第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在における判断に基づくものであり、その達成を保証するものではありません。

 

(1)経営の基本方針

 当社グループは「経営理念」「経営ビジョン」「行動指針」の3つの要素から構成される「The DIC Way」を経営の基本的な考え方としています。

 「経営理念」は当社グループが追い求める究極的な「ありたい姿」を、「経営ビジョン」は「経営理念」を実現するために当社グループが進むべき事業の大きな方向性を、「行動指針」は「経営理念」を実現するにあたり当社グループ社員が、常に心に刻み、具体的な行動の道標にすべき行動原則をそれぞれ表しています。

 

The DIC Way

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[経営理念]

絶えざるイノベーションにより豊かな価値を創造し、顧客と社会の持続可能な発展に貢献する

 

[経営ビジョン]

彩りと快適を提供し、人と地球の未来をより良いものに -Color & Comfort-

 

[行動指針]

進取、誠実、勤勉、協働、共生

 

(2)当社グループの経営環境及び優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

 当社グループは、2030年に向けて、“DICが貢献する社会”を「グリーン」「デジタル」「Quality of Life (QOL)」とし、DICの強みを活かして貢献できる5つの重点事業領域を定め、経営資源を集中し、“社会の持続的繁栄に貢献する事業ポートフォリオを構築”と“地球環境と社会のサステナビリティ実現に貢献”を、以下の「DIC Vision 2030」基本戦略のもと実現すべく取り組んでいます。

 

1.「DIC Vision 2030」の基本戦略

● 事業ポートフォリオの変革

1)5つの重点事業領域

サステナブルエネルギー、ヘルスケア、スマートリビング、カラーサイエンス、サステナブルパッケージを

重点事業領域と定め、経営資源を集中

2)変革を支える5つの具体的施策

① 人的資本経営の強化 ② 戦略投資 ③ 技術プラットフォームの拡充

④ グローバル経営体制の強化 ⑤ IT・DXの推進

 

● サステナビリティ戦略

1)サステナブル製品の拡大

2)CO2排出量削減の推進

3)サーキュラーエコノミーへの対応

 

2.「DIC Vision 2030」の見直し

 当社は、2022年度からの4年間をDIC Vision 2030の「目指す姿」の実現に向けた基盤づくりの期間(Phase 1)と位置づけ、積極的に開発投資や事業買収を行い、可能性の探索を進めてまいりました。

 これにより多くの成果や可能性を創出できた一方で、経営資源の分散や拡散したテーマの取捨選択の遅れもあり、現時点におけるPhase 1の見込み値は、Phase 1の計画値から乖離が生じています。

 また、DIC Vision 2030策定後に発生した地政学リスクの高まりや世界的なインフレの進行等の外部環境の急速な変化も計画達成に悪影響を与えました。

 このような状況を踏まえ、当社は、今般、DIC Vision 2030のPhase 1最終年度(2025年度)における目標を見直すこととしました。なお、DIC Vision 2030全体の最終年度(2030年度)の計画値については、Phase 2(2026~2030年度)の計画策定段階で精査、公表する予定です。

 

● 新計画値(Phase 1最終年度:2025年度)

 

旧 計 画 値

新 計 画 値

売上高

11,000億円

11,500億円

営業利益

800億円

400億円

 売上高は、原材料価格の上昇及びインフレの影響を製品価格に転嫁することにより、従前を上回る計画値としました。

 営業利益については、買収事業のシナジー及び構造改革効果の発現等が当初計画より遅れ、Phase 1の翌年である2026年度以降に見込まれることから、目標達成をより確実なものにするため、大幅に下方修正しました。なお、2026年度には最高益更新を目指し、財務バランスの健全化と株主還元の充実を図ってまいります。

 

● 早期・確実な成果の実現に向けて

 経営資源の分散、テーマの取捨選択の遅れに対する反省を踏まえ、メリハリのある経営資源の配分を徹底すべく、5つの重点事業領域のうち「スマートリビング領域」を最重要領域と位置づけ、経営資源を集中することとしました。特に「エレクトロニクス分野」を集中強化するとともに、半導体用素材を扱う買収事業(PCAS Canada社)のシナジー追求を行うことで、早期かつ確実に成果を求めてまいります。

 一方、重点事業領域の残りの4領域(サステナブルエネルギー、ヘルスケア、カラーサイエンス、サステナブルパッケージ)についても、これまで買収した事業については一層の合理化、シナジー効果を追求してまいるとともに、それぞれの領域内における優先すべきターゲットを見極め、早期の収益化を目指します。

 

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● ケミトロニクス事業の拡大・深化

 上記のとおり、「エレクトロニクス分野」への集中強化を図るべく、当社では、エレクトロニクス仕様の化学・素材を軸とした事業を「ケミトロニクス」と定義し、2024年1月に「ケミトロニクス事業本部」を新設しました。

 ケミトロニクス事業本部は、“製・販・技”一体とした組織体制とし、意思決定の迅速化を図ることで、技術革新のスピードが速く、スピーディーな対応が求められるエレクトロニクス分野で事業拡大を目指します。

 また、”Direct to Society”(自ら未来を予測し、解決策や価値(=材料・デバイス・サービス)を社会に直接訴求することで、新たな事業を興していくこと)により、ケミトロニクスの事業領域の拡大に経営リソースを集中してまいります。

 今後さらなる成長が見込まれる“パワー半導体用高耐熱樹脂”、“先端半導体レジスト用樹脂”などが使用される半導体実装分野や“易解体接合材”、“5G/6G用低誘電樹脂”、“次世代電池用接合材”などの先端電子部品分野を中心に、当社ならではのソリューションを提供してまいります。

 

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりです。なお文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末において当社グループが合理的な仮定等に基づき、適切な検討を経て判断したものであり、実際の結果を約束する趣旨のものではありません。

 

(1) サステナビリティ共通

1.ガバナンス

 当社グループは、サステナビリティ基本方針(2019年3月改定)を定め、地球環境への配慮と、グローバルなビジネス・ルールに基づき、1)安全と健康の確保、2)リスクマネジメント、3)公正な事業慣行・人権と多様性の尊重、4)環境との調和・環境保全、5)イノベーションによる社会的価値の創出と持続的な成長の実現、を強く意識した事業活動を推進しています。その推進に向けて当社グループでは社長執行役員直轄のサステナビリティ委員会を設置し、社会的要請に基づく重要課題への対応を担っています。また、サステナビリティ活動の強化を中心とする重要事項の審議を行っています。

 サステナビリティ委員会を構成するメンバーは、社長執行役員が委員長を務め、副社長執行役員と生産統括本部長、技術統括本部長、経営戦略部門長、総務法務部門長、財務経理部門長、ESG部門長等の管理部門の長とともに、地域統括会社社長、各事業部門長・製品本部長が構成メンバーとして参加し、監査の一環として監査役1名が出席しています。年に4回開催されるサステナビリティ委員会の結果は、原則として全ての議題について、取締役会に報告され、適切に監督されています。

 サステナビリティ委員会には下部組織の一つとして、サステナビリティ部会を設置しています。サステナビリティ部会は、「サステナビリティ基本方針」のもと、「基幹的なテーマ」から「独自性を発揮するテーマ」まで13のサステナビリティ・テーマを設け、プロダクト・スチュワードシップにも配慮しながら、化学企業としてのグローバルな取り組みを進めています。各サステナビリティ・テーマの「中期方針」(2022~2025年度)と、年度ごとの「DICグループサステナビリティ活動計画」を作成し、さらに各事業部門と、各事業所、各国内外当社グループ会社が、それぞれの年度で優先的に取り組む「サステナビリティ活動計画」を定めています。サステナビリティ部会にて各実行主体部署でのサステナビリティ活動実績報告及び課題点を共有し、次年度のサステナビリティ活動に結びつけています。これにより、組織及び社員への方針の浸透と、業務目標と連動したサステナビリティ活動の推進に取り組んでいます。

 

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2.リスクマネジメント

 技術革新、価値観の多様化、侵攻、感染症等かつてなく不確実性の高い現代において、当社グループではリスクをどのようにマネージできるのかが企業価値向上にとって重要と捉えています。

 当社グループでは中長期に会社の業績に大きな影響を与える重要課題(マテリアリティ)を抽出しています。抽出した重要課題については、確実で効率的な対応を心掛けつつ事業推進に役立てています。当社グループでは統合報告書2023において下記をマテリアリティとして記載しています。中でも気候変動や人的資本価値の最大化等を重要課題としています。

