第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

(1)会社の経営の基本方針

 当社グループは、社会の一員として健全な倫理・価値観を社会と共有しながら、法令・定款・社会規範を遵守し、株主、顧客、従業員とその家族、取引先、債権者などの当社グループの利害関係者と良好な関係を構築するとともに、人々の良質な暮らしの実現のために、他にない技術の提供を通じて、流体を扱う多様な産業、航空宇宙、透析医療などの暮らしの根幹分野で創造的な貢献を果たすことを経営の理念とし、当社グループの持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目指します。

 このような経営の理念の下、それぞれの事業分野において、独創的な技術を活かし、市場のニーズに応えた特長ある製品、サービスを提供することにより社会に貢献することを、経営の基本方針としています。

 

(2)中長期的な経営戦略及び目標とする経営指標

①中長期的な経営戦略;「Nikkiso 2025 フェーズ2」(対象期間:2023年~2025年)

 2020年のコロナ禍以降、ビジネスモデルの見直し、サプライチェーンの再構築、従業員の働き方など、当社が対処すべき経営課題は大きく変化してきました。

 なかでも、2022年にインダストリアル事業の中核であったLEWA GmbH及びGeveke B.V.の全株式を譲渡したことは、脱炭素社会の構築と新エネルギーへの転換を実現するための機器メーカーという新しい日機装が目指す会社の骨組を形作るうえで重要な一歩となりました。

 当社は、こうした環境の変化や経営課題に対応するとともに、「ものづくりで、社会の進化を支え続ける」という当社の存在意義に立ち返り、中期経営計画「Nikkiso 2025 フェーズ2」(中計フェーズ2)を策定しました。

 中計フェーズ2は、脱炭素関連の新市場拡大など長期的に目指す姿からバックキャストして策定しており、この3ヵ年を2025年以降の本格的成長に向けて経営基盤を固める期間と位置付け、スタートしています。

 

 ●「技術力の向上」「事業ポートフォリオの再構築」「経営基盤の強化」を基本方針に掲げ、収益力向上の土台となる経営基盤の強化に取り組むとともに、中核事業との親和性や当社グループの競争優位性を踏まえた事業の選択と集中を加速し、経営資源の最適配分を進めます。

 ●資本収益性を重視した事業ポートフォリオを構築し、収益力向上により獲得した資金・経営資源を成長分野、新市場創出に向けた研究・技術開発に投入するというサイクルを適切に回す体制を整えることで長期的なサステナビリティ経営を実現していきます。

 

 このような事業基盤の拡大、強化を図ることで、中計フェーズ2の最終年度である2025年12月期には、売上収益2,100億円、営業利益140億円(営業利益率6.7%)を計画しています。

 

(3)経営環境及び対処すべき課題

①事業の課題と取り組み

 コロナ禍収束後の経済活動の正常化が進み景気回復への期待が高まったものの、ウクライナ情勢不安の長期化、世界的な物価高、米中の緊張状態等の地政学リスク、中国経済の回復の減速、円安の進行等で、先行き不透明な状況が続いています。特に、各産業における生産活動の停滞やそれに伴なう設備投資の先送り感が強まることで、当社グループの業績や財政状態に影響を及ぼすことが想定されます。

 一方で、エネルギー転換を目指す動きが世界的に拡大しており、新たな成長分野におけるビジネスの獲得や、サステナビリティを巡る取り組みをはじめ、企業に求められる社会的責任がますます高まっています。

 このような経営環境下において、当社グループは、産業、医療を支える社会インフラとしての使命を果たし続けるとともに、エネルギー転換に向けた世界的な動きに対応し、社会のニーズに応えるべく、中計フェーズ2の推進を図っていきます。

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

(1)サステナビリティ基本方針と重要なサステナビリティ課題(マテリアリティ)

 当社グループにおけるサステナビリティの取組は、私たちが大切にしてきた「人々の良質な暮らしの実現のために、流体を扱う多様な産業、航空機、透析医療など暮らしの根幹にかかわる分野で創造的な貢献を果たす」、この考えの実践そのものです。私たちは、流体制御の技術力などその専門性とあらゆる経営資本を最大限に生かし、「社会の発展に貢献する新しい価値創造」、「社会基盤を支える製品・サービスの安定供給」、「すべての従業員が力を最大限発揮できる環境づくり」、そしてこれらを実現する「経営基盤の強化」をテーマに重要課題へ取り組み、産業や社会の持続的な発展に貢献していくことを通じて、当社グループの持続的成長と企業価値向上を実現していきます。

 なお、以下において将来に関する事項を記載することがありますが、当該事項は本有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものです。

テーマ

マテリアリティ

考え方及び取組

■  社会の発展に貢献する新しい価値創造

① イノベーションを通じた顧客の課題解決

② 環境負荷低減の取り組み

①②③の考え方及び取組を後記「(4)気候変動(TCFD提言に基づく開示)」に記述

■  社会基盤を支える製品・サービスの安定供給

③ 安全・安心な製品づくり

④ サプライチェーンマネジメントの強化

■  すべての従業員が力を最大限発揮できる環境づくり

⑤ 人材活躍の最大化

⑤の考え方及び取組を後記「(5)人的資本」に記述

■  経営基盤の強化

⑥ リスクマネジメントの強化

⑦ 財務体質の強化

⑥の考え方及び取組を後記「(3)リスク管理」に記述

 

(2)ガバナンス

サステナビリティ課題関連のリスク・機会を識別、評価、管理する組織

 取締役会の監督のもと、サステナビリティ課題関連のリスク・機会を含むリスク全般及び収益機会(以下、特に断りのない場合にはまとめて「サステナビリティ課題等」)に関する識別、評価及び管理並びに監督に関わる主要な組織として、サステナビリティ委員会並びに各種専門委員会及びサステナビリティ推進室を設置しています。各組織の役割と活動の概要は次のとおりです。

・サステナビリティ委員会は、サステナビリティ課題等及びその管理のための具体的行動計画並びに各部門の事業・業務計画が相互に整合するよう、各部門の長で構成し、四半期ごとに年4回開催することを基本とします。本委員会の主要な役割は、取締役会の監督のもとにあって、事業に関連するサステナビリティ課題等を把握し、リスクを適切にコントロールするとともに、サステナビリティ課題の解決への貢献を通じて中長期的に当社グループの企業価値を向上させる成長機会を探索、追求することにあります。本委員会は、サステナビリティ課題等を識別、評価、管理する各種専門委員会等の指揮監督を通じて、その役割を果たします。また、適宜、活動の進捗、成果を取締役会に報告し、その監督を受けます。

・各種専門委員会は、事業に関わる主要なリスク課題、コンプライアンス課題、IT利用や情報セキュリティを巡る課題、温室効果ガス排出削減を含む環境、人的資本、人権、製品の品質保証などサステナビリティ課題等について、専門的に識別、評価、管理します。その進捗、成果は定期的にサステナビリティ委員会に報告します。

・サステナビリティ推進室は、サステナビリティ委員会の事務局機能を果たすことを通じて、サステナビリティ委員会に統合される各種専門委員会や関係各部の活動を支援します。

 

取締役会によるサステナビリティ課題等の管理組織に対する監督

 サステナビリティ推進室と各種専門委員会等は連携して、原則として期初に、サステナビリティ課題等を識別し、評価し、またその管理のための具体的行動計画案を起案のうえ、サステナビリティ委員会に上程します。

 サステナビリティ委員会は、上程されたサステナビリティ課題等とこれらを管理するための具体的な行動計画について、サステナビリティ課題等を巡る社会情勢等及び当社グループの存在意義等を考慮して重要事項を決定します。

