第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

(1) 経営方針

当社グループでは、「医療のあり方や患者さんの人生に変革をもたらす次世代医薬品の創出」をグループ全体のミッションとして掲げています。当社の独自技術である世界最先端の創薬プラットフォームシステムPDPSを基盤に、革新的医薬品の研究開発を先導するとともに、放射性医薬品領域におけるPDRファーマの有する専門性を融合することで人々の健康と医療の発展に貢献することを目指しています。

 

(2) 経営戦略等

当社グループは、2つの戦略領域である放射性医薬品(RI)領域とNon-RI領域で医薬品等の研究・開発・製造・販売等に従事しています。RI領域では日本国内で放射性医薬品事業を推進する上で必要となる創薬研究・開発から製造、販売に至るまですべての機能を一気通貫で有し、自社プログラムまたは提携プログラムとして革新的な放射性治療薬・診断薬の創製・開発を実施しています。腫瘍の縮小効果をもつ放射性核種をがん細胞に選択的に送達するためのキャリアとして環状ペプチドの有用性が次々と示される中、ペプチドリームとPDRファーマのシナジーを最大限発揮することにより、革新的で高付加価値の放射性医薬品を開発・販売するとともに、海外の製薬企業から有望な放射性医薬品を導入することにより放射性医薬品領域での成長を目指しています。Non-RI領域においてはPDPSを中核とし(1) ペプチド医薬品、(2) 環状ペプチドをキャリアとして他の有効成分と結合させたペプチド-薬物複合体(PDC)、(3) 異なる機能を有する環状ペプチドを結合させて複数の機能を有する多機能ペプチド複合体(MPC)の創薬におけるリーディング・カンパニーとしてグローバルの大手製薬企業や戦略的提携先との提携・ライセンス契約に加え、自社プログラムも拡大しており、ペプチドを用いた次世代の革新的医薬品の創製・開発を目指しています。

 

(3) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標

当社グループは、収益性の向上を目指しており、経営指標として売上収益、Core営業利益及びCore営業利益率を重視しています。2025年12月期は売上収益49,000百万円、Core営業利益21,700百万円、売上収益Core営業利益率44.3%を目標としています。

 

 

(4) 会社の対処すべき課題

(A) 放射性医薬品(RI)領域

当社グループの放射性医薬品事業においては、①既存製品の価値最大化、②今後成長が期待される中枢神経領域での事業拡大、③がん領域を中心に中長期的な成長を牽引する新たな放射性治療薬の開発、の3つを戦略フォーカスとしています。


 

当社グループは、短期的には放射性診断薬を中心とする既存薬の適応拡大および剤形追加ならびにこれらの製品に対するデジタル・ソリューションの拡充を通じて売上収益の向上を目指してまいります。

また、アルツハイマー病領域のPET診断薬であるアミヴィッド®静注およびタウヴィッド®静注の成長にも注力しています。アミヴィッド®静注は脳内アミロイドβプラークを可視化し、18F-フロルタウシピルは脳内の異常蓄積タウタンパク質による神経原線維変化(NFTs)を可視化するPET診断薬です。アミヴィッド®静注は効能又は効果の一部変更承認を取得し、保険適用の範囲も拡大されています。タウヴィッド®静注は2024年12月に製造販売承認を取得し、2025年前半に販売開始を予定しています。

当社グループは、アルツハイマー病領域において主要なバイオマーカーとされるPET診断薬の両製品を提供できる立場にあります。この強みを活かし、アルツハイマー型認知症が疑われる患者さんの治療方針決定に資する有益な情報を医療従事者に提供することが期待されています。

 

中長期的には、癌領域を中心とした新規放射性治療薬の開発が成長の原動力になると考えられます。当社グループは、日本国内において放射性医薬品の開発・製造・販売を行うためのインフラや専門知識を有しており、新規放射性治療薬の創製・開発技術を駆使し、強固なグローバルネットワークを活用した継続的な開発パイプラインおよび製品ポートフォリオの拡大を目指しています。これまで放射性医薬品市場では診断薬が主流でしたが、新たな標的型放射性治療薬の時代に移行する中、革新的な放射性治療薬および診断薬の創製・開発を通じて、当社グループは将来的な成長を一層加速させ、この分野における医療の進歩に寄与できると確信しています。この目標のもと、2024年には大幅に臨床開発パイプラインを拡充しました。リンクメッド社との提携によるATSMプログラムは第3相臨床試験に進み、Curium社とは前立腺がん治療薬177Lu-PSMA-I&Tおよび診断薬64Cu-PSMA-I&Tの日本市場における新規提携を発表しました。また、Novartis社と提携したNNS-309プログラムおよびRayzeBio社と提携したGPC3プログラムは共に第1相臨床試験に入りました。さらに、Novartis社との提携により2つ目の開発候補化合物が選定されました。自社プログラムであるCA9プログラムは腎細胞がんを対象とした第0相臨床試験を完了し、良好な結果を得たため2025年に第1相臨床試験へ進むことを計画しています。また、自社プログラムの一環として胃がんを対象にCLDN18.2を標的としたプログラムは現在IND準備試験を実施しており、第0相臨床試験の計画を進めています。2025年も2024年同様にRI領域のパイプラインのさらなる拡充を計画しています。

 

 

(B) Non-RI領域

当社のNon-RI領域は、PDPS®(Peptide Discovery Platform System)を基盤技術として用い、(1) ペプチド医薬品、(2) ペプチド-薬物複合体(PDC)、(3) 多機能ペプチド複合体(MPC)の創薬開発において提携先との提携・ライセンス契約に加え、自社プログラムとしての開発も進めており、これらのプログラムを前臨床~臨床~上市へと順次ステージアップさせていくことを目指しています。


 

当社グループは、Non-RI領域においても多くの提携プログラムを実施しており、早期の研究・前臨床段階から臨床段階、さらには商業化に至るまでのプログラム推進に注力しています。これらのプログラムは、当社グループの将来の収益拡大に向けた重要な成長ドライバーと考えられます。2024年にAstraZeneca社によって買収されたAmolyt社は、GhRアンタゴニストプログラムにおいて良好な第1相臨床試験の結果を発表しました。MSD社は2つ目のプログラムにおける臨床試験を開始し、ペプチエイドはPA-001の第1相臨床試験を開始しました。当社はさらに、経口マイオスタチンプログラムでの前臨床試験の結果を発表し、肥満マウスモデル試験においてsemaglutideとの併用により体重減少が確認される一方で除脂肪体重は維持するという結果を得ました。他にも前臨床段階にある複数の自社プログラムにおいて2025年に進展が期待されています。2024年には、当社は複数の提携先とのプログラムでマイルストーンを達成し、2025年にはさらなるマイルストーンの達成を見込んでいます。今後も継続的に、ペプチドリームが取り組むプログラムの価値最大化を図り、創薬・早期開発段階から臨床段階へとプログラムを推進してまいります。


 

上図の通り、PDRファーマ社がグループに加わったことにより、当社グループは、早期創薬活動に注力する成長ステージ(「プラットフォーム」)から、上市製品や臨床段階のパイプラインを保有する成長ステージ(「プラットフォーム+ポートフォリオ」)へと成長モデルを転換いたしました。放射性医薬品事業の日本国内における独自のポジション及び多数の創薬パイプラインを活用し、臨床段階のプログラムの拡充を計画しています。このようなハイブリッド戦略の推進により、収益の安定性を向上させつつ、成長機会の最大化を図り、持続可能で強固な成長を実現してまいります。

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次の通りです。文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 

(1) サステナビリティの考え方

当社グループは「医療のあり方や患者さんの人生に変革をもたらす次世代医薬品の創出」というミッションのもと、世界中の人々の健康及び医療・社会の持続的な発展に貢献することを目指しています。革新的な治療を患者さんに届ける事業そのものが、より良い医療・社会を創っていくことに直結していると考えています。

自社と社会の双方にとっての重要度の観点から取り組むべき課題として11のマテリアリティ(重要課題)を特定し、取締役会での議論・承認を経て、当社のサステナビリティの取り組みの指針としています。創薬研究の最前線で革新の波を連続的に創出するためには、健全なガバナンスのもとで、イノベーションを創出し、イノベーション実現のための人材・組織の向上を図ることが当社の価値の源泉です。これらに社会からの要請の高い環境(気候変動対策)の取り組みを加えた、以下の3つのアプローチを通じて、自社の持続的な成長と持続可能な社会の発展に貢献してまいります。

ペプチドリームグループ 11のマテリアリティ(重要課題)


 

① 革新的医薬品の創出によるアンメットメディカルニーズへの挑戦

当社は、アンメットメディカルニーズに対し、独自の創薬開発プラットフォームを活用し、画期的なペプチド医薬品の研究開発を進めています。また、PDRファーマを通じて放射性医薬品を創出し、患者さんに広く届き渡るよう努めています。創薬基盤技術の拡張・強化、共同研究開発プログラムの進展、自社パイプラインの構築を通じて革新的な医薬品を創出することは、当社の存在意義であるとともに、適切な対応を実施しない場合、新たなモダリティの台頭に伴う既存ビジネスモデルの陳腐化やビジネスチャンスの逸失、優秀な人材の流出を招くリスクがあります。

 

② イノベーション実現のための組織風土・中核人材の多様性

当社の成長を支えるイノベーションを継続的に生み出すためには、多様な人材の確保・育成、イノベーションを加速させる社内環境の整備が不可欠です。人的資本経営・多様性への取組を怠れば当社の事業の継続性に対して脅威となり得るとともに、人的資本への投資は新たなビジネスチャンスへの対応力の強化など更なる成長の機会に繋がると捉えています。

 

③ 環境(気候変動対策)

パリ協定採択を機に、世界的に脱炭素社会に向けた動きが広がっています。既に近年では地球温暖化の影響と考えられる自然災害が頻発・激甚化しており、当社は、気候変動に関連する政策・法規制のリスクや洪水などの自然災害の影響を受ける可能性があります。また気候変動は最も緊急性の高い環境問題の一つであるとともに、人類が直面している最大の健康上の脅威となっています。気候変動に取り組むことは患者さんのためになることであり、重要な社会課題だと認識しています。気候変動による事業環境の変化への適応に努めるとともに、2030年までのCO2をはじめとする温室効果ガス(GHG)排出量削減目標と具体的な対応を実行することで企業価値向上に繋げてまいります。

 

(2) サステナビリティ全般に関するガバナンス、リスク管理、戦略及び指標と目標

① ガバナンス

当社では、取締役の諮問委員会としてサステナビリティ関連のリスクと機会を審議・モニタリングする「サステナビリティ・ガバナンス委員会」(四半期に一度開催)、サステナビリティに関連するリスクと機会の特定や評価、対応を推進する専任組織である「サステナビリティ・ガバナンス推進室」、及び環境関連課題に対する現場レベルでの取り組みを推進する「ESGタスクチーム」を設置しています。サステナビリティ・ガバナンス推進室にて検討された結果は、サステナビリティ推進室担当者を通して四半期に一度、取締役会に報告しています。

詳細は当社「サステナビリティインパクトレポート 2024」をご参照ください。

 

② リスク管理

当社のリスク管理を強化するために、「コンプライアンス・リスクマネジメント委員会」(四半期に一度開催)を中心としたリスク管理体制を構築し、 PDCAサイクルによる効果的かつ総合的なリスク管理を実施し、その進捗を適宜取締役会に報告しています。詳細は「3 事業等のリスク」をご参照ください。

気候関連問題の評価にあたっては、IEA等の各種シナリオを参照し、必要に応じて関連する部門及びグループ会社にヒアリングを行い、適宜見直しを実施しています。詳細は当社「サステナビリティインパクトレポート 2024」及びウェブサイトをご参照ください。

 

③ 戦略、指標及び目標

自社と社会の双方にとっての重要度の観点から取り組むべき課題として11のマテリアリティ(重要課題)を特定し、取締役会での議論・承認を経て、当社のサステナビリティの取り組みの指針としています。また、マテリアリティ毎のリスクと機会をそれぞれ分類し、サステナビリティ・ガバナンス委員会で審議するとともに、定期的な見直しを実施してまいります。詳細は「サステナビリティインパクトレポート2024」をご参照ください。

 

 

(3) 人的資本経営・多様性に関する戦略及び指標と目標

① 人・組織の目指す姿

ペプチドリームでは、「高い専門性・情熱・誠実」の3つのバリューを柱とする10の行動指針を全役職員で共有し大切にしていくことで、コーポレートカルチャーとしてバリューや行動指針が根付いた人・組織の実現を目指しています。



研究開発型のイノベーションカンパニーを目指す当社にとって、一人ひとりがもつ「高い専門性」が重要な人的資本となるのはもちろんのこと、創薬開発という長い道のりを最後までやり遂げ、また道中にある多くのチャレンジを克服していくためには、自分たちの仕事の先に世界のどこかで患者さんが待っていることを忘れないこと、たとえ困難な課題であっても、粘り強く考え努力すること、同時に失敗を恐れずにクリエイティブなリスクを積極的に歓迎していくマインドセットが重要になるものと考えています。各領域で高い専門性を有する研究者が、次世代医薬品創出に向けた「情熱」を持ち、社内外・国内外を問わず互いの専門性を引き出し合い協働していく先にイノベーションの創出があり、またそうした協働の場を作っていく前提として、互いの専門性や仕事を尊重し合い、直面する課題に対して一人ひとりがオーナーシップをもって取り組む「誠実さ」が重要な基盤になるものと考えています。

