当社の経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものであります。
(1)経営方針
経営理念として以下の通りミッション及びビジョンを策定し、再生医療の発展に貢献して参ります。
「ミッション」:価値ある、革新的な再生医療をリードし、世界の医療に貢献します。
「ビジョン」:細胞シートビジネスプラットフォームを確立して、最良の製品を世界に届けます。
(2)目標とする経営指標
当社は再生医療支援事業と細胞シート再生医療事業を展開しておりますが、いずれの事業もまだ継続的な利益を計上する前の段階にあります。ただし、細胞シート再生医療事業においては、早期売上高計上開始を目指して複数のパイプラインの研究開発を推進しております。また、再生医療支援事業においては、国内外の販売代理店を通じた各種細胞培養器材の販売を推進し、販売促進を通じた売上高増強に努めております。
当社は、以上のような売上高増加を目指した様々な事業活動を推進することによって、早期に継続的な黒字化を実現することを中長期的な最重要経営課題としております。
(3)経営環境及び対処すべき課題
① 再生医療支援事業に関する経営環境及び対処すべき課題
再生医療支援事業の最大の課題は、対象顧客層における当社細胞培養器材の認知度向上による売上高増加であります。現在国内外の販売代理店及び自社による販促活動に注力しておりますが、特に海外においては認知度向上余地が大きいと考えられます。その施策の1つとして、新規販売代理店の開拓は喫緊の課題であると認識しております。
顧客ニーズに対応した製品ラインナップの拡充も重要な課題であります。操作性の向上を目的とした新しい器材形態の開発や培養する細胞の特性に応じた培養器材表面の調整など様々な要望が顧客から寄せられており、当社でも具体的な検討作業を進めております。
また、臨床応用用途の製品開発も重要な課題であると考えております。現在、当社が市販している製品は研究開発用途を目的とした製品が主ですが、今後は臨床研究段階や再生医療等製品の製品化の際にも利用可能な製品開発も進めております。
さらに製造コストの引き下げ及び生産能力の拡充も重要課題の1つであります。現在、市販製品については大日本印刷株式会社に製造を委託して製品の安定供給を進めつつ、製造方法の抜本的な変革を目指し製造枚数を飛躍的に増やしつつ製造コストも引き下げる検討を進めて参ります。
② 細胞シート再生医療事業に関する経営環境及び対処すべき課題
(a) 細胞シート再生医療第1号製品の早期事業化
当社の使命である「細胞シート工学」という日本発の革新的再生医療技術を基盤として様々な「細胞シート再生医療」製品を開発し、その世界普及を推進するためには、当社細胞シート再生医療第1号製品を日本において早期事業化することが重要であります。当社は、まず国内での細胞シート再生医療等製品パイプラインの開発を自社主体で推進し、販売承認取得を目指します。また製造体制・販売体制の確立を通して事業化段階をより前進させつつ、海外展開においては他社との提携等も視野に入れ、細胞シート再生医療事業の拡大を目指して参ります。
(b) 細胞培養施設の運営
再生医療における細胞の培養には、細胞培養施設というバイオクリーンルーム設備が必要となります。当社は2016年に当該施設(細胞培養センター)を設置いたしましたが、当該施設は2014年11月施行の「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」に準拠した設備運営実現のための体制作りを終え、現在はその維持、向上を目指しております。
(c) 細胞シート培養技術者の育成
「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」の施行により、企業は医療機関からの臨床用細胞の培養の受託が可能となります。当社にとっては、細胞培養施設を所有しない、もしくは有しながらも人的リソースの不足などから効率的な運営ができないなどの問題を抱える大学病院や医療機関などから臨床用細胞シートの製造受託が可能となり、営業収益を拡大する機会となります。しかしながら、細胞シートの培養を適正かつ安全に行うには、十分な教育をうけた技術者の育成が必要であり、また高い技能を有した細胞培養技術者の育成は品質向上につながります。当社ではこれまで培ってきた細胞シート培養の経験やノウハウを活かし、臨床用細胞シートの培養を適正かつ安全に行うための細胞シート培養技術者の育成を進めて参ります。
③ 事業推進に必要な経営資源・インフラに関する経営環境及び対処すべき課題
(a) 事業資金の確保
当社では、研究開発活動の推進に伴い、運転資金、研究開発投資及び設備投資等、資金需要の増加が予想されます。このような資金需要に対応すべく当社は第三者割当増資や公募増資等を実施しましたが、今後さらにエクイティ・ファイナンス、事業提携の実現による開発中品目の上市前における収益化(一時金の獲得など)、国をはじめとする公的補助金、銀行からの借入等の活用などにより資金需要に対応して参ります。また、資金調達手段の多様化により継続的に当社の財務基盤の強化を図っていく方針であります。
(b) 人材の採用・育成
再生医療等製品の研究開発には様々な専門スキルを有する人材が必要であります。特に細胞シート再生医療は工学・細胞生物学・化学などの学際分野に属することから多様な専門人材の採用・育成が不可欠です。また、組織規模の拡大・多様化に対応した会社組織としてのガバナンス、従業員サポート、教育の質的向上にも尽力して参ります。
(4)中長期的な経営戦略
当社は経営の基本方針に基づき、当社が果たすべき基本的使命の確実な遂行により、外部環境の変化に対応して持続的な成長を実現するために、下記概要の通り計画を推進して参ります。
●日本で早期の同種軟骨細胞シートの製造販売承認申請を目指す。
●自己軟骨再生シートは東海大学より先進医療に係る製造を受託。先進医療を見据えて治験実施。
●日本発の細胞シート工学の世界展開のために事業提携を積極的に推進し収益の拡大を目指す。
●再生医療支援製品の新製品開発及び研究用細胞の大量培養を目的とした新たな市場への製品供給並びに海外売上の拡大による需要増加に対応した生産体制・能力を充実、拡大し、更なる収益機会の拡大を目指す。
●受託製造、コンサルティング事業を推進し、更なる収益機会獲得を目指す。
当社のサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。
当社は、経営理念であるMission「価値ある、革新的な再生医療をリードし、世界の医療に貢献します。」、Vision「細胞シートビジネスプラットホームを確立して、最良の製品を世界に届けます。」の下、「技術革新と創造性を発揮し、質の高い優れた製品とサービスの提供を通じ、人々の健康と福祉に貢献する」ことを使命として再生医療支援事業及び細胞シート再生医療事業を展開しております。
これらの事業は国連で定められたSDGs(持続可能な開発目標)「17の目標」「3 全ての人に健康と福祉を」に通じるものです。
気候変動をはじめとする環境問題は、社会・企業活動に様々な影響を与えており、これらの課題への対応を経営の重要事項として捉え、様々な側面から持続可能な社会の実現に向けて「気候変動関連課題」へ取り組んでいく予定です。
本書提出日現在において、当社に影響を与えると考えられるリスク・機会のうち、サステナビリティ関連課題の特定や抽出は行っておらず、今後具体的な検討をはじめる予定です。
