当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。
なお、本項においては、将来に関する事項が含まれておりますが、当該事項は当連結会計年度末現在において予測できる事情を基礎とした合理的な判断に基づくものであり、その達成を保証するものではありません。
(1)経営方針、経営戦略等
① 会社の経営の基本方針
当社は、顧客、取引先、従業員、社会などへの責務を果たした上で残存する株主価値の最大化(MSV)を経営上の唯一のミッションとしております。
例えば、下図の通り、P/L(損益計算書)項目をステークホルダーとの関係で対比させると、売上収益は顧客、製造・販売費は取引先、人件費は従業員、金利は金融機関、税金は政府にそれぞれ対応します。MSVにおいては、まず全てのステークホルダーに対するそれぞれの責務を充足することが大前提となります。なお、「責務の充足」には法的な契約だけでなく、社会的、倫理的責務も含まれており、サステナビリティの概念も包含されています。そして、各ステークホルダーへの責務を果たした上で残存する価値を最大化し、株主に報いることがMSVです。各ステークホルダーへの責務は上限がありますが、残存する株主価値には上限がありません。
② 経営モデル「アセット・アセンブラー」
「アセット・アセンブラー」モデルは、オーガニック、インオーガニックの両方にわたる「持続的なEPSの積み上げ(Sustainable EPS Compounding)」を目指すものです。
マクロ経済の先行きは今後も不透明であるとの前提に立ち、グローバルに今なお存在するローリスク・グッドリターンであるアセットを積み上げていきます。また、日本円が持つ低金利の優位性のみならず、日本企業が買収側に立つことへの信頼感なども含めた「日本の優位性」をM&Aでは生かしていきます。
このようなオーガニック、インオーガニックの両方にわたってEPSを安全に、安定的に積み上げる「アセット・アセンブラー」モデルに対して、資本市場からの理解・評価を獲得していくことによって、PERの向上へとつなげ、MSVの実現を目指します。そして、買収したアセットのポテンシャルを最大限に引き出すことで、オーガニックでも成長を加速し、それがまた新たなアセットを呼び込むという好循環を作り出すことで、株主価値のアップサイドを無限に追求していきます。
・アセット・アセンブラー https://www.nipponpaint-holdings.com/about/asset_assembler/
③ 経営体制「自律・分散型経営」
アセット・アセンブラーを構成する重要な要素である「自律・分散型経営」は、優秀なタレントやブランドの集合体をもたらす当社の強みの一つです。塗料市場には「地産地消」という特徴があるため、持株会社である当社が中央集権的にグループ全体を統制するよりも、各地域の市場特性を深く理解し、MSVを熟知しているパートナー会社のマネジメントが、グループ間で有機的な連携・協働を進め、自律的(Autonomous)に成長していく経営体制を志向しています。
単独でも強いものが、グループ内のブランドやノウハウ・技術を共有することで想定以上のシナジーが期待できます。それは決して欧米型の標準化やコスト・カット・シナジーではありませんが、ローカル色の強い業界にあって各社の強みを最大限生かせる経営体制であり、だからこそ当社グループへの参画を希望する会社も増加すると見込んでいます。
④ 中長期的な会社の経営戦略・財務目標
当社は2024年4月、「アセット・アセンブラー」モデルの優位性を改めて見直し、オーガニックとインオーガニックにわたる「持続的なEPSの積み上げ(Sustainable EPS Compounding)」に焦点を当てた「中期経営方針」を発表しました。オーガニックには2023年の事業ポートフォリオを前提とした中期連結CAGRとして売上収益で8~9%の成長、EPSで10~12%の成長を目指していく一方、インオーガニックには安全かつ継続的にEPSを積み上げるM&Aを志向し、併せてその積み上げ能力や実績に対する資本市場からの信認を獲得することによって「PERの拡大」につなげることで、長期視点でMSVの実現を目指します。
当社グループの中期経営方針の詳細は、以下の当社ホームページにおいて公開しております。
・中期経営方針 https://www.nipponpaint-holdings.com/ir/management_policy/management_plan/
⑤ 主要な地域・事業における中長期的な取り組み
上記中期経営方針の達成に向けて、各地域・事業にて成長戦略を推進しています。主要な地域・事業の取り組みや業績は、以下の当社ホームページにおいて公開しております。
・統合報告書 https://www.nipponpaint-holdings.com/ir/library/annual_report/
・説明会資料・動画 https://www.nipponpaint-holdings.com/ir/library/materials/
(2)経営環境並びに優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
① 経営環境
グローバルの塗料市場は成長産業であり、過去の傾向から判断しても、人口の増加につれて塗料の需要も着実な増加が見込まれます。また、一般的な化学産業のように市況の大きな変動はなく、安定した成長が見込まれるという特徴があります。
世界人口は、国際連合の発表によれば今後60年間で82億人から103億人への増加が見込まれます。特に、アフリカやインド、米国、アジア地域が成長のけん引役となる見通しです。
なお、足元の状況としては、建築用市場は先進国や中国を中心に前期並みの推移を見通すとともに、中国を除くアジア各国においては塗り替え需要の拡大などによる成長が見込まれており、人口増加や都市化率の高まりなどを背景に今後も塗料市場は堅調な成長を遂げるものと予想しております。
・グローバル市況データ https://www.nipponpaint-holdings.com/ir/results/market/
② 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
上記の経営環境を踏まえ、当社は持続的な成長を通じてMSVを達成するため、以下の課題に取り組んでまいります。
(a)積極的なM&Aの継続
「アセット・アセンブラー」モデルのもと、当社が現在、塗料・周辺分野でM&Aを推進しているのは、リスク・リターンの優位性が高い市場であるためです。
塗料市場の過半を占める建築用市場は地産地消のビジネスであり、原材料の調達や消費者の嗜好、販売ネットワーク、環境規制に至るまで、国や市場ごとにビジネスモデルが大きく異なります。また、塗料は代替製品の脅威が低いことに加え、特に建築用塗料においては地域特性が強いことから、①強いブランド力、②充実した流通網、③現地に精通したオペレーションの確立などが成功の鍵となります。したがって、これらをベースに市場シェアNo.1を獲得すれば、競合他社による逆転は容易ではなく、No.1の会社は市場シェアを更に伸ばして収益を享受できるなど、好循環サイクルを生み出すことが可能です。
「アセット・アセンブラー」モデルにおける当社グループのM&Aにおいては、①業態や地域にとらわれずリスクの低い安定収益事業でMSVに資すること、②強いブランド・優秀な経営陣を擁すること、③初年度からEPSへのプラス貢献が見込まれ、適切なリスク・リターンが得られることを重視しています。2014年以降に当社が買収した主要パートナー会社のパフォーマンスは、高成長国・成熟国のどちらの市場でも高い成長を遂げています。
今後もM&A案件の成功実績(トラックレコード)を数多く積み上げることで、M&A対象企業に対して、当社グループ傘下に入ることのメリットを幅広く伝えていく一方、株式市場に対しても、当社が今後も継続的に高いEPS成長が可能な企業であるという期待値を醸成していきます。
なお、当社グループのM&Aの詳細は、以下の当社ホームページにおいて公開しております。
・M&A https://www.nipponpaint-holdings.com/ir/management_policy/ma-strategy/
(b)サステナビリティへの取り組み
本社主導ではなく、サステナビリティとビジネスとの結び付きをよりいっそう強化する自律的なチームを構成しております。代表執行役共同社長の直下に、マテリアリティをベースとした5つのグローバルチーム「環境&安全」「人とコミュニティ」「イノベーション」「ガバナンス」「調達」を構成し、5人のビジネスリーダーが中心となりながら、グローバルで取り組みを進めています。
サステナビリティに関するガバナンスの観点では、各リーダーは代表執行役共同社長に向けてダイレクトにレポートし、代表執行役共同社長はその進捗や提案を取締役会に随時報告することで、取締役会がサステナビリティを監督しています。
なお、当社グループのサステナビリティの詳細は、以下の当社ホームページにおいて公開しております。
・サステナビリティ https://www.nipponpaint-holdings.com/sustainability/
当社のサステナビリティに関する考え方及び具体的な取組は以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)サステナビリティに関するガバナンス、戦略、リスク管理並びに指標及び目標
① ガバナンス
当社は、代表執行役共同社長のリーダーシップのもと、マテリアリティに対応した「環境&安全」、「人とコミュニティ」、「イノベーション」、より横断的な「ガバナンス」、「調達」の5つのサステナビリティ・チームを組成しています。各パートナー会社の自律性を重視した「自律・分散型経営」のもとで、各テーマに長けたビジネスリーダーを中心にグローバルな取り組みを進めています。
