第2 【事業の状況】

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当社グループが有価証券報告書提出日現在において合理的であると判断する一定の前提に基づいており、実際の結果とは様々な要因により大きく異なる可能性があります。

 

(1)会社の経営基本方針

当社グループは、「豊かな共生世界の実現」をパーパス(社会における存在意義)に掲げ、生活者・顧客の立場にたって、心をこめた“ESG視点でのよきモノづくり”を行い、世界中の人々のこころ豊かな未来と、人と地球が共に生きる持続可能な共生世界の実現に貢献することを目指しています。

私たちは、企業理念である「花王ウェイ」をグループ全員で共有し、考え方や行動の拠り所として日々実践し、清潔・美・健康の領域を中心に、時代の変化に対応しながら130年余り事業を展開してきました。

2009年には、人類だけでなく自然界にもよき存在であるようにと「環境宣言」を行い、自然と調和するこころ豊かな毎日を目指して、その歩みをさらに一歩進めました。2019年にはESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」(以下、KLP)を発表し、ESGを経営の根幹に据えることを宣言しました。

しかし今、私たちが使命に掲げる「豊かな共生世界」を実現するための土台である人の生命に危機が及んでいます。そして今後もその脅威は、私たちの生活を根幹から脅かす存在であり続けることが予想されます。

このような中、私たちはこの切実な社会的課題に花王らしいアプローチで取り組んでいきます。生活や生態に加え、人の生命を守ることを強く意識し、未来のいのちを守る会社になっていきます。「きれいを こころに 未来に」をコーポレートスローガンに掲げ、地球が生きる場として持続的にきれいに保たれること、社会が持続的に豊かであること、そして人が危害から守られて笑顔で暮らせること、これらすべてを実現するために貢献していきます。

結果として、これらが財務的な成果、そしてステークホルダーへの還元へと繋がり、この仕組み自体が持続していきます。今後も花王グループは、より高いレベルでの企業価値向上を目指していきます。

 

(2)中長期的な会社の経営戦略と目標とする経営指標

① 長期経営戦略

当社グループは2030年までにあるべき姿として、持続的な利益ある成長と社会のサステナビリティへの貢献との両立によって、これまでの『グローバルで存在感のある会社「Kao」』になるという将来像をさらに一歩進め、『グローバルで存在価値のある企業「Kao」』を目指します。ESGを通じて将来にわたって、人・社会・地球にとって価値のある存在になっていきます。

私たちは、環境(E)においては、ゼロ浪費、カーボンゼロ、さらにその先のカーボンネガティブを目指します。社会(S)においては、無駄な消費がなくなることを願い、その人に寄り添った唯一無二のパーソナライズを進めていきます。そして、ガバナンス(G)をしっかりと効かせながら、志を共にする仲間と共に正道を歩んでいきます。最小限の資源で最大の価値を生み出す、"Maximum with minimum"を経営の指針として、より良い明日をつくるために今後も我々は成長し続けます。

 

グローバルで存在価値のある企業「Kao」

■持続可能な社会に欠かせない企業

■高社会貢献&高収益グローバル企業

■ステークホルダーへの成長レベル還元

 

 

② 中期経営計画

 


 

■2023年度の進捗と今後の計画

「グローバル・シャープトップ」事業の構築のため、生活者・顧客に欠かせない事業・高収益事業へのグローバルシフトを進めています。2023年は、ビオレUVケアの欧州・ブラジルでの好調、セルフタンニングや日やけ止め、スキンケア商品等をオーストラリア・イギリス・アメリカ等で展開するBondi Sands社の買収等、スキンプロテクション事業のグローバル拡大の道筋を作りました。ファブリック&ホームケア事業ではグローバル拡大ポテンシャルの高い新商品を投入し、ヘアサロン向け製品では「ORIBE」を中心に欧米展開強化を進めました。また、自社ECサイト「My Kao Mall」において各事業カテゴリーの展開が始動しました。今後、UVケア製品の海外展開をさらに加速するほか、高付加価値のシート型製品やヘアケア事業における新製品の投入、エコケミカルオンリーワン技術のグローバル展開の継続強化を進めていきます。

「グローバル・シャープトップ」事業を支える人財の育成・獲得、組織運営の改革も進めています。対話を軸としたアグレッシブな人財への投資を優先し、研鑽の場や自学共生機会の提供、権限委譲、透明性ある公正な評価・処遇、最適配置を行っていきます。また、部門に依存しないタスク型チーム編成により、スピード感のある推進体制に移行し、マトリックス運営から脱却していきます。

資本効率・収益性の改善については、アタック、ビオレといった高収益事業を拡大するほか、戦略的値上げや構造改革による収益改善、事業ポートフォリオの見直しを行い、経営資本の価値最大化を進めました。これらの取り組みは、当社の業績や財務パフォーマンスに持続的で長期的な影響をもたらすと考えております。今後も引き続き、規律あるポートフォリオ管理、利益を重視した「よきモノづくり」を強化し、高付加価値化推進によりさらなる稼ぐ力の改革を推進します。

さらに、パートナーとなる他社との共創による事業構築を進め、当社グループが有する技術資産の最大化を加速していきます。

これらの戦略により、業績を向上させ、長期的な価値創造を実現することを目指しています。

 

③ 目標とする経営指標

当社グループは、EVA(経済的付加価値)及びROIC(投下資本利益率)を経営の主指標としています。その本質は、株主等の資金提供者の視点を持って、資本を効率的に活用し利益を生み出すことにあります。EVAを継続的に増加させていくことが企業価値の増大につながり、株主だけでなく全てのステークホルダーの長期的な利益とも合致するものと考えています。そして事業規模の拡大を図りながら、EVAを増加させることを事業活動の目標としており、個別事業の評価、設備や買収等の投資評価、年度ごとの業績管理や報酬制度等に活用しています。さらにROICにより事業ポートフォリオマネジメントを強化することで、EVA経営の深化を図っています。ROICは、各事業における資本コストに対する意識を高めるとともに、それぞれの特性や競争環境を踏まえた管理を可能にします。事業別に利益と併せて資本効率も重視することにより、成長事業への重点投資と健全なポートフォリオの改善を実施し、EVAの向上を目指します。

 

(3)会社の対処すべき課題

気候変動、水や森林資源の枯渇等の環境問題及び人権問題、高齢化社会の進行等の社会問題はますます深刻化しています。世界は新型コロナウイルス感染症拡大前の状況に戻ってきていますが、中国市場の減速、欧州や中東の地政学リスクやインフレによるコストの高止まりの状況は続いており、経営環境も不透明な状況が続きました。

このような状況の中で、当社グループは、社会課題の解決に軸足を据えて、環境に負の影響を与える既存の大量生産・大量消費型のビジネスから脱却し、無駄なモノはつくらず、お客様に長く愛される魅力ある商品を生み出し続ける循環型モデルへ転換しなければなりません。このモデルを目指すべく、2020年12月に中期経営計画「K25」を発表して企業活動を進めてまいりました。

しかし、急激な原材料価格高騰と高止まり、インバウンド消失と中国市場の変化等、様々な外部要因の影響を受けました。そこで、構造改革と成長戦略を軸に中期経営計画を見直し、2023年8月に中期経営計画「K27」を発表いたしました。「K25」で設定した経営方針は変えず、戦略的値上げの実施やTCR(トータル・コスト・リダクション)強化、ROIC(投下資本利益率)の全社導入を進め、構造改革を断行します。そして、「グローバル・シャープトップ」事業を擁立する企業を目指し、適切なポートフォリオ管理を行い、戦略的な投資やM&A・再編もスピード感をもって実行していきます。

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

文中の将来に関する事項は、当社グループが有価証券報告書提出日現在において合理的であると判断する一定の前提に基づいており、実際の結果とは様々な要因により大きく異なる可能性があります。

 

(1)ESG戦略(Kirei Lifestyle Plan)

王は、「2030年までに達成したい姿」である「グローバルで存在価値ある企業『Kao』」を達成するため、経営の中核にESGの視点を導入しています。花王のESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」は、生活者のこころ豊かな暮らしの実現を目指す花王らしい戦略で、19の重点取り組みテーマより構成されています。

「Kirei Lifestyle Plan」に基づき、事業成長と社会のサステナビリティへの貢献を実現していきます。

 

① ガバナンス

花王は、グローバルの大きな変化に対する迅速な対応を強化するとともに、事業機会の拡大を目指し柔軟で強靭なESGガバナンスを構築しています。社外委員が参加する組織が経営層に監督・助言する機能や、経営判断がイノベーションや取り組みに変換され、的確かつ迅速に実行に移される機能が備わっていることが特徴です。取締役会がリスクや機会を含むESGに関する監督の責任を持ち、そのもとで社長執行役員及び配下の各組織体が業務執行を担っています。

取締役会は、ESGの監督に適切な知識・経験・能力を確保しています。多角的な視点から経営全体を監督するため必要な専門性のバランスを考慮した構成ですが、ESGも重要な専門性として位置付け、ESGに精通した多くの取締役、監査役を選任しています。取締役会へのESGに関する執行状況の報告は、ESGコミッティから、年に2回の定期報告に加え、適宜議題内容に応じて報告しています。報告内容は、方針や戦略から目標、KPIや活動の進捗状況に及びます。ESGに関するKPIの報酬方針への反映に関しては、取締役・執行役員報酬諮問委員会で審議し、取締役会で決議されます。取締役及び執行役員の報酬に含まれる長期インセンティブ報酬(各役位の基本報酬の30 ~ 50% 程度)には、ESG経営の推進度を測る「ESG力評価指標」をウエイト40%で設定し、外部指標による評価及び社内目標の達成度等を基準に、支給率を決定しています。

ESG全体の業務執行については、ESGコミッティを最高機関とした体制が担っています。ESGコミッティは、ESG戦略に関する活動の方向性を議論、決定し、取締役会に活動状況を報告します。社外の視点を反映させるため外部有識者で構成されるESG外部アドバイザリーボード、ESG戦略を各部門で遂行するためのESG推進会議、4つの重点課題について確実かつ迅速にESG戦略を遂行するESGステアリングコミッティがあり、各部門の活動を推進しています。

中でもESG外部アドバイザリーボードは、ガバナンスにおいて重要な役割を果たしています。世界の動向、花王の取り組み状況に関する助言は、各分野、世界の各地域で活躍されている委員ならではの活きた知見・観点から生み出されるものであり、ESG視点の経営の意思決定に効果的に反映されています。環境分野の2名、社会分野の2名、ガバナンス分野の1名で構成されています。

ESGに関するリスク管理は内部統制委員会(年2回開催、委員長は代表取締役 社長執行役員)で、機会管理はESGコミッティ(年6回開催、議長は代表取締役 社長執行役員)で実施しています。

 


 

各組織体の役割、構成、開催頻度、審議事項等

組織体

役割

構成

実績 (2023年)

開催頻度

主な審議事項等

ESGコミッティ

花王全社に関わる下記項目の審議・議論、又は報告:

・ESGの基本的な考え方や方針

・ESGに関する方針の展開、戦略、活動、社外コミュニケーション等

・ESG活動の推進に関する投資の決裁

・社会のサステナビリティやESGに関する潮流、課題と機会

・ESGコミッティメンバーによるステークホルダーとの積極的なエンゲージメント

 

議長:代表取締役 社長執行役員

委員:専務執行役員、常務執行役員等

アドバイザー:会長

オブザーバー:社内監査役

年6回

・DE&I方針の審議・承認

・「花王サステナビリティレポート2023」での開示方針、KPI進捗及び中長期コミットメントの開示内容の審議・承認

・新財団設立の審議・承認

・ESG投資案件の審議・承認

・消費者志向宣言改定の審議・承認

・2024年度ESGファンド全体予算の審議・承認

・ESG外部アドバイザリーボードの答申事項の確認

・Kirei Lifestyle Plan各テーマの進捗に関するレビュー

・外部有識者による講演(1回)

ESG

外部アドバイザリーボード

・ ESGコミッティの諮問に対し社外の高い専門的視点から、答申・提言

・ESGコミッティに対し、世界レベルの計画策定・実行ができるような情報の提供

・外部との協働や連携の機会の提供

・花王のESG活動に対する評価

委員:社外有識者

・末吉 里花氏

 一般社団法人エシカル協会代表理事ほか

 専門:エシカル消費等

・Ruma Bose氏

Chief Growth Officer, Clearco

 専門:人権、起業家支援等

・Jalal Ramelan氏  

 ESGインドネシア 会長

 専門:持続可能な開発分野

・Helmut Schmitz氏

 Der Grüne Punkt - Duales System Holding GmbH & Co. KG  広報部長

 専門:包装容器リサイクルシステム等

・Laura Palmeiro氏

 Sustainable Finance

 Director, Danone

 専門:サステナビリティ、金融等

年2回

・社会情勢を踏まえた花王への期待とリスク提言

・Kirei Lifestyle Planの進捗に関する評価と課題提言

ESG推進会議

・ESGコミッティで決定した方針、提言に基づき、ESG戦略と事業の一体化に向けて具現化

・重要ESGアクション実行へ向けた監督・検証

・各部門、リージョンのESG活動推進の課題を吸い上げ、ESGコミッティへ提案

議長:取締役 常務執行役員 ESG部門統括
委員:事業部門、機能部門、コーポレート部門、リージョンの責任者等

年8回

・ESG投資戦略の策定

・生物多様性の今後の活動方針案の策定

・Kirei Lifestyle Plan中長期目標の見直し案策定

・Kirei Lifestyle Plan各テーマの進捗と今後の計画の確認

・各部門、リージョンのESG活動に関する進捗の確認

・外部有識者による講演(1回)