 取締役会は、原則として年2回、サステナビリティ委員会からサステナビリティ課題等の取組に関する進捗状況の報告を受けることを通じて、サステナビリティ課題等を管理する組織を監督します。また、取締役会は年度予算、事業計画、投資等の重要な業務執行の決定を行う際は、サステナビリティ委員会において特定されるサステナビリティ課題等とその管理のための具体的行動計画をその他の経営に関する事情とあわせ考慮します。

 

(3)リスク管理

サステナビリティ課題に関連するリスク・機会を識別・評価・管理するプロセスとリスク管理全体への統合

 サステナビリティ課題関連のリスク・機会も当社グループを取り巻くリスク全般及び収益機会のいずれについても、サステナビリティ委員会が網羅的包括的に指揮監督する仕組みとしています。よって、気候関連リスクを含むサステナビリティ課題関連のリスク・機会を識別、評価、管理するプロセスは全体のリスク管理のプロセス中に制度上、運用上統合されることとなります。

・リスク管理・コンプライアンス委員会など各種専門委員会等とサステナビリティ推進室は、相互に連携し、原則として期初に、サステナビリティ課題関連のリスク・機会を巡る社会情勢等に対し、当社グループの存在意義等の観点からサステナビリティ課題関連のリスク・機会を識別し、評価しますが、同時にこれら以外の事業の主要リスク及び機会も網羅的包括的に識別し、評価します。各種専門委員会等は識別、評価されたサステナビリティ課題関連のリスク・機会を含む主要なリスク・機会等を管理するための対策について、その方向性を絞り、具体的な行動計画案に落とし込みます。

・識別・評価されたサステナビリティ課題等、これらを管理する具体的行動計画案及びその進捗状況は、サステナビリティ委員会に上程し、同委員会において審議・決定し、原則として年2回また適宜に取締役会に報告します。

・各種専門委員会及び関係各部は、こうしたプロセスを経たサステナビリティ課題等に対し、具体的行動計画に基づき、専門的な立場から継続的に管理します。

 

≪サステナビリティ課題関連のリスク・機会を含むリスク全般・機会を統合的に管理する体制≫

 

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(4)気候変動(TCFD提言に基づく開示)

 気候変動にかかわる社会課題の解決に貢献することは、社会の一員として健全な社会倫理・価値観を共有することを経営理念とする当社グループが負う社会的責務であるとともに、当社グループの経営上の重要な課題と位置付けています。インダストリアル事業は、低炭素社会への移行を見据え、低・脱炭素中心の事業ポートフォリオへの転換を進めていますので、低・脱炭素社会への移行スピードや市場規模いかんは当社グループの財務の積極・消極の両面に少なくない影響を及ぼす可能性があります。また、航空宇宙事業は、脱炭素燃料への転換が求められる民間航空会社を顧客としますので、同様に少なくない影響を受ける可能性があります。

 以下において、短期から長期にわたり当社グループの経営方針・経営戦略等に影響を及ぼす可能性のある気候変動関連のリスク及び機会に対処するための当社グループの考え方及び取組を説明します。

 

 結論として、本有価証券報告書提出日現在において、合理的に入手可能な情報に基づきシナリオ分析を実施した結果、当社グループの経営戦略は複数の気候変動シナリオから想定される事業環境のいずれにも適合しうると判断します。

 

① 戦略

イ リスク・機会の特定

短期中期長期(注1)に想定される、当社グループが直面する気候変動関連のリスクと機会は以下の通りです。

 

■ 移行リスク(注2)

リスクの種類

重要度(注3)

●政策・法規制リスク

・炭素税の課税、再エネ価格の上昇、化石燃料の利用減少がエネルギー価格を押し上げることによる、原資材調達コスト、製造コストの上昇

・エネルギーコスト、製造コスト等の割安な地域へ製造拠点を移転することによる収益圧迫

 

●技術リスク

・低・脱炭素社会に向けて構築が進む水素サプライチェーンに対し、当社グループの技術が適合できないリスク

・新規参入者、代替品の出現による競争激化、低炭素技術の開発投資の増大による収益圧迫

 

●市場リスク

・石油化学プラント向け、石炭火力発電所向けの従来型のポンプ・システム製品の収益機会の減少

・LNG需要の減少に伴いLNG関連製品・サービスの収益減少

・水素サプライチェーン構築の遅延によって、水素エネルギー関連資産の価値下落リスク

・EVシフトの進行遅延、インフラ向け電子部品需要が伸びず、電子部品製造装置の収益が限定的

・水素、バイオ燃料のコストが上昇、航空機運賃が割高となり、航空機利用客が減少する結果、民間航空機向け製品の収益機会の減少

・エネルギー価格の上昇などに起因し、顧客医療機関の経営状態が悪化、透析装置購入サイクルの延長・買い控え

 

 

●評判リスク

・脱炭素移行対策にかかる実行度が遅れる場合の評判リスク

 

■ 物理的リスク(注4)

リスクの種類

重要度

●急性リスク

・増加、激甚化する異常気象によるサプライチェーン分断リスクへの対応費用の増加

・サプライヤーの生産拠点移転、各種対応費用の増加に伴う原材料調達コスト上昇

●慢性リスク

・増加、激甚化する異常気象やこれに起因する新たな疾病罹患を要因とする従業員の出勤率悪化、生産性低下、操業停止、工場閉鎖

・常態的な気温上昇による空調コスト増加、労働条件・環境整備等に関する法規制が厳格化し、対応コストの増加

 

 

 

■機会

機会の種類

重要度

●資源の効率性

・民間航空機の機体軽量化に貢献することで収益機会の増大

・eVTOL(注5)など電力駆動の次世代移動手段の需要拡大

・省資源、省エネルギー、エネルギー効率性の向上、廃棄物の減量と再資源化などに関する収益機会の増加

 

●エネルギー源

・合成メタン(注6)の利用拡大によりLNG向け関連機器の収益機会の増加

・水素・アンモニア混焼・専焼(注7)に改修されたLNG・石油・石炭火力発電所向けを含む、アンモニアポンプ、水素ポンプ、アンモニア燃料船舶向けポンプの収益機会の拡大

・CO2回収・貯留(CCS)やそれに利用を加えたCCUS前提の火力発電所や原子力発電所向けの従来型製品サービスの収益機会の維持・増加

 

 

●市場

・省エネルギー型・高性能半導体の需要増により電子部品製造装置の収益機会増加

 

(注1)時間軸;短期(~2030年)、中期(2030年~2040年)、長期(2040年~2050年) 以下本文で同じ。

(注2)移行リスク;低炭素社会への移行に関連したリスク(TCFD最終報告書2017年6月)。

 

(注3)重要度;大(当社グループの経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している)、小(重要な影響を与える可能性は少ないと認識している)、中(大小以外) 以下本文で同じ。

(注4)物理的リスク;気候変動の物理的影響に関連したリスク(TCFD最終報告書2017年6月)。

(注5)eVTOL ;Electric Vertical Take-Off and Landing 「電動の垂直離着陸機」。

(注6)合成メタン;水素(H2)と二酸化炭素(CO2)を反応させ、天然ガスの主な成分であるメタン(CH4)を合成して製造する。メタンは燃焼時にCO2を排出するが、合成メタンの原料として、発電所や工場などから回収したCO2を利用すれば、燃焼時に排出されたCO2は回収したCO2と相殺されるため、大気中のCO2量は増加しないとされる。

(注7)アンモニア混焼・専焼;火力発電の燃料の一部/全部をアンモニアに置き換える手法。アンモニア(NH3)は炭素を含まないため、燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しないことから、CO2排出削減の有力な技術とされる。

 

ロ 当社グループを取り巻く事業環境における移行リスク・機会の及ぼす影響と対応策

[事業環境に関する認識]