 

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  統合報告書2023 P15より抜粋

 

 このような経営環境の変化やリスクの多様化に適切かつ柔軟に対応するとともに、潜在的なリスクが顕在化することによる事業への影響を速やかに最小限に抑えるため、リスクマネジメント活動を進めています。サステナビリティ委員会の下部組織としてリスクマネジメント部会を設置し、当社グループ全体における統合的リスクマネジメント体制を強化しています。

 各部署における自主的なリスク管理を基本としつつ、サステナビリティ委員会及びリスクマネジメント部会を通じて適切にモニターし、取締役会が定期的に監督しています。これらのリスクマネジメントについての詳細は「3 事業等のリスク」をご覧ください。

 

(2) 重要なサステナビリティ項目

1.気候変動

① 戦略

 当社グループでは気候変動に伴うリスクや機会の重要性も意識して、サステナブルな事業戦略を推進しています。気候変動による影響は中長期的に顕在化する可能性が高いため、2020年に実施したシナリオ分析に基づき、中長期的な視点で予測される機会とリスクへの認識を高めながら時間軸を踏まえた戦略の立案と実行に結びつけていきます。

 

イ.シナリオ分析

 移行シナリオには国際エネルギー機関(IEA)によるWEO2018のSDS(持続可能な発展シナリオ)及びETP2017の2DS、物理シナリオには国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による気候変動予測シナリオRCP8.5を用いて、それぞれ2030年までを分析対象期間として、シナリオ分析を実施しました。その結果、認識した主なリスク管理の視点は次のとおりです。

 

・今後カーボンプライシングが導入された場合、原燃料価格や電力価格の上昇、輸出品目の課税措置等が課され、CO2排出量が直接的なコスト圧迫要因となります。

・気候変動に伴う脱炭素社会への移行リスクとして、サーキュラーエコノミー等による急激な需要の変化が起きた場合、これへの対応ができなければ大幅な事業収益の低下をもたらす要因となります。

・極端な物理的リスクとして、異常気象による気象災害が深刻化・頻発化すると、事業所の稼働停止、原料調達の不安定化等により製品供給不能や供給の遅延を生じる可能性があり、事業収益の低下と事業継続の可否に関わるリスクとなります。

 

 これらのリスク管理のもとで、当社が見出したリスクと機会についてシナリオ分析表としてまとめています(表1)。またシナリオ分析中で認識している水リスクについては、地域別で開示しています(統合報告書2023 P71)。

 

表1 シナリオ分析結果

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  統合報告書2023 P89より抜粋

 

② 指標と目標

 気候関連のリスクと機会を評価する重要なKPIとしては、スコープ1、スコープ2を利用しています(表2)。また2021年より当社グループは、サステナビリティの観点から定めたCO2排出量の長期削減目標を更新し、新たな目標として「2030年度50%削減(2013年度比)」及び「2050年度カーボンネットゼロ」の実現を目指しています。世界的な脱炭素社会実現の動きが加速する中、積極的に脱炭素社会の実現に取り組んでいくとの決意のもと、新たな削減目標を設定しています。

 

表2 スコープ1、スコープ2

 

スコープ1(tCO2)

スコープ2(tCO2)

2013年

921,386

2022年

341,610

378,834

2030年

460,693

 

2.人的資本・多様性

① 戦略

イ.基本戦略

 当社グループでは、人的資本・多様性における基本戦略として「人的資本経営」を掲げています。人材は経営戦略実行における重要な「資本」であり、多様な人材が結集し、その能力が最大限発揮されることが当社グループの競争力の源泉となると考えています。この考えに基づき、社員一人ひとりの人権・安全を保障し、将来のリーダー人材及び自律的な人材を育成する仕組みの構築並びに多様な人材が働き甲斐を感じられる職場環境の整備やグループの組織力向上に取り組んでいます。

 

ロ.長期経営計画における人材戦略

 人的資本経営の最優先課題は、2022年に制定された長期経営計画「DIC Vision 2030」で掲げる「事業ポートフォリオの変革」の実現に必要な人材の獲得、育成、配置、即ち新事業の創出、事業領域の変化に合致した人材の最適化です。この戦略のもと、2030年のあるべき当社グループの人材ポートフォリオを構築すべく、当社グループを率いる次世代リーダーシップの開発、異業種出身人材・高度専門人材の積極的獲得・育成、自発的な学びを支援する学習ツールの導入等を通じたリスキリングの推進、イノベーション創出に向けたチャレンジ行動の促進等の各施策に取り組んでいます。また人材の流動性が高まるなかで、一人ひとりが望むキャリア形成を実現できるよう、社内公募制度、年代別のキャリア研修等の取り組みを行っています。

 

ハ.人材の多様性確保と活躍支援

 当社グループでは個人の属性に関わらず個々の多様な価値観を尊重することを基本理念として、社員の多様性確保・活躍を推進しています。その目的は、様々な価値観・経験を持つ人材一人ひとりが多様性を互いに理解・尊重することを通じて、創造的な思考を生み続ける企業文化を醸成することです。そうした企業文化が当社の基盤となることで、激変する環境変化に対応し、事業戦略を遂行することが可能になると考えています。具体的なダイバーシティ関連施策としては、女性一人ひとりのキャリア支援、部門単位での育成計画の策定や外国人社員のネットワーク強化や職場教育を通じた活躍推進体制の強化、再雇用制度の見直しによる再雇用者の活用、グローバルベースのタレントマネジメント等に取り組んでいます。

 

ニ.職場環境の整備

 社員一人ひとりの能力の発揮が「DIC Vision 2030」の実現、ひいては持続的な企業価値向上につながるという考えに基づき、社員がいきいきと働ける職場環境の整備に取り組んでいます。「働き甲斐向上」と「生産性向上」を両輪とした働き方改革プロジェクト「WSR2020」(WSRはWork Style Revolutionの略)を2020年より開始し、働き甲斐向上、ワークプレイス改革、プロセス改革の3つの改革を軸に、社員一人ひとりの心理的安全を基盤とし、持てる能力を最大限発揮し、伸長できる職場環境の整備を目指しています。具体的な施策としては、エンゲージメントサーベイを実施するとともにその向上に向けた組織単位での改善計画の実施、管理職向けのピープルマネジメント教育や一人ひとりの強みにフォーカスしたチームビルディング等の取り組みを通じた組織力強化等に取り組んでいます。加えて、当社グループでは、健康経営宣言のもと、社員が心身ともに健康でいきいきと働くことのできる環境の整備を積極的に推進しています。社員の健康は当社が持続的な成長を力強く実現していくための重要なテーマであると考えており、健康づくり、メンタルヘルスの領域において指標を定め、各種施策を実施しています。

 

② 指標と目標

 当社では、人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針に基づき以下のとおり主な指標を設定しています。当該指標に関する目標及び実績は次のとおりです。また、特に注力すべき課題として社員のエンゲージメント向上に取り組んでいます。2024年は具体的な数値目標を設定していませんが、会社目標と個人目標のアラインメントという課題に重点を置き、活動をしています。同じくグループとしての目標値は設定していませんが、グループの重要なダイバーシティ指標としてグループ内の管理職に占める女性管理職の割合(%)を管理しており、2023年度時点では14.9%です(一部グループ会社を除く)。この中で特に課題となっている日本国内における女性管理職比率向上を目的とし上述の活躍推進施策に取り組んでいます。

 

指標

2023年度実績

2025年度目標

執行役員に占める外国人・女性比率

16.7%

20.0%

ストレスチェックにおける高ストレス者判定率

11.4%

 9.0%

メンタル不調休業率

 0.5%

 0.2%

 

3【事業等のリスク】

 当社グループは中長期に会社の業績に大きな影響を与える重要課題(マテリアリティ)を定めています。これらの重要課題については、確実で効率的な対応を心がけつつ、2022年スタートの長期経営計画「DIC Vision 2030」(注1)における事業の推進に役立てています。また、経営環境の変化やリスクの多様化に適切かつ柔軟に対応するとともに、潜在的なリスクが顕在化することによる事業への影響を速やかに最小限に抑えるため、当社グループのサステナビリティ経営の諮問機関であるサステナビリティ委員会の下部組織であるリスクマネジメント部会が中心となって、リスクマネジメント活動を進めています。広範なリスクから、リスクアセスメントによって発生可能性と影響度で評価し、当社グループにとっての主要なリスクを特定しています。特定されたリスクのうち、特に重要なリスクにはリスクオーナーを設置して対策を講じ、リスクマネジメント部会が進捗や成果を確認しています。これらの活動全般については、サステナビリティ委員会や取締役会で適宜報告するとともに、適切なモニタリングを行っています。

