第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

髙島屋グループ(以下、当社)の経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社が判断したものであります。

 

(1)経営方針

2024年度は、「グランドデザイン元年」として、当社グループが目指す将来の姿を社内外に発表しました。グループ内では全社を挙げて「車座ミーティング」を実施、一人ひとりがグループの価値観を共有し、将来の道筋を考え、自らの具体的行動に落とし込む取組を進めました。また、社外に向けては、新たな「中期経営計画(3カ年)」を公表、グランドデザイン実現に向け具体的施策の実行フェーズに入ったことを示しました。12月には「統合報告書」を初めて発行し、各ステークホルダーへの価値創造ストーリーを説明しています。

 経営管理手法としては「ROIC」を導入し、各社・事業部・店別でROICツリーを作成、一人ひとりの行動が利益につながる意識を醸成しました。

2025年度の経営環境は、コロナ後の上向きな消費環境が一段落し、世界的な地政学リスクが日本の金融市場(金利・為替・株価)や経済(物価・消費・訪日外国人需要)にどのような影響を及ぼすか、引き続き注視が必要な状況です。このような中でも、グループとして確実に持続的成長の階段を駆け上がることと、2031年のグランドデザイン実現から逆算し、「すべてのステークホルダーの『こころ豊かな生活を実現する身近なプラットフォーム』」形成に向けて加速することの、両軸での取組実現が求められます。

複雑な経営環境での持続的成長の実現には、働く一人ひとりはもちろんのこと、グループ各事業がそれぞれの分野で市場競争力を高めていく「自立」が求められます。そうして独立した個人や組織が相互に連携し、「共創」のうねりを生み出すことで、成長を加速させることを企図し、2025年度の経営目標・経営課題を次のとおりに定めております。

 

[経営目標]

自立と共創のうねりによる成長加速

―グランドデザイン実現に向けた「グループのシームレス化」の始動―

 

[主要な経営課題]

① グループの総力で創りあげる「次世代型SC」

② 価値創造の源泉となる営業力強化

③ 個人の成長支援に向けた組織・土台づくり

④ 営業活動を軸としたESG経営の実践

⑤ 成長領域での更なる存在感の発揮

 

2025年度は、グランドデザインで掲げる「あるべきグループ像」の実現に向けて、重要な戦略要素である「グループのシームレス化」を始動します。当社グループは、「店舗の立地特性」「優良なグループ会社」、そして各拠点・各組織で培った「幅広い顧客基盤」という「3つの強み」を有しております。国内・海外の各拠点(百貨店・専門店)、EC、金融などグループで取り扱う商品、サービス、情報の総和は、当社グループならではの競争優位性であります。この強みを更に昇華させるべく、お客様視点でグループの各事業が等距離にある状態、すなわち「シームレス化」を実現し、お客様にストレスなく、かつ感動を与える購買体験を創出してまいります。そのために、グループ内で取り扱うすべての商品・サービス・情報から、お客様それぞれのご要望に合わせた最適な提案を行うなど、シームレスの具現化に向けた検討を進めてまいります。

 

 

 

(2)経営上の目標達成状況を判断するための客観的な指標等

2026年度(中期経営計画の最終年度)の連結経営目標は以下の通りです。

〇営業利益             600億円 ( 2024年度比      + 25 億円)

〇自己資本比率            40.0% (    同        + 3.5% )

〇ROE              8.2% (    同        △ 0.3% )

〇ROIC(投下資本利益率)     6.1% (    同        △ 0.3% )

 

また2025年度の連結経営目標は以下の通りです。

〇総額営業収益             10,700億円 ( 2024年度比      + 373億円)

〇総額営業収益販売管理費比率      23.4% (    同       △ 0.1% )

〇営業利益             580億円 (    同        +  5億円)

〇自己資本比率            38.0% (    同        + 1.5% )

〇ROE(当期純利益/自己資本)   8.2% (    同        △ 0.3% )

〇EBITDA総資産比率       6.3% (    同        + 0.1% )

〇純有利子負債EBITDA倍率    1.6倍 (    同        + 0.2倍 )

〇ROIC(投下資本利益率)     6.2% (    同        △ 0.2% )

 

(3)経営環境及び対処すべき課題

2025年度の経営課題を「グループの総力で創りあげる次世代型SC」「価値創造の源泉となる営業力強化」「個人の成長支援に向けた組織・土台づくり」「営業活動を軸としたESG経営の実践」「成長領域での更なる存在感の発揮」と定めております。

 

□グループの総力で創りあげる「次世代型SC」、価値創造の源泉となる営業力強化

グランドデザイン実現に向け、「次世代型SC」への転換は「まちづくり」における重要な取組であります。個人と組織の「自立」と相互の「共創」という考え方の下、グループ各事業のノウハウを結集し、それぞれの経営資源を相互に活用することで「館の魅力最大化」につなげてまいります。「次世代型SC」の特徴は3点あり、1点目は、「新たなコンテンツ導入による来店動機の創出」であります。SCがリアルな存在としてお客様に支持され続けるためにも、お買物やお食事だけではない「プラスαの体験価値」の提供により、広域かつ幅広い世代のお客様のご来店を促進し、賑わいを創出してまいります。

2点目は、「地域の社会インフラとしての機能具備」であります。「まちづくり」をグループ総合戦略として掲げる当社において、「地域社会」というステークホルダーへの貢献は必要不可欠であります。SCが有する「誰もが知っている」「便利な場所にある」「大きな施設」という資質をいかし、地域コミュニティー形成や循環型社会のターミナルとしての役割発揮、再生可能エネルギー導入・都市緑化の象徴的施設としてのメッセージ発信、さらに、防災拠点として避難場所・ライフラインの供給機能の拡充を進めてまいります。

3点目は、「百貨店の存在をより活用すること」であります。百貨店・専門店それぞれの強みをいかすだけではなく、百貨店が有するお客様情報の利活用やフロア構成の最適化などにおいて、より踏み込んで連携することにより、拠点全体としての魅力向上を実現してまいります。

「次世代型SC」においても中核となるのは百貨店であります。髙島屋ブランド価値を高めていくために、百貨店の魅力そのものを向上させるべく、「より心豊かな暮らし」や「新しいモノ・コト」への期待といったお客様の根源的・普遍的なニーズに応える力を商品政策や顧客政策、販売・サービス政策を通じて高めてまいります。

また、管理手法においても、2025年度から導入する「店別貸借対照表(バランスシート)」をベースに、百貨店・専門店を区切らず、SC全体としてのROICを算出・検証するサイクルを構築し、「拠点利益」を意識した経営を進めることでROIC経営を定着させてまいります。

 

□個人の成長支援に向けた組織・土台づくり

当社は、経営理念「いつも、人から。」が表すとおり、「人」で成り立つ企業集団であります。エンゲージメントと生産性向上の好循環を促し持続的成長につなげるべく、人的資本経営、すなわち多様な人材の活躍支援や積極登用に加え、グループ横断での人材育成にも取り組んでまいります。また、土台となる組織風土におきましては、DE&Iの考え方の下、従業員個々の能力を最大化させていくマネジメントを実践してまいります。さらには、昨年公表いたしました「カスタマーハラスメントに対する基本方針」で策定した方針の実効性を高めるべく、定期的なモニタリングを行うなど、お取引先従業員も含め安心して能力を発揮できる環境を継続して整備してまいります。

 

□営業活動を軸としたESG経営の実践

グループの持続的成長には、「地球環境」を含めたすべてのステークホルダーと利益を共に分かち合い、相互にエンゲージメントを高めていく仕組みの創造が必要であります。従業員一人ひとりがESG経営に取り組む姿勢を理解し、主体的に行動できる風土醸成を進めていくと共に、多くのお客様との接点がある当社ならではのメッセージを発信していくことで、その効果を最大限に発揮してまいります。

象徴的な取組である「TSUNAGU ACTION」におきましては、グループ各組織の事業特性・経営資源をいかし、取組を加速してまいります。持続可能な発展に不可欠な収益性の視点を強化し、社会課題解決と両立した「サステナブルな収益拡大」を目指してまいります。

なお、ESG経営のガバナンス・戦略・リスク管理とリスクに対する取組・指標と目標については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (1)当社のESG経営」に記載しています。

 

□成長領域での更なる存在感の発揮

海外と金融を成長領域と位置付けている中、海外事業におきましては、「シンガポール髙島屋S.C.」で培ったノウハウやパートナーシップをいかし、成長市場であるベトナムでの開発を段階的に進めてまいります。また、金融事業におきましても、カード事業に加え、新たな領域にチャレンジし事業基盤を拡大してまいります。これら成長領域で利益増大を図っていくことで、創業200周年を迎える2031年には、グループ利益水準(連結営業利益+持分法投資利益+東神開発のベトナム関連会社からの配当益)を750億円から800億円と見込んでおります。さらに、海外事業の利益シェアは2023年度の28%から33%、百貨店事業以外の利益シェアは2023年度の38%から、約半分となる47%まで引き上げ、経営環境の変化に柔軟に対応できるバランスの良い事業ポートフォリオを同時に実現してまいります。

 

事業のセグメント別の取組は、次のとおりであります。

なお、当連結会計年度より、事業ポートフォリオの最適化、事業別の投資効率、収益性などを明確にするROIC経営を更に推進することに伴い、報告セグメントの区分を変更しております。詳細は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(セグメント情報等)」に記載のとおりであります。

 

<国内百貨店業>

営業力強化に向けて、商品政策では、当社の強みの一つである東西大型5店を軸に「魅力ある品揃え」の実現に向け、バイイングパワーを高めてまいります。継続的課題になっております商品利益率につきましては、今後も重点お取引先と連携し、正価品強化など商品利益率改善に向けた取組を進めてまいります。さらに、「アイテム平場」「自主編集売場」の再強化や、新たなモノ・コト開発を進めていくことで、実店舗の強みをいかしたワンストップでの体験価値を提供してまいります。

ECにおきましては、引き続きお客様のニーズに沿った展開ブランドの拡充やサイト・アプリの特徴化、利便性を高める取組を推進してまいります。また、実店舗を持つ強みをいかし店頭とECの相互送客により顧客接点を拡大することで、新たなお客様の獲得や収益力の向上につなげてまいります。

顧客政策では、4月から髙島屋の各種カードのポイントが「1ポイント単位で利用可能」となったことを契機に、カード戦略のリブランディングを始動、既存顧客の満足度向上と次世代顧客獲得の両立に取り組んでまいります。また、タカシマヤアプリにおきましても、特典付与機能の強化に加え、デジタルでのアプローチなど、重要な顧客接点ツールとしてアプリの魅力を高めてまいります。

さらに、シンガポールなど優良な海外店舗を有するという強みをいかした国内店舗との相互送客により、国境を越えた買い回りを促進し固定化を図ってまいります。

なお、2026年1月7日をもって営業を終了する堺店につきましては、これまでご利用いただいているお客様に、引き続き大阪店や泉北店を中心にご愛顧いただける体制を整えてまいります。

