以下の記載のうち将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
(1) 経営方針・経営戦略
当社は、創薬事業においては、アンメット・メディカル・ニーズの高い未だ有効な治療方法が確立されていない疾患を中心に、特にがん、免疫・炎症疾患を重点領域として画期的な新薬の開発を目指して研究開発に取り組み、また、創薬支援事業においては、新たなキナーゼ阻害薬(*)創製のための製品・サービスを製薬企業等へ提供するため、営業活動に取り組んでおります。創薬事業は、当社の研究部門が創製した医薬品候補化合物の知的財産権に基づく開発・商業化の権利を製薬会社等に導出(ライセンスアウト)し、その対価として契約一時金、一定の開発段階を達成した際のマイルストーンペイメント収入、新薬の上市後の売上高に応じた販売マイルトーンやロイヤリティ収入を獲得するビジネスモデルです。また、創薬支援事業は高品質なキナーゼタンパク質製品や正確なプロファイリング(*)・スクリーニングサービス(*)を製薬企業などの研究所へ販売・提供することで、安定的な収入を獲得し、創薬事業における研究開発のスピードアップに寄与しています。
① 創薬事業
当社の創薬研究は、アンメット・メディカル・ニーズが高いがんおよび免疫・炎症疾患を重点領域としており、有望創薬プログラムへ研究リソースを重点的に投入し、創薬の成功確率の向上と研究期間の短縮に努めながら、当社が培ってきたキナーゼ(*)に関する創薬基盤技術などを利用して、新規性の高い画期的な医薬品候補化合物の創出を目指しています。当社の創薬事業は、製薬企業出身者が中心となって、当社のコア技術であるキナーゼ創薬基盤技術を中心に、様々な創薬標的に対する低分子医薬品の創薬研究を実施しており、次々と独自の新たなパイプラインを生み出すことができることが大きな特長となっています。また、大学等アカデミアとの共同研究も積極的に推進し、新しいコア技術の開発や新規創薬テーマの発掘のための研究を行なっています。
当社は、がん領域については臨床試験のフェーズ2まで、それ以外の疾患についてはフェーズ1または前臨床試験までのいずれかの段階で当社の創薬プログラムを製薬企業等に導出することを基本方針としております。導出契約は、導出時の研究開発のステージが高くなるほど収益性が高くなることが見込まれますが、その反面、導出に至るまでの開発リスクは高まり、必要な研究開発費は多額になります。反対に、前臨床段階など早期に導出することを想定した場合、ヒトに対する臨床データがなく、臨床開発リスクが考慮されるために、導出先製薬企業等から獲得する収益は低くなる可能性があります。当社が創出した医薬品候補化合物が臨床試験を経て上市する成功確率を高めるためには、臨床試験段階のパイプラインを複数保有することが重要です。これまでの複数の製薬企業(ジョンソン・エンド・ジョンソン社、シエラ社、ギリアド社、バイオノバ社、フレッシュ・トラックス・セラピューティクス社)への導出実績や国際的学術科学雑誌への研究成果の掲載、さらには当社が独自に研究開発中の創薬プログラムへの注目度の高まり等を受けて、海外メガファーマや国内製薬企業等との協議の機会が多くなっております。当社は、自社で臨床試験を実施し、創薬パイプラインの価値を最大限に高めたうえで導出することを中期的な経営の基本方針として掲げていますが、競合状況や導出先製薬企業との頻回な面談による情報収集により、当社にとって最大価値を生み出せるよう戦略的かつ臨機応変に導出交渉に取り組んでまいります。
2018年の臨床開発部新設以降、臨床開発体制を強化し、当社が創出した医薬品候補化合物の臨床試験を自社で実施することが可能となりましたが、今後も次々とステージアップする複数の医薬品候補化合物の臨床試験を実施する体制はいまだ不十分であると認識しております。自社開発品であるAS-1763およびmonzosertib(AS-0141)の臨床試験が確実に実施でき、さらに将来の医薬品候補化合物の開発が滞りなく実施できるよう、引き続き臨床開発体制の強化を進めていく計画です。
上記開発体制を構築してさらなる事業の発展を目指していくうえで、臨床開発を推進、管理する人員の確保、臨床試験を推進するための資金の獲得が必要となります。当社は、創薬支援事業および創薬事業における営業キャッシュ・フロー収入を投じる予定でありますが、必要に応じて資本市場等から資金を調達し、当社事業の拡充に取り組んでまいります。
② 創薬支援事業
当社の創薬支援事業は、当社の創薬基盤技術に基づくキナーゼ関連製品およびサービスの高い品質を強みとし、その創薬基盤技術を基にして顧客の要望に的確に応える学術サポートを通じて世界的なシェアを拡大し、安定的な収益を獲得することを基本方針としています。この獲得した収益を創薬事業に投じることで研究開発のスピードアップに寄与することが、創薬支援事業の重要なミッションです。地域別には、市場規模が大きくバイオベンチャーが次々誕生するなど成長を続ける北米での中期的かつ持続的な売上増、また日本国内での売上の維持拡大が重要と考えており、急成長しているその他地域の中国での売上拡大とともに注力してまいります。
製品別では、当社のみが販売している機能性キナーゼタンパク質製品のビオチン化タンパク質(*)や変異体キナーゼ(*)タンパク質の品ぞろえを強化いたします。また、プロメガ社のNanoBRETTMテクノロジーを用いて細胞内でのキナーゼ阻害剤の作用を評価する受託試験サービスについても、ターゲットとなるキナーゼ数を追加し、サービスを拡大させています。これら新製品、サービスを顧客に積極的に提案するとともに、顧客ニーズに合致した新製品、サービスをさらに開発し提供することで売上の拡大に取り組んでまいります。
以上の取り組みを通して、複数の臨床試験段階のパイプラインを有する創薬ベンチャーとして飛躍的な成長を実現し、当社の企業価値を高めていく経営方針です。
③ 目標とする経営指標
創薬支援事業については、安定的に収益を獲得する基盤事業として継続的な事業成長と収益基盤の拡大を図るため、売上高、営業利益率の改善を重要な経営指標としております。当連結会計年度においては、前年度に引き続き、自社開発品で原価率の低いキナーゼタンパク質製品の売上が好調に推移いたしました。しかしながら、前年度は、ギリアド社とのライセンス契約に関連し、当社の特定の創薬基盤技術を独占的に供与したことに関連した売上が含まれていたことから、創薬支援事業の営業利益率は下落いたしました。今後も、利益率の高い自社開発品中心に売上の安定的な成長を目指し、同時に開発や製造の効率を向上させることで、営業利益率の改善に取り組んでまいります。
創薬事業については、医薬品候補化合物の導出後の安定的な収益を獲得するまでに相応の期間を要するため、短期的な経営指標で業績評価を行うことは適切ではありません。研究開発中の創薬パイプラインの進捗、導出先からのマイルストーン収入、上市後のロイヤリティの安定的な獲得が中期的な目標となります。