 

 

組織体

役割

構成

実績 (2023年)

開催頻度

主な審議事項等

E

S

G

脱炭素

・GHG削減計画の策定

・2040年カーボンゼロ達成に向けた脱炭素対応策と緩和・適応のビジネス機会を一元的に議論し、迅速な脱炭素活動を推進

・シナリオ分析結果に基づいた気候変動リスクの適切な管理

オーナー:常務執行役員 研究開発部門統括

委員:研究開発部門、購買部門、SCM部門、CP事業統括部門、ケミカル事業部門、ESG部門の社員

年5回

・2030年GHG削減戦略に関する議論

・機会とリスクの再整理

・脱炭素関連KPIの進捗と課題に対する対応についての議論

プラスチック包装容器

・循環型社会の実現に向け、KLPアクション「ごみゼロ」の重点課題であるプラスチック包装容器にかかわる活動を一元的に議論し、強力かつ迅速に活動を推進

・脱炭素ステアリングコミッティ・水保全・生物多様性との連動を図りながら活動を推進

オーナー:執行役員 研究開発部門副統括
委員:事業部門、研究開発部門、購買部門、ESG部門、コーポレート戦略部門の社員

年5回

・リサイクルイノベーション活動(回収・再資源化)の方針案策定、活動の審議・承認

・リデュースイノベーション活動(使用量削減、再生材使用)の方針案策定、活動の審議・承認

・「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」への対応

人権・DE&I

・ESGコミッティの監督のもと、花王人権方針に基づき、人権デュー・デリジェンスを含む当社グループの人権に関する活動の一元的な推進、管理

・ESGコミッティの監督のもと、当社グループのDE&I方針に基づく活動の一元的な推進、管理

オーナー:上席執行役員 人財戦略部門統括
委員:人財戦略部門、ESG部門、購買部門、SCM部門、CP事業統括部門の社員

月1回

・DE&I方針策定

・DE&I方針の理解と実践に向けた社員啓発施策提案、実行

・人権リスクワークショップを含む人権デュー・デリジェンス推進、リスクアセスメントにより当社グループにて特定されたリスクの更新、関連部門・子会社での活動促進

・広告表現における人権侵害リスク低減に向けた取り組み強化

・バリューチェーン全体(特に社員、ビジネスパートナー、社会)での人権尊重とDE&I推進・マネジメント

化学物質管理

・SAICM推進委員会による製品ライフサイクルを通じての化学物質自主管理の推進

・製品原料方針策定会議による、規制動向や科学の進展等を踏まえた製品原料の使用方針、及び、削減計画の策定

・化学物質の使用の考え方や安全性評価結果に関する情報開示、ステークホルダーとのコミュニケーション

オーナー:執行役員 品質保証部門統括

委員:ESG部門、研究開発部門、品質保証部門の社員

月1回

・EUグリーンディール政策をはじめとする製品原料に関わる規制動向の把握と対象原料・製品の特定

・製品に含まれる成分(マイクロプラスチック、プロピルパラベン、ブチルパラベン等)の削減計画の策定

・社会的関心の高い成分について、花王の考え方を公開する取り組みの推進

・SAICMの後継であるGlobal Framework on Chemicals (GFC)において、目標策定のための国際会議に行政とともに議論に参画

 

 

 

② 戦略

花王はコンシューマープロダクツ事業から、ケミカル事業まで、幅広い事業領域を有しています。そのため、花王が社会のサステナビリティに影響を及ぼす範囲は生活者の「暮らし」、「社会」、「環境」に加え、「事業基盤」に整理できます。

「暮らし」は、生活者のニーズに応え、こころ豊かな暮らしの実現を目指す花王ならではの側面です。「社会」については、グローバルに広がるバリューチェーンを通じた社会との関わりや、ケミカル事業による多様な産業を通じた社会との幅広い関わりを持つことからも、重要な側面です。「環境」については、製品が世界中の生活者に提供され、使用され、廃棄されることから、大きな影響を及ぼしている側面です。これらの側面に対して、的確に対応するために欠かせないのが、人財開発や人権の尊重・擁護、DE&I活動の推進、化学物質管理等による「事業基盤」の強化です。

 

花王が関わる社会のサステナビリティに関するリスクと機会、及び対応する戦略は次のとおりです。これらのリスクと機会は、花王の事業特性に起因するものであり、リスク回避と機会創出につながる戦略を推進していくことが事業特性を踏まえた企業価値向上と事業成長につながることを示しています。

 


 

上述した4つの区分を踏まえて作成した具体的な戦略が、花王のESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」です。「Kirei Lifestyle Plan」は、生活者を主役としたESGの具体的な活動の方向性と将来への意欲的な意気込みを表したもので、「花王のESGビジョン」と、それを実現するための戦略である3つのコミットメントと19のアクションから構成されています。この戦略に基づき、生活者のこころ豊かな暮らしや社会のサステナビリティの実現を目指して展開した花王のESG活動が、リスク回避や事業機会の創出につながり、ひいては持続的な事業の発展に貢献していくと考えています。

 

 


 

重点取り組みテーマの選定プロセスについては「花王サステナビリティレポート 2023」(p.13)を参照ください。

https://www.kao.com/content/dam/sites/kao/www-kao-com/jp/ja/corporate/sustainability/pdf/sustainability2023-all.pdf

 

中期経営計画「K27」において掲げるビジョン「Sustainability as the only path」を実現する戦略的アプローチとして、「持続可能な社会に欠かせない企業になる」があります。これはパートナーとともに、複数の社会課題を同時に解決するビジネスモデルの構築を目指すものです。社会の役に立つことを目的に事業を展開し、その結果として事業成長を果たすという考え方に基づいています。その考え方を象徴するのが、花王が社会に存在する意義(パーパス)を「豊かな共生世界の実現」としている点です。生活者のこころ豊かな暮らしや社会のサステナビリティの実現を目指して展開した花王のESG活動が、結果として事業成長につながり、生まれた利益がステークホルダー、生活者や社会に還元されていくサイクルを形成していくと考えています。「Kirei Lifestyle Plan」が経営ビジョンを達成するための土台であり、ESG活動は未来に向けた投資であり、財務と連動する取組みと位置づけているのはそのためです。

 

現代の深刻な社会問題に対応し、サステナブルな社会を実現するためには技術革新が必須だと言われています。花王はイノベーション提案に基づく、“よきモノづくり”に注力しており、本質研究に立脚した革新的技術を組み込んだ“ESG視点でのよきモノづくり”は、大きな力になります。さらに花王は技術に留まらないイノベーションを引き起こすことができると考えています。イノベーションによって、花王の持続的な成長と同時に、人、社会、地球に大きなインパクトを与えていくことを目指します。

 

「Kirei Lifestyle Plan」は、花王のコーポレートブランド価値、及び製品ブランド価値向上にも貢献します。「Kirei Lifestyle Plan」の精神は製品、キャンペーン、プログラム、コミュニケーション等の取り組みに組み込まれています。生活者のこころ豊かな暮らし、社会や環境のサステナビリティへの貢献は、生活者やさまざまなステークホルダーから信用やレピュテーションを獲得でき、コーポレートブランド価値の向上に貢献すると考えています。

「Kirei Lifestyle Plan」のアクションのひとつ「パーパスドリブンなブランド」は、ブランドの存在意義を強化し、生活者の共感を獲得することで、ブランドロイヤルティ向上に貢献します。経営方針の柱に、パーパスドリブンのブランド育成を掲げているのは、このためです。ロイヤルティ・マーケティングにより生活者との強い絆を育むことで、高収益体質を強化していきます。

 

このようにESGが組み込まれた経営戦略のもと、パーパスに根差した“ESGよきモノづくり”を一層強化しています。

 

③ リスク管理

花王は、強靭なESGガバナンスのもと、リスク低減と事業機会創出を確実にするため、リスク管理及び機会管理を強化しています。

リスク管理においては、リスクの重要性をリスク・危機管理委員会で定期的にモニタリングしています。その中でも経営への影響が特に大きく、対応の強化が必要なリスクは「コーポレートリスク」として、経営会議でリスクテーマとリスクオーナーを選定し、リスク・危機管理委員会で進捗管理をしています。各部門やグループ会社で管理可能なリスクは、各組織が中心となって対応しています。機会管理においては、当社グループ全体で重点テーマを管理し、優先順位の設定とESG投資を促進する仕組みを構築し、戦略的な事業展開につなげています。

 

④ 指標と目標

花王は、野心的な指標と目標を設定することで、ESG戦略の方向性を明確にし、的確な進捗管理を可能とすることで、ESG戦略を着実に実行しています。花王のESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」の19のアクションごとに指標と目標を設定しています。上記ESGガバナンスにおいて各指標の進捗状況がモニタリングされ、結果に基づき取り組みに反映しています。

 

19の重点取り組みテーマの中長期目標


詳細については2024年5月に発行予定の「花王サステナビリティレポート 2024」を参照ください。

https://www.kao.com/jp/sustainability/pdf/sustainability-report/

 

(2)気候変動への対応(TCFD提言への取組)

気候変動は、現在並びに将来世代が豊かな生活文化Kirei Lifestyleを実現することに対する大きなリスクとなっています。「花王ウェイ」において「豊かな共生世界の実現」を使命として掲げる当社グループでは、地球温暖化の緩和と適応の両面から積極的に活動を推進しています。当社グループはTCFDに賛同し、気候変動に関する情報開示を積極的に実施し、投資家との対話を行っています。パリ協定が示す「平均気温上昇を1.5℃に抑えた世界」を実現することが将来の生活者のKirei Lifestyle実現に必要だと認識し、「Kirei Lifestyle Plan」の重点取り組みテーマの一つとして「脱炭素」を掲げ活動を進めています。

※TCFD:気候関連財務情報開示タスクフォース

 

① ガバナンス

気候変動に関するガバナンスは、ESG戦略のガバナンスに組み込まれています。詳細については「(1)ESG戦略(Kirei Lifestyle Plan) ①ガバナンス」を参照ください。

 

② 戦略

気候変動により平均気温が4℃上昇することは、社会に非常に大きな影響を及ぼすことから、世界全体が気温上昇を1.5℃に抑えることを目指していることに意味ある貢献をすることが、重要であると認識しています。

花王は1.5℃、2℃、4℃シナリオでシナリオ分析を実施しています。なお、1.5℃と2℃のシナリオにおいては、リスク・機会の傾向は同じですが、1.5℃の方が2℃よりも移行のスピードが速くなり、活動レベルが高くなると認識しています。

 

(主な事業リスクと機会)

 

 

1.5℃/2℃

4℃

当社グループの戦略

移行

炭素税の導入・引き上げ

炭素税が世界中で導入され、負担コストが上昇

炭素税の導入はほとんど進まない

1.5℃シナリオに沿った、Scope1+2 CO2排出削減量目標を設定

プラスチック規制の導入

再生プラスチック需要増により再生プラスチック単価が上昇し、調達コスト増

再生プラスチック需要は大きく増加しない

プラスチック循環型社会に向けた活動を継続・強化

原材料価格の上昇

化石由来原材料の使用が制限され調達コスト増

化石由来原材料需要が増加し、調達コスト増

化石由来原材料の使用量の最少化を継続・強化、売価への転嫁

生物多様性の保全

新規農地開発の制限、認証品調達規制等によりパーム油やパルプの調達コスト増

過剰な農薬・化学肥料による水質・土壌汚染の浄化等によりパーム油やパルプの調達コスト増

生物多様性を損なう原材料の使用量の最小化を継続・強化

消費行動の変化

エシカル製品の需要が全世代で拡大し、売上増

エシカル製品の需要が一部世代で拡大し、売上増

エシカル製品を開発・上市、生活者への啓発

物理

自然災害

被害が大きくなる

被害が甚大化する

拠点リスク調査と対策

平均気温の上昇

日やけ止め、制汗剤、感染症対策製品の需要が大きく増加し、売上増

日やけ止め、制汗剤、感染症対策製品の需要が大きく増加し、売上増

需要伸長の開発強化

 

 

③ リスク管理

気候変動に関する主なリスクは、ESG戦略のリスクに含めて管理しています。詳細については「(1)ESG戦略(Kirei Lifestyle Plan) ③リスク管理」を参照ください。

 

 

④ 指標と目標

2021年、当社グループは「2040年カーボンゼロ、2050年カーボンネガティブを目指す」という方針のもと、2030年目標を設定・更新しました。

・スコープ1+2 CO2排出量(絶対量)削減率

-55%(対2017年)※1

・使用電力における再生可能電力の比率

100%※2

・ライフサイクルCO2排出量(絶対量)削減率

-22%(対2017年)

・削減貢献量※3、※4

10,000千トン-CO2

 

※1 1.5℃水準に沿った目標として、SBTイニシアティブ(企業が気候変動分野において野心的な活動を促進するために設立されたイニシアティブ)の認定を取得

※2 RE100(企業が自らの事業で使用する電力を再生可能エネルギー100%化することを目指す国際的イニシアティブ)に加盟

※3 気候変動枠組条約第17回締約国会議(COP17)及び京都議定書第7回締約国会合(CMP7)で合意された7種の温室効果ガス

※4 当社グループの製品によって社会全体で削減された排出量

 

当社グループのCO2排出量推移は以下のとおりです。2023年は生産拠点のあるタイ工場での購入電力の再生可能エネルギー比率100%の達成やベトナム、インドネシア、メキシコでの再生可能エネルギー電力の購入開始といった取り組みに加え、温水ヒートポンプなどの低炭素設備の導入や需要に応じた生産対応の影響により2017年比削減率35%を達成しました。引き続き、低炭素設備の導入や再生可能エネルギーの活用に取り組んでまいります。

