当中間会計期間において、当半期報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が提出会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクの発生又は前事業年度の有価証券報告書に記載した「事業等のリスク」についての重要な変更はありません。
文中の将来に関する事項は、当中間会計期間の末日現在において当社が判断したものであります。
(1)財政状態及び経営成績の状況
① 経営成績の状況
製薬業界の概況としましては、高齢化に伴う医療費の増大に対応してジェネリック医薬品による代替が進むとともに、薬価改定期間が短縮され、高額医薬品の薬価が著しく低下しております。また、臨床試験の大規模化等に起因する新薬開発のためのコスト増大により、国内外での製薬企業の合従連衡が進みM&Aにより企業規模が拡大するとともに、自社創薬開発において重点領域の絞込みが行われており、社外から開発品目を導入する動きも活発化しております。
一方、新薬開発については、対象患者が多く将来安定した多額の収益が得られる、いわゆるブロックバスター医薬品から、特定の患者群に効果的な治療が行える医薬品の開発に移行しており、経営資源が特定分野に集中し短期に意思決定が行われる創薬ベンチャーが、その中心的役割を担うと言われております。これに対応すべく、政府は、厚生労働省や経済産業省の中央省庁を中心に、日本発の創薬を積極的に支援するため、特に、創薬ベンチャー支援の取り組みとして、医療系ベンチャー・トータルサポート事業(MEDISO)の開始や「伊藤レポート2.0バイオメディカル産業版」が作成されております。日本国内での創薬を促進するため、医薬品の条件付き早期承認制度や先駆的医薬品指定制度も法制化されました。
このような事業環境下、当社は、組換えヒトHGFタンパク質(開発コード:KP-100)の研究開発によって創薬イノベーションを起こすことが事業機会の創出・獲得につながると考え、組換えヒトHGFタンパク質プロジェクトに経営資源を集中して、以下の各事業活動を展開しました。
1.医薬開発活動について
(ア)脊髄損傷(SCI)急性期
慶應義塾大学整形外科中村雅也教授を治験調整医師とする治験実施体制のもとで、脊髄損傷急性期患者を対象として第Ⅰ/Ⅱ相試験を実施し、安全性を確認するとともに有効性を示唆する結果を得ました。第Ⅰ/Ⅱ相試験で得られたPOC(プルーフ・オブ・コンセプト:研究開発中である新薬候補物質の有用性・効果が、ヒトに投与することによって認められること)を検証する目的で第Ⅲ相試験の計画を策定し、2020年6月9日付で医薬品医療機器総合機構(以下「PMDA」という。)に治験計画届書を提出しました。
2020年7月より第Ⅲ相試験を総合せき損センター、北海道せき損センター及び村山医療センターの3施設で開始しました。2021年3月より神戸赤十字病院及び愛仁会リハビリテーション病院を加えた合計5施設を治験実施医療機関としており、2023年4月に患者組入れを終了し、2023年10月に最終症例の最終観察日が終了しました。2024年2月に第Ⅲ相試験の速報結果を得ており、国内での医薬品製造販売の承認申請に向けて本試験の結果をもとに、PMDAと協議を行い、粛々と申請準備を進めております。
一方、米国での臨床開発の準備として、2023年9月に米国食品医薬品局(FDA)との事前相談を開始し、2023年11月にFDAよりpre-INDミーティングにかかる回答を受領しました。その後、北米のKOL(キー・オピニオン・リーダー)との連携体制を構築し、IND申請*に向けた準備を進めております。
*米国食品医薬品局(FDA)に対する新薬治験開始申請
脊髄損傷急性期治療薬としての製造販売承認取得に向けて、組換えヒトHGFタンパク質の製造プロセスに関する各種試験も進めております。原薬製造につきましては、承認申請に必要とされる実製造と同様のプロセスで行う試験製造(プロセスバリデーション)を2022年9月期に終了しました。製剤製造のプロセスバリデーションも2023年9月期に終了しました。2024年11月には、製造販売承認申請に必要となる「第一種医薬品製造販売業」の業許可を大阪府に申請し、2025年1月7日付で許可を受けております。
