第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

当社グループは、2023年1月からの3年間を対象とした中期経営計画を策定しました。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものです。

 

(1) 経営の基本方針 (経営理念)

ローランド・グループの経営理念は、以下の3つのスローガンに集約されています。これらは、ローランド・グループが何のために存在し、どのような企業であろうとしているのかを表した、創業時から変わらない考え方です。

 

- 創造の喜びを世界にひろめよう

- BIGGESTよりBESTになろう

- 共感を呼ぶ企業にしよう

 

「創造の喜びを世界にひろめよう」

いつでも、誰でも、どこにいても、自分にあった音や映像の楽しみ方に一人でも多くの人がめぐり合える。そんなワクワクする世界の実現を、私たちは目指します。新たな作品を創りだす喜び、仲間たちと楽器を演奏する時の充実感、そして、それを多くの人と分かち合うひととき―無限に拡がる喜びの可能性を、追求し続けます。

 

「BIGGESTよりBESTになろう」

お客様一人ひとりにとって、常にBESTで特別な企業であること。私たちはそのためにたゆまず努力し、最善を尽くします。日々成長し続け、お客様の想いにこたえる。そしてまた、新たな夢や期待を寄せていただく。そんな信頼関係を大切にしていきます。

 

「共感を呼ぶ企業にしよう」

私たちは、支えていただいているお客様、取引先様、そして株主様など多くの方々に愛され、応援される企業を目指します。新しい価値を創り出す中においてもこうした方々の信頼を決して裏切らず、事業活動をよりよく理解していただく。そうして皆様からの共感を力にかえ、すべてのステークホルダーにとっての事業価値を持続的に向上させていきます。

 

(2) 事業環境・重要課題認識

当社グループの属する世界楽器市場は、海外市場を成長ドライバーとして、概ね1%〜3%程度の安定的な成長を続けてきましたが、近年では、新型コロナウイルス感染症の世界的な蔓延に端を発した不透明感の強い事業環境が続いています。需要面では、Stay at Home需要により、いずれのカテゴリーにおいてもコロナ前より一段切りあがった需要が生み出されましたが、電子ピアノにおいては急激に拡大した需要からの反動減も見られます。また、成長市場であった中国においては、新型コロナウィルス感染症や児童教育に関する政策影響からの回復に想定以上の時間を要しています。これに対し、供給面における各種原材料の調達や生産、物流などへの制約とその後の挽回生産による供給過剰が需要バランスの崩れに繋がり、市場在庫の調整が継続している状況です。

これらの不透明感の強い事業環境は世界楽器市場の成長にも影響するものの、長期安定成長を続けている楽器市場においては一時的であり、調整局面が落ち着く2025年からは再び成長軌道に回帰すると考えられます。新型コロナウィルス感染症の世界的な蔓延をきっかけとした新しいライフスタイルの定着は、余暇時間で楽器演奏に挑戦する方、楽器演奏を再開される方の増加に繋がりました。加えてSNSやWeb配信の普及により、音楽は「聴く」だけのものから「創る」ものへと変化を遂げています。このような市場の変化は、いつでもどこでも一人でも気軽に演奏を始められる、さまざまな楽しみ方が広がる電子楽器にとって、重要な成長機会になると期待されます。

 

 

 

 

(3) 中期経営計画2023-2025

<長期ビジョン>

The World Leader in Music Creation

〜音楽創造分野において世界的リーダーとなる〜

 

<中期経営計画ターゲット>

Create Fans For Life!

〜生涯にわたるファンを生み出し、より多くの音楽

 愛好家に愛されるブランドになる〜

 


 

 

<中期経営計画2023-2025基本方針と主要施策>

① 需要創造:Game Changerによる市場創造と潜在顧客へのアプローチ

Game Changer製品・サービス・新製品による市場創造

前中計に引き続き、Game Changer製品による新たな市場創造を目指します。eスポーツやポータブル・キーボードなどのポテンシャル市場への新製品投入、Drum Workshop社(以下DW社)との技術シナジー創出など、当社ならではの付加価値の高いGame Changer製品の開発を積極的に推し進めます。また、新製品割合を2025年には全体の約1/4を占めるまでに高め、不確実な環境下でも売上と利益を創出します。

潜在的な顧客獲得によるビジネス拡大(ピアノ・ドラム)

<ピアノ>

新しく楽器を始めるエントリー層に向けて、新規チャネルの開拓と購入しやすいモデルの拡大を行います。また、さらなる楽器としての機能の向上や、デザイン性の向上により、アコースティックピアノユーザーを含む多くの方々に満足いただけるような楽器を生み出します。

<ドラム>

DW社とのシナジー創出を本格化し、既存の各ドラム市場(電子、アコースティック)の拡大だけではなく、両者が相まったハイブリッド市場をさらに拡大します。さらに、Roland Cloudから、ピアノ、ドラムの演奏を楽しむためのコンテンツやサービスを提供します。

 

② シェア拡大:ポータブル・キーボード市場への再参入と新興国での販売拡大、Roland Retailによるシェア拡大

当社にとっての新市場への挑戦と、新興国での販売拡大

<ポータブル・キーボード>

大きな市場でありながら、当社にとって未開拓市場であるポータブル・キーボード市場に本格的に再参入し、製品拡充とRoland Cloudによる差別化を図ります。

<新興国>

膨大な人口増を背景に中間層の購買力増加が続く中国・インド・インドネシアを注力市場と定め、販売体制を整えることでシェアを拡大します。

Roland Retailの強化により、顧客接点の“質”と“量”を向上

世界の主要都市に設置するRoland Direct Store、販売店様店舗における当社専用の販売スペースであるStore in Store、そしてRoland Direct ECなどの販売チャネルを通じて顧客と当社が直接つながり、接点の質、量の向上に取り組みます。

 

③ LTV(ライフタイムバリュー)向上:音楽を生涯楽しんでいただくための仕組みづくり

Roland Cloud:「いつでも、どこでも、誰でも」楽しめる、パーソナライズされた体験サービスへ

クラウド型音源サービスRoland Cloudは、サービスを通して生涯顧客を生み出す仕掛けに進化します。現中計期間では、対象楽器の拡大やラーニングやストリーミングに対応したサービスをRoland Cloud上で提供し、さらなる付加価値向上に取り組みます。

Roland Platform:

顧客理解により、製品やサービスを充実させ、マーケティングを最適化するための強力なエンジン

顧客データの一元管理を行うRoland Platformを起点にして、当社による顧客の理解、製品やサービスの充実化、マーケティングを通した顧客とのコミュニケーション向上を行います。Roland Platformを介して顧客とローランドが繋がることで、顧客ごとに最適化された新しい音楽体験を生み出していきます。

ブランディングの強化:ブランド認知度向上により、より多くの音楽愛好家に愛されるブランドになる

さまざまなデジタルツールの活用やアーティスト、インフルエンサーとの関係強化などのマーケットコミュニケーションの強化により、当社のブランドストーリーを伝える活動を強化します。

 

④ 基盤強化:長期ビジョン実現に向けた人的資源活性化とインフラ投資

グローバル人事

グローバルでの適材適所の人材配置や、株式報酬制度のグローバル展開といった人事体制の拡充に努め、人と組織の活性化を行います。

基盤強化

ビジネスのさらなる拡大に向けた基幹システム更新や事業所再編、本社と海外子会社の連携強化など当社の成長を支えるインフラへの投資を加速します。

サプライチェーンの高度化

販売機会ロスの低減やリードタイム短縮、オートメーションの推進・新システム導入によるアジリティ強化に取り組みます。また、中長期では、DW社との生産拠点の相互活用や技術の融合、半製品の共通化などの推進により、生産能力と生産技術の向上、利益改善に取り組みます。

 

⑤ 財務目標

 


 

 

 

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社グループは、ESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)の視点に代表される「サステナビリティ(持続可能性)」への取り組みにあたり、以下の認識のもと、環境・社会を含むすべてのステークホルダーの期待に応え、事業成長にもつながるテーマを中心に重要課題を整理しました。<5つの活動指針>で示すとおり一貫した「姿勢」で「意識」「実践」「開示」を一連のものとして課題対応を進め、取締役会が定期的な報告を受けてその状況を「監督」し、必要に応じて助言と支援を行います。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 

(1) サステナビリティの取組

当社の事業は、音楽・映像文化を通じて社会の持続的発展に貢献している一方で、環境や社会全体の安定と豊かさのもとに成り立っています。そして気候変動や人権などのさまざまな課題に真摯に向き合い、その解決に貢献することは企業としての重要な責務であると認識しています。

環境・社会の安定や持続性が損なわれ、音楽・映像文化や当社事業が存続しえなくなる負の連鎖を避けるため、それぞれのサステナビリティを高め合う好循環を生み出す活動を、経営の重要課題に位置付け、取り組んでいます。

 

 

 


 

(2) 活動指針

当社グループでは、以下の活動指針を定め、音楽・映像文化の発展のために「創造」の価値を提供し続け、全ステークホルダーから「共感」いただける取り組みを通じて、地球環境・社会の課題解決と事業成長の両立に「BEST」を尽くします。

 

<5つの活動指針>


 

(3) 重要課題

重要課題及びSDGsターゲットとの関連

中期経営計画2023-2025における重点施策

サプライチェーン・マネジメントの高度化

 

 

 


 

・事業効率の改善

輸送・配送での経路・積載の効率化とCO2排出量削減

事業所効率化や再エネ活用による自社排出CO2の極小化

・取引先との関係強化

人権保護及びCO2排出量削減の意識共有と協業推進

部材不足等の非常時でのレジリエンス強化

音楽・映像文化の発展支援

 

 


