当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1)経営方針及び経営戦略等
当社は2023年にスタートした中期計画に基づき、構造改革の推進および成長事業の基盤づくりを進めてまいりました。1月には米国「Goodyear」社より、欧州・北米・オセアニア地域における四輪タイヤの「ダンロップ」商標権等を取得することを発表、一部の地域や商材を除き、当社がグローバルに「ダンロップ」ブランドでタイヤ事業を展開することが可能となります。また、中期計画で掲げた経営目標の前倒し達成も見えてきており、2025年をターニングポイントとして、将来の環境変化も見据え、当社が向かうべき道筋を明確にする長期経営戦略「R.I.S.E. 2035」を策定しました。
「R.I.S.E. 2035」では、当社が長年の事業活動で培ってきた、ゴムを起点とした価値創造プロセスで高機能商品を作り出す「ゴム・解析技術力」と、お客様に喜びを感じてもらえる複数のブランドを立ち上げ育ててきた「ブランド創造力」を強みに、「ゴムから生み出す新たな体験価値をすべての人に提供し続ける」を目指す姿とします。
目指す姿の実現に向け、3つの成長促進ドライバー「ゴム起点のイノベーション創出」「ブランド経営強化」「変化に強い経営基盤構築」をベースとした戦略を実行していきます。2027年までに、タイヤプレミアム化による収益体質の改革と成長事業の仕込みを行い、「ダンロップ」をさらに強くしていきます。2030年までに、創出キャッシュを最大化・既存事業で確固たるポジションを築き、成長事業への挑戦を通じて確立したブランドで飛躍します。そして、2035年までに、イノベーティブな商品・サービスを継続的に創出し、成長事業の拡大を通じたポートフォリオ変革により、持続可能な事業体質を実現します。これにより、2035年の目指す姿を達成および「Our Philosophy」の具現化につなげてまいります。
長期経営戦略「R.I.S.E. 2035」 ロードマップ
当社は中期計画における財務目標を前倒し達成する見通しを踏まえ、2027年度の目標を改定することを決定しました。2030~35年に向けて、事業利益率15%、ROE12%、ROIC10%の目線で取り組みます。
引き続き、更なる改善を目指し中期計画を推進することで、2027年目標の前倒し達成を目指してまいります。
また、当社グループは、「未来をひらくイノベーションで最高の安心とヨロコビをつくる。」という「Our Philosophy」の「Purpose(存在意義)」そのものである、サステナビリティ経営を推進しております。
サステナビリティ経営の推進にあたっては、サステナビリティ統括役員を委員長、各部門担当役員を委員とする「サステナビリティ推進委員会」を開催し、各種テーマごとに設置された部会において実施している活動を継続的にフォローしているほか、本年1月より外部ステークホルダーと経営層とが対話する「サステナビリティ・アドバイザリーボード」を設置し、ステークホルダーとの連携を進めております。
また、2024年10月のマテリアリティ(重要課題)見直しに合わせ、マテリアリティごとのありたい姿の達成に向けた想いを「当社の意志」として設定しておりますが、これを実現させるべく、事業を通じた社会課題の解決に向けて価値創造につながる活動を推進してまいります。
[Environment(環境)]
当社の環境に対する取組みについては、「2.サステナビリティに関する考え方及び取組 (1)サステナビリティ全般」に記載のとおりであります。
[Social(社会)]
「Our Philosophy」の「Purpose」である「未来をひらくイノベーションで最高の安心とヨロコビをつくる。」の体現のため、「Vision」に掲げた「多様な力をひとつに、共に成長し、変化をのりこえる会社になる。」を実現すべく人的資本経営を進めております。
未来を切り拓く人材の育成を目指す教育施策の推進や、社員が心身ともに健康な状態でやりがいをもって自分らしく活躍できる土壌の整備などを通し、社員一人ひとりが互いを尊重し合い、新たな価値創造ができる風土づくりを進めております。
なお、詳細については「2.サステナビリティに関する考え方及び取組 (2)人的資本」に記載のとおりであります。
[Governance(ガバナンス)]
当社のコーポレート・ガバナンス体制の概要は、「第4 提出会社の状況 4.コーポレート・ガバナンスの状況等」に記載のとおりであります。「Our Philosophy」を全ての企業活動の基盤とし、業務の執行状況について取締役会や監査役会で適宜監督を行うことで、変化の大きい社会情勢やグローバルな事業拡大等に適切に対応できる体制としております。
2024年は、従来から実施していた取締役会の実効性評価において3年ぶりに第三者機関によるアンケートおよびインタビューを実施し、総じて取締役会は実効的に機能しているとの意見が多い結果となりました。インタビューにおいては、これまでの取締役会運営に関する改善取り組みにより実効性が高まっている旨の意見や、社外取締役である取締役会議長の的確かつ公正な議事運営のもとで自由闊達な議論や意見交換が出来ているという意見が多くみられました。その一方で、各取締役や下位の会議体に対する権限委譲、過去に取締役会で決議された案件の進捗状況のフォローアップ等については、まだ課題があることが見えてきました。今後は、時間をかけた議論が必要な案件について十分な時間が確保できるように、取締役会付議基準の見直しを行う等、種々の施策に取り組むことで取締役会の実効性を高め、更なる企業価値の向上につなげてまいります。
また当社では、任意の委員会として指名・報酬委員会を設置しており、その委員長は社外取締役が務め、委員の過半数は社外役員としております。2024年から、指名・報酬委員会での十分な審議時間を確保する目的で、会議時間を伸ばしたうえで、開催回数も従来までの3回から4回に増やしました。2024年の委員会においては、従来から議論してきたテーマに加え、取締役の任期や業績連動報酬の拡大等について具体的な議論を行うことができました。今後も、中期計画達成に向けて取締役がグループ全体を主導できる体制づくりを、引き続き進めてまいります。
加えて当社では、2022年以降、定例の取締役会とは違った雰囲気で意見交換が行えるオフサイトミーティングを実施しております。2024年は、計8回のオフサイトミーティングを実施し、米国工場の生産終了および解散や「ダンロップ」商標権の取得等の重要議題について、社内外の役員で十分時間をかけて意見交換を行いました。今後も、適宜オフサイトミーティングを開催し、重要議題についての議論の充実を図ってまいります。
(2)経営環境及び対処すべき主な課題
今後の経営環境につきましては、世界経済の先行きや地政学的リスクなど不確実性が高い状況が続くものと思われます。
このような情勢のもと、当社グループは、中期計画の着実な推進と欧州・北米・オセアニア地域での「ダンロップ」商標権活用を見据えた取り組みを加速するとともに、「Our Philosophy」の具現化を図りつつ、企業の経済的価値・社会的価値向上を目指し、次のような課題に取り組んでまいります。
(タイヤ事業)
将来のCASEやサステナビリティなどの社会のニーズや期待に応えていくため、独自技術のアクティブトレッドの実用化とセンシングコアの事業化を引き続き進めてまいります。
2024年10月、次世代オールシーズンタイヤ「SYNCHRO WEATHER」を国内市場において発売し好評を得ました。「SYNCHRO WEATHER」は、水や温度に反応し路面状態に合わせてゴム自ら性質が変化する当社独自の新技術アクティブトレッドを搭載した第一弾タイヤです。ドライ・ウェット・氷上・雪上などの様々な路面で高い性能を発揮します。また、夏冬のタイヤ履き替え回数を減らすことによる環境負荷軽減も期待できる商品で、今後さらに販売増を図ってまいります。将来的には、欧州・北米でもアクティブトレッド技術搭載の新商品投入を計画しており、そのための商品開発も加速してまいります。
車輪の回転速度からタイヤ周りの状態・状況を検知するセンシングコアは、将来のモビリティ社会に貢献できる当社独自の技術であり、成長事業の柱として取り組んでおります。2023年12月、車両部品の故障予知で実績のある米国「Viaduct社」に出資し、同社と連携して故障予知の実証実験を重ねており、2024年11月には、北米に拠点を新設し、顧客へのアプローチ強化を進めています。本年からは、タイヤ交換最適化・車両全体の故障予知サービスを開始し、事業化を進めてまいります。
また、「ダンロップ」商標権取得後は、欧州・北米・オセアニア地域はもとより、従来から「ダンロップ」タイヤを販売していた日本、中国、その他地域においても、「ダンロップ」商標権のグローバル(インドなど一部を除く)展開が可能となったメリットをいかし、「ダンロップ」タイヤの拡販に注力してまいります。
さらに、「ファルケン」タイヤでも、これまで培ってきた特徴ある商品力を軸に、差別化できる商品開発を進め、順次市場に投入することで高付加価値品の増販につなげ、ブランド価値最大化と収益向上に取り組んでまいります。
(スポーツ事業)
ゴルフ用品では、世界最大市場である北米においてマーケティングおよび営業体制を強化するとともに、日米2拠点での開発体制により、市場ニーズに応じた他社と差別化した魅力のある商品を投入することで、一層の拡販と新たな価値創出につなげてまいります。
テニス用品では、全豪オープンとのオフィシャルパートナー契約やATPツアーとのグローバルパートナーシップ契約の継続、全米大学テニス協会とのオフィシャルパートナー契約、世界有数のアカデミーとの協業等での若手育成およびトッププロ選手との契約強化といった「ダンロップ」ブランドの価値向上施策を基盤に、ボールやラケットのシェアアップを図ります。
また、今後のタイヤ事業における「ダンロップ」のグローバル展開に伴い、スポーツ事業とのクロスマーケティングなどシナジーを創出する取り組みも強化してまいります。
今後もスポーツ関連用品やサービスを通じて、お客様に感動と「ヨロコビ」を、引き続き提供してまいります。
(産業品他事業)
2024年までに、医療用ポンプ、ガス管、欧州の医療用ゴム製品事業の撤退を決め、事業の選択と集中、構造改革を進めてきましたが、2025年をターニングポイントとして今後さらに成長・拡大路線を進めてまいります。特に、医療用ゴム製品事業は、中長期的な生産能力の増強によってグローバルな事業拡大を目指し、制振事業は、シェアNo.1(※)の国内新築木造戸建て住宅用制震ダンパーを中心に、自然災害への対策強化を進めます。
今後も各事業で、時代のニーズに適応する付加価値の高い商品を開発・提供することにより、暮らし・街づくりに関わる社会課題解決に引き続き貢献してまいります。
※㈱未来トレンド研究機構調べ(2023年1月~12月における国内の新築木造戸建て住宅用制震ダンパーに
関する市場調査)
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は次のとおりであります。なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)サステナビリティ全般
当社グループは「住友の事業精神」を基にした企業理念体系「Our Philosophy」をすべての事業の基盤としております。また、「Our Philosophy」を社会や当社グループを取り巻く現在の環境に照らし合わせて、7つのマテリアリティ(重要課題)を見直しました。これらマテリアリティに関する取り組みを経営戦略に組み込むことで社会課題の解決を目指すとともに中長期的な企業価値の向上に努めます。
詳細は「住友ゴムグループのマテリアリティ」をご参照ください。
「住友ゴムグループのマテリアリティ」ページ URL
https://www.srigroup.co.jp/sustainability/materiality.html
マテリアリティの取り組みを含めたサステナビリティ施策を事業に組み込むため、サステナビリティ長期方針「はずむ未来チャレンジ2050」を策定し長期目標の設定と実績の把握を行っています。
気候変動への対応についてはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に沿った情報開示の拡充に取り組むとともに、温室効果ガスの効果的な排出量削減のためSBT認定を受けた目標を設定しております。生物多様性についてはTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の提言を採用する意思を表明しTNFD Adopterに登録しています。人権の尊重については、2023年12月に「住友ゴムグループ人権方針」を策定したのを皮切りに、2024年はサステナビリティ推進委員会下に人権部会を設立し、人権尊重の取り組みをより一層強化しております。
①ガバナンス
サステナビリティ経営を推進するにあたり、サステナビリティ統括役員を委員長、各部門担当役員を委員とする「サステナビリティ推進委員会」を年2回開催し、サステナビリティに関する経営上の議論や、重要課題の進捗確認等を実施しております。同委員会での経営層によるモニタリングやレビューを通じて経営とサステナビリティの統合を進め、取り組みを強化してまいります。同委員会において審議・報告された事項は取締役会に報告されます。