当社においてパイプラインの価値は企業価値の中核といえます。パイプラインの価値を高めていくためには、当社が有するプラットフォームの強みを軸に、新規プログラムを継続的に創出し(裾野の広さ)、また各プログラムの付加価値を継続的に向上させていくこと(山頂の高さ)が重要な要素となります。この2つの要素を持続的に回していくためには、ペプチド創薬のグローバルハブとしてのポジションを確立し強化し続けていくことが鍵となり、これを実現していくためには、上記のバリューが根付いた協働の場を環境として整え、また組織全体のコーポレートカルチャー醸成につながる形で人的資本の向上に資する取り組みを進めていくことが重要と考えています。


人財育成・社内環境整備の方針及び指標

a. 専門性の獲得と向上

ペプチド創薬のグローバルハブとしてのポジションを確立・強化し、上記のバリューが根付いた協働の場を環境として整えることで高い専門性を獲得し、向上していけるものと考えています。

具体的には、

・高度専門家・海外勤務経験者の採用強化:

数多くのプログラムに関わり、また国内外の最先端研究チームと協働しグローバル水準の創薬開発に従事する機会を通じて、研究者として質の高い経験を多く積むことができるのは当社の特徴の一つです。創薬開発ではグローバルに競争が行われることが多く、国内はもちろん、海外の有用な情報についてもタイムリーに取得し、最先端のアイデアや技術を取り入れながらイノベーション創出に取り組むことが重要になります。このような環境で能力を発揮する高度専門家(各領域でのPh.D.取得者など)や海外で創薬開発の経験を積んだ人財(博士研究員や海外製薬企業での勤務経験者など)の採用を積極的に進めています。

・エキスパート・キャリアトラックの整備:

各領域での専門性の追求を志向する研究者の育成・登用を積極的に進めています。キャリア開発の考え方や志向が多様化しつつある中、従来型のキャリアトラックの考え方に縛られることなく、一人ひとりのニーズや価値観にフィットした自己実現の機会を整備していくことを目的に、従来のマネジメント・キャリアトラックに加え、チームマネジメントの業務負荷を軽減し、高度な専門性を追求していくことを後押しするとともに、高い専門性を発揮する社員を登用するエキスパート・キャリアトラックの運用を進めています。

・学び合いと能力開発サポート制度の整備:

専門家の集まる組織ではそれぞれの専門領域に閉じてしまいがちな側面もあることから、領域横断的に研究者同士が新しいトピックや研究成果を定期的に発表し、多様な研究者同士が学び合う機会を積極的に設けています。全社的な研究発表会である Research Presentation Day では、各領域の研究者が研究成果を発表し、当社の最先端の研究内容やプロジェクトの進捗に触れる事ができる刺激的な学び合いの機会となっています。また、バックグラウンドの異なる研究者が互いの目標やチャレンジ、研究アプローチを知り、新たなコラボレーションや協力関係が生まれるきっかけにもなっており、高い専門性、情熱、誠実という当社のバリュー発揮の機会となるイベントです。また、自ら能力開発に取り組む社員を支援し、一人ひとりの専門性の確立と向上を支援するための能力開発サポート制度(Self-Development support制度)の運用を進めています。

 

b. 人財多様性からのイノベーション

創薬開発はチームワークが基本であり、多面的な着想やアイデアの融合がイノベーションの源泉になるものと考えています。国籍・人種・性別・年齢などの属性面のみならず、研究者一人ひとりの専門性やサイエンティフィックな感性の多様性を重視し、その多様性をイノベーションに繋げていくことを重要な価値観とするコーポレートカルチャーの醸成に取り組んでいきます。

具体的には、

人財の多様性の確保

国籍・人種・性別・年齢などの属性に捉われず、求める専門性や業務内容に基づくジョブ型の採用や登用を行っています。また、既存の枠組みに捉われない新しいアイデアやアプローチを大切にし、重要な意思決定に多様な視点を取り込むために、中核人財における若手や女性、外国籍社員又は海外勤務経験者の占める比率を目標指標として策定しています。

・チームワークやロールモデルを重視した人事制度:

多様な人財が協働するコーポレートカルチャーを醸成していくためには、チームワークを大切にし、リーダー自らがロールモデルとして率先垂範を実践していくことが重要と考えています。こうした価値観を組織全体で共有し、それを体現するリーダーの登用を進めていくため、Values & Behaviorsの考え方を中核においた人事評価や報酬制度を策定し、役員から従業員まで一貫した形での運用を進めています。

・組織エンゲージメントの見える化:

定期的なサーベイを実施することで、組織のエンゲージメント状態を可視化し、経営・マネージャー・チームメンバー間のコミュニケーションを促進するツールとして活用しています。チームマネジメントのあり方に唯一解は存在せず、各チームのメンバー構成や特性などの複合的な要素を勘案しながら継続的にエンゲージメント向上に向けた取り組みを積み重ねていくことが重要と考えています。エンゲージメントを単に測定するだけでなく、チームごとのベストプラクティスの抽出や横展開にもつながる形での運用を進めています。

 

c. サステナブルな働き方

多様な人財が能力を発揮し活躍するためには、一人ひとりのキャリアにおける長期的な成長や成果の最大化が鍵であり、その前提としてサステナブルな仕事環境を整備することが重要と考えています。当社では、メリハリある働き方、ライフイベントのサポートを重視した職場環境作りに取り組んでいます。

具体的には

・メリハリある働き方の促進:

当社では、フレックスタイム制を採用することで、コアタイムを中心にパフォーマンスを発揮しやすい時間帯での勤務を推奨しています。一日の中でも、オン・オフを明確にした働き方を重視し、パソコンの持ち帰りやスマートフォンによる帰宅後の業務対応は原則なし。ラボワークが中心のため、在宅ワーク制度はあえて運用せず、会社ではしっかりと業務に集中し終業後はプライベートな時間を大事にする働き方を推奨しています。また、一年の中でも、年2回の長期休暇を組み入れたカレンダーを運用し、半期毎に一生懸命業務に取り組んだ後はリフレッシュし、またしっかり働くというメリハリあるワークスタイルを目指しています。

・ライフイベントのサポート:

平均年齢が若く、子育て世代の社員が多いこともあり、育休取得を積極的に支援しています。女性はもちろん男性の育休取得率も高く、一般社員から管理職まで様々なポジションでの育休取得実績があります。多様な働き方を支援する短時間正社員制度や、時短勤務による給与減を支援する育児介護短時間サポート手当を独自に設けています。育児や介護など様々なライフイベントの中でも就業を継続し、キャリアを構築できる働き方をサポートしています。

 

 

③ 上記方針に関する指標と目標

上述の「目指す人と組織の姿」実現に向けて、指標と目標を以下の通り設定し、進捗をモニタリングしています。

 

2024年12月期

2030年目標

◆中核人材(リーダーポジション及び管理職)において下記の占める比率

博士号取得者

45.0

50%以上

外国籍又は海外勤務経験者

31.7

30%以上

20-30代(若手)

20.0

30%以上

女性

18.3

30%以上

◆エンゲージメントサーベイで着目するキードライバーのスコアの維持・向上

やりがい

上昇トレンドの維持

職場環境への満足

ミッション・ビジョンへの共感

 

(注)エンゲージメントサーベイスコアは測定方法の変更を予定しているため、指標の開示は2025年12月以降を予定しています。

 

(4) 環境(気候変動)に関するガバナンス、戦略及び指標と目標

① ガバナンス

当社の気候変動に係るリスクと機会への対応方針やCO2をはじめとするGHG排出量の削減目標・取り組みについては、サステナビリティ関連のリスクと機会の一つとして前述サステナビリティ全般のガバナンスにおいて統合的に管理・監督しています。

 

② リスク管理

当社の事業に対する財務又は戦略面での重大な影響を及ぼす気候変動関連リスク・機会については、取締役会の諮問機関であるサステナビリティ・ガバナンス委員会において、財務的な観点を含めて総合的に審議し、定期的に取締役会で見直し、決定しています。

 

③ 戦略

当社は、気候変動関連のリスクと機会をそれぞれ分類し、サステナビリティ・ガバナンス委員会で審議するとともに、随時見直しを実施しています。

 

a.気候変動に関する移行リスク(1.5℃から2℃シナリオを使用)

移行リスク

説明

政策及び法規制のリスク

・気候変動問題への対策として、日本では「地球温暖化対策税」が導入されています。当社は事業活動に伴う電力消費が避けられないため、今後税率が引き上げられた場合には財務インパクトが生じうるリスクがあります。またカーボンプライシング制度や排出量取引等が日本に導入された場合、当社は事業活動に伴う電力消費によるCO2をはじめとするGHG排出が避けられないため、設備投資コストが拡大するリスクがあります。

・近年、世界的に環境配慮の意識が高まっています。そのため、法令を遵守している場合においても環境配慮の取り組みが遅れることにより訴訟が提起されるリスクがあります。

技術のリスク

近年、世界的に環境配慮の意識が高まっており、クリーンエネルギー技術の普及により、グループ全体における再生可能エネルギー、自社発電、蓄電池などの導入に係る設備投資コストが拡大するリスクがあります。

評判上のリスク

近年、世界的に環境配慮の意識が高まっており、ESG投資では、投資の基準に企業の環境への取り組みが組み込まれています。そのため、環境関連情報の開示が遅れることにより投資適格性を失うと、当社への投資が減少するリスクが存在します。

 

 

b.気候変動に関する物理的リスク(4℃シナリオを使用)

物理的リスク

説明

急性リスク

当社は、神奈川県川崎市川崎区殿町に本社・研究所を設置しており、事業活動や研究開発活動に関する設備及び人員が現所在地に集中しています。周辺には多摩川が流れており、気候変動に伴う洪水や津波などの水害等の自然災害が発生し、当社設備の損壊、各種インフラの供給制限等の不測の事態が発生した場合には、当社の事業戦略及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

慢性リスク

気候変動により、近年、世界的に感染症の発生リスクが高まっています。当社は、事業活動や研究開発活動に必要な設備及び機能が本社・研究所に集中しており、在宅勤務等へのシフトによって本社研究所以外の場所で継続できる業務が一部のオフィス業務に限定されます。指定感染症等が発生し、本社・研究所の一時閉鎖等の不測の事態が発生した場合には、当社の事業活動及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

c.気候変動に関する機会

切り口

説明

製品及びサービス

気候変動による気象パターンの変化により、感染症のみならず呼吸器疾患、心臓疾患、メンタルヘルスに影響を及ぼす病気が拡大し、健康に被害を及ぼしています。当社の創薬開発プラットフォームを用いた新薬共同研究開発ニーズの拡大(製薬企業等との契約機会の拡大)になり、収益に好影響を及ぼす可能性があります。

評判

気候変動対策への貢献を通じて、ステークホルダーからの信頼が高まり、外部からの評価が向上した場合、より多くの投資が得られるようになる可能性があります。このようなESG投資額の増加を機会として想定しています。

 

 

④ 指標と目標

当社では、CO2をはじめとするGHG排出量の削減・気候変動対策を重要な経営課題の一つとして認識しています。パリ協定に整合した1.5℃目標の達成に向けて、国際的なイニシアチブ「SBTi(Science Based Targets Initiative)」のスコープ1・2におけるCO2年平均削減率4.2%、スコープ3におけるCO2年平均削減率2.5%を目標設定数値の参考としながら、2030年12月31日(会計年度上:2030年12月期)までに、2023年比でスコープ1・2を100%削減する目標を設定し、パリ協定に整合した1.5℃目標の達成に向けた取り組みを促進しています。当社では、2022年から2026年までに5年間の中期目標として「カーボンニュートラル」を達成することを2021年に掲げ、CO2排出量の削減に積極的に取り組んでいます。結果として、4年前倒しでペプチドリームにおける事業活動のScope1及び2におけるカーボンニュートラルを実現させており、進捗を確実なものにしています。

また、サプライチェーンでのCO2排出量の削減に向けて、2030年までに2023年対比で20%削減する目標を設定し、サプライヤーをはじめとするステークホルダーとともに取り組みを推進しています。

2023年12月期における当社Scope1、2、3の数値及び第三者保証の詳細につきましては、「サステナビリティインパクトレポート 2024」と第三者検証意見書をご参照ください。

 

<ペプチドリームグループCO2排出量削減目標>

目標年

2030年

削減目標

① Scope1+2  △100%(2023年比)

② Scope3   △ 20%(2023年比)

 

 

 

3 【事業等のリスク】

当社グループの事業展開その他に関するリスク要因となる可能性があると考えられる主な事項を記載しています。また、当社グループとして必ずしも重要なリスクと考えていない事項及び具体化する可能性が必ずしも高くないと想定される事項についても、投資判断の上で又は当社グループの事業活動を理解する上で重要と考えられる事項については、投資家に対する積極的な情報開示の観点から開示しています。当社グループは、これらのリスク発生の可能性を認識した上で、発生の回避及び発生した場合の対応に努める方針ですが、リスクの発生をすべて回避できる保証はございません。また、以下の記載内容は当社グループのリスクすべてを網羅するものではございませんのでご留意ください。