(2) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
① 当社グループとしての課題
当社は創薬ベンチャーとして、画期的な新薬を一日も早く世に送り出すことを目指して事業を行っております。中長期的に研究開発費を先行投資するビジネスモデルとなっており、当面、損失の計上が継続する可能性があります。迅速かつ効率的に研究開発を進めるためには、必要な資金を計画的に確保することが課題です。当社は、導出済みの創薬パイプラインからのマイルストーン収入および新たなライセンス契約締結による導出一時金の獲得や、創薬支援事業からの営業キャッシュ・フローによる資金確保に努めるとともに、必要に応じて、新たな資金調達を検討してまいります。また、当社の企業価値を高めるため、パイプラインの臨床試験を着実に進めるとともに、パートナリング活動を推進してまいります。
② 創薬事業
当社は、BTK阻害剤AS-1763について、治療歴を有する慢性リンパ性白血病(CLL)・小リンパ球性リンパ腫(SLL)およびB細胞性非ホジキンリンパ腫(B-cell NHL)の患者を対象としたフェーズ1b試験を米国で実施しております。また、CDC7阻害剤monzosertib(AS-0141、固形がん対象)のフェーズ1試験を日本で実施しており、これらの臨床試験を着実に進めていくことが最も重要と認識しております。導出活動については、創薬パイプラインごとに最適な戦略を立てたうえで、当社創薬パイプラインの価値を最大化できるよう取り組んでおります。フェーズ1試験(オランダ)を完了したBTK阻害剤sofnobrutinib(AS-0871、免疫・炎症疾患対象)については、導出先あるいは共同開発によるフェーズ2試験の実施を目指しており、パートナリング活動を推進してまいります。さらに、医薬品候補化合物の開発が滞りなく実施できるよう、引き続き臨床開発体制の強化を進めてまいります。また、切れ目のない創薬パイプラインの構築を目的として、次世代の研究ターゲットにも取り組んでまいります。
創薬支援事業においては、顧客ニーズに基づいた独自性の高い製品・サービスの開発を進め、キナーゼに関する専門知識に基づく学術営業を通じ、既存顧客との関係をさらに強化すると同時に、新規顧客を獲得することが重要と考えております。地域的には、市場規模が大きくバイオベンチャーが次々と誕生する米国市場および市場が拡大している中国での売上拡大に注力します。当社グループのみが提供している製品・サービスを中心に積極的に顧客への提案を行い売上拡大に取り組むことで、安定的な売上確保を目指してまいります。
④ 財務戦略
当社の財務戦略は、長期にわたる研究開発を行うための強固な財務基盤を保つために、手元資金については高い流動性と厚めの資金量を確保及び維持することを基本方針としております。先行投資が必要な創薬事業の研究開発資金に、創薬支援事業で獲得したキャッシュ・フローおよび創薬事業で獲得した契約一時金、マイルストーン収入およびロイヤリティ収入を充当し、当社創薬パイプラインの拡充および着実な進展を図り、事業価値を高めていくという経営方針に基づいて財務戦略を策定しております。また、当社は、必要に応じて新たな資金調達や金融機関等からの借入を実施し、当社の企業価値を高めるための先行投資として実施する研究開発のための資金確保に努めてまいります。
(注) *を付している専門用語については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等」の末尾に用語解説を設け、説明しております。
当社グループのサステナビリティに関する考え方、取り組み状況は次のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
当社グループは、創薬事業において画期的な医薬品の開発を推進し、また、創薬支援事業においては、製薬企業等の医薬品の開発をサポートするため、キナーゼを中心とした製品、サービスを販売提供しております。創薬事業においては、アンメットメディカルニーズの高いがん領域及び免疫・炎症疾患領域に重点をおき、経口投与可能な低分子医薬品を開発しています。当社グループは、医薬品の開発或いは医薬品の開発のサポート事業を通して、新薬により人が病気を克服することを目指し、サステナビリティ(持続可能な社会の実現)に貢献してまいります。
(1)ガバナンス及びリスク管理
当社グループは、サステナビリティ関連のリスク及び機会を、その他の経営上のリスク及び機会の一部として監視及び管理しております。詳細につきましては、「
(2)戦略、指標及び目標
当社は、事業の性質上、高度な専門的知識、能力及び経験を有する人材の維持確保が不可欠であると認識しており、重要なサステナビリティ項目として認識しております。
優秀な人材を確保するために、その専門能力、経験等を踏まえた上で、性別、年齢、国籍等に関係なく幅広く採用活動を行っております。また、採用後においても、区別することなく公平な人事活動を実施しております。
さらに、基本的な人事施策を確実に実施するとともに、社員がワークライフバランスを実現しやすくするために、フレックスタイム制度、法定を超える育児・介護短時間勤務制度、各種特別休暇制度等を導入しております。また、インセンティブ報酬として譲渡制限付株式報酬制度を導入しております。
また、当社は、性別、年齢、国籍等は関係なく、その能力、経験等を重視し採用活動、人事活動を実施しているため、現時点において、人材に関する定量的な目標値の設定は行っておりません。指標や目標の設定要否について、継続して検討してまいります。なお、従業員に占める女性の割合(2023年末時点・連結ベース)は、58%です。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 研究開発に関するリスク
① 医薬品の開発全般に係るリスク
新薬の研究開発には長い期間と多額の研究開発投資を必要としますが、上市(*)までの期間において有効性や安全性などの観点から開発中止や延期となるリスクがあります。また、医薬品候補化合物の治験、新薬の製造・販売は各国の薬事関連法等の法的規制を受けており、新薬の上市のためには各国の規制当局による厳格な審査を経て、製造・販売の承認を得る必要があり、承認が得られないリスクまたは予定していた時期に上市できないリスクがあります。これは、当社がパイプラインを導出した場合も同様であり、研究開発投資を回収できず、予定していた収入を得られないことで、当社の業績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
② 導出したパイプラインに関するリスク
当社が製薬企業等に導出した創薬パイプラインは、導出先企業が研究開発を実施し、当社はその開発の進捗に応じたマイルストーン収入を導出先企業から受領し、上市後は当該医薬品の売上高に応じたロイヤリティ収入を計上します。しかし、医薬品候補化合物の研究開発に係る一般的なリスクに加え、導出先企業の経営戦略の変更により、開発スケジュールが変更になった場合、または開発が中断された場合は、当社グループの経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
