第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

(1) 中期経営計画の達成見込とその要因

2024年度を計画最終年度とする現行の中期経営計画は、資本配分やESGに関する一部コミットメントについては達成に向けて進んでいるものの、2023年度の厳しい実績等から、オーガニック成長率とオペレーティング・マージンについてはコミットメント達成が困難な状況となっております。具体的には、オーガニック成長率を2021年に対して2024年まで年平均成長率(CAGR)4~5と見込んでおりましたが、2023年度通期実績は△4.9、2024年度業績予想は約1となっており、その達成は困難となりました。また、オペレーティング・マージンについても同様に、2023年まで17~18の範囲で管理した上で2024年には18を確保することを目指しておりましたが、2023年度は14.5という実績となり、2024年度は約15となる予想であります。

中期経営計画のコミットメント未達の要因を分析する中で、金融・テクノロジー関連クライアントの支出減少や、コンサルティング会社・テックカンパニー等との競争の激化など当社グループを取り巻く外部環境の変化だけではなく、当社グループ自身に複数の内部要因が存在していることを認識しております。具体的には、買収に偏重した成長戦略を取っていたことで必要な内部投資が不足していたこと、各サービスを提供する組織間のサイロ化により統合ソリューションの提供実現に遅れが生じていること、買収を加速する中でビジネスオペレーションが複雑化/複層化しコスト構造改革が遅滞したことなどが主要な要因であり、2023年に導入した「ワン・マネジメント・チーム」の下、これらへの対策に着手しております。

 

(2) オーガニック成長への回帰に向けて経営資源を集中

こうした状況を踏まえ、特に2024年に取り組むべきは、経営資源をコアビジネスの強化によるオーガニック成長へと集中的に振り向けていくことだと考えております。

当社グループの強みは、マーケティング、テクノロジー、コンサルティングが融合する領域において、保有するユニークで多岐に渡るケイパビリティを統合して、顧客企業のトップライン成長を実現する「Integrated Growth Solutions(インテグレーテッド・グロース・ソリューション)」であります。この強みを進化させるため、既に獲得したアセットの進化や、他のケイパビリティとの統合の促進に注力してまいります。

これを実現するために、本年よりグローバルに一貫した「One dentsuオペレーティング・モデル」を導入しております。これを通じ、真にクライアント中心のソリューション提供体制を敷き、地域間・プラクティス間の協業を加速するとともに、オペレーションや組織の簡素化などを通じて、成長への回帰と収益の改善を図ります。

 

(3) 2024年度のアクションプラン

より確かなオーガニック成長を実現するために、当社グループが2024年度に取り組むアクションを「Integrated Growth Solutionsを実現するための内部投資」「事業ポートフォリオ変革と財務規律の強化」「ガバナンス及び内部統制の再構築」の3つに整理しております。

① Integrated Growth Solutionsを実現するための内部投資

まず、当社グループの事業戦略の核となる「Integrated Growth Solutions」の提供による健全な事業成長を実現するために、内部投資を強化します。具体的な投資領域としては、アカウンタビリティの高いソリューションの提供を実現するためのデータ&テクノロジー領域や、「Integrated Growth Solutions」の提案と実行を担う人財育成・獲得、ビジネスオペレーションとエンタープライズプラットフォームの強化などが挙げられます。

 

② 事業ポートフォリオ変革と財務規律の強化

事業戦略推進に当たっては、One dentsuの一貫した戦略に基づき、注力すべき事業領域や市場を絞り込みます。当社グループは世界140か国以上での自社ネットワークによるサービスを提供しておりますが、当社グループの推進する戦略に照らして、注力すべき市場やサービスを明確にし、集中的にリソースを投下してまいります。また、これまで売上総利益に占める「Customer Transformation & Technology(カスタマートランスフォーメーション&テクノロジー)」領域の構成比を50へ高めることを目指し、当該領域での買収を積極的に行ってまいりましたが、当面は獲得した既存アセットのPMIやシナジー創出に注力し、業績推移や戦略貢献のモニタリング体制の強化など投資活動全般の規律を高めてまいります。また、事業ポートフォリオの変革にも取り組み、不採算な事業や市場の再建や見直しを進めてまいります。なお、このような変革を遂行し、健全な事業成長を図るに際し、財務面からの規律を徹底するため、取締役会の諮問機関として、社外取締役を中心に構成されるファイナンス委員会を新設することを決定しました。同委員会には、事業推進の支援とともに、規律のある財務戦略・方針の策定、資本配分の見直し、株主視点での財務指標の設定、及びそれらの履行状況のモニタリング等を通じて、財務ガバナンスの高度化を支援いただきます。

③ ガバナンス及び内部統制の再構築

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会におけるテストイベントの入札等事業に関して、当社は、2023年2月28日に独占禁止法違反の疑いで公正取引委員会から刑事告発され、東京地方検察庁により起訴されました。その後、当社は、外部有識者による「調査検証委員会」から受領した本事案の原因分析と提言に則り、dentsu Japan改革委員会による「意識行動改革」を策定し、役員・従業員一同、問題の再発防止に取り組んでおります。また、複数の国で構成され、複数の通貨が流通するDACH(ドイツ・オーストリア・スイスで構成する)区域において、人事システム、プロジェクト管理システム、財務システムの変更を含む複数の変革・統合作業を同時並行で実施したため、いくつかの業務プロセスとシステムの間に不整合が発生したことを背景として、一時的な財務影響を認識しました。この要因について、包括的な内部調査、当社グループのグローバル・ゼネラル・カウンセル(法務責任者)と内部監査部門が任命した外部法律事務所および外部会計事務所による調査、および内部監査部門による調査・分析を行いました。その結果、主な要因は不十分なプロジェクト管理等であったことが報告されて、同時にその改善策も提示されました。また、当社グループは、同調査と分析に基づき、DACHを含むグループのマーケットにおいて、今後類似事象が発生するリスクは限定的であると判断しております。さらに業務プロセスの変更やシステムの改善など、提示された改善策に既に着手し、推進しております。これら具体事案の対処に加え、当社はガバナンス及び内部統制の再構築に努めてまいります。既にグローバル内部統制&リスク責任者を設置するなど、体制を強化する取り組みを進めております。併せて、経営陣と社員が一体となって進める取り組みとして、「電通グループ行動憲章」を当社グループ全体に浸透させることで、インテグリティを最優先とする組織風土の実現を図ります。さらに、One dentsuオペレーティング・モデルを一層推進することで、組織の合理化、意思決定の迅速化、責任の明確化および権限委譲を図るとともに、類似事象が発生するリスクを低減する強固な業務プロセスとガバナンスに基づき、効果的な事業運営および企業活動を行ってまいります。

なお、当社の上場子会社群への対応については各社の戦略的位置づけに照らして最適なあり方を継続的に検討しており、方針が決定した場合には適切にご報告させていただきます。

 

(4) 株主価値の向上に向けて

これらの戦略とアクションを通じて、長期的な株主価値を確実に向上してまいります。まず、オーガニック成長とコスト構造改革により、利益とキャッシュ・フローの改善を図ります。同時に、投資規律を強化するとともに、投資バランスを買収から内部投資へ転換します。それに加え、バランスシートの最適化を進め、事業ポートフォリオ変革や投資の見直しを通じて資本効率の改善を進めてまいります。

 

市場環境には依然不透明な部分が残りますが、私たちは新たな環境に適応すべく、事業を不断に変革してまいります。事業ポートフォリオ変革等の具体的な計画は、新たな中期経営計画の形で本年後半に発表する予定であります。

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 

(1) 2030サステナビリティ戦略

当社グループにとってサステナビリティとは、パーパスである「an invitation to the never before.」を実現するための前提であり、経営の中核であります。

サステナビリティは、短期の利益だけでなく、中長期の持続性を重視し、自己利益をこえた、サプライチェーン、業界、社会、ひいては地球視点での全体最適を志向するものであり、この価値観をステークホルダーと共有し、新たな関係性を構築することを当社グループは目指しております。

2023年、「グループ・マネジメント・チーム」によるグローバル経営体制へ移行し、それに伴うグループビジョンの設定やビジネスモデルの拡張に伴い、様々な外部環境の変化の中で当社グループが持続的に成長・価値提供していくための重要課題、マテリアリティを策定しました。「企業倫理とコンプライアンス/データセキュリティ」「DEI」「人的資本の開発」「気候変動へのアクション」「イノベーションに導くリーダーシップ」の5つであります。策定の過程では、当社グループの現状と将来を見据えた経営戦略やビジネスモデル、グループリスク委員会が管理するグループ経営上のリスク項目さらには取締役会やサステナビリティ関連会議資料等を分析対象としております。

このマテリアリティを反映してアップデートした「2030サステナビリティ戦略」では、パーパス、ビジョン、経営方針のもと、「困難な社会課題を解決する未来のアイデアを生み出していく」ことによって、当社グループと社会のサステナビリティを実現することを掲げております。

なお、文中における将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。

 

2030サステナビリティ戦略


(注)1.「2030サステナビリティ戦略」の詳細についてはHP(https://www.group.dentsu.com/jp/philosophy/sustainability-strategy-2030.html)で開示しております。

2.マテリアリティ策定過程の詳細については、「統合レポート2023」(https://www.group.dentsu.com/jp/sustainability/common/pdf/integrated-report2023_all.pdf)で開示しております。

 

 

① ガバナンス

サステナビリティに関する当社グループのガバナンス体制は以下の通りであります。


 

・取締役会(BOD) 

当社グループのサステナビリティを巡る取組みについての基本的方針を定め、グループ・マネジメント・ボード(GMB)が決議・承認したサステナビリティに関連する経営上の重要な事項に関して報告を受け、監督する責任を担います。

 

・グループ・マネジメント・ボード(GMB)

当社グループのサステナビリティに関してグループサステナビリティ委員会(GSC)が策定する戦略、KPI、アクティベーション等について、GSCからの報告を審議し、決議・承認するとともに、その事案を取締役会に報告する責任を担い、GSCの活動をモニタリングします。

 

