第2 【事業の状況】

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当社グループが有価証券報告書提出日現在において合理的であると判断する一定の前提に基づいており、実際の結果とは様々な要因により大きく異なる可能性があります。

 

(1)会社の経営基本方針

当社グループは、「豊かな共生世界の実現」をパーパス(社会における存在意義)に掲げ、生活者・顧客の立場にたって、心をこめた“ESG視点でのよきモノづくり”を行い、世界中の人々のこころ豊かな未来と、人と地球が共に生きる持続可能な共生世界の実現に貢献することを目指しています。

私たちは、企業理念である「花王ウェイ」をグループ全員で共有し、考え方や行動の拠り所として日々実践し、清潔・美・健康の領域を中心に、時代の変化に対応しながら130年余り事業を展開してきました。

2009年には、人類だけでなく自然界にもよき存在であるようにと「環境宣言」を行い、自然と調和するこころ豊かな毎日を目指して、その歩みをさらに一歩進めました。2019年にはESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」(以下、KLP)を発表し、ESGを経営の根幹に据えることを宣言しました。

しかし今、私たちが使命に掲げる「豊かな共生世界」を実現するための土台である人の生命に危機が及んでいます。そして今後もその脅威は、私たちの生活を根幹から脅かす存在であり続けることが予想されます。

このような中、私たちはこの切実な社会的課題に花王らしいアプローチで取り組んでいきます。生活や生態に加え、人の生命を守ることを強く意識し、未来のいのちを守る会社になっていきます。「きれいを こころに 未来に」をコーポレートスローガンに掲げ、地球が生きる場として持続的にきれいに保たれること、社会が持続的に豊かであること、そして人が危害から守られて笑顔で暮らせること、これらすべてを実現するために貢献していきます。

結果として、これらが財務的な成果、そしてステークホルダーへの還元へと繋がり、この仕組み自体が持続していきます。今後も花王グループは、より高いレベルでの企業価値向上を目指していきます。

 

(2)中長期的な会社の経営戦略と目標とする経営指標

① 長期経営戦略

当社グループは2030年までにあるべき姿として、持続的な利益ある成長と社会のサステナビリティへの貢献との両立によって、これまでの『グローバルで存在感のある会社「Kao」』になるという将来像をさらに一歩進め、『グローバルで存在価値のある企業「Kao」』を目指します。ESGを通じて将来にわたって、人・社会・地球にとって価値のある存在になっていきます。

私たちは、環境(E)においては、ゼロ浪費、カーボンゼロ、さらにその先のカーボンネガティブを目指します。社会(S)においては、無駄な消費がなくなることを願い、その人に寄り添った唯一無二のパーソナライズを進めていきます。そして、ガバナンス(G)をしっかりと効かせながら、志を共にする仲間と共に正道を歩んでいきます。最小限の資源で最大の価値を生み出す、"Maximum with minimum"を経営の指針として、より良い明日をつくるために今後も我々は成長し続けます。

 

グローバルで存在価値のある企業「Kao」

■持続可能な社会に欠かせない企業

■高社会貢献&高収益グローバル企業

■ステークホルダーへの成長レベル還元

 

 

② 中期経営計画

 


 

■2024年度の進捗と今後の計画

2024年度は昨年着手した大規模な構造改革の効果が顕著に発現して利益が回復してきた中で、積極的なマーケティング投資を行い、コアブランドの競争優位性を高め、市場シェアと利益率向上の両立を実現することができました。その結果として、中期経営計画「K27」の目標としているROIC(投下資本利益率)、EVA(経済的付加価値)、営業利益、海外売上高において、2024年度は計画を上回る実績となりました。

成長ドライバー領域に関しては、昨年にグローバル拡大の道筋をつくった「スキンプロテクション」のビジネ

スにおいて、日本・欧州・北米・南米・アジアでの伸長も寄与し、売上高は2021年度の233億円から2024年度は432億円に拡大しました。今後、2027年に740億円を目指し、さらなるグローバル成長を計画しています。化粧品事業は、注力6ブランドの拡大に向けてマーケティング費用を積極的に投入し、高付加価値製品のグローバル展開を強化しています。また、ケミカル事業は、売上の6割を占める海外市場において2021年度から2024年度にかけて

売上高CAGR(年平均成長率)11.6%で成長をしています。安定収益領域に関しては、国内で圧倒的なシェアを有

しており、高い収益性とキャッシュ・フロー創出力で、成長ドライバー領域への投資原資を創出しています。強固なブランド力を活かし、他社に先行して実施してきた戦略的値上げを継続することで、ファブリックホームケ

ア事業を中心に収益性を向上させながら販売数量増を達成しています。事業変革領域に関しては、ヘアケア事業

の変革が進展し、成長ドライバー事業領域への展開に向けて強化を進めています。4月に発売した「melt」においては、DX活用によって「よきモノづくり」を高速化し、開発期間を従来の4分の1に短縮することを実現しました。

花王グループ社員が一丸となって、中期経営計画「K27」は計画通りに推移しています。メリハリある人的資本投資により、社員活力を最大化するとともに、迅速に意思決定ができる人財を重要なタスクに集める「組織のスクラム型運営」によって、花王の「よきモノづくり」の質・スピードが着実に上がっています。さらに、タイのチャロン・ポカパン(CP)グループとの協業をはじめ、他社との共創による事業構築を進め、花王グループが有する技術資産の最大化を加速していきます。これらの戦略により、業績をさらに向上させ、長期的な価値創造を実現することを目指してまいります。

※安定収益:ファブリックケア、ホームケア、パーソナルヘルス/成長ドライバー:スキンケア、ケミカル、化粧品、業務用衛生製品/事業変革:ヘアケア、サニタリー

 

③ 目標とする経営指標

当社グループは、EVA(経済的付加価値)及びROIC(投下資本利益率)を経営の主指標としています。その本質は、株主等の資金提供者の視点を持って、資本を効率的に活用し利益を生み出すことにあります。EVAを継続的に増加させていくことが企業価値の増大につながり、株主だけでなく全てのステークホルダーの長期的な利益とも合致するものと考えています。そして事業規模の拡大を図りながら、EVAを増加させることを事業活動の目標としており、個別事業の評価、設備や買収等の投資評価、年度ごとの業績管理や報酬制度等に活用しています。さらにROICにより事業ポートフォリオマネジメントを強化することで、EVA経営の深化を図っています。ROICは、各事業における資本コストに対する意識を高めるとともに、それぞれの特性や競争環境を踏まえた管理を可能にします。事業別に利益と併せて資本効率も重視することにより、成長事業への重点投資と健全なポートフォリオの改善を実施し、EVAの向上を目指します。

 

(3)会社の対処すべき課題

2024年は、ポストコロナの経済が本格的に稼働し始めたものの、地政学リスクのさらなる拡大に伴う国際社会の多軸化・分断化が依然として継続しました。国内でも、訪日外客数がコロナ禍前の水準を超える等、明るい兆しが見えてきていますが、消費者心理に影響を及ぼし得る円安や物価高騰には引き続き注視が必要で、先行き不透明な経済状況にあります。このような状況の中で、花王グループは、社会課題の解決に軸足を据えて、環境に負の影響を与える既存の大量生産・大量消費型のビジネスから脱却し、無駄なモノはつくらず、お客様に長く愛される魅力ある商品を生み出し続ける循環型モデルへ転換しなければなりません。

花王は、構造改革と成長戦略を軸に中期経営計画「K27」を2023年8月に発表しました。高付加価値化による価格改定の実施やTCR(トータル・コスト・リダクション)強化、ROIC(投下資本利益率)の全社導入を進め、大規模な

構造改革を断行し、さらなるグローバル化を進めてまいります。そして、「グローバル・シャープトップ」事業を

擁立する企業を目指し、戦略的なポートフォリオマネジメントを行いながら、成長に向けた投資やM&A、そして、事業再編をスピード感をもって推進していきます。

※グローバル・シャープトップ:顧客の重大なニーズに、エッジの効いたソリューションで世界No.1の貢献をすること

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

文中の将来に関する事項は、当社グループが有価証券報告書提出日現在において合理的であると判断する一定の前提に基づいており、実際の結果とは様々な要因により大きく異なる可能性があります。

 

(1)ESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」

花王は、「2030年までに達成したい姿」である「グローバルで存在価値ある企業『Kao』」を達成するため、経営の中核にサステナビリティの視点を導入しています。環境、社会、ガバナンス(ESG)の領域で取り組む内容を定めた花王のESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」(KLP)は、生活者のこころ豊かな暮らしの実現をめざす花王らしい戦略で、19の重点取り組みテーマより構成されています。

KLPに基づき、事業成長と社会のサステナビリティへの貢献を実現していきます。
 

 