各チームのチームリーダーは、代表執行役共同社長に向けて進捗や提案をおおよそ半年に一度の頻度で直接報告し、代表執行役共同社長は取締役会に随時報告することで、取締役会はサステナビリティに関する活動を監督しています。
また、当社は2023年3月、取締役会において「サステナビリティ基本方針」を決議・公表しました。当社グループのサステナビリティは、「アセット・アセンブラー」モデルを通じてMSVを追求する前提であり、MSVをゴールとするものであることを改めて認識した上で、パートナー会社の自律性を重視した「自律・分散型経営」のもとで、サステナビリティを推進することを明記しました。
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サステナビリティ基本方針 当社グループは、環境など自然資本の保全・多様性の確保などによる人的資本の拡充・社会課題を解決するイノベーションの創出などを持続的な成長の機会と捉え、グループを構成するパートナー会社が、サステナビリティ戦略を自律的に策定し事業活動を行います。そのうえで、適切なグループガバナンスのもとマテリアリティに関するリスク・機会を把握し、顧客・取引先・従業員・社会などへの法的、社会的、倫理的責務を十分に果たしたうえで、経営上の唯一のミッションである「株主価値最大化(MSV)」を実現します。 |
② 戦略
当社は、MSVの実現、つまりは「EPS・PERの最大化」につながる事業活動を推進する上で、顧客、取引先、従業員、社会などへの責務を十分に果たすことが大前提と考えています。当社は、こうした責務を果たすため、2020年にサステナビリティを巡る重要な課題(マテリアリティ)6項目を特定しました。そして、マテリアリティに関するリスク・機会を中長期的な視野で幅広く把握しながら、事業機会を見出して新市場に参入するなど、当社ビジネスに直結した活動に取り組んでいます。こうした取り組みを通じて、収益の拡大や期待値の向上(EPS・PERの最大化)を図り、MSVを実現していきます。
<マテリアリティ>
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気候変動 気候変動は、当社グループの事業やコミュニティに影響を及ぼしています。温室効果ガス排出の削減を通じて、気候関連リスクを管理し、機会を獲得していきます。 |
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資源と汚染 持続可能な資源の利用や環境・生物多様性の保護は、当社グループの事業やコミュニティにとって不可欠です。製品とサプライチェーンにおけるライフサイクルと資源循環の改善に取り組んでいきます。 |
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労働安全衛生 当社グループが手掛ける事業には、従業員やサプライチェーン、コミュニティに影響を及ぼしかねない重大な安全衛生上のリスクが存在します。これらのリスクを適切に管理し、被害を防止するために、特に深刻度の高いリスクへ重点的に対応していきます。 |
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ダイバーシティ&インクルージョン 当社グループを取り巻く人々を尊重し、多様な価値観を積極的に受け入れることは、持続的な成長にとって重要です。多様な発想、考え方を尊重することで、イノベーションと成長を促進していきます。 |
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コミュニティとともに成長 バリューチェーンを通じたコミュニティへの投資を通じて、市場の拡大やブランドの強化、コミュニティとの良好な関係を構築し、事業の持続的な成長を実現していきます。 |
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社会課題を解決するイノベーション創出 今日の社会においては、従来の手法では解決が困難な課題が次々と顕在化しています。当社グループは、パートナーシップを積極的に活用し、イノベーションの創出力を強化していきます。 |
③ リスク管理
当社は、グローバルリスクマネジメント基本方針において、代表執行役共同社長をリスクマネジメントに関する当社グループ全体の最高責任者、各パートナー会社グループ責任者を自らの展開する事業における第一線として、それぞれの役割を定義しています。各パートナー会社グループの責任者はリスクベースアプローチを用いた自主点検・自己評価(Control Self-Assessment (CSA))を行い、対処すべきリスクを特定し、管理計画の策定や改善を実行する責任を負います。
代表執行役共同社長はこのCSAの結果報告を受け、グループリスクを地域・事業ごとに把握・分析した上で、各パートナー会社グループの重要な経営会議体への直接参加などを通じて、実効的なモニタリング、必要なリスク対応を指示しています。また、代表執行役共同社長は当社グループ全体のリスクを俯瞰し、各パートナー会社グループ横断で対処すべき共通リスクが認識された場合には、「リスクマネジメント委員会」を招集し、対策を審議・決定することとしています。
こうしたリスク分析の結果は、代表執行役共同社長から監査委員会・取締役会へ報告されるとともに、各パートナー会社グループのリスクマネジメント・内部監査関係者が一堂に会するGroup Audit Committeeにおいて協議され、対応策に関するベストプラクティスの共有などが行われています。
④ 指標及び目標
気候変動関連の各パートナー会社グループの目標は下記の通りです。気候変動の影響やリスクと機会に対する個別目標と改善計画の策定に継続して取り組んでいきます。
<パートナー会社グループごとの目標>
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パートナー会社グループ |
目標 |
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温室効果ガス排出量 (スコープ1、2) |
エネルギー消費量 |
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日本グループ |
2030年:37%削減 2050年:ネットゼロ |
- |
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NIPSEAグループ |
2025年:15%削減 2060年:ネットゼロ |
2025年:8%削減 |
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DuluxGroup(※) |
2030年:50%削減 2050年:ネットゼロ |
2030年:再生可能電力消費量を50%に増加 |
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Dunn-Edwards Corporation |
- |
- |
※対象はDuluxGroup(太平洋)のみ
(2)人的資本・多様性に関する戦略並びに指標及び目標
① 戦略
(a)人材育成方針
◆当社グループの人材育成に対する考え方
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当社グループの持続的な成長のためには、優秀な人材を引きつけ、育成し、そして中長期に渡り活躍を促すことが不可欠です。私たちは、個々の資質と能力を最大限に活かすことができるよう、働きがいのある企業文化を醸成し、職場環境を整備していきます。 パートナー会社の自律性を尊重し「自律・分散型経営」を基本とする当社グループにおいては、各パートナー会社グループが人的資本への投資を主導しており、国、地域、事業の特性に合わせた包括的かつ長期的な視点で取り組んでいます。各パートナー会社は、自社のニーズに合わせた従業員の能力開発を行い、多様性豊かな自立型人材を育成しています。 当社グループは、国・地域に適した人事制度の構築だけでなく、各パートナー会社の課題に合わせた研修プログラムや多様なキャリア開発の機会の提供を通じて、事業の原動力となる優れた人材を育成しています。これらの取り組みにより、多様で強固な組織の礎を構築します。 |
(b)社内環境整備方針
◆D&Iステートメント
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当社グループでは、ともに働く人々を経営上の唯一ミッションである株主価値最大化(MSV)の実現に欠かせないものとしています。 私たちは多様性(※)を尊重し、インクルージョンの重要性を認識しています。だからこそ私たちは、“違い”が歓迎され評価される文化を醸成し、すべての従業員が潜在能力を最大限に発揮できるよう、必要なリソースへアクセスができ、人として尊重されている、と感じるような環境を育むことを決意しています。 当社グループでは、人が重要な役割を担っており、多様な人材の活躍と貢献がMSV実現の原動力となると確信しています。 ※人種、宗教、性別、年齢、性的指向、国籍、文化、多様な価値観や考え方による多様性 |
② 指標及び目標
当社グループにおける人材育成方針及び社内環境整備方針についての指標、目標及び実績は、次のとおりであります。
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指標 |
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2024年度末 |
2023年度末 |
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国内グループ(主要なパートナー会社)に おける女性管理職比率(※) |
