第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

(1)会社の経営の基本方針

 当社グループは、社会の一員として健全な倫理・価値観を社会と共有しながら、法令・定款・社会規範を遵守し、株主、顧客、従業員とその家族、取引先、債権者などの当社グループの利害関係者と良好な関係を構築するとともに、人々の良質な暮らしの実現のために、他にない技術の提供を通じて、流体を扱う多様な産業、航空宇宙、透析医療などの暮らしの根幹分野で創造的な貢献を果たすことを経営の理念とし、当社グループの持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目指します。

 このような経営の理念の下、それぞれの事業分野において、独創的な技術を活かし、市場のニーズに応えた特長ある製品、サービスを提供することにより社会に貢献することを、経営の基本方針としています。

 

(2)中長期的な経営戦略及び目標とする経営指標

①中長期的な経営戦略;「Nikkiso 2025 フェーズ2」(対象期間:2023年~2025年)

 2020年のコロナ禍以降、ビジネスモデルの見直し、サプライチェーンの再構築、従業員の働き方など、当社が対処すべき経営課題は大きく変化してきました。

 なかでも、2022年にインダストリアル事業の中核であった連結子会社の全株式を譲渡したことは、脱炭素社会の構築と新エネルギーへの転換を実現するための機器メーカーという新しい日機装が目指す会社の骨組を形作るうえで重要な一歩となりました。

 当社は、こうした環境の変化や経営課題に対応するとともに、「ものづくりで、社会の進化を支え続ける」という当社の存在意義に立ち返り、中期経営計画「Nikkiso 2025 フェーズ2」(中計フェーズ2)を策定しました。

 中計フェーズ2は、低・脱炭素関連の新市場拡大など長期的に目指す姿から逆算して策定しており、この3ヵ年を2025年以降の本格的成長に向けて経営基盤を固める期間と位置付け、推進しています。

 

 ●「技術力の向上」「事業ポートフォリオの再構築」「経営基盤の強化」を基本方針に掲げ、収益力向上の土台となる経営基盤の強化に取り組むとともに、中核事業との親和性や当社グループの競争優位性を踏まえた事業の選択と集中を加速し、経営資源の最適配分を進めます。

 ●資本収益性を重視した事業ポートフォリオを構築し、収益力向上により獲得した資金・経営資源を成長分野、新市場創出に向けた研究・技術開発に投入するというサイクルを適切に回す体制を整えることで長期的なサステナビリティ経営を実現していきます。

 

 このような事業基盤の拡大、強化を図ることで、中計フェーズ2の最終年度である2025年12月期には、売上収益2,305億円(当初計画比9.8%増)、営業利益は当初計画どおりの140億円を計画しています。

 

(3)経営環境及び対処すべき課題

①事業の課題と取り組み

 低・脱炭素関連のビジネス機会が拡大する一方、航空機産業の生産回復の遅れや中国経済の減速並びに世界的な物価高や円安進行への警戒など、先行き不透明な状況が続いています。特に、各産業における生産活動の停滞やそれに伴う設備投資の先送り感が強まることで、当社グループの業績や財政状態に影響を及ぼすことが想定されます。

 このような経営環境のなか、各事業の注力分野へ経営資源を投入するだけでなく、不採算事業や中核事業との親和性が低い事業を見極め、当該事業の再編を通じて事業ポートフォリオの再構築を進めることで資本効率性の改善を進めています。

 2024年12月期の全社収益性は、事業ポートフォリオの再構築に伴う一過性損失の計上により低調な結果となりましたが、収益体質への着実な転換を図っており、2025年12月期については、中計フェーズ2で掲げた全社目標水準の達成を目指します。

 

<インダストリアル事業>

 CE&IGグループを中心に、グローバルにLNG、産業ガス、水素ステーション、CO2などの低・脱炭素関連の受注拡大を図り、低・脱炭素関連を軸とした事業ポートフォリオへの転換を更に進めます。また、拠点統合や設備増強など規模拡大と事業効率の両面を踏まえた投資、経営基盤の強化を行い、2026年以降の成長に向けた足場固めを進めます。インダストリアル事業全体としては、CE&IGグループが成長を牽引し、中計フェーズ2で掲げる売上収益と営業利益の目標を大幅に上回る計画です。

 

 

<航空宇宙事業>

 産業全体のサプライチェーンの再構築に時間を要してきましたが、2025年後半から航空機生産量は本格的に回復するとみられています。コロナ禍による事業環境の急激な変化により 中計フェーズ2で掲げる業績目標には届かない状況ですが、事業領域の拡大を通じた収益源の多様化、部材調達の最適化、そして生産工程の一部自動化による生産効率の向上など収益構造改革に取り組み、コロナ禍前の水準に近い収益率への回復を目指します。

 

<メディカル事業>

 主力の血液透析事業では、米国市場向け販売許認可取得に係る経費や、製品開発の強化に向けた人件費・経費の増加など一部経費が先行するため、2024年12月期並みの営業利益に留まる見込みですが、装置・消耗品の拡販及び販売価格適正化を継続し増収によるコスト吸収を目指します。競争力のあるグローバル製品の投入や米国市場進出の遅れにより中計フェーズ2で掲げた業績目標は達成が難しい状況となっていますが、開発体制の強化で米国市場など海外事業の巻き返しを図り収益力の回復を進めます。

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

(1)サステナビリティ基本方針と重要なサステナビリティ課題(マテリアリティ)

 現在、世界は経済の拡大と持続可能な社会に向けた脱炭素化という難しい社会課題に直面しています。これらの社会課題の解決に貢献することは、社会の一員である企業の社会的責務であり、かつ企業にとって大きなビジネスチャンスです。また、人的資本の強化は企業の成長そのものを左右していく極めて重要な課題です。

 このような基本認識のもと、当社グループは社会的責務を果たしながら、脱炭素化を大きな成長機会として捉え、社会実装を見据えた技術開発に着手しています。液化水素、液体アンモニアの制御技術、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)の加工技術など、サステナビリティ課題の解決に貢献できる技術力を保有する当社グループにとって、脱炭素化の動きは大きな成長機会になると確信しています。

 また、人的資本の強化に関しては、当社グループでは従来、各々の事業が既存の事業、技術、顧客との関係構築に必要な人材育成や強化を行い、こうした取組によって強化された人材によって事業の優位性は維持されてきました。しかしながら、脱炭素、DX(デジタルトランスフォーメーション)などの社会の大きな変化に対応するためには、既存の枠組みを超えて新たな事業や技術の創出に挑戦していくような組織基盤への変革が必要です。そうした課題感から、事業戦略の実現に必要な組織、人材ポートフォリオの検討を開始し、組織の中核となる人材育成方針やその活躍の最大化ができる環境整備方針を策定し、人的資本への投資を強化しています。

 当社グループにおけるサステナビリティの取組は、私たちが大切にしてきた「人々の良質な暮らしの実現のために、流体を扱う多様な産業、航空機、透析医療など暮らしの根幹にかかわる分野で創造的な貢献を果たす」、この考えの実践そのものです。

 私たちは、流体制御の技術力などその専門性とあらゆる経営資本を最大限に生かし、「社会の発展に貢献する新しい価値創造」、「社会基盤を支える製品・サービスの安定供給」、「すべての従業員が力を最大限発揮できる環境づくり」、そしてこれらを実現する「経営基盤の強化」をテーマにサステナビリティに関わる重要課題へ取り組み、産業や社会の持続的な発展に貢献していくことを通じて、当社グループの持続的成長と企業価値向上を実現していきます。

 表1に当社グループの経営理念とマテリアリティの関係を記載します。

 

表1≪経営理念とマテリアリティの関係≫

経営理念

テーマ

マテリアリティ

『人々の良質な暮らしの実現のために、流体を扱う多様な産業、航空機、透析医療など暮らしの根幹にかかわる分野で創造的な貢献を果たす』

■  社会の発展に貢献する新しい価値創造

① イノベーションを通じた顧客の課題解決

② 環境負荷低減の取り組み

■  社会基盤を支える製品・サービスの安定供給

③ 安全・安心な製品づくり

④ サプライチェーンマネジメントの強化

■  すべての従業員が力を最大限発揮できる環境づくり

⑤ 人材活躍の最大化

■  経営基盤の強化

⑥ リスクマネジメントの強化

⑦ 財務体質の強化

 なお、以下において将来に関する事項を記載することがありますが、当該事項は本有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものです。

 

(2)サステナビリティ課題等(注1)に関する当社グループのガバナンス

サステナビリティ委員会 によるサステナ課題関連のリスク・機会の識別、評価、管理の統合

 取締役会の監督のもと、サステナビリティ課題等に関する識別、評価及び管理並びに監督に関わる主要な組織として、サステナビリティ委員会並びに各種専門委員会及びサステナビリティ推進室を設置しています(図1)。各組織の役割と活動の概要は次のとおりです。

 

■ サステナビリティ委員会

・サステナビリティ課題等及びその管理のための具体的行動計画並びに各部門の事業・業務計画が相互に整合するよう、各部門の責任者(注2)で構成し、四半期ごとに年4回開催することを基本とします。

・本委員会の主要な役割は、取締役会の監督のもとにあって、事業に関連するサステナビリティ課題等を把握し、リスクを適切にコントロールするとともに、サステナビリティ課題の解決への貢献を通じて中長期的に当社グループの企業価値を向上させる成長機会を探索、追求することにあります。この主要な役割を果たすため、本委員会は、サステナビリティ課題等に取り組む各組織を統合する役割と責任も負います。また、本委員会は、原則として年2回、サステナビリティ課題に関する活動の進捗、成果を取締役会に報告し、その監督を受けます。当期における本委員会の活動内容と取締役会への報告内容の概要は表2に記載のとおりです。

 

 

■ 各種専門委員会

  気候変動、人的資本、人権、情報セキュリティなどを含むサステナビリティ課題ならびに税務、為替変動、技術確認、サプライチェーン確保、自然災害、感染症、コンプライアンス、製品の品質保証など事業の主要なリスクと機会について、専門的に識別、評価、管理します。現在は、リスク管理・コンプライアンス委員会、環境推進委員会などを設置しています。各種専門委員会の活動の進捗、成果は定期的にサステナビリティ委員会に報告します。

■ サステナビリティ推進室

  サステナビリティ委員会の事務局機能を果たすことを通じて、サステナビリティ委員会に統合される各種専門委員会や関係各部のサステナビリティ課題等の管理活動を支援します。

 

図1≪サステナビリティ委員会によるサステナビリティ課題等の統合的管理体制≫

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(注1)サステナビリティ課題等:本章においては、気候変動、人的資本などのサステナビリティ課題に関連するリスク・機会を含むリスク全般及び収益機会を総称する語として使用します。

(注2)サステナビリティ委員会の構成:本有価証券報告書提出日現在、4人の社内取締役を含む、事業本部長・コーポレート本部長らで構成します。

 

取締役会によるサステナビリティ課題等の管理組織に対する監督

・原則として期初に、サステナビリティ推進室ならびに各種専門委員会および関係部署は連携して、サステナビリティ課題等を識別し、評価し、またその管理のための具体的行動計画案を起案のうえ、サステナビリティ委員会に上程します。