・グループサステナビリティ委員会(GSC)

当社グループでは2021年8月に「サステナブル・ビジネス・ボード」を設置し、「2030サステナビリティ戦略」で掲げられた目標の進捗を年4回の会議の中でモニタリングしてきました。2023年1月からはグループ・マネジメント・チームによるグローバル経営体制へと移行したことに伴い、グループ・マネジメント・ボードの直下に「グループサステナビリティ委員会」を新設しております。

同委員会は、さまざまな専門性と地域性を持つ12名のメンバーで構成され(2023年度)、年4回の会議を通じて多様な視点から、「2030サステナビリティ戦略」の進捗状況を確認、評価しております。

2024年より、グローバル・チーフ・サステナビリティ・オフィサーが議長を務めております。

 

役員報酬との連動

2022年度より、当社グループの役員の年次賞与にESG指標を採用しております。詳細は、「4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (4) 役員の報酬等」を参照ください。

 

② リスク管理

当社グループにおけるサステナビリティに関連するリスクは、既存の経営戦略や事業等のリスクを反映して策定したマテリアリティによって識別され、年4回実施されるグループサステナビリティ委員会においてマテリアリティをベースとした「2030サステナビリティ戦略」の推進の進捗状況を評価、管理しております。

推進に当たっては、マテリアリティの項目別にグループサステナビリティ委員会のメンバーであるグループ・マネジメント・チームがその責任を負うとともに、グローバル・チーフ・サステナビリティ・オフィサーが全体統括を行います。

なお、同戦略に掲げた目標達成が計画通りに進捗しなかった場合等のリスクについては、グループリスク委員会で評価、管理しております。

 

 

③ 指標及び目標

2030サステナビリティ戦略で設定されたマテリアリティとゴールイメージは以下の通りであります。2024年度は、新たに指標・目標を設定し、それに基づく進捗状況の管理を開始する予定であります。

 


 

(2) 気候変動へのアクション

① 気候変動に対する戦略

気候変動は当社グループ、株主・投資家、パートナー、顧客企業等に対して財務をはじめとする多様な影響を及ぼし得る重要な課題であり、「2030サステナビリティ戦略」に組み込まれているマテリアリティの1つであります。

事業に対する潜在的な影響を最大限把握するため、気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク(NGFS)の 分析をベースとして用いたシナリオ分析を行い、移行リスクと物理リスクを特定しております。詳細は、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った、「電通グループ TCFDレポート 2023」(https://www.group.dentsu.com/jp/sustainability/common/pdf/TCFDreport2023.pdf)で公開しております。

これらのリスクについては、顧客企業や社会の適応を支援するための機会でもあることから、リスクと機会の双方を視野に入れた対応戦略を展開しております。詳細は後述の「リスクと機会を踏まえた事業方針」「目標と実績」をご覧ください。

気候変動に関するガバナンスについては、前述のサステナビリティ全般に関するガバナンスの項目をご覧ください。

 

② 事業方針

2023年度は以下の事業方針を展開しました。

 

・サステナビリティコンサルティング室の設立

2023年1月、㈱電通にサステナビリティコンサルティング室を新設しました。あらゆる企業にとってサステナビリティへの取組みが求められる中、その企業ならではのポテンシャル発見を軸にしながら、ビジネス創造やビジネス変革の支援をしております。

 

・マーケティング領域におけるGHG(温室効果ガス)排出量の可視化・削減と、誠実なコミュニケーション

2023年10月には、日本におけるマーケティングコミュニケーションに伴い排出されるGHGの削減を目的に、関連サプライチェーン内のGHG排出量可視化・GHG削減のためにマーケティング領域の脱炭素化イニシアティブ「Decarbonization Initiative for Marketing」を設立しました。同時に、英国を拠点に広告やコンテンツ制作におけるGHGの可視化を推進する一般社団法人Ad Greenと覚書を結び、今後のグローバルでの標準ツールの開発に向けて取組みを進めることで合意しております。

 

また気候変動を含むサステナビリティ課題全般のコミュニケーションについて、同年12月には、業界横断の重要課題であるグリーンウォッシュ(企業等の団体が実態以上に環境への取組みを行っているように見せかけるコミュニケーション)に陥らないためのヒントを、日本で活動する企業や団体向けにまとめた「サステナビリティ・コミュニケーションガイド2023」を作成、無償公開しております。詳細はHPを(https://www.group.dentsu.com/jp/sustainability/pdf/sustainability-communication-guide2023.pdf)をご覧ください。

 

・社外ステークホルダーとの戦略的パートナーシップ

社外ステークホルダーとの協働から得られる知見をグループ内の経営に生かし、気候変動をはじめとするサステナビリティ課題への対応の高度化を目指します。 

2023年度は、世界経済フォーラム(World Economic Forum)のストラテジック・パートナーに9年連続で選出され、「Alliance of CEO Climate Leaders(CEO気候リーダー・アライアンス)」のメンバーとしてネットゼロ社会の実現に向けた活動に取組んでおります。

また2023年7月には、持続可能な脱炭素社会実現を目指す日本独自の企業グループ、日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)に、賛助会員として参画しました。

 

③ 目標と実績 

当社グループは、パリ協定で示された「世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力」の目標を視野に、より野心的なゴールを設定し、その達成に取り組んでおります。

 

・2040年までにGHG出ネットゼロ

当社グループでは、GHGプロトコルのスコープ1-3において2040年までにGHG排出量ネットゼロ、2030年までに同じくスコープ1-3のGHG排出量を2019年比で46%削減することを目標としています。

ネットゼロの目標については、当社グループの海外事業を統括していた電通インターナショナルが、すでに2021年10月にSBTi(Science Based Targets initiative)の認定を受けていましたが、2024年度中にこれを国内事業を含むグループ全体に拡大することを約束しております。

(注)GHGは、ISO14064-3:2019に基づいて算定しております。

 

GHG排出量(tCO2e)

 

 2030年
(連結目標値)

2019年

(基準値)

2023年実績

2023年

(対基準値)

日本

海外

合計

日本

海外

合計

合計

スコープ1+2

 基準値に対して46%削減

24,546

9,416

33,962

12,655

5,606

18,261

△46.2%

スコープ3

66,152

308,732

374,884

70,052

352,599

422,651

+12.7%

スコープ

1+2+3

90,698

318,148

408,846

82,706

358,205

440,911

+7.8%

 

(注)1.マーケット基準は、スコープ2について適用しています。

2.2023年実績に含まれるスコープ1、スコープ2及びスコープ3の各合計数値については、KPMGあずさサステナビリティ株式会社による第三者保証を取得しております。第三者保証報告書はHP(https://www.group.dentsu.com/jp/sustainability/common/pdf/third-party-assurance.pdf)で開示しております。

 

 

・再生可能エネルギー比率100%

企業が自らの事業の使用電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的なイニシアティブであるRE100のメンバーとして、2030年までに使用電力における再生可能エネルギーの比率を100%とすることを目指しております。日本国内においては2023年12月から、国内で最もエネルギー使用割合の高い汐留ビルに100%再エネ可能エネルギーを導入しました。

 

再生可能エネルギー使用量(kWh)

2030年
 (連結目標値)

地域

2023年実績

100%

再生可能エネルギー

使用量 

総エネルギー使用量

再生可能エネルギー

使用量構成比

日本

1,293,723

 24,045,088

5.4%

海外

34,780,592

41,440,676

83.9%

 

(注)再生可能エネルギー使用量に関するデータは、第三者保証対象外です。

 

(3) 人権の尊重

電通グループにとって人権の尊重は自社グループの存立基盤、倫理的かつ持続可能なビジネスの根幹をなす重要事項です。国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、人権の擁護に努めてまいります。2018年に「電通グループ人権方針」を策定しており、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」などの国際的なフレームワークに則ることも明文化しております。詳細はHP(https://www.japan.dentsu.com/jp/esg/human_rights_policy.html)に開示しております。

 

① 戦略

電通グループ全体のガバナンス体制と部門横断的な取組みを推進し、法令遵守とあらゆるステークホルダーからの要請への準備を開始しております。 また、「2030サステナビリティ戦略」との整合も図ってまいります。

 

② ガバナンス

電通グループでの人権への取組みの統括はグローバル・チーフ・ガバナンス・オフィサーが担っており、業務上の人権対応は専門部署の担当者が行っております(グループ全体をカバーするべく、日本及び海外の両方に配置して連携しております)。

また、グループサステナビリティ委員会では各回必須で「人権」を議題として取り扱い、日本固有の課題についてはdentsu Japanのマネジメントで構成する「電通グループ人権委員会」で対応しております。

 

③ リスク管理

「統合レポート2023」「人権への取り組み」の項目で記載の通り、2023年度のdentsu Japanを対象に実施した人権デューディリジェンスに基づく重点課題は以下の4分野となっております。

・  委託先の労働環境

・  電通グループ内の労働環境

・  不適切な表現(広告表現の適切性)

・  再委託先における個人情報保護

 

④ 指標と目標

指標と目標は、以下の2項目となっております。

・ グループ全体での人権デューディリジェンスの実施を通じた課題の更なる明確化とそれらを反映した人権啓発活動の更新(人権方針、研修等)。

・ 人権に関する取組みの積極的な情報公開と外部ステークホルダーとの対話。

 

(4) 人的資本に関する方針と取り組み

① 基本方針

当社グループのビジョン<「人起点の変革」の最前線に立ち、社会にポジティブな動力を生み出す>には、「人」が創り出す可能性を信じ、そこから生まれる新たな力で社会に貢献していきたいという思いが込められております。この実現のためには、我々の最大の資産であるユニークで多様な人財の力を解き放ち、その力を掛け合わせてゆくことが重要と考えております。

こうした前提のもと、当社グループの人的資本のとらえ方の根幹にあるのは「人は誰でも『貢献したい。成長したい。』という気持ちを持っており、仕事を通じて自身の成長を実感することに喜びを感じる」という信念であります。こうした人の自律的な成長意欲を信じ、誰もがチャレンジし成長する機会が得られる環境を実現することで、人的資本、つまり「人」の可能性に投資し、そのケイパビリティを拡張していく経営を進めてまいります。

