① 経営環境
2023年は、前年のロシアによるウクライナ侵攻を契機とした安全保障環境の緊迫化、国際関係における資源・エネルギーの戦略的利用、大幅な円安、物価の高騰等の環境が継続し、国際社会経済は引き続き不透明な状況です。さらに本年10月以降、イスラエル・パレスチナ紛争の激化が新たな不安定要素として加わり、世界経済の回復・成長は足元において見通しが困難な状況が続いています。
しかし、中長期的には世界の人口の拡大、新興国を中心とした経済成長等により、エネルギー需要は持続的に増加する基調は変わらないものと想定しています。このうちエネルギーの過半を占める石油・天然ガス需要については、世界経済の回復・成長に伴い、増加基調となるものと考えられ、中長期的にも、基調としてはアジアを中心とする堅調な需要が見込まれると考えています。また、石油・天然ガスは平時のみならず緊急時の燃料供給に貢献する点で、国民生活・経済活動に不可欠なエネルギー源と認識しています。
日本では、安定的なエネルギー供給確保のための石油・天然ガスの自主開発比率の向上が継続的な課題となっています。日本政府は、2021年に決定した第6次エネルギー基本計画において、石油・天然ガスの開発・生産・輸送はエネルギー安全保障上引き続き非常に重要な位置を占めるとの認識のもと、自主開発比率(2022年度の実績:33.4%)目標を、2030年に50%以上、2040年には60%以上に引き上げました。
他方、2021年、第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)以来、気候変動対応のため、産業革命前からの平均気温上昇を2℃未満に抑え、さらに1.5℃に抑える努力をする長期目標の実現に向けた取組みの強化が進められています。また、EU、英国、日本等の主要国をはじめ、各国で2050年に向けて温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする、いわゆる「ネットゼロ目標」が表明されています。2023年のCOP28の合意文書では、2030年までに世界で再エネ電源容量を3倍に、エネルギー効率を2倍に改善することが盛り込まれました。新型コロナウイルス感染症の影響からの経済回復、エネルギー安全保障、気候変動対応を同時に進める政策や、社会構造の省エネルギー化・クリーン化に向けた政策が展開されています。こうしたネットゼロカーボン社会に向けた議論の進展により、カーボンニュートラルへの対応の緊要性が増すものと考えています。日本政府も「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、温室効果ガス削減目標を掲げている中、水素・アンモニア・CCUS等の石油・天然ガス上流事業のクリーン化及び再生可能エネルギーの導入促進等、カーボンニュートラルを見据えた取組みが大きく加速しているとの認識です。
② 経営方針
当社は、2022年2月に「長期戦略と中期経営計画(INPEX Vision @2022)」(以下「INPEX Vision @2022」という。)を発表しました。「INPEX Vision @2022」では、経営環境の変化を踏まえつつ、2030年及び2050年に向けた当社の長期戦略を示すとともに、2022年から2024年までの3年間の中期経営計画を策定し、当面の具体的な取組みと目標を示しています。
ネットゼロカーボン社会に向けた国内外における様々な変化は、当社にとって新たな挑戦であると同時に、更なる飛躍の機会と捉えています。今後、当社はこの「INPEX Vision @2022」に基づき、以下の経営方針のもと、我が国及び世界のエネルギー需要に応えつつ、2050年ネットゼロカーボン社会の実現に向けたエネルギー構造の変革に積極的に取り組んでまいります。
また、当社は2023年8月9日発表の「企業価値の持続的向上に向けて」において、資本効率の長期的向上を強く意識し、企業価値の持続的向上を目指すことを示しています。
まず、ポートフォリオの強化による着実な利益成長とコスト削減を進め、ROEと株主資本コストを意識しつつWACCを上回るROICの安定的確保を実現しさらなる高みを目指すとともに、ネットD/Eレシオが概ね30%~50%の範囲内で推移するよう適切な財務のレバレッジのコントロールを通じて、資本効率の向上を目指します。
また、石油・天然ガス分野(イクシスLNG、アバディLNG)の成長、再生可能エネルギーの安定収益化、CCSによる石油・天然ガス分野の座礁資産化リスク低減、水素・アンモニア事業等の推進による将来の成長機会等を通じ、当社の将来事業成長への市場の信認を得るための具体的な取組みを推進します。
さらに、将来事業成長へのコンフィデンスに基づき、資本効率の向上に向けてのアクションとして引き続き株主還元を強化します。
1.石油・天然ガス分野
石油・天然ガス分野を引き続き基盤事業と位置づけ、コアエリアへの選択と集中、天然ガスシフト、事業の強靭化とクリーン化の3点を基本戦略として、それらを一体で進めることで、エネルギーの安定供給と気候変動への責任ある対応という二つの社会的責任を果たします。当社は、従来、石油・天然ガス分野を対象としてコアエリアを選定していましたが、「INPEX Vision @2022」にて、各地域に当社が持つアセット、ネットワーク、技術力等を基盤として、石油・天然ガスとネットゼロ5分野全体のコアエリアとして再設定を行い、両者のシナジーを追求していきます。
第一に、豪州・アブダビ・東南アジア・日本・欧州という5つのコアエリアに対して資金・人材等のリソースを集中させ、事業効率の向上とシナジーの発揮を目指します。コアエリア以外については、バランスの取れたポートフォリオ構築の観点から、収益性や将来性を踏まえて売却も含めて検討します。
第二に、当社はエネルギートランジションが進展する中にあっても天然ガスの重要性は引き続き高いものと見ており、当社ポートフォリオにおけるガスの比率の向上を目指したいと考えています。そのため、天然ガスへの投資比率を現在の50%程度から将来的に70%程度に引き上げ、アジア、オセアニアを中心に規模の拡大を図ります。また、将来の水素やアンモニアプロジェクトへの事業参画の転換や拡大についても検討します。油田開発については、早期生産、早期コスト回収、低CO2排出を重視し、厳選していきます。
第三に、強靭化については、需要減少や低油価環境下においても収益を確保できる競争力あるプロジェクトポートフォリオとしていくことを目指し、徹底的なコスト削減を図るとともに、デジタル技術の活用等による生産性向上を推進します。また、クリーン化については、CCS・CCUSの導入、ゼロフレア実現、再エネ電力の活用、森林クレジットの活用などによりプロジェクトの低炭素化を徹底して進めます。
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コアエリア |
現在、及び今後推進する取組み |
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豪州 |
オペレータープロジェクトであるイクシスLNGプロジェクトにおいて、当初の想定より早いペースで、ほぼ所期の生産量を継続できる状態になりました。現在の年間LNG生産能力890万トンを930万トンに引き上げた上で安定生産を継続できる体制を2024年までに構築できるよう生産プロセスの改善を実施します。また、長期的な生産量維持を確実にするため、周辺鉱区における探鉱及び既発見アセットへの参入を通して追加開発を行い、イクシス既存生産設備へ繋ぎこみを今後加速します。その進捗も踏まえつつ、長期的には2030年頃からのさらなる生産能力拡張も検討しています。 |
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アブダビ |
2030年に原油生産能力として、日量500万バレルの達成を目標とする全体の増産計画を踏まえ、当社グループがアブダビで参画する油田群の生産能力増強の早期実現を目指します。新規探鉱事業であるOnshore Block4では、複数の油ガス層の評価作業を進め、早期の生産開始に取り組みます。また、増産計画と併せて、生産コストの更なる削減を目指し、デジタル・トランスフォーメーションの導入等を推進するとともに、GHG排出原単位の削減に向け、CO2EOR能力の強化をADNOC(アブダビ国営石油会社)とともに進めてまいります。 |
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東南アジア |
アバディLNGプロジェクトについては、2023年10月、従来のジョイントベンチャーパートナーであったShell社からPertamina社及びPetronas社に鉱区権益が譲渡され、両社を新パートナーとして迎えました。2023年12月には、経済性強靭化とクリーン化を主たる修正内容とした改定開発計画がインドネシア政府当局より承認されました。これに伴い、現地でのプロジェクト活動を順次再開し、基本設計作業(FEED)の準備を進め、マーケティングやファイナンス等その他必要な作業も経た上で、早期の最終投資決定(FID)と生産開始を目標としてプロジェクトを推進していきます。アジアにおけるエネルギートランジション促進を目的にさらなる天然ガス資源を獲得すべく、ベトナム・マレーシア等において、探鉱・M&Aを推進します。 |
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日本 |
南関原における天然ガス探鉱を実施し、その結果を踏まえて早期の天然ガス資源の開発を目指します。ガス供給インフラに関しては、新東京ラインの延伸等を行い、約1,500kmのパイプラインによる供給体制の強靭化を図ります。また、直江津LNG基地においては、ガスシフトの推進による需要増加への対応のほか、水素やアンモニアのプロジェクトの推進に合わせて、設備拡張を検討します。 |
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欧州 |
2022年に取得したスノーレ油田などの生産鉱区を含むノルウェーのアセットをプラットフォームとして、保有鉱区における既発見未開発油ガス田の開発及び周辺探鉱機会の追求により事業を拡大し、さらなる価値向上を目指します。ノルウェーは石油・天然ガス事業における低炭素化の取組みにおいて先進地域であり、スノーレ油田における浮体式洋上風力発電施設の建設を進めるなど、プラントにおいて再生可能エネルギーによる電力を使用することで天然ガスなどの操業に必要な燃料の使用を減らし、操業の低炭素化を推進します。 |
2.ネットゼロ5分野
ネットゼロカーボン社会に向け、気候変動対応目標を定めるとともに、5つの事業を強力に推進します。
<気候変動対応目標及びその進捗>
気候変動に関するパリ協定目標の実現に貢献すべく、2050年自社排出ネットゼロカーボン等を目指す気候変動対応目標を定めます。具体的な目標は、「2050年絶対量ネットゼロ(Scope1+Scope2)」「2030年原単位30%以上低減(Scope1+Scope2、2019年比)」「Scope3の低減」です※1。目標達成に向け、CO2地下貯留・活用(CCUS)や森林保全によるCO2吸収等に取り組み、石油・天然ガス分野全体のCO2低減を強力に推進していきます。
「中期経営計画 2022‐2024」においても、排出原単位をさらに4.1kg-CO2e/boe以上低減することを事業目標として立てています。2023年排出原単位は、29kg-CO2e/boe(暫定値)となり、2019年比で約30%低減しており、継続して各種低減策の実行に取り組みます。
※1 Scope1~3の定義は以下のとおり。
Scope1:報告企業が所有又は管理する発生源からの直接排出量
Scope2:報告企業が購入し消費する電力、蒸気、熱及び冷却からの間接排出量
Scope3:報告企業のバリューチェーンで発生するその他すべての間接排出量
<5つの事業>
1.水素事業の展開
2030年頃までに3件以上の事業化の実現、及び年間10万トン以上の生産・供給を目標として設定し、その実現に向けた取組みを進めます。
・国内においては、新潟県柏崎市でのブルー水素・アンモニア製造・利用一貫実証を推進し、2025年中の運転開始を目指すとともに、この実証での成果を元に、2030年頃までに、新潟県における商業規模のブルー水素製造を目指します。
・海外においては、米国における大規模低炭素アンモニア事業における年間110万トン以上の商業生産を目指し推進するとともに、豪州における国際液化水素サプライチェーンの構築に向け、日豪間での実証事業を推進し、将来的な商用化を目指します。
・その他、豪州・アブダビ・米国等において、事業性検討や他社との協業による事業拡大を推進し、さらなるクリーン水素プロジェクトの立ち上げ・参画を目指します。
2.石油・天然ガス分野のCO2低減(CCUS推進)
2030年頃にCO2圧入量年間250万トン以上という目標を設定し、その実現に向けた技術開発・事業化を推進することで、CCUS分野におけるリーディングカンパニーとなることを目指します。
・国内では、2023年に実施した南阿賀油田におけるCO2-EORの実証試験を元に、開発中のEOR効率改善技術の確立を図り、CCUS技術の拡大と、海外油田でのEOR技術の展開を推進します。また、2023年8月には独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構による令和5年度「先進的CCS事業の実施に係る調査」委託事業において、当社が関与する「首都圏CCS事業」と「日本海側東北地方CCS事業」が採択され、事業可能性調査を実施しています。引き続き両案件を推進し、2030年までの日本国内でのCCS事業化を目指します。
・海外では、豪州イクシスLNGプロジェクトにおいて2020年代後半にCCSを導入し、第一段階として年間200万トン以上のCO2圧入開始を目指すとともに、ダーウィン地域でのCCSハブ事業に主導的役割を果たしていきます。また、アブダビにおいて、ADNOCとともに、アブダビ陸上鉱区の現状年間80万トンのCCUS能力の増強を目指します。
3.再生可能エネルギーの強化と重点化
洋上風力・地熱発電事業を中心に、1-2GW規模の設備容量確保を目標に、M&A等により取得したアセットをプラットフォームとして事業を加速的に拡大し、主要なプレイヤーとなることを目指します。
・コアエリアでの事業拡大
2021年から2022年にかけて、当社コアエリアである欧州のロンドンや、同じくコアエリアのASEAN地域のジャカルタに再生可能エネルギー事業の統括拠点を設立し、それぞれの地域において再生可能エネルギー事業を推進する体制を構築しました。これらに加えて、2023年7月、当社は、再生可能エネルギー世界最大手のEnel Green Powerと豪州における戦略的な協業に合意しました。当協業では、再生可能エネルギー電源の開発に留まらず、再生可能エネルギー電力供給のバリューチェーンの構築を推進します。
・他のネットゼロ事業とのシナジー追求
石油・天然ガス事業を低炭素化、脱炭素化するために再生可能エネルギーを活用する取り組みを強化していきます。また、再生可能エネルギーによる発電とグリーン水素等の製造や販売を統合的に行うビジネスモデルの構築も、欧州を中心に追求していきます。
4.カーボンリサイクルの推進と新分野事業の開拓
メタネーション※2の社会実装を推進し、2030年を目途に年間6万トン程度の合成メタンを当社パイプラインで供給することを目指すとともに、さらなる発展を追求します。
・メタネーションについては、新潟県長岡市において、2023年6月に世界最大級のメタネーション試験設備の建設を開始し、2026年2月頃に当社ガスパイプライン経由で需要家への供給開始を予定しています。さらに、7月にはアブダビにてMasdarとe-methane製造事業の実現に向けた共同調査契約を締結しています。同プロジェクトには東京ガス・大阪ガスも参画し、日本へのe-methane輸出を目指してアブダビでのメタネーション事業全体の事業性評価に取り組みます。
・人工光合成技術※3について、「ARPChem(アープケム:人工光合成化学プロセス技術研究組合)」の一員として、ソーラー水素と呼ばれる太陽光による水の直接分解技術の技術開発を担当しており、豪州ダーウィンの実験サイトにてテストプラントを設置し、2021年に約12か月の実験運転を実施しました。これは、日照量が多いサンベルト地域に設置された世界で初めてのソーラー水素生成プラントであり、今後、より高効率化、長寿命化による実用化を目指します。
・また、新分野事業として、メタン直接分解やドローン技術の活用に注目して取り組んでいるほか、次世代型蓄電池、CO2回収技術、核融合関連技術、グリーンギ酸生産技術等を開発するスタートアップ企業との出資協業を進めています。
※2 再エネ電力を用いて、水を電気分解し水素を生産する。これと石炭火力発電所等から排出される高濃度CO2や、当社の天然ガス生産時の随伴CO2を、CO2-メタネーションシステム(メタネーション触媒)によってメタンに変換する。
※3 人工光合成パネルの表面に設置された光触媒を用いて、太陽光により水を酸素と水素に分解し、発生した水素を燃料・原料などに利用する。
5.森林保全の推進
森林保全によるCO2吸収を目的とした事業を支援から事業参画へ強化・拡充していきます。
・顧客向けカーボンニュートラルLNG(生産から消費までのCO2排出を実質ゼロとしたLNG)等の販売を進めています。
・優良なREDD+等の事業を支援してクレジットを確保することに加えて、事業自体にパートナーとして参画していくことを目指します。
・2022年3月より、オーストラリア・ニュージーランド銀行及びカンタス航空とのカーボンファーミング及びバイオマス燃料事業協力に係る協業を開始し、2023年8月から豪州Wheatbeltプロジェクトにて植林を開始しています。
以上の取組みにより、エネルギーの安定供給とネットゼロカーボン社会への対応を推し進め、経済・社会の
発展に貢献します。
なお、本項の記載中、将来に関する事項については、別途記載する場合を除いて本書提出日現在での当社グループの判断であり、今後の社会経済情勢等の諸状況により変更されることがあります。
当社は、エネルギーの安定供給とエネルギートランジションへの取組みを両輪で推進し、事業やバリューチェーンを通じて気候変動をはじめとしたサステナビリティの課題に取り組むことを、サステナビリティ経営の基本的な考え方としています。この考え方のもと、当社及び当社のステークホルダー双方にとって重要度の高いサステナビリティに関する6つの重点テーマ(ガバナンス、コンプライアンス、気候変動対応、HSE、地域社会、人的資本)を中心にサステナビリティ経営を実践しています。
(1)サステナビリティ全般
①ガバナンス
当社は、サステナビリティに関する経営トップの考えを明確に発信し、サステナビリティに関する基本方針を審議し、全社的・体系的なサステナビリティ活動を推進する目的で、代表取締役社長を委員長とするサステナビリティ推進委員会を設置しています。委員として代表取締役、総務本部長、経営企画本部長(同委員会副委員長)及びコンプライアンス委員会及びコーポレートHSE委員会の両委員長が出席し、両委員会との連携を図っています。2023年は3回開催され、審議された事項は、経営会議及び取締役会にて議論されました。
また、サステナビリティ推進委員会の下部組織として、各本部の実務者レベルで構成するサステナビリティ推進ワーキンググループ並びに気候変動対応推進ワーキンググループを設置し、全社横断的な協議推進体制を整備しています。