事業を横断する全社の取り組みについてはサステナビリティ推進委員会の承認のもと7つの部会を設置しており、これらの部会をサステナビリティ推進WG(ワーキンググループ)と総称しています。各部会は主管部門と参画部門で構成され、活動の企画・推進やサステナビリティ推進委員会への報告等を行います。「人権部会」と「はたらきたい未来の工場プロジェクト」の2つは2024年に新設した社会関連の部会です。「人権部会」では人権に関するリスクと機会を分析して早急に対応を実施し、「はたらきたい未来の工場プロジェクト」では将来にわたって多様な人が働きやすい職場環境の実現に向けた全社の取り組みを進めます。
②戦略
当社グループは「サステナビリティ経営の推進」を中期計画のバリュードライバーの1つに設定し、事業を通じた社会課題の解決を経営戦略として取り組んでいます。
(人権に関する取り組み)
「人権」は当社グループのマテリアリティ(重要課題)です。顧客やサプライヤーおよび拠点周辺の地域社会など、当社の事業とつながっている人々への人権尊重の責任を果たすため、2024年1月にサステナビリティ推進委員会下に「人権部会」を設置しました。主管部門に加え、海外拠点を含む各関係部門が参画し、各部門のリスク調査と対応状況をフォローできる体制を整備、サステナビリティ推進委員会ならびに経営層への報告を定期的に行っています。2024年は4回の全体会議を開催し、事務局が各部門の取り組み状況と課題を確認するとともに、課題に関する議論の実施や、好事例を相互に紹介する場としても活用しています。
また、人権リスクが高いと考えられる現場の実態を把握するため、国連機関など外部の専門家にアドバイスをいただきながら、人権部会メンバーが天然ゴム農園や原材料加工場、国内外の製造拠点の視察や労働者との対話を実施し、デスクトップリサーチに加え、関係者との対話を通して人権リスクの把握に努めています。2024年はグループ内製造拠点にフォーカスして取り組みを開始しましたが、2025年以降はバリューチェーンに活動のスコープを広げ、人権部会を中心に人権リスクを低減する体制を整備するとともに、継続的に現場視察やステークホルダーとの対話を行いながら人権尊重の取り組みを進めてまいります。
(TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への対応)
当社グループは気候変動をマテリアリティと捉え、温室効果ガス削減をはじめとする持続可能な社会の実現に努めています。2021年6月にはTCFDへの賛同を表明し、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4項目に基づき情報開示をしております。また昨年には、4℃および1.5/2℃のシナリオ分析を実施し、気候変動が事業に与える影響を詳細に把握することで、リスクと機会への対応策を整理・更新し、その内容を同年12月に当社サステナビリティサイトで公開しました。
詳細は「気候変動への対応(TCFD)」をご参照ください。
「気候変動への対応(TCFD)」ページ URL
https://www.srigroup.co.jp/sustainability/genki/ecology/04_5.html
(カーボンニュートラルに向けた取り組み)
当社グループの掲げる2030年までのCO2排出削減目標について、科学的知見と整合した目標であるとして、SBTイニシアチブ※1よりSBT※2認定を受けました。SBT認定を受けた当社のCO2排出削減目標は次のとおりです。
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区分 |
目標 |
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スコープ1,2(自社の活動を通じた排出) |
総排出量を55%削減(2017年比) |
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スコープ3(事業者の活動に関連する他社の排出) カテゴリ1(購入した製品・サービス) |
総排出量を25%削減(2021年比) |
※1 CDP、国連グローバル・コンパクト(UNGC)、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)により設立された共同イニシアチブ。企業に対して科学的知見と整合した目標(SBT: Science-based target)を設定することを支援し、適合していると認められる企業に対してSBT認定を与えている。
※2 パリ協定に沿った科学的知見と整合した温室効果ガス排出削減目標
<スコープ1、2>
当社グループのスコープ1、2において、2030年に2017年比でCO2半減、2050年にカーボンニュートラル達成を目標に掲げていましたが、各拠点の積極的な取り組みにより目標に対して前倒しで削減計画が進捗していることを受けて、2023年11月に目標値を2030年に55%削減(2017年比)に引き上げました。今後もさらに省エネルギーの推進、コージェネレーションシステムの拡大、太陽光発電の導入、水素への燃料転換等の取り組みの推進を継続し2050年カーボンニュートラル達成を目指してまいります。
2021年8月より開始した白河工場における燃料の脱炭素施策である水素ボイラーの実証実験は、課題とした24時間連続稼働・NOx低減など大きな問題はなく、計画通り2024年3月末で終了しました。実証実験終了後もボイラーの運転を継続しており、水素の地産地消モデルの構築を目指して引き続き取り組んでいます。また2024年5月に、自社での水素製造を目的として、山梨県とグリーン水素による脱炭素化等に係る基本合意書を締結しました。やまなしモデルP2G(ピー・ツー・ジー)システムを採用し、2025年4月から白河工場で水素製造装置が稼働開始する計画を策定し公表しました。
CO2排出量等の詳細データは「グローバル環境データ」をご参照ください。
「グローバル環境データ」ページ URL
https://www.srigroup.co.jp/sustainability/genki/ecology/04_4.html
<スコープ3>
当社グループの温室効果ガス排出量はスコープ3が約9割を占めており、サプライチェーン全体におけるカーボンニュートラル達成のためにはスコープ3排出量の削減が重要な課題となります。そのため当社は2023年11月に、スコープ3排出量のほぼ全てをカバーした2030年目標を設定しました。「材料開発・調達」では、サステナブル原材料の活用等で2030年に排出量25%削減(2021年比)を、「物流」ではモーダルシフトの推進等で2030年に排出量10%削減(2021年比)を、「販売・使用」「回収・リサイクル」ではタイヤの転がり抵抗低減等をそれぞれ進める予定です。各プロセスで取り組みを推進することで、目標値の達成を目指してまいります。
原材料の調達における削減を進めるにあたり、2024年に調達ガイドラインを改訂しカーボンニュートラルに取り組んでいくこととし、サプライヤ説明会で説明しました。
CO2排出量等の詳細データは「グローバル環境データ」をご参照ください。
「グローバル環境データ」ページ URL
https://www.srigroup.co.jp/sustainability/genki/ecology/04_4.html
なお、上記の各プロセスは、温室効果ガス(GHG)プロトコルにおけるスコープ3カテゴリに対し、次のとおり相当します。
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プロセス |
材料開発・調達 |
物流 |
販売・使用 |
回収・リサイクル |
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GHGプロトコルにおけるスコープ3 カテゴリ |
カテゴリ1 |
カテゴリ4 |
カテゴリ11 |
カテゴリ12 |
(サステナブル原材料の取り組み)
当社は環境に関する取り組みの一環として、当社独自の循環型ビジネス(サーキュラーエコノミー)構想である「TOWANOWA」を策定しました。バリューチェーンの「材料開発・調達」プロセスにおいて、CO2削減と持続可能な調達の実現を目指し、2030年に製造するタイヤのサステナブル原材料比率を40%に、2050年には100%サステナブルタイヤを実現することを目標としています。

(自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)への賛同)
当社グループは、マテリアリティ特定の過程で「生物多様性の保全」を解決すべき課題の1つとして認識し、取り組みを行っています。当社グループは2023年12月にTNFD Adopterに登録し、TNFD提言に沿った開示を行うことをコミットしており、当社ウェブサイトにおいて当社事業における自然関連リスクの初期的な分析結果について公開しております。
詳細は「TNFDへの対応」をご参照ください。
「TNFDへの対応」ページ URL
https://www.srigroup.co.jp/sustainability/environment/tnfd.html
③リスク管理
当社グループの事業活動に重大な影響を及ぼす恐れのあるサステナビリティ関連リスクを含めた全ての経営リスクについては、当社グループ全体のリスク管理について定めるリスク管理規定に基づき、それぞれの担当部署及び各子会社において事前にリスク分析、対応策を検討し、当社の経営会議等で審議しています。当社グループ横断的なリスクについては、当社管理部門の各部が、それぞれの所管業務に応じ関連部署及び各子会社と連携しながら、グループ全社としての対応を行います。リスク管理委員会は、住友ゴムグループ全体のリスク管理活動を統括し、リスク管理体制が有効に機能しているか適宜調査・確認します。また当社グループ及びグローバルサプライチェーンにおける、社会や環境に与える負荷を低減していくために特に重要と考えるテーマについてはサステナビリティ推進委員会により経営層によるモニタリング・レビューを行い、取締役会に報告されています。
④指標及び目標
当社グループはサステナビリティ長期方針「はずむ未来チャレンジ2050」で設定したカーボンニュートラル及び製品のサステナブル原材料比率100%達成を目指して活動を推進しています。
またそのほかの重要な指標についても当社ウェブサイトに公開しています。
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項 目 |
2030年目標 |
2050年目標 |
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カーボンニュートラルに向けた取り組み |
スコープ1、2 |
55%削減(2017年比) |
カーボンニュートラル達成 |
|
スコープ3 |
カテゴリ1:25%削減 カテゴリ4:10%削減 (共に2021年比) |
- |
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|
サステナブル原材料※比率向上に 向けた取り組み |
40% |
100% |
|
※サステナブル原材料とは例えば生物由来原材料やリサイクル原材料など、持続可能なリソースからなる原材料を指します。
(2)人的資本
①基本的な考え方
当社は、「Our Philosophy」の「Purpose」である「未来をひらくイノベーションで最高の安心とヨロコビをつくる。」の体現のため、「Vision」として組織としてのありたい姿「多様な力をひとつに、共に成長し、変化をのりこえる会社になる。」を実現すべく人的資本経営を進めています。
多様な人材が総力を結集し、社員一人ひとりが持つ強みを活かして価値を生み出すことで、これからの新しい時代にもイノベーションを通じて最高の安心とヨロコビをステークホルダーの皆様に提供することができると確信しています。
②ガバナンス
当社は、人的資本を企業価値の重要な要素と位置付け、持続的な成長を実現するためのガバナンス体制を構築しています。
(意思決定のプロセス)
人事総務部門担当取締役が委員長となり、社内取締役により組織される人事委員会を設置し、後継者候補の継続的把握や、主要ポストへの任用可否の審議を行い取締役会での報告・決議を社内規定に即して実施しています。また、社外取締役・社外監査役も参加する指名報酬委員会では、取締役の任免および報酬の決定を行っています。
(データ活用)
従業員構成(性別、役職、年齢)、組織体質調査結果などのデータを定期的に収集し、分析しています。これに基づき、地域・部門ごとの具体的施策を計画しています。具体的には、組織体質調査結果を活用し、組織変革プロジェクトにおいて、全部門長が職場代表のチェンジリーダーと協力し組織体質改善の取り組みを推進しています。
(透明性の確保)
年次レポートやサステナビリティ報告書で人的資本の指標を開示し、透明性を確保しています。また、えるぼし認定やPRIDE指標ゴールドなどの社外認定を取得し、活動の評価を受けています。
③人的資本の戦略
当社は、これまで様々な技術革新を通じて、世界初・日本初の製品を数多く生み出してきました。主力ビジネスであるタイヤ事業においては、シミュレーション技術を駆使して開発したタイヤを「デジタイヤ」として市場に送り出してきました。2015年からはスーパーコンピューターを活用し、分子レベルで内部構造や分子運動を解析できる「ADVANCED 4D NANO DESIGN」を導入し、さらなる革新を追求しています。
これらの取り組みからも分かるように、デジタル技術は当社にとってイノベーションを創出するために必要不可欠な要素です。この技術力と先進性は、タイヤ事業のみならず、スポーツ事業、産業品事業、データビジネスなど全ての分野で価値を生み出す源泉となっています。