(1)ガバナンス
当社は、リスクや重要課題に関する活動を管理・推進する経営会議において、環境問題等のサステナビリティに関する課題の特定、対応策の検討等について取り組んでいく予定です。
(2)戦略
当社は、本書提出日現在においてはリスクの特定、機会への対処等を経営戦略として取り組んでおりませんが、今後、具体的な課題の特定、抽出を行い、必要に応じて対応策を取り組んでいく予定です。
①人材育成方針
当社の持続的成長や事業価値の向上において、人材は最も重要な経営資源であると考えております。再生医療等製品の研究開発には様々な専門スキルを有する人材が必要であり、特に細胞シート再生医療は工学・細胞生物学・化学などの学際分野に属することから、ジェンダーレスで多様性ある専門人材の採用・育成を積極的に行って参ります。また、日本国内のみならずグローバルで活躍できる人材の採用・育成にも注力する方針です。今後も組織規模の拡大・多様化に対応した会社組織としてのガバナンス、従業員サポート、教育の質的向上にも尽力して参ります。
②社内環境整備方針
当社はフレックスタイム制度や在宅勤務制度により、柔軟な働き方を推奨し、ワークライフバランスを実現しやすい社内環境を構築しております。今後も継続して環境整備をはじめとした取組を推進して参ります。
(3)リスク管理
当社は、社内外の様々なリスクを包括的にかつ適切に管理・運営するための経営会議を設置し、定期的に開催しています。
今後はサステナビリティに関する項目についても事務局を設置し、具体的な議案として取り上げ、推進していく予定です。
(4)指標及び目標
以下において、当社の事業展開その他に関するリスク要因となる可能性があると考えられる主な事項を記載しております。当社は、これらのリスク発生の可能性を認識した上で、発生の回避及び発生した場合の対応に努める方針でありますが、リスクの発生を全て回避できる保証はありません。また、以下の記載は当社に関連するリスクすべてを網羅するものではありませんのでご留意ください。
なお、本項中の記載内容については、将来に関する事項は本書提出日現在において当社が判断したものであります。
① 再生医療支援事業・細胞シート再生医療事業の双方に共通するリスク
(a) 知的財産権に関するリスク
当社は研究開発活動等に必要な様々な知的財産権を保有しており、これらは当社所有の権利・ノウハウであるか、あるいは適法に実施許諾を受けた権利・ノウハウであると認識しております。現在当社では事業に必要な特許を原則として全て自社で確保する方針を採用しており、例えば各再生医療パイプラインに関する基本的な特許については当社が出願人となって既に出願しております。さらに順次周辺特許の出願等を通じた特許網の拡充にも取り組んでおりますが、一方で出願中の特許については登録に至らない可能性が存在します。また重要なノウハウについては秘密保持契約を課すなどして管理しておりますが、第三者が独自に同様又は類似のノウハウの開発・知得に成功する可能性は否定できません。出願中特許が成立しない場合、事業に必要な特許が何らかの理由で確保できない場合、あるいは当社ノウハウと同様あるいは類似のノウハウを第三者が開発又は知得した場合、当社の事業戦略や経営成績及び外部企業との提携関係に重大な影響を及ぼす可能性があります。
このような可能性が何らかの形で現実化した場合には当社の財政状態と経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
なお、当社の重要な知的財産権については定期的に関連特許出願状況等をチェックしており、重大な問題が生じる前に逸早く対策を打つことができるよう体制の整備を図っております。さらに、継続的に新規特許を出願することによって、当社特許網の拡充に努めております。
(b) 技術革新に伴う競合リスク
当社は細胞シート工学を基盤技術として細胞シート再生医療等製品・再生医療支援製品の研究開発を進めております。再生医療事業に本格参入している企業はまだ比較的少ないものの、研究開発を進めながら参入を検討している潜在的競合相手は少なくないと想定しております。さらに、本業界における技術の進歩は速く、後発参入製品の機能は先発製品の機能を少なからず上回り、競争が激化することが容易に想定されます。それら競合相手の中には、技術力、マーケティング力、財務状況等において当社と比較して優位にあると思われる企業もあり、製品機能だけでなく、製造能力や生産性及びマーケティング・販売力などで当社を上回る可能性が考えられます。このため、当社は早期の事業化・収益化を目指しておりますが、これら競合相手との競争においては、計画どおりの収益を上げることができない可能性があります。
(c) 製造物責任に関するリスク
医薬品・医療機器・再生医療等製品の設計、開発、製造及び販売には、製造物責任賠償のリスクが内在しております。当社は細胞培養器材について製造物責任保険を一部付保しておりますが、最終的に当社が負担すべき賠償額を全額カバーできるとは限りません。従いまして、当社製品の欠陥等による事故が発生した場合、当社が開発した細胞シート再生医療等製品が患者の健康被害を引き起こした場合、又は当社製品の治験、製造、人道的使用に関する説明、営業もしくは販売において不適当な点が発見された場合には、製造物責任を負う可能性があり、当社の事業及び財務状況に重大な悪影響を及ぼす可能性があります。また、このような事例において結果として当社の過失が否定されたとしても、当社に対する製造物責任に基づく損害賠償請求等がなされること自体によるネガティブ・イメージにより、当社製品に対する信頼に悪影響が生じ、当社の事業に影響を与える可能性があります。
(d) 研究開発活動に由来するリスク
当社は研究開発型企業として、産学連携のもと、大学との共同研究や治験を進めております。また当社が手掛けている細胞シート再生医療事業及び再生医療支援事業そのものが新しいため、社内のほぼすべての部署が直接的又は間接的に研究開発に深く関与しており事業予算に占める研究開発費は多額なものとなっております。
しかしながら、研究開発活動が計画どおりに進む保証はなく、当該研究開発の成果が当社の予想どおりに上がらず、当社の事業戦略、業績及び財政状態に影響を与える可能性があります。
当社が進めている細胞シート再生医療事業及び再生医療支援事業は、製品開発に長期間を要し、かつ、細胞シート再生医療事業での治験承認や製造販売承認等の薬事承認プロセスにも不確定要素が多いため、事業計画における研究開発期間が想定以上に延びた場合等に、研究開発費の負担増が当社業績を圧迫するなど経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
(e) ビジネスモデルに由来するリスク
ⅰ)大学及び研究機関等との関係に由来するリスク
当社は、東京女子医科大学・東海大学を始めとする大学や他の研究機関との連携を通じて、研究開発活動や事業基盤の強化を行っております。具体的には、当社の事業に関し、大学教員と顧問契約を締結して技術指導を受ける、または大学・研究機関等と共同研究を行うなどしております。しかしながら、大学教員と企業との関係は法令や各大学の規程等に影響を受ける可能性があり、また国立大学の独立行政法人化により大学の知的財産権に対する意識も変化しつつあります。従いまして、当社の希望どおりに共同研究や権利の譲受を行うことができない可能性があり、かかる場合には当社の事業戦略や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