また、脊髄損傷を対象に、組換えヒトHGFタンパク質製剤のより効果的な投与方法や投与のタイミングを検討するために、2021年2月より慶應義塾大学医学部と共同研究を開始しております。本共同研究において、慢性期完全脊髄損傷モデル動物に対して、慶應義塾大学が保有するiPS細胞由来神経幹/前駆細胞と当社が開発するHGF及びスキャフォールド(足場基材)を併用することにより運動機能の回復が得られることを見出し、2022年3月に同大学と当社は共同で特許出願を行い、2023年3月には当該特許出願に基づく優先権主張出願を行っております。さらに、重度の脊髄損傷モデル動物に対して、急性期にHGFを投与することに加え、亜急性期にiPS細胞由来神経幹/前駆細胞を移植したところ、各単独投与群に比べ顕著な運動機能の回復がみられたことから、2022年9月に本共同研究に基づく2件目の特許共同出願を行い、2023年9月には当該特許出願に基づく優先権主張出願を行いました。HGF及びiPS細胞由来神経幹/前駆細胞の単独治療は既にヒトでの臨床段階に進んでいることから、両者の併用治療は、急性期及び亜急性期の脊髄損傷に対する次世代複合治療法として早期の実用化が期待されます。
2021年6月には、アジア太平洋脊椎外科学会とアジア太平洋小児整形外科学会の第13回合同学会(APSS-APPOS 2021、2021年6月9日~12日、於神戸国際会議場)において、脊髄損傷急性期での第Ⅰ/Ⅱ相試験に関する発表がAPSS CONGRESS Best Clinical Research Award(APSS会議最優秀臨床研究賞)を受賞しました。
2021年12月には、「神経疾患の治療に適したHGF製剤」の特許が欧州で登録されました。本製剤は脊髄損傷急性期のみならず、筋萎縮性側索硬化症及び声帯瘢痕に対する臨床試験においても治験薬として使用されており、HGF製剤の適応拡大の基盤となるものです。既に権利化されている日本、米国、カナダ、韓国に、欧州が加わることで、HGF医薬品のグローバルでの事業展開に有利な知財環境が構築できました。
(イ)声帯瘢痕(VFS)
声帯粘膜が硬く変性(線維化)する疾患であるVFSを対象とした医師主導による第Ⅰ/Ⅱ相試験によって、KP-100製剤の声帯内投与の安全性が確認され、声帯の機能回復を示す症例も確認されました(J Tissue
Eng Regen Med. 2017;1–8.)。その後、2019年7月に実施したPMDAとの事前面談を踏まえ、次相試験について京都府立医科大学と協議を重ね、2022年10月に第Ⅲ相試験(プラセボ対照二重盲検比較試験)の治験計画届書をPMDAに提出し受理されました。その後、京都府立医科大学附属病院において治験を開始し、2023年1月には第1例目の被験者が症例登録されました。2023年5月には、久留米大学医学部附属病院、東北大学病院、川崎医科大学附属病院、日本大学病院を治験実施医療機関として加え、2024年5月には、山王メディカルセンターを追加し、2025年1月には、更に藤田医科大学病院、福岡山王病院を追加し、現在合計8施設で症例登録を推進しております。
なお、治験の実施費用並びに治験薬の製造及び市販製剤の開発費用の調達を目的として、2021年11月に新株予約権の発行を行っており、2022年7月には全ての行使が完了しました。さらに、本プロジェクトは国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)による「医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)」課題として採択され、2022年4月より公的資金の活用も進めております。
(ウ)筋萎縮性側索硬化症(ALS)
2016年5月より東北大学神経内科青木正志教授による医師主導治験として、東北大学病院及び大阪大学医学部附属病院において第Ⅱ相試験(プラセボ対照二重盲検比較試験)が実施されました。2020年11月には患者組入れを終了し、2021年12月に最終症例の最終観察日が終了しております。その後、東北大学においてデータ解析が進められた結果、主要及び副次評価項目に関して実薬群とプラセボ群の間で統計的な有意差は認められませんでした。一方、実薬群において進行が遅い症例もあり、本試験結果の解釈には、さらに詳細な解析が必要となります。なお、安全性に関しては、実薬群とプラセボ群で有害事象の発現率は同程度であり、忍容性が確認されました。2024年4月には、東北大学と、本第Ⅱ相臨床試験の追加解析として、検体試料のバイオマーカー解析に関する共同研究契約を締結しました。本共同研究によって、効果の検出しやすい患者集団の特定など、次相試験のデザイン策定に重要な情報が得られることが期待されます。
(エ)クラリス・バイオセラピューティクス社への原薬供給
当社は、2020年4月に米国のクラリス・バイオセラピューティクス社とLicense and Supply Agreementを締結し、同社が米国において眼科疾患を対象に臨床開発を進めるためのHGF原薬の供給を行っております。