また、当社は全ての事業の基盤となる「ゴム・解析技術力」を活用し、「SYNCHRO WETHER」を発表し、市場でも好評を得ております。さらに、従来のモノ売りからコト売りへの事業範囲の拡大を進めることでセンシング技術による事前の危険察知などへも取り組んでおり更なるイノベーションの基盤を作っております。
さらに、2025年1月には欧州・米州・オセアニア地域における四輪タイヤのDUNLOP商標権等の取得を決議し、更なるグローバル経営の基盤になる「ブランド推進力」を新たな強みとして基盤を構築しております。
長期的・持続的に企業価値を向上するため、グローバル経営人材・イノベーション人材・DX人材を、成長事業のビジネス拡大を担う継続的成長をリードする人材として位置付けています。変化の激しい時代に柔軟に対応し、未来を切り拓く人材の育成のための施策に取り組んでいます。さらに、こうした人材が活躍できる基盤の整備として、個の成長と多様な人材の属性や価値観を尊重し、総力を結集し長期経営計画を実現していきます。具体的には次の4つの戦略を掲げています。
(戦略1:グローバル経営人材の育成)
先行きが不透明で将来の予測が困難な「VUCA」と呼ばれる現代では、迅速な意思決定と変化に柔軟に対応できるリーダーシップが求められます。当社では、不確実な状況下でも冷静に判断し、先見性を持って行動できる「グローバル経営人材」の育成を重視しています。 そのために、役員層及び海外拠点代表者(含、現地人材)のリーダーシップ向上と連携強化を目的に、定期的なエグゼクティブコーチングを実施しています。
また、役員・管理職層および課長代理には、知識のインプット、行動のアウトプット、他者からのフィードバックというリーダーシップ向上サイクルを構築し、社員のリーダーシップ向上に努めています。さらに、毎年の「組織体質アンケート」を通じて社員の声を反映し、リーダーシップに関する継続的な改善を図っています。この戦略により、役員層および管理職層のリーダーシップスキルを向上させ、組織全体の一体感と連携を強化し、持続可能な成長を実現します。
(戦略2:イノベーション人材の育成)
住友ゴムはゴム技術を基盤として社会に新しい価値を提供するイノベーションを起こしてきました。現在でも新しい技術として「Smart Tire Concept」「水素エネルギーを活用したタイヤ製造」「高減衰ゴムを活用した制振技術」などを生み出し続けています。これからも新しい時代にイノベーションを起こし続けることができるよう、イノベーションに挑戦できる人材と風土を育てています。「イノベーション育成プログラム」を通した体系的な育成に加えて、専門人材がより活躍できるよう、従来は単線的であった人事制度をマネジメントコースとスペシャリストコースに複線化することで単線的で専門人材が中長期的に活躍し続けられる人事制度を適用しています。さらに、Challenge Awards Dayで年間の取り組みを表彰することで社員のモチベーション向上と革新を促進につなげています。
(戦略3:DX人材の育成)
デジタル技術を活用してビジネスモデルや業務プロセスを根本から変革し、より高度で効率的な意思決定や業務推進をすることが求められています。この変革を成功させるためには、デジタル技術の知識を有するだけでなく、ビジネスに応用し、新たな価値を創出できる能力や変化に柔軟に対応して、組織内でのデジタル化推進のリーダーシップを発揮することが求められます。こうしたDX人材を育成し、定着し、活躍できる仕組みを構築しています。
具体的には、DX人材育成プログラムではデータリテラシー向上を目的とした基礎研修を全社展開し、基礎研修をベースにDXの推進に必要なスキルセットに合わせて3つの発展研修を設けています。2024年は新たにオープンバッジを導入し、学びのモチベーションの持続に繋げています。また、生成AI活用事例や社内でのRPAユーザー開発の成果など社内講習やコミュニティー活動を通して積極的に共有し、社員が安心してデジタル活用できるよう支援しています。
(戦略4:全社員の多様性の拡大とパフォーマンスの向上)
Visionにもある「多様な力をひとつに」することで組織としてのパフォーマンスが向上すると考えています。特に人の持つ属性の多様性を高めることは年齢、性別、国籍、雇用形態など様々な社員が集まることで、異なる視点やアイデアが生まれ、イノベーションが促進されると考えます。多様なチームは、幅広い解決策を生み出し、より柔軟で包括的なアプローチによる問題解決を行うことができます。一方で、多様性のみではなく個々人のパフォーマンスを高めることも重要です。「Our Philosophy」に共感し、目的をひとつにして、共に歩む人材が、エンゲージメント高く、心身共に健康で、高い知識・スキルや豊富な経験を身に付け、ステークホルダーの皆様に高い価値を提供できるような仕組みや風土を築く取り組みを進めています。
④リスク管理
当社は、人材流出による知識・技術の損失、労働市場の変化による採用競争激化、労働問題発生とレピュテーションリスクを人的資本経営におけるリスクと捉え、リスク低減に努めています。具体的には以下のようなリスク管理を行っています。
まず、人材確保の観点からは個の成長に向けた各種研修体系の整備や、魅力ある職場の実現のため職場環境・組織体質の改善を通じて、離職防止に努めています。また、キャリアを自律的に考え、挑戦する人材を育てるためのキャリア支援制度を提供しています。これらの活動により、従業員のエンゲージメント向上を図り、職場環境の改善を通じて働きやすい環境を整備しています。
さらに、採用プロセスの見直しを行い、多様な人材を確保するためにコース別採用、インターンシッププログラム、従業員紹介制度(リファラル採用)などを導入しています。これにより、優秀な人材の確保と育成を図り、2024年には定期昇給に加えて賃金改善(ベースアップ)を実施することで、従業員の金銭的インセンティブの改善にも努めています。
サステナブルな組織運営のためには主要ポストでの後継者の持続性が重要だととらえており、一部の部長級ポストでタレントプールを可視化し、社内取締役で組織している人事委員会で人材の充足状況を把握しています。今後は対象範囲を拡大しHR Techと組み合わせることでより中長期的な人材配置と育成計画を可視化し組織知としていく計画です。
労働問題発生によるレピュテーションリスクの抑制については、四半期に一度開催される企業倫理委員会を設置し、労働時間管理・コンプライアンス案件の共有を徹底することで、労働問題の発生を未然に防ぐ取り組みを行っています。これにより、企業の信頼性を維持し、レピュテーションリスクの抑制に努めています。
⑤目標と実績
⑥取り組み事例
(経営人材育成のための取り組み)
イ.役員層へのエグゼクティブコーチング
役員層のリーダーシップ向上と一枚岩化を目指し、リーダーシップに関する認識を深め、役員間での連携強化を目的としています。社外のプロのエグゼクティブコーチを招き、執行役員以上(及び一部の海外ナショナル経営幹部)に対して定期的なコーチングを実施しています。月に一度、定例でのコーチングを実施して経営課題や組織課題についてのディスカッションを行っています。定期的なコーチングセッションを通じて、役員のリーダーシップ力向上や役員間の信頼関係・協力体制の強化が進み、組織の一体感の向上につながっています。また、エグゼクティブコーチを介した役員語る場も実施し、各役員の考えや思いを社員と共有する機会になっています。また、役員間の信頼関係が深まり、協力体制が強化されました。今後も継続的にエグゼクティブコーチングを実施し、役員層のリーダーシップスキルのさらなる向上を目指すと共に、海外拠点でのコーチングも強化し、グローバルな視点でのリーダーシップ育成を推進します。
ロ.役員・管理職層及び課長代理へのリーダーシップ向上サイクル
経営人材を育成するにあたり重要な要素となるリーダーシップを継続的に向上させるため、知識のインプット・他者からのフィードバック・行動としてのアウトプットというサイクルを年単位で回しています。知識のインプットとしてはリーダーシップやフォロワーシップ、コミュニケーションについての研修を整備しており、自身に必要な講座を柔軟に受講することができます。次に、他者からのフィードバックは、360度フィードバックと組織風土調査を活用することができます。360度フィードバックを通じて自身のリーダーシップの癖や状態を客観的に見つめ、組織風土調査を通して、自身の所属する組織の状態を計測・可視化しています。これらのインプットとフィードバックを基に、具体的な行動計画を策定し、実行することで、行動としてのアウトプットに繋げています。
毎年実施している「組織体質アンケート」での「リーダーシップ」に関する社員の声としては着実に良化しています。リーダーシップ設問全体のポジティブ回答率は73.2%と対前年0.9%向上、その内「心理的安全性の確保」に関しては75.6%と対前年4.2%向上しました。2024年度から、自社の経営事例を振り返り、経営判断や意思決定力を向上させるための研修を開始しており、今後も拡充していく予定です。
(イノベーション推進のための取り組み)
イ.イノベーション人材育成プログラム
イノベーション人材の育成と企業文化の変革を目的とし、新しいアイデアや技術を生み出すためのスキルや知識を持つ人材を育成し、イノベーションを推進する企業文化を醸成し、全社員が新しいアイデアを積極的に提案し、実行できる環境を整える取り組みを行っています。事務系・技術系を問わず、イノベーションに興味がある従業員を対象に2023年からイノベーション人材育成プログラム「SRIイノベーションアカデミー」を開始しています。一連の講義を受講しながら新規事業を立案する産学連携カリキュラムとなっています。「イノベーション」「アントレプレナーシップ(起業家精神)」とは何かを知り、その進め方を学び、大学内の技術を活用する方法、社内ベンチャー、VC(ベンチャーキャピタル)投資の仕組みを学ぶことで、新しいビジネス創出の考え方や、自身の仕事に新しい発想をとりこむことにつなげています。2年目の2024年はプログラム参加者として6チーム22名が参加しました。最終的なアウトプットとして各チームが新規事業創出案を考案し、役員に最終ピッチ報告を実施しました。またオーディエンス参加者も毎回100名超がオンライン視聴しており、イノベーションマインドを体感しました。2024年度までは、イノベーションマインド醸成を主に教育してきました。今後は考え方やテクニカルな進め方、実践を通じたビジネスモデル推進スキル等、体系立てた教育を実施していきます。さらに社員が考案した新規事業案を評価し、実際の事業化に繋げていく為の仕組み作りも進めていきます。
ロ.スペシャリストコースの運用拡大
個々の働き方・生き方・価値観が多様化する中、性別やライフスタイルに依拠せず、多様なバックグラウンドの社員がモチベーション高くパフォーマンスを発揮できる環境整備のため、仕事基準の人事制度への見直しを段階的に進めています。
まずはそのファーストステップとして、管理職層を対象に2021年に仕事基準の人事処遇制度へ移行しました。従来、単線的であった管理職の制度をマネジメントコースとスペシャリストコースに分けて専門人材がより活躍できる枠組みとしました。2025年1月にはフェローとして、業界での第一人者として非常に高度な専門性を駆使し、当社事業推進に直結する戦略性・新規性の高い課題解決を牽引するスペシャリストを認定する運用を開始し、2名のフェローを任用しています。一般社員層を対象とした人事処遇制度の見直しも進めており、年功要素を薄め、仕事や成果基準で処遇される人事制度へと改訂、2025年中の導入に向けて準備を進めています。
ハ.Challenge Awards Day
社員のモチベーション向上とイノベーションを促進し、チャレンジを推奨する風土づくりを目的とし、毎年年末に年間の取り組みを表彰するイベントを開催しています。
表彰はテクノサイエンス賞・BTC(Be the Change)年間表彰・サステナビリティ表彰の3部門で行われます。
テクノサイエンス賞として、次世代への創造の芽を生み出していく基礎研究・技術開発・設備開発・生産技術などにおける革新的な内容に対して表彰を行います。BTC年間表彰としては、組織体質と利益基盤のいずれかもしくは双方において大きな改善があった内容に対して表彰を行います。サステナビリティ表彰は活動ガイドラインGENKI(G:Governance、E:Ecology、N:Next、K:Kindness、I:Integrity)の各部門において、サステナビリティビジョンである「わたしたちは、多様な力をひとつに、環境や社会にやさしい製品・サービスを提供することで、持続可能で「GENKI」な未来を創造します」において優秀な活動を表彰します。
2024年は例年より各賞の時間を確保し、最優秀賞受賞活動全5件のプレゼンも実施するなどイベントの充実度も向上させております。
<2024年表彰実績>
・テクノサイエンス賞 最優秀賞1件、優秀賞6件
・BTC年間表彰 最優秀賞1件、優秀賞4件
・サステナビリティ表彰 最優秀賞3件、優秀賞11件、特別功労賞4件
2024年度は、社長賞の特別表彰もあり、「新技術アクティブトレッド搭載 シンクロウェザー発売に関わった全ての部門」が選ばれ実際のビジネスにおけるイノベーションへの貢献を称え、ヨロコビを分かち合いました。
また、2024年の表彰実績には、日本国内だけでなくグローバル拠点での表彰6件も含まれています。特に、トルコと中国の拠点からは最優秀賞を受賞しています。これらの成果は、当社のイノベーション人材育成がグローバル全体で着実に進展していることを示しています。
(DX人材育成のための取り組み)
イ.DX人材育成プログラム
2025年までにスタッフ系全従業員約3,500人を対象にDXリテラシー教育を行い、データに基づく意思決定や行動(データドリブン)の全社的な実現に向け、基盤づくりを進めています。