 

<海外百貨店業>

シンガポール髙島屋におきましては、経営環境が不透明な中、ファッション関連商品や食料品など品揃えの再強化に加え、顧客政策を推進することで、国内顧客やツーリストの維持・拡大を図ってまいります。

上海高島屋におきましては、景気低迷による消費減速が長期化する状況下、お客様ニーズに基づいたテナントの導入など、収益基盤の安定化に継続して取り組んでまいります。

ホーチミン髙島屋におきましては、2024年12月にホーチミン市で初の都市鉄道が開通したことを受け、商品カテゴリー・ブランドの再編や催・イベントの強化により店舗の集客力を高め、売上を増大させてまいります。

サイアム髙島屋におきましては、化粧品売場のリニューアルに続き、今後も新規テナントの導入など、各フロアの改装オープンを予定しており、改装効果の最大化に向けた取組を推進してまいります。

 

<国内商業開発業>

東神開発株式会社が段階的に改装を実施してきた「柏髙島屋ステーションモール」におきましては、2025年2月に千葉県柏市の施設である「柏駅前行政サービスセンター」など3つの施設が新たにオープンいたしました。これにより2023年9月から進めてきたリニューアルが完成いたしました。今後もさらに便利で利用しやすい場を目指してまいります。また、「玉川髙島屋S・C」におきましては、2025年4月に西館ストリートをリニューアルし、話題の4店舗を誘致したフードコート「P.」が開業いたしました。これにより、歩道と空間、地域をつなぐ、新たなお買物環境を提供してまいります。

 

<海外商業開発業>

成長ドライバーと位置付けるベトナム開発におきましては、東神開発株式会社がハノイでの住宅・オフィス・商業の複合開発事業を始めとした投資を集中的に行い、シンガポールに次ぐ第2の収益の柱として成長性と収益性を追求してまいります。

 

<金融業>

「髙島屋ネオバンク」を活用した積立サービス「スゴ積み」では、従来の12カ月積立コースに加え、新たに半年積立コースを導入いたしました。短期間での積み立てで、ボーナスをプラスした金額をお買物にご利用いただけます。これにより、新たなお客様の入会を促進し、顧客接点の拡大につなげてまいります。

また、髙島屋ファイナンシャル・パートナーズ株式会社におきましては、住信SBIネット銀行を所属銀行とする銀行代理業の許可を取得いたしました。日本橋店・横浜店・大阪店のタカシマヤファイナンシャルカウンター等で「銀行商品」のご案内を開始し、証券・保険・相続・信託を含めた総合的な金融相談やサービスの提供を進めてまいります。

さらに、子会社化したヴァスト・キュルチュール株式会社との相互送客を推進していくなど、IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)市場での事業を拡大し、質の高いプライベートバンクサービスを提供することで、当社グループの顧客基盤を盤石化させると共に、金融業の利益増大を図ってまいります。

 

<建装業>

髙島屋スペースクリエイツ株式会社におきましては、ベトナムに住宅内装事業を手掛ける新会社を設立いたします。生活水準の向上により今後高まっていくことが予想される、日本クオリティーの住宅内装需要を確実に捉えてまいります。

 

<その他の事業>

飲食業の株式会社アール・ティー・コーポレーションにおきましては、昨年、セントラルキッチンの新拠点が始動いたしました。既存拠点と併せて活用することで製造加工・調達物流の効率化を図ると共に、独自性のある商品開発を更に推進してまいります。

株式会社センチュリーアンドカンパニーにおきましては、百貨店で培ったクオリティーの高い業務運営力をいかし、受注拡大を図ってまいります。

また、広告宣伝業の株式会社エー・ティ・エーにおきましては、デジタル領域の専門性強化を推進してまいります。

 

引き続き、各事業におきまして、業界競争力を高めていくことにより、安定的な収益基盤の構築につなげてまいります。

 

(4)資本政策の基本的な方針

<基本的な考え方>

当社は、将来の事業リスクへの備えおよび持続的な成長投資に向けた資金調達のため、自己資本拡充と有利子負債の縮減により財務健全性を高めていきます。

主要な経営指標(KPI)として、ROIC、EBITDA、自己資本比率、DOE(株主資本配当率)、TSR(株主総利回り)を設定しております。特に資本コストを意識した経営の実現に向けた取組として、ROIC経営を推進しております。2024年度のROICは6.4%とWACC4.8%を上回りました。今後も、百貨店各店含む各事業体で特性を踏まえたROICツリーを活用、現場一人ひとりが意識し行動できる仕組みを構築してまいります。EBITDAについては、財務安定性の観点から、純有利子負債EBITDA倍率、現金創出力の観点から、総資産対EBITDA比率を設定しております。

各経営指標については、決算説明会資料(※)で開示しております。

※ https://www.takashimaya.co.jp/corp/ir/tanshin/

 

 

<キャッシュアロケーションの想定>

当社では、営業キャッシュ・フローに占める、持続的成長に向けた設備投資への配分が約80%から90%想定されます。その内訳は、商業開発を中心にした国内外成長投資に約70%、店舗の安全安心投資、ESG・人的資本投資に約30%です。

また、財務健全性の観点については、数年以内に適用が予定されるリース会計基準を見越した有利子負債圧縮に向けた支出が営業CFの3%から5%想定されます。

株主還元へは、営業CFの7%から10%を想定します。

 

<株主還元>

配当は、純資産増加をベースとした累進配当に加え、EBITDA又は営業CF比率を考慮します。業績が好調に推移するなど、フリーキャッシュ・フローが想定以上に改善した場合は、投資額の増加、さらなる有利子負債圧縮、追加の株主還元から総合的に判断します。

 

 

 

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社のサステナビリティに関する考え方及び取組は、以下のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社が判断したものであります。

 

(1)当社のESG経営

 当社のグループ経営理念「いつも、人から。」は、SDGsが目指す「誰一人取り残さない」社会の実現と強く結び付くものです。2006年には、経営理念をもとにCSR活動領域を策定し、現在もそれに即した経営の推進や情報の開示を行っています。活動領域には、事業活動を通じて得た利益をさまざまな人々に還元する「経済的役割」や「コンプライアンス(法令遵守)」といった基本的な活動に加え、「企業倫理」に基づく行動や新しい価値の創造、社会問題の解決など「社会的役割」の実現といった活動があります。

 

 こうした従来のCSR経営にSDGsの概念を融合し推進しているのが、「グループESG経営」であり、「すべての人々が 21世紀の豊かさを実感できる社会の実現」に貢献していくことをめざしています。これにより、「環境に優しいより豊かな生活・文化」「多様な価値観への対応、多様な人材の活用」「お客様視点に立った経営」など、当社ならではの価値提供を通じ、ステークホルダーの皆様からの共感を獲得していきます。

 

 ESG経営の重点課題につきましては、「脱炭素化推進RE100」や「ダイバーシティ推進」をはじめとする10の項目を設定しています。例えば、脱炭素化推進では、2024年8月より大阪店・京都店において、オフサイト型PPAによる再エネ調達を開始いたしました。また、ダイバーシティ推進では、女性の活躍・ジェンダー平等に向けた取組や、外国人の労働者としての受け入れと生活者としての支援など、多様な価値観や能力を尊重し、あらゆる人材がその能力を最大限発揮でき、やりがいを感じられるダイバーシティ&インクルージョンの実現に向けた環境整備や意識啓発に取り組んでいます。

 

 グループESG経営を推進することで、従来型のビジネスモデルから脱却し、時代や社会の要請に合わせて変革していくことが重要であり、結果として社会課題の解決はもちろんのこと、事業成長の好機にもつながるものと考えます。

 

 当社がグループ総合戦略として位置づける「まちづくり」(以下、まちづくり戦略)も、コミュニティーやサステナビリティの観点からESG経営と密接な関係にあります。「街の賑わいを創出し、地域との共生を図る」「商品や環境、サービスを通じて新しい価値を提案・提供する」ことは、さまざまな社会課題の解決に応用・発展させていくことができます。

 

 さらに当社は百貨店を中核に国内外で各グループ事業を展開しており、また優良な顧客基盤や店舗の立地、お取引先とのネットワークを有していることから、地球上のさまざまな問題にアプローチできる強みやポテンシャルを持ち合わせています。まちづくり戦略を推進する中で、短期的・中長期的両方の視点で社会課題の解決に取り組むことで、グループのさらなる成長を目指すとともに、持続可能な社会の実現に貢献していきます。

●グループESG経営概念図

 

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なお、ESG経営については、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (3)経営環境及び対処すべき課題 □営業活動を軸としたESG経営の実践」にも記載しています。

 

① ガバナンス

 当社では、グループESG経営の推進を通じ、社会課題解決と企業価値の向上・持続的成長を図り、お客様や株主・投資家をはじめとしたステークホルダーの皆様からのご期待に応えるため、コーポレート・ガバナンスの強化および内部統制システムの整備に取り組んでいます。具体的には社長を委員長とする「髙島屋グループCSR委員会」を設置し、サステナビリティに関する重要事項について議論・確認を行い、取締役会に報告を行っております。

 

 「髙島屋グループCSR委員会」は、半期に一度開催し、ESG重点課題の進捗状況および新しい社会課題に対する取組状況をグループ横断的に検証し、強化する体制を整えています。また、議論された内容については取締役会に報告し、取締役会による監督体制のもと、取組に対するガバナンスの強化に努めています。

 

 なお、内部統制システムの体制図については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1)コーポレート・ガバナンスの概要 ③企業統治に関するその他の事項」に掲載しております。

 

●ESG重点課題 推進体制図

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●髙島屋グループCSR委員会の主な議題

本委員会は、当社取締役・執行役員に加え、グループ事業会社の社長が参加しました。議題は以下の通りです。

 

2023年度

1回目

(2023年8月)

・TSUNAGU ACTION

・従業員エンゲージメント可視化・向上

・サステナビリティ重点課題進捗状況

・人権を尊重する経営のさらなる実践

2回目

(2024年2月)

・2023年度「ガバナンス・サステナビリティ重点課題」検証

・改正障害者差別解消法への対応

・人的資本経営

2024年度

1回目

(2024年8月)

・外部講師による講演

 「ESG最新動向(人的資本・生物多様性・サプライチェーン・人権

 など)」

・TSUNAGU ACTION

・お取引先従業員を含むエンゲージメント可視化・向上

・サステナビリティ重点課題進捗状況

・グループ廃食用油 “SAF化” への取組

2回目

(2025年2月)

・外部講師による講演

 「サステナビリティ経営に関する日本企業の現在地と今後の課題」

・2024年度「ガバナンス・サステナビリティ重点課題」検証

・お取引先アンケート実施報告(サプライチェーンマネジメント)

 

