第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものです。

 

(1) 経営方針・経営戦略等

当社グループは、企業理念から導かれるVALUE、行動指針のもと、持続可能な社会を実現する「環境・エネルギーカンパニー」グループとして、ステークホルダーの皆様とともに企業価値をより向上させていきます。


 

当社グループは、「事業活動を通じて社会に貢献する」ことを使命とし常に変化しています。企業理念「挑戦と変革。地球と人びとの未来を創る。」のもと、ポートフォリオ変革による成長を目指し、戦略的事業領域を「モビリティ」「インフラストラクチャー&セーフティー」「ライフ&ヘルスケア」の3つに定め、無線・通信事業、マイクロデバイス事業及びブレーキ事業を柱として企業活動を展開しています。

 当社グループはこれまでもM&Aや事業譲渡を繰り返し、無線・通信事業、マイクロデバイス事業及びブレーキ事業を軸にした収益基盤の確立を目指してきましたが、収益性や利益の安定が課題でした。当社グループのPBRは1倍に満たず、株式市場の期待に応えられていない状況が続いてきました。

 PBR向上のためには、まず利益率を高め、そのうえで持続的成長を果たし、株主の皆様のご期待に応える必要があります。そのため、正しく儲けて、企業価値を高め、株主の皆様に評価いただけるよう、既存事業の利益向上に努め、M&A・事業譲渡といった手法も駆使しながら事業ポートフォリオの変革を進め、今後もビジネスモデルの転換により収益性の向上を目指していきます。

 当連結会計年度において当社グループは、TMDグループを譲渡し日立国際電気グループを取得しました。これにより、2024年12月期には、主力事業の無線・通信とマイクロデバイス両事業の売上高合計は連結全体の6割を超える見通しとなりました。このように当社グループの事業ポートフォリオがさらに大きく変化するタイミングを迎えたことから、2026年度を最終年度とする「中期経営計画2026」を当期決算と同日の2024年2月9日に発表しました。

 

 

日清紡グループの目指す姿

・当社グループは「事業活動を通じて社会に貢献すること」を使命とし、社会に貢献できる領域を軸に事業の組み換えを続けてきました。

・これからもグループの強みを活かしたソリューションを提供することで、社会課題の解決に貢献することを目指します。


 

(2) 中期経営計画2026について

 当社グループは、「事業活動を通じて社会に貢献すること」を使命とし、企業理念「挑戦と変革。地球と人びとの未来を創る。」のもと、「『環境・エネルギーカンパニー』グループとして超スマート社会を実現する」ことを事業方針に掲げています。

 気候変動への要請の高まり、人口動態の変化、デジタル社会の発展など中長期的な事業環境の変化や機会に対し、当社グループは、「つなげる技術で価値を創る(Connect Everything, Create Value)」姿を目指し、センシング・無線通信・情報処理技術で、社会課題へのソリューションを提供していきます。そのための重点施策として、「事業ポートフォリオ変革の追求」、「将来の成長に向けたビジネスモデル構築と経営資源の重点投入」、「経営基盤の更なる強化による経営リスクの低減」を掲げています。

 2023年には、無線・通信事業とブレーキ事業において大幅にポートフォリオを入れ替え、無線・通信、マイクロデバイス事業を核として、更なる成長を目指す姿勢を明確にしました。今後も「事業ポートフォリオ変革」を推し進め、無線・通信とマイクロデバイス事業においてM&Aを含めた成長投資を積極的に行います。併せて、企業理念との整合性や成長性、事業面・資本面の収益性を総合的に評価し、事業の見極めを加速していきます。

 自動車のxEV化や自動運転、船の自動運航といったモビリティの劇的変化に対応し、遠隔医療や見守りサービスを実現するのが無線・通信及びマイクロデバイスの世界です。まずは異常気象という目の前の課題に、防災無線やセンサネットワークを提供して災害から人びとの命を守ります。そして、AIと連携した通信システムで、環境問題にソリューションを提供していきます。さらに、レーダやGPS、超音波センサ、マイクロデバイスモジュールやユニット等、モノづくりで極めた技術や製品を活用しデジタルサービス事業へと領域拡大を進めます。

 こうした事業活動により、地球環境を守り・改善するサステナビリティ経営を推進することが、当社グループの持続的成長につながると考えます。そして、付加価値の総体としての利潤を増やすことで、顧客・株主・従業員・取引先・地域社会等、さまざまなステークホルダーの期待に応えてまいります。

 2030年に温室効果ガス排出量を50%削減(2014年比)し、2050年までにカーボンニュートラルを実現するという環境目標の達成に邁進すると同時に、イノベーションの源である多様性とイノベーションの加速装置であるDXにより、事業の変革と成長を目指します。また、遵法に止まらず、人としての倫理に基づき行動することを旨とし、粘り強く人権デューデリジェンスやD&I活動を推進し、事業の多様性・人の多様性・価値観の多様性を強みとして企業価値向上に取り組んでまいります。

 

 

 2026年度に達成を目指す経営目標および各事業の取組みや施策は以下のとおりです。

 

経営目標(財務)

 

指標

2026年度目標

成長性

売上高

5,800億円

収益性

営業利益

380億円

営業利益率

6.5%

効率性

ROE

10%

ROIC

6%

健全性

D/Eレシオ

0.7倍以下

株主還元

配当性向

40%

 

 

経営目標(非財務※)

 

項目

2024年度目標

人権

ビジネスと人権に関する取り組みの推進

人権方針の策定、人権リスクの高い分野への人権デューデリジェンスの導入・促進

環境

温室効果ガス排出量の削減

2014年度比35%以上削減

「持続可能な社会に貢献する製品」の拡販

売上に占める割合60%以上

 

人財

事業推進に必要な経営幹部候補の育成

経営幹部ポスト(執行役員以上)に占める後継者プログラム受講者率の向上

人員年齢構成是正のためのキャリア採用
強化

人員年齢構成是正のためのキャリア採用
強化

多様な人財の活躍推進

グローバルサーベイの継続実施

女性管理職比率6%

男性社員の育児休業取得率対象男性社員の30%以上

サプライ

チェーン

調達先と連携したサステナブル調達の改善実施

主要調達先(取引金額80%以上)へのサステナブル調達アンケート結果に伴う改善状況の評価100%

グローバル対応の実施

海外取引先、重要海外拠点におけるサプライチェーンへの展開方法検討と実施

 

※第5期サステナビリティ推進計画(2022~2024年度)における目標値

 

 