③ 導出計画に関するリスク
当社が創製した医薬品候補化合物の製薬企業等との導出交渉において、交渉相手先企業等の経営方針、研究開発方針の変更等により導出交渉が困難になる可能性があります。また、導出交渉を行っている医薬品候補化合物と同等性能以上の競合品が他社より創製された場合は、導出交渉が困難になる可能性があります。導出交渉の過程において、医薬品候補化合物に対する交渉相手先の評価が想定を下回る場合は、導出スケジュール及び導出交渉の成否に影響を及ぼす可能性があります。
(2) 創薬支援事業に関するリスク
① キナーゼ阻害薬に係る製品・サービスに特化するリスク
当社グループの創薬支援事業は、主としてキナーゼ(*)タンパク質に関する製品、サービスを提供しているため、キナーゼ阻害薬(*)の研究開発を進める製薬企業等の減少により、当社グループの事業方針の変更を余儀なくされる可能性、または当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。また、当社グループの予想どおり製薬企業等によるキナーゼ阻害薬の研究開発に関連したアウトソースの市場が拡大しない場合は、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。
② 製薬企業の研究部門を顧客とするリスク
当社グループは製薬企業の研究部門を主要な顧客としております。製薬企業の創薬研究(*)は、秘匿性が高く、その進捗により研究テーマ自体の変更が起こり得るなど不確定要素が多いため、当該進捗状況により、予定通り当社グループに対しての発注が行われない場合は、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
③ サプライヤー等に影響されるリスク
当社がプロファイリング(*)・スクリーニング(*)サービスを提供するために使用する測定機器の安定稼動ならびに使用するチップ等消耗品の購入に支障が生じる場合、または、当社がNanoBRET™テクノロジーを用いた細胞内でのキナーゼ阻害剤の作用を評価する受託試験サービスを提供するにあたり使用するプロメガ社のアッセイキットの購入に支障が生じる場合などは、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
なお、当社は、プロファイリング(*)・スクリーニング(*)サービスの測定機器として、レビティ社のLabChip® EZ Readerを使用しておりますが、レビティ社は、LabChip® EZ Readerのサポートを2024年末で終了することを発表しました。そのため、当社はSCIEX社のBioPhase 8800を代替機とする測定システムの開発を進め、2024年上半期中にBioPhase 8800を用いたサービスを開始する計画です。
④ 提携先の製品・サービスに関するリスク
当社グループは、提携先である海外のOncolines社、SARomics社、IniXium社及びAssayQuant社の製品・サービスを代理店として特定地域に提供しておりますが、提携先の事情及び当社グループとの関係の変化等により取り扱うことができなくなった場合は、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(3) 資金調達について
① 損失計上の見通しと資金の確保について
当社はこれまでにない画期的な新薬を創製する創薬ベンチャーとして、非臨床・臨床試験費用をはじめとする多額の研究開発資金を、中長期的に先行投資するビジネスモデルとなっております。そのため、当面、損失の計上が継続する可能性があり、資金の確保が課題であります。当社は各事業におけるキャッシュ・フロー獲得のみならず、公募増資、新株および新株予約権の第三者割当等によって資金調達を行ってまいりました。今後も、資金調達についてその最適な方法やタイミング等を適宜検討してまいりますが、必要な資金調達を円滑に実施できない場合には、当社グループの事業が計画通りに進捗しない、あるいは事業継続が困難となる可能性があります。
② 資金調達による株式価値の希薄化について
当社は、創薬パイプラインの創製、開発のために多額の研究開発資金を先行投資するビジネスモデルとなっております。当該研究開発資金には、創薬支援事業及び創薬事業における収入を充当してまいりますが、不足する場合には、必要に応じて、新株発行等による資金調達を実施する可能性があります。その場合には、当社株式の1株当たりの株式価値が希薄化する可能性があります。
(4) 継続企業の前提に関する重要事象等
当社は、創薬事業においてはがん、免疫・炎症疾患を重点領域とした画期的な新薬の開発を目指して研究開発に取り組み、創薬支援事業においては新たなキナーゼ阻害薬創製のための製品・サービスを製薬企業等へ提供しています。創薬支援事業では安定的な営業キャッシュ・フローを獲得している一方で、創薬事業においては研究開発への先行投資を積極的に行っております。
当社は、当連結会計年度において、BTK阻害剤AS-1763およびsofnobrutinib(AS-0871)、CDC7阻害剤monzosertib(AS-0141)のフェーズ1臨床試験を実施し、BTK阻害剤sofnobrutinib(AS-0871)のフェーズ1臨床試験を完了いたしました。翌連結会計年度以降に必要となるフェーズ1試験実施のための費用と今後の資金計画を検討した結果、翌連結会計年度以降に先行投資として実施する研究開発に必要な資金が当連結会計年度末時点の手許資金では十分でない可能性があることから、当連結会計年度末において継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象が存在していると判断しております。
このような状況を改善するため、今後当社は、導出済みの創薬パイプラインからのマイルストーン収入および新たなライセンス契約締結による導出一時金の獲得や、創薬支援事業からの営業キャッシュ・フローによる資金確保に努めるとともに、必要に応じて、新たな資金調達を検討してまいります。そのうえで、先行投資として実施する研究開発はこれらの資金調達の状況をみながら実施することから、継続企業の前提に関する重要な不確実性は認められないものと判断しております。
(5) 組織体制について
当社は限られた人材により業務執行を行っておりますが、取締役及び従業員が持つ専門知識・技術・経験に負う部分があることから、当該者の退職等により当社グループの業務に影響を及ぼす可能性があります。
(6) 為替変動リスクについて