① ガバナンス

花王は、グローバルの大きな変化に迅速に対応するとともに、事業の拡大と社会課題解決をめざして、柔軟で強靭なESGガバナンスを構築しています。このESGガバナンスは、花王の経営、事業活動に環境(E)や社会(S)の視点を入れ込むためのESGの取り組みを統括・推進するための体制であり、中期経営計画「K27」と長期経営ビジョン「K30」の実現を支えるものです。この体制では、意思決定を行う取締役会の監督のもと、社長執行役員及び各部門・グループ会社が業務執行を担っています。また、社外取締役や有識者による第三者からの視点を経営判断や新規事業に取り入れることで、的確かつ迅速な実行を可能にし、イノベーションの創出を促進する点が特徴です。

取締役会は、ESGの監督に必要な知識・経験・能力を確保しています。経営全体を多角的な視点から監督するため、専門性のバランスを考慮するとともに、ESGを重要な専門性として位置づけ、ESGに精通した取締役、監査役を選任しています。取締役会は、ESGに関する審議や議論を行うESGコミッティから、年2回の定期報告を受けるほか、方針や戦略から目標、KPIや活動の進捗状況などの報告を受け、執行状況を監督しています。ESGに関するKPIの報酬方針への反映については、取締役・執行役員報酬諮問委員会で審議され、取締役会で決議されます。2024年度からは、代表取締役社長執行役員の報酬について、基本報酬に対する短期・長期インセンティブ報酬比率を1:1:1に改定しました。長期インセンティブ報酬には、KLPの重点目標達成度(ウェイト25%)と主要ESG評価機関による外部評価結果(ウエイト15%)からなる「ESG力評価指標」を組み込んでいます。KLPの重点目標達成度は多角的な評価に基づいており、脱炭素(CO2排出量削減率)、ごみゼロ(プラスチック再資源化率)、女性管理職比率、重大なコンプライアンス違反件数で構成しています。詳細については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (4) 役員の報酬等」を参照ください。

ESG全体の業務執行については、代表取締役社長執行役員を議長とするESGコミッティを最高機関としたガバナンス体制を構築しています。このESGコミッティは経営層で構成され、KLPに関する活動の方向性を議論・決定し、その活動状況を取締役会に報告しています。また、社外有識者で構成されるESG外部アドバイザリーボードは、ESGコミッティの諮問に対する答申や提言を行い、社外取締役や有識者による第三者からの視点を経営に反映しています。

KLPを遂行するためのESG推進会議、重点課題について確実かつ迅速に遂行するESGステアリングコミッティを設置しています。ESG推進会議は、ESGコミッティの決定事項に基づき、花王グループ全体におけるESG活動を推進し、各部門の進捗状況を確認します。議長は、ESG部門統括・執行役員が務め、委員は事業部門、リージョン、機能部門、コーポレート部門の責任者で構成されています。ESGステアリングコミッティは、重点課題である脱炭素、プラスチック包装容器、人権・DE&I、化学物質管理のテーマごとに取り組みを推進します。役員クラスが各テーマのオーナーとして責任を持ち、一定の決定権を付与されています。このESGステアリングコミッティは、ESGコミッティと連動し、各領域の取り組みを確実かつ迅速に実行に移します。注力テーマに関する活動を提案するESGタスクフォースは、各部門やグループ会社の活動を推進する役割を担っています。

ESGに関するリスク管理は内部統制委員会(年2回開催、委員長は代表取締役 社長執行役員)で、機会管理はESGコミッティ(年6回開催、議長は代表取締役 社長執行役員)で実施しています。

 


 

各組織体の役割、構成、開催頻度、審議事項等

組織体

役割

構成

※2025年1月時点 

実績 (2024年)

開催頻度

主な審議事項等

ESGコミッティ

花王全社に関わる下記項目の審議・議論、または報告:

・ESGの基本的な考え方や方針

・ESGに関する方針の展開、戦略、活動、社外コミュニケーション等

・ESG活動の推進に関する投資の決裁

・社会のサステナビリティやESGに関する潮流、課題と機会

・ESGコミッティメンバーによるステークホルダーとの積極的なエンゲージメント

 

議長:代表取締役 社長執行役員
委員:専務執行役員、常務執行役員等
オブザーバー:社内監査役

年6回

・「花王サステナビリティレポート2024」での開示方針、KPI進捗を含む開示内容の審議・承認

・ESGステアリングコミッティからの提案に関する審議、議論

・TNFDに基づく財務インパクト情報開示の審議・承認

・ESG投資案件の審議・承認

・2025年度ESG投資予算の審議・承認

・ESG外部アドバイザリーボードの答申事項の確認

・KLP各テーマの進捗に関するレビュー

ESG

外部アドバイザリーボード

・ESGコミッティの諮問に対し社外の高い専門的視点から、答申・提言

・ESGコミッティに対し、世界レベルの計画策定・実行ができるような情報の提供

・外部との協働や連携の機会の提供

・花王のESG活動に対する評価

委員:社外有識者

・末吉 里花氏
一般社団法人エシカル協会代表理事ほか
専門:エシカル消費等

・Ruma Bose氏
Chief Growth Officer, Clearco
専門:人権、起業家支援等

・Mike Jefferson氏
Director, Verde Research and Consulting Ltd.
専門:廃棄物管理、リサイクルシステム等

年2回

・社会情勢を踏まえた花王への期待とリスク提言

・KLPの進捗に関する評価と課題提言

・ESG投資とそのインパクト開示に対する提言

・サーキュラーエコノミ―とアドボカシー活動への提言

・欧州の規制(環境、情報開示等)対応への提言

・DE&I、人権に対する考え方や取り組みへの提言

・サステナブルマーケティングの提言

・ESGコミュニケーションに対する提言

・社内エンゲージメントのあり方の提言

ESG推進会議

・ESGコミッティで決定した方針、提言に基づき、ESG戦略と事業の一体化に向けて具現化

・重要ESGアクション実行へ向けた監督・検証

・各部門、リージョンのESG活動推進の課題を吸い上げ、ESGコミッティへ提案

議長:執行役員 ESG部門統括
委員:事業部門、機能部門、コーポレート部門、リージョンの責任者等

年8回

・KLP中長期目標の見直し案策定

・KLP各テーマの進捗と今後の計画の確認

・ESGと事業の一体化に向けた具現化案策定

・ESG投資戦略の策定

・「花王サステナビリティレポート2024」での情報開示の方向性

・グローバルでの新規法規制への対応

・各部門、リージョンのESG活動の推進確認と課題抽出

・グループ間のグローバル連携の強化

・社員とのエンゲージメント強化

・花王みらい共生財団の連携体制構築と協働活動の具現化

 

 

組織体

役割

構成

※2025年1月時点

実績 (2024年)

開催頻度

主な審議事項等

E

S

G

脱炭素

・GHG削減計画の策定

・2040年カーボンゼロ達成に向けた脱炭素対応策と緩和・適応のビジネス機会を一元的に議論し、迅速な脱炭素活動を推進

・シナリオ分析結果に基づいた気候変動リスクの適切な管理

オーナー:常務執行役員 研究開発部門統括
委員:研究開発部門、購買部門、SCM部門、グローバルコンシューマーケア部門、ケミカル事業部門、ESG部門の社員

年5回

・2030年GHG削減戦略に関する議論

・脱炭素関連KPIの進捗と課題に対する対応についての議論

・炭素の固定化に関する議論

プラスチック包装容器

・循環型社会の実現に向け、KLPアクション「ごみゼロ」の重点課題であるプラスチック包装容器にかかわる活動を一元的に議論し、強力かつ迅速に活動を推進

・脱炭素ステアリングコミッティ・水保全・生物多様性との連動を図りながら活動を推進

オーナー:執行役員 研究開発部門 事業研究センター長(ビューティ・ヘルスケア分野担当)兼 研究戦略推進センター 副センター長
委員:経営企画部門、研究開発部門、購買部門、グローバルコンシューマーケア部門、ESG部門の社員

年8回

・リサイクルイノベーション活動(回収・再資源化)の方針案策定、活動の審議・承認

・リデュースイノベーション活動(使用量削減、再生材使用)の方針案策定、活動の審議・承認

・「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」への対応

人権・DE&I

・花王人権方針に基づき、人権デュー・ディリジェンスを含む花王グループの人権に関する活動の一元的な推進、管理

・花王グループのDE&I方針に基づく活動の一元的な推進、管理

オーナー:上席執行役員 人財戦略部門統括
委員:人財戦略部門、ESG部門、購買部門、SCM部門、グローバルコンシューマーケア部門の社員

月1回

・人権方針、DE&I方針に基づく活動の推進

・DE&I方針の理解と実践に向けた社員啓発施策の提案、実行

・人権リスクワークショップを含む人権デュー・ディリジェンスのグローバル展開強化、リスクアセスメントにより特定されたリスクの共有、関連部門・子会社での活動促進

・人権デュー・ディリジェンスの一環としての生活賃金への取組み議論

化学物質管理

・GFC*推進委員会 による製品ライフサイクルを通じての化学物質自主管理の推進

・製品原料方針策定会議による、規制動向や科学の進展等を踏まえた製品原料の使用方針、および、削減計画の策定

・化学物質の使用の考え方や安全性評価結果に関する情報開示、ステークホルダーとのコミュニケーション

*Global Framework on Chemicals - For a Planet Free of Harm from Chemicals and Waste

