響もあり、売上高は過去最高を記録し、2020年11月に公表した3年の経営計画の3年目の目標額170,100百万円を51,345百万円上回る結果となりました。利益面につきましても、営業利益は56,676百万円と前期に比べ306百万円(0.5%)減少したものの、経常利益は59,415百万円と前期に比べ536百万円(0.9%)増加、親会社株主に帰属する当期純利益につきましても42,825百万円と前期に比べ1,529百万円(3.7%)増加となり、増収増益となりました。利益面についても売上高同様、2020年11月に公表した3年の利益計画の3年目の目標額を達成することができました。これは主に売上高が増収となったことによるものであります。

なお、セグメント別の業績の概要につきましては「(1)経営成績等の状況の概要 ①経営成績」に記載のとおりであります。

 

a 売上高

 光電子増倍管、イメージ機器及び光源は、産業分野におきまして、シリコンウエハを高速・高品位に切断するステルスダイシングエンジン及び半導体検査装置向けの光電子増倍管や光源が、半導体市場の低迷を受け、売上げが減少したものの、車載用リチウムイオンバッテリーやEV・データセンター等に用いられる電子基板の検査需要の高まりを受けて、非破壊検査用マイクロフォーカスX線源の売上げがアジアを中心に増加いたしました。また、医用分野において、血液や生細胞などを分析する検体検査装置向け光電子増倍管の売上げも、国内外での需要の高まりを受けて増加いたしました。

 この結果、電子管事業といたしましては、売上高は86,242百万円(前期比6.6%増)となりました。

 光半導体素子は、医用分野におきまして、歯科用診断装置向けのフラットパネルセンサの売上げが、部材調達難の影響を受けたほか、海外における競合メーカーの台頭による価格競争の影響を受け減少したものの、X線CT向けのシリコンフォトダイオードの売上げが、新型コロナウイルス感染症により需要が伸びた低級機種から高級機種への需要の移行により、上期を中心に増加いたしました。また、学術分野においても、高エネルギー物理学実験向けのフォトダイオードアレイなどの光半導体センサの売上げが、欧州における新プロジェクトの発足を受けて増加いたしました。

 この結果、光半導体事業といたしましては、売上高は97,189百万円(前期比1.7%増)となりました。

 画像処理・計測装置は、半導体故障解析装置が、市場要求に沿った高い操作性・機能性を評価され、海外を中心に売上げが好調に推移したほか、デジタルカメラの売上げが、微弱光を広視野・高感度に撮像できることから、生命科学やバイオ分野のほか、量子や天文などの物理分野においても増加いたしました。また、非破壊検査用X線カメラも、電子基板検査向けにアジアを中心に売上げが増加いたしました。

 この結果、画像計測機器事業といたしましては、売上高は31,708百万円(前期比18.9%増)となりました。

 その他事業の売上高は6,305百万円(前期比10.5%増)となりました。

 

 

b 為替変動の影響

当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因として、為替相場があげられます。当連結会計年度における為替感応度(1円の為替変動が年間営業利益に与える影響:円安+/円高△)は、米ドルで300百万円、ユーロで100百万円、中国元で800百万円と試算しております。なお、当連結会計年度における営業利益に占める為替影響額は、7,470百万円であり、利益を増加させております。

 

c 売上原価、販売費及び一般管理費

売上原価は、前期比5,017百万円(5.2%)増加し101,439百万円となり、売上総利益は前期比7,625百万円(6.8%)増加し120,006百万円となりました。また、売上総利益率につきましては、前期比0.4%上昇し54.2%となりました。

販売費及び一般管理費は、前期比7,931百万円(14.3%)増加し63,330百万円となりました。これは給料が前期比3,208百万円(20.4%)増加したこと及び支払手数料が前期比1,020百万円(18.4%)増加したことなどによるものであります。なお、研究開発費につきましては、前期比1,035百万円(9.2%)増加し、売上高に対する比率は5.6%となりました。