当社グループは、日米欧の製薬企業等を顧客とするグローバルな販売及び導出活動を展開しており、総売上高に対する海外売上高の割合は2022年12月期は84.2%、2023年12月期は86.3%と高くなっております。また、臨床試験に関わる業務を海外の医薬品開発製造受託機関(CDMO)および医薬品開発業務受託機関(CRO)に委託しております。こうした売上および費用は、米ドルやユーロ等の外貨で計上されることになり、大幅な為替相場の変動があった場合は当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(7) 知的財産権について
① 創薬事業における知財リスク
当社グループが創製した医薬品候補化合物について、第三者によってすでに特許出願されている等の理由により当社グループの想定どおりに特許が取得できない場合、又は第三者より特許侵害があるとして訴訟を提起された場合は、当社グループの事業方針及び業績に影響を及ぼす可能性があります。
② 創薬支援事業における知財リスク
当社グループの保有する多くの技術的ノウハウが、技術革新等により陳腐化した場合、また、第三者によって技術的ノウハウが先行的に特許出願され、権利化された場合は、当社グループが保有する技術の優位性が損なわれ、創薬支援事業の業績に影響が生じる可能性があります。
③ 特許に関わる訴訟リスク
創薬支援事業に関し、当社グループが販売したキナーゼタンパク質、アッセイ(*)用キット等の製品、もしくは、当社グループが提供したプロファイリング・スクリーニングサービス及びセルベースアッセイ(*)サービス等の中に、第三者が特許を保有するキナーゼや技術等があった場合、特許侵害訴訟を提起され、当該製品の販売差止や当該サービスの提供禁止のほか、多額の賠償金の支払いを求められる可能性があります。
(8) その他のリスク
① 事業所の一極集中について
当社グループは、本社機能及び研究開発機能を神戸市のポートアイランドにある神戸バイオメディカルセンター(BMA)内に構えております。BMAは1995年の阪神淡路大震災の教訓をもとに2004年に建設された十分な耐震性、防火体制、自家発電機能を備えたビルディングで、24時間の警備体制が取られています。当社グループのビジネスの鍵になるキナーゼ遺伝子すべてについては、それらが失われることがないよう、BMA内の異なる部屋で二重に保管されているとともに、一部の重要な生物資源については別地方の保管サービスを利用し、バックアップ体制を整えております。また、ビジネスに必要な機器及び装置等については、損害保険がかけられております。さらに、緊急時に被害を最小限にすべく対応できるように緊急時の社内連絡体制を整えています。また、キナーゼタンパク質製品の在庫を米国子会社であるCarnaBio USA, Inc.に分散させるなどの対策をとっております。しかしながら、大規模な地震、台風や風水害その他の自然災害等の発生により、本社機能及び研究開発機能が同時に災害等の甚大な被害を受けた場合は、当社グループの研究開発設備等の損壊あるいは事業活動の停滞によって、当社グループの経営成績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
② 当社グループの設備に関わる長時間の停電等による業務遅滞及び製品への影響について
当社グループが創薬支援事業の営業・物流拠点及び研究開発機能を有する神戸市において、長時間の停電等によりキナーゼタンパク質(*)の製造及び保管ならびに化合物(*)の評価設備の稼動等を中断する事象が発生した場合は、キナーゼタンパク質を保管している冷凍庫が停止し、これに伴うキナーゼタンパク質の失活(活性を失う)等により製品として出荷できないことが考えられます。当社はこの対策として、キナーゼタンパク質製品の在庫を米国子会社であるCarnaBio USA, Inc.でも分散して保管しております。また、長時間の停電は、化合物の評価設備(測定機器、分注機器等)の稼動を止めることから、顧客へのサービス提供の遅延を招く恐れがあります。このような事態が発生した場合は、当社グループの事業に影響を及ぼす可能性があります。
③ 当社グループの技術の情報漏洩について
当社グループが保有するキナーゼタンパク質の製造技術やアッセイ開発に関する技術等は、何らかの理由により人材の流出が起こった場合は技術情報等が流出する可能性があり、製品開発や製造に影響を及ぼす可能性があります。また、人材の流出により、社外へノウハウが流出した場合は、当社グループの製品等の模倣製品が出現する可能性も考えられます。これらのことにより、万一当社グループの技術的な優位性が維持できなくなった場合は、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
④ 営業機密の漏洩について
当社グループが行う創薬支援事業におけるプロファイリング・スクリーニングサービスおよびセルベースアッセイサービスは、顧客である製薬企業等から化合物(*)の情報をお預かりする立場にあります。従って、当社グループは、すべての従業員との間において顧客情報を含む機密情報に係る秘密保持契約を締結しており、さらに退職後も個別に同契約を締結して、顧客情報を含む機密情報の漏洩の未然防止に努めております。しかしながら、万一顧客の情報等が外部に漏洩した場合は、信用低下を招き、当社グループの経営に悪影響を及ぼす可能性があります。
⑤ 創薬研究と創薬支援事業を同時に行うことで制約を受ける可能性について
当社グループのプロファイリング・スクリーニングサービスおよびセルベースアッセイサービスの提供を望む顧客(製薬企業等)が当該サービスに係る契約を締結する際、当社グループが自ら創薬研究を行っていることが、顧客にとって顧客情報の秘匿性確保についての懸念材料となる可能性があります。その場合、顧客との契約条件に制約事項が増え、その結果、当該サービスの採算性の悪化、又は事業別に分社せざるを得ない等の影響を受ける可能性が考えられます。その場合、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(注) *を付している専門用語については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等」の末尾に用語解説を設け、説明しております。
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
(1) 経営成績の状況
当社は、創薬事業においてはアンメット・メディカル・ニーズの高い未だ有効な治療方法が確立されていない疾患を中心に、特にがん、免疫・炎症疾患を重点領域として画期的な新薬の開発を目指して研究開発に取り組み、また、創薬支援事業においては新たなキナーゼ阻害薬創製のための製品・サービスを製薬企業等へ提供するため営業活動に取り組んでおります。
当連結会計年度のセグメント別の事業活動は以下のとおりです。
① 創薬事業