当中間会計期間においては、同社に対するHGF原薬の供給はありませんでした。当社が提供した各種情報をもとに、同社は神経栄養性角膜炎を対象とする第Ⅰ/Ⅱ相試験を開始するためのIND申請を2021年5月に実施しており、同年8月には1例目の投与が開始されております。当社はこれを起点として、毎年定額の技術アクセスフィー(ロイヤリティ収入)を受領し、該当期間分を売上高に計上しております。同社はカナダにおいても本試験を開始するベく、2022年7月に、Health Canada(カナダ保健省)に治験申請を行い承認されました。米国とカナダの両国における本試験は、症例組入れが完了し、現在解析が進められております。これと並行して、同社は角膜上皮幹細胞疲弊症及び角膜瘢痕を対象とする第Ⅰ相試験を実施中であります。
また、当社は2023年9月に同社と業務提携し、組換えヒトHGFタンパク質の製造法効率化に着手いたしました。今後のグローバルでの必要量増大に対応し、全世界での安定供給を目指すことを目的としております。
(オ)その他の共同研究
2022年7月には、京都大学と、HGFの再生医療への応用研究に関する共同研究契約を締結しました。バイオマテリアル技術を応用し、対象疾患に最適で効果的な次世代治療法の探索研究を行い、KP-100を他の難治性疾患に適応拡大することを目的としています。
また、当社は、2018年10月より、東京医科歯科大学(現:東京科学大学)と共同研究を実施しております。2022年7月、潰瘍性大腸炎の難治性潰瘍の修復を目指した、自家腸上皮オルガノイド移植による臨床研究において、同大学により1例目の移植が行われました。本移植治療に用いる腸上皮オルガノイドの作製には、当社のKP-100が用いられております。
2022年9月には、HGFタンパク質のさらなる可能性を追求するために、「HGFタンパク質を利活用した新しい研究テーマ」を幅広く多くの研究者から募集するオープンイノベーションを推進していくことを決定しました。
2024年4月には、岐阜大学と、HGFの特発性大腿骨頭壊死症への応用研究に関する共同研究契約を締結しました。HGFは血管新生作用と骨再生作用を併せ持ち、既存薬のない特発性大腿骨頭壊死症の新たな治療薬になる可能性があります。
2024年6月には、金沢大学と、HGFの特発性肺線維症への応用研究に関する共同研究契約を締結しました。当社は現在、線維化疾患のひとつである声帯瘢痕を対象に国内で第Ⅲ相臨床試験を実施しており、声帯瘢痕においてHGFタンパク質の医薬品開発に成功すれば、声帯瘢痕のみならず他の線維化が原因となる慢性疾患への適応拡大の可能性につながると考えております。当社は、本共同研究の成果を活用し、線維化疾患の次のターゲットとして肺線維症への適応拡大を積極的に検討してまいります。
2024年11月には、慶應義塾大学と、脊髄損傷後の自然回復を予測する新たな急性期バイオマーカーの探索に関する共同研究契約を締結しました。当社は現在、組換えヒトHGFタンパク質製剤を脊髄損傷急性期の治療薬として製造販売承認申請に進める準備を行っております。本共同研究により見出されたバイオマーカーが脊髄損傷急性期において、治療効果判定や自然回復の程度の予測等に利用できるようになれば、より適切な治療につながるものと期待されます。
2.事業開発活動について
当中間会計期間においては、脊髄損傷急性期での海外展開を見据えて、海外製薬企業等との事業提携協議を中心に、事業開発活動を行いました。2024年6月には、米国での脊髄損傷に関するシンポジウム「2nd Annual Spinal Cord Injury Investor Symposium」にて講演を行い、関係者とのネットワーキングを行いました。また、脊髄損傷急性期を対象とする米国での臨床開発及び製造開発(組換えヒトHGFタンパク質の製造法効率化)の費用の一部を調達することを目的に、2023年9月に新株予約権を発行しておりましたが、2024年5月に全ての行使が完了しました。これにより最大の医薬品市場である米国での開発戦略を明確化し、事業提携の協議を加速することを期待しております。
2021年9月には、当社パイプラインの主成分である組換えヒトHGFタンパク質(5アミノ酸欠損・糖鎖付加型、開発コード:KP-100)の国際一般名が、「Oremepermin Alfa」(オレメペルミン アルファ)に決定されました。また、2024年5月には、日本医薬品一般的名称が、「オレメペルミン アルファ(遺伝子組換え)」に決定され、今後、国内での製造販売承認申請書類等、公式な場で本名称を使用することが可能になりました。
これらの結果、当中間会計期間の売上高は35,928千円(前年同期比16.5%の減少)、営業損失は511,933千円(前年同期は、366,746千円の営業損失)、経常損失は511,740千円(前年同期は、365,471千円の経常損失)、中間純損失は512,490千円(前年同期は、366,217千円の中間純損失)となりました。