② 戦略

 当社は、事業活動を通じ、SDGsの達成に強く寄与できる取組を環境・社会の2領域に落とし込み、領域ごとに10項目の重点課題(マテリアリティ)を策定し、取組を推進しています。

 

 また、ESGの考え方を経営の中心に据え、広範囲かつビジネスに直結する取組とするためには、より多くのステークホルダーの支持・共感を獲得することが重要です。当社が、生活・文化・地域社会を支えるプラットフォームとしての役割を一層発揮し、お客様・お取引先・地域社会とともに、チャネル全体でESG経営を推進することで、持続可能でこころ豊かな生活の実現に貢献していきます。

 

 その一環として、2023年度よりお客様・お取引先との共創による当社のサステナブル活動

「TSUNAGU ACTION」を拡大展開。「環境負荷軽減とデザイン性・機能性」を両立する商品開発や、多様性を尊重する(インクルーシブ化)商品提案や施設・サービスなど、当社ならではの価値提供を通じて、サステナブルなライフスタイルを提案しています。なお、2024年度の取組は、サステナビリティサイト(※)をご覧ください。

※ https://www.takashimaya.co.jp/corp/csr/

 

 また、企業の持続的成長や価値向上に直結する「人的資本」への投資は、社会のサステナビリティと企業の利益創出を両立する上で不可欠な戦略投資です。当社は、専門性や多様な価値観を持つすべての人の価値を最大限引き出し、お取引先からの派遣スタッフを含めた従業員が、主体的に生き生きと成果発揮できる企業を目指し、人的資本経営を推進していきます。人的資本の詳細については、「(2)サステナビリティに関する個別課題 <人的資本・多様性>」に記載しています。

 

 

●重点課題とアクションプラン

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③ リスク管理

 当社は、気候関連課題などのサステナビリティ課題を含む事業へのリスクについて、社長を委員長とする「髙島屋グループCSR委員会」および「髙島屋グループリスクマネジメント委員会」にて、当社の業務執行に関わる様々なリスクを抽出・評価し、リスクの未然防止およびリスク発生時の損失極小化に向けた対応などについて、協議を行っています。なお、リスク特定・評価に関する議論内容は最終的に取締役会へ報告しています。また、当社は、脱炭素社会の実現に向けた「RE100」や「EV100」の推進、廃棄プラスチックや食品ロスの削減、循環型ビジネスの構築などに取り組むとともに、自然災害の激甚化に伴う営業機会損失を最小限に抑制するため、店舗や施設のレジリエンスを高める設備投資や、サプライチェーン上の人権リスクの未然防止・軽減に向けた人権デューデリジェンスの体制整備などに取り組んでいます。

 

 上記のリスク管理の詳細は、「3 事業等のリスク」に記載しています。

気候変動に関するリスク(シナリオ分析に基づくリスク・機会及び財務影響等)については、

(2)サステナビリティに関する個別課題 <気候変動への対応>」に記載しています。

 

④ 指標と目標

 ESG重点課題に関するKPIを設定し、取組の実践とモニタリングを行っています。

気候変動に関する指標と目標については、「(2)サステナビリティに関する個別課題 <気候変動への対応>」にも記載しています。

 

●重要課題とKPI

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(2)サステナビリティに関する個別課題

 

 <気候変動への対応>

 当社は、経営理念における「5つの指針」の1つに「地球環境を守るためのたゆまぬ努力」を掲げ、「髙島屋グループ環境方針」においても、地球温暖化防止やCO2排出量削減を掲げ、環境課題解決につながる21世紀の心豊かなライフスタイルを提案することをめざしています。

 

 このグループ環境方針は、ESG経営で掲げる環境課題の解決につなげる当社の基本的姿勢でもあり、お客様やお取引先、地域社会など多くの人々との直接的な接点を持つという事業特性を生かしながら、環境方針に基づくさまざまな活動に取り組んでいます。

 

 しかし一方で、近年は気候変動や資源の枯渇、生物多様性の減少といった環境問題が、世界規模で深刻化しており、環境問題への取組の重要性や緊急性が、ますます高まっています。特に中核事業である百貨店事業では、化石燃料などの地下資源に由来する電力の大量消費や、プラスチックや食品ごみの大量廃棄、衣料品の過剰在庫など、現行のビジネスモデルが環境負荷を前提としていることを、根本的なリスクと捉えています。

 

 そこで当社は、従来型のビジネスモデルから、地球資源を再生・修復するビジネスモデルへと変革し、環境課題解決と事業成長の両立に取り組みます。それに伴い、当社はTCFD提言に賛同し、TCFD提言が推奨する「ガバナンス」「戦略」「リスク管理とリスクに対する取組」「指標と目標」の4つの開示項目に基づき情報開示のさらなる拡充を図ってまいります。

 

{TCFD提言が推奨する開示項目に沿った情報開示}

 TCFD提言が推奨する4つの開示項目<ガバナンス><戦略><リスク管理><指標と目標>と、項目毎の具体的な開示内容に基づき、当社は、気候関連情報を開示しています。

 

① ガバナンス

 気候変動に関するガバナンスは、サステナビリティ全般のガバナンスに組み込まれています。体制図を含む詳細については、「(1)当社のESG経営 ① ガバナンス」に記載しています。

 

② 戦略(気候関連シナリオ分析)

a.短期・中期・長期のリスク・機会の詳細

 当社は、将来の気候変動が事業活動に与えるリスクと機会、財務影響を把握するため、従業員選抜型ワークショップを開催し、TCFDが提唱するフレームワークにのっとり、シナリオ分析の手法を用いて、2050年時点における外部環境変化を予測し、分析を実施しました。気候変動に伴う自然環境の変化や資源の枯渇などは、長期間にわたり当社の事業活動に大きな影響を与えるため、百貨店のみならずグループ事業全体において、従来型のビジネスから、地球資源を再生・修復するビジネスへと変革していくことが必要であると認識しています。当社が目指す将来社会を見据え、環境・社会領域におけるESG重点課題10項目は、2030年時点の達成目標(中長期)や、年度ごとの数値目標(ロードマップ)を設定し、PDCAサイクルにて進捗管理を行っています。

 

b.リスク・機会が事業・戦略・財務計画におよぼす影響の内容・程度

 TCFDが推奨する気候変動関連リスクを移行リスク・物理的リスクの2つのカテゴリーに分類し、当社の事業活動に甚大な影響をおよぼす可能性がある主要なリスク項目を特定しました。また、「2℃以下シナリオを含む、さまざまな気候変動関連シナリオに基づく検討」を行うため、当社は、IPCCやIEAなどのシナリオを参考に、事業活動や財務におよぼす影響を分析し、持続可能な成長に向け、その対応策を検討・推進しています。当社のシナリオ分析は、パリ協定の目標である「2℃未満」と、CO2排出量削減が不十分な「4℃」の2つのシナリオを想定し、TCFDが推奨する典型的な気候関連リスクと機会を参考に分析を行いました。

 

 

想定シナリオ

 

2℃未満

シナリオ

気候変動対応の厳しい法規制施行による事業運営コストの増加

エネルギーコストや商品価格の高騰に伴う、商品調達リスクの拡大

消費者の環境意識の高まりによる新たなマーケット獲得

4℃

シナリオ

自然災害の多発・激甚化に伴う店舗被災、サプライチェーンの断絶など、営業機会の損失

エネルギー価格の高騰や資源不足に伴う商品調達リスクの拡大

環境負荷を前提としたビジネスモデルから脱却できない企業に対する市場からの淘汰

 

●髙島屋グループのリスク・機会の概要と事業及び財務への影響

 ◎:非常に大きい ○:大きい 0102010_006.png:非常に大きくなる 0102010_007.png:大きくなる 0102010_008.png:軽微

リスク・機会

の分類

髙島屋グループ 気候変動関連リスク・機会の概要

事業及び
財務への影響

+2℃未満

+4℃

市場と

技術

* 再生可能エネルギーへの転換に伴う調達コスト増加

* 環境マーケット需要の獲得遅れに伴う競争力低下

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評判

* 環境課題への対応遅れに伴うステークホルダーからの

  信用失墜、ブランド価値の毀損、組織会員離反

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政策と

* 炭素税の導入、プラスチック循環促進法への対応など、

  規制強化に伴う事業運営コストの増加

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物理的

リスク

* 大規模自然災害の発生に伴う店舗閉鎖や、サプライチェーン

  断絶に伴う営業機会損失

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エネルギー源

* 省エネ推進に伴う電力使用コスト削減

* 災害に備えた事業活動のレジリエンス確保

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市場

* ESG経営の推進によるステークホルダーからの共感獲得、

  企業価値向上

* 高まる環境意識に対応した商品・サービスの提供による

  マーケット獲得

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※+4℃の矢印は+2℃未満シナリオと比較した際の影響の大きさを示しています。

 

c.シナリオに基づくリスク・機会および財務影響とそれに対する戦略・レジリエンス

 2030年時点を想定した2つのシナリオにおける事業および財務への影響に関し、規制強化に伴う炭素税の導入や、再生可能エネルギー由来の電力調達コストが財務に影響をおよぼすものと考え、2℃未満シナリオにおける財務影響を試算しています。

 

●髙島屋グループへの財務影響

2030年時点を想定した財務影響

炭素税導入

約25億円

コスト増

・IEA(※)の2℃未満シナリオにおける2030年の先進国

 国際炭素税価格(約11千円/t-CO2)を基準に、当社

 2019年時点のCO2排出量(約230,516t)より算出

再エネ由来の

電力調達

約16億円

コスト増

・現状の調達電気との料金格差(約4円/KWh)に、当社

 2019年時点の電力使用量(約392,824MWh)より算出

 

IEA(国際エネルギー機関)発行「世界エネルギー展望 World Energy
 Outlook2019」
参照

 

 当社は、気候変動関連リスクに対する事業活動や財務に与える影響などを踏まえ、持続可能な社会の実現に貢献することをめざし、社会課題解決と事業成長の両立を図る「グループESG経営」を推進しています。その一環として、2019年に事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギー由来の電力で調達することをめざす国際的イニシアチブ「RE100」に参加し、「2050年までに事業活動で使用する電力の100%を再生可能エネルギーに転換すること」を目標とし、脱炭素社会の実現に向けた取組を推進しています。また、店舗ごとに設備を省エネ効率の高い機器へと順次更新するとともに、既存照明をLED照明へ変更することにより、使用電力及びCO2の削減に努めており、国内百貨店では、2023年度について約5.3億円のLED化投資により、CO2排出量を1,266t-CO2削減しました。

 さらに当社は、まちづくり戦略を通じ、「街のアンカーとして役割発揮」「館の魅力最大化」に取り組むとともに、「TSUNAGU ACTION」などを通じ、環境に配慮した商品やサービス、店舗施設の提供など、新しい価値を提案する次世代商業施設づくりを推進し、新たなマーケット獲得に取り組んでいます。グループ経営においても、これまで百貨店に集中していた経営資源をグループ内で有効活用し、既存事業の収益強化と将来の成長に向け事業規模の拡大や新規事業の開発を進めるなど、気候変動関連リスクの抑制に努めるとともに、マーケット変化に積極的に対応し、新たなビジネス機会獲得に取り組んでいます。