なお、本項記載の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであり、不確実性を内包しているため、実際の結果とは異なる可能性もあります。

 

(1)リスク管理体制と全社重要リスク決定までのプロセス

当社は、下図の通り、スリーラインモデルによるリスクマネジメント体制を構築しています。

<ペプチドリーム リスクマネジメント体制>


 

<リスクマネジメント体制における社内の関連組織・内部統制の関係図>


 

(用語の説明)

第1ライン

当社の研究開発に係る各部門や、グループ会社が該当します。これらの各部門では、自らの業務に係る潜在的なリスク項目の抽出、評価、コントロールを実施しています。

第2ライン

第2ラインは、法務・コンプライアンス、知的財産、経理・財務、人事、情報管理システム等の専門知識を持ったスタッフ部門で構成され、第1ラインが行うリスク評価を踏まえ、各リスクについてのモニタリングとリスクコントロールのサポートを行っています。

第3ライン

第3ラインである内部監査担当は、定期的な社内監査の実施により、第1ラインのリスク評価や第2ラインのモニタリング・サポートが有効に機能しているかを検証しています。この内部監査の状況は随時、取締役会・監査等委員会・コンプライアンス・リスクマネジメント委員会に報告されています。

コンプライアンス・
リスクマネジメント
委員会

コンプライアンス・リスクマネジメント委員会は、主にコンプライアンス・リスクマネジメント体制の構築、管理及び維持、並びに、当社において想定されるリスクの洗い出し、評価、及び予防策の策定等を行い、取締役会に報告しています。

 

 

 

(2) 主要な事業等のリスク

経営者が経営成績等に重大な影響を及ぼす可能性があると認識している主要な事業等のリスクは以下の通りです。各リスクについて発生可能性、影響度の観点から評価した結果を一元的に管理するために、同一のリスクマップに掲載しています。

<主要な事業等のリスク一覧> ※当社グループ見解に基づく/当社グループ作成

リスク

No

内容

(ⅰ)医薬品の研究開発・製造販売事業一般に関するリスク

医薬品開発・薬事承認の不確実性に関するリスク

副作用・製造物責任に関するリスク

安定供給・製造仕入れに関するリスク

薬価引き下げに関するリスク

(ⅱ)事業内容に関するリスク

PDPS技術の競争優位性に関するリスク

知的財産権に関するリスク

共同研究開発先の研究開発進捗・方針に関するリスク

収益認識に関するリスク

(ⅲ)その他のリスク

保有投資有価証券に関するリスク

10

のれん・無形資産に関するリスク

11

債務保証に関するリスク

12

資金の借入コストに関するリスク

13

外国為替相場の変動に関するリスク

14

新株予約権の行使による株式価値の希薄化に関するリスク

15

人的資本に関するリスク

16

ITセキュリティ及び情報管理に関するリスク

17

環境(気候変動)に関するリスク

18

コンプライアンスに関するリスク

19

重要な契約の解除・終了に関するリスク

20

法的な紛争に関するリスク

 

 

<主要な事業等のリスクマップ> ※当社グループ見解に基づく/当社グループ作成


 

(ⅰ)医薬品の研究開発・製造販売事業一般に関するリスク
(1) 医薬品開発・薬事承認の不確実性に関するリスク
当社グループでは、独自のPDPSを活用し、生体内でのタンパク合成に利用される20種類のアミノ酸と、非天然型のアミノ酸から構成される環状ペプチド医薬品の探索・開発を行っています。PDPSでは、短期間に標的タンパク質に対する高い結合性・選択性等、多くの特長を有する環状ペプチドを創製することができ、有望な医薬品候補化合物が取得できることから、多くのパートナーとの契約に至っています。また近年では環状ペプチドを起点にした低分子医薬品や、PDC、MPCといった様々なモダリティの探索・開発にも取り組んでいます。

上記に加えて、当社グループは医薬品の臨床開発、製造、販売を行っています。PDRファーマはRI領域における製造販売業者として半世紀近い歴史・経験を有し、臨床開発、薬事機能など医薬品上市に必要な機能を有しています。

一方で、一般に医薬品の開発には多額の研究開発投資と10年以上の年月を要します。また、研究開発の初期段階において有望とされた化合物であっても、前臨床試験や臨床試験の結果によっては研究開発が予定通りに進行せず、開発の延長や中止の判断を余儀なくされる可能性があります。さらには、臨床試験を完了しても、当局の定めた有効性と安全性に関する審査によっては、医薬品の上市が承認されない可能性もあります。

これらのことから当社グループの研究開発活動は一定の不確実性を伴っており、この不確実性が当社グループの事業戦略及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 
(2) 副作用・製造物責任に関するリスク

当社グループは、医薬品の臨床開発、製造、販売を行っていますが、医薬品には予期せぬ副作用が発現するリスクがあります。当社グループでは、発売後の医薬品について製造販売業としての医薬品安全性監視を行うことで患者様の健康被害リスクを最小化する活動を実施する等、医薬品使用に関連するリスクの回避と軽減に努めています。また、医薬品の開発、製造販売を行う製品が、必要な品質及び安全性の基準を満たさない場合、これを原因とした製造物責任を負うリスクがあります。当社グループでは、製品の安全、品質への取り組みをマテリアリティの一つに掲げており、従業員への教育、製造・品質保証体制の整備に努めています。これらの取り組みにも関わらず、副作用等が発現し、製造販売の中止、製品の回収、薬害訴訟の提起等が惹起される場合には、当社グループの事業戦略及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(3) 安定供給・製造仕入れに関するリスク

当社グループは、放射性医薬品の製造販売を行っており、その社会的責任から安定供給をマテリアリティの一つに掲げています。一方で、放射性医薬品の文字通り核となる放射性核種は、原子炉や加速器といった特殊な設備で、希少な放射性原料から製造されることが多く、海外サプライヤーを中心とする特定の供給元に依存しています。また放射性医薬品の製造・輸送も、多くの規制を受けるため、許認可を受けた工場・業者以外では実施することができません。そのため地震、水害、暴風雨等の自然災害、火災、原子力発電所の事故、長時間の停電等社会インフラの障害、戦争、テロ等の発生により、当社グループの取引先や、当社グループの工場、研究所、事業所等の施設の損壊又は事業活動の停滞等の損害が発生した場合、当社グループの事業戦略及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(4) 薬価引き下げに関するリスク

当社グループは、医薬品の製造販売を行っています。国内における医療用医薬品の販売価格は、厚生労働大臣が定める薬価基準によって定められますが、医療費高騰等による薬剤費引き下げ政策がすすめられており、2年に一度行われる薬価改定に加え、直近では2021年度に導入された中間年改定が2023年度も実施されています。薬価引き下げ政策が拡大し、当社グループの放射性医薬品の薬価が大きく引き下げられる場合、当社グループの事業戦略及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

(ⅱ)事業内容に関するリスク

(5) PDPS技術の競争優位性に関するリスク
当社グループのPDPSは、非常に高い多様性をもつペプチドライブラリーを構築し、その中から高い結合性と選択性を有するペプチドを取得できる技術が組み込まれており、重要な要素技術全てにおいて、他のペプチド創薬技術に対する優位性を持っていると認識しています。また、当社グループではPDPS技術の改善・向上のための研究開発に積極的に取り組んでいます。

一方で、AIや計算化学といったin silico技術も含め、当社グループの特許技術に抵触しない優れた創薬技術が開発される可能性は否定できません。その場合、当社グループの競争優位性が低下することにつながり、当社グループの事業戦略及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(6) 知的財産権に関するリスク

当社グループのPDPSを始めとする様々な技術や、医薬品候補化合物・製品は、物質・製法・製剤・用途特許等の複数の特許によって一定期間保護されています。

当社グループでは特許権を含む知的財産権を管理し、当社グループが事業を展開する市場における第三者の知的財産権や、第三者からの侵害状況を継続的にモニタリングし、知的財産権に関するリスクの回避・軽減に努めています。しかしながら、当社の保有する知的財産権が第三者から侵害を受けた場合や、無効審判を受ける等して取得した特許を適切に保護できない場合、あるいは当社グループの製品・技術が第三者の知的財産権を侵害した場合には、当社グループの事業戦略及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(7) 共同研究開発先の研究開発進捗・方針に関するリスク

当社グループの創薬開発事業においては、パートナーとの共同研究開発契約から計上される収益が主であり、事業収益の相当程度が共同研究開発先(パートナー)の研究開発の進展に伴って計上されます。

当該収益は原則的には、(A)契約一時金、(B)研究開発支援金、(C)研究マイルストーンフィー、(D)開発マイルストーンフィー、(E)売上ロイヤルティー、(F)販売マイルストーンフィーで構成されています。

上記の中で(A)(B)(C)は当社グループの事業活動に依拠する部分が大きいものの、(D)(E)(F)はパートナーの研究開発・事業活動に依拠する部分が大きく、当社グループでその進捗を管理・制御することは困難です。加えて、研究開発方針を両社で協議しながらプロジェクトを推進するため、必ずしも当社の意向通りに個々のプロジェクトへのリソース配分や、研究開発方針を決定できない可能性があります。

また、自社パイプラインについては導出または共同開発契約等を実施し、パートナーが臨床開発・商業化を行うことを想定しています。その際も、パートナーの研究開発・事業活動の進捗と結果に当社グループの収益は大きく依拠致します。

そのため、パートナーにおける研究開発の進捗が遅れた場合やパートナーの研究開発方針に変更等があった場合、当社グループの事業戦略及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(8) 収益認識に関するリスク

当社グループの事業収益の相当程度は、数多くのパートナーとの共同研究、共同開発に関する契約から計上されます。それらは国際会計基準(IFRS)における収益認識基準に従い、必要に応じて個別に監査法人とも確認を取りながら計上しています。

当社グループではIFRSの収益認識基準の原則や背景にある考え方の理解に努め、適切な収益認識を行ってきていますが、監査法人との協議の結果等から、当社の想定と異なる収益認識が必要となった場合、例えば一時金として想定していた収益を長期間にわたって分割計上する必要が生じる等して、年間に計上する売上額が大きく変動する可能性があります。そのため、一定以上の事業収益に対する収益認識の変更や修正を余儀なくされる場合、当社グループの事業戦略及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

(ⅲ)その他のリスク

(9) 保有投資有価証券に関するリスク

当社グループでは、共同研究開発を加速させる目的での戦略的提携先への出資等を通じ、投資有価証券を保有しています。投資有価証券の評価は、株式発行会社の財政状態・経営成績等の状況によって判断されるため、実質価額の低下により減損損失を余儀なくされる場合には、当社グループの事業戦略及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(10) のれん・無形資産に関するリスク

当社グループは、企業買収等を通じて獲得したのれん及び無形資産を計上しています。これらの資産については計画と実績の乖離等により価値が下落した場合には減損損失の計上等、当社グループの事業戦略及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(11) 債務保証に関するリスク

当社グループは、一部の投資先に対して、債務保証を行っています。当社グループは投資先の経営状況をモニタリングするとともに、必要な施策を実施し、リスク低減に努めていますが、将来的にこれら債務保証の履行を求められる状況が発生した場合には、当社グループの事業戦略及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(12) 資金の借入コストに関するリスク

当社グループの事業資金の一部は金融機関からの借入により調達しています。今後、長期金利や短期金利が上昇した場合、借入コストの増加により当社グループの事業戦略及び経営成績に影響が及ぶ可能性があります。

また、当社グループの借入金には財務制限条項が付されています。業績の悪化等により当該借入金の期限前弁済義務が生じた場合には、当社グループの財政状態に影響を与える可能性があります。

 

(13) 外国為替相場の変動に関するリスク

当社グループのパートナーには海外の製薬企業が含まれていることから、事業収益の一部が外国通貨建て(主に米ドル建て)となっており、為替変動の影響を受けます。当社グループでは短期的な為替変動に対応するため、適宜為替予約を用いて影響の最小化に努めていますが、為替相場が一定以上変動した場合には、当社グループの事業戦略及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(14) 新株予約権の行使による株式価値の希薄化に関するリスク

当社グループは、役員及び従業員に対し新株予約権を付与しています。これらの新株予約権が権利行使された場合、当社グループ株式が新たに発行され、既存の株主が有する株式の価値及び議決権割合が希薄化する可能性があります。

 

(15) 人的資本に関するリスク

当社グループは、多くの国内外パートナーとの共同研究開発を行っています。そのため、事業を展開し発展させていくために、様々な分野で高い専門性や能力を有しグローバルで活躍できる人材の、採用・育成・確保が必要です。一方で、そのような優秀人材の数は有限であり、社会全般に優秀人材の流動性は高まっている傾向にあります。また、当社グループは海外拠点を保有していないためにグローバル人材の採用に一定の制限があることから、人的資本が充分に確保できないリスクがあります。