 後述する主要なリスクについては、当社グループのマテリアリティ(注2)をベースにリスクマネジメント部会で実施する調査結果を踏まえて、各リスクが顕在化した場合に、当社グループのビジネス及びステークホルダーに与え得る影響度合いを大、中、小に分類しています(注3)。

 なお、将来に関する事項についての記載は、当連結会計年度末現在における判断に基づくものであり、また当社グループに関する全てのリスクを網羅したものではありません。

 

(注1)長期経営計画「DIC Vision 2030」の詳細は、https://www.dic-global.com/ja/ir/management/plan.htmlをご覧ください。

(注2)マテリアリティの詳細は、DICレポート(統合報告書)

https://www.dic-global.com/ja/csr/annual/をご覧ください。

(注3)各リスクが顕在化する可能性や時期など表中における項目の詳細は以下のとおりです。

 

可能性 (当連結会計年度末現在における各リスクが将来的に顕在化する可能性)

高:      可能性が高い

中:      可能性が中程度

低:      可能性が低い

 

時期 (当連結会計年度末現在における各リスクが顕在化し得る時期やタイミング)

長期:    5年超

中期:    3、4年程度

短期:    2年以内

不明:    顕在化するタイミングが予想できない

 

区分 (発生要因別の当社グループにおける管理上のリスク区分)

①:      発生防止を自社でコントロールできない外部環境リスク

②:      会社のマネジメントで発生防止対策を取り得るコーポレートリスク

③:      事業の中で認識すべきビジネスリスク

 

関連 (長期経営計画「DIC Vision 2030」で定めた事業戦略との関連)

A:      成長実現に向けた事業ポートフォリオの変革

B:      グローバル経営、ESG経営及び安全経営を下支えする経営基盤の強化

C:      キャッシュ・フローマネジメント

他:      事業戦略の関係なし

 

(1)顕在化した場合の影響が大きいリスク

 

リスク及び業績に与える影響の内容

可能性

時期

区分

関連

当社グループの取り組み

ポートフォリオ転換に関するリスク

長期経営計画「DIC Vision 2030」では、社会課題を解決し、社会の持続的繁栄に貢献する5つの重点事業領域を定め、経営資源を集中させることで事業ポートフォリオの変革に取り組んでいます。

事業ポートフォリオの変革に遅れが生じた場合、硬直化により成長が鈍化した場合、及び製品ライフサイクルに伴い成熟事業の収益性が徐々に低下した場合には、当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性があります。

 

 

 

短~長期

 

②③

 

 

当社グループは、長期経営計画「DIC Vision 2030」において、サステナブルエネルギー領域、ヘルスケア領域、スマートリビング領域、カラーサイエンス領域、サステナブルパッケージ領域を5つの重点事業領域として定め、各事業部門と新事業統括本部との協働による成果創出に注力しています。また、当社グループの事業戦略にそぐわない低収益事業の縮小・撤退の基準を設けて定期レビューを行うとともに、取締役会及び執行会議では長期経営計画で定めた事業戦略の進捗を定期的に確認し、事業環境に応じた施策の更新・追加を講じています。長期的計画を確実に実現させるため、2025年までの前半の4年間は「DIC Vision 2030」の目指す姿を実現するための基盤づくりの期間、2030年までの後半の5年間を目指す姿を実現して展開する期間と位置づけています。

これまでの成果と課題を踏まえ、2024-2025年は早期かつ確実に収益化が見込まれるテーマに経営資源を集中投入すること、効率的なリソース配分を実行することにより、引き続き「DIC Vision 2030」の目指す姿の実現に取り組んでいきます。

 

企業買収・資本提携が想定どおり進まないことに起因するリスク

当社グループは、事業ポートフォリオ変革のため、企業買収や資本提携を積極的に実施しています。当社グループが実施する統合・協業が不十分又は想定どおり進まない場合、当初計画していた効果が得られないため、当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性があります。

 

 

 

 

中~長期

 

 

②③

 

 

AC

 

 

当社グループでは、設定した投資指標に基づいて投資判断を行うとともに、自社による調査の他、外部機関も活用して徹底したデューデリジェンスを行い、リスク事項を事前に洗い出し、対策を講じています。買収後はグループ一体となったPMI(統合活動)の推進やシナジーの実現に向けたアクションを実施することにより、リスク低減に取り組んでいます。

また、買収後に業績不振に陥る場合は、グループ一体となって構造改革・効率化をスピードアップし収支構造の改善に取り組みます。

 

政治・地政学変動に関するリスク

政治・社会情勢の著しい変化や各種法規制・国際条約の変更等の予期せぬ事態が生じた場合、これらに起因して生じるコスト増、製品・原料の輸出入制限、送金停止、サプライチェーン分断等が、当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性があります。例えば、米中対立による製品・原料等の輸出入停止及び関税率アップに伴うコスト急増、渡航規制強化による適時適切な現地対応や人材配置の制限、あるいは中東における紛争・政治不安、ロシアによるウクライナ侵攻に起因する混乱、台湾有事が顕在化した場合等によるエネルギーや天然資源の価格高騰、物流の混乱等が挙げられます。

 

 

不明

 

①②

 

 

当社グループでは、本社による全体的な管理に加え、地域統括会社による日常的な管理により、事業面及び機能面の双方で事業を展開する各国における様々なリスクをモニタリングしています。

生産・販売面においては、事業部門を主体としたBCP(事業継続計画)の確立や原料の複数調達体制の構築を通じてカントリーリスクへの対応に取り組んでいます。

サプライチェーンの分断には、世界中にまたがるネットワークを有効活用することでリスクを低減しています。

加えて、人命・信用・資産等、各種経営資源の保全に向け、必要に応じて現地拠点とも協力しながらグループ全体での情報共有・対策立案・教育訓練にも取り組んでいます。

 

災害、事故の発生に伴うリスク

大規模自然災害や事業活動に伴う災害・事故により、人的・物的損害が発生した結果、工場操業や事業活動の停止が生じた場合、当社グループの業績に影響を与える可能性があります。また、事故災害の発生により、事業所周辺の地域社会等に対するレピュテーションの毀損に伴い、当社グループの事業活動への影響が発生する可能性があります。

 

 

短~長期

 

①②③

 

 

当社グループでは、重大災害等発生時の危機管理規則や個別のリスク別(大規模地震・台風・水害等の自然災害、パンデミック、工場における爆発・火災・漏洩等)の対策マニュアルを全社マニュアルとして整備するとともに、製品本部ごとにBCPを策定しています。

事業所の事故災害防止活動を推進するため、経営層の安全活動への意思表明、方針策定と周知徹底、定期的な監査の実施、積極的かつ継続的な教育・訓練を実施しています。

事故災害が発生した場合は要因分析・対策を行い、全社で情報共有を行うことで、グループ全体の事故災害防止を図っています。

急増する自然災害への対策としては、耐震・耐水等への継続投資、他社・外注先との連携強化を進めています。

なお、緊急事態には専用のコミュニケーションツール等を活用し、事業所と本社で効率的な情報共有や対策を講じています。

 

イノベーションの停滞に関するリスク

当社グループは、環境面における社会変革への対応が非常に重要と捉え、「グリーン社会、デジタル社会、QOL社会」に貢献する製品開発をグループ一丸となって取り組んでいます。同時に、急速に進展するデジタルテクノロジーの活用、DX推進に遅れを取らないように対策を進めています。しかしながら、当社グループのイノベーションが停滞して社会要請に応える製品を開発・上市できない場合、成長が鈍化する可能性があります。

 

 

 

 

中~長期

 

 

②③

 

 

ABC

 

 

当社グループは、保有する既存の基盤技術に加え、無機材料やバイオに関する新しい基盤技術を活用して、グリーン社会に貢献する次世代向けパッケージ、デジタル社会に貢献する高速通信関連材料、QOL社会に貢献する高機能ニュートリション等、様々な市場やニーズに応じたサステナブル製品の開発を進めています。