・サステナビリティ委員会は、上程されたサステナビリティ課題等とこれらを管理するための具体的な行動計画について、サステナビリティ課題等を巡る社会情勢等及び当社グループの存在意義等を考慮して重要事項を決定します。

・取締役会は、原則として年2回、サステナビリティ委員会からサステナビリティ課題等の取組に関する進捗状況の報告を受けることを通じて、サステナビリティ課題等を管理する組織およびその活動の進捗を監督します(当期における取締役会報告内容の概要は表2に記載のとおりです。)。

・取締役会は年度予算、事業計画、投資等の重要な業務執行の決定を行う際は、サステナビリティ委員会により特定されるサステナビリティ課題等とその管理のための具体的行動計画をその他の経営に関する事情とあわせ考慮します。

 

表2≪当期におけるサステナビリティ委員会の活動内容および取締役会への報告内容≫

開催月

会議体

審議・報告内容

第1四半期

2024年2月

第1回サステナビリティ委員会

前期の実績報告と当期の取組テーマの審議

2024年3月

取締役会

前期有価証券報告書において開示するガバナンス、戦略、リスク管理、指標及び目標の内容の報告

第2四半期

2024年5月

第2回サステナビリティ委員会

当期の取組テーマに関する選定状況と進捗報告

第3四半期

2024年8月

第3回サステナビリティ委員会

当期の取組テーマに関する進捗報告

2024年9月

取締役会

当期に取り組むサステナビリティ活動(GHG排出量削減、ビジネスと人権などを含む取組テーマ)の進捗の報告

第4四半期

2024年11月

第4回サステナビリティ委員会

当期の取組テーマに関する成果報告

 

(3)サステナビリティ課題等に関する当社グループのリスク管理

サステナビリティ課題に関連するリスク・機会を識別・評価・管理するプロセスとリスク管理全体への統合

 サステナビリティ委員会は、当社のリスク管理全体のプロセスにおいて、気候変動、人的資本、人権、サイバーセキュリティなどサステナビリティ課題のリスクと機会ならびにサステナビリティ課題以外のリスクと機会を対象として、識別、評価、管理を行います。すなわち、当社においては、気候関連リスク・機会を含むサステナビリティ課題に関連するリスク・機会の識別、評価、管理は、リスクおよび機会の全般を識別等するためのプロセスで統合的に実施されることとしています。以下、当期における本プロセスの流れを時系列で説明します。

 

≪前期第3四半期・第4四半期≫

■ 当期サステナビリティ課題等の識別・評価

  サステナビリティ推進室は各種専門委員会および関係部署(「各種専門委員会等」)と連携し、サステナビリティ課題関連のリスク・機会を巡る社会情勢等を踏まえ、当社グループの存在意義およびマテリアリティならびに中期経営計画および業績目標等を考慮して、サステナビリティ課題関連のリスク・機会およびこれら以外の事業等のリスクも網羅的包括的に対象として、当期における重要なサステナビリティ課題等の候補を識別、評価。

・リスクと機会の識別は、社会的に関心の高いサステナビリティ課題を含む100個超の例示リスクを列挙する所定のリスク評価シートを使って実施しました。なお、これらの例示リスクは毎年の更新に努めます。

・リスクと機会の評価は、4段階の財務的人的な影響度×4段階の発生頻度のマトリックス表を使用し、リスクと機会が財務的または人的に及ぼす影響度とその発生頻度の2軸で相対的かつ定量的または定性的に判断しました。

 

≪当期第1四半期・第2四半期≫

■ 当期サステナビリティ課題等の識別・評価の決定および前期の活動成果の報告

・当期第1四半期に開催された第1回サステナビリティ委員会において、サステナビリティ推進室から上程されたサステナビリティ課題等(候補)について、サステナビリティ課題関連のリスク・機会を巡る社会情勢等を踏まえ、当社グループの存在意義、マテリアリティならびに中期経営計画等を考慮して、当期に取り組むべきものとして、10個のサステナビリティ課題等を決定しました。

・また、当期第1四半期に開催された第1回サステナビリティ委員会では前期の活動成果もあわせて報告しました。

■ 当期サステナビリティ課題等の対策策定

  各種専門委員会等は、第1回サステナビリティ委員会が決定した当期に取り組むべきサステナビリティ課題等について、当該課題等の経営の及ぼす重要性、実効的な対策遂行の現実的可能性、政府による公共政策の有無・程度、投下する経営資源(人材、時間、費用)などを考慮し、これらを実効的に管理するための対策と具体的行動案を策定。

≪当期第2四半期~第4四半期≫

■ 当期の活動成果の進捗報告

・各種専門委員会等は、当期のサステナビリティ課題等に関する具体的行動計画について、その進捗状況を第2回、第3回および第4回のサステナビリティ委員会に報告します。

・サステナビリティ委員会は、第3四半期、サステナビリティ課題等の進捗を取締役会に対し報告しました。

 

 こうしたプロセスを経て当期に選定したサステナビリティ課題等について、本有価証券報告書提出日におけるリスク評価と成果の概要を表3に記載します。

 

表3≪当期選定したサステナビリティ課題等の期末リスク評価と成果≫

マテリアリティ

サステナビリティ課題等

影響度

(1~4)

発生頻度

(1~4)

リスク量

(HH> HM >MM)

成果(抜粋)

① イノベーションを通じた顧客の課題解決

◆ 気候変動による低・脱炭素社会への移行に対する事業対応

インダストリアル事業

HH

・液化水素ステーション(後記注15)

・水素・アンモニア分野(後記注16)

航空宇宙事業

MM

・eVTOLの部品分野

(後記注18)

メディカル事業

MM

・血液透析関連製品製造の国内基幹工場の消費電力全量の実質再生可能エネルギー100%化へ(後記注10)

② 環境負荷低減の取り組み

◆ グループ全体のGHGの計画的、継続的な削減

MM

・移行計画(後記)

・温室効果ガス排出量削減に関する指標及び目標(後記)

③ 安全・安心な製品づくり

◆ 設計品質(製品設計/工程設計)の向上

MM

 

④ サプライチェーンマネジメントの強化

◆ 血液透析消耗品のサプライチェーン確保

MM

 

◆ 民間航空機部品のサプライチェーン分断のリスク回避

MM

 

⑤ 人材活躍の最大化

◆ 「人的資本」施策の計画的な遂行

HH

・人的資本(後記)

⑥ リスクマネジメントの強化

◆ 災害時の本社中枢機能確保(BCP体制)

HH

 

◆ サイバーセキュリティ経営への対応

MM

・その他の重要なサステナビリティ課題

(後記)

◆ ビジネスと人権

MM

⑦ 財務体質の強化

◆ 資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応

HH

 

 

(4)重要なサステナビリティ課題(マテリアリティ)

 前記(3)に記載のとおり、サステナビリティ委員会は当社のリスク管理全体のプロセスにおいて、気候変動、人的資本、人権、サイバーセキュリティなどサステナビリティ課題のリスクと機会だけでなく、サステナビリティ課題以外のリスクと機会をも対象(併せて「サステナビリティ課題等」前記 注1参照)として、識別、評価を行います。

これらのサステナビリティ課題等の識別、評価の過程において、以下を実施します。

・当社グループのマテリアリティ(前記 表1参照)を基準として、サステナビリティとしての重要性を精査、抽出したものを当社グループの重要なサステナビリティ課題として位置づけます。

・また、当社グループの経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクの識別、評価もあわせて行います(このうち「事業等のリスク」の詳細は後記 3 事業等のリスク をご参照ください。)。

 

 当期は、気候変動、人的資本、人権および情報セキュリティを重要なサステナビリティ課題に追加しました。これは、人権および情報セキュリティはサステナビリティ課題であるとの認識が社会に急速かつ広範に広がっている状況に鑑み、当社グループのマテリアリティの観点からあらためて検討した結果です。

 以下において、重要なサステナビリティ課題として、気候変動、人的資本、人権および情報セキュリティに関する当社グループの考え方及び取組をご説明します。

 

① 気候変動(TCFD提言に基づく開示)

 気候変動にかかわる社会課題の解決に貢献することは、社会の一員として健全な社会倫理・価値観を共有することを経営理念とする当社グループが負う社会的責務であるとともに、当社グループの経営上の重要な課題と位置づけています。

・インダストリアル事業は、低・脱炭素社会への移行に適合すべく、水素航空機向け液化水素ポンプの実液試験、火力発電利用に適合した液化アンモニアポンプ開発に成功するなど、社会実装を見据え、先行して技術開発に着手しています。

・航空宇宙事業は、脱炭素燃料への転換が求められる民間航空機や次世代移動手段向けの装置設備等の軽量化需要が収益機会になると見込んでいます。

・メディカル事業は、血液透析関連製品のサプライチェーンが気候変動に伴う異常気象の影響をうけ、停止または切断するリスクを軽減・適合することが重要課題のひとつとなっています。

 

①-1 ガバナンスとリスク管理

 気候変動に伴うリスクと機会に対する監督体制及びそのプロセスは、それぞれ前記(2)および(3)の監督体制とプロセスに従っています。

 2024年2月および5月、サステナビリティ委員会は当期に取り組むべき気候変動に伴うリスク及び機会として、次の2つの課題を決定しました(前掲の表3)。

・GHG排出量の削減(担当組織は環境推進委員会)

・低・脱炭素社会移行へのインダストリアル事業、航空宇宙事業およびメディカル事業の軽減・適合(担当組織は各事業部)

 2024年9月および2025年3月、サステナビリティ委員長から、取締役会に対して、上記リスク項目の進捗と成果を報告しています。

 

①-2 戦略:リスクおよび機会の特定、経営に及ぼす影響、それらに対する経営戦略の適合性(レジリエンス)

[事業環境に関する想定]

 2100年の気温上昇を産業革命前と比較し1.7℃に抑える気候関連のシナリオ、2.4℃上昇するシナリオおよび4℃上昇するシナリオを使用して、次の事業環境を想定します。

 

■ 低炭素社会へ移行する事業環境(「1.7℃上昇の事業環境」)

 各国政府によるすべての気候変動関連の公約が完全かつ期限内に達成され、2100年の気温上昇を産業革命前と比較し、1.7℃に抑えるシナリオ(IEA World Energy Outlook 2024のAPS(注3)などを参照)に基づく。

<想定する事業環境>

・この事業環境において、エネルギー源は原子力、再生可能エネルギー、CO2の回収・貯留(CCS)、それに利用を加えたCCUSを前提とする火力発電、再生可能エネルギー由来のグリーン水素となる。

・太陽光、風力、原子力、電気自動車、ヒートポンプ、水素、炭素回収の7つのクリーンエネルギー技術が安価で安全なエネルギー転換の鍵となる。これらの技術は、2050年までのCO2排出削減量の4分の3を占め、バイオエネルギーや地熱など、他の再生可能エネルギーやエネルギー効率が残りを補完する。

