第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)経営方針及び経営戦略等

当社グループでは、これまで受け継がれてきた「住友事業精神」を基盤に、2020年に「Our Philosophy」を制定し、グループ全社員が意思決定や行動の起点とするよう継続的に教育、浸透を図っております。

今後も、「Our Philosophy」を基盤として、企業価値の向上と持続可能な社会の発展に取り組んでまいります。

 

企業理念体系「Our Philosophy Purpose」

 

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2023年にスタートいたしました中期計画については、ターニングポイントとする2025年までに、既存事業の選択と集中、成長事業の基盤づくりを推進するとともに足元の業績回復にも注力し、中期計画財務目標の前倒し達成を図るべく、グループを挙げて取り組んでおります。

2023年は、中期計画の着実な実行に加え、足元の業績改善とキャッシュ創出に注力した結果、経営指標の良化につなげることができました。また、構造改革においても、2事業の目途付けを行うことができました。

今後も引き続き構造改革に着実に取り組むとともに、成長事業の基盤づくりとして、将来の成長への投資も追求してまいります。

 

中期計画の骨子

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2023年は中期計画で設定しておりました2027年目標に向けて、足元の業績改善として外部環境の追い風を取り込むとともに、値上げや構成改善、経費やコスト抑制に全社で注力した結果、利益向上につなげることができました。また、キャッシュ創出では、利益増に加え、2020年から取り組む全社での在庫圧縮、債権短縮などの効果や投資抑制により改善が進みました。その結果、中期計画の財務目標として掲げた経営指標につきまして、いずれも当初計画からは大幅良化につなげることができました。

引き続き、更なる改善を目指し中期計画を推進することで、2027年目標の前倒し達成を目指してまいります。

 

中期計画の財務数値目標と2023年実績

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また、当社グループは、「ESG経営の推進」として、「未来をひらくイノベーションで最高の安心とヨロコビをつくる。」という「Our Philosophy」の「Purpose(存在意義)」そのものである、気候変動や生物多様性、人権の尊重をはじめとする社会課題解決に積極的に取り組んでおります。

ESG経営を推進するにあたり、ESG担当役員を委員長、各部門担当役員を委員とする「サステナビリティ推進委員会」を年2回開催し、全社方針の徹底、重要課題の進捗確認等を実施しております。同委員会における経営層によるモニタリングやレビューを通じてサステナビリティの取組みを継続して強化し、持続的成長を支える強固な経営基盤を構築することで持続可能な社会の実現への貢献を目指してまいります。

 

[Environment(環境)]

当社の環境に対する取組みについては、「2.サステナビリティに関する考え方及び取組 (1)サステナビリティ全般」に記載のとおりであります。

 

[Social(社会)]

「多様な力をひとつに、共に成長し、変化をのりこえる会社になる。」という「Our Philosophy」の「Vision」のもと、多様な属性や価値観を持つ一人ひとりが尊重され、働きがいを持つことができる風土作りを進めております。なお、詳細については「2.サステナビリティに関する考え方及び取組 (2)人的資本」に記載のとおりであります。

 

[Governance(ガバナンス)]

当社のコーポレート・ガバナンス体制の概要は、「第4 提出会社の状況 4.コーポレート・ガバナンスの状況等」に記載のとおりであります。「Our Philosophy」を全ての企業活動の基盤とし、業務の執行状況について取締役会や監査役会で適宜監督を行うことで、変化の大きい社会情勢やグローバルな事業拡大等に適切に対応できる体制としております。

 

従来から実施していた取締役会の実効性評価は継続して実施しております。2023年も実効性向上に向けた種々の施策に取り組んだ結果、取締役会に付議される事案の数や内容の適切性、事務局のサポート体制等については高評価でしたが、取締役会構成の多様性確保、一部のテーマで議論が不足している等の課題も見えてきました。引き続き、取締役会の実効性を高め、更なる企業価値向上につなげてまいります。

 

2023年3月度の取締役会からは、社外取締役が取締役会議長を務めております。新たな視点に基づく問題提起や議事運営が行われており、取締役会における議論の活性化、実効性の向上にもつながっております。

 

また、社外取締役が委員長を務め、委員の過半数を社外役員とする指名・報酬委員会では、中長期的な視点で当社の取締役会運営に必要なスキルを落とし込んだスキルマトリックスを活用し、企業価値向上につながる役員体制や報酬設計について議論を行っております。今後も、取締役が中期計画達成に向けてグループ全体をさらに主導できる体制づくりを進めてまいります。

 

 

(2)経営環境及び対処すべき主な課題

今後の経営環境につきましては、世界的な金融引き締めや物価上昇、地政学的緊張などの様々なリスクはありますが、全体として緩やかな回復が期待されます。

このような情勢のもと、当社グループは、引き続き中期計画を着実に推進することで、「Our Philosophy」の具現化を図りつつ、企業の経済的価値・社会的価値向上を目指し、次のような課題に取り組んでまいります。

 

(タイヤ事業)

当社のタイヤ技術コンセプト「SMART TYRE CONCEPT(スマート・タイヤ・コンセプト)」を進化させた商品・サービスを順次市場に投入していくことで、将来のCASEの時代やサステナブルな社会に貢献してまいります。

中でも、アクティブトレッド技術やセンシングコアといった当社独自の技術で差別化を図りながら対応してまいります。

 

まず、アクティブトレッド技術は、様々な外部環境にシンクロし、性質がスイッチする当社独自のゴム技術で、2024年秋には、当該技術の一部を搭載したオールシーズンタイヤの新商品を発売予定です。当社では、従来のオールシーズンタイヤから性能向上したこの新商品を、主に関東以西の準降雪・非降雪地域において、天候に左右されずにより安心してご活用いただけるよう、販売に注力してまいります。また、将来的にはEV用タイヤなどにも搭載するべく、アクティブトレッド技術の更なる技術開発に取り組んでまいります。

 

車輪の回転速度からタイヤ周りの状態・状況を検知するセンシングコアは、将来のモビリティ社会に貢献できる当社独自の技術と考えており、本年から事業化を一部開始します。

また、従来からセンシングコアの事業化の一環として、米国ベンチャー企業である「Viaduct社」と提携し、車両故障予知の実証実験を開始しておりましたが、今般、同社に出資し、提携関係を強化しました。これにより、「Viaduct社」のAIを活用したタイヤ以外の自動車部品の車両故障予知ソリューションサービスと、当社のセンシングコアによるタイヤの状態把握を組み合わせた、車両全体の故障予知ソリューションサービスとして推進してまいります。

 

また、2024年1月に、タイヤ事業本部を新設しました。調達、技術、生産、物流、販売までタイヤ事業の組織運営を一体化することで、事業効率を向上させ損益改善につなげていくため運営、組織体制を見直したものです。

タイヤ事業本部では、すでに構築している開発・製造・販売・需給のグローバル体制を活用し一元的に管理することで、全体最適でのオペレーションをより追求してまいります。具体的には、タイヤサイズ数の削減、原材料費最適化、生産・物流最適化など、あらゆる面で効率化を図ってまいります。

販売面でも、各地域の販売動向や顧客ニーズを見極めたうえで優先度を決定し、スピード感をもって新技術・新商品を市場投入してまいります。本年は、北米において、市場で好評を得ているワイルドピークシリーズの新商品を発売し順調に販売をスタートしております。その他の地域におきましても、それぞれの地域特性、顧客ニーズに合致した商品ラインナップで拡販を図ってまいります。

 

(スポーツ事業)

スポーツ事業では、ゴルフおよびテニスの需要は総じて堅調に推移し、ウェルネス事業でも持ち直しの傾向が見られました。今後もスポーツ関連用品やサービスを通じて、お客様に感動と「ヨロコビ」を提供し続けてまいります。

ゴルフ用品では、世界最大市場である北米においてマーケティングおよび営業体制を強化するとともに、日米2拠点での開発体制により、市場ニーズに応じた他社と差別化した魅力のある商品を投入することで、一層の拡販と新たな価値創出につなげてまいります。

テニス用品では、全豪オープンのオフィシャルパートナー契約やATPツアーとのグローバルパートナーシップ契約の継続、世界有数のアカデミーとの協業等での若手育成およびトッププロ選手との契約強化といった「ダンロップ」ブランドの価値向上施策を基盤に、ボールやラケットのシェアアップを図ります。

ウェルネス事業では、アフターコロナで市場が緩やかに回復する中、不採算店舗の整理や運営の効率化を図りながら、サービス品質、顧客満足度の向上に一層努めてまいります。

 

(産業品他事業)

制振事業では、国内新築戸建住宅用制振ダンパーでシェアNo.1の技術をさらに進化させ、自動倉庫分野などへ事業領域を拡大し、引き続き地震に強いまちづくりに取り組むとともに、「令和6年能登半島地震」からの復興にも貢献してまいります。医療用ゴム製品事業では、当社独自の高付加価値ゴム製品で医薬品市場において事業を拡大することで、人々がより安心して、安全・快適に生活できる社会づくりに貢献してまいります。

今後も全ての商材において時代のニーズに適応する付加価値の高い商品を開発・提供することにより、更なる成長を目指してまいります。

 

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は次のとおりであります。なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)サステナビリティ全般

 当社グループの全ての事業活動には、住友400年の歴史のなかで受け継がれてきた「住友事業精神」が息づいています。当社グループではこの考えをベースに策定した企業理念体系「Our Philosophy」をあらゆる意思決定の拠り所とし、2050年を見越したサステナビリティ長期方針「はずむ未来チャレンジ2050」に基づいた持続可能な社会の実現に貢献する様々な活動を展開しています。

 「ESG経営の推進」は、当社のパーパス、すなわち「未来をひらくイノベーションで最高の安心とヨロコビをつくる。」という存在意義そのものであり、気候変動や生物多様性、人権の尊重をはじめとする社会課題解決に積極的に取り組んでいます。気候変動への対応についてはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に賛同を表明し、情報開示の拡充を行っています。生物多様性についてはTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の提言を採用する意思を表明し、TNFD Adopterに登録しています。人権の尊重については、2023年12月に「住友ゴムグループ人権方針」を策定しており、人権尊重の取り組みをより一層強化していきます。

 

①ガバナンス

 ESG経営を推進するにあたり、ESG担当役員を委員長、各部門担当役員を委員とする「サステナビリティ推進委員会」を年2回開催し、全社方針の徹底、重要課題の進捗確認等を実施しております。同委員会における経営層によるモニタリングやレビューを通じてサステナビリティの取組みを継続して強化し、持続的成長を支える強固な経営基盤を構築することで持続可能な社会の実現への貢献を目指しています。同委員会において審議・報告された事項は取締役会に報告されます。

 