がん領域では、ベストインクラスの可能性を有する次世代非共有結合型BTK阻害剤AS-1763に注力して、現在、患者様を対象とした臨床試験を米国で実施しています。またファーストインクラスを目指して、CDC7阻害剤monzosertib(AS-0141)の開発も進めており、患者様を対象とした臨床試験を日本で実施しています。免疫・炎症疾患領域では、当社が創出した、もう1つの非共有結合型BTK阻害剤sofnobrutinib(AS-0871)の開発を進め、健康成人を対象としたフェーズ1試験が2023年第4四半期に完了しました。sofnobrutinibの導出活動を本格的に開始するために、当該結果を基にした導出パッケージの作成も完了しています。また、当社は、米国ギリアド・サイエンシズ社(以下「ギリアド社」)に、当社が創出した新規脂質キナーゼDGKα阻害剤のプログラムを導出しており、ギリアド社は現在、本プログラムから見出された開発中のDGKα阻害剤GS-9911について、固形がん患者を対象としたフェーズ1試験を実施中です。当社は、2023年12月にフェーズ1試験が開始されたことに伴い、2回目のマイルストーン・ペイメント500万ドル(707百万円)を受領いたしました。契約一時金、マイルストーン・ペイメントを合わせて最大で合計470百万ドルのうち、これまでに契約一時金、1回目のマイルストーン・ペイメントと合わせて計35百万ドル(約40億円)を受領しております。さらに、住友ファーマ株式会社とは、精神神経疾患を標的とした創薬プログラムの共同研究を行っています。
AS-1763の中華圏における開発・商業化の権利については、中国BioNova Pharmaceuticals Limited(以下、バイオノバ社)に供与し、同社が開発を進めていましたが、中国の医薬品市場の重要性を考慮し、2023年3月に当該ライセンス契約を解除し、同権利を再取得いたしました。これにより、当社が中華圏を含めた全世界の開発・商業化の権利を保持することで、ベストインクラスの可能性を有するAS-1763の導出活動における選択肢が広がり、株主価値を最大化できると考えています。また、2022年2月に当社が創製したSTING(Stimulator of Interferon Genes)アンタゴニストを米国フレッシュ・トラックス・セラピューティクス社(旧社名 ブリッケル・バイオテック社、以下「FRTX社」)に導出するライセンス契約を締結いたしましたが、FRTX社は2023年9月に、清算・解散計画を発表いたしました。本ライセンス契約の取扱いについて協議を行い、2024年3月に本ライセンス契約の終了について合意いたしました。
臨床試験段階にある3つの医薬品候補化合物の進捗は以下のとおりです。
BTK阻害剤AS-1763(血液がん)
AS-1763は、フェーズ1試験として健康成人を対象とした単回投与用量漸増(SAD)パートおよび新製剤を用いたバイオアベイラビリティ(BA)パートをオランダで実施し、全ての用量で安全性、忍容性および良好な薬物動態プロファイルが確認されましたので、2023年8月に、米国において患者を対象としたフェーズ1b試験の投与を開始しました。当該フェーズ1b試験は2ライン以上の全身治療歴を有する慢性リンパ性白血病(CLL)・小リンパ球性リンパ腫(SLL)およびB細胞性非ホジキンリンパ腫(B-cell NHL)の患者を対象としており、用量漸増パートと拡大パートから構成されています。現時点で、8つの治験実施施設において患者の募集を行っており、今後、12施設まで拡大する予定です。すでに、用量漸増パートの最初の2用量群において、安全性、忍容性が確認されたため、2024年1月に3用量目に移行しております。また本フェーズ1bの試験デザインおよびAS-1763の特徴づけを目的とした非臨床研究に関する結果に関して、2023年12月に開催された第65回アメリカ血液学会年次総会(American Society of Hematology Annual Meeting & Exposition)で発表いたしました。
BTK阻害剤 sofnobrutinib(AS-0871、対象疾患:免疫・炎症疾患)
sofnobrutinibのフェーズ1試験は、オランダで健康成人を対象として2021年中に完了したSAD試験および2021年12月から開始した反復投与用量漸増(MAD)試験の2つの試験として実施しました。SAD試験においては、全ての用量でsofnobrutinibの安全性、忍容性および良好な薬物動態プロファイルが確認されました。また、SAD試験においては簡易製剤を用いましたが、MAD試験では新たに開発した新製剤を用いており、MAD試験はこの新製剤を用いた相対的BAを評価するBAパート、および反復投与時の安全性、忍容性、薬物動態、薬力学的作用を評価するMADパートで構成されています。新製剤として開発したカプセル製剤およびタブレット型製剤を用いたBA試験での比較で、タブレット型製剤がより良い薬物動態を示したため、2023年1月末から当該タブレット型製剤を用いてMADパートを開始しました。2023年11月にMAD試験の臨床試験報告書が最終化され、これまで実施したフェーズ1試験の結果から、sofnobrutinibの安全性、忍容性、並びに良好な薬物動態プロファイルと薬力学作用が確認され、フェーズ2への移行が支持されました。sofnobrutinibについては、フェーズ2以降をライセンスアウトもしくは共同開発により実施することを目指しており、フェーズ1試験の結果を受けて、パートナリング活動を本格的に開始しています。
CDC7阻害剤 monzosertib(AS-0141、対象疾患:固形がん/血液がん)
monzosertibは日本国内で切除不能進行・再発または遠隔転移を伴う固形がん患者を対象としたフェーズ1試験を2021年から実施しています。当該フェーズ1試験は用量漸増パートおよび拡大パートの2段階に分かれており、現在、用量漸増パートを実施しています。用量漸増パートでは、加速漸増デザイン (accelerated titration design)を採用し、1日2回、5日間連日経口投与、2日間休薬する投与スケジュールで、コホート6(300 mg BID)まで用量漸増しましたが、Grade 2以上の有害事象(AE)が発現したため、試験計画に基づき、加速漸増デザインから3+3デザインに移行しました。その後、同用量において用量制限毒性が3名中2名で発現したため用量を下げて症例を追加しておりました。その結果、コホート3(80 mg BID)において、安全性、忍容性が確認されました。現在、薬効を最大化するために、投与スケジュールを、2日間の休薬をしない連日投与に変更して用量漸増パートを開始し、最大耐用量(MTD)および拡大パートでの推奨用量・用法を決定する予定です。また、成功確度を上げるため、非臨床試験より有効性が期待されている血液がん患者の登録も可能となるようにプロトコールを変更し、安全性、忍容性並びに探索的な有効性を確認する予定です。