 


 


 

なお、上記の表で記載しているCO2排出量情報については、欧州の非生産拠点の一部において2017年から再生可能エネルギーによる電力を購入していることが判明したため、「花王サステナビリティレポート 2022」に開示している「スコーブ2 CO2排出量の推移」の情報を一部更新して記載しております。

 

詳細については2024年5月に発行予定の「花王サステナビリティレポート 2024」を参照ください。

https://www.kao.com/jp/sustainability/pdf/sustainability-report/

 

(3)人的資本

「人」は会社にとって最大の資産です。中期経営計画「K27」の実現に向けて、メリハリのある人的資本投資を通じたグローバル・シャープトップな人財/組織運営を進めています。多様な人財一人ひとりが持つ無限の可能性を引き出し、その活力を組織として最大限に活かすことで、個人と企業がともに成長する環境と風土をつくります。

 

① ガバナンス

人財戦略に関しては、取締役会における経営視点での方針の議論を経て、経営トップを委員とする「人財企画委員会」にて具体的な課題や施策(重要な組織の新設・改編、主要ポジションの任免、人員・人件費に関する計画や重要な人事施策の新設・改廃等)に関する検討と決裁、進捗状況の共有を行っています。

また活動をグループ全体で推進するために、グローバル共通の仕組みを導入し、活用しています。たとえば、グローバル人財情報システムによる人財情報の活用、グローバル共通のOKR・等級制度・評価制度・教育体系・報酬ポリシーによる人財マネジメント・育成の強化等です。

これらの活動は、人財戦略部門統括を責任者とし、国内外グループ各社の人財開発部門と連携をとりながら進めています。

また、日本においては主要部門に人事機能を設置するとともに、現場の社員一人ひとりの育成とキャリア開発を担当するキャリア・コーディネーターを配置しています。

主要部門及び国内子会社の人財開発責任者による会議を定期的に開催し、当社グループ全体の人財開発の方針、国内子会社の活動状況等について共有・議論しています。

 

人財開発の推進体制


 

 

② 戦略

「平等から公平へ」、「相対から絶対へ」、「画一・形式から多様・自律へ」という3つの基本方針を掲げ、人財開発活動を進めています。

 

この方針に基づき「グローバル・シャープトップ」戦略のもと「よきモノづくり」をさらに進化させ、投資して強くなる事業への変革を図り、持続可能な社会に欠かせない企業になるために、その原動力となる人的資本に関しては、対話を軸として、より前を向くアグレッシブな人財への投資を進めています。「意欲ある人財をとがらせる」「脱マトリックス型組織運営」「挑戦・成果重視の環境創り」とその基盤となる「公平な機会の提供」を人財戦略として定め、グローバル・シャープトップな人財/組織運営の実現による社員活力の最大化に取り組んでいます。

 

経営戦略と連動した人財戦略


 

人財戦略全体像

 


 

それぞれの施策は都度効果を確認すると共に、社員エンゲージメントサーベイを定期的に実施することで社員意識の確認を行っています。2023年は、海外子会社も含めたグローバル規模での社員活力最大化に向けて、社員エンゲージメントサーベイの内容を大きく見直して実施しました。今後、各現場単位での結果確認・検証とそれに対応した改善への取り組みを積み重ねることで、長期目標達成につながる働きやすい仕事環境の実現をめざします。

 

a.意欲ある人財をとがらせる:先端教育

イノベーションの源泉となる高い専門性と創造性を持ち、花王ウェイをベースに多様性の理解・連携・協働を通じて当社グループのポテンシャルを最大限に発揮できる人財の育成を強化しています。自己啓発プログラムでは9,000を超える通学・通信教育・eラーニングがあり、いつでも、どこでも学べる機会を提供しています。また、製造業から「UX(顧客体験)創造企業」への変革をめざすために、社員に各種DXラーニングの機会を提供しています。2022年までは、各部門のデジタルリテラシーの高いコアメンバーを中心にDX教育を推進し、育成した約1,000人のシチズン・ディベロッパーが各部門で活躍しています。2023年秋からは「DXアドベンチャープログラム」を導入し、DX人財の裾野を当社グループ内の全社・全部門へと広げ、新しい価値づくりと、ビジネスプロセスの変革を加速させています。これにより、2027年度末までに累計で、全社DXリーダー150人、部門DX推進者300人、シチズン・ディベロッパー2,000人の育成を計画しています。

 

b.意欲ある人財をとがらせる:最適配置

当社グループでは、従来から能力・キャリア開発支援とキャリア・コーディネーター制度をベースに、社員の育成の方向性や本人のキャリア志向をふまえ、計画的に社員のローテーションを実施しています。これに加え2024年度からは、グローバル・シャープトップ実現に向けた新規事業やプロジェクトのメンバーを、広く当社グループ内から募る社内公募制を全社に拡大し、挑戦意欲を持ち変革を牽引する人財を該当組織やプロジェクトにタイムリーに結集させます。これにより、経営戦略実現のために必要な組織体制を強化するとともに、挑戦意欲のある社員が自らキャリアを形成できる機会を拡大し、自律的なキャリア開発に向けての組織風土を整えていきます。

 

c.脱マトリックス型組織運営:権限委譲

事業部門と機能部門の自由度を活かしたマトリックス体制を進化させて、優先されるタスクに関する目的達成の最速・最大化をめざした「スクラム型運営」を進めています。大きな組織で起こりやすいサイロ化や画一化を避け、決断実行の現場化を進めています。

 

d.脱マトリックス型組織運営:次世代リーダーの持続的育成

当社グループの不連続な成長の実現に向けて、変革や新たな価値創造を牽引するビジネスリーダーを計画的に育成し、サステナブルな組織運営の実現を進めています。シニアマネジメント・スペシャリストに当たる重要ポジションの将来の後任候補となる基幹人財をキャリアステージの早い段階から見出し、計画的で積極的な教育・配置任用・課題付与を行い、当社グループをリードする人財を育成しています。

 

e.挑戦・成果重視の環境創り:透明性のある評価

マネジメント層の成長を支援すると共に組織運営の透明性・信頼性向上を目的に、2024年から当社及び国内子会社において360度評価を導入します。上位職層からのみではない多方向からのフィードバックを得ることで、マネジメント層の社員がより客観的に自身の能力やリーダーシップの発揮度合いを確認し、能力開発につなげるとともに、マネジメント層の評価への透明性と信頼性を高めることをめざします。

 

f.挑戦・成果重視の環境創り:承認・処遇

多様な挑戦を認めることで、社員一人ひとりの成長を支援し、最大値を引き出すことを目指しています。

当社グループでは、各ポジションの役割責任を明確にし、年次ではなく社員一人ひとりの能力や適性に応じて配置・任用し、その役割の大きさに応じた挑戦と成果を適正に評価した上で処遇しています。

2022年に大きな目標を掲げ日々挑戦する社員に報いる制度として表彰制度をリニューアルしました。2023年はリニューアル前の過去5年間平均に比べて3.8倍の案件数、3.6倍の社員が表彰され、社員のさらなる挑戦と成長につながっています。

 

g.公平な機会の提供:対話の徹底

全ての施策において重要な要素となる対話の徹底に取り組んでいます。

経営戦略の実現に向け、現場牽引の要となるミドルマネジメント層に対しては、リーダーシップ力開発のための執行役員との対話型プログラム「KURUMAZA」を実施しています。多様な役員との直接対話により、経営戦略や方針を深く幅広く理解し、リーダーとしてより効果的にチームの活動を会社のめざす方向に結集できる力を育成すること、自分と異なる部門に在籍するミドルマネジメント層とのネットワークを構築し、イノベーションに向けた連携を加速すること、多様な参加者同士で対話し、目標達成のために違いを活かして新たな方向性を導き出す重要性を経験・認識することをめざしています。

対話の質の向上に向けては、対話マインド・対話スキル向上プログラム「対話フェス」を当社及び国内子会社で毎年実施し、自由闊達な組織風土の醸成を進めています。対話フェスでは、対話の重要性を周知しながら、対話スキルを高めるためのオンライン学習ツールやウェビナー、心理的安全性や企業理念である花王ウェイを学ぶためのワークショップなど、社員が自由に参加できるプログラムを提供しています。対話フェス参加者で自らの意識や行動・コミュニケーションが変化したと感じる人は60%。マネジャー層では70%となっています。

 

h.公平な機会の提供:OKR活用

社員の挑戦を活性化するための代表的な取り組みとして、2021年よりOKR(Objectives and Key Results)を導入しています。当社グループのOKRでは、「世の中をより良くするために、当社グループをより良い企業にするために、仕事を通して達成したいこと」について、「事業貢献」「ESG」「ワンチーム&マイドリーム」の3つの軸で、社員一人ひとりが自ら目標を掲げて取り組みを進めています。高く挑戦的な目標を設定すること、結果だけでなくプロセスを評価することで、社員エンゲージメントの向上を図るとともに、組織の前進につなげています。

OKRの導入率は、グローバル72%、国内90%となっています。当社グループ全社員は、システム上で各人のOKRを閲覧可能であり、同じ志を持った社員どうしが自由にコミュニケーションをとり、国や地域、仕事や立場を超え連携することができます。これにより、OKR達成に向けて必要な知識・能力の共有が加速され、ビジネススピードや、イノベーションを通じた生産性の向上につながっています。

2023年の社員意識調査によると、挑戦的な目標に向かって日々活動している社員は2022年に対して倍増しています。特に25%の社員は、周囲の協力を得ながら、着実に挑戦的な目標の実現をめざしており、自己の成長と組織の成長を両立させています。挑戦の解釈に悩んでいる42%の社員に向けては、部門長からの挑戦のかみ砕き発信、挑戦している事例の共有など、挑戦の自分ごと化を支援しています。

 

i.公平な機会の提供:DE&I

DE&I推進活動として、多様な人財一人ひとりが働きやすい環境の中で定着し、公平に機会を得るために必要な支援を行うとともに、一人ひとりが安心して自分の考えを発信し、健全な議論ができる組織風土の醸成に取り組んでいます。

 

〇 体制

人権・DE&Iステアリングコミッティが当社グループ横断で企業活動全体のDE&I推進活動を進めています。その中で社員に向けた活動については、当社の人財戦略部門の全組織が各種人事施策におけるDE&Iを推進すると共に、専任組織であるDE&I推進部が当社および国内子会社全体のDE&I推進活動を計画・実行しています。海外子会社については、現地のDE&I推進責任者が当社のDE&I推進部と連携しながら、それぞれの課題に合わせ各地域で活動を推進しています。

 

〇 花王グループDE&I方針の策定と浸透活動

当社グループグローバルでの議論を経て、ブランド、製品・サービスを通じた事業やすべての企業活動全体におけるDE&Iを進化し続けるため「DE&I方針」を策定し社内外に公開しました。併せて、DE&I方針について社員が理解を深め、実践に繋げるための教育・啓発施策を開始しています。

 

[ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(DE&I)方針]

私たちは、企業理念「花王ウェイ」と下記のダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンの定義に基づき、取り組みを進化させ続けます。原料開発から家庭用製品の提供まで多様な事業を展開し、人々の暮らしに真摯に向き合っている会社として私たちには、もっとできることがあり、取り組んでいくべきだと確信しています。

花王は、社員をはじめ、ビジネスパートナー、生活者を含むすべてのステークホルダーとさらに協働して、私たちのブランド、製品・サービスを通じた事業やすべての企業活動でダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンを実践し、誰もがありのままの姿で最大限の力を発揮できる、いきいきとした社会をめざします。

 

花王におけるダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンの定義

ダイバーシティ

ダイバーシティとは、個人、集団、コミュニティの間で異なる特性が存在するということ。一人ひとりの個性を尊重し、文化、国籍、宗教、信条、人種、民族、性別、性自認または性表現、性的指向、年齢、障がいのみならず、様々なライフスタイルや価値観を含むあらゆる形態のダイバーシティがあると認識します。

 

エクイティ

エクイティとは、誰一人取り残されることなく、ありのままの自分を活かせる環境を整えていくこと。社会や職場環境において、障壁となるものを取り除き、公平な機会を提供することなどを意味します。

 

インクルージョン

インクルージョンとは、一人ひとりが、尊重されている、かつ、自分の居場所があるという実感を持てていること。多様な人たちの関わり合いによって、様々な視点・アイディアが融合し、個人と組織やチームが最大限の力を発揮できている状態をさします。

 

DE&I方針の詳細については、以下を参照ください。

https://www.kao.com/jp/sustainability/walking-the-right-path/inclusive-diverse/dei/

 

〇 DE&I推進活動

<多様性を活かせる環境整備>

2024年より、人財構造改革の一環として、茅場町事業場のオフィス改革に着手しています。茅場町オフィス改革のコンセプトとして、「対話」によって「創造」を生み出す職場環境づくりを目指し、職種に応じて社員が活き活きと働ける職場づくりのため、出社率や業務内容に合致した公平な執務環境、共創スペース・談話室といった対話の場の拡大を行います。今後、建屋の老朽化等の状況や機能の将来的拡張等も考慮して優先順位を設定した上で、他の事業場(国内外)に拡大していきます。

新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に、在宅勤務制度に代表されるリモートワークなど働く場所や環境の多様化が定着しました。2023年からは社員間の対話と共創による創造性の発揮をより進めるために、画一的なルールではなく、職務や役割に応じて、それぞれに最適な働き方を推進しています。また、柔軟な働き方を進めるにあたり、在宅勤務における就労実態も可視化できるアプリケーション、SWS(Smart Work Support)を導入しました。これらを通じて、社員が安心しかつ能率的に働ける環境を整備しています。