・当社ならではの活動による文化・業界の振興

デジタルマーケティング活用、機会・体験の提供

協賛・支援を通じた新興市場での繋がり強化

・製品による環境・社会配慮

企画・設計による環境負荷低減やアクセシビリティ向上

人材の活力、能力発揮の最大化

 


・グループ人材活用

人材の育成・適正配置、報酬体系のグローバル管理推進

・従業員エンゲージメント向上

組織受容力(職場環境・ダイバーシティ等)の強化

成長(無形資産)への投資

 

 


・次世代の製品基礎開発

楽器性能向上のための継続的な開発投資

・Roland Platformの実現

サービスや顧客情報基盤の整備・拡大

・Roland Cloudのサービス拡大

ガバナンスのたゆみない強化

 

 


・構造改革で獲得した強みの内部進化

取締役会、執行体制の実効性向上

リスク管理・コンプライアンスのさらなる強化

・情報可視化の発展

事業判断・情報開示の精度向上

非財務情報の開示推進

 

 

(4) 気候変動への対応(TCFD提言に沿った情報開示)

当社グループは、地球温暖化に伴う異常気象や災害の発生などの現象は、経済的損失につながるだけでなく、人類の文化的な営みや生活様態にまで深刻な影響を与える可能性があることを認識しています。人々が安心して暮らし、音楽・映像をはじめとした芸術文化が育まれる社会環境を維持するために、CO2排出量削減につながる貢献策や事業活動の効率化に取り組んでいます。

また、気候変動によって生じる当社事業に対するリスクや機会を適切に評価し対応を進め、TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候変動関連財務情報開示タスクフォース)のフレームワークに沿って、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標及び目標」の4つの観点から、その状況を開示していきます。

 

ガバナンス

サステナビリティを巡る課題全般への対応として、取締役会がサステナビリティ基本方針と特定した重要課題を承認し、その取り組みの状況について定期的に報告を受けて監督する体制を定めています。気候変動問題を含む主要課題への取り組みはテーマ別の分科会で企画・実行され、社長を含む全執行役員で構成する「サステナビリティ推進委員会」がその推進状況を確認・協議することで、それぞれの執行部門への的確な指示と取締役会への定期報告の両方を担保する体制としています。ガバナンス体制については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等(1)コーポレート・ガバナンスの概要 企業統治の模式図」に記載のとおりです。

 

戦略

IPCC(気候変動政府間パネル)やIEA(国際エネルギー機関)等が発行する報告書における複数のシナリオを参照し、以下の2つの対照的なシナリオを用いました。その想定から、当社事業に対する気候変動のリスクと機会について一定程度の発生可能性(確信度)が見込まれるものを特定し、それが顕在化する時期と財務影響を評価しました。

 

・ 1.5℃シナリオ:パリ協定での合意を踏まえ、脱炭素への取り組みが世界的に最も進む想定

- 産業構造やエネルギー政策が大幅に転換する過程で規制等が増加する「移行リスク」が高まる可能性があります。

- 当社事業は産業構造の転換や活動規制の影響は受けにくいものの、炭素税や排出権取引などのカーボンプライシングが企業全般を対象として導入された際には、その影響を受ける可能性があります。

 

・ 4℃シナリオ:世界的に気候変動対策が十分に進展せず、現構造のまま経済活動が継続される想定

- 気候変動が進行し自然環境の変化や災害が増加する「物理的リスク」が高まる可能性があります。

- 当社事業は自然資源(水や無垢木材)の使用は少なくその影響は受けないものの、突発的な自然災害によって事業の操業に影響を受ける可能性があります。しかし慢性的な影響までは見込んでいません。

 

 

<特定した気候変動リスク/機会の評価>

区分

特定したリスク/

機会

顕在

時期

(注)1

財務

影響

(注)2

想定する状況とその対応

移行

リスク

(1.5℃シナリオ)

カーボンプライシング導入による対応コストの増加

長期

<想定>

本社を中心に炭素税や排出権取引などの規制が課されるが、CO2の直接排出量(スコープ1)と間接排出量(スコープ2)が対象となる場合は、当社排出量に比例しその影響は小さい
<対応>

事業の省エネ化を進めるとともに、CO2排出量をオフセットする対応を実施

規制強化に伴う

原材料の値上り

長期

<想定>

他社に課されたカーボンプライシング等の規制コストが、鉄鋼などの用途が広範な素材や代替が難しい部材に転嫁される場合に、仕入コストの上昇影響は小さくない
<対応>

取引先との関係強化を通じてGHG排出量削減を働きかけ協業することでコスト安定化を図るとともに、設計部門と調達部門が連携して業界動向を注視することで早期の代替着手等の予防も講じる

物理的

リスク

(4℃シナリオ)

急激な自然災害

による事業操業

度の低下

中期

<想定>

主要生産拠点であるマレーシアにおいて大雨洪水が発生し、事業所浸水、部品供給路の寸断、労働者の移動制限等で1か月以上にわたり生産・出荷が停滞すれば、小さくない逸失利益が生じる
<対応>

工場において柔軟な製造ライン移設や生産計画の組み換えを想定した事業継続計画を整備するとともに、製品と部材の特性に応じた安全在庫運用により影響の吸収を図る

機会

消費者の生活

様式や消費動向

の変化

長期

<想定>

気温上昇に伴い消費者の屋外活動が制限され屋内での余暇時間が増えることで、音楽・映像の演奏や創作の楽しみを提供する当社製品に対する需要が増える
<対応>

新たな顧客層が気軽で簡単に楽しめる製品・サービスを充実するとともに、付加価値を持続的に提供することでファン層を拡大する

 

(注)1. 「短期」は1年以内、「中期」は5年以内、「長期」は5年超としています。

2. 単年度で5億円±2億円の損益影響を「中」程度とし、その上下をそれぞれ「大」「小」としています。

 

リスク管理

当社事業を取り巻く様々なリスクに対し的確な管理・実践を行うために、定期的に子会社を含むグループ全体より潜在リスク情報を集約し、社長がリスク管理責任者として委員長を務める「リスク管理・コンプライアンス委員会」においてその影響の重要度と対応方針を評価しています。また当委員会で評価されたリスクの内容は定期的に取締役会に報告されています。

気候変動で生じる移行リスクや物理的リスクについては、発生事象や対応策が既知の事業リスクと共通する点も多いため、上記の全社的リスク管理プロセスに統合する運用を行っています。

 

指標及び目標

当社グループでは2021年度よりCO2排出量の算定を行っており、その結果を以下の当社ホームページにて公開しています。

https://www.roland.com/jp/sustainability/environment/

 

主力となる当社の電子楽器は総じて省電力であり、お客様の要望や環境への貢献を念頭に更なる使用電力低減に継続的に取り組んでいます。また、日本、マレーシア、中国にある自社工場は大量の電力を必要としない組立工程が中心であり、さらに非化石価値を利用することで、スコープ2に相当するCO2の排出量を大幅に低減しています。サプライチェーン全体においては、自社だけでなく取引先も含めたCO2排出量削減や再生可能エネルギーの活用を着実に進めていきます。

 

現在計画している新本社社屋については、既存の建物を再利用することで、建設・解体時に発生するCO2排出量を大きく減らすことが可能であり、新築する場合に比べ約60%の削減効果が見込めます(当社推定)。

 

当社グループが責任をもって上述の取り組みを実行するために、CO2排出量算定の精度向上と要因の分析を行い、2050年のカーボンニュートラルを意識したうえで、明確な根拠に基づく「指標及び目標」を設定していきます。

 

(5) 人的資本経営への取組

ガバナンス

当社グループは、人事戦略をグループレベルで策定・実行・牽引するためにCHRO(Chief Human Resource Officer)を設置しています。CHROは、国内外における「従業員エンゲージメント」「生産性」「各種指標」の動向を常に確認しつつ、国内人事部門及び海外人事部門との定例会議により全社の状況を把握し、必要に応じて指示及びアドバイスを行っています。また、重要な人事案件は執行役員会で討議し、人事政策の見直しを図っています。

なお、役員の選解任及び報酬制度・報酬金額については、指名報酬委員会での討議を経て取締役会へ上程しています。
 

戦略

<経営戦略と人的資本戦略>

当社グループでは、以下の「経営理念」「長期ビジョン」「中期経営計画」を実現するにあたり、<人の成長と組織の活性化>を最重要テーマの一つと位置づけ、各種人事施策に取り組んでいます。

 

経営理念   :創造の喜びを世界にひろめよう/BIGGESTよりBESTになろう/共感を呼ぶ企業にしよう

長期ビジョン :The World Leader in Music Creation

中期経営計画 :Create Fans For Life!