 

③ リスク管理とリスクに対する取組

 気候変動に関するリスク管理およびリスクに対する取組は、サステナビリティ全般のガバナンスに組み込まれています。詳細については、「(1)当社のESG経営 ③ リスク管理」に記載しています。

 

④ 指標と目標

a.気候関連リスク・機会の管理に用いる指標

 当社は、気候関連リスク・機会を管理するための指標として、Scope1・2・3温室効果ガス排出量、および事業活動で使用する電力に占める再生可能エネルギー比率を指標として定めています。

 

b.温室効果ガス排出量(Scope1・2・3)

 百貨店事業を中核に位置付ける当社は、環境負荷を前提とした現行のビジネスモデルをリスクと捉え、環境課題の解決に向けて取り組んでいます。2019年、事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギー由来の電力で調達することをめざす国際的イニシアチブ「RE100」に参加し、脱炭素化推進に取り組んでいます。当社の2023年度Scope1・2温室効果ガス排出量は、約206千t-CO2、国内百貨店におけるScope3温室効果ガス排出量は、約3,442千t-CO2となりました。

 

●温室効果ガス排出量

 

 

範囲

2019

2020

2021

2022

2023

温室効果ガス排出量

CO2

連結

Scope1

排出量(t)

24,953

21,055

20,197

19,910

18,905

Scope2

排出(t)

(マーケット基準)

205,563

178,090

183,301

179,377

187,350

Scope

1+2

排出量(t)

230,516

179,145

203,497

199,286

206,255

国内

百貨店

Scope3

排出量(t)

3,382,417

2,495,547

2,772,244

4,264,236

3,442,335

フロン類

排出量

国内

百貨店

SC

t-CO2

1,552

1,609

1,580

967

1,119

 ※ 当社の温室効果ガス排出量(Scope1・2)に関しては、髙島屋グループGHG排出量算定ルールにより、

   第三者機関の検証を受けています。

 ※ 国内百貨店・SCのフロン類排出量は、フロン排出抑制法に基づき、店内で使用している冷凍・冷蔵庫のフロ

   ン漏えい量をCO2換算した数値です。

c.気候関連リスク・機会の管理に用いる基準値及び目標

 当社は、2019年「RE100」に参加しました。「2030年度にScope1・2温室効果ガス排出量30%以上削減」、「2050年度までにScope1・2温室効果ガス排出量ゼロ」を目標として設定し、毎年度の数値目標を設定したロードマップに基づき、脱炭素社会の実現に向け、取り組んでいます。当社は、2019年度Scope1・2温室効果ガス排出量を基準に、中長期の温室効果ガス排出量削減目標とRE達成目標を設定し、脱炭素化を推進しています。

 2020年度より施設電力の再生可能エネルギー由来電力転換を実施して以来、近年は2022年度流山おおたかの森S・C ANNEX2、こもれびテラスなど5施設に再生可能エネルギー由来の電力を導入、2023年度は横浜店の電力使用量の一部にコーポレートPPAによる再生可能エネルギー由来電力を導入するなど、再エネ転換を推進しています。

 

Scope1・2

単位

2019年度

(基準)

2025年度

2030年度

2050年度

温室効果ガス排出量

t-CO2

230,516

208,961

161,361

0

削減量(2019年度比)

△21,555

△69,155

△230,516

温室効果ガス削減目標

(2019年度比)

△9.4%

△30%以上

△100%

RE達成率

0%

8.6%

30%以上

100%

 

<人的資本・多様性>

 当社の持続的成長や価値向上に直結する「人的資本」への投資は、社会のサステナビリティと企業の利益創出を両立するうえで不可欠な戦略投資です。専門性や多様な価値観を持つすべての「ヒト」の価値を最大限引き出し、お取引先からの派遣スタッフを含めた全従業員が、主体的にいきいきと業務に取り組み成果を生み出せる企業を目指し、人的資本経営を推進しています。創業200周年である2031年にむけて当社グループがあるべき姿として、「働く場としての魅力向上」を掲げ、「グランドデザイン」の中でも「企業と個人が共感し成長していくことで、働きたい・働き続けたいと思える企業文化・風土を実現」を目標の一つとしています。

 

 このグランドデザインをベースとして、髙島屋グループ共通の「ありたい組織※①」「求める人材像※②」を明確化し、髙島屋グループの「人材」についての基本的な考え方をまとめ、今後の人事諸施策の拠り所としていきます。

 

※①「ありたい組織」

・創業の精神「店是」を大切にし、誠実で公正な商いで社会に尽くす組織

・当社グループ従業員をはじめとして、お取引先従業員を含む、共に働くすべての人を大切に

し、互いに尊重しあう組織

・多様な個性をいかし合い、変革を生み出すことができる心理的安全性の高い組織

・一人ひとりが意欲的に学び、互いに教え・高め合い、仕事を通じて成長し、髙島屋グループ

の持続的な成長に寄与する組織

 

※②「求める人材像」

・経営理念である「いつも、人から」に共感し、人と人の出会いから付加価値を生み出す

人材

・チャレンジスピリットを持ち、グローバルな視点で新たな価値を創造できる人材

・まちや人々の変化に敏感で、未知の状況においても自ら考え、行動する人材

・社内外に通じる知識・スキル・ノウハウを磨き、主体的にキャリアを形成する人材

 

これらの「ありたい組織」「求める人材像」を実現していくために、「労働条件・労働環境の改善」⇒「個人の意欲と能力の向上」⇒「エンゲージメント向上」⇒「生産性向上」⇒「利益創出」のサイクルを回す人的資本投資を加速し、「働く場」としての魅力を向上させていきます。

 

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① 戦略

 当社は、「営業力強化」「組織力の向上」「働きがいの向上」に向け、人材育成の基本方針を定め、社会環境や時代の変化を見据えた人材育成に取り組んでいます。

 

a.人材育成方針

・社会環境が急激に変化する中、企業の持続的成長には、未来を見据えた事業のトランスフォームが不可欠となります。そのために、多様な人材が主体的に能力開発に取り組み、自律的にキャリアを形成していくことを大切にします。

 

・当社の人材育成の根幹は「OJT」です。「OJT」により、業務現場でしか得られない仕事の進め方や知識・技能を習得し、実務能力や問題解決力を高めます。また、多様な「Off・JT」により、業務現場以外の急変する環境に即した教育を有機的に組み合わせることで、クリエイティブ・イノベーティブな発想力・構想力を養っていきます。

 

●能力開発体系

 OJTを基本としつつ、計画的に自らのキャリアを開発できるよう、多様なプログラムや研修メニューを整備しています。雇用形態にかかわらず、全ての従業員が等しく受講できる環境を整えています。

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●キャリアサポート(アセスメント制度、オープンエントリー・FA制度)

 当社の人事に関する制度運営は、「個人の自主性の尊重」を基本的な考え方とし、一人ひとりの個性と意欲を尊重した人材育成をめざしています。キャリア実現に向けたサポートの仕組みを整備しています。

 

●アセスメント制度

 年に一度、「能力評価アセスメント(各職務に求められる「能力・スキル」などと現在の自分との差異を明確化し、今後の能力開発計画に反映)」、「自己申告(進路・キャリアプランなどの意思表明)」について確認し、ジョブローテーションの参考にしています。

 

●オープンエントリー/FA制度

 自らのキャリアを自らの意思で実現していくため、本人の「やりたい職務」や「挑戦したいキャリア」希望を、ジョブローテーションに活用する制度です。自らが希望する職務に自ら手を挙げ、その意欲を配置で実現する仕組みにより、一人ひとりが専門能力を持ったプロとして自立できることをサポートしています。

 

●セルフ・キャリアドック

節目となる年齢や昇格のタイミングで、キャリア研修とキャリアサポート面談を実施しています。この「研修+面談」の機会を通じて、個々人の主体的なキャリア形成を促進・支援するとともに、各自の専門性を高め、個人と会社の双方の成長につなげていきます。 さらに、キャリア・ライフプラン相談室では、研修対象者以外にも、年代・雇用形態問わず、随時キャリア相談を受け付け、仕事を通じて成長し働きがいを高められるよう、総合的にキャリアを支援する仕組みの整備を進めています。

 

b.エンゲージメント向上

 人的資本経営推進の重要な要素として、グループ会社を含む全従業員のエンゲージメントの可視化・向上への取組を推進しています。

 メンタルヘルス(ストレス)とエンゲージメントを同時に測定し、組織の状態を細かく可視化、課題解決への対策につなげています。職場環境や組織風土の改善、各種制度の拡充や納得性のある人事制度運営などに加え、各組織別の調査結果を踏まえ、課題把握と改善策を職場単位で検証・確認しています。

 また、百貨店の店頭で販売の最前線を担うお取引先従業員も価値創造の重要なパートナーとして位置づけ、エンゲージメント向上のための全店アンケート調査を定期的に実施。「満足度」や「悩み・不満」を可視化し、改善に向けたアクションを適時行うことで、引き続き満足度の向上を図っていきます。こうした取組を通じ、働きがいの創出や生産性の向上、人材の定着化や一体感の醸成につなげ、持続的成長が可能な体制構築をめざしていきます。

 

c.ダイバーシティ推進

当社グループでは、2020年に「ダイバーシティ推進方針」を策定し、多様な価値観や生活背景を有する人材の能力が最大限に発揮できる環境を整備し、「人と企業の双方の成長」を実現するための取組を行っています。今後も当方針に基づき、多様な価値観や能力を尊重し、あらゆる人材が当社グループで働くことにやりがいを感じられるダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの実現をめざしていきます。

 

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女性の活躍推進・ジェンダー平等に向けては、男女を問わず、誰もが適材適所で一層活躍できる環境づくりに向け、本人の意欲・能力と今後のキャリアビジョンを踏まえた配置・登用を促進しています。また多様な価値観や生活背景を有する一人ひとりが、それぞれに働きやすく、能力が最大限に発揮できる環境整備には、エクイティ(公平性)の考えの下、個々の状況に応じた支援が必要です。アンコンシャス・バイアス研修や、育児・介護などさまざまな制約や事情を抱えたメンバーを含めた職場運営について学ぶ 「多様な部下育成研修」を実施するなど、風通しのよい職場風土と円滑なコミュニケーションに向け、従業員の意識改革に着手しています。

また、LGBTQ+への取組についても、性的指向・性自認などの違いを越え、差別・ハラスメントがなく、誰もが活躍できる環境づくりに取り組むことを明記し、制度や環境整備・風土醸成を進めており、「PRIDE指標2024(work with PRIDEが策定)」において「ゴールド」の認定を受けています。Ally活動の一環として東京・大阪での関連イベントへの参加や、社内の福利厚生制度の見直しを行うなど、安心して働ける環境整備や、職場内の正しい理解と風土醸成に取り組んでいます。