 

<女性活躍推進>

最も多くの人財に関わり、当社グループの成長に不可欠なDiversity要素として、特に日本を中心に女性活躍推進活動を進めています。取締役会の女性比率を2025年までに30%にするという目標を掲げて改善を進めると共に、意思決定層における女性比率の向上をめざし、そのパイプラインを増やす取り組みとして、2030年までに女性管理職比率を女性社員比率と同じにするという目標をかかげ、3つの重点アクションに取り組んでいます。

 

[トップマネジメントの女性の状況]

 

2021年

2022年

2023年

2024年

男性

(人)

女性

(人)

女性比率

(%)

男性

(人)

女性

(人)

女性比率(%)

男性

(人)

女性

(人)

女性比率(%)

男性

(人)

女性

(人)

女性比率(%)

取締役 ※1

7 (3)

1 (1)

12.5

7 (2)

2 (2)

22.2

8 (3)

2 (2)

20.0

7 (3)

1 (1)

12.5

監査役 ※1

4 (3)

1 (0)

20.0

4 (3)

1 (0)

20.0

5 (3)

0 (0)

4 (2)

1 (1)

20.0

執行役員 ※2

26

2

7.1

27

3

10.0

26

4

13.3

27

4

12.9

 

※ 各年4月1日時点

※1 ()の数字は、全体人数のうち社外取締役、社外監査役の人数

※2 取締役兼務も含む

 

[女性の状況]

 

2022年

2023年

従業員
(%)

管理職
(%)

達成率
(%)

従業員
(%)

管理職
(%)

達成率
(%)

当社グループ

52.9

30.5

57.7

53.1

31.1

58.6

当社及び国内子会社

55.9

22.4

40.1

56.0

24.6

43.9

アジア

44.6

47.6

106.6

44.2

45.9

103.8

欧州

49.9

40.8

81.7

52.4

44.8

85.5

米州

51.2

53.3

104.2

53.0

48.6

91.7

 

※ 各年12月31日時点

※ 従業員は正規雇用の従業員及びフルタイムの無期化した非正規雇用の従業員を含む

※ 達成率は、女性社員比率に対する女性管理職比率の割合

 


 

その中で「意欲高く働くための育児両立支援」に関しては、従来、育児休職からの復職予定者を対象に実施していた仕事と育児の両立体制構築セミナーを、2023年より女性の長期間の育児休職取得により家庭での性別役割分業意識が根付いてしまう前の妊娠報告時に、男女ともに必修で受講する研修として内容を刷新しました。併せて、男性の育児参加を当たり前にすることをめざし、男女ともに取得を必須とする有給育児休暇を新設し、育児休職を取得しやすい環境整備を進めるとともに、育児休職の取得期限である子が1歳4月末より前に復職した社員には、よりフレキシブルな働き方を選択できる制度も導入し、社員が希望する時期に復職することを支援しています。

これらの取り組みの結果、2023年には男性社員の育児休職取得率は当社及び国内子会社で100.3%となっています。また、女性管理職比率は年々向上しており、2023年末時点で当社及び国内子会社の女性社員比率は56.0%、女性管理職比率は24.6%となっています。

 

女性活躍の一つの指標である男女の賃金格差は当社グループで87.0%となっています。当社グループでは、同じ役割であれば男女で賃金の差は設けていないため、この差は、主に日本において給与が高くなる傾向にある勤続年数の長い社員における男性比率が高いこと、また、給与の高い職群の社員における男性比率が高いことによるものと考えています。そのため、男女の賃金格差の解消の方針として、女性活躍推進の取り組みにより、女性の定着をさらに向上するとともに、管理職や上級管理職、役員の女性比率を女性社員比率に対して適正に上げることを実行していきます。

 

<多様性を組織の力にする風土醸成とスキル向上>

多様性を強みとし、対話を通じてチームで成果を上げる組織風土づくりに向け、心理的安全性とアンコンシャスバイアスを啓発の重点テーマとしています。2023年は、心理的安全性を組織に根付かせるために、e-ラーニング「心理的安全性の基礎知識」を当社及び国内子会社すべての管理職向け必修プログラムとして開始しました。また、e-ラーニング「アンコンシャスバイアスの基礎知識」のトライアル実施を行いました。

これらの取り組みの結果、社員エンゲージメントサーベイにおける「インクルーシブな組織風土」に関するスコアは62となっています。2027年にスコア70を目標として引き続き活動を展開します。

 

j.公平な機会の提供:健康開発

当社グループの事業活動の源泉は、いきいきとしたGENKIな社員であり、そのベースは社員の健康です。当社グループは、健康経営®を推進し、社員とその家族が健康支援を公平に受けられる機会を提供しています。また、社内外の健康基礎情報の解析とヘルスケア知見から生まれた商品やヘルスケアソリューションを自社の健康開発に取り入れ、社員と家族が参画する実践型の活動を進めています。自社の取り組みのうち優れた事例や知見については、地域・他の職域・生活者の皆さまに積極的に展開し、すこやかで心豊かな生活の実現を支援しています。また、「花王グループ健康宣言」を行い、企業として健康経営®に取り組むことを社内外に公表するとともに、健康中期計画「KAO健康2025」を設定し、取り組みを推進しています。

※ 「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

 

[花王グループ健康宣言]

私たちは、日々いきいきと
健康づくりに取り組むとともに
社内外のエビデンスに基づいた確かなヘルスケアを
社員・家族だけでなく
地域・職域・生活者のみなさまへ展開し
すこやかでこころ豊かな暮らしをともに実現していきます。

 

〇 健康中期計画 KAO健康2025

KAO健康2025では、一人ひとりのより良い状態の実現を通じて、ヘルスケア意識の高い社員と家族が、活気ある職場、社会づくりを推進していくことを目指します。主な取り組みとしての6つの取り組み(生活習慣病・がん・禁煙・メンタルヘルス・女性・シニア)に加え、治療と就業の両立支援や有害業務者管理とリスクアセスメントにも取り組んでいきます。また社員だけでなく家族や友人もともに参画できる健康づくりを提案していきます。

 

〇 組織体制

社内の健康経営®を推進するため、花王健康保険組合と健康開発推進部のコラボヘルスにより、健康施策の立案を行っています。また、事業場・支社には「健康実務責任者」及び「健康実務担当者」を配置し、産業医・看護職とともに担当エリアの健康施策に取り組んでいます。海外子会社へは日本の推進状況を情報共有したうえで、各国・地域の方針に沿った健康施策を推進しています。また、当社グループ内で取り組んだ優良事例を地域へも展開するためGENKIプロジェクトを設置し、社外向けの健康ソリューションの提供を行っています。

 

[組織体制]


 

 

③ リスク管理

会社の事業活動において、多様な人財が集い、一人ひとりが持てる能力と個性を最大限発揮できることが重要です。人財の流動性が高まる中、採用競争力が低下して計画通りの人財獲得が進まなくなること、社員の離職により組織の総合力が低下することが最大のリスクと考えています。社員に成長の機会を提供し、活躍しやすい環境を整えることで、リスク低減に努めています。

 

④ 指標と目標


※ 特に記載がない限り、当社グループで集計

※ 従業員は正規雇用の従業員及びフルタイムの無期化した非正規雇用の従業員を含む

※1 回答者数は当社グループの一部非正規雇用の従業員を含む 27,460人

※2 日本の連結対象会社のみ

※3 社員意識調査

※4 日本の連結対象会社のうち、伊野紙㈱含まず

 

3 【事業等のリスク】

(1)リスクと危機の管理体制

花王グループ中期経営計画「K27」では、基本方針として、1.持続可能な社会に欠かせない企業になる、2.投資して強くなる事業への変革、3.社員活力の最大化を掲げて取り組んでいます。詳細については「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」を参照ください。

気候変動をはじめとする環境問題や人権問題、高齢化社会の進行等の社会課題はますます深刻化するとともに、政治的・社会的情勢の不安定化に端を発する地政学リスクの継続等、事業環境は不透明な状況が続いています。また、事業がグローバルに拡大し、様々な分野で構造的変化が進む中、事業を取り巻くリスクの変化に迅速かつ適切に対応する必要があります。このような事業環境に対して、当社グループは、次のようなリスクと危機の管理を進めています。

リスクとは経営目標の達成や事業活動の遂行に対し、不確かさがもたらす影響のことです。内部統制委員会の下の関連委員会の一つであるリスク・危機管理委員会が、「リスク及び危機管理に関する基本方針」に基づいて、脅威をもたらす「リスク」並びにリスクが顕在化した状態である「危機」の管理体制と活動方針を定めています。そして、部門、子会社、関連会社は、この活動方針に基づいて、リスクを把握、評価し、対応策を策定、実行することでリスクを管理しています。また、危機発生時には、緊急事態のレベルに応じた対策組織を立ち上げ、迅速かつ適切に対応することで、被害、損害の最小化を図ります。リスクと危機の管理活動は、経営会議が定期的(年1回)及び適時確認し、取締役会が承認しています。内部統制委員会はリスクと危機の管理状況をモニタリングし、管理の有効性を確認しています。詳細については「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等」を参照ください。

持続的な利益ある成長と社会のサステナビリティへの貢献に悪影響を与えるリスクとして、特に重要な次の15の主要リスクを、リスク・危機管理委員会、経営会議の審議の下で選定しています。また、少なくとも四半期に一度、その時の事業環境の変化を踏まえた主要リスクの見直し(追加等の検討)を行っています。そして、これら主要リスクの中で、経営への影響が特に大きく、対応の強化が必要なリスクを「コーポレートリスク」としてテーマを決めて取り組んでいます。コーポレートリスクのテーマは、年1回、社内リスク調査の結果分析、外部環境の分析、経営幹部ヒアリングをもとに、リスク・危機管理委員会で検討を行い、経営会議でリスクテーマとリスクオーナー(各リスクテーマの責任者:執行役員)を決定しています。リスクオーナーは対策チームを立ち上げて検討を進め、年4回開催するリスク・危機管理委員会で進捗管理を行っています。

リスクと危機の管理活動のプロセス


これら主要リスクは、5年以内に顕在化する可能性があるリスクです。なお、主要リスクの記載順は重要性を反映しており、当連結会計年度末における認識です。記載されたリスク以外のリスクも存在し、それらが投資家の判断に影響を与える可能性があります。

 

(2)主要リスク

15の主要リスクのうち、「コーポレートリスク」として取り組んでいるものについて表示(〇)しています。また、主要リスクのリスク評価(影響・蓋然性の認識)の変化を対前期で三段階(上昇、状態が変わらない、低下)で示します。

 

主要リスクの名称

コーポレートリスク
としての取り組み

リスク評価の変化

原材料調達

 


社会課題への対応


地政学


大地震・自然災害・事故


製品等の品質


情報セキュリティ


レピュテーション


パンデミック


流通環境の変化

 


海外事業

 


事業投資

 


コンプライアンス

 


人財確保

 


為替変動

 


訴訟

 


 

 

リスク評価(影響、蓋然性の認識)の変化


:上昇


:状態が変わらない


:低下

 

 

原材料調達

 

(背景)

当社グループで使用している天然油脂や石油関連の原料の市場価格は、世界景気、地政学的リスク、需給バランス、異常気象、為替の変動等の影響を受けます。

また、原材料はパーム油や紙・パルプ等の自然資本に大きく依存しており、省資源、地球温暖化防止、生物多様性保全等の環境側面、安全・衛生、労働環境、人権等の社会側面に十分配慮し、持続可能な調達を実現することで、企業としての社会的責任を果たしていく必要があります。

 

(リスクと影響)

・原材料の市場価格に急激な変動が生じた場合、目標とする利益が得られない可能性があります。

・原材料には、調達上希少な原材料も一部含まれており、安定調達に関わるリスクがあります。需給の変動等による市況の急激な変化や、サプライヤーのトラブル発生により製品の市場への供給に支障をきたした場合、目標とする売上高、利益が得られないだけでなく、当社グループの信用の低下につながる可能性があります。

・サプライチェーン上の何らかの理由で、持続可能で責任ある調達への取り組みが不十分と見なされた場合、当社グループのブランドイメージ、信用の低下につながる可能性があります。

 

(対応)

当社グループは、原材料価格の上昇に対して、原価低減や売価への転嫁等の施策を行い、その影響の軽減を図っています。安定調達に関わるリスクに対しては、主力サプライヤーでの設備増強と、リスク分散のためのセカンドサプライヤーの育成を実施しています。また、サプライヤーとの契約見直しや協働を積極的に行い、リスク低減を進めています。

一方、持続可能で責任ある調達の実践に向けて、“お取引先とのESG推進活動”ガイドラインを公表し、サプライチェーン上での人権保護や環境保全の確認を進めています。特にリスクの高いサプライチェーンをハイリスクサプライチェーンと定義し、本質的な課題解決に向けて、サプライヤー並びにNGOとの連携の下、取り組んでいます。また、原材料の使用量削減や、非可食バイオマス由来の原材料等への転換にも取り組んでいます。

Sedexによるサプライヤーのモニタリング、サプライヤーのコンプライアンス違反ゼロに向けた監査体制の整備、CDPサプライチェーンプログラムの取り組み、また、“お取引先に求めるパートナーシップ要件”ガイドラインを定め、サプライヤーとの連携を強化しています。

ハイリスクサプライチェーンとして位置づけているパーム油の持続可能な調達を目指し、インドネシアの小規模農園に対し、「生産性向上と持続可能なパーム油に対する認証取得を支援するプログラム」を現地のパートナーと協働で実施しています。

これらの取り組みを積極的かつ透明性をもってステークホルダーに公開しています。

 

 

 

 