 

このことから、当社人事戦略における最重要ポイントは、各従業員が「豊かな発想とチャレンジ精神を持って自発的に創造性を発揮すること」及び従業員を取り巻く組織文化が「個々の従業員の多様性を受け入れ、共創的な交わりにより相乗効果を導くものであること」であると考えています。またガバナンスの観点からは、これら従業員個人と組織の活性度を常にモニタリングし、必要に応じて改善を施す仕組みを構築することで、継続的な人と組織の活性化を実現したいと考えています。

 

<近年の人的資本経営について>

当社グループは、特に2016年以降、人材の強化に向けてさまざまな改革に取り組んできました。

国内においては、従業員のモチベーション向上を目的として、人事考課制度及び報酬制度を個人の業績と成長をバランスよく重視しながら処遇する制度に改定しました。その他、要員計画に基づく採用管理や社内研修活動の強化、働き方の多様性を推進するためのテレワーク制度やフレックス制度の導入等を行いました。また、KPIとして「従業員エンゲージメント」と「生産性」を設定し、その向上に努めてきました。

一方で当社グループ売上の91%(2023年12月期現在)を占める海外においては、グローバルにおける人材最適化に向けて海外子会社とのリレーションを強化し、現地の労働条件や文化的背景を考慮のうえ、<グローバル人事基本ポリシー>に沿って各種活動を進めています。

 

[グローバル人事基本ポリシー]

・人事制度は“公正さ”と“社員のエンゲージメント向上”に主眼を置いて策定する。

・年齢/性別/人種/社歴によらず、成果・能力・会社への貢献に応じて処遇される制度設計を目指す。

・会社の成長に応じて、適切に社員へベネフィットが還元される人事制度を目指す。

 

<人的資本経営に関する考え方>

当社グループは創業以来、音楽、映像の分野で電子技術を使ったさまざまな提案を行い、多くの人に魅力ある価値を提供することで新しい市場を切り開いてきました。このような「創造」を中核とする企業としてのあり方は、当社グループの根本的な存在価値につながるものとして今後も継続していきたいと考えています。

このような観点から、[人事戦略ビジョン]として、目指すべき「人材」「組織文化」「ガバナンス」を以下のとおり定めています。

 

[人事戦略ビジョン]

人材    :豊かな発想力とチャレンジ精神を備え、あるべき姿に向けて自律的に行動する人材

組織文化  :互いの個性を尊重し合うことで各人の能力を十分に発揮し、共創により相乗効果を生み出すことのできる組織

ガバナンス :継続的なモニタリングにより人事施策を改善し、人と組織が成長し続ける仕組み

 


 

 

<各種人事施策方針>

当社グループの各種人事施策における方針は以下のとおりです


 

指標及び目標

「創造」を事業の中核とする当社グループにとって、豊かな発想を持つ従業員の育成と共創的な組織文化の醸成は最重要テーマとなります。そして、その源泉となるのは、個々の内発的動機につながる「従業員エンゲージメント」であると認識しています。

したがって当社グループでは、人事戦略ビジョンを実現するための中核指標として「従業員エンゲージメント」を重視し、目標を2025年までに3.8(5段階中)と定め、定期定量的に推移を調査するとともに、すべての人事施策が従業員エンゲージメントの向上に寄与することを目指しています。

 

 

・従業員エンゲージメントの調査結果推移

 

2021

2022年

2023

従業員エンゲージメント指数

3.6

3.6

3.7

 

 

また、従業員エンゲージメント向上による業績への貢献度を計るための指標として、「生産性(Added Value÷Personnel Expenses)」を独自の計算式で定期的に確認し、中長期での継続的な向上を目標として定めバランスの良い人事戦略の遂行に努めています。

 

・生産性推移

 

2021

2022

2023

生産性

2.3

2.4

2.4

 

 

<ご参考:各種指標>



 

 

3 【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 


 

各リスクはリスクの内容に応じて分類され、リスク発生時のインパクトと発生可能性、中期経営計画の重点戦略との関連性に応じて評価されます。各リスク項目は担当部門にてリスク低減活動が行われ、リスクレベルに応じてそれぞれ担当部門、担当執行役員、リスク管理・コンプライアンス委員会にて定期的にモニタリングされます。

 

 

 

リスクの分類

リスク項目

自然・環境・事故

1 自然災害

当社グループの製造拠点、物流拠点、販売拠点又はサプライヤーが所在する国や地域において、地震、津波、洪水、台風等の自然災害が発生し、当社グループの各拠点やサプライヤーに被害が生じた場合や、電力等のインフラが遮断される又は不安定となることにより、操業・営業や製造・出荷の停止、生産能力の低下、原材料や部品の調達難、製品供給の遅延等が発生した場合には、当社グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響が生じる可能性があります。とりわけ、当社グループの製造・物流機能が集約されているマレーシアにおいてそのようなリスクが顕在化した場合には、当社グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響が生じる可能性が高まります。

また、当社グループの本社、国内製造拠点及び研究開発拠点並びに国内事業に係る主要な機能の大部分は、静岡県浜松市に集中しています。富士山の噴火や、東海地震・南海トラフ地震が発生した場合には、本社周辺の液状化リスクもあり、当社グループの事業活動に大きな被害をもたらす可能性があります。

インパクト

発生可能性

関連する重点戦略

需要創造、シェア拡大、
基盤強化

対応策

当社の「危機管理基本規程」に則り、災害発生に際し社員の安全確保と事業の早期復旧を目的として、個々の社員が自律的に対応できるように、「事業継続計画(BCP)」を策定しています。

また、国内では安否確認システムを使用した従業員やその家族の安否確認訓練や、地震と火災を想定した避難訓練を年1回実施しています。海外子会社では、国内で策定したBCPを横展開することで、各国の状況に合わせたBCPの立案を進めています。

2 疫病

新型コロナウイルス等の世界的な感染症拡大に伴い、当社グループ及び当社グループのサプライヤー、流通業者等が事業を行っている国において、移動やイベント開催等の禁止・制限、自粛要請等による、経済・事業活動の停止・停滞等が継続又は拡大する場合には、工場閉鎖による生産停止、部材調達の制限、個人消費の減速や可処分所得の減少、予期できない経済活動、社会活動、行動様式等の変容によって、当社グループの製品やサービスに対する需要の減少や供給に対する制約、それらに伴う当社グループの取引先の経営状態の悪化、通信・金融サービス・サプライチェーンを含む公共及び民間のインフラの混乱等が生じ、当社グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

インパクト

発生可能性

関連する重点戦略

需要創造、シェア拡大、
基盤強化

対応策

世界的な感染症の拡大に際しては、各国政府や自治体の要請に従いながら、適切な対策を講じることで、当社グループの事業継続を目指します。当社グループのサプライヤーや流通業者の活動制限については、当社グループ各工場での原材料在庫の保持と、当社グループ各販売子会社での完成品在庫の保持により、販売への影響を最小化させます。

また、「Game Changer製品」や新製品の開発による新たな需要創造や、デジタル・マーケティングによる継続的な需要喚起を行っています。

 

 

 

 

 

 

 

リスクの分類

リスク項目

自然・環境・事故

4 政治的混乱

当社グループは、米州、欧州、アジアの世界各地に拠点を有しており、収益の大部分は日本国外から得ています。各国の政治、社会情勢の変化、テロ、社会的混乱等が発生した場合、経済の低迷、原材料価格や物流コストの上昇、物流環境への影響を受ける可能性があり、当社グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。ロシアによるウクライナ侵攻の長期化、パレスチナ・イスラエル戦争、中台関係の緊張等、先行き不透明な状況が続いています。

インパクト

発生可能性

関連する重点戦略

シェア拡大、基盤強化

対応策

各国の状況や規制を注視し、適時・適切な対応を講じることで、当社グループの事業への影響を最小化させます。製造においては、複数拠点をもつことでバックアップ可能な体制を維持し、販売においては、特定地域に依存しすぎず、グループ内でバランスの取れた収益獲得体制を目指しています。

経済環境

5 景気動向

当社グループが製造・販売する電子楽器は嗜好品であり、かつ、当社グループは高い付加価値に見合う価格での製品やサービスの提供を重視しているため、特に(初級者向け)低価格帯製品の販売は景気動向の影響を受けやすい傾向にあります。また、当社グループは、欧州、北米及び中国を中心に海外における売上の比率が高いため、当社グループの主要な販売地域における当社グループの製品やサービスに対する需要が減退する場合には、当社グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響が生じる可能性があります。

インパクト

発生可能性

関連する重点戦略

需要創造、シェア拡大

対応策

景気動向の影響の少ない中高価格帯製品の強化や、新たな需要を生み出す「Game Changer製品」や新製品の開発を加速させることで、安定的な成長を実現します。

また、当社グループでは、各販売子会社をSales Unit(SU)として管理しており、SU全体を束ねるChief Sales Officer(CSO)を設置しています。各SUはCSOの指示のもと、個別地域の達成のみを目指すのではなく、当社グループ全体のグループ目標達成を優先しています。各国の経済情勢、需要動向、シェア、在庫・物流状況等の情報を踏まえ、機動的に各国へ在庫の供給を行うことで、好調な地域が低調な地域をカバーする運営に努めています。

6 為替変動

当社グループは製造・販売活動をグローバルに展開しており、米ドル及びユーロを中心とする為替レートの変動に伴う影響を受けます。また、当社グループの海外子会社の現地通貨建ての資産・負債等は、当社グループの連結財務諸表作成の際には円換算されるため、当社グループの財政状態は為替レートの変動による影響を受けます。米ドル及びユーロに加え、近年では中国をはじめとする米ドル又はユーロ圏以外の地域における事業拡大に伴い、これらの地域の為替レートの変動による影響も増加しています。

インパクト

発生可能性

関連する重点戦略

シェア拡大、基盤強化

対応策

当社グループは、為替変動影響を抑制するために、継続的な営業活動から生じる債権債務の決済を可能な限り同一通貨で行っています。また、為替レートの変動による影響の一部を最小限に抑えるために、先物為替ヘッジ取引を行っています。

 

 

 

 

リスクの分類

リスク項目

経済環境

8 原材料価格高騰、供給不足

当社グループの製品には、カスタムICチップ、材木、金属、プラスチック等の各種の原材料や部品が使用されています。当社グループは、原材料等の確保にあたっては、複数のサプライヤーを確保する等、不測の事態には備えているものの、原材料の一部には他のサプライヤーへの代替が難しく、特定のサプライヤーに依存しているものがあります。サプライヤーの経営悪化、災害、規制環境の変化等により、当社グループが求める品質及び数量の原材料等の供給に遅延や中断が生じた場合や原材料等の価格高騰が生じた場合には、当社グループの製品の製造が困難になり、仕入原価の上昇や当社グループ製品の値上げに伴う価格競争力の低下等が発生する可能性があり、当社グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響が生じる可能性があります。