・とりわけ水素、アンモニアは脱炭素排出型エネルギーとして重要な選択肢となり、発電(燃料電池、タービン)、輸送(自動車、船舶、航空機、鉄道等)、産業(製鉄、化学、石油精製糖)の様々な分野の低・脱炭素化に貢献する。

 

■ 化石燃料に一部依存する社会が発展的に存続する事業環境(「2.4℃上昇の事業環境」)

 再生可能エネルギーの導入は加速するものの、現在の各国の政策以外に新たな政策がない場合には、2100年の気温上昇が産業革命前と比較し、2.5℃/2.4℃になると予測するシナリオ(IEA World Energy Outlook 2024、同2023のSTEPS(注4)などを参照)に基づく。

<想定する事業環境>

・この事業環境では、化石燃料の利用は一部継続される。

・クリーンエネルギーの導入が加速、2030年までに3種類の化石燃料(石油、天然ガス、石炭)の需要すべてがピークに達する。クリーンエネルギーの供給は、2023年から2035年の間に総エネルギー需要を上回る成長を遂げる。太陽光と風力の急増に牽引され、クリーンエネルギーは2030年代半ばに最大のエネルギー源となる。

・とはいえ、天候による発電量の変動をカバーして需給のバランスを調整するための電源として、出力をコントロールしやすい天然ガス火力の重要性が当面むしろ高まる。また、エネルギー安全保障などの観点から、水素・アンモニア関連分野への投資は継続する。

 

 

 

■ 4℃上昇する事業環境

 各国が気候政策を導入しない結果、GHG排出量が非常に多く、2100年の気温上昇が1850~1900年を基準として4℃上昇するとのシナリオ(IPCC(注5) 第6次評価報告書など参照)に基づく。

<想定する事業環境>

・この事業環境では、当社グループが事業展開するアジア、北米及び欧州のほとんどの地域において、熱波を含む極端な高温、大雨、台風、洪水等自然災害の強度と頻度が増し、また海面水位が上昇し続ける。

 

[認識する事業環境における事業別のリスク・機会の及ぼす影響と経営戦略・対応策の適合性(レジリエンス)]

 以下に当社グループの主要事業について実施した、気候変動に伴うリスク及び機会に関するシナリオ分析の結果の概要を掲載します。以下に掲載するリスク及び機会は、サステナビリティ委員会が統合するサステナビリティ課題等に関する識別、評価のプロセスを経て、当期においてあらためて判別されたものです。

 結論として、本有価証券報告書提出日現在において、合理的に入手可能な情報に基づき気候変動に伴うリスク及び機会に関するシナリオ分析を実施した結果、以下に記載する当社グループの経営戦略・対応策は複数の気候変動シナリオから想定される事業環境のいずれにも適合しうると判断します。

 

(注3)APS:IEA(International Energy Agency 国際エネルギー機関)の3つのシナリオのひとつ。APS(公約シナリオ)はNDC(国が決定する貢献)や長期的なネット・ゼロ目標を含む、各国政府によるすべての気候変動関連の公約を考慮し、それらが完全かつ期限内に達成されると仮定するシナリオ。これによれば、年間CO2排出量は2022年以降まもなくピークに達した後、2050年までに120億トンまで急速に減少し、2100年の気温上昇は1.7℃となる。

(注4)STEPS:IEAの3つのシナリオのひとつ。STEPS(既存政策シナリオ)はエネルギー、気候、関連産業政策を含む最新の政策設定に基づく見通しを提供するシナリオ。これによれば、世界全体のエネルギー由来のCO2排出量が2025年に年間370億トンでピークに達し、2050年には320億トンに減少する。その結果、2100年の気温上昇は2.5℃/2.4℃となる。

(注5)IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change):気候変動に関する気候変動に関する政府間パネル。世界気象機関(WMO)及び国連環境計画(UNEP)により1988年に設立された政府間組織。

 

全事業に共通

 

<移行リスク>(注6)

時間軸

(注7)

リスクの種類

リスクの種類

財務的影響

内容

重要度

(注8)

中期

長期

政策・

法規制

リスク

(1.7℃上昇の事業環境)

炭素税の導入など脱炭素社会への移行に向けた法規制の変更

・原資材調達コスト、製造コストの上昇。

・既存資産の早期除却、設備の早期更新負担。

評判

リスク

(2.4℃上昇、4℃上昇の事業環境)

脱炭素移行対策の遅れ

・顧客・取引先から選別されることによる取引の減少

・従業員の士気低下、人材流失、人材確保の困難

長期

市場

リスク

(1.7℃上昇の事業環境)

再生可能エネルギー価格の上昇、化石燃料の利用減少によるエネルギー価格の上昇

・国内よりもエネルギーコスト等の割安な国や地域へ製造拠点を移転するための先行設備投資

・原資材調達コスト、製造コストの負担

・既存資産の早期除却、エネルギー高効率装置への更新負担

◆ 経営戦略・対応策

・業績と両立するバランスのとれたGHG排出量の削減対策を継続します。

・費用対効果を踏まえ、長期安定的な調達の方策を検討し、再生可能エネルギーを適時に導入します。

 

 

<機会>

時間軸

機会の種類

機会の内容

財務的影響

内容

重要度

中期

長期

資源の

効率性

(1.7℃上昇の事業環境)

製造方法、製品輸送手段の効率性の向上

工場の操業コスト、製品輸送コストの節減

◆ 経営戦略・対応策

  工場の操業、輸送コストに好影響を及ぼす方策を適時に導入します。

 

<物理的リスク(注9)>

時間軸

リスクの種類

リスクの内容

財務的影響

内容

重要度

短期

中期

長期

急性

リスク

(4℃上昇の事業環境)

異常気象の増加、激甚化

・サプライチェーン分断リスクへの対応費用の増加

・施設、設備の保守管理、修繕コストの増加

・異常気象を回避するサプライヤーの生産拠点移転に伴う原材料調達コストの上昇

・従業員の出勤率悪化、生産性低下、操業度の低下、工場閉鎖

慢性

リスク

(4℃上昇の事業環境)

異常気象に起因する新たな疾病罹患の繰り返しの発生

・社内の感染対策費、従業員の福利厚生費の増加

(4℃上昇の事業環境)

・常態的な気温上昇

・労働条件・環境整備等に関する法規制の厳格化

・空調コスト増加

・厳格化する法規制への対応コスト増加

◆ 経営戦略・対応策

・在庫の積み増し、サプライヤーの複線化、実効的なBCP対策の継続的改善による災害時における本社・本部機能の確保、漏れのない効果的な損害保険の継続的付保、拠点設置時の危険地域該当性の事前評価、在宅勤務やフレックス制の効率的活用、感染対策物品の備蓄などを維持、実施していきます。

・血液透析事業においては、災害発生時に故障製品の状態をただちに把握できる遠隔監視及び復旧作業を遠隔指示できるシステムの普及拡大とサービスの機能強化を急ぎます。

 

(注6)移行リスク:低炭素社会への移行に関連したリスク(TCFD最終報告書2017年6月)。

(注7)時間軸:財務への重要な影響を与える可能性のある具体的な気候関連事項について次の時間的範囲(短期、中期、長期)で想定します。短期(現在~1年間)、中期(短期超~6年間)、長期(中期超~) 以下本文で同じ。

(注8)重要度:当該リスクと機会の発生可能性と発生した場合の財務的、人的影響度の2軸で評価します。

・大(①財務的または人的な影響の大きさにかかわらず、頻繁に発生する ②発生可能性にかかわらず、財務的または人的な影響が極めて甚大)

・中(稀にまたはしばしば発生し、財務的または人的影響が一定程度を超えると予想)

・小(大中以外)

以下本文で同じ。

(注9)物理的リスク:気候変動の物理的影響に関連したリスク(TCFD最終報告書2017年6月)。

 

≪低炭素社会への移行に関する計画(移行計画)≫

<目標>2019年(23,286t-CO2)を基準年とし、当社単体及び国内主要連結子会社を対象として、Scope1及び同2のCO2総排出量(t-CO2)について、2025年15%減、2030年30%減とすることを目標とします。

<取組済の削減策>

■ 金沢製作所(血液透析装置など血液透析関連製品を製造する国内基幹工場)における取組

○ 2024年から、同製作所において消費する電力全量を実質的な再生可能エネルギーに切り替える計画(注10)を本格的に進めています。

・オンサイトPPA(太陽光)の導入(注11):2023年3月運用開始(年間発電量 615MW h GHG年間削減量295t- CO2

・非化石証書の購入:2024年5月から購入継続。

・オフサイト・バーチャルPPAの導入(注11):2024年9月一部運用開始。北陸電力㈱の委託する発電事業者が日本国内に新たに開発する10か所の太陽光発電所から、発電にともない生み出される年間3.5Gwh分の追加性のある環境価値を非化石証書として、20年間にわたり調達します。これにより、同製作所のCO2排出量は年間1,680t- CO2削減する見込みです。

 

■ 宮崎日機装(航空宇宙事業、インダストリアル事業の国内基幹生産拠点)における取組

○ 2024年6月、オンサイトPPA(太陽光)の運用開始(年間発電量 873MWh GHG年間削減量 404t- CO2

 

<計画中の削減策>

○ 国内の工場、生産拠点において、LED照明敷設、遮熱塗装、生産設備の更新などの実施を計画しています。

 

(注10)当社金沢製作所の消費電力全量の実質再生可能エネルギー100%化:本有価証券報告書提出日現在、当社金沢製作所では電力の一部をオンサイトPPA(2023年4月から運用開始)の方法で調達するほか、エネルギー高効率の生産設備への更新などにより、消費電力節減とCO2排出削減に努めていますが、これらの施策によっても削減しきれないCO2が残ります。この残存するCO2について、オフサイト・バーチャルPPA(2024年9月から一部運用開始)による環境価値の調達や非化石証書(2024年5月から購入)の活用により、本製作所にて消費する電力全量を、CO2を排出しない実質的な再生可能エネルギー由来電力に切り替える計画を進めています。本計画の達成により、年間約7,400t-CO2の削減を目指します。

(注11)オンサイトPPA/オフサイト・バーチャルPPA:PPA(Power Purchase Agreement :電力購入契約) は、電力需要家が発電事業者から直接再生可能エネルギーを購入する契約形態であり、そのうちオンサイトPPAは需要家の敷地内に建設する発電所で発電された太陽光の電気価値と環境価値の両方を需要家が調達する手段です。これに対して、オフサイト・バーチャルPPAは、需要家の敷地外に建設する専用発電所で発電された再生可能エネルギーの環境価値のみを需要家が調達する手段とされます。

 

 

インダストリアル事業

<主要な製品・サービス>産業用ポンプ・システム、液化ガス・産業ガス関連機器・装置、発電プラント向け水質調整装置、電子部品製造関連装置

 

<移行リスク>

時間軸

リスクの

種類

リスクの内容

財務的影響

内容

重要度

中期

長期

技術

リスク

(1.7℃上昇の事業環境)

<液化ガス・産業ガス関連機器・装置>

低・脱炭素社会に向けて水素、アンモニア関連製品やLNG関連製品の開発競争・技術競争が熾烈化

開発投資負担、専門人材の人件費の増大、開発技術競争に劣後

市場

リスク

(1.7℃上昇の事業環境)