ⅱ)提携に関するリスク
当社の事業計画には、外部企業との提携関係を前提にした部分が存在します。前提となっている提携関係には既に契約済みのものと今後契約することを想定したものの両方がありますが、既に契約済みの提携については提携先の都合による契約終了や契約条件変更のリスクがあり、今後契約することを想定した提携については想定どおりの時期・条件で契約できないリスクが存在します。いずれの場合が現実化した場合でも、当社の事業戦略や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
② 再生医療支援事業に関するリスク
現在当社は、販売代理店を通じて日本国内・海外双方でUpCellを始めとする各種細胞培養器材を販売しております。当社の再生医療支援事業の製品は多くはこれまでに例をみない全く新しい種類の製品であり、付加価値が大きい分、価格も高く設定されております。従いまして、今後必ずしも当社計画どおり販売数量が伸びるとは限らず、また販売促進などの理由から価格を下げる戦略を採用した結果収益性が低下する可能性も否定できません。また当社では、温度応答性細胞培養器材の生産能力の大幅増強や生産コストの引き下げ、さらには新しい温度応答性細胞培養器材の研究開発に取り組んでおりますが、これらの取り組みが実際に当社の事業計画や経営成績に与えるインパクトについては現時点では定かではありません。
③ 細胞シート再生医療事業に関するリスク
(a) 先端医療に関する事業であることに由来するリスク
まず一般論として、再生医療は世界的に見てまだ本格的な普及段階に至っておらず、特に日本では最近まで主に特定の医師・医療機関が用いる高度な医療技術として比較的限定された範囲での臨床応用を中心として行われてきた経緯があります。
こういった現状の背景には、最先端の医療・医薬品に特有の課題やリスクが存在します。まず再生医療の基盤となる学問や技術が急速な進歩を遂げている中で再生医療等製品そのものに関する研究開発も非常に速いスピードで進んでおり、日々新しい研究開発成果や安全性・有効性に関する知見が生まれて来ています。当社の基盤技術である細胞シート工学は現時点では新規性の高い再生医療技術であり、また学術的に見ても安全性・有効性・応用可能性ともに他の再生医療等製品よりも優れていると自負しておりますが、一方で常に急激な技術革新の波に追い越されるリスクや想定していない副作用が出るリスクが存在し、またそのために当社の事業戦略や経営成績に重大な影響が出る可能性があります。
(b) 法規制改正・政府推進政策等の変化に由来するリスク
再生医療等製品に関連する法規制についても、最新の技術革新の状況に対応すべく常時変更や見直しがなされる可能性があります。例えば、法律・ガイドライン等の追加・改正により、これまで使用が認められてきた原材料が突然全く使用できなくなるといったリスクや当社の想定通りの内容で薬事承認が下りない又は薬事承認の取得に想定以上の時間を要するといったリスクも否定できません。また世界的な医療費抑制の流れの中で、当社が想定している製品価値よりも低い薬価・保険償還価格となる可能性もあります。当然このような場合には、当社の事業戦略や経営成績に重大な影響が出る可能性があります。
(c) 事業基盤の整備・確立に係るリスク
細胞シート再生医療事業には、まだ確立された事業基盤が存在しないことに起因するリスクが存在します。細胞シート再生医療事業を長期的に持続可能な事業構造にするためには様々な事業基盤の整備・確保が必要で、その一部には当社のみならず関連する官庁・企業・業界も一緒になって整備・拡充に取り組む必要がある社会的基盤もあります。また、当社は再生医療等製品の製造企業としての製品供給体制の確立へ向けた取り組みを推進しております。こういった取り組みの中には、先行投資を回収し得る利益率を達成できるだけの製造原価低減、医師に適切な内容・量の製品情報を届けることができるマーケティング・販売体制の構築、製造販売開始後のフォローアップ体制の確立など多くの課題が存在し、その解決のためには時間と多額の費用が必要となります。さらに言えば、当社の想定どおりに市場を開拓することができる保証はございません。当社では大手製薬企業などで豊富な実務経験を積んだスタッフを採用して事業基盤の確立に取り組んでおりますが、細胞シート再生医療事業の基盤の整備・構築にあたっては上述の通り当社の事業戦略や経営成績に重大な影響を及ぼす不測の事態が発生するリスクが存在します。
(d) ヒト又は動物由来の原材料の使用に関するリスク
一般的に、再生医療等製品はヒト細胞・組織を利用したものであり、利用するヒト細胞・組織に由来する感染の危険性を完全に排除し得ないことなどから安全性に関するリスクが存在するとされています。
また、やはり一般的に再生医療等製品は、原材料や製造工程で使用する培地に動物由来原料を使用することがあり、この動物由来原料の使用によって未知のウイルスによる被害等が発生する可能性を否定できません。
以上のように、一般的に再生医療等製品には原材料として使用するヒト又は動物由来材料に起因する感染リスクなどヒト又は動物由来材料(又はその一部)が患者の体内に移植されることに伴うリスクが存在し、そのリスクが当社の事業及び財務状況に重大な悪影響を及ぼす可能性は否定できません。
また、このような事例について当社の過失が否定されたとしても、ネガティブ・イメージによる業界全体及び当社製品に対する信頼に悪影響が生じ、当社の事業に影響を与える可能性があります。
④ 財務状況に由来するリスク
(a) マイナスの利益剰余金を計上していることに由来するリスク
現時点では当社は研究開発活動を中心とした企業であり、細胞シート再生医療等製品が販売されるようになるまでは多額の研究開発費用が先行して計上されることとなります。そのため、当事業年度末において△1,606,214千円の利益剰余金を計上しております。
当社は、将来の利益拡大を目指しております。しかしながら、当社は将来において想定どおりに当期純利益を計上できない可能性もあります。また、当社の事業が計画どおりに進展せず当期純利益を獲得できない場合には、マイナスの利益剰余金がプラスとなる時期が著しく遅れる可能性があります。
(b) 税務上の繰越欠損金に関するリスク
当社には現在のところ税務上の繰越欠損金が存在しております。そのため、事業計画の進展から順調に当社業績が推移するなどして繰越欠損金による課税所得の控除が受けられなくなった場合には、通常の税率に基づく法人税、住民税及び事業税が計上されることとなり、当期純利益又は当期純損失及びキャッシュ・フローに影響を与える可能性があります。
(c) 資金繰り及び資金調達に関するリスク
当社では、研究開発活動の推進に伴い営業キャッシュ・フローのマイナスが生じており、今後も事業の進捗に伴って運転資金、研究開発投資及び設備投資等の資金需要が想定されます。このような資金需要に対応すべく当社はこれまでに第三者割当増資や公募増資等を実施しましたが、今後さらにエクイティ・ファイナンス、事業提携の実現による開発中品目の上市前における収益化(一時金の獲得など)、国をはじめとする公的補助金等の活用などにより資金需要に対応していく方針です。また、資金調達手段の多様化により継続的に当社の財務基盤の強化を図ってまいりますが、エクイティ・ファイナンスや売上収入・提携一時金及び公的助成金・補助金等の獲得を含めた資金調達が想定どおり進まない場合等、資金繰りの状況によっては当社の事業活動等に重大な影響を与える可能性があります。