インパクト

発生可能性

関連する重点戦略

需要創造、シェア拡大、
基盤強化

対応策

部材供給は良化傾向にある一方、一部の半導体などで続く需給ひっ迫や、調達リードタイムの長期化への対応として、キーパーツについては、サプライヤーとの信頼関係構築を基本方針とし、中長期的な製品ロードマップ構築による先行手配等により、在庫確保を強化しています。あわせて市場在庫の早期確保や代替部品による速やかな設計変更等の対応を行い、当社生産への影響を最小化させています。また、原材料の価格高騰に対しては、各国の状況に合わせて、価格競争力を備えた適正な製品販売価格を維持しつつ、一方で継続的なコストダウンに取り組むことで、当社グループの財政状態及び経営成績への影響の最小化に努めています。

9 物流費高騰、コンテナ不足

当社グループは、製造拠点をマレーシア、中国、米国及び日本に、物流拠点をマレーシア、米国に、販売拠点は世界各地に有しています。また、各種部品のサプライヤーも世界各地に存在します。当社グループのサプライチェーン(調達、生産、販売)は物流によって繋がれており、世界の物流環境の影響を受けます。特に、感染症の拡大による世界的な物流の混乱や北米の港湾施設等でのストライキや業務停止が起きた場合は、当社グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響が生じる可能性があります。

インパクト

発生可能性

関連する重点戦略

需要創造、シェア拡大、
基盤強化

対応策

当社グループでは物流を含めたサプライチェーンマネジメント(SCM)により、販売機会損失の最小化と過剰在庫の抑制に取り組んでいます。製造拠点、物流拠点、販売拠点での物流環境を可視化するシステムを用いて定期的にモニタリングし、機動的かつ柔軟性を持った生産、在庫配分、輸送等により、事業への影響を最小限に抑えるための対応を行っています。

 

 

 

リスクの分類

リスク項目

経済環境

10 人件費高騰、人員不足

当社グループの製造及び物流拠点であるマレーシアや製造拠点の中国で、工場従業員の確保が不足した場合は、人件費の上昇や、工場稼働率の低下による供給への影響が生じる可能性があります。また、製造拠点に限らず販売拠点がある各国においても、労働需給がひっ迫し、当社グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響が生じる可能性があります。

インパクト

発生可能性

関連する重点戦略

基盤強化

対応策

当社グループの製造拠点では、現地や外国人の従業員を雇用することで人員を確保しています。各種業務や業務管理のシステム化や自動化により、業務効率を高め、生産性を向上させる取り組みをしています。

経営・戦略・

ガバナンス

13 事業ポートフォリオ

当社グループは、事業ポートフォリオマネジメントにより、既存事業の評価、経営資源の配分や、M&A等による投資の評価を行っていますが、事業ポートフォリオマネジメントの不足により、各事業のモニタリングや評価・管理が行われず、低成長、低収益事業が継続された場合や、M&A実行後の統合失敗により、収益やシナジー効果が期待に遠く及ばない場合は、事業資産の価値に見合う十分なキャッシュ・フローを創出できないリスクがあります。そのように判断される場合は、減損損失が発生し、当社グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響が生じる可能性があります。

一方で、リスクを恐れ戦略投資に消極的になることで成長機会を損失する可能性もあります。

インパクト

発生可能性

関連する重点戦略

需要創造、シェア拡大

基盤強化

対応策

当社は以下を基本方針とする事業ポートフォリオマネジメントを実施しています。

1. 当社が有する事業は、当社が開発、生産、販売する電子楽器、映像機器、ソフトウエア製品、サービス等を通じて、創造活動を支援する電子楽器事業であり、引き続き経営資源を集中して事業成長をはかる

2. 中長期の事業拡大においては、現在の電子楽器事業並びにその隣接領域にターゲットを置き、独自の事業拡大に加え、シナジー発揮を重視したM&A等も視野におく

3. 製品カテゴリー別、販売地域別の運営組織により、継続的に効率性、収益性をモニタリングし、取締役会においては年1回以上、以下の視点に基づくレビューを行い、中長期的な経営戦略策定につなげる

・企業理念、企業ミッションとの整合性
・現状維持バイアスの排除
・リスクをとった成長投資の有無と妥当性
・将来性、成長性、収益性
・事業モデル差異を勘案した資本収益性

また事業買収にあたっては、徹底したデューデリジェンスとそれに基づく慎重かつ冷静な判断を行い、Post Merger計画を明確化し、買収後も計画進捗状況のモニタリングを徹底することで、減損リスクの低減に努めています。

 

 

 

 

リスクの分類

リスク項目

経営・戦略・

ガバナンス

14 技術革新・トレンド変化対応

当社グループの製品やサービスに対する需要は消費者の嗜好の影響を強く受けており、当社グループが既存の商品市場における売上を拡大し、又は新規性のある商品の市場開拓に成功するためには、変化する消費者の嗜好を正しく把握して継続的に研究開発活動を行う必要があります。当社グループが、新製品、とりわけ革新的な製品を商業化するためには、長年の研究開発が必要となる場合があります。また、当社グループの研究開発活動は、優れた研究者と技術者の雇用と育成を必要とします。

当社グループにおいて財務や人材等の理由から十分な研究開発活動が継続的に実施できず、消費者の嗜好やその変化に対応した製品やサービスの提供を行うことができなくなる場合や、当社グループの研究開発に想定以上に費用や時間がかかる場合には、当社グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響が生じる可能性があります。

インパクト

発生可能性

関連する重点戦略

需要創造、シェア拡大、

LTV向上

対応策

当社グループの新製品開発は、自ら楽器演奏を行う開発者が消費者の嗜好を徹底的にインタビューすることで、真のニーズを理解するというユニークな手法を採用しています。高い限界利益率を背景に少量からの製品化を行うことで、消費者の嗜好やその変更に対応した製品やサービスの提供を適時に行っています。また、将来技術の開発にリソースをシフトさせることで、中長期的な技術優位性を確保できるように努めています。

15 競合他社との競争激化

当社グループのブランドはグローバルに認知されており、音質やデザイン、製品の革新性等の面で、高い競争優位性を保持していると自負しています。一方で、当社グループは、楽器市場において、国内外の楽器メーカーと激しく競合しています。当社グループの競合他社は、ブランド力、財務、技術、人材、生産能力、研究開発の歴史、コスト競争力、販売力等の点で、当社グループよりも高い競争力を有している場合があります。加えて、当社グループの製品は、中古製品とも競合しているほか、特に近年においては、アジアを中心とする低価格帯の楽器メーカーが品質を大きく改善し、幅広い製品を競争力の高い価格で提供しており、当社グループとの競合が強まっています。当社グループがこれらの競合先又は競合製品との競争激化に伴う価格下落圧力等が生じる場合は、当社グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響が生じる可能性があります。

インパクト

発生可能性

関連する重点戦略

需要創造、シェア拡大

対応策

「Roland」や「BOSS」、「DW」をはじめとする当社グループのブランドは、消費者が当社グループの製品やサービスを購入する動機の一つになっており、当社グループは、継続的に経営資源を投入してブランド力の維持・強化に努めています。

電子楽器開発には音楽、楽器知識に裏打ちされた電子技術が必須であり、当社が独自開発したカスタムLSIを使った音源チップは差別化の源泉のひとつです。また当社が継続的に取り組む、新たな市場を切り開く「Game Changer」製品の開発もブランド力の強化に貢献しています。

 

 

 

リスクの分類

リスク項目

経営・戦略・

ガバナンス

16 グループ統制

当社グループは、世界各地に製造・販売拠点を有しています。海外で事業活動を行うにあたっては、ビジネスにおける標準や慣行の相違、海外子会社の実効的な経営管理の困難性等のリスクが存在すると考えています。グループ統制が機能せず子会社でのコンプライアンス、リスク管理、決裁運営が適切に行われないことにより、当社グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響が生じる可能性があります。

インパクト

発生可能性

関連する重点戦略

基盤強化

対応策

当社の「内部統制の基本方針」に定める以下の方針に基づき、グループ統制を行っています。

1.「ローランド・グループコンプライアンスガイドライン」による法令遵守の徹底と、グループ全体におけるコンプライアンス遵守体制の構築

2.「リスク管理基本規程」を定め、当社グループを取り巻くリスクに対して的確な管理体制を構築

3.「関係会社管理規程」による意思決定の責任の明確化と職務の効率化、グループ会社活動のモニタリング

4.監査室によるグループ会社への会計監査及び業務監査と、グループ会社間での相互監査の実施

17 人的資本

当社グループが厳しい事業環境下において競争優位性を確保するためには、専門性の高い優秀な人材を確保することが重要です。しかしながら、専門性の高い優秀な人材の数は限られており、当社グループが優秀な人材を十分に採用できない場合や、教育不足により優秀な人材を育成できない場合、報酬の不足等で当社グループから、専門性の高い優秀な人材が競合他社に移籍した場合は、当社グループの競争優位性が損なわれる可能性があります。

また、当社グループの企業文化や組織が膠着し、従業員の働き甲斐が低下した場合、パフォーマンスの低下に繋がり、当社グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響が生じる可能性があります。

インパクト

発生可能性

関連する重点戦略

基盤強化

対応策

当社グループは人的資本経営に取り組み、「成長支援とエンゲージメント向上」、「多様な働き方の推進」、「頑張りに報いるインセンティブ」の実現のために人事面の経営資源を配分しています。また、人事戦略の基本方針を下記のとおり定め、従業員一人ひとりの個性を尊重し、従業員と会社が共に発展できる会社を目指しています。