オーナー:執行役員 品質保証部門統括
委員:ESG部門、研究開発部門、品質保証部門の社員

月1回

・EUグリーンディール政策をはじめとする製品原料に関わる規制動向の把握と対象原料・製品の特定

・社会的関心の高い成分のうち、花王の生活者向け製品に不使用の成分に関する公開

・GFCにおいて、目標策定のための国際会議の結果を受けて開始された日本国内の政策対話について、工業会メンバーとして参画

・持続可能な開発のための経済人会議(WBCSD)、欧州化学産業評議会(Cefic)への参画と貢献

 

 

 

② 戦略

花王は、2030年までに達成したい姿である「グローバルで存在価値ある企業『Kao』」の実現に向け、サステナビリティの視点を経営の根幹に据えています。それに向け、KLPに基づき、ESG 視点の「よきモノづくり」を推進することで、利益ある事業成長と同時に社会課題解決による持続可能な社会の実現をめざします。

 

KLPによる「K27」の強化

「K27」は、花王がグローバルでの存在価値を高め、持続可能な社会の実現と企業成長を実現するための中期経営計画です。KLPは、以下の5つの点で、「K27」の4つの戦略を多角的に強化し、利益ある成長と社会課題解決を実現します。

 

①グローバルに将来の生活者ニーズを的確に捉え、事業を強化

世界各地の多様な生活者のニーズや期待を的確に捉え、製品・サービスの競争力を高めることで、新たな市場や製品の付加価値を創出し、「グローバル・シャープトップ」事業の構築に貢献します。
 

 

②グローバル展開に必要な人財力を強化

グローバルの生活者ニーズに応じたマーケティングや製品開発、販売を展開できる人財開発を推進し、「グローバル・シャープトップ」な人財力を強化します。

 

③グローバルな視点で将来リスクと機会を的確に反映した投資を最適化

ESGに関するリスクを低減し、事業のレジリエンスを高め、機会を創出し、資本配分の最適化を図ることで、「資本効率/収益性の改善」を促進します。

 

④パートナーとの相互共感を高め、共創を強化

花王単独では解決できない社会課題解決にはパートナーとの連携が必要です。連携を様々な形に進化させ、「パートナーとの共創による事業構築」を進めます。

 

⑤バリューチェーンのリスク低減と機会創出を強化

ESGに関するリスクと機会は、事業が関わるバリューチェーン全体にわたって存在します。バリューチェーン全体でリスクを低減し、機会を創出することで、K27を横断的に強化し、事業全体の持続可能性を高めます。

 


KLPによる「K27」の強化

 

KLPによる事業成長の強化

上述のように、KLPは「K27」を強化しますが、そもそも以下の3つの点で事業成長に貢献すると考えています。

 

①高いロイヤリティを獲得する製品・サービスの提供

ESG視点を組み込み、独自性ある技術で開発された製品やサービスは、生活者や顧客からの高いロイヤリティを獲得し、競争優位性を高め、事業成長に貢献できます。

 

②新たな事業領域の創出による事業拡大

サステナビリティに関する生活者や社会の課題を起点に、新たな領域の製品価値を開拓し、幅広い事業展開を促進します。

 

③既存カテゴリーで新たな価値を創出し事業拡大

ESG視点で生活者や顧客のニーズを捉えなおすことで、既存の製品カテゴリーやサービスにも新たな価値を生み出し、新規市場領域を開拓し、事業の幅を広げます。

 

このようにKLPを基盤とした、ESG視点の「よきモノづくり」により、「K27」の達成と、持続的な事業の成長を強化していきます。

 

リスクと機会

KLPの策定にあたり、ビジネスモデルと社会課題を踏まえ、リスクと機会を特定しています。花王のビジネスモデルやバリューチェーンには以下の特徴があります。

 

花王のビジネスモデルの特徴とサステナビリティに関わる4つの領域

1. 世界中の生活者に向け、コンシューマープロダクツ事業製品を製造・販売

2. 世界中の幅広い産業の顧客に向け、ケミカル事業製品を製造・販売

3. コンシューマープロダクツ事業とケミカル事業に共通する鍵となる素材としてケミカルを使用

4. 原材料の製造から製品の販売までグローバル・バリューチェーンを形成しているため、上流には多数の原

  材料サプライヤー、下流には多数の流通・小売・ビジネスパートナー・顧客が存在

 

これらの特徴を踏まえ、花王が社会のサステナビリティに関わる領域を「暮らし」「社会」「環境」「事業基盤」の4つに整理しています。

 

暮らし:

生活者のニーズに応え、こころ豊かな暮らしの実現をめざす花王ならではの領域であり、ESG戦略の中核をなしています。

 

社会:

グローバルに展開するバリューチェーンやケミカル事業を通じて、多様な産業や社会との幅広い関わりを持つ領域です。

 

環境:

原材料の一部を自然資本に依存し、世界中の生活者に製品を提供し、使用・廃棄されていることから、大きな影響を及ぼしている領域です。

 

事業基盤:

上記3つの領域における取り組みを確実に推進するために、人財開発、人権の尊重・擁護、DE&I活動の推進、化学物質管理など、事業基盤の強化が不可欠です。

 

これらは花王の事業特性を踏まえたものであり、この戦略によって事業特性に基づく企業価値向上と事業成長につながることを示しています。これら戦略の実践を通じて、サステナビリティを基軸とした付加価値の高いサービスを提供し、従来の製品提供・販売を超えた持続可能で革新的なビジネスモデルへの転換にもつながります。例えば、一人ひとりの身体の状態や衣類の汚れ具合、農作物の病害虫発生状況といったデータを精密に収集・分析し、それらに基づいた付加価値サービスを提供することで、顧客体験の向上と新たな市場の創出を実現します。さらに、サステナビリティの観点からのアプローチは、バリューチェーンの高度化にも貢献しています。原材料調達リスクの適切な管理、代替原材料の活用促進、再生材の戦略的調達などを通じて、環境負荷の軽減と安定供給を実現可能にします。これらのリスクと機会の分析から導き出された戦略を具体化したものが、KLPです。

 

これらの4つの領域について、ESGに関するリスクと機会を特定し、それらに対応する戦略を策定しています。


 

 



 

KLP

KLPは、生活者を主役としたESGの具体的な活動の方向性と、将来への意欲的な意気込みを表したものです。花王のESG活動を通してサステナブルな社会を目指すビジョンと、2030年までの達成をめざす目標である「花王のコミットメント」、そして重点的に取り組む19のテーマ「花王のアクション」で構成されています。

 

サステナビリティへのビジョン

花王のサステナブルな社会に向けたビジョンは、「花王のESG活動が世界の人々のサステナブルな暮らし、さらにはその周りに広がる社会や地球のためにある」という考え方に基づいています。また、私たちのESG活動の基盤には「正道を歩む」があります。これは、創業者・長瀬富郎の言葉、「天祐は常に道を正して待つべし」を継承するものです。
 

花王のコミットメントと花王のアクション

KLPは、人々のこころ豊かな暮らしにつながる以下の3つの柱「快適な暮らしを自分らしく送るために」「思いやりのある選択を社会のために」「よりすこやかな地球のために」と、それらを支える基盤「正道を歩む」で構成されています。それぞれの柱において、2030年までに達成をめざす意欲的なコミットメントを掲げています。また、重点的に取り組む19のテーマ(花王のアクション)を設定しています。19テーマでそれぞれ中長期目標を設定することで、確実かつ実効性のある活動を推進しています。

 

KLPの実践により財務インパクトおよび、環境・社会へのポジティブなインパクトの創出が可能です。その仕組みを以下の図で示しています。花王は、製品やサービスを通じて生活者の暮らしを支えていますが、生活者から信頼を獲得することで、製品やサービスをご購入いただくことができ、利益ある事業成長につながります。KLPは、この好循環を形成することで、花王と生活者との長期的な関係を構築し、持続可能な事業成長を強化します。