次の2つの事業環境を認識しています。

●低炭素社会へ移行する事業環境

  各国政府によるすべての気候変動関連の公約が完全かつ期限内に達成され、2100年の気温上昇を1.7℃に抑えるシナリオ(IEA World Energy Outlook 2022、同2023のAPS(注8)などを参照)に基づく事業環境を想定。この事業環境においてエネルギー源は、原子力、再エネ、CO2の回収・貯留(CCS)、それに利用を加えたCCUSを前提とする火力発電、再エネ由来のグリーン水素となる。とりわけ水素、アンモニアは脱炭素排出型エネルギーとして重要な選択肢となり、発電(燃料電池、タービン)、輸送(自動車、船舶、航空機、鉄道等)、産業(製鉄、化学、石油精製等)の様々な分野の低・脱炭素化に貢献すると予想される。

●化石燃料に一部依存する社会が発展的に存続する事業環境

  現在の各国の政策以外に新たな政策がない場合には、化石燃料の利用が継続され、低炭素排出型のエネルギー利用へのシフトは十分には進まない結果、2100年の気温上昇が産業革命前と比較し、2.5℃になると予測するシナリオ(IEA World Energy Outlook 2022、同2023のSTEPS(注9)などを参照)に基づく事業環境を想定。この事業環境においても、気候変動対応の観点からではなく、エネルギー安全保障などの観点から、水素・アンモニア関連分野への投資は継続することも予想される。なお、World Energy Outlook 2023は、STEPSにおいても、2030年までに石炭、石油、天然ガスの世界全体の需要がすべてピークに達する見込みとする。

 

(注8)APS;IEA(International Energy Agency 国際エネルギー機関)の3つのシナリオのひとつ。APS(公約シナリオ)はNDC(国が決定する貢献)や長期的なネット・ゼロ目標を含む、各国政府による全ての気候変動関連の公約を考慮し、それらが完全かつ期限内に達成されると仮定するシナリオ。これによれば、年間CO2排出量は2022年以降まもなくピークに達した後、2050年までに120億トンまで急速に減少し、2100年の気温上昇は1.7℃となる。

(注9)STEPS;IEAの3つのシナリオのひとつ。STEPS(既存政策シナリオ)はエネルギー、気候、関連産業政策を含む最新の政策設定に基づく見通しを提供するシナリオ。これによれば、世界全体のエネルギー由来のCO2排出量が2025年に年間370億トンでピークに達し、2050年には320億トンに減少する。その結果、2100年の気温上昇は2.5℃となる。

 

 

[認識する2つの事業環境における事業別の移行リスク・機会の及ぼす影響と対応策]

 以下に当社グループの主要事業について実施した低・脱炭素社会への移行に伴うリスク及び機会に関するシナリオ分析の結果の概要を掲載します。シナリオ分析結果の詳細は、当社ホームページの次のページに掲載しています。https://www.nikkiso.co.jp/company/stakeholders/environment.html

 

インダストリアル事業

<移行リスク>

   低炭素社会へ移行する事業環境においても、化石燃料に一部依存する社会が発展的に存続する事業環境においても、石油化学プラント・火力発電所向けの従来型の製品・サービスやLNG向けの当社製品・サービスの収益は減少もしくは成長が緩和するリスクがあります。この点に関して、2030年までに石炭、石油、天然ガスの世界全体の需要がすべてピークに達するとの予測もあり(IEA World Energy Outlook 2023)、この場合には、クライオジェニックポンプを含むLNG関連機器・サービス事業も中長期的には成長は緩やかになり、やがて鈍化すると予想します。

<時間軸・重要度>

   中期から長期/大

<機会>

   他方、低炭素社会へ移行する事業環境においては、回収したCO2と再エネ由来のグリーン水素によって合成される合成メタンはLNGと混合して供給される可能性も踏まえると、クライオジェニックポンプを含むLNG向け関連機器の収益は底堅いと見込みます。また、再生エネルギーのうちでも水素、アンモニアは脱炭素排出型エネルギーとして重要な選択肢とされ、発電、輸送、産業の様々な分野の低・脱炭素化に貢献すると見込まれることから、低炭素社会へ移行する事業環境においては、アンモニアポンプ、水素ポンプ、アンモニア燃料船舶向けポンプの収益機会(注10)は拡大すると予想します。化石燃料に一部依存する社会が発展的に存続する事業環境においても、2030年までの天然ガスの上流開発投資が増加し、2050年までLNG需要が当面継続するとの予測もあり、その場合にはクライオジェニックポンプを含むLNG関連機器・サービス事業の収益は中長期的に引き続き堅調に推移すると予想します。

<時間軸・重要度>

   中期から長期/大

<対応策>

   当社グループは、電力の安定性と機動的調整力、またエネルギー安全保障の観点から、天然ガスを含む化石燃料システムは低炭素社会においても一定の役割を果たすものと見込み、引き続きクライオジェニックポンプなどLNG向け関連事業の収益向上に注力します。あわせて、低炭素社会への移行を見据え、水素・アンモニア分野(注11)、省エネルギー・高性能社会関連分野へ経営資源を適切に配分していきます。

 

(注10)アンモニアポンプの収益機会;『2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略』(経済産業省 2021年)は、2030年までに石炭火力への20%アンモニア混焼の導入・普及、2050年までに混焼率の向上(50%)や専焼化技術の実用化を目指すとします。需要量は、国内では2030年に年間300万トン、2050年に3000万トンと想定される。

(注11)水素・アンモニア分野の当社グループの取組;水素航空機向け液化水素ポンプは2025年度の地上実証向け納入を目指します。液体アンモニア用ポンプは2026年に市場投入を予定します。

 

航空宇宙事業

<移行リスク>

   国際民間航空機関(ICAO)が国際航空分野で2050年までにCO2排出を実質ゼロにする目標を採択するなど、民間航空業界は運航改善、航空機等の技術革新、SAF(注12)の活用等航空燃料の低炭素化などによって、脱炭素社会構築の実現に向かっています。脱炭素社会へ移行する事業環境において、水素、バイオ燃料が化石燃料よりも高くなったり、炭素税が広く導入されたりする場合には、航空運賃の値上がりの可能性も予想され、航空機利用客の減少、民間航空機への投資意欲が減速、後退するときは、当社の民間航空機向け製品の収益機会が減少するリスクがあります。

<時間軸・重要度>

   中期から長期/中

<機会>

   他方、低炭素社会の事業環境においてはもちろんのこと、化石燃料に一部依存する社会が発展的に存続する事業環境においても、CO2排出規制、省エネルギー、省資源に向けた世界的な気運が逆行することは考えにくく、また、民間航空機の需要は中期的には拡大すると予想され、民間航空業界は機材、部品の軽量化、燃費効率の向上を一層強く求めると見込まれます。よって、いずれの事業環境においても、機体の軽量化に貢献する当社グループ製品の収益機会は維持・増加するものと予想します。

<時間軸・重要度>

   中期から長期/大

<対応策>

   当社グループは、CFRP(注13)成型品加工に関して高度な技術とノウハウを保有し、40年以上にわたる実績があることから、民間航空機の機材、部品等の軽量化と燃費効率の向上に貢献することができます。民間航空業界における脱炭素社会移行の世界的基調を見据え、民間航空機部品の製造で蓄積したCFRP加工技術を活用し、衛星事業、eVTOL、水素燃料航空機など、従来の民間航空機部品の製造にとどまらない事業展開を確実に進めていきます。

 

(注12)SAF; Sustainable Aviation Fuel.「持続可能航空燃料」 植物や廃油などから作ったバイオ燃料で、CO2の排出を従来の燃料よりも大幅に削減した航空燃料。