社会課題への対応

 

(背景)

気候変動、プラスチックごみ問題、水資源の枯渇、原材料調達に関する環境問題、サプライチェーン上の人権問題、そして、高齢化社会の進行や衛生等の社会課題の増大は、生活者の環境や健康等に対する意識を高め、エシカル消費の潮流やサステナビリティに対する顧客ニーズの高まりをもたらしています。

これら社会課題の解決に向けて、中期経営計画「K27」を実行するとともに、ESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」(KLP)を推進しています。原材料の調達から生産、製品の使用、廃棄に至るあらゆる段階でのイノベーションを目指すとともに、社会・環境の両視点から花王が優先的に取り組むべき19の重点取り組みテーマについて目標を設定し、全社全部門がそれぞれの役割の中で取り組んでいます。それらの推進並びに進捗管理を通じて、社会のサステナビリティへの貢献を目指すと同時に、活動内容を積極的にステークホルダーに開示しエンゲージメントをすることに努めています。

 

(リスクと影響)

・社会課題の解決に向けた取り組みが目標に対して不十分である、あるいは不十分と見なされた場合、製品やサービスを消費者や顧客に受け入れていただけず、目標とする売上高、市場シェアが得られない可能性があります。

・KLPでコミットメントしたKPIの進捗状況を十分に示せないと、「グリーンウォッシュ」※1と捉えられる等企業価値の低下につながる可能性があります。

・気候変動については、※2に記載している移行リスク(炭素税の導入・引き上げ、プラスチック規制の導入、原材料価格の上昇、生物多様性の保全)と物理的リスク(自然災害)があります。

・人権侵害や人権への配慮不足は、サプライチェーンの維持等の事業活動に支障をきたす可能性があります。

 

(対応)

KLPと事業のより一層の一体化を目指して、ESGコミッティのもとに、重点的に取り組むべきテーマを推進する4つのESGステアリングコミッティを2022年4月に発足させ、ガバナンス体制を強化しました。ESGステアリングコミッティは「脱炭素」「プラスチック包装容器」「人権・DE&I」「化学物質管理」からなり、各テーマごとに役員クラスの責任者を置き、それぞれのテーマに関する機会とリスクを社会・環境・事業インパクトの面から分析・把握し、計画を立案、推進することで、ESGよきモノづくりの実施を確実に行い、社会課題解決と事業成長の両立を目指します。

気候変動に関する対応は、上記ガバナンス体制の下で実施しており、各リスクへの対応策は、※2で示した移行リスクと物理的リスクの「花王グループの戦略」に記載しています。

人権侵害ゼロに向けて、サプライチェーン上のリスクアセスメントを定期的に実施して、リスクを把握し対応を進めるとともに、社員に対して人権問題に関する啓発を行っています。

また、コーポレートリスクとして、社会課題への取り組みに対するステークホルダー等の評価をグローバルで把握することで、レピュテーションリスクの低減に取り組んでいます。

 

 

※1 グリーンウォッシュ

企業が、製品やサービスについて、環境及びサステナビリティに関する特徴を誇張もしくは大げさに主張したり、それらに関する活動について十分な根拠なく訴求すること。

※2 詳細については「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2)気候変動への対応(TCFD提言への取組)」を参照ください。

 

地政学

 

(背景)

当社グループが事業展開している欧州や東アジアにおいて地政学リスクの高い状態が続いています。また、原材料調達を実施している国・地域においても地政学リスクが高まる可能性があります。

 

(リスクと影響)

地政学リスクの高まっている国・地域において、政治的・社会的情勢の不安定化、外交関係の緊迫化、そして、紛争等により、事業を取り巻く環境が悪化し、人的被害の発生、サプライチェーンの寸断による操業の一時停止、生活者の購買行動の変化が発生した場合、当社グループが目標とする売上高、利益が得られない可能性があります。

 

(対応)

地政学リスクの高まっている国・地域においてリスクシナリオを作成し、特に注意すべき国・地域に対しては、対応体制を整備し、政治的・社会的状況をモニタリングしています。社員の安全確保に関するガイドラインを策定し、また、原材料調達等のサプライチェーン寸断に伴う事業への影響を確認してサプライチェーンネットワークの強化を進めています。

なお、「地政学」は、コーポレートリスクとして取り組んでいます。

 

 

 

 

大地震・自然災害・事故

 

(背景)

化学プラントでの事故や、自然災害が多く発生している昨今、大規模化学プラントを有する企業への安全操業に対する要求はますます高まってきています。

 

(リスクと影響)

・大地震や気候変動に伴う大型台風、洪水等の自然災害により、従業員、設備、サプライチェーン等の被害で、市場への製品供給に大きな支障をきたした場合、経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

・当社グループの工場で、火災・爆発事故等により従業員や周辺地域に大きな被害が発生した場合、経営成績に重大な影響を及ぼすとともに、社会の信用を失う可能性があります。

 

(対応)

火災、爆発及び化学物質漏えいを防止し、安全で安定な操業を維持するために社内監査に加えて外部機関による定期的な評価を通じて保安力の強化に努めています。大地震、大型台風、洪水等を初めとする自然災害の発生を想定した対応体制の整備、設備対応並びに社員の教育・啓発、定期訓練を行い、緊急事態に備えています。

コーポレートリスクとして、日本の長期操業停止を想定した首都直下地震、南海トラフ地震、富士山噴火等に対する影響分析と対応検討を進めています。また、海外拠点のBCP強化に取り組んでいます。

 

 

 

製品等の品質

 

(背景)

当社グループの品質保証活動の基本は、「花王ウェイ」で示された消費者・顧客起点の心を込めた“よきモノづくり”です。原材料から研究開発、生産、輸送、販売までのすべての段階において、徹底した消費者・顧客視点で、高いレベルで製品の安全性を追求し、絶えざる品質向上に努めています。市場においては、消費者の品質価値の多様化、化学物質の安全性への懸念や環境問題への意識の高まり、さらには、企業の透明性を促す情報開示要求等の変化が起こっており、また、ボーダレス化の進展によるグローバルな商品流通が増加しています。そのような中、各国・地域は、持続可能な社会や消費者保護の強化を目指して、新たな法規制の枠組み作りに動き出しています。

一方、当社グループは、市場の多様化と価値観の変化を機会と捉え、新規技術開発に挑戦し、新規分野への事業展開も計画しています。

 

(リスクと影響)

・重大な品質問題の発生はブランドの問題だけではなく当社グループ全体の信用低下につながる可能性があり、また新たな安全性や環境問題の発生や各国・地域の急激な法規制の変更に対して適切かつ迅速に対応できない場合には、タイムリーな商品提供機会を失う可能性があります。

 

(対応)

当社グループでは、製品関連法規の遵守並びに自主的に設定した厳しい基準に従って、設計、製造を行っています。発売前の開発段階では、徹底的に試験、調査研究を行い、品質と安全性を確認しています。発売後には、消費者相談窓口を通じて、商品への意見、要望等をくみ上げ、さらなる品質向上に努めています。

化学物質の安全性懸念や環境問題に対する要求に先回りした商品開発の推進、積極的な情報開示による品質保証活動の見える化とステークホルダーとのコミュニケーション強化に取り組んでいます。さらには、各国・地域の新たな法規制に対する影響分析、法規制への適合性を迅速に確認できるシステムの構築に取り組んでいます。

また、コーポレートリスクとして、品質問題により重篤な被害が生じた場合に被害を最小化するための全社対応の強化と、重大品質問題発生防止に向けた社内啓発の強化を進めています。

 

 

 

情報セキュリティ

 

(背景)

当社グループは、ITを活用して事業や業務を効率的に進めるとともに、データを活用したビジネスを進めています。研究開発、生産、マーケティング、販売等に関する機密情報(トレードシークレット(TS))を保有し、また、販売促進活動、会員サイト運営やEコマースを進める上で、多くのお客様の個人情報を保有しています。

当社グループは、情報セキュリティポリシーのもと、TS・個人情報及びハードウェア・ソフトウェア・各種データファイル等の情報資産の保護を目的とした情報セキュリティの強化を図っています。

 

(リスクと影響)

・サイバー攻撃を含む意図的な行為や過失等により、機密情報や個人情報が外部に流出する可能性があります。また、サプライチェーン等の事業活動が一時的に中断する可能性があります。このような事象が発生した場合、信用の低下や、目標とする売上高、利益が得られない可能性があります。

 

(対応)

情報セキュリティの人的・組織的対策としては、日本と海外の情報セキュリティ委員会が花王グループ全体で規程や体制を整備し、PDCAサイクル(啓発活動、自己点検、改善目標の設定)によるTS・個人情報・情報セキュリティの保護推進活動を実施しています。また、SOC(Security Operation Center)の整備等のインシデント発生時の対応体制を強化しています。技術的対策としては、セキュリティ対策の戦略ロードマップを作成し、これに沿ってセキュリティ対策の強化を実施し、定期的に経営会議や監査役に報告を行っています。また、サプライチェーンのセキュリティリスクを把握するために過去にサードパーティ・ロジスティックス、サプライヤー、製造委託先のセキュリティ対策のヒアリングを実施しています。重大なインシデントに備えサイバー保険への加入も行っています。

新事業においても顧客・委託先・協業先等の取引先とTSや個人情報(RNA等の個人関連データを含む)の扱いについて契約で取決めを行い、さらに取扱いや運用のルールを作成し情報管理の徹底を図っています。

なお、「情報セキュリティ」は、コーポレートリスクとして取り組んでいます。

 

 

 

 

レピュテーション

 

(背景)

ソーシャルメディアの発展と普及は、個人による情報発信とその拡散を容易にし、生活者同士又は生活者と企業との多岐にわたる相互コミュニケーションを可能としました。ソーシャルメディアによる情報発信の中には企業に対する批判的な評価や評判も含まれており、それらが拡散されることで、ブランド価値や企業の信用が低下し、財務的、又は非財務的な損失を被る「レピュテーションリスク」の増加が懸念されています。

 

(リスクと影響)

・当社グループにおいても、ソーシャルメディアを用いた様々な情報発信やブランドのマーケティング活動は年々増加しており、それらの活動で使用された不適切、又は不用意な表現に対する批判的な評価等がSNS等を通じて拡散された場合、当社グループのブランド価値や企業の信用を著しく低下させる可能性があります。

 

(対応)

当社グループでは、ESGの観点を含め、広告の不適切表現を防止する対策として、事前チェック体制の整備と社内教育に取り組んでいます。また、国内外におけるソーシャルメディアのモニタリングを行い、早期のリスク発見にも努めており、事業及びブランドの活動に悪影響を及ぼすレピュテーションリスク事象が発生した場合は、迅速に対応すると同時に、必要に応じて適切なタイミングで、情報や企業姿勢を公表する等、当社グループのレピュテーション(評判・信用)の維持に努めています。

なお、「レピュテーション」は、コーポレートリスクとして取り組んでいます。

 

 

 

パンデミック

 

(背景)

新型コロナウイルス感染症は、病原性が低いとされるオミクロン株が主流となり、多くの人が自然感染あるいはワクチン接種で免疫を獲得したことによってエンデミック対応に移行しています。しかしながら、引き続き感染力の高い変異ウイルスの出現に注意が必要です。一方、人口増加や環境破壊による病原体を保有する動物とヒトとの接触頻度の増加による新たなウイルスによる感染症の流行、耐性菌による抗生物質が効かない感染症の再来等、新興再興感染症によるパンデミックの発生が危惧されています。

 

(リスクと影響)

・パンデミックが発生すると、当社グループの拠点やサプライチェーン上での集団感染の発生やロックダウン等により、製品やサービス提供に支障が生じる可能性があります。

・パンデミックにより外出等の日常生活ができなくなると購買行動にも変化をもたらし、化粧品市場等が縮小する可能性があります。

・このような事態が発生した場合、目標とする売上高、利益から大きな乖離が生じる可能性があります。

 

(対応)

新型コロナウイルス感染症への対応は、エンデミック対応に移行したため、緊急事態対策本部(本部長:代表取締役社長執行役員)を解散し、引き続き変異ウイルスの影響をモニタリングしています。

また、コーポレートリスクとして「パンデミック対応」に取り組み、新型コロナウイルス感染症へのこれまでの対応を踏まえて、次のパンデミックに備えて初動対応を強化するために、ガイドライン、行動計画、備蓄品等の見直しを進めています。

 

 

 

流通環境の変化

 

(背景)

デジタルツールの発展や普及とSNSの影響で、流通環境と購買行動は年々変化が見られます。大手Eコマース(EC)プラットフォームやメーカー直販ECでの購買行動の日常化に加え、ソーシャルコマース※1、ライブコマース※2といった新たなECチャネルも年々増加し、流通環境は一層多様化しています。また、リアル店舗とECのシームレスな購買(OMO※3)が進み、生活者はより利便性が高くパーソナライズされた購買体験を求めるようになりました。

物流に関しては、物量増に伴うドライバー不足やガソリン等燃料費の高騰によって、物流コストの増加が顕在化しており、また、働き方改革関連法に伴うドライバーの時間外労働の上限規制が、2024年から物流業界にも適用されることもあり、大きな環境変化が見込まれます。

 

(リスクと影響)

・流通環境と購買行動の多様化・複雑化に対し適切な販売・マーケティング活動を展開できない場合、目標とする売上高、市場シェア、利益が得られない可能性があります。

・物流環境の変化に適切に対応できない場合、配送の滞りや、物流コストの大幅な増加等、当社グループの事業活動にも影響を及ぼす可能性があります。

 

(対応)