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4.9% |
※女性活躍推進法に基づく女性管理職の比率
(参考:2024年度末の当社の主要なパートナー会社グループにおける女性幹部職比率)
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日本 |
NIPSEAグループ |
DuluxGroup |
Dunn-Edwards |
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女性幹部職比率(※) |
6.4% |
29.1% |
30.1% |
34.1% |
※女性経営層及び女性管理職を含めて算出した比率
当社グループは、グローバルで塗料・コーティング事業を行っており、リスクを適切に把握し管理することが、事業の持続的成長に不可欠と考えており、内部統制システム基本方針に基づき、リスクマネジメント体制を整備しております。本項においては、将来に関する事項が含まれておりますが、当該事項は当連結会計年度末において判断したものです。
(1)リスクマネジメント体制
当社グループは、「アセット・アセンブラー」モデルに基づき、当社グループの地域又は事業グループごとの会社群(以下「パートナー会社グループ」という。)のリスクマネジメントを各パートナー会社グループの自律的な事業経営の一部として分散管理する体制を運用しております。このリスクマネジメント体制の最上位責任者である代表執行役共同社長は、その活動状況を定期的に当社取締役会に報告し、当社取締役会は、当社グループの経営や事業の遂行に伴う重要リスクの管理状況を監督しております。
上記のリスクマネジメントは、「グローバルリスクマネジメント基本方針」に基づき、パートナー会社グループによるリスクの自主点検を通じた自律的な活動を基本としています。パートナー会社グループは毎年、自らの改善点とその改善計画・リードタイムの明確化、及びリスクベースアプローチによる重要リスクの特定を行い、代表執行役共同社長へ報告します。代表執行役共同社長は、これらの報告に基づきグループ全体のリスクマネジメントの状態を把握した上で、地域・事業ごとの重要な経営会議体へ参加し、実効的な事業進捗のモニタリング及び適正かつ継続的なリスク対応指示を行っております。それらの内容を当社取締役会と適時共有することにより、当社は、重要なグループリスクへの対応を踏まえた適切な経営戦略の策定を行っております。
また、当社の監査部は、パートナー会社グループがリスクの自主点検を通じて行った内部統制システムに係る重要リスク評価の分析を行い、監査委員会及び代表執行役共同社長への結果報告を行っております。さらに、「Audit on Audit」によるグループ監査体制のもと、主要なパートナー会社の内部監査部門責任者に対しても分析結果を共有し、各地の内部監査計画に反映させることにより当社グループのリスクマネジメント体制の実効性を監視しています。これにより、当社はリスク管理の透明性と信頼性を高め、必要な改善策を迅速に講じることが可能となっています。
(2)事業展開に関するリスク
① 市場環境変動のリスク
当社グループは、塗料、及びその周辺製品を、建物、自動車、金属製品、構造物、電気機械、船舶等の幅広い業界で製造・販売し、また、中国含むアジアを中心に、日本、豪州、米州、欧州で事業を展開しています。当社グループの経営成績及び財政状態は、当社グループが製造・販売活動を行う世界各国・地域の経済情勢や金融市場動向の影響を受ける可能性があります。近年、世界各地における地政学上の問題、世界的なインフレ懸念や金融引き締めによる景気減速、自然災害等により、サプライチェーンの混乱や、塗料需要・原材料市況の変動等、事業環境の不確実性が高まっております。とりわけアジア、特に中国は重要な事業地域であるため、中国経済の変動や政治的な動向の影響を受けやすい傾向にあります。中国の不動産市況や規制状況が予想以上に厳しくなった場合には、当社グループの事業へ影響を及ぼす可能性があります。
当社グループとしては、M&Aによる地理的な新規市場への展開や抗ウイルス製品、環境配慮型製品の開発・販売による新規需要開拓、各地におけるブランドの強化、サプライヤー動向のモニタリング、グループ全体での供給・調達能力の拡大など、グループ全体での取り組みにより持続的な成長を図ってまいりますが、仮に当社グループの予測を超えた事業環境の悪化が生じた場合には、当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響が生じる可能性があります。
② 販売価格動向に関するリスク
当社グループは、原材料調達価格や顧客のニーズ、及び競合他社の動向等を勘案して販売価格を設定しております。原材料価格変動の影響を軽減するため、原材料価格のモニタリングによる随時交渉、調達先の多様化や戦略的な選定、原材料価格変動の影響を受けにくい代替材料の評価・導入などに取り組んでおりますが、原材料価格の高騰が当社収益に与える影響を軽減できる保証はありません。また、先進技術を活かした製品の開発や販売チャネル支援の強化や新規チャネルの開拓による競争優位性の維持・向上に取り組んでおりますが、競争要因等により、原材料価格の上昇の影響を製品価格に転嫁できない可能性や、転嫁に遅れが生じる可能性があります。このようなリスクが顕在化した場合には、当社グループの収益性が損なわれ、当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響が生じる可能性があります。
③ 海外活動に関するリスク
当社グループは、海外展開を積極的に進め、多国籍企業として事業を展開しており、2024年度の海外売上収益(セグメント間取引消去後)比率は約90%に達しております。当社の海外での事業活動に関して想定されるリスクとしては、主として以下のようなものが考えられます。これらのリスクが顕在化した場合、当社グループの事業、財政状態及び経営成績等に悪影響が生じる可能性があります。
(a)為替や物価水準の変動リスク
当社グループの海外子会社の財務諸表は外貨建てで作成され、連結財務諸表作成時に期中または期末日の為替レートで円換算しております。そのため、現地での業績に大きな変動がない場合でも、日本円に対する為替相場の変動やハイパーインフレーション時の物価変動を財務諸表に反映させる超インフレ会計適用により、当社グループの財政状態及び経営成績等に影響を与える可能性があります。
また、当社グループは、海外子会社を通じて製造・販売活動をグローバルに展開しており、世界各地に拠点を有しております。当社グループでは多くの製品の製造・販売については地産地消といった特徴があるため、為替相場の変動が当社グループ製品の競争力に与える影響は大きくないと考えておりますが、製造・販売拠点における為替相場の変動は価格競争力に影響を及ぼす可能性があり、当社グループの財政状態及び経営成績等に影響を与える可能性があります。
(b)政治・経済状況の変化などに伴うリスク
当社グループが事業展開する各国・地域において、法律・規制の変更、政治・経済状況の急激な変化、テロ・戦争・災害・パンデミック等の社会的・政治的混乱など予測し難い事態が発生し、原材料の調達難や価格の急激な高騰、製造拠点の操業の停止、物流の遮断による製造・出荷の停止等が発生した場合には、当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響が生じる可能性があります。特に、当社グループの売上の重要な部分はアジアに依拠しており、とりわけ中国における売上が占める割合が大きいため、中国経済・政治状況等が、当社グループの財政状態及び経営成績等に影響を与える可能性があります。
(c)海外の法規制の遵守に関するリスク
当社グループは、当社グループが事業活動を行っている国及び地域における環境規制、製造物責任、労働安全衛生、労使関係、海外投資規制、外資規制、国家安全保障、消費者保護、競争政策、税制、贈収賄規制及び輸出管理規制等に関連する様々な法令の対象となっております。これらの法令に違反した場合、当社グループは民事上、刑事上、又は規制上の罰則等が科せられたりすることによって、当社グループの財政状態及び経営成績等、ひいては当社のブランドイメージ及び社会的信用に影響を与える可能性があります。
(d)その他のリスク
海外での事業活動においては、上記(a)ないし(c)に記載しているリスクの他にも、商慣習の違い、労働争議の可能性を含む現地の労働条件や優秀な経営人材・技術者・その他の人材確保に関するリスクが存在しております。当社は、グループ会社の自主性と自律性を重視する経営方針に基づき、権限を大幅に委譲することで、現地に精通した人材を確保し、各国・地域の法律・規制、労働、及び商習慣へ適切に対応できるよう努めておりますが、これらのリスクを全て把握し、適切に対応できる保証はありません。これらのリスクが顕在化した場合は、当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響が生じる可能性があります。また、当社グループが海外において新規市場の参入や新規事業の展開を行うにあたって、想定以上のコストを要する場合や、海外子会社の経営管理を実効的に行うことができない場合にも、当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響が生じる可能性があります。
④ 原材料動向に関するリスク
(a)原材料の調達リスク
当社塗料は原材料に占める汎用品の比率が高く、塗料以外の用途において需要が急拡大した場合に、原材料の入手が困難となる可能性があります。また、経済安全保障に対する各国の関心の高まりが資源の囲い込みに発展し、一部の原材料の調達が困難となる可能性もあります。さらには海上輸送や港湾でのコンテナ取扱の混乱により、原材料の国際物流が滞る可能性があります。こうした原材料の調達制限により、顧客への供給責任を果たせなくなってしまうリスクがあります。