・人事制度は“公正さ”と“社員のエンゲージメント向上”に主眼を置いて策定する

・年齢/性別/人種/社歴によらず、成果・能力・会社への貢献に応じて処遇される制度設計を目指す

・会社の成長に応じて、適切に社員へベネフィットが還元される人事制度を目指す

また、従業員一人ひとりの主体的な成長を支援すること、フェアに成長する機会を提供し、その結果を公正に処遇することを徹底しています。あわせて、多様な働き方の推進のため、フレックスタイム制度、テレワーク制度を導入し、グループ全体で従業員のワークライフバランス向上に努めています。インセンティブについては、賞与において十分な水準を最低保証しつつ、業績連動性を高め好業績が従業員に還元されることで、有効に機能しています。

専門性を持った優秀な人材については、グローバルで人材開発、活用を行えるように人事制度の整備を推進しています。

 

 

リスクの分類

リスク項目

ビジネス

オペレーション

18 法規制等

当社グループは製造・販売活動をグローバルに展開しており、国内外の様々な法律及び規則に従うと同時に、それらの新たな制定や変更等にも適時・適切に対応する必要があります。そのための体制整備に要する費用が増加する可能性があるほか、もしその整備が不十分で、それらの法律又は規則に違反することがあれば、当社グループの事業、財政状態、経営成績、ブランドイメージ及び社会的信用に悪影響が生じる可能性があります。

インパクト

発生可能性

関連する重点戦略

需要創造、シェア拡大、

LTV向上、基盤強化

対応策

当社グループでは、各国法務担当者の調査により、各国の法律及び規則の最新情報を把握するよう努めています。法律及び規則への適合が必要とされる場合には、当該法律及び規則に実質的に関連する部門が主管部門となり、法務部門のサポートの下、体制の整備を行っています。

19 コンプライアンス

当社グループは製造・販売活動をグローバルに展開しており、国内外の様々な法律及び規則の遵守をはじめとした社会的な要請に応じることが求められています。これらの法律又は規則に違反した場合、また、役職員による重大な不正や不適切な行為等が行われた場合には、当社グループの事業、財政状態、経営成績、ブランドイメージ及び社会的信用に悪影響が生じる可能性があります。

インパクト

発生可能性

関連する重点戦略

需要創造、シェア拡大、

LTV向上、基盤強化

対応策

当社グループでは、リスク管理・コンプライアンス委員会を定期的に開催し、グループ全体でのコンプライアンス推進活動をモニターしています。コンプライアンス推進にあたっては、教育の実施等に力点を置いた取組みを行っています。また、グループ全役職員の行動規範となる「ローランド・グループ コンプライアンスガイドライン」を策定し、全社的に周知・徹底することでコンプライアンス意識を高めるとともに、法令違反等の問題の早期発見・迅速かつ適切な対応を行うことができるように、グローバル内部通報制度及び海外子会社独自の内部通報制度を設けています。

22 過剰在庫・欠品

当社グループは、当社グループの販売ネットワーク等から得た情報に基づき消費者の需要を予測し、生産を行っています。しかし、将来の消費者需要は正確な予測が困難であるため、当社グループの予測と実際の需要が異なる可能性があり、また資材調達や輸送リードタイムの長期化などサプライチェーン環境の変化が生じる場合には、在庫不足によって販売機会を逸したり、過剰在庫によるキャッシュ・フローへの影響や在庫評価損の発生等により、当社グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響が生じる可能性があります。

インパクト

発生可能性

関連する重点戦略

需要創造、シェア拡大、

基盤強化

対応策

当社グループでは、需要予測精度を高めるため、製造部門、販売部門での定期的な会議を担当者ごと、部門責任者ごとで行っています。その結果を元に各地の在庫、販売計画、販売シェア等から総合的に在庫配分を判断して各地に供給しています。また販売機会損失の低減、過剰在庫の抑制のため、生産計画を効率的に変更できる新システムを導入することで、需要の変化にいち早く対応する生産体制を整えていきます。

 

 

リスクの分類

リスク項目

ビジネス

オペレーション

23 製品・サービス品質

当社グループの製品又はサービスに予期しない欠陥が生じた場合や、当社グループの製品又はサービスが仕様どおりに機能しない場合等において、製品・サービスの回収、中断・遅延、修理、改修、設計の変更等により、当社グループの事業、財政状態、経営成績、ブランドイメージ及び社会的信用に悪影響が生じる可能性があります。

また、当社グループの製品又はサービスの欠陥や契約不適合により、当社グループが製造・販売活動を展開している国及び地域で、製造物責任等に基づく訴訟その他の法的手続の当事者となるリスクを有しています。当社グループがかかる訴訟その他の法的手続の当事者となり、多額の損害賠償金や罰金等の支払いを命じられる等の場合には、当社グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響が生じる可能性があります。

インパクト

発生可能性

関連する重点戦略

需要創造、シェア拡大、

LTV向上、基盤強化

対応策

当社グループでは「品質マニュアル」により品質方針を定め、必要な活動や基準を品質マネジメントシステムとして構築しています。ISO9001外部監査含めた品質保証部での品質マネジメントが実施され、市場品質の向上を図っています。

24 労務管理

当社グループは、世界各地に製造・販売拠点を有しています。各国における労働法等の法令に基づく労務管理が不十分であれば、従業員の健康被害、労働災害、不正、士気低下等を招き、また、各種ハラスメントや人権問題が発生する可能性も高まり、職場環境や生産性の悪化、社会的な信用の低下、ブランド価値の毀損等を通じ、当社グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響が生じる可能性があります。

インパクト

発生可能性

関連する重点戦略

基盤強化

対応策

当社グループでは、労働法やハラスメントに関する研修を従業員に対し各国で実施し、遵法意識を高め、労働訴訟リスクの低減をしています。当社では「ハラスメント防止規程」において役員及び従業員が遵守すべき事項を定めるとともに、「内部通報規程」において内部通報制度を定め、組織的または当社役職員による法令等や当社内部規程に違反する行為等の早期発見と是正および再発防止を図っています。また、「職場相談窓口」を設置し苦情や相談を受け付け対処する体制を整えています。さらに人権方針を策定し、当社グループの人権尊重や労働環境を、人権デューデリジェンスを通じて把握するとともに、サプライヤー向けの調達方針を策定し、人権尊重の取り組みを推進しています。

 

 

 

リスクの分類

リスク項目

ビジネス

オペレーション

25 知的財産権侵害、知的財産権被侵害

当社グループは、事前に他社の権利を侵害していないか十分確認を行っていますが、当社グループが意図せず第三者の知的財産権を侵害する可能性や、今後当社グループの事業分野において第三者の特許権等が新たに成立し、当社グループを当事者とする知的財産権の帰属等に関する紛争が生じたり、当社グループが知的財産権の侵害に関する損害賠償や使用差止等の訴訟や請求を受けたりする可能性があります。

加えて、当社グループ内部での知的財産権に対し、その発明者がその対価の支払いや権利の帰属を争い、訴訟等の結果により金銭的損失を被る可能性があります。

これらの訴訟やクレーム等が提起された場合には、当社グループの事業、財政状態、経営成績、ブランドイメージ及び社会的信用に悪影響が生じる可能性があります。

また、当社グループは、独自技術や当社グループの製品及びサービスに関する特許・意匠・商標等の知的財産権の取得、維持及び保護に努めています。しかしながら、当社グループが事業を行っている国又は地域の中には、知的財産権に対する有効な保護手段が整備されていないか、保護手段が限定的な状況にある場所もあり、一部の国又は地域において十分な知的財産権の取得ができていない可能性や、第三者による当社グループの知的財産権の侵害の防止が十分ではない可能性があります。当社グループの製品と類似し、若しくは模倣した製品が販売され、又は違法コピー等が流通する場合には、当社グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響が生じる可能性があります。

インパクト

発生可能性

関連する重点戦略

 

需要創造、シェア拡大

 

対応策

当社グループによる第三者の知的財産権の侵害については、すべての製品開発において企画段階で知的財産担当部門のレビュー実施を義務付けています。また、当社グループでは、商標、特許、意匠権等の当社グループ知的財産の権利の登録をすすめることで当社知的財産保護に取り組んでいます。さらに、権利行使の活動として、類似商標権利者との事前の合意による権利範囲の確保、当社グループの知的財産権の侵害を市場にて発見した場合は、宣伝広告などの表示の是正、当該商品の販売差し止めの請求、さらには訴訟の提起も行っています。加えて、当社グループの従業員が当社グループの職務に関して新しい知的財産権を生み出した場合には、社内規程に基づき報奨金を支払っています。

26 IT

当社グループは、事業活動全般及び当社グループの製品において、様々な情報システムを利用しています。これらのシステムが当社グループの想定通りに機能しない場合や、災害、戦争、テロ行為、コンピュータウイルスの感染やサイバー攻撃等によりシステム障害が発生した場合には、当社グループの業務やサービス提供の停止、重要なデータの喪失、対応費用の発生等により、当社グループの事業、財政状態、経営成績、ブランドイメージ及び社会的信用に悪影響が生じる可能性があります。

インパクト

発生可能性

関連する重点戦略

LTV向上、基盤強化

対応策

当社グループでは、「情報セキュリティ基本規程」において、情報システム使用時のアクセス権限や手法に関する順守事項、情報機器やデータの管理方法、セキュリティ対策等を定め、運用することでリスクの最小化に努めています。生成AI利用に関してもガイドラインを策定し、グループ全体で周知を行っています。また、従業員に対し研修等を通じて、情報セキュリティの重要性の認識を高める教育を実施しています。加えて、情報セキュリティの侵害やシステム障害等につながる人的災害や自然災害発生の緊急時に備えた対応策を定めています。

 