 

d 営業利益

営業利益は、前期比306百万円(0.5%)減少し56,676百万円となりました。電子管事業は、光電子増倍管等の売上げが増加したことに伴い、営業利益は1,124百万円(3.4%)増加し34,040百万円となりました。光半導体事業は、シリコンフォトダイオード等の売上げが増加したものの、営業利益は2,649百万円(7.5%)減少し32,581百万円となりました。画像計測機器事業は、デジタルカメラ等の売上げが増加したことに伴い、営業利益は3,275百万円(39.8%)増加し11,511百万円となりました。その他事業は、売上げが増加したことに伴い、営業利益は345百万円(76.7%)増加し796百万円となりました。

 

e 営業外損益

営業外損益は、2,739百万円の利益となり、前期比843百万円の利益の増加となりました。これは受取利息が460百万円増加したことなどによるもので、金融収支は423百万円収入増となりました。

 

f 特別損益

特別損益は、895百万円の損失となり、前期比684百万円の損失の増加となりました。これは、固定資産除却損が815百万円増加したことなどによるものであります。また、補助金収入も53百万円減少しております。

 

g 親会社株主に帰属する当期純利益

以上のことから、税金等調整前当期純利益は前期比148百万円(0.3%)減少し58,520百万円となりました。また、法人税等の負担率が、前期の29.30%と比較して、当連結会計年度は26.45%と2.85%低下しております。この結果、親会社株主に帰属する当期純利益は前期比1,529百万円(3.7%)増加し42,825百万円となりました。

 

 

②経営成績に重要な影響を与える要因

 当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因につきましては、「3 事業等のリスク」に記載しております。

 

③キャッシュ・フローの分析

 キャッシュ・フローの分析については、「(1)経営成績等の状況の概要 ③キャッシュ・フローの状況」に記載しております。

 

④資本の財源及び資金の流動性

 当社グループは経営方針・経営戦略を遂行し、企業価値の継続的な向上と経営の安定を図るため資金需要ごとに適切な資金調達方法を選択することが重要と認識しております。主要資金需要ごとの資金調達方針は以下のとおりであります。

・建物、製造設備及び研究開発用設備等の設備投資に関する資金は自己資金で賄うことを基本とし、設備投資規模など状況によっては金融市場又は資本市場からの調達を検討する。

・光産業創成のための研究開発投資、基礎研究開発等に関する資金は自己資金で賄うことを基本としながら、適宜資本市場からの調達を検討する。

・運転資金は、自己資金で賄うことを基本としながら状況によっては金融市場から調達する。

・企業買収のための資金は、自己資金で賄うことを基本としながら、買収金額や資金状況によっては金融市場もしくは資本市場での調達を検討する。

 当社グループの資金調達の現在の状況は、主に営業活動によるキャッシュ・フローにより賄われており、外部からの多額の資金調達に頼ることなく事業を遂行しております。

 また、地震などの自然災害からの復旧対応資金については十分な手元資金の確保に努めるとともに、地震保険並びに金融機関との専用コミットメントライン契約により、非常時の流動性確保にも備えております。

 今後も、収益力及びキャッシュ・フロー創出力を強化しつつ、株主様への適切な利益還元を行ったうえで、内部留保を積み増し、資金需要に対しては上記の基本原則に基づき自己資金と外部調達によるバランスに配慮し、財務健全性を維持しながら手元流動性を確保していくことを基本としてまいります。

 なお、新型コロナウイルスのような各種感染症等不測事態における運転資金への対応及び企業買収等に対する機動的な対応を目的として、コミットメントラインを締結しております。

 

⑤財政状態の分析

 財政状態の分析については、「(1)経営成績等の状況の概要 ②財政状態」に記載しております。

 

⑥重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。連結財務諸表作成にあたり、当社グループが採用している重要な会計方針は「第5 経理の状況 1連結財務諸表等 注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」に記載しております。

 この連結財務諸表の作成にあたっては、過去の実績や当該事象の状況に応じて、合理的と考えられる方法に基づき見積り及び判断を行い、必要に応じて見直ししておりますが、見積り特有の不確実性により実際の結果は異なる場合があります。

