文中の記載内容のうち、歴史的事実でないものは、有価証券報告書提出日(2025年3月26日)現在における当社グループの将来に関する見通しおよび計画に基づいた将来予測です。これらの将来予測には、リスクや不確定な要素などの要因が含まれており、実際の成果や業績などは、記載の見通しとは異なる可能性があります。
①企業理念 THE SHISEIDO PHILOSOPHY
当社は、1872年に創業し、2022年に150周年を迎えました。その創業当時から「『美と健康』を通じてお客さまのお役に立ち、社会へ貢献する」ことを目指して活動してきました。そして、2019年には、100年先も輝きつづけ、世界中の多様な人たちから信頼される企業になるべく、企業理念THE SHISEIDO PHILOSOPHYを定義しました。国・地域・組織・ブランドを問わず、この企業理念を常によりどころとして、“世界で勝てる日本発のグローバルビューティーカンパニー”を目指しています。
THE SHISEIDO PHILOSOPHYは、以下で構成されています。
1. 私たちが果たすべき企業使命を定めた OUR MISSION
2. これまでの150年を超える歴史の中で受け継いできた OUR DNA
3. 資生堂全社員がともに仕事を進めるうえで持つべき心構え OUR PRINCIPLES
〔THE SHISEIDO PHILOSOPHY〕

〔OUR MISSION〕
BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD
私たちは、美には人の心を豊かにし、生きる喜びやしあわせをもたらす力が
あると信じています。
資生堂は創業以来、人のしあわせを願い、美の可能性を広げ、新たな価値の
発見と創造を行ってきました。
これまでもこれからも、美しく健やかな社会と地球が持続していくことに貢献します。
美の力でよりよい世界を。
それが、私たちの企業使命です。
THE SHISEIDO PHILOSOPHYの詳細については、当社企業情報サイトの「企業情報/THE SHISEIDO PHILOSOPHY」(https://corp.shiseido.com/jp/company/philosophy/)をご覧ください。
②中期経営戦略「SHIFT 2025 and Beyond」と「アクションプラン 2025-2026」
当社は、2023年に2023年から2025年までの3カ年を中心に取り組む中期経営戦略「SHIFT 2025 and Beyond」を策定しました。中長期的な成長を目指すために、本戦略において、「ブランド」、「イノベーション」、「人財」の3つの重点領域への投資を強化しています。
これに加えて、2024年に昨今の急激な外部環境の変化を受け、2025年、2026年の2カ年を構造改革の加速フェーズとし、さらなる構造改革による収益性改善、現在の危機的な状況からの脱却と、その後の持続的成長を確実なものとするための基盤の再構築を行う「アクションプラン 2025-2026」を策定しました。
「アクションプラン 2025-2026」では、変化の激しい市場でも安定的な利益拡大を実現するレジリエントな事業構造を目指し、「ブランド力の基盤強化」、「高収益構造の確立」および「事業マネジメントの高度化」を2025年、2026年で取り組む最優先課題として、その具体的施策を設定しています。

「アクションプラン 2025-2026」の詳細については、当社企業情報サイトの「投資家情報/IRライブラリー/決算短信・決算説明資料」(https://corp.shiseido.com/jp/ir/library/tanshin/)に掲載の「中期経営戦略の『アクションプラン 2025-2026』(2024年11月29日)」をご覧ください。
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。
(1) サステナビリティ全般
当社は、1872年の創業時から、人、社会、自然を敬い、社会価値の創造を行ってきました。企業使命「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD (美の力でよりよい世界を)」のもと、ビューティーカンパニーならではのアプローチで社会課題を解決し、2030年に向けては「美の力を通じて、人々が幸福を実感できるサステナブルな社会の実現」を目指しています。サステナビリティを経営戦略に組み込み、事業を通じた社会価値の創造と環境・社会課題の解決を促進します。
当社では、ブランド・地域事業を通じて全社横断でサステナビリティの推進に取り組んでいます。迅速な意思決定と確実な全社的実行のため、専門的に審議する「Sustainability Committee」を設置し、定期的に開催しています。「Sustainability Committee」では、資生堂グループ全体のサステナビリティに関する戦略アクションや方針、気候変動と自然環境に関するリスクおよび機会や、人権対応アクションなど具体的な活動計画に関する意思決定を行っています。また、サステナビリティ戦略における中長期目標の進捗状況についてモニタリングを行っています。出席者は代表執行役を含む経営戦略・財務・研究開発・サプライネットワーク・人事・DE&I・広報、およびブランドホルダーなど各領域のエグゼクティブオフィサーで構成され、それぞれの専門領域の視点から活発に議論をしています。その他、特に業務執行における重要案件に関する決裁が必要な場合は「Global Strategy Committee」や取締役会に提案もしくは報告しています。また、戦略アクションに係る確実な業務執行・推進を行うため、「Sustainability Committee」の下部に、主要関連部門の責任者から構成される「Sustainability TASKFORCE」を設置し、長期的な目標達成に向けての推進方法やサステナビリティに関連した課題解決について議論し、地域本社や海外を含むその他の関連部門も巻き込んだ活動を行っています。

② 戦略
当社は、サステナビリティを経営戦略に組み込み、事業を通じた社会価値創造と環境・社会課題の解決を促進しています。サステナブルな社会の実現のため、環境・社会領域でそれぞれ3つの戦略アクションを掲げています。
「環境」の領域では、社名の由来でもある「万物資生」(注)の考えに基づき、環境負荷を軽減し、使い捨てではなくサーキュラーエコノミーの実現を目指しイノベーションやビジネスモデルの構築に取り組んでいます。バリューチェーン全体を通してさまざまなステークホルダーとともに取り組みを推進する「地球環境の負荷軽減」「サステナブルな製品の開発」、環境や人権に対応した「サステナブルで責任ある調達の推進」の3つの戦略アクションを実行しています。
「社会」の領域では、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)を中心に社会課題の解決に取り組んでいます。ジェンダーにかかわらず、公正な機会が得られ、一人ひとりが自分らしく生きられる社会の実現を目指した「ジェンダー平等」、美しさに関する無意識な思い込みや偏見を払しょくし、個々の美しさに共鳴しあえる社会を目指した「美の力によるエンパワーメント」、そして、すべての活動の根底となる「人権尊重の推進」の3つの戦略アクションを実行しています。
(注) 中国の古典「易経」の一節、「至哉坤元 万物資生(大地の徳はなんと素晴らしいものであろうか、すべてのものはここから生まれる)」の一部
当社は、中長期の事業戦略の実現に影響を及ぼす可能性のあるリスクを総合的・多面的な手法を用いて抽出し、特定しています。その中には、「環境対応(気候変動・生物多様性など)」「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)」「自然災害・感染症・テロ」といったサステナビリティ領域のリスクも含まれています。これらのリスクも、事業継続や戦略に影響を及ぼす要因の1つとして科学的または社会経済的なデータに基づいて分析され、全社のリスクマネジメントに統合されます。特定されたリスクは、重要度に応じて、「Global Risk Management & Compliance Committee」や「Global Strategy Committee」にて対応策などが審議されています。また、必要に応じて取締役会に提案もしくは報告される体制となっています。
当社は、戦略アクションに基づいた中長期目標を設定し、進捗を定期的にトラッキングしています。毎年グローバルのステークホルダーに向けた「サステナビリティレポート」を発行し、当社の事業を通じたサステナビリティアクションの中長期目標とその進捗を開示しています。
〔中長期目標〕
・環境
(注) 1 2024年実績は2025年発行予定のサステナビリティレポートにて開示予定
2 2026年までにカーボンニュートラル達成(資生堂全事業所、オフセット含む)の目標を含む
3 資生堂全事業所(対2019年)
4 資生堂全事業所を除くバリューチェーン全体、経済原単位(対2019年)
5 資生堂全事業所、経済原単位(対2014年)
6 プラスチック製容器について
7 RSPOの物理的なサプライチェーンモデルによる認証(アイデンティティ・プリザーブド、セグリゲーションまたはマスバランスのいずれかに基づくもの)、パーム油換算重量ベース
8 製品における、認証紙または再生紙など、紙重量ベース
・社会
(2) 気候変動関連等の取り組み
当社は、気候変動問題が事業成長や社会の持続性に与える影響の重大性を踏まえ、TCFD/TNFDおよびISSB/SSBJのフレームワークを参照して情報開示を行っています。脱炭素社会への移行、および気候変動に伴う自然環境の変化によって引き起こされるリスクおよび機会について、1.5/2℃シナリオと4℃シナリオにおける短期・中期・長期の定性的・定量的な分析を試みました。自然に関しては、生物多様性の喪失や水資源の動態を考慮した定量的な長期リスクを特定し、「資生堂 気候/自然関連財務情報開示レポート」として開示しました。