<産業用ポンプ・システム、発電プラント向け水質調整装置>

従来型の石油化学プラント、石炭火力発電所の新規建設や設備更新が減少

・同プラント等向けの従来型のポンプ・システム製品や水質調整装置の収益機会の減少、それに伴う関連資産の減損

(2.4℃上昇の事業環境)

<液化ガス・産業ガス関連機器・装置>

LNG需要の減少に伴うLNG関連製品・サービスの収益減

・2030年にLNGの需要が23年時点の約4億トンから1億700万トン増える一方、供給能力は1億9900万トン増えることから、世界のガス需給が供給過剰に転じるとの見通し(IEA World Energy Outlook 2024)や、2030年までに石炭、石油、天然ガスの世界全体の需要がすべてピークに達するとの予測(IEA World Energy Outlook 2023  STEPS)もあります。

 

 その影響をうけてLNG投資が低調、減少するときは、クライオジェニックポンプを含むLNG関連機器・サービス事業も中長期的には成長は鈍化し、関連資産の減損のリスクがあります。

(2.4℃上昇、4℃上昇の事業環境)

<液化ガス・産業ガス関連機器・装置>

水素サプライチェーン構築の想定外の遅延

・当社グループの保有する水素エネルギー関連資産の価値の減損

(2.4℃上昇、4℃上昇の事業環境)

<電子部品製造関連装置>

EVシフトの進行が想定外に遅延。またスマート社会向けインフラ用電子部品需要が伸びない。

・当社グループの電子部品製造装置の収益が限定的となることに伴う関連資産の減損

 

 

 

<機会>

時間軸

機会の

種類

機会の内容

財務的影響

内容

重要度

中期

長期

市場

(1.7℃上昇の事業環境)

<電子部品製造関連装置>

AIが拡大、EVシフトが順調に進行

省エネルギー型・高性能半導体の需要増により当社の電子部品製造装置の収益機会は増加すると予想します。

エネルギー源

(1.7℃上昇、2.4℃上昇の事業環境)

<液化ガス・産業ガス関連機器・装置>

・LNG需要の拡大

・データセンターなどによる電力需要の増大

・合成メタン(注12)の利用可能性

以下のことから、1.7℃上昇または2.4℃上昇のいずれの事業環境のもとでも、当社グループのクライオジェニックポンプを含むLNG向け関連機器の収益機会は中長期的に拡大すると予想します。

・アジアは2024年時点では石炭火力への依存度が高く、移行期にはガス化による温暖化ガスの排出削減が進むが、最大限の省エネ技術を見込んでも、LNG需要は2040年ごろまで拡大が続き、2050年時点でもほぼ現在と同程度の需要が保たれるとの予想があること

 

・再生可能エネルギーや原子力といった脱炭素電源がいずれも導入拡大へ課題を抱える一方で、データセンターの新規立地などにより電力需要は今後大幅に増える可能性が高まっていることから、LNG火力発電の重要性が再認識されるとの評価のあること

 

・1.7℃上昇の事業環境において、回収したCO2と再生可能エネルギー由来のグリーン水素によって製造される合成メタンの利用可能性の存在

長期

エネルギー源

(1.7℃上昇の事業環境)

<液化ガス・産業ガス関連機器・装置>

・水素・アンモニア混焼・専焼(注13)に改修されたLNG・石油・石炭火力発電所の新規建設・更新

 

・液体アンモニアポンプ、液化水素ポンプ、アンモニア燃料船舶の利用拡大

以下のことから、液体アンモニアポンプ、液化水素ポンプ、アンモニア燃料船舶向けポンプの収益機会(注14)は拡大すると予想します。

 

・1.7℃上昇の事業環境においては、再生可能エネルギーのうちでも水素、アンモニアは脱炭素排出型エネルギーとして重要な選択肢とされ、発電、輸送、産業の様々な分野の低・脱炭素化に貢献すると見込まれる。

(1.7℃上昇の事業環境)

<産業用ポンプ・システム、発電プラント向け水質調整装置>

CO2回収・貯留(CCS)やそれに利用を加えたCCUS前提の火力発電所や原子力発電所の新規建設・更新

同発電所向けの当社の従来型製品サービスの収益機会は維持または一部増加すると予想します。

 

 

<経営戦略・対応策>

◆ 当社グループは、再生可能エネルギー・システムの社会的実装までにはさらに時間を要すること、電力の安定性、機動的調整力またエネルギー安全保障の観点からも、天然ガス、LNGを含む化石燃料システムは低炭素社会においても一定の役割を果たすものと見込みます。引き続きクライオジェニックポンプなどLNG向け関連事業の収益向上に注力します。

◆ 上記とあわせて、低炭素社会への移行を見据え、液化水素ステーション分野(注15)、水素・アンモニア分野(注16)、省エネルギー・高性能社会関連分野へ経営資源を適時適切に配分し、気候関連のリスクと機会に適合していきます。

 

(注12)合成メタン:水素(H2)と二酸化炭素(CO2)を反応させ、天然ガスの主な成分であるメタン(CH4)を合成して製造する。メタンは燃焼時にCO2を排出するが、合成メタンの原料として、発電所や工場などから回収したCO2を利用すれば、燃焼時に排出されたCO2は回収したCO2と相殺されるため、大気中のCO2量は増加しないとされる。

(注13)アンモニア混焼・専焼:火力発電の燃料の一部/全部をアンモニアに置き換える手法。アンモニア(NH3)は炭素を含まないため、燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しないことから、CO2排出削減の有力な技術とされる。

(注14)アンモニアポンプの収益機会:『2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略』(経済産業省2021年)は、2030年までに石炭火力への20%アンモニア混焼の導入・普及、2050年までに混焼率の向上(50%)や専焼化技術の実用化を目指すとします。需要量は、国内では2030年に年間300万トン、2050年に3000万トンと想定される。また、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の報告『INNOVATION OUTLOOK RENEWABLE AMMO NIA』(2022年)によると、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて1.5℃未満に抑えるためのシナリオに沿うと、世界全体のアンモニア需要は2020年代後半から船舶用燃料、水素キャリア、燃料混焼用途で伸びを見せて、2050年に約6億8800万トンに達し、2025年の予測需要から3倍以上伸びると予想される。

(注15)液化水素ステーション分野の当社グループの取組:米国所在の当社連結子会社グループ CE&IGグループは、米国および韓国において、バスや大型トラック向けを中心に液化水素ステーション用の機器の製造からステーションの建設およびメンテナンスまで一貫して手掛けています。

(注16)水素・アンモニア分野の当社グループの取組:水素を燃料とする水素航空機向けとして、液化水素をエンジンに送り込む過程で使うブースタポンプの開発を継続しており、2025年度の地上実証向け納入を目指します。また、火力発電所向けの液体アンモニア用ポンプについては、国内では、早ければ2027年度にも火力発電所で20%のアンモニアを混ぜた商業運転をする計画があり、当社グループは2026年に市場投入する計画です。液体アンモニアポンプの大型化を図り、混焼率引き上げへの対応や、アンモニア基地 PC タンク用途への展開を進めます。

 

 

 

航空宇宙事業

<主要な製品・サービス> 民間航空機向け炭素繊維強化プラスチック(CFRP)成形品

 

<移行リスク>

時間軸

リスクの種類

リスクの内容

財務的影響

内容

重要度

中期

長期

技術

リスク

(1.7℃上昇の事業環境)

・航空機搭載機材の軽量化分野への新規参入者の増加、当社の得意とするCFRP製逆噴射装置の代替品の出現

・競争激化、軽量化技術の開発投資の増大による収益圧迫

市場

リスク

(1.7℃上昇の事業環境)

・水素、バイオ燃料のコストが上昇、航空機運賃が割高となり、航空機利用客が減少

・現在、国際民間航空機関(ICAO)が国際航空分野で2050年までにCO2排出を実質ゼロにする目標を採択するなど、民間航空業界は運航改善、航空機等の技術革新、SAF(注17)の活用等航空燃料の低炭素化などによって、脱炭素社会構築の実現に向かっています。

 

・この移行過程において、水素、バイオ燃料が化石燃料よりも高くなったり、炭素税が広く導入されたりする場合には、航空運賃の値上がりの可能性も予想され、航空機利用客の減少、民間航空機への投資意欲が減速、後退することも予想されます。

 

<機会>

時間軸

機会の

種類

機会の内容

財務的影響

内容

重要度

短期

中期

長期

資源の

効率性

(1.7℃上昇、2.4℃上昇の事業環境)

・民間航空機の機体軽量化のさらなる進展

・eVTOL(注18)など電力駆動の次世代移動手段向けの装置設備等の軽量化需要の拡大

以下のことから、1.7℃上昇または2.4℃上昇のいずれの事業環境においても、機体の軽量化に貢献する当社グループ製品の収益機会は維持・増加するものと予想します。

 

・1.7℃上昇の事業環境においてはもちろんのこと、2.4℃上昇の事業環境においても、CO2排出規制、省エネルギー、省資源に向けた世界的な気運が逆行するとは考え難いこと

 

・また民間航空機の需要は中期的には拡大すると予想され、民間航空業界は機材、部品の軽量化、燃費効率の向上を一層強く求めること

 

 

<経営戦略・対応策>

◆ 当社グループは、CFRP(注19)成形品加工で培った軽量化技術、ノウハウ、人材を保有し、40年以上にわたる実績があることから、民間航空機の機材、部品等の軽量化と燃費効率の向上に貢献することができます。民間航空業界における脱炭素社会移行の世界的基調を見据え、次世代の熱可塑材料や速硬化材料を用いた製品の開発を進めます。

◆ 上記とあわせて、民間航空機部品の製造で蓄積したCFRP加工技術を活用し、衛星事業、eVTOL、水素燃料航空機など、従来の民間航空機部品の製造にとどまらない事業展開を確実に進め、バランスのとれたポートフォリオを構築することによって、気候関連のリスク及び機会に適合する方針です。

 

(注17)SAF: Sustainable Aviation Fuel.「持続可能航空燃料」。植物や廃油などから作ったバイオ燃料で、CO2の排出を従来の燃料よりも大幅に削減した航空燃料。

(注18)eVTOL :Electric Vertical Take-Off and Landing 「電動の垂直離着陸機」。2024年1月、当社グループはJoby Aviation社へ同社が開発するeVTOLに使用されるCFRP製の構造部品を初出荷しました。

(注19)CFRP: Carbon Fiber Reinforced Plastics. 「炭素繊維強化プラスチック」。CFRPはプラスチックと繊維の特性を併せ持ち、比重1.5〜1.7(鉄の20%、アルミニウムの60%)と非常に軽い素材で、炭素繊維の種類や配向方向などによっては鉄の10倍の比強度(重さに対する強度)を持つのが大きな特徴。航空機部品の素材としては、強度を保ちながら軽量化できることから、燃費の向上によるコスト削減や環境負荷の低減につながるとされる。

 