また、将来増資などのエクイティ・ファイナンスを実施した場合には、当社の発行済株式数が増加することにより1株当たりの株式価値が希薄化する可能性があります。
(d) 配当政策に関するリスク
当社は設立以来配当を実施しておりません。また、当社は研究開発活動を継続的に実施していく必要があることから、当面は内部留保の充実に努め研究開発資金の確保を優先することを基本方針としております。また、株主への利益還元も重要な経営課題の1つであると認識しており、経営成績と財政状態を勘案して利益配当も検討してまいります。しかしながら、事業等の進捗によっては利益配当までに時間を要する可能性があります。
⑤ 新株予約権の行使による株式価値の希薄化に関するリスク
当社は、ストック・オプション制度を採用しております。2015年8月13日開催、2017年8月10日開催及び2020年7月21日開催の取締役会において会社法第236条、第238条及び第240条の規定に基づく新株予約権付与に関する決議を行いました。当該新株予約権の行使が行われた場合には、当社の1株当たりの株式価値が希薄化する可能性があります。また、今後も優秀な人材確保のために、同様なインセンティブプランを継続して実施していくことを検討しております。従いまして、今後付与される新株予約権の行使が行われた場合には、当社の1株当たりの株式価値が希薄化する可能性があります。
また当社は2023年5月15日開催の取締役会において第三者割当による新株予約権の発行による資金調達を決議いたしました。当該新株予約権の行使が行われた場合には、当社の1株当たりの株式価値が希薄化する可能性があります。
⑥ 人材及び組織に関するリスク
(a) 特定の人材への依存に由来するリスク
当社では、過度に特定の人材に依存しない組織的な経営体制の構築を進めておりますが、現時点で何らかの事由で特定の人材が当社の業務を継続することが困難になった場合、当社の事業展開や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
(b) 人材の確保及び育成に関するリスク
当社の事業活動は、現在の経営陣、各部門の責任者と構成員等に大きく依存しております。そのため、優秀な人材の確保と育成に努めておりますが、人材確保又は育成が計画どおりに行えない場合、当社の事業展開や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
(c) 小規模組織であることに由来するリスク
当社の組織は小規模であり、内部管理体制も規模に応じたものとなっております。今後の事業拡大に伴い、内部管理体制の一層の充実を図る方針ではありますが、当社が事業拡大に応じて適切かつ十分な組織対応ができない場合には、組織効率が低下したり十分な事業活動が行えない可能性があります。また、人員の増加とそれに連動する人件費の増加によって、経営効率が低下する可能性があります。
⑦ 訴訟について
当社は国内外で事業を遂行する上で、訴訟やその他の法的手段の当事者となる可能性があり、重要な訴訟等が提起された場合又は事業遂行の制限が加えられた場合、当社の財政状態、経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
なお、当社は2024年2月6日付で三顧股份有限公司(MetaTech(AP)Inc.)から契約上の地位確認等請求の訴訟を提起されております(訴状送達日、2024年3月7日)。当社は、2023年12月18日付で三顧股份有限公司(MetaTech(AP)Inc.)に対し、独占的事業提携契約の条項に則り、締結済みの全ての契約関係を解消することとしておりましたが、三顧股份有限公司(MetaTech(AP)Inc.)は、訴状において当該契約関係の解消の無効を主張し、当該契約上の当事者の地位にあることの確認を求めております。当社は、三顧股份有限公司(MetaTech(AP)Inc.)の訴えとは法的見解を異にしており、今後、訴訟において適切に対応してまいります。現時点では当社の財政状態、経営成績に与える影響はないと判断しておりますが、今後、裁判の結果によっては、当社の財政状態、経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
⑧ 継続企業の前提に関する重要事象等
当社は、当社新株予約権の行使による資金調達の実施により、当事業年度末の手元資金(現金及び預金)残高は2,163,292千円となり、財務基盤については安定的に推移しております。一方で事業面におきましては細胞シート再生医療事業の重要課題である当社細胞シート再生医療第1号製品の早期事業化の道程を示すまでには至っておらず、当社は当事業年度末において、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在していると判断しております。
当社は当該状況の解消を図るべく、以下の施策に取り組んで参ります。
当社細胞シート再生医療第1号製品の早期事業化の実現と事業提携の推進による収益機会の獲得
当社は、今後、同種軟骨細胞シートの開発を推進し、当社細胞シート再生医療第1号製品の早期事業化を実現すること、また事業提携先の開拓を通じて、更なる収益機会を獲得していくことで当該状況の解消を図って参ります。
(1)財政状態及び経営成績の概要
①財政状態
(資産)
当事業年度末の流動資産は、前事業年度末に比べて1,119,873千円増加し、2,351,811千円となりました。これは、原材料及び貯蔵品が9,068千円減少した一方で、現金及び預金が1,091,081千円増加したことなどによります。
当事業年度末の固定資産は、前事業年度末に比べて198,025千円減少し、113,957千円となりました。これは、投資有価証券が19,788千円増加した一方で、関係会社株式が119,478千円、有形固定資産が98,334千円減少したことなどによります。
この結果、当事業年度末の総資産は、前事業年度末に比べて921,847千円増加し、2,465,768千円となりました。
(負債)
当事業年度末の流動負債は、前事業年度末に比べて57,126千円減少し、123,569千円となりました。これは、未払金が44,015千円増加した一方で、前受金が121,648千円減少したことなどによります。
当事業年度末の固定負債は、前事業年度末に比べて7,409千円減少し、177,478千円となりました。これは、長期借入金が7,500千円減少したことなどによります。
この結果、当事業年度末の負債合計は、前事業年度末に比べて64,535千円減少し、301,047千円となりました。
(純資産)
当事業年度末の純資産合計は、前事業年度末に比べて986,383千円増加し、2,164,721千円となりました。これは、当期純損失を846,534千円計上した一方で、新株予約権の行使による株式の発行により資本金及び資本剰余金がそれぞれ916,934千円増加したことなどによります。
②経営成績
当事業年度におけるわが国経済は、新型コロナウイルス感染症の5類移行による行動制限の緩和やインバウンド需要の回復、賃金上昇を中心とした雇用環境の改善による個人消費の回復などの要因から、緩やかな回復基調で推移しました。一方で、長期化するウクライナ情勢に加え、中東情勢の緊迫化、原材料やエネルギー価格の高騰などによる物価の上昇等により、依然として先行き不透明な状況が続いております。
当社はこのような環境の下、コスト削減による財務体質の改善と安定的な財務基盤の確立を図りつつ、再生医療支援事業及び細胞シート再生医療事業における活動を推進いたしました。