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 

(1) 重要な会計方針及び見積り

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる会計基準に基づき作成しています。この連結財務諸表の作成にあたり、経営者は、決算日における資産・負債及び報告期間における収益・費用の金額並びに開示に影響を与える見積りを行っています。これらの見積りについては、過去の実績や状況等に応じ合理的に判断をしていますが、見積り特有の不確実性があるため、実際の結果と異なる場合があります。

当社グループの連結財務諸表において採用する重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」に記載していますが、経営者が行う見積りや判断のうち、特に次の重要な会計方針及び見積りが財政状態及び経営成績に重要な影響を及ぼす可能性があると考えています。

(a) 棚卸資産の評価

「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりです。

 

(b) のれん及びその他の無形固定資産の評価

「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりです。

 

(c) 固定資産の減損

当社グループは、「固定資産の減損に係る会計基準」に基づき、減損の要否を検討し、固定資産に減損が見込まれる場合は、将来キャッシュ・フローの現在価値又は正味売却価額に基づいて減損損失を計上しています。将来の事業計画の変更や経営環境等の悪化により将来キャッシュ・フローの見積りが著しく減少する場合は、減損損失を計上する可能性があります。

 

(d) 投資の減損

当社グループは、時価のある有価証券について、市場価格等が取得原価に比べて50%以上下落した場合に、原則として減損処理を行っています。また、下落率が30%以上50%未満の有価証券については、過去2年間の平均下落率においても概ね30%以上に該当した場合に減損処理を行っています。時価のない有価証券については、その発行会社の財政状態の悪化により実質価額が取得原価に比べて50%以上下落した場合に、原則として減損処理を行っています。将来の市況悪化又は投資先の業績不振により、現在の簿価に反映されていない損失又は簿価の回収不能が発生した場合、評価損を計上する可能性があります。

 

(e) 繰延税金資産の回収可能性

当社グループは、繰延税金資産の算定にあたって、将来の業績予測やタックス・プランニングを基に将来の課税所得を見積り、繰延税金資産の回収可能性を判断しています。経営環境等の悪化により、その見積りに変更が生じた場合は、繰延税金資産が取り崩されることにより税金費用を計上する可能性があります。

 

 

(f) 退職給付債務の算定

当社は確定給付企業年金制度(キャッシュバランスプラン)を採用しており、従業員の退職給付費用及び退職給付債務について、数理計算に使用される前提条件に基づいて算定しています。これらの前提条件には、割引率、退職率、死亡率及び昇給率、年金選択率、年金資産の期待運用収益率等の重要な見積りが含まれており、特に損益に重要な影響を与えると思われる割引率については、期末における日本の長期国債の利回りを基礎として設定しています。また、長期期待運用収益率については、運用方針等に基づき設定しています。実際の結果が前提条件と異なる場合や前提条件が変更された場合、その影響は累計され、将来にわたって規則的に認識されるため、一般的には将来の会計期間において認識される費用及び計上される債務に影響を及ぼします。

 

(2) 経営成績等の状況の概要並びに経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

当連結会計年度における当社グループを取り巻く世界経済は、世界的にポストコロナへの移行が大きく進んだ一方で、ロシア・ウクライナ情勢の長期化、中国市場の減速、世界的な物価や金利の上昇、金融不安等により先行き不透明な状況が継続しました。

電子楽器に対する需要は、全体としては概ね堅調に推移しましたが、回復の遅れる中国や、Stay at Home需要の反動減が見られる電子ピアノなど、地域やカテゴリーによって濃淡が見られました。出荷に関しては、コロナ禍を要因とした供給制約が緩和されたことによる供給過多により、当期は、特に米国においてディーラーの在庫が過剰になるなど、サプライチェーンの正常化に向けた調整局面が継続しました。コスト面においては、原材料価格は高止まりを見せていますが、大きく上昇していた海上輸送費の減少等により改善が見られました。また、市場の変化に迅速かつ柔軟に対応すべく、経費執行についても適時適切に見直しを図り、利益の創出に注力しました。

このような環境下、当社グループでは「The World Leader in Music Creation ~音楽創造分野において世界的リーダーとなる~」という長期ビジョンのもと、「Create Fans For Life! ~生涯にわたるファンを生み出し、より多くの音楽愛好家に愛されるブランドになる~」という中期経営計画目標を掲げ、その1年目として「需要創造」、「シェア拡大」、「LTV(ライフタイムバリュー)向上」、「基盤強化」に取り組みました。

「需要創造」においては、市場競争力強化を目指した主要製品群のリニューアル及びラインアップの追加に加え、Game Changer製品による新たな市場創造に注力しました。具体的には、前期買収したDrum Workshop, Inc.(以下DW社)との技術シナジーにより、アコースティックドラムとしても電子ドラムとしても演奏できる、世界初のコンバーチブルドラム「DWe」を発売しました。また今後ますます盛り上がりが期待されるeスポーツ市場に向けては、ゲーム配信用のオーディオミキサー「BRIDGE CAST」を投入しました。合わせて、音楽生成AIサービスと提携した新サービスとして、同製品で使用できる著作権フリーBGMライブラリ「BGM CAST」を「Roland Cloud」より提供を開始しました。

「シェア拡大」においては、当社にとっては未開拓市場であるポータブル・キーボード市場へ向けた低価格キーボード「E-X10」を投入しました。加えてポータブル・キーボード、電子ピアノでは、お客様の購買行動の変化に合わせ、新規チャネルの開拓にも取り組みました。新興国においては、引き続き膨大な人口増加により中間層の購買力増加が進む、インド、インドネシア等での販売体制強化に注力しました。また、当社ではお客様が実際に楽器に触れて、納得して購入いただける場所として、世界の主要都市へ直営店舗「ローランドストア」の出店を進めており、2023年10月には日本初の拠点として東京の原宿に出店しました。

「LTV(ライフタイムバリュー)向上」においては、Roland Cloudの使い勝手を大幅に向上させるユーザーインターフェースの刷新に加え、当社歴代のシンセサイザーとリズム・マシンを1台に融合したソフトウエア「GALAXIAS」をリリースしました。また、好評をいただいているシンセサイザー「FANTOMシリーズ」への有償アップグレードの提供や、シンセサイザー以外のカテゴリーでもご利用いただけるRoland Cloudサービスの拡充に取り組みました。加えて、当社によるお客様の理解とコミュニケーションの充実、製品やサービスの精度向上のため、顧客データの一元管理を行うRoland Platformの構築を進めました。

「基盤強化」においては、グローバルでの適材適所の人材配置や、株式報酬制度のグローバル展開といった人事制度の拡充に取り組みました。また、開発部門の集約によるInnovationの加速、社員エンゲージメント及び生産性の向上を目的に、現在本社を置く静岡県浜松市に、研究開発の中核拠点となる新本社の建設を決定しました。加えて、ビジネスのさらなる拡大に向けた基幹システムの導入や、販売機会ロスの低減やリードタイム短縮に向けた生産管理システムの導入も決定しました。

 

(a) 売上高

DW社の新規連結効果や円安効果もあり、当連結会計年度の売上高は、102,445百万円(前期比6.9%増)となりました。製品カテゴリーごとの販売状況(対前期比)は以下のとおりです。

 

(鍵盤楽器)売上高27,546百万円(前期比7.8%減)

電子ピアノは、コロナ禍を契機とした非常に高い需要の落ち着きに加え、ディーラーの在庫調整、競合激化等により苦戦しました。

 

(管打楽器)売上高29,342百万円(前期比27.3%増)

ドラムは、中国においては、コロナや政府の学習塾に対する規制を背景とした音楽教室縮小の影響を受けましたが、新製品の導入を中心に欧米では概ね堅調に推移しました。ドラム事業全体としては、DW社の新規連結効果もあり販売は大きく伸長しました。

電子管楽器は、主力市場である中国、日本での市場在庫の調整に加え、中国を中心に新規参入企業との競合もあ

り、販売は苦戦しました。

 

(ギター関連機器)売上高25,726百万円(前期比9.3%増)

ギターエフェクターは、前期の供給不足からの回復に加え、新製品の効果もあり好調に推移しました。

楽器用アンプは、米国を中心としたディーラーの在庫調整影響はありましたが、堅調な需要に加え新製品の貢献あり好調に推移しました。

 

(クリエーション関連機器&サービス)売上高12,662百万円(前期比3.7%増)

シンセサイザーは、前期に多くの新製品を発売したため反動減がありましたが、需要は概ね堅調に推移しました。

ダンス&DJ関連製品では、今期発売した新製品群は貢献しているものの、既存製品には落ち着きが見られました。

ソフトウエア/サービス分野では、Roland Cloudにおいて、ソフトウエアシンセサイザーやサウンドコンテンツ、ハードウエアのアップデータ等の提供を継続的に行い、会員数は安定的に増加しました。

 

(映像音響機器)売上高4,073百万円(前期比6.5%減)

ビデオ関連製品は、イベント需要が回復し、関連製品の需要が高まりましたが、Stay at Homeによる個人向け配信需要に落ち着きが見られました。またV-MODAブランドのヘッドホン等が苦戦しました。

 

(b) 営業利益

原材料価格は高止まりを見せていますが、大きく上昇していた海上輸送費は減少し、また市場の変化に迅速かつ柔軟に対応すべく、経費執行についても適時適切に見直しを図ったことにより、当連結会計年度の営業利益は11,871百万円(前期比10.4%増)となりました。

 

(c) 経常利益

営業外収益は210百万円、営業外費用は927百万円となりました。営業外費用では為替差損760百万円が発生しました。

以上の結果、当連結会計年度の経常利益は11,154百万円(前期比8.8%増)となりました。

 