当社グループでは、優秀人材の獲得のため、賃金水準の上昇や働き方の多様化といった社会変化への対応に常に先行して取り組み、また従業員エンゲージメント向上に向けた取り組みを開始する等、採用競争力の強化や人材確保に努めています。さらに「高い専門性、情熱、誠実」という3つのバリューと、その体現の為の10の行動指針を「Values & behaviors」として定め、コーポレートカルチャーとして定着させることを目指し、人材育成と社内環境整備を進めています。

こうした取り組みが機能せず、人材活用が充分に実施できない場合や、人材流出、採用の不調、役員や中核ポジションにおける後継者育成・獲得の停滞を招く場合、当社グループの人的リソース・機能が棄損し、当社グループの事業戦略及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(16) ITセキュリティ及び情報管理に関するリスク

当社グループは、被検者・患者さん等の社外ステークホルダーの個人情報や、パートナーの技術・知的財産情報を含む、多様かつ重要な秘密情報を取り扱っています。近年、サイバー攻撃は年々高度化・巧妙化しており、それにより秘密情報が漏洩した場合、ステークホルダーが重大な損害を被るリスクや、当社グループの社会的信用が大きく損なわれるリスクや、競争力が低下するリスク等があります。

当社グループでは、サイバーセキュリティに関するポリシーを制定し、技術・社会環境の変化に合わせた適切な技術・サービスの導入、ネットワーク及び設備の監視を始めとする各種サイバー攻撃対策の実施や、社員を対象としたトレーニング等継続的な対策強化を行っています。

これらの対策にもかかわらず、サイバー攻撃等によるシステム障害や事故等の原因により情報の改ざん、漏えい等が発生した場合には、当社グループの事業戦略及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(17) 環境(気候変動)に関するリスク

「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (4) 環境(気候変動)に関するガバナンス、戦略及び指標と目標」に記載の通りです。

 

(18) コンプライアンスに関するリスク

当社グループの事業の推進にあたっては、薬事規制や製造物責任、独占禁止法、個人情報保護法、放射性同位元素等の規制に関する法令等の様々な法的規制や、GMP、GQP、GCP、GLP等のガイドラインの遵守が必要です。また、当社グループの事業活動は、協力関係にある多数のサプライヤー等の第三者による業務遂行によって、大きく影響を受けます。当社グループは、コンプライアンス・リスクマネジメント委員会を設置してコンプライアンス推進体制を整備し、当社グループおよび関係する第三者の事業活動が法令および社内規定を遵守して実施されるよう努めています。

しかしながら、当社グループの従業員や、関係する第三者がこれらの法令等に違反した場合や、社会的要請に反した行動をとった場合、法令による処罰や制裁、規制当局による処分、訴訟の敵を受ける可能性があり、社会的な信頼を失うとともに金銭的損害を負う可能性があり、当社グループの事業戦略及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(19) 重要な契約の解除・終了に関するリスク

当社グループの事業展開上重要な契約が、相手方の経営方針の変更等何らかの理由で、解除・終了する場合、当社グループの事業戦略及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。なお、原則として、パートナーとの共同研究開発契約に係る受領済みの収益は、当社グループが契約を中途終了する場合でも、当社グループは返還義務を負っていません。

 

(20) 法的な紛争に関するリスク
当社グループが事業を展開する上で、第三者の権利若しくは利益を侵害した場合又は侵害が疑われる場合には、損害賠償の請求訴訟を提起される等の法的な紛争が生じる可能性があります。
本書提出日現在、法的な紛争は生じていませんが、今後、当社グループと第三者との間に法的な紛争が生じた場合、紛争の解決に多大なリソースと時間を要するほか、法的紛争に伴うレピュテーションリスクにさらされる可能性があり、当社グループの事業戦略及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

当事業年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループのセグメントごとの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は以下の通りです。

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものです。

 

(1) 経営成績

当連結会計年度(2024年1月1日から2024年12月31日)における、2つの戦略領域ごとの主要トピックス、および事業セグメントごとの売上実績は以下の通りです。

 

(A)放射性医薬品(RI)領域の主要トピックス

① 臨床後期フェーズのパイプライン拡充

・リンクメッド社と共同開発・商業化を進める64Cu-ATSM の国内での第3相比較試験が開始(2024年6月)

・Curium社との間で、177Lu-PSMA-I&T および 64Cu-PSMA-I&T(いずれも海外第3相)の国内での
 臨床開発・商業化に関する戦略的提携(2024年10月)

② 新たな臨床入り(準備)プログラムでも進捗

・Novartis社との提携プログラムから新たな臨床候補化合物の選定(2024年7月)

・Novartis社との提携プログラム(177Lu-NNS309および68Ga-NNS309)の第1相試験が開始(2024年12月)
・腎細胞がんに対する64Cu-PD-32766の第0相ファースト・イン・ヒューマン試験が完了(2024年12月)

・Claudin 18.2を標的とする、胃がんに対する新たな臨床候補化合物(PD-29875)の選定(2024年12月)

③ さらに新たなRI-PDCプログラムが複数開始

・Novartis社との間で複数のRI-PDCプログラムを含む提携拡大契約を締結(2024年4月)

・さらなる拡大に向けて、複数の製薬企業との間で新規RI-PDCプログラムに関する協議

・また、自社開発品として複数ターゲットに対するRI-PDCプログラムを次々と推進

④ PET診断薬の承認取得と既存診断薬の剤形追加

・SPECT診断薬であるテクネピロリン酸静注の剤形追加に関する承認取得(2024年8月)

・アミロイドPET診断薬Amyvid®の効能追加の承認取得(2024年9月)

・アルツハイマー病に関するPET診断薬タウヴィッド®の国内での製造販売承認を取得(2024年12月)

⑤ 今後の事業展開に資する戦略的投資および提携

・NorthStar社との間でAc-225 の供給、研究開発支援に関する提携契約の締結(2024年12月)

・千葉かずさアカデミアパーク内に、Lu-177, Ac-225, Cu-64 等の次世代核種を用いた放射性医薬品の
製造拠点の新設を発表(2024年12月)

 

(B)Non-RI領域の主要トピックス

① GhRアンタゴニストフェーズ2開始への準備
・Amolyt社/AstraZeneca社が先端巨大症に対するAZP-3813(GHRAペプチド)の第1相臨床試験を完了

・良好な安全性プロファイルが確認され、それらの結果を欧州内分泌学会(2024年5月)、
米国内分泌学会(2024年6月)において発表。現在、第2相臨床試験開始に向けた準備が進捗

② PDPS技術ライセンス下でMSD社から2つ目の臨床入りプログラム

・PDPS技術ライセンスに基づき、 MSD社が、2023年7月に第1相臨床試験を開始した1つ目の臨床入り
プログラムに加えて、新たなペプチド開発候補化合物の第1相臨床試験を開始(2024年6月)

・炎症性疾患向け治療薬としての開発を推進

③ S2タンパク質阻害薬米国でのフェーズ1進捗

・ペプチエイド社が開発を進める新型コロナウイルス感染症治療薬の開発候補品PA-001について、
健常者および高齢者を対象に安全性、忍容性、薬物動態を検証するための第1相臨床試験を
米国にて開始(2024年10月)

 

④ 経口マイオスタチン阻害薬で前臨床データ構築が進捗

・自社プログラムとして開発を進める経口マイオスタチン阻害薬が、肥満症マウスモデルにおける
semaglutideとの併用投与で有望な結果(除脂肪体重の維持など)を示したことを発表(2024年12月)

・臨床開発に向けたライセンスに関心の高い複数パートナー候補と協議中

⑤ 複数の提携プログラムでマイルストーンを達成

・ポーラ化成工業との提携プログラムで二つ目のリードクライテリアを達成(2024年8月)

・ジョンソン・エンド・ジョンソングループとの提携プログラムで二つ目のリードクライテリアを
達成(2024年12月)

・その他、複数のパートナープログラムで非臨床マイルストーンを達成(非開示)

 

創薬開発事業セグメントの売上実績

 


放射性医薬品事業セグメントの売上実績

 


 

以上の結果、当連結会計年度における創薬開発事業の経営成績については、売上収益31,313,392千円(前年同期比18,610,427千円増加)、セグメント利益20,957,312千円(前年同期比14,569,410千円増加)、放射性医薬品事業の経営成績については、売上収益15,363,130千円(前年同期比646,097千円減少)、セグメント利益246,528千円(前年同期比228,616千円減少)となり、当社グループ全体としては売上収益は46,676,523千円(前年同期比17,964,329千円増加)、Core営業利益21,225,338千円(前年同期比14,059,784千円増加)、営業利益21,113,841千円(前年同期比14,340,793千円増加)、税引前利益20,888,805千円(前年同期比16,535,336千円増加)、親会社の所有者に帰属する当期利益15,014,922千円(前年同期比11,979,089千円増加)となりました。

当社グループは、IFRS業績に加えて、会社の経常的な収益性を示す指標として非経常的な項目をNon-Core調整として除外したCoreベースの業績を開示しています。当該Coreベースの業績は、IFRS業績から当社グループが定める非経常的な項目を調整項目として除外したものです。

Core営業利益は営業利益から企業買収に係る会計処理の影響及び買収関連費用、有形固定資産、無形資産及びのれんに係る減損損失、損害賠償や和解等に伴う損益、非経常的かつ多額の損益、個別製品または開発品導入による無形資産の償却費を控除して算出しています。

 

なお、Core営業利益から営業利益への調整は以下の通りです。

(単位:千円)

 

2023年12月

2024年12月

前年同期比

Core営業利益

7,165,554

21,225,338

14,059,784

196.2

企業買収に係る会計処理の影響

及び買収関連費用

346,381

111,497

△234,884

△67.8

有形固定資産、無形資産及び

のれんに係る減損損失

損害賠償や和解等に伴う損益

非経常的かつ多額の損益

個別製品または開発品導入による

無形資産の償却費

46,125

△46,125

△100.0

営業利益

6,773,047

21,113,841

14,340,793

211.7

 

 

生産、受注及び販売の実績は、次の通りです。

① 生産実績

当連結会計年度の生産実績は以下の通りです。

報告セグメント

金額(千円)

前連結会計年度比(%)

創薬開発事業

185,587

120.8

放射性医薬品事業

13,636,583

99.2

 

(注)金額は販売価格によっています。

② 受注実績

当社グループの創薬開発事業及び放射性医薬品事業は受注形態をとっておりませんので、記載を省略しています。

 

③ 販売実績

当連結会計年度における販売実績は、以下の通りです。

セグメントの名称

当連結会計年度

(自  2024年1月1日

至  2024年12月31日)

販売高(千円)

前年同期比(%)

創薬開発事業

31,313,392

246.5

放射性医薬品事業

15,363,130

96.0

合計

46,676,523

162.6

 

(注)主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合

 

相手先

前連結会計年度

(自  2023年1月1日

至  2023年12月31日)

販売高

(千円)

割合

(%)

公益社団法人
日本アイソトープ協会

11,158,137

38.9

Genentech, Inc.

5,809,200

20.2

アステラス製薬株式会社

2,949,999

10.3

 

 

相手先

当連結会計年度

(自  2024年1月1日

至  2024年12月31日)

販売高

(千円)

割合

(%)

Novartis Pharma AG

29,365,356

62.9

公益社団法人
日本アイソトープ協会

10,865,966

23.3

 

 

(2) 財政状態

当連結会計年度の総資産は92,769,826千円となり、前連結会計年度末と比べて23,305,812千円増加しました。その主な要因は、その他の金融資産が9,242,214千円減少したものの、現金及び現金同等物が28,610,071千円増加、繰延税金資産が2,395,333千円増加したこと等によるものです。

負債は36,007,527千円となり、前連結会計年度末と比べて6,893,224千円増加しました。その主な要因は、借入金が2,586,259千円減少したものの、未払法人所得税等が7,035,492千円増加、営業債務及びその他の債務が2,128,476千円増加したこと等によるものです。

資本は56,762,298千円となり、前連結会計年度末と比べて16,412,588千円増加しました。その主な要因は、その他の包括利益によりその他の資本の構成要素が1,201,444千円増加、当期利益により利益剰余金が15,014,922千円増加したこと等によるものです。

 

(3) キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度末における現金及び現金同等物は、前連結会計年度末に比べ28,610,071千円増加し、48,117,933千円となりました。

当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は、以下の通りです。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動によるキャッシュ・フローは、法人所得税の支払による支出2,178,823千円等があったものの、税引前利益20,888,805千円の計上、減価償却費の2,248,471千円計上、営業債務及びその他の債務の増加額1,747,189千円等により、23,844,988千円の収入(前年同期比11,424,019千円の収入増加)となりました。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動によるキャッシュ・フローは、投資有価証券の取得による支出377,000千円、有形固定資産の取得による支出2,076,502千円等があったものの、投資有価証券の売却による収入10,935,460千円等により、8,370,789千円の収入(前年同期比7,068,249千円の収入増加)となりました。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動によるキャッシュ・フローは、長期借入金の返済による支出2,640,000千円、リース負債の返済による支出373,220千円等により、2,994,633千円の支出(前年同期は264,191千円の収入)となりました。

 

(4) 資本の財源及び資金の流動性

財務政策につきましては、当社グループの事業活動の維持拡大に必要な資金は、手許資金を中心としながら必要に応じて借入による資金調達を行っています。

主な資金需要につきましては、運転資金として製造原価、研究開発費を含む販売費及び一般管理費等があります。また、設備資金として、研究開発のための設備投資等があります。

