第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

(1) 新中期経営計画

2025年度以降も予断を許さない事業環境が予想されるなか、業界内外での巨大プレーヤーの台頭やテクノロジー企業、コンサルティング企業等による巨額のAI投資といった要因が競争環境を激化させ、当社グループのポジションも相対的に変化していくことが想定されます。こうした環境認識の下で、過去のM&A偏重の成長戦略を見直し、当社グループが力強いオーガニック成長に回帰するために策定したのが、新たに発表した中期経営計画です。本計画の実行を通じて、事業ポートフォリオの見直しを行い、資本・人財を集中させ、競争優位性を回復することで、最終年度である2027年度にオーガニック成長率4%、オペレーティング・マージン16-17%まで回復することを目標としています。

 

(2) 不振ビジネスの見直しと経営基盤の再構築

中期経営計画の目標達成に向けて当社グループがまず着手する取り組みが不振ビジネスの見直し・経営基盤の再構築を中心とした収益性の回復です。不振ビジネスの見直しにおいては、投下資本が大きく、複数年連続で最終赤字となったマーケットが当社グループの業績悪化の主要因となっている現状を踏まえ、スピード感を持って対策を進め、2026年度中に赤字マーケットをなくすことを目指します。また、過去の買収案件についても規律を持ってレビューを行っており、業績面で基準に満たない事業は、改善策の早期実行・売却などを迅速に進めることで将来における業績悪化リスクを排除します。

これらを通じ、2026年度には海外事業全体を回復軌道に乗せ、2027年度には全4事業地域(リージョン)がそれぞれ株主価値の向上に貢献する状態を目指します。

併せて、経営基盤の再構築を行い、計画的かつ持続的なコスト改善に取り組みます。具体的には、東京とロンドンに分散・重複していた本部機能の統合、各リージョン本部の役割再定義による業務簡素化、マーケットのコストコントロール等に注力し、AIやアウトソーシングの活用も含めた徹底的な効率化を通じて2027年度に最大で年間500億円規模のコスト削減効果を見込んでいます。

 

(3) 事業戦略のフォーカス

当社グループがクライアントに提供するサービスは、マーケティング、テクノロジー及びコンサルティングが融合する領域並びにスポーツ&エンターテインメント領域において、保有するユニークで多岐に渡るケイパビリティを統合し、クライアントの持続的な成長を実現する「インテグレーテッド・グロース・ソリューション」です。それを下支えする当社グループの強みは、日本で培ったクライアントビジネスへの深い理解に基づいて構築されたクライアントとの長期的な関係、クライアントの複雑なニーズに応えるマーケット毎の特色ある革新的なソリューションによる連続的なイノベーションの提供、それらを確実に実現し社会に大きなインパクトを生み出す人財、の3つです。新中期経営計画においては、これらの強みをベースに各マーケットにおけるクライアントのグロースパートナーとなることを目指します。そして、この成功を積み上げることでグローバルでの成長を実現していきます。

 

 

(4) 株主価値・資本効率を重視した経営及び財務方針

前述の戦略と施策は利益成長を通じて中長期的な株主価値の向上を目指すものですが、その実現を確かなものとするため、ROEを経営指標に追加いたしました。具体的には2027年度にはROE10%台中盤の達成を目標としております。この目標を達成するため、改めて財務方針を設定し、規律を持って管理・運用してまいります。必要となる資金の規模を厳密に見極め、資本と負債とのバランスなどを慎重に管理し、バランスシートの健全性を改善してまいります。その上で、キャピタルアロケーションにおいては、まず2025年度に実施する経営基盤の再構築に係る費用、及び事業成長のための内部投資を優先し、業績の再建を進めます。また、株主視点での経営を継続し、2025年度以降の配当方針としては、基本的1株当たり調整後当期利益に対する配当性向を35%とします。なお、構造改革費用投下が先行する2025年度は、一時的措置として、当期と同額の1株当たり139.5円を予定しております。買収などの投資は、2024年度以降抑制しておりましたが、M&Aプレイブック等の整備により十分な規律が担保できる状態となったことに伴い、従前より厳格な規律の下で、業績回復の進捗や見通しに応じて徐々に再開し、事業戦略に整合した案件を選択的に実施してまいります。なお、財務方針の管理・運用にあたっては、取締役会の諮問機関として2024年度に新設された、社外取締役を中心に構成されるファイナンス委員会と連携し全般的な財務規律を強化します。

 

(5) ガバナンス及び内部統制の向上

当社グループは、One dentsuオペレーティング・モデルの適切な運用に向けて、グループ横断でのガバナンス体制の構築、責任者の明確化、事業運営の簡素化等を通じたガバナンス及び内部統制の向上に引き続き努めてまいります。当該取り組みの進捗については、取締役会等でも定期的に確認しております。

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に関する独占禁止法違反被告事件について「テストイベント計画立案等業務」において法令違反の談合行為があったことを厳粛に受け止め、真摯な反省に基づく再発防止の取り組み等を説明・実施してきました。一方で、判決は法令違反の対象が「テストイベント実施等業務」「本大会運営等業務」にも及ぶとしており、その点については当社グループの主張と異なることから控訴しております。2023年度に策定した改革の17施策は2024年度に全て完了しましたが、従業員調査などを通じて確認した課題への対応については、2025年度より新たな体制で意識行動改革を推進いたします。

 

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 

(1) 2030サステナビリティ戦略

当社グループにとってサステナビリティとは、パーパスである「an invitation to the never before. 私たちは、多様な視点を持つ人々とつながりながら、かつてないアイデアやソリューションを生み出し、社会や企業の持続的な発展を実現するために存在しています。」を前提とし、経営方針「B2B2S(Business to Business to Society)」のもと、顧客企業と共に社会課題を解決し、社会全体の持続的成長を実現していく経営の中核であります。自社の短期的利益だけでなく、社会の中長期の持続性を重視するという価値観をステークホルダーと共有し、ともに実現していくことを目指しております。

 

当グループのサステナビリティ戦略は、困難な社会課題を解決する未来のアイデアを生み出していくことです。
2024年、新たにアップデートした「2030サステナビリティ戦略」では、「PEOPLE:私たち一人ひとりがもつ力の最大化」「PLANET:地球環境と社会の持続可能性」「INNOVATION:新しいアイデアやソリューションの創造」の3つの重点領域にわたって、①企業倫理とコンプライアンス / データセキュリティ、②DEI、③人的資本の開発、④気候変動へのアクション、⑤イノベーションに導くリーダーシップの5つの取り組むべき重要課題(マテリアリティ)を特定いたしました。

これらの重要課題は、パーパスの実現とともに、ステークホルダーに対する企業価値を最大化するため、「経営視点での重要性」と「ステークホルダー視点での重要性」の2軸の分析によって策定いたしました。策定の過程では、当社グループの現状と将来を見据えた経営戦略やビジネスモデル、グループリスク委員会が管理するグループ経営上のリスク項目さらには取締役会やサステナビリティ関連会議資料等を分析対象としております。

 

また、2030サステナビリティ戦略の進捗と、5つの重要課題への取り組みの状況は、年4回開催されるグループサステナビリティ委員会を通じて管理しております。全てのアクションプランとKPIが達成されるよう、委員会メンバーと担当部門は相互に連携しております。

なお、文中における将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。

 

 

2030サステナビリティ戦略 


(注)1.「2030サステナビリティ戦略」の詳細についてはHP(https://www.group.dentsu.com/jp/philosophy/sustainability-strategy-2030.html)をご覧ください。

2.マテリアリティ策定過程の詳細については、HP(https://www.group.dentsu.com/jp/philosophy/materiality.html)をご覧ください。

 

① ガバナンス

サステナビリティに関する当社グループのガバナンス体制は以下の通りであります。


 

・取締役会(BOD) 

当社グループのサステナビリティを巡る取組みについての基本的方針を定め、グループ・マネジメント・ボード(GMB)が決議・承認したサステナビリティに関連する経営上の重要な事項に関して報告を受け、監督する責任を担います。

 

 

・グループ・マネジメント・ボード(GMB)

当社グループのサステナビリティに関してグループサステナビリティ委員会(GSC)が策定する戦略、KPI、アクティベーション等について、GSCからの報告を審議し、決議・承認するとともに、その事案を取締役会に報告する責任を担い、GSCの活動をモニタリングします。

 

・グループサステナビリティ委員会(GSC)

当社はサステナビリティを経営の中核テーマの1つと位置づけており、グループ・マネジメント・ボードの直下にグループサステナビリティ委員会を設置しています。

当社グローバル・チーフ・サステナビリティ・オフィサーである北風祐子を議長とした同委員会は、当社グローバルCEO五十嵐博をはじめとする8名の多様な専門性と地域性を持つメンバーで構成されており、アジェンダに応じて各リージョンのCEOも参加します。

 

<2024年度 グループサステナビリティ委員会メンバー>

議長

北風祐子

グローバル・チーフ・サステナビリティ・オフィサー

メンバー

五十嵐博

グローバル CEO

 

曽我有信

グローバル・チーフ・ガバナンス・オフィサー

 

アリソン・ゾルナー

グローバル・ゼネラル・カウンセル

 

ジーン・リン

グローバル・プレジデント-グローバル・プラクティス

 

ジェレミー・ミラー

グローバル・チーフ・コミュニケーションズ・オフィサー

 

マヌス・ウィーラー

チーフ・ブランド & カルチャー・オフィサー

 

谷本美穂

グローバル CHRO

 

 

同委員会では、年4回の会議を通じて当社の重要な経営戦略の1つである「2030サステナビリティ戦略」の進捗や、2021年以降当社の役員報酬制度の構成要素となった温室効果ガス(GHG)排出量削減や女性リーダー比率などの指標の進捗を管理、評価しています。また、人権のテーマは常設議題として取り扱っています。

 

2024年度におけるグループサステナビリティ委員会のアジェンダは、以下の通りです。

・2030サステナビリティ戦略のアップデート、KPI/アクションプランの進捗確認

・電通グループの人権方針、人権デューディリジェンス、人権と責任あるメディア

・第三者評価機関による評価の現状分析と改善の取り組み

・EUの非財務開示規制であるCSRDへの対応

 