サステナビリティ推進体制図
➊INPEX Value Assurance System(IVAS)審査会:プロジェクトの価値向上及び推進に関する当社の意思決定に資することを目的とした審査会
②戦略
当社グループは、経営理念を踏まえた「サステナビリティ憲章」を定め、当社及び当社のステークホルダーの双方にとって重要度の高いサステナビリティに関する6つの重点テーマを特定し、サステナビリティへの取り組みを推進しています。当社の重点テーマは、ダブルマテリアリティの原則に沿って、当社のサステナビリティだけでなく、外部のステークホルダーや環境などに大きな影響を与える可能性のある課題を特定した上で、優先順位をつけて特定されています。さらに、テーマごとに当社が優先的に行うべきアクションを「重要課題」と特定し、当社の各部署のPDCAサイクルに組み込み、継続的に改善がなされるようになっています。2022年には、同年2月に発表した「長期戦略と中期経営計画(INPEX Vision @2022)」(以下「INPEX Vision @2022」という。)に合わせて重要課題の見直しを行っています。
(a)経営理念
私たちは、エネルギーの開発・生産・供給を、持続可能な形で実現することを通じて、より豊かな社会づくりに貢献します。
(b)サステナビリティ憲章
当社グループは、事業活動を通じて社会的責任を果たす信頼される企業であり続けるとともに、中長期的かつ持続的な企業価値の向上を図ります。経営トップの率先垂範の下、実効あるガバナンス体制を構築して社内・グループ企業に周知徹底を図り、ステークホルダーの関心に配慮しつつ、以下の原則に基づき、事業やバリューチェーンを通じてサステナビリティの課題に積極的に取り組んでいきます。
・社会に不可欠なエネルギーを、よりクリーンな形で安定的かつ効率的に供給します。
・気候変動対応やネットゼロカーボン社会への移行に貢献するべく、エネルギー構造の変革に積極的に取り組みます。
・従業員をはじめ事業に関わる全ての人々の健康と安全を確保し、安全操業・管理を徹底します。また、地球環境課題に取り組み、環境価値の創造に努めます。
・法令を遵守し、人権を含む各種の国際規範や操業地域における社会的規範に沿った良識ある行動をとります。
・広くステークホルダーとのコミュニケーションを図り、企業情報を積極的かつ公正に開示します。
・ダイバーシティを尊重するとともに、働きやすい環境や人材の能力を最大限に発揮する機会を提供し、活力とイノベーションの創出につなげます。
・各国・各地域の文化・習慣に配慮し、当該国・地域の経済社会の発展に貢献します。
(c)サステナビリティに関する6つの重点テーマとINPEXの重要課題
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6つの重点テーマ |
INPEXの重要課題 |
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ガバナンス |
ガバナンス体制の強化 |
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リスクマネジメント体制の強化 |
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サプライチェーンリスク管理 |
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コンプライアンス |
人権の尊重 |
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法令遵守及び贈収賄・汚職防止 |
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気候変動対応 |
気候変動対応目標達成の推進とTCFD提言に沿った情報開示 |
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ネットゼロ5分野の推進 ・水素・アンモニア ・CCUS ・再生可能エネルギー ・カーボンリサイクル・新分野 ・森林保全 |
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石油・天然ガス分野のクリーン化とガスシフト |
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HSE(健康・安全・環境) |
重大災害防止 |
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労働安全衛生の確保 |
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生物多様性保全・水リスク管理 |
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地域社会 |
地域社会・先住民に対する影響評価、低減策の実施 |
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地域社会への貢献 |
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人的資本 |
最高に働きがいのある会社の実現 |
③リスク管理
当社は、サステナビリティ関連を含む事業運営に関するリスクを適切に把握・管理するリスク管理体制の継続的な改善に努めています。損害の発生・拡大を未然に防止する体制を確立し、顧客、取引先、投資家などステークホルダーからの信頼の維持・強化を図り、企業価値の最大化を目指します。詳細は「
リスク管理体制図
④指標及び目標
サステナビリティ経営に関する重点テーマに関する指標及び目標、並びに2023年度実績については、2024年6月末発行予定の「
(2)気候変動対応
①ガバナンス
(a)気候変動関連のガバナンス体制
当社は、気候変動対応に関し、取締役会による監督体制の維持、関与の拡大を図っています。具体的には、気候変動対応の基本方針の決定を取締役会での決議事項としています。このほか、2023年には、ネットゼロ5分野を含む気候変動対応関連の議案について、全16回開催した取締役会のうち14回で議論され、3件の決議事項と18件の審議・報告事項がありました。
当社は、2021年1月、2050年自社排出ネットゼロ(Scope1+2)目標を柱とする気候変動対応目標を定めました。また、2022年2月に「INPEX Vision @2022」を発表し、2050年ネットゼロに向けての道筋としてネットゼロ5分野の各事業を加速度的に拡大していくことを打ち出しました。これに伴い「気候変動対応の基本方針」を2022年3月に改定し対外開示しました。
(b)気候変動対応と役員報酬との連携
当社の代表取締役を始め全ての取締役(社外取締役を除く)の報酬においては、2022年に報酬制度を改定し、株式報酬のKPIとして、「INPEX Vision @2022」の管理指標となっている温室効果ガス排出原単位を採用しています。また、担当役員においては、気候変動対応目標、リスク管理や情報開示などを含め気候変動対応の推進に関し毎年定性目標を設定しており、その達成度の評価が報酬に反映されます。
②戦略
(a)気候関連のリスク及び機会
2023年末における気候変動関連リスクの評価対象、発生時期見込及び対策の状況
移行リスク
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リスク区分 |
リスクの評価対象 |
発生時期 見込 |
対策の状況 |
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政策・法規制 |
当社グループが事業を操業する国・地域が気候変動対策を強化し、カーボンプライシング制度やメタン排出管理規制等の環境関連法令、規則及び基準の予想より早い導入・強化によりコストが増加するリスク |
短期 |
中期 |
・カーボンプライス政策動向など、外部環境の継続的なモニタリング |
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・インターナルカーボンプライスを適用した経済性評価をベースケースとして実施。インターナルカーボンプライスは、国際エネルギー機関(IEA)のWorld Energy Outlook(WEO)の公表政策シナリオ(IEA-STEPS)のEU価格又は各国のカーボンプライス見通しを基に継続的に見直し |
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・排出量削減の取り組みとして、プロジェクト操業におけるクリーンエネルギーの導入や排出低減策の実施 |
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・メタン排出原単位0.1%を維持するための管理 |
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・OGMP2.0に加盟し、Non-Operation部分も含めたMRV(Measurement, Reporting and Verification )を強化 |
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・関連するステークホルダーとのエンゲージメント |
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技術及び市場 |
・低炭素関連技術が加速度的に進展し、再生可能エネルギー・EV・電池等のコスト低下、あるいは市場の低炭素エネルギー選好により、石油ガスの需要低減または価格低下が進行するリスク |
中期 |
長期 |
・技術・市場動向のモニタリング |
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・IEA WEOの発表済み誓約シナリオ(IEA-APS)を主要シナリオとして財務的評価を実施。2050年ネットゼロ排出シナリオ(IEA-NZE)にも留意 |
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・操業の低炭素化・低コスト化の追求 |
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・ネットゼロ5分野への取組みの加速 |
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レピュテーション |
・2030年以降のScope1,2における絶対排出量目標を求められるリスク |
短期 |
長期 |
・2050年ネットゼロ、2030年排出量原単位30%以上低減目標の設定。更なる目標の検討 |
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・2030年頃にCCSによるCO2圧入量年間250万トン以上達成を目標とし、技術開発・事業化を推進 |
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・メタン排出原単位(メタン排出量÷天然ガス生産量)を現状の低いレベル(約0.1%)で維持 |
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・2030年までに通常操業時ゼロフレア |
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・事業ポートフォリオ見直し |
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・国際機関や金融市場及びクレジット市場の動向モニタリング |
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レピュテーション |
Scope3削減目標の設定を求められるリスク |
短期 |
中期 |
・Scope3排出量の低減に向けたステークホルダーとのエンゲージメント |
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・販売先の排出量削減に向けた取り組みの検討 |
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・カーボンニュートラルLNGの販売 |
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資金調達 |
投資家や金融機関から当社グループの事業内容やGHG排出量削減に向けた取り組み及び情報開示が不十分とみなされ、資金調達に悪影響を及ぼすリスク |
短期 |
中期 |
・プロジェクトのGHG排出量削減に向けた取組みの推進 |
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・TCFD提言に沿った情報開示の推進 |
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・投資家や金融機関との対話・エンゲージメントの実施 |
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・資金調達先の多様化に向けた検討 |
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物理的リスク
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リスク区分 |
リスクの評価対象 |
発生時期 見込 |
対策の状況 |
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急性 |
熱帯低気圧や洪水等の極端な気象現象が、操業施設に悪影響を及ぼすリスク |
短期 |
中期 |
・定期的に急性物理的リスク評価を実施 |
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慢性 |
長期的な平均気温上昇、降雨パターンの変化、海面上昇等が操業施設に悪影響を及ぼすリスク |
中期 |
長期 |
・定期的に慢性物理的リスク評価を実施 |
2023年末における気候変動関連機会の評価対象、発生時期見込及び戦略と進捗状況
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機会区分 |
機会の評価対象 |
発生時期 見込 |
戦略と進捗状況 |
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資源の効率に関する機会 |
生産プロセスでのエネルギー効率改善 |
短期 |
•豪州イクシスLNGプロジェクトにおける生産時の燃料ガス・フレア削減イニシアチブ、ガス漏洩検知・修理(LDAR)プログラム等を通じた低炭素化操業を推進 |
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エネルギー源に関する機会 |
再生可能エネルギー電源の生産プロセスでの活用 |
短期 |
中期 |
•イクシスLNGプロジェクトにおけるバッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)及び小規模太陽光発電設備の導入 |
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中期 |
長期 |
•イクシスLNGプロジェクトにおけるオンサイトコンバインドサイクル発電プラントから再生可能エネルギー由来系統電力への切り替えに係る検討推進 |
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長期 |
•ウィスティング油田開発計画で陸上水力発電による給電の可能性を追求 |
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製品及びサービスに関する機会 |
CCUSの推進 |
中期 |
•南阿賀鉱場でのCO2EOR実証試験において、圧入試験を実施し、次のフェーズへの移行を検討 |
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•インドネシア・タングーLNGプロジェクトでのCCUS事業開発検討 |
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•既存の豪州Darwin LNG及び東チモール共和国海域Bayu Undanガスコンデンセート田の施設及びパイプラインを活用したCCS事業の検討 |
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長期 |
•PETROS社との共同協力協定を通じたマレーシアでのCCS事業可能性の調査を継続 |
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•独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構による令和5年度「先進的CCS事業の実施に係る調査」委託事業において、当社が関与する「首都圏CCS事業」と「日本海側東北地方CCS事業」が採択され事業可能性の調査を実施中 |
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•豪州ボナパルト海域CCS鉱区での震探・掘削作業に向けた評価・準備作業中 |
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•インドネシア・アバディLNGプロジェクトで将来的なCCS事業(第3者由来のCO2受け入れ)の可能性を検討 |
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水素事業の展開 |
中期 |
•新潟県柏崎市での水素・アンモニア製造実証事業について、地上設備の敷地造成工事とCO2圧入・生産・観測井掘削に向け、地上プラント工事着工(2023年7月)、2025年中に運転開始予定 |
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•アブダビにおけるクリーンアンモニア事業への参画機会を追求中 |
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•エア・リキード グループ、LSB Industries社及びVopak Moda Houston社と共同で、米国テキサス州ヒューストン港における大規模低炭素アンモニア事業のPre-FEEDを開始 |
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•Green Hydrogen International社と共同で、米国テキサス州南部におけるグリーン水素事業の共同スタディ契約を締結 |
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機会区分 |
機会の評価対象 |
発生時期 見込 |
戦略と進捗状況 |
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製品及びサービスに関する機会 |