以上の結果、当連結会計年度の創薬事業の売上は707,650千円(前連結会計年度比147.4%増)となりました。臨床試験費用を中心に研究開発へ積極的に投資したことにより、同事業の研究開発費は1,773,348千円(前連結会計年度比0.7%増)であり、営業損失は1,342,546千円(前連結会計年度は1,722,641千円の営業損失)となりました。
② 創薬支援事業
創薬支援事業では、収益の柱の一つに成長したビオチン化タンパク質の更なる品揃えを積極的に推し進めるとともに、売上が順調に拡大しているNanoBRETサービスの市場への浸透に取り組んでいます。また、プロファイリングサービスにおいては、開発に成功した次世代アッセイ機器を用いたプロファイリングシステムによるサービス開始に向けて順調に準備が進んでいます。さらに、各地域において、技術営業を中心としたきめ細やかな営業により、既存顧客のフォローを行うとともに新規顧客の獲得を目指しています。
当連結会計年度においては、海外向けのキナーゼタンパク質の販売が好調に推移しました。米国及び中国向けのタンパク質の販売が昨年に引き続き堅調に推移するとともに、欧州においては、AI創薬企業を含むバイオベンチャーからのキナーゼタンパク質の高い需要により、売上が大幅に伸びました。
以上の結果、当連結会計年度における創薬支援事業の売上高は918,239千円(前連結会計年度比16.6%減)、営業利益は225,567千円(前連結会計年度比50.2%減)となりました。売上高の内訳は、国内売上が223,306千円(前連結会計年度比2.1%増)、北米地域は426,935千円(前連結会計年度比32.0%減)、欧州地域は112,948千円(前連結会計年度比56.8%増)、その他地域は155,049千円(前連結会計年度比14.9%減)です。
なお、前年度は、米国において、ギリアド社とのライセンス契約に関連し、当社の特定の創薬基盤技術を独占的に供与したことに関連した売上が含まれていたことから、対前年では減収となりました。
以上の結果、2023年12月期の連結売上高は1,625,889千円(前連結会計年度比17.2%増)となりました。地域別の売上は、連結ベースで国内売上高が223,306千円(前連結会計年度比2.1%増)、海外売上高は1,402,583千円(前連結会計年度比20.1%増)となりました。損益面につきましては、営業損失が1,116,978千円(前連結会計年度は1,269,888千円の営業損失)、経常損失は1,126,283千円(前連結会計年度は1,278,820千円の経常損失)、親会社株主に帰属する当期純損失は1,152,895千円(前連結会計年度は1,349,539千円の親会社株主に帰属する当期純損失)となりました。
第18期、第19期、第20期及び第21期のセグメントごとの売上、研究開発費及び営業損益は、以下の通りです。
(単位:千円)
当社グループの連結の財政状態の概要につきましては、以下のとおりであります。
当連結会計年度末における総資産は4,349,891千円となり、前連結会計年度末に比べて83,437千円の増加となりました。その内訳は、現金及び預金の減少489,947千円、売掛金の増加605,769千円等であります。
負債は472,356千円となり、前連結会計年度末と比べて152,252千円の減少となりました。その内訳は、長期借入金の減少120,000千円等であります。
純資産は3,877,535千円となり、前連結会計年度末と比べて235,690千円の増加となりました。その内訳は、株式の発行による資本金及び資本剰余金の増加1,388,455千円、親会社株主に帰属する当期純損失1,152,895千円の計上等であります。
また、自己資本比率は89.1%(前連結会計年度85.0%)となりました。
(3) キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容
当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という)は、前連結会計年度末に比べ489,947千円減少し、2,889,101千円となりました。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動により減少した資金は1,677,464千円(前年は708,390千円の減少)となりました。これは主に税金等調整前当期純損失1,130,846千円の計上、売上債権の増加599,720千円によるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動により減少した資金は11,376千円(前年は125,696千円の減少)となりました。これは主に有形固定資産の取得による支出11,530千円によるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動により増加した資金は1,182,027千円(前年は367,006千円の増加)となりました。これは主に長期借入金の返済による支出119,988千円、新株予約権の行使による株式の発行による収入1,343,338千円によるものであります。
(4) 資本の財源及び資金の流動性に係る情報
当社グループは、キナーゼ阻害薬等を創製するための研究開発ならびにその基盤となる技術である「創薬基盤技術」を強化するための研究開発へ積極的に先行投資し、将来の飛躍的な成長を目指しております。そのための研究開発に係る費用は、創薬支援事業が生み出すキャッシュ・フロー及び創薬事業における導出契約やマイルストーン達成に基づく収入、ならびに資本市場等から調達した資金等により充当しております。
創薬支援事業の業績は黒字を継続し安定的に推移しているものの、創薬事業からの収益は、導出契約の成否、導出先製薬企業等における開発の進捗、導出活動の進捗及び当社の研究開発の進捗等により影響を受け安定的でないことから、当社グループの短期的な損益については赤字となる傾向があります。
しかしながら、当社グループは、中長期的な経営方針に基づき、積極的に創薬事業に先行投資を行い、研究開発を推し進めることで、当社の企業価値を高めてまいります。そのための資金を獲得するために、創薬支援事業からの収益力をさらに高めるとともに、当社にとって最適な資金調達方法を検討し、研究開発資金の確保に努めてまいります。
(5) 生産、受注及び販売の状況
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注) 1. 金額は、販売価格によっております。
2. 創薬事業については、生産を行っていないため記載しておりません。
当連結会計年度における商品仕入実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注) 1. 金額は、仕入価格によっております。
2. 創薬事業については、商品仕入を行っていないため記載しておりません。