 

② 戦略

「人起点の変革」を推進し社会に貢献していくために、当社グループは従業員のユニークで多岐に渡るケイパビリティを統合し、顧客の持続的成長を実現する「インテグレーテッド・グロース・ソリュ―ション(IGS)」に注力してまいります。このIGSによる成長をグローバルに実現していくことを目指した体制として、2023年より、世界の4つの地域が一体となった経営体制を発足しました。更にグローバル共通の事業の枠組みとして「One dentsu オペレーティング・モデル」を発表することで、地域/事業領域ごとの協業を促し、より統合されたサービスが提供しやすい業務体制を整えることに着手しました。一方で、このビジネス変革を規律をもって遂行するために、ガバナンスと内部統制の再構築も経営戦略の要として位置付けました。体制整備とともに、インテグリティを重視した組織風土の醸成を鍵とし、意識行動改革に向けた取り組みを進めております。

これらの経営戦略、重要課題に応えていくためには、「人」の可能性をどのように拡張していくかが大きな焦点ですが、これには、大きく二つの望ましい状態の実現が必要と考えております。まず、多様な人財が繋がり合い、ともに学び、互いの専門性を掛け合わせることで組織・個人ともに高いケイパビリティを持っている状態であります。これは当社グループならではの「統合」されたソリューションの提供に不可欠なものであります。そしてもう一つは、従業員一人ひとりがインテグリティを持ちチームに前向きに貢献しようとする意識、エンゲージメントが高まっている状態であります。この二つの状態をグローバルに実現できることが、One dentsuで「人」の可能性を高め、経営戦略実現を支援している姿であり、我々の目指すところでもあります。

2023年度からは、この目標に対しての取り組みを一段と加速してゆくことができました。まず、1月よりグローバル企業で人事プロフェッショナルとして経験を積んできた谷本美穂が新チーフ・HR・オフィサー(CHRO)として参画し、グローバル横断的な人事リーダーシップチームを構築しました。これにより従来、日本市場、海外市場それぞれに向けた組織として運営されていた人事部門をワンチームとして主要ポジションと責任領域を再定義し、より積極的な情報共有や協業を可能にしました。この中でCHROのもと世界4地域の人事責任者が集合して必要な戦略や課題を集中的に議論する場を年2回設定し、グローバルで一貫した戦略体系を構築するに至りました。

 

 

・人事ミッション

グローバル人事戦略の起点となるのは、人事領域の担当者が何を目指して仕事をするのかを定めたミッションであります。CHROと4地域の代表、またタレントや報酬、人財データなどの専門分野のリーダーが議論し確立したのが、「1つのチームになり、仲間の力を引き出す」というミッションであります。これには、人事領域の各チームが垣根無くそれぞれの力を出し合い、従業員一人ひとり、そして組織全体の秘める可能性を解き放つ、という我々の役割を明確に表しております。この人事ミッションのもと、経営戦略の支援・ビジョンの実現に向けた具体的な注力領域などを定めた三つの柱から成る人事戦略体系を構築しております。

 


 

・人事戦略1: People Growth(人の成長)

人の成長をどのように実現するかは、言うまでもなく人財戦略の最重要な柱であります。従業員一人ひとりの成長はもちろんのこと、組織が変革を求められている状況においては、リーダーがいかに成長をドライブできるかが重要であります。組織が発揮できる能力は、それを率いるリーダーの行動が与える影響により、大きく異なると考えるためです。

当社グループにおいても、人と組織の成長を加速する鍵となるのはリーダーシップの在り方であると考え、人的資本投資の中でも優先的に取り組みを進めております。

 

ⅰ) dentsu Leadership Attributesの定義

「dentsuの目指す姿」を牽引するリーダーシップを見極め、育てることを重点課題と捉え、dentsuのリーダーが持つべきリーダーシップ行動要件を「dentsu Leadership Attributes(dLA)」として言語化・定義しました。dLAは組織としてどのような行動が推奨され評価されるべきなのかを示す5つの要素から構成されております。変革力を表すDrive Change、イノベーション力を表すFoster Innovation through one-dentsu、人と組織の育成力を表すNurture People & Culture、顧客と社会へのソリューション提供をリードする力を表すLead with Client at Heart、グローバルなリーダー力を表すDemonstrate Global Leadership。2023年はまずdentsu Japanの主要役員の評価指標としてこの要件の導入を開始しました。今後これらの要素は人財選定・評価・育成の指針となっていきます。

 

 

ⅱ) 人財を見極め、育てるためのディスカッション

今後のリーダー人財候補者の特定・育成に向けては、dLAに基づいた「People Discussion」(人財についてレビューをするディスカッション)をグループ・各リージョンの経営層を対象に部門ごとに実施しました。この活動の結果、2023年度におけるグループ・マネジメント・チームの主要15ポジションについて、当該部門における有力人財の可視化、後継者候補の選定を行うとともに、育成投資についての焦点を絞ることができました。さらに、この可視化を通じ、より若年の後継候補プールを厚く設定することが課題の一つとして確認できたため、2024年度は組織の最上位から数段階広げた層を議論対象とし、より深く広い人財パイプライン作りを目指しております。

 

ⅲ) 高ポテンシャル人財、戦略領域人財への投資

People Discussionを通じて可視化された人財に対してはそのポテンシャルを最大化すべく、戦略的なグローバルで多様な環境での自身をストレッチさせる業務の経験機会、スキルや視野を広げる育成プログラムを提供してまいります。2023年の11月にはOne dentsuオペレーティング・モデル推進に向け組織を改編しましたが、この新組織におけるグローバルリーダーの抜擢の際には、重点人財に成長につながる体験をさせることも意図されております。また、育成プログラムの代表的なものとしてはトップビジネススクールと連携し、dentsuらしさも追求した次世代リーダー育成プログラム「Leading High Performing Organization」、日本事業の強みである統合的なクライアントソリューションをグローバルに広めていく「EIGYO」プログラムなどを提供しております。両プログラムを通じてのべ100名以上が参加し、リーダーとしての成長機会とともに地域・事業を越えたネットワーキングの場を得て活躍しております。2024年度はこれらのプログラムに「One dentsuオペレーティング・モデル」に即したブラッシュアップを加え発展させてまいります。

また、当社グループが目指す成長に向け、日常的なパフォーマンス支援、評価フィードバックの促進に加え、幅広い従業員に向けたスキルアップやリスキリングも促進しております。幅広い事業ニーズに応えるためのオンライン学習プラットフォームではデータテクノロジー、マーケティングからクリエイティビティを養うリベラルアーツまで、幅広い領域を網羅したコンテンツを提供しております。これらの取り組みも通じ、重点分野と位置づけるCT&T領域では人財強化を継続しており、日本市場で同領域に携わる人員の構成割合は37.0%(2022年12月末時点)から39.2%(2023年12月末時点)に伸長することができました。

 

ⅳ) 人を育てる仕組みと文化の定着に向けて

今後継続的に十分な効果を出していくため、ここまでに挙げた各種施策は継続的なサイクルの仕組みとして設計されており、今後はこれを通じた「リーダーがリーダーを育てる」文化を定着させていくことを目指します。具体的には、dLAの各種人事施策への組み込みと定期的なPeople Discussionの運営・対象範囲の拡大を通して、人財の可視化や戦略的人財配置などの直接効果にとどまらず、議論に参加する各リーダー自身の人財育成意識に働きかけてまいります。今後はこの成果を確認するべく、プロセスとしての対話時間や結果としての後継者準備率をモニタリングする一方で、エンゲージメント調査を通じ、従業員側の成長実感がどの程度得られたのかも併せて計測してまいります。これら複合的な指標を用いて、People Growthの進捗を確認してまいります。

 

・人事戦略2:Winning as One Team(ワンチームとなって勝つ組織)

当社グループの強みは多様でユニークな個の力を掛け合わせて価値を生み出すところに存在し、そしてそこに我々ならではのクリエイティビティが生まれると考えます。その価値発揮のため、グローバルに存在する人財の一人ひとりが個々の強みを発揮するに留まらず、同じ目的に向かってコラボレーションすること、つまりワンチームになることを重視しております。その素地となるのはインテグリティに基づくdentsuらしいカルチャーづくりとDEIであると捉えて、重点的に活動を行っております。

 

 

ⅰ) 地域性に応じたDEIへの多様なアプローチ

グローバルに事業を展開する当社グループでは、DEIへの取り組みは一貫性を持たせたグローバル施策と、地域の事情を汲んだ実効性のあるローカル施策のバランスを考慮しつつ進めております。人財の多様性についての課題認識は地域社会ごとに異なり、時にセンシティブな要素もはらんでおります。4つの地域ごとにチーフ・エクイティ・オフィサー(日本はチーフ・ダイバーシティ・オフィサー)を配置し、地域の状況に即したきめ細かい活動が行える体制を築いております。

グローバル単位ではジェンダーの多様性を共通の取り組み課題と位置づけ、数値目標として2030年度までに女性リーダー比率を45%にすることを掲げております。2023年末の実績値は32.4%であり、年初に目標として掲げた32.5%にわずかに届かない結果でした。この目標は役員報酬のKPIにも組み込まれていることもあり、結果を経営陣でも十分に認識した上で、今後の改善に向けて引き続き経営陣のコミットメントを高めてまいります。

またもう一つの多様性である国籍視点では、国に関係なく人財が活躍できる環境の整備として、グループ内で短期・中長期に人財が交流する機会づくりや、国を跨いだ異動を円滑化するポリシーの整備も行っております。なお、2024年度からはDEI領域を人事部門の管轄とすることで、多くの人事施策と密接に連携した推進ができる体制を築いてまいります。

 

ⅱ) エンゲージメント調査を通じた組織カルチャーについての課題の特定

従業員がチームとして前向きに協力し合う文化の形成には、エンゲージメントは最も重要な要素の一つです。当グループでは毎年の調査で、従業員の満足度と推奨度からエンゲージメントスコアを算出しており、全グループ単位と地域・会社などの部門単位で課題を特定した上で改善に取り組んでおります。また役員報酬のKPIにも組み込んでおります。