① ガバナンス
当社の気候変動関連等のガバナンスに関しては、サステナビリティ全般における推進体制と同様の体制で取り組んでいます。詳細は、前述「(1) サステナビリティ全般」の「① ガバナンス」をご参照ください。
② 戦略
気候関連リスクおよび機会について、1.5/2℃から4℃の範囲で気温上昇を想定し、RCP-SSPシナリオに沿って分析を実施しました。移行リスクについては、脱炭素社会への移行に伴う政策、規制、技術、市場、消費者意識の変化による要因を、物理的リスクについては、気温上昇に伴う洪水の発生や気象条件など急性/慢性的な変化要因について、各シナリオ条件における影響を分析しました。
2030年時点における移行リスクとして、炭素税によって約0.5~8.7億円規模の財務影響が発生する可能性を予測しています。物理的リスクについては、洪水により約9億円、水不足により約35億円の潜在的なリスクを見込んでいます。機会に関しては、1.5/2℃シナリオにおいて、消費者の環境意識の高まりに伴い、サステナビリティに対応したブランドや製品への支持が高まると予想されます。4℃シナリオにおいては、気温上昇に対応した製品の販売機会が拡大すると予想されます。イノベーションによる新たなソリューションの開発により、サステナブルな製品を提供していくことで、リスクの緩和と新たな機会の創出を目指しています。
●がついている要因は定量分析も実施しています。
自然関連リスクおよび機会に関しては、ライフサイクルアセスメントによってバリューチェーンを通じた生物多様性への影響側面の定量分析を行い、特に原材料調達における影響が大きいことを明らかにしました。そこで、TNFDが推奨するLEAPアプローチに沿って、生物多様性への依存度の高い化粧品原材料について原産地を推定し、依存側面における物理的リスク分析としてミツバチなどの花粉媒介者による生態系サービスの金額化を行いました。同時に、移行リスクとして、サステナビリティ関連規制に関わるリスク分析を、気候変動問題とあわせて実施しています。
資生堂 気候/自然関連財務情報開示レポートは、企業情報サイトで公開しています。
https://corp.shiseido.com/jp/sustainability/env/pdf/risks_report.pdf
気候変動に関わる対応として、当社では気候変動を重要課題として認識し、CO2排出量削減にバリューチェーン全体で取り組んでいます。CO2排出量の削減については、特にScope 1およびScope 2のCO2排出量について、2030年までに46.2%削減(2019年対比)を達成することを目標として設定しました。また、Scope 1、2に加えてバリューチェーンからの間接排出であるScope 3についても、1.5℃経路に整合した長期目標を設定し、SBTi(注)1 から認証を受けています。
当社のグローバル全サイトでは、再生可能エネルギーの使用を推進しています。2023年にはグローバル全11工場・自社物流センターにおける再生可能由来の電力への切り替えを100%完了しました。工場では、建物の断熱設計や、省エネルギーにつながる効率的な設備の選定や、環境マネジメントシステムISO 14001に基づく環境対策などを通じてエネルギー効率の向上に努めています。さらに、世界各国・各地域の工場や研究所の敷地内や建物に太陽光発電設備の設置を積極的に推進し、資生堂全体で9施設(注)2 に設置されています。
生物多様性に関わる対応として、当社ではTNFDの枠組みなどを活用し、事業と陸域・水域・海洋の生物多様性との関係を分析し、原材料調達による陸域生態系への依存と影響が大きいことを特定しています。なかでもパーム油や紙は影響も重大なため、企業の積極的な対応が求められており、当社はパーム油と紙について中長期目標を開示し、サステナブルな原材料への切り替えを進めています。加えて、生産事業所の敷地および周辺地域について生態系評価を行い、さらなる生態系理解と改善に努めています。
当社では、気候や生物多様性を含む地球システムと事業との関係性についての俯瞰的な視野を持つ重要性を理解しています。リスクと機会の評価を通じて重要な領域を特定し、優先順位をつけ、問題解決に貢献していくことが重要と考えています。再生可能エネルギーの活用や生物多様性を考慮した責任ある調達に加えて、環境配慮型の処方/成分の開発や、循環型の容器包装とリサイクルモデルの開発など、ライフサイクル思考に基づいた新しい価値創出に向けた取り組みを進めています。これら取り組みの詳細については、2025年発行予定の「サステナビリティレポート」をご参照ください。
https://corp.shiseido.com/jp/sustainability/report.html
(注) 1 パリ協定目標達成に向け、企業に対して科学的根拠に基づいた温室効果ガスの排出量削減目標を設定することを推進している国際的なイニシアティブ
2 掛川工場、大阪茨木工場、福岡久留米工場、上海工場、北京工場、台湾工場、イーストウィンザー工場(米国)、ジアン工場(フランス)、グローバルイノベーションセンター(横浜)で設置
③ リスク管理
当社の気候変動関連等の取り組みのリスク管理に関しては、サステナビリティ全般のリスク管理と合わせて取り組んでいます。詳細は、前述「(1) サステナビリティ全般」の「③ リスク管理」をご参照ください。
④ 指標及び目標
当社の気候変動関連等の取り組みの指標及び目標の詳細は、前述「(1) サステナビリティ全般」の「④指標及び目標」をご参照ください。
具体的には、気候変動に関してCO2排出量削減を目標として設定し、また定期的に気候変動に伴う状況をモニタリングし、対応策を講じることで、リスクの緩和に努めています。特にScope 1およびScope 2のCO2排出量について、2030年には46.2%削減(2019年対比)を達成することを目標として設定しました。また、自社サイトを除くバリューチェーンからのCO2排出量削減に関してもSBTイニシアティブ(SBTi)ベースでの目標設定をしています。1.5℃経路に整合したいずれの2030年目標も、SBTiの認証を取得し、CO2排出量削減に取り組んでいます。また2022年にはRE100(注) に加盟しています。Scope 1・2のCO2排出量削減のため、インターナルカーボンプライシング制度の導入を決定し、2024年から省エネ設備や再生可能エネルギー設備などの脱炭素投資判断への活用を始めました。
生物多様性に関しては、環境への影響の大きな紙やパーム由来原料について、中長期目標を開示し認証原材料などへの切り替えを進めています。
また、当社では気候変動や海洋プラスチックごみ問題はグローバルで喫緊に解決すべき環境課題と認識し、サステナブルな製品開発を強化しています。当社独自の容器包装開発ポリシー「5Rs:Respect(リスペクト)・Reduce(リデュース)・Reuse(リユース)・Recycle(リサイクル)・Replace(リプレース)」を前提としたイノベーションを通じて、2025年までにプラスチック製容器においては、100%サステナブルな容器を実現するという目標を掲げています。
(注) 事業で使用する電力の再生可能エネルギー100%化にコミットする企業で構成される国際的なイニシアティブ
(3) DE&Iの取り組み
資生堂は、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)を重要な経営戦略と位置づけています。多様な人の力を通じてビューティーカンパニーとしての社会価値を創造し、持続的な成長を目指します。
① ガバナンス
当社のDE&Iのガバナンスに関しては、サステナビリティ全般における推進体制と同様に取り組んでいます。詳細は、前述「(1) サステナビリティ全般」の「① ガバナンス」をご参照ください。
人権に関しては、「Sustainability Committee」の下にチーフ DE&I オフィサーが率いる人権プロジェクト体制を構築し、人権デューデリジェンスを実施しています。2年に1度の人権リスクアセスメントによって特定した人権の重要課題については、半年に1度、課題ごとに責任を持つ部門が是正措置と改善状況を報告しています。人権プロジェクトはこれらを定期的に「Sustainability Committee」に報告し、全社のリスク軽減状況をモニタリングしています。重要な実績や課題は、取締役会へ毎年報告もしくは提案しています。
② 戦略
本業を通じた社会価値創出と社会課題の解決に向けて、当社は社員だけでなく生活者をはじめとするステークホルダーとともに、私たちの企業活動において、誰もが自分らしくいられる、インクルーシブな(包摂性豊かな)社会づくりに注力します。特にDE&Iに注力しており、ジェンダー、年齢、国籍、性的指向、性自認、障がいなどの多様性を尊重し合い、イノベーションを生み出す企業文化を醸成します。
美で勇気づけ、違いを認め合い、尊重し合う社会をつくるという考えのもと、より大きなインパクトをもたらすには、DE&I戦略を地域社会ごとのニーズに合わせて対応する必要があります。私たちは社会のイニシアティブに参画するなど、幅広いステークホルダーとの協働と対話によって、各地域のニーズおよびリスクへの考察を深めています。資生堂グローバル本社は地域本社やブランドと定期的なコミュニケーションを取り、各地域のニーズに応えて継続的な変化を起こすよう促しています。
当社は、女性活躍や化粧によって人々を勇気づけてきたこれまでの経験と知見を活かし、「ジェンダー平等」「美の力によるエンパワーメント」「人権尊重の推進」の3つの戦略アクションを設定しました。「ジェンダー平等」では、日本におけるジェンダーギャップ解消やグローバルでの女子教育支援を通じて、2030年までに100万人を支援します。「美の力によるエンパワーメント」では、自己効力感の醸成や無意識の偏見への取り組みを通じて、同じく100万人を支援します。これらの取り組みは、ビューティービジネスと社内DE&Iの強みを活かし、グローバルな社会課題の解決に貢献します。コミットメント達成に向け、資生堂グローバル本社、地域本社、ブランドが、国際機関やNGOなどのステークホルダーとも連携しつつアクションを展開します。マーケティングやクリエイティブを担う社員のDE&Iリテラシー向上にも注力し、ブランドや事業活動におけるDE&Iのアプローチによる新たな価値創造を促します。