(注13)CFRP; Carbon Fiber Reinforced Plastics. 「炭素繊維強化プラスチック」 CFRPはプラスチックと繊維の特性を併せ持ち、比重1.5〜1.7(鉄の20%、アルミニウムの60%)と非常に軽い素材で、炭素繊維の種類や配向方向などによっては鉄の10倍の比強度(重さに対する強度)を持つのが大きな特徴。航空機部品の素材としては、強度を保ちながら軽量化できることから、燃費の向上によるコスト削減や環境負荷の低減につながるとされる。

 

メディカル事業

<移行リスク>

   低炭素社会へ移行する事業環境においては、エネルギー価格の上昇が顧客医療機関の経営を圧迫する場合、血液透析装置の購入サイクルの延長、製品価格の値下げ要求による価格競争激化等により、当社血液透析製品の採算性が低下するリスクも予想されます。また、気候変動リスクに関する新たな法規制に対する対応費用が増加する場合には、収益減の要因となりえます。

<時間軸・重要度>

   中期から長期/中

<機会>

   他方、低炭素社会へ移行する事業環境においても、化石燃料に一部依存する社会が発展的に存続する事業環境においても、省資源、省エネルギー、エネルギー効率、廃棄物の減量と再資源化などに関する当社顧客の医療施設の期待に応えることで、収益増の機会となります。

<時間軸・重要度>

   中期から長期/大

<対応策>

   気候変動リスクに高い関心を持つ医療施設、医療関係者、患者さんの期待に応えるため、製品製造過程における原材料や部品の再利用による環境対策にかかる取り組みを強化し、さらに部品点数減少、軽量化、エネルギー使用量低減、3R(Reduce、Reuse、Recycle)等の循環型の製品開発を行ないます。また、2024年、血液透析装置など血液透析関連製品を製造する国内基幹工場 金沢製作所において、消費する電力全量を実質的な再生可能エネルギーに切り替える計画を進めます。(注14)

 

(注14)当社金沢製作所の消費電力全量の実質再エネ切替計画;本有価証券報告書提出日現在、当社金沢製作所では電力の一部をオンサイトPPA(2023年4月から稼働)の方法で調達するほか、エネルギー高効率の生産設備への更新などにより、CO2排出削減、消費電力節減に努めていますが、これらの施策によっても削減しきれないCO2が残ります。これら残存するCO2について、2024年から非化石証書を利用することで、本製作所にて消費する電力全量を、CO2を排出しない実質的な再生可能エネルギー由来電力に切り替える計画です。本計画の達成により、年間約7,400t-CO2の削減を目指します。

 

ハ 当社グループを取り巻く事業環境における物理的リスクの及ぼす影響と対応策

<事業環境に関する認識>

   各国が気候政策を導入しない結果、GHG排出量が非常に多く、2100年の気温上昇が1850~1900年を基準として4℃上昇するとのシナリオに基づく事業環境を想定。この事業環境では、当社グループが事業展開するアジア、北米及び欧州のほとんどの地域において、熱波を含む極端な高温、大雨、台風、洪水等自然災害の強度と頻度が増し、また海面水位が上昇し続けると予測されます(IPCC(注15) 第6次評価報告書など参照)。

<物理的リスク>

   増加、激甚化する異常気象やこれに起因する新たな疾患等を原因とする従業員の出勤率悪化、生産性低下、工場閉鎖、サプライチェーン分断リスクへの対応費用の増加(生産・物流拠点の移転・分散、製品在庫の積み増し等)が財務面に悪影響を及ぼすリスクがあります。常態的な気温上昇が空調コストを押し上げ、労働条件・環境整備等に関する法規制の厳格化がすすめば、その対応コストの増加が予想されます。さらに、サプライヤーによる工場移転、各種対応費用増加に伴う価格転嫁による調達価格上昇のリスクも予想されます。

<時間軸・重要度>

   短期~長期/大

<機会>

   他方、メディカル事業については、顧客病院施設が異常気象への対策として、治療可能ベッド増設など収容能力を拡大する場合、透析装置及び関連製品の需要が増加する可能性があります。また、治療に不可欠なディスポ(消耗品)製品について顧客施設の保有在庫を増加する場合には、当社の物流コストを合理化できます。インダストリアル事業などでは、被災した化学、発電プラントなどから災害復旧需要も予想されます。

<時間軸・重要度>

   短期~長期/中

<対応策>

   在庫の積み増し、サプライヤーの複線化、実効的なBCP対策の継続的改善による災害時における本社・本部機能の確保、漏れのない効果的な損害保険の継続的付保などを維持、実施していきます。これに加え、血液透析事業においては、災害発生時に故障製品の状態をただちに把握できる遠隔監視及び復旧作業を遠隔指示できるシステムの普及拡大とサービスの機能強化を急ぎます。

 

(注15)IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change);気候変動に関する気候変動に関する政府間パネル。世界気象機関(WMO)及び国連環境計画(UNEP)により1988年に設立された政府間組織。

 

② 温室効果ガス排出量削減に関する指標及び目標

<指標> 当社単体及び国内主要連結子会社のScope1及び同2におけるCO2排出量(総排出量基準・基準年2019年)

<目標> 2019年(23,286t-CO2)を基準年とし、当社単体及び国内主要連結子会社を対象として、Scope1及び同2のCO2総排出量(t-CO2)について、2025年15%減、2030年30%減とすることを目標とします。

<実績> 2023年(1月~12月) 24,534t-CO2(基準年比 5.35%増)(注16)

 

基準年 2019年

実績 2023年(基準年比)

削減目標(基準年比)

23,286t-CO2

24,534t-CO2(5.35%増)

2025年

19,793t-CO2(15%減)

2030年

16,300t-CO2(30%減)

<取組済>

ⅰ)太陽光発電システム(オンサイトPPA)の導入;金沢製作所は2023年稼働、宮崎日機装は2024年稼働予定

ⅱ)ボイラー燃料のA重油からLNGへの転換;金沢製作所において2023年稼働

<計画中>

ⅰ)国内の生産拠点において、LED照明敷設、遮熱塗装、生産設備の更新などを実施することを計画しています。

ⅱ)2024年、血液透析装置など血液透析関連製品を製造する国内基幹工場 金沢製作所において消費する電力全量を実質的な再生可能エネルギーに切り替える計画を進めます。

 

(注16)2023年CO2排出量増加の実質的要因;2023年のCO2排出量は基準年2019年の排出量比5.35%増加しました。増加の実質的要因は、国内基幹工場 宮崎日機装㈱が調達する系統電力の排出係数の上昇、基準年後に取り組んでいる生産拠点再編に伴う拠点の増加などです。

 

 

 

(5)人的資本

 当社グループの経営理念 「人々の良質な暮らしの実現のために、技術の提供を通じて、暮らしの根幹分野で創造的な貢献を果たす」のもと、世界でも数少ない専門的な分野の技術メーカーとして、「持続可能な社会を見据え、ものづくりで、社会の進化を支え続ける存在であること」を目指しています。

 持続可能な社会への移行を見据え、インダストリアル事業においては水素・アンモニア利用など脱炭素・クリーンエネルギーのソリューション提供、航空宇宙事業においては次世代移動手段 eVTOLや小型人工衛星などを含む新市場創出、メディカル事業においては循環型の製品開発、中国や米国など海外市場への展開など、いずれの事業においても、既存事業の推進だけでなく、新しい取り組みに注力しています。なお、以下の人材戦略は、本有価証券報告書提出日現在、当社単体への適用を想定しています。

 

 これらの経営戦略の実現に不可欠となる、次の人材の育成を強化します。

■ チームメンバーや協力企業などを巻き込み組織やプロジェクトを牽引する『中核人材』

■ 事業の最前線において高度な技能・知識・経験をもって「技術の日機装」の根幹を支える『専門人材』

 