DX人材育成に必要な3つのスキル領域に合わせて、DXリテラシー教育をベースに、ビジネスコア(ビジネスにDXを適用させ推進)、プロ(AIを活用し高度なデータ分析を実行)、データエンジニア(必要なデータの収集・活用・管理を効率的に実施)の3コースで構成した人材育成を実施しています。
2024年末時点で、DXリテラシー研修の受講者は3,540名と目標を達成しました。さらに、2024年5月から、知識・スキル・経験のデジタル証明となるオープンバッジを新たに導入しました。e-learningを通じたデジタルスキル習得に加え、PBL(課題解決型学習)やコンペティションなどの実践的な活動機会を拡充し、学びを価値創出に直結させる仕組みを整備しています。
DX人材育成を通した成果創出を強化し、社内で専門知識を有する講師の育成を進めるとともに、社員同士が教えあい、学びあう文化を醸成する体制を構築してまいります。そして、個々の成長を組織全体の競争力向上へとつなげる好循環の仕組みを作り上げていきます。
ロ.RPAユーザー開発
当社では、定型的な事務作業の効率化を行い、より付加価値の高い業務にリソースシフトを図り、社員のデジタルリテラシーの向上に寄与することを目的として、全社でのRPAの活用を促進しています。社員が自らRPAツールを開発・活用できる環境を整備しています。プログラミング未経験からでも開発できるよう研修プログラムを提供しております。特に、e-learning形式のフレキシブルな研修やTeamsでの随時の質疑対応、社内の事例共有などのサポート体制を手厚くしております。2024年末までに523名が研修を受講完了し、757件のRPAユーザー開発が行われております。RPAユーザー開発とIT部門によるRPA開発を合わせると、業務時間が年間あたり9万4千時間削減され、より付加価値の高い業務に集中できるようになりました。さらに社員のデジタルリテラシーの向上にも寄与しています。今後もRPAの活用を推進し、さらなる業務効率化を図るとともに、社員のスキルアップを支援していきます。特に、AIとの連携を強化し、より高度な自動化を実現することで、企業全体の競争力を向上させることを目指します。
ハ.Tableauの活用
当社ではデータの可視化により迅速かつ高度な意思決定を可能にする文化醸成を目的として、セルフBIツール「Tableau」の活用を促進しています。
製造部門・SCM部門・販売部門・ソリューション部門など幅広く実務に活用しており、レポートの自動作成やダッシュボードを活用した分析を通じて、業務効率化/高度化に繋げています。さらに、現場が自らレポートやダッシュボードを作成することで、データ活用の文化醸成にも寄与しています。2024年は社内BI(Tableau)コンペティションを開催し、多数の社員が楽しみながらスキル向上する機会を提供しました。また、社内推進を加速させるために、認定資格である「DATA Saber」プログラムを導入し育成を進めています。2024年末時点で9名が認定されています。グローバル全体でのデータドリブン文化醸成のさらなる醸成に向け、グループ全体でのデータをシェアしやすい環境へのアップデートを計画しています。また、経営ダッシュボードなど、全社共通で利用するプロダクトの開発を本格化し、事業価値向上に繋がる取り組みに注力していきます。
ニ.人事部AIチャットボット「チャボ」の導入
社員から寄せられる問い合わせへの対応に人事部AIチャットボット「チャボ」を導入し、人事業務の担当者からチャットボット「チャボ」が問い合わせ業務を代行することでDXを推進しています。「チャボ」の導入により、社員がいつでも気軽に質問できる環境創出による心理的負担の軽減や、業務や知識の属人化を防ぎ、問い合わせへの回答を統一化することなどに役立っています。社員がいつでも気軽に質問できる環境を創出し、心理的負担を軽減しています。また、業務や知識の属人化を防ぎ、問い合わせへの回答を統一化することにも役立っています。現在、月に約1,000件の問い合わせが「チャボ」を通じて寄せられており、これまで問い合わせ対応をしていた担当者がよりコア業務に集中できるようになっています。今後はセキュリティを強化し、各種規程を取り込んで回答精度を向上させることで、「チャボ」の活用の範囲の拡大を図ります。
ホ.Digital Innovation Day
データドリブンな組織とするためのナレッジの共有、ユーザー同士のコミュニケーション活性化、そしてシナジー創出の起点とすることを目的として、各部門・拠点でのDX活動を共有、他社の取り組みを学ぶことで、今後のイノベーションにつながる新たなコミュニケーションを促進するイベントとして、2022年から毎年継続的に開催しています。
2024年は6月と10月にDigital Innovation Dayを開催し、6月は410名、10月は550名が参加しました。また、海外拠点では中国・タイでもDigital Innovation Dayが開催されました。今後も定期的に開催していき、全社のコミュニティー作りに繋げていきます。さらに、グローバルとも連携し、交流の場をさらに広げていくことを計画しています。
へ.生成AI「Microsoft Copilot」の社内カスタマイズ利用
生成AI「Microsoft Copilot」を活用し、従業員の生産性向上と業務効率化を推進することを目的としています。「Microsoft Copilot」を社内業務に適用するため、各部門のニーズに応じたカスタマイズや研修/ワークショップの活動を実施しました。ドキュメント作成支援、データ分析の自動化、社内会議の効率化など、多岐にわたる業務プロセスにおいてAIを活用しています。活用促進に向けて、生成AIの活用方法を考えるワークショップや、e-learningを活用した学習機会を提供し、社内の理解を深めました。今後は、生成AIの活用範囲をさらに拡大し、より高度な業務プロセスの自動化や、新たなスキル開発プログラムの導入を進めていきます。また、AI技術の進化を踏まえ、社員の成長を支援する新たな取り組みを積極的に推進していきます。
<社外からの認定等>
・第2回オープンバッジ大賞「奨励賞(企業部門)」受賞(2024年、一般財団法人オープンバッジ・ネットワーク)
・「DX認定事業者」認定(2024年10月、経済産業省)
・「Dataiku Frontrunner Awards 2024」受賞(2024年10月、Dataiku)
・SFUG CUP2024 ファイナリスト選出(2024年5月、Salesforce)
(全社員の多様性の拡大とパフォーマンスの向上のための取り組み)
イ.DE&Iの取り組み
住友ゴムグループが掲げる7つのマテリアリティの1つとして、「多様な人材」を設定しています。「多様な個性をもつ仲間とともに成長する企業」を実現するためにダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン推進を重要な要素としてとらえています。多様な個が存分に強みを発揮し活躍できる組織・風土づくりが社員のエンゲージメント・生産性向上へとつながり、当社グループのありたい姿の実現につながると考えています。互いに認め高め合える職場環境を実現し、チームの総合力向上、ひいては企業価値の向上につながるよう、さらに推進してまいります。

住友ゴムが目指すDE&Iの姿 概念図
a.役員、マネジメント層の理解と実践
社外専門家を招いた研修により、社長含め役員および管理職がDE&Iの意義およびマネジメント層が果たすべき役割を深く理解しました。その学びを、日々のマネジメント業務に繋げています。
b.ジェンダーギャップ是正の取り組み
○女性のキャリア育成
「女性が活躍できる組織」は、“性別や属性を問わず多様な人材が力を発揮できる組織”であるという認識のもと、“ジェンダーギャップ”を生んできた要因を一つずつ取り除き、すべての社員が輝ける組織づくりを推進しています。推進にあたっては、女性管理職比率の向上等の見えやすい課題のみならず、性別役割の意識やジェンダーバイアスといった見えにくい課題にも取り組んでいます。
·女性社外取締役と女性社員との座談会
当社女性社外取締役である其田氏が参加し、キャリアやライフイベントに関する率直な意見交換を行いました。活発な議論が交わされ、参加者にとってエンパワーメントされる貴重な機会となりました。
·メンター制度
先輩社員が、他部門の後輩社員のキャリアやワークライフバランス、日々の業務で抱える様々な悩みへの相談に応じ、自己内省を促す「メンター制度」を推進しています。また、メンター自身も、社外のプロフェッショナルメンターとの対話を通じ、エンパワーメントされ、リーダーの育成につながっています。2024年は新たに7名のメンターを育成し、25名の社員がメンタリングを活用しました。
·地域社会での女性活躍推進
地域全体で女性の活躍を推進するため、神戸地区を拠点とする製造業2社と連携し、「神戸モノづくり企業 技術系女性交流会」を開催、2024年末までで4回のイベントを実施しています。第4回イベントには160名(うちオンライン90名)の女性エンジニアと、その上司が参加し、活発な意見交換を行いました。当社は、企業単独の取り組みにとどまらず、他企業との「共創」を通じて、社会全体でのDE&I推進に貢献していきます。
○男性の働き方の多様性
男性の育児参画は、生産性の向上や多様な社員が働きやすい職場づくりに不可欠であると認識し、育児休業の取得促進に取り組んでいます。社長含め役員および管理職を対象とした企業倫理講演会や一般社員向けの研修にて、男性の育休とDE&I、生産性向上の関係性について理解を深めました。2024年には育児のための有給公休制度を試験導入。さらに、DE&I推進に積極的な「イクボス」の取り組みを社内報で紹介するなど、男性の育児参画や多様な働き方が重要な要素と認識される企業風土を醸成しています。その結果、2024年は、社内制度を活用した男性育休取得率100%を達成しました。育児のための有給公休制度は2025年の本格導入を目指しています。
○意識・風土醸成のための取り組み(アンコンシャスバイアス理解促進)
無意識の思い込み(アンコンシャスバイアス)に気づき、行動を意識的に変えるため、全社員を対象に継続的な教育プログラムを実施するとともに、全社アンケート結果をもとにプログラムの内容や展開方法の改善につなげています。2024年からは製造現場の社員向けにも研修を導入し、会社全体で多様性を受け入れる風土の醸成を進めています。
○製造現場での取り組み
製造業である当社にとって、多様な人材が働きやすい環境の整備は重要な課題と認識しております。2021年に国内工場横断のプロジェクトチームを立ち上げ、女性作業員の受け入れ体制の強化を目的に女子トイレやロッカーなどの厚生設備の改善を実施しました。また、女性作業員による現場パトロールを実施し、従来指摘されなかった課題の発見と改善に取り組んでいます。これにより、女性だけでなく全従業員にとってより安全で働きやすい職場環境の整備を推進しています。さらに、2024年には「サステナビリティ推進委員会」の下に「はたらきたい未来の工場プロジェクト」を設立し、「誰もが働きやすい」職場環境の実現に向け全社でより強力に取り組みを進めています。
c.多様な人材が活躍できる環境づくり
一人ひとりが自分らしく、安心して働ける職場づくりは、DE&I推進の基盤となるものです。当社は、ジェンダーギャップ是正の取り組みに加え、多様なバックグラウンドを持つ社員がその能力を最大限に発揮できる環境整備を進め、持続可能な成長を実現する組織を目指します。
〇障がい者活躍推進
障がいの種類を問わず、様々な職場で障がいのある方が働いており、そのような方々が個性や能力を発揮できるようサポートしています。バリアフリートイレ等の設備面が整備されており、ジョブコーチが在籍しています。また、各事業所に健康管理スタッフ(産業医・看護職)を配置しており、心身の健康について気軽に相談できる体制が整っています。
※障がい者雇用に特化した特例子会社「㈱SRIウィズ」をグループとして有しております。
〇シニア人材活躍推進
従来の再雇用制度においては、再雇用後の処遇は一律に引き下がるものでありましたが、2021年4月に管理職に仕事基準の役割等級制度を導入し、それに倣う形で翌年2022年から再雇用人材に対しても役割等級制度を導入しました。これにより、ラインマネジメントを継続して行っている人材や専門性を活かして活躍する人材に関しては、定年退職前の水準と同程度の処遇で活躍する人材も出てきています。
また、2024年からは50代の社員向けのキャリアビジョン研修を新設しました。50歳~60歳以降も、モチベーション高く、会社及び社会の中で活躍する為に、自身の持っているスキル・経験を棚卸し、今後のキャリアの選択肢を知ったうえで、リスキリングと納得のいくキャリアを考える機会を提供しました。2025年にはさらに対象を拡大していきます。
〇性的マイノリティへの理解促進
職場における性的指向や性自認への差別を排除し、全社員が自分らしく働ける環境を整備するため、一人ひとりの理解促進と意識醸成につながるさまざまな取り組みを通して、理解者・支援者(Ally)の増加を推進しています。
全社員を対象としたLGBTQ+に関する理解を深める研修や、採用面接官向けの研修の実施、研修受講者のうち希望者へのAllyステッカーの配付、PRIDE月間(6月)に神戸・東京本社・国内6工場でのレインボーフラッグの設置、社外企業主催のAllyプロジェクトへの参画などを実施しました。結果、「PRIDE指標2024」において「ゴールド」を3年連続で受賞しました。
〇多様な働き方を支援する仕組み