 特に部門横断の組織で活動する必要のあるテーマについては、サステナビリティ推進委員会の承認のもと部会を設置しており、これらの部会をサステナビリティ推進WG(ワーキンググループ)と総称しています。各部会は主管部門と参画部門で構成され、活動の企画・推進やサステナビリティ推進委員会への報告、経営層への報告等を行います。

 

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②戦略

 当社グループは「ESG経営の推進」を中期計画のバリュードライバーの1つに設定し、事業を通じた社会課題の解決を基本戦略として取り組んでいます。

 また「サステナビリティビジョン」である「わたしたちは、多様な力をひとつに、環境や社会にやさしい製品・サービスを提供することで、持続可能で「GENKI※」な未来を創造します」のもとサステナビリティ長期方針「はずむ未来チャレンジ2050」を策定しています。E、S、Gそれぞれの領域で2050年を目標とした戦略・目標値を定めて活動を行っています。

※「GENKI」は、1988年に「みんなが元気になる活動」として開始した従業員による地域貢献・ボランティア活動プロジェクト「GENKI活動」が源流です。G、E、N、K、Iそれぞれに住友ゴムが目指すべき姿をテーマ付けしており、重要課題選定時にも活用しています。

GENKIは G :Governance E :Ecology N :Next K :Kindness I :Integrity の5つで構成しています。

 

(人権に関する取り組み)

 当社グループは、2023年に全グループ共通の人権に関する姿勢・考え方を明文化した「住友ゴムグループ人権方針」を策定し、社内外へコミットを行いました。2024年1月には、サステナビリティ推進委員会下のワーキンググループの一つとして「人権部会」を設立しました。各関係部門が参画し、全社で人権リスクに対し取り組める体制づくりを行っております。2024年は当該部会にて、グループ内の人権リスク特定を進め、人権デューディリジェンス実施のロードマップを作成していきます。2025年は取り組みをサプライヤーへ拡大し、バリューチェーン全体での人権尊重の取組みを目指します。実効性の高い人権マネジメント体制を構築し、人権デューディリジェンスを適切に実施することで、人権の保護・尊重を進めてまいります。

 

(TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への対応)

 気候変動問題は社会が直面する重要課題の一つと考えています。エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)や地球温暖化対策推進法(温対法)などの環境法令を支持し、創業以来培ってきた技術力を活かして温室効果ガスの削減などに積極的に取り組み、企業の社会的責任を果たしていきます。当社は2021年6月、TCFDへの賛同を表明しました。気候変動が事業に与えるリスクと機会の両面に関して、ガバナンス、戦略、リスク管理、目標と指標の4つの基礎項目に基づいて情報開示を進めています。詳細は「気候変動への対応(TCFD)」をご参照ください。

「気候変動への対応(TCFD)」ページ URL

https://www.srigroup.co.jp/sustainability/genki/ecology/04_5.html

 

(自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)への賛同)

 当社グループは、重要課題特定の過程で「生物多様性の保全」を解決すべき課題の1つとして認識し、取り組みを行っています。2023年9月のTNFD提言の公開を受けて、当社グループは2023年11月にTNFD Adopterに登録しました。当社は2024年度の会計年度に関してTNFDに沿った開示を実施することを表明しており、2024年の世界経済フォーラム年次総会においてEarly Adopterとして発表されました。自然関連課題に関する分析及び関連開示の充実に取り組んでまいります。詳細は「TNFDへの対応」をご参照ください。

「TNFDへの対応」ページ URL

https://www.srigroup.co.jp/sustainability/genki/ecology/TNFD/

 

(カーボンニュートラルに向けた取組み)

 当社グループの掲げる 2030年までのCO2排出削減目標について、科学的知見と整合した目標であるとして、SBTイニシアチブ※1よりSBT※2認定を受けました。SBT認定を受けた当社のCO2排出削減目標は次のとおりです。

区分

目標

スコープ1,2(自社の活動を通じた排出)

総排出量を55%削減(2017年比)

スコープ3(事業者の活動に関連する他社の排出)

カテゴリ1(購入した製品・サービス)

総排出量を25%削減(2021年比)

※1 CDP、国連グローバル・コンパクト(UNGC)、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)により設立された共同イニシアチブ。企業に対して科学的知見と整合した目標(SBT: Science-based target)を設定することを支援し、適合していると認められる企業に対してSBT認定を与えている。

※2 パリ協定に沿った科学的知見と整合した温室効果ガス排出削減目標

 

<スコープ1、2>

 当社グループのスコープ1、2において、2030年に2017年比でCO2半減、2050年にカーボンニュートラル達成を目標に掲げていましたが、各拠点の積極的な取り組みにより目標に対して前倒しで削減計画が進捗していることを受けて、2023年11月に目標値を2030年に55%削減(2017年比)に引き上げました。今後もさらに省エネルギーの推進、コージェネレーションシステムの拡大、太陽光発電の導入、水素への燃料転換等の取り組みの推進を継続し2050年カーボンニュートラル達成を目指してまいります。CO2排出量等の詳細データは「グローバル環境データ」をご参照ください。

「グローバル環境データ」ページ URL

https://www.srigroup.co.jp/sustainability/genki/ecology/04_4.html

 

<スコープ3>

 当社グループの温室効果ガス排出量はスコープ3が約9割を占めており、サプライチェーン全体におけるカーボンニュートラル達成のためにはスコープ3排出量の削減が重要な課題となります。そのため当社は2023年11月に、スコープ3排出量のほぼ全てをカバーした2030年目標を設定しました。「材料開発・調達」では、サステナブル原材料の活用等で2030年に排出量25%削減(2021年比)を、「物流」ではモーダルシフトの推進等で2030年に排出量10%削減(2021年比)を、「販売・使用」「回収・リサイクル」ではタイヤの転がり抵抗低減等をそれぞれ進める予定です。各プロセスで取り組みを推進することで、目標値の達成を目指してまいります。CO2排出量等の詳細データは「グローバル環境データ」をご参照ください。

「グローバル環境データ」ページ URL

https://www.srigroup.co.jp/sustainability/genki/ecology/04_4.html

 

 なお、上記の各プロセスは、温室効果ガス(GHG)プロトコルにおけるスコープ3カテゴリに対し、次のとおり相当します。

プロセス

材料開発・調達

物流

 販売・使用

回収・リサイクル

GHGプロトコルにおけるスコープ3

カテゴリ

カテゴリ1
(購入した製品・サービス)

カテゴリ4
(輸送、配送(上流))

カテゴリ11
(販売した製品の使用)

カテゴリ12
(販売した製品の廃棄)

 

 

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(サステナブル原材料の取組み)

 当社は環境に関する取り組みの一環として、当社独自の循環型ビジネス(サーキュラーエコノミー)構想である「TOWANOWA」を策定しました。バリューチェーンの「材料開発・調達」プロセスにおいて、CO2削減と持続可能な調達の実現を目指し、2030年に製造するタイヤのサステナブル原材料比率を40%に、2050年には100%サステナブルタイヤを実現することを目標としています。

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③リスク管理

 当社グループの事業活動に重大な影響を及ぼす恐れのあるサステナビリティ関連リスクを含めた全ての経営リスクについては、当社グループ全体のリスク管理について定めるリスク管理規定に基づき、それぞれの担当部署及び各子会社において事前にリスク分析、対応策を検討し、当社の経営会議等で審議しています。当社グループ横断的なリスクについては、当社管理部門の各部が、それぞれの所管業務に応じ関連部署及び各子会社と連携しながら、グループ全社としての対応を行います。リスク管理委員会は、住友ゴムグループ全体のリスク管理活動を統括し、リスク管理体制が有効に機能しているか適宜調査・確認します。また当社及びグローバルサプライチェーンにおける、社会や環境に与える負荷を低減していくために特に重要と考えるテーマについてはサステナビリティ推進委員会により経営層によるモニタリング・レビューを行い、取締役会に報告されています。

 

④指標及び目標

 当社グループはサステナビリティ長期方針「はずむ未来チャレンジ2050」で設定したカーボンニュートラル及び製品のサステナブル原材料比率100%達成を目指して活動を推進しています。

 またそのほかの重要な指標についても当社ウェブサイトに公開しています。

https://www.srigroup.co.jp/sustainability/search_index.html

項 目

2030年目標

2050年目標

カーボンニュートラルに向けた取組み

スコープ1、2

55%削減(2017年比)

カーボンニュートラル達成

スコープ3

カテゴリ1:25%削減

カテゴリ4:10%削減

(共に2021年比)

サステナブル原材料※比率向上に

向けた取組み

40%

100%

※サステナブル原材料とは例えば生物由来原材料やリサイクル原材料など、持続可能なリソースからなる原材料を指します。

 

(2)人的資本

 当社は、これまでも様々な技術革新から世界初・日本初の製品を生み出してきました。主力ビジネスでもあるタイヤ事業においては以前よりシミュレーション技術を駆使して開発したタイヤを「デジタイヤ」として数々市場に送り出してきました。2015年からはスーパーコンピューターを駆使して分子レベルで内部構造や分子運動を解析できるようになった「ADVANCED 4D NANO DESIGN」を活用した開発を手掛けてきました。これらからも分かるように当社においてデジタル技術はイノベーションを創出するために必要不可欠なものでした。これらの技術力や先進性は当社の基盤であり、タイヤ事業のみならずスポーツ事業・産業品事業・データビジネスの全ての分野で価値を生み出す源泉となっています。2020年に公表したOur Philosophyは、住友の事業精神をベースとしながら、当社のPurpose「未来をひらくイノベーションで最高の安心とヨロコビをつくる。」を起点とした企業理念体系となっています。この体現のため、Visionとして組織としてのありたい姿「多様な力をひとつに、共に成長し、変化をのりこえる会社になる。」を実現すべく人的資本経営を進めています。多様な人材が総力を結集し、社員一人ひとりが持つ強みを活かして価値を生み出すことで、これからの新しい時代にもイノベーションを通じて最高の安心とヨロコビをステークホルダーの皆様に提供することができると確信しています。

 2023年に発表した中期経営計画で、2025年までは基盤強化活動・基幹システム刷新・既存事業の集中と選択・成長事業の基盤づくりに注力をすることを説明しております。2025年以降は事業ポートフォリオの最適化・成長事業のビジネス拡大をすることで、事業利益率・ROE・D/E Ratio・ROIC等の経営指標についても改善し、企業価値の向上に取り組んでまいります。

 当社は全ての事業の基盤となる「ゴム技術」をはじめとし、当社独自の工法「太陽」をさらに進化させた「NEO-T01」にも代表される「モノづくり技術」、ゴムの分子レベルの解析を可能にした「Advanced 4D Nano Design」に加えて、「市場に対応した開発力」「総力を結集できる一体感のある組織」を競争優位の源泉と位置付けています。