当社グループでは、こうした事態に備え、天災や事故等の発生時の影響を最小限に抑えるため、日頃から原材料の互換化、複数社からの購買、購買先地域の分散を進めることにより安定した原材料調達を目指しておりますが、これらの手法によっても原材料メーカーの生産活動の停止やサプライチェーンの寸断の影響を完全に除去できるわけではなく、原材料の調達難による製品供給の遅延等が発生した場合には、当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響が生じる可能性があります。
(b)原材料の価格変動リスク
当社グループの原材料は、製品の特性上、石化原料への依存度が50%程度と高く、原材料価格は、原油・ナフサ価格の変動による影響を受けます。原油・ナフサ価格は、OPECの生産量動向や天然ガス市況のみならず、ウクライナや中東における紛争や各国の政情不安、米国の金融政策、米中の貿易摩擦、シェールオイルの復活状況、為替相場を見据えた中東産油国の価格政策、燃料電池車の普及によるガソリン需要の減退など、あらゆる要素が複雑に絡みあい、価格の動向に影響を与えています。当社グループとしては、原材料の調達先の集中によるサプライヤーとの関係強化や原材料の生産地域の分散、契約の長期化など、原材料価格変動リスクを緩和する工夫を行い、安定して原材料が調達できるよう努めておりますが、これらの手法によっても原油・ナフサ価格の変動による影響を完全に除去できるわけではなく、原材料価格が急激かつ大幅に上昇する場合やかかる原材料価格の変動を適時かつ合理的に製品価格に転嫁することができない場合には、当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響が生じる可能性があります。
⑤ 人材確保に関するリスク
「アセット・アセンブラー」モデルによる飽くなき成長を追求していく中で、主要な事業地域の経営陣をはじめとする多様なプロフェッショナルの確保・登用・定着、各地域における多様で有能な人材の育成・維持がより一層重要になっています。
リージョンごとに有能な社員の離職リスクや後継者の育成不足など課題は異なりますが、様々なリスクに対して的確なタイミングで対策を講じることが求められています。離職率の上昇は、採用や教育での損失コストなど人件費を増加させるだけでなく、中長期的にはノウハウや技術力の伝承を阻害し、効率性や生産性を低下させる可能性があります。また、人事戦略の遂行に失敗した場合、予期せぬ離職が発生した場合、経営陣の交代要員をタイムリーに確保できなかった場合、貴重なノウハウや人的資本等の無形資産の減少を招き、効果的な競争力や戦略の遂行に支障をきたす可能性があります。
この様な中、当社の人材確保においては、(a)優秀人材の登用リスク、(b)社員の定着リスクが存在します。
(a)優秀人材の登用リスク
適切なタイミングで重要なポストに相応しいキャリアとポテンシャルを持った人材が計画どおり確保できない場合や、確保した人材の育成が計画どおりに進まない場合、若しくは育成した人材を維持できず社外流出が発生した場合等において、開発や生産の遅れなどをもたらす可能性や、研究成果や技術が流出するリスクが発生します。その対策として、当社グループでは、年間を通して優秀な人材確保に努めています。また、入社後の職場での指導・教育や能力開発のための研修体系を充実させるなど、会社が育成責任を持ち、多様な人材のパフォーマンスを最大化するための環境整備を進めています。
また、外部とのコネクションを継続的に維持して採用市場へのリクルーティングも積極的に行っています。
さらに、公平な評価・処遇制度の充実などの仕組みの構築により、従業員のエンゲージメントを高め、人材の定着を推進し、社員の能力向上及び能力のある社員が最大限のパフォーマンスを発揮できる環境整備を進めています。
(b)社員の定着リスク
労働市場の流動化が進む中、有能な社員の流出により、長期的にはノウハウや技術力の成長を阻害し、効率性や生産性を低下させる可能性があります。
また、次期経営陣をタイムリーに確保できなかった場合、貴重な経営ノウハウ等が継承されず、組織力が失われ効果的な競争力や戦略の遂行に支障をきたす可能性があります。
その対策として、当社グループではSDGs・ESG視点の経営を行うなど、種々の広報活動によりコーポレートブランド力を高め、当社グループの魅力を高めるとともに、グループの一体感を醸成して社員の定着率を高めることに努めています。また、当社グループの強みであるグローバルなネットワークを最大限に活用し、「ボーダーレスな人材活用」を強化し、人材・スキルの確保及び重要ポストのサクセッションを強化します。
このような対策を講じたとしても想定通りの効果が得られない場合は、当社グループのビジネスや財政状態及び経営成績等に悪影響が生じる可能性があります。
⑥ M&Aによるリスク
当社グループは、2019年のDuluxGroup LimitedやBetek Boya ve Kimya Sanayi Anonim Sirketiの連結子会社化をはじめとして、2021年のアジア合弁事業の100%化並びにインドネシア事業の買収、2022年にはCromology Holding SAS及びDP JUB delniska druzba pooblascenka d.d. 、2023年にはN.P.T. s.r.l. 、2024年にはNippon Paint (India) Private Limited及びBerger Nippon Paint Automotive Coatings Private Limitedの買収を完了するなど、株主価値の最大化(MSV)に資するM&Aを国内外で推進し、持続的な成長を目指しております。M&A案件の選別にあたっては、資本コストを上回るリターンを獲得し、結果としての基本的1株当たり当期利益(EPS)増大を図り、財務規律を考慮しつつ優先順位付けを行っております。また、市場動向や顧客のニーズ、相手先企業の業績、財政状況、技術優位性及び市場競争力、当社グループの事業ポートフォリオ並びにM&Aに伴うリスク分析結果等を十分に考慮し進めております。しかしながら、当社グループが企図した通りに買収を実行できない場合や事前の調査・検討にもかかわらず、買収後の市場環境や競争環境の著しい変化があった場合、買収した事業が計画どおりに展開・運営することができず、また、当初期待したシナジーが生まれず、投下した資金の回収ができない場合、追加的費用が発生する場合、のれんの減損が生じた場合、多額の借入れにより財務規律の確保が困難となった場合等には、当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響が生じる可能性があります。また、買収がなされたものの、想定どおりに統合が進まず、また、当社グループが期待するシナジー、スケールメリット等の効果を得られなかった場合、買収した企業の主要な経営幹部や従業員を引き続き確保できない場合、主要な顧客、仕入先及びその他の取引先との関係を維持できない場合等には、経営方針の大幅な変更、事業規模の縮小、スケールメリットの喪失等による収益悪化が起きる可能性があり、これにより当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響が生じる可能性があります。
これに関連し、当社グループでは、2025年3月3日に米国・欧州を中心に事業を展開するスペシャリティ・フォーミュレーターであるAOC, LLCをはじめとした企業群を傘下とするLSF11 A5 TopCo LLCの全持分の取得に係る手続きを完了しました。これにより、米国・欧州のスペシャリティ・フォーミュレーション市場における事業の拡大、優秀な経営陣の獲得、同社を通じた当社グループのグローバル成長機会を獲得することを見込んでおりますが、これらの効果が想定どおり実現できるという保証はありません。
⑦ 顧客・消費者の嗜好やニーズの把握に関するリスク
当社グループの事業は、当社のブランドと製品に対する世界各国・各地域の需要の継続に依存しています。当社グループの持続的な成長には、顧客・消費者の嗜好やニーズを的確に捉え、既存商品の革新、及び新規商品の創出の両面から魅力ある製品を開発・販売することが不可欠であり、顧客・消費者の期待を満たす革新的な製品を開発・生産する当社の能力、及び販売、広告、製品ライフサイクルの管理を含むマーケティングの有効性等、多くの要因が関係します。当社が顧客・消費者の嗜好・ニーズを把握できない場合、または製品開発の困難や遅延、或いは製品需要予測の失敗や製品革新に想定以上の費用や時間がかかる場合には、当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響が生じる可能性があります。
⑧ 技術革新による当社グループ製品に対する需要の縮小に関するリスク
当社グループでは、コーティング技術をもって、人々の生活のあらゆる場面における彩と快適さ、安心の提供に努めています。中でも、当社グループのPurposeである"サイエンス+イマジネーションの力で、わたしたちの世界を豊かに"が示す通り、技術の力による社会課題の解決に向けた商品開発に、長年力を注いでいます。高い技術は、社会課題や顧客ニーズに応えるためのイノベーションを創出するとともに、製品の安定供給を可能にするなど競争優位性を高めるために必要不可欠です。国内外グループの技術者の総合力と社外ネットワークを通じたコラボレーションを強化し、また、世界のマーケットにおいて顧客や消費者のニーズ、需要の変化を的確に把握し、これまでにない革新的なソリューションを世の中に提供し続ける取り組みを進めております。しかしながら、技術革新のスピードが当社の想定より早く、当社グループにおいてタイムリーに新技術・新製品の開発ができないなど、期待した成果が得られない場合や、競合他社が技術革新により当社の既存の技術を上回る画期的な製品を開発・販売する場合、当社グループの国内外における市場シェアが低下し、当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響が生じる可能性があります。