近年の社会環境の変化に伴い、当社でも多様な働き方に対応した制度、仕組みを導入、拡充しています。仕事にメリハリをつけ、プライベートとの両立を支援するため、時間外労働の削減や有給休暇付与日数増加・取得を推進するとともに、在宅勤務制度や時短勤務制度、フレックスタイム制の導入など育児・介護などとの両立にも配慮しています。また、多様性を育む職場環境の整備として、オフィスでの服装自由化や一部フリーアドレス制の導入などを通し、コミュニケーション活性化に取り組んでいます。個人の個性を尊重し、自由な発想や自律的な思考が生まれやすい職場の風土づくりを進めています。
<社外からの認定等>
・女性活躍企業への認証「えるぼし認定(三つ星)」取得(2022年、厚生労働大臣)
・「ひょうご仕事と生活のバランス企業表彰」(2023年、兵庫県)
・「ひょうご・こうべ女性活躍推進企業(ミモザ企業)認定」(2023年、兵庫県・神戸市合同認定)
・「PRIDE指標2024」での「ゴールド」を3年連続で受賞(2024年、一般社団法人work with Pride)
・「D&I AWARD」での最高位「ベストワークプレイス賞」を2年連続で認定取得 (2024年 85点 /100点、Job
Rainbow)
ロ.社員パフォーマンス向上のための取り組み
住友ゴムの企業理念である「Our Philosophy」を体現できる人材、社会に貢献できる人材を育成し、組織の成長と個人の成長の二つの側面から企業全体の競争力強化と持続的な成長に繋げていきます。組織の成長では多様な人材/多様な力が連携する強い組織を作ること、個人の成長では一人ひとりのキャリアビジョン実現に向けて、主体的に能力開発と自己実現を図れる自律型人材を養成することです。そして個人の成長では人事制度/目標管理制度とも連動させた成長サイクルを回すことに対して様々な施策を社員に提供していきます。
また、この成長サイクルを回すベースには、キャリアビジョン研修やキャリアコンサルティング面談等のキャリア自律支援の施策も重要です。タレントマネジメントによる育成ゴールを見据えた各種育成施策(研修、異動、配置転換、プロジェクト参加等)と合わせて社員一人ひとりの成長とキャリア形成を後押ししていきます。

a.「Our Philosophy」浸透
当社は「Our Philosophy」を2020年に策定してから、全社を挙げて従業員への浸透活動を進めてきました。浸透にあたっては、「Our Philosophy」の浸透度を組織ごとのスコアの平均及びバラツキで「認知」「理解」「共感」「実践」の4つのフェーズに分け、拠点や部門の状況及び浸透度にあった形で施策を進めています。
2030年には「共感」「実践」フェーズの従業員割合が80%以上の状態を目指しており、ワークショップ形式でのオンライン浸透セミナーを実施してきました。現在は浸透に向けた施策として、階層別研修や昇格者研修のカリキュラムに「Our Philosophy」を自分事化するセミナーを組み込んでいる他、各拠点独自の浸透セミナーやワークショップ実施に向けてもフォローし、「Our Philosophy」を体現できる人材の育成に繋げていきます。
グローバル拠点の一例を挙げると、ブラジルでは、浸透活動の一つとして「Bad News First/Fast」の実行をマネジメント層からチームメンバーに推奨しています。人事評価では、部門間で連携し達成すべきKPIによる実績評価と理念に則った行動評価を組み合わせた仕組みを導入。さらに、9Boxを用いて、「Our Philosophy」に沿った姿勢をポテンシャル評価とすることで中長期的な人材登用やローテーション検討に活かしています。また、日常の活動や行動を称賛するための仕組みとして「Muito Obrigado」カードを導入し、上司や同僚から謝意を伝えるとともに、四半期毎に対象者を集め、会社として事例共有の場を設けています。
b.タレントマネジメント
当社では、社員のタレントマネジメント(後継者管理・後継者育成)をサステナブルな経営人材の輩出や社員の成長のための重要な施策と位置付けています。
具体的な取り組みとして、社内取締役で構成される人事委員会(2022年より開始)にて、部長級以上の人材配置について毎月議論を行っています。また、全社の主要ポストを特定し、そのポストの後継候補を複数名選出、配置や育成について議論をしています。
また、一部の部門においてもその領域における重要ポストの候補人材を可視化し、領域全体の部門長でその配置や育成方法について議論しています。このような動きを全社に拡大し社員の成長を支援する取り組みを加速させております。その実効性確保のためにも、社員のスキル、キャリア志向を含む人材データ基盤の整備も継続して進めています。
c.キャリア支援
社員が自らのキャリアを描き、挑戦し輝ける機会を創出するため、キャリア支援の施策として、制度・研修・相談の支援を行っています。
制度としては、キャリアマッチング制度・プロジェクト公募制度・交換留職制度の三つの制度を設けています。キャリアマッチング制度は、社員自身がキャリア志向をデータベースに登録し人事部と関係役員に共有されます。自身のキャリアビジョンを開示することでキャリア自律を促し、より活躍できるフィールドを提供することに役立てています。プロジェクト公募制度は、各部門にてプロジェクトを立ち上げたいもしくは増強したいが人材が不足している際などに、全社向けにメンバーの公募を行います。本制度は社内に留まらず、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会への出向など、社外プロジェクトの公募も行っています。相談体制としては、2023年からは従業員の自律的キャリア形成を支援するため、社内のキャリアコンサルタントへの相談体制を整備し、キャリアを考える機会として社員に使っていただいています。
d.研修体系
「Our Philosophy」を体現できる人材を育成する為に、また一人ひとりが成長サイクルを回して自身のキャリアビジョン実現に向けて、主体的に能力開発と自己実現を図れるように、多様な研修施策も準備し、体系化しています。
各年代でのキャリアビジョン研修をベースに、階層別研修やスキルアップ研修、ニーズの多様化に対応すべく様々なe-learningコンテンツ(学び放題)等を通じて能力開発を後押ししています。また今後企業のさらなる発展のために必要な、グローバル経営人材/DX人材/イノベーション人材等を育成する為の研修も拡充させていきます。
当社は工場の生産現場で働く社員も多く、技能系社員に対しても同様に研修体系を拡充させてきています。職場を運営するうえで必要な職場管理の知識/スキルを学ぶ昇格研修のみならず、職場長として職場目標達成に向けてメンバーを率いていくためのマネジメント力や改善スキルを磨く研修では長期にわたって、実践も含めた教育を実施しています。
e.組織風土向上とワークエンゲージメント
当社は、2019年に「Be the Change Project(BTC)」を立ち上げ、組織体質と利益基盤の強化を目的とした全社横断の活動を展開してきました。
組織体質改善では、2024年からは「BTC組織風土チェンジプロジェクト」として活動を進化させています。 従来の活動骨太方針である、①挑戦を後押しする環境(制度・風土)、②部門・役職間の壁がなく、オープンな職場、③一人一人がリーダーシップを発揮できる環境、④全社戦略と紐づいた生産性の高い仕事 を継承し、新たに掲げた組織風土のありたい姿「社員のヨロコビとワクワク感で満ちあふれる会社にする」を目指して、各部門が組織の持続的な発展とパフォーマンス向上、及びより良い組織に変化し続ける為の活動を積極的に進めています。
この「組織体質」改善のプロジェクトを進めてきた中で、毎年組織体質アンケート(組織健康度調査)を実施し、課題の明確化と毎年の活動方針策定に反映させてきました。
2025年からは、新たなエンゲージメントサーベイにシフトし、社員のエンゲージメントを高める活動へ進化させていきます。
ハ.健康経営の推進
当社では、社員およびその家族の心身の健康が一人ひとりの幸せ、そして会社の持続的な成長や発展に不可欠であると考え、健康経営を推進しています。2017年に健康管理室を設置、2025年1月には組織改正に伴い、ウェルビーイング推進グループとなり健康経営推進を強化しています。2022年7月には会社、従業員、労働組合、健康保険組合が協力し、全社をあげて健康経営を実現するため、2018年に制定した全社の「健康経営宣言」を企業理念体系「Our Philosophy」に基づいた宣言に改訂しました。
健康管理室と健康保険組合は、健康施策について協議するコラボヘルス会議を定期的に実施するなどコラボヘルス体制を強化するとともに、健康管理部門(本社および各拠点)、健康保険組合、労働組合が参加する健康会議も実施しています。
a.受動喫煙防止・禁煙推進対策
受動喫煙防止・禁煙推進対策については、喫煙率が高いことが全社的な課題であり、喫煙者の健康障害防止、非喫煙者の受動喫煙防止の観点から、全社的な対策を進めています。社長による定期メッセージの発信に加え、2023年には各事業所長が禁煙宣言を発表し、全社で積極的に取り組みを進めています。
2024年1月からは全社での敷地内全面禁煙・就業時間内禁煙が開始され、これに合わせ就業規則等の社内規則にも、敷地内全面禁煙・就業時間内禁煙に関する項目を追加しました。禁煙支援としては、禁煙外来治療費補助に加え、禁煙補助薬(ニコチンパッチ等)に対する購入費用補助も実施しています。また禁煙推進委員会(中央・各拠点)での取り組みをはじめ、産業保健専門職による個別支援を実施する等、禁煙に挑戦しやすい環境をつくり、全社を挙げて受動喫煙防止・禁煙推進を進めています。
b.メンタルヘルス
従業員の“こころ”の健康問題は、労働生産性、組織の活力にも大きく影響します。
従業員自身のストレスへの気づきを促し、メンタルヘルス不調を未然に防止すること(一次予防)を主な目的とするストレスチェックを50人未満の事業所も含め全従業員を対象に実施しています。ストレスチェックの事後対応としては、高ストレス者の医師による面接指導、産業保健専門職(産業医・産業看護職)との健康相談を実施しています。また職場に対する集団分析結果のフィードバック、高ストレス職場へのヒアリング等を通じて、職場環境改善につなげています。メンタルヘルス不調に限らず職場復帰の際には、産業医面談・復職判定委員会を実施し、短時間勤務制度など職場復帰をスムーズにする支援を実施しています。
c.長時間労働の抑制
事業規模の拡大などにより業務量が増えるなか、長時間労働を抑制するために、業務効率化や人員の補充などを適宜進めています。
長時間労働対策としては、時間外勤務が月間80時間以上(PCのログイン状況による勤怠管理なども使用)の従業員には、時間外勤務の状況について本人に通知するとともに産業医による面接指導を実施しています。時間外勤務・休日勤務が多く労働負荷が高い従業員に対しては、上長が本人と面談し改善策を立案、改善状況を人事部門がチェックする体制を構築するなど、長時間労働の防止に取り組んでいます。
d.プレゼンティーイズム改善
プレゼンティーイズム測定(WFun)を実施しています。個人及び事業所単位での状況を測定し、各職場で改善活動に取り組んでいます。
<社外からの認定等>
・「健康経営銘柄」取得(2022年、経済産業省・東京証券取引所)
・「健康経営優良法人2024(ホワイト500)」8年連続認定(2024年、経済産業省と日本健康会議)
・「スポーツエールカンパニー2024」認定 2回目(2024年、スポーツ庁)
健康経営推進においては、基盤である産業保健体制を強化し、中短期重点項目(7項目)の活動を充実させ、最終的には全社での健康文化の醸成を目指しています。こうした目標を達成するため、今後さらに経営層との連携を強化し、活動を推進していきます。
産業保健体制では、本社と各拠点の産業保健スタッフでの連携(産業医や産業看護職間での定期会議など)を強化し、企業全体での活動レベルの向上を図ります。生活習慣対策においては、産業保健スタッフが拠点を跨いでチームを構成し、健康教育やヘルスリテラシー向上のための活動を進めてまいります。
健康経営や健康に関連する情報については、社内での情報発信も強化していく予定です。「住友ゴム健康経営宣言」にも明示している「自ら健康増進に取り組み」、「お互いの健康を気遣いあえる」という健康文化を醸成するため、「健康」の重要性について経営層等からの情報発信を実施していきます。「健康経営宣言」の認知度の向上、健康部門の社内ホームページ充実化・アクセシビリティ向上を実施します。
メンタルヘルス対策においては、管理職に対するラインケアセミナーの充実化、受講歴管理・必修化を行い、管理職へのサポートを強化していきます。
ニ.労働安全衛生の取り組み
当社グループは「労働災害ゼロ」を目指し、重要な要素と考える「安全な設備」と「安全な人」つくりのため、技能・知識に加えて安全文化の醸成にも目を向け、階層別教育や職場コミュニケーションの場で安全衛生の取り組みを行っています。
安全な設備のための技能・知識に関しては、リスクアセスメント指導者の育成に力を入れています。適切なリスクアセスメントを実施し、設備・作業動作の危険源を排除し本質的安全性を高めることが狙いです。2024年は目標を上回る人数を指導者として育成することができました。
安全な人づくりでは、個人の安全先行指標(KPI)の底上げや、安全の声が上がりやすい職場づくりを全員参加で行っています。個人KPIは、自分自身の行動特性を客観視できること、管理監督者が職場単位での強み弱みを把握できること、これらが特徴です。いかなる状況でも安全ルールを守れる職場づくり・安全文化の醸成を図っています。
<社外からの認定等>
・国内外12工場にてISO45001認証取得(取得率50%(12/24工場))