 これら競争優位の源泉をさらに強固なものにし、持続可能な経営を実現するため、当社は以下を人的資本経営における重要戦略としています。

 

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①人的資本経営の考え方と戦略

(戦略1:経営人材の育成)

 変化の激しいVUCAな時代には、柔軟性と迅速な意思決定が求められます。そのため、不確実な状況下でも冷静に判断し、先見性を持って行動できる「経営人材」の育成が極めて重要です。あわせて、チームを効果的に率い、変化に柔軟に対応できるリーダーシップも必要不可欠となります。絶えず学び、自らを成長させることができる人材を育成できる仕組みを構築していきます。

 

(戦略2:イノベーション人材の育成)

 住友ゴムはゴム技術を基盤として社会に新しい価値を提供するイノベーションを起こしてきました。現在でも新しい技術として「Smart Tyre Concept」「水素エネルギーを活用したタイヤ製造」「高減衰ゴムを活用した制振技術」などを生み出し続けています。これからも新しい時代にイノベーションを起こし続けることができるよう、イノベーションに挑戦できる人材と風土を育てていきます。

 

(戦略3:DX人材の育成)

 デジタル技術を活用してビジネスモデルや業務プロセスを根本から変革し、より高度で効率的な意思決定や業務推進をすることが求められています。この変革を成功させるためには、デジタル技術の知識だけでなく、ビジネスに応用し、新たな価値を創出できる能力や変化に柔軟に対応し、組織内でのデジタル化推進のリーダーシップを発揮することが求められます。こうしたDX人材を育成し、定着し、活躍できる仕組みを作り上げていきます。

 

(戦略4:全社員の多様性とパフォーマンスの向上)

 Visionにもあるとおり、「多様な力をひとつに」することで組織としてのパフォーマンスが向上すると考えています。特に人の持つ属性の多様性を高めることは年齢、性別、国籍、雇用形態など様々な社員が集まることで、異なる視点やアイデアが生まれ、イノベーションが促進されると考えます。多様なチームは、幅広い解決策を生み出し、より柔軟で包括的なアプローチによる問題解決を行うことができます。一方で、多様性のみではなく個々人のパフォーマンスを高めることも重要です。Our Philosophyに共感し、目的をひとつにして、共に歩む人材が、エンゲージメント高く、心身共に健康で、高い知識・スキルや豊富な経験を身に着け、ステークホルダーの皆様に高い価値を提供できるような仕組みや風土を築き上げます。

 

②具体的取組みと目標・指標

(経営人材育成のための取り組み)

 イ.役員層へのエグゼクティブコーチング

 役員層のリーダーシップ向上と一枚岩化を目的として、社外のプロのエグゼクティブコーチを招き、執行役員以上(及び一部の海外ナショナルスタッフCEO)に対して定期的なコーチングを実施しています。月に一度、定例でのコーチングを実施して経営課題や組織課題についてのディスカッションを行っています。これに加えて、毎週エグゼクティブコーチから役員全員へリーダーシップに関するメールマガジンが配信され、それに対しての各々の回答を見ながらリーダーシップに関する認識を深めていくこととともに役員間での連携を強化しています。

 

 ロ.役員・管理職層及び課長代理へのリーダーシップ向上サイクル

 経営人材を育成するにあたり、リーダーシップは重要な要素となります。リーダーシップを向上させるために、知識のインプット・行動としてのアウトプット・他社からのフィードバックというサイクルを年単位で回しています。インプットとしてはリーダーシップやフォロワーシップやコミュニケーションについての研修も整備しており、e-Learningや通信教育に加えて、選択式のオンライン研修も受講することができます。そしてフィードバックとして、個人のリーダーシップの癖に関しては360度フィードバックを通じて客観的に自身の状態を見つめることができます。あわせて、組織の状態としては毎年実施している組織風土調査により自身の所属する組織の状態を計測しています。これらを通じて継続的にリーダーシップを向上し続けています。

 

 <実績と目標>

 組織体質アンケート「私の部署には、ミスやトラブルがあった際に感情的に叱責する人はいない。」

 (2023年度ポジティブ回答率69.2%、目標80%以上)

 

(イノベーション人材育成のための取り組み)

 イ.イノベーション人材育成プログラム

 イノベーションを作るためには仕組みや風土が大切なことは言わずもがなですが、生み出すための人材育成が重要な要素と考えています。2023年からイノベーション人材育成プログラムとして開始し、初年度は17名が参加しました。初年度は3つの大学にも企画から開催までの協力をいただき、アントレプレナーシップマインドの醸成のための講義から、グループ毎の最終プレゼンテーションの実施を2か月程度で集中的に実施をしました。

 

 ロ.スペシャリストコースの適用

 2021年に管理職の人事制度を従来の職能資格制度に基づく処遇体系からより仕事基準に移行し、新たに役割等級制度として開始をしました。それにあわせて、単線的であった管理職の制度をマネジメントコースとスペシャリストコースに分けて専門人材がより活躍できる枠組みの運用を始めています。今後、管理職以外への拡大についても検討しているところです。

 

 ハ.副業・兼業の規制緩和

 2023年には副業や兼業についての就業規則上の記載文言を変更し、副業・兼業を行いたい社員を後押ししています。社外の仕事に触れることで新たな視点を持って当社の業務にもあたることができるようになり、より効率的な働き方やイノベーションの創出に貢献するものと考えています。

 

 ニ.Challenge Awards Day

 毎年年末に年間の取り組みを表彰するイベントを実施しています。表彰としてはテクノサイエンス賞・BTC年間表彰・サステナビリティ表彰の3つの部門があります。

 テクノサイエンス賞として、次世代への創造の芽を生み出していく基礎研究・技術開発・設備開発・生産技術などにおける革新的な内容に対して表彰を行います。BTC(Be the Change)年間表彰としては、組織体質と利益基盤のいずれかもしくは双方において大きな改善があった内容に対して表彰を行います。サステナビリティ表彰は活動ガイドラインGENKI(G:Governance、E:Ecology、N:Next、K:Kindness、I:Integrity)の各部門において、サステナビリティビジョンである「わたしたちは、多様な力をひとつに、環境や社会にやさしい製品・サービスを提供することで、持続可能で「GENKI」な未来を創造します」において優秀な活動を表彰します。2023年度のテクノサイエンス賞の最優秀賞は「アクティブトレッド開発」が選ばれ実際のビジネスにおけるイノベーションとも大きく結びつく内容となっています。

 <実績>

  テクノサイエンス賞 最優秀賞1件、優秀賞6件

  BTC年間表彰 7件

  サステナビリティ表彰 最優秀賞2件、優秀賞4件、特別功労賞3件、奨励賞11件

 

(DX人材育成のための取り組み)

 イ.DX人材育成プログラム

 間接部門の全社員約3,500人を対象に2022年10月からDX人材育成研修プログラムを開始しました。全員が共通して持つべきスキルをDXリテラシーと定義すると共に、より高度なスキルを持つ人材をビジネスコア人材、プロ人材、データエンジニア人材と定義して育成しています。さまざまなDXの施策が具体化する2025年までに、人員の育成を完了させ、データに基づく意思決定や行動(データドリブン)が全社で可能となる土台づくりを進めています。2023年末時点ですでに2,220名が受講しており当初目標値を上回る育成を行うことができています。また、プロコースについてはProject-Based Learning(PBL、課題解決型学習)を行っており、学習しながら実際の職場の課題解決を進めるなど、知識の定着や職場の理解促進にも力を入れています。

 <実績と目標>

  DXリテラシー受講完了人数2023年末 2,220人(目標 2025年末 3,500人)

 

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 ロ.Tableauの活用

 当社ではデータの可視化により素早く・高度な意思決定を行う文化醸成のために広くセルフBIツールとしてTableauを2018年より本格導入しました。製造部門・SCM部門・販売部門・ソリューション部門など幅広く実際のビジネスにも活用しており、2023年に新たに導入した3拠点を合わせて、全世界14拠点に展開が完了しています。これにより各部門のデータリテラシーの向上を図り、高度な情報分析をできることとともに、データドリブンな人材育成を目指しています。

 

 ハ.RPA(Robotic Process Automation)ユーザー開発

 当社では定型的な事務作業の効率化を行い、より付加価値の高い業務にリソースシフトを図るため、RPAの活用を進めています。以前は担当者が入力していたデータ登録作業などを開発したRPAロボットで対応することにより、2023年末には取り組みを開始した2018年と比較して75,000時間以上の効率化を図ることができました。この結果には、IT部門が開発したRPAロボットのみならず、各部門の担当者が自ら開発(市民開発)したRPAロボットによる効率化が年間44,000時間以上含まれており、事務効率向上とあわせて社員のデジタルリテラシーの向上に寄与しています。

 

 ニ.Digital Innovation Day

 社内でDXを推し進めていくための重要な要素のひとつがコミュニティ(つながり)の存在であると考えています。コミュニティはナレッジを共有し、コミュニケーションを活性化させ、シナジーを生み出すことに寄与します。このつながりを作るために毎年Digital Innovation Dayとしてイベントを開催しています。各部門でのDXの取り組みや社外から講師を招いて最新の他社事例の共有などを行っています。(2023年は11月28日開催、参加者539人)

 

(全社員の多様性とパフォーマンス向上の取り組み)

 イ.ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の取り組み

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  a.アンコンシャスバイアス理解促進

 アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)は特に社員や求職者への公平な評価や成長機会の付与において影響を与えることになります。時にはD&Iを損なう原因になることもあります。アンコンシャスバイアスを取り除くことはできないと考えているため、自身のアンコンシャスバイアスに気付き、理解を深めるための取り組みを行っています。オンラインでのセミナー開催から始まり、社内報や食堂での動画配信など広く理解促進に努めています。

 

  b.女性活躍推進

 2019年にプロジェクトとしてスタートしたD&I活動は、2022年に人事部内に専任部署を設立しました。トップコミットメント発信をはじめ、アンコンシャスバイアスに関する教育、女性のキャリア形成を支援するメンター制度設立、育児や介護と仕事の両立支援など、各施策を急速に推し進めてきました。

 2023年は当社代表取締役社長の山本悟が「輝く女性の活躍を加速する男性リーダーの会」(事務局:内閣府)に参加し、全国各地の様々な業種の男性リーダーとのネットワークを深めており、当社におけるジェンダー平等と女性活躍の取組みをさらに加速していきます。

 特に女性管理職を拡大していくための施策としては、京都大学の女性エグゼクティブリーダー育成プログラムへの参画の機会を得たため、当社からは女性部長を2名派遣し、管理職比率向上とあわせて、次期経営層の育成にも取り組み始めました。