また、自動車塗装事業の顧客を中心に、塗料・塗料製品の不要化・削減に向けた技術革新や開発により、より根本的なダウンサイドリスクにも直面しています。例えば、自動車メーカーや各種の材料エンジニアリング会社は、装飾フィルムなど、コスト、及び環境負荷低減の観点から、自動車の塗装に代わる様々な技術を開発しています。技術革新やカーボンニュートラルを推進する各国の政策もあいまって、これらの代替品が主流となった場合には、塗料需要の減少や代替品へ移行するために多額の投資が必要となるなど、当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響が生じる可能性があります。
⑨ 競合他社との競争に関するリスク
当社グループは、塗料及びその周辺事業において、国内外の同業他社と激しく競合しております。それぞれの事業において競争が激化すると、地域や世界の大手顧客の喪失、価格調整能力の低下等により、当社の市場シェアや収益性に悪影響が生じる可能性があります。また、自動車や工業用コーティング事業など、一部の事業では、顧客の統合が当社の提示する価格及び利益率にマイナスの影響を及ぼす可能性があります。
また、塗料事業では、原料調達、生産工程、サプライチェーン、流通、研究開発、規制対応等におけるスケールメリットが大きいため、統合効果が大きく、近年当社グループが海外でのM&Aにより事業を拡大しているのと同様に、他のグローバルメジャー各社もM&Aを通じた業界地位の強化・拡大を図っており、この傾向は今後も続くものと予想されます。競合他社が統合され、当社と比較して規模を拡大する場合、資本、技術、資金調達を含め、競合他社と効果的に競争できる保証はなく、その結果、当社の市場シェアが低下、または価格低下圧力が増大する場合、当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響が生じる可能性があります。
⑩ 研究開発活動に関するリスク
当社グループは、塗料が持つ魅力を技術の力で最大化するために、グループ技術の総合力と社外ネットワークとのコラボレーションを強化する取り組みを進め、多大な資源を投入して様々な社会課題の解決に資する製品・サービスを提供するための技術開発を推進しております。現在は、主力事業における継続的な新製品や、「スマート社会の実現」、「環境負荷の低減」、「社会的コストの低減」の各分野の社会課題を解決する新製品の技術開発に注力しております。これらの取り組みは、社会環境の変化、将来の製品や未開拓の市場機会への対応及び産業の高度化等と整合性があると考えていますが、当社グループの研究開発への継続的な投資が、投下した資源に比例した収益を得られない場合、収益性の高い製品に結びつかない場合、及び市場構造が大きく変化した場合には、当社グループの事業、財政状態及び経営成績等に悪影響が生じる可能性があります。
⑪ 製造・販売における第三者への依存に関するリスク
当社グループは、当社グループ製品の製造・販売の一部を外部の第三者に委託しております。製造・販売の委託先はいずれも当社グループの関連会社又は長期間の取引先にあたるため、当社グループとの関係が悪化する可能性は小さいと考えられるものの、これらの第三者が当社グループとの関係悪化や当社グループの競合他社との協業等を生じさせる場合や、これらの第三者に経営環境の悪化や災害等が発生しその業務に支障が生じた場合には、当社グループの事業、財政状態及び経営成績等に悪影響が生じる可能性があります。また、当該第三者の製造・販売活動の品質等が当社グループの基準を満たさない場合や当社グループの競合他社又はその外部委託先の品質等に劣る場合は、当社グループの製品やサービスに係る品質及び評価、製造・販売、並びにブランド価値に影響を及ぼす可能性があります。
⑫ ブランド価値の毀損に関するリスク
当社グループは、中国を含むアジア、オーストラリア、日本等の主要市場において高いシェアを有しており、顧客・消費者からのブランド認知度が高いと考えております。当社グループでは、ブランディングへ継続的に経営資源を投じ、認知度の維持・向上に努めておりますが、当社のブランドイメージは、製品の安全性及び品質問題、事故、違法行為、プライバシー侵害、当社の経営陣または従業員を巻き込む不祥事等、当社の管理外にあるその他要因を含むいかなる申し立てや悪評によっても損なわれる可能性があります。仮に、その一部または全部が根拠のないものであったとしても、当社グループの事業に対する社会の認識に悪影響を及ぼす可能性があります。このような事件等により、当社または当社製品に対する消費者の信頼が損なわれた場合、当社製品に対する消費者の需要及び当社ブランドの価値が著しく低下し、当社グループの事業、財政状態及び経営成績等に悪影響が生じる可能性があります。
(3)中期経営方針等に関するリスク
当社グループは2024年4月に上記「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等(1)経営方針、経営戦略等 ④中長期的な会社の経営戦略・財務目標」に記載のとおり、「中期経営方針」を公表しました。こうした中期経営方針における目標を達成することができるか否かは、各地域・製品の市場が当社の想定通りに成長しないリスク、当社グループが各国・各製品の市場シェアを上げることができないリスク、中期経営方針における設備投資を実行できない又は実行しても生産効率の改善など期待された効果が発現しないリスク、当社グループの技術力・品質保証体制が改善せず重要な顧客との関係が悪化するリスク、当社グループが各国の子会社の経営を有効に管理又は活用できないリスク、環境規制対応などで当社グループのコストが増加する又は競争力が損なわれるリスクなど、本「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載された事項を含む多くのリスクや課題の影響を受けます。
中期経営方針を策定する中で、当社グループは、国内外の市場環境、企業の動向、他社との競業、法令等の変化、技術革新、為替相場や原材料相場、経営環境に関する様々な前提や予測を置いております。このような前提や予測が将来の事実関係と異なる結果となる場合、当社グループが経営環境の変化に応じて戦略又は事業運営を適時に変更することができない場合には、当社グループが中期経営方針を実現できない可能性があります。
(4)財政状態に関するリスク
① のれんを含む無形資産の減損に関するリスク
当社グループは、M&Aの実施に伴い発生するのれん及びその他無形資産を連結財政状態計算書に計上しており、2024年度末におけるのれん及びその他の無形資産の額はそれぞれ970,745百万円及び457,429百万円となっております。
「のれん」及び「耐用年数を確定できない無形資産」については償却を行わず、減損兆候の有無にかかわらず、毎期減損テストを実施しております。当該減損テストでは、資金生成単位における処分費用控除後の公正価値と使用価値のいずれか高い方を回収可能価額として測定しております。
当該処分費用控除後の公正価値算定上の仮定、あるいは使用価値算定の基礎となる資金生成単位の使用期間中及び使用後の処分により見込まれる将来キャッシュ・フロー、割引率等の仮定は、経済条件の変動による影響を受ける可能性があり、将来にわたり、のれん及び耐用年数を確定できない無形資産に係る減損損失額に重要な修正を生じさせるリスクを有しております。そのような修正が発生した場合、当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響を与える可能性があります。
② 有利子負債・資金調達に関するリスク
当社グループは、金融機関からの借入れによる資金調達を実施しており、借入金合計(1年内に返済のものを除く。)は、2024年度末において、613,540百万円となっております。
長期借入金の大部分は固定金利での借入を行っておりますが、一部、変動金利での借入も行っております。今後金利が上昇する場合には、かかる有利子負債について追加的な負担を負う可能性があり、当社グループの事業、財政状態及び経営成績等に悪影響が生じる可能性があります。
また、当社グループは、有利子負債比率等当社グループの財務状況の悪化、景気の後退、金融市場の悪化、金利の上昇、外部格付機関による格付けの引き下げ等当社グループ信用力の低下、業績の見通しの悪化等の要因により、当社グループのキャッシュ・フローに悪影響が生じる場合、又は、当社グループの資本・資金調達の取引条件の悪化、又は取引そのものが制限される場合には、当社グループの事業、財政状態及び経営成績等に悪影響が生じる可能性があります。
③ 設備投資が収益に結びつかないリスク
当社グループが掲げるMSVを実現するためには、生産能力の増強と生産性向上のための設備投資を継続的に行う必要があり、今後も引き続き事業機会を捉え、品質やリスク体制、及び収益性を向上させるための投資を行ってまいります。具体的には、デジタル化技術をはじめとするサプライチェーンの物流改善、老朽化設備の維持・更新、労働安全の確保、合理化・IT投資、研究開発・環境保全などへ重点的に投資します。当社グループは、設備投資計画を事業環境の変化に合わせ、柔軟に実施してまいりますが、投資効果が十分に期待できない可能性があり、設備投資の増加や減価償却費の増加等により、当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響が生じる可能性があります。
(5)法律・規制に関するリスク
① 製品の品質保証・製造物責任に関するリスク