なお、当社は医薬品開発事業のみの単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。
② 財政状態の状況
(資産)
当中間会計期間末における流動資産は、前事業年度末に比べて490,865千円減少(前事業年度末比17.8%減)し、2,265,125千円となりました。これは主として、声帯瘢痕の治験費用をはじめとした研究開発費の支払いにより現金及び預金が427,338千円減少したことによるものであります。固定資産は、前事業年度末に比べて23,860千円増加(前事業年度末は1,122千円)し、24,982千円となりました。これは、投資その他の資産が「Nakanoshima Qross オフィス」開設による敷金の増加等により、23,860千円増加したことによるものであります。
この結果、資産合計は、前事業年度末に比べて467,005千円減少(前事業年度末比16.9%減)し、2,290,108千円となりました。
(負債)
当中間会計期間末における流動負債は、前事業年度末に比べ27,653千円増加(前事業年度末比21.6%増)し、155,826千円となりました。これは主として、前受金が35,928千円減少した一方で、未払金が72,342千円、一年内に履行が予定されている資産除去債務が3,900千円それぞれ増加したことによるものであります。固定負債は、前事業年度末に比べて4,822千円増加(前事業年度末比0.9%増)し、525,571千円となりました。これは、流動負債への組替えにより資産除去債務が2,305千円減少した一方で、長期未払金が7,127千円増加したことによるものであります。
この結果、負債合計は、前事業年度末に比べて32,476千円増加(前事業年度末比5.0%増)し、681,397千円となりました。
(純資産)
当中間会計期間末における純資産は、前事業年度末に比べ499,481千円減少(前事業年度末比23.7%減)し、1,608,710千円となりました。これは主として、中間純損失を512,490千円計上したことによるものであります。
この結果、資本金12,122千円、資本剰余金2,841,101千円、利益剰余金△1,268,943千円となりました。
③ キャッシュ・フローの状況
当中間会計期間末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、1,258,345千円となり、前事業年度末と比較して558,598千円減少しました。
当事業年度のキャッシュ・フローの概況は以下のとおりです。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動によるキャッシュ・フローは、404,516千円の支出(前年同期は315,253千円の支出)となりました。これは主として、未払金の増加額72,342千円の資金増加はあるものの、税引前中間純損失511,740千円による資金減少によるものです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動によるキャッシュ・フローは155,129千円の支出(前年同期は121,363千円の支出)となりました。これは主として、定期預金の預入による支出131,260千円によるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動によるキャッシュ・フローは1,047千円の収入(前年同期は668,409千円の収入)となりました。これは、新株予約権の行使による株式の発行による収入1,047千円によるものであります。
(2)経営方針・経営戦略等
当中間会計期間において、当社が定めている経営方針・経営戦略等について重要な変更はありません。
(3)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当中間会計期間において、当社が優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題について重要な変更はありません。
(4)研究開発活動
当中間会計期間の研究開発費の総額は404,978千円(前年同期比37.8%の増加)であります。
なお、当中間会計期間における研究開発活動の内容については、「(1)財政状態及び経営成績の状況 ① 経営成績の状況 1.医薬開発活動について」に記載したとおりであります。
当中間会計期間において、経営上の重要な契約等の決定又は締結等はありません。