(d) 親会社株主に帰属する当期純利益

特別利益は8百万円、特別損失は14百万円、税金費用は2,955百万円となりました。

以上の結果、当連結会計年度の親会社株主に帰属する当期純利益は8,151百万円(前期比8.8%減)となりました。親会社株主に帰属する当期純利益が対前期比で減少した要因は、前期において繰延税金資産の計上による一過性要因の影響があったことによるものです。

 

(e) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標

ROE(自己資本利益率)は、上記のとおり親会社株主に帰属する当期純利益が減少し、適切な株主還元を実施しましたが、為替の影響もあり、22.2%(前期比6.7ポイント減)となりました。

ROIC(投下資本利益率)は、上記のとおり営業利益は増加したものの、新本社社屋(土地・建物等)への投資等により有形固定資産が増加した結果、17.2%(前期比1.5ポイント減)となりました。

 

 

(f) 生産、受注及び販売の実績

当社グループは電子楽器事業の単一セグメントであるため、セグメントに関連付けては記載していません。

 

(イ)生産実績

品目

第52期連結会計年度

(自 2023年 1月 1日
  至 2023年12月31日)

前期比(%)

鍵盤楽器(百万円)

27,273

△15.5

管打楽器(百万円)

27,056

+17.4

ギター関連機器(百万円)

24,788

△1.6

クリエーション関連機器&

サービス(百万円)

12,579

+11.4

映像音響機器(百万円)

4,438

+2.9

その他(百万円)

2,157

+13.7

合計(百万円)

98,294

+0.3

 

(注)金額は、販売価格によっています。

 

(ロ)受注実績

当社グループは、需要予測に基づく見込生産を行っているため、該当事項はありません。

 

(ハ)販売実績

品目

第52期連結会計年度

(自 2023年 1月 1日
    至 2023年12月31日)

前期比(%)

鍵盤楽器(百万円)

27,546

△7.8

管打楽器(百万円)

29,342

+27.3

ギター関連機器(百万円)

25,726

+9.3

クリエーション関連機器&

サービス(百万円)

12,662

+3.7

映像音響機器(百万円)

4,073

△6.5

その他(百万円)

3,094

+9.7

合計(百万円)

102,445

+6.9

 

 

 

(3) 財政状態の分析

総資産は、前連結会計年度末と比較して3,912百万円増加し、80,969百万円となりました。その主な要因は、棚卸資産が2,178百万円減少した一方、次項に詳述するキャッシュ・フローの状況により現金及び預金が2,377百万円、売上債権が899百万円、有形固定資産が2,190百万円それぞれ増加したことによるものです。

負債は、前連結会計年度末と比較して2,454百万円減少し、40,854百万円となりました。その主な要因は、仕入債務が660百万円増加した一方、借入金が3,639百万円減少したことによるものです。

純資産は、前連結会計年度末と比較して6,366百万円増加し、40,114百万円となりました。その主な要因は、配当金の支払いにより剰余金が4,506百万円減少した一方で、主要国通貨に対する円安進行により為替換算調整勘定が1,849百万円増加し、また親会社株主に帰属する当期純利益が8,151百万円あったことによるものです。

以上の結果、自己資本比率は前連結会計年度末と比較して5.7ポイント増加し、49.2%となりました。

 

(4) キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度において現金及び現金同等物(以下、「資金」という。)は、2,377百万円増加(前年同期は1,724百万円増加)し、期末残高は12,883百万円となりました。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度において営業活動の結果得られた資金は、主として税金等調整前当期純利益及び運転資金の減少により、15,428百万円(前年同期に得られた資金は793百万円)となりました。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度において投資活動の結果使用した資金は、主として有形固定資産の取得による支出により、3,576百万円(前年同期に使用した資金は11,351百万円)となりました。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度において財務活動の結果使用した資金は、主として借入金の返済や配当金の支払等により、8,668百万円(前年同期に得られた資金は12,879百万円)となりました。

 

(5) 経営成績に重要な影響を与える要因

当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因につきましては、「3 事業等のリスク」に記載のとおりです。

 

(6) 資本の財源及び資金の流動性

当社グループの主な資金需要は、当社グループ製品を製造するための原材料の仕入、労務費、外部委託にて製造された当社グループ商品の仕入、研究開発費や広告販促費等の営業費用の運転資金及び製造設備の刷新、拡充です。

当社グループは、必要な運転資金及び設備投資資金について、自己資金又は外部借入で対応しています。効率的な資金調達を行うため、取引金融機関と当座貸越契約及びコミットメントライン契約を締結し、流動性リスクを管理しています。当連結会計年度末において、これらの契約に基づく当社グループの借入未実行残高は9,700百万円です。

当社グループは、今後とも営業活動によって得る自己資金を基本的な資金源としながら、資金繰りの見通しや市場金利の状況を考慮し、必要に応じて銀行借入を活用することで資金調達コストを抑制し、資本効率の最適化を図ります。

 

 

 

[参考情報]

当社グループは、投資家が当社グループの業績評価を行い、当社グループの企業価値を把握するうえで有用な情報を提供することを目的として、連結財務諸表に記載された売上高以外に、当社グループの主要な市場ごとの外部顧客への売上高及び製品カテゴリーごとの外部顧客への売上高の推移を下表のとおり把握しています。なお、比率(%表示)は売上高の構成比を示しています。

 

(1) 地域ごとの売上高

 

(単位:百万円)

 

2019年

2020年

2021年

2022年

2023年

日本

9,237

14.6%

9,066

14.2%

9,666

12.1%

9,736

10.2%

9,693

9.5%

北米 (注)1

18,914

29.9%

19,963

31.2%

25,959

32.4%

34,904

36.4%

38,920

38.0%

欧州 (注)2

19,518

30.9%

21,027

32.8%

24,958

31.2%

26,439

27.6%

29,663

28.9%

中国 (注)3

7,194

11.4%

6,304

9.8%

8,673

10.8%

9,641

10.1%

8,796

8.6%

アジア・オセアニア・その他の地域

8,381

13.2%

7,682

12.0%

10,775

13.5%

15,118

15.7%

15,372

15.0%

合計

63,247

100.0%

64,044

100.0%

80,032

100.0%

95,840

100.0%

102,445

100.0%

 

 

(注)1.アメリカ及びカナダでの売上高になります。

2.オーストリア、ベルギー、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、イタリア、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、ロシア、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ及び英国での売上高を含みます。

3.中国本土での売上高になります。

 

(2) 製品カテゴリーごとの売上高

 

(単位:百万円)

 

2019年

2020年

2021年

2022年

2023年

鍵盤楽器

17,104

27.0%

17,842

27.9%

24,792

31.0%

29,869

31.2%

27,546

26.9%

管打楽器

14,205

22.4%

14,620

22.8%

19,053

23.8%

23,046

24.1%

29,342

28.6%

ギター関連機器

16,744

26.5%

16,712

26.1%

19,093

23.9%

23,540

24.6%

25,726

25.1%

クリエーション関連機器&サービス

8,267

13.1%

8,010

12.5%

10,122

12.6%

12,206

12.7%

12,662

12.4%

映像音響機器

4,289

6.8%

4,597

7.2%

4,282

5.3%

4,357

4.5%

4,073

4.0%

その他

2,634

4.2%

2,261

3.5%

2,689

3.4%

2,819

2.9%

3,094

3.0%

合計

63,247

100.0%

64,044

100.0%

80,032

100.0%

95,840

100.0%

102,445

100.0%

 

 

 

5 【経営上の重要な契約等】

(賃貸借契約)

契約会社名

相手先名

契約締結日

契約内容

契約期間

Roland Manufacturing
Malaysia Sdn. Bhd. 

Formosa

Prosonic

Industries Berhad

2022年12月1日

電子楽器の製造を行うための工場、倉庫及びオフィス

2022年12月1日から

2025年11月30日まで

 

※2022年12月に更新日が到来したため、契約を更新しています。本契約において、借主である当社には追加3年の更新オプションが付与されており、当社の意思で更新が可能になっています。

 

 

6 【研究開発活動】

当社グループの研究開発活動は、グループ全体で利用可能な要素技術開発と、製品カテゴリーに特化した技術開発があります。要素技術には、楽音合成、モデリング、音響効果、音響解析、高効率符号化等の理論構築、電子楽器の心臓部である音源とエフェクター用オリジナル・システムLSIやその上で動作するデジタル信号処理システムの開発があります。また、USBやBluetooth、Wireless LAN等の通信規格を利用したオーディオやMIDI(Musical Instrument Digital Interface)の伝送を行う通信技術及び、当社のネットワークサービスであるRoland Cloudのプラットフォームなどの開発も行っています。一方で、製品カテゴリーに特化した技術としては、鍵盤、パーカッションや管楽器などの演奏のためのセンサー技術、ギター関連事業製品のサウンド・エフェクト技術、ビデオ映像機器用の映像処理技術などの開発があります。

当社では要素開発の機能を製品開発の部門に持たせることで両者の距離を縮め、戦略的なテーマもスピード感をもって開発できるようにしています。

当連結会計年度の具体的な研究開発活動は次のとおりです。なお、当社及び連結子会社の事業は、電子楽器の製造販売であり、区分すべき事業セグメントが存在しないため単一セグメントとなっており、セグメント情報に関連付けては記載していません。

 