役員報酬との連動

2022年度より、当社グループの役員の年次賞与にサステナビリティ指標を採用しております。詳細は、「4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (4) 役員の報酬等」を参照ください。

 

② リスク管理

当社グループにおけるサステナビリティに関連するリスクは、既存の経営戦略や事業等のリスクを反映して策定したマテリアリティによって識別され、年4回実施されるグループサステナビリティ委員会においてマテリアリティをベースとした「2030サステナビリティ戦略」の推進の進捗状況を評価、管理しております。

推進に当たっては、マテリアリティの項目別にグループサステナビリティ委員会のメンバーであるグループ・マネジメント・チームがその責任を負うとともに、グローバル・チーフ・サステナビリティ・オフィサーが全体統括を行います。

なお、同戦略に掲げた目標達成が計画通りに進捗しなかった場合等のリスクについては、グループリスク委員会で評価、管理しております。

 

 

③ 指標及び目標

2030サステナビリティ戦略のマテリアリティに定めたアクションプランとKPI、及び2024年度の進捗は以下の通りであります。

 

2030サステナビリティ戦略 アクションプランとKPI


 

2024年度の進捗

企業倫理とコンプライアンス /データセキュリティ:

・6つのテーマについての研修計画立案

・6つのテーマ全ての相談窓口を設置完了

・第三者評価の向上と認証獲得達成

 

DEI:

・女性リーダー比率32.5% 

・Check In(CI)サーベイの「Respect」スコア1ポイントダウン

 

人的資本の開発:

・GEMの後継者準備100%

・「People Discussion」実施時間:グループマネジメントレベルで約13時間

・Check In(CI)サーベイの[エンゲージメントスコア」 前年度と変化なし

 

気候変動へのアクション:

・Scope1+2 GHG排出量 △65.1%(2019年比)

・Scope3   GHG排出量 △28.2%(2019年比)

・再生可能エネルギー比率 79.5%

 

イノベーションに導くリーダーシップ:

・社会の明るい未来のための投資・研究開発 6件(前年比120%)

・社会のより持続可能な未来に向けた行動を促すソートリーダーシップコンテンツ(KPI見直し中)

・未来のためのパートナーシップやエコシステムのイノベーション 8件(前年比160%)

 

 

(2) 気候変動へのアクション

① 気候変動に関するガバナンス

気候変動は、「2030サステナビリティ戦略」におけるマテリアリティの1つであり、ガバナンスの体制はサステナビリティ全般と共通であります。

 

② 気候変動に対する戦略

 1-1 重大な影響を及ぼし得る気候関連のリスクと機会の特定プロセス

当社グループは、現在および将来予測される気候条件の下での異常気象がもたらす気候関連リスク(物理的リスク)と、低炭素経済への移行に伴う気候関連リスクと機会(移行リスクと機会)に対する事業への影響について、シナリオ分析を実施し、その結果を気候変動に対する戦略と目標に反映しています。

特定された物理的リスクにはそれぞれに、潜在的な損害および/またはそれに伴い事業損失を表す「リスクの影響評価」と、気候ハザード/事象の発生可能性を表す「可能性評価」を割り当て、移行リスクと機会については、TCFDが示している分類(現在の規制、新たな規制、技術、法律、市場、レピュテーション)に沿って特定し、潜在的な時間軸も検討しています。

さらに重大な影響を及ぼし得る気候関連のリスクと機会については、社内の重要な意思決定に対するインタビュー、対話型ワークショップ、ステークホルダーとのエンゲージメントを組み合わせて評価を実施し、さらにそれらに発生の可能性、重大性、財務的影響のスコアを割り当て、最も影響の大きい気候関連リスク・機会を判断しております。

当社グループの影響の区分は下記の表のとおりで、「低/中/高」は当社グループの事業に与えうる影響の度合いを示しております。シナリオ分析の定量的な分析のうち、任意の年に任意のリスクまたは機会が営業利益に与えうる影響については、該当するリスクまたは機会が顕在化した場合に生じる日本円(\)建て営業利益への影響を基礎とする「影響の区分」を割り当てております。

 

 <電通グループの影響区分> 

影響の区分

調整後営業利益へ影響(%)

電通グループが設けている

同等のグローバル区分

(財務関連の区分)

非常に高いリスク

5~10%、または10%以上

4(大)/5(極大)

高いリスク

2.5~5%

3(中)

低い/中程度のリスク

1~2.5%

2(小)

現状維持

1%未満

1(軽微)以下

小さな/中程度の機会

1~2.5%

2(小)の逆数

大きな機会

2.5~5%

3(中)の逆数

非常に大きな機会

5~10%、または10%以上

4(大)/5(極大)の逆数

 

 

 

 またシナリオ分析の実施に用いた時間軸と、物理的シナリオ、移行シナリオの詳細は以下の通りであります。

物理的シナリオ

移行シナリオ

高炭素排出

シナリオ

 

 

 

IPCC SSP5-8.5

追加的な気候政策がなく、2100年までにGHG排出量が3倍になると仮定した「現状維持」の軌道をたどる。今世紀末までに3.8℃以上気温が上昇する想定。

高炭素排出シナリオ

 

 

現行政策シナリオ(CP)/公表政策シナリオ(STEPS)

現在実施されている政策のみが保持される想定。今世紀末までに気温が3℃上昇し、大きな物理的気候リスクをもたらす。

低炭素排出

シナリオ

 

 

 

 

IPCC SSP1-2.6

パリ協定に基づく現行の約束に沿って、2100年までの気温上昇は2℃以内に抑えられる。今世紀の後半にはネットゼロ排出になる。

中程度炭素排出シナリオ

移行遅延シナリオ/表明公約シナリオ(APS)

2030年まで、世界の年間排出量は減少しないと想定。2030年以降には、新たな気候政策が実施されるものの、現在実施されている政策がベースになるため、そのレベルは国や地域によって大きく異なる。今紀末までの気温上昇は1.6℃と想定。

低炭素排出シナリオ

2050ネットゼロ排出/2050年までのネットゼロ排出シナリオ(NZE)

厳しい気候政策、イノベーション、2050年までのGHGネットゼロ排出達成により、今世紀末までの地球における気温上昇が1.5℃以内に抑えられる。

時間軸

基準年、2030年および2050年

時間軸

2030年、2040年および2050年

 

 

 

 1-2 気候関連のリスクと機会が電通グループにもたらす影響の概要

当社グループでは前述のプロセスに基づき、3つの物理的リスクと8つの移行リスク・機会を、事業に最も重要な関連性を持つものと判断しました。

すなわち、物理リスクについては、i)異常気象に関連する直接的な業務への影響リスク(オフィス操業への影響、従業員の健康被害など)、ⅱ)サプライチェーンの混乱リスク、ⅲ)地震と気候変動の複合影響による事業中断のリスク、の3点であります。当社グループの事業の特性上、その影響はいずれも限定的と見積もっております。

また、移行リスク/機会については、i)世界的な(脱炭素に向けた)経済変動による減収、ⅱ)規制と開示要請の強化による対応コストの上昇、ⅲ)低炭素商品やサービスを求める生活者行動/嗜好の変化、ⅳ)セクター・エクスポージャー(炭素強度の高いクライアントとの取引)、ⅴ)経済の脱炭素化に合わせた優秀な人材の維持・確保、ⅵ)脱炭素経済への移行による新たな市場へのアクセス、ⅶ)脱炭素経済への移行による新興セクターのクライアントとの取引、ⅷ)自社やクライアントへのサービス提供に資する新たな脱炭素テクノロジーの登場、を特定しております。

詳細については、「電通グループ TCFDレポート2024」(https://www.group.dentsu.com/jp/sustainability/common/pdf/TCFDreport2024.pdf)をご覧ください。


 

 

③ 事業方針

2024年度は以下の事業方針を展開しました。前述の気候関連のリスクと機会の分析に基づき、当社グループでは最もインパクトが大きいと考えられる5つの領域に注力して気候変動に取組みます。

 ‐私たち自身のサステナビリティ・トランスフォーメーションを加速する

 ‐業界の変革を推進する

 ‐異業種間でパートナーシップを組む

 ‐社会の持続可能な選択を促す

 ‐社会の仕組みを変える提案をする

 

  2024年度の主な取り組みは、以下の通りであります。

・人の考え方や行動に変革をもたらす サステナビリティ推進支援プログラム 「SUSTAINABILITY TO IMPACT」の提供開始

2024年8月、電通グループの国内事業を担う dentsu Japanは、人の考え方や行動に変革をもたらす統合的なソリューションをとりまとめたサステナビリティ推進支援プログラム「SUSTAINABILITY TO IMPACT」の提供を開始しました。このプログラムは、dentsuが自社のサステナビリティ戦略で掲げる「困難な社会課題を解決する未来のアイデアを生み出していく」方法によって、人の考え方や行動に変革をもたらし、企業と社会の未来の可能性を創っていくことの象徴的なソリューションであります。

 ―サプライチェーン全体を診断し、戦略や施策を策定する「CHECK & PLAN」、

 ―施策や事業アイデアを伴走しながら実行し、変革を起こす「ACT & CHANGE」、

 ―アップデートされた情報をステークホルダーや世の中に伝える「REPORTING & DISCLOSURE」、

の3つのプロセスからなり、それらが循環することで人が動き、好循環を生み出し企業価値の向上につながっていくことをめざしております。具体的な対応テーマには「脱炭素」の他、「生物多様性」「サーキュラーエコノミー」などがあります。詳細は下記HP(https://www.japan.dentsu.com/jp/sustainability/)をご覧ください。


 

 

・マーケティング領域の脱炭素化イニシアティブ「Decarbonization Initiative for Marketing」

日本国内のマーケティングコミュニケーションに伴い排出されるGHGの削減を目的に、2023年6月に立ち上げたイニシアティブ「Decarbonization Initiative for Marketing」においては、2024年9月、一般社団法人日本広告業協会(JAAA)内に電通グループの主導で「脱炭素化研究会」を設立しました。一般社団法人日本イベント産業振興協会(JACE)、一般社団法人日本アド・コンテンツ制作協会(JAC)等の関連業界団体との連携により、業界全体のGHG排出の可視化・削減の実装に向けた議論を進めてきます。

 