有価証券報告書提出日現在において支出が予定されている重要な資本的支出はありません。

 

(5) 重要な会計方針及び見積り

当社グループの重要な会計方針及び見積りについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 2 作成の基礎 、 3 重要な会計方針 及び 4 重要な会計上の見積り及び判断」に記載しています。

 

(6) 経営方針、経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等につきましては、「第2 事業の状況1.経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (3)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標」に記載の通りです。

当連結会計年度においては、売上収益35,000,000千円、Core営業利益10,900,000千円、売上収益Core営業利益率31.1%を目標としていましたが、売上収益は46,676,523千円Core営業利益21,225,338千円、売上収益Core営業利益率45.5%となり、売上収益、Core営業利益及び売上収益Core営業利益率のいずれの指標についても目標を上回る結果となりました。

 

5 【経営上の重要な契約等】

(1)  基盤技術に関する独占ライセンス契約

相手先の名称

国立大学法人東京大学

契約名称

独占ライセンス契約

主な契約内容

①許諾内容

第三者に対する再実施権を含めた独占実施・許諾権

②対象となる特許・発明

下表参照

③契約期間

下表参照

 

 

 

対象発明の名称

出願者

出願日

登録日

登録/公開番号

契約期間

多目的アシル化触媒とその用途

国立大学法人東京大学

2005年12月6日
2006年12月5日
2006年12月5日

2012年11月2日
2012年5月29日
2012年8月1日

特許第5119444号
US 8,188,260 B2
EP 1964916 B1

2006年12月1日

から特許権の存続期間終了の日まで

N末端に非天然骨格をもつポリペプチドの翻訳合成とその応用

国立大学法人東京大学

2006年11月17日
2007年11月13日
2007年11月13日

2013年2月22日

2013年10月15日

2013年8月21日

特許第5200241号
US 8,557,542 B2

EP 2088202 B1

2006年12月1日

から特許権の存続期間終了の日まで

環状ペプチド化合物の合成方法

国立大学法人東京大学

2007年3月26日
2008年3月26日2008年3月26日

2014年10月15日

2015年7月28日

2016年7月27日

2017年5月3日

2017年6月28日

特許第5605602号

US 9,090,668 B2

EP 2141175 B1

EP 2990411 B1

EP 3012265 B1

2008年2月1日

から特許権の存続期間終了の日まで

新規人工翻訳合成系

国立大学法人東京大学

2010年8月27日
2011年8月26日
2011年8月26日
2011年8月26日

2015年5月27日
2017年7月11日


2015年9月8日

特許第5725467号
US 9,701,993 B2
EP 2610348 A4
CN 103189522 B

2011年3月1日

から特許権の存続期間終了の日まで

N-メチルアミノ酸及びその他の特殊アミノ酸を含む特殊ペプチド化合物ライブラリーの翻訳構築と活性種探索法

国立大学法人東京大学

2010年9月9日
2011年9月8日
2011年9月8日

2015年11月18日
2016年8月9日
2017年11月1日

特許第5818237号
US 9,410,148 B2
EP 2615455 B1

2011年3月10日

から特許権の存続期間終了の日まで

安定化された二次構造を有するペプチド、及びペプチドライブラリー、それらの製造方法

国立大学法人東京大学

2010年12月3日
2011年12月5日
2011年12月5日
2015年9月8日

2016年10月5日
2017年5月23日
2019年10月8日
2019年2月27日

2015年11月25日

特許第6004399号
US 9,657,289 B2

US 10,435,439 B2
EP 2647721 B1
CN 103328648 B

2011年3月1日

から特許権の存続期間終了の日まで

ペプチドライブラリーの製造方法、ペプチドライブラリー、及びスクリーニング方法

国立大学法人東京大学

2010年3月12日
2011年12月5日
2011年12月5日

2017年10月4日
2019年2月5日

2019年6月19日

特許第6206943号
US 10,195,578 B2
EP 2647720 B1

2011年3月10日

から特許権の存続期間終了の日まで

アゾリン化合物及びアゾール化合物のライブラリー、並びにその製造方法

国立大学法人東京大学

2012年3月9日
2012年3月9日
2012年3月9日

2018年5月11日

2019年4月26日

2019年2月5日

2018年12月5日

特許第6332965号

特許第6516382号

US 10,197,567 B2
EP 2684952 B1

2011年3月10日

から特許権の存続期間終了の日まで

pH依存的に標的分子に結合するペプチドのスクリーニング方法

国立大学法人東京大学

2012年6月6日
2013年6月6日
2013年6月6日

2022年3月30日
2017年2月21日
2018年10月24日

特許第7049569号

US 9,574,190 B2
EP 2868744 B1

2012年8月1日

から特許権の存続期間終了の日まで

 

 

対象発明の名称

出願者

出願日

登録日

登録/公開番号

契約期間

MATE活性阻害ペプチド

国立大学法人東京大学

2012年7月31日

2017年11月15日

特許第6229966号

2013年3月8日

から特許権の存続期間終了の日まで

ヘテロ環を含む化合物の製造方法

国立大学法人東京大学

2014年3月7日
2014年3月7日
2014年3月7日

2017年12月15日
2019年6月25日

2018年2月21日

特許第6257054号

US 10,329,558 B2
EP 2966174 B1

2013年3月8日

から特許権の存続期間終了の日まで

大環状ペプチド、その製造方法、及び大環状ペプチドライブラリを用いるスクリーニング方法

国立大学法人東京大学

2013年8月26日
2014年8月26日
2014年8月26日

2020年8月27日

2019年3月19日

2023年12月13日

特許第6754997号

US 10,234,460 B2
EP 3040417 B1

2013年8月1日

から特許権の存続期間終了の日まで

c-Metタンパク質アゴニスト

国立大学法人東京大学

2014年10月15日
2014年10月15日
2014年10月15日

2018年11月2日

2018年6月12日
2020年8月26日

特許第6426103号

US 9,994,616 B2
EP 3059244 B1

2014年3月1日

から特許権の存続期間終了の日まで

アゾール誘導体骨格を有するペプチドの製造方法

国立大学法人東京大学

2015年2月3日
2015年2月3日
2015年2月3日

2020年1月9日

2017年10月10日

特許第6643763号

US 9,783,800 B2
EP 3103881 A4

2014年3月1日

から特許権の存続期間終了の日まで

D-アミノ酸及びβ-アミノ酸の取り込みを増強するtRNAのD及びTアームの改変

国立大学法人東京大学

2018年8月28日

2022年5月24日

2024年4月2日

特許第7079018号

US 11946042 B2

EP 3699276 A4

SG 10202203885P

2018年3月1日から特許権の存続期間終了の日まで

N-メチルアミノ酸の取り込みを増強するtRNAのTステムの改変

国立大学法人東京大学

2019年11月19日

2024年10月4日

特許第7566294号

US 17/777770

EP 4063377 A1

SG 11202205202R

2021年5月26日から特許権の存続期間終了の日まで

ライブラリーの製造方法、環状ペプチド、FXIIa結合剤、及びIFNGR1結合剤

国立大学法人東京大学

2020年8月6日

2020年12月25日

2020年12月25日

特開2021-106565

US 2023117920 A1

EP 4101929 A1

2023年4月27日から特許権の存続期間満了の日まで

 

(注)1.上記契約の対価として一定料率のロイヤルティーを支払っています。

 

(2)合弁契約

相手先の名称

合弁会社名

事業内容

設立年月日

塩野義製薬株式会社

積水化学工業株式会社

ペプチスター株式会社

特殊ペプチド原薬の研究開発、製造及び販売

2017年9月1日

三菱商事株式会社

ペプチグロース株式会社

細胞培養向け成長因子代替ペプチドの開発、製造及び販売

2020年4月1日

富士通株式会社

みずほキャピタル株式会社

株式会社竹中工務店

キシダ化学株式会社

ペプチエイド株式会社

医薬品の研究、開発、製造、販売及び輸出入

2020年10月14日

 

 

(3)子会社における経営上の重要な契約

会社名

相手先の名称

契約名称

契約締結日

主な契約内容

PDRファーマ
株式会社

公益社団法人日本

アイソトープ協会

製品供給基本契約書

2014年2月18日

放射性医薬品の売買に

関する基本事項

PDRファーマ
株式会社

Lantheus Medical Imaging, Inc.

LICENSE AND DISTRIBUTION AGREEMENT

2013年1月1日

Cardiolite及びNeuroliteに関する

ライセンス契約

 

 

 

6 【研究開発活動】

当社グループの研究開発は、放射性医薬品(RI)領域においてはPDPSを活用することによる自社プログラムまたは提携プログラムとして革新的な放射性治療薬・診断薬の創製・開発を実施しています。また、ペプチドリームの100%子会社であるPDRファーマを通じてこれらのプログラムや海外製品の導入により、国内における放射性医薬品の臨床開発を実施しています。Non-RI領域については、PDPSを活用することによる自社創薬及び世界中の特別な技術を有する創薬企業、バイオベンチャー企業、アカデミア等と戦略的な提携を組むことで、ペプチド医薬品、PDC、MPC等に関する創薬研究開発を実施し、パイプライン拡充を図っています。

 

(A)放射性医薬品(RI)領域

当社グループは、日本国内で放射性医薬品事業を推進する上で必要となる創薬研究・開発から製造、販売に至るまですべての機能を一気通貫で有しています。ペプチドリームの100%子会社であるPDRファーマでは、放射性治療薬・診断薬および関連製品の製造や販売等を行っています。また、ペプチドリームではPDRファーマとの連携により、自社プログラムまたは提携プログラムとして革新的な放射性治療薬・診断薬の創製・開発を実施しています。腫瘍の縮小効果をもつ放射性核種をがん細胞に選択的に送達するためのキャリアーとして環状ペプチドの有用性が次々と示される中、両社のシナジーを最大限発揮することにより、革新的で高付加価値の放射性医薬品を開発・販売するとともに、海外の製薬企業から有望な放射性医薬品を導入することにより放射性医薬品領域での成長を目指しています。

 

(A)-1 放射性医薬品(RI)領域の開発パイプライン

当社グループにおける放射性医薬品(RI)領域の開発パイプラインは以下の通りです。(2025年1月末時点)


 

·    64Cu-ATSMプログラム
適応症:再発・難治性悪性神経膠腫
モダリティ64Cuで標識したジアセチルビスN4-メチルチオセミカルバゾン(リンクメッド社創製)
提携先リンクメッド株式会社(リンクメッド)
開発ステータス
64Cu-ATSMは現在、悪性脳腫瘍の中でも治療の選択肢が限定的と言われる再発・難治性悪性神経膠腫の患者さんを対象に、これまでの標準治療と比較して、生存期間を延長する効果がどの程度得られるかを検証するためのランダム化比較第3相医師主導治験(STEP-64試験、試験番号NCCH2301、jRCT2031240090)を、国立がん研究センター、神奈川県立がんセンターが主体となる形で実施されています。リンクメッドは、悪性神経膠腫・中枢神経系悪性リンパ腫などの悪性脳腫瘍や転移性脳腫瘍の患者さんを対象とした64Cu-ATSMの第1相医師主導臨床試験(STAR-64試験、試験番号NCCH1711)を完了したことを2024年6月に発表し、その結果を米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology: ASCO2024)で報告しています。本試験の結果、64Cu-ATSMの安全性・寛容性に関して良好な結果を確認し、悪性脳腫瘍の患者さんに対する64Cu-ATSMの投与量として、99MBq/kgの7日ごとに4回の投与が推奨されるとの結論が得られました。有効性に関しては、全生存期間はあくまで副次的な評価項目ですが、64Cu-ATSMを投与した患者さん18人のうち14人(77.8%)が6か月以上、12人(66.7%)が1年以上生存されました。特に、膠芽腫の患者さんにおいては、9人のうち5人(55.6%)が1年以上生存されました。一般的に再発した膠芽腫の患者さんにおいて1年以上の生存率は30~40%であり、第1相臨床試験の結果は初期的ながら有望なものとして、第3相臨床試験に進めるための根拠となりました。本試験は、国立がん研究センター中央病院 臨床研究支援部門が支援し、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の研究費をもとに、第1相から第3相に進んだ初めての医師主導治験です。

プログラム詳細
多くの腫瘍においては、がん細胞の急速な増殖と、新生血管からの不十分な酸素供給により腫瘍内部が酸素の乏しい低酸素状態になっていることが知られています。64Cu-ATSMは低酸素状態の組織に集積する性質を有することから、がん細胞のDNAにダメージを与え細胞死へ導く64Cuを腫瘍に送達することを可能とし、各種腫瘍への治療効果が期待されています。悪性脳腫瘍は、日本国内だけでも、毎年約4,000~5,000例が罹患すると報告されています。5年生存率は約15.5%、生存期間の中央値は約18カ月、再発率が約51%と非常に予後の悪いがんの一つとして知られています。現状、外科手術、放射線治療、化学療法等の既存の治療法で十分な効果が得られず再発した場合には、有効な治療法が確立されていません。2023年12月、当社グループはリンクメッドと戦略的パートナーシップに合意しました。今後の開発・商業化において必要となるコストおよび製品上市後に得られる収益を両社間で分配します。リンクメッドが主体となって64Cu-ATSMの開発を進め、PDRファーマが主体となって国内での承認申請および商業化にむけた準備を進めてまいります。