 また、人材活躍の最大化を目指し、チャレンジを促進する自由闊達な組織環境作りに努めます。

■ 性別・年齢・国籍などを問わず、すべての従業員が自分らしさを発揮し、活き活きと働きがいを感じて働くことができるよう、安心して柔軟な働き方のできる安全かつ健康的な労働環境を整備するとともに、上司と部下のコミュニケーションを通じた相互理解を図り、チャレンジを促進する自由闊達な組織風土を育むことにより、従業員の活躍の最大化に取り組みます。

 

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① 戦略

  当社グループの経営戦略の実現に必要な人材を育成・強化、維持する人材戦略(「人材活躍の最大化」)は以下のとおりです。

 

イ 人材育成方針

<『中核人材』及び『専門人材』の育成・強化、維持>

■『中核人材』の育成等

・事業単位、職種単位、職場単位で『中核人材』の候補者を定期的に選定し、事業横断的次世代リーダーの育成プログラムを企画・遂行します。あわせて、付加価値の高い事業の創出、技術や製品の開発などのプロジェクトを牽引する役割を経験させ、実践的な育成に取り組みます。

・また、部下の自律的な成長を促す社内風土の醸成のため、管理職及び管理職候補の組織マネジメント力向上に向けた教育を継続的に行ない、上司が部下のチャレンジを後押しし、積極的に仕事を任せることを促します。

■『専門人材』の育成等

・創業以来、当社が大切にする価値観や技術・技能の伝承を含め、計画的に技術・技能そして現場力の向上を目指し、各事業における中長期の経営戦略の実現に必要な組織の機能と目指す人材像を事業単位、職種単位、職場単位で明確にします。そのうえで、各単位できめ細やかな人材育成体系とプログラムを策定するとともに、従業員が有する経験・スキル情報の可視化を行ないます。

・また、管理職向け人事制度に、マネジメントコースに加え、技術・技能・営業・サービスなどの「専門性」を職務等級基準としたプロフェッショナルコースを新設し、「専門性」による能力発揮と業績への貢献を評価する、『専門人材』の活躍を促進する制度を導入しています。

 

<適正な評価・昇降格・処遇と従業員の希望を尊重する配置転換>

・従業員の自発的なチャレンジと成長を促すために、評価段階数の細分化による評価手法を高度化することで、目標に対する成果を上げた従業員を適切に評価します。これらの仕組と運用によって、入社年次にかかわらず、昇格可能となる環境を整え、個人の能力のみならず組織全体のパフォーマンス向上、活性化、多様性確保を図っています。他方、目標達成が難しい従業員に対しても継続してフォローを行い、パフォーマンスの底上げを図ります。

・その他、キャリアアップを目指す従業員が他部門の業務にチャレンジする機会を提供する社内公募制度や従業員が異動希望を申告できる自己申告制度を拡充し、従業員のキャリアや仕事に関する希望を尊重し、自主性を最大限発揮できる環境を整備しています。

 

<女性の活躍推進>

・新型コロナウイルス感染症拡大を契機に、従業員のワークライフバランスを充実し、より働きやすい環境を創出するために導入した在宅勤務やスーパーフレックス・タイム勤務(注17)は、『中核人材』及び『専門人材』として、また管理職として活躍する、女性従業員をサポートしています。

・また育児しながら働く女性従業員のため、子どもが小学校4年生に進級するまで利用できる時間短縮勤務制度、子どもが体調を崩しやすい、小学校就学時まで利用できる看護休暇制度(注18)といったサポート制度も設けています。現在、将来の管理職候補となる女性総合職の採用活動には、多くの女性従業員がリクルーターとして活躍しています。

 

(注17)スーパーフレックス・タイム勤務;始業時刻、終業時刻を朝5時から夜10時までの時間帯に従業員が自主的に決定でき、1ヶ月単位で労働時間を精算する当社単体に適用する制度。

(注18)看護休暇制度;子ども1人当たり、年5日間の看護休暇を取得可能とする当社単体に適用する制度。

 

ロ 社内環境整備方針

<柔軟な働き方>

・新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に、より働きやすい環境を創出するために、在宅勤務、スーパーフレックス・タイム勤務制、「時間単位の年次有給休暇」制度を導入しました。「時間単位の年次有給休暇」制度は、在宅勤務、スーパーフレックス・タイム勤務制の導入が困難な工場等の従業員にとっても、ワークライフバランスを充実することに役立っています。

・その他、柔軟な働き方や組織運営に関する社内優良事例を水平展開・共有することにより、各制度の運用の幅を広げ、会社全体で多様かつ柔軟な働き方を促進します。

 

<労働安全衛生>

・「労働安全衛生マネジメントシステムに関する国際規格(ISO45001)」と同水準のシステム構築を推進し、労働環境改善を図ります。

・また労働災害発生の未然防止など、健康と安全に関わるリスクを管理するために安全衛生委員会を毎月開催するほか、2か月に一度の全社単位の中央安全衛生連絡会で管理面の強化を図ります。これにより、労働安全に関する事例を共有し、組織としての確実な法令対応や類似の労働災害発生防止に努めます。

 

<従業員の健康管理>

・従業員が活き活きと働き、能力を最大限に発揮できるよう、健康管理の強化を図ります。その方策として定期健康診断の受診率100%はもちろんのこと、二次検診対象者の再受診率100%を目指し、フォローアップ体制を確立します。

・また従業員の健康増進について、現在、社内外に相談窓口を設けていますが、試験的な運用として、一部事業所で専門知識を持った産業保健師・カウンセラーによる従業員の健康管理促進に取り組みます。さらにメンタル疾患による休務を予防するため、上司に対するラインケア教育なども行ないます。

 

<働きやすい職場づくりの実現>

・すべての従業員がハラスメントに関する正しい知識を保有し、ハラスメントの早期発見や予防を目的とした研修を実施します。特に人間関係における相互の意識のズレや周囲を委縮・不快にさせる言動に焦点を当て、ハラスメント一歩手前の問題要因の芽を摘み取ることで、心理的安全性が確保された組織の土台づくりを行ないます。

 

 

② 指標及び目標

  人的資本に関する方針について、当社単体に適用する指標の内容、当該指標を用いた定量的な目標及び実績は次のとおりです。

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3【事業等のリスク】

 当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」)の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクを記載します。なお、以下の記載はすべてのリスクを網羅したものではありません。想定できないリスクや重要性の低いと判断した他のリスクの影響を受ける可能性も否定できません。また、当社グループは、以下記載の主要なリスクに対して、実効的と判断する対応策を継続的に実施しているものの、これらの対応策によっても当社グループの経営成績等に悪影響を及ぼすことを完全に防止できるわけではありません。以下の記載中の将来に関する事項は、本有価証券報告書提出日現在における当社グループの判断によるものです。

 

(1)政治・法律・制度的環境要因

①医療保険行政に関するリスク

<想定されるリスク> メディカル事業は、血液透析関連をはじめとした医療市場を主要な販売先としており、医療保険行政の規制を受けています。したがって、メディカル事業の製品の市場と価格は、直接・間接にその影響を受けます。今後の規制の動向により、市場の縮小や価格の下落などが起きる場合には、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

<現在の対応策> 医療保険行政について、短期的、中長期的な規制動向をできるかぎり的確に把握、予測するために、さまざまな角度から情報収集に努め、生産、営業計画に活かしています。

②税務に関するリスク

<想定されるリスク> 当社グループは、グローバルに生産・販売拠点を有しており、グループ会社間の国際取引も多く発生しています。グループ会社間の国際的な取引価格に関しては、適用される各国の移転価格税制等の観点からも適切な取引価格となるよう細心の注意を払っています。しかしながら、税務当局又は税関当局との見解の相違等により、追加の税負担が生じる可能性があります。また、世界各国の租税法令の発効、施行、導入及び改廃等により、当社グループの税負担が増加する可能性があります。