(3) 各事業の取組み・施策

無線・通信

●日本無線グループと日立国際電気グループ、それぞれの強み(5G関連の無線通信技術や画像認識技術等)を活かしたシナジー創出

●継続的なポートフォリオの見直しによる事業収益性の引き上げ

●コスト構造改革・棚卸資産削減を通じたキャッシュフロー創出力・収益性の向上

●JRCモビリティは、次のステージに向けて、コネクテッド、センシングシステム、モビリティインフラ等の成長分野に対する仕込み実施

マイクロデバイス

●アナログ半導体市場の成長を捉えた売上拡大の維持

●複合機能IC、モジュール等の高機能製品へのシフトを通じた収益向上

●音・におい・マイクロ波等の特色のあるセンサを活用したアナログソリューションデバイスの展開

●電子デバイスやマイクロ波の既存技術に加え、グループ内外の技術連携を通じて、将来に向けたユニット・デジタルビジネスを展開

ブレーキ

●環境規制に対応した銅フリー摩擦材の拡販

●xEV、CASEの要請に応える製品性能向上と高付加価値化

●中国拠点の統合を通じた合理化による採算改善

精密機器

●コア技術を活かし高付加価値製品に集中することで、より利益率の高い分野へのシフト

●自動車の自動運転化に向けた次世代モデル部品の生産能力の増強や、既存製品の高付加価値化による収益改善

化学品

●燃料電池用カーボンセパレータ向けの新工場建設や生産ライン自動化等、供給能力拡大に向けた投資を実施

●コア技術を活かして、安全性や環境負荷だけでなく、耐久性等にも優れる製品の研究・開発を継続

繊維

●防シワ性、デザイン性、着心地、機能性等の顧客への価値訴求を通じ、大手衣料品製造小売等の新規顧客を開拓

●シャツ再生プロジェクトを推進

●小売事業は、実店舗とECサイトの融合したOMOへのビジネスモデル転換

不動産

●計画的に保有資産を分譲(機動的な現金化)

 

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 

(1)ガバナンス

当社グループは、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1)コーポレート・ガバナンスの概要」に記載のコーポレート・ガバナンス体制及びリスク管理体制を構築しています。取締役会は、サステナビリティに関連するリスク及び機会についても、このコーポレート・ガバナンス体制の中で監視及び管理等の統制を行っています。

 

(2)戦略

当社グループでは2008年度より「CSR計画」を策定し、2016年度からKPIを定めて活動を進めてきました。また、2022年度からは「サステナビリティ推進計画」と名称を改め、社会と事業のサステナビリティの実現を目指し全従業員が目標達成に向けて活動しています。「第5期サステナビリティ推進計画(2022年度~2024年度)」では、第4期推進計画で設定していた目標20項目の達成度や実績をもとに計画内容とKPIを見直しました。さらに2023年度には、サステナビリティ経営を目指す当社グループの経営姿勢を社内外に示すため、活動をより推進する目標に改定しました。

 

①経営基盤強化(サステナビリティ全般)

2024年3月時点における経営基盤強化(サステナビリティ全般)に関する戦略は次のとおりです。

 


 


 

 

 


 

 


 

 

②気候変動対策

2024年3月時点における気候変動対策に関する戦略は次のとおりです。

 


 


 


(注)2023年度実績は集計中のため、2022年度実績を記載しています。

 

 

③人的資本・多様性への取組

2024年3月時点における人的資本・多様性への取組に関する戦略は次のとおりです。

 

人財育成

●経営幹部後継者の育成

経営幹部の後継者育成は、グループ共通のジョブグレードに基づいて各社の主要ポジションにおける後継者候補のリストを毎年作成するとともに、後継者候補者向けの研修を実施しています。具体的には、部長層以上には、経営層にふさわしいマインドを習得する経営マインド研鑽研修、経営知識・マインド・役割行動を習得する選抜型外部研修、事業創出力・突破力を習得する実践型ワークショップを実施しています。さらに2020年度より技術知識と経営能力を兼ね備えた経営人財を育成するために技術経営系専門職大学院(MOT)にも複数名派遣しています。現時点で、本プログラム受講者のうち50%以上が主要会社の執行役員以上のポストに就任しています。

 

優秀な人財の採用・定着

●優秀な人財の獲得および活躍促進

より多様なバックグランドを持つ人財集団の形成のため、また人員年齢構成是正のため、新卒に加えてキャリア採用を拡大しています(概ね新卒とキャリア採用を同数程度)。また、多様な価値観・職業観をもつ、より多くの社員が能力開発や新しい事業に自ら挑戦する機会を増やし、また入社・配属後のミスマッチを解消するため社内公募制度(ニューチャレンジシステム)をグループ横断で運用しています。

 

ダイバーシティ&インクルージョン

●グローバルサーベイを活用した職場環境づくり

当社グループでは、継続的に組織全体の状態を可視化し、結果を元に具体的な施策を実行しエンゲージメント向上に繋げるために、「グローバルサーベイ」調査を実施しています。調査結果については各グループ会社で説明会を開催し、各社の組織風土改善活動で活用しています。また、各社の活動はグループ横断の「サーベイ担当者会議」で共有し、グループ一体となって組織風土改善に取り組んでいます。

 

●ジェンダーギャップの解消(リーダー育成プログラム)

女性管理職比率向上のための施策として、2023年度は女性リーダー育成プログラムを開始し、今後管理職となることを期待される女性社員のマインドセットやスキルアップ、キャリアの要素を取り入れた社外講師による研修を実施しています。グループ間のネットワークづくりに加え、新たな気づきを得る機会となっています。また、女性の活躍推進の意義について理解を深めるための講演会も開催しています。

 

●自律的なキャリア形成のサポート

当社グループでは、環境変化を「機会」と捉え、様々な出会いや出来事をもとに前向きに学習し行動すること、また、キャリアの目標やイメージを明確にして主体的なキャリア形成ができるよう、各年代に応じたキャリア研修を実施しています。

 

●多様な働き方の実現

当社グループは、多様性を尊重し一人ひとりの持つ個性と能力を活かして生産性の向上、働き甲斐の実感につなげるよう働き方改革を推進しています。テレワーク制度、フレックス制度や時差出勤制度により柔軟な働き方が可能となる仕組みの運用・導入も進めています。

 

 

(3)リスク管理

当社グループのマテリアリティと関連する主要なリスクと機会及び対応は下表のとおりです。


(注)リスクの詳細は、「3 事業等のリスク」に記載のとおりです。

 

(4)指標及び目標

2024年3月時点における指標及び目標は次のとおりです。

 ①サステナビリティ全般及び気候変動対策

 以下a.第5期サステナビリティ推進計画の重点活動項目のうち、環境(E)環境経営の推進、社会(S)労働安全衛生活動の推進、社員の健康づくり、品質・顧客満足度向上、社会貢献活動の展開、ガバナンス(G)グループ企業理念の実践、コンプライアンスの徹底、内部統制の強化、リスクマネジメント活動の推進、情報セキュリティ対策の強化、サステナブル調達の推進、並びに以下b.温室効果ガス排出量が、サステナビリティ全般及び気候変動対策に関する指標及び目標です。