技術部門では、製品開発の成功率アップと開発期間短縮のためにMI(マテリアルインフォマティックス)を積極的に活用するとともに、量子コンピュータのコンソーシアムへの参加等、オープンイノベーション活用による最先端デジタルテクノロジーの導入を積極的に進めています。

さらに生産技術部門では、工場のスマート化に向けた生産技術のDX推進に精力的に取り組んでいます。

 

気候変動に伴う環境変化や社会変革への対応に関するリスク

当社グループは2021年6月より「DIC NET ZERO 2050」として、「2030年CO2排出量の50%削減(2013年度比)」と「2050年カーボンネットゼロの実現」を長期目標に掲げています。この目標を達成するための活動において、以下をリスクと捉えています。

1)日本国内では2026年度の排出量取引(GX-ETS)の本格稼働、2028年度の化石燃料賦課金の導入が決定されています。これにより原燃料価格や電力価格の上昇が懸念されます。

2)CO2排出量削減の社会的要求や顧客ニーズが極端に大きくなる場合には、排出量の大きい既存事業からの縮小・撤退の可能性があります。

3)脱炭素社会に向け、サーキュラーエコノミー等による急激な需要の変化が起きた場合、対応できなければ大幅な事業収益の低下をもたらす要因となります。

4)異常気象による気象災害の深刻化・頻発化により事業所の稼働停止、原料調達の不安定化等を誘発し事業収益の低下と事業継続の可否に関わるリスクがあります。

5)国際的に情報開示に対する要求が厳しくなっているなか、開示しないことによるレピュテーションの毀損、グリーンウォッシュによる訴訟のリスクがあります。

 

 

 

 

 

中~長期

 

 

①②③

 

 

AB

 

 

当社グループは、積極的な環境投資と省エネ施策の推進を通じてCO2排出削減に取り組んでいます。また、「DIC NET ZERO 2050」の実現に向けたロードマップの策定を進めています。

・SBTiの認定を2023年1月に取得しました。CO2削減目標達成に向け、各地域で環境投資を立案、実施していきます。日本では経済産業省の主導するGXリーグに2023年9月より参画しました。2026年度の本格稼働に備え、社内体制の整備やScope1排出量削減を検討しています。

・製品カーボンフットプリントの提供は、欧米では2022年から日本では2023年から開始しています。これにより当社グループの製品のCO2排出量を明らかにし、カーボンニュートラル社会の実現に貢献していきます。

・気候変動による需要の変化に的確に対応すべくサーキュラーエコノミーを含めた脱炭素社会に向けた製品・サービスの開発を進めるため、5R(Reuse, Reduce, Renew, Recycle, Redesign)のグループ定義を策定しました。

・物理的リスクに対して重要原料の供給対策も含むBCPの策定を進めています。また、沿岸立地事業所の気象災害リスクへの対策強化にも努めています。

・確度の高い情報収集とグループ内での情報共有により、高度な情報開示要求に対し、グリーンウォッシュのような実態に陥ることなく、グループ全体の情報を適時適切に開示していきます。

 

環境負荷低減の要請に起因するリスク

当社グループは、生産活動を通じて様々な環境負荷が発生するリスクがあります。具体的には、大気汚染物質や水質汚濁物質、産業廃棄物、プラスチック廃棄物等が挙げられます。通常、環境負荷の排出は一定レベルに抑えていますが、トラブルにより環境負荷物質が想定以上に排出されてしまった場合、その回収コスト負担や賠償責任の可能性があります。また、環境負荷に対する環境規制の強化や、業界基準の変更、さらには社会的要請に適切に対応できなければ、生産を継続できなくなるリスクがあります。また、社会情勢の変化に伴う製品要求性能の急変に対応できなければ、事業収益の低下と事業継続の可否に関わるリスクが顕在化する可能性があります。

 

 

 

 

 

短~長期

 

 

①②③

 

 

AB

 

 

当社グループは、生産と事業の両面から環境負荷の低減に努めています。生産面においては、生産拠点所在地における環境負荷低減に関連する様々な法令や規制の遵守はもとより、具体的な削減目標を定めた上で定期的に環境負荷データをモニタリングして、環境負荷物質の削減に努めています。また、トラブルに対しては、緊急事態に対応したマニュアルを整備し、環境負荷物質の排出を最小限に抑える体制をとっています。同時に、社会的変化に対応すべく環境保護設備の積極的な投資や導入期間短縮を図っています。事業活動においても、製品の環境負荷低減を図りながら、地球環境と社会課題に貢献する製品の拡大に取り組んでいます。具体的にはバイオベース材料を使用した製品等、製品の再利用や再商品化等、ケミカルリサイクルあるいはマテリアルリサイクルを含めたサーキュラーエコノミーに取り組んでいます。

また、環境負荷を低減し、健全でバランスの取れた生態系を保全・維持するため、生物多様性への取り組みとして「生物多様に関する方針」を策定しました。

 

 

(2)顕在化した場合の影響が中程度のリスク

リスク及び業績に与える影響の内容

可能性

時期

区分

関連

当社グループの取り組み

コンプライアンス違反に関するリスク

当社グループは、世界各国で事業活動を行っており、商取引、安全、環境や化学物質等に関する様々な法規制の適用を受けています。法規制等に違反した場合、事業の停止命令や罰金が課され、又は損害賠償責任が発生し、当社グループの業績や財務状況に影響を与える可能性があります。

 

 

 

 

不明

 

 

 

 

AB他

 

 

当社グループでは、法規制の他、ビジネスを実践する上で遵守すべきコンプライアンスに関する基準として「DICグループ行動規範」を定めています。

社長は、役員を含む全社員に向けて、コンプライアンスの重要性や、ビジネスよりもコンプライアンスが優先すべき価値であることを折に触れて自らの言葉で発信しています。

全社員は、具体的事例を取り上げたeラーニングや研修によって、その認識を深めています。

さらに、コンプライアンス上の疑問を持った場合に相談できる体制を整備し、内部通報制度の活用や担当部署から独立した部署による監査・調査等を通じ、コンプライアンス違反があった場合の早期発見、早期是正を図っています。

また、法規制変更時の周知徹底、化学物質情報管理システムの運用徹底・DX(デジタルトランスフォーメーション)化/効率化、デザインレビューの運用徹底等、あらゆる段階でコンプライアンスリスクの低減に必要な対策を講じています。

 

人材確保に関するリスク

当社グループの成長を維持するためには、事業運営や業務遂行に必要となる多彩な人材を採用し、確保し続ける必要があります。労働市場全体で、グローバルに活躍できる人材や高い専門性を有する人材の必要性が高まっている中、このような人材の確保は競争が激化しているため、より実効性のある採用・育成・定着に向けた各種施策の立案と遂行が急務の課題となっています。当社グループがグループワイドに活躍できる多彩な人材を採用し、継続的に雇用し、育成することができない場合、当社グループの事業運営や組織設計に影響を与える可能性があります。

 

 

短~長期

 

②③

 

AB

 

当社グループでは、必要な人材をタイムリーに採用するために、新卒採用においてはインターンシップ、先輩社員との座談会イベント、研究室単位での説明会等、きめ細かく接点を設けるような対応を実施しています。キャリア採用においては、人材会社やスカウトサービスの活用等、多様な手段を通じ、多彩な人材の採用を推進しています。また、DICレポート(統合報告書)の充実化や採用ホームページの刷新等、ブランディング活動の推進にも取り組みながら、労働市場への有効なアピールにも努めています。さらに、社員が一体感を持ちながら協働していくことを推進するため、ダイバーシティの推進、複線的な人事制度の導入、キャリア支援制度の拡充、タレントマネジメントの強化、人材育成制度の拡充、メンタルヘルスの向上、グローバルでの後継者計画・配置転換計画の策定、柔軟な働き方に向けたワークスタイル改革等、エンゲージメント向上や人材育成につながる各種施策を積極的に展開しています。

 

金利変動に起因するリスク

当社グループは、有利子負債による資金調達を実施しており、金融市場に急激な変動が起こった場合、当社グループの業績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

 

 

 

短~中期

 

 

 

当社グループは、財務の健全性の評価指標として、ネットD/Eレシオを採用し、財務体質の維持・強化と有利子負債の削減に努めています。また、各国の金利動向を注視しながら、固定金利調達を増やすなど、将来の金利変動リスク、金利負担の低減を図る措置を講じています。

 