・次世代撮影スタジオ「FACTORY ANZEN STUDIO」におけるオンサイトPPA導入

株式会社電通クリエイティブピクチャーズは、2024年1月にオープンした持続可能性に配慮した撮影スタジオ「FACTORY ANZEN STUDIO」において、オンサイトPPAによる蓄電池併設型太陽光発電システムを導入し、2025年1月1日より稼働開始しました。本システムの導入により、年間約22.8tの温室効果ガスを削減することができます。同スタジオで使われる電気は、購入したエネルギーも含めて再生可能エネルギー100%となり、廃棄物も2025年度内にはリサイクル率90%を目指すなど、スタジオ全体で環境負荷の低減を進めております。

詳細はニュースリリース(https://www.dcrp.co.jp/news/2195/)をご覧ください。

 

④ 目標と実績

 気候変動に関する目標

当社グループは、2040年までにバリューチェーン上の温室効果ガス(GHG)排出量のネットゼロ達成を目標に掲げており、当社グループの科学的に基づく短・長期的なGHG排出削減目標値は、科学に基づく目標設定イニシアチブ(SBTi, Science Based Targets initiative)の企業ネットゼロ基準に従ってSBTiに認定されております。

当社グループのGHG削減目標は次の通りであります。

 

 ●短期目標(~2030年)

当社グループは、2030年までにScope1とScope2のGHG絶対排出量を2019年ベースラインから46.2%削減します。また、グループ全体の購入した製品・サービス、出張、雇用者の通勤から発生するScope3のGHG絶対排出量を、同じ期間内に46.2%削減します。

 

 ●長期目標(~2040年) 

当社グループは、Scope 1とScope 2のGHG絶対排出量を、2019年ベースライン比で2040年までに90%削減します。さらに、Scope 3のGHG絶対排出量も同じ期間内に90%削減します。

2040年までにネットゼロを達成するために、当社グループはまず追加的な排出削減活動を実施しますが、残りの排出量(10%未満)は、信頼できる検証可能な GHG 削減スキームを通して削減します。

 

 ●再生可能エネルギー比率100%

当社グループは、2030年までに再生可能エネルギー比率を100%にすることを目標としています。2023年12月からは汐留ビルの使用電力を100%再生可能エネルギーに切り替えるなど、順次取り組みを進めております。進捗の詳細については、HP(https://www.group.dentsu.com/jp/sustainability/climate-action/)をご覧ください。

 

 

 2024年度のGHG排出量、及び再生可能エネルギーの導入実績は以下の通りであります。

GHG排出量(tCO2e)

 

 2030年
(連結目標値)

2019年

(基準値)

2024年実績

2024年

(対基準値)

日本

海外

合計

日本

海外

合計

合計

Scope1+2

 基準値に対して46.2%削減

17,828

18,189

36,017

7,476

5,108

12,584

△65.1%

Scope3

176,117

365,912

542,029

169,214

219,935

389,149

△28.2%

Scope

1+2+3

193,945

384,101

578,046

176,690

225,043

401,733

△30.5%

 

(注)1.マーケット基準は、Scope2について適用しています。

2.2024年実績に含まれるScope1、Scope2の各合計数値については、KPMGあずさサステナビリティ株式会社による第三者保証を取得しております。第三者保証報告書はHP(https://www.group.dentsu.com/jp/sustainability/common/pdf/third-party-assurance.pdf)で開示しております

3.M&Aによる連結対象範囲の変更等に伴い、基準年(2019年)の数値の遡及修正を行いました。修正後の数値をベースにグループ全体を対象とした削減目標を制定し、科学的根拠に基づいた目標としてSBTi(Science Based Targets initiative)の認定を取得しました。


 

再生可能エネルギー使用量(kWh)

2030年
  (連結目標値)

2024年実績

100%

総電力使用量

  再生可能エネルギー

使用量

再生可能エネルギー比率

65,620,130

52,141,260

79.5%

 

(注)1.当社グループのサステナビリティ戦略とコミットメントにおける再生可能エネルギーとは、再生可能な資源から発電された電力を指します。この定義は、当社グループもメンバーである国際的なイニシアチブRE100に準拠しています。

2.再生可能エネルギー使用量に関するデータは、第三者保証対象外です。

 

(3) 人権の尊重

電通グループにとって人権の尊重は自社グループの存立基盤、倫理的かつ持続可能なビジネスの根幹をなす重要事項です。国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、人権の擁護に努めてまいります。「電通グループ人権方針」(2018年制定。2024年改訂)策定しており、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」などの国際的なフレームワークに則ることも明文化しております。詳細はHP(https://www.group.dentsu.com/jp/about-us/common/pdf/human-rights-policy.pdf)に開示しております。

 

① 戦略

電通グループ全体のガバナンス体制と部門横断的な取組みを推進し、法令遵守とあらゆるステークホルダーからの要請への準備を開始しております。また、「2030サステナビリティ戦略」との整合も図ってまいります。

② ガバナンス

電通グループでの人権への取組みの統括はグローバル・チーフ・ガバナンス・オフィサーが担っており、業務上の人権対応は専門部署の担当者が行っております(グループ全体をカバーするべく、日本及び海外の両方に配置して連携しております)。対応状況については、個別事案も含めて取締役会にも報告しております。

また、グループサステナビリティ委員会では各回必須で「人権」を議題として取り扱い、日本固有の課題についてはdentsu Japanのマネジメントで構成する「電通グループ人権委員会」で対応しております。

 

③ リスク管理

2024年にグループ全体を対象にした人権課題の特定(人権デューディリジェンス)を外部専門家を交えて実施。その結果以下の6項目を特定しております。

 (1) 業務における平等と無差別の原則

 (2) 思想、意見、宗教、信仰の自由、表現の自由、情報へのアクセスに基づいたビジネス

 (3)  労働上の権利とハラスメント

 (4)  業務上のプライバシー・個人情報の保護

 (5)  子どもの権利

 (6)  健康的で持続可能な環境への権利

④ 指標と目標

指標と目標は、以下の2項目となっております。

・ グループ全体での人権デューディリジェンスの実施を通じた課題の更なる明確化とそれらを反映した人権啓発活動の更新(人権方針、研修等)。

・ 人権に関する取組みの積極的な情報公開と外部ステークホルダーとの対話。

当社グループとしての人権の取組みは、HP(https://www.group.dentsu.com/jp/about-us/governance/human-rights.html)でも公開しており、順次アップデートしております。

 

(4) 人的資本に関する方針と取り組み

① 基本方針

当社グループのビジョン<「人起点の変革」の最前線に立ち、社会にポジティブな動力を生み出す>には、「人」が創り出す可能性を信じ、そこから生まれる新たな力で社会に貢献していきたいという思いが込められております。この実現のためには、我々の最大の資産であるユニークで多様な人財の力を解き放ち、その力を掛け合わせていくことが重要と考えております。

こうした前提のもと、当社グループの人的資本のとらえ方の根幹にあるのは「人は誰でも『貢献したい。成長したい。』という気持ちを持っており、仕事を通じて自身の成長を実感することに喜びを感じる」という信念であります。こうした人の自律的な成長意欲を信じ、誰もがチャレンジし成長する機会が得られる環境を実現することで、人的資本、つまり「人」の可能性に投資し、そのケイパビリティを拡張していく経営を進めてまいります。

 

② 戦略

「人起点の変革」を推進し社会に貢献していくために、当社グループは従業員のユニークで多岐に渡るケイパビリティを統合し、顧客の持続的成長を実現する「インテグレーテッド・グロース・ソリュ―ション(IGS)」に注力してまいります。このIGSによる成長をグローバル各地域で実現していくことを目指した体制として、2023年より、世界の4つの地域が一体となった経営体制を構築しております。更にグローバル共通の事業の枠組みとして「One dentsu オペレーティング・モデル」を導入することで、地域/事業領域ごとの協業を促し、より統合されたサービスが提供しやすい業務体制を整えつつあります。一方で、このビジネス変革を規律をもって遂行するために、ガバナンスと内部統制の再構築も経営戦略の要として位置付けました。体制整備とともに、インテグリティを重視した組織風土の醸成を鍵とし、意識行動改革に向けた取り組みを進めております。

これらの経営戦略、重要課題に応えていくためには、「人」の可能性をどのように拡張していくかが大きな焦点ですが、これには、大きく二つの望ましい状態の実現が必要と考えております。まず、様々な人財が繋がり合い、ともに学び、互いの専門性を掛け合わせることで組織・個人ともに高いケイパビリティを持っている状態であります。これは当社グループならではの「統合」されたソリューションの提供に不可欠なものであります。そしてもう一つは、従業員一人ひとりがインテグリティを持ちチームに前向きに貢献しようとする意識、つまりエンゲージメントが高まっている状態であります。この二つの状態をグローバルに実現することが、One dentsuで「人」の可能性を高め、経営戦略実現を支援している姿であり、我々の目指すところでもあります。

これを実現すべく2023年度から始まったOne dentsu体制を人事部門にも取り入れ、チーフ・HR・オフィサー(CHRO)を中心としたグローバル横断的な人事リーダーシップチームが組成されております。この体制のもと、グローバルで一貫した戦略体系を構築・実行しております。

 

 

・人事ミッション

グローバル人事戦略の起点となるのは、人事領域の担当者が何を目指して仕事をするのかを定めたミッションであります。CHROと4地域の代表、またタレントや報酬、人財データなどの専門分野のリーダーが議論し確立したのが、「1つのチームになり、仲間の力を引き出す」というミッションです。これには、人事領域の各チームが垣根無くそれぞれの力を出し合い、従業員一人ひとり、そして組織全体の秘める可能性を解き放つ、という我々の役割を明確に表しております。この人事ミッションのもと、経営戦略の支援・ビジョンの実現に向けた具体的な注力領域などを定めた三つの柱から成る人事戦略体系を構築しております。

 


 

 

・人事戦略1: People Growth(人の成長)

人の成長をどのように実現するかは、言うまでもなく人財戦略の最重要な柱であります。従業員一人ひとりの成長はもちろんのこと、組織が変革を求められている状況においては、リーダーがいかに成長をドライブできるかが重要であります。組織が発揮できる能力は、それを率いるリーダーの行動が与える影響により、大きく異なると考えるためです。

当社グループにおいても、人と組織の成長を加速する鍵となるのはリーダーシップの在り方であると考え、人的資本投資の中でも優先的に取り組みを進めております。

 