水素事業の展開 |
長期 |
•川崎重工、岩谷産業が共同出資する日本水素エネルギー会社(JSE)に資本参加し、国際液化水素サプライチェーンの構築に向けた日豪間での実証事業に参画 |
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再生可能エネルギー事業の拡大 |
短期 |
地熱:インドネシア・ムアララボ地熱発電プロジェクトの追加開発 |
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中期 |
風力:長崎県五島沖洋上風力の建設推進 |
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地熱:秋田県小安地熱プロジェクトの建設推進 |
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カーボンリサイクルの推進 |
中期 |
•メタネーション技術開発事業として2026年中の運転開始を目指し、プラント設備工事を実施 |
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長期 |
•アブダビにて、Masdarとe-methane製造事業の実現に向けた共同調査契約を締結 |
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•アブダビにて、Masdar・三菱ケミカルグループとグリーン水素由来のポリプロピレン製造を含むカーボンリサイクルケミカル製造事業の実現に向けた共同調査契約を締結 |
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•人工光合成の研究開発を推進 |
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新分野事業の開拓 |
中期 |
•インドネシアにおけるバイオメタン供給事業に関する詳細検討の開始 |
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中期 |
長期 |
•ドローン活用、メタン直接分解、CO2回収、蓄電池関連事業などの検討 |
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•CO2と水を原料にグリーンなギ酸を製造する技術を開発する米国企業「OCOchem」に対し出資 |
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長期 |
•フュージョンエネルギー(核融合反応によって放出されるエネルギー)の早期実現を目指す、京都フュージョニアリング株式会社に対し出資 |
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カーボンニュートラル商品の販売促進 |
短期 |
•カーボンニュートラル商品販売 |
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森林保全の推進 |
短期 |
•オーストラリア・ニュージーランド銀行及びカンタス航空との豪州でのカーボンファーミング及びバイオマス燃料事業について、2023年8月に植林を開始 |
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市場に関する機会 |
エネルギー供給の多様化 |
中期 |
•再生可能資源由来燃料であるリニューアブルディーゼル(低炭素軽油:RD)の国内提供 |
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よりクリーンな天然ガスの開発 |
中期 |
•イクシスLNGプロジェクトでのCCS導入、生産能力引上げ、拡張も視野に入れた検討推進 |
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•インドネシア・アバディLNGプロジェクトでのCCSの導入を含め事業推進 |
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(b)気候変動リスクの財務的評価
当社は以下2つの手法で気候変動リスクの財務的評価に取り組んでいます。
一つ目は、インターナルカーボンプライスによる当社の各プロジェクトの経済性評価を実施しています。これは、世界では既に150以上の国・地域が2050年ネットゼロ宣言を行っており、今後更なる気候変動関連政策強化に伴い、各国においてカーボンプライス導入が進むと推測されるためです。当社ではIEA-STEPSのカーボンプライスを参考にインターナルカーボンプライスを毎年レビューしています。2023年からは、IEA WEOのカーボンプライス見通しを反映の上、所在国にカーボンプライス制度が存在し、政策コスト見通しを参照できる場合は当該コスト見通しを参照しています。カーボンプライス制度が存在しない場合は、2022年公表のIEA-STEPSのEU価格(2030年US$90/tCO2e、2040年US$98/tCO2e、2050年US$113/tCO2e)に連動した変動価格を参照しました。なお、2024年は、2023年公表のIEA-STEPSのEU価格に連動した値を採用しています。
二つ目は、当社の事業ポートフォリオの財務的評価です。IEA-APS及びIEA-NZEの油価とカーボンプライスが、当社ポートフォリオに与える市場リスクの財務的評価です。IEA WEOのIEA-APS及びIEA-NZEが提示している油価とカーボンプライスの推移を、プロジェクトのNPV計算に適用し、ベースケース適用のNPVからの変化率を、当社の事業ポートフォリオに対する影響として算出します。前提の置き方など難しい点があるものの当社の事業ポートフォリオの財務的評価の一つの手法として実施しています。引き続き事業環境の変化を織り込みながら、本手法の運用基準の深化及び当社の事業ポートフォリオの競争力向上に努めていきます。
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インターナルカーボンプライスによる プロジェクトの経済性評価 |
各種シナリオによる ポートフォリオの財務的影響評価 |
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評価手法 |
カーボンプライス政策が、プロジェクトの経済性に与える影響を評価 |
下記シナリオによる油価及びカーボンプライスによる影響を評価 |
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● IEA-APS |
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● IEA-NZE |
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指標 |
インターナルカーボンプライス適用によるIRR |
上記指標価格適用によるNPV変化率(感応度分析) |
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取組み状況 |
2021年度よりベースケース化 |
2018年より実施しており、2022年度よりIEA-NZEシナリオを追加 |
(c)当社の低炭素社会シナリオ
2050年までの低炭素社会に向けたエネルギー需給などの事業環境の見通しについて、当社はIEA-STEPS、IEA-APS及びIEA-NZE、日本エネルギー経済研究所のレファレンスシナリオ及び技術進展シナリオを参照し、長期的な将来のエネルギー需要や顧客動向等の事業環境分析を行っております。当社は、これらのシナリオを活用し長期的な経営戦略として2022年2月に「INPEX Vision @2022」を策定しました。今後もシナリオのレビューを用いながら事業環境の変化をいち早く把握し、社会の動向に合わせ経営戦略・経営計画の見直しを行っていきます。
(d)当社が参照している主要なシナリオ
国際エネルギー機関(IEA)のWorld Energy Outlook(WEO)
・公表政策シナリオ(IEA-STEPS)
・発表済み誓約シナリオ(IEA-APS)
・2050年ネットゼロ排出シナリオ(IEA-NZE)
日本エネルギー経済研究所
・レファレンスシナリオ
・技術進展シナリオ
③リスク管理
(a)気候変動関連リスク及び機会の評価・管理
当社は、気候変動関連リスク及び機会の評価・管理を、原則として年次サイクルで実施しています。全社的な気候変動対応の推進は、経営企画本部経営企画ユニット内の気候変動対応推進グループが担当しています。気候変動関連リスクに関しては、各部門を代表する30名ほどのメンバーで構成される「気候変動対応推進ワーキンググループ(WG)」が評価を実施して、予防及び低減措置案を策定しています。予防及び低減措置案は、当社が取り組むべき検討課題としてサステナビリティ推進委員会で審議された上で、年度計画に反映されます。なお、リスク評価のプロセスは、国際的なリスク管理基準であるISO31000(2009)(図A)の手順に従っています。外部要因・内部要因をアップデートし、当社の状況をWGメンバーで共有した上で、リスクを特定し、その原因、予防措置、低減措置、及び残存リスクを分析(図B)し、その残存リスクを当社で作成した「TCFD提言対応リスク評価マトリクス」(図C)を使用して評価しています。
気候変動に関する機会については、「INPEX Vision @2022」に基づいて、水素・CCUS事業開発本部や再生可能エネルギー・新分野事業本部などを中心として全社的に取り組み、毎年機会の最新状況を確認しています。上記のリスクと機会はサステナビリティ推進委員会で審議され、社長決裁を経た上で経営会議・取締役会に報告する仕組みとなっています(図D)。
④指標及び目標
(a)気候変動対応目標
当社は、パリ協定目標に則したネットゼロカーボン社会の実現に貢献すべく、3つの目標を定めました。
一つ目は、2050年までに当社の排出量ネットゼロを実現すること。二つ目は、そのプロセスとして、2030年時点で排出原単位を30%以上低減(2019年比)すること。同目標の対象は当社の事業プロセスからの排出量であるScope1+2としています。三つ目は、販売した石油ガスの燃焼によるScope3排出量については、バリューチェーン全体の課題として、関連する全てのステークホルダーと協調してその低減に取り組むことです。なお、2030年目標の達成に向け、「中期経営計画 2022 - 2024」では、排出原単位を3年間で10%(4.1kg-CO2e/boe)以上低減することを事業目標として加えています。また、ネットゼロ目標達成に向けた具体的な対策として、上流事業のクリーン化やネットゼロ5分野の推進に加えて、メタン排出原単位(メタン排出量÷天然ガス生産量)を現状の低いレベル(約0.1%)で維持すること、通常操業時のゼロフレアなどを挙げています。これらを含めたネットゼロ5分野の取組みの詳細は「
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項目 |
2021年 |
2022年 |
2023年 (暫定値) |
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排出原単位1 |
33 |
28 |
29 |
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原単位計算式 |
= |
Scope1+Scope2-オフセット2 |
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石油・天然ガス上流事業のネット生産量+再生可能エネルギー事業の発電量 |
1 オフセットを含めた排出原単位
2 オフセットには、当該事業の環境価値が当社に帰属すると考えられる再生可能エネルギー事業による削減貢献量と、森林保全による吸収量が含まれる。再生可能エネルギーによる貢献量は「国際協力銀行の地球環境保全業務における温室効果ガス排出削減量の測定・報告・検証に係るガイドライン」(J-MRVガイドライン)に基づいて算出
(3)人的資本・多様性
①戦略(人的資本・多様性に関する取り組み)
(a)人材戦略
当社グループの経営理念を実現するためには、「現場力」と「技術力」そして「国際性」という強みを一層磨き、激変する事業環境においても柔軟に対応できる組織と人材が必要と考えております。目指す組織文化として「既成概念に縛られず自由闊達に意見を出しあい、新たなことに挑戦し続け、イノベーションを起こせる組織文化」、求める人材として「多様性の受容、成長意欲、自律的行動をもとに、ビジネス現場で価値を創出する人材」と定義し、これを実現するために人材戦略基本方針に基づき、各種重点施策に取り組んでおります。
(b)INPEX HR VISION
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当社グループがグローバル企業として責任ある経営を持続的に実施していくためには、働く人材の多様化とグローバルに価値観を共有できる人材の育成が重要であると考えております。その実現に向けて人事部門では、各国の人事部門責任者と協議を重ね策定した、4つの柱からなる「INPEX HR VISION」を当社グループ人事部門共通のビジョンとして制定しております。この4つの柱を中核として、各種人事施策をグローバルな視点で推進し、従業員の能力向上とチームとしての成果の実現へとつなげることで、高い国際競争力を有する組織づくりに取り組んでおります。
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(c)INPEXバリューの展開と「Employer of Choice」に向けて
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当社グループでは、年齢・性別・国籍等に関わらず、従業員一人ひとりが自身の力を発揮するために、当社グループの役員及び従業員が共通に大切にする価値観として制定した「INPEXバリュー」を実践することが重要と認識しております。 また、役員・従業員向けに心理的安全性セミナーを定期的に開催し、オープン社長室やタウンホールミーティングを開催するほか、チームビルディングなどを通じてコミュニケーションを活性化させることで、自由闊達に意見を出しあい、イノベーションを起こせる組織文化を作り上げ、グローバルレベルでの「最高に働きがいのある会社“Employer of Choice”」を目指しております。 |
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(d)グループ連携の強化
当社グループが激変するビジネス環境下において永続的に成長していくためには、従業員の約40%を占める外国籍従業員が、これまで培った知識や経験を活かし、それぞれの良さ・強みを融合していくことで成長・イノベーションを実現させるため協働していくことが重要と考えております。具体的には、個別のプロジェクト推進にあたり当社従業員と海外子会社従業員が混在する組織構築や、様々な部門でグローバルワークショップ会議、技術交流のための会議などを定期的に開催し、当社グループ全体で知見や経験を共有し、ベストプラクティスを追求する取り組みを継続して実施しております。
また、人材育成においては、各国の事情に合わせたリーダーシッププログラムやスキル系研修を実施して人材の育成を支援しているほか、海外現地法人等の従業員で将来を担う人材を対象として視野拡大やグループの一体感醸成を目的に本社研修プログラムを設けております。本プログラムはコロナ禍で中断しておりましたが、2023年に再開し、豪州より7名の従業員を受け入れております。
(e)「最高に働きがいのある会社」になるために注力している主な取り組み
<自律的な働き方>
当社では、従業員の意欲を引き出しつつ適切な人材配置と任用につなげていくため、ラインマネジメント職の任期制、社内公募制度、社内副業制度等を導入しているほか、年齢や職歴ではなく、就いている職責・役割に応じて処遇が決まる人事制度を採用しております。
<多様性の推進>
①当社グループは、行動規範で人種、性別、性的指向、性自認、年齢などによる差別を行わないことを規定し、INPEX LGBT ALLYによる活動などを通じてダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン施策を推進しております。なお、当社では、この継続的取り組みが評価され、職場におけるLGBTQ+などの性的マイノリティへの取り組みの評価指標「PRIDE 指標」において、2019年度からゴールド又はシルバーを受賞しております。
②当社グループでは、全ての職種において女性が活躍しているものの、依然として職種による偏在及び女性管理職割合が低いことが課題であると認識しております。この課題解決に向け、当社においては女性管理職となり得る人材を一層積極的にキャリア採用していくとともに、新卒採用者における女性学生対象のイベント参加などの女性母集団形成に向けた施策の継続実施を通じ、毎年の新規採用者の女性割合が30%以上になるように取り組んでまいります。
また、育児休業取得率について、男性の育児休業取得率は70%を超えており、引き続き取得率向上に向けて支援を継続し、在宅勤務やコア無しフレックスタイム制度など育児介護などの事情に応じた多様な働き方を実現していきます。
<健康経営>
当社グループは、従業員一人ひとりの心身の健康管理を経営課題として捉え、2018年9月に「INPEXグループ健康宣言」を社内外に発信すると共に、従業員の一層の健康保持・増進に向けた取り組みを進めております。
具体的にはメンタルヘルス対策強化を世界共通の課題として認識し、eラーニング、医師との連携、職場復帰フォローなどの取り組みを推進しています。また、がん等の難病に罹患した従業員の業務との両立支援など他の健康維持に向けた取り組みも行っており、各国または各グループ会社の文化や慣習等の実情を踏まえながら、当社グループ全体において、より一層の健康保持・推進、Well-beingへのニーズに応える職場づくりに向けた取り組みを進めております。
なお、当社では「健康経営推進委員会」を設置して、全社一体となって戦略的に健康経営を推進している取り組みにより、2020年から2023年まで「健康経営銘柄」に4年連続(4回目)、「健康経営優良法人(大規模法人部門)(ホワイト500)」に2019年から2023年まで5年連続(5回目)で選定されております。
<安全>
当社グループでは、事業の特性上、何にも増して安全を優先したうえで安定的に生産操業することが企業の持続的発展の礎となることから「安全」を重要視しております。「今日も笑顔で、家に帰るために」をモットーに安全な職場づくりに取り組んでおり、「 Anzen Dai Ichi - ‘Safety Number One’」が海外拠点においても浸透しています。
また、INPEXバリューの一つである「安全第一」を実現するため、経営陣が国内外の当社グループ操業現場へ直接赴き現場作業のリスクを肌で理解するとともに、HSEの重要性の意義を直接操業現場に伝え、操業現場で勤務する一人ひとりが改めて安全の大切さを認識する機会としてのHSEマネジメントサイトビジットを継続して実施しております。これらの活動を通じて安全文化を醸成し、より一層の全社的な労働災害の未然防止と無事故をベースとした安定操業に努めていきます。