また、KLPに基づき、環境負荷を抑制する活動や社会に対する負の影響を低減する活動により、花王のリスクを最小化できます。この環境・社会への貢献は、更には環境・社会に依存している生活者の花王に対するレピュテーションや信頼度を高め、事業成長につながります。これらの取り組みの基盤となるテーマは、 KLPを支える重要な構成要素として、事業活動全体を活性化する原動力となります。生活者を中心に据えた花王らしいKLPの推進によって、持続的な成長を遂げるとともに、生活者のこころ豊かな暮らしを実現します。

 


KLPの構造と、財務及び環境・社会へのインパクト

 

KLPの財務インパクト/環境・社会インパクト

KLPは、社会課題や生活者・社会のニーズに対応した製品・サービスの提供を通じて、生活者からの信頼(ロイヤリティ)を得て事業成長を実現すると同時に、環境負荷の低減や社会課題への対応によりリスクの最小化を図るものです。 KLPの推進は、花王の持続的な成長と、生活者のこころ豊かな暮らし、そして社会のサステナビリティを実現する好循環を生み出し、財務面と環境・社会の両方においてポジティブなインパクトを生み出すと考えています。

 

KLPがもたらす財務インパクト

KLPの推進は、①収益増加、②コスト削減、③リスクマネジメントの観点から、次のような財務インパクトを生み出すと考えています。

 

①収益増加

● 環境配慮型製品・社会課題へのソリューションによる新市場開拓と高付加価値化

● ブランド価値向上による売上増加

● 社会のサステナビリティを軸とした新規ビジネス機会の創出

● 独自の環境技術による競争優位性の確立

 

②コスト削減

● 環境規制対応力の向上による規制に関わる税金などの対応コスト削減

● ESG評価向上による資金調達コストの低減/資金調達の優位性向上

● エネルギー効率化および、資源循環・省資源化によるコスト削減

 

③リスクマネジメント

● 環境規制対応コストの最小化

● レピュテーションリスクの低減/サプライチェーンリスクの低減

● 安定的な原材料調達の確保

 

具体的な財務効果(事例)

KLPに基づく取り組みの推進により、ステークホルダーにとっても価値のある財務インパクトを創出し、長期的な利益還元につながっています。

 

事例① サプライチェーンにおける投資

取り組み:RSPO認証油の継続購入と小規模農園支援

効果:パーム油調達リスクとレピュテーションリスクの回避と安定調達

 

事例② 事業機会創出のための投資

取り組み:「GUARD OUR FUTURE」プロジェクトの推進

効果:事業展開国の拡大/ブランド価値向上

 

事例③ コーポレートコミュニケーションへの投資

取り組み:「もったいないを、ほっとけない。」を起点としたコミュニケーション

効果:投資額以上の購買促進効果を実現/コーポレートブランド価値向上

 

事例④ 環境保全投資

取り組み:工場周辺地域の公害防止施策/工場周辺の生物多様性保全

効果:安定操業による事業継続の実現

 

事例⑤ サステナビリティ関連の資金調達

取り組み:サステナビリティ・リンク・ボンド(250億円)、サステナビリティ・リンク・ローン(200億円)、ポジティブ・インパクト・ファイナンス(250億円)、DBJ健康経営格付融資(100億円)

効果:環境関連目標の達成に応じて金利条件の変動等

 

KLPがもたらす環境・社会インパクト

KLPは前述のような財務インパクトをもたらすと同時に、環境や社会に対してもさまざまな面でポジティブなインパクトを生み出すと考えています。

 

バリューチェーンへの貢献

以下の表は、「花王のESGコミットメントと花王のアクション」で定めた19の重点取り組みテーマとバリューチェーンの関わりにおいて、特に環境や社会への影響が大きく、かつ花王への期待が大きいもの、花王の事業成長や企業価値向上において重要度が高いものを示したものです。花王は原材料の調達から開発、使用、廃棄・リサイクルに至るまで、広範なバリューチェーンを有しています。このため、花王がKLPを実践することは、サプライヤー、パートナー、生活者、さらには地域社会や環境に大きなインパクトを生み出すことが可能です。同時に、環境・社会への配慮を反映した革新的な製品・サービスの開発・提供により、製品ライフサイクル全体を通じて環境・社会に貢献します。

 

社会への貢献

花王の革新的な製品やサービスが、社会のサステナビリティの実現に貢献しています。例えば、衛生環境や感染症の問題が深刻な地域では、衛生用品などを提供することで、人々が安心して健康的な生活を送れるよう支援しています。また、高齢者や障がい者を含めたすべての方に使いやすい製品・サービスを展開し、生活者の快適な暮らしを支えています。


 

さらに、エネルギー効率や資源活用を最適化する製品などを通じて、さまざまな産業や社会インフラの持続可能性を後押ししています。これにより、環境負荷の軽減とともに、顧客企業のサステナビリティ目標達成にも貢献を支援しています。

また、工場が立地する地域においては、水保全や大気汚染防止、水質汚染防止など環境保全に注力し、地域コミュニティへの貢献を果たします。

 

 

SDGsへの貢献

2030年に向け、持続可能な社会を実現するための指標として国際社会で合意された「持続可能な開発目標(SDGs)」は、経済、社会、環境の統合的向上を打ち出しており、企業の貢献が非常に重要であると考えられています。KLPは、下表が示す通り、SDGsが目指す目標と深く結びついており、製品や事業活動を通じて具体的かつ実践的に貢献しています。環境問題の解決から健康促進、ジェンダー平等の実現に至るまで、花王の取り組みはSDGs達成の重要な一翼を担っています。これにより、企業としての責任を果たすだけでなく、社会全体の持続可能な発展にも寄与しています。

 


 

③ リスク管理

花王は、柔軟で強靭なESGガバナンスのもと、リスクの低減と事業機会の創出を確実にするため、リスク管理及び機会管理を強化しています。

リスク管理においては、リスクの重要性をリスク・危機管理委員会で定期的にモニタリングし、経営への影響が特に大きく、対応の強化が必要なリスクは「コーポレートリスク」として、経営会議でリスクテーマとリスクオーナーを選定し、リスク・危機管理委員会で進捗管理をしています。部門やグループ会社で管理可能なリスクは、各組織が中心となり、対応しています。

機会管理においては、花王グループ全体でESGに関連する重点テーマを統合的に管理し、優先順位の設定により、ESG投資を促進するしくみを構築し、戦略的な事業機会の創出につなげています。

 

④ 指標と目標

花王は、野心的な指標と目標を設定することで、KLPの方向性を明確にし、的確な進捗管理をすることで、KLPを着実に実行しています。花王のKLPの19のアクションごとに指標と目標を設定しています。上記ESGガバナンスにおいて各指標の進捗状況がモニタリングされ、結果に基づき取り組みに反映しています。

 

KLPの19の重点取り組みテーマの中長期目標


◆指標や目標値の変更

 

詳細については2025年5月に発行予定の「花王サステナビリティレポート 2025」を参照ください。

https://www.kao.com/jp/sustainability/pdf/sustainability-report/

 

 

(2)気候変動への対応(TCFD提言への取組)

気候変動は、現在並びに将来世代が豊かな生活文化Kirei Lifestyleを実現することに対する大きなリスクとなっています。「花王ウェイ」において「豊かな共生世界の実現」を使命として掲げる当社グループでは、地球温暖化の緩和と適応の両面から積極的に活動を推進しています。当社グループはTCFDに賛同し、気候変動に関する情報開示を積極的に実施し、投資家との対話を行っています。パリ協定が示す「平均気温上昇を1.5℃に抑えた世界」を実現することが将来の生活者のKirei Lifestyle実現に必要だと認識し、KLPの重点取り組みテーマの一つとして「脱炭素」を掲げ活動を進めています。

※TCFD:気候関連財務情報開示タスクフォース

 

① ガバナンス

気候変動に関するガバナンスは、ESG戦略のガバナンスに組み込まれています。詳細については「(1)ESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」 ①ガバナンス」を参照ください。

 

② 戦略

気候変動により平均気温が4℃上昇することは、社会に非常に大きな影響を及ぼすことから、世界全体が気温上昇を1.5℃に抑えることを目指していることに意味ある貢献をすることが、重要であると認識しています。

花王は1.5℃、4℃シナリオで財務影響評価を実施しています。財務影響は価格転嫁など何も対応しなかった場合の損失金額として算出しています。2050年における移行リスクとして、パーム油価格の上昇による~791億円、炭素税による~254億円、包装容器プラスチック~79億円規模の財務影響が何も対応しなかった場合に発生する可能性を予測しています。パーム油の調達リスクは両シナリオにおいて、需要に対し供給がひっ迫することでコストが上昇すると見込んでいます。このリスクに対し、花王ではバイオIOSといった高機能剤原料開発や代替原材料の開発を進めています。 またこれらのイノベーションによる差別化は、他社に先んじて戦略的に取り組むことで、リスク低減だけにとどまらず、新たなビジネス機会にもつながります。