この結果、当事業年度における売上高は190,134千円(前事業年度比50.4%の増加)、営業損失は697,776千円(前事業年度比45,438千円の減少)、経常損失は710,276千円(前事業年度比43,997千円の減少)、当期純損失は846,534千円(前事業年度比86,853千円の増加)となりました。
セグメントごとの経営成績は次のとおりであります。
(a)再生医療支援事業(細胞培養器材、製造受託など)
細胞培養器材事業では、器材製品の拡販に向けた既存代理店との協業強化、2023年3月開催の第22回再生医療学会総会への付設展示会に当社ブースを出展するなど、当社器材製品の積極的な販売促進活動の結果、特に海外売上が前年比大幅に増加し、細胞培養器材事業としては過去最高の売上を達成することが出来ました。
今後は、主要販売代理店からの売上情報等の収集分析などにより、より慎重な判断のもとで既存製品の販売だけでなく、顧客ニーズ、市場動向に合致した新製品開発のための研究開発に注力し、新規の顧客を獲得できるよう努めてまいります。
再生医療受託事業では、再生医療等安全性確保法に基づき特定細胞加工物製造許可を取得した細胞培養センター(CPC)において、主に細胞シートの製造を受託しております。当事業年度においても、先進医療の治療が行われている共同研究先の東海大学から、自己軟骨細胞シートの製造を年間7症例受託した結果、再生医療受託事業も過去最高の売上を達成することが出来ました。
また、当社の知名度及び日本発、世界初の「細胞シート工学」の認知度向上のため、2019年、2021年に続き、2023年11月には、当社主催の第3回細胞シート工学イノベーションフォーラムを開催いたしました。全国から多数のアカデミア及び企業からの参加があり、「細胞シート工学」やその周辺技術に関わる活発な議論が展開されました。事業提携、協業、製造受託などの新たな取引先の開拓も期待できることから、第4回目の細胞シート工学イノベーションフォーラムは2025年に開催する予定であります。
以上のような活動の結果、当事業年度における売上高は182,334千円(前事業年度比66,320千円の増加)、営業損失は32,438千円(前事業年度比57,870千円の減少)となりました。
(b)細胞シート再生医療事業
細胞シート再生医療事業では、同種軟骨細胞シートの再生医療等製品の自社開発を中心とした研究開発を継続して推進しております。
食道再生上皮シートについては、2020年10月に治験届を提出後、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)から受けた細胞シートの製造方法に関する指摘への対応を検討してまいりました。しかし、PMDAと相談を重ねた結果、製造方法の改良には、製造方法変更前後の同等性の評価のために治験期間が延長の見通しとなり、事業性への懸念が生じたため、高い成長と収益性が見込める同種軟骨細胞シート開発に経営資源を集中することを目的として、治験の中止及び食道再生上皮シートの開発を中断することと致しました。
同種軟骨細胞シートは、「同種軟骨細胞シート(CLS2901C)の製品化に向けたセルバンク構築を含む企業治験開始のための研究開発」について、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受けながら開発を進めた結果、企業治験に使用する同種軟骨細胞シートを製造するための原料として、有効性と安全性を確認したマスターセルバンクを確立することができました。2023年9月20日には、同種軟骨細胞シート(CLS2901C)の第3相試験の治験届をPMDAに提出し、その後、PMDAによる治験届の30日調査が終了しました。現在、各治験実施施設での倫理審査(IRB)、治験実施契約締結を進めておりますが、手続きに時間を要しており、現時点では2024年の上半期中に被験者登録が始まる見通しです。
事業提携活動につきましては、事業化の加速、また将来の同種軟骨細胞シートの販売に向けて、引き続き複数の会社との事業提携及び共同研究契約の締結に向けた活動を積極的に行っております。なお、2023年12月に公表のとおり、独占的事業提携契約を締結しておりました「三顧股份有限公司(MetaTech(AP) Inc.」と契約関係を解消しましたが、今後も、引き続き新規の提携契約を獲得できるように努めてまいります。
以上のような活動の結果、売上高は7,799千円(前事業年度比2,614千円の減少)、営業損失は468,691千円(前事業年度比5,711千円の増加)となりました。
③キャッシュ・フローの状況
当事業年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という)の残高は、前事業年度末に比べて1,091,081千円増加し、2,163,292千円となりました。当事業年度に係る区分ごとのキャッシュ・フローの状況は以下のとおりです。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度において営業活動に使用した資金は779,435千円(前事業年度比61,428千円の支出増)となりました。これは、税引前当期純損失を845,584千円計上したことなどによるものです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度において投資活動の結果獲得した資金は56,315千円(前事業年度比5,413千円の収入減)となりました。これは、有形固定資産の取得による支出21,632千円、関係会社株式の売却による収入75,820千円などによるものです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度において財務活動の結果獲得した資金は1,814,201千円(前事業年度比932,386千円の収入増)となりました。これは、新株予約権の行使による株式の発行による収入1,819,700千円などによるものです。
④重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しています。
この財務諸表を作成するにあたって、資産、負債、収益及び費用の報告額に影響を及ぼす見積り及び仮定を用いていますが、これらの見積り及び仮定に基づく数値は実際の結果と異なる可能性があります。
財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載のとおりです。
⑤生産、受注及び販売の実績
(a)生産実績
|
セグメント |
当事業年度 (自 2023年1月1日 至 2023年12月31日) |
前年同期比(%) |
|
再生医療支援事業(千円) |
76,209 |
168.0 |
|
細胞シート再生医療事業(千円) |
743 |
71.9 |
|
合計(千円) |
76,952 |
165.9 |
(b)受注実績
当社は受注生産を行っておりませんので、該当事項はありません。
(c)販売実績
当事業年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
|
セグメント |
当事業年度 (自 2023年1月1日 至 2023年12月31日) |
前年同期比(%) |
|
再生医療支援事業(千円) |
182,334 |
157.2 |
|
細胞シート再生医療事業(千円) |
7,799 |