ジェンダー平等
当社は日本発の企業として、ジェンダー平等を最優先事項としています。日本企業の役員に占める女性比率の向上を目指す「30% Club Japan」に参画し、TOPIX 100とTOPIX Mid 400に含まれる企業34社の会長・社長からなるコミュニティ「TOPIX社長会」の活動をリードしてきました。企業横断でのベストプラクティスの共有や機関投資家・大学とのパートナーシップによって、同質性からの脱却とイノベーションの創出に向けたインパクトが強化されました。また、大学との共同研究である「資生堂DE&Iラボ」では、日本が世界に大きく後れをとっている女性活躍について、企業がジェンダー平等を実現する際の課題を可視化しています。その解決策や知見を社内外へ広く発信することで、日本社会のDE&I推進を牽引しています。2019年より、クレ・ド・ポー ボーテはユニセフとのグローバルパートナーシップを通じて、STEM教育の推進や職業訓練の提供など、ジェンダー平等の実現にも貢献しています。また、同ブランドではグローバルチャリティープログラム「パワー・オブ・ラディアンス・アワード」を設立し、少女たちの社会的地位向上とエンパワーメントを推進するために女子教育に貢献した女性を毎年表彰しています。
美の力によるエンパワーメント
当社は、深い肌悩みの方へ向けた「SLQM (Shiseido Life Quality Makeup)」や、がんサバイバーの社会参画を支援する「LAVENDER RING MAKEUP & PHOTOS WITH SMILES」などのプログラムを通じて、さまざまな悩みや困難を抱える人の心身および社会的な満足(注)を実現する活動を行っています。私たちの組織においては、従業員の参加と対話によって、DE&Iの課題と範囲が広がり、よりインクルーシブな職場づくりにつなげています。従来から米州地域本社にて従業員リソースグループがDE&Iを進めてきました。2024年からは国内資生堂グループ社員向けにDiversity Weekを開催し、従業員リソースグループによりLGBTQ+や障がいのある当事者との対話機会を増やしました。こうしたステークホルダーエンゲージメントによって、取り組む社会課題の範囲を広げ、インクルーシブな企業文化の構築に役立てています。コミットメント達成に向け、資生堂グループの各ブランドは事業を通じたDE&Iの社会活動に取り組んでいます。「SHISEIDO」は、「SEE, SAY, DO.」 プロジェクトの一環として、「自分らしい美しさ」を制限する無意識の思い込みや偏見とどう向き合うかを主体的に考え、話し合う若年層向けプログラムを開発しました。2024年からは、日焼け止めブランド「アネッサ」が、太陽のもとでの活動を通じて、アジア12の国と地域で子どもたちの心と身体の健全な成長を支援する「ANESSA Sunshine Project (アネッサ サンシャイン プロジェクト)」を始動しました。
(注) 社会や人とのつながりが維持できている状態
③ リスク管理
当社のDE&Iの取り組みのリスク管理に関しては、サステナビリティ全般のリスク管理と合わせて取り組んでいます。詳細は、前述「(1) サステナビリティ全般」の「③ リスク管理」をご参照ください。
人権に関しては、2年に1度の人権リスクアセスメントを実施し、バリューチェーンにおける人権課題を抽出しています。これに基づき、エグゼクティブオフィサーおよび関連部門が人権に対する負の影響の停止、防止、軽減に向けた活動を行っています。
④ 指標及び目標
当社DE&Iの取り組みの指標及び目標の詳細は、前述「(1) サステナビリティ全般」の「④指標及び目標」をご参照ください。
(4) 人的資本の取り組み
当社の企業理念「THE SHISEIDO PHILOSOPHY」を構成する「OUR DNA」の1つである「PEOPLE FIRST」は、ビューティー・イノベーションが、社員(PEOPLE)から最初(FIRST)に始まる、ということを意味しています。価値創造の源泉である社員を最も重要な資産と捉え、価値創造を最大化するために、人と組織文化に対する取り組みや投資を継続しています。人と組織文化への取り組みに関するプロセスをトラッキングしながら、そのリターンの最大化を図り、2030年ビジョン「Personal Beauty Wellness Company」の実現を目指します。
① ガバナンス
経営戦略の一部としての人事戦略の策定および実行をはかるため、当社ではチーフピープルオフィサー(CPO)を設置しています。CPOは、中期経営戦略に基づき、人事戦略を策定し、「Global Strategy Committee」(注)での議論を経て、取締役会に提案もしくは報告しています。さらに、設定した事項の推進にあたっては、透明性・客観性を高く実現する体制を整えています。例えば、キーポジションに対する後継者の指名・育成計画、適材適所な配置・登用、個人業績評価の妥当性確認、地域本社の経営メンバーの評価・報酬の決定(地域本社報酬委員会)等、特に経営上の重要事項については複眼で公平公正に審議され、執行役や代表執行役の承認・支援の下で実行しています。
(注) 詳細は「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1) コーポレート・ガバナンスの概要」の「① コーポレート・ガバナンス体制」をご参照ください。
② 戦略
当社の企業使命「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(美の力でよりよい世界を)」の実現に向けて、150年を超える歴史のなかで受け継いできた「美の感性」を軸に据えながら、経営戦略を実行するための変革に対する強固な意志と情熱にあふれる人を確保・強化するとともに、多様な人の知と能力を集結させ、イノベーションを連続的におこす組織文化の構築に力を入れています。
理想とする組織文化の姿を「Beauty Innovation Atelier – Energized by Passion, Collaboration and Excellence(パッション、コラボレーション、エクセレンスのエネルギーで満たされたビューティー・イノベーション・アトリエ)」として英語で定義をしました。社員一人ひとりがパッション(自発的モチベーション)を高く保ち、異なる強みを融合して高いアウトプットを共に創出し、ビューティー・イノベーションを連続的におこす姿を描いたキービジュアルも併せて作成し、この姿を世界約100カ国の国・地域から集まった社員と共有・浸透を図ると共に人事施策を展開しています。
人事施策を推進するにあたっては、社員一人ひとりのパッションに火がつき、可能性や能力を遺憾なく発揮して、当社で成功できるように支援することが大切です。そのため、パッションにつながる8つの要素を「パッションドライバー」として定義し、重要な指標に位置づけたうえで、グローバルエンゲージメント調査のなかで確認し、課題の認識・改善につなげるというPDCAサイクルを取り入れました。
<強固な意志と情熱にあふれる人の確保および強化>
当社の企業使命の実現に向け、ブランドを軸とした当社の商品、サービス、活動に大きな変革をおこすために、「美の感性」を磨き、強い意志と情熱で未来を創造することへの意欲にあふれた人材で会社を埋め尽くすことが重要と考えています。そして、多様な知と能力の融合によって価値が生まれるとの考えのもと、異なる価値観を尊重し共感し合うダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)を大切にしています。一人ひとりの異なる強みを融合させる化学反応によって、インスピレーションに満ちた創造的思考と多様なアイデアが生まれ、価値創造につながると考えています。そのため、採用においては、高い採用基準によるトップタレントの採用と多様性を活動の中核に据えています。
特に国内資生堂グループでは、障がいのある方の雇用と活躍にも積極的に取り組んでおり、多様な障がいのある社員がそれぞれの経験や強みを活かして働いています。一人ひとりの障がいの状況に応じた支援ツールや設備、本人の要望に応じた柔軟な環境整備など、ソフトおよびハードの両面で合理的な範囲で充実させています。当社の特徴的な施策の1つとして、雇用の創出を目指す「職域拡大プロジェクト」があります。2021年には視覚に障がいのある社員が通信営業として働けるシステムや体制を構築しました。2024年に開始した聴覚に障がいのあるお客さまを対象とした無料のオンライン美容相談サービス「Online Beauty」では、手話を日常的に使っている障がいのある社員を採用し、今後資生堂パーソナルビューティーパートナー(PBP)として活躍していく準備を進めています。
人材育成においては、不確実性や課題に直面しながらも、企業使命を実現するために、また、このような環境のなかで生まれるチャンスを活かすために、変革をリードするマインドと能力を兼ね備えたリーダーの育成が重要と考えています。2024年度は、美の感性と変革をリードするマインド・能力を兼ね備えたリーダーの育成に注力しました。資生堂におけるリーダーシップモデルを「Futurists, Leading Change(未来を創造する変革リーダー)」と定義し、導入・展開を開始しました。グローバル本社においては、合計1,000名以上を対象としたワークショップを開催し、このリーダーシップモデルの定着を図りました。今後はグローバル各地域での展開を進めるとともに、育成や評価などに活用していきます。