ⅰ) dentsu Leadership Attributesの策定

「dentsuの目指す姿」を牽引するリーダーシップを見極め、育てることを重点課題と捉え、dentsuのリーダーが持つべきリーダーシップ行動要件を「dentsu Leadership Attributes(dLA)」として言語化・定義しました。dLAは組織としてどのような行動が推奨され評価されるべきなのかを示す6つの要素と全ての素地となるインテグリティから構成されております。具体的には、未来を切り拓くための戦略的思考とイノベーション、強いチームを作るための人財育成と組織文化醸成、結果を出すための顧客中心主義の実践と仕事の推進力といった項目であり、それぞれに対して従業員がどのように行動を発揮しているかを確認するツールとしても活用できるものです。2024年度には各要素を検証・吟味し、dLAが人財選定・評価・育成の指針として制度に組み込めるよう磨き上げ完成させることができました。

 

ⅱ) 人財を見極め、育てるためのディスカッション

今後のリーダー人財候補者の特定・育成に向けては、dLAに基づいた「People Discussion」(人財についてレビューし、育成方針を議論する場)をグループ・各リージョンで実施しました。活動の2年目となる本年度には前年より議論の対象となる従業員層を経営層から数段階まで広げ、特に日本においては延べ3,000名以上をカバーすることができました。この活動の結果、2024年度におけるグループ・エグゼクティブ・マネジメントの全ポジションについて、少なくとも1名以上の後継者候補が特定できている状況を担保しております。また各部門における有力人財の可視化、後継者候補の選定を行うとともに、育成投資について議論を推進し、人財パイプラインの強化を行っております。

またこの活動を定着させることで、人財を見極めるプロセスにグループとして一貫したリーダーシップの観点を反映させることができます。これにより、業績とリーダーシップの側面から複眼的に人財評価・育成を実現しつつあります。

 

ⅲ) 高ポテンシャル人財、戦略領域人財への投資

People Discussionを通じて可視化された人財に対してはそのポテンシャルを最大化すべく、グローバルで多様な環境で自身をストレッチさせる業務の経験機会、スキルや視野を広げる育成プログラムを提供しております。One dentsuオペレーティング・モデルをより強固に体現すべく年間を通じてグローバルリーダーの登用、組織再編を行っておりますが、新リーダーの抜擢の際には、重点人財の成長につながる体験をさせることも意図されております。また育成プログラムの代表的なものとして、本年度は次世代グローバルリーダー育成プログラムを新たに立ち上げ、世界から約40名を東京に集めて刺激的な学びの場を提供しました。加えて、将来のグループ経営層の育成を目指した人財の配置・派遣計画も推進しており、より実経験を通じた人財成長支援を加速化します。

並行して、従業員のキャリアの選択肢を増やすことで長く働けるキャリアを形成することも目指しております。その基盤として、グループ統一の職務・等級フレームの導入を進めており、特に等級(ジョブレベル)の共通化を進めることができました。これにより、グループ内で「リーダー層」として定義されるべき人財を可視化し、より精緻な人事施策を可能にするとともに、従業員のキャリアの「物差し」も明確にすることができました。この基盤を更に固めることで、地域や個社を超えた人財の流動化を促進し、従業員一人ひとりのキャリアアップを支援していくことを目指します。

 

 

ⅳ) 人を育てる仕組みと文化の定着に向けて

今後継続的に十分な効果を出していくため、ここまでに挙げた各種施策は継続的なサイクルの仕組みとして設計されており、今後はこれを通じた「リーダーがリーダーを育てる」文化を定着させていくことを目指します。具体的には、dLAの各種人事施策への組み込みと定期的なPeople Discussionの運営・対象範囲の拡大を通して、人財の可視化や戦略的人財配置などの直接効果にとどまらず、議論に参加する各リーダー自身の人財育成意識に働きかけてまいります。今後はこの成果を確認するべく、プロセスとしての対話時間や結果としての後継者準備率をモニタリングする一方で、エンゲージメント調査を通じ、従業員側の成長実感がどの程度得られたのかも併せて計測してまいります。これら複合的な指標を用いて、People Growthの進捗を確認してまいります。

 

・人事戦略2:Winning as One Team(ワンチームとなって勝つ組織)

当社グループの強みは、多様でユニークな個の力が掛け合わさり、そこから我々ならではのクリエイティビティ、そしてイノベーションが生まれることであると考えます。その価値の実現に向け、グローバルに存在する人財の一人ひとりが強みを発揮するに留まらず、同じ目的に向かってコラボレーションすること、つまりワンチームになることを重視しております。その素地となるのはインテグリティに基づくdentsuらしいカルチャーづくりと生産性高く活性化された組織であると捉えて、重点的に活動を行っております。

 

ⅰ) エンゲージメント調査と組織カルチャーへの取り組み

従業員がチームとして前向きに協力し合う文化の形成には、エンゲージメントは最も重要な要素の一つです。当グループでは毎年の調査で、従業員の満足度と推奨度からエンゲージメントスコアを算出しており、全グループ単位と地域・会社などの部門単位で課題を特定した上で改善に取り組んでおります。また役員報酬のKPIにも組み込んでおります。

前年度の調査結果からは、ビジョン・戦略、経営リーダーシップ、経営からのコミュニケーションなどの項目へのスコアが重点課題であると捉えられ、それらに対する打ち手として経営からのコミュニケーション改善に取り組みました。具体的には、国内・海外ともに経営層からメッセージなどの情報発信・Town Hall Meetingなどの直接インタラクションの機会を数多く設定しました。また特にグループ内の主要職を担う幹部がビジョン・戦略を十分理解し自部門に共有していくことが重要と考え、2024年度にはコロナ禍後初めての対面形式でのシニアリーダーシップミーティングを実施するなど、より密度の濃い活動を展開しました。

他方、ガバナンス観点で重視される個人のインテグリティやコンプライアンス意識についての回答は、日本・海外とも比較的高いスコアを記録しました。これを前向きな機会と捉え、更なる意識向上や活動改善の取り組みを進めてまいります。

 

ⅱ) フレキシブルで生産性の高い働き方ができる環境の整備

従業員が十分に活躍できる環境整備として、労働環境の改革にも継続的に取り組んでおります。ハイブリッドワークから得られる柔軟性の高い働き方を継続しつつ、当社が目指す「人起点の変革」にはリアルコミュニケーションも重要であることから、各地域・部門ごとに最適な出社バランスの検討を進めております。また生産性の高い働き方には、テクノロジーも取り入れた新しい方法を積極的に取り入れる姿勢も欠かせません。dentsuらしくクリエイティブに、そしてスマートな働き方をこれからも追求し発信してまいります。

日本で継続してきた労働環境改革においては、勤務管理や従業員見守りなどに関する意識・活動のベースを保ちつつ、ハイブリッドな働き方などの現場実態に即し、今後の持続的成長に向けた活動を継続しております。

 

 

ⅲ) 多様な能力のコラボレーションを高める従業員意識

多様な従業員が安心して能力を発揮し、コラボレーションを通じてより良いソリューションを生み出していく組織文化では、それを育む従業員の意識が重要であります。様々な「違い」のある従業員同士がその差を理解し、互いに尊重し合いながら働くことができる意識と、そのための場づくりの活動にも注力しております。この成果を確認するべく、エンゲージメント調査に盛り込んでいる「敬意/Respect」のスコアを指標とし、各従業員が職場で他者から尊重されていると感じられているかどうかを注視しております。

同様に、コラボレーションに対する意識、インテグリティに対する意識についても、対応するエンゲージメント調査のスコアをモニタリングし、関係施策のPDCAに繋げてまいります。組織文化の状況を一つの指標で定量的に測定していくことは困難ではあるものの、当社グループの目指す状態を構成する要素として、互いへの敬意、コラボレーション意識、インテグリティ意識の水準を把握し、総合値としてのエンゲージメントとの関係性にも着目することで、Winning as One Teamの推進に活用してまいります。

 

 ・人事戦略3:HR Service Excellence(最良の人事サービスとパートナーシップ)

People Growth、Winning as One Teamの各戦略に基づく一連の施策を具現化していく際、人事部門は事業領域と質の高いパートナーシップを築くことが重要であります。この実現のため、人事部門の専門性と生産性を高め、人と組織の面から経営戦略や意思決定を支えていくグローバル体制を構築しております。具体的には、経営・事業に寄り添うHRビジネスパートナー(HRBP)と、人財マネジメントや報酬設計などの専門チームから成るCenter of Excellence(CoE)を両輪とし、組織的なケイパビリティを高めております。

 

ⅰ) 事業変革に対応したHRBPサポート

ビジネスに最も近い位置で様々な支援を行うHRBPは、人事パートナーシップの要であり、その能力を向上させることが人事サービスの質に直結します。2024年度は当社を中心とした日本におけるHRBP活動を立ち上げ、徐々に知見を蓄えてまいりました。またOne dentsuの実現に向け、日本と海外のHRBP同士が連携し協力し合いながらより包括的な人事パートナリングの範囲を広げる活動も推進しております。

また当社のHRBP活動の一環として、グローバル本社機能としてあるべき組織設計の見直しを行った事も大きな成果です。各部門長とHRBPが議論を重ね、組織設計上の"As is"と"To be"を洗い出し課題を明確化し、2025年度の組織再編などに反映することができました。

 

ⅱ) HRサービスインフラの整備

人事部門の活動やサービスを支える人財データ領域への投資・活動も継続しており、直近では特にデータの精度向上、及びグループ共通のデータ項目整備に注力しております。中でも日本には数多くの法人が存在するため、他地域と比べて人財情報の共通定義を設けることが困難な状況でしたが、2023年度に統一データテンプレートを開発、そして2024年度にはこのテンプレートに各社データを集約し運用を開始しました。これにより、各社の人財状況を同じデータ項目で俯瞰することが可能になり、今後の各施策のKPIモニタリングの精度が上がるだけでなく、ファクト情報に基づいた将来の組織戦略を描くことが可能になります。これらの取り組みを通じ、従来は地域・個社ごとにあった情報の統合が可能になり、グループ単位での戦略的な意思決定に寄与できる基盤を整えつつあります。