74.9 |
|
合計(千円) |
190,134 |
150.4 |
(注)1 最近2事業年度の主要な輸出先及び輸出販売高並びに割合は、次のとおりであります。
なお、( )内は販売実績に対する輸出高の割合であります。
|
輸出先 |
前事業年度 |
当事業年度 |
||
|
金額(千円) |
割合(%) |
金額(千円) |
割合(%) |
|
|
欧州 |
43,146 |
86.4 |
112,350 |
94.2 |
|
アジア |
6,813 |
13.6 |
6,882 |
5.8 |
|
合計 |
49,960 (39.5%) |
100.0 |
119,233 (62.7%) |
100.0 |
2 最近2事業年度の主要な販売先及び販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。
|
相手先 |
前事業年度 |
当事業年度 |
||
|
金額(千円) |
割合(%) |
金額(千円) |
割合(%) |
|
|
Thermo Fisher Scientific Inc. |
43,146 |
34.1 |
112,350 |
59.1 |
|
フナコシ(株) |
49,823 |
39.4 |
37,618 |
19.8 |
|
学校法人東海大学 |
10,954 |
8.7 |
25,777 |
13.6 |
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容は次のとおりであります。なお、将来に関する事項は当事業年度年度末日現在において判断したものであり、リスクや不確実性を含んでいます。将来生じる実際の結果と大きく異なる可能性もありますのでご留意ください。
①財政状態の分析
(資産)
当事業年度末の流動資産は、前事業年度末に比べて1,119,873千円増加し、2,351,811千円となりました。これは、原材料及び貯蔵品が9,068千円減少した一方で、現金及び預金が1,091,081千円増加したことなどによります。
当事業年度末の固定資産は、前事業年度末に比べて198,025千円減少し、113,957千円となりました。これは、投資有価証券が19,788千円増加した一方で、関係会社株式が119,478千円、有形固定資産が98,334千円減少したことなどによります。
この結果、当事業年度末の総資産は、前事業年度末に比べて921,847千円増加し、2,465,768千円となりました。
(負債)
当事業年度末の流動負債は、前事業年度末に比べて57,126千円減少し、123,569千円となりました。これは、未払金が44,015千円増加した一方で、前受金が121,648千円減少したことなどによります。
当事業年度末の固定負債は、前事業年度末に比べて7,409千円減少し、177,478千円となりました。これは、長期借入金が7,500千円減少したことなどによります。
この結果、当事業年度末の負債合計は、前事業年度末に比べて64,535千円減少し、301,047千円となりました。
(純資産)
当事業年度末の純資産合計は、前事業年度末に比べて986,383千円増加し、2,164,721千円となりました。これは、当期純損失を846,534千円計上した一方で、新株予約権の行使による株式の発行により資本金及び資本剰余金がそれぞれ916,934千円増加したことなどによります。
②経営成績の分析
セグメントごとの経営成績は次のとおりであります。
細胞培養器材事業では、器材製品の拡販に向けた既存代理店との協業強化、2023年3月開催の第22回再生医療学会総会への付設展示会に当社ブースを出展するなど、当社器材製品の積極的な販売促進活動の結果、特に海外売上が前年比大幅に増加し、細胞培養器材事業としては過去最高の売上を達成することが出来ました。
今後は、主要販売代理店からの売上情報等の収集分析などにより、より慎重な判断のもとで既存製品の販売だけでなく、顧客ニーズ、市場動向に合致した新製品開発のための研究開発に注力し、新規の顧客を獲得できるよう努めてまいります。
再生医療受託事業では、再生医療等安全性確保法に基づき特定細胞加工物製造許可を取得した細胞培養センター(CPC)において、主に細胞シートの製造を受託しております。当事業年度においても、先進医療の治療が行われている共同研究先の東海大学から、自己軟骨細胞シートの製造を年間7症例受託した結果、再生医療受託事業も過去最高の売上を達成することが出来ました。
また、当社の知名度及び日本発、世界初の「細胞シート工学」の認知度向上のため、2019年、2021年に続き、2023年11月には、当社主催の第3回細胞シート工学イノベーションフォーラムを開催いたしました。全国から多数のアカデミア及び企業からの参加があり、「細胞シート工学」やその周辺技術に関わる活発な議論が展開されました。事業提携、協業、製造受託などの新たな取引先の開拓も期待できることから、第4回目の細胞シート工学イノベーションフォーラムは2025年に開催する予定であります。
以上のような活動の結果、当事業年度における売上高は182,334千円(前事業年度比66,320千円の増加)、営業損失は32,438千円(前事業年度比57,870千円の減少)となりました。
細胞シート再生医療事業では、同種軟骨細胞シートの再生医療等製品の自社開発を中心とした研究開発を継続して推進しております。
食道再生上皮シートについては、2020年10月に治験届を提出後、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)から受けた細胞シートの製造方法に関する指摘への対応を検討してまいりました。しかし、PMDAと相談を重ねた結果、製造方法の改良には、製造方法変更前後の同等性の評価のために治験期間が延長の見通しとなり、事業性への懸念が生じたため、高い成長と収益性が見込める同種軟骨細胞シート開発に経営資源を集中することを目的として、治験の中止及び食道再生上皮シートの開発を中断することと致しました。
同種軟骨細胞シートは、「同種軟骨細胞シート(CLS2901C)の製品化に向けたセルバンク構築を含む企業治験開始のための研究開発」について、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受けながら開発を進めた結果、企業治験に使用する同種軟骨細胞シートを製造するための原料として、有効性と安全性を確認したマスターセルバンクを確立することができました。2023年9月20日には、同種軟骨細胞シート(CLS2901C)の第3相試験の治験届をPMDAに提出し、その後、PMDAによる治験届の30日調査が終了しました。現在、各治験実施施設での倫理審査(IRB)、治験実施契約締結を進めておりますが、手続きに時間を要しており、現時点では2024年の上半期中に被験者登録が始まる見通しです。
事業提携活動につきましては、事業化の加速、また将来の同種軟骨細胞シートの販売に向けて、引き続き複数の会社との事業提携及び共同研究契約の締結に向けた活動を積極的に行っております。なお、2023年12月に公表のとおり、独占的事業提携契約を締結しておりました「三顧股份有限公司(MetaTech(AP) Inc.」と契約関係を解消しましたが、今後も、引き続き新規の提携契約を獲得できるように努めてまいります。
以上のような活動の結果、売上高は7,799千円(前事業年度比2,614千円の減少)、営業損失は468,691千円(前事業年度比5,711千円の増加)となりました。