そのほかにも人材の強化を図る施策として、資生堂グループ全体での適材適所な人材配置と戦略的にタレントを育成する「戦略的タレントマネジメント」、中長期的な業績の向上とストレッチした業務アサインメントにより社員の成長を図る「パフォーマンスマネジメント」、主体的なキャリア開発と専門性強化のためのキャリアワークショップやeラーニング、社員自身が作成した中長期的なキャリアゴールを描く「キャリア・ディベロップメントプラン(CDP)」などの「自律的キャリア開発支援」があります。トレーニングプログラムとしては、目的と対象者に応じて、選抜型プログラム、選択型プログラム、必須プログラムの3種類を提供しています。幹部候補の女性社員が自身や周囲のアンコンシャスバイアス(無意識の思い込みや偏見)から自由になり、マネジメントや経営のスキルを学びながら、自分らしいリーダーシップスタイルを見つける「NEXT LEADERSHIP SESSION for WOMEN」は当社の特徴的な選抜型プログラムの1つです。また、グローバルに働く社員が同じプラットフォームでオンライン受講できる「LinkedInラーニング」を展開しています。必須プログラムには、新入社員研修や3年目研修、新任職制マネジャー研修、マネジャーワークショップ等があります。日本国内の社員に対しては、既に導入されている「ジョブ型人事制度」のもと、社員の専門性を強化し、社員一人ひとりのキャリア自律を高める支援をしています。
また、2023年秋に創設した未来を創る人の自己成長の場「Shiseido Future University」においては、全世界のリーダーを対象とした選抜型リーダーシップ研修や、ラーニングカルチャーの醸成を目的に全社員を対象とした「資生堂ラーニングフェスティバル(2024年実績:参加者延べ700名以上)」を実施しました。最先端でグローバルレベルのビジネススクールの学びと、「美の感性」や心の豊かさ、好奇心や時代の一歩先を行く遊び心など創業以来追求してきた当社のヘリテージへの学びを掛け合わせたオリジナルカリキュラムで社員の成長を支援しています。
<多様な人の知と能力を集結させ、イノベーションを連続的におこす組織文化の構築>
当社では、さまざまなバックグラウンドを持つ社員一人ひとりが高いパッションを保ちながらいきいきと働き続けるために、社員体験の充実、心理的安全性や生産性向上など、ソフトおよびハードの両面での社内環境の整備に力を入れています。2024年度は、多様な知と能力の融合によって価値が生まれるとの考えのもと、社員同士のつながりを生むことを目的に、広報、マーケティング、ファシリティマネジメント、人事の部門が連携して、グローバル本社を中心にさまざまなイベントを開始しました。経営方針への共感と理解促進のため、経営陣と直接対話できる機会を増やしたり、社員にブランド・新商品を深く理解し、愛着を高めてもらうための「ブランドデー」などを実施し、グローバル本社の社員食堂ではこれらのイベントのテーマに合わせたオリジナルのコラボレーションメニューを提供しました。
社員が自分のライフスタイルやワークスタイルに合せて働き方を選択できるように、コアタイムのない「フレックスタイム制度(スーパーフレックス)」、業務の目的に合わせてリモートワークとオフィスワークを柔軟に組み合わせる「資生堂ハイブリッドワークスタイル」を推奨しています。また、ハード面においては、働き方の変革による生産性向上や社員体験の充実を図るため、AIやデジタルツールを活用した「SHISEIDO Work Smart」の取り組みを開始。生成AIをベースにした「Shiseido AI コンシェルジュ」や人事サポートの新たなプラットフォームとして「PASS(People Assistance Solutions Salon)」をリリースしました。
企業使命の実現を支える社員が健康で豊かで幸せな生活を送り、健やかな美を体現することが重要であるため、「健康経営」にも力を入れています。資生堂健康保険組合と協力し、社員が健やかに美しく生活することへのサポートを明確にするための「資生堂健康宣言」に加え、資生堂グループで働く人にとって安心・安全な職場環境を実現する「労働安全衛生マネジメントシステム体制」を2022年に構築しました。さらにすべての職場において休業災害ゼロを目指す「資生堂ビジョン・ゼロ宣言(安全宣言)」を策定しました。今後もこれらの宣言に基づく活動を進化させ、労働安全リスクを最小限とすることはもちろん、健康投資を行うことで、社員がより健やかになり、結果として社会へ還元する、このような好循環を目指します。
社員一人ひとりがありのままの個人としての可能性と良さを発揮できるようにするための活動として、LGBTQ+に関する環境の整備や啓発にも力を入れています。日本国内では、特別休暇、介護制度、育児制度などの福利厚生等の利用にあたり、社員の同性パートナーも異性の配偶者と同様に取り扱うことを就業規則で定めています。その他にも、当事者社員の体験談や外部有識者を招いたトークセッションなど、当事者を取り巻く現状について社員一人ひとりが考える機会となる社内イベントを実施しています。毎年、プライド月間にあわせた「Diversity Week for LGBTQ+(「Diversity Week for People with Disabilities」と併せて参加者延べ約1,800名)」を実施し、LGBTQ+に関する正しい知識の習得、職場におけるアライ(理解者であり、支援者を指す)コミュニティの醸成につなげています。(注)
昨今の変化する働き方や子育て環境に伴う社員のニーズに対応するため、連結子会社であるKODOMOLOGY㈱を通じて当社および提携企業の社員向けに子育て支援サービス「KANGAROOM+(カンガルームプラス)」を提供しています。働きながら子育てをする社員を、産前から小学生まで切れ目なくサポートしています。
(注) DE&Iの取り組み詳細に関しては、前述「(3) DE&Iの取り組み」をご参照ください。
③ リスク管理
当社の人的資本の取り組みのリスク管理に関しては、サステナビリティ全般のリスク管理と合わせて取り組んでいます。詳細は、前述「(1) サステナビリティ全般」の「③ リスク管理」をご参照ください。
④ 指標及び目標
指標については下表のとおりであり、中長期目標については現在策定中です。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち当社グループの財政状態および経営成績に影響を及ぼすリスクは以下の通りであり、これらは投資家の判断にも影響を与える可能性があります。
なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2025年3月26日)現在において当社グループが判断したものですが、ここに掲げられている項目に限定されるものではありません。
当社では、「あらゆるステークホルダーとの信頼関係を築き、経営戦略の実現を一層確実なものとすること」を主眼に置いてリスクマネジメントを推進しています。そのため、リスクを戦略実現に影響を与える「不確実性」と捉え、脅威だけでなく、機会も含めた概念として定義し、必要な体制を構築するとともに、積極的かつ迅速に対応策を推進しています。
当社グループ全体に関わるリスクや個別案件に関わるリスクを特定し対応策等を審議する体制として、当社CEOを委員長とし各地域CEOおよび当社エグゼクティブオフィサー等をメンバーとする「Global Risk Management & Compliance Committee」や「Global Strategy Committee」を設置し、定期的に開催しています。また、リスクに関連する情報は、グループCLO(チーフリーガルオフィサー)直轄のリスクマネジメント部門に集約されます。
毎年特定・評価された重要リスクは、当社グループの経営戦略を策定するうえで考慮される要素となります。加えて、当社はそれぞれの重要リスクによる影響を軽減するため、リスクごとに設定されたリスクオーナーを中心に対応策を推進し、その進捗状況をモニタリングするとともに定期的に上記のCommitteeのメンバーや取締役と共に議論する仕組みを構築・運用しています。
2024年度は、総合的・多面的な手法(ホリスティックアプローチ)を用いて全社的に重要なリスクを抽出しました。具体的には、当社エグゼクティブオフィサー、各地域CEOおよび取締役のリスク認識を把握するインタビューやディスカッション、ならびに各地域で実施した地域ごとのリスク評価、当社関連機能部門との情報交換等を元に、リスクマネジメント部門による分析や外部有識者の知見を加えて、当社の中期経営戦略である「SHIFT 2025 and Beyond」の「アクションプラン2025-2026」(注)達成に影響を及ぼす可能性のあるリスクを特定しました。
(注)アクションプラン2025-2026で取り組む最優先課題
そして、それらのリスクについて、以下表1のとおり、「ビジネスへの影響度」、「顕在化の可能性」、「脆弱性」の3つの評価軸を設定し、上記Committeeや個別会議などを通じて、リスクの優先付けおよび対応策の検討・確認を行いました。
表1 <リスクの評価軸>
アセスメントの結果抽出された計21の重要リスクは、以下表2のように「生活者・社会関連」「事業基盤関連」そして「その他」の3つのリスクカテゴリーに分類し対応しています。
表2 <資生堂グループ重要リスクの抽出結果> ★:特に対応を強化しているリスク
当連結会計年度のリスクアセスメント結果で特筆すべき点として、各リスクの結びつきがますます強固となり、それに伴い各リスクの対応策の相互関係は強まりつつあることが挙げられます。加えて、当社では「生活者の価値観変化」「最先端のイノベーション」「新たなテクノロジーへの対応・デジタル化の加速」「優秀な人財の獲得・維持と組織風土」「ビジネス構造改革」「業務上のインフラ」「規制対応」「情報セキュリティ」のリスクについて、前連結会計年度と比較しリスクレベルが上昇しているリスクとして特定し、対応を強化しています。