物理リスクについては、洪水などにより約4~46億円の財務影響の可能性を見込んでいます。緩和に貢献する機会として、コンシューマープロダクツ事業では節水・節電製品やプラごみ削減製品、ケミカル事業では顧客の気候変動リスク低減に資する製品の需要が高まると予想されます。適応の機会として、地球温暖化に対応するUVケアやセルフタンニングなどのスキンプロテクション事業や消毒、洗浄、忌避剤といった感染症リスクを軽減できる製品の需要が高まると予想されます。「花王サステナブル商品開発方針」に沿った商品開発を進めていくことでリスクを軽減し、ビジネス機会を創出します。

 

 

(主な事業リスクと機会)

 

評価項目

評価した
財務影響

2050年における
財務影響
(単位:億円)

※価格転嫁など何も対応しなかった場合の損失金額

花王の対応状況

1.5℃
シナリオ

4℃
シナリオ

リスク

移行

政策・法規制

炭素税の導入・引上げ

炭素税導入・引上げによる操業コスト上昇

-254

-93

・2030年 Scope1+2排出量削減目標を設定し、計画的に設備投資を推進

プラスチック規制の導入

化石由来容器包装原料に対する課税

-79

-

・リデュースイノベーション:革新的な包装容器によるプラスチック使用量削減

・製品廃棄物の削減:eコマース強化、AI予測活用による在庫精緻化

再生プラスチック使用義務化によるコスト増

-46

-

・リサイクルイノベーション:品質/コストを両立する、水平リサイクル技術の開発、ステークホルダーとのリサイクルシステムの構築

市場

エネルギー価格の上昇

電力小売価格の変動

-11

-11

・再エネ調達:コーポレートPPA採用による固定価格での長期安定確保など

・太陽光発電設備の導入推進

原材料価格の上昇

化石由来原材料
価格の上昇

-1)

-1)

・製品設計の深化による化石由来原材料削減の検討を継続

パーム油の
調達価格の上昇2)

-791

-761

・限りある資源であるパーム油の最大活用:高機能剤原料開発(バイオIOS)

・代替原材料(藻類由来油脂、未利用バイオマス、CO2等)の利用研究開発促進

物理

急性

異常気象の激甚化

洪水被害額の増加

-4

-46

・BCPを考慮した生産体制の構築

・サプライヤー向けリスク調査の実施

機会

製品・

サービス

<緩和>

・コンシューマープロダクツ事業:エシカル製品(節水・節電・プラごみ削減・第3者認証ラベル品等)事業伸張

・ケミカル事業:顧客の気候変動リスク低減に資する製品の開発・販売

・共通:CCUS(CO2利活用)技術を活用した製品の普及

 

・「花王サステナブル商品開発方針」に沿った商品開発推進

<適応>

・気温が高くても清潔・快適な暮らしに貢献する製品の伸長(洗浄、抗菌、制汗剤、忌避剤 など)

・強い日差しから肌を守る製品の伸長(スキンプロテクション事業)

 スキンプロテクション事業(UVケア、セルフタンニング、忌避剤等)の2030年売上目標 1,000億円

・「サステナブルケミカル製品」の販売推進

 

1)調査時点で、地政学リスクの高まりにより既に原材料価格が高騰・高止まりしており、財務影響として現れなかった

2)過去のパーム油/核油の価格推移を参考に、重回帰分析の手法を導入して将来価格を推計

 

③ リスク管理

気候変動に関する主なリスクは、ESG戦略のリスクに含めて管理しています。詳細については「(1)ESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」 ③リスク管理」を参照ください。

 

 

④ 指標と目標

2021年、当社グループは「2040年カーボンゼロ、2050年カーボンネガティブを目指す」という方針のもと、2030年目標を設定・更新しました。

・スコープ1+2 CO2排出量(絶対量)削減率

-55%(対2017年)※1

・使用電力における再生可能電力の比率

100%※2

・ライフサイクルCO2排出量(絶対量)削減率

-22%(対2017年)

・削減貢献量※3、※4

10,000千トン-CO2

 

※1 1.5℃水準に沿った目標として、SBTイニシアティブ(企業が気候変動分野において野心的な活動を促進するために設立されたイニシアティブ)の認定を取得

※2 RE100(企業が自らの事業で使用する電力を再生可能エネルギー100%化することを目指す国際的イニシアティブ)に加盟

※3 気候変動枠組条約第17回締約国会議(COP17)及び京都議定書第7回締約国会合(CMP7)で合意された7種の温室効果ガス

※4 当社グループの製品によって社会全体で削減された排出量

 

当社グループのCO2排出量推移は以下のとおりです。2024年は生産拠点のあるフィリピン、タイ、ベトナム、インドネシア、マレーシア、アメリカ、メキシコの工場における再生可能エネルギー電力の調達推進といった取り組みに加え、川崎、マレーシアの工場において自家発電設備も含めた使用電力量全体における再生可能エネルギー比率を向上させる取り組みを進めたこと等により2017年比削減率42%を達成しました。引き続き、低炭素設備の導入や再生可能エネルギーの活用に取り組んでまいります。

 

スコープ1 CO2排出量の推移

千トン-CO2e

 

スコープ2 CO2排出量の推移

千トン-CO2e

 

2017

2020

2021

2022

2023

2024

 

 

2017

2020

2021

2022

2023

2024

合計

653

616

605

595

539

503

 

合計

404

282

240

183

149

112

日本

271

242

244

240

223

206

 

日本

173

68

19

3

0

0

アジア

290

278

264

256

237

221

 

アジア

208

208

213

173

143

109

米州

43

45

45

51

46

41

 

米州

14

6

8

7

5

2

欧州

49

51

50

48

34

35

 

欧州

8

1

1

1

0

1

削減率

0%

-6%

-7%

-9%

-17%

-23%

 

削減率

0%

-30%

-41%

-55%

-63%

-72%

 

 


詳細については2025年5月に発行予定の「花王サステナビリティレポート 2025」を参照ください。

https://www.kao.com/jp/sustainability/pdf/sustainability-report/

 

(3)人的資本

当社の最大の強みであり資産でもある「人財」の活力最大化は、中期経営計画「K27」達成に向けた「グローバル・シャープトップ」戦略を支える重要テーマです。多様な人財に公平な機会を提供し、すべての社員の能力を最大限に引き出すとともに、その活力を組織として最大限に活かすことで、個人と企業が共に成長する環境と風土をつくります。

 

① ガバナンス

人財戦略に関しては、取締役会における経営視点での方針の議論を経て、経営トップを委員とする「人財企画委員会」にて具体的な課題や施策(重要な組織の新設・改編、主要ポジションの任免、人員・人件費に関する計画や重要な人事施策の新設・改廃等)に関する検討と決裁、進捗状況の共有を行っています。

また活動を当社グループ全体で推進するために、グローバル共通の仕組みを導入し、活用しています。たとえば、グローバル人財情報システムによる人財情報の活用、グローバル共通のOKR・等級制度・評価制度・教育体系・報酬ポリシーによる人財マネジメント・育成の強化等です。

これらの活動は、人財戦略部門統括を責任者とし、当社グループ各社の人財開発関連部門と連携をとりながら進めています。

また、日本においては主要部門に人事機能を設置するとともに、現場の社員一人ひとりの育成とキャリア開発を担当するキャリア・コーディネーターを配置しています。

主要部門及び国内子会社の人財開発責任者による会議を定期的に開催し、当社グループ全体の人財開発の方針、国内子会社の活動状況等について共有・議論しています。

 

人財開発の推進体制


 

 

② 戦略

当社グループの継続的な成長を支える、「社員活力の最大化」に向けては、当社の精神と事業目標に沿った人事制度を整え、諸施策を効果・効率的に展開していくことが大切です。花王ウェイおよび花王ビジネスコンダクトガイドラインに基づき、それらの前提となる考え方を示したものとして人財開発基本方針を定めています。

 

[人財開発基本方針]

・効果・効率性の追求

花王グループが“よきモノづくり”を行い永続的に発展するために、組織的な創造革新の活動によって、全体としての効果・効率性が常に向上することを目指します。

・人間性の尊重

創造革新の源泉は、限りなく叡智を発揮したいという全社員の熱意にある、という考え方に基づき、個々の人間としての尊厳が尊重され、自主性と多様性が活かされる環境をつくります。

・統合への努力

社員一人ひとりが現場で思う存分叡智を発揮することが、花王グループの発展につながるよう、諸施策の改善に努め、創造革新の活動を通じて組織と個人の統合を図ります。

 