 ②人的資本・多様性への取組

 以下a.第5期サステナビリティ推進計画の重点活動項目のうち、社会(S)人権の尊重、人財獲得・育成、エンゲージメント、ダイバーシティの推進が、人的資本・多様性への取組に関する指標及び目標です。

 

 a.第5期サステナビリティ推進計画


 


 


 

 

 b.温室効果ガス排出量


(注)2023年度実績は集計中のため、2022年度実績を記載しています。

 

 

3 【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 

 (リスクマネジメント体制)

当社グループは、事業遂行上の経営リスクに対し適切に対応し経営リスク発生時の損失をミニマイズするために、下図のようにリスクマネジメント体制を定め運営しています。また、経営リスクを持続的成長のための「機会」とするべくさまざまな事業環境の変化を定常的に把握・分析し、グループ企業理念から導かれた事業方針のもと、「環境・エネルギーカンパニー」グループとして社会に貢献することで、新たな成長「機会」を創出していきます。


 

●リスク 〇機会

 

リスク・機会の内容

対応

気候変動

・炭素課税による原料調達コストや製造コスト増加

・納入先からの温室効果ガス削減要請対応に伴うエネルギーコストの増加

・洪水による物的損傷・休業損失の発生に伴うコスト増加

・TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に準じた気候変動シナリオ分析の実施

・温室効果ガス削減、省エネによる炭素税回避とエネルギーコストの削減

・洪水による物的損傷・休業損失の未然防止・緩和

・EV、新エネルギー車、スマートモビリティ、燃料電池関連製品の需要増

・省エネ対応の半導体、電子デバイス関連製品の売上拡大

・洪水リスクの増加による防災製品・サービスの需要増加

・TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に準じた気候変動シナリオ分析の実施

・EV関連製品の開発・製造の拡大

・省エネ関連製品(半導体、電子デバイス関連製品など)需要の取り込み

・防災用ミリ波レーダ水位計の開発・製造、防錆製品・サービス需要の取り込み

地政学的リスク

・地政学上のリスクが事業に与える影響

・カントリーリスクなどを考慮し、国/地域別の適切な投資レベルを決定

 

 

 

リスク・機会の内容

対応

製品市場・為替相場・原材料価格の変動など  

・景気変動による製品市場の需給バランスの変化

・原材料価格の乱高下が業績に与える影響

・為替変動が業績に与える影響

・製品/サービスに対する各国法規制の変更や制度改革などの影響

・属性の異なる多様な事業展開により、急激な外部環境の変化による業績への影響を軽減

・複数のサプライヤーとの信頼関係構築

・為替予約などにより為替変動リスクのミニマイズ化

・各国・地域の事業拠点によるリスク情報収集と経営層へのフィードバック

感染症

・新型コロナウイルスのような未知の感染症のパンデミックによる業績への影響

・緊急事態対策チームを組成、情報の集約と発信により適切な経営判断をサポート

グループ経営

・複数の事業を保有することによる経営資源の分散

・事業間での機能の重複

・社会課題の変化に応じ事業ポートフォリオを変革、キャッシュ・フローを改善

・グループを横断する組織再編やアウトソーシングなどにより効率化を推進

・グループ会社の管理部門をHDが統括、財務面の規律確立とともにグループ求心力を維持

・事業/組織の融合により、イノベーションや環境変化に対するレジリエンスなど多様性の有する強みを創出

M&A/大型投資

・M&Aあるいは大型投資計画の失敗

・M&A案件ごとにプロジェクトチームを組成し、PMI活動を強化。取締役会で投資効果を検証しつつ社内に知見を蓄積

・設備投資は予算承認と実行承認を分離、経営環境の変化に応じた実行でリスクヘッジ

・新たな経営資源の活用による持続的な成長機会の獲得

人財

・優秀な人財の採用と確保が困難になる

・RPAやIoTなどの活用により自動化、省力化推進

・企業認知度・好感度向上のための戦略的広報活動

・産学共同研究への人財/資金両面における寄与

・地域密着型の採用活動

・若年層に広まるESG志向と当社の企業理念は方向性一致、人財獲得の機会拡大

急速な技術革新

・技術革新による既存市場の急激な変化

・技術開発あるいは製品開発プランの進捗遅延による競争力低下

・経営陣が研究開発案件を定期的に検証し、継続/中止を適時判断

・多様な事業リソースの組み合わせによる革新的な技術開発、成長機会の獲得

・事業を横断した柔軟な人財配置による組織組成

・2020年4月、HDに「デジタルビジネス推進室」を設置、先端技術開発を推進

・他社やスタートアップ企業との協業

人権問題

・サプライチェーンを含めた人権問題の発生

・人権方針の策定、人権リスクの高い分野への人権デューデリジェンスの導入・促進

経営管理

・ガバナンスの形骸化

・2006年社外取締役制導入、2009年HD化、2017年顧問/相談役制度廃止など、先んじた取り組みにより経営の透明性と果敢なリスクテイクの高次元での両立を図る

・攻守の調和したガバナンスによるリスクテイク

 

 

 

リスク・機会の内容

対応

品質問題

・製品やサービスの品質問題や欠陥などによる信頼の低下、損害賠償請求やリコール発生

・リスクマネジメントシステムを活用し、リスクの発生確率と影響度をミニマイズ

・HDに品質保証グループを設置、グループ会社の品質保証や製品安全活動の状況を包括的に管理

情報セキュリティ

・個人情報や顧客情報、営業秘密の漏えい

・サイバー攻撃等による不正アクセスや改ざん、データの破壊、紛失、漏えいなどの被害等が発生した場合による事業への影響

・継続的な教育と運営状況の内部監査を毎年実施

・サイバーセキュリティ対策においては、多層防御を行いつつ、必要な対策を実施

コンプライアンス

・贈収賄、競争法違反をはじめとして法令違反や社会規範を逸脱した企業行動による信頼低下と企業価値の毀損

・HD社長から「正しく儲ける」ことの重要性を発信

・コンプライアンス教育を継続的に実施

・不正行為は厳罰をもって処分

・法曹界出身の社外取締役を招聘

不正/不法行為

・粉飾や不正経理操作など

・内部統制制度と倫理通報制度の両輪の運用により不正行為を防止

・定期的なローテーションによる不正行為の防止

労働災害

・グローバルに従業員の労働安全衛生管理が実現できないことによる事業への影響

・HDとグループ会社とが連携し、国内事業で培った労働安全衛生管理の手法をグローバルに展開

レピュテーション

・マスコミの誤報や風説の流布、ネット上の風説による事業への影響

・投資家のダイベストメントの対象に浮上

・リスクマネジメントの対象に位置付け定常的に監視

・主要なESG投資家やESGインデックスリサーチ会社と継続的に情報交換、動向を把握

政策保有株式/不動産

・時価の変動リスク

・政策保有株式は、コーポレートガバナンス・ポリシーに基づき継続的に縮減

・不動産は計画的に分譲

 