 

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d.健康経営

 従業員の心身の健康を守ることは企業の責務であり、グループの成長には、従業員一人ひとりの活力が不可欠です。当社グループは、2017年に「健康経営宣言」を策定し、心身ともに充実した組織・従業員による上質なサービスの提供と、社会環境変化に対応し得る生産性の向上をめざし、健康経営を推進しています。

2024年度には、当社グループの特性を踏まえ、健康経営における目指す姿と6つの重点領域(=TakaWellness)を設定し、さらなる取組を進めています。「生活習慣病予防」においては、健康ポイントプログラムやウォーキングキャンペーンなどを実施し、また「女性の健康支援」にも注力しています。

さらには、疾病の早期発見・重症化予防に重点をおいた健診メニューの充実や、生活習慣病予防に向けた健康行動の促進、ワークライフバランスの実現に向けた働き方改革や安全衛生など、産業医・人事部・健康保険組合が連携し、従業員の健康保持・増進への取組を進めています。こうした取組により、2020年より5年連続、経済産業省の健康経営優良法人(大規模法人部門)に認定されています。

 

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e.働き方改革推進

多様な生活背景を持つ従業員が仕事と私生活を両立するため、人事諸制度を拡充し、働きやすい環境整備に取り組んでいます。出産・育児や看護・介護に加え、傷病や不妊治療など幅広い休暇制度を設け、ライフステージの変化や想定外の事態が生じた場合にも働き続けられる環境を整えています。

グループ会社やお取引先従業員を含む、従業員のワークライフバランスの充実のために営業時間の短縮や店休日の設定を推進しています。特に2025年1月2日を店休日とし、働き方の満足度やモチベーションの向上につなげました。また、長時間労働の削減に向け、店・職場ごとの繁閑の特性に合わせ、年間の業務計画を踏まえた変形労働時間制の採用や、始終業時間のスライドや拡縮を柔軟に計画できるようにしています。

また、2024年度より、55歳から70歳までの従業員を対象として、仕事と生活のバランスを考えて働き方を変えることができる「ライフバランス勤務」を新設し、柔軟な働き方を可能とする人事制度を整備することで、ワークライフバランスのさらなる拡充を図っております。

 

② 指標と目標

 当社は、人的資本経営を推進する指標としてESG重点課題で掲げた「ダイバーシティ推進」や「働き方改革推進」に関する指標と下記数値目標を設定し、全社的に取組を推進しています。

 

指標

実績

目標

2024年度

2025年度

2026年度

2030年度

女性管理職比率 ※1

31.3

35.4

36.4%

40.0%以上

有給休暇取得率 ※2

75.4

80.0

82.0%

100.0%

人当生産性 ※3

(営業利益/従業員)

8.7百万円

4.7百万円

5.0百万円

6.6百万円

※1 女性活躍推進法の管理職の定義に基づき算定しております。対象は、提出会社、国内連結子会社および非連

   結子会社のタカシマヤトランスコスモスインターナショナルコマースジャパン㈱の数値であります。

   (3月1日時点)

※2 労働基準法に基づく年次有給休暇の付与日数を分母、取得日数を分子として算定しております。対象は、提

   出会社、国内連結子会社および非連結子会社のタカシマヤトランスコスモスインターナショナルコマースジ

   ャパン㈱の数値であります。

※3 当該年度末の海外子会社を含む連結従業員数を分母とし、年度連結営業利益を分子に算出しております。

 

3【事業等のリスク】

社長を委員長とする「髙島屋グループリスクマネジメント委員会」は、当社グループの横断的なリスク管理体制の構築に努めるとともに、経営環境の変化に伴う新たなリスクに適切に対応できるよう、常に管理体制を見直し、強化しております。また、リスクが事業に与える影響度や発生頻度・可能性を検証し、リスクマップを作成、重要なリスクの選定と対策の策定を実施しております。加えて、サステナビリティを巡る課題への対応が、リスクの減少、ひいては収益機会の拡大や企業価値向上に繋がるという認識のもと、「髙島屋グループCSR委員会」においてグループESG経営に積極的に取り組んでおります。

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有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のあるリスクには、以下のようなものがあります。

なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社が判断したものであり、以下の記載は、当社の事業等のリスクをすべて網羅することを意図したものではないことにご留意ください。

また、以下に記載したリスクのうち、新たな成長領域への事業拡大に関する法令違反や情報漏洩、お客様が損失を被るような事故等により、レピュテーションが低下するリスクは全ての項目において常に内在しています。当社は「コンプライアンスの徹底」を何よりも優先すべく、経営トップが強い意志を持って、グループ全体のリスクマネジメント体制の強化、内部統制システムの充実、取締役会の機能強化に取り組んでまいります。

 

(1)経営戦略リスク

 

①ESG経営への取組遅れのリスク

<リスクと機会> ・・・影響度=特に大

リスク

*ステークホルダーからの信用喪失

*グループ収益の根幹となるブランド価値の毀損

*法令違反によるレピュテーションの低下、営業損失

機 会

*当社グループの持続的成長

*新たなマーケットの獲得

*当社グループの社会的評価向上

 

<対応策>

当社のESG戦略においては、環境・社会・ガバナンスそれぞれの面において、ステークホルダーに対して当社ならではの価値を提供することで共感を獲得し、社会課題解決と事業成長を両立しつつ、最終的には全ての人々が21世紀の豊かさを実感できる社会の実現を目指しております。

ESG経営を確実に推進していくために、グループの視点での方針管理、進捗管理を充実するための「グループ環境・社会貢献部会」を設置し、より一体的でかつ実効性が発揮できる体制を整えております。

持続可能な社会の実現に向け、環境負荷軽減や多様性を尊重する(インクルーシブ化)商品やサービスの提供を通じ、お客様やお取引先と共に取り組む当社のサステナブル活動「TSUNAGU ACTION」をはじめ、環境面においては、再生可能エネルギー転換や省エネ対策などによる脱炭素化推進や、廃棄物の削減・リサイクルの推進を全社で推進しています。

社会面におきましては、人権尊重に基づく事業活動、国籍や人種・宗教、LGBTQ+などに係わらないDE&Iの推進、教育機会、福利厚生の提供など、多様な価値観を受け入れる基本指針の策定と、その浸透に向けた意識の醸成を推進してまいります。

ガバナンス面では、取締役会が果たすべき責務・役割が発揮できているか、機能発揮のための適切な体制整備や取締役会運営ができているかという視点で、年1回、全取締役・監査役対象のアンケートと、その結果に基づく社外取締役・監査役への個別ヒアリングを通して取締役会の実効性評価を行っております。更に、評価結果から得られた改善点に対しては速やかに次年度取締役会に反映するなどPDCAサイクルを徹底し、取締役会の実効性向上に努めてまいります。

また当社では社長を委員長とする「髙島屋グループCSR委員会」を設置し、コンプライアンス経営の徹底に加えて内部統制の状況や新しい社会課題に対するCSR領域への取組状況等をグループ横断的に検証し強化する体制を整えております。また、不正行為等の通報を匿名でも受け付ける窓口「髙島屋グループ・コンプライアンス・ホットライン」「ハラスメント・ホットライン」「就労相談窓口」「法務相談窓口」を設置し、通報者に不利益が及ばないことを確保しつつ、より多くの内部通報を受け付けて自浄作用を高める仕組みを整えております。国内、海外問わず事業拡大に応じて増えつつある子会社・孫会社などグループ全体に行きわたるモニタリングと三線ディフェンスの一層強化に努めてまいります。

 

②海外事業展開におけるリスク

<リスクと機会> ・・・影響度=大

リスク

*突発的な政治・経済情勢の変化や為替変動に伴う資産価値の変動と投資回収の遅れ

*現地法律や規制変更への未対応、現地採用従業員の文化・宗教等の違いからくるガバナンス破綻

機 会

*カントリーリスクを踏まえた展開による盤石な事業基盤の確立と

 海外における事業拡大

 

<対応策>

当社においては、経営における迅速な判断・軌道修正を可能とするため、現地法人を設立して当該法人にイニシアチブを持たせています。その上で、グループ本社とはリモート会議等によるタイムリーな情報共有や、自主点検シートを活用した経営状況のチェックなど、三線ディフェンスの強化によるグローバルガバナンスの徹底を図ってまいります。また、当社が注力しているアジア事業のリスクマネジメント体制の強化へ向け、アジア統括駐在員事務所をベトナム・ホーチミンに新規開設し、現地の専門コンサルタントと協働しています。さらに、現地従業員との人権尊重に基づく雇用関係確立、国籍や人種・宗教・LGBTQ+などに係わらない平等な賃金・教育機会・福利厚生を提供してまいります。そのうえで、現地従業員の幹部登用も視野に入れた能力開発を積極的に進め、同じ当社の一員としての共通目標、意識の共有を図ってまいります。

 

(2)事業環境リスク

①社会構造の変化による国内人口の減少に伴うリスク

<リスクと機会> ・・・影響度=大

リスク

*少子高齢化、若年層の百貨店離れなど消費行動の変化に伴うマーケット縮小

*労働人口の減少に伴う事業戦略に基づいた必要人材の確保難

機 会

*リスキリングによる人材有効活用の促進

 

<対応策>

抗えないこれらの外部環境変化に対応するため、百貨店においてはお客様の興味・関心に即した売場の再編、エシカルな消費行動に対応した独自商品の販売を強化し、魅力ある品揃えの実現に努めてまいります。また多様化するニーズに対応した販売の仕組みづくりや、単なる商品販売に止まらず、金融サービスなどライフタイムバリュー(LTV)全般の向上に寄与する商品提供による来店動機・機会の向上に努めてまいります。更に、実店舗に頼らないECの訴求力向上、百貨店のないエリアへの通販カタログ配布などを通じて商圏の拡大およびお客様との接点の拡大を図ります。

また、街のアンカーとしての機能強化につながる拠点開発や異業種・外部企業とのアライアンスによって非商業分野も取り込んだ新たなコンテンツ開拓を通じ、百貨店を核とするSCを中心事業とし、生活を彩るさまざまなモノを提供することはもちろん、記憶に残るコト、大切な人と過ごすトキといった「体験価値」も包含し、ワンストップで提供することで幅広い世代のお客様の支持を獲得してまいります。

一方、労働人口減少への対策としては、新卒にこだわらない採用活動、専門人材の登用、外国人労働者の受け入れを積極的に推進するほか、品揃え強化に向けたバイイング能力の向上、リスキリングなど社内の人材育成にも努めています。定年後の処遇も改善し、最長70歳までの再雇用延長制度のもとベテラン社員が高いスキルやノウハウを発揮して活躍し続ける仕組みを導入しています。様々な就労ニーズに応えるコース別の雇用管理と、柔軟な働き方が選択できる勤務制度を採用し、多くのベテラン社員が活躍しています。