メディカル事業

<主要な製品・サービス>血液透析関連製品

<移行リスク>

時間軸

リスクの種類

リスクの内容

財務的影響

内容

重要度

中期

長期

技術

リスク

(1.7℃上昇、2.4℃上昇の事業環境)

人工透析に代替する医療技術の実用化

対抗のための開発投資額、先行設備投資額の負担増、人工透析関連資産の減損

市場

リスク

(1.7℃上昇の事業環境)

エネルギー価格の上昇

・1.7℃上昇の事業環境においては、エネルギー価格の上昇が顧客医療機関の経営を圧迫する場合、血液透析装置の購入サイクルの延長、製品価格の値下げ要求による価格競争激化等により、当社血液透析製品の採算性が低下するリスクも予想されます。

短期

中期

長期

市場

(1.7℃上昇、2.4℃上昇の事業環境)

省資源、省エネルギー、エネルギー効率性、廃棄物の減量と再資源化を求める市場の創出

・1.7℃上昇または2.4℃上昇のいずれの事業環境においても、省資源、省エネルギー、エネルギー効率、廃棄物の減量と再資源化などに関する当社顧客の医療施設の期待に応えることで、収益増の機会となります。

 

・他方、国内顧客の医療施設の医業収益が公的医療保険制度による医療計画、医療費予算によって規定されている現状では、増加する研究開発費用を回収できない懸念があります。

 

 

<機会>

時間軸

機会の

種類

機会の内容

財務的影響

内容

重要度

短期

中期

長期

市場

(1.7℃上昇、2.4℃上昇の事業環境)

省資源、省エネルギー、エネルギー効率性、廃棄物の減量と再資源化を求める市場の創出

・1.7℃上昇または2.4℃上昇のいずれの事業環境においても、省資源、省エネルギー、エネルギー効率、廃棄物の減量と再資源化などに関する当社顧客の医療施設の期待に応えることで、収益増の機会となります。

 

・他方、国内顧客の医療施設の医業収益が公的医療保険制度による医療計画、医療費予算によって規定されている現状では、増加する研究開発費用を回収できない懸念があります。

 

<経営戦略・対応策>

◆ 気候変動リスクに高い関心を持つ医療施設、医療関係者、患者さんの期待に応えるため、製品製造過程における原材料や部品の再利用による環境対策にかかる取り組みを強化し、さらに部品点数減少、軽量化、エネルギー使用量低減、3R(Reduce、Reuse、Recycle)等の循環型の製品開発を行います。

◆ 透析装置および関連システムに搭載する各種資源の使用量を低減する機能(透析液使用量低減、熱交換器、熱回収ヒートポンプによる熱エネルギー効率向上等)を強化し、資源使用量低減につなげます。

◆ 2024年から、血液透析装置など血液透析関連製品を製造する国内基幹工場である金沢製作所において、消費する電力全量を実質的な再生可能エネルギーに切り替える計画を進めています。(前掲 注10)

 

①-3 指標及び目標:温室効果ガス排出量削減に関する指標及び目標

<指標> 当社単体及び国内主要連結子会社のScope1及び同2におけるCO2排出量(総排出量基準・基準年2019年)

<目標> 2019年(23,286t-CO2)を基準年とし、当社単体及び国内主要連結子会社を対象として、Scope1及び同2のCO2総排出量(t-CO2)について、2025年15%減、2030年30%減とすることを目標とします。

<実績> 2024年(1月~12月) 14,745t-CO2(基準年比 36.68%減)

 

基準年 2019年

実績

削減目標(基準年比)

2023年(基準年比)

2024年(基準年比)

23,286t-CO2

24,787t-CO2

(6.44%増)

14,745t-CO2

(36.68%減)

2025年

19,793t-CO2(15%減)

2030年

16,300t-CO2(30%減)

注)2023年の排出量実績を次のとおり修正しています。

・修正前(前期有価証券報告書の記載):「24,534t-CO2(5.35%増)」

・修正後(上記):「24,787t-CO2(6.44%増)」

 これは、前期有価証券報告書提出後、本有価証券報告書提出までにGHG排出量算定の精度が向上したことなどにより、フロンガス漏洩等に伴うCO2排出量を算入したことによります。

 

<ご参考> 再生可能エネルギー電力比率

2023年

2024年

2%

42.89%

注)再生エネルギー電力比率:当社単体及び国内主要連結子会社の年間電力使用量のうち、オンサイトPPA(太陽光)ならびにオフサイトPPA(バーチャル/太陽光)および非化石証書によって調達した電力量の占める割合です。

 

② 人的資本

 当社グループの経営理念「人々の良質な暮らしの実現のために、技術の提供を通じて、暮らしの根幹分野で創造的な貢献を果たす」のもと、世界でも数少ない専門的な分野の技術メーカーとして、「持続可能な社会を見据え、ものづくりで、社会の進化を支え続ける存在であること」を当社グループの存在意義とします。

 持続可能な社会への移行を見据え、インダストリアル事業においては水素・アンモニア利用など脱炭素・クリーンエネルギーのソリューション提供、航空宇宙事業においては次世代移動手段 eVTOLや小型人工衛星などを含む新市場創出、メディカル事業においては循環型の製品開発、中国や米国など海外市場への展開など、いずれの事業においても、既存事業の推進だけでなく、新しい取組に注力しています。

 当社グループの経営戦略の実現に不可欠となる人的資本について、その考え方及び取組を以下に記述します。

 

②-1 ガバナンスとリスク管理

 人的資本に対する監督体制とプロセスは、それぞれ前記(2)および(3)の監督体制とプロセスに従っています。2024年2月および5月、サステナビリティ委員会は、「人的資本」施策の計画的な遂行を当期に取り組むべき重要な課題として決定しました。また、2024年9月および2025年3月、サステナビリティ委員長から、取締役会に対して、「人的資本」施策の進捗と成果を報告しています。

 

②-2 戦略

 当社グループの経営戦略の実現に必要な人材を育成・強化、維持する人材戦略(「人材活躍の最大化」)は以下のとおりです。なお、以下の人材戦略は、本有価証券報告書提出日現在、当社単体への適用を想定しています。海外子会社は労働関連規制、労働慣行、労働契約等が日本国内と異なります。そのため、各海外子会社の現状を把握したうえで、より適合する人的資本施策を立案することに向け、当期、海外子会社の担当者と実質的な意見交換、情報交換を開始しました。

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イ 人材の育成等に関する戦略(中核人材と専門人材の育成等および女性の活躍推進)

■ チームメンバーや協力企業などを巻き込み組織やプロジェクトを牽引する『中核人材』の育成等

・事業単位、職種単位、職場単位で『中核人材』の候補者を定期的に選抜し、事業横断的次世代リーダーの育成プログラムを企画・遂行します。当期では、候補者を選抜し、約1年間にわたり各事業に関する経営方針や事業戦略などの情報収集および課題分析を行い、課題解決手段と自らの役割やアクションの検討に取り組んでいます。また、付加価値の高い事業の創出、技術や製品の開発などのプロジェクトを牽引する役割を経験させ、実践的な育成に取り組みます。

・部下の自律的な成長を促す社内風土の醸成のため、管理職及び管理職候補の組織マネジメント力向上に向けた教育を継続的に行い、上司が部下のチャレンジを後押しし、積極的に仕事を任せることを促します。当期では、その一環として、新たに中途入社者向けOJT指導員研修を開始し、中途入社者が即戦力として活躍できるよう、所属長とOJT指導員らがチームとなって中途入社者をサポートしていく体制づくりと取り組みを実施しました。

 

 

■ 事業の最前線で高度な技能・知識・経験をもって「技術の日機装」の根幹を支える『専門人材』の育成等

・創業以来、当社が大切にする価値観や技術・技能の伝承を含め、計画的に技術・技能そして現場力の向上を目指し、各事業における中長期の経営戦略の実現に必要な組織の機能と目指す人材像を事業単位、職種単位、職場単位で明確にします。そのうえで、各単位できめ細やかな人材育成体系とプログラムを策定するとともに、従業員が有する経験・スキル情報の可視化を行います。

・管理職向け人事制度に、マネジメントコースに加え、技術・技能・営業・サービスなどの「専門性」を職務等級基準としたプロフェッショナルコースを新設し、「専門性」による能力発揮と業績への貢献を評価する、『専門人材』の活躍を促進する制度を導入しています。

・研究開発に適した環境を整備し、持続可能な研究開発体制を構築するとともに、人材の育成や技術のイノベーション創出を図ることを目的として新研究棟を建設することを決定しました。新研究棟は2027年5月に竣工する予定です。

 

■ 女性の活躍推進

・当社では、様々な事業領域で、営業職や技術職として多くの女性従業員が活躍しています。

・人材活躍の最大化のために、女性管理職比率の引き上げ、総合職への女性の登用を図っていきます。詳細については、「5 従業員の状況 (4)管理職に占める女性労働者の割合、男性労働者の育児休業取得率及び労働者の男女の賃金の差異」をご参照ください。

・現在、将来の管理職候補となる女性総合職の採用活動には、多くの女性従業員がリクルーターとして活躍しています。

 

ロ 人材育成等の制度に関する戦略(適正な評価・昇降格・処遇と従業員の希望を尊重する配置転換)

・従業員の自発的なチャレンジと成長を促すために、評価段階数の細分化による評価手法を高度化することで、目標に対する成果を上げた従業員を適切に評価します。これらの仕組と運用によって、入社年次にかかわらず、昇格可能となる環境を整え、個人の能力のみならず組織全体のパフォーマンス向上、活性化、多様性確保を図っています。他方、目標達成が難しい従業員に対しても継続してフォローを行い、パフォーマンスの底上げを図ります。

・キャリアアップを目指す従業員が他部門の業務にチャレンジする機会を提供する社内公募制度や従業員が異動希望を申告できる自己申告制度を拡充し、従業員のキャリアや仕事に関する希望を尊重し、自主性を最大限発揮できる環境を整備しています。

 

ハ 労働環境に関する戦略

■ 柔軟な働き方

・新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に、従業員のワークライフバランスを充実し、より働きやすい環境を創出するために、在宅勤務、スーパーフレックス・タイム勤務制(注20)、「時間単位の年次有給休暇」制度を導入しました。「時間単位の年次有給休暇」制度は、在宅勤務、スーパーフレックス・タイム勤務制の導入が困難な工場等の従業員にとっても、ワークライフバランスを充実することに役立っています。

・育児しながら働くすべての従業員のため、子どもが小学校4年生に進級するまで利用できる時間短縮勤務制度、体調を崩しやすい小学校3年生修了までの子どもの看護のために利用できる看護休暇制度(注21)といったサポート制度も設けています。

・柔軟な働き方や組織運営に関する社内優良事例を水平展開・共有することにより、各制度の運用の幅を広げ、会社全体で多様かつ柔軟な働き方を促進します。

 

(注20)スーパーフレックス・タイム勤務:始業時刻、終業時刻を朝5時から夜10時までの時間帯に従業員が自主的に決定でき、1ヶ月単位で労働時間を精算する当社単体に適用する制度。

(注21)看護休暇制度:子ども1人当たり、年5日間の看護休暇を取得可能とする当社単体に適用する制度。

 