 

·    177Lu/64Cu-PSMA I&Tプログラム:

適応症:前立腺がん

モダリティ

前立腺がん細胞上に発現されるPSMA(prostate specific membrane antigen、前立腺特異的膜抗原)を標的とし、177Lu(治療用、177Lu-PSMA-I&T)または64Cu(診断用、64Cu-PSMA-I&T)で標識した低分子化合物(PSMA I&T)(Curium社創製)

提携先

Curium社(Curium社は海外の開発販売権を保有し、Curium社とPDRファーマは共同で日本国内での開発・商業化を実施いたします。)

開発ステータス

2024年11月、Curium社は、グローバル第3相ピボタル試験(ECLIPSE試験、 ClinicalTrials.gov identifier; NCT05204927)において、177Lu-PSMA-I&T治療薬の患者登録を完了し、主要評価項目を達成したことを発表しました。ECLIPSE試験は、多施設オープンラベルランダム化試験法を用い、転移性去勢抵抗性前立腺がん患者における177Lu-PSMA-I&Tの安全性および有効性をホルモン療法と比較検討しています。本試験には欧米51施設から400名以上の患者が登録されています。

64Cu-PSMA-I&T PET診断薬では、現在2つの第3相臨床試験(多施設)が実施されています。SOLAR RECUR試験は、生化学的再発を呈する前立腺がん患者の診断を目的とした臨床試験であり(ClinicalTrials.gov識別子 NCT06235099)、現時点で200名以上の被験者が登録されています。SOLAR STAGE試験は、予後不良、中間リスクから高リスクの前立腺がん患者および新規に診断された男性を対象とした臨床試験です(ClinicalTrials.gov識別子 NCT06235151)。第1/2相臨床試験(SOLAR試験)では、ファースト・イン・ヒューマン試験として、組織学的に確認された転移性前立腺がん患者に対して領域レベルの病変検出率および患者レベルの病変検出率という二つのプライマリーエンドポイントを達成しました。

2024年10月、PDRファーマはCurium社と、177Lu-PSMA-I&Tおよび64Cu-PSMA-I&Tの日本国内における臨床開発、承認申請、商業化に関する戦略的提携の締結を発表しました。本提携においてPDRファーマとCurium社は177Lu-PSMA-I&Tおよび64Cu-PSMA-I&Tの日本国内における臨床開発を共同で実施し、PDRファーマが承認申請、製造、販売を主導します。Curium社は、両剤の海外における開発を主導し、またCurium社が独自に保有する64Cuのハイスループット製造技術の技術移転等を通じてPDRファーマによる国内製造体制の立ち上げを支援します。PDRファーマとCurium社は、両剤の国内での開発コストや商業化以降の利益をシェアいたします。

プログラム詳細

前立腺がんは日本において患者数が拡大しており、年間の新規患者数は約9万人~10万人と報告されています。転移性去勢抵抗性前立腺がんの臨床試験での全生存期間は約3年で、実際にはさらに短いとも言われており、治療に対する大きなアンメットニーズが存在しています。64Cuを用いた診断薬(64Cu-PSMA-I&T)は、68Ga(半減期:68分)や18F(半減期:110分)等のPET診断薬の核種と比較して半減期が長い(12.7時間)という特徴があり、国内の医療機関における取り扱いや患者さんの診断ワークフローにおいてより高い柔軟性をもたらすことが期待されます。

 

·    177Lu/68Ga-Integrin(FF58)プログラム
適応症:進行固形がん(膵管腺癌、胃食道腺癌、多形性膠芽腫)
モダリティ
インテグリンαvβ3/5を標的とし、177Lu(治療用)または68Ga(診断用)で標識した低分子化合物(富士フイルム/PDRファーマ創製)
提携先富士フイルム/PDRファーマ
開発ステータス
進行固形がん患者を対象とした安全性、忍容性および適正線量の評価、ならびに初期的有効性の確認を目的とする第1相臨床試験(ClinicalTrials.gov identifier: NCT05977322)に関する最終報告書を作成中
プログラム詳細
ファースト・イン・ヒューマン試験である第1相臨床試験は、インテグリンαvβ3およびインテグリンαvβ5を発現する進行性または転移性がん患者さんを対象に、放射性リガンド療法である177Lu-Integrinの安全性および投与量を評価することを目的としています。同時に、イメージング剤である68Ga-Integrinを用いたがん病巣の同定効果および安全性も検証します。本試験は、用量漸増試験および拡大試験の二部構成となっています。両パートにおいてまず、68Ga-Integrinを用いたPET/CTまたはPET/MRIスキャンを実施し、177Lu-Integrin治療の適格性を判断します。用量漸増試験では、177Lu-Integrinの投与量を段階的に増加させ、適切な推奨用量を決定します。拡大試験では、用量漸増試験で確定した推奨用量の177Lu-Integrinを投与し、その安全性および初期的有効性を検討します。
FF58は、富士フイルムと富士フイルムRIファーマ(2018年より富士フイルム富山化学(FFTC)に統合、現在のPDRファーマの前身)により創製された低分子化合物を用いた放射性医薬品です。2018年にFFTCは、Novartis社の子会社であるAdvanced Accelerator Applications International(ADACAP)社とオプション権付きライセンス契約(OLA)を締結しました。両社の契約に基づき、68Ga-FF58は第1/2相臨床試験、177Lu-FF58は第1相臨床試験がNovartis社によって実施されています。一部の試験等は現在も進行中ですが、Novartis社がFF58プログラムに関する今後の開発を進めるためのオプション権を行使しないことを既に決定したことから、最終報告書の作成が完了し受領でき次第、その内容を踏まえて今後の開発方針等について検討を進めてまいります。

 

·    225Ac/68Ga-GPC3(RYZ-801/811)プログラム
適応症:肝細胞がん(HCC)
モダリティ:
225Ac (治療用)または68Ga (診断用)で標識したグリピカン-3(GPC3)を標的とする環状ペプチド(PDPS®を用いて創製)
提携先
Bristol-Myers Squibb社(BMS社)傘下のRayzeBio社(2024年にBMS社により買収。RayzeBio社/BMS社は225Ac/68Ga-GPC3の全世界での開発販売権を有しており、ペプチドリームは日本の開発販売権に関するオプション権を保有しています。)
開発ステータス
2025年1月28日、肝細胞がんの患者さんを対象としたRYZ-801の安全性・忍容性・線量、初期的有効性、およびRYZ-811の安全性・忍容性・体内分布を確認するための第1/1b相臨床試験の開始を発表いたしました(ClinicalTrials.gov identifier; NCT06726161)。
プログラム詳細
本試験は用量漸増試験と拡大試験の2つのパートから成ります。両パートにおいて、患者さんに対してまず68Ga-RYZ811を用いたPET/CTまたはPET/ MRIスキャンを行い、225Ac-RYZ801による治療の適格性を判断します。用量漸増パートでは、225Ac-RYZ801の投与量を漸増させ、推奨量を決定します。拡大試験では、用量漸増試験で決定した推奨量の225Ac-RYZ801を投与し、安全性と初期的有効性を検討します。
肝臓がんは米国におけるがんによる死因の中で6番目に多く、年間死亡者数は29,380人と推定されています。肝臓がんの患者さんにおける5年生存率は約20%であり、特に肝臓がんが進行した患者さんでは生存率が低いことが知られています。GPC3は、75%の肝細胞がんで過剰な発現が認められるがん胎児性タンパク質であり、正常組織では全くまたは僅かしか発現が見られません。225Ac-GPC3は治療薬として開発を進めており、HCCに225Acを送達するためにGPC3を標的とする、新規・独自のペプチドです。68Ga-GPC3は、225Ac-GPC3と同一のペプチドで68Gaを送達するPET診断薬であり、臨床試験や治療の際に、225Ac-GPC3による治療効果が得られる可能性が高いGPC3を発現するHCCの患者さんをスクリーニングし、特定することを目的に開発されています。

 

·   177Lu/68Ga-NNS309プログラム(標的は非開示):
適応症
固形がん(局所進行性または転移性浸潤性膵管がん(PDAC)、非小細胞性肺がん(NSCLC)、HR陽性/HER2陰性の小葉がんおよび乳管がん、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)、大腸がん(CRC))
モダリティ:177Lu (治療用)または68Ga(診断用)で標識した環状ペプチド(PDPS®を用いて創製)
提携先Novartis社(Novartis社は同プログラムの全世界商業化権を保有。)
開発ステータス
2024年12月17日に発表の通り、固形がんの患者さんに対して177Lu-NNS309の安全性、忍容性、線量、初期的有効性、および68Ga-NNS309の安全性とイメージング剤としての特性を検証するための第1相臨床試験(オープンラベル、多施設)を開始しました(ClinicalTrials.gov identifier; NCT06562192)。
プログラム詳細
本試験は用量漸増試験と拡大試験の2つのパートから成ります。両パートにおいて、患者さんに対してまず68Ga-NNS309を用いたPET/コンピュータ断層撮影(CT)またはPET/磁気共鳴画像(MRI)スキャンを行い、177Lu-NNS309による治療の適格性を判断します。用量漸増パートでは、177Lu-NNS309の投与量を漸増させ、推奨量を決定します。拡大試験では、用量漸増試験で決定した推奨量の177Lu-NNS309を投与し、安全性と初期的有効性を検討します。

 

·    225Ac/64Cu-CA9(PD-32766T/PD-32766D)プログラム
適応症:淡明腎細胞がん(ccRCC)等のがん
モダリティ
Carbonic Anhydrase IX (「CAIX(CA9)」)を225Ac(治療用PD-32766T)または64Cu(診断用PD-32766D)で標識した環状ペプチド(PDPS®を用いて創製)
提携先自社品
開発ステータス
225Ac/64Cu-CA9は2025年に安全性、忍容性、線量を確認するための第1相臨床試験を開始することを目指し、IND申請に向けた試験を実施中です。また2024年、淡明細胞型腎細胞がん(ccRCC)患者さんを対象としたヒューマン・イメージング試験(特定臨床研究(第0相試験)、以下「本特定臨床研究」)が国立研究開発法人国立がん研究センターで実施されました。本特定臨床研究においては、合計で5名の ccRCC患者さんが登録され、64Cu-PD-32766の投与の後、PET/CTによるイメージング検査が実施されました。64Cu-PD-32766の投与は十分な安全性・忍容性を示し、有害事象は認められず、5名すべての患者さんにおいてがん組織への蓄積が観察されました。本特定臨床研究の結果は2025年2月に米国臨床腫瘍学会泌尿器腫瘍シンポジウム(ASCO-GU 2025)で発表する予定です。
プログラム詳細
CA9は炭酸脱水酵素ファミリーの一員であり、RCC、膠芽腫、トリプルネガティブ乳がん、卵巣がん、大腸がん等の様々な固形がんで発現していることが知られています。RCCは米国内のがん患者数において9番目に多いことが知られており、全世界でがんと診断されて亡くなられる患者さんの約2%を占めています。また、5年生存率は12%と、予後の悪いがんとしても知られています。2020年には全世界で431,288人の患者さんが腎臓がんと診断され、そのうち約9割が腎細胞がんと推定されています。RCCには主に淡明細胞型(ccRCC)、乳頭状(pRCC-type1およびtype2)、嫌色素性(chRCC)等があり、RCC症例の約70%をccRCCが占めています。CA9は淡明腎細胞がんに高発現(95%以上)する細胞表面のがん抗原で、正常細胞ではほとんど発現しないことから、淡明腎細胞がんの診断・治療における重要な標的として注目されています。RCC異種移植腫瘍モデルの前臨床研究において、CA9結合ペプチドは特異的な腫瘍取り込み、および単回投与による退縮を含む有意な腫瘍増殖阻害を示しました。治療薬と同じペプチドを用いたPET診断薬は、臨床試験や治療において、225Ac-CA9治療に良好な反応を示す可能性が最も高いCA9発現がんを有する患者さんを選別、特定することを可能にすると考えています。従来のがん治療薬に対して標的型の放射性医薬品を開発する重要な利点は、治療薬と同じペプチドを用いた診断薬で対象となる患者さんのイメージングデータを早期に取得する (第0相試験)ことで、薬剤の生体内分布・薬物動態・がん組織への集積等に関する情報を得ることができ、診断薬の有用性や治療薬の有益性の可能性について初期的な知見が得られるという点です。さらに、その際に得られる情報を活用しその後の第1相臨床試験および第2相臨床試験をデザインすることで臨床開発を加速することができるという利点もあります。

 

·    Novartis社プログラム(放射性核種・標的は非開示)

適応症:がん
モダリティ:環状ペプチド(PDPS®を用いて創製)
提携先Novartis社(Novartis社は同プログラムの全世界商業化権を保有)
開発ステータス:GLP安全性試験を実施中(2024年7月発表)

 