当社グループの事業活動に重大な影響を及ぼす恐れのある経営リスクについては、「リスク管理規定」に基づき、それぞれの担当部署及び各子会社において事前にリスク分析、対応策を検討し、経営会議等で審議しております。リスク分析・対応策の検討にあたっては、必要に応じて顧問弁護士等の専門家に助言・指導を求めております。経営リスクのうち、組織横断的リスクについては、当社管理部門の各部が、それぞれの所管業務に応じ関連部署と連携しながら、全社的対応を行っております。
また、「リスク管理規定」に基づき社長を委員長とする「リスク管理委員会」を設置しており、年2回開催する同委員会にて当社グループのリスク管理活動を統括し、リスク管理体制が有効に機能しているか適宜調査・確認しております。
当社グループにとって重大なリスクが顕在化し、又は顕在化が予想される場合には、「危機管理規定」に基づき、社長が危機管理本部を設置します。
このようなリスク管理体制のもと、グローバルに展開する当社の事業活動も考慮のうえ、当社グループの財政状態及び経営成績等に重要な影響を及ぼす可能性のある主要なリスクを次のとおり記載しております。ただし、当社グループに関する全てのリスクを網羅したものではなく、記載以外のリスクも存在し、投資家の判断に影響を及ぼす可能性があります。文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。当社グループは、これらのリスクを認識し、発生の回避及び発生した場合の対応に努める所存であります。
(自然災害のリスク)
当社グループは、グローバルに事業を展開しており、地震、津波、台風、豪雨等の影響を直接的又は間接的に受ける可能性があります。これらの事象が発生した場合、当社グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、阪神・淡路大震災や東日本大震災といった巨大地震、集中豪雨、大型台風等により被害を受けた経験を踏まえ、大規模自然災害が発生した際も重要業務を継続し、迅速な復旧を図るため、事業継続計画(BCP)の策定と、国内外の拠点で災害を想定しBCPに基づいて事業継続のために対応する実践訓練を行うなど、従来より対策を講じております。また、各事業所で地震、火災等を想定して防災避難訓練及び安否確認訓練を実施するなど、有事の際に被害を最小限に抑えるよう従業員の防災意識を高めるための活動を実施しております。
(情報セキュリティに係るリスク)
当社グループは、事業活動を通じて、営業秘密、ノウハウ、データ等の機密情報のほか、顧客情報や従業員の個人情報も電子情報として保有・管理し、また商品企画、研究、開発、製造、販売等の様々なプロセスにおいて、情報システムやネットワークを活用しております。コンピューターウイルス感染や不正アクセスなどサイバー攻撃のほか、災害や人為的な要因により情報システムに障害が発生した場合、機密情報・個人情報の漏えいのほか、重要な業務や製造の停止といったインシデントが発生し、社会的信用の失墜、ブランドイメージの低下、生産停止による機会損失など、当社グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社グループでは、機密情報や個人情報等の秘密保持については、社内規定の整備と運用の徹底、情報機器へのセキュリティ対策などソフト面、ハード面での対策を実施し、リスクを最小化するよう取り組んでおります。
(労働災害・火災等のリスク)
当社グループは、日本、アジア、欧州、米州等に製造拠点を有しており、各製造拠点において負傷、疾病等の労働災害、火災、爆発等の産業事故や環境汚染が発生し、工場の操業や地域社会に大きな影響を及ぼした場合、社会的信用の失墜、被災者への補償、復旧費用、生産活動停止による機会損失、顧客に対する補償など、当社グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社グループでは、労働災害、産業事故を予防するため、点検と対策を計画的に進め、事故の発生防止対策を実施しております。また、定期的に海外製造拠点を含め監査を実施し、対策の点検と評価を行い、各拠点の活動強化を図っております。環境面でも環境汚染防止のための設備対策やモニタリングを実施するなど、環境に配慮した事業運営を実施しております。
また、重要設備の停止による生産活動への影響を最小限に抑えるために、日常的及び定期的な設備保全を行う一方、老朽化更新を計画的に進めております。
(サステナビリティ経営に係るリスク)
当社グループは、サステナビリティ経営を推進しておりますが、ESG投資に関する非財務情報の不十分な開示や、SDGs等の社会的要請に対する対応の遅れ等が発生した場合、信用・評判の失墜など、当社グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社グループでは、「未来をひらくイノベーションで最高の安心とヨロコビをつくる。」という「Our Philosophy」のPurposeを体現すべく、事業活動を通じて環境問題、社会課題の解決に貢献し、持続可能な社会の実現を目指しております。サステナビリティ経営の推進にあたっては、サステナビリティ統括役員を委員長、各部門担当役員を委員とする「サステナビリティ推進委員会」を開催し、各種テーマごとに設置された部会において実施している活動を継続的にフォローし、リスクを最小化するように取り組んでおります。
また、本年1月より外部ステークホルダーと経営層とが対話する「サステナビリティ・アドバイザリーボード」を設置し、ステークホルダーとの連携を深め、社会的要請に対する対処を適切に実施しております。
(製品の品質管理に係るリスク)
当社グループは、所定の品質基準に基づき、製品の品質確保に万全の対策を講じておりますが、製品の欠陥やクレームが発生する可能性があります。
当社グループは、欠陥が発生した場合又は裁判等により欠陥が認定された場合に備え、欠陥に起因する損害賠償等の諸費用に対する損害保険を付保しておりますが、保険で補償されない費用が発生する可能性があります。また、クレームに対する処理費並びに製品の回収・交換による費用が発生する可能性があります。これらの事態が発生した場合、当社グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社グループでは、品質保証本部を中心に品質保証体制の強化や過去の不適切事案を教材としたケーススタディ研修、部門間・拠点間のコミュニケーション向上やグループガバナンスの強化につながる諸施策を継続的に進めております。引き続き、「Our Philosophy」に掲げる「信用と確実」の遵守を徹底し企業風土改革を推進するとともに、BadNews First/Fastも徹底していくことで、不適切な事案が再発しない体制づくりを進めてまいります。
(人権侵害に係るリスク)
当社グループは、グローバルに事業を展開しており、サプライチェーン上で強制労働等の人権問題が発生する可能性があります。これらの事象が発生した場合、法令に基づく処罰、訴訟の提起及び信用・評判の失墜など、当社グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社グループでは、「人権」をマテリアリティの1つとしており、顧客やサプライヤーおよび拠点周辺の地域社会など、当社の事業とつながっている人々への人権尊重の責任を果たすため、全社横断組織である人権部会を立ち上げ、主管部門に加え、海外拠点を含む各関係部門が参画し、各部門のリスク調査と対応状況をフォローできる体制の整備、「サステナビリティ推進委員会」ならびに経営層への報告を定期的に行っております。
また、人権リスクが高いと考えられる現場の実態を把握するため、外部の専門家にもアドバイスをいただきながら、部会メンバーが天然ゴム農園や原材料加工場、国内外の製造拠点の視察や労働者との対話を実施し、より実践的な人権リスクの収集に努めております。今後も部会会議の開催に加え、継続的に現場視察やステークホルダーとの対話を行いながら、人権の保護・尊重の取組みを進めてまいります。
(政治経済情勢等に係るリスク)
当社グループは、タイヤ事業、スポーツ事業及び産業品他事業をグローバルに展開しており、事業活動を行っている各国の政治情勢や経済環境の変化により、影響を受けることがあります。アジア・大洋州、欧州・アフリカ、米州の各地域を統括する組織を設置し、必要に応じて弁護士やコンサルタント等の専門家と契約するなどして現地特有の法規制、商習慣、リスク等を踏まえ現地拠点の経営について協議する等、リスク管理の面からも各地域における関係会社の支援を行っております。
また、当社グループは、連結売上収益に占める、国内外の自動車用タイヤの割合が大きく、自動車産業の景況が悪化した場合、自動車用タイヤの需要減少や大口顧客との取引減少など、当社グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
このほか、各市場において、輸入規制や関税率の引き上げ等により、売上が減少、もしくは原価率が悪化するリスク、各国の国内及び国際間取引に係る租税制度の変更や移転価格税制等により税金コストが増加するリスクなど各市場における法律・規制変更が当社グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
(人材獲得に係るリスク)
当社グループは、グローバルに事業を展開しており、事業の優位性を確保し継続的に成長していくためには、多種多様な人材の獲得が必要不可欠ですが、人材獲得の停滞や流出が発生する可能性があります。必要な人材の不足・流出が発生した場合には、事業の優位性の低下、機会の損失、技術の流出など、当社グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社では、そのような事態を防止するために、多様な人材が活躍できる組織風土の実現を目指しております。その取り組みの1つとして、組織体質強化のプロジェクトを進めており、「組織体質アンケート」を定期的に実施することで、全社の状況を把握し、心理的安全性を高め、エンゲージメント向上に取り組んでおります。これらの取り組みについては、「2.サステナビリティに関する考え方及び取組 (2)人的資本」において、その概要を記載しております。
また、採用面では、インターンシップ制度や職種別採用を取り入れるなど、入社時の希望と配属先のミスマッチがないように努めており、さらに、当社の魅力を対外的に発信することで求職者の拡大を目指しております。
(コンプライアンスに係るリスク)
当社グループは、グローバルに事業を遂行するにあたり、国内外の各種法令の適用を受けております。これらの法令に違反する行為、企業倫理に反する行為などにより、法令に基づく処罰、訴訟の提起及び信用・評判の失墜など、当社グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社グループでは、「住友の事業精神」をベースに制定した「Our Philosophy」に基づき、コンプライアンスを基盤とした事業運営が実践できるよう取り組んでおります。組織としては、社長を委員長とする「企業倫理委員会」を設置し、年4回の委員会開催を通じ当社グループのコンプライアンス体制の強化を図っております。併せて、企業倫理ヘルプライン(相談窓口)として、社長直轄の「コンプライアンス相談室」を設置し、当社グループ内で問題が発見された場合には、相談者が不利益を被らないよう十分配慮したうえで、事実関係の調査を進める体制を整えております。また、必要に応じて顧問弁護士の助言を得るなど、適法性にも留意しております。さらに、コンプライアンスに関するべからず集である「企業行動基準」を作成し、国内従業員に配布するほか、英語版や当社グループが所在する地域のその他の言語版も作成し、毎年10月の法令遵守・企業倫理月間において浸透活動を行うなど、グローバルでのコンプライアンス強化を図っています。
(知的財産に係るリスク)
当社グループは、特許権、商標権等の知的財産権の取得により自社の知的財産権保護を行っておりますが、他社からの知的財産権侵害等により競争優位性が損なわれるなど当社グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社が開発する製品及び技術については当社が保有する知的財産権による保護に努めているほか、他社の知的財産権に対する侵害のないよう細心の注意を払い、リスク管理を徹底しております。
(1)経営成績等の状況の概要
①経営成績の状況
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|
前連結会計年度 |
当連結会計年度 |
増減率 |
|
|
|
百万円 |
百万円 |
% |
|
|
売上収益 |
1,177,399 |
1,211,856 |
2.9 |
|
|
|
タイヤ事業 |
1,006,381 |
1,046,394 |
4.0 |
|
|
スポーツ事業 |
126,647 |
125,650 |
△0.8 |
|
|
産業品他事業 |
44,371 |
39,812 |
△10.3 |
|
事業利益 |
77,670 |
87,941 |
13.2 |
|
|
|
タイヤ事業 |
63,572 |
76,181 |
19.8 |
|
|
スポーツ事業 |
12,482 |
7,878 |
△36.9 |
|
|
産業品他事業 |
1,603 |
3,725 |
132.3 |
|
|
調整額 |
13 |
157 |
- |
|
営業利益 |
64,490 |
11,186 |
△82.7 |
|
|
親会社の所有者に 帰属する当期利益 |
37,048 |