 

②自然災害(地震・台風・洪水等)のリスク

<リスクと機会> ・・・影響度=大

リスク

*店舗など営業用資産の損壊によるビジネス機会の逸失

*交通機関や通信網の破綻によるビジネス機会の逸失

機 会

*安心・安全に向けた取組を通じた、社会インフラとしての地域への貢献

 

<対応策>

当社は関西・関東隔たりなく拠点を展開しており、大規模かつ広域にわたる甚大な災害が起きた場合でも、関西・関東のいずれかに危機管理対策本部を速やかに設置し、情報連携および指示命令系統を損なわない体制を整えております。また被災店舗への救援体制の整備、重要データ消失を防ぐクラウド化の推進、事業を最低限継続できる各種インフラや備品の整備など、BCP対策の徹底を図っております。

主要都市に拠点を持つ企業として求められる社会的使命を果たす観点から、大規模災害時に帰宅困難者を受け入れるスペースを店舗施設内に予め確保するほか、生活関連物資を中心とした店頭商品の拠出ができるよう、あらかじめ仕入先と取り決めておくなど、直ちに被災者救援活動を行う体制を整えております。また、行政と連携しながら、地域の防災拠点としての機能を果たすべく取組を進めております。

 

③戦争・地政学・世界経済減退のリスク

<リスクと機会> ・・・影響度=大

リスク

*物流や人流が制限されることによる商品調達や売上機会への影響

*海外拠点・事業における方針変更の可能性

*金融市場の混乱による資金調達への悪影響

*世界同時株安にともなう消費マインドの低下

機 会

*新規マーケット、お取引先、調達ルートの開拓

*企業活動における有事の際のレジリエンス向上

*国産商品の需要拡大

戦争・地政学上の混乱発生時に想定される、サイバー攻撃に起因するリスクに関しては、「(3)-①サイバー攻撃によるシステム障害・情報漏洩発生リスク」において記載しております。

<対応策>

ロシアによるウクライナ侵攻や米中二国間関係の悪化による台湾有事リスクなど、国際情勢は日々変化を続けています。当社のサプライチェーンは多国間にわたることから、世界規模の混乱は商品調達や適正な価格形成、事業活動のためのエネルギーコストに大きな影響を与えます。予期せぬ損失の発生可能性を回避するため、国内取引先の開拓、調達先の切り替えや、遅延リスクを見越した発注・展開計画策定などに取り組んでおります。また、当社が成長のドライバーと位置付ける海外事業においても、現地従業員の安全対策やBCP計画の策定とともに、利益影響の試算を実施しながら随時戦略の見直しを図ります。

市場の混乱が金融領域に及んだ場合には、当社が通常求める条件での資金調達ができないリスクが考えられます。現時点で必要な資金は確保しておりますが、将来におけるリスクシナリオを想定し、多様な資金調達手段により十分な手元流動性を確保してまいります。

また、相互関税に端を発し世界同時株安が進み、消費需要の減退リスクが高まっております。社会・経済状況の変化次第では、更なる売上減少リスクが増大することも想定されるため、状況に応じた抜本的なリスク削減策を実施してまいります。

 

④新たなパンデミックの発生リスク

<リスクと機会> ・・・影響度=特に大

リスク

*店舗の休業・営業時間の短縮によるビジネス機会の逸失

*消費行動の変化および来店頻度の減少

機 会

*新たな社会環境や消費行動に対応した事業展開

*アセットの多角化、経営資源の有効活用によるグループ事業の成長

 

<対応策>

コロナ禍の経験と反省を踏まえ、このようなパンデミック影響の極小化に向けて事業ポートフォリオを見直し、経営の更なる安定化を図ります。百貨店の事業基盤を一層強化すると共に、商業開発業、金融業などの成長領域事業の積極拡大を進めてまいります。

また、リアル店舗の魅力向上と合わせて、ECなどの無店舗販売チャネルの強化拡大、デジタル技術を活用したリモート接客システムの導入など非接触型販売の仕組みを積極的に導入してまいります。

 

 

 

⑤サプライチェーンの破綻リスク

<リスクと機会> ・・・影響度=大

リスク

*お取引先の倒産や事業終了による百貨店の商品調達への支障、品揃えの魅力度低下

*テナントの賃料支払能力低下による賃貸収入の減少

*生産・物流・販売段階における人材不足による営業活動への影響

機 会

*お取引先との強固な関係構築による品揃えの魅力度向上と安定的な利益確保

サプライチェーン上における人権問題(不当労働、差別等)に起因するレピュテーション低下、不買運動などによる損失の発生リスクに関しては「(4)-①事業活動における人権問題発生リスク」において記載しております。

 

<対応策>

当社は、事業活動における一連の取引において、法令順守はもとより、環境保全や人権などに配慮し、公平・公正な取引を推進するために「髙島屋グループ取引指針」を策定しております。

「髙島屋グループ取引指針」では、「人権の尊重」の視点に加え、法令順守、持続可能なサプライチェーンの構築などを事業活動において重視すべき項目に掲げています。この指針に則り、主要なお取引先と目標を共有・協働し、新たなお取引先開拓による安定した商品調達やОМОによる在庫の効率化、ドライバー・車両不足へ対応した配送スキームの検討など、様々な面でお取引先とともにサプライチェーン全般に及ぶリスクの低減へ向けた取組を推進しております。

国内商業開発業・海外商業開発業においては、専門店テナントとの共同販促活動を一層強化推進するほか、経営状態が厳しいテナントに対しては、敷金からの一時的な家賃への充当、当面の家賃支払猶予など資金支援を行い、共存共栄を原則とした取組に努めてまいります。

 

(3)情報セキュリティリスク

①サイバー攻撃によるシステム障害・情報漏洩発生リスク

<リスクと機会> ・・・影響度=特に大

リスク

*外部からの不正アクセスによる改ざんや破壊によるシステム障害がもたらす

 営業機会の逸失

*個人情報等、機微な情報漏洩による社会的信用の失墜

機 会

*サイバーレジリエンスの向上

*顧客からの信頼や社会的信用の向上

 

<対応策>

当社は、情報管理規則に基づき、事業活動を通じて得るあらゆる情報の取り扱いについて、その特性に応じた組織機能により適正に管理しております。また、各職場・職能に応じた適切なデジタルスキルの取得へ向けた教育機会も設けております。

サイバー攻撃の脅威・要防御範囲が増す中では、適切なセキュリティマネジメントがなされなければ、ステークホルダーからの信頼失墜、ひいては企業の存続に関わるリスクを発生させかねません。今や情報管理の範囲は従来のクローズド環境からSaaSアプリやインターネット上のサービスを含む外部へ拡大しており、自社のセキュリティの仕組みだけでなく、外部サービス事業者を含めた網羅的な対策が必要と認識しております。米国立標準技術研究所(NIST)のサイバーセキュリティフレームワークと当社の情報セキュリティ基本方針に基づき、「識別」「防御」「検知」「対応」「復旧」の各レベルで必要な防御策を講じるとともに、侵害に備えた対応を実施するべくロードマップを敷いて取組を進めております。

同時に、システム利用不可のシナリオを想定し、業務継続方法を確立するなど被害発生時のレジリエンス強化にも取り組んでおります。

 

 (4)社会的リスク

①事業活動における人権問題発生リスク

<リスクと機会> ・・・影響度=特に大

リスク

*接客時や媒体表現における差別的対応(国籍・ジェンダー等)によるレピュ

 テーション低下

*就業上のカスタマーハラスメントやハラスメントへの対策不足によるエンゲージメントの低下

*サプライチェーン上における人権問題(ハラスメント、不当労働、差別等)に起因するレピュテーション低下、不買運動などによる損失発生

機 会

*人権を尊重する経営の実践によるステークホルダーからの信頼獲得と髙島屋

 ファンの増大

 

<対応策>

当社は、1831年の創業以来、商いの行動規範である「店是(てんぜ)」において、「顧客の待遇を平等にし、いやしくも貧富貴賤(ひんぷきせん)に依りて差等を附すべからず」を掲げるなど、人権を尊重する創業の精神を受け継いできました。この「店是」の精神を起点に、人権の尊重を変えることのない基本的価値観として全従業員に共有しています。

人権を尊重する経営については、社長を委員長とする「髙島屋グループCSR委員会」においてグループ横断的な進捗確認と対応を推進していきます。また、お取引先やビジネスパートナーと協働し、サプライチェーン全体の直接的な人権侵害だけでなく、間接的に負の影響を助長・関与する人権侵害リスクの防止・是正に努めていくことを、「人権コミットメント」として制定し、社内外に公表しております。

サプライチェーン上の人権リスクの防止・是正に向けては、国連人権理事会で採択された「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づく人権デューデリジェンスに取り組んでおり、グループの事業領域ごとの人権リスクを洗い出し、課題を特定しています。人権リスクを防止・軽減するため、管理監督者を対象としたコンプライアンス研修のテーマに「ビジネスと人権」を取り上げ、仕入れ担当者に対してはサプライチェーン上における人権リスク課題などについての教育を実施しました。

また、事業活動における一連の取引を公平・公正に推進するため新たに策定した「髙島屋グループ取引指針」について、お取引先にも同意・協力を依頼するとともに、お取引先アンケートを通じて各社の状況を確認しております。当社はお取引先と公平で良好なパートナーシップを築きながら、より良い取引を継続的に推進し、共存共栄を図ってまいります。

 

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の概要

当連結会計年度における当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況は次のとおりであります。

なお、当連結会計年度より、事業ポートフォリオの最適化、事業別の投資効率、収益性などを明確にするROIC経営を更に推進することに伴い、報告セグメントの区分を変更しております。また、以下の前年比につきましては、変更後のセグメント区分に組み替えた数値を記載しております。

 

 ①財政状態及び経営成績の状況

a.財政状態                              (単位:百万円)

 

当連結会計年度

前連結会計年度

前年増減高

前年比

総資産

1,296,012

1,270,475

25,536

2.0%

負債

795,663

791,673

3,990

0.5%

純資産

500,348

478,802

21,546

4.5%

自己資本比率

36.5%

35.7%

0.8%

 

b.経営成績                              (単位:百万円)

 

当連結会計年度

前連結会計年度

前年増減高

前年比

営業収益

498,491

466,134

32,357

6.9%

営業利益

57,503

45,937

11,565

25.2%

経常利益

60,396

49,199

11,197

22.8%

親会社株主に帰属する当期

純利益

39,525

31,620

7,904

25.0%

 

(事業のセグメント別業績)                       (単位:百万円)

 