②指標及び目標
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分類 |
指標 |
目標 (2030年度) |
実績 |
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2023年度 |
2022年度 |
2021年度 |
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エンゲージメント の強化 |
高エンゲージメント者の割合(%)* |
20%以上 |
16.3 |
15.8 |
14.7 |
|
心理的安全性(偏差値)* |
50以上 |
51.5 |
50.9 |
50.8 |
|
|
採用 |
新規採用者に占める新卒採用者の割合(%)* |
- |
39.5 |
48.8 |
65.0 |
|
育成・研修 |
一人あたりの研修費用(円)* |
- |
228,179 |
180,251 |
142,360 |
|
多様性の推進 |
新規採用者に占める女性の割合(%) |
30%以上 |
25.5 |
n/c |
n/c |
|
女性管理職の割合(%) |
10%以上 |
6.4 |
5.7 |
5.1 |
|
|
男女賃金差異(%) |
80%以上 |
74.1 |
n/c |
n/c |
|
|
男性育児休業取得率(%)* |
70%以上 |
76.9 |
n/c |
n/c |
|
|
障がい者雇用率(%)* |
法定雇用率 以上 |
2.9 |
3.1 |
2.9 |
|
|
日本国籍以外の割合(%) |
- |
41.6 |
39.9 |
n/c |
|
|
健康経営・安全 |
健康診断受診率(%)* |
100% |
94.8 |
100 |
100 |
|
労働災害発生頻度 |
0.00 |
1.18 |
1.24 |
1.40 |
|
(注)1 「*」は当社グループに属する全ての会社で実施しているものではなく、当社グループとしての記載が困難で
あるため、提出会社(提出会社から他社への出向者を含む)の目標及び実績を記載しております。
2 特段の注記がない場合は、子会社を含んだ数値となります。
3 「エンゲージメントの強化」の数値は、ユトレヒト・ワーク・エンゲージメント尺度と相関の高い8項目を含んだ委託先尺度で測定し、全従業員平均の実績値を偏差値で算出しております。高エンゲージメント者割合とは、ワークエンゲージメントの偏差値が62.0以上の人数割合となります。
4 健康診断受診率は毎年4月~翌年3月の1年間の数値となりますが、2023年度は12月31日時点の数値となります。
5 労働災害発生頻度は百万労働時間当たりの死亡災害、休業災害、不休災害及び医療処置を要する労働災害の発生頻度となります。
6 データを集計していない箇所はn/c(not collected)を付しております。
なお、本項の記載中、将来に関する事項については、別途記載する場合を除いて本書提出日現在での当社グループの判断であり、今後の社会経済情勢等の諸状況により変更されることがあります。
以下には、当社グループの事業展開上のリスク要因となる可能性があると考えられる主要な事項を記載しております。また、必ずしも事業上のリスクに該当しない事項についても、投資家の投資判断上重要と考えられる事項については、投資家及び株主に対する情報開示の観点から積極的に開示しております。なお、以下の記載は、当社グループの事業上のリスクをすべて網羅するものではありません。
また、本項の記載中、将来に関する事項については、別途記載する場合を除いて本書提出日現在での当社グループの判断であり、当該時点以後の社会経済情勢等の諸状況により変更されることがあります。
I.事業等の主要なリスク
1 石油・天然ガス開発事業の特徴及びリスクについて
(1)災害・事故・システム障害等のリスク
石油・天然ガス開発事業には、探鉱、開発、生産、輸送等の各段階において操業上の事故や災害等が発生するリスクがあります。また、操業に当たって様々な情報システムを利用していることから、これらの情報システムには安全対策が施されているものの、自然災害やサイバー攻撃等により、予期せぬ障害が発生し、操業が停止するリスクがあります。このような情報システムの予期せぬ障害、事故や災害等が生じた場合には、保険により損失補填される場合を除き設備の損傷によるコストが生じることがあり更には、人命にかかわる重大な事故又は災害等となる危険性があります。また、その復旧に要する費用負担や操業が停止することによる機会損失等が生じることがあります。
また、当社グループの関連プロジェクトで労働争議が行われた場合や、新型コロナウイルス感染症等の感染症の流行・拡大により、操業に必要な従業員等の不足、資機材・サービス等の調達や生産物の輸送の困難、産油国政府による操業停止の指示・命令、共同事業を行っている場合のパートナーの方針変更等が生じた場合には、一部又は全部の操業が停止・遅延する可能性があります。
国内天然ガス事業においては、2010年1月以降、輸入LNG気化ガスを原料ガスとして購入しており、更に2013年8月以降、直江津LNG基地において輸入LNGから気化ガスを製造しておりますが、当該輸入LNG気化ガス・輸入LNGの購入先及び直江津LNG基地における事故、トラブルなどにより輸入LNG原料ガスの調達ができない場合、国内ガス田のトラブルにより国産ガスの生産ができない場合、あるいはパイプラインネットワーク上における事故、災害などによりパイプラインの操業が困難になる場合には、当社顧客へのガス供給に支障をきたすなど、当社の国内天然ガス事業に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、環境問題に関しては、土壌汚染、大気汚染及び水質・海洋汚染等が想定されます。当社グループでは、「環境安全方針」を定め、当該国における環境関連法規、規則及び基準等を遵守することは勿論のこと、自主的な基準を設け環境に対して充分な配慮を払いつつ作業を遂行しておりますが、何らかの要因により環境に対して影響を及ぼすような作業上の事故や災害等が生じた場合には、その復旧等のための対応若しくは必要な費用負担が発生したり、民事上、刑事上又は行政上の手続等が開始されてそれに伴う手続関連費用や損害賠償等の金銭の支払い義務が生じたり、操業停止による損失等が生じたりすることがあります。さらに、当該国における環境関連法規、規則及び基準等(新エネルギー・再生可能エネルギー等の支援策を含む。)が将来的に変更や強化された場合には、当社グループにとって追加的な対応策を講じる必要やそのための費用負担が発生し、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
これらの災害・事故・システム障害等のリスクについては、かかるリスクが顕在化することがないよう事故等の発生の未然防止に努めておりますが、リスクは常時あり、顕在化した場合には当社グループの業績に多大な悪影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、作業を実施するにあたっては、可能かつ妥当な範囲において、損害保険を付保することとしておりますが、すべての損害を填補し得ない可能性があり、また、行政処分や当社グループの石油・天然ガス開発会社としての信頼性や評判が損なわれることによって、将来の事業活動に悪影響を及ぼす可能性があります。
(2)探鉱・開発・生産に成功しないリスク
一般的に、鉱区権益を取得するためには、対価の支払いが必要となります。また、資源の発見を目的とした探鉱活動に際して、調査・試掘等のための費用(探鉱費)が必要となり、資源を発見した場合には、その可採埋蔵量、開発コスト、産油国(産ガス国を含む。以下同じ。)との契約内容等の様々な条件に応じて一段と多額の開発費を投ずる必要があります。
しかしながら、開発・生産が可能な規模の資源が常に発見できるとは限らず、近年の様々な技術進歩をもってしてもその発見の確率はかなり低いものとなっており、また、発見された場合でも商業生産が可能な規模でないことも少なくありません。
当社グループでは、探鉱活動に係る支出について、成功成果法(サクセスフル・エフォート・メソッド)を用いて会計処理しております。権益取得費、探査井及び評価井に直接関連するすべての支出は、石油・ガス資産(探鉱・評価資産)として認識し、その後ドライホールと判断された場合には探鉱費を計上し、商業採算性を確保する見込みが損なわれた場合には減損損失を計上しております。地質調査及び地球物理探査費用、並びに探査井及び評価井に関連しない支出等のその他の探鉱段階において発生する支出は、発生時に探鉱費に計上しております。
当社グループでは、保有する可採埋蔵量及び生産量を増加させるために、有望な鉱区には常に関心を払い、今後も探鉱投資を継続する一方、既発見未開発鉱区や既生産鉱区の権益取得等を含めた開発投資を組み合わせることにより、探鉱・開発・生産各段階の資産の総合的なバランスの中で投資活動を行っていく方針です。
探鉱及び開発(権益取得を含む。)は、当社グループの今後の事業の維持発展に不可欠な保有埋蔵量を確保する上で必要なものでありますが、各々に技術的、経済的リスクがあり、探鉱及び開発が成功しない場合には、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
(3)生産量の特定地域及び鉱区への依存度
当社グループは、豪州のイクシスガス・コンデンセート田、アラブ首長国連邦アブダビの海上・陸上油田、国内の南長岡ガス田等において安定的な原油・天然ガスの生産を行っております。当社グループの事業地域は、豪州、アブダビ、東南アジア、日本、欧州という5つのコアエリアに加え、カスピ海沿岸地域を含むユーラシア等に幅広く分散していますが、2023年度における当社グループの生産量の地域別構成比率は豪州及び東南アジア地域が約42%、アブダビ及びユーラシア等地域が約51%と、2つの地域でその大部分を占めております。
現状では当社グループの生産量は、特定地域及び鉱区への依存度が高いため、これらの鉱区において操業が困難になる等の問題が生じた場合には、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
(4)契約期限等
当社グループの海外における事業活動の前提となる鉱区権益にかかる契約においては、鉱区期限が定められているケースが多くあります。鉱区期限が定められている契約が延長、再延長又は更新等されない場合や延長、再延長又は更新等に際し現状よりも不利な契約条件(権益比率の減少を含みます。)となった場合には、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。当社グループでは、これらの契約の延長、再延長又は更新等に向けてパートナーとともに努力する方針でありますが、産油国国営石油会社等との契約交渉の結果、既存の契約が延長、再延長又は更新等されない場合や延長、再延長又は更新等に際し現状よりも不利な契約条件(権益比率の減少を含みます。)となった場合には、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、鉱区期限が定められている契約が延長、再延長又は更新等された場合でも、その時点における残存可採埋蔵量は、生産の進展により減少することが見込まれます。当社グループでは、これに代替し得る鉱区権益の取得を図っておりますが、代替し得る油・ガス田の鉱区権益を十分取得できない場合には、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。さらに、現在探鉱中の鉱区においても契約に探鉱期間が設定されており、鉱区内において商業化の可能性がある原油・天然ガスの存在を確認している場合であっても、当該期間終了までに開発移行の決定ができない場合などにおいては、産油国政府との協議により当該期間の延長、猶予期間の設定などに向けて努力する方針ですが、かかる協議が不調に終わった場合には、当該鉱区からの撤退を余儀なくされる可能性があります。また、一般に、契約につき、一方当事者に重大な違反があるときには、契約期限の到来前に他方当事者から契約解除をすることができるのが通例ですが、これら主要事業地域における契約においても同様の規定が設けられております。当社グループにおいては、そのような事態はこれまで発生したことはなく、今後についても想定しておりませんが、もし契約当事者に重大な契約違反があった場合には、期限の到来前に契約が解除される可能性があります。
また、天然ガス開発・生産事業においては、多くの場合、長期の販売契約・供給契約に基づいて天然ガスを販売・供給しており、それぞれ契約期限が定められております。これらの契約における期限の到来までに、延長又は再延長に向けてパートナーとともに努力する方針ですが、延長又は再延長されない場合や延長された場合でも販売・供給数量の減少などがあった場合には、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、販売契約・供給契約の契約期間中に販売条件の変更があった場合や、プロジェクトの一部又は全部の操業が停止・遅延したこと、想定外の需要変動が発生したこと等により当社が第三者から追加の天然ガスを購入・調達する必要が生じた場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(5)原油、コンデンセート、LPG及び天然ガスの埋蔵量
① 確認埋蔵量(proved reserves)
当社は、当社グループの主要な確認埋蔵量(proved reserves)について自社にて評価を実施しました。確認埋蔵量の定義は、米国の投資家に広く知られている米国証券取引委員会規則S-X Rule 4-10(a)に従っており、評価に決定論的手法または確率論的手法のいずれが用いられているかに関わらず、地質的・工学的データの分析に基づき、既知の貯留層から、現在の経済条件及び既存の操業方法の下で、評価日時点以降操業権を付与する契約が満了する時点まで(契約延長に合理的確実性があるという証拠がある場合は延長が見込まれる期間が満了する時点まで)の間に、合理的な確実性をもって生産することが可能である石油・ガスの数量となっております。また、確認埋蔵量に分類されるためには、炭化水素を採取するプロジェクトが開始されているか、妥当な期間内にプロジェクトを開始することにつき合理的な確信をオペレーターが持っていなければならず、埋蔵量の定義の中でも保守的な数値として広く認識されております。ただし、かかる保守的な数値ではあっても、将来にわたる生産期間中に、確認埋蔵量が全量生産可能であることを保証する概念ではないことに留意を要します。確率論的手法を用いて確認埋蔵量を算定する場合には、確認埋蔵量を回収することができる確率が少なくとも90%以上であることが必要とされております。
当社グループ(関連会社等分を含む)の原油、コンデンセート、LPG及び天然ガスの確認埋蔵量については「第1 企業の概況 3 事業の内容 (2)当社グループの埋蔵量」をご参照下さい。
② 推定埋蔵量(probable reserves)
主要な推定埋蔵量(probable reserves)についても自社にて評価を実施しており、石油技術者協会(SPE)などが策定した基準であるPRMS(Petroleum Resources Management System)に従い、評価・算定しています。なお、推定埋蔵量の算定に用いる将来の油価見通しについては、米国証券取引委員会規則S-X Rule 4-10(a)と同様の、期中の月初油価・ガス価平均価格を使用しております。確率論的手法を用いて推定埋蔵量を算定する場合には、確認埋蔵量と推定埋蔵量を合計した数量(2P)を回収できる確率が50%以上であることが必要とされています。推定埋蔵量の全量が確認埋蔵量と同様な確実性をもって開発・生産されると見込まれるわけではありません。また、主要プロジェクトの2P埋蔵量評価については、定期的に米国の独立石油コンサルティング会社であるDeGolyer and MacNaughtonの認証を受けております。
③ 埋蔵量の変動の可能性
埋蔵量の評価は、評価時点において入手可能な油・ガス層からの地質的・工学的データ、開発計画の熟度、経済条件等多くの前提、要素及び変数に基づいて評価された数値であり、今後生産・操業が進むことにより新たに取得される地質的・工学的データや開発計画及び経済条件等の変動に基づき将来見直される可能性があり、その結果、増加又は減少する可能性があります。また、生産分与契約に基づく埋蔵量は、同契約の経済的持分から計算される数量が生産量だけでなく、油・ガス価格、投下資本、契約条件に基づく投下資本の回収額及び報酬額等により変動する可能性があり、その結果、埋蔵量も増加又は減少する可能性があります。また、当社グループの想定を上回るスピードでネットゼロカーボン社会への移行が進んだ場合には、埋蔵量が減少する可能性があります。このように埋蔵量の評価値は、各種データ、前提、定義の変更、ネットゼロカーボン社会への移行等により変動する可能性があります。
(6)オペレーターシップ
石油・天然ガス開発事業においては、リスク及び資金負担の分散を目的として、複数の企業がパートナーシップを組成して事業を行う場合が多く見られます。実際の作業は、そのうちの1社がオペレーターとなり、パートナーを代表して操業の責任を負います。オペレーター以外の企業は、ノンオペレーターとしてオペレーターが立案・実施する探鉱開発計画や作業を吟味し、あるいは一部操業に参加しつつ、所定の資金提供を行うことで事業に参画します。
当社グループは、経営資源の有効活用やノンオペレーターのプロジェクトとのバランスに配慮しつつ、探鉱、開発、生産それぞれの段階での豊富な操業経験をもとに蓄積したノウハウ及び技術力をもとに、イクシス等の大型LNGプロジェクトを中心として積極的にオペレータープロジェクトを推進していく方針であります。当社は国内外で原油、天然ガスの開発、生産プロジェクトにおいてオペレーターとしての経験を有しているほか、豪州やインドネシアなどにおけるLNGプロジェクトなどに参加し長年ノウハウ、知見等を蓄積してきており、また、メジャーを含めた他の外国の石油会社が行っているのと同様、専門のサブコントラクターや経験豊富な外部コンサルタントを起用することなどにより、LNGプロジェクトを含めたオペレータープロジェクトを的確に遂行することが可能と考えております。
オペレーターとしてのプロジェクト推進は、技術力の向上や、産油国・業界におけるプレゼンスの向上等を通じて鉱区権益取得機会の拡大に寄与することになる一方で、オペレーションに関する各種専門能力を有する人材確保上の制約、資金面での負担増大等のリスクが存在しており、これらのリスクに的確に対応できない場合には、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
(7)共同事業
石油・天然ガス開発事業では、前述のとおり、リスク及び資金負担の分散を目的として数社以上の企業が共同事業を行う場合も多くなっており、この場合、共同事業遂行のための意思決定手続やパートナーを代表して操業を行うオペレーター等を取り決めるために、共同操業協定をパートナー間で締結するのが一般的になっております。ある鉱区において当社グループが共同事業を行っているパートナーとの関係が良好であっても、他の鉱区権益の取得においては競争相手となり得る可能性があります。