その上で、「平等から公平へ」、「相対から絶対へ」、「画一・形式から多様・自律へ」という基本方針の実現に向けた活動指針を掲げ、人財開発活動を進めています

 

この指針に基づき「未来のいのちを守る」というK27のビジョン実現に向けて、「グローバル・シャープトップ」戦略のもと「よきモノづくり」をさらに進化させ、投資して強くなる事業への変革を図るとともに、持続可能な社会に欠かせない企業になるために、その原動力となる人的資本に関しては、対話を軸として、より前を向くアグレッシブな人財への投資を進めています。具体的には「意欲ある人財をとがらせる」「脱マトリックス型組織運営」「挑戦・成果重視の環境創り」とその基盤となる「公平な機会の提供」を人財戦略として定め、それに基づく重点アクションを実行することで、人財、組織をK27実現に必要なケイパビリティを獲得した「グローバル・シャープトップな人財/組織」へと進化させ、社員活力を最大化し、能率的に社会インパクト・財務インパクトを創出します

 

企業価値向上に向けた価値創造サイクル


 

 

K27に向けた人財戦略


 

人財開発活動によるアウトカムの創出


 

それぞれの施策は都度効果を確認すると共に、社員エンゲージメントサーベイを定期的に実施することで社員意識の確認を行っています。当社グループでは、「社員活力の最大化」を実現するために、「社員および組織の状態を見える化する」こと、「そこから組織運営上の課題を発掘し、効果的な職場改善アクションを策定する」こと、そして「各職場で改善アクションを実施し、それを社員が実感することでエンゲージメントを向上していく」こと、をねらいとして、2023年から「社員エンゲージメントサーベイ(通称:KES)」を実施しています。2024年は、全ての海外子会社を含めたグローバル規模でサーベイを実施した上で、課題の確認と要因分析を全社および各組織レベルで行い、取り得るアクションプランをスピーディーに実践しました。今後も引き続き、各現場単位での結果確認・検証とそれに対応した改善への取り組みを積み重ねることで、長期目標達成につながる働きやすい仕事環境の実現をめざします。

 

a.意欲ある人財をとがらせる:先端教育

花王ウェイをベースとした多様性の理解・連携・協働によって当社グループのポテンシャルを最大限に発揮するアグレッシブな人財の育成を強化しています。社員一人ひとりが自分の強みを磨き、チームとしても強くなっていくことをめざすために、「変革力、専門力、多様性受容力、共創力、正道を歩む力」を磨く各種学習プログラムを整備しています。学習プログラムには、グループ全体の共通学習、各部門単位の専門学習、9,000を超える自己啓発プログラムがあり、自ら学び、お互い学び合い、学び続けることを支援しています。

 

b.意欲ある人財をとがらせる:最適配置

経営戦略と連動した戦略的人財配置に向けた取り組みを行っています。グローバルで成長分野と効率化分野を意識し、スピーディな人員配置を行うことでビジネスの伸長、イノベーションを促進しています。当社及び国内子会社では、従来から能力・キャリア開発支援とキャリア・コーディネーター制度をベースに、本人のキャリア志向もふまえ、計画的に社員のローテーションを実施しています。これに加え2024年からは、「グローバル・シャープトップ」実現に向けた新規事業やプロジェクトのメンバーを、広く募る社内公募制を当社および国内子会社全社に拡大し、挑戦意欲を持ち変革を牽引する人財を該当組織やプロジェクトにタイムリーに結集させています。これにより、経営戦略実現のために必要な組織体制を強化するとともに、挑戦意欲のある社員が自らキャリアを形成できる機会を拡大し、自律的なキャリア開発に向けての組織風土を整えていきます

 

c.脱マトリックス型組織運営:権限委譲

事業部門と機能部門の専門性を活かしたマトリックス体制を深化させて、優先される課題に関する対応の最速・最大化をめざした「スクラム型運営」をグローバルに進めています。これらを通して決断実行の現場化を進めています。

 

d.脱マトリックス型組織運営:次世代リーダーの持続的育成

「グローバル・シャープトップ」な人財・組織の実現にむけて、ビジネスリーダーを計画的に育成しています。シニアマネジメント、スペシャリスト等、重要ポジションの将来後任候補となる基幹人財には早期抜擢を含めて計画的な配置任用、課題付与を行っています。また、マネジメント層を対象に、自らのリーダーシップ・マネジメントの強みや弱みを把握するための360度診断を実施しています。診断後には、自らの行動を振り返るための集合研修の場を提供すると同時に、大志・挑戦・共創に関わる選択学習プログラムを用意し、自律的な学習を促しています

 

e.挑戦・成果重視の環境創り:透明性のある評価

評価につながるOKR(Objectives and Key Results)目標は、中長期の時間軸も加味し、所属する組織の方向性も踏まえた上で設定します。その上で日々の進捗は上長との定期的な対話によって確認します。年度末にはOKRの進捗に加え、基本的に1年間の貢献やプロセスも含めて、多様な挑戦を評価します。また、社員のさまざまな挑戦について、各職場で共有し認め合う活動(チャレンジ共有会など)を実施することで、チャレンジを推奨する風土を実現しています。年度末の評価は、部門特性・業務実態に応じて「難易度」「創造性」「共創と連携」「効率性」「自律性」等の視点を明確化した上で、個別絶対的な視点で行っています。これにより、フィードバックの対話を行う際のポイントが明確になり、評価の納得性と透明性の向上に寄与しています。

 

f.挑戦・成果重視の環境創り:承認・処遇

多様な挑戦を認めることで、社員一人一人の成長を支援し、最大値を引き出すことを目指しています。当社グループでは、各ポジションの役割責任を明確にし、年次ではなく社員一人ひとりの能力や適性に応じて配置・任用し、その役割の大きさに応じた挑戦と成果を適正に評価したうえで処遇しています。

また当社グループでは、社員の能力開発・業績改善の意欲を育成・刺激し、その取り組みや成果を公正に評価して称えること、そして、社員全員に広く周知し、モデル・目標としてもらうことが重要と考えています。そのため、毎年のグループ事業機能活動から「チャレンジ」「創造性」「貢献度」「部門・職種として重要な視点」といった観点で顕著な成果をあげた団体または個人の取り組みを選定し、「部門賞」として表彰しています。そしてそれらの部門賞から、「グローバル・シャープトップ」戦略の推進および「ビジネスにおける特に顕著な貢献」をした活動を厳選し、「CEOアワード(社長賞)」として翌年1月に褒賞するとともに、グループ全体にその活動・貢献を公表しています。こうした活動を通じて、グローバルで更なる挑戦と脱マトリックス型組織運営への意識と風土を醸成しています

 

g.公平な機会の提供:対話の徹底

社員活力の最大化に向けた人財戦略として様々な活動を進める中で、その実践のベースとなるのが「対話の徹底」です。会社の戦略や方向性の理解、そして社員一人ひとりの日々の活動が企業価値の向上にどのように結びついているのか、ということを、上長や同僚、他部門と頻繁に対話しながら理解を深めることが大切で、その現場での促進に向けて、当社及び国内子会社では毎年「対話フェス」を行っています

 

h.公平な機会の提供:OKR活用

2021年から当社グループ全体に導入しているOKRも実践4年を経て、その理解と活用は進んできています。2024年に実施したレビューにおいても個人と組織の成長に繋がる目標設定と活動実践を行っている社員が7割を超えており、挑戦する風土醸成は着実に進捗しています。また、2025年からは各部門において重要な経営指標であるROICの視点を踏まえて個人OKRを見直し、像合わせする活動を進めています。具体的には各部門の活動がROIC向上にどのように結びついているかを示した「ROIC逆ツリー」を作成し、それを活用しながら上長との対話を通じて個人目標を組織貢献に結び付けることを行っていきます

 

i.公平な機会の提供:DE&I

すべてのステークホルダーと協働し、誰もがありのままの姿で最大限の力を発揮できる、いきいきとした社会をめざすというDE&I方針のもと、社員に向けては「社員一人ひとりが互いを受けとめ共生する、多様性が強みとなっている花王グループの実現」をめざした取り組みを進めています。組織の認知的多様性*を高めること、認知的多様性を組織の強みにすることをめざし、ダイバーシティ&エクイティ推進活動として、多様な人財一人ひとりが働きやすい環境の中で公平に機会を得るための支援と職場環境整備を、またインクルージョン推進活動として、社員全員がDE&Iへの理解を深め、実践できるようにするとともに、一人ひとりが自分らしく力を発揮できるインクルーシブな組織風土醸成に取組みます。

*認知的多様性:ものの見方や判断の仕方など認知に関する内面的な多様性

 

DE&I方針の詳細については、以下をご参照ください。

https://www.kao.com/jp/sustainability/walking-the-right-path/inclusive-diverse/dei/