こうした環境の変化を受け、当社グループではEC専業企業との取り組み、リアル流通とのOMOへの取り組みや自社によるライブコマースの推進等、生活者の購買行動変化への対応を進めています。また、SNS花王公式アカウント「花王トクトクニュース」の積極的な会員獲得を推進しており、2023年は380万人まで拡大しました。会員への情報発信やキャンペーンを通じた店頭への送客等を行い、流通業との共創を進めています。さらに、生活者と直接つながる双方向デジタルプラットフォーム「My Kao」を新たに立ち上げ、生活者に役立つ鮮度や信頼性の高い情報の発信や、利便性を重視した花王公式オンラインショップ、資源循環型社会の実現に貢献するアウトレットモールを運営しています。これら生活者とのダイレクトコミュニケーションを通じ、様々な流通環境の変化や多様な情報があふれる中でも、生活者にとっての利便性向上はもとより、花王に対する信頼性やロイヤリティ向上等につながる活動を進めています。

物流に関しては、国土交通省や経済産業省等が進める「ホワイト物流」推進運動に参加し、物流効率化や生産性向上に取り組んでいます。自社での取り組みに加え、流通業や他メーカー、物流事業者とも連携して、トラック待機時間削減等のドライバー作業環境改善、物流平準化、積載率向上等、持続可能な物流体制の構築を目指しています。

 

 

※1 ソーシャルコマース

SNSに商品を購入できる機能を追加した販売チャネルの1つ。

※2 ライブコマース

インターネットでの動画ライブ配信で商品紹介と物販を組み合わせた販売手法。

※3 OMO(Online Merges with Offline)

オンラインとオフラインの両者を融合させる販売戦略。

 

 

海外事業

 

(背景)

当社グループは、成長戦略のひとつとして海外事業展開を進めており、特に経済成長率が高く、市場規模が大きくなることが予想されるアジア等の強化を重視しています。

 

(リスクと影響)

・新型コロナウイルス感染症の影響以外にも、各国における経済成長の鈍化、政治的・社会的に不安定な情勢、急激な法規制・税制の変更、模倣品の氾濫、レピュテーションリスク等が発生する可能性があります。これらの影響により事業計画に大幅な遅れが生じた場合、目標とする売上高、利益が得られない可能性があります。

 

(対応)

当社グループでは、生産・販売国の経済・政治・社会的状況に加えて、事業に関連する各国法規制の情報を日々収集し、必要な対応を行っています。特に各国の環境関連規制の強化、製品の安全性・品質関連規制の強化、また、輸出入関連規制の変更の当社グループへの影響に注視しています。一方、模倣品等の知的財産権の侵害については、特にアジア地域を中心とした模倣品対策に注力しており、消費者・顧客に安心して製品を使用していただけるよう取り組んでいます。

 

 

「レピュテーション」を参照。

 

事業投資

 

(背景)

当社グループは、企業価値と相関関係の高いEVAによる投資判断のもと、事業成長やESGのために積極的な設備投資、M&A等を進めています。これら投資を今後も進めるとともに、継続的なEVA改善を通して企業価値の向上に努めていきます。

 

(リスクと影響)

・投資判断時に想定していなかった水準で、市場環境や経営環境が悪化し、計画との乖離等により期待される効果が生み出せない場合、設備投資により計上した有形固定資産や、M&Aにより計上したのれんや無形資産の減損処理により、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(対応)

当社グループは、重要な投資に対して、期待される効果が計画から大きく乖離していないかを四半期決算毎に確認し、経営会議で報告しています。乖離した場合には、関係部門が必要に応じて今後の方向性や業績改善のための対策を検討しています。

 

 

 

コンプライアンス

 

(背景)

事業活動を行う上で、製品の品質・安全性、知的財産、環境保全、保安防災、労働安全、化学物質管理、取引管理、情報開示等の法規制等に対する企業の取り組みの強化が求められています。

 

(リスクと影響)

・世界的競争が激化する中で、差別化、販売スケジュールや製品納期の遵守、業績目標達成等の圧力により不正リスクが高まることが懸念されます。

・コロナ禍を契機とした在宅勤務と出社を組み合わせた新しい働き方・ハイブリッドワークが当たり前となり、働く意識や働き方への希望はこれまで以上に個別・多様化の傾向を強くしており、ハラスメントや労務管理上のコンプライアンスリスクが増加する可能性があります。

・当社グループ及び委託先等が重篤なコンプライアンス違反を起こした場合は、当社グループの信用、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(対応)

当社グループは、「正道を歩む」(法と倫理に則って行動し、誠実で清廉な事業活動を行う)をコンプライアンスの原点と位置づけ、すべてのステークホルダーの支持と信頼にこたえていくための指針とし、行動規範である「花王ビジネスコンダクトガイドライン」の継続的な教育やコンプライアンス通報・相談への適切な対応等の活動を進めています。ハラスメントや労務管理上のコンプライアンスリスクについては、ケーススタディ等を通じて気づきを与えています。さらに、職場での相互理解を深めるための取り組みとして、対話促進活動「対話フェス」も行っています。また、重篤なコンプライアンスリスクの低減にフォーカスした活動として、事業に適用される法令遵守推進を計画的に実施し、特に重要な法令についてはその実施状況をコンプライアンス委員会がモニタリングしています。重篤なコンプライアンス違反を発見した場合、すぐに経営陣に報告され適切な対応を行えるよう、風通しの良い職場の実現を目指した活動を推進しています。

 

 

 

 

人財確保

 

(背景)

当社グループは、経営計画を実行する上で、多様な人財が挑戦・共創できる場の創出に努めています。しかし、グローバルでの競争激化により、企業には変化に柔軟に対応していく変革力が従来に増して求められています。また、個人のキャリアや働き方に対する価値観がこれまで以上に多様化し、社会全体で人財の流動化がより一層進んでいます。

 

(リスクと影響)

・大きな環境の変化を先取りし、各分野で必要とする高度な専門性を持つ人財や、変化を先導するリーダーとなる人財の獲得と育成が推進できない場合には、中期経営計画「K27」の遂行に影響を及ぼす可能性があります。

 

(対応)

当社グループで最も重要な資産は「人財」であるという認識のもと、社員活力の最大化に向けて、多様なバックグラウンドや専門性を持つ人財が、大きな挑戦と国や地域、組織を超えた共創により、能力と個性を最大限に発揮するための取り組みを推進しています。

多様な人財が集い、活躍できる場を整備(フレキシブルな働き方の推進、DE&I推進、社内公募制度等)することで、人財獲得においての優位性を維持できると考えております。また、自学共生の機会の提供(業務を通した経験の拡大、DX等の先端教育を自律的に学べるプログラムの導入等)や自律的なキャリア形成を促進することで社員のさらなる成長が期待できます。

これらの取り組みに加えて、持続的な成長を支える人財の配置・育成や効果的な組織運営について、経営トップをメンバーとする人財企画委員会で毎月議論し、推進しています。

 

 

 

為替変動

 

(背景)

為替相場の変動は、外国通貨建ての売上高や原材料の調達コストに影響を及ぼします。また、連結決算における在外連結子会社の財務諸表の円貨換算額にも影響を及ぼします。

 

(リスクと影響)

・当社グループの機能通貨である円に対して外貨の為替変動が想定以上となった場合、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(対応)

外国通貨建て取引については、外貨預金口座を通じての決済、為替予約や通貨スワップ等のデリバティブ取引により為替変動リスクをヘッジすることで、経営成績に与える影響を軽減しています。なお、投機的なデリバティブ取引は行っていません。また、主要通貨の変動と事業への影響をモニタリングし、適時、経営会議に報告しています。そして、必要に応じて経営陣指示のもと、関係部門は事業への影響を軽減する対策を検討しています。

 

 

 

訴訟

 

(背景)

当社グループは、グローバルで多岐にわたる事業展開をしており、様々な訴訟等を受ける可能性があります。

 

(リスクと影響)

・当連結会計年度において、当社グループに重要な影響を及ぼす訴訟等は提起されていません。しかしながら、訴訟等が提起された場合、その動向によっては、当社グループの信用、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(対応)

当社グループは、事業に関わる各種法令を遵守するとともに、安全・安心な製品の提供、知的財産権の適正な取得・使用、契約条件の明確化、相手方との協議の実施等により紛争の発生を未然に防ぐよう努めています。また、グローバルで、重要な訴訟の提起や状況に関する報告が迅速かつ確実になされる仕組みを構築するとともに、当社グループ各国の担当者及び弁護士事務所等と連携し、訴訟等に対応する体制を整備しています。

 

 

 

(3)主要リスクの中期経営計画「K27」との関連性

15の主要リスクのうち、「原材料調達」、「社会課題への対応」、「製品等の品質」、「流通環境の変化」、「海外事業」、「事業投資」、「人財確保」を中期経営計画「K27」との関連性が特に大きいリスクと認識して対応しています。

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、経営成績等)の状況の概要及び経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は、以下のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末において判断したものです。

 

(1)経営成績の分析

注:以下、「実質」とは為替変動の影響を除く増減率を表示しています。また、数量等には製品構成差を含んでいます。

  業績の評価及び、将来の予測に有用な情報を提供するため、非定常的な要因により一時的に発生した損益(事業撤退・縮小や資産の除売却から生じる損益等)を除いた利益を「コア利益」として、さらに化粧品のブランド統廃合による返品引当金は売上控除対象となるため、その影響を除いた売上高を「コア売上高」として表示します。なお、下記表内の営業利益以下の下段数値は、「コア利益」に基づいて算出しています。

 

売上高

(億円)

営業利益

(億円)

営業利益率

(%)

税引前利益

(億円)

当期利益

(億円)

親会社の
所有者に
帰属する
当期利益

(億円)

基本的
1株当たり
当期利益

(円)

2023年12月

15,326

600

3.9

638

462

439

94.37

1,147

7.5

1,185

883

860

184.95

2022年12月

15,511

1,101

7.1

1,158

877

860

183.28

増減率

(1.2)%

(45.5)%

(44.9)%

(47.4)%

(49.0)%

(48.5)%

実質(3.8)%

4.2 %

2.3 %

0.6 %

(0.1)%

0.9 %

 

 

当期は、世界中に様々な影響をもたらした新型コロナウイルス感染症が収束し、日常の生活を取り戻しましたが、一方で、成長が続いていた中国市場の減速、欧州や中東での地政学リスクやインフレによるコストの高止まり等、経営環境は不透明な状況が続きました。

 

当社グループの主要市場である日本のコンシューマープロダクツ(トイレタリー及び化粧品)市場は、小売店の販売実績や消費者購入調査データによると前期を上回りました。

このような中、花王グループは人々の生活様式や消費行動、販売チャネル構造の変化、さらには世界的な原材料価格の上昇等への対応に努めました。売上高は、前期に対して1.2%減1兆5,326億円(為替2.6%増、実質3.8%減(内訳:数量等3.6%減、価格0.1%減))となりましたコア売上高は、前期に対して0.7%減の1兆5,409億円(実質3.2%減)となりました。営業利益は、構造改革費用を547億円計上したことにより、600億円(対前期500億円減)、営業利益率は3.9%となりました。コア営業利益は、1,147億円(対前期46億円増)となりました。税引前利益は638億円(対前期520億円減)、当期利益は、462億円(対前期416億円減)となりました。

基本的1株当たり当期利益は94.37円となり、前期の183.28円より88.91円減少(前期比48.5%減)しました。基本的1株当たりコア当期利益は184.95円となり、前期の183.28円より1.67円増加(前期比0.9%増)しました。

当社グループが経営指標としているROIC(投下資本利益率)は4.1%となり、EVA(経済的付加価値)は、NOPAT(税引後営業利益)が増加する中、資本コストが増加し、前期を3億円上回り149億円となりました。

 

当期の海外連結子会社等の財務諸表項目(収益及び費用)の主な為替の換算レートは、次のとおりです。

 

第1四半期

(1-3月)

第2四半期

(4-6月)

第3四半期

(7-9月)

第4四半期

(10-12月)

米ドル

132.29

円[

116.30円]

137.30

円[

129.69円]

144.49

円[

138.27円]

147.84

円[

141.47円]

ユーロ

141.98

円[

130.45円]

149.50

円[

138.14円]

157.23

円[

139.25円]

159.01

円[

144.22円]

中国元

19.33

円[

18.32円]

19.58

円[

19.63円]

19.94

円[

20.20円]

20.45

円[

19.88円]

 

注:[ ]内は前期の換算レート

 

〔セグメント別の概況〕
セグメントの業績

 

売上高

営業利益(上段)

コア営業利益(下段)

通期

増減率

通期

増減

(億円)

2022年
12月期
(億円)

2023年
12月期
(億円)

(%)

実質
(%)

2022年

12月期

2023年

12月期

(億円)

利益率
(%)

(億円)

利益率
(%)

 

 

ファブリック&ホームケア製品

3,421

3,491

2.1

1.3

400

11.7

507

14.5

106

 

 

510

14.6

109

 

 

サニタリー製品

1,745

1,734

(0.6)

(2.6)

(94)

(5.4)

(306)

(17.6)

(212)

 

 

(91)

(5.2)

3

 

ハイジーン&リビングケア事業

5,165

5,225

1.2

0.0

307

5.9

201

3.9

(105)

 

419

8.0

112

 

ヘルス&ビューティケア事業

3,695

3,929

6.3

3.1

346

9.4

405

10.3

59

 

428

10.9

82

 

ライフケア事業

557

563

1.0

(0.6)

(0)

(0.0)

(53)

(9.4)

(53)

 

(13)

(2.3)

(13)

 

化粧品事業

2,515

2,386

(5.1)

(6.7)

141

5.6

(54)

(2.3)

(195)

 

53

2.2

(88)