(a)鍵盤楽器

電子ピアノ製品において、当社は長年モデリング音源技術による表現力向上に取り組んできました。2023年3月には、最新のモデリング音源と新開発した鍵盤、ペダル、再生系を連携した技術「ピアノ・リアリティ・テクノロジー」を搭載したデジタル・グランドピアノ「GPシリーズ」を発表しました。ピアノの発音とホール音響特性をモデリングした臨場感の高い音源、弾き方による音の違いを忠実に再現する鍵盤センシング技術、マルチ・スピーカーと信号処理による立体感のある音場再現技術を搭載し、ピアノ演奏の表現力を高めました。また、当社音源技術「ZEN-Core」(注1)とコード検出技術を組み合わせた自動伴奏機能を搭載したポータブルピアノ「FP-E50」を2023年1月に発売しました。独自アルゴリズムによって、演奏に合わせてアレンジや音量がリアルタイムに変化するインタラクティブな自動伴奏機能を搭載することで、伴奏の臨場感を高めています。

(注1)オリジナル・システムLSIやコンピューター上で動作する拡張及びカスタマイズ可能なシンセサイザー音源をいいます。

 

(b)管打楽器

デジタル管楽器の製品において、2023年3月には「ZEN-Core」音源とサウンドをコントロールするブレスセンサーやバイトセンサーなどの演奏表現を高める技術を組合せた新製品「AE-20W」を発売しました。同時に、既存製品「AE-30」もソフトウエア・アップデートにより、本体はそのままで新しい機能を追加するなど、Aerophoneシリーズは管楽器ならではの表現力を実現しつつ、演奏の楽しみを広げる進化を続けています。

電子ドラムカテゴリーでは、2023年1月には「Vドラム」のエントリー・モデルとして、コンパクト・サイズながら本格的なサウンドや演奏感を家で楽しめる「TD-02KV」「TD-02K」を発売しました。新規開発された音源「TD-02」には上位モデルから継承したドラム・キット音色を搭載し、幅広いドラム・キットで様々な音楽スタイルに対応しました。別売りのアダプター「BT-DUAL」(BOSS ブランド) によりスマートフォンなどとワイヤレス接続し、手軽に好きな曲と一緒に演奏することを可能にしました。

また、2023年11月には「DW」ブランドからアコースティック・ドラム、電子ドラムどちらでも演奏を楽しめるコンバーチブル・ドラム・キット「DWe」のラインアップを発売しました。DWの高品質なシェルや独自の電子技術に加え、当社の電子ドラムの技術や知見を融合させることで、まったく新しいドラム・キットとして誕生しました。電子ドラムとして使用する際には、ドラム・パッドとPC(ソフトウエア音源)のワイヤレス接続を実現したことでケーブル接続の手間なく電子ドラムの演奏を楽しめます。また、DWドラムの名器サウンドを収録したソフトウエア音源「DW Soundworks」と連携することを可能にしました。

 

(c)ギター関連機器

2023年はBOSSの前身となるメグ電子の創業(1973年)から50年を迎えました。BOSSブランドでは創業当時からギタリストに愛され続けているアナログ製品の開発とともに、長年にわたるエフェクト/アンプ開発で培ってきた知識と経験を自社システムLSIに実装し、多くの新たな製品提案をしました。

2023年5月には、唯一無二のヴィンテージ・デジタル・ディレイとして今もなお高く評価されている「SDE-3000」を再現した「SDE-3000D」を発売しました。サウンドを忠実に再現するだけでなく、現代のニーズに応える機能をフロア・タイプにまとめることで高い汎用性を得ています。2023年6月には、「SDE-3000」を愛用したギタリストEddie Van Halenが構築したウエット/ドライ/ウエットの独自セットアップによる迫力あるサウンドを再現するバリエーション・モデルとして「SDE-3000EVH」を発売しました。

2023年7月には、最新のテクノロジーをアナログ回路と融合させたディレイ「DM-101」を発売しました。信号経路にはBBDと呼ばれる電子部品を採用し温かく包み込まれるディレイ・サウンド(注2)を実現しながら、回路をCPUで制御することにより多彩なサウンドやメモリー機能、MIDIコントロールへの対応など、現代のギタリストに不可欠な機能を実現しています。

2023年8月には、新方式のギター・シンセサイザー・システムを発売しました。各弦の信号を独立して検出するディバイデッド・ピックアップ「GK-5(ギター用)/GK-5B(ベース用)」は、信号伝送方式を従来のアナログからデジタルに変更することで安定した通信を実現しています。また、システムのコアとなるギター・シンセサイザー「GM-800」は音声信号からMIDI信号へのトラッキング性能を向上させることで自然な弾き心地を実現するとともに、ZEN-Core音源エンジンをこのカテゴリーで初めて採用し、多彩で高品位な音色を提供しています。

同2023年8月には、自宅において至高のアコースティック・サウンドを実現するアンプ、「AC-22LX」を発売しました。タッチに対して素直に呼応するアコースティック楽器の豊かなサウンドを余すところなく再現するとともに、高い専門性を備えたサウンド・エンジニアによるマイキング・サウンドを再現するAIR FEEL機能を搭載しました。

2023年10月には、MDP(注3)を駆使することで原音を損なうことなくノイズを取り除くノイズ・サプレッサー「NS-1X」を発売しました。極めて自然にノイズを除去するREDUCTIONモードだけでなく、ハイゲイン・サウンドでの演奏時にキレをよくするGATEモードを搭載することで、新しい演奏表現をギタリスト/ベーシストに提供しています。

(注2)発音のタイミングをずらして、エコーや広がりを持たせる効果を付加した音のことをいいます。

(注3)Multi-Dimensional Processing:入力された音声を瞬時に解析し、時間経過に伴う変化に対し最適な処理をリアルタイムに行うBOSS独自の多次元的信号処理技術をいいます。音楽的な表現力を失うことなく最適な効果を付加することで、従来にはないサウンドが得られる画期的な先進技術です。

 

(d)クリエーション関連機器&サービス

シンセサイザーカテゴリーにおいて、国産初のシンセサイザー「SH-1000」を1973年に発売してから50周年を迎える節目の年となる中、3つの新製品とフラグシップ・シンセサイザーのアップグレード・キットを発売しました。

2023年3月には、多彩なサウンド作りが可能な11種類のオシレーター・モデルを新規開発し、スタジオやステージはもちろん、外出先でもUSBバス電源で使用できる汎用性の優れたデスクトップ・シンセサイザー「SH-4d」を発売しました。2023年5月には、ポケットサイズで場所を選ばず楽しめるAIRA Compactシリーズの新モデル「S-1」を発売しました。ローランド往年のアナログ・シンセサイザー「SH-101」をデジタルで再現した音源とモーション・センサーを内蔵し、楽器本体を傾けることで音程を変化させたり、音を左右に揺らしたりしてサウンドに効果を加える「D-Motion」を新開発しました。2023年10月には、アナログ・シンセサイザー由来の直感的なサウンド作りプロセスを受け継ぎつつ、これまで表現できなかった先進的なサウンドを可能にし、また、演奏性に優れたフルサイズの37鍵キーボードを搭載したシンセサイザー「GAIA2」を発売しました。当社独自のアナログシンセ・モデリング音源技術やウェーブテーブル音源技術によりスピーディーなサウンド作りを行えるのに加え、新規開発のモーショナル・パッドやシーケンサーにより、ダイナミックな動きをもつ複雑なサウンドやフレーズを簡単に作成することができます。

また、2023年11月に、アップグレード・キットとして、フラッグシップ・シンセサイザー「FANTOM-6/7/8」に当社独自のACB(注4)を新たに追加したことを含む「FANTOM EXアップグレード」をリリースしました。

音楽・メディア制作者向けのクラウドを利用したソフトウエア音源のサブスクリプション・サービスである「Roland Cloud」においては、ネットワーク上のプラットフォームの整備、サービスの拡大を継続して行っています。2023年7月には、ゲーム実況配信時にBGMや効果音が流せるサービス「BGM CAST」を公開しました。ユーザーの嗜好に合わせてBGMを自動的に流し続ける独自の選曲アルゴリズムを搭載し、ゲーム実況配信を盛り上げます。また、2023年11月には、Roland Cloud上の40種以上のソフトウエア音源や20,000種以上の音色を統合的に扱えるアプリケーション・ソフトウエア「Galaxias」をリリースしました。Galaxiasの音作りから音源制御までの統合環境により、新しい音楽制作の可能性が拡大していきます。

(注4)Analog Circuit Behavior:アナログ電子楽器の音色を再現するため、アナログ・パーツの特性、アナログ回路独特の振舞いをデジタルでモデリングする技術をいいます。

 

(e)映像音響機器

アフター・コロナとなり、ステージのリモートでの演出が一般化した一方で、従来からのライブ演出も復調し、多種多様なイベントが活況です。このような状況において、当社のAVミキサーのVRシリーズや、ビデオ・ミキサーのVシリーズはそれらイベントでの需要に応えています。2023年6月には、4K AVストリーミング・ミキサー「VR-400UHD」を発売しました。「誰にでもプロの演出を行える」をコンセプトにし、ビデオ機器に詳しくないユーザーも簡単に扱えるビデオ・スイッチャーとなっています。従来のVRシリーズで好評を得ている、ビデオ、オーディオ、ストリーミング機能をオールイン・ワンパッケージ化し、4K対応により高画質の映像演出を実現しています。VRシリーズの特徴でもあるUSBストリーミング出力においても4K対応を実現し、コンピューターを用いた高品位な配信が可能です。また新たにプレビュー付シーン機能も搭載しました。合成済みの画像を常に動画として複数プレビュー表示できるシーン機能と大型タッチスクリーンにより、出力したい映像をタッチで選択することを実現しています。

ヘッドホンカテゴリーでは,当社が30年以上にわたり蓄積した電子ドラム開発技術とV-MODAのヘッドホン開発技術を結集させ、独自チューニングで電子ドラムのサウンドを余すところなく引き出し、快適でストレスなく演奏に集中できるヘッドホン「VMH-D1」を2023年2月に発売しました。

 

以上のような研究開発活動の成果により、当連結会計年度の研究開発費は、5,187百万円となりました。