もう一つ重要な柱として日常業務の効率性を高める取り組みも継続しており、作業量の多いオペレーション業務についてはプロセスの最適化や自動化、コスト効率の高いニアショア・オフショア地域でのシェアードサービスの活用を推進しております。2024年度はインドや南米におけるオフショア拠点のサービス強化に取り組みました。今後も地域間の業務の違いも考慮しながら、全体最適化が望ましい業務についてはプロセスやシステムを見直し、グローバルでの統合、標準化などを通じ、更なる生産性の向上を進めていく考えであります。

 

 

3 【事業等のリスク】

当社グループの戦略・事業その他を遂行する上でのリスクについて、投資家の投資判断上重要であると考えられる主要な事項を以下に記載しております。ただし、すべてのリスクを網羅したものではなく、現時点では予見出来ない、又は重要と見なされていないリスクの影響を将来的に受ける可能性があります。

なお、当社グループは、グループの持続的成長と価値提供のための重要課題としてマテリアリティを策定し、2023年8月に公表しております。マテリアリティに関する詳細は、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」をご覧ください。後述のとおり、公表したマテリアリティも念頭においた当社グループの全社的リスク評価(Enterprise Risk Assessment、略称ERA)を新たに2024年に実施いたしました。

また、本項に記載した将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。

 

当社グループのリスク管理体制

当社グループでは、「4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1) コーポレート・ガバナンスの概要」に記載のコーポレート・ガバナンス体制図にあるコーポレート・ガバナンス体制の下、リスク管理を所管するグループリスク委員会を設置してERM(Enterprise Risk Management: 全社的リスクマネジメント)のアプローチを基軸に、グループ経営上重要なリスクを識別・評価し、そのリスクの顕在化の予防及び顕在化した場合の影響の最小化のため、リスク対応の責任者となるリスク・スポンサーを選定し、リスク対応計画の策定と実施を委任しております。対応すべきリスクとその評価は、グループリスク委員会で定期的に見直しその対応状況とともにグループ・マネジメント・ボードならびに取締役会に定期的に報告しております。

2024年より、グループリスク委員会によるOne dentsuとしてのガバナンス強化を目的に、日本、Americas、EMEA、APACの4リージョンCEOも新たにグループリスク委員会の委員に加えました。また、グループ・マネジメント・チームから新たにグローバル内部統制&リスク責任者を任命し、リスク管理活動を強力に推進しております。さらに、グループリスク委員会傘下に、海外3リージョンにリスク&コンプライアンス委員会、日本にリスク委員会を設置し、グループリスク委員会がグループ横断的にリスク管理を統括できる体制を整備しております。

 

主なリスク項目とその対応策

当社グループでは、2024年に実施したERAの一環として、グローバルCEO、グローバルCGO/CFOをはじめとするグループのリーダー、リージョン・主要マーケットのリーダー、社外取締役へのリスクに関する広範なインタビューを行い、そこから得た洞察をグループリスク委員会及びグループ・マネジメント・ボードで検討し、重要と判断するリスクの一覧であるリスク・レジスターを更新いたしました。

 また、グループリスクの網羅性をより確実なものにするために、用語整理を含めたリスクの体系化も同時に行いました。本項では、当該体系に基づき重要であると考えられる主要なリスクを記載しております。

 

(1) 戦略リスク

当社グループは、戦略リスク領域として「事業開発と成長リスク」、「事業変革リスク」、「サステナビリティ・リスク」を識別・評価・対応しております。具体的には「競争力・長期戦略」、「事業変革」、「サステナビリティ目標の未達」などに係るリスクがあります。

 

 

① 競争力・長期戦略

 2025年2月、当社グループは中長期に渡る成長を実現していくための基本的な方針として、2025年度から2027年度までの3年間を対象とした「中期経営計画」を策定し、公表しました。本計画においては、競争優位性及び収益性の回復を目標として掲げており、その実現に向けて、事業戦略のフォーカス、経営基盤の再構築、不振ビジネスの見直しに取り組みます。当社グループがまず着手する取り組みは、不振ビジネスの見直し・事業モデルの再構築を中心とした収益成長力の回復です。併せて、経営基盤の見直しを行い、計画的かつ持続的なコスト改善に取り組みます。

 当社グループは各マーケットにおける顧客のグロースパートナーとなることを目指してまいります。そして、この成功を積み上げることでグローバル全体での成長を実現していきます。そのために、マーケット、顧客及びケイパビリティの各戦略を更新し、当社グループの競争力を明確化した上で、事業戦略のフォーカスを加速してまいります。

 さらに、将来の柱となる事業創出の取り組みも並行して進めます。その一環として、これまで主に日本事業の下でビジネスを行ってきたスポーツ&エンターテインメント事業をグローバルに展開し、非連続的な成長を目指します。

 しかしながら、業界内外でのメディアプラットフォームなど巨大プレーヤーの台頭やテクノロジー企業・コンサルティング企業他によるAI等への巨額の投資など、競争環境の激化等によって当社グループのポジションも相対的に変化していくことが想定されます。このような環境下において、当社グループが競争力を維持できず、戦略目標や財務目標を達成できない場合、既存顧客の維持や新規顧客獲得に影響が出ることにより、市場シェアの喪失、協賛権・放送権並びにコンテンツのブランド価値の低下、財務上の損失につながる可能性があります。

 

② 事業変革

 当社グループは、事業・競争環境の急速な変化に対応するため、事業変革を推進しております。2024年1月より、顧客企業に提供するサービスと価値を、グローバルに効率的かつ迅速に最大化するための事業管理モデル「One dentsu オペレーティング・モデル」を導入し、意思決定の迅速化、責任の明確化、権限委譲を可能にする簡素化された組織構造への変革を進めております。

 しかしながら、同事業変革が想定どおりに進まなかった場合、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、事業環境や構造改革の変化に対応できなかった場合、内部統制の脆弱化、管理体制の不備が顕在化するリスクがあります。

 

③ サステナビリティ目標の未達

 2024年に当社グループの「2030サステナビリティ戦略」は、当社グループを取り巻く事業環境やサステナビリティに関わる世の中の状況・認識の急速な変化に対してOne dentsuとしてより能動的に対応し、社会やステークホルダーに対する責任を果たしていくことを目的に、「人」、「地球」、「イノベーション」の3つの重点領域にわたって、5つのマテリアリティ(「企業倫理とコンプライアンス/データ・セキュリティ」「DEI」「人的資本の開発」「気候変動へのアクション」「イノベーションに導くリーダーシップ」)を反映したアップデートを行いました。

 「2030サステナビリティ戦略」の進捗と、5つの重要課題への取り組みの状況は、年4回開催されるグループサステナビリティ委員会を通じて管理し、全てのアクションプランとKPIが達成されるよう、委員会メンバーと担当部門は連携して推進しています。2024年より、気候変動リスクへの対応をはじめとする「2030サステナビリティ戦略」の実行を統括するグローバル・チーフ・サステナビリティ・オフィサーを任命いたしました。

 しかしながら、社会・経済の外部環境要因などにより、これらの目標達成が計画どおりに進捗しなかった場合、当社グループのレピュテーションなどに悪影響が生じる可能性があります。

 

 

(2) オペレーショナル・リスク

当社グループは、オペレーショナル・リスク領域として「ガバナンスと監督リスク」、「第三者に係るリスク」、「レジリエンス・リスク」、「人的資本リスク」、「データ管理リスク」、「テクノロジー・リスク」、「情報セキュリティ・リスク」を識別・評価・対応しております。具体的には「人財の獲得、開発、維持」、「エンタープライズ・テクノロジーの統合及び導入」などに係るリスクがあります。

 

① 人財の獲得、開発、維持

 当社グループは、創業以来一貫して「人が資本」の企業であり、創造力と実行力に長けた多様な人財こそが持続的な企業価値向上の源泉です。そのため、必要な人財を十分に獲得、維持できない場合、顧客への高度なサービス提供ができずに当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。当社グループでは「People Discussion」と呼ばれる人財についての議論の場を設定して、人財の可視化を行うとともに、そのポテンシャルを最大化すべく、グローバル/ローカルのさまざまな環境で自身をストレッチできる機会、スキルや視野を広げるプログラムを戦略的に提供しています。また、当社グループらしいリーダー像を定義した「dentsu Leadership Attributes」を人財マネジメントのバックボーンとして設定・活用し、リーダーシップについてのあるべき育成投資を行います。

 人財獲得については特に人財流動性の高い海外市場において注力しており、採用業務の効率化と精度向上を目指したテクノロジー活用を進めています。これにより、募集から採用までの期間短縮などの成果も現れています。上級職の採用に特化した専門チームを設置し、コストを抑えつつ社内に専門知見を蓄積する活動も進めています。「人的資本の開発」は、当初グループのマテリアリティの1つでもあります。

 

② エンタープライズ・テクノロジーの統合及び導入

 当社グループは、2024年1月に導入した事業管理モデル「One dentsu オペレーティング・モデル」によって、ビジネス・オペレーションとエンタープライズ・テクノロジーの強化及び高度化を目指しています。これらは、組織の簡素化と統合の実現(部門の垣根をこえた協働を可能にすることで、オペレーショナル・エクセレンスを実現する組織の構築)とスピードの向上(ITインフラへの投資と拡張を実現することで、俊敏で柔軟性のある組織を実現)を推進する鍵となります。

 しかしながら、適切なテクノロジーソリューションへの投資が実行できない場合、また、グループとしてのITマネジメントが適切に実行できない場合、業務の管理及び事業の成長に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

③ 情報セキュリティ、サイバーセキュリティに係るリスク

 当社グループは、その業務遂行の過程で、顧客の未公開の商品・サービスや事業に係る情報を受領することが頻繁にあります。当社グループでは情報セキュリティマネジメントシステムの国際規格を取得するなど、情報管理には万全を期しておりますが、仮に情報漏えい等の事故が発生した場合、当社グループに対する信頼が損なわれ、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 また、想定外の外部サイバー攻撃、従業員又はサプライヤーによって、重大なビジネスシステム及びデータの機密性、完全性又は可用性が脅かされ、その結果、重大な運用・規制・財務・レピュテーション上の問題、又は顧客への影響が生じる可能性があります。