次項より重要リスクごとに、戦略実現に向けた主要な取り組み、想定される不確実性(脅威・機会)、対応策の概要およびリスクレベルの変化およびアクションプラン2025-2026との関連性を記述します。なお、記述内容は、2025年3月26日時点におけるものです。
<生活者・社会関連>
<事業基盤関連>
<その他>
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要ならびに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容は次のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。
(単位:百万円)
(注) 1 コア営業利益は、営業利益から構造改革に伴う費用・減損損失・買収関連費用等、非経常的な要因により発生した損益(非経常項目)を除いて算出しています。
2 EBITDAは、コア営業利益に、減価償却費(使用権資産の減価償却費を除く)および償却費を加算しています。
3 売上高における実質増減率は、為替影響、当連結会計年度・前連結会計年度におけるすべての事業譲渡影響および譲渡に係る移行期間中のサービス提供に関わる影響(以下「事業譲渡影響」という。)および「Dr. Dennis Gross Skincare」買収影響を除いて計算しています。
当連結会計年度における世界経済は、地政学リスクの高まり、物価高騰、為替相場のボラティリティ上昇等に伴う先行き不透明感が継続しました。中国では経済成長の減速が進んだ一方、欧州では緩やかな成長が続きました。また、米国では良好な雇用環境を背景に景気は堅調に推移したものの個人消費の勢いに陰りが見られるなど、先行きへの警戒感が高まりました。日本においては緩やかな景気回復となりました。
国内化粧品市場は物価上昇が家計の重石になる状況が続くなか、堅調に推移しました。訪日外国人旅行者数はコロナ禍前を上回り過去最高を更新しましたが、旅行者の消費行動の変化を背景にインバウンド消費は想定よりも緩やかな成長となりました。
海外化粧品市場の動向は地域ごとにばらつきが見られました。中国海南島などの免税市場では、規制強化に伴う流通在庫調整の影響は着実に縮小した一方で、中国人旅行者を中心とした消費の減速を背景に、厳しい市場環境が続きました。また中国では、景況感の悪化に伴う貯蓄の増加や消費低下を背景に停滞が続きました。欧米市場は下期に成長鈍化の兆しがみられ、全体としては緩やかな成長となりました。
当社グループは、企業使命「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(美の力でよりよい世界を)」のもと、環境問題やダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンを中心とした社会課題の解決に向けてイノベーションに積極的に取り組みながら、「Personal Beauty Wellness Company」として、スキンビューティーとウェルネスを融合し、一人ひとりの自分らしい健康美を実現する企業を目指します。そして2030年のビジョン「美の力を通じて“人々が幸福を実感できる”サステナブルな社会の実現」に取り組みます。
当期は、2023年から2025年までの3カ年を中心に取り組む中期経営戦略「SHIFT 2025 and Beyond」の2年目であり、グローバルコスト削減のための構造改革主要アクションの完遂と、グロスプロフィット最大化を追求する体制の構築に取り組みました。日本事業においては、「持続的な成長」、「稼げる基盤構築」、「人財変革」の3つを柱とする経営改革プラン「ミライシフトNIPPON 2025」の実行を通じて、収益性改善を着実に進めており、グローバルでも計画どおりにコスト構造改革の効果創出を実現しました。中国・トラベルリテール事業においては、組織構造の最適化を図るとともに、多様化する市場の変化を捉えた持続的な成長の実現を目指します。米州・欧州・アジアパシフィック事業においては、積極的な経営資源投下により成長加速を図ります。これらを通じ、適正な地域ポートフォリオへの転換を進め、不透明で変化の激しい市場環境にも柔軟に対応できる経営基盤の構築を進めていきます。
2024年11月には、早期の収益性改善と、その後の持続的な成長をより確実なものとするために、次の2カ年で実行する「アクションプラン2025-2026」を策定しました。注力ブランドへの選択と集中とグローバルでの聖域なきコスト構造改革実行を通じて、変化の激しい市場でも安定的な利益拡大を実現するレジリエントな事業構造を目指し、「ブランド力の基盤強化」、「高収益構造の確立」、および「事業マネジメントの高度化」に取り組みます。
① 売上高
売上高は、中国・トラベルリテールにおいて、中国人旅行者を中心とした消費低下が継続し減収、米州でも、売上回復が遅れ、減収となりました。一方、日本・欧州は、成長性・収益性の高い注力領域への積極投資や戦略的マーケティングが功を奏し、力強い成長が継続しました。また、アジアパシフィックは緩やかな成長となりました。その結果、前年比1.8%増の9,906億円、現地通貨ベースでは前年比2.7%減、為替影響、事業譲渡影響および「Dr. Dennis Gross Skincare」買収影響を除く実質ベースでは前年比1.3%減となりました。

ブランド別には、事業譲渡・買収の影響を除いた「実質外貨前年比」の比較において、「クレ・ド・ポー ボーテ」、「エリクシール」およびフレグランスは好調が継続した一方、「Drunk Elephant」は回復が遅れました。
② 売上原価
売上原価は、前年比8.6%減の2,374億円となりました。売上高に対する比率は、前年の減損損失や構造改革費用などによる影響に加え、在庫償却関連費用の減少や、事業譲渡に伴う製品供給影響の減少などにより前年比2.7ポイント減の24.0%となりました。なお、事業譲渡影響および減損損失影響などを除いた実質の原価率は生産数量減少に伴う原価増加により、前年比0.3ポイント増の23.4%となりました。
販売費及び一般管理費は、前年比7.9%増の7,514億円となりました。コア営業利益ベースの内訳は次のとおりです。
(イ) マーケティングコスト(注) 1
マーケティングコストの売上高に対する比率は、機動的なコストマネジメントにより減少したものの、ブランド価値向上のための投資継続強化により、前年比1.9ポイント増の28.6%となりました。
(ロ) ブランド開発費・研究開発費
ブランド開発費・研究開発費の売上高に対する比率は、前年比0.1ポイント減の3.9%となりました。
(ハ) 人件費(注) 2
人件費の売上高に対する比率は、インフレに伴い費用が増加したものの、構造改革等による人件費の適正化を進めた結果、前年比0.4ポイント減の23.0%となりました。
(ニ) 経費
経費(その他費用)の売上高に対する比率は、DX関連の投資費用が増加したことに伴い前年比0.4ポイント増の17.5%となりました。
販売費及び一般管理費に含まれる研究開発費は272億円となり、売上高に対する比率は2.7%となりました。なお、研究開発活動についての詳細は、「6 研究開発活動」に記載しています。
(注) 1 マーケティングコストは、PBP(パーソナルビューティーパートナー)関連諸費用を含めた場合は、売上高に対する比率は37.8%となりました。
2 人件費は、PBP(パーソナルビューティーパートナー)関連諸費用を除いた場合は、売上高に対する比率は13.8%となりました。
④ コア営業利益
コア営業利益は364億円、2024年11月に公表した業績予想の350億円は超過したものの、前連結会計年度に対しては35億円の減益となりました。トラベルリテール・米州事業の減益を、日本事業での大幅な増益や、全社を挙げた構造改革効果およびコストマネジメントにて一部相殺しました。また、「その他」は、トラベルリテール・中国事業向けの内部売上高減少に伴う差益減等により減益となったほか、「調整額」は未実現利益消去額の変動影響などにより、減益となりました。
⑤ 営業利益
営業利益は、前連結会計年度にパーソナルケア製品の生産事業譲渡に伴う減損損失、構造改革費用、事業譲渡損に加え、大阪府内自社2工場の統合に係る減損損失等を計上したものの、社屋売却による固定資産除売却益の計上があった一方、当連結会計年度においては日本事業の早期退職支援プランに関する構造改革費用を計上したことなどから、前連結会計年度に対し206億円減益の76億円となりました。
税引前利益又は損失は、営業利益が前連結会計年度に対し206億円減益の76億円となったことや、セラーノート(デットファイナンスの一種。売主が一部融資を行う)に関連する費用として128億円の長期貸付金の損失評価引当金繰入額を計上したことにより、前連結会計年度に対し323億円減少し、13億円の損失となりました。なお、長期貸付金の損失評価引当金繰入額の計上は当連結会計年度のキャッシュ・フローに影響を与えるものではありません。
親会社の所有者に帰属する当期利益又は損失は、前連結会計年度に対し326億円減少し、108億円の損失となりました。コア営業利益の減益や、非経常項目において主に日本事業の早期退職支援プランに関する構造改革費用を計上したことに加え、セラーノートに関連する費用として長期貸付金の損失評価引当金繰入額を計上したことが影響しました。
EBITDAは、前連結会計年度に対し23億円減益の896億円となり、マージンは9.0%となりました。
当連結会計年度における連結財務諸表項目(収益および費用)の主な為替換算レートは、1ドル=151.5円、1ユーロ=163.8円、1中国元=21.0円です。
(報告セグメントの業績)
各報告セグメントの業績は次のとおりです。なお、当連結会計年度より報告セグメントの区分方法を変更しており、前連結会計年度との比較・分析は変更後の区分方法に基づいています。
コア営業利益又は損失 (参考)
(注)1 当連結会計年度より、当社グループ内の業績管理区分の一部見直しに伴い、従来「日本事業」に計上していた一部業績を「その他」に計上しています。なお、前連結会計年度のセグメント情報については、変更後の区分方法により作成したものを記載しています。