■ 労働安全衛生

・「労働安全衛生マネジメントシステムに関する国際規格(ISO45001)」と同水準のシステム構築を推進し、労働環境改善を図ります。

・労働災害発生の未然防止など、健康と安全に関わるリスクを管理するために安全衛生委員会を毎月開催するほか、2か月に一度の全社単位の中央安全衛生連絡会で管理面の強化を図ります。これにより、労働安全に関する事例を共有し、組織としての確実な法令対応や類似の労働災害発生防止に努めます。当期では、拠点の労働安全衛生の担当者が定期的に他の拠点を相互に視察し、改善点を指摘し合うとともに良い取り組み事例を全社に水平展開する取り組みを開始しました。

 

■ 従業員の健康管理

・従業員が活き活きと働き、能力を最大限に発揮できるよう、健康管理の強化を図ります。その方策として定期健康診断の受診率100%はもちろんのこと、二次検診対象者の再受診率100%を目指し、対象者に対する受診の呼びかけや二次検診費用を会社が負担するなど フォローアップ体制を確立します。

・従業員の健康増進について、現在、社内外に相談窓口を設けていますが、試験的な運用として、一部事業所で専門知識を持った産業保健師・カウンセラーによる従業員の健康管理促進に取り組みます。さらにメンタル疾患による休務を予防するため、上司に対するラインケア教育なども行います。

 

■ 働きやすい職場づくりの実現

・すべての従業員がハラスメントに関する正しい知識を保有し、ハラスメントの早期発見や予防を目的とした研修を実施します。特に人間関係における相互の意識のズレや周囲を委縮・不快にさせる言動に焦点を当て、ハラスメント一歩手前の問題要因の芽を摘み取ることで、心理的安全性が確保された組織の土台づくりを行います。当期では、全従業員を対象に、職場で発生しやすいハラスメントや相手を萎縮・不快にさせてしまうケーススタディを活用し、すべての従業員が安心して働くことができる職場環境を考える研修を実施しました。

 

②-3 指標及び目標

  人的資本に関する方針について、当社単体に適用する指標の内容、当該指標を用いた定量的な目標及び実績は次のとおりです。

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(注)1.上記指標・目標の欄に記載する実績の数値及び目標の数値は、当社単体のものであり、当該年の12月末を基準日とします。

2.二次検診受診率及び有給休暇取得率の対象期間は4月から翌3月までの一年間となるため、2024年の実績(※)は12月末時点までの9か月間の実績を記載していますが、2023年の実績は2023年4月から2024年3月までの一年間の確定値を記載しています。

 

③ その他の重要なサステナビリティ課題:人権 および情報セキュリティ

 「ビジネスと人権」の両立は社会のあらゆる意義ある活動の目的であり、「情報セキュリティ」は安心で安全な社会を構築する根幹であり、これらなくして社会の持続的な成長は考えられません。今や気候変動、人的資本に並ぶ重要なサステナビリティ課題であると認識しています。

 従来、当社グループ内部においては、人権の尊重および職場の健全性の維持に努めてきました。意思に反する労働の強制や児童労働の禁止、求人、雇用、昇進などにおける人種、国籍、宗教等による不当差別の禁止、職場における差別的言動、ハラスメントなどの敵対的な人間関係を生む行為の禁止を規定化し、従業員に対する啓もう活動を継続的に実施したり、内部通報制度を拡充してきました。また、当社グループの事業の継続性を確保する観点から、情報セキュリティの確保、維持に努めています。

 他方、国内外のサプライチェーン上の人権に対してこれまで十分な対応に努めていたとは言えず、さらに貢献すべき重要な課題と認識しています。また当社グループの事業は血液透析事業など暮らしの根幹にかかわる分野で不可欠な機能を果たしており、情報セキュリティに対するこれまでの対応をさらに強靭化する必要も再確認しています。

 そこで、当期、「人権」および「情報セキュリティ」を、気候変動および人的資本に並ぶ当社グループの重要なリスクとして位置づけ、あらためて具体的な対応に着手しました。

 

③-1 人権

≪ガバナンスとリスク管理≫

サステナビリティ委員会による統合的管理体制のもと法務部門が管理

*前記(2)および(3)の監督体制とプロセスに従っています。

≪戦略≫

サプライチェーンにおける人権侵害リスクを把握し、優先度の高い箇所から防止/軽減を図る。

・人権リスク対応における実施項目・内容の調査・検討

・人権ポリシー策定と研修教育、社内外への取組の公表開示

・人権デューディリジェンス実施

≪指標及び目標≫

当期着手した現状把握を踏まえ、ビジネスと人権の両立の観点から、適切な指標と目標を検討

 

③-2 情報セキュリティ

≪ガバナンスとリスク管理≫

サステナビリティ委員会による統合的管理体制のもと情報システム委員会が管理

*前記(2)および(3)の監督体制とプロセスに従っています。

≪戦略≫

技術的な対応に加え、組織的対応を強化する。

・サイバーセキュリティ基本方針の策定

・専門人材の育成

・インシデント緊急対応体制の検討

・セキュリティ強化に寄与する新技術の導入

≪指標及び目標≫

サイバーセキュリティ経営ガイドラインのセキュリティチェックシート指数への到達

 

 

 

3【事業等のリスク】

 当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」)の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクを記載します。なお、以下の記載はすべてのリスクを網羅したものではありません。想定できないリスクや重要性の低いと判断した他のリスクの影響を受ける可能性も否定できません。また、当社グループは、以下記載の主要なリスクに対して、実効的と判断する対応策を継続的に実施しているものの、これらの対応策によっても当社グループの経営成績等に悪影響を及ぼすことを完全に防止できるわけではありません。以下の記載中の将来に関する事項は、本有価証券報告書提出日現在における当社グループの判断によるものです。

 

(1)政治・法律・制度的環境要因

①医療保険行政に関するリスク

<想定されるリスク> メディカル事業は、血液透析関連をはじめとした医療市場を主要な販売先としており、医療保険行政の規制を受けています。したがって、メディカル事業の製品の市場と価格は、直接・間接にその影響を受けます。今後の規制の動向により、市場の縮小や価格の下落などが起きる場合には、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

<現在の対応策> 医療保険行政について、短期的、中長期的な規制動向をできるかぎり的確に把握、予測するために、さまざまな角度から情報収集に努め、生産、営業計画に活かしています。

②税務に関するリスク

<想定されるリスク> 当社グループは、グローバルに生産・販売拠点を有しており、グループ会社間の国際取引も多く発生しています。グループ会社間の国際的な取引価格に関しては、適用される各国の移転価格税制等の観点からも適切な取引価格となるよう細心の注意を払っています。しかしながら、税務当局又は税関当局との見解の相違等により、追加の税負担が生じる可能性があります。また、世界各国の租税法令の発効、施行、導入及び改廃等により、当社グループの税負担が増加する可能性があります。

<現在の対応策> 移転価格税制に関しては、グループ会社間取引金額の大きい会社との取引には移転価格ポリシーを定めて運用を行っている他、各国の法令に従って移転価格文書を作成して価格の妥当性の検証を行っています。また、組織再編など重要な取引については専門家の助言を得ながら関係各国の法令への準拠性を高めています。

※2021年7月8日、2017年8月に買収したCryogenic Industries グループの外国子会社3社に対してタックス・ヘイブン対策税制の適用を受けるとして、同外国子会社の親会社となる日機装インターナショナル株式会社の2018年度事業所得金額について、その税額の更正通知書を受領しました。本件について、当社グループは意図的な租税回避行為を行っておらず、税務当局も同様に認識していますが、当社グループと税務当局との間で見解の相違が生じています。当社は、当社グループの見解の正当性を主張するため、2021年10月に東京国税不服審判所に対して更正処分の取消を求める審査請求を進めてきましたが、2022年9月に同審判所より審査請求の棄却裁決を受けたため、2023年3月に東京地方裁判所に対し更正処分等の取消請求訴訟を提起し、現在も係争中です。引き続き、当社グループとしての正当性を主張してまいります。

(2)経済的環境要因

①為替変動に関するリスク

<想定されるリスク> 当社グループは、世界の様々なマーケットにおいて製品及びサービスを提供しています。主な通貨は米ドルとユーロであり、これらの通貨の為替変動が当社グループの業績と財務状態に影響を及ぼす可能性があります。当社グループ全体では、外貨建売上が外貨建仕入を上回り、また外貨建資産が外貨建負債を上回るため、これらの通貨に対する円高が当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

<現在の対応策> 外貨建資産・負債残高について継続的にモニタリングを実施し、必要に応じ一部を円貨へ転換するなど為替リスクの抑制に努めています。

②資金調達に関するリスク

<想定されるリスク> 当社グループは、金融市場の状況を踏まえた最適な手段により外部から資金を調達しており、現時点においては主に銀行からの借入による資金調達を実施しています。このため金融市場の不安定化や当社グループの信用状況が悪化した場合などには、資金調達コストの上昇や資金調達自体が困難となり、当社グループの経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。

<現在の対応策> 長期金利の動向を踏まえ、適切な時期に借入の固定金利化を実施し金利変動リスクの低減を図っています。

(3)社会的環境要因

①国内血液透析患者数の減少に関するリスク

<想定されるリスク> 国内の血液透析患者数は中長期的には減少に転ずると予想されます。国内血液透析市場が減退する速度が当社グループの想定以上に早い場合には、新たな事業展開の準備が整わない結果、国内血液透析事業の経営成績等が悪化する可能性があります。

<現在の対応策> 治療の安全性や利便性並びに経済性に寄与する血液透析装置や当社血液透析装置との組み合わせで付加価値を提供できる血液回路などお客様のニーズに応える製品を提供しつづけることで国内血液透析市場のシェア拡大に努めています。また、海外市場は、透析医療の普及と市場拡大が続く中国での拡販や、透析大国である米国での本格展開を計画しており、グローバル展開をさらに加速していきます。

②気候変動、低・脱炭素化社会への移行に関するリスク

<想定されるリスク> 次のリスクが想定されます。

■移行リスク

 ・炭素税の課税、再エネ価格の上昇、化石燃料の利用減少がエネルギー価格を押し上げることによる原資材調達コスト、製造コストの上昇

 ・LNG需要の減少に伴い、LNG関連製品・サービスの収益減少

 ・水素、バイオ燃料のコストが上昇、航空機運賃が割高となり、航空機利用客が減少する結果、民間航空機向け製品の収益機会減少

 ・エネルギー価格の上昇などに起因し、顧客医療機関の経営状態が悪化、透析装置購入サイクルの延長・買い控え

■物理的リスク

 ・増加、激甚化する異常気象によるサプライチェーン分断リスクへの対応費用の増加

 ・異常気象やこれに起因する新たな疾病罹患を要因とする従業員の出勤率悪化、生産性低下、操業停止・工場閉鎖

 ・常態的な気温上昇による空調コスト増加、労働条件・環境整備等に関する法規制対応コストの増加

<現在の対応策> 低・脱炭素社会への移行を見据え、温室効果ガス(GHG)排出量削減に向けた計画的取組の継続及び水素・アンモニア分野、省エネルギー・高性能社会関連分野、電力駆動の次世代移動手段・人工衛星分野などの従来の事業分野にとどまらない分野へ事業を展開します。あわせて、在庫の積み増し、サプライヤーの複線化、実効的なBCP対策の改善などを継続的に実施することにより、移行リスク・物理的リスクに適合していきます。