 当社グループでは、セキュリティ・リスクへの対応を確かなものとするため、国内・海外のネットワークのセキュリティ部門を束ねるグループ・セキュリティ機能を設けて、進化する脅威の重大性を継続的に評価し、ERMアプローチに沿ったリスク管理・統制の有効性評価を行っております。

 

 

④ 個人情報等に係るリスク(データ・ガバナンス)

 当社グループは、その業務遂行の過程で、顧客にとってのエンドユーザーに関する個人情報を受領することがあります。また、顧客からエンドユーザー一人ひとりにカスタマイズしたマーケティング・コミュニケーションへの要求が高まる中、パーソナルデータを利活用した商品・サービスを開発して顧客企業に提供しております。

 当社グループは、国内・海外を問わず、個人情報保護法及びEU一般データ保護規則等の法令又は諸規制を遵守し、これら法令又は諸規制の改定に迅速に対応しております。また、グループ共通の「グローバルデータ保護原則」を制定しており、現時点においてこれらの法令又は諸規制が当社グループの事業に悪影響を及ぼすことは想定しておりません。

 しかしながら、仮に個人情報の漏えい等の事故が発生した場合、当社グループの信頼性が損なわれ、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、今後、これら法令又は諸規制が改定され、倫理的な観点から、当社グループのパーソナルデータの利活用に何らかの制限が課され、商品・サービスの一部を顧客企業に提供できなくなった場合、当社グループの事業に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(3) コンプライアンス&法務リスク

当社グループは、コンプライアンス&法務リスク領域として「コンダクト・倫理リスク」、「クライアント契約の遵守に係るリスク」を識別・評価・対応しております。具体的には「企業文化」、「コンプライアンス」などに係るリスクがあります。

 

① 企業文化

 当社グループの人財は、一歩先のより良い社会を創りだすことにモチベーションを見出します。

顧客企業やステークホルダーの皆さまとともに、「人が生きる喜びに満ちた活力ある社会」の実現を目指してイノベーションを進めていく企業文化は、当社グループのDNAであり、世界中のチームに浸透しています。

 しかしながら、人財を管理するリーダーたちが自らの責任を果たさない、人的資本に関する適切な経営を実行しない、「倫理」や「インテグリティ」を企業価値のトップに据えて適切な社内浸透を図らない等の場合、当社グループの企業文化が損なわれ、従業員のモチベーションや生産性に悪影響が生じる可能性があります。

 

② コンプライアンス

 当社グループは、当社グループのマテリアリティ及び「2030年サステナビリティ戦略」において、「企業倫理とコンプライアンス/データ・セキュリティ」を重要課題に掲げ、「インテグリティを最優先に仕事に取り組む」ことをこの課題に対応するゴールイメージとしております。社会をはじめすべてのステークホルダーに対して、企業倫理とコンプライアンスを順守し、インテグリティを実践することは、当社グループが企業活動を行う上での大前提です。

 しかしながら、故意又は過失不注意により、当社グループの事業において法規制や会社方針を無視する、或いはこれに違反した行動が発生した場合、当社グループのレピュテーションが低下し、企業価値を著しく損なう可能性があります。

 

③ 訴訟等に係るリスク

 当社グループ会社が広範な領域にわたり遂行している事業は、国内・海外問わず、政府機関・顧客・媒体社・協力会社等から調査・訴訟・メディア監査等に基づく請求・課徴金等を受けるリスクを内包しております。

 当社グループでは、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会関連事案に関して、2023年5月15日に「dentsu Japan改革委員会」を設置し、意識行動改革に取り組んでまいりました。そして、2023年5月よりdentsu Japan改革委員会の下で進めてきた再発防止のための17施策については、2024年12月18日に全ての施策を完了しました。2025年1月からは、インテグリティを最優先する組織風土の定着、高いレベルでのコンプライアンスの徹底などを目的に、これまでの取り組みを発展させ、「意識行動改革プロジェクト」を推進しております。

 

 

(4) その他外部リスク

① 景気変動及び社会的変革に伴うリスク

 当社グループの業績は、景気によって主要な顧客である企業からの予算が増減されることが多いため、景気変動の影響を受けやすい傾向があります。世界経済は緩やかな回復基調にあるものの、地政学上のリスクの顕在化やインフレ再燃懸念等により、未だ不確実な状況にあると言わざるを得ません。

 また、2020年以降のコロナ禍の影響は、経済面に留まらず、生活者の意識と行動様式の変化を加速させ、より個人化された体験が重要になっております。企業も、D2Cコマースのチャネル構築やデジタルトランスフォーメーションの実装、生成AIの活用など企業活動の本質的な転換が迫られる中、当社グループへの顧客のニーズは、従来の広告・コミュニケーション領域を超えて高度化・複合化しており、データとテクノロジーを活用した顧客体験の設計や体験価値の向上に拡大しております。これらのニーズに当社グループが適切に対応できない場合は、中長期的な事業成長に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

② 災害、事故並びに地政学に関わるリスク

 当社グループが事業を遂行又は展開する地域において、自然災害、電力その他の社会的インフラの障害、通信・放送の障害、流通の混乱、大規模な事故、伝染病の爆発的な流行、戦争、テロ、政情不安、社会不安等が起こった場合、当社グループ又は当社グループの取引先の事業活動に悪影響を及ぼし、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 当社グループでは、リージョン・マーケット等で想定される上記の問題に対し、クライシス・マネジメントや事業継続計画(BCP)を定期的に検討しております。

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(経営成績等の状況の概要)

(1) 財政状態及び経営成績の状況

<事業全体の概況>

2024年の世界経済は、不安定な国際情勢の長期化、世界的な物価上昇とそれに対処するための各国中央銀行による金融引き締めや急激な為替の変動、中国経済の減速など先行き不透明な状況が続きました。

こうした環境下、当期(2024年1月1日~12月31日)における当社グループの業績は下表の通りであります。売上総利益のオーガニック成長率は△0.1%でしたが、為替レートが全般的に円安となっていること及びM&Aにより、売上総利益は前期比5.0%増、調整後営業利益は同7.8%増、オペレーティング・マージンは同30bps増、親会社の所有者に帰属する調整後当期利益は同3.4%増となりました。一方、減損損失の計上などにより営業損失は1,249億92百万円(前期は営業利益453億12百万円)、親会社の所有者に帰属する当期損失は1,921億72百万円(前期は当期損失107億14百万円)となりました。

 

調整後営業利益は、営業利益から、買収行為に関連する損益及び一時的要因を排除した、恒常的な事業の業績を測る利益指標であります。

買収行為に関連する損益:買収に伴う無形資産の償却費、M&Aに伴う費用、完全子会社化に伴い発行した株式報酬費用

一時的要因の例示:構造改革費用、減損、固定資産の売却損益、割増退職金など
 親会社の所有者に帰属する調整後当期利益は、当期利益から、営業利益に係る調整項目、条件付対価に係る公正価値変動額(アーンアウト債務再評価損益)・株式買取債務に係る再測定額(買収関連プットオプション再評価損益)、これらに係る税金相当・非支配持分損益相当などを排除した、親会社の所有者に帰属する恒常的な損益を測る指標であります。

 

     当期の連結業績(単位:百万円、△はマイナス)

科目

当期

前期

前期比・差

収益

1,410,961

1,304,552

8.2%

売上総利益

1,201,647

1,144,819

5.0%

営業利益(△は損失)

△124,992

45,312

親会社の所有者に帰属する当期利益(△は損失)

△192,172

△10,714

△181,458

 

 

     当期の主要な利益指標(単位:百万円、△はマイナス)

科目

当期

前期

前期比・差

調整後営業利益

176,233

163,515

7.8%

オペレーティング・マージン

14.8%

14.5%

30bps

親会社の所有者に帰属する調整後当期利益

92,936

89,839

3.4%

 

※ ロシア事業については2024年7月に譲渡取引が完了していますが、譲渡が完了するまでの期間に発生したロシア事業に係る営業損益は、一時的要因として調整後営業利益には含めておりません。

 

 

 

<当期の連結業績のポイント>

売上総利益については、連結オーガニック成長率は△0.1%でしたが、為替影響やM&Aによる貢献により、前期比5.0%の増収となり、4年連続で上場来最高となりました。調整後営業利益は、主にトップラインの伸長により前期比7.8%の増益となり、オペレーティング・マージンは前期比30bps向上し、14.8%となりました。

一方、第4四半期に海外事業で210,162百万円ののれんの減損損失を計上したため、営業損失124,992百万円(前期は営業利益45,312百万円)、親会社の所有者に帰属する当期損失192,172百万円(前期は当期損失10,714百万円)となりました。

当期は、インテグレーテッド・グロース・ソリューションの提供を加速・深化させるため、投資のバランスをM&Aから成長のための内部投資にシフトいたしました。既に獲得したアセットの進化や、他のケイパビリティとの統合の促進に注力した結果、Tagとの共同体制がクライアント獲得に結実するなど成果が表れて始めております。

 

<当期の連結業績:地域別>

1.日本

テレビ広告やインターネット広告をはじめとする広告事業の成長、BX・DX領域の成長などにより、売上総利益のオーガニック成長率は4.0%、売上総利益は4,667億46百万円(前期比4.0%増)と4年連続で過去最高を更新しました。人員増強による人件費の増加はあったものの、トップラインの伸長などにより、調整後営業利益も過去最高の1,141億84百万円(同10.4%増)となり、オペレーティング・マージンは24.5%(前期は23.0%)となりました。

 

2.Americas(米州)

Americasにおける売上総利益のオーガニック成長率は、米国を中心に厳しい状況で△4.1%となりました。CXMは厳しい事業環境が継続したものの、メディアは通期で前年並みとなり、四半期ごとのオーガニック成長率は前年第4四半期を底に継続的に改善しました。

為替レートが全般的に円安となっていること及び2023年6月に買収が完了したTagの通年効果などにより、Americasの売上総利益は、3,346億42百万円(前期比3.9%増)、調整後営業利益は751億61百万円(同2.9%増)、オペレーティング・マージンは22.5%(前期は22.7%)となりました。

 

3.EMEA(ロシアを除くヨーロッパ、中東及びアフリカ)