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」といいます。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 

(1)経営成績

当社は、当連結会計年度において、当社グループの事業ポートフォリオ戦略に沿って、ブレーキ事業の一翼を担っていたTMDグループを譲渡しました。これにより親会社株主に帰属する当期純損失を計上することになりましたが、自動車のxEV化の進展やブレーキ粉塵規制といったTMDグループが抱えることになった課題を考慮しての事業譲渡であり、ブレーキ事業の体質強化に向けた一施策でもあります。一方、当社の子会社である日清紡シンガポールと共同でHVJホールディングス㈱の発行する株式全てを取得したことにより、HVJホールディングス㈱の子会社である日立国際電気グループを連結子会社化しました。日立国際電気グループが得意とするAI画像認識技術・最先端の無線通信技術と日本無線グループが得意とする情報処理技術を組み合わせてトータルソリューションを提供することにより、SDGs等の社会課題解決に貢献してまいります。また、当社グループの海外拠点も活用しながらグローバルレベルでシナジーを追求し、無線・通信事業の収益基盤を強化し成長を加速させます。

こうしたカーブアウトやM&Aにより、2024年12月期には核とする無線・通信、マイクロデバイス事業の売上構成比率が60%を超えるなど、当社グループの事業ポートフォリオは更に大きく変化する見込みです。

 

なお、TMDグループの経営成績(損益計算書)は当連結会計年度の連結損益計算書に反映していますが、期末財政状態(貸借対照表)は譲渡に伴い当連結会計年度末の連結貸借対照表に反映していません。

また、HVJホールディングス㈱および日立国際電気グループの期末財政状態(貸借対照表)は当連結会計年度末の連結貸借対照表に反映していますが、経営成績(損益計算書)およびのれんの償却額は次期(2024年12月期)より連結損益計算書に反映する予定です。

 

当連結会計年度の当社グループの売上高は、マイクロデバイス事業は減収となりましたが、無線・通信事業やブレーキ事業が増収となったこと等により541,211百万円(前年同期比25,125百万円増、4.9%増)となりました。

営業利益は、ブレーキ事業の増益があった一方で、マイクロデバイス事業の減益等により12,453百万円(前年同期比2,981百万円減、19.3%減)となりました。

経常利益は15,785百万円(前年同期比4,611百万円減、22.6%減)となり、TMDグループ譲渡に伴い固定資産の減損損失および事業整理損を計上したこと等により親会社株主に帰属する当期純損失は20,045百万円(前年同期比39,785百万円悪化)となりました。

 

 

事業セグメントの業績は下記のとおりです。セグメント利益またはセグメント損失は営業利益または営業損失ベースの数値です。

 

(無線・通信事業)

ソリューション・特機事業は、防衛省向けレーダ装置は増加したものの、前年同期に大型案件があった県・市町村防災システムや航空・気象システムが減少したことに加え、河川の水位・雨量を監視する水・河川情報システムの更新需要の一巡等により減収・減益となりました。

マリンシステム事業は、期首から受注が好調に推移しており、商船新造船用機器や欧州河川市場向けワークボート用機器が増加していることに加え、円安も追い風となり増収・増益となりました。

モビリティ事業は、米国政府の補正予算執行に伴う需要増により海外業務用無線が大幅に増加したことに加え、新型レピータ装置や鉄道用次世代安全システムの開始もあり増収・黒字化となりました。

その結果、無線・通信事業全体では、売上高158,081百万円(前年同期比5.1%増)、セグメント利益4,745百万円(前年同期比1.6%減)となりました。

 

(マイクロデバイス事業)

主力の電子デバイス事業は、車載製品はEV充電用やセンサ、カーナビ関連が好調で価格転嫁も寄与し増加しましたが、産機製品はモータ制御やオフィス機器関連をはじめ全般的に低調だったことに加え、民生品(コンシューマ製品)は市況の回復遅れにより中国・アジア向けスマートフォン関連やPC関連を中心に大きく減少したことで減収・減益となりました。

マイクロ波事業は、センサ関連製品や電子管保守部品は堅調に推移したものの、米国向け船舶・地上固定局用の衛星通信関連や船舶用レーダコンポーネント関連製品が低調だったことにより減収・減益となりました。

その結果、マイクロデバイス事業全体では、売上高80,044百万円(前年同期比6.2%減)、セグメント利益934百万円(前年同期比89.6%減)となりました。

 

(ブレーキ事業)

日本の拠点や中国拠点は、カーメーカーの生産回復により増収・増益となりました。米国・韓国拠点も増収でしたが、原材料等の高騰は企業努力で吸収できる範囲を上回っており損失拡大となりました。タイ拠点は、新車販売が不振だった影響で減収・減益となりました。TMDグループは、アフターマーケット製品の受注が好調に推移したことで増収・黒字化となりました。

その結果、ブレーキ事業全体では、売上高178,541百万円(前年同期比16.2%増)、セグメント利益4,682百万円(前年同期比9,346百万円改善)となりました。

 

(精密機器事業)

精密部品事業は、インドに設立したCONTINENTAL社との合弁会社(NISSHINBO COMPREHENSIVE PRECISION MACHINING (GURGAON) PRIVATE LTD.)で立ち上げ準備費用等が発生したものの、中国拠点における自動車用EBS部品が好調だったことにより増収・増益となりました。成形品事業は、車載関連製品等は好調でしたが、空調関連製品が顧客の生産調整の影響を受けたこと等により減収・減益となりました。

その結果、精密機器事業全体では、売上高53,265百万円(前年同期比0.7%減)、セグメント利益1,328百万円(前年同期比71.1%増)となりました。

 

 

(化学品事業)

断熱製品は、硬質ブロック等は受注減ながらも、冷蔵冷凍設備・住宅用・土木用原液の受注増により前年同期並みの売上でしたが、原料価格等高騰の影響により減益となりました。燃料電池用カーボンセパレータは、海外定置用の受注減により減収・減益となり、機能化学品も、国内外の受注減により減収・減益となりました。

その結果、化学品事業全体では、売上高11,433百万円(前年同期比9.8%減)、セグメント利益801百万円(前年同期比63.3%減)となりました。

 

(繊維事業)

シャツ事業は、アポロコットシャツ等の超形態安定商品が好調に推移し増収でしたが、原料価格上昇等により減益となりました。東京シャツ㈱は、人流回復に伴い実店舗の販売が増加したことで増収・損失縮小となりました。ユニフォーム事業は、増収ながらも原料価格上昇等により減益となりました。開発素材事業は、受注減により減収・損失拡大となりました。