<現在の対応策> 移転価格税制に関しては、グループ会社間取引金額の大きい会社との取引には移転価格ポリシーを定めて運用を行っている他、各国の法令に従って移転価格文書を作成して価格の妥当性の検証を行っています。また、組織再編など重要な取引については専門家の助言を得ながら関係各国の法令への準拠性を高めています。

※2021年7月8日、2017年8月に買収したCryogenic Industries グループの外国子会社3社に対してタックス・ヘイブン対策税制の適用を受けるとして、同外国子会社の親会社となる日機装インターナショナル株式会社の2018年度事業所得金額について、その税額の更正通知書を受領しました。本件について、当社グループは意図的な租税回避行為を行っておらず、税務当局も同様に認識していますが、当社グループと税務当局との間で見解の相違が生じています。当社は、当社グループの見解の正当性を主張するため、2021年10月に東京国税不服審判所に対して更正処分の取消を求める審査請求を進めてきましたが、2022年9月に同審判所より審査請求の棄却裁決を受けたため、2023年3月に東京地方裁判所に対し更正処分等の取消請求訴訟を提起しました。引き続き、当社グループとしての正当性を主張してまいります。

(2)経済的環境要因

①為替変動に関するリスク

<想定されるリスク> 当社グループは、世界の様々なマーケットにおいて製品及びサービスを提供しています。主な通貨は米ドルとユーロであり、これらの通貨の為替変動が当社グループの業績と財務状態に影響を及ぼす可能性があります。当社グループ全体では、外貨建売上が外貨建仕入を上回り、また外貨建資産が外貨建負債を上回るため、これらの通貨に対する円高が当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

<現在の対応策> 外貨建資産・負債残高について継続的にモニタリングを実施し、必要に応じ一部を円貨へ転換するなど為替リスクの抑制に努めています。

②資金調達に関するリスク

<想定されるリスク> 当社グループは、金融市場の状況を踏まえた最適な手段により外部から資金を調達しており、現時点においては主に銀行からの借入による資金調達を実施しています。このため金融市場の不安定化や当社グループの信用状況が悪化した場合などには、資金調達コストの上昇や資金調達自体が困難となり、当社グループの経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。

<現在の対応策> 長期金利の動向を踏まえ、適切な時期に借入の固定金利化を実施し金利変動リスクの低減を図っています。

(3)社会的環境要因

①国内血液透析患者数の減少に関するリスク

<想定されるリスク> 国内の血液透析患者数は中長期的には減少に転ずると予想されます。国内血液透析市場が減退する速度が当社グループの想定以上に早い場合には、新たな事業展開の準備が整わない結果、国内血液透析事業の経営成績等が悪化する可能性があります。

<現在の対応策> 治療の安全性や利便性並びに経済性に寄与する血液透析装置や当社血液透析装置との組み合わせで付加価値を提供できる血液回路などお客様のニーズに応える製品を提供しつづけることで国内血液透析市場のシェア拡大に努めています。また、海外市場は、透析医療の普及と市場拡大が続く中国での拡販や、透析大国である米国での本格展開を計画しており、グローバル展開をさらに加速していきます。

②気候変動、低・脱炭素化社会への移行に関するリスク

<想定されるリスク> 次のリスクが想定されます。

■移行リスク

 ・炭素税の課税、再エネ価格の上昇、化石燃料の利用減少がエネルギー価格を押し上げることによる原資材調達コスト、製造コストの上昇

 ・LNG需要の減少に伴い、LNG関連製品・サービスの収益減少

 ・水素、バイオ燃料のコストが上昇、航空機運賃が割高となり、航空機利用客が減少する結果、民間航空機向け製品の収益機会減少

 ・エネルギー価格の上昇などに起因し、顧客医療機関の経営状態が悪化、透析装置購入サイクルの延長・買い控え

■物理的リスク

 ・増加、激甚化する異常気象によるサプライチェーン分断リスクへの対応費用の増加

 ・異常気象やこれに起因する新たな疾病罹患を要因とする従業員の出勤率悪化、生産性低下、操業停止・工場閉鎖

 ・常態的な気温上昇による空調コスト増加、労働条件・環境整備等に関する法規制対応コストの増加

<現在の対応策> 低・脱炭素社会への移行を見据え、温室効果ガス(GHG)排出量削減に向けた計画的取組の継続及び水素・アンモニア分野、省エネルギー・高性能社会関連分野、電力駆動の次世代移動手段・人工衛星分野などの従来の事業分野にとどまらない分野へ事業を展開します。あわせて、在庫の積み増し、サプライヤーの複線化、実効的なBCP対策の改善などを継続的に実施することにより、移行リスク・物理的リスクに適合していきます。

(4)技術革新・事業展開の遅れに関するリスク

<想定されるリスク> 技術的な進歩が速く、市場の変化を適切に予測できず、顧客のニーズに合致した新製品をタイムリーに開発できない場合には当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。また、開発期間の長期化に伴い費用の増加あるいは開発資産の減損損失が発生する可能性があります。当社グループは、生産能力、品質、生産性向上などのため生産設備などの設備投資や成長に向けたM&Aを継続的に行ってきました。その結果、当連結会計年度末において、のれん 25,290百万円(総資産の8.5%)、有形固定資産 53,598百万円(総資産の18.1%)、関係会社株式及び関係会社出資金 67,044百万円(総資産の31.0%)を計上しています。今後、事業展開の遅れ等により、これらの資産が十分な将来キャッシュ・フローを生み出さないと判断される場合には減損損失を認識する必要性が生じます。多額の減損損失を認識した場合、当社グループの経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。

<現在の対応策> これまで当社グループは、エネルギー転換などその時々の環境変化に順応し、事業機会を創出してきました。今後、新たな事業機会の創出を見据え、液化水素・アンモニアなど次世代エネルギーに向けたポンプの要素技術と実用化技術の開発を加速します。また、事業環境の変化等を予測し、時機を失わずに事業ポートフォリオの組み換えも実施していきます。

(5)災害

①自然災害や大規模災害等に関するリスク

<想定されるリスク> 国内においては、南海トラフ地震、首都圏直下型大地震の発生により、当社グループの国内生産・販売拠点、研究開発拠点、本社機能の弱体化、稼働停止など、当社グループの事業の継続に支障をきたす結果、当社グループの経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。海外においても、当社グループが展開する地域において、地震、津波、洪水、火災などの自然災害の発生により、様々な物的・人的被害が生じ、円滑な事業活動が阻害されるおそれがあります。

<現在の対応策> 国内の主要な生産拠点を分散しているほか、本社その他の国内拠点において、適正な備蓄品の確保を含む防災対策を継続的に実施し、事業の継続性確保に向けた計画の策定と適時の見直しを実施しています。

※2024年1月1日に発生した能登半島地震について

当社の金沢製作所(石川県金沢市北陽台3-1)と白山工場(石川県白山市旭丘1-5-1)は石川県に所在しており、最大震度5弱を観測しました。従業員の安全は発生後速やかに確認でき、両工場及びサプライチェーンの被害は最小限にとどまった結果、1月9日以降操業を順次再開しました

 

②感染症に関するリスク

<想定されるリスク> 大規模(パンデミック)な感染症が発生した場合には、従業員の感染のほか、隔離措置・職場感染防止のための出社抑制措置などにより、事業活動の生産性が悪化し、当社グループの経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。

<現在の対応策> コロナ禍収束後も社内外でのアルコール消毒液による手指消毒の励行を継続しているほか、今後も状況に応じて、従業員の健康と安全の確保と感染拡大防止の対策を最優先に対応します。