当社グループは設計審査の厳格化や品質管理体制の強化により品質保証体制を整備し、当社グループ製品の品質向上に取り組んでおり、製造物責任保険にも加入しております。しかしながら、当該保険は損害をカバーするのに十分でない可能性があり、様々な要因により製品の欠陥・品質問題やそれに伴う物損・人損等が生じ、製品の回収、製造の中断・遅延若しくは大規模なリコールの実施が必要となったり、第三者から製造物責任に基づく損害賠償請求を受けたりした場合や、当社グループの顧客から発注のキャンセル、損害賠償の請求又は品質管理体制の強化などを求められる場合には、当社グループの社会的評価に悪影響が及ぶとともに、製品補償引当金の計上等により、財政状態及び経営成績等に悪影響が生じる可能性があります。
② 知的財産に関するリスク
当社グループでは、知的財産の管理に関する規程を定め、知的財産が当社グループの重要な財産であることを認識し、知的財産を経営資源として蓄積し活用するとともに、他人の知的財産を尊重するものとしております。また、当社グループでは、知的財産に該当する技術情報については、情報管理に関する規程により管理し、専用の技術情報データベースで保管して流出を防止する等の情報管理を徹底するなど、知的財産保護のための体制を整備しております。このような施策を続けているにもかかわらず、当社グループの従業員(退職者を含みます。)や製造・販売の委託先を含む第三者により当社グループの知的財産である技術情報が社外に流出し知的財産が侵害された場合、また、将来、第三者との間で知的財産に関する紛争が発生した場合、当社グループの財政状態及び経営成績等に影響を与える可能性があります。
③ 環境関連を中心とした法規制への対応リスク
当社グループでは、原材料の採用や商品開発など段階に応じて法規制に関する審査を行うことに加え、将来の規制強化を踏まえた社会課題の解決に貢献する海洋環境配慮型商品や抗ウイルス商品の開発・導入などに取り組んでおります。また、工場などの操業に係わる規制を順守するとともに、環境への負の影響については目標を掲げその低減に取り組んでおります。さらに、当社グループの調達先との間で、社会的責任を踏まえた調達活動を行っております。しかしながら、当社グループが事業を行う国又は地域において、特に中国や欧州を中心に塗料業界に関連する環境、化学物質、安全衛生などの法規制の改正や強化が進んでおり、これらの規制が当社グループの予測を超えて厳しくなった場合や法改正への対応が間に合わなかった場合は、法改正対応のための費用が増加したり、製品の製造販売活動や調達活動等が制約を受けたり、又は行政上の処分を受けたりする可能性があります。当社グループがこれらの規制を遵守することができなかった場合は、規制当局からの罰金その他処分の対象となる可能性や原状回復義務の費用負担等を負う可能性があり、これによって当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響が生じる可能性があります。
④ コンプライアンス及び訴訟リスク
当社グループは、グローバルに事業を展開しているため、事業を展開する国内外の様々な法令、規則の適用を受けます。当社グループは、かかる法令等の遵守を図っておりますが、法令等の遵守のために追加の費用が発生する可能性があり、当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響が生じる可能性があります。また、法規制、法解釈の変更等により法令等の遵守が困難になり、当社グループにコンプライアンス違反が発生する場合、当社グループは、規制当局による措置、処分等に服するリスクがあります。その措置等の内容によっては当社グループの事業に支障が生じたり、当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響が生じたりする可能性があります。
さらに、当社グループは様々な国又は地域において、消費者、取引先、従業員等から製造物責任、契約違反、労働問題等に関して訴訟の提起を受けるリスクを有しております。訴訟等の結果によっては、当社グループに多額の損害賠償金等の支払いが命じられ、当社グループの事業、財政状態及び経営成績等、ブランドイメージ及び社会的信用に悪影響が生じる可能性があります。
(6)自然災害・事故災害に関するリスク
① 大規模な自然災害によるリスク
当社グループは、日本に本拠を置き、歴史的に自然災害や天候不順の影響を受けやすいアジアで事業を展開しています。このため、自然災害に対する被害・損害を最小限にするための防災、減災、さらには危機管理体制を重要なものと位置付けて取り組んでおり、また、デジタル・サプライチェーンの構築(リモート・ワークを可能にし、煩雑な作業を軽減するためのデジタル・ツールや手法の活用)や、BCPの視点からサプライチェーンの再構築に着手しております。大規模な自然災害、特に日本、インドネシア、トルコなどで大規模な地震の発生や想定以上の大津波、また、地球温暖化が要因のひとつとされる気温の上昇による大規模な山火事や巨大台風による大規模な水害が発生した場合や寒波により電力の調達コストが増大した場合には、原材料調達、製品の製造、出荷等に支障が生じ、顧客に安定して製品を供給できなくなるなど、当社グループの財政状態及び経営成績等に影響を与える可能性があります。
② 火災、爆発事故によるリスク
当社グループは、製品特性上、爆発、火災、有毒・有害物質の排出・放出等の危険性があります。危険物及び化学薬品の取扱いについて、事故発生の未然防止のための安全操業体制の強化に日々取り組んでおり、危険物を取り扱う工場や作業従事者の安全教育の徹底だけでなく、更なる水性材料(非危険物)への転換や改良を進め、現場の安全度の向上を図っておりますが、当社グループにおいて、火災事故、爆発事故が発生した場合、一時的に操業を停止する必要が生じるなど、当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響が生じる可能性があります。
③ ウイルス感染症の拡大・継続によるリスク
ウイルス感染症の拡大・継続により、当社グループの工場の閉鎖、稼働の制限及び自粛や従業員の不足が生じ、製品生産への悪影響及び原材料・機材の調達や当社製品の物流に支障が生じるなど、当社グループの事業運営の全部又は一部が困難になり、制約が生じる可能性があります。世界的な経済活動の減退が当社製品の需要や価格に悪影響を及ぼした場合や当社グループの従業員にウイルス感染症が拡大し一時的な操業停止の必要が生じた場合には、当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響が生じる可能性があります。
当社グループではこれらのリスクに対応するため、予防や拡大防止に対して適切な管理体制を構築しております。また、当社グループの事業は地理的に広範なため、生産・販売・在庫・物流状況を全世界的に把握するとともに、各種対策を講じてウイルス感染症の影響の極小化を図っております。
(7)気候変動に関するリスク
① 長期的なリスク
当社グループは、地理的に広範な自然災害やアジアの一部を含む異常気象の影響を物理的に受ける可能性があります。また、気候変動に対する国内外の政策及び法規制、市場の要求を踏まえ、環境配慮型商品の開発・導入に加え、生産工程等から排出される温室効果ガスの削減目標設定や排出削減に向けた具体的な取り組みを進めていますが、脱炭素社会の実現を目指す日本政府の方針を踏まえたこれらの規制の強化や自動車メーカーの生産工程を含む温室効果ガス排出量の大幅削減目標などを含む世界的な動向により、当社グループの事業が影響を受ける可能性があります。具体的には、温室効果ガスの排出に関する新たな税負担等が生じた場合や再生可能エネルギーの調達にかかる費用等が想定を上回り上昇した場合には、当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響が生じる可能性があります。
② 短期的なリスク
当社グループの製品は、自動車、建物、建築資材、構造物、金属製品、電気機械、船舶等の幅広い業界において使用されておりますが、気候変動により近年発生が増加傾向にある台風、豪雨等の異常気象により、当社グループ及びサプライチェーンが甚大な被害を受けた場合、その復旧まで生産若しくは出荷が長期間に亘り停止することがあり得ます。また、冷夏、暖冬、長雨などによる異常気象により、当社グループが製品を供給する業界が影響を受けることもあり得ます。このような場合は、当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響が生じる可能性があります。
(8)その他のリスク
① 情報セキュリティに関するリスク
当社グループは、情報・ITシステムに依存して、正確かつ効率的に取引を行い、経営者への情報提供や財務報告書の作成などを行っています。
当社グループは、個人情報を安全に保管し、セキュリティ手順の周知徹底を図るため、バックアップ手順、災害復旧策を整備し、情報システムセキュリティガイドラインを策定しておりますが、当社のシステムは、地震及びその他の自然災害、機器または通信の障害、コンピュータウイルス、サイバー攻撃、当社が予期しないその他の事象によって破壊される可能性があります。
コンピュータウイルス、不正アクセス、マルウェア、その他のサイバー攻撃により、当社の内部システムが侵害される場合や、機密情報が漏洩または消去され、当社の事業遂行能力が損なわれる場合など、サイバーセキュリティインシデントは、攻撃者の意図的な攻撃や当社の意図しない事象から発生する可能性があります。
これらのインシデントには、当社システムへの不正アクセス、コンピュータウイルスまたはその他の悪意のあるコード、マルウェア、ランサムウェア、フィッシング、人為的エラー、またはセキュリティ違反を引き起こしたり、機密情報の流出や資産の流出を引き起こすその他の事象が含まれます。