当連結会計年度における受注実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注) 主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。
(注) 当連結会計年度におけるShanghai Universal Biotech Co., Ltd.の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は、100分の10未満であるため、記載を省略しております。
(6) 経営方針・経営戦略または経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (1) 経営方針・経営戦略 ③目標とする経営指標」に記載のとおり、創薬支援事業については、安定的に収益を獲得する基盤事業として、継続的な事業成長と収益基盤の拡大を図るため、売上高、営業利益率の改善を重要な経営指標としております。
当連結会計年度においては、前年度に引き続き、自社開発品で原価率の低いキナーゼタンパク質製品の売上が好調に推移いたしました。しかしながら、前年度は、ギリアド社とのライセンス契約に関連し、当社の特定の創薬基盤技術を独占的に供与したことに関連した売上が含まれていたことから、創薬支援事業の営業利益率は下落いたしました。
(7) 重要な会計方針及び見積り
当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成されております。この連結財務諸表の作成において、損益または資産の状況に影響を与える見積りの判断は、一定の会計基準の範囲内において過去の実績やその時点での入手可能な情報に基づき合理的に行っておりますが、実際の結果は、見積り特有の不確実性が存在するため、これらの見積りと異なる場合があります。なお、当社グループの連結財務諸表の作成にあたり採用した会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項」に記載のとおりであります。
(注) *を付している専門用語については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等」の末尾に用語解説を設け、説明しております。
当社とFresh Tracks Therapeutics, Inc.は、当社が創製した新規STINGアンタゴニストに関する全世界における開発・商業化の独占的な権利をFresh Tracks Therapeutics, Inc.に付与するライセンス契約の終了について、2024年3月5日に合意しました。
当社は、主にキナーゼ(*)タンパク質を標的とした低分子の分子標的薬(*)であるキナーゼ阻害薬(*)の創製研究(*)及び医薬品候補化合物の開発を行うため、研究開発へ積極的に先行投資を行っております。さらに、キナーゼ阻害薬等を創製するための基盤となる技術である「創薬基盤技術」をさらに強化するための研究開発を行うとともに、長年培ってきたこの創薬基盤技術を駆使し、他の製薬企業やアカデミア等からのニーズが高いキナーゼ関連製品・サービスを開発するための研究開発も行っております。
当連結会計年度において当社グループが支出した研究開発費の総額は
(1) 創薬事業
当社は、創薬事業において、がん、免疫・炎症疾患を重点領域としてキナーゼ阻害薬を中心に低分子医薬品の創薬研究開発を行なっています。2023年12月末現在で、臨床試験段階にある3つのパイプライン、ならびに2つの導出済みのパイプラインを保有しています。
臨床開発中のパイプライン
導出済みパイプライン
*STINGアンタゴニストについては、導出先のFRTX社が2023年9月に清算・解散計画を発表したため記載しておりません。
*受領済の契約一時金及びマイルストーンは受領時の為替レート、マイルストーン総額は140円/ドルで換算。
各パイプラインの概況は以下のとおりです。
BTK阻害剤 AS-1763(血液がん)
イブルチニブを代表とする第1世代の共有結合型BTK阻害薬は、CLLを含む成熟B細胞腫瘍の有効な治療薬として幅広く使われていますが、これらBTK阻害薬に対する薬剤耐性が深刻な問題となってきています。近年、耐性患者においてC481S変異したBTKが高頻度に見い出され、この変異が第1世代BTK阻害薬の共有結合を妨げ阻害活性を低下させることが主な薬剤耐性の原因と考えられています。また2023年に承認されたピルトブルチニブや開発中の非共有結合型BTK阻害剤に対する新たな耐性変異もすでに報告されています。このような背景から薬剤抵抗性変異型BTKに対する新しい治療方法の開発が非常に望まれています。当社が創製した非共有結合型BTK阻害剤AS-1763は野生型BTKだけでなく、これらの薬剤抵抗性変異型BTKにも高い阻害効果を示すことから、BTK阻害薬耐性患者を対象としたベストインクラスの次世代型BTK阻害剤として開発を進めています。
AS-1763のフェーズ1試験は、ヒトでの安全性、薬物動態等の検討を早期に行うため、まず健康成人を対象として、簡易製剤を用いたSADパートおよび新製剤を用いたBAパートをオランダで実施しました。当該SADパートにおいて、AS-1763の安全性、忍容性および良好な薬物動態プロファイルが確認されています。また、BAパートでは新製剤の良好な薬物動態を確認しています。
当該フェーズ1試験結果を基にして、米国において患者を対象としたフェーズ1b試験を計画し、米国FDAにより新薬臨床試験開始届(IND application)の承認を得て、2023年8月に投与を開始しました。フェーズ1b試験は、治療歴を有するCLL・SLLおよびB-cell NHLの患者を対象としており、用量漸増パートと用量拡大パートの2つのパートから構成されており、現在、用量漸増パートを実施しています。用量漸増パートでは、最大耐用量(MTD)及び用量制限毒性(DLT)を決定することを主目的とし、副次的に安全性、忍容性、薬物動態、さらに有効性についても評価します。用量拡大パートでは、用量漸増パートで推奨された複数の用量で症例を追加し、安全性、有効性、薬物動態を調査し、フェーズ2試験の推奨用量(RP2D)を決定することを目的としています。
すでに、用量漸増パートの最初の2用量群において、安全性、忍容性が確認されたため、2024年1月に3用量目に移行しております。また、現時点で、8つの治験実施施設において患者の募集を行っており、今後、12施設まで拡大する予定です。
BTK阻害剤 sofnobrutinib(AS-0871、対象疾患:免疫・炎症疾患)
BTKは血液がんだけでなく、自己免疫疾患やアレルギー疾患の治療標的分子としても注目されていますが、これまでに同適応疾患を対象として承認されたBTK阻害薬はありません。sofnobrutinibは当社が創製した非共有結合型BTK阻害剤で、BTKに対して非常に高い選択性を示すことから、免疫・炎症疾患を対象に開発を進めています。