·    225Ac/64Cu-CLDN18.2 (PD-29875T/PD-29875D)プログラム

適応症:固形がん(胃がん、すい臓がん、胆管がん、泌尿生殖器がん、大腸がん等)

モダリティ
Claudin 18.2(CLDN18.2)を225Ac(治療用PD-29875T)または64Cu(診断用PD-29875D)で標識した環状ペプチド(PDPS®を用いて創製)

提携先自社品

開発ステータス
PD-29875TおよびPD-29875Dは安全性 、忍容性、線量を確認するための第1相臨床試験を開始することを目指し、IND申請に向けた各種試験を実施中です。また、第1相臨床試験の開始に先立ち、64Cu-PD-29875の第0相臨床試験を2025年に開始する予定です。

プログラム詳細
CLDN18.2はクラウディンファミリーに属するタンパク質であり、上皮組織における細胞間のタイトジャンクション形成因子として機能します。このタンパク質は、胃がん、すい臓がん、胆管がん、泌尿生殖器がん、大腸がんなどの多くの固形がんにおいて発現しています。当社独自の創薬開発プラットフォームPDPS®によって見出されたPD-29875は、PDRファーマにおいて実施されたin vivoイメージングおよび薬効試験をもとに最適化されました。現在、PD-29875のIND申請に向けた試験を開始し、胃がんに対する治療薬(225Ac-PD-29875)と同一ペプチドを用いた診断薬(64Cu-PD-29875)の開発を計画しています。診断薬は治療薬と同一のペプチドとキレーターを使用しているため、CLDN18.2を発現し、PD-29875の治療が奏功することが期待できる患者を臨床試験や治療の際に選別・同定することが可能となります。
胃がんは、2020年の全世界のがん患者数において5番目に多く、がんによる死因において4番目に多いことが知られており、全世界でがんと診断される患者さんの約7%を占めています。また、5年生存率は32%と予後の悪いがんとしても知られています。2020年には全世界で約110万人の患者さんが胃がんと診断され、77万人の方が亡くなられました。また、患者数は2040年までに180万人に増加すると予想されています。

 

·    RayzeBio社/BMS社プログラム(標的は非開示)
適応症:固形がん
モダリティ 225Ac (治療用)または68Ga(診断用)で標識した環状ペプチド(PDPS®を用いて創製)
提携先
BMS社傘下のRayzeBio社(RayzeBio社/BMS社は全世界の開発販売権を保持しており、ペプチドリームは日本の開発販売権に関するオプション権を保有しています)
開発ステータス: IND申請に向けて準備中

 

·    225Ac-Cadherin3(PPMX-T002)プログラム
適応症:固形がん
モダリティ
カドヘリン3(P-カドヘリン/CDH3)を標的とするモノクローナル抗体。放射性治療薬として開発中であり、90Yで標識しておりましたが225Acに変更する計画です。
提携先株式会社ペルセウスプロテオミクス(PPMX)
開発ステータス
90Y-Cadherin3は、がん患者さんを対象とした第1相臨床試験の拡大パートにおいて、がん組織への特異的な蓄積を示し、標的への送達能力が確認できたことから継続的な取り組みを進めています。2024年に発表の通り、PPMXはEANM(欧州核医学会)の24年年次総会において、PPMX-T002の高い抗腫瘍効果や、ヒトへの臨床応用の可能性についてポスター発表を行いました。
プログラム詳細
PPMX-T002は、PPMXと富士フイルム富山化学(FFTC)との提携により開発が開始されました。当社が放射性医薬品事業をFFTCより取得したことに伴い、ペプチドリーム/PDRファーマに承継されたプログラムです。抗CDH3抗体はPPMXによって創製され、本プログラムの開発および導出活動はPPMXが主導しています。CDH3は卵巣癌、胆道癌、頭頸部有棘細胞癌など多くの癌で過剰発現し、正常組織ではほとんど発現が低いことが知られています。

 

·    18F-フロルタウシピル(タウヴィッド®)プログラム
適応症
アルツハイマー型認知症の患者さんの脳内における異常蓄積タウタンパク質による神経原線維変化(NFTs)を可視化
モダリティ18Fで標識されたフロルタウシピル(PET診断薬)
提携先Eli Lilly社
開発ステータス
2024年12月、「アルツハイマー病による軽度認知障害又は軽度の認知症患者におけるドナネマブ(遺伝子組換え)の適切な投与の補助」を効能又は効果として、国内における製造販売承認を取得したことを発表いたしました。
プログラム詳細
18F-フロルタウシピルは、2020年に米国でアルツハイマー型認知症と診断された成人の患者さんの脳内のタウタンパク質によるNFTの密度と分布を確認するためのPETイメージング剤として承認されました。当社グループは、国内で既に製造販売承認を取得しているアミヴィッド®と共に、18F-フロルタウシピルが新たに承認されたことにより、今後、アルツハイマー病の診断および経過観察においてPET診断薬の選択肢が拡大していくものと期待しています。

 

·    18F-PD-L1(18F-BMS-986229)プログラム:
適応症:がんのイメージング
モダリティ18Fで標識されたPD-L1(programmed death ligand-1)を標的とする環状ペプチド(PDPS®を用いて創製)
提携先BMS社
開発ステータス
18F-PD-L1を用いたPET診断による胃食道癌の評価に関する第1相臨床試験(ClinicalTrials.gov Identifier: NCT04161781; 米国Memorial Sloan Kettering Cancer Centerにて実施)が完了しました。本試験では、安全性および有用性という主要評価項目を達成し、その結果はJournal of Nuclear Medicineに掲載されました (2024年5月号: Volume 65, Issue 5: Cytryn et al., 18F-BMS-986229 PET to Assess Programmed-Death Ligand 1 Status in Gastroesophageal Cancer)。18F-PD-L1はPD-L1発現を非侵襲的に可視化し、単一部位の生検では得られない全身の不均一な分布を把握し、PD-L1の発現に関するより包括的な情報を提供する可能性を示しました。

PET診断により18F-PD-L1集積が確認された患者は、第一選択治療としてPD-1阻害薬を使用した場合に無増悪生存期間(PFS)が有意に延長することが示されました(集積あり:PFS中央値28.4か月、集積なし:PFS中央値9.9か月)。このデータは、18F-PD-L1を用いた診断が、抗PD-1治療対象患者の適切な選定および予後予測の改善につながる潜在性を示唆しており、最適な治療法の選択と治療成績の向上に寄与する可能性があります。

 

(A)-2 放射性医薬品(RI)領域の前臨床・創薬プログラム:

上記の臨床ステージプログラムに加えて、ペプチドリームは標的型ペプチド-放射性核種複合体(RI-PDC)の創薬パイプラインを広範囲に有しており、Novartis社(2019年、2024年)、RayzeBio社(2020年、現BMS社傘下)、Genentech社(2023年)と複数の標的を対象とするRI-PDCに関する創薬分野の提携を行っているほか、自社開発プログラムも拡大しています。これらの取り組みから生まれたプログラムのうち、臨床候補化合物の選定/IND申請のための試験開始等の段階まで進んだものについてパイプライン表/リストに掲載しています。また、ペプチドリームはRayzeBio社/BMS社およびGenentech社とのすべての提携プログラムについて、日本国内での商業化に関するオプション権を保有しています。

 

(A)-3 放射性医薬品(RI)領域の臨床段階の導入プログラム:

当社グループは、放射性治療薬および国内での開発・商業化を目的とした放射性医薬品の導入/提携の機会を積極的に模索しています。ペプチドリームが2022年にPDRファーマとの経営統合を完了して以来、両社による3件の提携/導入を実施しました。具体的には、2022年にはEli Lilly社とPET診断薬である18F-フロルタウシピルの日本国内での開発および商業化に関する共同開発契約を締結し、2023年にはリンクメッドと放射性治療薬64Cu-ATSMの日本市場での開発および商業化に向けた戦略的パートナーシップに合意しました。また、2024年にはCurium社と177Lu-PSMA-I&Tおよび64Cu-PSMA-I&Tの日本市場における開発および商業化に関する戦略的提携を締結しました。標的型放射性医薬品の開発企業は世界中で急速に増加しており、その大多数が米国市場に注力している状況において、当社グループはそれらの企業が日本市場への参入を希望する際の「パートナー・オブ・チョイス」となることを目指し、独自の地位を構築しています。さらに、高付加価値プログラムの提携/戦略的導入は、当社グループの自社および共同研究による創薬活動を補完する重要な戦略となっています。

 

(A)-4 放射性医薬品(RI)領域:その他

PDRファーマは日本国内において、多岐にわたる放射性医薬品関連の製品および支援サービスを展開しています。2023年、同社は医療被ばく線量管理の完全自動化・デジタル化を可能にし、医療機関の業務効率化と医療事故リスクの低減に貢献する4つの製品(「Bridgea GATEWAY」、「Bridgea TIMER」、「onti」、「ankan」)に関連する資産を株式会社RYUKYU ISGから取得しました。

2024年には、医療現場の課題解決に取り組み、データおよびデジタル技術を駆使した医療DXを推進することを目的に、「Bridgea TIMER Guide」と「onti-d」の2つのシステムの販売開始を発表しました。「Bridgea TIMER Guide」はPET検査時間管理システムであり、リアルタイムで患者検査状況を確認・管理できる既存の「Bridgea TIMER」のオプション品です。本システムでは、患者の検査準備から投与、待機、撮影、検査終了までの各過程を音声と画面で案内し、遠隔指示が可能となることで医療従事者の業務効率化及び被ばく低減に大きく寄与します。

一方、「onti-d」は放射性医薬品業務支援システムであり、既存の「onti」には医療被ばくの電子記録・管理・最適化機能に加え、患者情報の取得、誤投与防止、実投与量自動計算、放射性医薬品使用記録簿作成などの業務支援機能が搭載されていますが、「onti-d」はこの業務支援機能に特化した製品で、他社の医療被ばく管理システムにも組み合わせて使用できます。このように、PDRファーマはより安全かつ効率的な医療の提供に貢献しています。

 

(B)Non-RI領域

当社グループは、放射性医薬品事業に加え、PDPS®(Peptide Discovery Platform System)を中核とする創薬活動において、(1) ペプチド医薬品、(2) ペプチド-薬物複合体(PDC)、(3) 多機能ペプチド複合体(MPC)の分野でリーディング・カンパニーとして各種事業を推進しています。世界的な大手製薬企業や戦略的提携先との提携・ライセンス契約に加え、自社プログラムも着実に拡充しており、ペプチドを用いた次世代の革新的医薬品の創製と開発を目指しています。

 

(B)-1 Non-RI領域の開発パイプライン

当社グループにおけるNon-RI領域の開発パイプラインは以下の通りです。(2025年1月末時点)


 

·   GhRアンタゴニスト(AZP-3813)プログラム
適応症:先端巨大症
モダリティ:成長ホルモン受容体アンタゴニスト(GHRA)である環状ペプチド(PDPS®を用いて創製)
提携先Alexion/AstraZeneca社 (Amolyt社は2024年7月にAstraZeneca社により買収)
開発ステータス
AZP-3813は健常人における安全性、忍容性、薬物動態の評価を目的とした第1相臨床試験を完了しました。本試験では、プラセボ対照ランダム化二重盲検比較試験として、単回漸増(SAD)および反復漸増(MAD)試験を実施いたしました。SAD試験では、AZP-3813(3名)およびプラセボ(2名)の計5名の被検者について3mg用量の皮下投与が実施され、また、AZP-3813(6名)およびプラセボ(2名)の計8名の被験者について 10, 20, 40, 60, 90, 120mg各用量の皮下投与が実施されました。MAD試験では、AZP-3813(6名)およびプラセボ(2名)の計8名の被験者について 10, 20, 40, 60, 90, 120mg各用量の皮下投与が1日1回、14日間連続で実施されました。すべての被験者について治療の忍容性が確認され、安全性上の懸念は見られませんでした。また、Cmax(※1)およびAUC(※2)の用量依存的な増加が確認されています。AZP-3813の薬物動態半減期は20~22時間と算出されました。SAD試験では、AZP-3813は10mg用量以上の投与群において用量依存的に血中IGF-1濃度を減少させ、高濃度の投与群では72時間にわたり抑制効果を示しました。MAD試験では、用量依存的な血中IGF-1濃度の減少がゆるやかに起こり、その後維持されました。SAD試験の同濃度の群と比較して血中IGF-1濃度を減少させる効果が大きく、投与後2週間にわたり減少効果を維持することが示されました。これは、反復投与による蓄積効果によるものと考えられます。Amolyt社は、新規GhRアンタゴニストであるAZP-3813が健常人において血中IGF-1濃度を有意に減少させていることから、今後、先端巨大症の患者さんを対象とする臨床試験へと進めていくことを支持する結果であったと報告しています。
プログラム詳細
ペプチドリームとAmolyt社(現在はAstraZeneca社)は2020年12月に戦略的共同研究開発およびライセンスオプション契約を締結し、本契約に基づきGHRA環状ペプチドポートフォリオの全世界の権利のライセンスを受けるオプションを2021年9月に行使しました。第1相臨床試験の結果については、第26回欧州内分泌学会(ECE、2024年5月、スウェーデンストックホルム開催)および2024年米国内分泌学会(ENDO、2024年6月、米国ボストン開催)にて発表されました。