 また、自身のキャリアパスについて悩んでいる女性社員が向上心を持って社内でキャリアビジョンを描けるように2021年よりメンター制度を導入しています。メンターは半年間の研修期間を経て、メンティを受け持つことになりますが、すでにメンターは51人(2024年2月時点)に拡大しており、すでにメンタリングを受けたことのあるメンティも80人(2024年2月時点)になりました。

 社内のロールモデルだけではなく、企業の枠を越えて女性社員の悩みを共有したり、視野を広げたりする目的もあり、当社本社のある神戸地区の企業と協力して女性技術者向けの交流会を開催しました。2023年に開始した「神戸モノづくり企業 技術系女性交流会」は2024年2月に第二回目を迎え、3社及びその関係会社の女性エンジニアが96名参加する活況なイベントとなりました。

 女性管理職比率に関しては、2025年末に7%以上の目標を設定していますが、現時点で4.3%と到達のために解決しなければならない課題が多くあります。現在、両立支援に加えて、育成施策についてもスピードを上げて実行しています。

<社外からの認定等>

 ・女性活躍企業への認証「えるぼし認定(三つ星)」取得(2022年、厚生労働大臣)

 ・「ひょうご仕事と生活のバランス企業表彰」(2023年、兵庫県)

 ・「ひょうご・こうべ女性活躍推進企業(ミモザ企業)認定」(2023年、兵庫県・神戸市合同認定)

<実績と目標>

 女性管理職比2023年末 4.3%(目標 2025年末 7%)

 男性育休取得率2023年 84.8%(目標 2024年 100%)

 ※会社独自制度の利用含む

 

  c.障がい者活躍推進

 当社では従来、特例子会社である㈱SRIウィズにて障がい者を雇用し、主に当社の業務を委託することで人材の確保を行ってきました。昨今の法定雇用率水準の高まりにも表れるように企業における雇用責任も高まってきております。この状況下で、従来当社内で実施していた業務の再整理と標準化を進めることで、㈱SRIウィズに委託する業務の拡大を行うとともに、当社内においても管理部門を中心に雇用拡大を図っています。従来の採用方法を見直し、定期的に障がい者雇用を行う(2月、6月、10月入社)ことで支援機関やハローワークとも連携強化を図っています。

<実績と目標>

 障がい者雇用率2024年2月 2.54%(目標 2026年7月 2.70%以上)

 

 ロ.シニア人材活躍推進

 従来の再雇用制度においては、再雇用後の処遇は一律に引き下がるものでありましたが、2021年4月に管理職に仕事基準の役割等級制度を導入し、それに倣う形で翌年2022年から再雇用人材に対しても役割等級制度を導入しました。これにより、ラインマネジメントを継続して行っている人材や専門性を活かして活躍する人材に関しては定年退職前の水準と同程度の処遇で活躍する人材も出てきています。

 

  a.性的マイノリティへの理解促進

 性的指向や性自認に基づく差別を排除し、全ての人が尊重され、平等に扱われる社会を構築することは、個人の尊厳を守り、人々が自分らしく生きる権利を保障するために重要です。企業や組織においても、LGBTに対する理解と支援を深めることで、従業員の満足度やモチベーションを高め、創造性や生産性の向上につながります。

 当社としても以下のような取り組みで各社員の理解促進を図り、全ての人材が生き生きと働くことができる環境を整備していきました。

〇理解促進・啓発活動

 まずは全社員やグループ会社での理解が重要であるため、LGBTQ+に関する理解向上研修を実施いたしました。毎年6月には、プライド月間とし定期的にLGBTQ+について考える機会を設け、映画を使った勉強会を実施してきました。また、社外窓口として提携している「㈱アウト・ジャパン」が主催するAlly プロジェクトへの参画をすることで、他社との連携も強化しています。

 

〇環境づくり

 社内のAllyコミュニティを発足し、メンバー間での情報交換や社内への情報発信を行っております。あわせて、Allyステッカーの配布を行い社内で頻繁にAllyの可視化を行っています。また、LGBTQ+の理解促進ハンドブックを整備し、基本的な知識に加えて、人事担当向けの労務実務マニュアルを作成配布しています。

<社外からの認定等>

 ・「PRIDE指標2023」での「ゴールド認定」(2023年、任意団体work with Pride)

 

  b.多様な働き方を支援する仕組み

 コロナ禍において開始した在宅勤務制度を2022年12月に正式に制度化しました。在宅での勤務を併用することで、生産性の向上やプライベートとの両立をサポートしています。2023年4月には短時間勤務に関する規定を見直し、フルタイム勤務と時短勤務を柔軟に行き来できる制度へと変更しました。そのほか、時間単位での年次有給休暇の取得を年5日まで認めることや、契約社員等へ有給公休の拡大、フレックスタイム勤務制度利用推進等、多様な方が使いやすい仕組みづくりに取り組んでいます。

<社外からの認定等>

 ・「D&I AWARD」での最高位「ベストワークプレイス賞」認定取得(2023年 83点/100点、Job Rainbow)

 

 ハ.社員のパフォーマンス向上の取り組み

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  a.Our Philosophy浸透

 2020年にOur Philosophyを策定して以来、様々な方法で浸透を試みてきています。2021年からは毎年1回のオンライン研修を実施し、色々な角度から企業理念体系を意識し続けられるように仕組み化しています。評価制度に用いられている年1回の行動評価については、「住友ゴムWAY(住友ゴムグループ社員一人ひとりが大切にする価値観)」の3つの価値観である「信用と確実を旨としよう」「挑戦しよう」「お互いを尊重しよう」という考え方がベースになった項目により評価されます。また同様に360度フィードバックの設問についてもこれらが基盤となっており、フィードバックをする側も受ける側も常にどのような行動が求められるかを意識するようになっています。

 海外の事業所への浸透活動としては、イントラネット内に多言語対応しているOur Philosophy Book(解説書)を公開していることに加えて、本社の担当者が現地とのオンライン研修を通じて解説するワークショップを開くなどコミュニケーションを行っています。

 また、これらの取り組みがどのように浸透しているかということを毎年浸透度調査としてアンケートを実施しており、浸透度80%以上を目標として活動を進めています。

<実績と目標>

 Our Philosophy浸透度調査「共感」または「実践」 2023年 44.7%(目標 2030年度 80.0%)

 (Purpose、Vision、住友ゴムWAYそれぞれに関する自身の認識を聞く設問に対し、回答水準に応じ「認知」「理解」「共感」

  実践」の4段階で浸透度が高まるとしており、「共感」または「実践」のスコアをつけた割合)

 

  b.タレントマネジメント

 サステナブルな人材・組織のマネジメントを行うため、社内取締役で構成される人事委員会(2022年より開始)では部長級以上の人材配置について毎月議論を行っています。また、全社の主要ポストを特定し、ポストと人材を定量的に可視化することで人材プールを確保する取り組みを一部の部門を皮切りに実施しています。

 今後、経営戦略・部門戦略に連動した人材ポートフォリオを満たすように、段階的に全社に拡大していきデジタルツール(人事情報管理システム)を使い可視化することで、早期から計画的に経営人材を育成するプラットフォームが構築される計画です。

 

  c.キャリア支援

 キャリア支援施策として、キャリアマッチング制度・プロジェクト公募制度・交換留職制度の3つの支援施策を2021年より開始しています。キャリアマッチング制度は毎年1月と7月に社内通達されたタイミングで、社員が任意で自身の中長期的なキャリア志向をデータベースに登録することができます。登録されたデータは人事部内で確認された後、自身が所属する部門の担当役員と希望している職種がある部門の担当役員に情報が共有されます。その後、自身の上司とキャリアに関する面談を行い、場合によっては早期に人事異動につながるケースも出てきています。プロジェクト公募制度は、各部門にてプロジェクトを立ち上げたいもしくは増強したいが人員が不足している際などに、全社向けにメンバーの公募を行います。公募に対して立候補した社員を一定期間プロジェクト参加させることができる制度です。現在、大阪・関西万博の企画運営を行っている公益社団法人2025年日本国際博覧会協会から人材の募集があった際には社内で公募を行い、立候補した2名を同協会へ2022年より派遣しています。

 また、2023年からは人事総務本部人材組織開発部内にキャリア支援機能を追加し、キャリアコンサルタントの有資格者が社員のキャリア相談を受ける体制を構築しています。

<実績と目標>

 組織体質アンケート「私の直属の上司は、私のキャリア、成長について話を聴き、一緒に考えてくれている。」(2023年度ポジティブ回答率69.9%、目標80%以上)

 組織体質アンケート「私の直属の上司は、私の成長を考え、成長のための機会や高い目標を与えてくれている。」(2023年度ポジティブ回答率74.5%、目標80%以上)

 

  d.研修体系

 階層別研修としては、将来のありたい姿を描くことができるようなキャリアデザイン教育も取り入れており社員一人ひとりのキャリア自律を促しています。キャリアを描いた際には、将来のありたい姿と現状とのギャップを理解することになりますので、その実現に向けた能力開発として、選択型のスキルアップ研修やeラーニング、通信教育など、主体的に学ぶ機会を多く提供しています。また、リーダーシップ開発などの社員全体に必要な教育については広く実施し、組織内での共通言語化を図るとともに組織体質の向上に貢献しています。

 技能系社員については特に工場の生産現場で働く社員が多くいます。生産現場でより安全により品質の高いものをより生産性高く作っていくためには職長のマネジメント力が職場運営の鍵になります。監督職から上級監督職(職長の有資格者)に昇格する前には約1か月間の監督職能力向上研修を実施し、職長として必要なマネジメント力(考え方・知識等)を高めています。

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  e.組織風土向上とワークエンゲージメント

 2019年より組織体質強化のプロジェクトを進めており、4つの骨太方針「挑戦を後押しする環境」「部門・役職間の壁がなくオープンな職場」「一人ひとりがリーダーシップを発揮できる環境」「全社戦略とひもづいた生産性の高い仕事」の実現を目指し変革活動を進めています。組織体質アンケート等を通し定期的に全社の状況を把握し、組織風土改革に向けた各種施策に取り組んでいます。

 プロジェクト開始当初、組織風土の中に感じていた大きな課題は「挑戦を後押しする環境」「部門・役職間の壁がなくオープンな職場」「一人ひとりがリーダーシップを発揮できる環境」でしたが多くの取り組みを実施してきました。前述しているリーダーシップ向上の取り組みやキャリア支援の取り組みに加えて、以下のような取り組みも多く展開してきました。

 「さん付け」(役職呼び不要):従来、会話で呼ぶ際やメールでの記載について、原則として役職呼称をおこなっていましたが、フラットなコミュニケーションを目的として、さん付けでのコミュニケーションを原則としました。