 

〇 体制

人権・DE&Iステアリングコミッティが当社グループ全体でのDE&I推進活動を推進しています。その中で社員に向けては、当社の人財戦略部門が各種人事施策においてDE&I視点を盛り込むと共に、専任組織であるDE&I推進部が当社および国内子会社全体のDE&I推進活動を計画・実行しています。海外子会社については、現地のDE&I推進責任者が当社のDE&I推進部と連携しながら、それぞれの課題に合わせ各地域で活動を推進しています。

 

〇 DE&I推進活動

<多様性を活かせる環境整備>

社員の多様性が進む中、働きやすい柔軟な職場環境の整備を進めています。そのひとつが在宅勤務制度ですが、現時点では社員間の対話と共創による創造性の発揮をより進めるために、画一的なルールではなく、職務や役割に応じて、それぞれに最適な働き方を推進しています。併せて、在宅勤務における就労実態も可視化できるアプリケーション、SWS(Smart Work Support)を導入し、活用することで社員の安全性も担保しながら社員が安心しかつ能率的に働ける環境を整備しています

 

<女性活躍推進>

最も多くの人財に関わり、当社グループの成長に不可欠なダイバーシティ要素として、国内を中心に女性活躍推進活動を進めています。意思決定層における女性比率の向上をめざし、そのパイプラインを増やす取り組みとして、2030年までに女性社員比率に対する女性管理職比率を100%にするという目標をかかげ、3つの重点アクションに取り組んでいます。

 

[トップマネジメントの女性の状況]

 

2021年

2022年

2023年

2024年

男性

(人)

女性

(人)

女性
比率

(%)

男性

(人)

女性

(人)

女性
比率(%)

男性

(人)

女性

(人)

女性
比率(%)

男性

(人)

女性

(人)

女性
比率(%)

取締役 ※1

7 (3)

1 (1)

12.5

7 (2)

2 (2)

22.2

8 (3)

2 (2)

20.0

7 (3)

1 (1)

12.5

監査役 ※1

4 (3)

1 (0)

20.0

4 (3)

1 (0)

20.0

5 (3)

0 (0)

4 (2)

1 (1)

20.0

執行役員
 ※2

26

2

7.1

27

3

10.0

26

4

13.3

27

4

12.9

 

※ 各年4月1日時点

※1 ()の数字は、全体人数のうち社外取締役、社外監査役の人数

※2 取締役兼務も含む

 

 

[女性の状況]

 

2022年

2023年

2024年

従業員
(%)

管理職
(%)

女性社員比率に対する女性管理職比率※1
(%)

従業員
(%)

管理職
(%)

女性社員比率に対する女性管理職比率※1
(%)

従業員
(%)

管理職
(%)

女性社員比率に対する女性管理職比率※1
(%)

当社グループ

52.9

30.5

75.9

53.1

31.1

76.2

53.2

32.6

78.1

当社及び国内子会社

55.9

22.4

65.9

56.0

24.6

67.3

56.5

26.5

69.7

アジア

44.6

47.6

104.2

44.2

45.9

102.8

44.2

46.0

103.7

欧州

49.9

40.8

82.6

52.4

44.8

86.2

52.5

45.0

83.6

米州

51.2

53.3

95.5

53.0

48.6

94.2

48.6

46.7

97.2

 

※  各年12月31日時点

※  従業員は正規雇用の従業員及びフルタイムの無期化した非正規雇用の従業員を含む

※1 各社の管理職ポジション数に基づく加重平均

 


 

その中で「リーダーをめざす、担える人財の育成」に関しては、性別に寄らない選抜研修派遣に加え、2016年以降、管理職手前から経営層候補までの各階層に属する女性人財を対象に社外女性リーダー研修へ計62名を派遣、31名がより上位のポジションに登用されています。併せて、女性自身の意識改革に取組んでおり、元女性役員と課長職候補者との少人数キャリア座談会を2021年より継続実施しています。キャリアアップに対する前向きな意識変容と部門を超え共感し合える仲間づくりを目的に、悩みや課題を共有し、解決の糸口を探る対話を行う場として、2024年はリアルおよびオンラインで計8回開催、27名が参加しました。2024年はさらに、志を共有する異業種の企業と共に、自主的に企画・運営している勉強会において、当社部長クラスの女性リーダーをロールモデルとして提示するキャリアパネルディスカッションをオンラインで開催しました。ここでは、当社を含む各企業から200名を超える女性社員が参加し、キャリアとリーダーシップに対する前向きな意識の変化をもたらしました

これらの取り組みの結果、女性管理職比率は年々向上しており、2024年末時点で当社及び国内子会社の女性社員比率に対する女性管理職比率は69.7%となっています

当社および国内子会社の管理職ポジション数に基づく加重平均により算出

 

女性活躍の一つの指標である男女の賃金格差は当社グループで89.5%となっています。当社グループでは、同じ役割であれば男女で賃金の差は設けていないため、この差は、主に日本において給与が高くなる傾向にある勤続年数の長い社員における男性比率が高いこと、また、給与の高い職群における男性比率が高いことによるものと考えています。そのため、女性の定着をさらに向上するとともに、管理職や上級管理職、役員の女性比率を女性社員比率に対して適正に上げる取組みを実行していきます

 

<インクルーシブな組織風土の醸成>

対話を中心とした組織風土づくりに向け、心理的安全性とアンコンシャスバイアスを啓発の重点テーマとしています。2024年は、当社及び国内子会社において、e-ラーニング「アンコンシャスバイアスの基礎知識」を管理職へ、「心理的安全性の基礎知識」を非管理職への必修プログラムとして展開しました

これらの取り組みの結果、社員エンゲージメントサーベイにおける「インクルーシブな組織風土」に関するスコアは63となっています。2027年にスコア70を目標として引き続き活動を展開します

 

j.公平な機会の提供:健康開発

社員の心と身体の健康は、事業活動の源泉であり、人財の成長と組織力の最大化につながる重要な要素です。健康経営®を推進し、社員とその家族が健康支援を公平に受けられる機会を提供するとともに、健康基礎情報の解析とヘルスケア知見から生まれた商品やヘルスケアソリューションを自社の健康開発に取り入れ、社員と家族が参画する実践型の活動を進めています。自社の取り組みのうち優れた事例や知見については、地域・他の職域・生活者に積極的に展開し、すこやかで心豊かな生活の実現を支援しています。

「花王グループ健康宣言」を行い、企業として健康経営®に取り組むことを社内外に公表するとともに、健康中期計画「KAO健康2025」を設定し、その取り組みを推進しています。

※ 「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

 

[花王グループ健康宣言]

私たちは、日々いきいきと
健康づくりに取り組むとともに
社内外のエビデンスに基づいた確かなヘルスケアを
社員・家族だけでなく
地域・職域・生活者のみなさまへ展開し
すこやかでこころ豊かな暮らしをともに実現していきます。

 

〇 健康中期計画 KAO健康2025

KAO健康2025では、一人ひとりのより良い状態の実現を通じて、ヘルスケア意識の高い社員と家族が、活気ある職場、社会づくりを推進していくことを目指します。そこでは、主な6つの取り組み(生活習慣病・がん・禁煙・メンタルヘルス・女性・シニア)に加え、治療と就業の両立支援や有害業務者管理とリスクアセスメントにも取り組んでいます。また社員だけでなく家族や友人もともに参画できる健康づくりを提案しています

 

 

〇 健康経営戦略MAP

社員活力最大化と医療費削減実現のため戦略MAPを策定しています


 

 

〇 組織体制

花王健康保険組合と健康開発推進部は連携し、健康施策の立案を行っています。また、事業場・地区に「健康実務責任者」及び「健康実務担当者」を配置し、産業医・看護職とともに担当エリアの健康施策に取り組んでいます。海外子会社へは日本の推進状況を情報共有したうえで、各国・地域の方針に沿った健康施策を推進しています。また、当社グループ内で取り組んだ優良事例を地域へも展開するためGENKIプロジェクトを設置し、社外向けの健康ソリューションの提供を行っています

 

[組織体制]


 

③ リスク管理

人財開発に関するリスクについては短期的な視点だけではなく、中長期における優秀人財の維持・獲得の観点からも確認し、必要な対策を講じています。各種法改正や社会動向の変化も踏まえ、人財に関する統計データにより傾向を把握することに加え、社員懇談会やエンゲージメントサーベイ等によって得られた社員の声、社外有識者の意見等も確認した上で、人財戦略部門で総合的に検討しています。把握したリスクについては、内部統制委員会による確認と共に、人財戦略部門責任者と各部門・各社の人財開発責任者が参加する「人財開発会議」にて対応すべき課題を特定し、その対応策を議論すると共に、全社的に影響の大きい施策については、経営トップを委員とする「人財企画委員会」にて議論し実行に移しています。