 なお、連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。

 

 

5【経営上の重要な契約等】

 当社は、2022年6月9日開催の取締役会決議に基づき、連結子会社であるホトニクス・マネージメント・ヨーロッパ・エス・アール・エルが、NKT Photonics A/Sの全株式を取得し子会社化(当社の孫会社化)するための株式譲渡契約を2022年6月24日付けで締結いたしました。

 その後、デンマークの産業・ビジネス・金融大臣が、The Danish Investment Screening Actに基づき、本件株式取得に係る申請を却下することを決定し、2023年5月2日に当該決定の通知を同国商務庁より受領いたしました。以上に対して、2023年7月20日に再度、NKT Photonics A/Sをホトニクス・マネージメント・ヨーロッパ・エス・アール・エルの子会社(当社の孫会社)とするための株式取得に係る申請書を同国商務庁宛に提出しております。

 詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(追加情報)(取得による企業結合)」に記載のとおりであります。

 

6【研究開発活動】

当社グループの研究開発活動は、「光の本質に関する研究及びその応用」をメインテーマとし、主に当社の中央研究所及び各事業部において行っております。

光の世界は未だその本質すら解明されていないという、多くの可能性を秘めた分野であり、光の利用という観点からみても、光の広い波長領域のうち、ごく限られた一部しか利用することができていないのが現状であります。こうした中、当社の中央研究所においては、光についての基礎研究と光の利用に関する応用研究を進めており、また、各事業部においては、製品とその応用製品及びそれらを支える要素技術、製造技術、加工技術に関する開発を行っております。

当連結会計年度の研究開発費の総額は、12,304百万円であり、これを事業のセグメントでみますと、電子管事業3,832百万円、光半導体事業1,622百万円、画像計測機器事業868百万円、その他事業804百万円及び各事業区分に配賦できない基礎的研究5,176百万円であります。

当連結会計年度における主要な研究開発の概要は次のとおりであります。

 

<光半導体事業>

超小型化、低コスト化、高速応答を実現したガス分析用途向けセンサを開発

 工場等における排ガスの分析には、赤外光をガスに照射しその吸収量を検出することで、ガスに含まれる成分や量を計測する手法が一般に用いられています。当社は、これまでガス分析向けセンサとして検出素子と電子回路等を一体化したモジュール製品を販売してまいりましたが、試料を測定室に持ち込むことなく現場で分析を行えるよう小型なセンサが求められておりました。

 このような中、当社は、最新のInAsSb(注1)検出素子を採用するとともに、独自の回路設計技術により素子と電子回路等を直径約9㎜のパッケージに内蔵したセンサの開発に成功いたしました。これにより、従来品と同等の感度を有しながら、体積を約200分の1にまで大幅に小型化いたしました。また、配線等の構造を最適化することで、応答速度を従来の約2倍まで高めるとともに、低コスト化も実現しました。これまでガス分析向けのセンサでは、テルル化カドミウム水銀を用いたものが主流でしたが、同物質がRoHS指令(注2)の制限物質に指定されたことから、今後、当該物質を含まない本製品への置き換えが見込まれます。

 本製品は、排ガス等をリアルタイムに分析する可搬型の分析機器への応用が期待されており、高精度な環境分析用デバイスの供給を通じて大気汚染といった環境問題の解決に貢献してまいります。

 

<画像計測機器事業>

広視野かつ高解像度での撮像に適したデジタルカメラ「ORCA®‐Fire」

 生命科学やバイオ等の分野の研究では、細胞等の微細な構造や瞬間的な生命活動を観察するため、顕微鏡とデジタルカメラを組み合わせたイメージング手法が広く用いられており、特に近年では、低倍率のレンズを用いて、広い視野で一度に多くの細胞等を観察するニーズが高まっております。このような低倍率でのイメージングにおいて、観察対象の細部まで解像度の高い画像を取得するためには、画素サイズの小さなカメラが適しておりますが、このような性能を十分に有するカメラはこれまで存在しておりませんでした。