9,865 |
△73.4 |
|
(注)事業利益は、売上収益から売上原価、販売費及び一般管理費を控除して算出しております。
為替レートの前提
|
|
前連結会計年度 |
当連結会計年度 |
増減 |
|||
|
1米ドル当たり |
141 |
円 |
152 |
円 |
11 |
円 |
|
1ユーロ当たり |
152 |
円 |
164 |
円 |
12 |
円 |
当期の経済環境は、一部では足踏みも見られるものの緩やかに回復してきています。我が国においては雇用や所得の環境が改善するなかで消費者物価が上昇しています。今後も経済の緩やかな回復が続くことが期待されますが、欧米における高い金利水準の継続や中国における不動産市場の停滞に伴う影響など、海外景気の下振れが我が国の景気を下押しするリスクがあり、金利や物価の動向などに加え、中東地域をめぐる情勢でも不確実性が高い状況です。
当社グループを取り巻く情勢につきましては、一部自動車メーカーの生産停止に伴う影響を受けたことや、インフレ等の影響による市況停滞もあり、当期のタイヤ販売本数は前期を下回りました。一方で為替変動の影響などもあり、前期に引き続き利益状況が大幅に改善しました。そのようななか、当社グループは2027年を目標年度とする中期計画の実現に向けて経営基盤強化を目指す全社プロジェクトを強力に推進するとともに、顧客ニーズに対応した高機能商品を開発・増販するなど、競争力の強化にグループを挙げて取り組みました。また、米国タイヤ工場について生産終了および当該子会社の解散の意思決定を行ったことに加え、欧州の医療用ゴム事業と国内フィットネス事業の売却を完了するなど、構造改革を強力に推進しました。
この結果、当社グループの連結業績は、売上収益は1,211,856百万円(前期比2.9%増)、事業利益は87,941百万円(前期比13.2%増)、営業利益は11,186百万円(前期比82.7%減)となり、税金費用を計上した後の最終的な親会社の所有者に帰属する当期利益は9,865百万円(前期比73.4%減)となりました。
セグメント別の経営成績は、次のとおりであります。
(タイヤ事業)
タイヤ事業の売上収益は、1,046,394百万円(前期比4.0%増)、事業利益は76,181百万円(前期比19.8%増)となりました。
国内新車用タイヤは、一部自動車メーカーにおける減産の影響に加え、8月末の台風の影響などもあり、販売量は前期を大きく下回りました。
国内市販用タイヤは、夏タイヤの販売本数が前期を上回りましたが、冬タイヤについては前年を下回りました。低採算品を戦略的に減らしたこともあり、全体の販売本数は前期を下回りました。当社独自の新技術「アクティブトレッド」を搭載した次世代オールシーズンタイヤ「SYNCHRO WEATHER」を10月に発売し、市場で高い評価をいただくとともに、初年度販売目標を上回りました。
海外新車用タイヤについては、アジア圏における日系自動車メーカー向けを中心に大きく減少しました。
海外市販用タイヤは、前期を若干下回る販売となりました。アジア・大洋州地域において、中国では市況低迷の影響で低水準にとどまっています。東南アジアでも総じて市況が低調でしたが、アジア・太平洋地域全体では前期並みの水準となりました。欧州地域においてはFALKENブランドの強みであるオールシーズンタイヤ等の拡販を進めたことの効果はありましたが、一時的な供給不足もあり、前期を下回りました。米州地域においては、北米では前期より微減となったものの、主力商品のワイルドピークシリーズを中心に増販したほか、二輪車用タイヤも堅調に推移しました。南米においては海上運賃の下落などを背景にマーケットに輸入品が増加し厳しい販売環境となるなか、当社は販売代理店と連携しながら拡販に努め、前期を上回りました。
以上の結果、タイヤ販売本数は前期を下回ったものの、為替影響もありタイヤ事業の売上収益は前期を上回り、事業利益についても増益となりました。
(スポーツ事業)
スポーツ事業の売上収益は、125,650百万円(前期比0.8%減)、事業利益は7,878百万円(前期比36.9%減)となりました。
ゴルフ用品はSRIXONゴルフクラブの健闘や為替の円安効果があったものの、韓国の市況悪化や北米での競争環境激化などの影響を受け、売上収益は前期を下回りました。
テニス用品は欧州で減収となりましたが、日本・北米での増販により、売上収益は前期を上回りました。
ウェルネス事業は、ゴルフスクール・テニススクールを除き、対象会社の全株式を12月上旬に新たな株主へ譲渡いたしました。
以上の結果、スポーツ事業の売上収益は前期を下回り、事業利益についても主力のゴルフ事業が日本・北米・韓国など主要市場で減速したことなどにより減益となりました。
(産業品他事業)
産業品他事業の売上収益は、39,812百万円(前期比10.3%減)、事業利益は3,725百万円(前期比132.3%増)となりました。
医療用ゴム製品については、欧州の製造・販売子会社株式の譲渡を1月末に実施したことや、国内の生産能力増強工事に伴う工場の稼働一時停止により減収となりました。その他、生活用品なども減収となりましたが、インフラ事業、OA機器用ゴム部品、制振ダンパーは増収となりました。
以上の結果、産業品他事業の売上収益は前期を下回りましたが、欧州の医療用ゴム製品子会社の株式譲渡の影響を除くと前期を上回りました。事業利益については前期の2倍以上と、大幅な増益となりました。
②財政状態の状況
|
|
前連結会計年度 |
当連結会計年度 |
増減 |
|
|
百万円 |
百万円 |
百万円 |
|
資産合計 |
1,266,732 |
1,341,123 |
74,391 |
|
負債合計 |
625,302 |
665,313 |
40,011 |
|
資本合計 |
641,430 |
675,810 |
34,380 |
|
親会社の所有者に 帰属する持分 |
624,114 |
656,134 |
32,020 |
|
親会社所有者帰属 持分比率(%) |
49.3 |
48.9 |
△0.4 |
|
ROE(%) |
6.3 |
1.5 |
△4.8 |
|
ROA(%) |
6.2 |
6.7 |
0.5 |
|
有利子負債 |
310,932 |
331,218 |
20,286 |
|
D/E レシオ(倍) |
0.5 |
0.5 |
- |
|
1株当たり親会社 所有者帰属持分 |
2,372円90銭 |
2,494円54銭 |
121円64銭 |
(注)ROAは連結ベースの事業利益に基づき算出しております。
当連結会計年度末の資産合計は、1,341,123百万円と前連結会計年度末に比べて74,391百万円増加しました。棚卸資産などの増加などにより流動資産が45,043百万円増加しました。また、繰延税金資産の増加などにより非流動資産は29,348百万円増加しました。
当連結会計年度末の負債合計は、665,313百万円と前連結会計年度末に比べて40,011百万円増加し、有利子負債残高は、331,218百万円と前連結会計年度末に比べて20,286百万円増加しました。
当連結会計年度末の資本合計は675,810百万円と前連結会計年度末に比べて34,380百万円増加しました。うち親会社の所有者に帰属する持分は656,134百万円と前連結会計年度末に比べて32,020百万円増加しました。この結果、親会社所有者帰属持分比率は48.9%、1株当たり親会社所有者帰属持分は2,494円54銭となりました。
③キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、前連結会計年度末に比べ10,131百万円増加し、当連結会計年度末には100,382百万円となりました。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度における営業活動による資金の増加は、104,325百万円(前連結会計年度比65,475百万円の収入の減少)となりました。
これは主として、法人所得税の支払27,474百万円などの減少要因があったものの、減損損失45,124百万円の計上、減価償却費及び償却費の計上83,168百万円などの増加要因によるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度における投資活動による資金の減少は、64,659百万円(前連結会計年度比2,429百万円の支出の増加)となりました。
これは主として、有形固定資産の取得による支出56,797百万円などによるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度における財務活動による資金の減少は、35,623百万円(前連結会計年度比59,945百万円の支出の減少)となりました。
これは主として、短期借入金で43,997百万円増加したものの、長期借入金及び社債の返済で35,000百万円減少したほか、配当金の支払21,561百万円、リース負債の返済20,267百万円を行ったことなどによるものであります。
(2)生産、受注及び販売の実績
①生産実績
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
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セグメントの名称 |
金額(百万円) |
前期比(%) |
|
タイヤ事業 |
875,446 |
108.8 |
|
スポーツ事業 |
64,095 |
93.6 |
|
産業品他事業 |
28,034 |
72.1 |
|
合計 |
967,575 |
106.1 |
|
(注)1.金額は、販売価格によっております。 |
||
|
2.当連結会計年度において、産業品他事業の生産実績に著しい変動がありました。これは、欧州の製造・販 売子会社株式の譲渡を1月末に実施したことや、国内の生産能力増強工事に伴う工場の稼働一時停止等に よるものであります。 |
||
|
|
||
②受注実績
当社グループの製品は、大部分が見込生産であり、ごく一部の製品(防舷材等)についてのみ受注生産を行っております。
③販売実績
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
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セグメントの名称 |
金額(百万円) |
前期比(%) |
|
タイヤ事業 |
1,046,394 |
104.0 |
|
スポーツ事業 |
125,650 |
99.2 |
|
産業品他事業 |
39,812 |
89.7 |
|
合計 |
1,211,856 |
102.9 |
|
(注)1.セグメント間の取引については相殺消去しております。 |
||
|
|
||
(3)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
①重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、IFRSに準拠して作成されております。
連結財務諸表の作成においては、連結会計年度末日における資産・負債の金額及び偶発債務の開示並びに連結会計年度における収益・費用の適正な計上を行うため、会計上の見積りや前提が必要となりますが、当社グループは、過去の実績、又は各状況下で最も合理的と判断される前提に基づき見積りを実施しております。ただし、見積り特有の不確実性が存在するため、実際の結果は見積りと異なる場合があります。
当社グループが採用している会計方針のうち重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 3.重要性がある会計方針」及び「第5 経理の状況 2 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項 重要な会計方針」に記載しております。
②当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
当社グループの中期計画における数値目標は「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (1)経営方針及び経営戦略等」に記載のとおりですが、当連結会計年度の経営成績に重要な影響を与えた主なものは、直接原価の増加と為替円安による影響であります。
主力のタイヤ事業において、当連結会計年度においては、人件費の上昇により直接原価が増加したことや、原材料面では、天然ゴム価格が高騰したことが減益要因となりました。販売面では、新車用タイヤでは国内において自動車メーカーの減産の影響があったことや、海外においても東南アジアや中国での自動車メーカーへの納入減少の影響により販売数量は前連結会計年度を下回りました。市販用タイヤでは国内市場において夏タイヤの増販や10月に発売した「SYNCHRO WEATHER」の好調な売れ行きがあったものの、年初の暖冬影響による冬タイヤの販売数量の減少や低採算品を戦略的に減らしたことにより、販売数量が前連結会計年度を下回りました。また、海外市場でも市販用タイヤは前連結会計年度を若干下回る販売となりました。一方で、高機能商品の更なる拡販、北米事業の構造改革の効果など、収益力の向上を目指して様々な対策に取り組んだことから、構成の良化が増益要因となりました。また、北米アンチダンピング関税や北米アロケーション益がプラスとなり数量・構成他は増益要因となりました。そのほか、固定費での人件費増加や、経費ではDX推進費用や広告宣伝費が増加したことなどの影響によりそれぞれ減益要因となりました。為替については、円安傾向に推移したため、増益要因となりました。