為替変動に起因するリスク

当社グループは、世界各国で事業活動を行っており、在外子会社等の財務諸表項目の円換算額には為替相場の変動による影響があります。そのため、為替相場に大幅な変動が生じた場合、当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性があります。

また、輸出入等の外貨建取引についても、為替相場変動による換算上の影響があるため、同様に業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

 

短期

 

①③

 

C他

 

当社グループは、本社のリーダーシップのもと、各地域で為替リスク管理体制を整備し、為替相場の変動に伴う業績影響や在外子会社の換算影響の把握に努めています。また、先物為替予約等の為替変動ヘッジ取引や資金調達・投資の複数通貨対応等を通じて、そのリスクを軽減する措置を講じています。

品質問題の発生に伴うリスク

製品やプロセスに欠陥・不正・偽装が疑われた場合、重大なクレームや製造物責任が問われるなどの事象が発生した場合、あるいは製品回収や損害賠償責任が生じた場合、出荷や生産の停止が生じるだけでなく、当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性があります。さらに、これらの事象が発生したことにより、社会的信用の失墜につながる可能性があります。

 

 

不明

 

②③

 

AB

 

当社グループは、「常に信頼される製品を提供して顧客と社会の繁栄に貢献する」を「品質に関する方針」とし、毎年社長が社員に向けて品質保証の重要性を喚起しています。また、「全ての基本は安全操業と品質保証である」との生産担当役員のメッセージを強く発信しながら啓発や教育を繰り返すとともに、全社員が品質に関わる当事者意識を持ってQMS(品質管理システム)の正しい運用を徹底し、品質の改善に取り組んでいます。

また、社長直轄の品質委員会は、これら品質に係る全社の活動を監視監督している他、本社品質保証部長を実施責任者とする品質監査を毎年行うなど、品質管理体制の構築・増強を図っています。

出荷済みの製品において欠陥等が発覚した場合に社会的責任を果たすため、2021年に「品質管理規程」を廃止して「品質に関する規程」に変更し、組織体制と活動の実行体制を見直しました。

2024年1月から品質保証組織は、グループ全体の品質に関する活動の明確化を目的に、従来の一本化された組織から、製品品質を担う工場品質保証グループと、その品質ガバナンスを担う本社品質保証部、品質管理部に組織を改編し、役割を分担しました。

 

持続可能なサプライチェーンの構築(原料)に関するリスク

当社グループは、短期及び中長期的な視点で原料の安価・安定調達に加え、持続可能なサプライチェーンの構築、原料調達の実現に向けた取り組みを推進しています。

本件に関するリスクとして、国際商品市況の影響による原料価格上昇、原料サプライヤーの事故・トラブル・自然災害等を起因とした需給バランスの変動、その他の事情に伴う物流混乱、化学物質に関する法規制・業界規制の強化等によって原料の調達が困難になる場合、当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性があります。

また中長期的観点では、サステナビリティ活動への取り組みが不十分なサプライヤーからの原料調達は、供給の不安定化に加え、サプライチェーン全体の価値低下やそれに伴う顧客等からの信用失墜につながり、当社グループの事業継続に支障を来たす可能性があります。

 

 

 

 

 

短~長期

 

 

①②③

 

 

AB

 

 

当社グループは、複数購買・契約購買・代替原料の導入等を通じ、原料コストの削減や調達リスクの低減を図り、安価で安定した調達を目指しています。

また、中長期的観点では、環境負荷低減や人権尊重を始めとしたサステナビリティ活動全般への取り組みをサプライヤーに要請するとともに、外部評価機関や自社製アンケートを使用した活動状況の調査及び改善啓発を行い、持続可能な原料調達の実現を目指しています。

これらの取り組みを通じた製品の供給安定化や品質安定化、健全化により顧客からの信頼確保を図るとともに、収益性を確保するための適切かつ計画的な価格設定等にも努めています。

情報セキュリティに起因するリスク

サイバー攻撃等によるデータ逸失や改竄、情報漏洩、災害や障害等による業務システム・設備・機器等の停止や誤動作、グローバルネットワークの国家間遮断等が発生した場合、それらが引き起こす事業の停滞及び事業機会ロスにより、当社グループの業績に影響を与える可能性があります。

 

 

不明

 

 

 

当社グループは、情報系及び制御系インフラのサイバーセキュリティ機能の継続的強化、BCP整備(災害時復旧・バックアップ・体制等)、サイバー攻撃や情報漏洩等を想定したセキュリティ教育・訓練の継続的な更新・実施等を、第三者機関によるサイバーセキュリティリスクアセスメントに基づく対策ロードマップのもとで計画・実行し、リスク低減・影響最小化に取り組んでいます。

 

コーポレート・ガバナンスの不備に起因するリスク

日本のみならず、中国、アジア・パシフィック、北米、中南米、欧州、中東、アフリカ等、グローバルに展開する当社グループ会社において、コーポレート・ガバナンスの不備・無効化・対策未実施等に起因して、不正行為、粉飾決算、法令違反が発生して会社が損害を受ける、又は当社グループの社会的信用の失墜につながる可能性があります。

 

 

 

 

不明

 

 

 

 

B他

 

 

コンプライアンスに関する「DICグループ行動規範」を主要な所在地言語に翻訳して、全ての地域において従業員がこの規範に準拠した正しい判断と行動を行うよう、統制環境を整備しています。また、全ての当社グループ会社において、コーポレート・ガバナンスに必要な権限承認規程等の規程類を具備しています。

当社グループは、日本、中国、アジア・パシフィック、北米、中南米、欧州、中東、アフリカの各地域をカバーする内部統制組織を有しており、ほぼ全ての事業拠点をカバーするように定期的な内部監査によるモニタリングを実施するとともに、内部監査部門と監査役と会計監査人が十分に連携しながら、グループ会社の法令順守、コーポレート・ガバナンスが適切に機能していることを確認しています。内部監査の結果は取締役会、監査役会に報告されます。

また、不正行為等に対しては、内部通報制度を当社グループの全ての社員に周知し、不正が起きにくい環境の整備・維持に努めています。

加えて、経営ビジョンの刷新や行動指針実践事例の表彰制度等を通じ、経営の基本的な考え方である「The DIC Way」のグローバルでの周知・浸透を図っています。

 

 

(3)顕在化した場合の影響が小さいリスク

リスク及び業績に与える影響の内容

可能性

時期

区分

関連

当社グループの取り組み

知的財産に関するリスク

当社グループは、事業活動の中で生み出される新たな技術やノウハウを保護するため、知的財産権の取得に努めています。一方、他社の権利を侵害しないよう適切な対応を講じ、第三者の正当な知的財産権を尊重した事業活動を行っています。しかしながら、権利の解釈や見解の相違等により、知的財産に関する紛争が発生した場合、製品開発や販売の停止や、損害賠償金の発生により、当社グループの業績に影響を与える可能性があります。

また、当社グループが保有する技術情報やノウハウが不測の事態により外部に流出した場合、当社グループ製品の模倣品や類似品が流通し、製品の競争力が失われ、事業収益に影響を与える可能性があります。

その他、第三者が当社グループのロゴや商標を不当に使用して類似品や劣化品を市場に流通させることで、当社グループの業績への影響やブランド毀損が生じる可能性があります。

 

 

 

不明

 

②③

 

A他

 

当社グループでは、製品開発の各ステージにおいて、第三者の知的財産権の侵害調査を実施し、知的財産部門に在籍する弁理士や、国内外の特許事務所及び法律事務所の弁理士、弁護士による判断のもと、第三者の正当な知的財産権を尊重した製品化を行っています。万一、知的財産に関する紛争が発生した場合にも、事案に応じて社内外の弁理士、弁護士が適切に連携して対応できる体制をとっています。

また、当社グループでは、「情報セキュリティに関する方針」のもと、「機密情報管理規程」を制定し、技術情報等を厳格に管理しています。外部への技術情報の開示に際しては、学会発表や展示会への出展等、開示形態に応じた監視体制を整え、機密情報の漏洩を防止しています。

当社グループのロゴや商標の不当使用に対しては、電子商取引サイトの監視や商標DB調査により、当社グループのロゴや商標の不正使用、悪質な類似商標出願を確認した場合には、電子商取引サイトの出店差し止め請求や、類似商標の登録防止措置を講じています。

 

水資源に関するリスク

当社グループは、事業活動を通じて水資源の有効活用に努めています。しかし、取水源において想定以上の水不足や水質低下が起きた場合、生産活動に制約が生じる可能性や、水価格上昇により収益性が低下する可能性があります。