また、共同事業の参加者は原則として、その保有権益の比率に応じて共同事業遂行のための資金負担をしますが、一部パートナーが資金負担に応じられない場合などには、プロジェクトの遂行に悪影響を及ぼす可能性があります。
(8)石油・天然ガス開発事業には巨額の資金が必要となり資金回収までの期間も長いこと
探鉱活動には相応の費用と期間とが必要であり、探鉱により有望な資源を発見した場合でも、生産に至るまでの開発段階においては、生産施設の建設費用等の多額の費用と長期に亘る期間が必要となります。このため、探鉱及び開発投資から生産及び販売による資金の回収までには10年以上の長い期間を要することになります。中でも、大型LNGプロジェクトの開発には巨額な投資が必要であり、経済金融情勢の変化によっては資金調達の内容に影響を及ぼす可能性があります。資源の発見後、生産及び販売開始までの開発過程において、政府の許認可の取得の遅延またはその変更、予測しえなかった地質等に関する問題の発生、油・ガス価及び外国為替レートの変動並びにその他資機材の市況の高騰などを含めた経済社会環境の変化や、LNGプロジェクトにおいて生産物購入候補者からの長期販売契約に関する合意が得られないことにより最終投資判断ができない等の要因により、開発スケジュールの遅延や当該鉱区の経済性が損なわれる等の事象が生じた場合には、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
(9)将来の廃鉱に関するリスク
石油・天然ガス生産施設等について、産油国政府との石油契約や現地法令等に基づき、当社グループは、当該施設等の将来の操業・生産終了後に必要となる廃鉱作業に関連して発生する費用の現在価値の見積り額を、資産除去債務として計上しております。その後、廃鉱の作業方法の変更や掘削資機材の調達費用の高騰その他の理由により、当該見積り額が不足していることが判明した場合においては、当社グループの資産除去債務額の積み増しが必要となり、当社グループの財政状態及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
2 原油価格(油価)、天然ガス価格、外国為替、及び金利の変動が業績に与える影響について
(1)油価、天然ガス価格の変動が業績に与える影響
油価並びに海外事業における天然ガス価格の大部分は国際市況により決定され、また、その価格は国際的又は地域的な需給(ネットゼロカーボン社会の進展による需要の下押し圧力の強まりを含みます。)、世界経済(感染症等の世界的な流行・拡大による経済活動の縮小の影響を含みます。)及び金融市場の状況、さらには、産油国政府の方針や産油国間における生産量等に関する合意の動向を含む多様な要素の影響も受け著しく変動します。かかる事象は当社により管理可能な性質のものではなく、将来の油価、天然ガス価格の変動を正確に予測することはできません。当社グループの売上・利益は、かかる価格変動の影響を大きく受けます。油価が1バレル当たり1米ドル変動すると、当社グループの2024年12月期については年間60億円増減することになると期初時点では試算されます。その影響は大変複雑で、その要因としては以下の点が挙げられます。
① 海外事業における大部分の天然ガスの販売価格は、油価に連動していますが正比例していません。
② 売上・利益は売上計上時の油価・天然ガス価格を基に決定されているため、実際の取引価格と期中の平均油価は必ずしも一致しません。
なお、当社は一部油価変動リスクを減じる手段を講じておりますが、かかる手段は当社の油価変動リスクを全てカバーするものではなく、油価変動が与える影響を完全に取り除くものではありません。
国内における天然ガス事業は、国産天然ガス及び輸入LNGを原料としており、LNG市場価格の変動が原料価格及び販売価格に対して影響を及ぼします。また、電力・ガスシステム改革に伴う競争環境の変化が、天然ガス販売価格や天然ガス販売量に影響を及ぼす可能性があります。
さらに、当社グループが保有する事業資産は、今後市況の変動等に基づく事業環境の変化等に伴い、その収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった場合には、その回収可能性の程度を反映させるように事業資産の帳簿価額を減額し、その減少額を減損損失とすることとなるため、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
(2)外国為替の変動が与える業績への影響
当社グループの事業の多くは海外における探鉱開発事業であり、これに伴う収入(売上)・支出(原価)は外貨建て(主に米ドル)となっており、損益は外国為替相場の影響を受けます。円高時には、円ベースでの売上・利益が減少し、逆に円安時には、円ベースでの売上・利益が増加します。
米ドル・円の為替レートが1円変動すると、当社グループの2024年12月期については年間24億円増減することになると試算されます。なお、当社は一部為替リスクを減じる手段を講じておりますが、かかる手段は当社の為替リスクを全てカバーするものではなく、外国為替の変動が与える影響を完全に取り除くものではありません。
(3)金利の変動が与える業績への影響
当社グループでは事業資金の一部を借入金で賄っており、このうち大部分が米ドル建て変動金利ベースの長期借入です。従って、当社の利益は米ドル金利変動の影響を受けます。なお、当社は、一部金利リスクを減じる手段を講じておりますが、かかる手段は当社の金利変動リスクを全てカバーするものではなく、金利の変動が与える影響を完全に取り除くものではありません。
3 気候変動に関するリスクについて
パリ協定目標の達成に向けて、世界的な気候変動への対応に関心が高まるなか、気候変動や地球温暖化の原因とされる温室効果ガスの排出削減を目的とした取り組みが世界的に進められています。当社グループでは、TCFD提言に沿って気候変動に関するリスクを特定、評価、管理しています。詳細については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2)気候変動対応 ②戦略 (a)気候関連のリスク及び機会」に記載しております。
4 海外における事業活動とカントリーリスクについて
当社グループは、日本国外において多数の石油・天然ガス開発事業を遂行しております。鉱区権益の取得を含む当社グループの事業活動は、産油国政府等との間の諸契約に基づき行われていることから、産油国における自国の資源の管理強化の動きや紛争等による操業停止など、当該産油国やその周辺国等における、政治・経済・社会等の情勢(国際紛争、政府の関与、経済発展の段階、経済成長率、資本の再投下、資源の配分、国際社会による経済活動の規制、外国為替及び外国送金の政府統制、国際収支の状況を含みます。)の変化や、OPEC+加盟国における生産制限の適用、当該各国の法制度及び税制の変動(法令・規則の制定、改廃及びその解釈運用の変更を含みます。)、訴訟等により、当社グループの事業や業績は、保険で損失補填される場合を除き大きな影響を受ける可能性があります。
また、産油国政府は、開発コストの増加などの事業環境の変化、事業の遂行状況、環境への対応などを理由として、鉱区にかかわる石油契約の条件の変更などを含めた経済条件の変更などを求める可能性があり、仮にかかる事態が生じ、経済条件の変更などが行われた場合には、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
上記の1.~4.の各種リスクに対応するため、個別のプロジェクトにおける対応として、経済性評価及びリスク評価に係るガイドラインを導入し、主要リスクを認識しております。
石油・天然ガス上流事業における新規プロジェクトの取得に際しては、上流事業開発本部により一元的に採否の分析・検討を行うとともに、関係部署と連携の上でリスク対応を行っています。既存プロジェクトについても、探鉱、評価、開発等の各フェーズにおける技術的な評価等を組織横断的に行うための仕組みとして「INPEX Value Assurance System(IVAS)審査会」を運営するとともに、原則最低年1回は経済性評価とリスク評価を実施し、そのうち、主要プロジェクトについては毎年取締役会にリスク評価結果の概要を報告しております。
再生可能エネルギー事業や水素・CCUS事業に関しては、再生可能エネルギー・新分野事業本部及び水素・CCUS事業開発本部がそれぞれ担当する事業の総合調整をしており、経済性評価及びリスク評価・対応を実施しています。新規プロジェクトの取得に際しては、INPEX Value Assurance System(IVAS)審査会や外部専門家の検証を実施するとともに、重要なプロジェクトについてはリスク評価結果の概要を取締役会にて報告しております。
当社事業全般に係るリスク対応として、大規模な事故や災害等による緊急事態に対応できる能力を高めるため、緊急時・危機対応計画書を策定・維持するとともに、平時より緊急時対応訓練を定期的に実施する等、積極的にリスク管理に努めております。また、重要な業務を停止させないために事業継続計画(BCP)を策定し、適宜見直しを行っております。2020年以降の新型コロナウイルス感染拡大に際しては、BCPを発動して、感染症対策や在宅勤務を含めた必要な対策を実施するとともに、コーポレート危機対策本部を立ち上げ、海外事業所を含めた全社的な状況把握を実施しました(2023年5月に同危機対策本部は解散)。
また、情報セキュリティ委員会を定期的及び随時に開催し、組織的・体系的な情報セキュリティ対策を講じるとともに、情報漏洩防止を含む教育・訓練を実施しております。
HSE(健康・安全・環境)リスクに関しては、当社の事業活動における安全衛生、プロセスセーフティ、環境保全の継続的改善を推進するため、HSEマネジメントシステムで定めるHSEリスク管理要領に基づき、事業所毎にHSEリスクの特定、分析・評価を行っています。また、リスク対応策を策定、実行するとともに、HSEリスクを監視するため、リスク管理状況を定期的に本社に報告させ、本社ではこれを確認しております。さらに、セキュリティに関するリスク等についても、関連する要領や指針をもとに全社的な管理に取り組んでおります。さらにノンオペレータープロジェクトのHSE管理についても、各プロジェクトのリスクに応じたHSE関与を推進しております。
原油・天然ガス価格、為替、金利、及び有価証券価格に関しては、各変動リスクを特定し、それらの管理・ヘッジ方法を定めることで財務リスク管理を行っております。
気候変動対応に関しては、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2)気候変動対応 ②戦略 (a)気候関連のリスク及び機会」に記載しております。
カントリーリスクに関しては、事業を行う国や地域のカントリーリスク管理に係るガイドラインを制定し、リスクの高い国には累積投資残高の目標限度額を設定する等の管理を行っております。
このほか、リーガルリスクについては、リーガルユニットを独立した組織とすることで、重要な契約や訴訟等について、事業部門及び経営陣へ適切に法的助言ができる体制を整備し、また国内外の事業への法務サポート機能を充実させております。
これらのリスク対応を講じることで、リスクの管理及び影響の低減に努めているものの、全てのリスク対象をカバーするものではなく、また、個々の事象において影響を完全に取り除くものではありません。
Ⅱ.事業等のその他のリスク
1 生産分与契約について
当社グループはインドネシア、カスピ海周辺地域などにおいて生産分与契約による鉱区権益を多数保有しております。
生産分与契約は、1社又は複数の会社がコントラクターとして、産油国政府や国営石油会社から探鉱・開発のための作業を自身のコスト負担で請負い、コストの回収分及び報酬を生産物で受け取ることを内容とする契約です。すなわち、探鉱・開発作業の結果、石油・天然ガスの生産に至った場合、コントラクターは負担した探鉱・開発コストを生産物の一部より回収し、さらに残余の生産物(原油・ガス)については、一定の配分比率に応じて産油国又は国営石油会社とコントラクターの間で配分します(このコスト回収後の生産物のコントラクターの取り分を「利益原油・ガス」と呼びます)。これに対して、探鉱作業の失敗や生産量の減少等により期待した生産を実現することができない場合には、コントラクターは投下した資金の全部又は一部を回収できないこととなります。
2 国との関係について
(1)当社と国との関係
本書提出日現在、当社の発行済普通株式(自己株式を除く)の約21.99%及び甲種類株式は経済産業大臣が保有しておりますが、当社の経営判断は民間企業として自主的に行っており、国との間で役員派遣等による支配関係もありません。また、今後もそのような関係が生じることはないものと考えております。さらに国との間での当社の役員の兼任及び国の職員の当社への出向もありません。
(2)経済産業大臣による当社株式の所有、売却
経済産業大臣は、現在当社の発行済普通株式数(自己株式を除く)の約21.99%の株式を保有しております。同株式は2005年4月1日付で解散した石油公団が保有していたものを、同公団の解散に伴い経済産業大臣が承継したものであります。2005年4月1日付で解散した石油公団が保有していた石油資源開発関連資産の整理・処分については、経済産業大臣の諮問機関である総合資源エネルギー調査会の石油分科会開発部会「石油公団資産評価・整理検討小委員会」により、「石油公団が保有する開発関連資産の処理に関する方針」(以下「答申」という。)が2003年3月18日に発表されております。答申においては企業価値の成長を念頭に置きながら、適切なタイミングで市場を通じて株式を売却することが肝要とされております。また、2011年12月2日に施行された「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法」(以下「復興財源確保法」という。)の附則第13条第1項第2号の規定においては、エネルギー政策の観点を踏まえつつ、その保有の在り方を見直すことによる処分の可能性について検討するとされております。このため、今後経済産業大臣は国内外で当社株式を売却する可能性があり、そのことが当社の株式の市場価格に影響を及ぼす可能性があります。
また、経済産業大臣は当社甲種類株式1株を保有しておりますが、甲種類株主である経済産業大臣は、当社普通株主総会又は取締役会決議事項の一部について拒否権を有しております。甲種類株式に関する詳細については後記「4 甲種類株式について」に記載しております。
3 政府及び独立行政法人が保有する当社グループのプロジェクト会社の株式の取扱いについて
(1)石油公団が保有していた当社グループのプロジェクト会社の株式の取扱い
前述の答申において、国際石油開発(2008年10月1日付で当社が同社を吸収合併。以下同じ。)は中核的企業を構成すべきものと位置づけられ、ナショナル・フラッグ・カンパニーとして我が国のエネルギー安定供給の効率的な確保という政策目標の実現の一翼を担うことが期待されていることから、同社(及び2008年10月1日付で当社が国際石油開発を吸収合併して以降においては当社)ではこれを受け、政府による積極的な資源外交との相乗効果を生かし、我が国のエネルギー安定供給の効率的な確保という政策目標の実現を図るとともに、透明性・効率性の高い事業運営の推進により、株主価値の最大化を目指すこととしてまいりました。
その結果、答申において提言された石油公団保有株式の譲受け等による統合に関して、2004年2月5日付で「石油公団保有資産の国際石油開発株式会社への統合に関する基本合意書」(以下「統合基本合意書」という。)及び統合基本合意書に附属する覚書(以下「覚書」という。)を締結し、2004年3月29日付で、国際石油開発と石油公団は統合の対象となる会社、統合比率等に関する詳細について合意に達し、「石油公団保有資産の国際石油開発株式会社への統合に関する基本契約」ほか関連契約を締結しました。
統合基本合意書において国際石油開発への統合対象となった4つの会社のうち、ジャパン石油開発、インペックスジャワ株式会社(2010年9月30日に売却完了)及びインペックスエービーケー石油株式会社の3社については2004年に統合を完了しました。インペックス南西カスピ海石油株式会社(現株式会社INPEX南西カスピ海石油)については、株式交換により国際石油開発の完全子会社とすべく手続を進めましたが、株式交換契約の条件が成就しなかったため同契約は失効し、予定していた株式交換が取り止めとなり、その後、2005年4月1日付の石油公団の解散に伴い、同社の石油公団保有株式は、経済産業大臣に承継されております。当社としては引き続き当該株式の取得の可能性につき検討しておりますが、当該株式に係る経済産業大臣の今後の取扱方針は未定となっていることに加え、「復興財源確保法」の規定による検討の結果如何では、今後、当社による当該株式の取得が実現しない可能性もあります。
2004年2月5日付の覚書においては、サハリン石油ガス開発株式会社(以下「サハリン石油ガス開発」という。)、インペックスマセラアラフラ海石油株式会社(現株式会社INPEXマセラ)、インペックス北カスピ海石油株式会社(現株式会社INPEX北カスピ海石油)、インペックス北マカッサル石油株式会社(2008年12月19日に清算結了)、インペックス北カンポス沖石油株式会社(当社含む民間株主が同社の全株式を取得したうえで、2019年10月に第三者に対して売却済み)についての取扱いが国際石油開発と石油公団の間で合意されております。サハリン石油ガス開発の株式の取扱いについては、後記「(2)政府が保有するサハリン石油ガス開発の株式の取扱いについて」に記載しております。サハリン石油ガス開発以外の上記各社の石油公団保有株式の国際石油開発への譲渡については、産油国や共同事業者の同意が得られること、適切な資産評価が可能となること等の前提条件が整い次第、現金を対価として譲渡することとなっておりましたが、2005年4月1日付の石油公団の解散に伴い、上記各社の石油公団保有株式は、経済産業大臣に承継されたインペックス北マカッサル石油株式会社に係る株式を除き、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(以下「資源機構」という。)に承継されております。資源機構は、同機構の中期目標、中期計画において、石油公団から承継した株式については、適切な時期に適切な方法を選択して処分することとしていますが、上記各社の資源機構保有株式のうち、当社による株式の取得が実現していないものについては、譲渡の時期、方法は未定となっており、今後、当社によるそれらの株式の取得が実現しない可能性もあります。
(2)政府が保有するサハリン石油ガス開発の株式の取扱い
経済産業大臣はサハリン石油ガス開発の普通株式の50%を保有しています。サハリン石油ガス開発は、サハリン島北東沖大陸棚における石油及び天然ガス探鉱開発事業を遂行するために1995年に設立された会社であり、当社は同社発行済み普通株式の約6.08%を保有しています。
なお、今後の本事業の在り方については、現下の国際情勢、政府等の動向を踏まえつつ、当社としても適切に対応してまいります。
4 甲種類株式について
(1)種類株式の概要
① 導入の経緯