その結果、繊維事業全体では、売上高37,481百万円(前年同期比2.2%減)、セグメント損失420百万円(前年同期比519百万円悪化)となりました。

 

(不動産事業)

静岡県浜松市の宅地販売は減少しましたが、滋賀県東近江市のマンション販売やリノベーションマンション販売を実施したこと等により前年同期並みの売上・利益となりました。

その結果、不動産事業全体では、売上高11,263百万円(前年同期比0.8%増)、セグメント利益8,518百万円(前年同期比2.3%減)となりました。

 

(その他)

ニッシントーア・岩尾㈱(食品、産業資材等の商社機能)等の事業を、その他として区分しています。

その他の売上高は11,100百万円(前年同期比2.0%増)、セグメント利益は374百万円(前年同期比32.1%増)となりました。

 

生産、受注及び販売の実績は、次のとおりです。

①生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

金額(百万円)

前年同期比(%)

無線・通信

145,591

+2.5

マイクロデバイス

79,437

△11.2

ブレーキ

138,864

+8.0

精密機器

52,548

+2.3

化学品

8,389

+3.3

繊維

34,119

+0.4

その他

458

△2.9

合計

459,410

+1.2

 

(注) 1 金額は製造原価により算出しています。

2 不動産事業は生産活動を行っていないため、上記金額には含まれていません。

 

②受注状況

無線・通信事業、マイクロデバイス事業及び精密機器事業のうち、一部の製品において受注生産を行っています。当連結会計年度における受注実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。なお、精密機器事業については金額的重要性が乏しいため記載していません。

セグメントの名称

受注高(百万円)

前年同期比(%)

受注残高(百万円)

前年同期比(%)

無線・通信

219,210

+43.3

175,925

+65.8

マイクロデバイス

50,859

△51.2

27,233

△51.7

合計

270,070

+5.0

203,158

+25.0

 

(注) 当連結会計年度において、受注実績に著しい変動がありました。これは、無線・通信事業において、日立国際電気グループを連結の範囲に含めたことによります。また、マイクロデバイス事業において、産機製品や民生品の半導体需要の低迷を背景に、電子デバイス製品の受注が減少しました。需給のひっ迫が解消し、リードタイムが長期化していた製品の出荷が進み、受注残高も大幅に減少しました。

 

③販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

金額(百万円)

前年同期比(%)

無線・通信

158,081

+5.1

マイクロデバイス

80,044

△6.2

ブレーキ

178,541

+16.2

精密機器

53,265

△0.7

化学品

11,433

△9.8

繊維

37,481

△2.2

不動産

11,263

+0.8

その他

11,100

+2.0

合計

541,211

+4.9

 

(注)  主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合については、当該割合が総販売実績の10%未満のため記載を省略しています。

 

 

(2)財政状態

当連結会計年度末における総資産は672,217百万円となり、前連結会計年度末と比較し55,943百万円増加しました。

現金及び預金の増加7,330百万円、受取手形、売掛金及び契約資産の増加11,635百万円、棚卸資産の増加20,501百万円、有形固定資産の減少12,424百万円、投資有価証券の増加8,074百万円、退職給付に係る資産の増加6,596百万円、繰延税金資産の増加4,200百万円等が主な要因です。

 

当連結会計年度末における負債総額は395,638百万円となり、前連結会計年度末と比較し57,862百万円増加しました。

支払手形及び買掛金の減少6,330百万円、短期借入金の増加24,547百万円、長期借入金(1年内返済予定の長期借入金含む)の増加45,110百万円、退職給付に係る負債の減少3,723百万円、固定負債のその他の減少3,390百万円等が主な要因です。

 

当連結会計年度末における純資産は276,578百万円となり、前連結会計年度末と比較し1,919百万円減少しました。

利益剰余金の減少25,542百万円、その他有価証券評価差額金の増加7,221百万円、為替換算調整勘定の増加4,686百万円、非支配株主持分の増加11,264百万円等が主な要因です。

 

以上の結果、当連結会計年度末における自己資本比率は前連結会計年度末と比較して5.5ポイント低下して37.3%となりました。

 

(3)キャッシュ・フロー

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動の結果増加した現金及び現金同等物は23,512百万円となりました。これは主として、税金等調整前当期純損失△21,895百万円、減価償却費25,841百万円、減損損失29,704百万円、事業整理損8,723百万円、売上債権及び契約資産の増減額△4,759百万円、棚卸資産の増減額△5,776百万円、仕入債務の増減額△3,422百万円、法人税等の支払額△5,613百万円によるものです。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動の結果減少した現金及び現金同等物は46,512百万円となりました。これは主として、有形固定資産の取得による支出△25,291百万円、連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出△11,179百万円、連結の範囲の変更を伴う子会社株式の売却による支出△10,236百万円によるものです。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動の結果増加した現金及び現金同等物は25,387百万円となりました。これは主として、短期借入金の純増減額10,829百万円、長期借入れによる収入129,534百万円、長期借入金の返済による支出△105,706百万円、配当金の支払額△5,497百万円、その他△2,962百万円によるものです。

 

以上の結果、現金及び現金同等物の当連結会計年度末残高は49,918百万円と前連結会計年度末に比べ4,826百万円増加しました。

 

 

(参考) キャッシュ・フロー関連指標の推移 

 

2019年12月

2020年12月

2021年12月

2022年12月

2023年12月

自己資本比率

38.6%

39.4%

42.8%

42.8%

37.3%

時価ベースの自己資本比率

28.2%

21.5%

24.1%

24.8%

26.8%

債務償還年数

6.3年

3.5年

3.3年

7.5年

9.2年

インタレスト・カバレッジ・レシオ

23.1倍

37.6倍

34.5倍

12.1倍

4.7倍

 

(注)  自己資本比率:(純資産-新株予約権-非支配株主持分)/総資産

  時価ベ-スの自己資本比率:株式時価総額/総資産

  債務償還年数:有利子負債/営業キャッシュ・フロー

  インタレスト・カバレッジ・レシオ:営業キャッシュ・フロー/利払い

  ①各指標は、いずれも連結ベースの財務数値により算出しています。

  ②株式時価総額は、期末株価終値×期末発行済株式数(自己株式控除後)により算出しています。

  ③営業キャッシュ・フローは連結キャッシュ・フロ-計算書の営業活動によるキャッシュ・フローを使用しています。有利子負債は、連結貸借対照表に計上されている負債のうち、利子を支払っている全ての負債を対象にしています。また、利払いについては、連結キャッシュ・フロー計算書の利息の支払額を使用しています。

 

 