 

 

長期

 

②③

 

AB

 

当社グループでは、各事業所における取水、排水の実績をモニタリングして、水資源の利用状況を把握しています。さらに、各生産拠点においては、所在地域における水資源の情報と工場の操業状況を評価したリスクアセスメントを実施し、対策状況を管理しています。また、水を再利用(リユース・リサイクル)することにより、水使用量の低減に取り組んでいます。

 

税務に関するリスク

当社グループは、世界各国で販売や生産等の事業活動を行っており、グループ内でも相互に取引があります。各国の移転価格税制等の国際税務リスクについて細心の注意を払っていますが、各国税務当局との見解の相違によって予期しない課税を受けた場合、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

 

不明

 

①②

 

 

当社グループは、本社のリーダーシップのもと、各国の税法に準拠した適正な納税を行っており、定められた移転価格文書を整備しています。また、「税務に関する方針」を策定・公表しており、透明性の高い税務管理に取り組んでいます。

パンデミックに関するリスク

感染症が世界的規模で拡大(パンデミック)した場合、それに起因する経済活動の停滞や需要減によって出荷が落ち込む可能性があります。また、政府の要請等による事業への制約あるいは当社グループ社員への感染の広がりで、営業拠点や研究所の閉鎖や工場の操業停止によって一時的に事業の継続が困難となる可能性があります。これらの結果として、当社グループの業績や財政状態に影響する可能性があります。

 

 

短期

 

①③

 

 

当社グループにおける生産及び研究・開発等の事業拠点はグローバルに立地しており、複数工場によるバックアップ生産策を推進することで、拠点閉鎖や操業停止等によるリスクを低減しています。

また、当社グループでは、ITインフラの整備・増強を推進するとともに、テレワーク制度の普及・浸透により、情報のデジタル化、社内手続の電子承認によるペーパーレス化等の対応と併せ、パンデミック発生時にテレワークを活用した、円滑な事業継続を行うための環境を整えています。

長期経営計画におけるマクロ環境に影響されにくい強靭な事業体質への変換を目指し、事業ポートフォリオの転換を図ることで、更なる事業リスクの分散を進めています。

 

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

 文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在における判断に基づくものであり、その達成を保証するものではありません。

 

(1)経営成績等の状況の概要

①経営成績

当連結会計年度の業績は次のとおりです。

(単位:億円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

前年同期比

現地通貨ベース

前年同期比

売上高

10,542

10,387

△1.5%

△5.1%

営業利益

397

179

△54.8%

△51.0%

経常利益

399

92

△76.9%

親会社株主に帰属する当期純利益

176

△399

赤字化

EBITDA

855

308

△63.9%

US$/円(平均)

130.59

140.51

+7.6%

EUR/円(平均)

137.71

151.98

+10.4%

   EBITDA:親会社株主に帰属する当期純利益+法人税等合計+支払利息-受取利息+減価償却費+のれん償却額

 

 当連結会計年度(2023年1月~12月)における当社グループの業績は、売上高は前年同期比1.5%減の1兆387億円でした。米国や欧州でのインフレ抑制を目的とした金融政策の継続、ウクライナ情勢の長期化による地政学リスクへの影響、中国での不動産市況の低迷などに起因した景気回復の鈍化など不透明な状況が世界レベルで続いたことにより、財需要は各地域で停滞し、様々な業界分野において需要の伸び悩みや在庫調整の動きが見られた一年となりました。この状況下、当社グループが注力する主な顧客業界の需要動向としては、電気・電子やディスプレイを中心とするデジタル分野では、ディスプレイ市場はパネルメーカーの在庫調整が一巡した後に製品需要が回復した一方で、半導体市場は長引く市況低迷に底打ちの兆しが見られたものの、本格的な需要回復には至りませんでした。また、モビリティを中心とするインダストリアル分野では、自動車市場の世界的な販売台数の回復に伴い、自動車向け材料はサプライチェーン上の余剰在庫の解消が進んだものの、需要の回復は緩やかなペースに留まりました。このようななか、当社グループにおいては、各セグメントでコスト増加分に対する価格対応に努めましたが、カラー&ディスプレイの顔料製品において、主要市場である欧州での長引く景気停滞と米国での物価上昇による消費財の需要減の影響により、塗料用顔料やプラスチック用顔料などの出荷が落ち込んだほか、ファンクショナルプロダクツにおいて、デジタル分野やインダストリアル分野に向けた高付加価値製品の出荷数量が全般的に減少するなど、数量面で厳しい状況が続きました。

 営業利益は、前年同期比54.8%減の179億円でした。各セグメントにおいて価格対応に努め、パッケージング&グラフィックでは増益となりましたが、カラー&ディスプレイにおける塗料用顔料やプラスチック用顔料などの製品やファンクショナルプロダクツを中心とした高付加価値製品の出荷数量が減少したことに加え、塗料用顔料やプラスチック用顔料などの在庫削減を目的に、米国と欧州の一部生産拠点を一時的に稼働停止したことが損益に影響を及ぼした結果、全体として大幅な減益となりました。

 経常利益は、前年同期比76.9%減の92億円でした。

 親会社株主に帰属する当期純利益は、399億円の赤字となりました。カラー&ディスプレイにおいて2021年6月に買収したC&E顔料事業ののれんに係る減損損失を197億円計上するなど、特別損失が大幅に増加しました。

 EBITDAは、前年同期比63.9%減の308億円でした。

 

※インダストリアル分野とは、自動車、鉄道、船舶などのモビリティ用途と建設機械、産業機械などの一般工業用途に係る製品分野の総称です。

 

 

また、各セグメントの業績は次のとおりです。

 

 

 

 

 

 

 

(単位:億円)

セグメント

売  上  高

営 業 利 益

前連結

会計年度

当連結

会計年度

前年

同期比

現地通貨

ベース

前年同期比

前連結

会計年度

当連結

会計年度

前年

同期比

現地通貨

ベース

前年同期比

パッケージング&

グラフィック

5,330

5,419

+1.7%

△1.9%

203

220

+8.1%

+11.4%

カラー&ディスプレイ

2,482

2,273

△8.4%

△14.1%

51

△89

赤字化

赤字化

ファンクショナル

プロダクツ

3,154

3,059

△3.0%

△5.0%

236

154

△34.6%

△36.4%

その他、全社・消去

△424

△364

△94

△106

10,542

10,387

△1.5%

△5.1%

397

179

△54.8%

△51.0%

 

 

 

 [パッケージング&グラフィック]

 

前連結会計年度

当連結会計年度

前年同期比

現地通貨ベース

前 年 同 期 比

売 上 高

5,330

億円

5,419

億円

+1.7%

△1.9%

営 業 利 益

203

億円

220

億円

+8.1%

+11.4%

 

 売上高は、前年同期比1.7%増の5,419億円でした。食品包装を主用途とするパッケージ用インキは、中国では新規の顧客開拓が進み出荷数量が増加しましたが、それ以外の地域では物価上昇の影響により消費財の需要が低調となり、出荷が減少しました。こうしたなか、各地域で価格対応に努めた結果、売上高はほぼ前年並となりました。商業印刷や新聞を主用途とする出版用インキについては、各地域で価格対応に努めたことで、国内では増収となりましたが、米州や欧州とアジアでの需要減などを原因とした出荷数量の減少により、全体として減収となりました。デジタル印刷で使用されるジェットインキは、米国や欧州での物価上昇や金利情勢に伴う在庫調整の動きなどを背景に、海外顧客向けを中心に需要が回復せず、全般的に出荷数量が減少しましたが、円安による為替換算影響を受けて増収となりました。

 営業利益は、前年同期比8.1%増の220億円でした。国内では高付加価値製品であるジェットインキの出荷数量が減少するなか、パッケージ用インキと出版用インキのコスト増加分に対する価格対応を進めました。また、海外では、アジアにおける中国でのパッケージ用並びに出版用インキの出荷増に加え、米州や欧州でパッケージ用インキと出版用インキの価格維持に努めた結果、全ての地域で増益となりました。

 

 [カラー&ディスプレイ]

 

前連結会計年度

当連結会計年度

前年同期比

現地通貨ベース

前 年 同 期 比

売 上 高

2,482

億円

2,273

億円

△8.4%

△14.1%

営 業 利 益

51

億円

△89

億円

赤字化

赤字化

 