(6)製品・サービスの品質に関するリスク

<想定されるリスク> 当社グループは、各種製品・サービスについて、欠陥が発生しないように万全の品質管理基準のもとに生産しています。しかしながら、万一リコールや製造物責任につながるような重大な欠陥が発生した場合には、多額のコスト発生に繋がり、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

<現在の対応策> 「技術の日機装」を掲げている当社グループにとって、品質問題は経営の根幹に関わる重大な課題と認識し、全社を挙げて品質保証体制の強化に取り組んでいます。

①当社グループの技術標準・固有技術・ノウハウについて、設計管理システムを用いて技術の継承や人材育成に活用しています。また技術者に対する体系的な教育プログラムを2019年から実施しています。これらにより技術者のスキル向上による設計品質の向上を図っています。

②部品購入を行う取引先に対し、課題を可視化して改善を図る活動を全社で標準化し運用しています。これにより取引先の品質保証体制を強化し、製品・サービス品質のさらなる安定化を進めます。

(7)サプライチェーンに関するリスク

<想定されるリスク> 当社グループの生産活動には、種々の原材料を使用しており、原材料ソースの多様化に

より安定的な調達に努めていますが、これらについて供給の逼迫や遅延、供給国の通商政策の変更、また、それ

らに伴う価格上昇等が生じる可能性があります。また、原材料等の調達リスクが顕在化することにより、製品・

サービスの供給が途絶する事態が生じ当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

<現在の対応策> 急激な需給の変動に適切に対応できるように調達先の多様化を図っていきます。また、供給

面においては、グローバルレベルでの最適なサプライチェーンを追求することでカントリーリスクを排除し、競争優位の維持及び安定供給体制を構築していきます。

(8)人事採用・確保と人材育成に関するリスク

<想定されるリスク> 当社グループは、生産・開発・販売、その他専門分野に携わる優秀な人材を幅広く採用・育成することで、グローバルな事業活動の推進と競争力の維持向上を図っています。しかしながら、人材の獲得競争の激化や社員の退職等によって十分な人材の確保・育成ができなかった場合、競争力の低下に繋がる可能性があります。また、当社グループの中長期的な成長は各従業員の能力に依存する部分が大きく、特に、高い技術力と技量を有する従業員の確保・技能の伝承は、当社グループの経営課題の一つです。このようなキーパーソンとなりうる人材を確保・育成できない場合には、当社グループの競争力が減退し、経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

<現在の対応策> 当社グループの経営戦略の実現に必要な人材を育成・強化、維持する「人材活躍の最大化」戦略を推進して、チームメンバーや協力企業などを巻き込み組織やプロジェクトを牽引する『中核人材』と事業の最前線において高度な技能・知識・経験をもって「技術の日機装」の根幹を支える『専門人材』の育成強化に計画的に取り組みます。また、人材活躍の最大化を目指し、チャレンジを促進する自由闊達な組織環境作りに努めます。当社の人材戦略の詳細は「2. サステナビリティに関する考え方及び取組 (5)人的資本」に記載しています。

(9)情報セキュリティに関するリスク

<想定されるリスク> 当社グループは、事業全般においてITシステムを活用していますが、システムに対するサイバー攻撃や、自然災害などの不測の事態によって、システムの長期間停止や、データ滅失が発生することで、安定した業務の継続が困難になる結果、当社グループが担う社会的使命を果たすことができず、グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

<現在の対応策> コンピューターウイルス対策などの外部攻撃から情報資産を防御するための技術的仕組みを導入し、サイバー攻撃によるシステム停止リスクを低減しています。ミッションクリティカルなITシステムは、立地、建造物、電源、空調等ファシリティに安全面の考慮と各種対策を施したデータセンターに設置された機器を用いて稼働しており、停電や自然災害によるシステム停止リスクを低減しています。業務上重要なシステムやデータは、遠隔地に設置されたバックアップ装置にコピーを保管し、機器の物理的破壊やプログラム・データの消失があっても、代替機を用意することで、システムやデータが復旧できるよう対策を講じています。

(10)コンプライアンスに関するリスク

<想定されるリスク> 当社グループの事業活動は地理的にますます拡大し、法規範や社会規範はさらに高度化し、複雑多岐にわたるうえ、社会の価値観は常に変化し続けます。当社グループは、国籍、人種、文化、信仰する宗教の異なる従業員で構成されています。当社グループの継続的なコンプライアンス活動の効果が及ばない場合には、これらのグループ内外の事情が当社グループの経営成績等や評価に悪影響を及ぼす可能性があります。

<現在の対応策> 当社グループが事業活動を展開する国、地域における法規範、社会規範を遵守し、社会の期待に応えること、多様な価値観を許容することは当社グループの企業価値向上にとってもっとも重要な課題であるとの認識のもと、日機装グループ・グローバル行動規範の制定、反贈収賄規程の制定、グローバルな内部通報制度の拡充、コンプライアンス教育の継続などコンプライアンスに関する具体的な活動を継続します。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)業績等の概要

① 財政状態及び経営成績の状況

 中期経営計画「Nikkiso 2025 フェーズ2」の初年度となる2023年の世界経済は、新型コロナウイルス感染症収束後の経済活動の正常化が進み景気回復への期待が高まったものの、ウクライナ情勢不安の長期化、世界的な物価高、米中の緊張状態等の地政学リスク、中国経済の回復の減速、円安の進行等で、先行き不透明な状況が続きました。

 インダストリアル事業の主要市場であるLNG、次世代エネルギー関連市場では、中長期的なエネルギー確保、低・脱炭素化の動きが本格化し、将来の設備投資需要につながっています。そのようななか、当期の低・脱炭素関連の売上収益は過去最大となりました。水素航空機向け液化水素ポンプの実液試験、火力発電向け液体アンモニア用ポンプ開発など次世代エネルギー関連の技術開発を強化しており、グローバルな生産体制の構築と併せて、脱炭素関連の事業ポートフォリオへの移行を推し進めています。航空機市場では、コロナ禍以降の需要減退によって壊滅状態となったサプライチェーンの再構築に時間を要してきましたが、2024年以降、航空機産業全体の生産量も本格的に回復すると見られています。ベトナム・ハノイ工場でのエアバス製小型機 A220向け新規部品の生産準備や次世代交通手段eVTOL、商業用小型人工衛星分野の取り組みなど、収益基盤安定化に向けた事業領域の拡大を進めています。メディカル事業の主要市場である血液透析市場では、国内需要は堅調に推移、海外は中国が引き続き好調に推移しました。米国市場進出に向けた血液透析装置の販売許認可取得の準備とともに業務効率化や血液回路の型式数削減による生産コスト低減など収益構造の立て直しを進めています。

 この結果、当連結会計年度の当社グループ業績は、受注高 198,501百万円(前年同期比3.3%減)、売上収益 192,629百万円(同8.8%増)、営業利益 5,885百万円(同82.8%減)、税引前利益 11,626百万円(同64.4%減)、親会社の所有者に帰属する当期利益 9,071百万円(同33.5%減)となりました。

 なお、2022年12月期の当社グループ業績には、2022年8月から連結対象外となったLEWA社及び Geveke社の業績及び株式譲渡益を含んでおり、それらを除くと、当連結会計年度の受注高、売上収益、営業利益は対前年同期比で大きく増加しています。

 

 事業セグメント別の事業環境と業績概況は次のとおりです。

事業

主要製品

2023年12月期の

事業・受注環境

2023年12月期の

業績概況

インダストリアル事業

産業用ポンプ・システム

・半導体関連の需要は減少するも、中東・アジアを中心とした化学プラント関連の需要が堅調に推移。

・生産数量の増加、原材料・部品価格上昇に対する製品値上げなどが奏功し増収、収益性は回復基調。

液化ガス・産業ガス関連機器・装置

・LNG市場は、エネルギー確保や低・脱炭素化に向けた需要が活況で、北米、欧州、アジア地域の液化・受入基地等の案件で活発な動きがあり、受注高は前年同期を上回る。

 