③キャッシュ・フローの分析
当事業年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という)の残高は、前事業年度末に比べて1,091,081千円増加し、2,163,292千円となりました。当事業年度に係る区分ごとのキャッシュ・フローの状況は以下のとおりです。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度において営業活動に使用した資金は779,435千円(前事業年度比61,428千円の支出増)となりました。これは、税引前当期純損失を845,584千円計上したことなどによるものです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度において投資活動の結果獲得した資金は56,315千円(前事業年度比5,413千円の収入減)となりました。これは、有形固定資産の取得による支出21,632千円、関係会社株式の売却による収入75,820千円などによるものです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度において財務活動の結果獲得した資金は1,814,201千円(前事業年度比932,386千円の収入増)となりました。これは、新株予約権の行使による株式の発行による収入1,819,700千円などによるものです。
④資本の財源及び資金の流動性
当社は引き続き細胞シート再生医療の実現に向けた研究開発投資を推進する予定であります。そのために必要となる今後の資金については、現有手許資金を充当する他、公的助成・補助の活用、エクイティ・ファイナンスを含めた金融的手法など様々な手段を活用して機動的に手当てを行う方針です。
⑤経営成績に重要な影響を与える要因について
当社は、細胞シート工学という日本発の革新的再生医療技術を基盤として様々な細胞シート再生医療等製品を開発し、その世界普及を目指しております。
当社の基盤技術である細胞シート工学は、バラバラの細胞から生体組織・臓器の基本単位となる「細胞シート」を生体外で人工的に作製することができる再生医療基盤技術です。
細胞シート再生医療については既に様々な組織の再生に関する臨床研究が実施されており、実際にヒト患者治療における基本的な安全性・有効性を示唆する科学的エビデンスが示され始めています。
また2014年11月に「医薬品医療機器法」並びに「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」が施行され、日本における再生医療を取り巻く環境が大きく変化し、再生医療等製品の産業化が進みつつあります。この日本における大きな外部環境の変化を活かしつつ、上記概要の通り計画を推進して参ります。
⑥経営戦略の現状・問題認識と今後の方針について
上述⑤のような状況の中、この日本における大きな外部環境の変化を活かすべく、下記概要の通り計画を推進して参ります。
●日本で早期の同種軟骨細胞シートの製造販売承認申請を目指す。
●自己軟骨再生シートは東海大学より先進医療に係る製造を受託。先進医療を見据えて治験実施。
●日本発の細胞シート工学の世界展開のために事業提携を積極的に推進し収益の拡大を目指す。
●再生医療支援製品の新製品開発及び研究用細胞の大量培養を目的とした新たな市場への製品供給並びに海外売上の拡大による需要増加に対応した生産体制・能力を充実、拡大し、更なる収益機会の拡大を目指す。
●受託製造、コンサルティング事業を推進し、更なる収益機会獲得を目指す。
当社の経営上の重要な契約は次のとおりであります。
(1)再生医療支援事業に関する販売代理店契約・販売契約
|
契約相手 |
契約書名 |
契約内容 |
契約期間 |
|
フナコシ株式会社 |
販売代理店基本契約書 |
温度応答性細胞培養器材、超低付着性細胞培養器材の日本国内における独占的販売を認める基本契約 |
2019年9月1日から1年間(1年毎の自動更新) |
|
Nunc A/S(Thermo Fisher Scientific) |
Amendment No.1 to DISTRIBUTION AGREEMENT |
温度応答性細胞培養器材、超低付着性細胞培養器材及び細胞シート回収用支持体の一部の国・地域以外における独占的販売を認める基本契約の有効期間を2025年6月30日まで延長する契約 |
2011年5月13日から2025年6月30日まで(原契約であるDISTRIBUTION AGREEMENTの有効期間) |
(2)細胞培養器材 製造委託基本契約
|
契約相手 |
契約書名 |
契約内容 |
契約期間 |
|
大日本印刷株式会社
|
器材製造委託基本契約書
|
温度応答性細胞培養器材及び超低付着性細胞培養器材の製造委託に関する基本条件を定める契約。 |
2020年8月1日から2021年12月31日まで(但し1年毎の自動更新規定有り) |
(3)角膜再生上皮シート製造・販売提携契約
|
契約相手 |
契約書名 |
契約内容 |
契約期間 |
|
Teva Pharmaceutical Industries Ltd. (Teva) |
Distribution Agreement |
イスラエル(ヨルダン川西岸を含む)における角膜再生上皮シートの独占的販売、及び売上高に応じて定められた比率に基づく対価のTevaによる支払い |
2007年12月31日から、左記の国内で角膜再生上皮シートが上市された日より10年を経過した日まで |
|
Orphan Australia Pty Ltd(Orphan) |
Definitive Agreement |
オーストラリア、ニュージーランド、インドネシア、マレーシア、シンガポールにおけるOrphanによる角膜再生上皮シートの独占的製造及び販売、販売単価及び年間売上額に応じて定められた比率による両社での利益の按分 |
2008年1月21日から、左記5カ国で最も遅く角膜再生上皮シートが上市された国の導入日より15年経過した日まで |
(4)自己由来口腔粘膜上皮細胞シートの製造委託契約
|
契約相手 |
契約書名 |
契約内容 |
契約期間 |
|
国立研究開発法人 国立成育医療研究センター |
細胞シート製造委託契約書 |
先天性食道閉鎖症術後の小児を対象とした再生治療の検討等における自己由来口腔粘膜上皮細胞シートの製造に関する業務の委託を定める契約 |
2023年5月8日から 2024年3月31日まで |
(5)主な共同研究契約
|
契約相手 |
契約書名 |
契約内容 |
契約期間 |
|
学校法人東京女子医科大学 |
共同研究契約書
|
細胞シート工学の実用化に向けた共同研究の実施 |
2023年4月1日から2024年3月31日まで |
|
株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング |
共同研究開発基本契約書 |
当社の保有する細胞シート工学の技術・ノウハウなどを活用した次世代再生医療等製品及びサービス並びにビジネスモデルの共同開発の実施 |
2009年10月30日から3年間(1年毎の自動更新) |
|
学校法人東海大学 |
共同研究契約書 |
細胞シート工学による関節軟骨の修復・再生を目的とした臨床試験の基礎検討の共同実施 |
2023年4月1日から2024年3月31日まで |
|
国立研究開発法人 国立成育医療研究センター |
検体の採取・提供に関する契約書 |
商業利用に対応した多指(趾)症手術切除検体の軟骨再生シートの事業化に向けた安定的供給に関する契約 |