 売上高は、前年同期比8.4%減の2,273億円でした。売上の割合が大きい塗料用顔料とプラスチック用顔料は、主要市場である欧州での景気停滞と米国での物価上昇の影響などにより、それぞれの地域で需要の落ち込みと顧客による在庫調整の動きが続いたことから、全般的に出荷数量が減少しました。高付加価値製品については、ディスプレイ用途であるカラーフィルタ用顔料は、パネルメーカーの在庫調整が一巡した後に出荷が回復しました。化粧品用顔料は、米国や欧州で物価上昇などを背景に出荷が伸び悩んだものの、遅れて新型コロナ前の生活様式に戻ったアジアでの需要回復が見られたことにより、堅調な結果となりました。スペシャリティ用顔料は、農業向けの出荷が顧客の在庫調整の影響により伸び悩んだほか、建築向けもウクライナ情勢の長期化を背景に主な需要地である欧州での出荷が減少しました。

 営業利益は89億円の赤字となりました。カラーフィルタ用顔料や化粧品用顔料の出荷が堅調であったものの、塗料用顔料、プラスチック用顔料の出荷が欧州を中心に落ち込んだことに加え、高付加価値製品であるスペシャリティ用顔料の出荷が減少した影響を受けました。また、塗料用顔料やプラスチック用顔料などの在庫削減を目的に、米国と欧州の一部生産拠点を一時的に稼働停止したことが損益に影響を及ぼしました。

 

 [ファンクショナルプロダクツ]

 

前連結会計年度

当連結会計年度

前年同期比

現地通貨ベース

前 年 同 期 比

売 上 高

3,154

億円

3,059

億円

△3.0%

△5.0%

営 業 利 益

236

億円

154

億円

△34.6%

△36.4%

 

 売上高は、前年同期比3.0%減の3,059億円でした。電気・電子やディスプレイを中心とするデジタル分野については、半導体を主用途とするエポキシ樹脂は市況低迷に底打ちの兆しが見られましたが、出荷が本格的に回復するには至らず、減収となりました。スマートフォンなどのモバイル機器を主用途とする工業用テープについては、着実に需要を取り込んだことで、増収となりました。モビリティを中心とするインダストリアル分野については、自動車サプライチェーン上の在庫解消が進んだなか、自動車向け材料の出荷は緩やかな回復に留まりましたが、2022年7月から連結対象となった中国のコーティング用樹脂メーカーGuangdong DIC TOD Resins Co., Ltd.(広東迪愛生彤德樹脂有限公司)の売上が加わったことにより、増収となりました。PPSコンパウンドは、自動車向けの出荷が回復途上であったなか、価格対応などにより、増収となりました。

 営業利益は、前年同期比34.6%減の154億円でした。各製品において、コスト増加分に対する価格対応に努めましたが、電気・電子やモビリティに関連した高付加価値製品の出荷が減少したことにより、大幅な減益となりました。

 

②キャッシュ・フロー

 

 [営業活動によるキャッシュ・フロー] 当連結会計年度 891億円(前連結会計年度 79億円)

 当連結会計年度は、税金等調整前当期純損失が265億円、減価償却費が508億円となりました。また、法人税等に120億円を支払い、運転資本の減少により671億円の資金を獲得しました。以上の結果、営業活動により得られた資金の総額は891億円となりました。

 

 [投資活動によるキャッシュ・フロー] 当連結会計年度 △665億円(前連結会計年度 △732億円)

 当連結会計年度は、有形及び無形固定資産の取得に581億円、子会社株式の取得に141億円の資金を使用しました。以上の結果、投資活動に使用した資金の総額は665億円となりました。

 

 [財務活動によるキャッシュ・フロー] 当連結会計年度 △29億円(前連結会計年度 839億円)

 当連結会計年度は、借入等により130億円の資金を調達した一方で、剰余金の配当として95億円を支払い、リース債務の返済として59億円を支払いました。以上の結果、財務活動に使用した資金の総額は29億円となりました。

 

 (キャッシュ・フロー関連指標の推移)

 

 

2021年度

2022年度

2023年度

自己資本比率

(%)

32.3

30.7

29.2

時価ベースの自己資本比率

(%)

25.6

17.5

21.1

キャッシュ・フロー対

有利子負債比率

(年)

8.6

64.2

5.9

事業収益インタレスト・

カバレッジ・レシオ

(倍)

20.5

9.3

2.2

(注)1.各指標の算式は以下のとおりです。

自己資本比率             :(純資産-非支配株主持分)/総資産

時価ベースの自己資本比率       :株式時価総額(期末株価終値×期末発行済株式数(自己株式控除後))/総資産

キャッシュ・フロー対有利子負債比率  :有利子負債/営業キャッシュ・フロー

事業収益インタレスト・カバレッジ・レシオ:(営業利益+受取利息+受取配当金)/支払利息

2.各指標は、いずれも連結ベースの財務数値により算出しています。

3.有利子負債は、連結貸借対照表に計上されている借入金、コマーシャル・ペーパー、社債及びリース債務を対象にしています。

営業キャッシュ・フローは連結キャッシュ・フロー計算書の営業活動によるキャッシュ・フローを使用しています。

また、支払利息については、連結損益計算書の支払利息を使用しています。

 

 

③生産、受注及び販売の実績

(イ) 生産実績

 当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと次のとおりです。

セグメント

金額(百万円)

前年同期比(%)

パッケージング&グラフィック

490,510

93.8

カラー&ディスプレイ

209,668

86.0

ファンクショナルプロダクツ

303,408

96.5

報告セグメント計

1,003,586

92.8

その他

14

28.4

1,003,600

92.8

 (注)生産実績は期中平均販売価格により算出しています。

 

 

(ロ) 受注実績

 当社グループは、主として見込生産を行っているため、該当事項はありません。

 

(ハ) 販売実績

 当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと次のとおりです。

セグメント

金額(百万円)

前年同期比(%)

パッケージング&グラフィック

541,942

101.7

カラー&ディスプレイ

194,094

92.8

ファンクショナルプロダクツ

302,096

97.0

報告セグメント計

1,038,132

98.5

その他

604

108.5

1,038,736

98.5

(注)セグメント間の取引については相殺消去しています。

 

 

(2)経営者の視点による財政状態、経営成績等の状況の分析

①経営成績の分析

 経営成績の分析については、「(1)経営成績等の状況の概要 ①経営成績」に記載しています。

 

②財政状態の分析

 当連結会計年度末の資産の部は、主に運転資本の減少により、前連結会計年度末と比べて167億円減少し、1兆2,449億円となりました。負債の部は、主に有利子負債の増加により、前連結会計年度末比51億円増の8,456億円となりました。また、純資産の部は、親会社株主に帰属する当期純損失の計上などにより前連結会計年度末比218億円減の3,993億円となりました。

 

③資本の財源及び資金の流動性

(a) キャッシュ・フローの状況については、「(1)経営成績等の状況の概要 ②キャッシュ・フロー」に記載しています。

 

(b) 財務戦略

 当社グループは、長期経営計画「DIC Vision 2030」において、ネットD/Eレシオ(注2)を経営指標として設定することとし、これを1.0倍程度に維持することを目標としています。C&E顔料事業に関するのれんの減損損失の計上等による当期純損失の結果、当連結会計年度末のネットD/Eレシオは悪化しましたが、資産売却、及び在庫を中心とする運転資本圧縮に取り組むことにより、翌連結会計年度末のネットD/Eレシオは1.13倍程度まで改善する計画です。また、資本性の認められる借入を考慮した調整後ネットD/Eレシオは0.97倍程度となる見込みです。

 

(c) 資金需要の主な内容

 当社グループの運転資金需要のうち主なものは、原材料等の購入のほか、製造費、販売費及び一般管理費等の営業費用です。投資を目的とした資金需要は、設備投資、子会社株式及び出資金の取得、関連会社株式及び出資金の取得等によるものです。今後の設備投資計画等については、「第3 設備の状況 3.設備の新設、除却等の計画」に記載しています。

 

(d) 資金調達

 これらの資金需要に対して当社グループは、運転資金については、自己資金のほか短期借入金及びコマーシャル・ペーパーの発行により、また設備投資等の長期資金については、長期借入金及び社債で調達を行っています。