当社は、国際石油開発と帝国石油の株式移転による経営統合により、2006年4月3日付で持株会社として設立されておりますが、これに伴い、国際石油開発が発行し、経済産業大臣が保有していた種類株式が当社に移転され、同時に当社が同等の内容の当社種類株式(以下「甲種類株式」という。)を経済産業大臣に対し交付しております。もともと、国際石油開発において発行された種類株式は、前記「3 政府及び独立行政法人が保有する当社グループのプロジェクト会社の株式の取扱いについて」において記述した答申において、国際石油開発が中核的企業を構成すべきものと位置づけられ、ナショナル・フラッグ・カンパニーとして我が国向けエネルギーの安定供給の効率的実現の一翼を担うことが期待され、かかる観点から、同答申を受け、投機的な買収や外資による経営支配等により、中核的企業として我が国向けエネルギー安定供給の効率的な実現に果たすべき役割に背反する形での経営が行われること又は否定的な影響が及ぶことがないよう、同社の役割を確保しつつ、経営の効率性・柔軟性を不当に阻害しないよう透明性を高くし、またその影響が必要最小限にとどまるよう設計され発行されたものです。
② 株主総会議決権、剰余金の配当、残余財産分配、償還
法令に別段の定めがある場合を除き、甲種類株式は当社株主総会において議決権を有しません。剰余金の配当及び残余財産の分配については2013年10月1日を効力発生日として普通株式1株につき400株の割合で株式分割を行っておりますが、甲種類株式(非上場)につきましては、株式分割を実施していないため、当該株式分割前の普通株式と同等になるよう、定款で定めております。甲種類株式は、当該甲種類株主から請求があった場合、又は甲種類株式が国若しくは国が全額出資する独立行政法人以外の者に譲渡された場合には当社取締役会の決議により償還されます。
③ 定款上の拒否権
当社経営上の一定の重要事項(取締役の選解任、重要な資産の処分、定款変更、統合、資本の減少及び解散)の決定については、当社株主総会又は取締役会の決議に加え、甲種類株主総会の承認決議を要する旨、当社定款に定められています。従って、甲種類株式を保有する経済産業大臣は、甲種類株主としてこれら一定の重要事項につき拒否権を有することとなります。甲種類株主の拒否権が行使可能な場合については、後記「第4 提出会社の状況 1 株式等の状況 (1)株式の総数等 ②発行済株式の注記2」をご参照下さい。
④ 甲種類株式の議決権行使の基準に定める拒否権の行使の基準
かかる拒否権の行使については令和4年経済産業省告示第54号(以下「告示」という。)において基準が設けられており、以下の一定の場合にのみ拒否権を行使するものとされています。
・取締役の選解任及び統合に係る決議については、それらが否決されない場合、中核的企業として我が国向けエネルギー安定供給の効率的な実現に果たすべき役割に背反する形での経営が行われていく蓋然性が高いと判断される場合。
・重要な資産の全部または一部の処分等に係る決議については、対象となっている処分等が、石油及び可燃性天然ガスの探鉱及び採取する権利その他これに類する権利、あるいは、当該権利を主たる資産とする当社子会社の株式・持分の処分等に係るものである場合であって、それが否決されない場合、中核的企業として我が国向けエネルギー安定供給の効率的な実現に果たすべき役割に否定的な影響が及ぶ蓋然性が高いと判断される場合。
・当社の目的の変更に関する定款変更、資本金の額の減少及び解散については、それらが否決されない場合、中核的企業として我が国向けエネルギー安定供給の効率的な実現に果たすべき役割に否定的な影響が及ぶ蓋然性が高いと判断される場合。
・当社普通株式以外の株式への議決権の付与に関する定款変更については、それが否決されない場合、甲種類株式の議決権行使に影響を与える可能性のある場合。
なお、上記の基準については、エネルギー政策の観点から告示を変更する場合についてはこの限りではないことが規定されております。
(2)甲種類株式のリスク
甲種類株式は、投機的な買収や外資による経営支配等により、中核的企業として我が国向けエネルギー安定供給の効率的な実現に果たすべき役割に背反する形での経営が行われること又は否定的な影響が及ぶことがないよう、当社の役割を確保しつつ、経営の効率性・柔軟性を不当に阻害しないよう透明性を高くし、またその影響が必要最小限にとどまるよう設計され発行されたものでありますが、甲種類株式に関連して想定されるリスクには、以下のものが含まれます。
① 国策上の観点と当社及び一般株主の利益相反の可能性
経済産業大臣は告示に規定された上記の基準に基づき拒否権を行使するものと予想されますが、当該基準は、我が国向けエネルギー安定供給の効率的実現の観点から設けられているため、経済産業大臣による拒否権の行使が当社又は当社の普通株式を保有する他の株主の利益と相反する可能性があります。また、エネルギー政策の観点から当該基準が変更される可能性があります。
② 拒否権の行使が普通株式の価格に与える影響
甲種類株式は、上記に述べたように当社の経営上重要な事項の決定について拒否権を持つものであるため、特に、実際にある事項について拒否権が発動された場合には、当社普通株式の市場価格に影響を与える可能性があります。
③ 当社の経営の自由度や経営判断への影響
前述のような拒否権を持つ甲種類株式を経済産業大臣が保有していることにより、当社は、上記各事項については甲種類株主総会の決議を要することとなるため、当社は経済産業大臣の判断によってはその経営の自由度を制約されることになります。また、上記各事項につき甲種類株主総会の決議を要することに伴い、甲種類株主総会の招集、開催及び決議等の各手続に、また必要に応じて異議申立の処理に一定期間を要することとなります。
5 兼任社外取締役について
当社の取締役会は現在10名の取締役で構成されておりますが、うち5名は社外取締役であります。
社外取締役5名のうち2名は、当社の事業分野に関して長年の経験、知見を有する経営者経験者等であり、当社としては、専門的、客観的立場から当社の事業運営に意見を述べ、当社事業の発展に寄与することを期して、取締役を委嘱しております。なお、かかる取締役のうち1名は、当社株主である三菱商事株式会社(以下「当社株主会社」という。)の顧問を兼任しております。
一方、当社株主会社は当社グループの事業と同一分野の事業を行っている企業であることから、競業その他利益相反の可能性があり、コーポレート・ガバナンス上の特段の留意が必要であると認識しております。
このため、当社では、当社取締役が会社法上の競業避止義務、利益相反取引への適切な対処や情報漏洩防止等に関して、常に高い意識をもって経営にあたり、当社取締役としての職務を的確に遂行していくことの重要性に鑑み、上記1名の社外取締役を含む全取締役から、これらの点を確認する「誓約書」を受理しております。
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は以下のとおりであります。
また、当社グループは当連結会計年度より、従来の日本基準に替えてIFRSを適用しており、前連結会計年度の数値をIFRSに組み替えて比較分析を行っております。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
(1)経営成績の状況の概要及び分析
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(単位:百万円) |
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前期 |
当期 |
増減 |
増減率(%) |
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売上収益 |
2,316,086 |
2,164,516 |
△151,569 |
△6.5 |
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(うち、原油売上収益) |
1,772,080 |
1,607,968 |
△164,111 |
△9.3 |
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(うち、天然ガス売上収益) |
523,427 |
535,834 |
12,406 |
2.4 |
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営業利益 |
1,503,667 |
1,114,189 |
△389,477 |
△25.9 |
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税引前利益 |
1,445,382 |
1,253,384 |
△191,998 |
△13.3 |
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親会社の所有者に帰属する当期利益 |
498,452 |
321,708 |
△176,744 |
△35.5 |
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前期 |
当期 |
増減 |
増減率(%) |
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原油販売量(千bbl) |
138,118 |
138,024 |
△94 |
△0.1 |
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売上平均油価(米ドル/bbl) |
97.64 |
82.83 |
△14.81 |
△15.2 |
|
天然ガス販売量(百万cf) |
442,389 |
479,814 |
37,425 |
8.5 |
|
海外ガス販売量(百万cf) |
351,122 |
387,974 |
36,852 |
10.5 |
|
海外ガス単価(米ドル/千cf) |
6.87 |
5.62 |
△1.25 |
△18.2 |
|
国内ガス販売量(百万㎥) |
2,436 |
2,452 |
16 |
0.6 |
|
国内ガス売上平均単価(円/㎥) |
81.98 |
90.08 |
8.10 |
9.9 |
|
売上平均為替レート(円/米ドル) |
131.37 |
140.53 |
9.16 |
7.0 |
(注)1 天然ガス販売量、海外ガス販売量及び国内ガス販売量はLPG販売量を除いております。
2 海外ガス単価及び国内ガス売上平均単価はLPGを除いて計算しております。
当期における我が国経済は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響から緩やかに回復しました。雇用・所得環境が改善する下で、さらなる回復が続くことが期待されております。ただし、世界的な金融引締めに伴う影響や中国経済の先行き懸念など、海外景気の下振れが我が国の景気を下押しするリスクとなっております。また、物価上昇、ロシア・ウクライナ情勢及びイスラエル・パレスチナ紛争、金融資本市場の変動等の影響は引き続き懸念されております。
当社グループの業績に大きな影響を及ぼす国際原油価格は、代表的指標の一つであるブレント原油(期近物終値ベース)で当期は1バレル当たり82.10米ドルから始まり、1月は中国のゼロコロナ政策の終了による原油需要の回復への期待等を背景に原油価格は続伸しました。その後は、春先にかけて米欧の複数の金融機関の経営難が世界経済を下押しするリスク懸念から概ね70~75米ドル程度で推移しましたが、原油価格は上昇トレンドを描き、9月後半には一時的に95米ドル超の値をつけました。10月に入るとイスラエル・パレスチナ紛争を背景に原油価格が一時的に乱高下する不安定な局面もありました。12月のOPEC+の会合にて、産油国による原油生産目標の引き下げ(減産強化)が見送られた結果、当該減産規模に関する不透明感が市場で強まったこと等から原油価格は軟調に推移し、年度末で77.04米ドルとなりました。これらを反映して、当期における当社グループの原油の平均販売価格は、前期に比べ、1バレル当たり14.81米ドル下落し、82.83米ドルとなりました。
一方、業績に重要な影響を与えるもう一つの要因である為替相場ですが、当期は1米ドル131円台で始まりました。年前半は、日銀による政策修正観測の高まりから日米金利差の縮小が意識され、一時127円台まで円高が進みましたが、日銀の政策金利据置の決定や好調な米経済指標の影響を受けて米ドルが買われ、ほぼ一貫して円安が進行しました。年後半は米国のインフレ鈍化観測や日銀金融政策の是正観測により、一時138円台まで米ドル安が進行しましたが、その後は堅調な米国経済指標や日銀による金融緩和の長期化観測を踏まえ再び円安が進行し11月には151円台後半まで値を上げました。期末にかけては米連邦準備理事会(FRB)による利下げ示唆や米経済指標の下振れなどを受けやや円高が進行し、期末公示仲値(TTM)は前期末から9円12銭円安の141円82銭となりました。なお、当社グループ売上の期中平均レートは、前期に比べ、9円16銭円安の1米ドル140円53銭となりました。
このような事業環境の中、当社グループの当期連結業績につきましては、原油の販売価格の下落により、売上収益は前期比1,515億円、6.5%減の2兆1,645億円となりました。このうち、原油売上収益は前期比1,641億円、9.3%減の1兆6,079億円、天然ガス売上収益は前期比124億円、2.4%増の5,358億円となりました。当連結会計年度の販売数量は、原油が前期比94千バレル、0.1%減の138,024千バレルとなり、天然ガスは前期比37,425百万立方フィート、8.5%増の479,814百万立方フィートとなりました。このうち、海外天然ガスは、前期比36,852百万立方フィート、10.5%増の387,974百万立方フィート、国内天然ガスは、前期比16百万立方メートル、0.6%増の2,452百万立方メートル、立方フィート換算では91,502百万立方フィートとなりました。販売価格は、海外原油売上の平均価格が1バレル当たり82.83米ドルとなり、前期比14.81米ドル、15.2%下落、海外天然ガス売上の平均価格は千立方フィート当たり5.62米ドルとなり、前期比1.25米ドル、18.2%下落、また、国内天然ガスの平均価格は立方メートル当たり90円08銭となり、前期比8円10銭、9.9%上昇しております。売上収益の平均為替レートは1米ドル140円53銭となり、前期比9円16銭、7.0%の円安となりました。
売上収益の減少額1,515億円を要因別に分析しますと、販売数量の増加により365億円の増収、平均単価の下落により3,167億円の減収、売上の平均為替レートが円安となったことにより1,284億円の増収、その他の売上収益が1億円の増収となりました。
一方、売上原価は前期比299億円、3.7%増の8,480億円、探鉱費は前期比131億円、103.9%増の259億円、販売費及び一般管理費は前期比37億円、4.1%増の957億円、その他の営業収益は前期比708億円、73.9%減の250億円、その他の営業費用は前期比277億円、18.3%減の1,240億円、持分法による投資損益は前期比1,478億円、88.9%減の183億円となりました。以上の結果、営業利益は前期比3,894億円、25.9%減の1兆1,141億円となりました。
金融収益は前期比1,434億円、194.4%増の2,173億円、金融費用は前期比539億円、40.9%減の781億円となりました。以上の結果、税引前利益は前期比1,919億円、13.3%減の1兆2,533億円となりました。
法人所得税費用は前期比386億円、4.0%減の9,208億円、非支配持分に帰属する当期利益は108億円(前期は非支配持分に帰属する当期損失124億円)となりました。以上の結果、親会社の所有者に帰属する当期利益は前期比1,767億円、35.5%減の3,217億円となりました。
セグメント別の経営成績は以下のとおりであります。
① 国内石油・天然ガス事業(国内O&G)
ガス価の上昇により、売上収益は前期比182億円、8.5%増の2,328億円となりましたが、売上原価及び探鉱費の増加等により、親会社の所有者に帰属する当期利益は前期比31億円、7.0%減の420億円となりました。
② 海外石油・天然ガス事業(海外O&G)- イクシスプロジェクト
販売数量の増加により、売上収益は前期比46億円、1.3%増の3,731億円となり、親会社の所有者に帰属する当期利益は前期比215億円、7.5%増の3,098億円となりました。
③ 海外石油・天然ガス事業(海外O&G)- その他のプロジェクト
油価の下落により、売上収益は前期比1,844億円、10.8%減の1兆5,282億円となり、親会社の所有者に帰属する当期利益は前期比1,170億円、99.4%減の7億円となりました。
(2)財政状態の状況の概要及び分析
当連結会計年度末における資産合計は前連結会計年度末比2,910億円増の6兆7,394億円となりました。このうち、流動資産はその他の金融資産の増加等により、前連結会計年度末比798億円増の8,384億円、非流動資産は持分法で会計処理されている投資及び石油・ガス資産の増加等により、前連結会計年度末比2,112億円増の5兆9,010億円となりました。
一方、負債合計は前連結会計年度末比1,394億円減の2兆2,404億円となりました。このうち、流動負債は前連結会計年度末比314億円増の5,722億円、非流動負債は前連結会計年度末比1,708億円減の1兆6,682億円となりました。
資本合計は前連結会計年度末比4,304億円増の4兆4,990億円となりました。このうち、親会社の所有者に帰属する持分は前連結会計年度末比4,017億円増の4兆2,091億円、非支配持分は前連結会計年度末比287億円増の2,899億円となりました。
(3)キャッシュ・フローの状況の概要及び分析並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
① キャッシュ・フローの状況の概要及び分析
当社グループの現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、前連結会計年度末の2,082億円から当連結会計年度中に減少した資金192億円を除き、換算差額121億円を加えた結果、当連結会計年度末において2,011億円となりました。
当連結会計年度における営業活動、投資活動及び財務活動によるキャッシュ・フローの状況及びそれらの要因は以下のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
原油の販売価格の下落による税引前利益の減少や非資金項目である金融収益の増加があったものの、営業債権及びその他の債権の減少や非資金項目である持分法による投資損益の減少等により、営業活動の結果得られた資金は前期比58億円増の7,881億円となりました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資の取得による支出が増加したものの、投資の売却及び償還による収入の増加や長期貸付けによる支出の減少等により、投資活動の結果使用した資金は前期比2,150億円減の3,201億円となりました。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
長期借入金の返済による支出の増加等により、財務活動の結果使用した資金は前期比2,406億円増の4,872億円となりました。
② 資本の財源及び資金の流動性に係る情報