直近の調査結果からは、日本と海外それぞれで組織カルチャーについての課題がある事が捉えられており、日本では将来性、経営リーダーシップ、イノベーションといった項目へのスコア(信頼や期待感)、海外ではビジョン・戦略、人財開発、経営からのコミュニケーションなどの項目へのスコアが重点課題であると捉えております。2023年度は、経営からのコミュニケーションやメッセージの明確性に改善の機会があると捉え、国内・海外ともに経営層からメッセージなどの情報発信・Town Hall Meetingなどの直接インタラクションの機会を数多く設定しました。今後スコア改善には更に踏み込んだ戦略のメッセージや双方向のコミュニケーションが重要と考え、2024年度にはコロナ禍後初めてグループ内主要人財を東京に集めたシニアリーダーシップミーティングを実施するなど、より密度の濃い活動を展開いたします。

他方、ガバナンス観点で重視される個人のインテグリティやコンプライアンス意識についての回答は、日本・海外とも比較的高いスコアを記録しました。これを前向きな機会と捉え、更なる意識向上や活動改善の取り組みを進めてまいります。

 

ⅲ) フレキシブルで生産性の高い働き方ができる環境の整備

従業員が十分に活躍できる環境整備として、労働環境の改革にも継続的に取り組んでおります。ハイブリッドワークを前提とした柔軟性の高い働き方を引き続き推奨しつつ、各地域で年間2~4日の特別休暇の付与、各社・各現場においてメンタルヘルスをサポートする人財のためのMental Health First Aider資格取得支援など、多角的な施策を打ち出しております。

日本で継続してきた労働環境改革においては、勤務管理や従業員見守りなどに関する意識・活動のベースを保ちつつ、ハイブリッドな働き方などの現場実態に即し、今後の持続的成長に向けた活動を継続しております。

 

ⅳ) 多様な能力のコラボレーションを高める従業員意識

多様な従業員が安心して能力を発揮し、コラボレーションを通じてより良いソリューションを生み出していく組織文化では、それを育む従業員の意識が重要であります。DEI活動では多様な人財が活躍できる仕組みを作る一方で、様々な「違い」のある従業員同士がその差を理解し、互いに尊重し合いながら働くことができる意識と、そのための場づくりの活動にも注力しております。この成果を確認するべく、エンゲージメント調査に盛り込んでいる「敬意/Respect」のスコアを指標とし、各従業員が職場で他者から尊重されていると感じられているかどうかを注視してまいります。

 

同様に、コラボレーションに対する意識、インテグリティに対する意識についても、対応するエンゲージメント調査のスコアをモニタリングし、関係施策のPDCAに繋げてまいります。組織文化の状況を一つの指標で定量的に測定していくことは困難ではあるものの、当社グループの目指す状態を構成する要素として、互いへの敬意、コラボレーション意識、インテグリティ意識の水準を把握し、総合値としてのエンゲージメントとの関係性にも着目することで、Winning as One Teamの推進に活用してまいります。

 

 ・人事戦略3:HR Service Excellence(最良の人事サービスとパートナーシップ)

People Growth、Winning as One Teamの各戦略に基づく一連の施策を具現化していく際、人事部門は事業領域と質の高いパートナーシップを築くことが重要であります。この実現のため、人事部門の専門性と生産性を高め、人と組織の面から経営戦略や意思決定を支えていくグローバル体制を構築しております。具体的には、経営・事業に寄り添うHRビジネスパートナー(HRBP)と、人財マネジメントや報酬設計などの専門チームから成るCenter of Excellence(CoE)を両輪とし、組織的なケイパビリティを高めております。

 

ⅰ) 事業変革に対応したHRBPサポート

ビジネスに最も近い位置で様々な支援を行うHRBPは、人事パートナーシップの要であり、その能力を向上させることが人事サービスの質に直結します。海外においては直近、新たな事業オペレーティング・モデルに合わせHRBPの配置を見直し、密にビジネスニーズに応えられる体制を構築しました。特に新たな組織設計に基づく「プラクティス」提供部門に対して迅速にサービスを展開できるよう、整備を進めております。

並行してグループ内最大の拠点である日本におけるHRBP機能の導入も試験的に進めており、海外の各地域で先行する知見を取り込みつつ、㈱電通グループでのサポートを開始いたしました。2023年度には日本でのコーポレート部門に対するPeople Discussionを実施しましたが、その際、HRBPの役割をもつ人事メンバーが各部門リーダーと対話を重ねる機会を設けました。この試みにより、組織独自の課題の明確化や、グローバルリーダー候補となる可能性がある人財の把握などの成果が出始めております。

 

ⅱ) HRサービスインフラの整備

人事部門の活動やサービスを支える人財データ領域への投資・活動も継続しており、直近では特にデータの精度向上、及びグループ共通のデータ項目整備に注力しております。中でも日本には数多くの法人が存在するため、他地域と比べて人財情報の共通定義を設けることが困難な状況でしたが、2023年度に統一データテンプレートを開発し、各社の人財状況を同じデータ項目で俯瞰することが可能になりました。これにより、今後の各施策のKPIモニタリングの精度が上がるだけでなく、ファクト情報に基づいた将来の組織戦略を描くことが可能になります。これらの取り組みを通じ、従来は地域・個社ごとにあった情報の統合が可能になり、グループ単位での戦略的な意思決定に寄与できる基盤を整えつつあります。

また、人財データ把握の枠組みの一つとしてグループ共通の職務・等級フレーム「One Dentsu Career Framework」の導入を進めております。海外で組織横断的に定着してきたこのフレームワークについて、2023年度はグループ経営層への導入を始めました。将来的には、当社グループに存在する全ての職務・等級を同じ単位で把握することが可能になり、より正確な人財データの提供、戦略的なリソースマネジメント及び人財の配置、従業員のキャリア選択肢の拡大など、様々なかたちで応用の幅が広がります。2024年度には等級(ジョブレベル)をグループ共通で把握することを目指してプロジェクトを推進しております。

もう一つ重要な柱として日常業務の効率性を高める取り組みも継続しており、作業量の多いオペレーション業務についてはプロセスの最適化や自動化、コスト効率の高いニアショア・オフショア地域でのシェアードサービスの活用を推進しております。地域間の業務の違いも考慮しながら、全体最適化が望ましい業務についてはプロセスやシステムを見直し、グローバルでの統合、標準化などを通じ、更なる生産性の向上を進めていく考えであります。

 

3 【事業等のリスク】

当社グループの戦略・事業その他を遂行する上でのリスクについて、投資家の判断に影響を及ぼす可能性があると考えられる主な事項を以下に記載しております。ただし、すべてのリスクを網羅したものではなく、現時点では予見出来ない、又は重要と見なされていないリスクの影響を将来的に受ける可能性があります。当社グループでは、グループの戦略、経営目標達成に影響を及ぼす可能性のある不確実な将来の事象としてのリスクを最小化するとともに、これらを機会として活かすための様々な対応及び仕組み作りを行っております。

なお、当社グループは、グループの持続的成長と価値提供のための重要課題として、マテリアリティを策定し2023年8月に公表しております。マテリアリティに関する詳細は、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」をご覧ください。「One dentsuオペレーティング・モデル」導入に伴う、既に認識している主要なリスクの見直しやマテリアリティとの関連付け、新たに追加するリスクについては、後述のグループリスク委員会での検討を進めております。

また、文中における将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。

 

当社グループのリスク管理体制

当社グループでは、「4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1) コーポレート・ガバナンスの概要」に記載のコーポレートガバナンス体制図にあるコーポレート・ガバナンス体制の下、リスクの管理を所管するグループリスク委員会を設置し、ERM(Enterprise Risk Management: 全社的リスクマネジメント)のアプローチを基軸に、グループ経営上重要なリスクを識別・評価し、そのリスクの顕在化の予防及び顕在化した場合の影響の最小化のため、リスク対応の責任者となるリスク・スポンサーを選定、リスク対応計画の策定と実施を委任しております。対応すべきリスクとその評価は、グループリスク委員会で定期的に見直しその対応状況とともにグループ・マネジメント・ボードならびに取締役会に定期的に報告しております。2024年より、グループ全体のリスク管理および内部統制を統括するグローバル内部統制 & リスク責任者をグループ・マネジメント・チームの一員として新たに任命し、グループリスク委員会の委員長であるグローバルCEOの下、グループ全体のリスク管理活動を推進しております。また、「One dentsuオペレーティング・モデル」の導入に伴い、グループリスク委員会傘下に、4リージョン並びに主要ファンクションのリスク委員会を配し、グループリスク委員会がグループ横断的にリスク管理を統括できる体制を整備しております。

 

主なリスク項目とその対応策

(1) 景気変動及び社会的変革に伴うリスク

当社グループの業績は、景気によって主要な顧客である企業からの予算が増減されることが多いため、景気変動の影響を受けやすい傾向があります。世界経済は緩やかな回復基調にあるものの、地政学上のリスクの顕在化やインフレ再燃懸念等により、まだ不確実な状況と言わざるを得ません。

また、2020年以降のコロナ禍の影響は、経済面に留まらず、生活者の意識と行動様式の変化を加速させ、より個人化された体験が重要になっております。企業も、D2Cコマースのチャネル構築やデジタルトランスフォーメーションの実装、生成AIの活用など企業活動の本質的な転換が迫られる中、当社グループへの顧客のニーズは、従来の広告・コミュニケーション領域を超え、高度化・複合化しており、データとテクノロジーを活用した顧客体験の設計や体験価値の向上に拡大しております。これらのニーズに当社グループが適切な対応ができない場合は、中長期的な事業成長に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

 