当連結会計年度

前連結会計年度

前年増減高

前年比

連結営業収益

498,491

466,134

32,357

6.9%

国内百貨店業

318,210

294,281

23,928

8.1%

海外百貨店業

34,287

32,572

1,714

5.3%

国内商業開発業

40,833

38,436

2,397

6.2%

海外商業開発業

15,434

13,512

1,922

14.2%

金融業

18,851

17,437

1,413

8.1%

建装業

29,997

27,945

2,051

7.3%

その他

40,877

41,948

△1,071

△2.6%

連結営業利益又は

連結営業損失(△)

57,503

45,937

11,565

25.2%

国内百貨店業

28,530

21,061

7,468

35.5%

海外百貨店業

8,363

8,007

356

4.4%

国内商業開発業

6,851

7,861

△1,009

△12.8%

海外商業開発業

5,908

4,126

1,781

43.2%

金融業

4,831

4,609

222

4.8%

建装業

2,171

△731

2,902

その他

1,977

2,086

△108

△5.2%

 

 

 

 

 ②キャッシュ・フロー                           (単位:百万円)

 

当連結会計年度

前連結会計年度

前年増減高

前年比

営業活動キャッシュ・フロー

72,493

59,536

12,956

21.8%

投資活動キャッシュ・フロー

△39,694

△38,501

△1,192

財務活動キャッシュ・フロー

△41,772

△20,600

△21,171

現金及び現金同等物

88,559

92,898

△4,338

△4.7%

 

 

 ③生産、受注及び販売の実績

a.生産実績

 当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

生産高(百万円)

前年比(%)

建装業

28,898

6.6

合計

28,898

6.6

  (注)1 セグメント間取引については、相殺消去をしております。

  2 金額は、販売価格によっております。

  3 上記以外のセグメントについては、該当事項はありません。

 

 

b.受注実績

 当連結会計年度における受注実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

受注高(百万円)

前年比(%)

受注残高(百万円)

前年比(%)

建装業

26,151

△22.5

19,027

△12.6

合計

26,151

△22.5

19,027

△12.6

  (注)1 セグメント間取引については、相殺消去をしております。

  2 上記以外のセグメントについては、該当事項はありません。

 

 

c.販売実績

 当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

販売高(百万円)

前年比(%)

国内百貨店業

318,210

8.1

海外百貨店業

34,287

5.3

国内商業開発業

40,833

6.2

海外商業開発業

15,434

14.2

金融業

18,851

8.1

建装業

29,997

7.3

その他

40,877

△2.6

合計

498,491

6.9

  (注)1 セグメント間取引については、相殺消去をしております。

  2 販売高には、「その他の営業収入」を含めて表示しております。

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当社が当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 

 ①当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

a.経営成績等の状況に関する認識

当連結会計年度における我が国の社会経済は、2024年3月に日本銀行が物価の安定化などを図ることを目的にマイナス金利政策を解除し、17年ぶりに金利を引き上げました。また、賃上げ率がバブル期以来の伸びとなったことで6月には実質賃金が27カ月ぶりにプラスとなるなど、長らく続いたデフレから物価と賃金が上昇する好循環への転換が進みつつあり、個人消費についても緩やかな回復が見られました。さらに、円安を背景に訪日外国人客数や消費額が過去最高を更新するなど、経済活動は活発な状況が続きました。

髙島屋グループ(以下、当社)は、創業200周年の節目となる2031年に「目指す姿」を「お客様・従業員・株主・地域社会など、すべてのステークホルダーの『こころ豊かな生活を実現する身近なプラットフォーム 』」と定め、グランドデザインとして2024年4月に公表いたしました。また、「統合報告書」を新たに発行し、価値創造ストーリーや成長戦略、事業ポートフォリオなどを発信してまいりました。さらに、資本コストを意識したROIC経営を推進するため、店舗・グループ会社ごとの特性を踏まえた「ROICツリー」を現場レベルで活用する仕組みを構築し、経営の実効性を高めてまいりました。

当年度は「グランドデザイン元年」、新たに策定した中期経営計画(2024-2026年度)の初年度として、持続的成長に向けた施策を実行する基礎固めの重要な一年と位置付け、経営課題である「ESG経営」「人材の確保・育成・活躍」「まちづくり」の推進に取り組み、着実に進捗いたしました。

 

□ESG経営の推進

ESG経営は社会への付加価値提供の基盤であり、事業活動を通じて社会課題の解決に貢献していくことは、社会の一員である企業としての責務であります。当社では「TSUNAGU ACTION」をその象徴的な取組と位置付け、全社レベルで社会課題解決と事業成長の両立に向けた施策を推進いたしました。日本橋店では伝統工芸の伝承と能登の復興支援を目的とした「輪島塗を未来にTSUNAGU」を開催いたしました。循環型社会の実現を目指す当社のプロジェクト「Depart de Loop」においては、「玉川髙島屋S・C」に、お客様が循環先を選択できる衣料等回収BOX「Depart de Loop Port」を新たに設置いたしました。また、廃棄物を可視化できるごみ分別施設のリニューアルも実施しております。衣料品や化粧品の不要品回収につきましては、期間限定から通年の実施に変更したことで、年間の回収量が約22トンと前年の2倍を超える水準まで拡大いたしました。

また、当社は大規模な商業施設を有するなど、地球環境保全に対する責任は大きいと認識しており、大阪店と京都店で再生可能エネルギー由来の電力を事業者から直接調達する契約を締結するなど、全社的に脱炭素化の実現に向けた取組を推進しております。

ダイバーシティ(多様性)・エクイティ(公平性)&インクルージョン(包摂性)(以下、DE&Ⅰ)の観点からは、性的マイノリティー当事者への理解や支援を目的とするAlly活動を推進したほか、福利厚生制度の適用範囲を同性パートナー・事実婚にも適用拡大するなど、従業員が安心して働ける環境整備を行いました。この結果、株式会社髙島屋は11月に任意団体「work with Pride」による取組評価指標「PRIDE 指標 2024」において最高位となる「ゴールド」に認定されました。

 

□人材の確保・育成・活躍推進

人材不足が深刻な社会課題となる中、人的資本経営の考え方に基づく人材への積極的な投資を行いました。当社は多様なグループ会社を有しており、その競争力を高めるべく、金融や建装など各分野における専門性強化に取り組み、スペシャリストの育成を進めております。

お取引先を含めた従業員が誇りとやりがいをもって長く働くことのできる環境整備や優秀な人材確保に向け、正月営業については、元日に加え、新たに1月2日も原則休業日といたしました。また、「カスタマーハラスメントに対する基本方針」を業界に先んじて策定し公表すると共に、現場の対応負荷軽減を進めました。

 

□まちづくりの推進

当社はグループ総合戦略「まちづくり」を事業戦略の根幹に位置付けております。国内におきましては、「次世代型SC」への転換を推進しております。「京都髙島屋S.C.」では斬新なコンテンツの導入が若年層を始め多様なお客様のご来店動機につながり、百貨店と専門店の買い回りも向上いたしました。また「柏髙島屋ステーションモール」では、コミュニティーゾーン導入やエリア最大級の食品ゾーン構築により、地域コミュニティー活性化に寄与しております。

また、「まちづくり」の具現化に向けた取組の一環として、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進しております。こうした中、業務改革に向けた、社長をトップとする全社横断のDX推進プロジェクトを発足し、本年は、デジタル技術を活用した業務効率化を進め、店頭販売など本来業務に注力できる体制の整備を行いました。

 

b.財政状態

当連結会計年度末の総資産は、1,296,012百万円と前連結会計年度末に比べ25,536百万円増加しました。これは、関連会社株式追加取得等に伴う投資有価証券の増加18,471百万円、売上増加に伴う受取手形、売掛金及び契約資産の増加7,417百万円が主な要因です。

負債については、795,663百万円と前連結会計年度末に比べ3,990百万円の増加となりました。これは、有利子負債(社債及び借入金)の減少7,347百万円があったものの、未払金及び長期未払金の増加7,897百万円、海外子会社における円安による為替換算影響等によるリース債務の増加3,010百万円が主な要因です。

純資産については、500,348百万円と前連結会計年度末に比べ21,546百万円増加しました。これは、親会社株主に帰属する当期純利益による増加39,525百万円、自己株式の消却に伴う減少17,904百万円及び配当の支払いによる減少6,782百万円等による利益剰余金の増加14,811百万円、円安に伴う為替換算調整勘定の増加5,234百万円が主な要因です。

以上の結果、自己資本比率は36.5%(前年比0.8ポイント増)となり、1株当たり純資産額は1,559円30銭(前年比119円89銭増)となりました。

c.経営成績

<連結業績>

当連結会計年度の連結業績につきましては、連結営業収益は498,491百万円(前年比6.9%増)、連結営業利益は57,503百万円(前年比25.2%増)、連結経常利益は60,396百万円(前年比22.8%増)となり、親会社株主に帰属する当期純利益は39,525百万円(前年比25.0%増)と各段階利益共に過去最高益となりました。

ROE(自己資本利益率)は8.5%、ROIC(投下資本利益率)は6.4%、EBITDA(会社の純粋な現金創出力を評価する指標)総資産比率は6.2%、純有利子負債EBITDA倍率は1.4倍となりました。

 

<単体業績>

当事業年度の単体業績につきましては、売上高は312,280百万円(前年比8.7%増)、営業利益は27,419百万円(前年比40.0%増)、経常利益は42,514百万円(前年比32.2%増)となり、当期純利益は31,648百万円(前年比26.4%増)と各段階利益共に過去最高益となりました。

 

事業のセグメント別業績は、次のとおりであります。

なお、当連結会計年度より、報告セグメントの区分を変更しております。以下の前年比につきましては、変更後のセグメント区分に組み替えた数値で算定しております。

 

 <国内百貨店業>

国内百貨店業での営業収益は318,210百万円(前年比8.1%増)、営業利益は28,530百万円(前年比35.5%増)となりました。

 

売上は、インバウンド売上が増大したことに加え、全体の約85%を占める国内顧客売上が堅調に推移いたしました。商品別では、ラグジュアリーブランドを始めとする高額品のほか、婦人服、紳士服、化粧品などファッション関連商品も前年から伸長いたしました。

当年度は消費動向の変化を踏まえた新規ブランドの導入や、百貨店ならではのアイテム平場・自主編集売場の再構築に取り組みました。9月に日本橋店で紳士服の新アイテム平場「item SELECT」がオープンし、10月には横浜店で紳士服セレクトショップ「CS case study」のリニューアルを実施いたしました。また12月には新宿店の「味百選」がリニューアルオープンいたしました。お客様からは品揃えに対する高評価の声をいただいているほか、お客様層の拡大につながっております。

また話題性のある催を開催し、ミニチュア写真家・見立て作家である田中達也氏の展覧会が多くのお客様にご好評いただくなど、店舗への集客に大きく貢献いたしました。さらに、当社のアーカイヴス活動の拠点である髙島屋史料館(大阪)や、新しい生活文化の発信拠点である髙島屋史料館TOKYOを通じ、歴史や文化の発信に努めてまいりました。