2 売上高における実質増減率は、為替影響、事業譲渡影響および「Dr. Dennis Gross Skincare」買収影響を除いて計算しています。
3 「その他」に計上しているパーソナルケア製品生産事業に係る売上高は、資生堂久喜工場の譲渡に伴い、2023年4月1日以降、一部を除き発生していません。
4 「その他」は、本社機能部門、㈱イプサ、生産事業、飲食業およびヘルスケア事業(美容食品の販売)等を含んでいます。
5 コア営業利益又は損失における売上比は、セグメント間の内部売上高又は振替高を含めた売上高に対する比率です。
6 コア営業利益又は損失の調整額は、主にセグメント間の取引消去の金額です。
① 日本事業
日本事業では、経営改革プラン「ミライシフト NIPPON 2025」の実行を通じた収益性改善を引き続き進めています。成長性・収益性の高いブランド・商品・お客さま接点へ活動を集中させることで成長の加速に取り組み、愛用者数の増加が続いている「SHISEIDO」、「クレ・ド・ポー ボーテ」、「エリクシール」を中心とした注力ブランドで力強い成長を実現しました。また、戦略的マーケティングによりファンデ美容液という新市場創出に取り組み、「SHISEIDO エッセンス スキングロウ ファンデーション」などが好調に推移したほか、「クレ・ド・ポー ボーテ」や「エリクシール」の新商品の好調も成長をけん引しました。訪日外国人旅行者数はコロナ禍前の水準を上回り過去最高を更新しましたが、旅行者の消費行動の変化を背景にインバウンド消費は想定よりも緩やかな成長にとどまりました。
以上のことから、売上高は2,838億円となりました。前年比は9.2%増、事業譲渡影響を除く実質ベースでは前年比9.5%増となりました。コア営業利益は281億円、売上増による差益増や費用効率化などにより、前年に対し267億円改善しました。
② 中国事業
中国事業では、市場環境変化のなかで成長と収益性のバランスを取りながら、より消費者のニーズを踏まえたブランド・商品の価値伝達による持続的成長への転換を進めています。景況感の悪化に伴う消費低下の影響を受ける中でも、中国最大のEコマースイベントである「ダブルイレブン」では、ALPS処理水の海洋放出後の日本製品買い控えの影響があった前年からの反動もあり、大幅伸長しました。通期では、「クレ・ド・ポー ボーテ」、「アネッサ」、「NARS」は成長しましたが、「SHISEIDO」は苦戦が続きました。
以上のことから、売上高は2,500億円となりました。前年比は0.8%増、現地通貨ベースでは前年比5.3%減、為替影響および事業譲渡影響を除く実質ベースでは前年比4.6%減となりました。コア営業利益は123億円、売上減に伴う差益減を、原価低減、固定費低減などの構造改革効果などにより相殺し、前年に対し53億円の増益となりました。
③ アジアパシフィック事業
アジアパシフィック事業の国・地域では、台湾で市場鈍化の影響を受けましたが、タイを中心とする東南アジアがけん引し成長を維持しました。「アネッサ」、「クレ・ド・ポー ボーテ」、フレグランスで力強い成長となりました。
以上のことから、売上高は717億円となりました。前年比は6.5%増、現地通貨ベースでは前年比0.9%増、為替影響および事業譲渡影響を除く実質ベースでは前年比2.5%増となりました。コア営業利益は60億円、売上増に伴う差益増などにより、前年に対し9億円の増益となりました。
④ 米州事業
米州事業では、「NARS」や「Tory Burch」が増収となりました。一方、上期に一時的な生産減・出荷減が生じ、第3四半期において生産は安定化したものの、「Drunk Elephant」は売上回復が遅れました。
以上のことから、売上高は1,185億円となりました。前年比は7.5%増、現地通貨ベースでは前年並み、為替影響、事業譲渡影響および「Dr. Dennis Gross Skincare」買収影響を除く実質ベースでは前年比7.0%減となりました。コア営業利益は2億円、売上減に伴う差益減などにより、前年に対し110億円の減益となりました。
⑤ 欧州事業
欧州事業では、「SHISEIDO」や「NARS」が伸長したほか、フレグランスでは「narciso rodriguez」や新商品が貢献した「ISSEY MIYAKE」が好調をけん引しました。
以上のことから、売上高は1,327億円となりました。前年比は13.4%増、現地通貨ベースでは前年比5.2%増、為替影響および事業譲渡影響を除く実質ベースでは前年比8.2%増となりました。コア営業利益は37億円、売上増に伴う差益増などにより、前年に対し3億円の増益となりました。
⑥ トラベルリテール事業
トラベルリテール事業(空港・市中免税店などでの化粧品・フレグランスの販売)では、訪日外国人旅行者数の増加により、日本において堅調な回復を実現しました。一方、中国海南島・韓国では、中国人旅行者を中心とした消費の大幅な減少の影響を受け、低い出荷レベルが続きました。
以上のことから、売上高は1,078億円となりました。前年比は18.6%減、現地通貨ベースでは前年比23.8%減、為替影響および事業譲渡影響を除く実質ベースでは前年比23.8%減となりました。コア営業利益は50億円、売上減に伴う差益減などにより、前年に対し121億円の減益となりました。
(生産、受注および販売の実績)
生産、受注および販売の実績は次のとおりです。
なお、当連結会計年度より報告セグメントの区分方法を変更しており、増減率は変更後の区分方法に基づいています。
当連結会計年度における生産実績を報告セグメントごとに示すと、次のとおりです。
(注) 1 セグメント間取引については相殺消去しています。
2 金額は製造原価によっています。
当社グループ製品については受注生産を行っていません。また、OEM(相手先ブランドによる生産)等による受注生産を一部実施しているものの金額は僅少です。
当連結会計年度における販売実績を報告セグメントごとに示すと、次のとおりです。
(注) セグメント間取引については相殺消去しています。
当社グループは、事業活動のための適切な資金確保、流動性の維持、ならびに健全な財政状態を常に目指し、安定的な営業キャッシュ・フローの創出、幅広い資金調達手段の確保に努めています。成長を維持するために将来必要な運転資金および設備投資・投融資資金は、主に手元のキャッシュと営業活動からのキャッシュ・フローに加え、借入や社債発行により調達しています。資金調達に関しては、有利な条件で調達が可能となる格付シングルAレベルを維持すべく、ネットデット・エクイティ・レシオ0.2倍、ネットデット・EBITDA・レシオ0.5倍を目安としながら、市場環境などを勘案して最適な方法でタイムリーに実施します。ただし、今後の収益力およびキャッシュ・フロー創出力を考慮したうえで、上記指標は株主還元方針と併せて、さらなる資本効率の向上に資する最適資本構成になるよう、適宜見直します。
手元流動性については、連結売上高の1.5ヶ月程度を一つの目安としています。当連結会計年度末の現金及び預金の総額は1,229億円となり、手元流動性は連結売上高(2024年1月1日から2024年12月31日までの期間)の1.5ヶ月分となりました。
一方、当連結会計年度末現在の有利子負債残高は3,656億円となっています。金融機関と締結しているコミットメントライン契約の未使用額1,000億円、国内普通社債の発行登録枠の未使用枠2,850億円を有し、資金調達手段は分散化されています。
当連結会計年度末現在において、当社グループの流動性は十分な水準にあり、資金調達手段は分散されていることから、財務の柔軟性は高いと考えています。
当社グループは、流動性および資本政策に対する財務の柔軟性を確保し、資本市場を通じた十分な資金リソースへのアクセスを保持するため、一定水準の格付けの維持が必要であると考えています。当社グループは、社債による資金調達を行うため、ムーディーズ・ジャパン株式会社より格付けを取得しています。
2025年2月28日現在の発行体格付けはA3(見通し:ネガティブ)となっています。
総資産は、持分法で会計処理されている投資が減少した一方、「Dr. Dennis Gross Skincare」の買収によりのれんおよび無形資産などが増加したことにより、前連結会計年度末に比べ764億円増の13,318億円となりました。
(負債)
負債は、営業債務及びその他の債務が減少したものの、社債及び借入金の増加などにより、621億円増の6,772億円となりました。
資本は、配当金支払いにより利益剰余金が減少した一方、円安により在外営業活動体の換算差額が増加したことなどから、143億円増の6,546億円となりました。
1株当たり親会社所有者帰属持分は、前連結会計年度末に対し35.27円増の1,583.47円となり、親会社所有者帰属持分比率は、前連結会計年度末比1.8ポイント減の47.5%となりました。また、親会社の所有者に帰属する持分に対する現金及び預金の総額を除いた有利子負債(リース負債除く)の割合を示すネットデット・エクイティ・レシオは0.18倍となりました。
(単位:百万円)
当連結会計年度末における現金及び現金同等物は、前連結会計年度末に比べ62億円減少し、985億円となりました。
当連結会計年度の営業活動によるキャッシュ・フローは、減価償却費及び償却費(757億円)、長期貸付金の損失評価引当金繰入額(128億円)などの増加項目があった一方、税引前損失(13億円)、営業債務の増減額(301億円)、営業債権の増減額(105億円)などの減少項目があったことにより、前連結会計年度末に比べ406億円減少の484億円の収入となりました。なお、利息及び配当金の受取額には(株)ファイントゥデイホールディングス(以下「FTH」という。)からの配当金(36億円)が含まれています。