(2) 中長期の視点での新たなビジネス開発に伴うリスク

当社グループは、上記のような事業環境の変化に速やかに対応し、新たな事業機会を的確に捉えるため2024年を最終年とする中期経営計画を2021年に公表し、着実に実行してまいりました。現在、「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載した2024年度のアクションプランを遂行するとともに、2024年下期に向け次期中期経営改革を策定中です。現中計では、広告マーケティングで培ったノウハウをデータとテクノロジーと融合し進化させるとともに、「カスタマートランスフォーメーション&テクノロジー(CT&T)」事業と位置付けた顧客企業の事業変革を支援する領域の強化による成長戦略の実践を骨子のひとつとし、2023年通期には、その売上総利益構成比を32%にまで高めてまいりました。しかしながら、グループ内のイノベーションの不足、生活者動向の読み違い、過度に楽観的な事業計画、共同事業パートナーとの交渉難航、投資パフォーマンスの管理不十分、事業環境変化を認識するインテリジェンスの不足などの理由で、これらのビジネス開発が中長期的に収益化できず、当社グループの業績に悪影響が出る可能性があります。

 

(3) 人的資本に係るリスク

当社グループの成長力及び競争力は、優秀な人財の獲得と維持による人的資本の拡充に依存します。そのため、労働市場の逼迫による人財不足や当社グループのレピュテーションやブランディングを効果的に確立できない等に起因して、当社グループが必要な人財を十分に維持・確保できない場合、顧客への高付加価値のサービス提供ができずに当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

また、当社グループの戦略目標の実現のためには、従業員のエンゲージメントが重要であり、グループ内で、DEIなどを含めたビジョンや価値観を実行できず、従業員のモチベーションを保つことができなかった場合、従業員のロイヤルティが低下し、優秀な人財を惹きつけ維持することが難しくなるリスクが存在します。

当社グループは、ビジョンを<「人起点の変革」の最前線に立ち、社会にポジティブな動力を生み出す>と定めており、その推進のため、従業員が性別、国籍、年齢、性的志向、障がいの有無、勤続年数などにかかわらず、誰もが自分らしさを存分に発揮して働けるインクルーシブな企業文化を醸成し、多様性を競争力につなげていく企業風土の浸透に取り組んでおります。また、2021年度からは、グループ全体でのエンゲージメント調査を継続的に実施し、従業員の声に耳を傾け、組織課題の発見・改善を目指すとともに、従業員エンゲージメントスコアの役員報酬への反映を進めています。

また、この「人起点の変革」の加速と経営のさらなる高度化を実現すべく、グループ・リーダーシップの要件定義を明確にしたうえで、2023年1月から「グループ・マネジメント・チーム」によるグローバル経営体制に移行し、2024年からは、グローバルCEOの下に、グローバルCOO、グローバル・プレジデント‐グローバル・プラクティス、グローバル・プレジデント‐データ&テクノロジーを新設し体制強化を図っています。あるべきガバナンスを浸透させていくのはリーダーの役割という観点から、当社グループのあるべき姿を牽引するリーダーシップを見極め、育て、組織全体にポジティブな影響を与えていくため、リーダーシップの後継者計画についても、その育成システムの確立とともに進めております。

 

(4) 事業の構造改革に係るリスク

当社グループは、事業・競争環境の急速な変化に対応するため、構造改革の加速を推進しております。2024年度より顧客企業の窓口をグローバルで一本化し、高度なプラクティスのより迅速な提供と、オペレーションの効率向上により、顧客企業の更なる成長支援を目指すグローバル共通の事業管理モデル「One dentsuオペレーティング・モデル」の導入を進めております。しかしながら、同構造改革が想定通りに進まなかった場合、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、事業環境や構造改革の変化に社内体制が対応できなかった場合には、内部統制の弱体化、管理システムの不備が顕在化するリスクがあります。

 

 

(5) 競争環境と構造変化に起因するリスク

① 異業種との競争の拡大

当社グループは、同業の広告会社グループやデジタルエージェンシーグループとの競争に加え、この数年でコンサルタント、テックカンパニーなど異業種との新たな競争にさらされております。顧客からの広告・マーケティング活動の効率化・最適化の要求が強まり、生活者一人ひとりにカスタマイズしたマーケティング・コミュニケーションへの要求が高まる中、データアナリティクス領域、カスタマーエクスペリエンス領域、コンサルティング領域の企業と競合するケースが増えております。

今後、当社グループの従来の基軸事業である広告マーケティング領域と他領域の間の境界線が今後ますます曖昧になり、異業種との競争が激化した場合、当社グループの収益の一部を異業種の競合社に奪われる可能性があります。また、マーケティング、テクノロジーとコンサルティングの融合領域における有力なプレイヤーとしての当社グループのレピュテーションやブランディングを効果的に確立できなかった場合に、この領域のビジネスを十分に獲得できない可能性があります。

当社グループは、この業界構造の変化を商機と捉え、広告マーケティングで培ったノウハウやクリエティビティを、データとテクノロジーと融合して進化させ、コンシューマー・インテリジェンスを活用したインテグレーテッド・グロース・ソリュ―ションを提供するモデルを確立し、戦略から実施までエンド・トゥー・エンドの統合サービスを提供していくと共に、人財の育成にも力を入れてまいります。

 

② グローバル企業の扱い喪失リスク

当社グループの顧客には、グローバルレベルで事業を展開する企業が多数含まれます。これらの顧客は、広告キャンペーンの統一性を担保する必要性や効率的な運用の観点から、グローバルレベル(あるいはAPAC等の地域レベル)で取り扱い広告会社を選定する入札(グローバルピッチ)を実施することがあります。グローバルピッチは対象となるメディア予算などの取扱高が多額になる傾向があります。

今後、当社グループの既存顧客が実施するグローバルピッチで当社グループが敗北した場合、当社グループの収益減少につながる可能性があります。また、これらのピッチで勝利するために従来よりも低マージンでの受注を余儀なくされた場合、当社グループのオペレーティング・マージンの悪化につながる可能性があります。

当社グループは、グローバル・アクセラレーター・クライアント(重要顧客企業)とのパートナーシップを強化しビジネスの獲得率や定着率を向上させるとともに、そういったクライアントに対して、提供する統合ソリューションの価値に対する正当な対価を得るため、全社的な取り組みを推進しております。

 

③ メディア環境の構造変化に伴うリスク

生活者を取り巻くメディア環境は、イノベーションを背景に、グローバルレベルで大きくデジタルへとシフトしております。当社グループは、このメディア環境の構造変化を商機と捉え、次世代のメディアにグループのリソースを柔軟に配分・投下し、常に最適の顧客体験を提供するための統合ソリューションを顧客企業に提供しております。

しかしながら、当社グループが、メディア環境の構造変化に迅速に対応できない場合、又は変化に適切に対応した取引条件や形態を取ることができなかった場合に、メディアからの収益の喪失、顧客との関係性の悪化などに繋がり、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、このメディア環境の構造変化は、国・地域ごとに異なる形態及び時間軸で進行しており、当社グループが、一部の国・地域において、この潮流に乗り遅れるリスクもあります。

 

④ コンテンツ事業に係るリスク

当社グループは、国内・海外を問わず、映画への制作出資やスポーツイベントの放送権の仕入販売などのコンテンツ事業を展開しております。これらのコンテンツ事業には、収入を得る前に支払が先行するもの、収支計画が多年度にわたるものが多く含まれております。また、大型のスポーツイベントの協賛権や放送権の獲得などには多額の財務的コミットメントを必要とするものもあります。

 

当社グループはこれらのコンテンツ事業領域に長く従事しているため一定の精度で収支計画を立てる知見を有しており、また多くのコンテンツ事業案件をポートフォリオとして管理することでコンテンツ事業のリスク分散を図っております。

しかしながら、コンテンツ事業の収入を左右する生活者の反応を確実に予測することは困難であり、案件が収支計画通りに進捗しない場合、また、当社グループによる仕入金額を下回る金額でしか協賛権や放送権を顧客に販売できない場合、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(6) のれん及び無形資産の減損リスク

当社は2013年3月に英国の大手広告会社Aegis Group plcを買収、その後もグローバルレベルで多数の会社の買収を実施したことに伴い、多額ののれん及び無形資産を計上しております。

当社グループは、買収案件の投資リターンの定期レビューや、減損の兆候の有無にかかわらず年に一度毎年第4四半期会計期間中、もしくは減損の兆候を認識した場合はその都度行うのれん減損テストを通じて、投資パフォーマンスの予期せぬ大規模な悪化を防ぐための管理を行っております。当連結会計年度において、直近の実績を踏まえた最新の事業計画を基にのれんの減損テストを行った結果、APACののれんが配分された資金生成単位グループにおいてのれんの全額及び無形資産の一部について減損損失678億4百万円を認識しました。今後の減損テストの結果、再び巨額の減損損失が発生した場合、当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(7) 情報セキュリティ・サイバーセキュリティに係るリスク

当社グループは、その業務遂行の過程で、顧客企業の未公開の商品・サービスや事業に係る情報を受領することが頻繁にあります。当社グループでは情報セキュリティマネジメントシステムの国際規格を取得するなど、情報管理には万全を期しておりますが、万一情報漏えい等の事故が発生した場合、当社グループの信頼性が損なわれ、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

また、想定外の外部サイバー攻撃、従業員又はサプライヤーのアクションによって、重大なビジネスシステム及びデータの機密性、完全性又は可用性が脅かされ、その結果、重大な運用・規制・財務・レピュテーション上の、又はクライアントへの影響が生じる可能性があります。

当社グループでは、セキュリティリスクへの対応を確かなものとするため、国内・海外のネットワークのセキュリティ部門を束ねるグループ・セキュリティ機能を設け、進化する脅威の重要性を継続的に評価し、ERMアプローチに沿ったリスク管理とコントロールの有効性評価を行っております。

 

(8) サステナビリティ課題に係るリスク

当社グループは、2021年1月に策定した「2030サステナビリティ戦略」に、5つのマテリアリティ(「企業倫理とコンプライアンス/データセキュリティ」「DEI」「人的資本の開発」「気候変動へのアクション」「イノベーションに導くリーダーシップ」)を反映したアップデートを行い、同戦略に掲げた環境、社会性、ガバナンス、及び事業をも含めた指標の目標を達成する施策を推進しております。