EMEAにおける売上総利益のオーガニック成長率は、前期のDACH(ドイツ・オーストリア・スイス)区域で複合的な事業変革とシステム・インテグレーションを背景とした一時的財務影響の反動増等により、2.2%となりました(同影響を除くと△1.5%)。主要マーケット別にみると、スペイン、フランスなどは好調でしたが、イギリス、イタリア、デンマークなどは厳しい状況となっております。

為替レートが全般的に円安となっていること及び2023年6月に買収が完了したTagの通年効果などにより、EMEAの売上総利益は、2,692億54百万円(前期比13.4%増)、調整後営業利益は384億66百万円(同58.7%増)、オペレーティング・マージンは14.3%(前期は10.2%)となりました。

 

 

4.APAC(日本を除くアジア太平洋)

APACにおける売上総利益のオーガニック成長率は△7.0%となりました。インド、台湾、タイは堅調でしたが、市場規模が大きい中国、オーストラリアが厳しい状況となっております。

為替レートが全般的に円安となっていること及び2023年6月に買収が完了したTagの通年効果などにより、APACの売上総利益は、1,164億13百万円(前期比2.8%増)となりましたが、トップラインの鈍化及び営業費の増加等により調整後営業利益は10億50百万円(前期比86.8%減)、オペレーティング・マージンは0.9%(前期は7.0%)となりました。

 

  地域別のオーガニック成長率(△はマイナス成長)

 

当期

2024年度

第4四半期(10-12月)

2024年度

第3四半期(7-9月)

2024年度

第2四半期(4-6月)

2024年度

第1四半期(1-3月)

日本

4.0%

8.4%

2.8%

1.8%

2.4%

Americas

△4.1%

△2.9%

△3.1%

△3.7%

△6.6%

EMEA

2.2%

3.5%

6.9%

7.8%

△9.4%

APAC

△7.0%

△3.9%

△11.6%

△6.2%

△7.1%

連結

△0.1%

2.6%

0.3%

0.2%

△3.7%

 

 

<当期における中期経営計画の進捗について>

2021年度から2024年度を対象期間とした中期経営計画の結果は、以下のとおりとなりました。

 

前事業年度の有価証券報告書に記載された当社グループが設定した経営目標等は、以下のとおりです。

① 事業変革による成長戦略の実践

オーガニック成長率:2021年度を基準に2024年度まで年平均成長率ベースで4~5%とする

・売上総利益に占める「カスタマートランスフォーメーション&テクノロジー」領域の構成比を今後50%に高めることを目指す

② 収益性と効率性の改善

・2023年度までオペレーティング・マージンを17.0~18.0%のレンジで管理し、2024年度には18.0%を確保する

③ 財務基盤の改善と、株主価値の持続的向上

 ・Net debt/調整後EBITDA(期末)の上限を1.5倍とし、中期的な目線を1.0~1.5倍とする (IFRS第16号の適用影響を控除したベース)

配当性向(基本的1株当たり調整後当期利益ベース)を漸進的に高め、2024年度までに35%とする

④ ESG経営の推進

・温室効果ガス(GHG)排出量を2030年までに46.2%削減する(2019年度比)

・再生可能エネルギー使用率を2030年までに100%にする(再生可能エネルギーが利用可能な国・地域限定)

従業員エンゲージメントスコアを向上させる

従業員のダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DEI)の強化。2030年度までに女性リーダー比率を45%とする

 

 

以上の経営目標等に対し、2024年度の結果は以下のとおりでした。

① 事業変革による成長戦略の実践

・オーガニック成長率:

2021年度は13.1%、2022年度は3.2%、2023年度は△4.9%、2024年度は△0.1%となり、2021年度を基準とした2024年度までの年平均成長率の目標値4~5%を下回る結果となりました。

・売上総利益に占める「カスタマートランスフォーメーション&テクノロジー」領域の構成比:

2020年度は27.5%、2021年度は29.1%、2022年度は32.1%、2023年度は31.9%、2024年度は28.3%となりました。

② 収益性と効率性の改善

・調整後オペレーティング・マージン:

オペレーティング・マージンは、2020年度は14.8%、2021年度は18.3%、2022年度は18.4%、2023年度は14.5%、2024年度は14.8%となり、2024年度における目標値18.0%を下回る結果となりました。

③ 財務基盤の改善と、株主価値の持続的向上

・Net debt/調整後EBITDA(期末):

Net Debt/調整後EBITDA倍率は2021年度末及び2022年度末においてマイナス、2023年度末は0.59倍、2024年度末は0.92倍となり、上限とした1.5倍に収まる水準で推移しました。

・配当性向(基本的1株当たり調整後当期利益ベース):

2020年度は28.5%、2021年度は30.0%、2022年度は32.0%、2023年度は35.0%、2024年度は39.3%と漸進的に配当性向を引き上げた結果、目標水準とする35%を達成しました。(なお、2023年度は、DACH(ドイツ・オーストリア・スイス)区域での複合的な事業変革とシステム・インテグレーションを背景とした一時的財務影響と、年内に計上した退職費用について、過去の一貫性に配慮し足し戻した「控除後基本的1株当たり調整後当期利益」ベースでの配当性向です。)

④ ESG経営の推進

・温室効果ガス(GHG)排出量を2030年までに46.2%削減する(2019年度比)

・再生可能エネルギー使用率を2030年までに100%にする(再生可能エネルギーが利用可能な国・地域限定)

詳細は、「サステナビリティに関する考え方及び取組 (2) 気候変動へのアクション ④目標と実績」をご参照下さい。

 

・従業員エンゲージメントスコアの向上(全社員対象の調査を毎年実施):

2024年度のスコアは以下のとおりとなっております。
・当社グループ全体 66(2021年度スコア68、2022年度スコア68、2023年度スコア66)
・国内 62(2021年度スコア63、2022年度スコア60、2023年度スコア60)
・海外 68(2021年度スコア70、2022年度スコア71、2023年度スコア69)
 

・従業員のダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(DEI)の強化。2030年度までの女性リーダー比率向上:

2024年12月末時点における当社グループにおける女性リーダーの比率は、当社グループ全体で32.5%であります。

 

<財政状態の状況について>

当期末は、前期末と比べ、主に「営業債権及びその他の債権」が増加したものの、「のれん」が減少したことなどにより、資産合計で1,271億41百万円減少し、3兆5,072億60百万円となりました。一方、負債については、主に「売却目的で保有する非流動資産に直接関連する負債」が減少したものの、「社債及び借入金」が増加したことなどにより、負債合計で165億78百万円増加し、2兆7,382億24百万円となりました。また、資本については、主に当期損失の計上などにより「利益剰余金」が減少したことなどから、資本合計は1,437億19百万円減少し、7,690億35百万円となりました。

 

なお、前連結会計年度において、主に、ロシア事業に関する資産及び負債を、「売却目的で保有する非流動資産」及び「売却目的で保有する非流動資産に直接関連する負債」に分類しております。詳細は、「第5 経理の状況 1連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 13.売却目的で保有する非流動資産」をご参照ください。

 

2025年2月に発表した中期経営計画では、新たな財務方針として、収益性・競争優位性の回復を通じたバランスシートの健全性の改善を設定しました。また、併せて政策保有株等、非事業資産の売却も継続していく方針です。キャピタルアロケーションにおいては、2025年度に実施する経営基盤の再構築に係る費用及び事業成長のための内部投資を優先させ、業績の再建を進めてまいります。

 

(2) キャッシュ・フローの状況

当期末の現金及び現金同等物(以下「資金」)は、3,719億89百万円(前期末3,906億78百万円)となりました。主に財務活動による支出などにより、前期末に比べ186億88百万円の減少となりました。

 

営業活動によるキャッシュ・フロー

 営業活動の結果により得た資金は、前期に比べ152億83百万円減少し、599億84百万円となりました。主に税引前損失を計上したことや、運転資本が増加したことなどによるものであります。

 

投資活動によるキャッシュ・フロー

 投資活動の結果支出した資金は、前期に比べ1,153億88百万円減少し、309億8百万円となりました。主に子会社の取得による支出が減少したことによるものであります。

 

財務活動によるキャッシュ・フロー

 財務活動の結果支出した資金は、前期に比べ879億67百万円減少し、657億14百万円となりました。主に長期借入れによる収入が減少した一方で、長期借入金の返済による支出の減少、社債の償還による支出の減少などによるものであります。

 

(生産、受注及び販売の状況)

販売実績

当連結会計年度におけるセグメントの販売実績(収益)は次のとおりであります。

 

セグメントの名称

収益(百万円)

前期比(%)

日本

572,671

104.8

Americas

380,869

108.7

EMEA

320,024

119.0

APAC

121,417

105.4

全社

15,980

67.8

1,410,961

108.2

 

 

(注) 1.セグメント間取引については相殺消去しております。

 

 

(経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容)

文中における将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において、当社グループが判断したものであります。

 

 (1) 財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容

当連結会計年度の財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容につきましては「(経営成績等の状況の概要) (1) 財政状態及び経営成績の状況」に記載したとおりであります。

 

 (2) キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

① 資本政策・財務戦略の基本的な考え方

当社グループは、2027年度を最終年度とする中期経営計画の戦略と施策により、利益成長を通じて中長期的な株主価値の向上を目指します。そして、その実現を確かなものとするため、ROEを経営指標に追加し、2027年度にはROE10%台中盤の達成を目標としております。

この目標達成を下支えするため、改めて財務方針を設定し、規律を持って管理・運用してまいります。具体的には、必要となる資金の規模を厳密に見極め、資本と負債とのバランスなどを慎重に管理し、バランスシートの健全性を改善することにより、高い信用格付の維持を目指してまいります。また、内部資金、金融機関からの借入、社債、コマーシャル・ペーパー、債権流動化、又はコミットメントライン等により、十分な手元流動性を確保することとしております。さらに、急速な外部環境変化等に万全を期すため、引き続き金融機関との間で追加の銀行融資枠を設定しております。これらにより、急激な事業環境の変化等に対するリスク耐性が高い状態を維持できるよう努めてまいります。

投資については、2025年度に実施する経営基盤の再構築に係る費用、及び事業成長のための内部投資を優先し、業績の再建を進めてまいります。

株主還元に関しては、これらの活動を通して得られる利益の適切な配分と本源的な企業価値の向上を通じて株主の皆様への利益還元に努めることとし、配当方針としては、基本的1株当たり調整後当期利益に対する配当性向を35%とする所存です。但し、2025年度の1株当たり配当金につきましては、上記方針に基づきつつ、競争力及び収益性の回復のための投資が先行する過渡期である点に鑑み、一時的措置として当期と同額の年間配当金139.50円を維持する予定であります。