当社のシステムに影響を及ぼす上記のような問題は、事業の中断、対応費用の発生、顧客情報や機密情報の漏洩、法律違反につながり、セキュリティ、バックアップ、及び災害復旧対策を行っていても、障害を回避できない事があります。このような場合は当社の社会的信用、財政状態及び経営成績等に悪影響が生じる可能性があります。
② 大株主との関係に関するリスク
2021年1月25日、Wuthelamグループに対する当社普通株式の第三者割当による当社の新株式の発行の払込みが完了しました。これにより、Wuthelamグループは当社普通株式の58.7%を保有するに至り、本有価証券報告書提出日現在において、当社の親会社となっており、当社の株主総会の特別決議及び普通決議を必要とする事項に重大な影響力を有しております。当社とWuthelamグループの間には、Wuthelamグループが保有する当社株式の保有・売却や議決権の行使についての取り決め、その他経営を制約するような契約等はありません。また、Wuthelam社の代表者であるゴー・ハップジン氏は、当社の取締役を兼務しており、今後も継続する可能性があります。
Wuthelamグループが当社の事業や経営方針に関して有する利益は、当社及び当社の少数株主の利益と異なる可能性があります。2021年8月のWuthelamグループとの取引の一環として、欧州における自動車用塗料事業をWuthelamグループに譲渡したことにより、現在、これらの事業に関して、マネジメント・サービス契約及び買い戻しオプションを通じて、当社グループと継続的な商業的関係が成立しており、将来において利益相反が生じないことを保証するものではありません。
また、Wuthelamグループは、当社が上場会社として少数株主の保護を図りながら株主価値の最大化を目指す経営方針に賛同しており、引き続き当社の株式を継続的に保有する予定であると当社は認識しておりますが、今後Wuthelamグループは、自らの財務状況等に鑑み、当社株式の保有株式数を増減する可能性があり、その場合、当社株式の市場価格に影響が生じる可能性があります。
(1)MD&Aに共通する事項
① 連結業績の概況
(a)前期比
当社グループの当連結会計年度の業績につきましては、中国をはじめとしたNIPSEAの主要市場で販売数量が増加したことや、円安の影響などにより、連結売上収益は1兆6,387億20百万円(前期比13.6%増)となりました。連結営業利益は、増収効果や製品値上げの浸透などによる売上総利益率の改善などにより、1,876億47百万円(前期比11.2%増)となりました。連結税引前利益は1,815億22百万円(前期比12.4%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益は1,273億37百万円(前期比7.5%増)となりました。
※実質ベース:継続的な事業の収益力の前期からの変化を示すため、M&Aによる新規連結影響や一時的な要因により発生した損益を調整して算出した金額
(b)資産、負債及び資本の状況
当連結会計年度末の総資産は前連結会計年度末と比較して3,580億36百万円増加し、3兆713億78百万円となりました。
流動資産につきましては、前連結会計年度末と比較して1,656億51百万円増加しております。主な要因は、その他の金融資産が増加したことなどによるものです。また、非流動資産につきましては、前連結会計年度末と比較して1,923億84百万円増加しております。主な要因は、のれんが増加したことなどによるものです。
負債につきましては、前連結会計年度末と比較して1,159億13百万円増加し、1兆4,611億51百万円となりました。主な要因は、その他の金融負債が増加したことなどによるものです。
資本につきましては、前連結会計年度末と比較して2,421億23百万円増加し、1兆6,102億27百万円となりました。主な要因は、為替換算調整勘定が増加したことなどによるものです。
以上の結果、親会社所有者帰属持分比率は前連結会計年度末の50.1%から51.8%となりました。
(c)連結業績の推移
連結業績の推移は下図のとおりであります。
(注) 「当期利益」には「非支配持分」は含まれておりません。
② セグメント別業績の概況
(a)概要
セグメントの状況は次のとおりであります。
≪日本≫
自動車用塗料の売上収益については、自動車生産台数が減少したことにより、前期を下回りました。工業用塗料の売上収益については、市況が低調に推移したものの、製品値上げの浸透が進んだ結果、前期並みとなりました。汎用塗料の売上収益については、物価高騰に伴う消費控えや低価格製品ニーズの高まりの影響を受けたものの、製品値上げの浸透や販売施策が寄与した結果、前期並みとなりました。
これらにより、当セグメントの連結売上収益は2,031億12百万円(前期比0.8%増)となりました。連結営業利益は、製品値上げの浸透などによる売上総利益率の改善により、194億46百万円(前期比1.5%増)となりました。
≪NIPSEA≫
自動車用塗料の売上収益については、タイにおいて自動車生産台数が前期を下回ったものの、中国において自動車生産台数が前期を上回ったことにより、セグメント全体では前期を上回りました。汎用塗料の売上収益については、中国に加え、マレーシア、シンガポールなどの主要市場においても、販売数量が増加したことにより、前期を上回りました。
これらにより、当セグメントの連結売上収益は9,143億70百万円(前期比18.5%増)、連結営業利益は1,242億55百万円(前期比12.6%増)となりました。
≪DuluxGroup≫
汎用塗料の売上収益については、太平洋及び欧州において市況が軟化した影響などにより販売数量が伸び悩んだものの、円安による影響もあり、前期を上回りました。塗料周辺事業の売上収益については、軟調な市況の影響を受けたものの、太平洋における事業買収や2023年7月に買収完了した欧州塗料周辺製品メーカーN.P.T. s.r.l.による業績寄与により、前期を上回りました。
これらにより、当セグメントの連結売上収益は3,985億34百万円(前期比10.6%増)、連結営業利益は403億74百万円(前期比16.6%増)となりました。
≪米州≫
自動車用塗料の売上収益については、中核地域であるアメリカにおいて、主要顧客である日系自動車メーカーにおける自動車生産台数の回復や製品値上げの浸透が進んだ結果、前期を上回りました。汎用塗料の売上収益については、米国経済や住宅市場の低迷の影響を受けたものの、製品値上げの浸透やカリフォルニア州において天候不順の影響が前期よりも減少したこと、新規出店効果などにより、前期を上回りました。
これらにより、当セグメントの連結売上収益は1,227億2百万円(前期比12.4%増)、連結営業利益は77億78百万円(前期比8.8%増)となりました。
(b)生産、受注及び販売の状況
(ⅰ)生産実績
生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
|
セグメントの名称 |
金額(百万円) |
前期比(%) |
|
日本 |
117,594 |
△1.8 |
|
NIPSEA |
580,129 |
20.1 |
|
DuluxGroup |
197,864 |
9.0 |
|
米州 |
70,977 |
11.9 |
|
合 計 |
966,566 |
14.0 |
(注) 金額は製造原価で表示しております。
(ⅱ)受注実績
当社グループは、主として見込生産によっておりますので、受注並びに受注残高等について特に記載すべき事項はありません。
(ⅲ)販売実績
販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
|
セグメントの名称 |
金額(百万円) |
前期比(%) |
|
日本 |
203,112 |
0.8 |
|
NIPSEA |
914,370 |
18.5 |
|
DuluxGroup |
398,534 |
10.6 |
|
米州 |
122,702 |
12.4 |
|
合 計 |
1,638,720 |
13.6 |
(注) セグメント間の取引については含めておりません。
(c)セグメント別投資対成果
連結業績に対するセグメント毎の貢献の割合は、下図のとおりであります。
(注)売上収益は、セグメント間売上収益を除いております。
(2)キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に関する情報
① キャッシュ・フローの状況の分析
当期は営業活動により1,674億1百万円の収入、投資活動により1,481億6百万円の支出、財務活動により373億77百万円の支出があり、結果として現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は2,883億1百万円となり、前連結会計年度末と比較して13億46百万円減少しました。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動による収入は、1,674億1百万円(前期比223億53百万円減)となりました。主な要因は、税引前利益に減価償却費及び償却費等の非資金支出費用等を加味したキャッシュ・フロー(運転資本の増減を除く)による2,378億58百万円の収入があった一方で、運転資本の増加による資金の減少231億1百万円、法人所得税の支払額が473億56百万円あったことなどによるものです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動による支出は、1,481億6百万円(前期比321億31百万円増)となりました。主な要因は、有価証券の増加による469億55百万円の支出、有形固定資産の取得による489億97百万円の支出、子会社株式の取得による358億92百万円の支出があったことなどによるものです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動による支出は、373億77百万円(前期比12億86百万円減)となりました。主な要因は、借入金の増加による155億50百万円の収入があった一方で、配当金の支払いによる358億1百万円の支出、リース負債の返済による168億50百万円の支出があったことなどによるものです。