石油・天然ガス・再生可能エネルギー等のプロジェクト取得、探鉱・開発活動及び天然ガス供給インフラ施設等の建設においては多額の資金を必要とするため、内部留保による手許資金のほかに、外部からも資金を調達しております。探鉱資金については手許資金及び外部からの出資により、また、プロジェクト取得、開発資金及び天然ガス供給インフラ施設等の建設資金については手許資金、銀行借入及び社債発行により調達することを基本方針としております。現在、プロジェクト取得及び開発資金については株式会社国際協力銀行及び市中銀行等から融資を受けており、これら融資に関しては、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構の保証制度を活用しております。また、国内の天然ガス供給インフラ施設等の建設資金借入については、株式会社日本政策投資銀行及び市中銀行からの融資を受けているほか、再生可能エネルギープロジェクトの取得及び開発資金については、プロジェクトファイナンスやグリーンファイナンスでの調達も実施しております。なお、イクシスLNGプロジェクトでは、当期も共同支配企業であるイクシス下流事業会社(Ichthys LNG Pty Ltd)を借入人として、国内外の輸出信用機関及び市中銀行からプロジェクトファイナンスの借入等を行っております。
当期は、開発投資等を目的とした資金調達を実施しつつ、当社中期経営計画に沿って有利子負債の削減に努めております。このほか、開発投資・探鉱投資等に向けて、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構の出資を受けております。
資金の流動性については、短期の運転資金のほかに油価の急な下落等に備え、一定の手許資金を保有することを基本方針としており、また、複数の金融機関とコミットメントライン契約を締結し、資金調達枠を確保しております。
③ 資金の配分方法
資金の配分方法については、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載しております。
(4)重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」第93条の規定によりIFRSに準拠して作成しております。この連結財務諸表の作成に当たって、必要と思われる見積りは、合理的な基準に基づいて実施しております。
なお、当社グループの連結財務諸表で採用する重要性のある会計方針、会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 3.重要性のある会計方針 4.重要な会計上の見積り及び判断」に記載しております。
(5)生産、受注及び販売の状況
① 生産実績
セグメントごとの生産実績は以下のとおりであります。
|
セグメントの名称 |
区分 |
当連結会計年度 (自 2023年1月1日 至 2023年12月31日) |
前年同期比 (%) |
|
|
国内O&G |
原油 |
0.9百万バレル |
△6.9 |
|
|
(日量2.5千バレル) |
||||
|
天然ガス |
34.4十億CF |
△6.5 |
||
|
(日量94.3百万CF) |
||||
|
小計 |
7.2百万BOE |
△6.6 |
||
|
(日量19.7千BOE) |
||||
|
ヨード |
541.4t |
△3.2 |
||
|
発電 |
183.8百万kWh |
△5.1 |
||
|
海外O&G |
イクシス プロジェクト |
原油 |
12.3百万バレル |
△0.9 |
|
(日量33.7千バレル) |
||||
|
天然ガス |
354.2十億CF |
9.8 |
||
|
(日量970.5百万CF) |
||||
|
小計 |
80.4百万BOE |
7.0 |
||
|
(日量220.2千BOE) |
||||
|
その他の プロジェクト |
原油 |
126.5百万バレル |
△2.0 |
|
|
(日量346.6千バレル) |
||||
|
天然ガス |
87.4十億CF |
5.6 |
||
|
(日量239.4百万CF) |
||||
|
小計 |
142.5百万BOE |
△1.2 |
||
|
(日量390.4千BOE) |
||||
|
硫黄 |
153.1千t |
150.5 |
||
|
その他 |
発電 |
1,542.6百万kWh |
107.3 |
|
|
合計 |
原油 |
139.7百万バレル |
△1.9 |
|
|
(日量382.8千バレル) |
||||
|
天然ガス |
476.1十億CF |
7.7 |
||
|
(日量1,304.3百万CF) |
||||
|
小計 |
230.1百万BOE |
1.3 |
||
|
(日量630.3千BOE) |
||||
|
ヨード |
541.4t |
△3.2 |
||
|
硫黄 |
153.1千t |
150.5 |
||
|
発電 |
1,726.4百万kWh |
84.1 |
||
(注)1 海外で生産されたLPGは原油に含みます。
2 原油及び天然ガス生産量の一部は、発電燃料として使用しております。
3 上記の生産量は関連会社等の持分を含みます。
4 当社グループが締結している生産分与契約にかかる当社グループの原油及び天然ガスの生産量は、正味経済的取分に相当する数値を示しております。なお、当社グループの権益比率ベースの生産量は、原油147.1百万バレル(日量403.1千バレル)、天然ガス486.0十億CF(日量1,331.4百万CF)、合計239.5百万BOE(日量656.0千BOE)となります。
5 BOE(Barrels of Oil Equivalent)原油換算量
6 ヨードは、他社への委託精製によるものであります。
7 数量は小数点第2位を四捨五入しております。
② 受注実績
当社グループの販売実績のうち、受注高が占める割合は僅少であるため受注実績の記載は省略しております。
③ 販売実績
セグメントごとの販売実績は以下のとおりであります。
|
セグメントの名称 |
区分 |
当連結会計年度 (自 2023年1月1日 至 2023年12月31日) |
前年同期比 (%) |
|||
|
販売量 |
売上収益 (百万円) |
販売量 |
売上収益 |
|||
|
国内O&G |
原油 |
412千バレル |
4,539 |
△12.1 |
△24.2 |
|
|
天然ガス (LPGを除く) |
91,502百万CF |
220,855 |
0.6 |
10.6 |
||
|
その他 |
|
7,502 |
|
△15.6 |
||
|
小計 |
|
232,897 |
|
8.5 |
||
|
海外O&G |
イクシス プロジェクト |
原油 |
12,526千バレル |
144,859 |
5.4 |
△7.2 |
|
天然ガス (LPGを除く) |
327,735百万CF |
228,313 |
13.7 |
7.5 |
||
|
小計 |
|
373,173 |
|
1.3 |
||
|
その他の プロジェクト |
原油 |
125,086千バレル |
1,448,005 |
△0.5 |
△9.8 |
|
|
天然ガス (LPGを除く) |
60,239百万CF |
77,040 |
△4.4 |
△27.2 |
||
|
LPG |
452千バレル |
2,968 |
317.4 |
224.7 |
||
|
その他 |
|
250 |
|
△83.5 |
||
|
小計 |
|
1,528,264 |
|
△10.8 |
||
|
その他 |
原油 |
- |
10,564 |
- |
93.1 |
|
|
天然ガス (LPGを除く) |
338百万CF |
1,677 |
△3.3 |
△12.9 |
||
|
LPG |
- |
4,978 |
- |
87.3 |
||
|
その他 |
|
12,961 |
|
27.4 |
||
|
小計 |
|
30,181 |
|
49.2 |
||
|
合計 |
原油 |
138,024千バレル |
1,607,968 |
△0.1 |
△9.3 |
|
|
天然ガス (LPGを除く) |
479,814百万CF |
527,887 |
8.5 |
1.5 |
||
|
LPG |
452千バレル |
7,947 |
315.2 |
122.1 |
||
|
その他 |
|
20,713 |
|
0.7 |
||
|
合計 |
|
2,164,516 |
|
△6.5 |
||
(注)1 販売量は、単位未満を四捨五入しております。
2 主要相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は以下のとおりであります。
前連結会計年度(自 2022年1月1日 至 2022年12月31日)
|
相手先 |
金額(百万円) |
割合(%) |
|
Ichthys LNG Pty Ltd |
212,364 |
9.2 |
当連結会計年度(自 2023年1月1日 至 2023年12月31日)
|
相手先 |
金額(百万円) |
割合(%) |
|
Ichthys LNG Pty Ltd |
228,313 |
10.5 |
(6)並行開示情報
日本基準により作成した要約連結財務諸表は、以下のとおりであります。
なお、日本基準により作成した当連結会計年度の要約連結財務諸表については、金融商品取引法第193条の2第1項の規定に基づく監査を受けておりません。
① 要約連結貸借対照表(日本基準)
|
|
|
(単位:百万円) |
|
|
前連結会計年度 (2022年12月31日) |
当連結会計年度 (2023年12月31日) |
|
資産の部 |
|
|
|
流動資産 |
729,401 |
818,256 |
|
固定資産 |
|
|
|
有形固定資産 |
2,473,118 |
2,466,534 |
|
無形固定資産 |
482,704 |
481,473 |
|
投資その他の資産 |
2,574,629 |
2,756,918 |
|
固定資産合計 |
5,530,452 |
5,704,926 |
|
資産合計 |
6,259,853 |
6,523,182 |
|
|
|
|
|
負債の部 |
|
|
|
流動負債 |
526,740 |
565,821 |
|
固定負債 |
1,710,742 |
1,538,179 |
|
負債合計 |
2,237,483 |
2,104,000 |
|
|
|
|
|
純資産の部 |
|
|
|
株主資本 |
2,908,293 |
3,098,386 |
|
その他の包括利益累計額 |
852,558 |
1,040,966 |
|
非支配株主持分 |
261,517 |
279,829 |
|
純資産合計 |
4,022,370 |
4,419,182 |
|
負債純資産合計 |
6,259,853 |
6,523,182 |
② 要約連結損益計算書及び要約連結包括利益計算書(日本基準)
要約連結損益計算書
|
|
|
(単位:百万円) |
|
|
前連結会計年度 (自 2022年1月1日 至 2022年12月31日) |
当連結会計年度 (自 2023年1月1日 至 2023年12月31日) |
|
売上高 |
2,324,660 |
2,165,702 |
|
売上原価 |
943,414 |
893,934 |
|
売上総利益 |
1,381,245 |
1,271,768 |
|
探鉱費 |
29,202 |
41,467 |
|
販売費及び一般管理費 |
105,634 |
108,456 |
|
営業利益 |
1,246,408 |
1,121,844 |
|
営業外収益 |
335,638 |
311,031 |
|
営業外費用 |
140,051 |
82,427 |
|
経常利益 |
1,441,995 |
1,350,448 |
|
特別損失 |
25,799 |
89,048 |
|
税金等調整前当期純利益 |
1,416,196 |
1,261,400 |
|
法人税等合計 |
951,506 |
880,064 |
|
当期純利益 |
464,689 |
381,335 |
|
非支配株主に帰属する当期純利益 |
3,620 |
9,804 |
|
親会社株主に帰属する当期純利益 |
461,069 |
371,531 |
要約連結包括利益計算書
|
|
|
(単位:百万円) |
|
|
前連結会計年度 (自 2022年1月1日 至 2022年12月31日) |
当連結会計年度 (自 2023年1月1日 至 2023年12月31日) |
|
当期純利益 |
464,689 |
381,335 |
|
その他の包括利益合計 |
416,081 |
193,933 |
|
包括利益 |
880,770 |
575,268 |
|
(内訳) |
|
|
|
親会社株主に係る包括利益 |
870,186 |
559,939 |
|
非支配株主に係る包括利益 |
10,584 |
15,329 |
③ 要約連結株主資本等変動計算書(日本基準)
前連結会計年度(自 2022年1月1日 至 2022年12月31日)
|
|
|
|
(単位:百万円) |
|
|
|
株主資本 |
その他の包括 利益累計額 |
非支配株主 持分 |
純資産合計 |
|
当期首残高 |
2,680,624 |
443,441 |
222,344 |
3,346,409 |
|
会計方針の変更による累積的影響額 |
△33,776 |
- |
- |
△33,776 |
|
会計方針の変更を反映した当期首残高 |
2,646,848 |
443,441 |
222,344 |
3,312,633 |
|
当期変動額合計 |
261,445 |
409,117 |
39,173 |
709,736 |
|
当期末残高 |
2,908,293 |
852,558 |
261,517 |
4,022,370 |
当連結会計年度(自 2023年1月1日 至 2023年12月31日)
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(単位:百万円) |
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株主資本 |
その他の包括 利益累計額 |
非支配株主 持分 |
純資産合計 |
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当期首残高 |
2,908,293 |
852,558 |
261,517 |
4,022,370 |
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当期変動額合計 |
190,092 |
188,408 |
18,311 |
396,811 |
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当期末残高 |
3,098,386 |
1,040,966 |
279,829 |
4,419,182 |
④ 要約連結キャッシュ・フロー計算書(日本基準)
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(単位:百万円) |
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前連結会計年度 (自 2022年1月1日 至 2022年12月31日) |
当連結会計年度 (自 2023年1月1日 至 2023年12月31日) |
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営業活動によるキャッシュ・フロー |
751,284 |
786,324 |
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投資活動によるキャッシュ・フロー |
△525,574 |
△324,347 |
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財務活動によるキャッシュ・フロー |
△241,928 |
△480,339 |
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現金及び現金同等物に係る換算差額 |
36,662 |
7,585 |
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現金及び現金同等物の増減額(△は減少) |
20,443 |
△10,777 |
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現金及び現金同等物の期首残高 |
191,213 |
211,656 |
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現金及び現金同等物の期末残高 |
211,656 |
200,879 |
⑤ 要約連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項の変更(日本基準)
前連結会計年度(自 2022年1月1日 至 2022年12月31日)
(連結の範囲の変更)
新規株式取得等により9社を連結の範囲に含め、清算結了により1社を連結の範囲より除外しております。
(持分法適用の範囲の変更)
新規株式取得により7社を持分法適用の範囲に含め、清算結了等により5社を持分法適用の範囲より除外しております。
(会計方針の変更)
(収益認識に関する会計基準等の適用)
「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号 2020年3月31日。以下「収益認識会計基準」という。)等を当連結会計年度の期首から適用し、約束した財又はサービスの支配が顧客に移転した時点で、当該財又はサービスと交換に受け取ると見込まれる金額で収益を認識することといたしました。
収益認識会計基準等の適用による主な変更点は以下のとおりであります。
1.交換取引
同様の性質及び価値を持つ石油製品等を同業他社間で融通する取引(交換取引)については、純額での計上に変更しております。
2.軽油引取税
軽油引取税については、第三者のために回収する額に該当するため、取引価格から控除し収益を認識する方法に変更しております。
収益認識会計基準等の適用については、収益認識会計基準第84項ただし書きに定める経過的な取扱いに従っており、当連結会計年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の累積的影響額を、当連結会計年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用しております。
この結果、当連結会計年度の売上高が1,657百万円、売上原価が1,657百万円それぞれ減少しておりますが、営業利益、経常利益及び税金等調整前当期純利益に与える影響はありません。また、利益剰余金の当期首残高に与える影響はありません。
(時価の算定に関する会計基準等の適用)
「時価の算定に関する会計基準」(企業会計基準第30号 2019年7月4日。以下「時価算定会計基準」という。)等を当連結会計年度の期首から適用し、時価算定会計基準第19項及び「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号 2019年7月4日)第44-2項に定める経過的な取り扱いに従って、時価算定会計基準等が定める新たな会計方針を、将来にわたって適用することとしています。なお、連結財務諸表に与える影響はありません。