(4)資本の財源及び資金の流動性についての分析

①財務戦略

当社グループは、2027年度以降のビジネスモデル転換と高収益化の実現に向け、2026年度までを目指す姿の実現に向けた礎を築く期間と定義しました。その間、資本効率の最適化と戦略的な資本調達が可能となる財務の健全性の両立を目指し、営業キャッシュ・フローの範囲内での投資、株主還元を基本とし、目指す事業ポートフォリオ実現のための注力領域への投資を優先します。資本効率向上の観点から資産の圧縮を計画的に進め、資産売却によって得た資金は投資、株主還元の原資として活用します。また、D/Eレシオは0.7倍以下を目安とし、ROE10%及びROIC6%を目指します。

株主還元は、2026年度にかけて配当性向40%を目指し、利益成長を通じて配当水準の向上を図ります。1株当たり年間配当36円を下限に配当維持または増配を基本方針としながら、成長投資に必要な資金を確保しつつ、資本構成や中長期的なフリーキャッシュフローの見通し等から自己株式取得を機動的に判断します。

 

②資金調達の方針と流動性の分析

当社グループの運転資金や成長投資等の必要資金については、主として営業キャッシュ・フローを財源としていますが、必要に応じて有利子負債を効果的に活用し資本効率の向上を図っています。主に短期的な資金についてはコミットメントライン等の短期銀行借入やコマーシャル・ペーパーによる調達を、設備投資、M&A投資等の長期的な資金については、金融市場動向や長短バランスなどを総合的に勘案し、適宜長期銀行借入を組成しています。

また、当社グループは、ガバナンス強化と資金効率向上を目的として、グループ一体となった資金調達と資金管理を実施しており、当社と国内子会社間、また海外の一部地域の関係会社間でCMS(キャッシュ・マネジメント・システム)やグループローンによる資金融通を行ない、グループ内の流動性確保と資本コストの低減に努めています。

なお、当社グループは、気候変動による事業機会の取り込みおよびリスクへの適切な対応を重要な経営課題の一つと認識しています。当社グループが取り組む環境貢献に資する投資についてわかりやすく整理、訴求し、サステナブルファイナンスにも取り組みたいと考えています。

重要な資本的支出の予定及び資金の調達方法については、「第3 設備の状況 3 設備の新設、除却等の計画」に記載のとおりです。

資金の流動性については、当連結会計年度においても当社は主要銀行とのコミットメントライン契約を同額で維持し、30,000百万円で更改しました。その他、当座貸越枠、コマーシャル・ペーパーも引き続き十分な調達枠を維持しており、必要とされる流動性を確保しています

また、政策保有株式については、コーポレートガバナンス・ポリシーに基づき計画的に縮減していきますが、柔軟且つ機動的な売却の意思決定により、資金の流動性を補完することも可能です。

なお、当連結会計年度に連結子会社とした日立国際電気グループの買収資金については、主要銀行からのブリッジローンにより35,000百万円程度を調達しました。来期において長期調達へリファイナンスを行う予定です。

 

 

(5)重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されています。海外子会社については、IFRS(国際財務報告基準)及び米国会計基準に準拠して作成され、現地監査法人の監査を受けた上で必要な調整を反映させています。

 この連結財務諸表を作成するにあたって、資産、負債、収益及び費用の報告額に影響を及ぼす見積り及び仮定を用いていますが、これらの見積り及び仮定に基づく数値は実際の結果と異なる可能性があります。

 連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 1連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載しています。

 

(6)経営者の問題認識と今後の方針について

 「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおりです。

 

(7)次期の業績見通し

2024年12月期も、主力の無線・通信事業、マイクロデバイス事業を中心に経営資源を重点的に配分し、成長戦略を遂行します。

無線・通信事業では、安定した公共事業予算を背景にソリューション・特機事業が堅調に推移することに加え、日立国際電気グループが連結子会社となったこと等により大幅な増収・増益を見込んでいます。

マイクロデバイス事業では、車載製品が引き続き堅調に推移することに加え、2023年12月期に大きく減少したスマートフォンやPC関連などの民生製品の市況が下期から回復することを想定し、増収・増益を見込んでいます。

ブレーキ事業では、環境規制に対応した銅レス・銅フリー摩擦材の受注は引き続き堅調に推移しています。一方、TMDグループを事業譲渡したことにより、事業全体では大幅な減収・減益を見込んでいます。精密機器、化学品、繊維の各事業については、市場の成長や受注増による増収・増益を見込んでいます。

不動産事業では、保有資産の計画的な分譲を進めることにより、増収・増益を見込んでいます。

これらのことから、次期の連結業績見通しは、売上高513,000百万円、営業利益24,000百万円、経常利益26,000百万円、親会社株主に帰属する当期純利益19,000百万円となる見込みです。

なお、為替レートは通期平均で1米ドル=140円、1ユーロ=150円を前提としています。

 

 

5 【経営上の重要な契約等】

(1) 合弁会社設立に関する契約

契約会社名

契約の相手先

契約の内容

契約締結年月

提出会社

PT.WARGA DJAJA TRADING CORP.

(インドネシア)

帝人㈱               (日本)

綿及び合繊混素材を原料とする糸・織物の生産・販売を目的とする合弁会社 PT.NIKAWA TEXTILE INDUSTRY (インドネシア)の設立

2011年3月

CONTINENTAL AG

(ドイツ)

自動車用EBS(電子式ブレーキシステム)、ブレーキ全般(摩擦材・ドラムブレーキ及び大・中型商用車用ブレーキを除く)の研究開発、製造、販売を目的とする合弁会社コンチネンタル・オートモーティブ㈱(旧会社名コンチネンタル・テーベス㈱)の設立

2000年11月

CONTINENTAL AUTOMOTIVE HOLDING CO., LTD.

(中国)

自動車用EBS(電子式ブレーキシステム)の主要部品であるバルブブロックの製造・販売を目的とする合弁会社日清紡大陸精密機械(揚州)有限公司の設立

2013年11月

CONTINENTAL AUTOMOTIVE HOLDING NETHERLANDS B.V.

(オランダ)

自動車及び自動二輪車用EBS(電子式ブレーキシステム)の主要部品であるバルブブロックの製造・販売を目的とする合弁会社NISSHINBO COMPREHENSIVE
 PRECISION MACHINING(GURGAON) PRIVATE LTD.(インド)の設立

2022年2月

 

 

(2) 技術導入に関する契約

契約会社名

契約の相手先

契約の内容

対価

契約締結年月
(有効期間)

日本無線㈱

ULTRA ELECTRONICS FLIGHTLINE SYSTEMS INC.

(米国)

ソノブイ受信機のノウハウ及び製造販売実施権の許諾

売上の一定比率額

1988年12月

(2024年10月まで)

THALES COMMUNICAIONS & SECURITY SAS

(フランス)

電波高度計の製造販売実施権の

許諾

売上の一定比率額

1989年11月

(2024年3月まで)

日清紡マイクロデバイス㈱

TEXAS INSTRUMENTS INC.