② 資本の財源及び資金の流動性
当社グループは営業活動から得た収益が事業活動の財源ともなっており、設備投資や研究開発投資、運転資本充当や配当の支払い、借入金の返済に利用しております。また、持続的な成長の実現に向けた戦略投資に必要な資金需要に対しては、今後の収益見通し、全体的な資金需要、返済能力を考慮して財務規律を維持し外部より資金調達を実施します。今年度におきましては、手元流動性確保のための資金に加え、インドの塗料メーカーであるNippon Paint (India) Private Limited及びBerger Nippon Paint Automotive Coatings Private Limited、またカザフスタンにおいてドライミックスモルタル材や塗料等の製造・販売を手掛けるAlina Group LLPの買収資金を合わせて730億円の外部借入を行っており、当連結会計年度末の社債及び借入金残高は当社が7,560億36百万円、連結子会社が39億76百万円となっております。また、当連結会計年度末の運転資本は2,869億46百万円となっております。
当連結会計年度の現預金残高は2,883億1百万円となっており、当社の現預金保有残高は697億85百万円、国内子会社、海外子会社の現預金保有残高はそれぞれ33億91百万円、2,151億23百万円となっております。国内子会社の現預金はCMS(キャッシュマネジメントシステム)によって当社が集中管理しております。海外子会社の保有する現預金は、主として現地での拡大再生産のために利用する事を目的として保有しており、余剰資金が発生した場合に通常配当とは別に特別配当として資金を回収しております。
現時点で当社グループの事業活動を円滑に維持して行く上で十分な手許資金を有しており、将来の資金需要に対しても不足が生じる懸念は少ないと判断しております。
③ 資本政策
当社は、顧客、取引先、従業員、社会などへの責務を果たした上で残存する株主価値の最大化を経営上の唯一のミッションとしております。
その際、適正なレバレッジによる最適資本構成を志向する事及び戦略性の高いM&Aにおいて一時的なレバレッジの上昇は容認する事という財務規律を維持しつつ、成長投資を優先的に実施し、基本的1株当たり当期利益(EPS)の増大を通じて株主の皆様のトータル・シェアホルダー・リターン(TSR、株主総利回り)を向上させることに主眼を置いております。
《基本的1株当たり当期利益(EPS)、1株当たり配当額及び配当性向の推移》
基本的1株当たり当期利益(EPS)、1株当たり配当額及び配当性向の推移は下図のとおりであります。2021年3月31日を基準日及び2021年4月1日を効力発生日として、普通株式1株につき5株の割合で株式分割を行っております。また、基本的1株当たり当期利益(EPS)及び1株当たり配当額は、2020年度の期首に当該株式分割が行われたと仮定して算定しております。
(3)重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社の連結財務諸表は国際財務報告基準(IFRS)に基づいて作成されております。また、当社は連結財務諸表を作成するために、種々の仮定と見積りを行っております。それらの仮定と見積りは資産・負債・収益・費用の計上金額並びに偶発資産及び債務の開示情報に影響を及ぼします。重要な仮定と見積りは、営業債権等の回収可能額、棚卸資産の正味実現可能価額、繰延税金資産の回収可能性、確定給付制度債務、非金融資産(のれんを含む)の減損、企業結合により取得した資産及び引き継いだ負債の公正価値の評価及び開示に反映しております。なお、実際の結果がこれらの見積りと異なることもあり得ます。
重要な会計方針、会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定は、連結財務諸表の「注記3.重要性がある会計方針」及び「注記4.重要な会計上の見積り、判断及び仮定」に記載しております。
当社は、米国・欧州を中心に事業を展開するスペシャリティ・フォーミュレーター※であるAOC, LLCをはじめとした企業群を傘下とするLSF11 A5 TopCo LLC(以下「AOC社」という。)の全持分を取得して子会社化すること2024年10月28日に決定し、持分譲渡契約を締結しました。なお、当社によるAOC社の全持分の取得は2025年3月3日に完了しております。詳細は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 連結財務諸表注記 43.後発事象」をご参照ください。
※ スペシャリティ・フォーミュレーターとは建築物・インフラ設備・輸送機器・船舶等で使用されるCASE(Coatings, Adhesives, Sealants and Elastomers:コーティング剤・接着剤・密封剤・エラストマー)や着色剤、複合材料等のコーティング周辺製品向けに、不飽和ポリエステルやビニルエステル等の配合設計・製造・販売を行う企業です。
第2「事業の状況」1(1)①に記載されている会社の経営の基本方針のもと、当社グループは、(A)適応可能な組織の構築、(B)実現力あるコアテクノロジーの開発、(C)周辺市場・新興市場への進出、の3つの柱でイノベーション戦略を構成しています。これは技術的な視点から「株主価値最大化(MSV)」を実現するものです。当社グループは「アセット・アセンブラー」モデルのもと、世界のパートナー会社間で技術協力、知的財産の共有を行っており、パートナー会社の技術チームは、各市場や顧客ニーズに効果的に対応するため、高い自律性を維持しています。
当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費用は
当社グループは、知的財産の付加価値を向上するため、グローバルな技術提携の強化に適応できる体制を構築しました。例えば、建築用塗料の技術チームは、グローバルな技術コミュニティを形成し、共同の技術開発プロジェクトを通じてベストプラクティスの共有と研究能力の有効活用を進めており、各国の顧客ニーズに対応する中で効果を上げてきました。また、パートナー会社間での技術共有や能力向上を目的として、LSI(Leverage, Share & Integrate)活動を開始し、基盤技術の共有やパートナー会社横断的なプロジェクトの促進を行っています。
当社グループの技術系人材はグローバルで4,200名超、このうち日本では約1,000名に上ります。技術系人材は、ビジネスの持続的な成長を実現するための強力なイノベーションの原動力であり、競争力を生み出す中核的な存在です。技術系人材は国内外の顧客と消費者のニーズに対応するため、日本・東京と大阪、中国・上海、シンガポール、豪州・メルボルン、米国・ロサンゼルスとクリーブランド、フランスなど、世界54ヵ所の研究開発・技術施設に従事しています。2024年には新たに約300件の特許を出願し、2024年末時点で登録されている特許権は1,600件に達しています。
当社グループでは、塗料と塗装に関するコアテクノロジーを12のカテゴリーに分類しながら、知的財産を管理しています。それらは、高分子化学、色彩科学、塗料配合、硬化技術、分散技術、塗装技術、生産技術、レオロジー、耐候・腐食、計測学、人工知能、サステナビリティとなります。研究開発拠点の中核となるチームには各分野の専門技術者が従事しており、世界で展開する技術開発拠点の技術者と協力しながら、グループ全体の製品開発を支援しています。当社グループは、世界の大学や学術研究機関と、幅広いオープン・イノベーション・ネットワークを構築しています。
日本グループは2020年に東京大学と戦略的研究に関する提携を結び、共同研究を行う枠組みを構築しました。東大との提携は、社会コストの削減、環境負荷の低減及びスマート社会の基盤づくりなどの分野を対象としており、革新的な塗料技術の創造を目指しています。
NIPSEAグループはシンガポールで、数十年にわたり科学技術研究庁(A*STAR)の研究機関と提携しています。最近ではA*STARと戦略的に提携し、自律走行を可能にするスマート・サーフェース分野、塗料研究で人工知能(AI)を応用する分野で破壊的技術を開発しています。さらに、当社グループは米国マサチューセッツ工科大学と世界中の企業の互恵関係を構築・強化することを目的とする産学連携プログラム(MIT-ILP)へ参加しました。
イノベーション創出に向けた取り組みとしては、テクノロジーを駆使して生産された製品の生産量を測定する指標の1つとして、新製品売上高指数(NPSI)を開発しました。過去3年間に製品化された新製品の総売上高に占める比率をNPSIと定義しており、NIPSEAグループでは2018年に、日本グループでは2022年にそれぞれ導入しました。日本グループとNIPSEAグループを合わせると、2024年のNPSIは25%となり、約9,000の新製品を発売しています。
また、研究開発プロジェクトにおけるサステナブル社会実現への有効性を評価する仕組みとしては、「グリーンデザイン・レビュー」を開発しました。これは、研究開発プロジェクトの管理システムに導入されており、日本グループとNIPSEAグループのプロジェクト・ポートフォリオにおいて、研究開発費の52%がサステナブルな優位性を持つ技術や製品の創出に使用されています。
今後も引き続き、国内外のパートナー会社の技術チームが、最新の技術情報とノウハウを共有しながら、事業を展開する各市場に向けての商品開発に取り組むとともに、さらなる製造コストの低減、安定した品質の確保に取り組んでまいります。
なお、セグメントごとの研究開発費用は、日本が