 「1on1」:現時点で公式な制度化はしていませんが、上司部下のコミュニケーションが業務の進捗管理のみにならないよう、キャリアビジョンや雑談なども含めて幅広いコミュニケーションが必要であることを浸透しています。

 「いいねポスト」:普段、面と向かって感謝の気持ちを伝えにくい場合にもオンラインのポストに感謝の気持ちを投函することで数日後に対象者に感謝のメッセージがメールで届く仕組みです。

 そして、現在の大きな課題として残っているのが、生産性の高い業務遂行に関する内容です。特に間接業務について取捨選択し、さらに効率的な仕事の進め方を行わなければなりません。2024年1月に発足した業務改革準備室は、この課題解決も含めてさらに効率的かつ高度な間接業務を担うことになります。

 また、当社では毎年一度、ストレスチェックとあわせてワークエンゲージメントに関する内容も聴取しており、上記の組織体質向上を行うことで個々人のワークエンゲージメントの向上に取り組んでいます。

<実績と目標>

 組織体質アンケート「私の部署では、BadNewsFast/First(悪い情報を早く報告すること)が徹底できるようになっている。」(2023年度ポジティブ回答率83.2%、目標80%以上)

 組織体質アンケート「私の部署ではやめるべき業務を明確にして、断捨離の活動が進んでいる。」(2023年度ポジティブ回答率51.1%、目標80%以上)

 ストレスチェック関連設問:「仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる」(2023年度ポジティブ回答率33.5%)

 ストレスチェック関連設問:「自分の仕事に誇りを感じる」(2023年度ポジティブ回答率66.3%)

 

  f.健康経営の推進(心身の健康維持・増進)

   〇健康文化の醸成

 2022年7月に全社の「健康経営宣言」を改訂し、Our Philosophyに基づいた健康経営を実現するための宣言として発出し健康経営に力強く取り組んでおります。また、2022年には健康経営銘柄取得、2023年には7年連続ホワイト500(健康優良法人)認定をいただきました。

   <社外からの認定等>

    ・「健康経営銘柄」取得(2022年)

    ・「ホワイト500(健康優良法人)」認定(2023年、7年連続認定)

    ・「スポーツエールカンパニー2023」認定(2023年、スポーツ庁)

 

   〇メンタルヘルスケア

 社員の生産性とひとりひとりの幸せを向上させるためにもメンタルヘルスケアに取り組んでいます。毎年のストレスチェックを全社員向けにオンライン実施しており(回答率2023年度 89%)、集団分析結果をもとに産業保健スタッフが高ストレス職場にはヒアリングを行い、各職場で職場改善活動に取り組んでおります。また、個人のセルフケア能力を高めるためにセルフケアセミナーを毎年実施するとともに、管理監督者向けにラインケアセミナーを毎年実施しています。(オンラインセミナー実施と録画のオンデマンド配信)

 

   〇禁煙推進

 受動喫煙防止として、国内全事業所にて敷地内就業時間内全面禁煙を2024年1月から開始しました。また、就業時間外についても毎年の定期健康診断にて、喫煙率の問診を行っており、2025年度の喫煙率目標を30%未満と設定しています。2023年度時点では全社平均36.6%のため、禁煙治療補助の拡充と健康保険組合によるオンライン禁煙治療とニコチンパッチトライアル等の事業を実施しています。

<実績と目標>

 喫煙率実績2023年度 36.6%(目標 2025年度 30%未満)

 

   〇プレゼンティーイズム改善

 ストレスチェックと合わせてプレゼンティーイズム測定(WFun)を実施しています。個人の結果とともに事業所毎職場診断も行い、結果をフィードバックしており、各職場で改善活動に取り組んでいます。

 

  g.労働安全衛生の徹底

 当社グループは「労働災害ゼロ」を目指し、最も重要な要素と考えている「安全な人づくり」のために、階層別教育や体感教育を行い、技能と知識の習熟度を確認しながら定期的に安全衛生に対する教育活動を推進しています。

 2022年度に把握した各事業所の弱みを改善し続ける活動を展開するとともに、2023年度は各事業所の良い活動の情報展開を通じて改善活動を加速させてきました。

 また、安全衛生に関するリスクアセスメントを実施することで危険を排除し本質的に安全性を高める先取り型安全活動の推進も加速させ、前年の5倍の推進者を育成して危険源の排除を進めています。さらに現地現物を基本としながらもオンラインでのコミュニケーションを合わせて活用し、安全監査や管理監督者が現場作業者と寄り添う活動も積極的に実施しています。

 2023年度の安全目標は、「重大災害ゼロ」、「災害数を40件(2022年中計目標)」と設定し活動をしてきました。実績としては、重大災害は0件、災害数は56件となりました。

 いかなる状況でも安全ルールを守れる人づくり、お互いに影響し合える職場づくりを進め、安全文化を醸成して災害ゼロを目指します。

<社外からの認定等>

 ・国内外12工場にてISO45001認証取得(取得率44%(12/27工場))

<実績と目標>

 重大災害  0件(目標 2023年度ゼロ)

 災害数   56件(目標 2023年度40件)

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なお、<実績と目標>に記載しております指標は、「g.労働安全衛生の徹底」のみ当社グループ全体での数値となります。

 

 

3【事業等のリスク】

当社グループの事業活動に重大な影響を及ぼす恐れのある経営リスクについては、「リスク管理規定」に基づき、それぞれの担当部署及び各子会社において事前にリスク分析、対応策を検討し、経営会議等で審議しております。リスク分析・対応策の検討にあたっては、必要に応じて顧問弁護士等の専門家に助言・指導を求めております。経営リスクのうち、組織横断的リスクについては、当社管理部門の各部が、それぞれの所管業務に応じ関連部署と連携しながら、全社的対応を行っております。

また、「リスク管理規定」に基づき社長を委員長とする「リスク管理委員会」を設置しており、年2回開催する同委員会にて当社グループのリスク管理活動を統括し、リスク管理体制が有効に機能しているか適宜調査・確認しております。

当社グループにとって重大なリスクが顕在化し、又は顕在化が予想される場合には、「危機管理規定」に基づき、社長が危機管理本部を設置します。

このようなリスク管理体制のもと、グローバルに展開する当社の事業活動も考慮のうえ、当社グループの財政状態及び経営成績等に重要な影響を及ぼす可能性のある主要なリスクを次のとおり記載しております。ただし、当社グループに関する全てのリスクを網羅したものではなく、記載以外のリスクも存在し、投資家の判断に影響を及ぼす可能性があります。文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。当社グループは、これらのリスクを認識し、発生の回避及び発生した場合の対応に努める所存であります。

 

(政治経済情勢・需要変動・法律・規制等に係るリスク)

当社グループは、タイヤ事業、スポーツ事業及び産業品他事業を展開しております。各分野や各地域に特有の需要変動や、環境対応など顧客ニーズの変化、また、各国の政治情勢の影響を受けることがあります。海外における戦争、テロ、暴動、ストライキ等のリスクに対しては、リスクコンサルタント等の専門家や政府関係機関等より情報収集を行うとともに、有事の際には現地拠点の安全確認、現地情報の社内展開を行っております。さらに、アジア・大洋州、欧州・アフリカ、米州の各地域を統括する組織を設置し、必要に応じて弁護士やコンサルタント等の専門家と契約するなどして現地特有の法規制、商習慣、リスク等を踏まえ現地拠点の経営について協議する等、リスク管理の面からも各地域における関係会社の支援を行っております。

また、当社グループは、連結売上収益に占める、国内外の自動車用タイヤの割合が大きく、自動車産業の景況が悪化した場合、自動車用タイヤの需要減少や大口顧客との取引減少など、当社グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

技術開発・研究面でも、製品開発の遅延等により顧客への新製品納入遅れが生じた場合、販売減少、信用・評判の失墜、競争力低下など、当社グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、当社グループが運営する事業分野において革新技術が出現し、市場で普及した場合、当社製品の需要が減少するなど、当社グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

このほか、各市場において、輸入規制や関税率の引き上げ等により、売上が減少、もしくは原価率が悪化するリスク、各国の国内及び国際間取引に係る租税制度の変更や移転価格税制等により税金コストが増加するリスクなど各市場における法律・規制変更が当社グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(投資回収に係るリスク)

当社グループは、グローバルでの事業拡大に向け、成長領域や需要の拡大が見込まれる事業への設備投資及び事業の買収等の投資を行い、更なる企業価値の向上に努めております。

投資実行にあたっては、事業計画の策定、将来価値の測定について十分な検討を行っておりますが、投資判断時に想定していなかった水準で、市場環境や経営環境が悪化し、事業計画との乖離や、割引率、移転価格税制等の重要な仮定の変動によって、想定した回収可能価額が見込めない場合は減損損失が発生するなど、当社グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

また、当社グループ会社において経営環境の著しい悪化や収益状況の悪化等が将来にわたって見込まれる場合、当社が保有する関係会社株式や当社グループ会社への貸付金の評価に影響を及ぼすなど、当社の財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

なお、当連結会計年度末における、当社が買収により取得した主要な連結子会社は、Sumitomo Rubber South Africa (Pty) Limited、㈱ダンロップスポーツウェルネス、Lonstroff AG 、Sumitomo Rubber USA, LLC.及びMicheldever Group Ltd.となります。

※翌連結会計年度にLonstroff AG(LAG)及びLAGの100%子会社であるLonstroff Medical Elastomer d.o.o.(LSI)の支配を喪失することになりました。なお、LAGの株式の譲渡は、2024年1月31日に完了しており、本株式譲渡により、LSIも当社の子会社ではなくなります。

 

(製品の品質管理に係るリスク)

当社グループは、所定の品質基準に基づき、製品の品質確保に万全の対策を講じておりますが、製品の欠陥やクレームが発生する可能性があります。

当社グループは、欠陥が発生した場合又は裁判等により欠陥が認定された場合に備え、欠陥に起因する損害賠償等の諸費用に対する損害保険を付保しておりますが、保険で補償されない費用が発生する可能性があります。また、クレームに対する処理費並びに製品の回収・交換による費用が発生する可能性があります。これらの事態が発生した場合、当社グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、品質保証本部を中心に品質保証体制の強化や過去の不適切事案を教材としたケーススタディ研修、部門間・拠点間のコミュニケーション向上やグループガバナンスの強化につながる諸施策を継続的に進めております。引き続き、Our Philosophyに掲げる「信用と確実」の遵守を徹底し企業風土改革を推進するとともに、Bad News First/Fastも徹底していくことで、不適切な事案が再発しない体制づくりを進めてまいります。

 

(コンプライアンスに係るリスク)