しかしながら、社会・経済の外部環境要因などにより、これらの目標達成が計画通りに進捗しなかった場合には、当社グループのレピュテーションなどに悪影響がある可能性があります。

2024年より、気候変動リスクへの対応をはじめとする「2030サステナビリティ戦略」の実行を統括するグローバル・チーフ・サステナビリティ・オフィサーを任命いたしました。

 

 

(9) 法規制・訴訟等に係るリスク

① 労働法規に違反するリスク

当社グループは、従業員ひとりひとりが恒常的に良好なコンディションを維持できる労働環境を整えることを経営の最優先課題の1つとして取り組んでおりますが、同労働環境の整備が維持できない場合、当社グループの従業員のモチベーション及びパフォーマンスの低下、優秀な従業員の外部流出、多様性ある人財の獲得の困難化などの事態が発生し、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、当社の完全子会社である株式会社電通を中心に2017年度から継続的に取り組んできた労働環境改革により、国内における従業員の労働環境は着実に改善されているものの、労務管理上の不祥事が再発した場合、当社グループのレピュテーションが大きく悪化する可能性があります。

 

② 個人情報等に係るリスク(データ・ガバナンス)

当社グループは、その業務遂行の過程で、顧客企業にとっての既存顧客・潜在顧客の個人情報を受領することがあります。また、顧客企業からの消費者ひとりひとりにカスタマイズしたマーケティング・コミュニケーションへの要求が高まる中、パーソナルデータを利活用した商品・サービスを開発して顧客企業に提供しております。

当社グループは、国内・海外を問わず、個人情報保護法及びEU一般データ保護規則等の法令又は諸規制を遵守し、また、これら法令又は諸規制の改定に迅速に対応しており、またグループ共通の「グローバルデータ保護原則」を制定しており、現時点においてこれらの法令又は諸規制が当社グループの事業に悪影響を及ぼすことは想定しておりません。しかしながら、万一個人情報の漏えい等の事故が発生した場合、当社グループの信頼性が損なわれ、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、今後、これら法令又は諸規制が改定され、一方、倫理的な観点から、当社グループのパーソナルデータの利活用に何らかの制限が課され、商品・サービスの一部を顧客企業に提供できなくなった場合、当社グループの事業に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

③ 訴訟等に係るリスク

当社グループ会社が広範な領域にわたり遂行している事業は、国内・海外問わず、政府機関・顧客・媒体社・協力会社等から調査・訴訟・メディア監査等に基づく請求・課徴金等を受けるリスクを内包しております。

なお、前連結会計年度の有価証券報告書に記載した東京2020オリンピック・パラリンピック関連事案については、調査検証委員会からの提言を受け、社会に対する責任意識と透明性を高め、自分たちが守るべきルールやプロセスを明確にすることを目的とした「意識行動改革」をdentsu Japan改革委員会が具体化し、その施策を推進しております。

 

(10) 災害、事故並びに地政学に関わるリスク

当社グループが事業を遂行又は展開する地域において、自然災害、電力その他の社会的インフラの障害、通信・放送の障害、流通の混乱、大規模な事故、伝染病、パンデミックの再発、戦争、テロ、政情不安、社会不安等が起こった場合には、当社グループ又は当社グループの取引先の事業活動に悪影響を及ぼし、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、地域・マーケット毎に想定される上記の問題に対し、クライシス・マネジメントや事業継続計画(BCP)を定期的に検討しております。

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(経営成績等の状況の概要)

(1) 財政状態及び経営成績の状況

<事業全体の概況>

2023年の世界経済は、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化、世界的な物価上昇とそれに対処するための各国中央銀行による金融引き締め、米国の一部金融機関の破綻による金融不安など、先行き不透明な状況が続きました。

こうした環境下、当期(2023年1月1日~12月31日)における当社グループの業績は、売上総利益は前期比2.3%増となりました。売上総利益のオーガニック成長率は△4.9%でした。物価上昇及びコロナ禍からの回復に伴う諸経費の増加、人員増等による人件費の増加などにより販管費が増加したため、調整後営業利益は同20.0%減、オペレーティング・マージンは同390bps減、親会社の所有者に帰属する調整後当期利益は同31.3%減、減損損失の計上などにより、営業利益は同61.5%減、親会社の所有者に帰属する当期損失は107億14百万円(前期は当期利益598億47百万円)となりました。

なお、調整後営業利益は、営業利益から、買収行為に関連する損益及び一時的要因を排除した、恒常的な事業の業績を測る利益指標であります。

買収行為に関連する損益:買収に伴う無形資産の償却費、M&Aに伴う費用、完全子会社化に伴い発行した株式報酬費用

一時的要因の例示:構造改革費用、減損、固定資産の売却損益など
 親会社の所有者に帰属する調整後当期利益は、当期利益から、営業利益に係る調整項目、条件付対価に係る公正価値変動額(アーンアウト債務再評価損益)・株式買取債務に係る再測定額(買収関連プットオプション再評価損益)、これらに係る税金相当・非支配持分損益相当などを排除した、親会社の所有者に帰属する恒常的な損益を測る指標であります。

 

     当期の連結業績(単位:百万円、△はマイナス)

科目

当期

前期

前期比・差

収益

1,304,552

1,246,401

4.7%

売上総利益

1,144,819

1,119,519

2.3%

営業利益

45,312

117,617

△61.5%

親会社の所有者に帰属する当期利益

△10,714

59,847

 

※ 従来、「その他の収益」に表示していたコンテンツ事業の収益分配金は、当期において「収益」に含めて表示することに変更しております。また、従来、当該収益分配金に関連する費用として「その他の費用」に表示していた長期前払費用償却費等は、収益の控除項目として「収益」に含めて表示することに変更しております。これに伴い、前期については、当該表示方法の変更を反映した遡及修正後の金額を記載しています。遡及修正の内容については、「第5 経理の状況 1連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 2.作成の基礎 (5) 表示方法の変更 (連結損益計算書)」を参照ください。

 

 

     当期の主要な利益指標(単位:百万円、△はマイナス)

科目

当期

前期

前期比・差

調整後営業利益

163,515

204,307

△20.0%

オペレーティング・マージン

14.5%

18.4%

△390bps

親会社の所有者に帰属する調整後当期利益

89,839

130,835

△31.3%

 

※ 2022年11月にロシア事業の譲渡契約を締結したことから、譲渡が完了するまでの期間に発生するロシア事業に係る営業損益は、一時的要因として当期の調整後営業利益には含めておりません。これに伴い、前期については、前期に調整後営業利益に含めていたロシア事業に係る営業損益を排除して組替表示しております。

 

 

 

<当期の連結業績のポイント>

売上総利益については、連結オーガニック成長率は△4.9%でしたが、為替影響やM&Aによる収益貢献により、前期比2.3%の増収となり、3年連続で上場来最高となりました。調整後営業利益は、オーガニック成長がマイナスとなったこと及び販管費の増加等により、前期比20.0%の減益となり、オペレーティング・マージンは前期比390bps減少し、14.5%となりました。

事業における減益に加え、APACにおいて678億4百万円の減損損失を計上したことなどにより、制度会計上の営業利益は453億12百万円と前期比61.5%の減益となりました。また、親会社の所有者に帰属する当期利益は107億14百万円の損失計上となりました。

前年に続き、カスタマートランスフォーメーション&テクノロジー(CT&T)領域に注力するM&Aを推進し、CRMコンサルティング事業を展開するスペインの「Omega Customer Relationship Management Consulting, S.L.」、米国のB2Bエクスペリエンス&コマース・エージェンシー「Shift7 Digital, LLC.」、デジタルクリエイティブコンテンツの制作とマーケティングのパーソナライゼーション支援をグローバルに展開する英国の「Tag Worldwide Holdings Ltd」、デジタルファーストのクリエイティブエージェンシー事業を展開するドイツの「RCKT GmbH」等を買収しました。

日本でのCT&T領域の二桁成長や、新規連結した各社の貢献の一方、海外各リージョンでのCT&Tにおけるプロジェクト遅延と規模縮小なども影響し、同領域の売上総利益が全体に占める構成比は前期と同水準の32%となりました。

 

<当期の連結業績:地域別>

当連結会計年度より、報告セグメントを変更しております。当連結会計年度の比較・分析は、変更後の区分に基づいております。詳細は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 連結財務諸表注記 6.セグメント情報(3)報告セグメントの変更等に関する事項」をご参照ください。

 

1.日本

広告市況は軟調に推移しましたが、CT&T領域は二桁の成長をとげ好調を維持し、売上総利益のオーガニック成長率は1.6%、売上総利益は4,489億98百万円(前期比1.8%増)で3年連続で過去最高を更新しました。物価上昇及びコロナ禍からの回復に伴う諸経費の増加、人員増等による人件費の増加などにより、調整後営業利益は1,034億40百万円(同2.1%減)、オペレーティング・マージンは23.0%(前期 は23.9%)となりました。

 

2.Americas(米州)

Americasにおける売上総利益のオーガニック成長率は△7.2%となりました。主要マーケット別にみると、カナダ、ラテンアメリカなどは堅調でしたが、CT&Tにおけるプロジェクト遅延と金融・テックセクターを中心とした市況の悪化などによる顧客企業のメディア出稿の減少が影響し米国などは厳しい状況となっています。為替レートが全般的に円安となっていること及びM&Aにより、Americasの売上総利益は、3,220億78百万円(前期比1.6%増)、調整後営業利益は730億30百万円(同7.1%増)、オペレーティング・マージンは22.7%(前期は21.5%)と、いずれも前期を上回りました。

 

3.EMEA(ロシアを除くヨーロッパ、中東及びアフリカ)