当連結会計年度の投資活動によるキャッシュ・フローは、FTHの全株式を譲渡したことによる関連会社株式の売却による収入(128億円)があった一方、子会社の取得による支出(489億円)や、ITシステムへの投資等の無形資産の取得による支出(258億円)、工場設備への投資等である有形固定資産の取得による支出(249億円)などにより、前連結会計年度末に比べ482億円支出は増加し、837億円の支出となりました。
当連結会計年度の財務活動によるキャッシュ・フローは、長期借入による収入(510億円)、短期借入金の増加(420億円)、社債の発行による収入(150億円)があった一方、長期借入金の返済による支出(300億円)、リース負債の返済による支出(264億円)、配当金の支払額(240億円)などにより、前連結会計年度末に比べ990億円収入は増加し、234億円の収入となりました。

当社グループの連結財務諸表は、IFRSに準拠して作成しています。その作成には経営者による会計方針の選択・適用、資産・負債および収益・費用の報告金額ならびに開示に影響を与える見積りを必要としています。経営者は、これらの見積りについて過去の実績等を勘案し合理的に判断していますが、実際の結果は、見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合があります。
当社グループの連結財務諸表で採用する重要性がある会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記」の「3.重要性がある会計方針」および「4.重要な会計上の見積りおよび判断」に記載しています。
(持分法適用関連会社の株式譲渡)
当社は、当社の持分法適用関連会社である㈱ファイントゥデイホールディングスの保有株式のすべてをプライベートエクイティファンドCVC Capital Partnersが投資助言を行うファンドが直接または間接に出資をしている法人であるOriental Beauty Holding (HK) Limitedに譲渡することに関して、2024年6月20日に法的拘束力を有する正式契約を締結し、2024年6月25日付で譲渡手続が完了しました。
(Max Maraとのフレグランス事業におけるライセンス契約)
当社は、当社の連結子会社であるボーテプレステージインターナショナルS.A.S.を通じて、Max Mara S.r.l.のフレグランス商品を、開発・生産・販売するためのグローバル独占ライセンス契約について、2024年11月16日に法的拘束力を有する正式契約を締結しました。
当社グループは、強みである皮膚科学技術や処方開発技術、感性科学、情報科学に加えて、デジタル技術や機器開発技術などの新しい科学技術を国や業界を超えて融合し、資生堂の企業使命「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD」の実現に取り組みます。
資生堂グローバルイノベーションセンター(呼称「S/PARK エスパーク」)をはじめ、米国、フランス、中国、シンガポールの各海外研究開発拠点においては、現地のマーケティング部門と連携しながら、各地域のお客さまの肌や化粧習慣の研究、その特性にあった製品開発に取り組んでおり、世界中のお客さまに対して安全・安心、高品質な商品・サービスの創出に向け、資生堂グループ全体の成長に貢献するとともに世界の化粧品業界をリードします。
当社グループが生み出した研究開発成果は外部より高い評価を受けています。化粧品技術を競う世界最大の研究発表会である第34回国際化粧品技術者会連盟イグアス大会2024において、全688件の研究報告(口頭発表83件、ポスター発表605件)のうち、口頭発表基礎部門で「最優秀賞」を受賞し、若手研究員に贈られるHenry Maso Award for 2024を受賞しました。そして、中国香料香精化粧品工業協会が主催する第15回中国化粧品学術研討会において、優秀論文として最も優秀な研究に贈られる「1等賞」および「2等賞」2件と「優秀賞」を受賞し、当社がエントリーした4件の論文すべてが受賞し、うち1件は中国現地の研究所で企画・推進まですべてをリードし創出された技術についてのものです。さらに、アジア化粧品技術者会(ASCS)ゴア大会2024にてデジタルポスター発表で「1等賞」を受賞しました。
また、戦略実現を加速するアプローチとして、外部企業・研究機関等との連携および人財育成においてイノベーション創出を積極的に進めることを示しました。
当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は
(1) スキンケア
肌の健康と美しさを維持するための新たなメカニズムとして、世界で初めて、匂い結合タンパク質OBP2A(Odorant binding protein 2A)がヒトの表皮では恒常性維持に寄与し、表皮バリアの一端を担っていることを発見しました。ヒトの鼻の内側に存在する匂い結合タンパク質OBP2Aは、細胞にダメージを与えるストレス分子をフィルタリングする機能があることが知られています。本研究では、そのOBP2Aが表皮でも発現していることを解明しました。また、OBP2Aを減少させた表皮細胞に、環境中にある匂い成分ノネナール(注1)(外的ストレス分子)と皮脂や汗などに含まれる成分であるオレイン酸、パルミトレイン酸(内的ストレス分子)を与えると、ストレス分子に対する防御力が低下し、細胞生存率が下がることが分かりました。さらに、OBP2Aを減少させた表皮モデルでは表皮膜が薄くなり、肌のうるおい成分であるラメラ顆粒の分泌が減少することと、水分蒸散量が増加し表皮バリア機能が低下することも分かりました。加えて、OBP2Aの発現量を高める効果のある成分についても探索を行い、ユリの一種であるマドンナリリーの花から抽出した「フランス産ホワイトリリー花エキス」に、表皮中のOBP2Aの発現を高める効果があり、表皮厚を増加し、水分蒸散量を低下させ、表皮バリア機能を高めることを発見し、本研究成果を「クレ・ド・ポー ボーテ」の商品開発に応用しました。
紫外線や花粉、睡眠中断など体内外の様々な要因で増加する悪玉因子セルピンb3によって、表皮にダメージを蓄積させることに加え、基底膜や真皮にまで悪影響を及ぼすなど肌老化を加速するメカニズムを明らかにし、セルピンb3の増加を抑えるアプローチを基に研究を行ってきました。また、20年以上にわたり肌と密接な関係を持つ毛細血管の研究にも注力しており、毛細血管が肌の弾力を生み出すメカニズムも明らかにしています。この悪玉因子セルピンb3に関する独自研究と当社が強みとする血管研究を掛け合わせ、皮ふ内部と肌状態の関係をさらに解明し、より美しく健やかな肌を実現するための新たなソリューション開発への応用を目指しました。その結果、悪玉因子セルピンb3の遺伝子発現量が高い時、肌の組織構造の強化などに関わる遺伝子であるCCN2の発現が有意に低くなることを明らかにしました。また、CCN2は毛細血管に存在する細胞ペリサイトに働きかけ、美肌を維持する上で重要なコラーゲンの主要構成成分やヒアルロン酸の前駆体を増加させることを発見し、CCN2がいわば「美肌遺伝子」であることを突き止めました。さらに、CCN2の遺伝子発現を促進する成分として、チャノキの葉エキスを見出しました。CCN2発現量は年齢と相関関係がないことも確認しており、本研究成果を「SHISEIDO」の商品開発に応用しました。
(2) サンケア・メーキャップ
UVが肌に与える影響についてまだ広く知られていなかった時代から、いち早く防御研究に着手し、日常生活から過酷なUV条件下までのあらゆる環境下で、UVの悪影響から肌をしっかり守りたいというお客さまのニーズに応えるべく、常に革新的な技術開発を行ってきました。しかし、手指との接触や表情の動きによって塗布膜が薄れ、UV防御機能を低下させてしまうという長年の課題がありました。塗布膜の薄れが自動で修復する現象は「自己修復」と呼ばれますが、この機能を示す成分の多くはゲル(半固形)状で肌へ塗り広げると不均一になってしまい、紫外線防御機能を十分に発揮できません。そこで、製剤を均一に塗り広げられて塗布膜の欠損も修復できる技術として、塗布膜の流動性を高めることに着目しました。流動性の低下をもたらす粉末の凝集を改善する方法を検討した結果、これまでのマテリアルサイエンス領域の知見をベースに最新の粉末分散研究の知見を取り入れることで、特定の粉末分散剤が塗布膜中の粉末の分散性を改善し、塗布膜が流動的になることを見出し、ミクロレベルの傷やよれを自動で修復させる新技術「オートリペア技術TM」の開発に成功しました。実際に本技術を搭載した塗布膜において、膜に傷をつけた5分後までにUV防御機能の回復を確認しました。また、従来の手法で流動化された塗布膜と比べて手指へ付着しづらく、UV防御機能の低下量が少ないことも確認できました。本研究成果を「アネッサ」の商品開発に応用しました。さらに、本技術は日焼け止めへの応用だけではなく、ベースメイク製品やリップ製品の美しい仕上がり持続にも今後貢献できることが期待されます。
紫外線や過度な運動による心身への影響は徐々に明らかにされてきていますが、紫外線を防御することで心身への影響にどのような変化が起こるのかについてはこれまで十分に検証されていませんでした。そこで、屋外運動時の紫外線暴露および紫外線防御が心身に及ぼす影響を科学的に検証し、太陽光の下でパフォーマンス高く、より一層アクティブに活動できる方法を探ることを目指しました。健康な成人男女16名を紫外線防御有り・無しの2つの群に分けて実験を行ったところ、日焼けの度合いを示す肌の赤みが強いほど、運動後に大きな疲労感を感じることや運動後の肌の赤みの変化量が運動時の血中乳酸値の変化量や酸化ストレスの変化量と比例することが確認でき、日焼け止めを用いて紫外線から肌を守ることで運動時の疲労感を軽減できることが推察されました。また、紫外線から防御することで運動中のパフォーマンスや運動後のリカバリーに良い影響があることが示唆されました。高いテクノロジーで紫外線を防ぐことによって太陽の恩恵をより享受できる商品の開発や子供たちへ紫外線や日焼け止めの理解を広める教育活動につなげていきます。