 

② 資金需要の主な内容

当社グループの運転資金需要のうち主なものは、広告作業実施のための媒体料金及び制作費の支払等並びに人件費をはじめとする販売費及び一般管理費であります。

また、2027年度を最終年度とする中期経営計画において、2025年は不振ビジネスの見直しと、経営基盤の再構築による収益性の回復に集中するため、競争力及び収益性の回復のための投資に係る資金需要が見込まれます。

 

③ キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度のキャッシュ・フローの状況につきましては「(経営成績等の状況の概要) (2) キャッシュ・フローの状況」に記載したとおりであります。

 

 

④ 資金調達及び流動性の状況

当社グループは、内部資金、金融機関からの借入、社債、コマーシャル・ペーパー、又は債権流動化等の多様な手段の中から、その時々の市場環境や長期資金の年度別償還額も考慮した上で、有利な手段を機動的に選択し、資金調達を行っております。なお、長期資金については、原則として当社で一元的に資金調達しております。

また、緊急時の流動性を確保するため、当社はシンジケーション方式による極度額1,000億円のコミットメントラインを設定しております。加えて、急速な外部環境変化等に万全を期すため、引き続き金融機関との間で追加の銀行融資枠を設定しております。

さらに、グループ内の資金調達の一元化・資金効率の向上・流動性の確保の観点から、資金余剰状態にある子会社から当社が資金を借り入れ、資金需要が発生している子会社に貸出を行うキャッシュ・マネジメント・システムを導入しております。

当社グループは、安定的な外部資金調達能力の維持向上を重要な経営課題と認識しており、格付機関である株式会社格付投資情報センター(R&I)から長期格付AA-、短期格付a-1+を取得しております。また、主要な内外金融機関との間で長期間に亘って築き上げてきた幅広く良好な関係に基づき、当社グループの事業の維持拡大、必要な運転資金の確保、投資資金の調達に関しては問題なく実施可能であると認識しております。

 

 (3) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社の連結財務諸表は、国際会計基準審議会により公表されたIFRSに基づき作成されております。

また、当社経営陣は、連結財務諸表の作成に際し、決算日における資産・負債の報告数値及び偶発債務等オフバランス取引の開示、報告期間における財政状態及び経営成績について影響を与える見積りを行わなければなりません。経営陣は、例えば、投資、企業結合、退職金、法人税等、偶発事象や訴訟等に関する見通しや判断に対して、継続して評価を行っております。経営陣は、過去の実績や状況に応じ合理的だと考えられる様々な要因に基づき、見積り及び判断を行い、その結果は、資産・負債の簿価、収益・費用の報告数字についての根拠となります。実際の結果は、見積り特有の不確実性があるため、見積りと異なる場合があります。

当社の連結財務諸表で認識する金額に重要な影響を与える見積り及び仮定は、以下のとおりであります。

 

① 有形固定資産、のれん及び無形資産の減損

当社グループは決算日において、棚卸資産及び繰延税金資産を除く非金融資産が減損している可能性を示す兆候があるか否かを判定し、減損の兆候が存在する場合には当該資産の回収可能価額に基づき減損テストを実施しております。のれんは償却を行わず、減損の兆候の有無にかかわらず年に一度、又は減損の兆候がある場合はその都度、減損テストを実施しております。資産の回収可能価額は資産又は資金生成単位の処分コスト控除後の公正価値と使用価値のいずれか高い方の金額としており、資産又は資金生成単位の帳簿価額が回収可能価額を超過する場合には、当該資産は回収可能価額まで減額し、減損損失を認識しております。使用価値の算定に際しては、資産の耐用年数や将来キャッシュ・フロー、成長率、割引率等について一定の仮定を用いております。

これらの仮定は過去の実績や当社経営陣により承認された事業計画等に基づく最善の見積りと判断により決定しておりますが、事業戦略の変更や市場環境の変化等により影響を受ける可能性があり、仮定の変更が必要となった場合、認識される減損損失の金額に重要な影響を及ぼす可能性があります。

のれんの減損テストにおける主要な仮定や感応度分析等の詳細については、「第5 経理の状況 1.連結財務諸表注記 15.のれん及び無形資産 (3)のれんの減損テスト」をご参照ください。

 

② 使用権資産

当社グループは、借手としてのリースについて、リースの開始日において、使用権資産及びリース債務を認識しております。使用権資産は開始日において取得原価で測定しております。開始日後においては、原価モデルを適用して、取得原価から減価償却累計額及び減損損失累計額を控除して測定しております。

 当社グループは構造改革の一環として不動産の適正化を行っており、一部の不動産リース契約について、サブリースの活用を見込んでおります。当該リース契約に関する使用権資産の残高は、基本サブリース料、リース期間におけるリース支払料の想定増加率、リースインセンティブ及びサブリース開始時期を含む空室期間に仮定をおいて算定しております。市場環境の変化や予測不能な事象の発生等により上記仮定の見直しが必要となった場合には、翌連結会計年度において使用権資産に係る追加の減損又は減損の戻入れが発生する可能性があります。

 

 

③ 金融商品(条件付対価及び株式買取債務を含む)の評価

当社グループは有価証券やデリバティブ等の金融資産を保有しており、当該金融資産の評価に当たり一定の仮定を用いております。公正価値は、市場価格の他、マーケット・アプローチやインカムアプローチ等の算出手順に基づき決定しております。具体的には、株式及びその他の金融資産のうち活発な市場が存在する銘柄の公正価値は市場価格に基づいて算定し、活発な市場が存在しない銘柄の公正価値は観察可能な市場データを用いて算定した金額、観察不能なインプットを用いて主としてインカムアプローチやマーケット・アプローチで算定した金額で評価しております。

企業結合の結果生じる条件付対価及び株式買取債務の公正価値等は、観察不能なインプットを用いて割引キャッシュ・フロー法で算定した価額で評価しております。

当社経営陣は金融商品の公正価値等の評価は合理的であると判断しておりますが、予測不能な前提条件の変化等により見積りの変更が必要となった場合、認識される公正価値等の金額に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 

④ 確定給付制度債務の評価

確定給付制度債務及び退職給付費用は、年金数理計算上で設定される前提条件に基づいて算出されております。これらの前提条件には、割引率、将来の報酬水準、退職率、死亡率等が含まれます。

当社経営陣はこれらの前提条件は合理的であると判断しておりますが、実際の結果が前提条件と異なる場合、又は前提条件が変更された場合、認識される費用及び計上される債務に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 

⑤ 引当金

当社グループは、過去の事象の結果として現在の法的又は推定的債務を有しており、債務の決済を要求される可能性が高く、かつ当該債務の金額について信頼性のある見積りが可能である場合に引当金を認識しております。貨幣の時間価値の影響が重要である場合、引当金は当該負債に特有のリスクを反映させた割引率を用いた現在価値により測定しております。

これらの引当金は、決算日における不確実性を考慮した最善の見積りにより算定しておりますが、予測不能な事象の発生や状況の変化等により影響を受ける可能性があり、実際の結果が見積りと異なる場合、計上される債務の金額に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 

⑥ 繰延税金資産の回収可能性

繰延税金資産は、税務上の繰越欠損金、繰越税額控除及び将来減算一時差異のうち、将来の課税所得に対して利用できる可能性が高いものに限り認識しております。繰延税金資産は毎決算日に見直し、税務便益の実現が見込めないと判断される部分について減額しております。

当社グループは、将来の課税所得及び慎重かつ実現性の高い継続的なタックス・プランニングの検討に基づき繰延税金資産を計上しており、回収可能性の評価に当たり行っている見積りは合理的であると判断しておりますが、見積りは予測不能な事象の発生や状況の変化等により影響を受ける可能性があり、実際の結果が見積りと異なる場合、認識される費用及び計上される資産に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 

 

5 【経営上の重要な契約等】

該当事項はありません。

 

 

6 【研究開発活動】

当連結会計年度における研究開発費の金額は、1,918百万円であり、日本におけるものであります。

㈱電通総研を中心とする情報サービス業では、同社グループの中期経営計画(2022年~2024年)の2030年に向けた活動方針「事業領域の拡張(拓くチカラ)」「新しい能力の獲得(創るチカラ)」「収益モデルの革新(稼ぐチカラ)」「経営基盤の刷新(支えるチカラ)」を推進するため、各種技術研究に加え、独自ソリューションの開発・強化を実施しました。主な研究開発活動の概要は以下のとおりであります。 

 

(1) 金融ソリューション

金融ソリューションの研究開発活動の金額は485百万円であります。
 主な活動内容は、融資ソリューション「Bank・R」のCRM機能強化のための調査や、リアルタイム3DCG(3 Dimensional Computer Graphics)ソリューション「UNVEIL」、デジタルアイデンティティウォレットに関する研究であります。

 

(2) ビジネスソリューション

ビジネスソリューションの研究開発活動の金額は355百万円であります。
 主な活動内容は、会計ソリューション「Ci*X」の新製品開発、及びHCM(Human Capital Management)領域における新規事業創出に関する研究であります。

 

(3) 製造ソリューション

製造ソリューションの研究開発活動の金額は271百万円であります。
 主な活動内容は、次世代空モビリティの性能評価手法の開発、及びPLM(Product Lifecycle Management)領域における新規ソリューション開発に関する研究であります。

 

(4) コミュニケーションIT

コミュニケーションITの研究開発活動の金額は109百万円であります。
 主な活動内容は、データクラウド「Snowflake」及びローコードアプリケーションプラットフォーム「OutSystems」の導入テンプレートに関する研究であります。

 

(5) その他

上記に属さない研究開発活動の金額は696百万円であります。
  主な活動内容は、生活者の意識調査やサステナビリティ、先端技術に関する調査・レポート制作、及びTrusted Web※の社会実装に向けた実証研究、都市OSソリューション「CIVILIOS」の機能拡張に関する研究であります。

 

※Trusted Web:内閣官房デジタル市場競争本部の有識者会議「Trusted Web推進協議会」が提唱する、インターネットのトラストを向上するための仕組み