この結果、前連結会計年度に対し、数量・構成他で約273億円、為替で約135億円がそれぞれ増益要因となったものの、原材料で約78億円、販売価格で約17億円、直接原価で約116億円、固定費で約41億円、経費で約30億円の減益要因となり、タイヤ事業全体で事業利益は前連結会計年度に比べ約126億円の増益となりました。
スポーツ事業及び産業品他事業の分析は「(1)経営成績等の状況の概要 ①経営成績の状況」に記載のとおりであります。
当連結会計年度 事業利益の増減要因
以上の結果、売上収益は1,211,856百万円と前連結会計年度に比べ34,457百万円(2.9%)の増収、事業利益は87,941百万円と前連結会計年度に比べ10,271百万円(13.2%)の増益となり、事業利益率は前連結会計年度に比べ0.7ポイント上昇し、7.3%となりました。
その他の収益及び費用では、減損損失や事業再構築費用を計上したこと等により、前連結会計年度に比べ63,575百万円の減益となりました。
この結果、営業利益は11,186百万円と前連結会計年度に比べ53,304百万円(△82.7%)の減益となり、営業利益率は前連結会計年度に比べ4.6ポイント低下し、0.9%となりました。
金融収益及び費用では、前連結会計年度での為替差損が為替差益に転じたことにより、前連結会計年度に比べ6,788百万円の増益となりました。
以上の結果、税金費用を計上した後の最終的な親会社の所有者に帰属する当期利益は9,865百万円と前連結会計年度に比べ27,183百万円(△73.4%)の減益となりました。
中期計画における目標達成に向けて、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (1)経営方針及び経営戦略等」に記載の施策に取り組んでまいります。
③キャッシュ・フローの状況の分析、資本の財源及び資金の流動性についての分析
キャッシュ・フローの分析は「(1)経営成績等の状況の概要 ③キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりでありますが、当連結会計年度において、営業活動によるキャッシュ・フローから投資活動によるキャッシュ・フローを差し引いたフリーキャッシュ・フローは39,666百万円のプラスとなり、「第4 提出会社の状況 3.配当政策」に記載の方針に基づき、配当金の支払21,561百万円を行いました。
今後、主に世界各地での増販に合わせた高機能タイヤの生産能力増強のための設備投資を引き続き行っていきますが、販売数量の増加と採算性の改善により営業活動によるキャッシュ・フローの拡大を実現しながら、必要に応じ金融市場や金融機関からの調達も活用するなど、「成長」と「流動性の確保並びに財務体質の向上」との両立を図りながら、2023年2月14日公表の中期計画で目標としているD/Eレシオ0.6の達成を目指す中で、当連結会計年度ではD/Eレシオ0.5を達成しました。なお、当社と国内子会社、当社と一部の海外子会社との間でCMS(キャッシュマネジメントシステム)による資金融通を行っており、当社グループ内での資金効率向上を図っております。
また、当連結会計年度末現在において、日本格付研究所(JCR)より「A+(長期)、J-1(短期)」の信用格付を取得しております。
当社は、2025年1月8日の取締役会において、The Goodyear Tire & Rubber Company(本社:アメリカ合衆国 オハイオ州、以下「Goodyear社」)より、欧州・北米・オセアニア地域における四輪タイヤのDUNLOP商標権等を取得することについて決議し、譲渡契約を締結しました。
詳細は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 36.後発事象」に記載のとおりです。
当社グループにおいては、当社の研究開発組織・施設を核として世界各地に所在する子会社・関連会社群との密接な連携のもと、タイヤ・スポーツ・産業品他事業、幅広い領域・分野で研究開発を推進しております。
なお、当連結会計年度の研究開発費の総額は、
セグメント別の主要な研究開発活動は、次のとおりであります。
(1)タイヤ事業
当社グループのタイヤ技術研究開発は、神戸本社に隣接したタイヤテクニカルセンターを中心に、欧州・米国・中国のテクニカルセンターと連携して「タイヤが地球環境の為に貢献できること」をテーマに、「低燃費性」「原材料」「省資源」の3つの方向性で環境配慮商品の開発に取り組んでおります。
また、当社はCASE/MaaSなどの自動車業界の変革に対応するためのタイヤ開発及び周辺サービス展開のコンセプトである「SMART TYRE CONCEPT」を掲げております。例えば、タイヤの摩耗や経年による性能低下を抑制し、新品時の性能を長く持続させる「性能持続技術」、水や温度などの外部環境にシンクロしてゴムの性質がスイッチする独自の技術である「アクティブトレッド」が挙げられます。さらにサーキュラーエコノミー(循環経済)の実現に向けて、当社独自の循環型ビジネス構想「TOWANOWA」の中で、使用済みタイヤをリサイクル原材料として活用することにも取り組んでいます。
ソリューションサービスの分野において、国内では、当社は2024年7月からロジスティード株式会社とトラックの稼働率向上に向けた実証実験を始めました。ロジスティードが保有する車両に、当社が開発したタイヤ空気圧や温度をモニタリングして異常を知らせる「タイヤ空気圧・温度管理サービス」を導入します。タイヤ空気圧・温度管理を通して、タイヤトラブルを未然に防ぐことで、走行時の安全性向上、点検業務の効率化、さらには燃費及びタイヤ寿命の向上レベルを検証します。これにより、当社が目指すタイヤを含む車両全体の故障予知ソリューションサービスの展開を加速させます。実証実験を通じて、ドライバー不足が懸念される物流の2024年問題の解決にも貢献していきます。
一方海外では、自動車の車輪速解析技術をベースとする当社独自のセンサーレスのセンシング技術「センシングコア」の技術開発を着実に進めています。AIを活用した車両故障予知ソリューションサービスを提供する米国のベンチャー企業であるViaduct Inc.(以下「Viaduct(バイアダクト)社」)に2024年1月に出資、戦略的パートナーの関係にある中、現在約5社と技術PoCを開始しており、2025年4月よりサービスを開始すべく準備を行っています。Viaduct社の車両故障予知ソリューションサービスと、当社独自の「センシングコア」を組み合わせることで、タイヤに加え、エンジンやブレーキなどを含めた車両状況をリアルタイムで把握することを目指します。車両全体のモニタリングが可能になることで、走行時の安全性向上に繋がるとともに、車両の稼働率向上やメンテナンスコストの削減が期待できます。将来的には、トラック配送などの車両管理にメンテナンス・保険・リースなどを組み合わせたトータルフリートマネジメントサービスの実現を目指します。
材料開発の分野において、2024年10月に発売の「SYNCHRO WEATHER」に搭載された「アクティブトレッド」では、ゴムの中に路面状態の変化に反応する「水スイッチ」及び「温度スイッチ」を組み込むことでポリマーの動きをコントロールすることに成功しました。これら2つのスイッチを組み合わせることで、ドライ、ウエット、雪上、氷上といったあらゆる路面で高い性能を発揮する、これまでにないゴムを創り出しました。さらにアクティブトレッド技術の「水スイッチ」は3GeV高輝度放射光施設「NanoTerasu」の活用を通じて、「温度スイッチ」は北海道大学との共同研究を通じて、さらなる技術開発を進めます。2027年には、進化したアクティブトレッド技術を欧米へ展開します。さらには、「水」や「温度」に続く、第3・ 第4のスイッチの開発にも着手していきます。
また、タイヤの耐摩耗性能向上に向けて、当社は、東北大学、理化学研究所、高輝度光科学研究センターと共同で、大型放射光施設「SPring-8」※1を活用し、1ナノ秒を含む幅広い時間領域で原子・分子・ナノ構造の運動を測定する事ができる新しい放射光技術を開発しました。今回開発した新しい放射光技術は、0.1ナノ秒から100ナノ秒の運動を測定することが可能であるため、従来の測定技術とあわせることで、幅広い時間領域において原子・分子運動を測定することが可能となりました。本研究を通して、高強度かつ耐摩耗性に優れたタイヤ開発を進めてまいります。
その他にもシミュレーション技術において、当社は、「タイヤ空力シミュレーション」及び「パターンノイズシミュレーション」の開発を行いました。「タイヤ空力シミュレーション」は、タイヤ周りの空気抵抗を予測するシミュレーション技術です。EVでは、エネルギーロスの約34~37%はタイヤが関係します。このシミュレーション技術を活用することで、タイヤ周りの空気抵抗のより少ないタイヤ開発につなげてまいります。「パターンノイズシミュレーション」は、路面でのタイヤ騒音をより精度よく、短時間で予測することができるシミュレーションです。当社が新開発したこのシミュレーション手法により、静粛性能の高いタイヤ開発に活用してまいります。
当事業に係る研究開発費は
※1 世界最高性能の放射光を生み出すことができる大型放射光施設(兵庫県佐用郡佐用町)
(2)スポーツ事業
スポーツ事業本部並びに米国のRoger Cleveland Golf Company, Inc.に研究開発部門を設置しており、コンピューターシミュレーション技術等を用いて新技術・新商品の開発並びに評価、試験に取り組んでおります。兵庫県丹波市の「ゴルフ科学センター」では、スイングマシーンによるテストに加え、トッププロからアベレージゴルファーまでの様々な方のヒューマンテストを行い、クラブやボールの特性に加え、スイングとクラブの関係など、膨大なデータを集積し、総合的に測定・解析・評価を行っております。
これらの取り組みにより、ゴルフクラブでは「スリクソンZX MkⅡ(マークツ―)シリーズ」の後継モデルとなる「スリクソン ZXi(ゼットエックスアイ)シリーズ」を開発し、2024年11月に発売しました。フェースのセンター部分の肉厚を薄くし、トウとヒールに厚い部分を設ける新開発のフェース構造「i-FLEX(アイフレックス)」を搭載することで、インパクト時におけるヘッドの過剰な振動を防ぎ、最大限のエネルギーを効率よくボールに伝えることが可能となりました。フェースとボディを効果的にたわませる独自技術「REBOUND FRAME(リバウンドフレーム)」との相乗効果で、スイートエリアが拡大し、ボールスピードもアップしました。
ゴルフボールでは、NEW「スリクソン Z-STAR(ゼットスター)シリーズ」3機種を開発し、商品化しました。新開発の「高スピン バイオ ウレタンカバー」により、アプローチスピン性能を向上させるとともに、独自のディンプル構造で風に強く伸びのある弾道を実現しました。また、カバーには環境に配慮したトウモロコシ由来のバイオポリオールを配合し、製造時CO2排出量を削減しています。3機種展開で、「スリクソン Z-STAR XV(エックスブイ)」ではドライバーでの飛距離を、「スリクソンZ-STAR」ではソフトなフィーリングとアプローチスピンを、「スリクソンZ-STAR ◆(ダイヤモンド)」は、ロング・ミドルアイアンでのスピン性能を重視するゴルファー向けに、それぞれの特性に合わせた技術を搭載しています。
テニスラケットでは、スピン系テニスラケット「SX(エスエックス)」シリーズの新モデルを開発し、商品化しました。弾道を補正する新たなグロメットの採用で、ストリングの可動域が拡大し、パワー性能、スピン性能、弾道補正性能が向上しました。また、フレームの一部厚みを変えることで、フレームの慣性モーメントが向上し、打球時のブレが軽減しました。なお、同シリーズの開発については、2023年10月に開設した「テニス科学センター」での解析・評価なども活用しております。
当事業に係る研究開発費は
(3)産業品他事業
ハイブリッド事業本部では、高減衰ゴムを用いた制振ダンパー、医療用ゴム製品、ヘルスケア用品等、安全・安心・快適をテーマとする事業活動に積極的に取り組んでおります。
制振事業では、2024年12月に京都大学防災研究所にて能登半島地震時の振動データを用いたMIRAIE Σ(ミライエ シグマ)、MAMORY(マモリ―)の実大振動台実験を行い、その模様が様々なメディアで紹介されるなど事業の認知度も高まっております。今後も、より大きな巨大地震に対しても全壊・半壊被害0を維持できるよう、地震波の分析と制振技術の研究を進め、持続可能なインフラと安全性の高い社会の実現に一層貢献してまいります。制振事業のみならず、カーボンニュートラル、プラスチック削減等、社会課題の解決を目指し、より安全・安心・快適な毎日の暮らしに貢献する商品の研究開発を行っていきます。
また、新たな取り組みとして、当社は「リチウム硫黄電池正極活物質」の開発や「がん細胞吸着キット」の開発を行っております。電池の「+極」に存在し、電気の蓄積、放出を担う重要な物質であるリチウム硫黄電池正極活物質の開発では、「NanoTerasu」を活用して東北大学と共同で確立した世界最高の空間分解能(解像度)の材料可視化技術「テンダーX線タイコグラフィ」を用いて、リチウム硫黄電池正極活物質の詳細な観察を行いました。今後、高性能化へと繋げ、蓄電池をはじめEV、ドローン、無人飛行機、空飛ぶクルマ、人工衛星などエネルギーやモビリティなどの幅広い分野における、製品性能、持続可能性の向上と環境負荷低減への貢献を目指します。「がん細胞吸着キット」の開発については、独自の特殊ポリマーでがん細胞のみを吸着する性質を利用する、という画期的な取り組みです。
当事業に係る研究開発費は