(4)技術革新・事業展開の遅れに関するリスク

<想定されるリスク> 技術的な進歩が速く、市場の変化を適切に予測できず、顧客のニーズに合致した新製品をタイムリーに開発できない場合には当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。また、開発期間の長期化に伴い費用の増加あるいは開発資産の減損損失が発生する可能性があります。当社グループは、生産能力、品質、生産性向上などのため生産設備などの設備投資や成長に向けたM&Aを継続的に行ってきました。その結果、当連結会計年度末において、のれん 26,931百万円(総資産の8.3%)、有形固定資産 53,369百万円(総資産の16.4%)、関係会社株式及び関係会社出資金 70,477百万円(総資産の32.0%)を計上しています。今後、事業展開の遅れ等により、これらの資産が十分な将来キャッシュ・フローを生み出さないと判断される場合には減損損失を認識する必要性が生じます。多額の減損損失を認識した場合、当社グループの経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。

<現在の対応策> これまで当社グループは、エネルギー転換などその時々の環境変化に順応し、事業機会を創出してきました。今後、新たな事業機会の創出を見据え、液化水素・アンモニアなど次世代エネルギーに向けたポンプの要素技術と実用化技術の開発を加速します。また、事業環境の変化等を予測し、時機を失わずに事業ポートフォリオの組み換えも実施していきます。

(5)災害

①自然災害や大規模災害等に関するリスク

<想定されるリスク> 国内においては、南海トラフ地震、首都圏直下型大地震の発生により、当社グループの国内生産・販売拠点、研究開発拠点、本社機能の弱体化、稼働停止など、当社グループの事業の継続に支障をきたす結果、当社グループの経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。海外においても、当社グループが展開する地域において、地震、津波、洪水、火災などの自然災害の発生により、様々な物的・人的被害が生じ、円滑な事業活動が阻害されるおそれがあります。

<現在の対応策> 国内の主要な生産拠点を分散しているほか、本社その他の国内拠点において、適正な備蓄品の確保を含む防災対策を継続的に実施し、事業の継続性確保に向けた計画の策定と適時の見直しを実施しています。

 

②感染症に関するリスク

<想定されるリスク> 大規模(パンデミック)な感染症が発生した場合には、従業員の感染のほか、隔離措置・職場感染防止のための出社抑制措置などにより、事業活動の生産性が悪化し、当社グループの経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。

<現在の対応策> コロナ禍収束後も社内外でのアルコール消毒液による手指消毒の励行を継続しているほか、今後も状況に応じて、従業員の健康と安全の確保と感染拡大防止の対策を最優先に対応します。

(6)製品・サービスの品質に関するリスク

<想定されるリスク> 当社グループは、各種製品・サービスについて、欠陥が発生しないように万全の品質管理基準のもとに生産しています。しかしながら、万一リコールや製造物責任につながるような重大な欠陥が発生した場合には、多額のコスト発生に繋がり、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

<現在の対応策> 「技術の日機装」を掲げている当社グループにとって、品質問題は経営の根幹に関わる重大な課題と認識し、全社を挙げて品質保証体制の強化に取り組んでいます。

①当社グループの技術標準・固有技術・ノウハウについて、設計管理システムを用いて技術の継承や人材育成に活用しています。また技術者に対する体系的な教育プログラムを2019年から実施しています。これらにより技術者のスキル向上による設計品質の向上を図っています。

②部品購入を行う取引先に対し、課題を可視化して改善を図る活動を全社で標準化し運用しています。これにより取引先の品質保証体制を強化し、製品・サービス品質のさらなる安定化を進めます。

(7)サプライチェーンに関するリスク

<想定されるリスク> 当社グループの生産活動には、種々の原材料を使用しており、原材料ソースの多様化に

より安定的な調達に努めていますが、供給の逼迫や遅延、供給国の通商政策の変更に伴い価格上昇等が生じる可能性があります。また、原材料等の調達リスクが顕在化することにより、製品・サービスの供給が途絶する事態が生じ当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

<現在の対応策> 急激な需給の変動に適切に対応できるように調達先の多様化を図っていきます。また、供給

面においては、グローバルレベルでの最適なサプライチェーンを追求することでカントリーリスクを排除し、競争優位の維持及び安定供給体制を構築していきます。

(8)人事採用・確保と人材育成に関するリスク

<想定されるリスク> 当社グループは、生産・開発・販売、その他専門分野に携わる優秀な人材を幅広く採用・育成することで、グローバルな事業活動の推進と競争力の維持向上を図っています。しかしながら、人材の獲得競争の激化や社員の退職等によって十分な人材の確保・育成ができなかった場合、競争力の低下に繋がる可能性があります。また、当社グループの中長期的な成長は各従業員の能力に依存する部分が大きく、特に、高い技術力と技量を有する従業員の確保・技能の伝承は、当社グループの経営課題の一つです。このようなキーパーソンとなりうる人材を確保・育成できない場合には、当社グループの競争力が減退し、経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

<現在の対応策> 当社グループの経営戦略の実現に必要な人材を育成・強化、維持する「人材活躍の最大化」戦略を推進して、チームメンバーや協力企業などを巻き込み組織やプロジェクトを牽引する『中核人材』と事業の最前線において高度な技能・知識・経験をもって「技術の日機装」の根幹を支える『専門人材』の育成強化に計画的に取り組みます。また、人材活躍の最大化を目指し、チャレンジを促進する自由闊達な組織環境作りに努めます。当社の人材戦略の詳細は「2. サステナビリティに関する考え方及び取組 (4)重要なサステナビリティ課題(マテリアリティ) ② 人的資本」に記載しています。

(9)情報セキュリティに関するリスク

<想定されるリスク> 当社グループは、事業全般においてITシステムを活用していますが、システムに対するサイバー攻撃や、自然災害などの不測の事態によって、システムの長期間停止や、データ滅失が発生することで、安定した業務の継続が困難になる結果、当社グループが担う社会的使命を果たすことができず、グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

<現在の対応策> コンピューターウイルス対策などの外部攻撃から情報資産を防御するための技術的仕組みを導入し、サイバー攻撃によるシステム停止リスクを低減しています。ミッションクリティカルなITシステムは、立地、建造物、電源、空調等ファシリティに安全面の考慮と各種対策を施したデータセンターに設置された機器を用いて稼働しており、停電や自然災害によるシステム停止リスクを低減しています。業務上重要なシステムやデータは、遠隔地に設置されたバックアップ装置にコピーを保管し、機器の物理的破壊やプログラム・データの消失があっても、代替機を用意することで、システムやデータが復旧できるよう対策を講じています。

(10)コンプライアンスに関するリスク

<想定されるリスク> 当社グループの事業活動は地理的にますます拡大し、法規範や社会規範はさらに高度化し、複雑多岐にわたるうえ、社会の価値観は常に変化し続けます。当社グループは、国籍、人種、文化、信仰する宗教の異なる従業員で構成されています。当社グループの継続的なコンプライアンス活動の効果が及ばない場合には、これらのグループ内外の事情が当社グループの経営成績等や評価に悪影響を及ぼす可能性があります。

<現在の対応策> 当社グループが事業活動を展開する国、地域における法規範、社会規範を遵守し、社会の期待に応えること、多様な価値観を許容することは当社グループの企業価値向上にとってもっとも重要な課題であるとの認識のもと、日機装グループ・グローバル行動規範の制定、反贈収賄規程の制定、グローバルな内部通報制度の拡充、コンプライアンス教育の継続などコンプライアンスに関する具体的な活動を継続します。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)業績等の概要

① 財政状態及び経営成績の状況

 中計フェーズ2の中間年度となる2024年の世界経済は、ウクライナ情勢の長期化をはじめとする地政学的な問題によりエネルギー確保の動きが活発に進展した一方、中国の不動産市況低迷が長期化し、景気回復が遅れるとともに、円相場の乱高下も続くなど、先行き不透明な状況が続きました。

 インダストリアル事業の主要市場であるLNG及び次世代エネルギー関連市場では、エネルギー確保と低・脱炭素化の動きにより、設備投資需要は中長期的に拡大基調で推移しています。航空機産業は、一部航空機メーカーの品質問題やストライキの影響に加えて、コロナ禍で寸断したサプライチェーンの再構築と増産が予想より遅れましたが、2025年後半からは航空機産業全体の生産回復が進展すると見込まれています。メディカル事業の主要市場である血液透析市場では、医療機関の投資意欲が弱含みとなり競争が激化していますが、海外では欧州やタイをはじめとするアジア市場の需要が好調に推移し、また中国市場は2023年末の一時的な需要減少から徐々に回復基調にあるとみています。

 当連結会計年度において、インダストリアル事業は低・脱炭素関連の事業成長により、売上収益・利益ともに過去最高を記録し、大幅な増収増益となりました。航空宇宙事業は業界の回復遅れと航空機メーカーの品質問題などの影響で黒字転換が遅れています。メディカル事業は主力の血液透析事業が底堅く推移したものの、CRRT事業は大幅な減益となり、全体では増収減益となりました。また、中計フェーズ2の基本方針の一つとして進めている事業ポートフォリオの再構築に伴い、ヘルスケア事業、深紫外線LED事業、CRRT事業に関する一過性の損失を計上しています。

 事業ポートフォリオの再構築に伴う一過性の損失は、当第2四半期連結会計期間にヘルスケア製品に関する棚卸資産の評価損を482百万円、UV-LEDパッケージに関する棚卸資産の評価損を702百万円、CRRT事業譲渡に関する減損損失を655百万円の計1,840百万円を計上しました。なお、CRRT事業譲渡に関する減損損失は、当第4四半期連結会計期間に譲渡資産等を再計算した結果、128百万円に減少しています。加えて、当第4四半期連結会計期間には、深紫外線LED事業において米国子会社売却に伴う事業譲渡損失432百万円、UV-LEDチップ・パッケージの研究・生産の終了決定に伴う金沢の白山工場及び国内子会社の棚卸資産及び固定資産に係る評価損957百万円を計上し、当連結会計年度における一過性損失は合計2,744百万円となっています。

 この結果、当連結会計年度の当社グループ業績は、受注高 222,024百万円(前年同期比11.9%増)、売上収益 213,379百万円(同10.8%増)、営業利益 6,398百万円(同8.7%増)、税引前利益 10,010百万円(同13.9%減)、親会社の所有者に帰属する当期利益 7,957百万円(同12.3%減)となりました。

 

 事業セグメント別の事業環境と業績概況は次のとおりです。

事業

主要製品

2024年12月期

事業環境、業績概況

2025年12月期

見通し

インダストリアル事業

産業用ポンプ・システム

・石油化学市場は中国経済の低迷で投資意欲が弱含みも、受注は堅調。

 