ECにおきましては、8月に主力商品である化粧品の専門オンラインストア「TBEAUT(ティービューティー)」が誕生いたしました。自家需要比率が高い化粧品の購入フローを簡便化したほか、お客様の興味関心・趣味嗜好に応じたコンテンツを提供する機能を導入するなど、お客様の利便性向上や楽しい購買体験の創出につながっております。

商品利益率は、利益率の低い高額商品の好調による売上プロポーションの変化もあり、前年を下回りました。一方で、商品利益額は売上が増大した結果、商品利益率の悪化影響を吸収し、前年を上回りました。

また、販売管理費は前年からの増加を最小限に抑制いたしました。ベースアップなど人的資本投資や、新規ブランドの導入など営業力強化につなげる費用は積極的に投下する一方、店舗運営体制の更なる効率化などコスト削減に向けた取組を継続的に推進したことにより、総額営業収益に対する販売管理費比率は前年を下回る水準となりました。

なお、岐阜店につきましては2024年7月末日をもって、47年の歴史に幕をおろしました。営業終了に至る日まで多くのお客様にご愛顧いただき、感謝申しあげます。

 

 <海外百貨店業>

海外百貨店業での営業収益は34,287百万円(前年比5.3%増)、営業利益は8,363百万円(前年比4.4%増)となりました。

 

シンガポール髙島屋におきましては、為替影響で増収となりましたが、長引くインフレによる消費の停滞に加えツーリストもコロナ禍以前の水準に戻らない状況が続いており、人件費など販売管理費が増加したことにより僅かに減益となりました。

上海高島屋におきましては、市場変化に対応した新たなテナントの誘致など収益基盤の強化に継続して取り組んでおりますが、中国経済の低迷の影響が大きく、減収・赤字となりました。

ホーチミン髙島屋におきましては、成長分野である子供用品やお客様からの支持の高い化粧品・食料品を中心に、売場改装や品揃え強化に取り組んだことで増収増益となりました。

サイアム髙島屋におきましては、お客様ニーズに基づいた日本ブランドの品揃え拡充や物産イベントの実施などの収益拡大策を実施してまいりました。内需の低迷や売場改装の工事影響が大きく僅かに減収となりましたが、商品利益率の改善やコスト削減により、赤字幅は縮小しております。

 

 <国内商業開発業>

国内商業開発業での営業収益は40,833百万円(前年比6.2%増)、営業利益は6,851百万円(前年比12.8%減)となりました。

 

東神開発株式会社におきましては、2023年10月に開業した「京都髙島屋S.C.」、同年11月にリニューアルオープンした「立川髙島屋S.C.」のテナント賃料収入増加により増収となった一方、2024年の「玉川髙島屋S・C」改装工事影響や、前年に「京都髙島屋S.C.」の増築した専門店部分を株式会社髙島屋に引き渡した反動が大きく、減益となりました。地域ニーズの高いテナントの導入など、段階的に改装を進めている「柏髙島屋ステーションモール」におきましては、9月に複合型コミュニティスペース「BeARIKA(ビーアリカ)」がオープンいたしました。引き続き、地域に欠かすことのできない魅力的なショッピングセンター(SC)を実現することで、リアル施設ならではの体験価値の向上と新たなお客様層の開拓を進めてまいります。

 

 <海外商業開発業>

海外商業開発業での営業収益は15,434百万円(前年比14.2%増)、営業利益は5,908百万円(前年比43.2%増)となりました。

 

トーシンディベロップメントシンガポールPTE.LTD.におきましては、賃料収入が増加したことに加え、費用減もあり増収増益となりました。

また、段階的に開発を進めるベトナム事業におきましても、増収増益となりました。8月にはベトナムのハノイに学校不動産賃貸事業の2校目となるハイクオリティースクールが開校いたしました(※)。ハノイ、ホーチミンに次ぐベトナム第3の都市であるハイフォンでの大規模都市開発事業におきましては、6月に参画した街区に加え、12月には新たな街区での住宅開発事業への参画が決定いたしました。従来の資産長期保有型に短期回収型の住宅投資を組み合わせ、資産規模をコントロールしてまいります。

(※)事業パートナーであるエデュフィット社<Edufit International Education Corporation Joint Stock Company>と共同出資する現地事業会社が運営

 

 <金融業>

金融業での営業収益は18,851百万円(前年比8.1%増)、営業利益は4,831百万円(前年比4.8%増)となりました。

 

髙島屋ファイナンシャル・パートナーズ株式会社におきましては、収益の柱であるカード事業における取扱高の伸長や新規入会会員の増加により、手数料及び年会費収入が増大し、増収増益となりました。

カード事業では、百貨店や専門店、ECサイトでの会員獲得強化により、新規入会会員がコロナ禍前の2019年度を超える水準まで拡大いたしました。また、発行2年目の「タカシマヤカード《ビジネスプラチナ》アメリカン・エキスプレス®」は、会員数や取扱高が順調に増大し、新たに開始したビジネスソリューションサービスの利用も増加しております。今後も更なる魅力向上により、BtoBビジネスの拡大を図ってまいります。

ライフパートナー事業では、ファイナンシャルカウンターでの取扱商品・サービスの拡充により、お客様のご意向に沿ったご提案を推進し、利用数が着実に増加しております。また、新しいNISA制度(少額投資非課税制度)にあわせた「タカシマヤのカード積立」の積立上限月額引き上げや各種セミナーの開催などにより、お客様の資産形成促進に向けた取組を行ってまいりました。

さらに、6月に子会社化となったヴァスト・キュルチュール株式会社は、ウェルス・マネジメントという、資産を総合的に管理する金融サービスなどを提供しております。

 

 <建装業>

建装業での営業収益は29,997百万円(前年比7.3%増)、営業利益は2,171百万円(前期は営業損失731百万円)となりました。

 

髙島屋スペースクリエイツ株式会社におきましては、ラグジュアリーブランドやホテルを中心に受注が増加し、増収・黒字転換いたしました。引き続き、専門人材の育成・補強など人的資本経営を進展させ、営業力とデザイン力を融合した先行提案を着実に実行することで競争優位な高利益構造を確立し、持続的な成長につなげてまいります。

 

 <その他の事業>

その他の事業全体での営業収益は40,877百万円(前年比2.6%減)、営業利益は1,977百万円(前年比5.2%減)となりました。

 

人材派遣業の株式会社センチュリーアンドカンパニーが増収増益となった一方、卸売業のタカシマヤ トランスコスモス インターナショナルコマースPTE.LTD.が減収・赤字となったことから、その他の事業全体におきましては、減収減益となりました。

 

なお、当期の期末配当金につきましては、安定的な配当水準を維持することを基本スタンスとしながら、業績や経営環境を総合的に勘案し、1株につき13円としております。

当社は2024年9月1日付で普通株式1株を2株とする株式分割を実施しております。同年8月31日を基準日としてお支払いしました中間配当金(1株につき23円)は、当該株式分割実施後の1株あたり配当金に換算すると11円50銭に相当しますので、期末配当と合わせた当期の年間配当金相当額は1株あたり24円50銭となります。なお、年間配当金1株につき24円50銭は、株式分割前の1株あたりの配当金に換算すると1株につき49円となり、前期の年間配当金の37円から12円の増配となります。

また、株主還元拡充、資本効率向上を図るため、14,999百万円の自己株式を取得し、取得した全株式を消却いたしました。

 

 

d.キャッシュ・フロー

営業活動によるキャッシュ・フローは、72,493百万円の収入となり、前年同期が59,536百万円の収入であったことに比べ12,956百万円の収入の増加となりました。主な要因は、税金等調整前当期純利益が16,700百万円増加したことなどによるものです。

投資活動によるキャッシュ・フローは、39,694百万円の支出となり、前年同期が38,501百万円の支出であったことに比べ1,192百万円の支出の増加となりました。主な要因は、有価証券及び投資有価証券の売却及び償還による収入が4,672百万円増加したものの、短期貸付金の純増減額が5,012百万円増加したことなどによるものです。

財務活動によるキャッシュ・フローは、41,772百万円の支出となり、前年同期が20,600百万円の支出であったことに比べ21,171百万円の支出の増加となりました。主な要因は、自己株式の取得による支出が14,999百万円増加したことなどによるものです。

これらに換算差額と連結の範囲の変更に伴う増減額を加えた結果、当連結会計年度末の現金及び現金同等物は、前連結会計年度末に比べ4,338百万円減少し、88,559百万円となりました。

 

 ②資本の財源及び資金の流動性

資本の財源及び資金の流動性に関し、当社は運転資金及び設備資金等の必要資金につきましては、内部資金、売掛債権流動化資金、又は外部調達(借入もしくは社債)により資金調達することとしております。このうち外部調達に関しましては、主として長期・安定した資金にて実施しております。

また、当社は国内金融機関から相対取引による十分な借入枠を有しており、TMS(トレジャリー・マネジメント・サービス:グループ会社間で一元的に資金を管理する仕組み)により国内グループ会社間の資金融通を行うことで資金効率を高め、海外グループ会社は十分な手許資金を保有することで事業運営上の流動性を確保しております。

なお、当連結会計年度末の有利子負債(リース債務は含まない)の残高は201,604百万円であります。

 

 ③重要な会計方針並びに重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社の連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められる会計基準に基づき作成しております。その作成には経営者による会計方針の選択・適用、資産・負債や収益・費用の報告金額及び開示に影響を与える見積りを必要とします。経営者は、これらの見積りについて、過去の実績等を勘案し合理的に判断しておりますが、実際の結果は見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合があります。

当社の連結財務諸表で採用する重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 注記事項 (連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」に記載しております。

また、連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び仮定は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載しております。

 

 

 ④経営方針、経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

 

指標

2024年度

経営上の目標

増 減

総額営業収益

10,327億円

10,700億円

373億円

総額営業収益販売管理費比率

23.4%

23.4%

△0.1%

営業利益

575億円

580億円

5億円

自己資本比率

36.5%

38.0%

1.5%

ROE(自己資本当期純利益率)

8.5%

8.2%

△0.3%

EBITDA総資産比率

6.2%

6.3%

0.1%

純有利子負債EBITDA倍率

1.4倍

1.6倍

0.2倍

ROIC(投下資本利益率)

6.4%

6.2%

△0.2%

 

当社では、「総額営業収益」、「総額営業収益販売管理費比率」、「営業利益」、「自己資本比率」、「ROE(自己資本当期純利益率)」、「EBITDA総資産比率」、「純有利子負債EBITDA倍率」、「ROIC(投下資本利益率)」を経営成績の客観的な分析指標として採用しております。

達成状況を判断するため、当連結会計年度実績との比較をしておりますが、目標値設定過程に関しては、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2) 経営上の目標達成状況を判断するための客観的な指標等」及び「同 (3)経営環境及び対処すべき課題」をご覧ください。

 

 

5【経営上の重要な契約等】

 特記事項はありません。

 

 

6【研究開発活動】

 特記事項はありません。