先端巨大症は、成長ホルモン(GH)を分泌する脳下垂体腺腫(良性腫瘍)が原因で生じる慢性の希少内分泌疾患であり、GHの過剰分泌によってインスリン様成長因子(IGF-1)が肝臓で異常に産生されるという特徴があります。先端巨大症の治療目標は、IGF-1濃度の正常化を通じて症状を軽減し、将来の合併症を防止することです。

多くの患者においてソマトスタチンアナログ(SSA)単剤治療では血中IGF-1濃度のコントロールが不十分であることが報告されています。AZP-3813は16アミノ酸からなる二環性ペプチドであり、GH受容体(GhR)に結合してGH刺激によるIGF-1産生を抑制します。これまでの研究により、AZP-3813は血中IGF-1濃度を低下させ、SSAであるオクトレオチドとの併用によりその抑制効果を高める結果が得られています。AZP-3813は、SSA単剤治療でコントロールが不十分な先端巨大症患者に対して、SSAとの併用療法を目指して開発されています。

 
※1 Cmax:最高血中濃度。薬物投与後の血中濃度が最大になった値のこと。
※2 AUC:血中濃度曲線の積分値。薬物が投与後から代謝・排出されるまでにわたり、血中を循環した全体量を示す指標。

 

·    PD-L1阻害薬プログラム:
適応症:がん
モダリティ: PD-L1を阻害する環状ペプチド(PDPS®を用いて創製)
提携先自社品
開発ステータス
当社は経口PD-L1阻害薬に関する、健常人を対象に安全性・忍容性・薬物動態を検討した臨床第1相試験(ISRCTN17572332)の概要報告書をBMS社から受領し、内容を精査するとともに今後の方向性を検討中です。
プログラム詳細
2023年10月に発表の通り、BMS社は健常人を対象に実施した第1相臨床試験の完了をもって、第2相試験以降の開発を自社で継続しないことを決定いたしました。BMS社は、この決定は純粋にビジネス上の判断によるものであり、本薬剤の安全性に関する懸念が理由ではないと述べています。

 

·    CD38-ARM™(BHV-1100)プログラム
適応症:多発性骨髄腫
モダリティ
CD38とIgGを標的とする環状ペプチドを結合させたヘテロ二量体のペプチド複合体(PDPS®を用いて創製)
提携先Biohaven, LTD. (「Biohaven社」)
開発ステータス
BHV-1100は、BHV-1100およびCIML-NK細胞を投与する第1a/1b相臨床試験(オープンラベル; 単一施設(Dana-Farber Cancer Institute); ClinicalTrials.gov Identifier:NCT04634435)を完了しました。本試験の目的は、サイトカイン誘導性メモリー細胞様(CIML)ナチュラルキラー(NK)細胞とBHV-1100および免疫グロブリン(IVIG)によるex-vivo併用製剤ならびに低用量IL-2を初回または2回目の寛解期にある微小残存病変陽性(MRD+)の多発性骨髄腫(MM)患者に投与し、安全性および有効性を評価することにあります。この治療は、細胞表面にCD38を発現する骨髄腫細胞を標的としています。本試験には合計7名の患者が組み入れられました。

 

·    MSD社プログラム(標的は非開示)
適応症:非開示
モダリティ:環状ペプチド治療薬(PDPS®を用いて創製)
提携先Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA (MSD社)

 

開発ステータス
 MSD社が2018年に実施したPDPS®技術ライセンス契約に基づきMSD社がペプチドリームのPDPS®を用いて見出した環状ペプチドについては、現在、健常人を対象に安全性・忍容性・薬物動態を検討する第1相臨床試験を実施しています(2023年7月開始)。

 

·   MSD社プログラム(標的は非開示)
適応症:炎症性疾患
モダリティ:環状ペプチド治療薬(PDPS®を用いて創製)
提携先Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA (MSD社)
開発ステータス:MSD社が2018年に実施したPDPS®技術ライセンス契約に基づきMSD社がペプチドリームのPDPS®を用いて見出した環状ペプチドについては、現在、健常人を対象に安全性・忍容性・薬物動態を検討する第1相臨床試験を実施しています(2024年6月開始)。

 

·    S2-タンパク質阻害薬(PA-001)プログラム
適応症:新型コロナウイルス感染症
モダリティ
新型コロナウイルス感染症ウイルスの表面に発現するS2タンパク質を阻害する環状ペプチド(PDPS®を用いて創製)
提携先ペプチエイド
開発ステータス
2024年10月、ペプチエイドはPA-001の安全性、忍容性、および薬物動態を評価するための第1相臨床試験が開始され、健常者および高齢者を対象に最初の被験者への投与が実施されたことを発表しました(健常者を対象とした試験のため、臨床試験識別コードは付与されていません)。第1相臨床試験の結果は、2025年後半に得られる見込みです。
プログラム詳細
ペプチエイドは2022年8月に発表した通り、PA-001の日本人健康成人男性30名を対象とした臨床研究法に基づく特定臨床研究を実施し、良好な安全性プロファイルおよび用量依存的な血中濃度プロファイルの相関を確認しました。PA-001プログラムは、2023年に日本医療研究開発機構(AMED)の研究事業に採択され、補助金の支援を受けて臨床試験を実施しています。

 

·    マイオスタチン阻害薬プログラム

適応症
肥満、DMD(Duchene muscular dystrophy、デュシェンヌ型筋ジストロフィー)、SMA(Spinal muscular atrophy、脊髄性筋萎縮症)および他の筋疾患
モダリティ:マイオスタチンを阻害する環状ペプチド(PDPS®を用いて創製)
提携先自社品
開発ステータス
現在、前臨床試験を進めており、臨床開発の方向性について本プログラムの導入/提携に興味のある提携候補先との交渉も含め、検討を進めています。前臨床試験内容のハイライトを2024年12月12日に実施したR&D説明会で発表しました(説明会資料は当社ウェブサイトから入手可能です)。
プログラム詳細

ペプチドリームは、マイオスタチンを強力に阻害する環状および架橋環状ペプチド阻害薬の候補群を創出しました。マイオスタチン(成長分化因子8、またはGDF8としても知られる)は、GDF11およびアクチビンとンとともに、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)スーパーファミリーに属し、筋肉の成長や機能を調節する複雑なプロセスで筋肉の成長や機能を調節する役割をもちます。多くの前臨床および臨床試験により、マイオスタチン阻害薬によって除脂肪筋肉量の増強、身体強度の改善、内臓脂肪量の減少、インスリンによる血糖値低下等の代謝機能障害の改善につながることが示唆されており、マイオスタチンが様々なSMA・FSHD(Facioscapulohumeral muscular dystrophy、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー)・DMD等の筋ジストロフィー、他の筋肉消耗を伴う疾患、肥満、メタボリックシンドローム、2型糖尿病等の創薬ターゲットとして重要であることを示すエビデンスが蓄積されてきています。
当社は以前、DMD疾患マウスモデルを用いた前臨床試験において、ペプチドのマイオスタチン阻害薬を週1回皮下または経口で投与することによりマイオスタチン経路が強く抑制され、筋肉へのマイオスタチン曝露が起こらないことにより、四肢の握力が有意に改善することを示しました。当社はこれらの非常に有望な結果を受け、DMDを対象とした本化合物の開発を進めてまいりましたが、マイオスタチン阻害薬がsemaglutide等のGLP-1受容体アゴニストを服用する肥満症患者の除脂肪体重を維持するというエビデンスが次々と得られている中、経口マイオスタチン阻害薬の肥満症に対する効果を調べる試験を開始しました。
本化合物群の評価は、食事誘発肥満(DIO)マウスモデルを用いて実施されました。DIOモデルでは、マウスには高脂肪食(60%)およびsemaglutide(0.12mg/kgを1日1回注射で投与)、または高脂肪食(60%)およびsemaglutide(0.12mg/kgを1日1回注射で投与)と、本化合物群のペプチド(0.5, 1.5, 4.5mg/kgを1日1回経口投与 または 3, 10, 30mg/kgを週1回経口投与)が与えられました。体重は2日毎に測定され、投与開始後14日目および28日目の脂肪体重・除脂肪体重の変化はエコーMRIを用いて分析しました。本試験で得られた主な知見は以下の通りです。
有意な体重減少
semaglutideと経口ペプチドマイオスタチン阻害薬を併用投与したマウス群では、コントロール群と比較して有意に体重が減少し、試験期間体重の減少は維持されました。
除脂肪体重の維持
多くの既存の肥満症治療が脂肪と除脂肪筋肉量の両方を減少させるのに対し、当社の経口ペプチドマイオスタチン阻害薬はsemaglutideとの併用投与において、1日1回投与群・週1回投与群のいずれも除脂肪体重を維持しました。これは本化合物が体組成を改善する機能を有する可能性を示しています。
治療効果の増強
本試験の結果、マイオスタチン阻害薬とsemaglutideの相乗的な効果が肥満症患者さんにとって有効であり、多くの既存の肥満症治療の問題点である筋肉量の減少が起こらず、体重コントロールが可能となる新たな治療法になると示唆されます。

 

·    KIT阻害薬(MOD-B)プログラム
適応症:マスト細胞により引き起こされる免疫炎症性疾患・アレルギー疾患
モダリティ:KITを阻害する低分子化合物(PDPS®を用いて創製)
提携先アリヴェクシス株式会社(アリヴェクシス、旧モジュラス)
開発ステータス
2023年8月に臨床候補化合物の同定を発表しました。本開発候補化合物は、マスト細胞により引き起こされる炎症経路において重要な役割を果たすキナーゼであるKITに対して選択的阻害活性を示す新規の低分子化合物(MOD-B)であり、マスト細胞により引き起こされるアレルギー疾患を含む様々な免疫炎症性疾患などの治療への活用が期待されます。今後、アリヴェクシスが主導し本化合物の臨床入りに向けたIND申請の準備を進める予定となっています。
プログラム詳細:アリヴェクシスはMOD-Bプログラムの提携・導出活動に積極的に取り組んでいます。

 

(B)-2 Non-RI領域の前臨床・創薬プログラム:

上記のプログラムに加えて、ペプチドリームは、(1)ペプチド医薬品、(2)ペプチド-薬物複合体(「PDC」)および(3)多機能ペプチド複合体(「MPC」)の3つのモダリティにわたって、提携プログラム・自社プログラムの両方で広範囲にわたる前臨床プログラムのパイプラインを有しています。これらの非常に多様なパイプラインについて臨床候補化合物の同定、臨床試験を進めていくことがペプチドリームの成長および価値創出に貢献するものと考えています。これらの取り組みから生まれたプログラムのうち、臨床候補化合物の選定/IND申請のための試験開始等の段階まで進んだものについてパイプライン表/リストに掲載しています。

 

ペプチド医薬品領域
ペプチドリームは、ペプチド創薬分野におけるグローバルリーダー企業の一社として、多様な疾患領域、治療メカニズム、投与経路に対する数多くの提携を通じて、多岐にわたる有望なプログラムを展開しています。2024年には、ペプチド医薬品領域において大きな進展が見られ、特に経口剤の分野における進捗が注目されています。

 

PDC領域
細胞傷害性を有する放射性核種((A)RIセクション参照)や抗がん剤、組織特異的な核酸医薬など、多様な治療薬ペイロードを標的部位に送達する手段として環状ペプチドの有用性が顕著となっており、ペプチドリーム社はこのPDC領域において先導的役割を担っています。
塩野義製薬株式会社(2019年、組織を標的としたPDC)、武田薬品工業株式会社(2020年/2021年、ペプチドリーム株式会社がJCRファーマ株式会社と共同で見出したトランスフェリン受容体結合ペプチドを用いた筋組織・中枢神経を標的としたPDC)、Alnylam Pharmaceuticals, Inc.(2021年、組織を標的としたPDC)、Eli Lilly社(2022年、組織を標的としたPDC)、MSD社(2022年、がんを標的としたPDC)、Novartis社(2024年、組織を標的としたPDC)などとの提携により、多岐にわたる前臨床段階のプログラムを進めています。

 

MPC領域:
過去10年間において二重特異的抗体が承認され、最近では複数の抗原に同時に結合可能な三重・多重特異的抗体が登場している中、MPC(多価ペプチド薬)の潜在性が新たな治療薬として拡大しています。環状ペプチドの複数結合により、多重特異的抗体と同様な多機能分子の創製が可能です。現在、ペプチドリームは前臨床段階にある自社のMPCプログラムの強化に取り組んでいます。同社は、MPCが二重特異的抗体や他の多機能分子と比較して優れたモダリティであると考えています。特に、T細胞およびNK細胞を標的とする新規ペプチドの同定に注力し、これらペプチドを上述のがん選択的標的ペプチドと結合させることで、新規のT細胞・NK細胞エンゲージャー分子の生成が可能となり、有望な治療薬の領域であると期待されています。また、ペプチドリームは環状ペプチドの用途をさらに拡大し、標的タンパク質分解誘導剤の分野において、2023年7月にアステラス製薬との提携を発表しました。

 

こうした活動の結果、当連結会計年度における研究開発費は4,002,674千円、売上高研究開発費比率は8.6%となりました。