EMEAにおける売上総利益のオーガニック成長率は、第2四半期及び第3四半期に発生したDACH(ドイツ・オーストリア・スイス)区域での複合的な事業変革とシステム・インテグレーションを背景とした一時的財務影響等により、△10.9%となりました(同影響を除くと△7.6%)。主要マーケット別にみると、スペイン、オランダなどは堅調でしたが、イギリス、スイス、ドイツ、フランスなどは厳しい状況となっています。為替レートが全般的に円安となっていること及びM&Aにより、EMEAの売上総利益は、2,375億23百万円(前期比2.0%増)でしたが、DACH区域での一時的財務影響、物価上昇及びコロナ禍からの回復に伴う諸経費の増加などにより、調整後営業利益は242億38百万円(同53.3%減)、オペレーティング・マージンは10.2%(前期は22.3%)となりました。

 

 

4.APAC(日本を除くアジア太平洋)

APACにおける売上総利益のオーガニック成長率は△8.2%となりました。主要マーケット別にみると、台湾などは堅調でしたが、中国、オーストラリア、インドなどは厳しい状況となっています。為替レートが全般的に円安となっていること及びM&Aにより、APACの売上総利益は、1,132億35百万円(前期比0.8%増)でしたが、物価上昇及びコロナ禍からの回復に伴う諸経費の増加、人員削減費用の計上などにより、調整後営業利益は79億57百万円(同64.3%減)、オペレーティング・マージンは7.0%(前期は19.8%)となりました。

 

  地域別のオーガニック成長率(△はマイナス成長)

 

当期

2023年度

第4四半期(10-12月)

2023年度

第3四半期(7-9月)

2023年度

第2四半期(4-6月)

2023年度

第1四半期(1-3月)

日本

1.6%

0.9%

3.0%

3.4%

△0.2%

Americas

△7.2%

△9.3%

△6.6%

△7.4%

△4.9%

EMEA

△10.9%

△13.6%

△17.2%

△12.7%

3.4%

APAC

△8.2%

△8.6%

△9.1%

△7.0%

△7.8%

連結

△4.9%

△6.6%

△6.0%

△4.7%

△1.6%

 

 

<当期における中期経営計画の進捗について>

2023年度における中期経営計画の進捗は以下のとおりとなりました。

 

前事業年度の有価証券報告書記載の当社グループが設定した、経営目標等は、以下のとおりであります。

① 事業変革による成長戦略の実践

オーガニック成長率:2021年度を基準に2024年度まで年平均成長率ベースで4~5%とする。

・売上総利益に占める「カスタマートランスフォーメーション&テクノロジー」領域の構成比を今後50%に高めることを目指す。

② 収益性と効率性の改善

・2023年度までオペレーティング・マージンを17.0~18.0%のレンジで管理し、2024年度には18.0%を確保する。

③ 財務基盤の改善と、株主価値の持続的向上

 ・Net debt/調整後EBITDA(期末)の上限を1.5倍とし、中期的な目線を1.0~1.5倍とする (IFRS第16号の適用影響を控除したベース)。

配当性向(基本的1株当たり調整後当期利益ベース)を漸進的に高め、2024年度までに35%とする。

④ ESG経営の推進

・2030年度までにCO2排出量を46%削減、2030年度までに再生可能エネルギー使用率100%を達成(利用可能なマーケットに限定)する。

従業員エンゲージメントスコアを向上させる。

従業員のダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DEI)の強化。2030年度までに女性管理職比率を30%とする。

 

なお、④の2030年度までに女性管理職比率を30%については、女性リーダー比率45%へと目標を変更しております。

 

 

以上の経営目標等に対し、2023年度の進捗は以下のとおりでした。

① 事業変革による成長戦略の実践

・オーガニック成長率:

2021年度は連結13.1%、2022年度は連結3.2%、2023年度は△4.9%となりました。目標値の平均成長率4~5%を、3年間の平均で下回っております。

・売上総利益に占める「カスタマートランスフォーメーション&テクノロジー」領域の構成比:

2020年度は27.5%、2021年度は29.1%、2022年度は32.1%、2023年度は31.9%となり、中長期的に上昇しております。

② 収益性と効率性の改善

・調整後オペレーティング・マージン:

オペレーティング・マージンは、2020年度は14.8%、2021年度は18.3%、2022年度は18.4%、2023年度は14.5%となりました。2023年度は、目標レンジを下回る結果となりました。

③ 財務基盤の改善と、株主価値の持続的向上

・Net debt/調整後EBITDA(期末):

2021年度末及び2022年度末のNet Debt/調整後EBITDA倍率はマイナスとなっており、2023年度末のNet Debt/調整後EBITDA倍率は0.59倍であり、1.5倍を下回っております。

・配当性向(基本的1株当たり調整後当期利益ベース):

2020年度は28.5%、2021年度は30.0%、2022年度は32.0%、2023年度は35.0%となり漸進的に引き上げております。(なお、2023年度は、DACH(ドイツ・オーストリア・スイス)区域での複合的な事業変革とシステム・インテグレーションを背景とした一時的財務影響と、年内に計上した退職費用について、過去の一貫性に配慮し足し戻した「控除後基本的1株当たり調整後当期利益」ベースでの配当性向です。)

 

④ ESG経営の推進

・2030年度までにCO2排出量削減と再生可能エネルギー100%(利用可能なマーケットに限定):

詳細は、「サステナビリティに関する考え方及び取組 (2) 気候変動へのアクション ③目標と実績」をご参照下さい。

 

・従業員エンゲージメントスコアの向上(全社員対象の調査を毎年実施):

2023年度のスコアは以下のとおりとなっております。
・当社グループ全体 66(2021年度スコア68、2022年度スコア68)
・国内 60(2021年度スコア63、2022年度スコア60)
・海外 69(2021年度スコア70、2022年度スコア71)
 

・従業員のダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(DEI)の強化。2030年度までの女性リーダー比率向上:

2023年12月末時点における当社グループにおける女性リーダーの比率は、当社グループ全体で32.4%であります。

 

<財政状態の状況について>

当期末は、前期末と比べ、主に「のれん」が増加したものの、「現金及び現金同等物」が減少したことなどにより、資産合計で1,070億25百万円減少し、3兆6,344億1百万円となりました。一方、負債については、主に「社債及び借入金」が減少したことなどにより、負債合計で644億53百万円減少し、2兆7,216億46百万円となりました。また、資本については、主に配当金の支払いなどにより「利益剰余金」が減少したことなどから、資本合計は425億72百万円減少し、9,127億55百万円となりました。

 

なお、前連結会計年度及び当連結会計年度において、主に、ロシア事業に関する資産及び負債を、「売却目的で保有する非流動資産」及び「売却目的で保有する非流動資産に直接関連する負債」に分類しております。詳細は、「第5 経理の状況 1連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 13.売却目的で保有する非流動資産」をご参照ください。

 

中期経営計画において、健全かつ柔軟なバランスシートを維持することは重要な課題であり、当社グループは、今後の経営方針として、Net debt/調整後EBITDA(期末)の上限を1.5倍とし、中期的な目線を1.0~1.5倍 (IFRS第16号の適用影響を控除したベース)としていく方針であります。

 

(2) キャッシュ・フローの状況

当期末の現金及び現金同等物(以下「資金」)は、3,906億78百万円(前期末6,037億40百万円)となりました。主に財務活動による支出などにより、前期末に比べ2,130億61百万円の減少となりました。

 

営業活動によるキャッシュ・フロー

 営業活動の結果により得た資金は、前期に比べ56億28百万円減少し、752億67百万円となりました。主に税引前利益が減少したことや、運転資本が増加したことなどによるものであります。

 

投資活動によるキャッシュ・フロー

 投資活動の結果支出した資金は、前期に比べ1,219億50百万円増加し、1,462億97百万円となりました。主に子会社の取得による支出が増加したことによるものであります。

 

財務活動によるキャッシュ・フロー

 財務活動の結果支出した資金は、前期に比べ345億11百万円減少し、1,536億81百万円となりました。主に長期借入金の返済による支出が増加した一方で、短期借入金の純増減額の増加、長期借入れによる収入の増加、自己株式取得による支出の減少などによるものであります。

 

(生産、受注及び販売の状況)

販売実績

当連結会計年度におけるセグメントの販売実績(収益)は次のとおりであります。

 

セグメントの名称

収益(百万円)

前期比(%)

日本

546,501

103.3

Americas

350,455

108.0

EMEA

268,880

102.8

APAC

115,142

100.5

全社

23,574

141.9

1,304,552

104.7

 

 

(注) 1.セグメント間取引については相殺消去しております。

 

(経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容)

文中における将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において、当社グループが判断したものであります。

 

 (1) 財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容

当連結会計年度の財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容につきましては「(経営成績等の状況の概要) (1) 財政状態及び経営成績の状況」に記載したとおりであります。

 

 

 (2) キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

① 資本政策・財務戦略の基本的な考え方

当社グループは、2021年2月に発表した中期経営計画期間において、経営の安定性、財務の健全性に留意しつつ、企業活動のデジタル化の進展などがもたらす社会の変化と事業機会を積極的にとらえ、広く社会課題の解決に資するとともに、さらなる企業価値、株主価値の向上を目指してまいります。

財務の健全性については、純有利子負債の調整後EBITDAに対する倍率の上限(期末)を1.5倍とし、中期的な目線を1.0~1.5倍(いずれもIFRS第16号の適用影響を控除したベース)とすることで、高い信用格付の維持を目指してまいります。また、内部資金、金融機関からの借入、社債、コマーシャル・ペーパー、債権流動化、又はコミットメントライン等により、十分な手元流動性を確保することとしております。さらに、2023年度においては、急速な外部環境変化等に万全を期すため、引き続き金融機関との間で一時的に追加の銀行融資枠を設定しております。これらにより、急激な事業環境の変化等に対するリスク耐性が高い状態を維持できるよう努めてまいります。

M&A・設備投資等の成長投資に関しては、経営の安定性・財務の健全性に留意しながら、グループ全社にわたる成長に向けた投資を推進してまいります。

株主還元に関しては、これらの活動を通して得られる利益の適切な配分と本源的な企業価値の向上を通じて株主の皆様への利益還元に努めることとし、配当方針としては、基本的1株当たり調整後当期利益に対する配当性向が2024年度までに35%となるよう漸進的に高めてまいります。なお、2023年度に1年前倒しで同配当性向35%を達成いたしました。