コンシューマープロダクツ事業

11,933

12,103

1.4

(0.5)

793

6.6

499

4.1

(294)

887

7.3

94

ケミカル事業

4,025

3,661

(9.0)

(13.4)

295

7.3

236

6.4

(60)

248

6.8

(48)

小  計

15,958

15,764

(1.2)

(3.7)

1,089

735

(354)

1,135

46

セグメント間消去又は調整

(447)

(439)

12

(134)

注 (146)

12

0

合  計

15,511

15,326

(1.2)

(3.8)

1,101

7.1

600

3.9

(500)

1,147

7.5

46

 

注:全社共通の構造改革費用

 

 

販売実績

(億円、増減率%)

通期

日本

アジア

米州

欧州

合計

 

 

ファブリック&ホームケア製品

2022年

2,929

455

37

3,421

2023年

3,003

451

38

3,491

増減率

2.5

(0.9)

3.4

2.1

実質

2.5

(6.2)

0.9

1.3

サニタリー製品

2022年

774

970

1

1,745

2023年

804

929

1

1,734

増減率

3.9

(4.2)

(22.2)

(0.6)

実質

3.9

(7.7)

(23.9)

(2.6)

ハイジーン&リビングケア事業

2022年

3,703

1,425

37

5,165

2023年

3,807

1,380

38

5,225

増減率

2.8

(3.2)

2.9

1.2

実質

2.8

(7.2)

0.4

0.0

ヘルス&ビューティケア事業

2022年

2,002

339

906

449

3,695

2023年

2,053

345

1,012

519

3,929

増減率

2.5

2.0

11.6

15.7

6.3

実質

2.5

(2.3)

4.9

5.9

3.1

ライフケア事業

2022年

437

0

118

2

557

2023年

421

1

139

1

563

増減率

(3.7)

67.7

18.2

(11.3)

1.0

実質

(3.7)

64.4

11.0

(18.0)

(0.6)

化粧品事業

2022年

1,607

596

68

244

2,515

2023年

1,535

500

77

274

2,386

増減率

(4.5)

(16.0)

12.9

12.2

(5.1)

実質

(4.5)

(17.9)

5.9

2.5

(6.7)

コンシューマープロダクツ事業

2022年

7,750

2,360

1,129

694

11,933

2023年

7,817

2,226

1,266

794

12,103

増減率

0.9

(5.6)

12.1

14.4

1.4

実質

0.9

(9.2)

5.4

4.7

(0.5)

ケミカル事業

2022年

1,401

982

705

937

4,025

2023年

1,339

867

611

844

3,661

増減率

(4.5)

(11.7)

(13.3)

(9.9)

(9.0)

実質

(4.5)

(15.8)

(21.7)

(18.1)

(13.4)

セグメント間売上高の消去

2022年

(385)

(39)

(2)

(21)

(447)

2023年

(388)

(32)

(1)

(19)

(439)

売上高

2022年

8,766

3,302

1,833

1,610

15,511

2023年

8,768

3,062

1,877

1,620

15,326

増減率

0.0

(7.3)

2.4

0.6

(1.2)

実質

0.0

(11.0)

(5.0)

(8.3)

(3.8)

 

注:コンシューマープロダクツ事業は、外部顧客への売上高を記載しており、ケミカル事業ではコンシューマープロダクツ事業に対する売上高を含めています。地域別の売上高は、販売元の所在地に基づき分類しています。

 

売上高 対前年同期比分析

 

増減率

(%)

 

為替

(%)

実質

(%)

 

数量等
(%)

価格
(%)

 

 

ファブリック&ホームケア製品

2.1

0.7

1.3

(4.0)

5.3

 

 

サニタリー製品

(0.6)

2.0

(2.6)

(7.1)

4.5

 

ハイジーン&リビングケア事業

1.2

1.1

0.0

(5.0)

5.0

 

ヘルス&ビューティケア事業

6.3

3.2

3.1

1.1

2.0

 

ライフケア事業

1.0

1.5

(0.6)

(3.2)

2.6

 

化粧品事業

(5.1)

1.6

(6.7)

(7.3)

0.6

コンシューマープロダクツ事業

1.4

1.9

(0.5)

(3.5)

3.0

ケミカル事業

(9.0)

4.4

(13.4)

(3.8)

(9.6)

合  計

(1.2)

2.6

(3.8)

(3.6)

(0.1)

 

注:ケミカル事業の売上高は、セグメント間取引を含んでいます。

 

売上高に占める海外に所在する顧客への売上高の割合は、前期の45.4%から44.3%となりました。

 

 

コンシューマープロダクツ事業

売上高は、前期に対して1.4%増1兆2,103億円(為替1.9%増、実質0.5%減(内訳:数量等3.5%減、価格3.0%増))となりました。コア売上高は、前期に対して2.1%増の1兆2,187億円(実質0.2%増)となりました。

世界の市場は、新型コロナウイルス感染症の収束に伴い需要は回復傾向にありますが、これまで成長をけん引してきた中国市場は、景況感の悪化やALPS処理水の影響を受け減速しました。このような中、原材料価格の上昇に対応した戦略的値上げを継続的に推進したほか、高付加価値製品の提案やブランドロイヤリティ強化の取り組みにより収益性が向上しました。

以上の結果、日本の売上高は、前期に対して、0.9%増7,817億円となりました。コア売上高は、前期に対して1.9%増の7,900億円となりました。

アジアの売上高は、5.6%減2,226億円(実質9.2%減)となりました。米州の売上高は、12.1%増1,266億円(実質5.4%増)となり、欧州の売上高は、14.4%増794億円(実質4.7%増)となりました。

営業利益は、減損損失を含む構造改革費用388億円の計上の影響等により、499億円(対前期294億円減)となりました。コア営業利益は、戦略的値上げを実施し原材料価格の上昇を吸収したこと等により、887億円(対前期94億円増)となりました。

 

当社は、〔ハイジーン&リビングケア事業〕、〔ヘルス&ビューティケア事業〕、〔ライフケア事業〕、〔化粧品事業〕を総称して、コンシューマープロダクツ事業としております。

 

〔ハイジーン&リビングケア事業〕

売上高は、前期に対し1.2%増5,225億円(為替1.1%増、実質0.0%増(内訳:数量等5.0%減、価格5.0%増))となりました。

ファブリック&ホームケア製品の売上高は、前期に対して2.1%増3,491億円(為替0.7%増、実質1.3%増(内訳:数量等4.0%減、価格5.3%増)となりました。

ファブリックケア製品では、日本では、衣料用洗剤で戦略的値上げの実施と新製品・改良品の発売が寄与し、売り上げは市場伸長を上回り、シェアも拡大しました。また、下期に改良と値上げを実施した衣料用漂白剤「ワイドハイター」が好調に推移し、柔軟仕上げ剤は回復傾向にあります。

ホームケア製品の売り上げは、ほぼ前期並みでした。日本では、食器用洗剤「キュキュット」の改良等により、売り上げ、シェアを伸ばしたほか、新しいトイレ掃除を提案した「トイレマジックリン」の新製品が好調に推移しました。

ファブリック&ホームケア製品のコア営業利益は、510億円(対前期109億円増)となりました。

サニタリー製品の売上高は、前期に対して0.6%減1,734億円(為替2.0%増、実質2.6%減(内訳:数量等7.1%減、価格4.5%増)となりました。

生理用品「ロリエ」は、日本では共感型コミュニケーションによりロイヤルユーザーが増加すること等でブランド力が向上し、売り上げ、シェアが伸長しました。中国ではALPS処理水の影響で販売促進活動を抑制したことの影響を受けました。ベビー用紙おむつ「メリーズ」の売り上げは前期を下回りました。日本では、戦略的値上げを実施しましたが、中国向けの越境ECが苦戦し、売り上げは前期を下回りました。中国では市場縮小や厳しい競争環境により、売り上げは前期を下回りました。インドネシアは好調に推移しました。

また、2023年12月11日にエステー株式会社と猫用システムトイレ「ニャンとも清潔トイレ」に関する事業の譲渡契約を締結しました。

サニタリー製品のコア営業利益は、91億円(対前期3億円増)の損失となりました。

ハイジーン&リビングケア事業の営業利益は、ベビー用紙おむつ事業等で減損損失を含む構造改革費用を218億円計上し201億円(対前期105億円減)となり、コア営業利益は、ファブリック&ホームケア製品で、原材料価格の上昇に対して戦略的値上げを積極的に実施し、収益性が改善し419億円(対前期112億円増)となりました。

 

〔ヘルス&ビューティケア事業〕

売上高は、前期に対して6.3%増3,929億円(為替3.2%増、実質3.1%増(内訳:数量等1.1%増、価格2.0%増))となりました。

スキンケア製品の売り上げは前期を上回りました。日本では人流の回復に加え、猛暑に対応した「ビオレ」のUVケア製品等のシーズン品やメイク落としの新製品が貢献し、売り上げ、シェアともに伸長しました。米州では、売り上げは前期を上回りました。

なお、2023年11月にプレミアムスキンケアブランド「Bondi Sands(ボンダイサンズ)」を有するBondi Sands Australia Pty Ltdの買収を完了し、連結子会社としました。

ヘアケア製品の売り上げは伸長しました。日本では厳しい競争環境の中、「エッセンシャル」の新製品・改良品が順調に推移したほか、11月に発売した「ケープ」の新製品が貢献し、売り上げ、シェアともに伸ばしました。欧州では、売り上げは前期を上回りました。ヘアサロン向け製品は、米国の「ORIBE」が、Eコマースを中心に好調に推移しました。

パーソナルヘルス製品は、売り上げは前期並みでした。日本では、新しいマーケティング施策により「めぐりズム」の売り上げは伸長しましたが、入浴剤は市場縮小の影響を受けました。

営業利益は、構造改革費用を23億円計上し、405億円(対前期59億円増)となりました。コア営業利益は、428億円(対前期82億円増)となりました。

 

 

〔ライフケア事業〕

売上高は、前期に対して1.0%増563億円(為替1.5%増、実質0.6%減(内訳:数量等3.2%減、価格2.6%増))となりました。

業務用衛生製品の売り上げは、前期を上回りました。日本では外食産業や宿泊施設等で厨房用洗浄剤や客室消耗品の需要が高まりましたが、消毒剤の市場縮小により売り上げはほぼ横ばいでした。米国では対象業界の回復、新規顧客の獲得等で売り上げは前期を上回りました。

健康飲料は、特定保健用食品「ヘルシア」の売り上げは減少しました。

営業利益は、構造改革で原材料の評価減等を40億円計上したことにより、53億円(対前期53億円減)の損失となりました。コア営業利益は、13億円(対前期13億円減)の損失となりました。

 

〔化粧品事業〕

売上高は、前期に対して5.1%減2,386億円(為替1.6%増、実質6.7%減(内訳:数量等7.3%減、価格0.6%増))となりました。コア売上高は、前期に対して1.8%減の2,469億円(実質3.4%減)となりました。

日本では、構造改革による返品の計上や韓国のトラベルリテールにおける代理購買抑制等の影響を受け、売り上げは前期を下回りました。コア売上高は、「KANEBO」や「KATE」等のグローバル戦略ブランド「G11」が好調を維持し、前期を上回りました。中国の売り上げは、ALPS処理水の影響によりKOL(キー・オピニオン・リーダー)の活動自粛や販売促進活動の抑制等により大幅に前期を下回りました。欧州では、市場が低迷する中、「MOLTON BROWN」の新製品が順調に推移するとともに、「SENSAI」はリニューアルした新製品や既存品のプロモーションが奏功し、売り上げは前期を上回りました。

営業利益は、構造改革で返品引当金や原材料の処分等を107億円計上したことにより、54億円(対前期195億円減)の損失となりました。コア営業利益は、53億円(対前期88億円減)となりました。

 

ケミカル事業

売上高は、前期に対して9.0%減3,661億円(為替4.4%増、実質13.4%減(内訳:数量等3.8%減、価格9.6%減))となりました。

油脂製品では、天然油脂価格の下落に伴う販売価格の改定と海外における顧客の在庫調整の長期化が影響し、売り上げは減少しました。

機能材料製品は、コスト増に対する販売価格の改定が寄与しましたが、需要低迷の影響を受けた分野があり、売り上げは前期を下回りました。

情報材料製品では、ハードディスクや半導体関連分野の需要の低迷が続き、売り上げは減少しました。

営業利益は、景気回復の遅れに伴う需要の減少と油脂製品の利幅の縮小が影響、さらに構造改革費用を12億円計上したことにより236億円(対前期60億円減)となりました。コア営業利益は、248億円(対前期48億円減)となりました。

 

(2)財政状態の分析

(連結財政状態)

 

前連結会計年度

2022年12月末

当連結会計年度

2023年12月末

増減

資産合計(億円)

17,264

17,697

434

負債合計(億円)

7,310

7,577

267

資本合計(億円)

9,954

10,120

167

親会社所有者帰属持分比率

56.3%

55.6%

-

1株当たり親会社所有者帰属持分(円)

2,091.20

2,116.01

24.81

社債及び借入金(億円)

1,278

1,385

106

 

 

資産合計は、前期末に比べ434億円増加し、1兆7,697億円となりました。主な増加は、のれん270億円現金及び現金同等物234億円無形資産216億円であり、主な減少は、有形固定資産188億円棚卸資産146億円です。

負債合計は、前期末に比べ267億円増加し、7,577億円となりました。主な増加は、契約負債等128億円、引当金127億円、社債及び借入金106億円であり、主な減少は、リース負債125億円です。

資本合計は、前期末に比べ167億円増加し、1兆120億円となりました。主な増加は、当期利益462億円在外営業活動体の換算差額402億円であり、主な減少は、配当金702億円です。