(米国)

半導体装置に関する特許権並びに実用新案権の実施許諾

売上の一定比率額

2016年12月

(2026年3月まで)

㈱デンソー

(日本)

半導体装置等に関する特許権並びに技術提供等の実施許諾

一定額及び売上の一定比率額

2012年12月

(2024年12月まで)

ルネサスエレクトロニクス㈱

(日本)

半導体装置に関する特許権並びに実用新案権の実施許諾

一定額及び売上の一定比率額

2022年5月

(2028年3月まで)

 

 

 

(3) 技術供与に関する契約

契約会社名

契約の相手先

契約の内容

対価

契約締結年月
(有効期間)

日清紡
ブレーキ㈱

RANE BRAKE LINING LTD.

(インド)

ブレーキライニング、ディスクパッドの製造技術、原料配合及び製造設備技術情報に関するノウハウの提供

売上金額基準による技術指導料

2023年12月
(2024年12月)

 

 

(4) 株主間に関する契約

契約会社名

契約の相手先

契約の内容

契約締結年月

契約有効期間

提出会社

㈱日立製作所

(日本)

㈱日立国際電気の運営及び株主としての権利行使等

2023年5月

株主間契約に定める終了事由等の発生により契約が終了するまで

 

 

(5) ㈱日立国際電気の株式譲渡契約の締結

当社は、2023年5月31日開催の取締役会において、当社及び当社の連結子会社であるNISSHINBO SINGAPORE PTE. LTD.と共同で、HVJホールディングス㈱の発行する株式全てを取得し、HVJホールディングス㈱の子会社である日立国際電気グループも当社の連結子会社とすることについて決議し、2023年12月27日付けで株式譲渡契約を締結しました。

詳細は、「第5経理の状況 1連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項 (企業結合等関係) 1 取得による企業結合」に記載のとおりです。

 

 

6 【研究開発活動】

当社グループでは、“環境・エネルギー”を軸とし、「モビリティ」、「インフラストラクチャー&セーフティー」、「ライフ&ヘルスケア」に関わる3つの分野を戦略的事業領域に定め、これらの分野において高性能・高品質かつ競争力のある製品・技術の開発に力を注いでいます。そのために、グループ横断的な研究開発活動を行っており、無線・通信、マイクロデバイス、ブレーキ、化学品といった、多岐にわたる保有技術を融合してイノベーションを創出し、持続可能な社会へ資する新たなバリューを提供していきます。

当連結会計年度の研究開発費は27,301百万円であり、主な研究開発とその成果は次のとおりです。

 

(1)無線・通信

無線・通信事業では、コア技術である無線技術、通信ネットワーク技術、センシング技術を基盤にAI、IoT、クラウド、ローカル5G等の技術を加え、各分野のソリューション技術の研究開発に注力してきました。

モビリティ分野に関しては、船舶の自動運航及び陸上交通の安全に重点を置いた研究開発を行いました。船舶の自動運航に関しては、公益財団法人日本財団(以下、日本財団)が推進する無人運航船プロジェクトMEGURI2040の第2ステージに参加し、本格的な実用化に向けて船上システム・陸上システム・船陸間通信システムの開発に取り組んでいます。2023年10月には、船上システム単独機能で構成する自動運航システムの海上実証実験を既存RORO貨物船の営業航路となる日立港と釧路港間往復約1,600kmで実施し、営業運航の中で成功しました。陸上交通に関しては鉄道の安全運行に貢献する目的で、鉄道車両が屋内外の様々な環境で高精度な位置特定を実現するために、GNSS、ジャイロセンサ、レーダ速度計等を統合した測位アルゴリズムの研究開発を行いました。

インフラストラクチャー&セーフティー分野に関しては、防災減災を目的に高精細に観測が可能な気象レーダ、汎用性とコストに優れた水河川監視システム、セキュリティの強化と高効率な運用が可能な公共業務向けKu帯衛星通信システム等を開発しました。社会の安全とスマート化に向けては、空港内の航空機の位置を高頻度で把握し且つコストに優れたADS-B受信システム、遠隔監視が可能なテレビ中継放送機等を開発しました。また、ローカル5Gの活用拡大として課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証に、首都高速道路株式会社を代表機関とするコンソーシアムメンバーとして参加し、線状エリアに対応する狭帯域アンテナの開発及びフィールド評価を行いました。

ライフ&ヘルスケア分野に関しては、超音波センシング技術の高度化を進めています。血管内超音波装置では更なる高速スキャン及び高速プルバックを実現して経皮的冠動脈形成術の時間を短縮する技術を開発しました。また、排尿ケアに特化したワイヤレスプローブ、内視鏡用超音波振動子の微細加工と次世代振動子の実用化に向けた研究開発にも取り組んできました。

当セグメントに係る研究開発費は6,354百万円です。

 

(2)マイクロデバイス

マイクロデバイス事業では、電子デバイス製品やマイクロ波製品等の企画、設計から生産技術まで総合的な研究開発を行っています。

モビリティ分野に関しては、車両の状況に応じて省電力モードで動作する同期整流型スイッチングコントローラと、機器の状態を幅広い温度範囲で高精度かつ低消費でモニターするボルテージトラッカーの量産を開始しました。

インフラストラクチャー&セーフティー分野に関しては、様々な用途への搭載が進む小型モータ制御向けに、幅広い駆動電圧に対応し使いやすい三相DCブラシレスモータコントロールICの量産を開始しました。また、リアルタイムでの超音波モニタリングによって、生産設備の故障予兆検知を簡便に可能とする防水接触型アコースティックセンサーの量産を開始しました。これにより保全コスト削減や稼働停止回避に貢献します。海上やルーラルエリア(非都市圏)等、有線による通信インフラ構築が難しい地域・環境でニーズの高い衛星通信分野では、屋外設置送受信機の高周波化・高出力化を進め、高速化•大容量化といった社会の需要に対応しています。

ライフ&ヘルスケア分野に関しては、高音質を追求したデバイスのブランドである“MUSES(ミューズ)“の高音質化技術をベースに、性能とコストのバランスを最適化した高音質2回路入りオーディオ用オペアンプの量産を開始しました。また、マイクロ波・ミリ波センサでは引き続き水洗便座用センサユニットをより多くのラインアップや便座以外の用途に展開するための活動を継続しています。総務省のSCOPE案件に認定された、システム開発企業・大学との3者協業による危機管理型水位計プロジェクトは、2024年の製品化に向けて河川でのフィールドテストを実施しています。その他介護•見守りやセキュリティ・環境モニタ用途など幅広い用途向けの開発も進めています。