・水素、アンモニア等の次世代エネルギー関連市場は、実証実験投資含めた活発な動きが継続。

 

・前年は米国、韓国の水素ステーション向けの大型受注があり、受注高は前年同期を下回る。

主要プレイヤーであるClean Energy & Industrial Gas グループでは、

・韓国・中国におけるLNG燃料船向け燃料供給装置の生産を当第1四半期から開始、また水素ステーション事業の売上実現に伴い、売上収益は大きく増加。

 

・収益面では、人件費上昇、体制整備等の固定費増加に加え、原材料・部品価格の高騰や急激な受注に対応するための生産コストが増加するも、増収効果で収益性は改善。

精密機器

・半導体需要低迷の影響で電子部品市場は設備投資が減速、調整局面が続き、受注高は前年同期を下回る。

・前期の受注残遂行と価格適正化の取組みが奏功し、前年から増収・増益。

航空宇宙事業

民間航空機向け炭素繊維強化プラスチック(CFRP)成形品

・航空機需要の回復に伴い、航空機メーカーは機体の増産を進めている。増産にはコロナ禍で寸断した航空機産業全体のサプライチェーンの再構築が急務となっている。

・航空機産業のサプライチェーン再構築は想定より遅れてはいるものの、主力製品のカスケードをはじめ、ベトナム ハノイ工場で生産の中・大型機部品等の出荷も回復基調。

 

・原材料価格の高騰影響があるも、数量増と段階的な製品値上げによる採算性改善で、営業利益は黒字化。

メディカル事業

血液透析関連製品

・血液透析装置及び消耗品の国内需要は堅調

 

・海外では中国市場の引き合いが好調を継続。現地生産機種のラインアップを刷新し、自動化やモニタリング機能を強化。

・血液透析装置の国内販売は、原材料・部品調達が想定より早く改善、前年からの受注残も含めて生産・出荷が進み増収。海外販売は、中国、タイなどのアジア市場が牽引する形で増収。

 

・原材料・部品価格高騰影響は前年から一部継続するも、血液透析装置及び消耗品の販売増と販売価格の適正化による増収などにより大幅な増益。

CRRT(急性血液浄化療法)関連製品

・主力の中国市場での需要は堅調に推移しているものの、一時的に受注は減少。

・主力の中国市場の減収と装置の海外規制対応等の経費増加により減益。

 

② キャッシュ・フローの状況

 当連結会計年度の営業活動によるキャッシュ・フローは+14,245百万円となりました。これは主に税引前利益の計上、減価償却費及び償却費の計上並びに契約負債の増加による増加要因があった一方、営業債権及びその他の債権の増加、棚卸資産の増加による減少要因があったことによるものです。

 当連結会計年度の投資活動によるキャッシュ・フローは△9,225百万円となりました。有形固定資産の取得による支出が主な要因です。

 当連結会計年度の財務活動によるキャッシュ・フローは△14,551百万円となりました。借入金の返済による支出が借入による収入を上回ったことが主な要因です。

 これらの結果、現金及び現金同等物の当連結会計年度末残高は、前連結会計年度末に比べて16,158百万円減少し、32,304百万円となりました。

 

 

(2)生産、受注及び販売の実績

 

① 生産実績

 

 当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

生産高(百万円)

前年同期比(%)

工業部門

110,538

+19.1

医療部門

58,404

+88.4

合計

168,942

+36.5

(注)1.セグメント間取引については、相殺消去しています。

2.金額は、販売価格によっています。

 

② 受注実績

 

 当連結会計年度における受注実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

受注高(百万円)

前年同期比(%)

受注残高(百万円)

前年同期比(%)

工業部門

116,331

△8.0

94,362

+29.8

医療部門

82,170

+4.4

4,827

△26.0

合計

198,501

△3.3

99,189

+25.2

(注)1.セグメント間取引については、相殺消去しています。

 

③ 販売実績

 

 当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

販売高(百万円)

前年同期比(%)

工業部門

108,765

+6.8

医療部門

83,864

+11.5

合計

192,629

+8.8

(注)1.セグメント間取引については、相殺消去しています。

 

(3)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

 経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。

 

① 重要な会計方針及び見積もり

 本連結財務諸表の作成にあたって採用する重要な会計方針及び見積もりは、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記」をご参照ください。

 

② 財政状態

ⅰ)資産

 当連結会計年度末の資産合計は296,228百万円となり、前連結会計年度末に比べて9,626百万円増加しました。営業債権及びその他の債権、棚卸資産が増加したことが主な要因です。

ⅱ)負債

 当連結会計年度末の負債合計は169,940百万円となり、前連結会計年度末に比べ897百万円減少しました。借入金及び繰延税金負債は減少したものの、未払法人所得税等が増加したことが主な要因です。

ⅲ)資本

 当連結会計年度末の資本合計は126,288百万円となり、前連結会計年度末に比べて10,524百万円増加しました。利益剰余金の増加が主な要因です。

 

③ 経営成績

 当連結会計年度の経営成績の分析につきましては、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)業績等の概要 ① 財政状態及び経営成績の状況」に記載のとおりです。

 

④ キャッシュ・フローの状況

 当連結会計年度のキャッシュ・フローの状況の分析につきましては、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)業績等の概要 ② キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりです。

 

⑤ 資本の財源及び資金の流動性

ⅰ)資金需要

 当社グループの資金需要は、主として、設備新設、改修等に係る投資や、製品製造のための材料及び部品等の製造費用、販売費及び一般管理費等の運転資金です。

ⅱ)資金の源泉

 当社グループは、営業活動によるキャッシュ・フローによって得られた資金の活用及び、金融機関からの借入による資金調達を行っています。

ⅲ)流動性

 当社グループは、引き続き営業活動によるキャッシュ・フロー、金融機関からの借入による資金調達により、事業の拡大に必要な資金を確保できるものと考えています。

 当社グループの資金管理は、当社が国内子会社を対象とした資金集中管理を実施し、海外子会社も含めたグループ全体の資金効率の向上を図っています。

 

5【経営上の重要な契約等】

 該当事項はありません。

 

6【研究開発活動】

 当社グループは、各事業分野において、独創的な技術を駆使し、顧客ニーズに合わせた新製品、新技術のための研究、開発を積極的に行っています。

 工業分野では、インダストリアル事業において、LNG液化基地・受入基地向け大型ポンプの機能・効率向上や、電力、食品、半導体、空調など幅広い分野で使用されるキャンドモータポンプの各国規格対応モデルの開発に加え、燃料電池車向け水素ポンプや、発電所向けアンモニアポンプの開発など、将来のエネルギーシフトを見据えた開発を推進しています。また、再生医療や創薬に必要な機器・デバイスの製品化を目指し、細胞培養方法と細胞実験用ツールの開発及び腎前駆細胞を大量かつ高品質で培養できるシステムの研究開発も進めています。航空宇宙事業においては、民間航空機のジェットエンジン燃料の削減及びCO2削減に貢献する炭素繊維強化樹脂(CFRP)成形製品の新しい用途開発や独自開発・共同研究を通じた新材料(樹脂・繊維)・新製法の開発及び・製品化にも積極的に取り組んでいます。

 医療分野では、医療機関と患者様に貢献するため、今まで以上に安心・安全・確実な透析医療を提供できる製品の開発を推進しており、次世代の透析治療に対応するための基礎研究を進め、透析装置の機能向上、次期透析装置の開発に取り組んでいます。ヘルスケア事業においては、深紫外線LED技術を活用した製品など様々な社会ニーズに対応した製品開発に取り組んでいます。

 なお、当連結会計年度の研究開発費の総額は2,733百万円です。