・製品ミックスの見直しと販売価格適正化が奏功し、増収増益で収益性が改善。

・半導体や低・脱炭素関連ビジネスの拡大、製品ミックスの見直しと販売価格の適正化により、増益を見込む。

液化ガス・産業ガス関連機器・装置

 

・LNG市場はエネルギー確保と低・脱炭素化に向けた需要が活況で、中期的にLNG需要は世界的に伸びる見込み。

 

・水素やアンモニアなど次世代エネルギー市場は実証実験投資が活発だが、業績への本格的貢献は数年後になる見込み。

 

・LNG関連や水素ステーションの大型受注などで受注高は大幅に増加。

 

・主要プレイヤーであるClean Energy & Industrial Gasグループ(CE&IGグループ)は受注案件を順調に遂行し、増収増益。売上収益、営業利益ともに過去最高を達成。

主要プレイヤーであるCE&IGグループは、

・拠点統合や事業基盤強化を進め、グローバルでLNG、産業ガス、水素ステーション、CO2などの低・脱炭素関連の受注拡大を図る。

 

・低・脱炭素関連の旺盛な受注により、前年比14%増の売上成長と10%水準の営業利益率を見込む。

精密機器

・電子部品市場は設備投資調整が続き、受注高は前年を下回る。

・パワー半導体向け新製品「3Dシンタ―」の拡販に取組み、収益性を確保する。

航空宇宙事業

民間航空機向け炭素繊維強化プラスチック(CFRP)成形品

・航空機産業はサプライチェーン再構築を進める中、品質問題やストライキの影響で回復が遅れ、カスケードの出荷は減少、ベトナム・ハノイ工場の生産部品は緩やかな増加に留まる。
 

・円安効果と販売価格の適正化が寄与し増収となるも、一部航空機メーカーの品質問題等で主力製品のカスケード、主翼部品等の出荷が計画を下回り、エアバス製小型機向け新規受注部品の開発及び増産対応費用等の増加を吸収できず、営業損失となる。

・航空機産業のサプライチェーン再構築が進展し、生産回復が期待される中で、大幅な増収を見込む。

 

・カスケード、ベトナム・ハノイ工場の生産部品等の増収効果、段階的な販売価格の適正化、部材調達の最適化や生産工程の自動化による効率化に取組み、営業利益の本格回復を見込む。

深紫外線LED事業

深紫外線LED

関連製品

・当第2四半期に計上した棚卸資産の評価損と開発受託料収入の減少により減益。

 

・当第4四半期には事業整理に向けて、米国子会社売却に伴う事業譲渡損失と白山工場及び国内子会社の棚卸資産・固定資産に係る評価損を計上

・2025年12月期中に事業整理を完了する予定。

メディカル事業

血液透析関連製品

・国内では医療機関の投資意欲が弱含みで、市場競争が激化。海外では中国市場の一時的な需要減少は収束し、アジア及び欧州市場は引き続き好調。

 

・血液透析装置の国内販売は、前年の一時的な出荷増加(部品不足解消)と市場競争の激化により減少したが、販売価格の適正化等により増収。

 

・消耗品は透析用剤と血液回路の販売価格適正化が奏功し増収。

 

・米国市場では、血液透析装置の販売許認可取得と拡販体制の整備を継続。

 

・国内の血液透析装置の需要は横ばいと予想される中、シェアの拡大と販売価格の適正化により増収を見込む。

 

・消耗品は、販売価格の適正化と金沢工場における透析用剤の新規生産ライン稼働により、増収を見込む。

 

・海外販売は、需要回復が見込まれる中国や欧州での引き続きの拡販に加え、アジア、中東及び米州の新規進出における市場拡大により増収を見込む。

 

・営業利益は、米国市場での販売許認可取得に伴う経費や、製品開発の強化に向けた人件費・経費の増加等により前年並みを見込む。

CRRT(急性血液浄化療法)関連製品

・主力の中国市場は一時的に受注が減少。

 

・中国市場の減収影響で営業損失を計上。

・2025年2月に、同事業を運営する連結子会社2社の株式譲渡を完了。これにより、当該2社は当社連結から除外となる。

 

② キャッシュ・フローの状況

 当連結会計年度の営業活動によるキャッシュ・フローは△6,568百万円となりました。これは主に税引前利益の計上及び減価償却費及び償却費の計上による増加要因があった一方、法人所得税の支払額による減少要因があったことによるものです。

 当連結会計年度の投資活動によるキャッシュ・フローは△4,985百万円となりました。有形固定資産の取得による支出が主な要因です。

 当連結会計年度の財務活動によるキャッシュ・フローは+13,358百万円となりました。借入による収入が借入金の返済による支出を上回ったことが主な要因です。

 これらの結果、現金及び現金同等物の当連結会計年度末残高は、前連結会計年度末に比べて2,359百万円増加し、34,663百万円となりました。

 

(参考)キャッシュ・フローの関連指標の推移は次のとおりです。

 

2022年12月期

2023年12月期

2024年12月期

親会社所有者帰属持分比率(%)

39.9

42.0

43.0

時価ベースの親会社所有者帰属持分比率(%)

21.9

23.0

19.8

キャッシュ・フロー対有利子
負債比率

10.6

5.7

△16.3

インタレスト・カバレッジ・
レシオ

7.9

18.2

△6.4

親会社所有者帰属持分比率:親会社の所有者に帰属する持分/資産合計

時価ベースの親会社所有者帰属持分比率:株式時価総額/資産合計

キャッシュ・フロー対有利子負債比率:有利子負債/営業キャッシュ・フロー

インタレスト・カバレッジ・レシオ:営業キャッシュ・フロー/利払い

(注1)各指標はいずれも連結ベースの財務数値により計算しています。

(注2)株式時価総額は自己株式を除く発行済株式数をベースに計算しています。

(注3)有利子負債は連結財政状態計算書に計上されている負債のうち、利子を支払っているすべての負債を対象としています。

 

(2)生産、受注及び販売の実績

 

① 生産実績

 

 当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

生産高(百万円)

前年同期比(%)

工業部門

131,446

+18.9

医療部門

55,389

△5.2

合計

186,836

+10.6

(注)1.セグメント間取引については、相殺消去しています。

2.金額は、販売価格によっています。

 

② 受注実績

 

 当連結会計年度における受注実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

受注高(百万円)

前年同期比(%)

受注残高(百万円)

前年同期比(%)

工業部門

140,080

+20.4

112,431

+19.1

医療部門

81,944

△0.3

3,487

△27.8

合計

222,024

11.9

115,918

+16.8

(注)1.セグメント間取引については、相殺消去しています。

 

③ 販売実績

 

 当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

販売高(百万円)

前年同期比(%)

工業部門

130,094

+19.6

医療部門

83,284

△0.7

合計

213,379

+10.8

(注)1.セグメント間取引については、相殺消去しています。

 

(3)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

 経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。

 

① 重要性がある会計方針及び見積もり

 本連結財務諸表の作成にあたって採用する重要性がある会計方針及び見積もりは、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記」をご参照ください。

 

② 財政状態

ⅰ)資産

 当連結会計年度末の資産合計は325,563百万円となり、前連結会計年度末に比べて29,335百万円増加しました。営業債権及びその他の債権、使用権資産が増加したことが主な要因です。

ⅱ)負債

 当連結会計年度末の負債合計は183,558百万円となり、前連結会計年度末に比べ13,618百万円増加しました。未払法人所得税等は減少したものの、借入金、リース負債等が増加したことが主な要因です。

ⅲ)資本

 当連結会計年度末の資本合計は142,005百万円となり、前連結会計年度末に比べて15,716百万円増加しました。在外営業活動体の換算差額、利益剰余金等の増加が主な要因です。

 

③ 経営成績

 当連結会計年度の経営成績の分析につきましては、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)業績等の概要 ① 財政状態及び経営成績の状況」に記載のとおりです。

 

④ キャッシュ・フローの状況

 当連結会計年度のキャッシュ・フローの状況の分析につきましては、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)業績等の概要 ② キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりです。

 

⑤ 資本の財源及び資金の流動性

ⅰ)資金需要

 当社グループの資金需要は、主として、設備新設、改修等に係る投資や、製品製造のための材料及び部品等の製造費用、販売費及び一般管理費等の運転資金です。

ⅱ)資金の源泉

 当社グループは、営業活動によるキャッシュ・フローによって得られた資金の活用及び、金融機関からの借入による資金調達を行っています。

ⅲ)流動性

 当社グループは、引き続き営業活動によるキャッシュ・フロー、金融機関からの借入による資金調達により、事業の拡大に必要な資金を確保できるものと考えています。

 当社グループの資金管理は、当社が国内子会社を対象とした資金集中管理を実施し、海外子会社も含めたグループ全体の資金効率の向上を図っています。

 

5【経営上の重要な契約等】

 当社は、事業ポートフォリオの再構築の一環として、医療部門セグメントにてCRRT(急性血液浄化療法)事業を運営する当社連結子会社Nikkiso Europe GmbH(以下、NEG)及び日機装(上海)実業有限公司(以下、NMS)の全株式を譲渡する基本契約を2024年5月30日に締結し、2025年2月14日付で全株式の譲渡が完了しました。なお、株式譲渡に必要な規制法令上の認可等の手続きにより基本契約締結時の株式譲渡先を変更しております。

 NMSのTYHC International PTE. LTD(以下、TYHC)への株式譲渡について、関係当局からの指摘により、中国(上海)に本拠を置くNMSの株式については、TYHC株式を所有する中国企業のThe Ningbo Tianhuiyi Enterprise Management Co., Ltd.へ株式譲渡し、NEGの株式は基本契約通り、TYHCへ株式譲渡しました。

 詳細については、連結財務諸表注記「6 売却目的で保有する資産」に記載しています。

 

6【研究開発活動】

 当社グループは、各事業分野において、独創的な技術を駆使し、顧客ニーズに合わせた新製品、新技術のための研究、開発を積極的に行っています。

 工業分野では、インダストリアル事業において、LNG液化基地・受入基地向け大型ポンプの機能・効率向上や、燃料電池車・船舶向け水素ポンプや、発電所・船舶向けアンモニアポンプの開発など、将来のエネルギーシフトを見据えた開発を推進しています。航空宇宙事業においては、民間航空機のジェットエンジン燃料の削減及びCO2削減に貢献する炭素繊維強化樹脂(CFRP)成形製品の新しい用途開発や独自開発・共同研究を通じた新材料(樹脂・繊維)・新製法の開発及び製品化にも積極的に取り組んでいます。

 医療分野では、医療機関と患者様に貢献するため、今まで以上に安心・安全・確実な透析医療を提供できる製品の開発を推進しており、次世代の透析治療に対応するための基礎研究を進め、透析装置の機能向上、次期透析装置の開発に取り組んでいます。また、再生医療や創薬に必要な機器・デバイスの製品化を目指し、細胞培養方法と細胞実験用ツールの開発及び腎前駆細胞を大量かつ高品質で培養できるシステムの研究開発も進めています。

 なお、当連結会計年度の研究開発費の総額は3,774百万円です。