なお、親会社所有者帰属持分比率は、前期末の56.3%から55.6%となりました。親会社所有者帰属持分当期利益率(ROE)は4.5%となりました。

 

 

(3)キャッシュ・フローの分析

(連結キャッシュ・フローの状況)

 

通期

増減

(億円)

2022年12月期

(億円)

2023年12月期

(億円)

営業活動によるキャッシュ・フロー

1,309

2,025

716

投資活動によるキャッシュ・フロー

(749)

(1,093)

(344)

フリー・キャッシュ・フロー(営業活動+投資活動)

560

932

372

財務活動によるキャッシュ・フロー

(1,393)

(800)

593

 

 

営業活動によるキャッシュ・フローは、2,025億円となりました。主な増加は、減価償却費及び償却費896億円税引前利益638億円、棚卸資産の増減額294億円減損損失217億円、営業債権及びその他の債権の増減額205億円、引当金の増減額125億円であり、主な減少は、法人所得税等の支払額246億円、営業債務及びその他の債務の増減額194億円です。

投資活動によるキャッシュ・フローは、△1,093億円となりました。主な内訳は、有形固定資産の取得による支出542億円企業結合による支出408億円無形資産の取得による支出123億円です。

営業活動によるキャッシュ・フローと投資活動によるキャッシュ・フローを合計したフリー・キャッシュ・フローは、932億円となりました。

財務活動によるキャッシュ・フローは、△800億円となりました。安定的かつ継続的な配当を重視しており、またEVA及びROIC視点から資本効率の向上を目的として、自己株式の取得及び消却も弾力的に行っています。当期の主な内訳は、非支配持分への支払いを含めた支払配当金703億円、リース負債の返済による支出214億円です。なお、2023年3月に借入金400億円を返済し、適正な資本コスト率の維持及び成長投資のための財務基盤の強化を目的に、同額の借り入れを行いました。その借り入れのうち200億円については、SPTs(サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット)の達成状況に応じて金利が変動するサステナビリティ・リンク・ローンを利用しています。また、社債の発行と償還を行い、その内訳は、社債の発行による収入249億円社債の償還による支出250億円です。発行した社債は、SPTsの達成状況に応じて利率が変動する、サステナビリティ・リンク・ボンドです。

当期末の現金及び現金同等物の残高は、為替変動による影響を含めて前期末に比べ234億円増加し、2,917億円となりました。

なお、構造改革に係る営業利益への影響額547億円のうち、当期支出した金額は25億円であり、次期以降、135億円の支出を見込んでいます。

 

(4)重要な会計方針及び見積り

当社の連結財務諸表は、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(昭和51年大蔵省令第28号。以下、「連結財務諸表規則」)第93条の規定により、国際会計基準(以下、「IFRS」)に準拠して作成しております。この連結財務諸表の作成にあたって、採用している重要な会計方針及び見積りについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表に関する注記事項 3.重要性がある会計方針」及び「4.重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断」に記載のとおりであります。

 

(5)資本の財源及び資金の流動性についての分析

使用権資産を含む重要な資本的支出の2024年度の予定額は、約900億円であり、主に当社グループ内の資金を有効活用する予定であります。なお、計画については「第3 設備の状況 3 設備の新設、除却等の計画」に記載のとおりであります。

 

(6)生産、受注及び販売の実績

当社グループの生産・販売品目は、産業界向けのケミカル製品から一般消費者向けのコンシューマー製品まで極めて多種多様であり、それら製品の在庫をほぼ一定の必要水準に保つように、主として見込み生産を行っております。従って、生産実績は販売実績に類似しております。生産及び販売の実績については、「(1) 経営成績の分析」に記載のとおりであります。

 

(7)経営成績に重要な影響を与える要因

経営成績に重要な影響を与える要因については、「3 事業等のリスク」に記載のとおりであります。

 

(8)経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標については、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」、達成状況は、「(1) 経営成績の分析」に記載のとおりであります。

 

 

5 【経営上の重要な契約等】

(1)株式譲渡契約

当社は、オーストラリアの子会社であるKao Australia Pty. Limitedを通じて、セルフタンニングや日やけ止め、スキンケア商品等をオーストラリア・英国・米国など32カ国を中心に展開するBondi Sands Hold Co Pty Ltdの全株式を取得する契約を2023年7月27日に締結し、2023年11月1日に取引を完了しました。

 

(2)合弁事業契約

国名

契約先

合弁会社名称

出資比率

※1

契約日

マレーシア

IOI Oleochemical Industries
Berhad

Fatty Chemical

(Malaysia) Sdn. Bhd.

70.0%

※2

1988年2月29日

インドネシア

PT Rodamas

PT Kao Indonesia

50.01%

1994年8月29日

 

※1 当連結会計年度末の出資比率を記載しております。

※2 出資比率は、間接出資比率であり、 Kao Singapore Private Limited(当社100%出資)が出資しております。

 

 

6 【研究開発活動】

私たちは、持続可能で豊かな共生世界を実現することを使命に、「未来のいのちを守る企業」として、人、社会、地球に貢献することを目指しております。研究開発部門では、多様な国や地域の生活者の様々な文化やニーズを理解し、独創的なシーズと組み合わせることにより、新たな価値や市場を創造する画期的な商品・技術の開発に取り組んでおります。

そのひとつの取り組みとして、皮脂RNAモニタリング技術※1を活用し、乳幼児の肌バリア状態を把握する郵送検査サービス「ベビウェルチェック」※2を協働企業と共に開始しました。あぶら取りフィルムを肌にあてて皮脂をふき取るだけという侵襲性のない方法で、自宅にいながらにして、皮脂RNAの情報から肌のバリア機能を知ることができ、肌状態に合ったケア情報を受け取れるサービスです。また、産学連携の研究の取り組みにおいても、乳幼児から成人までを対象に、アトピー性皮膚炎の早期発見や症状の評価への活用の可能性を見出しています。今後も、花王の独自技術を様々な分野の検査事業に応用し、新たな事業領域へ挑戦していきます。

また、既存事業の強化として、「ビオレUV アクアリッチ アクアプロテクトミスト」を発売し、UV製品における新たな価値を提案しました。霧のようなミストが肌を覆い、肌上で素早くジェル状に変化するため、“ぴたっ”と均一にムラなく肌に密着。使い勝手の良さから、外出先でのUVケア習慣という生活者の潜在的なニーズに応え、高く支持されました。私たちは今後も、既存の事業領域において、新たな価値創出を目指してまいります。

当社グループ全体で、約2,900名が研究開発業務に携わっております。

当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は、626億円(売上高比4.1%)であり、主な成果は、下記のとおりであります。

※1:肌表面から採取した皮脂中のRNAから、個人の違いだけでなく、加齢や疲労、病気等の体調の変化や、外的ストレスの影響を解析する技術。

※2:この検査は病気の診断をするものではありません。

 

コンシューマープロダクツ事業

〔ハイジーン&リビングケア事業〕

人々の生活スタイルや価値観の多様なニーズに応え、誰もが安心して快適に暮らせるための清潔・衛生商品を提供すべく、幅広い分野での研究開発を進めております。

ファブリックケア製品では、洗たく機にそのまま入れるだけで使えるスティック形状の衣料用粉末洗剤「アタック ZERO パーフェクトスティック」を新発売しました。洗浄・消臭・抗菌※1等の効果成分を凝縮した発泡パウダーが水に素早く溶け、前洗いなしでも頑固な皮脂汚れを落とすことを実現しました※2。環境面にも配慮し、ハードプラスチック本体容器を使用せず、全サイズをパウチ包装仕様にすることでプラスチック使用量(洗たく1回当たり)を削減しました※3

ホームケア製品では、トイレ用洗剤「トイレマジックリン」シリーズから「トイレマジックリン こすらずスッキリ泡パック」を新発売しました。へたらず垂れにくい吸着泡が便器内に密着することで汚れを取り込み、トイレブラシによるこすり洗いなしでも便器内をきれいに掃除できます※4

当事業に係る研究開発費は、160億円であります。

※1:すべての菌の増殖を抑制するわけではありません。

※2:汚れの程度によっては、落ち方がかわることがあります。

※3:水量30Lの場合。当社非濃縮液体洗剤本体容器と「アタック ZERO パーフェクトスティック」パウチ包装の比較で約64%削減。

※4:こびりついた汚れは落とせません。

 

 

〔ヘルス&ビューティケア事業〕

世界の人々の肌や髪を深く知るとともに、人が本来持っている健康力を生かしたQOL(Quality of Life:生活の質)の向上を目指した本質研究と、革新的な技術と品質によるユニークで付加価値の高い製品の提案をとおして、健康美と清潔衛生を実現する研究開発に取り組んでいます。

スキンケア製品では、「ビオレ」から、「ビオレ ザ クレンズ オイルメイク落とし」を新発売しました。製品をつけるだけでメイクが瞬時に浮くため、メイク落としに伴うストレスが低減され、素肌を健やかに保つことを目指します。

ヘアケア製品では、「エッセンシャル」の中核ライン「Essential THE BEAUTY(エッセンシャル ザビューティ)」から、「バリアシャンプー」、「バリアコンディショナー」と「うるツヤチャージヘアパック」の3品を新発売しました。シリーズ全品に、天然由来の美髪オイル「18-MEA OIL※1(毛髪保護)」を共通配合。雨の日や乾燥した日も、髪がしなやかに美しくまとまります。

パーソナルヘルス製品では、オーラルケアブランド「ピュオーラ」から、「PureOra36500(ピュオーラ サンロクゴマルマル)」シリーズを新発売しました。歯ぐきの抵抗力※2を強化するBGA※3を配合し、ハグキそのものを強くすることで、汚れや菌から歯ぐきを防御し歯周病※4を予防します。

当事業に係る研究開発費は、216億円であります。

※1:ラノリン脂肪酸。

※2:抗炎症作用で汚れや菌からハグキを防御する。

※3:抗炎症成分β-グリチルレチン酸。

※4:歯肉炎・歯周炎の総称。

 

〔ライフケア事業〕

高機能な製品開発と、モニタリング技術を活用した一人ひとりへの精度の高いソリューションの提供を目指し、心身の健康をサポートし、人々のウェルネスの向上につながる研究を進めています。

健康飲料の「ヘルシア」から、キリンホールディングス株式会社の免疫ケアブランド「キリン iMUSE」との共創により、「ヘルシア緑茶プラス 免疫ケア」を数量限定で発売しました。茶カテキンがBMIが高めの方の内臓脂肪を減らすのを助け、プラズマ乳酸菌(L. lactis strain Plasma)が健康な人の免疫機能の維持をサポートします。「内臓脂肪」と「免疫」の両方をケアすることの重要性も啓発し、人々の健康維持に貢献しました。

当事業に係る研究開発費は、24億円であります。

 

〔化粧品事業〕

世界の人々の肌を深く知る本質研究による確かなエビデンスと五感に訴える感性研究を融合して、新しい美の価値創造を目指しております。

カウンセリング化粧品では、「KANEBO」から、美容液ファンデ―ション「カネボウ コンフォートスキン ウェア」を新発売しました。化粧持ちのよさと塗膜のしなやかさを両立し、心地よい使用感で、ふんわりと明るい素肌を表現します。

「エスト」では、「エスト セラム ワン」をリニューアルし、シワ改善とシミ予防※1をする、炭酸※2の泡の美容液「エスト セラム ワン アドバンスド」を新発売しました。花王独自の炭酸※2泡技術を採用し、超微細なマイクロ炭酸※2の泡の美容液が肌に密着し、角層最深部まで浸透します。さらに、有効成分ナイアシンアミド配合で、シワ改善とシミ予防※1を可能にしました。

当事業に係る研究開発費は、113億円であります。

※1:メラニンの生成を抑え、シミ・ソバカスを防ぐ。

※2:炭酸ガス(噴射剤)。

 

ケミカル事業

油脂科学、界面科学、高分子科学等における研究開発の成果をさらに深化させ、幅広い産業界の多様なニーズに対応した特徴あるケミカル製品を提供すべく、研究開発に取り組んでおります。

油脂製品では、オレオケミカルや三級アミンにおいて独自の触媒・プロセス技術開発を進めており、機能材料製品では、環境負荷低減に対応した付加価値製品の開発を進めております。そのひとつとして、廃棄されるPET素材を原料に活用したアスファルト改質剤「ニュートラック 6000SMA」を新発売しました。アスファルト舗装では、アスファルトと骨材※1の間に隙間(空隙)が生じることがあります。積雪寒冷地においては、空隙があると内部に浸入した水が凍結融解し、体積の変化が繰り返されることで穴(ポットホール)が発生しやすくなります。この道路課題に対し、骨材とアスファルトの密着性を高めることで、舗装の空隙抑制と耐久性向上を可能にしました。

また、バイオマス由来のセルロースナノファイバー(Cellulose Nano Fiber)を用いた複合材料「LUNAFLEX」は、プラスチック製品の物性を向上させ、資源の効率的利用に大きく貢献します。

情報材料製品では、ポリマー設計技術を駆使した超低温定着ケミカルトナー(LUNATONE)や独自開発のVOCレス設計※2の水性インクジェット用顔料インク(LUNAJET)で印刷分野でのさらなる展開を強化していきます。

当事業に係る研究開発費は、115億円であります。

※1:道路舗装の材料としてアスファルトとともに使用される砂利や砂。

※2:印刷工程において排出されるVOC(volatile organic compounds:揮発性有機化合物)が(炭素換算で)700ppmC以下のものをVOCレスと定義。改正大気汚染防止法(平成18年)により、VOC排出規制が実施されております。