メーキャップ領域においては、昨年度開発に成功した「ファンデ美容液」の継続育成に取り組んでいます。「ファンデ美容液」は、彩る美容液ともいえる新発想のベースメイクカテゴリーです。従来の「美容液ファンデーション」はファンデーションに美容液成分を加えるという発想でしたが、この「ファンデ美容液」は美容液で彩るという逆転発想から生まれました。ファンデーションに美容液成分を配合するのではなく、美容液の中にファンデーション成分を閉じ込めることによって、つけた瞬間からずっと美容液が肌に触れ続けるという当社独自の「セラムファースト技術」を搭載しています。本技術は、「SHISEIDO」および「マキアージュ」の2品に搭載されていますが、他商品への活用展開やお客さまへのコミュニケーションを継続的に行い、つけるたび素肌そのものを美しくし、メイクする一瞬が未来の美しさを育んでいくという体験を提供することで新たな化粧文化を創造していきます。
(3) Diagnosis(肌・身体・心の関係解明)
当社が掲げる2030年のビジョン「Personal Beauty Wellness Company」の実現に向けて、肌・身体・心の関係解明に注力しています。国立大学法人東京大学と、美が肌・身体・心にもたらす影響と効果を科学的に解明することを目的に、農学生命科学研究科、工学系研究科、人文社会系研究科、および教育学研究科による文理を超えた社会連携講座「五感が創発する肌・身体・心の美」を開設し、共同研究を開始しました。本共同研究では、分子感性工学に基づく心地よい五感を創出する物質や基剤の設計、五感が肌・身体・心に与える影響を脳や身体の反応を通じて科学的に分析・可視化する手法の開発、ならびに美しいものに触れたり、自己を美しいと感じたりすることが個人の心理状態や自己、他者、社会に与える影響の解明などに取り組みます。
また、日本で唯一の体系的ふたご研究基盤を有する大阪大学大学院医学系研究科附属ツインリサーチセンターとの共同研究を通じて、肌・身体・心の関係性を解明する新たなアプローチとして「ふたご」を対象にした検討を行い、スキンケアを含む生活習慣が肌内部に与える影響を科学的に明らかにすることに成功しました。当社が独自に開発した皮ふの毛細血管可視化技術を用いて、一卵性のふたごの血管を解析したところ、遺伝情報が同じであっても生活習慣の違いにより、毛細血管の形状に違いが出ることを明らかにしました。さらに、ふたご間の毛細血管と肌内部との関係性を調べた結果、皮ふの毛細血管が適度に多い状態の場合、肌内部のコラーゲン密度が高く、酸素飽和度が高いという関係性を見出しました。これにより、日々のスキンケアや生活習慣によって、皮ふの毛細血管を含む肌内部の状態も良好に保つことができる可能性を確認しました。今後さらなる検討を行うことにより、後天的な因子(生活習慣、スキンケア、食生活など)と肌・身体・心の関係性を明らかにし、肌の健康状態を向上させるための革新的なアイテムやケア方法の開発に活用を行っていきます。
100年を超えて研究員が受け継ぐ知見・技術などの「研究開発力」と先進のAI技術を融合し、人々の経験値だけでは導き出せないAIとの共創から生まれる革新的な化粧品開発の実現を目指し、アクセンチュア株式会社と共同で独自のアルゴリズムを用いた処方開発AI機能を開発しました。この処方開発AI機能は、当社の化粧品開発デジタルプラットフォーム「VOYAGER(ヴォイジャー)」に搭載され、2024年2月より本格稼働しました。本AI機能の特長は、皮膚科学、感性科学、製剤化学などの基礎研究から得られた原料情報や処方データ、さらには容器設計に関するデータなど製品開発データを包括的に網羅していることです。これにより、例えばスキンケア製剤とファンデーション製剤の製剤間を越えた比較や類似性評価が可能となり、より効率的で精度の高い化粧品開発が加速されます。すでに活用事例も生まれており、その一例として、類似処方検索を活用し、「クレンジング製剤技術」と「スキンケア処方技術」の掛け合わせから着想を得て開発した試作処方があります。これまでのクレンジング製剤では濃密でリッチな泡立ちとさっぱりとした使い心地の両立が課題でした。そこで、類似処方検索を活用し、クレンジング製剤技術に加えてスキンケア処方技術の知見を活用することによって濃密な泡を維持したままさっぱりとした使い心地を両立した洗浄剤の試作処方開発に成功しました。今後も、多様化する生活者ニーズや社会的に課題であるサステナビリティ領域など、さまざまな視点で処方開発AIを活用し、革新的な価値の創出を目指します。
(4) サステナビリティ
保護性、使いやすさ、デザイン、環境対応性など8つの基準をもとに、優れたパッケージデザインと技術を開発・普及させることを目的に世界包装機構が主催する「ワールドスター2024」コンテストにおいて、当社の「SHISEIDO オイデルミン エッセンスローション」、「クレ・ド・ポー ボーテ リューヌ ジョアイエール」のパッケージデザインが「ワールドスター賞」を受賞しました。今回受賞した両作品は、容器の見た目の美しさや快適な使い心地などのプレミアムな使用体験に加え、レフィルを活用し、環境への負荷軽減を同時に実現することに注力しました。「SHISEIDO オイデルミン エッセンスローション」は、ボトル製造と中味液充填をワンステップで実現する技術LiquiForm(リキフォーム)を世界で初めて化粧品に採用しています。本体容器とレフィル容器の2体構造で高級感のあるパッケージにしており、本体容器を繰り返し使用することにより、使用後廃棄するプラスチック量を92%削減(注2)します。サプライチェーン全体では、当社の標準的な従来の「つけかえ」容器(同容量)に対して、約70%のCO2排出量を削減(注3)します。「クレ・ド・ポー ボーテ リューヌ ジョアイエール」は、グローバルラグジュアリーブランド「クレ・ド・ポー ボーテ」の40周年を記念したリップスティックコレクションです。サステナビリティとラグジュアリーの融合を実現するべく、メイクアップの高揚感を伝えるデザインと、本体容器を使い捨てせずに簡単につけかえることのできるレフィル機構を両立しています。レフィルの仮栓に再生プラスチック(注4)を採用しています。今後も人や社会や地球環境への尊重・共生と、効果や上質なデザイン、感触などから感じる満足感を両立させる「Premium/Sustainability」という研究アプローチによって、変化する社会環境やニーズに迅速かつ幅広く対応をしていきます。
以下、その他の活動について記載します。
当社は、2024年1月9日~12日(現地時間)にアメリカ・ラスベガスにて開催された世界最大級のデジタル技術の見本市「CES 2024」に初出展しました。本出展にて、スマートフォンなどを用いてお客さまの適切な美容法の習得と実践をサポートすることができるデジタルアプリケーション「Beauty AR Navigation」を展示しました。美容法はスキンケアの効果を最大限得るために重要であることが科学的にも明らかになってきており、当社が開発した「軽圧式塗布法」に沿って化粧水・乳液を塗布すると、自己流でのお手入れに比べ、スキンケア後のうるおいやハリ・弾力に関する効果時間が高まることや、気持ちがポジティブになるなどの心理効果のほか、実際に一か月間美容法を継続することで肌の水分量が改善するといった結果が研究で得られています。一方、お客さまが商品の購買に至るまでの化粧品の使用体験が、スマートフォンなどを介して非接触、非対面で行われるデジタル体験に置き換わってきており、インタビュー調査では、「自分自身の化粧品の使用法が正しいのか不安である」「本来期待できる化粧品の効果が、誤った使用法によって十分得られていないのではないか」「適切な使用法を知ることでさらに美しくなりたい」という生活者の悩みやニーズが明らかになりました。本アプリは大きく2つの機能が搭載されています。一つ目は適切な美容動作へのナビゲーションです。お客さま自身が行う美容動作をスマートフォンやタブレット端末などのカメラで認識し、その動作に対して当社の美容法開発を担う専門技術者による「お手本」動作の分析から設定した、適切な手の方向や速度などの動作を伝授します。二つ目はお客さまの美容動作の評価です。ナビゲーションの後、お手本の美容動作とお客さまの美容動作の手の位置や速度の比較解析を行うことで、お客さまの美容動作を定量的に評価し、その結果を提示します。
さらに、当社の強みを活かしつつ、業種を越えた企業とのコラボレーションによる新たな価値創造にも引き続き注力をしています。オンライン販売の急速な普及に伴い、多くの生活者がEC(Electronic Commerce)を通じて化粧品を購入するようになりました。しかし、繊細で多様な化粧品の触り心地の確認など、店頭と同様に化粧品に直接触れて試すことができない課題があります。そこで、当社の感性科学研究の知見と日本電信電話株式会社の非接触情報提示技術を融合し、遠隔・非接触でも化粧品の触り心地を視覚や聴覚を通して体験できる革新的な技術の開発を目指し、共同研究を開始しました。本共同研究により、人間が化粧品基剤に触れた時の触り心地を視覚や聴覚など複数の視点で探り、最終的には、化粧品基剤の触り心地をさまざまな感覚で再現する感覚インターフェースを実現します。これにより、一人ひとりの多様なニーズやライフスタイルに合った化粧品の選択や購入が可能になる世界を目指します。
(注) 1 加齢に伴い発生する特有の香り(加齢臭)の主成分。当社は、ノネナールが肌にもダメージを引き起こすことを発見している。
2 プラスチック量を92%削減:お客さまが2本目を購入時、本体容器を廃棄する場合と、使用後にレフィル容器のみ廃棄する場合との比較
3 約70%のCO2排出量を削減:中味を含めない本容器および従来つけかえ容器のCO2排出量/個は、SuMPO環境ラベルプログラムにて検証済(ISO/TS14067:2013に準拠)。当社にて数値を比較。
4 再生プラスチック:製造工程において発生する廃棄物を再利用したプラスチック。PIR樹脂(Post-Industrial Recycled ポストインダストリアルリサイクルド)ともいう。