2022年7月1日から2023年6月30日まで(1年毎の更新規定有り) |
|
国立研究開発法人 国立成育医療研究センター |
覚書 |
検体の採取・提供に関する契約書の有効期間(2022年7月1日から2023年6月30日まで)を1年間延長する。 |
2022年7月1日から2024年6月30日まで(原契約である検体の採取・提供に関する契約書の有効期間) |
|
国立大学法人 北海道大学 |
共同研究契約書 |
中枢神経損傷に対する細胞シートの開発・応用研究の共同実施に関する契約 |
2023年4月1日から2024年3月31日まで |
(6)臨床開発に関する契約
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契約相手 |
契約書名 |
契約内容 |
契約期間 |
|
学校法人東海大学 |
膝軟骨再生シート開発基本合意書 |
同種を対象とした膝軟骨再生シートの実用化を目的として製造販売承認の取得に向けた開発について相互に協力する契約。 |
2022年4月1日から2024年3月31日まで |
(7)その他の重要な契約
|
契約相手 |
契約書名 |
契約内容 |
契約期間 |
|
リヨン国立病院(HCL) |
AGREEMENT BETWEEN HOSPICES CIVILS DE LYON AND CELLSEED INC. |
HCLによる欧州GMPに対応する施設の完成、毎年一定数の角膜再生上皮シートの生産、フランスを除く販売地域を対象とした製造委託先への技術移転等の履行保証及び当社による上記施設の工事に対する支援金の支払い |
2009年12月28日から、左記施設の完成日より10年経過する日まで
|
|
MetaTech (AP) Inc. |
Collaboration Agreement |
台湾にてMetaTech社が再生医療事業の開発計画のために必要となる情報パッケージの提供を行う。 |
2017年4月24日から10年を経過する日まで(注)1 |
|
MetaTech (AP) Inc. |
Amendment No.1 to Collaboration Agreement |
台湾にてMetaTech社が再生医療事業の開発計画のために必要となる情報パッケージの提供の履行期を早める。 |
2017年4月24日から10年を経過するまで(原契約であるCollaboration Agreementの有効期間)(注)1 |
|
MetaTech (AP) Inc. |
Amendment No.2 to Collaboration Agreement |
台湾にてMetaTech社が再生医療事業の開発計画のために必要となる情報パッケージの提供のマイルストーンを変更する。 |
2017年4月24日から10年を経過するまで(原契約であるCollaboration Agreementの有効期間)(注)1 |
|
MetaTech (AP) Inc. |
Amendment No.3 to Collaboration Agreement |
Collaboration Agreementの有効期間(2017年4月24日から10年を経過するまで)を10年間延長する。 |
2017年4月24日から20年を経過するまで(原契約であるCollaboration Agreementの有効期間)(注)1 |
|
MetaTech (AP) Inc. |
Memorandum of Understanding |
台湾における合弁会社設立に関する基本事項を定める契約。 |
2019年8月14日から契約解除まで(注)1 |
|
MetaTech (AP) Inc. TU,YUAN-KUN、WU,CHUN-LUNG、HONOUR FAST DEVELOPING CO.,LTD、CHEN,TSUNG-CHI、TSNENG-JEN-FA、KAO-FANG‐CHEN、HUANG,LI-CHIN、KAO-CHIA-WEN、HSIEH,YI-YU、CHU,HUAI-CHIH |
Joint Venture Agreement |
台湾における合弁会社設立に関する基本的事項を定める契約。 |
2020年1月30日から契約解除まで
|
|
MetaTech (AP) Inc. |
Amendment No.4 to Collaboration Agreement |
台湾における自己膝軟骨細胞シートの治療に関する各製品の純売上高に対するロイヤリティの支払いを定める契約。 |
2017年4月24日から20年を経過するまで(原契約であるCollaboration Agreementの有効期間)(注)1 |
|
バークレイズ・バンク・ピーエルシー |
第23回新株予約権 第三者割当契約証書 |
第23回新株予約権のバークレイズ・バンク・ピーエルシーへの第三者割当に関し、発行要項を含む諸条件を定める契約。 |
2022年9月30日から契約解除まで |
|
バークレイズ・バンク・ピーエルシー |
第24回新株予約権 第三者割当契約証書 |
第24回新株予約権のバークレイズ・バンク・ピーエルシーへの第三者割当に関し、発行要項を含む諸条件を定める契約 |
2023年6月5日から契約解除まで |
(注)1 2023年12月18日付で契約解消しております。
当社の研究開発活動における当事業年度の研究開発費は
また、当事業年度における各セグメント別の研究活動の状況は以下のとおりであります。
(1)再生医療支援事業
再生医療支援事業の細胞培養器材事業におきましては、更なる器材事業の拡充を目指し、顧客の要望を踏まえた新規器材及び特注品の研究開発に取り組みました。今後も、顧客ニーズ、市場動向に合致した新製品開発のための研究開発に注力いたします。
上記のような活動を推進した結果、当事業年度の研究開発費は
(2)細胞シート再生医療事業
細胞シート再生医療事業では、同種軟骨細胞シートの再生医療等製品の自社開発を中心とした研究開発を継続して推進しております。
食道再生上皮シートについては、2020年10月に治験届を提出後、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)から受けた細胞シートの製造方法に関する指摘への対応を検討してまいりました。しかし、PMDAと相談を重ねた結果、製造方法の改良には、製造方法変更前後の同等性の評価のために治験期間が延長の見通しとなり、事業性への懸念が生じたため、高い成長と収益性が見込める同種軟骨細胞シート開発に経営資源を集中することを目的として、治験の中止及び食道再生上皮シートの開発を中断することと致しました。
同種軟骨細胞シートは、「同種軟骨細胞シート(CLS2901C)の製品化に向けたセルバンク構築を含む企業治験開始のための研究開発」について、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受けながら開発を進めた結果、企業治験に使用する同種軟骨細胞シートを製造するための原料として、有効性と安全性を確認したマスターセルバンクを確立することができました。2023年9月20日には、同種軟骨細胞シート(CLS2901C)の第3相試験の治験届をPMDAに提出し、その後、PMDAによる治験届の30日調査が終了しました。現在、各治験実施施設での倫理審査(IRB)、治験実施契約締結を進めておりますが、手続きに時間を要しており、現時点では2024年の上半期中に被験者登録が始まる見通しです。
上記のような活動を推進した結果、当事業年度の研究開発費は