 

② 資金需要の主な内容

当社グループの運転資金需要のうち主なものは、広告作業実施のための媒体料金及び制作費の支払等並びに人件費をはじめとする販売費及び一般管理費であります。

また、2021年2月に発表した中期経営計画期間においては、新しいテクノロジーやソリューション開発、イノベーションへの投資や高成長領域であるカスタマートランスフォーメーション&テクノロジーへのM&A・投資に係る資金需要が見込まれます。

 

③ キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度のキャッシュ・フローの状況につきましては「(経営成績等の状況の概要) (2) キャッシュ・フローの状況」に記載したとおりであります。

 

④ 資金調達及び流動性の状況

当社グループは、内部資金、金融機関からの借入、社債、コマーシャル・ペーパー、又は債権流動化等の多様な手段の中から、その時々の市場環境や長期資金の年度別償還額も考慮した上で、機動的に有利な手段を選択し、資金調達を行っております。なお、長期資金については、原則として当社で一元的に資金調達しております。

また、緊急時の流動性を確保するため、当社はシンジケーション方式による極度額500億円のコミットメントラインを、Dentsu International Limited(以下「DI社」といいます。)は5億英ポンド(約900億円)のコミットメントラインを設定しております。また、急速な外部環境変化等に万全を期すため、引き続き金融機関との間で一時的に追加の銀行融資枠を設定しております。

さらに、グループ内の資金調達の一元化・資金効率の向上・流動性の確保の観点から、資金余剰状態にある子会社から当社が資金を借り入れ、資金需要が発生している子会社に貸出を行うキャッシュ・マネジメント・システムを導入しております。

当社グループは、安定的な外部資金調達能力の維持向上を重要な経営課題と認識しており、格付機関である株式会社格付投資情報センター(R&I)から長期格付AA-、短期格付a-1+を取得しております。また、主要な内外金融機関との間で長期間に亘って築き上げてきた幅広く良好な関係に基づき、当社グループの事業の維持拡大、必要な運転資金の確保、成長投資資金の調達に関しては問題なく実施可能であると認識しております。

 

 

 (3) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 当社の連結財務諸表は、国際会計基準審議会により公表されたIFRSに基づき作成されております。

また、当社経営陣は、連結財務諸表の作成に際し、決算日における資産・負債の報告数値及び偶発債務等オフバランス取引の開示、報告期間における財政状態及び経営成績について影響を与える見積りを行わなければなりません。経営陣は、例えば、投資、企業結合、退職金、法人税等、偶発事象や訴訟等に関する見通しや判断に対して、継続して評価を行っております。経営陣は、過去の実績や状況に応じ合理的だと考えられる様々な要因に基づき、見積り及び判断を行い、その結果は、資産・負債の簿価、収益・費用の報告数字についての根拠となります。実際の結果は、見積り特有の不確実性があるため、見積りと異なる場合があります。

当社の連結財務諸表で認識する金額に重要な影響を与える見積り及び仮定は、以下のとおりであります。

 

① 有形固定資産、のれん及び無形資産の減損

当社グループは決算日において、棚卸資産及び繰延税金資産を除く非金融資産が減損している可能性を示す兆候があるか否かを判定し、減損の兆候が存在する場合には当該資産の回収可能価額に基づき減損テストを実施しております。のれんは償却を行わず、減損の兆候の有無にかかわらず年に一度、又は減損の兆候がある場合はその都度、減損テストを実施しております。資産の回収可能価額は資産又は資金生成単位の処分コスト控除後の公正価値と使用価値のいずれか高い方の金額としており、資産又は資金生成単位の帳簿価額が回収可能価額を超過する場合には、当該資産は回収可能価額まで減額し、減損損失を認識しております。使用価値の算定に際しては、資産の耐用年数や将来キャッシュ・フロー、成長率、割引率等について一定の仮定を用いております。

これらの仮定は過去の実績や当社経営陣により承認された事業計画等に基づく最善の見積りと判断により決定しておりますが、事業戦略の変更や市場環境の変化等により影響を受ける可能性があり、仮定の変更が必要となった場合、認識される減損損失の金額に重要な影響を及ぼす可能性があります。

のれんの減損テストにおける主要な仮定や感応度分析等の詳細については、「第5 経理の状況 1.連結財務諸表注記 15.のれん及び無形資産 (3)のれんの減損テスト」をご参照ください。

 

② 使用権資産

当社グループは、借手としてのリースについて、リースの開始日において、使用権資産及びリース債務を認識しております。使用権資産は開始日において取得原価で測定しております。開始日後においては、原価モデルを適用して、取得原価から減価償却累計額及び減損損失累計額を控除して測定しております。

 当社グループは構造改革の一環として不動産の適正化を行っており、一部の不動産リース契約について、サブリースの活用を見込んでおります。当該リース契約に関する使用権資産の残高は、基本サブリース料、リース期間におけるリース支払料の想定増加率、リースインセンティブ及びサブリース開始時期を含む空室期間に仮定をおいて算定しております。市場環境の変化や予測不能な事象の発生等により上記仮定の見直しが必要となった場合には、翌連結会計年度において使用権資産に係る追加の減損又は減損の戻入れが発生する可能性があります。

 

③ 金融商品(条件付対価及び株式買取債務を含む)の評価

当社グループは有価証券やデリバティブ等の金融資産を保有しており、当該金融資産の評価に当たり一定の仮定を用いております。公正価値は、市場価格の他、マーケット・アプローチやインカムアプローチ等の算出手順に基づき決定しております。具体的には、株式及びその他の金融資産のうち活発な市場が存在する銘柄の公正価値は市場価格に基づいて算定し、活発な市場が存在しない銘柄の公正価値は観察可能な市場データを用いて算定した金額、観察不能なインプットを用いて主としてインカムアプローチやマーケット・アプローチで算定した金額で評価しております。

企業結合の結果生じる条件付対価及び株式買取債務の公正価値等は、観察不能なインプットを用いて割引キャッシュ・フロー法で算定した価額で評価しております。

当社経営陣は金融商品の公正価値等の評価は合理的であると判断しておりますが、予測不能な前提条件の変化等により見積りの変更が必要となった場合、認識される公正価値等の金額に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 

 

④ 確定給付制度債務の評価

確定給付制度債務及び退職給付費用は、年金数理計算上で設定される前提条件に基づいて算出されております。これらの前提条件には、割引率、将来の報酬水準、退職率、死亡率等が含まれます。

当社経営陣はこれらの前提条件は合理的であると判断しておりますが、実際の結果が前提条件と異なる場合、又は前提条件が変更された場合、認識される費用及び計上される債務に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 

⑤ 引当金

当社グループは、過去の事象の結果として現在の法的又は推定的債務を有しており、債務の決済を要求される可能性が高く、かつ当該債務の金額について信頼性のある見積りが可能である場合に引当金を認識しております。貨幣の時間価値の影響が重要である場合、引当金は当該負債に特有のリスクを反映させた割引率を用いた現在価値により測定しております。

これらの引当金は、決算日における不確実性を考慮した最善の見積りにより算定しておりますが、予測不能な事象の発生や状況の変化等により影響を受ける可能性があり、実際の結果が見積りと異なる場合、計上される債務の金額に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 

⑥ 繰延税金資産の回収可能性

繰延税金資産は、税務上の繰越欠損金、繰越税額控除及び将来減算一時差異のうち、将来の課税所得に対して利用できる可能性が高いものに限り認識しております。繰延税金資産は毎決算日に見直し、税務便益の実現が見込めないと判断される部分について減額しております。

当社グループは、将来の課税所得及び慎重かつ実現性の高い継続的なタックス・プランニングの検討に基づき繰延税金資産を計上しており、回収可能性の評価に当たり行っている見積りは合理的であると判断しておりますが、見積りは予測不能な事象の発生や状況の変化等により影響を受ける可能性があり、実際の結果が見積りと異なる場合、認識される費用及び計上される資産に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 

 

5 【経営上の重要な契約等】

該当事項はありません。

 

 

6 【研究開発活動】

当連結会計年度における研究開発費の金額は、2,048百万円であり、日本におけるものであります。

㈱電通国際情報サービス(注)を中心とする情報サービス業では、同社グループの中期経営計画(2022年~2024年)の2030年に向けた活動方針「事業領域の拡張(拓くチカラ)」「新しい能力の獲得(創るチカラ)」「収益モデルの革新(稼ぐチカラ)」「経営基盤の刷新(支えるチカラ)」を推進するため、各種技術研究に加え、独自ソリューションの開発・強化を実施しました。主な研究開発活動の概要は以下のとおりであります。 

(注) 2024年1月1日付で㈱電通総研に社名変更しております。

 

(1) 金融ソリューション

金融ソリューションの研究開発活動の金額は412百万円であります。
 主な活動内容は、セキュリティチェックシート回答提案サービス「Securate」開発、及び新規事業開発に関する研究であります。

 

(2) ビジネスソリューション

ビジネスソリューションの研究開発活動の金額は392百万円であります。
 主な活動内容は、会計ソリューション「Ci*X」の新製品開発、及び人事管理ソリューション「POSITIVE」のシステム基盤改良に関する研究であります。

 

(3) 製造ソリューション

製造ソリューションの研究開発活動の金額は321百万円であります。
 主な活動内容は、次世代空モビリティの性能評価手法開発、及びソフトウェア・ファースト※に関する研究であります。
※システム製品の設計において、ハードウェアに先行してソフトウェアを開発し、システム全体の価値を向上させる考え方

 

(4) コミュニケーションIT

コミュニケーションITの研究開発活動の金額は181百万円であります。
 主な活動内容は、日本製薬工業協会策定の「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」に対応した情報公開Webサービスの機能強化、及びデータクラウド「Snowflake」の導入テンプレート開発に関する研究であります。

 

(5) その他

上記に属さない研究開発活動の金額は740百万円であります。
  主な活動内容は、開発基盤「aiuola」の機能強化、都市OSソリューション「CIVILIOS」の機能拡張、及び脱炭素化サービスとプロダクト開発に関する研究であります。