 なお、当連結会計年度末のネット有利子負債(注3)は4,414億円ネットD/Eレシオは1.21倍となりました。また、コロナ禍における金融市場の混乱に備えて、一年を通じて手元現預金の水準を高めに維持した結果、当連結会計年度末の現金及び預金は875億円となりました。

 

(注)1.有利子負債は、連結貸借対照表に計上されている借入金、コマーシャル・ペーパー、社債及びリース債務を対象にしています。

2.ネットD/Eレシオ=ネット有利子負債/自己資本

3.ネット有利子負債=有利子負債-現金及び預金

 

④重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されています。この連結財務諸表の作成にあたっては、当連結会計年度における資産・負債及び収益・費用の報告金額並びに開示に影響を与える将来に関する見積りを実施する必要があります。経営者は、これらの見積りについて、当連結会計年度末時点において過去の実績やその他の様々な要因を勘案し、合理的に判断していますが、見積り特有の不確実性があるため、実際の結果は将来においてこれらの見積りとは異なる場合があります。

 当社グループの連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりです。

 

 

(3)経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

 当連結会計年度における長期経営計画「DIC Vision 2030」の達成状況は次のとおりです。

 

(単位:億円)

2023年度計画

2023年度実績

2024年度見通し

2025年度

当初計画

売上高

11,500

10,387

11,000

11,000

営業利益

430

179

300

800

売上高営業利益率

3.7%

1.7%

2.7%

7.3%

親会社株主に帰属する

当期純利益

200

△399

100

450

EBITDA*

870

308

820

1,370

ROIC**

3.6%

1.5%

2.6%

6.0%

ネットD/Eレシオ***

1.09倍

1.21倍

1.13倍

1倍以下

   *    EBITDA = 親会社株主に帰属する当期純利益+法人税等合計+支払利息-受取利息+減価償却費+のれん償

                   却額

   **   ROIC = 税引き後営業利益÷ (ネット有利子負債+純資産)

   ***  ネットD/Eレシオ = ネット有利子負債 ÷ 自己資本

 

5【経営上の重要な契約等】

 当社は、2023年9月1日付でThe Carlyle Groupがその持分の全てを保有・運用するInvisible Holdings, L.P.がその発行済株式の全てを所有しているインビジブルホールディングス株式会社(以下「公開買付者」といいます。)との間で、公開買付者が株式会社東京証券取引所プライム市場に上場している星光PMC株式会社(以下「対象会社」といいます。)(当社連結子会社)の普通株式に対する公開買付け(以下「本公開買付け」といいます。)を実施すること、当社はその所有する対象会社株式(以下「当社所有株式」といいます。)を本公開買付けに応募しないこと、本公開買付け成立後に対象会社が株式併合を実施すること及び対象会社が自己株式取得を通じて当社から当社所有株式の全てを取得し、公開買付者が対象会社を完全子会社化することに係る最終契約を締結しました。

 なお、2024年1月15日付で株式の譲渡は完了しています。

 詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 注記事項(重要な後発事象)」に記載しています。

 

6【研究開発活動】

 当社グループは、経営ビジョン「彩りと快適を提供し、人と地球の未来をより良いものに - Color & Comfort -」の実現に向けて、光学・色彩、有機分子設計、高分子設計、分散など既存基盤技術の深耕に加え、新たな基盤技術として無機・バイオ材料設計の確立に取り組んでいます。さらに、これらの技術を複合化することで、持続的成長につながる次世代製品・新技術の開発を積極的に推進しています。

 日本国内の研究開発組織は、事業に直結した製品の開発・改良を担う技術統括本部とDICグラフィックス㈱の技術本部、基盤技術の深耕と創生を担うR&D統括本部、戦略的な新事業創出と事業部門の次世代製品群の事業化を担う新事業統括本部よりなり、これに加えて海外では、サンケミカルグループの研究所(米国、英国及びドイツ)、青島迪愛生精細化学有限公司(中国)、主に中国、アジア・パシフィック地域における技術開発活動の拠点となる印刷インキ技術センター、ポリマ技術センター、藻類研究センター、ソリッドコンパウンド技術センター、顔料技術センター、テープ技術センター、3Dプリンティング材料研究室などが一体となってグローバルに製品・技術の開発を行っています。

 また、データサイエンスセンターを軸に、研究開発へのMI(Materials Informatics)などAI技術の活用とAI分野のスペシャリスト育成を進めており、CVC(Corporate Venture Capital)や産官学連携などオープンイノベーションも積極的に活用し、研究開発の効率化を加速しています。

 当連結会計年度における研究開発費は、17,189百万円であり、このほか、当社及びDICグラフィックス㈱における製品の改良・カスタマイズなどに関わる技術関連費用は、14,981百万円です。主な研究開発の進捗状況は以下のとおりです。

 

(1) パッケージング&グラフィック

 印刷インキ分野では、印刷適性を向上させたLED対応高感度UVインキ新製品の販売を開始、ヒートシール剤では医薬品用PTP(Press Through Package)向け水性タイプやPVC容器フィルムを含む各種容器向けに低温領域から性能を発揮する新製品を開発しました。また、硝化綿やホルムアルデヒド未使用で従来型と同レベルの耐熱性を有するOP(Over Print)ニスの展開を開始しました。

 イージーピールフィルムでは、フードロス削減に対応したコンビニ向け総菜容器用や冷凍宅配弁当容器用の蓋材が実績を拡大しており、オーブン等高温加熱調理の場面で使われる耐熱C-PET容器にシールできるタイプも開発しました。

 海外ではサンケミカルグループがサステナビリティ戦略のもと、インキ、コーティング剤、接着剤の開発に取り組んでおり、様々な包装のリサイクル化を進め、欧州の新しい「使い捨てプラスチック指令」に準拠する天然由来の原料をベースにしたバリアコート剤、剥離剤、ヒートシール剤を開発しました。新製品のレトルトフィルム用水性インキは印刷適性が大幅に向上し、シュリンクラベル用の水性インキは高速フレキソ印刷を可能にしました。

 

(2) カラー&ディスプレイ

 有機顔料では、ディスプレイのカラーフィルタ用顔料の新製品開発に注力しているほか、新たにインクジェットインキ用顔料を製品化しました。サンケミカルグループにおいては、小粒径タイプのエフェクト顔料の新しい製品群の販売を開始、高い鮮映性、輝度感を有することから自動車等の塗料用途で色空間の幅を広げています。また、防腐剤や防カビ剤等のバイオサイドを含まない水系塗料向け易分散顔料の製品ポートフォリオや、抗酸化作用を有しメイクアップ化粧品・スキンケア製品に使用できる天然色素製品を発表しました。

 

(3) ファンクショナルプロダクツ

 合成樹脂では、次世代通信規格5G、6G用の電子回路基板用低誘電樹脂の開発を進めているほか、合成皮革用の環境配慮型水系ウレタン樹脂の新製品を市場に投入しました。本製品は最終製品の臭気、GHG、VOCの低減に貢献し、かつ溶剤系同等の性能を発揮します。界面活性剤では有機フッ素化合物「PFAS」フリーの環境対応型新製品を開発、ディスプレイ、半導体、自動車、塗料等の用途で従来品を代替していきます。硫黄系添加剤では既存の天然油脂よりも環境に優しい藻類油が原料の新製品を開発、潤滑油の摩擦低減と酸化安定性改善等に貢献し、自動車(特にEV)や金属加工用潤滑油等への採用が見込まれます。工業用テープでは、スマートデバイス向けに易解体性・貼り直し性に優れるノントル型粘着製品のラインアップを拡充し、またUV照射により剥離可能な光学部品製造工程用の粘着テープを量産化しました。

 

(4) その他

 当社の新たな基盤技術の創生への取り組みとして、バイオ材料関連では、天然由来ポリアスパラギン酸とそれを活用した生分解性を有する高吸水性ポリマの開発においてパイロット生産設備の計画準備や、藍藻類スイゼンジノリから抽出したヒアルロン酸の5倍以上の保水力を持つ「サクラン®」の安定供給に向けた培養スイゼンジノリの小規模生産を開始しました。無機材料の分野では、2022年に量産サンプルの提供を開始した放熱フィラーに加え、圧電フィラー、誘電制御フィラー、磁性フィラーの開発も進んでいます。リチウムイオン二次電池の関連部材では、優れた膨張抑制効果や低い内部抵抗率等の特長により電池の長寿命化に貢献する負極用水系バインダーのサンプルワークを開始しました。