当社グループは、グローバルに事業を遂行するにあたり、国内外の各種法令の適用を受けております。これらの法令に違反する行為、企業倫理に反する行為などにより、法令に基づく処罰、訴訟の提起及び信用・評判の失墜など、当社グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、「住友の事業精神」をベースに制定した「Our Philosophy」に基づき、コンプライアンスを基盤とした事業運営が実践できるよう取り組んでおります。組織としては、社長を委員長とする「企業倫理委員会」を設置し、年4回の委員会開催を通じ当社グループのコンプライアンス体制の強化を図っております。併せて、企業倫理ヘルプライン(相談窓口)として、社長直轄の「コンプライアンス相談室」を設置し、当社グループ内で問題が発見された場合には、相談者が不利益を被らないよう十分配慮したうえで、事実関係の調査を進める体制を整えております。また、必要に応じて顧問弁護士の助言を得るなど、適法性にも留意しております。さらに、コンプライアンスに関するべからず集である「企業行動基準」を作成し、国内従業員に配布するほか、英語版や当社グループが所在する地域のその他の言語版も作成し、毎年10月の法令遵守・企業倫理月間において浸透活動を行うなど、グローバルでのコンプライアンス強化を図っています。

 

(気候変動によるリスク)

 当社グループは、「TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)」に賛同し、気候変動に関するリスクと機会の分析を行い、事業戦略への影響を把握し、気候変動の緩和や適応につながる対策を検討しております。

 気候変動による当社グループの事業に及ぼすリスクとして、世界各国における気候変動に対する規制や制度の変化に伴い、当社グループの製造拠点におけるエネルギー転換などの費用増加、気温上昇に伴う台風や洪水、降水量の増加などの自然災害の激甚化による生産設備への損害など事業活動へのさまざまな影響が考えられます。その他、主要な原材料である天然ゴムの収穫不良による価格高騰をはじめとした原材料調達への影響、降雪量の減少によるスタッドレスタイヤの需要減少なども考えられ、当社グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 気候変動の緩和に貢献するため、当社グループは2050年までに自社事業のカーボンニュートラルの達成を目指すとともに、サプライチェーン全体のカーボンニュートラル実現に向けて、自社事業に伴う直接的なCO2排出および間接的なCO2排出を含む2030年の削減目標を設定しています。自社操業による燃料等の燃焼および電気の使用によるCO2排出(スコープ1および2)については2017年比55%の削減を目指します。また材料開発・調達(スコープ3 カテゴリ1)では、サステナブル原材料の活用およびサプライヤーエンゲージメントの強化などにより、2021年比25%の削減、そして物流(スコープ3 カテゴリ4)ではモーダルシフトの推進などにより、2021年比10%削減を目指します。また販売・使用(スコープ3 カテゴリ11)および回収・リサイクル(スコープ3 カテゴリ12)においてはCO2排出量の削減に貢献するために、タイヤの転がり抵抗低減、ロングライフ化、およびリトレッドタイヤの販売拡大などを進めます。

 気候変動による機会の獲得に向けては、CASE/MaaSの進展による次世代タイヤの需要増加、環境負荷低減を考慮したタイヤや低燃費タイヤの需要拡大など、気候変動が進展した場合に見込まれる商品需要へ備えていきます。そのうえで、気候変動が当社グループの事業に与える影響について、財務的評価を継続的に行い、気候変動の緩和と適応に取り組みます。

 詳細は、当社企業情報サイトの「TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への対応」(https://www.srigroup.co.jp/sustainability/genki/ecology/04_5.html)をご覧ください。

 

(原材料等の調達に係るリスク)

当社グループの製品の主要原材料は、天然ゴム、石油化学製品及び金属材料です。従いまして、天然ゴム価格、原油価格、鋼材価格等の商品市況価格が上昇すると、当社グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性がありますが、価格転嫁交渉等により財政状態及び経営成績への影響を最小化するよう取り組んでおります。原材料については、サプライヤーの倒産、自然災害、戦争、テロ、ストライキ、交通機能の障害等により、必要量の調達が困難となる可能性があるため、複数購買先の確保、供給に問題が発生した場合に備えた事業継続計画(BCP)策定、代替が効かない重要部材は備蓄を行う、サプライヤーとの対話によるリスク抽出等の対策を講じ、財政状態及び経営成績への影響を最小限にとどめるよう取り組んでおります。

 

(為替変動によるリスク)

為替の変動は、当社グループが輸出販売する製品の価格、購入する原材料の価格及び外貨建資産・負債の価値、外貨建財務諸表の邦貨換算等に影響を与えますが、日本円が他の通貨に対して円高になると、当社グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、当社グループは、連結売上収益に占める海外売上収益の割合が当連結会計年度で70.5%(国際会計基準(以下「IFRS」という。)での数値)となり、今後も当社グループの財政状態及び経営成績が為替変動により受ける影響は拡大する可能性があります。

このため、当社グループでは、為替予約や通貨ごとの輸出入のバランス化等により、為替変動によるリスクの軽減を図っておりますが、これにより当該リスクを完全に回避できるものではありません。

 

(災害時のリスク)

当社グループは、世界の広範な地域で事業を展開しており、それらの事業は自然災害、疾病、戦争、テロ等に直接又は間接の影響を受ける可能性があります。これらの事象が発生した場合、当社グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、阪神・淡路大震災や東日本大震災といった巨大地震、集中豪雨、大型台風等により被害を受けた経験を踏まえ、大規模自然災害が発生した際も重要業務を継続し、迅速な復旧を図るため、事業継続計画(BCP)の策定と、国内外の拠点で災害を想定しBCPに基づいて事業継続のために対応する実践訓練を行うなど、従来より対策を講じております。また、各事業所で地震、火災等を想定して防災避難訓練及び安否確認訓練を実施するなど、有事の際に被害を最小限に抑えるよう従業員の防災意識を高めるための活動を実施しております。

 

(産業事故等のリスク)

当社グループは、日本、アジア、欧州、米州等に製造拠点を有しており、各製造拠点において火災、爆発、有害物質の漏えい等の産業事故や環境汚染が発生し、工場の操業や地域社会に大きな影響を及ぼした場合、社会的信用の失墜、被災者への補償、復旧費用、生産活動停止による機会損失、顧客に対する補償など、当社グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、産業事故を予防するため、点検と対策を計画的に進め、産業事故の発生防止対策を実施しております。また、定期的に海外製造拠点を含め防災監査を実施し、防災対策の点検と評価を行い、各拠点の防災活動強化を図っております。環境面でも環境汚染防止のための設備対策やモニタリングを実施するなど、環境に配慮した事業運営を実施しております。

また、重要設備の停止による生産活動への影響を最小限に抑えるために、日常的及び定期的な設備保全を行う一方、老朽化更新を計画的に進めております。

 

(情報の流出によるリスク)

当社グループは、事業活動を通じて、営業秘密、ノウハウ、データ等の機密情報のほか、顧客情報や従業員の個人情報も保有しております。コンピューターウイルス感染や不正アクセスなどサイバー攻撃のほか、パソコン、スマートフォン等の情報端末の紛失など、故意、過失を問わず情報漏えいし、社会的信用の失墜、ブランドイメージの低下、技術開発情報漏えいによる競争力低下等により、当社グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。企業の情報管理の重要性が増している中、機密情報や個人情報等の秘密保持については、社内規定の整備と運用の徹底、情報機器へのセキュリティ対策などソフト面、ハード面での対策を実施し、リスクを最小化するよう取り組んでおります。

 

(金利の変動によるリスク)

当社グループは、有利子負債の削減を推進し財務体質の改善を図るとともに、資金調達手段の多様化や金利スワップ等により金利変動によるリスクを軽減するための対策を講じておりますが、金利が中長期的に上昇した場合、資金調達コストが上昇し、当社グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(保有有価証券の時価の下落によるリスク)

当社グループは、市場性のある株式を保有しております。このため全般的かつ大幅な株価下落が続いた場合、保有有価証券に減損又は評価損が発生し、当社グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(退職給付債務に係るリスク)

当社グループは、ポイント制の退職一時金、確定給付企業年金、確定拠出年金制度を導入しております。従業員の退職給付債務及び費用については、割引率等数理計算上で設定される前提条件や年金資産の長期期待運用収益率に基づき算出しております。結果が前提条件と異なる場合、又は前提条件が変更された場合、具体的には、株式や債券等の価格下落に伴う年金資産の時価減少や、長期金利の低下に伴う割引率の引き下げなどにより、当社グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

企業年金基金の年金資産運用にあたっては、代議員会・理事会などを設けて重要事項の審議、決定執行が行われ、外部の運用コンサルタント会社の助言なども仰ぎながら、定期的に「資産運用管理委員会」を開催するなど適切に管理運用を行っております。

 

(知的財産に係るリスク)

当社グループは、特許権、商標権等の知的財産権の取得により自社の知的財産権保護を行っておりますが、他社からの知的財産権侵害等により競争優位性が損なわれるなど当社グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

当社が開発する製品及び技術については当社が保有する知的財産権による保護に努めているほか、他社の知的財産権に対する侵害のないよう細心の注意を払い、リスク管理を徹底しております。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

①経営成績の状況

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減率

 

百万円

百万円

売上収益

1,098,664

1,177,399

7.2

 

タイヤ事業

939,941

1,006,381

7.1

 

スポーツ事業

116,597

126,647

8.6

 

産業品他事業

42,126

44,371

5.3

事業利益

21,963

77,670

253.6

 

タイヤ事業

12,311

63,572

416.4

 

スポーツ事業

8,943

12,482

39.6

 

産業品他事業

680

1,603

135.8

 

調整額

29

13

営業利益

14,988

64,490

330.3

親会社の所有者に

帰属する当期利益

9,415

37,048

293.5

(注)事業利益は、売上収益から売上原価、販売費及び一般管理費を控除して算出しております。

 

為替レートの前提

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減

1米ドル当たり

132

141

9

1ユーロ当たり

138

152

14

 

当期の世界経済は、インフレと金融引き締め策、ウクライナや中東における地政学的緊張などの影響があり、一部の地域において弱さがみられるものの持ち直してきています。我が国においても景気はこのところ一部に足踏みもみられますが、緩やかに回復している状況です。

当社グループを取り巻く情勢につきましては、海上輸送コストは高騰した前期と比較して大きく低下し、原材料価格高やエネルギーコスト高にも一服感がみられるようになってきたことで、前期と比較して利益状況は大幅に改善しました。そのような中、当社グループは2027年を目標年度とし策定した中期計画の実現に向けて経営基盤強化を目指す全社プロジェクトを強力に推進するとともに、顧客ニーズに対応した高機能商品を開発・増販するなど、競争力の強化にグループを挙げて取り組みました。