当連結会計年度(自 2023年1月1日 至 2023年12月31日)
(連結の範囲の変更)
新規設立等により8社を連結の範囲に含め、清算結了等により6社を連結の範囲より除外しております。
(持分法適用の範囲の変更)
新規株式取得により3社を持分法適用の範囲に含め、清算結了により1社を持分法適用の範囲より除外しております。
(会計方針の変更)
(IAS第12号「法人所得税」(2021年5月改訂))
当社グループの一部の在外連結子会社及び在外持分法適用関連会社は、当連結会計年度より、IAS第12号「法人所得税」(2021年5月改訂)を適用しております。
本改訂により、リース及び廃棄義務のように、取引時に同額の将来加算一時差異と将来減算一時差異が生じる場合、企業はそれにより生じる繰延税金負債及び繰延税金資産を認識することが明確になりました。本改訂は遡及適用され、前連結会計年度については遡及適用後の連結財務諸表となっております。
この結果、前連結会計年度の連結貸借対照表においては、遡及適用を行う前と比べて投資有価証券が2,451百万円減少、繰延税金負債が13,540百万円増加、利益剰余金が10,983百万円減少、為替換算調整勘定が5,008百万円減少しております。また、前連結会計年度の連結損益計算書においては、遡及適用を行う前と比べて持分法による投資利益が3,752百万円増加、法人税等調整額が19,040百万円減少しております。なお、前連結会計年度の期首の純資産に累積的影響額が反映されたことにより、前連結会計年度の連結株主資本等変動計算書においては、利益剰余金の期首残高が33,776百万円減少しております。
(7)経営成績等の状況の概要に係る主要な項目における差異に関する情報
IFRSにより作成した連結財務諸表における主要な項目と日本基準により作成した場合の連結財務諸表におけるこれらに相当する項目との差異に関する事項は、以下のとおりであります。
前連結会計年度(自 2022年1月1日 至 2022年12月31日)
「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 40.初度適用」に記載のとおりであります。
当連結会計年度(自 2023年1月1日 至 2023年12月31日)
(表示組替)
日本基準では「無形固定資産」、「生産物回収勘定」及び「生産物回収勘定引当金」として表示していた石油及び天然ガスの探鉱、評価、開発及び生産活動に係る資産については、IFRSでは「石油・ガス資産」に振替えております。
また、日本基準では「有形固定資産」に含めていた石油およびガスに関わる資産以外の有形固定資産については、IFRSでは「その他の有形固定資産」に振替えております。
(リース資産及びリース負債)
日本基準では借手によるオペレーティング・リース取引は賃貸借取引として費用処理しておりましたが、IFRSでは原則として借手によるすべてのリース取引についてリース資産(使用権資産)及びリース負債を認識しております。リース資産(使用権資産)は「石油・ガス資産」及び「その他の有形固定資産」、リース負債は「その他の金融負債(流動)」及び「その他の金融負債(非流動)」に含めております。
上記等の影響により、IFRSでは日本基準に比べて連結財政状態計算書におけるリース資産(使用権資産)及びリース負債がそれぞれ59,897百万円及び59,731百万円増加しております。
(石油・ガス資産)
日本基準では契約形態に応じて異なる会計処理を行っておりましたが、IFRSでは、石油及び天然ガスの探査及び評価に係る支出は成功成果法を用いて会計処理し、支出の一部を石油・ガス資産(探鉱・評価資産)として認識しており、また、石油及び天然ガスの開発井及び関連する生産設備に係る支出及び資産除去債務に対応する資産除去債務資産は石油・ガス資産(開発・生産資産)として認識し、生産開始後、確認埋蔵量及び推定埋蔵量の合計数量に基づいて、生産高比例法により減価償却しております。
上記等の影響により、IFRSでは日本基準に比べて連結損益計算書における「売上原価」及び「探鉱費」がそれぞれ45,853百万円及び15,566百万円減少しております。
(子会社の機能通貨)
日本基準では子会社の所在国通貨に基づき財務諸表を作成しておりましたが、IFRSでは機能通貨の判定を行い、各社の機能通貨に基づき財務諸表を作成しております。連結上、当社グループの連結財務諸表の表示通貨である日本円への換算に際して生じる換算差額をその他の包括利益に計上しております。
上記等の影響により、IFRSでは日本基準に比べて連結包括利益計算書における「為替換算調整勘定」(「在外営業活動体の換算差額」)が97,417百万円増加しております。
石油契約等
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契約会社名 |
相手先 |
契約内容 |
契約期間 |
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INPEX Ichthys Pty Ltd (子会社) |
オーストラリア連邦政府 ほか |
オーストラリア連邦西オーストラリア州WA-50-L/WA-51-L鉱区における生産ライセンス |
2012年3月1日から |
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INPEX Oil & Gas Australia Pty Ltd (子会社) |
オーストラリア連邦政府 ほか |
オーストラリア連邦西オーストラリア州WA-44-L鉱区における生産ライセンス |
2011年5月20日から |
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㈱INPEXアルファ石油(子会社) |
オーストラリア連邦政府 ほか |
オーストラリア連邦西オーストラリア州WA-35-L鉱区における生産ライセンス |
2008年10月17日から |
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オーストラリア連邦政府 ほか |
オーストラリア連邦西オーストラリア州WA-43-L鉱区における生産ライセンス |
2009年11月18日から |
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オーストラリア連邦政府 ほか |
オーストラリア連邦西オーストラリア州WA-55-L鉱区における生産ライセンス |
2013年6月18日から |
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INPEX DLNGPL Pty Ltd (子会社) |
オーストラリア連邦政府 ほか |
バユ・ウンダンフィールドからオーストラリア連邦ダーウィンまでのパイプライン敷設ライセンス |
2001年4月27日から |
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ジャパン石油開発㈱ (子会社) |
アラブ首長国連邦アブダビ首長国政府 ほか |
アラブ首長国連邦アブダビ沖合サター油田及びウムアダルク油田における利権契約 |
2018年3月9日から 2043年3月8日まで |
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ADNOC(アブダビ国営石油会社) ほか |
アラブ首長国連邦アブダビ沖合上部ザクム油田に係る修正共同開発協定 |
2006年1月1日から 2051年12月31日まで |
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JODCO Onshore Limited (子会社) |
アラブ首長国連邦アブダビ首長国政府 ほか |
アラブ首長国連邦アブダビ陸上鉱区(ADCO鉱区)における利権契約 |
2015年1月1日から 2054年12月31日まで |
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JODCO Lower Zakum Limited (子会社) |
アラブ首長国連邦アブダビ首長国政府 ほか |
アラブ首長国連邦アブダビ沖合下部ザクム油田における利権契約 |
2018年3月9日から 2058年3月8日まで |
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㈱INPEXサウル石油 (子会社) |
東チモール民主共和国政府 ほか |
東チモール民主共和国のPSCTL-SO-T 19-12鉱区における生産分与契約 |
2019年8月30日から 2024年6月30日まで |
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㈱INPEXマセラ (子会社) |
インドネシア共和国政府 ほか |
インドネシア共和国マセラ鉱区における生産分与契約 |
1998年11月16日から 2055年11月15日まで |
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㈱INPEX南マカッサル (子会社) |
インドネシア共和国政府 ほか |
インドネシア共和国南マカッサル海域セブク鉱区における生産分与契約 |
1997年9月22日から 2027年9月21日まで |
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㈱INPEXコンソン (子会社) |
ベトナム共和国政府 ほか |
ベトナム共和国05-1b/05-1c鉱区における生産分与契約 |
2004年11月18日から 2034年11月17日まで |
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INPEX Idemitsu Norge AS (子会社) |
ノルウェー王国政府 |
ノルウェー王国PL057/089鉱区等 における生産ライセンス |
2022年1月31日から |
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㈱INPEX南西カスピ海石油 (子会社) |
ソカール(アゼルバイジャン共和国国営石油会社) ほか |
アゼルバイジャン共和国領カスピ海海域ACG油田における生産分与契約 |
1994年12月12日から 2049年12月31日まで |
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㈱INPEX北カスピ海石油 (子会社) |
カザフスタン共和国エネルギー鉱物資源省、カズムナイガス(カザフスタン共和国国営石油会社) ほか |
カザフスタン共和国北カスピ海沖合鉱区における生産分与契約 |
1998年4月27日から 2031年12月31日まで (10年延長を1回可能) |
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契約会社名 |
相手先 |
契約内容 |
契約期間 |
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INPEX BTC Pipeline, Ltd. (子会社) |
アゼルバイジャン共和国/ジョージア/トルコ共和国 |
各国政府が協力して3カ国を通過するBTCパイプラインプロジェクトの遂行、各国通過を認める契約(IGA) |
2000年6月21日発効 |
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INPEX BTC Pipeline, Ltd. (子会社) |
HGA (注) |
アゼルバイジャン共和国政府及びBTCプロジェクト当事者 |
BTCプロジェクトを遂行する権利付与等契約 |
2000年10月18日から、船積み開始後40年間(10年延長を2回可能) |
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ジョージア政府及びBTCプロジェクト当事者 |
同上 |
2000年10月19日から、船積み開始後40年間(10年延長を2回可能) |
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トルコ共和国政府及びBTCプロジェクト当事者 |
同上 |
2000年10月20日から、船積み開始後40年間(10年延長を2回可能) |
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(注) HGA(Host Government Agreement)は、BTCパイプラインが通過する3カ国(アゼルバイジャン共和国、ジョージア及びトルコ共和国)の各国政府とBTCプロジェクト当事者との間で締結された各国政府の合意及び義務を定めた契約であります。
当社グループでは、「長期戦略と中期経営計画(INPEX Vision @2022)」を踏まえ、エネルギートランジション実現に貢献し、主要エネルギー供給事業者としての責務を果たすために、事業の基盤となる技術、更には新事業開発の先鋒としての技術の在り方・方向性と将来達成すべき目標を「INPEX技術戦略」として2022年8月にまとめました。また、当社技術研究所に「INPEX Research Hub for Energy Transformation」(略称「I-RHEX(アイレックス)」)を2022年4月に新設し、ネットゼロ分野の研究開発を進めております。当連結会計年度の研究活動費の総額は
(1) 水素・アンモニア
当社は、2050年のネットゼロカーボン社会の実現に向け、水素・CCUS事業開発本部を中心として水素・アンモニア事業に注力しております。
取組みの一つとして、新潟県柏崎市にブルー水素・アンモニア製造実証プラントの準備・建設作業を、2025年の運転開始を目指して進めております。本実証試験では、天然ガスを原料として年間700トンの水素を製造し、その一部をアンモニア製造に使用、残りを水素発電に使用するとともに、副次的に発生するCO2を既にガス生産を終了した東柏崎ガス田平井地区の貯留層へ圧入するという計画です。なお、本実証試験のうち、水素・アンモニアの製造及びCO2回収については、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(New Energy and Industrial Technology Development Organization、以下「NEDO」という。)で採択された助成事業として、また、CO2 の地中貯留の実施と評価については、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(Japan Organization for Metals and Energy Security、以下「JOGMEC」という。)との共同研究として実施してまいります。
また、水素サプライチェーンの重要要素である輸送・貯蔵技術については、I-RHEXの技術課題の一つとして探求してまいります。
(2) CCS/CCUS(Carbon dioxide Capture and Storage/ Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)
CO2の分離回収・貯留(CCS)技術に関しては、2016年度から二酸化炭素地中貯留技術研究組合に参画し、大規模CO2圧入・貯留の安全管理技術の開発・実証に取り組んでおります。また、公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)を通じてCO2-EOR(CCUS)を含むCO2地下貯留の国際基準(ISO/TC265)策定活動に積極的に貢献すると共に、日本CCS調査株式会社(JCCS)の株主として日本国内におけるCCS実証プロジェクトに参加しております。
2021年度から、新潟県阿賀野市においてCO2を用いた原油回収効率改善技術(EOR)のための研究をJOGMECと共同で実施しております。
これらCCS/CCUS事業を安全かつ効率的に推進するため、CO2地下貯留における地下評価技術モデルの構築や地下及び地上環境の各種モニタリング手法の研究開発を進めております。
(3) メタネーション
当社は、新潟県長岡市のINPEX長岡鉱場越路原プラント内で、生産されるガスに随伴して排出される二酸化炭素8Nm3/hを利用したメタネーションの基盤技術開発事業の試験(※1)を2017年から2021年まで実施しておりましたが、2021年10月には同プラントにて400Nm3-CO2/hのメタネーション実用化技術開発事業(※2)を開始し、2026年に既存パイプラインへ合成メタンを注入するという予定で関連作業を進めております。将来的には、大型化に向けた技術開発及びスケールアップを行い、2030年を目途に10,000Nm3-CO2/hスケール、年間6万トン程度の合成メタンを製造し、当社のパイプラインで供給することを目指しております。
※1 NEDO委託事業「次世代火力発電等技術開発/次世代火力発電基盤技術開発/CO2有効利用技術開発」
※2 NEDO課題設定型産業技術開発費助成事業「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/CO2排出削減/有効利用実用化技術開発/気体燃料へのCO2利用技術開発/大規模なCO2-メタネーションシステムを用いた導管注入の実用化技術開発」
(4) CO2回収・DAC(Direct Air Capture)、SAF(Sustainable Aviation Fuel)、人工光合成
経済産業省及びNEDOが主導する「人工光合成化学プロセス技術研究組合」に参加し、太陽エネルギーを利用した光触媒の水分解による水素の生成、並びに、生成された水素とCO2からプラスチック原料等基幹化学品の製造を目指す研究開発プロジェクトに継続して取り組んでおります。
I-RHEXにおいてはCO2回収・輸送を含む効率的なサプライチェーン構築のための技術開発、FT(Fischer-Tropsch)合成によるSAF製造の研究開発も進めております。
(5) 石油・天然ガス
エネルギー構造の変革期においても引き続きエネルギーの安定供給の責任を果たし、事業の強靭化・クリーン化を推進するため、国内外の大学・研究機関・企業と連携を図りつつ研究開発を進めております。
在来型油ガス田の開発・生産に関する既保有技術の維持・向上の為に、具体的には生産プラントへのダメージや環境問題を引き起こす水銀の制御・管理技術、油井管やパイプラインの腐食防食技術の研究開発に取り組んでおります。
また、次世代のEOR技術としての低塩分濃度水攻法や難条件下でのEOR技術研究開発を進めております。
(6) DX
当社グループが関与する事業においてデジタル技術を最大限に活用し、生産・供給体制及び内外のステークホルダーに新たな付加価値を提供してまいります。具体的には以下を進めております。
① 油ガス田開発分野では、地震探査データ処理・解釈や貯留/シール層の岩相・化石種の自動判定等、地下評価への機械学習適用の取り組みを通じて作業効率の最大化を進めております。また、油ガス生産・処理施設の操業・保全分野では、デジタル技術活用による省人化・無人化施策推進、AI活用、ロボット・ドローンの技術検証等に取り組んでおります。
② CCS/CCUS分野では、デジタルによる貯留効率評価ツールやCCSデータモニタリングシステム構築等を進めております。