当セグメントに係る研究開発費は9,347百万円です。

 

(3)ブレーキ

ブレーキ事業では、モビリティ分野においてコスト競争力のある差別化商品の提供と技術力の強化を目標に掲げ、自動車用摩擦材の開発に取り組んでいます。

R&D機能では、重要保安部品としての高い信頼性を堅持し、銅規制等に対応した環境負荷物質を低減する製品の開発では、①xEV化で静粛性が高まる新世代車への適合における音・振動事象の撲滅、②効きの安定性、③摩耗粉塵の排出を抑制する優れた摩耗特性等、お客様ニーズへの対応に重点をおいて活動しています。開発した材質は、お客様にご好評を頂いており、国内外の数多くの車両プログラムへの適用が決まり、量産化が進捗しています。

開発シーンでは、従来のモノづくりと評価を主軸としたPDCAサイクルに加え、CAEによる摩擦のシミュレーションと、データマイニングを主体としたデータ駆動型研究開発を加えることにより、開発期間の短縮化、開発品の高性能化、省力化及び開発費の最小化=開発効率の最大化を目指しています。その実現を支えるためにデータサイエンティストを頂点とするデジタル人財の育成も重視し教育プログラムを実行しています。加えて、2050年にCO2排出量ゼロに向けて独自の目標を掲げ、材質および製造工程の研究開発への取り組みも開始しています。また、当社グループ内のコラボレーションにより車両の安全、自律運転を見据えた足廻りのセンシングに関するマーケティングと研究を推進しています

当セグメントに係る研究開発費は8,447百万円です。

 

(4)精密機器

精密機器事業では、新製品開発と上市の加速を重点取組みテーマと位置づけ開発活動を行っています。

モビリティ分野に関しては、射出成形技術、エレクトロニクス技術をベースにIMPC®(In-Mold Printed Circuit:立体配線成形技術)を合わせた配線機能一体型成形品の開発や、自動運転などの実現に貢献するセンサ関連の新製品開発を加速していきます。

ライフ&ヘルスケア分野に関しては、医療分野において、優れた生体適合性等の高機能を備えたスーパーエンプラ樹脂を用いた新製品をはじめ、予防・予後・再生医療に貢献する製品の開発・上市を進めます。家電・住設分野においては、快適な居住空間や省エネに向けた空調機器用ファンや高気密・高断熱窓枠等の開発に取り組んでいます。

なお、インフラストラクチャー&セーフティー分野に関しては、再生可能エネルギーや社会インフラの整備等持続可能な社会に向けた製品の開発を進めており、新たな事業創出に向けた活動に取り組んでいます。

当セグメントに係る研究開発費は144百万円です。

 

(5)化学品

化学品事業では、地球環境問題の解決に貢献する技術・製品の研究開発に取り組んでいます。

モビリティ分野に関しては、燃料電池事業において、モビリティ用燃料電池に使用されるカーボンセパレータの新生産方法や性能向上を重点に活動しており、新生産方法での量産化に向け開発を進めています。機能化学品事業では、カーボンニュートラルへの貢献を目的とし、自動車塗装工程の低温化を実現する水性架橋剤の開発を進めています。

インフラストラクチャー&セーフティー分野に関しては、断熱事業において、鉄道軌道用防振材の開発のほか、安全安心をテーマに不燃ノンフロンウレタンフォームの実用化を進めています。カーボン事業および機能化学品事業では、次世代・先端半導体向けの製品・添加剤の開発を進めています。

ライフ&ヘルスケア分野に関しては、機能化学品事業において、マイクロプラスチックによる海洋汚染の拡大防止に向けて、海洋環境で生分解性プラスチックの分解を促進する添加剤の開発を進めています。断熱事業では、次世代エネルギーである液化水素の輸送及び貯蔵施設向けの高性能断熱材の開発、きれいな水を守るための高性能水処理担体の開発を進めています。

当セグメントに係る研究開発費は354百万円です。

 

 

(6)繊維

繊維事業では、ライフ&ヘルスケア分野において、環境・健康社会への貢献を重点取り組み事項として掲げ、グループ内外と幅広く連携し、研究開発を進めています。

当連結会計年度はノーアイロンシャツに代表される「アポロコット」シリーズの商品を拡充し、環境配慮型の次世代商品として、防汚、冷感、ノンホルマリンなどの機能加工商品の開発にも注力しています。

また、安心・安全を提供できる防透、抗菌防臭、抗ウイルス、綿100%のストレッチ生地などの健康快適商品の充実を図り、さらに、当社グループ内のマイクロデバイス事業と連携し、胎児見守り腹帯や騒音職場通信デバイスなどのスマートテキスタイルの開発も取り組んでいます。

「サーキュラーエコノミー」の実現を目指した、廃棄シャツから再繊維化し新たなシャツに生まれ変わらせる「シャツ再生プロジェクト」については、当連結会計年度にNEDO先導研究プログラムにおいて信州大学と共同で基礎技術の確立に向けた研究開発を進めています。

当セグメントに係る研究開発費は694百万円です。

 

(7)全社共通

グループ内の研究開発においては、各事業セグメントを超えた連携によるシナジーにより、環境・エネルギーカンパニーとして地球環境問題・社会課題の解決に貢献する新たな事業の創出に取り組んでいます。

・水素社会実現のための取組み

レアメタルを使用しない燃料電池用触媒や水素生成用触媒などの部材開発に加え、燃料電池活用のためのシステム開発に取組んでいます。これら取組みの一部は、NEDO事業に採択をされています。

当社グループの持つ超音波技術を活用した水素ガスセンサの開発は、携帯型水素ガス漏れ検知器「MoLeTELL®」の試験販売に加え、定置型漏れ検知器や水素濃度測定器など顧客ニーズに合わせた製品開発を進めました。

・地球環境問題への取組み

マイクロプラスチックによる海洋汚染の拡大防止に向けて、海洋生分解性プラスチックの開発に取組んでいます。本取組みの一部は、NEDO事業に採択をされています。また、開発した微粒子はプラスチック微粒子代替材料として、ユーザーでの評価が進んでいます。

・安心・安全への取組み

食の安心安全・安定供給に向けて、「完全閉鎖型植物工場」「環境センサネットワークによる制御」「画像AIとロボットによる省力化」など、プラントファクトリーのスマート化に取組んでいます。

大容量化するデジタルコンテンツ情報をストレスなく送受信するための高速通信技術を活用した大容量のデータを瞬時に確実に伝送する「ミリ波通信システム」や、センサ及び通信技術を活用した「見守り機器・システム」などの開発、更にはこれらシステムを活用した「データ活用ビジネス」といったサービスへの取組みを強化しています。

全社共通に係る研究開発費は1,958百万円です。

※国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構