この結果、当社グループの連結業績は、売上収益は1,177,399百万円(前期比7.2%増)、事業利益は77,670百万円(前期比253.6%増)、営業利益は64,490百万円(前期比330.3%増)となり、税金費用を計上した後の最終的な親会社の所有者に帰属する当期利益は37,048百万円(前期比293.5%増)となりました。

 

セグメント別の経営成績は、次のとおりであります。

 

(タイヤ事業)

タイヤ事業の売上収益は、1,006,381百万円(前期比7.1%増)、事業利益は63,572百万円(前期比416.4%増)となりました。

国内新車用タイヤは、世界的な半導体不足による自動車メーカーの生産制約が下期以降徐々に解消され、前期より大きく増販することができました。

国内市販用タイヤは、冬タイヤの7月からの値上げの影響や暖冬で出荷が低調だったこともあり、前期から微減となりました。

海外新車用タイヤについては、中国やインドネシアでは減少となりましたが、欧米では増販でき、全体ではほぼ前年並みとなりました。

海外市販用タイヤは、アジア・大洋州地域において、中国での販売は新型コロナウイルス影響で大きく落ち込んだ前期を上回ったものの、市況低迷の影響を受け低水準にとどまっています。一方、インドネシア・アセアンにおいて市況悪化傾向が続いたことから販売が低調に推移するなど、前期を下回りました。米州地域においては、北米では低採算品の販売を計画的に抑制したこともあり前期を下回りましたが、主力のファルケンブランドにおいては市場で好評を得ているワイルドピークシリーズの販売が好調で前期を上回りました。南米においては海上運賃下落などを背景にマーケットに輸入品が増加しましたが、当社はほぼ計画通りの販売を行うことができ、前年並みとなりました。欧州地域においては長引くインフレにより消費者の購買力が低下しており、タイヤ交換率も低調に推移したことなどから前期を下回りました。

以上の結果、タイヤ事業の売上収益は前期を上回り、事業利益についても増益となりました。

 

(スポーツ事業)

スポーツ事業の売上収益は、126,647百万円(前期比8.6%増)、事業利益は12,482百万円(前期比39.6%増)となりました。

ゴルフ用品は、契約選手活躍の効果もあり北米・韓国などを中心に順調に販売を伸ばし、また23年12月に発売した13代目XXIOクラブが好調な滑り出しとなった結果、売上収益は前期を上回りました。

テニス用品は、物価高騰の影響などもあり販売数量は減少しましたが、海外での販売にかかる円安の影響もあり売上収益は前期並みとなりました。

ウェルネス事業では、値上げ効果や新規総合店の開店もあり、売上収益は前期を上回りました。

以上の結果、スポーツ事業の売上収益は前期を上回り、事業利益についても増益となりました。

 

(産業品他事業)

産業品他事業の売上収益は、44,371百万円(前期比5.3%増)、事業利益は1,603百万円(前期比135.8%増)となりました。

医療用ゴム製品事業の販売は国内外ともに堅調に推移し、インフラ事業も増収となりましたが、OA機器用ゴム部品事業は顧客の生産調整の影響で減収、生活用品事業も市況悪化による買い控え等、需要低迷により減収となりました。

以上の結果、産業品他事業の売上収益は前期を上回り、事業利益については増益となりました。

 

②財政状態の状況

 

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減

 

百万円

百万円

百万円

資産合計

1,225,202

1,266,732

41,530

資本合計

563,863

641,430

77,567

親会社の所有者に

帰属する持分

546,200

624,114

77,914

親会社所有者帰属

持分比率(%)

44.6

49.3

4.7

ROE(%)

1.8

6.3

4.5

ROA(%)

1.9

6.2

4.3

有利子負債

372,760

310,932

△61,828

D/E レシオ(倍)

0.7

0.5

△0.2

1株当たり親会社

所有者帰属持分

2,076円74銭

2,372円90銭

296円16銭

(注)ROAは連結ベースの事業利益に基づき算出しております。

 

当連結会計年度末の資産合計は、1,266,732百万円と前連結会計年度末に比べて41,530百万円増加しました。現金及び現金同等物などの増加などにより流動資産が820百万円増加しました。また、有形固定資産の取得及び為替換算影響などにより非流動資産は40,710百万円増加しました。

当連結会計年度末の負債合計は、625,302百万円と前連結会計年度末に比べて36,037百万円減少し、有利子負債残高は、310,932百万円と前連結会計年度末に比べて61,828百万円減少しました。

 当連結会計年度末の資本合計は641,430百万円と前連結会計年度末に比べて77,567百万円増加しました。うち親会社の所有者に帰属する持分は624,114百万円と前連結会計年度末に比べて77,914百万円増加しました。この結果、親会社所有者帰属持分比率は49.3%、1株当たり親会社所有者帰属持分は2,372円90銭となりました。

 

③キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、前連結会計年度末に比べ16,405百万円増加し、当連結会計年度末には90,251百万円となりました。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度における営業活動による資金の増加は、169,800百万円(前連結会計年度比141,931百万円の収入の増加)となりました。

これは主として、法人所得税の支払20,723百万円などの減少要因があったものの、税引前利益62,745百万円の計上、減価償却費及び償却費の計上78,559百万円などの増加要因によるものであります。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度における投資活動による資金の減少は、62,230百万円(前連結会計年度比16,467百万円の支出の減少)となりました。

これは主として、有形固定資産の取得による支出63,295百万円などによるものであります。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度における財務活動による資金の減少は、95,568百万円(前連結会計年度は41,556百万円の資金の増加)となりました。

これは主として、短期借入金、長期借入金及び社債の返済で70,584百万円減少したほか、配当金の支払5,264百万円、リース負債の返済16,847百万円を行ったことなどによるものであります。

 

 

(2)生産、受注及び販売の実績

①生産実績

 当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

金額(百万円)

前期比(%)

タイヤ事業

804,389

106.6%

スポーツ事業

68,469

114.7%

産業品他事業

38,870

101.2%

合計

911,728

106.9%

(注)金額は、販売価格によっております。

 

②受注実績

 当社グループの製品は、大部分が見込生産であり、ごく一部の製品(防舷材等)についてのみ受注生産を行っております。

 

③販売実績

 当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

金額(百万円)

前期比(%)

タイヤ事業

1,006,381

107.1%

スポーツ事業

126,647

108.6%

産業品他事業

44,371

105.3%

合計

1,177,399

107.2%

(注)セグメント間の取引については相殺消去しております。

 

 

(3)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 

①重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、IFRSに準拠して作成されております。

連結財務諸表の作成においては、連結会計年度末日における資産・負債の金額及び偶発債務の開示並びに連結会計年度における収益・費用の適正な計上を行うため、会計上の見積りや前提が必要となりますが、当社グループは、過去の実績、又は各状況下で最も合理的と判断される前提に基づき見積りを実施しております。ただし、見積り特有の不確実性が存在するため、実際の結果は見積りと異なる場合があります。

当社グループが採用している会計方針のうち重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 3.重要性がある会計方針」及び「第5 経理の状況 2 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項 重要な会計方針」に記載しております。

 

②当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

当社グループの中期計画における数値目標は「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (1)経営方針及び経営戦略等」に記載のとおりですが、当連結会計年度の経営成績に重要な影響を与えた主なものは、海上輸送コストや原材料価格の負担減と販売価格の改善であります。

主力のタイヤ事業において、当連結会計年度においては、海上輸送コストや原材料価格の低下や販売価格の値上げが増益要因となり、事業利益は前連結会計年度に比べ513億円の増益となりました。原材料面では、天然ゴム価格及び石油系原材料価格が低下し、増益要因となりました。販売面では、新車用タイヤでは半導体等不足の影響の緩和により自動車メーカーの生産が回復してきたことから販売数量は前連結会計年度を上回ったものの、市販用タイヤでは冬タイヤが暖冬などの影響を受けたため、販売数量が僅かに前連結会計年度を下回りました。そのほか、未実現利益などの影響を受けて数量・構成他は減益要因となりました。直接原価は人件費上昇やエネルギーコスト上昇の影響が大きく、また固定費での人件費増加や、経費ではDX推進費用が増加したことなどの影響によりそれぞれ減益要因となりました。為替については、円安傾向に推移したため、増益要因となりました。

この結果、前連結会計年度に対し、原材料で約171億円、販売価格で約254億円、海上運賃で約414億円、為替で約43億円がそれぞれ増益要因となったものの、数量・構成他で約191億円、直接原価で約85億円、固定費で約40億円、経費で約53億円の減益要因となりました。高機能商品の更なる拡販、海外工場における生産性の改善など、収益力の向上を目指して様々な対策に取り組んだことから、値上げ効果や海上運賃の下落によりタイヤ事業全体では前連結会計年度の事業利益を大幅に上回りました。

スポーツ事業及び産業品他事業の分析は「(1)経営成績等の状況の概要 ①経営成績の状況」に記載のとおりであります。

 

当連結会計年度 事業利益の増減要因

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以上の結果、売上収益は1,177,399百万円と前連結会計年度に比べ78,735百万円(7.2%)の増収、事業利益は77,670百万円と前連結会計年度に比べ55,707百万円(253.6%)の増益となり、事業利益率は前連結会計年度に比べ4.6ポイント上昇し、6.6%となりました。

その他の収益及び費用では、減損損失を計上したこと等により、前連結会計年度に比べ6,205百万円の減益となりました。

この結果、営業利益は64,490百万円と前連結会計年度に比べ49,502百万円(330.3%)の増益となり、営業利益率は前連結会計年度に比べ4.1ポイント上昇し、5.5%となりました。

金融収益及び費用では、前連結会計年度での為替差益が為替差損に転じたことにより、前連結会計年度に比べ9,250百万円の減益となりました。

以上の結果、税金費用を計上した後の最終的な親会社の所有者に帰属する当期利益は37,048百万円と前連結会計年度に比べ27,633百万円(293.5%)の増益となりました。

中期計画における目標達成に向けて、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (1)経営方針及び経営戦略等」に記載の施策に取り組んでまいります。

 

③キャッシュ・フローの状況の分析、資本の財源及び資金の流動性についての分析

キャッシュ・フローの分析は「(1)経営成績等の状況の概要 ③キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりでありますが、当連結会計年度において、営業活動によるキャッシュ・フローから投資活動によるキャッシュ・フローを差し引いたフリーキャッシュ・フローは107,570百万円のプラスとなり、「第4 提出会社の状況 3.配当政策」に記載の方針に基づき、配当金の支払5,264百万円を行いました。