sofnobrutinibのフェーズ1試験は、健康成人男女を対象としたSAD試験およびMAD試験BAパート・MADパートで構成され、オランダで実施いたしました。SAD試験においては、全ての用量で安全性、忍容性および良好な薬物動態プロファイルが確認され、また、薬力学的評価の結果から血中の好塩基球およびB細胞の活性化を100mg以上の用量で強く持続的に阻害することが確認されました。SAD試験に続き、MAD試験・BAパートを実施し、新たに開発した複数の製剤(カプセルおよびタブレット)での相対的バイオアベイラビリティを比較し、その結果、タブレット型製剤がより良い薬物動態を示しました。当該結果を基に、タブレット型製剤を用いて、2023年1月からMAD試験MADパートを開始し、2023年11月に、MAD試験の臨床試験報告書が最終化されました。これまで実施したフェーズ1試験の結果から、sofnobrutinibの安全性、忍容性、並びに良好な薬物動態プロファイルと薬力学作用が確認され、フェーズ2への移行が支持されました。sofnobrutinibについては、フェーズ2以降をライセンスアウトもしくは共同開発により実施することを目指しており、当該結果を基にした導出パッケージを作成し、導出活動を開始いたしました。
CDC7阻害剤 monzosertib(AS-0141、対象疾患:固形がん/血液がん)
monzosertibは、当社が創製した選択的CDC7キナーゼ阻害剤でファースト・イン・クラスが期待される経口投与可能な低分子化合物です。様々ながん種の細胞増殖を強く阻害し、各種ヒト腫瘍移植動物モデルにおいて優れた抗腫瘍効果を示しています。2021年上期に、日本国内において切除不能進行・再発又は遠隔転移を伴う固形がん患者を対象としたフェーズ1試験を開始しました。フェーズ1試験は、用量漸増パート及び拡大パートの2段階に分かれており、用量漸増パートでは、薬剤の投与量を増やしながら安全性と忍容性を評価し、また薬物動態や薬力学についても調べます。本パートで決定した最大耐用量と推奨用量に基づき、拡大パートでは、より多くの患者で本剤の安全性及び有効性を評価いたします。
用量漸増パートでは加速漸増デザインを採用し、DLT評価期間中にGrade 2以上のAEが発現するまで各コホート1名の登録で増量し、Grade 2以上のAEが発現した場合、以降は3+3デザインの用量漸増に移行する計画としております。現在実施中の用量漸増パートでは、1日2回、5日間連日経口投与、2日間休薬する投与スケジュールで、コホート5(用量レベル:250 mg BID)までGrade 2以上のAEは観察されませんでしたが、コホート6(用量レベル:300 mg BID)においてGrade 2以上のAEが発現したため、計画通り3+3デザインに移行いたしました。その後、3名中2名でDLTが発現したため、300 mg BIDにおいてMTDを超えたと判断し、用量を下げて症例を追加しておりました。その結果、コホート3(80 mg BID)において、安全性、忍容性が確認されました。現在、薬効を最大化するために、投与スケジュールを、2日間の休薬をしない連日投与に変更して用量漸増パートを開始しています。今後は、用量漸増パートの結果をもとに、最大耐用量(MTD)および拡大パートでの推奨用量・用法を決定する予定です。また、成功確度を上げるため、非臨床試験より有効性が期待されている血液がん患者の登録も可能となるようにプロトコールを変更し、安全性、忍容性並びに探索的な有効性を確認する予定です。
ギリアド社に導出した低分子阻害薬の創薬プログラム
2019年6月に、米国のギリアド社と、当社が創製した新規がん免疫療法の低分子阻害薬およびその創薬プログラムの開発・商業化にかかる全世界における独占的な権利を供与する契約を締結しています。ギリアド社は現在、本プログラムから見出された開発中のDGKα阻害剤GS-9911について、固形がん患者を対象としてPhase1試験を実施中です。
当社は、契約締結時に一時金として20百万ドル(約21億円)を受領したほか、開発状況や上市などの進捗に応じて追加的に最大で450百万ドル(約630億円、1ドル140円で換算)のマイルストーン・ペイメントを受け取ることになり、さらに、本プログラムにより開発された医薬品の上市後の売上高に応じたロイヤリティを受け取ります。ギリアド社は、2021年12月に本創薬プログラムを次の開発ステージに進めることを決定し、当社はライセンス契約に基づいた最初のマイルストーン・ペイメントを受領、また、2023年12月にPhase1試験が開始されたことに伴い、2回目のマイルストーン・ペイメント500万ドル(707百万円)を受領しました。当社はギリアド社から、これまでに契約一時金、1回目のマイルストーン・ペイメントと合わせて計35百万ドル(約40億円)を受領しております。
住友ファーマとの共同研究プログラム
2018年3月に住友ファーマ株式会社と精神神経疾患を標的とした共同研究契約を締結しており、当該共同研究の進捗状況から2021年12月に本契約の共同研究期間を2025年3月27日まで延長することを両社で合意しております。本研究では、沢山の知的財産が生み出されており、当該疾患領域における新薬の創出を目指して共同研究を継続しております。本共同研究により見出されたキナーゼ阻害剤については、同社が、がんを除く全疾患を対象とした臨床開発および販売を全世界で独占的に実施する権利を有します。その対価として、当社は契約一時金および研究マイルストーンとして、最大8千万円を受領し、その後の研究開発の進展に伴い、進捗に応じて追加的に最大で約106億円のマイルストーン・ペイメントおよび売上高に応じたロイヤリティを受け取ることができます。
上記以外の創薬研究プログラムにつきましても、画期的な新薬創製に向けて様々な創薬研究プログラムを実施しております。これらの創薬プログラムにつきましても、早期ステージアップを目指して研究を継続してまいります。
当事業に係る研究開発費は、
(2) 創薬支援事業
創薬支援事業の研究開発では、キナーゼタンパク質に特化するメーカーとして、新たなキナーゼタンパク質製品の開発に継続的に取り組んでおり、現在は、当社のみが販売し、主力製品となったビオチン化タンパク質の品揃えの拡充を積極的に推し進めています。また、プロファイリング・サービスにおいては、次世代アッセイ機器によるプロファイリングシステムの開発に成功し、サービス開始に向けて順調に準備が進んでいます。当社製キナーゼタンパク質およびそれを用いた受託試験サービスは顧客から高品質との評価を得ており、今後さらなる信頼を獲得し売上拡大を図るため、一層の品質の向上に取り組むとともに、顧客ニーズに基づく新製品の開発にも取り組んでまいります。また、収益力の強化を目指した作業工程の改善にも取り組んでおります。
当事業に係る研究開発費は、
(注) *を付している専門用語については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等」の末尾に用語解説を設け、説明しております。