 このような中、当社は、最新の裏面入射型イメージセンサを搭載したデジタルカメラ「ORCA®‐Fire」を開発いたしました。本製品は、独自の設計・製造技術を用いて、センサ全体の面積を大面積化するとともに、センサを構成する1つ1つの画素サイズを4.6μmという非常に微細なサイズにすることで、低倍率でのイメージングにおける広視野かつ高解像度な画像取得を可能にしております。

 今後も当社は、高性能なカメラの開発・供給を通じて、再生医療や創薬といった最先端の生命科学やバイオ分野の研究の発展に貢献してまいります。

 

 

 

<各事業区分に配賦できない基礎的研究>

体動補正機能付き頭部用PET装置の開発・AIによるPET画像再構成の実現

当社は、PETに関する研究を積極的に推進しており、この度、新規装置の開発とPET画像直接再構成手法の確立を実現しました。

当社と一般財団法人浜松光医学財団は、被検者の体動によるPET画像のボケを補正する機能を搭載した頭部用PET装置を開発いたしました。本装置は、静止状態を保つことが困難な認知症や多動性精神疾患の被検者の脳の状態を高精度に計測できます。本装置を臨床現場で用いることにより、医師の診断精度の向上や治療薬の開発促進などが期待されます。今後も、同財団とともに、認知症や精神疾患の早期発見、病態解明に向けた研究を加速してまいります。

また、当社はAIを用いた高品質なPET画像を取得する手法を世界に先駆けて実現いたしました(注3)。PETの診断画像は、収集した観測データに対し画像再構成と呼ばれる演算を行うことにより取得することが一般的ですが、その処理の過程で診断画像の劣化が発生してしまうことが課題でした。このような中、当社はAIを用いた画像再構成手法を新たに開発し、これまでの画像再構成に必要であった処理を省略することに成功いたしました。これを用いることで、画像劣化の発生を最小限に抑えつつ観測データから高画質な診断画像の取得を可能といたしました。これにより、計測時間の短縮や放射性薬剤の使用量削減による被検者の被ばく低減が期待されます。

当社は今後もPETに関する研究開発を推進し、健康長寿社会の実現に貢献してまいります。

 

新たな応用が期待される赤外領域のレーザ・センサを開発

医療や産業から宇宙分野まで幅広く利用されている赤外線は、今後も応用の拡大が期待されており、当社でもその光源及びセンサの研究開発に取り組んでおります。

光源につきまして、波長1.4~2.6μmの光は自動車の高度な自動運転に不可欠な長距離センシング等への応用が見込まれておりますが、高い出力を保つことが課題でした。当社では、これまでの研究成果をベースに新たな構造を採用することで、素子製造工程におけるレーザ出力の阻害要因を排除するとともに、レーザが素子内に吸収されてしまう割合を低減させることにより、従来の10倍以上である100mW超の出力を有した波長1.5μmのフォトニック結晶面発光レーザを開発いたしました。

また、センサにつきましては、波長1.1μm以上の光は一般に広く用いられているシリコンフォトダイオードなどでは検出困難であるため、有機材料を用いた研究を進めております。この度、当社は有機半導体薄膜の形成技術や電極形成技術など独自の技術をいかすとともに、新たな材料を用いることで、波長1.5μmまでに感度をもつ有機光センサの開発に成功いたしました。本センサは、曲がる・大面積・低コストなどの特徴をもつため、組み込む装置の設計の自由度が高く、様々な使い方が期待されます。

今後も、赤外領域におけるレーザのさらなる高出力化やセンサの感度範囲拡大・応答高速化などを進め、早期実用化を目指してまいります。

 

 

(注)1 インジウム(In)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)の略称です。

   2 特定の有害物質を一定の濃度以上含む電気電子機器のEU市場での販売を禁止するものです。

   3 本研究は、JSPS科研費 JP22K07762の助成を受けたものです。