今後、主に世界各地での増販に合わせた高機能タイヤの生産能力増強のための設備投資を引き続き行っていきますが、販売数量の増加と採算性の改善により営業活動によるキャッシュ・フローの拡大を実現しながら、必要に応じ金融市場や金融機関からの調達も活用するなど、「成長」と「流動性の確保並びに財務体質の向上」との両立を図りながら、2023年2月14日公表の中期計画で目標としているD/Eレシオ0.6の達成を目指す中で、当連結会計年度ではD/Eレシオ0.5を達成しました。なお、当社と国内子会社、当社と一部の海外子会社との間でCMS(キャッシュマネジメントシステム)による資金融通を行っており、当社グループ内での資金効率向上を図っております。

また、当連結会計年度末現在において、日本格付研究所(JCR)より「A+(長期)、J-1(短期)」の信用格付を取得しております。

 

5【経営上の重要な契約等】

該当事項はありません。

6【研究開発活動】

当社グループにおいては、当社の研究開発組織・施設を核として世界各地に所在する子会社・関連会社群との密接な連携のもと、タイヤ・スポーツ・産業品他事業、幅広い領域・分野で研究開発を推進しております。

なお、当連結会計年度の研究開発費の総額は、27,340百万円であります。

セグメント別の主要な研究開発活動は、次のとおりであります。

 

(1)タイヤ事業

当社グループのタイヤ技術研究開発は、神戸本社に隣接したタイヤテクニカルセンターを中心に、欧州・米国のテクニカルセンターと連携して「タイヤが地球環境の為に貢献できること」をテーマに、「低燃費性」「原材料」「省資源」の3つの方向性で環境配慮商品の開発に取り組んでおります。

また、当社はCASE/MaaSなどの自動車業界の変革に対応するためのタイヤ開発及び周辺サービス展開のコンセプトである「SMART TYRE CONCEPT」を掲げております。例えば、タイヤの摩耗、経年による性能低下を抑制し、新品時の性能を長く持続させる「性能持続技術」や、商品ライフサイクル全体で環境性能を高めて循環型社会の実現に寄与する「ライフサイクルアセスメント(LCA)」の考え方を採り入れた商品開発を推進するとともに、デジタルツールを用いて得られるさまざまなデータを利用した新たなソリューションサービスの展開を目指しております。

 

ソリューションサービスの分野では、当社はトラック配送などの車両管理にメンテナンス・保険・リースなどを組み合わせたトータルフリートマネジメントサービスの実現を加速すべく、AIを活用した車両故障予知ソリューションサービスを提供する米国のベンチャー企業であるViaduct Inc.(以下「Viaduct(バイアダクト)社」)と共同実証実験を開始しました。実証実験では、Viaduct社のAIを活用した車両故障予知ソリューションサービスと、当社の自動車の車輪速解析技術をベースとする独自のセンサーレスのセンシング技術「センシングコア」を組み合わせることで、タイヤに加え、エンジンやブレーキなどを含めた車両状況をリアルタイムで把握することを目指します。車両全体のモニタリングが可能になることで、走行時の安全性向上に繋がるとともに、車両の稼働率向上やメンテナンスコストの削減が期待できます。また、Viaduct社への出資を行ったことにより、戦略的パートナーシップをさらに強固なものとしました。両社の情報面・技術面での連携を通じて、より高度なトータル車両故障予知ソリューションサービスの展開を加速させます。

 

材料開発の分野では水や温度などの外部環境にシンクロしてゴムの性質がスイッチする独自の技術である「アクティブトレッド」を開発しました。当技術は、2023年10月に東京ビッグサイトで開催された「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」において初めてその詳細を公開しました。路面に接する唯一の部品であるタイヤが、ウエット路面や凍結路面など路面状況の変化に反応して、ゴムの性質がアクティブ(能動的)に変化することで、最適な性能を発揮し、安全・安心なドライブを続けることができます。2024年秋に「アクティブトレッド」技術を初めて搭載した次世代オールシーズンタイヤを発売することに加え、今後も「アクティブトレッド」の技術開発を進め、EVタイヤの性能向上や、自動運転での安全な走行を支えるタイヤの開発に活用していきます。さらに将来は、地域・季節に関わらず使い続けることができるタイヤを目指しています。タイヤの履き替えを減らすことで、地球環境負荷を低減してサステナブルな社会の実現にも貢献していきます。

また、DUNLOPブランドでバイオマスとリサイクル原材料を使用したサステナブル原材料比率76%のレースタイヤを開発しました。開発したタイヤは天然ゴムや天然由来の原材料の活用、またリサイクル鉄から再生した材料を使用することで従来のレースタイヤからサステナブル原材料の比率を高めたレースタイヤで、2023年12月にモビリティリゾートもてぎにて行われた「Honda Racing THANKS DAY 2023」のNSX-GT Last Raceに投入しました。今後は、DUNLOPがタイヤ供給を行うトップクラスから入門クラスまでの幅広いカテゴリーへの投入も視野に、更なる改良・チューニングを行うことで、サステナブルなモータースポーツの実現に貢献してまいります。

当社はサーキュラーエコノミー(循環経済)の実現に向けて、住友理工株式会社、住友電気工業株式会社と協業して、炭素回収・変換技術を有する米国のバイオ技術会社LanzaTech Global, Inc.(以下「ランザテック社」)とのリサイクル技術の開発に取り組みます。ランザテック社が有する「微生物による生合成技術」を活用し、タイヤなどの廃棄物をガス化・ガス精製した後、微生物による生合成反応を経て、新たにゴム原料となるイソプレンを生産することを目指し、最終的には、原料メーカーとの協業を進め、イソプレンを再び、ゴム・樹脂として利用するリサイクル技術の確立を見込んでいます。また、廃棄物をガス化する過程で回収した金属をリサイクルし、原材料として再利用することを検討していきます。当社独自の循環型ビジネス構想「TOWANOWA※1」で目指すカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーなど、サステナブルな社会の実現に向けた取り組みを加速させてまいります。

 

サステナブルな社会の実現は個社の取り組みだけで達成することは困難であり、業界内にとどまらず産学官の多くのステークホルダーとの連携が必要になります。当社は、今後も循環型ビジネス構想「TOWANOWA」の各プロセスの取り組みを加速させ、データ活用で社内の開発を効率化するとともに、外部のさまざまなステークホルダーとつながることで新しい情報や技術を共有して、社会課題の解決やサステナブルな社会の実現に貢献してまいります。

当事業に係る研究開発費は22,503百万円であります。

 ※1 「TOWANOWA」はタイヤ事業において効率的なモノの流れと資源の循環を目指す「企画・設計」、

    「材料開発・調達」、「生産・物流」、「販売・使用」、「回収・リサイクル」の5つのプロセス

    で構成された「サステナブルリング」と、「データリング」で構成されています。「データリン

    グ」は、バリューチェーン上の各プロセスから収集したビッグデータ、例えば原材料のデータやタ

    イヤの使用データなどを連携させ、シミュレーション技術、AI技術をさらに進化させる取り組みを

    指します。ビッグデータの収集には、当社独自のセンシング技術である「センシングコア」が活用

    されています。

 

(2)スポーツ事業

スポーツ事業本部並びに米国のRoger Cleveland Golf Company, Inc.に研究開発部門を設置しており、コンピューターシミュレーション技術等を用いて新技術・新商品の開発並びに評価、試験に取り組んでおります。兵庫県丹波市の「ゴルフ科学センター」では、スイングマシーンによるテストに加え、トッププロからアベレージゴルファーまでの様々な方のヒューマンテストを行い、クラブやボールの特性に加え、スイングとクラブの関係など、膨大なデータを集積し、総合的に測定・解析・評価を行っております。

これらの取り組みにより、ゴルフクラブでは13代目ゼクシオゴルフクラブ「ゼクシオ 13(サーティーン)」「ゼクシオ エックス」を開発し、2023年12月に発売しました。フェースの外周部の剛性をトウからヒールにかけて最適化することで高反発エリアを拡大、飛距離性能を向上させました。また、ダウンスイング時のヘッド挙動を安定させることで、ボールをより芯でとらえやすくなりました。

ゴルフボールでは、「スリクソン Z-STAR(ゼットスター)シリーズ」3機種を開発し、2023年2月に発売しました。ボールコア中心付近の硬度変化をより大きくし、ドライバーショットでの高初速化、アイアンショットでのスピン量増加を実現する一方、コア表面付近の硬度変化を緩やかにすることで、優れたアプローチショットスピン性能も同時に実現しています。また、ボール表面のコーティングについても配合を一新し、インパクト時のボールの滑りを抑制し、フェースに食いつくような打感を実現しました。3機種展開で、「スリクソン Z-STAR XV(エックスブイ)」ではドライバーでの飛距離を、「スリクソンZ-STAR」ではソフトなフィーリングとアプローチスピンを、「スリクソンZ-STAR ◆(ダイヤモンド)」は、ロング・ミドルアイアンでのスピン性能を優先するゴルファー向けに、それぞれ専用の技術を搭載しています。

テニスラケットでは、コントロール系テニスラケット「CX(シーエックス)」シリーズを開発し、商品化しました。従来よりも長方形に近いフレーム断面形状の採用とフェース部とフレーム部の剛性を調整することで、パワー・スピン性能を向上させながら、安定性とより柔らかな打球感を実現しました。なお、同シリーズの開発については、2023年10月に開設した「テニス科学センター」での解析・評価なども活用しております。

これらのほか、地球環境に配慮したサステナブルな取り組みとして、ゴルフボールでは植物由来のバイオマス素材を一部に使用し、現行モデルと同性能を実現した「スリクソン Z-STAR+e(ゼットスタープラスイー)」(非売品)を開発、発表しました。また、テニスボールでは、容器のふたやプラスチックラベルを紙化し、容器をリサイクルPET配合材に変更するなど、地球環境に配慮した開発にも積極的に取り組みました。

当事業に係る研究開発費は2,894百万円であります。

 

(3)産業品他事業

ハイブリッド事業本部では、高減衰ゴムを用いた制振部材、医療用ゴム製品、ヘルスケア用品等、安心・安全・快適をテーマとする事業活動に積極的に取り組んでおります。

制振事業では、地震対策用の制振ダンパーの製造・販売を通じて社会の安心・安全に貢献できるよう取り組んでおります。1月に発生した令和6年能登半島地震におきましても、被災されたお客様から当社の制振ダンパーの安全性に対し感謝のお言葉をいただくことができました。近年では全国展開の住宅事業者様での導入など普及が進んでおり、被災経験を持つ企業として、安心・安全の提供に一層努めてまいります。制振事業のみならず、カーボンニュートラル、プラスチック削減等、社会課題の解決を目指し、より安心・安全・快適な毎日の暮らしに貢献する商品の研究開発を行っていきます。

当事業に係る研究開発費は1,943百万円であります。