 

④ 指標と目標

Ⅰ.人財戦略に基づく重点アクション

2022年

2023年

2024年

目標値

2027年

社員教育投資(2020年比)

1.3倍

1.53倍

2.02

2.5

DX人財(2020年比)

1.5倍※2

7倍※2

10※2

15※2

社内公募による異動者実績(2020年比)

-

4倍※2

16※2

20※2

全採用数におけるキャリア採用比率(2020年比)

0.9倍

1.8倍※2

1.9※2

3※2

KESスコア:公正な評価

-

60※1

61

70

KESスコア:対話

-

63※1

64

70

KESスコア:働き方満足度

-

60※1

63

65

女性社員比率に対する女性管理職比率※4

75.9%

76.2%

78.1%

90%

KESスコア:社員活力度

-

59※1

61

70

 

 

 

Ⅱ.めざす人財・組織像

∼グローバル・シャープトップな人財/組織∼

Ⅲ.社員活力の最大化

2022年

2023年

2024年

目標値

2027年

2022年

2023年

2024年

目標値

2027年

挑戦志向型人財

社員エンゲージメント(KES総合スコア)

25%※2※3

58%※2※3

71%※2※3

75%※2※3※5

-

63※1

65

75

KESスコア:挑戦を推奨する組織風土

KESスコア:職場満足度

-

61※1

63

70

-

61※1

62

70

KESスコア:スクラム型運営推進度

 

 

 

 

-

57※1

58

70

 

 

 

 

KESスコア:インクルーシブな組織風土

 

 

 

 

-

62※1

63

70

 

 

 

 

 

 

 

Ⅳ.社会インパクト・財務インパクトの創出

2022年

2023年

2024年

目標値

2027年

インパクト創出の能率化(2022年比)

100%

92%

120%

150%

 

インパクト創出の能率化 = 付加価値 /総労働時間

 

※ 特に記載がない限り、当社グループで集計

※ 従業員は正規雇用の従業員及びフルタイムの無期化した非正規雇用の従業員を含む

※ KESは社員エンゲージメントサーベイを示しております

※1 回答者数は当社グループの一部非正規雇用の従業員を含む 27,460人

※2 日本の連結対象会社のみ

※3 社員意識調査

※4 各社の管理職ポジション数に基づく加重平均

※5 目標値を60%から75%に更新しました

 

3 【事業等のリスク】

文中の将来に関する事項は、当社グループが当連結会計年度末において合理的であると判断する一定の前提に基づいており、実際の結果とは様々な要因により大きく異なる可能性があります。

 

(1)リスクと危機の管理体制

花王グループ中期経営計画「K27」では、基本方針として、1.持続可能な社会に欠かせない企業になる、2.投資して強くなる事業への変革、3.社員活力の最大化を掲げて取り組んでいます。詳細については「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」を参照ください。

気候変動をはじめとする環境問題や人権問題、高齢化社会の進行等の社会課題はますます深刻化するとともに、政治的・社会的情勢の不安定化に端を発する地政学リスクの継続等、事業環境は不透明な状況が続いています。また、事業がグローバルに拡大し、様々な分野で構造的変化が進む中、事業を取り巻くリスクの変化に迅速かつ適切に対応する必要があります。このような事業環境に対して、当社グループは、次のようなリスクと危機の管理を進めています。

リスクとは経営目標の達成や事業活動の遂行に対し、不確かさがもたらす影響のことです。内部統制委員会の下の関連委員会の一つであるリスク・危機管理委員会が、「リスク及び危機管理に関する基本方針」に基づいて、脅威をもたらす「リスク」並びにリスクが顕在化した状態である「危機」の管理体制と活動方針を定めています。そして、部門、子会社、関連会社は、この活動方針に基づいて、リスクを把握、評価し、対応策を策定、実行することでリスクを管理しています。また、危機発生時には、緊急事態のレベルに応じた対策組織を立ち上げ、迅速かつ適切に対応することで、被害、損害の最小化を図ります。リスクと危機の管理活動は、経営会議で定期的(年1回)及び適時確認し、取締役会が承認しています。内部統制委員会はリスクと危機の管理状況をモニタリングし、管理の有効性を確認しています。詳細については「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等」を参照ください。

持続的な利益ある成長と社会のサステナビリティへの貢献に悪影響を与えるリスクとして、特に重要な14の主要リスクを、リスク・危機管理委員会、経営会議の審議の下で選定しています。また、少なくとも半期に一度、その時の事業環境の変化を踏まえた主要リスクの見直し(追加等の検討)を行っています。そして、これら主要リスクの中で、経営への影響が特に大きく、対応の強化が必要なリスクを「コーポレートリスク」としてテーマを決めて取り組んでいます。コーポレートリスクのテーマは、年1回、社内リスク調査の結果分析、外部環境の分析、経営幹部ヒアリングをもとに、リスク・危機管理委員会で検討を行い、経営会議でリスクテーマとリスクオーナー(責任者:執行役員)を決定しています。リスクオーナーは対策チームを立ち上げて検討を進め、年4回開催するリスク・危機管理委員会で進捗管理を行っています。

リスクと危機の管理活動のプロセス


これら主要リスクは、5年以内に顕在化する可能性があるリスクです。なお、主要リスクの記載順は重要性を反映しており、当連結会計年度末における認識です。記載されたリスク以外のリスクも存在し、それらが投資家の判断に影響を与える可能性があります。

 

(2)主要リスク

14の主要リスクのうち、「コーポレートリスク」として取り組んでいるものについては○を表示しています。また、主要リスクのリスク評価(影響・蓋然性の認識)の変化を対前期で三段階(上昇、状態が変わらない、低下)で示しています。

 

主要リスクの名称

コーポレートリスク
としての取り組み

リスク評価の変化

原材料調達

 


大地震・自然災害・事故


地政学


情報セキュリティ


社会課題への対応


製品等の品質


レピュテーション


パンデミック


人財確保

 


流通環境の変化

 


事業投資

 


コンプライアンス

 


為替変動

 


訴訟

 


 

 

リスク評価(影響、蓋然性の認識)の変化


:上昇


:状態が変わらない


:低下

 

 

原材料調達

 

(背景)

当社グループで使用している天然油脂や石油関連の原料の市場価格は、世界景気、地政学的リスク、需給バランス、異常気象、為替の変動等の影響を受けます。

また、原材料はパーム油や紙・パルプ等の自然資本に大きく依存しており、省資源、地球温暖化防止、生物多様性保全等の環境側面、安全・衛生、労働環境、人権等の社会側面に十分配慮し、持続可能な調達を実現することで、企業としての社会的責任を果たしていく必要があります。

 

(リスクと影響)

・原材料の市場価格に急激な変動が生じた場合、目標とする利益が得られない可能性があります。

・原材料には、調達上希少な原材料も一部含まれており、安定調達に関わるリスクがあります。需給の変動等による市況の急激な変化や、サプライヤーのトラブル発生により製品の市場への供給に支障をきたした場合、目標とする売上高、利益が得られないだけでなく、当社グループの信用の低下につながる可能性があります。

・サプライチェーン上の何らかの理由で、持続可能で責任ある調達への取り組みが不十分と見なされた場合、当社グループのブランドイメージ、信用の低下につながる可能性があります。

 

(対応)

当社グループは、原材料価格の上昇に対して、原価低減や売価への転嫁等の施策を行い、その影響の軽減を図っています。安定調達に関わるリスクに対しては、主力サプライヤーでの設備増強と、リスク分散のためのセカンドサプライヤーの確保を進めています。また、サプライヤーとの契約見直しや協働を積極的に行い、リスク低減を進めています。

一方、持続可能で責任ある調達の実践に向けて、“お取引先とのESG推進活動”ガイドラインを公表し、サプライチェーン上での人権保護や環境保全の確認を進めています。特にリスクの高いサプライチェーンをハイリスクサプライチェーンと定義し、本質的な課題解決に向けて、サプライヤー並びにNGOとの連携の下、取り組んでいます。また、原材料の使用量削減や、非可食バイオマス由来の原材料等への転換にも取り組んでいます。

Sedexによるサプライヤーのモニタリング、サプライヤーのコンプライアンス違反ゼロに向けた監査体制の整備、CDPサプライチェーンプログラムの取り組み、また、“お取引先に求めるパートナーシップ要件”ガイドラインを定め、サプライヤーとの連携を強化しています。

ハイリスクサプライチェーンとして位置づけているパーム油の持続可能な調達を目指し、インドネシアの小規模農園に対し、「生産性向上と持続可能なパーム油に対する認証取得を支援するプログラム」を現地のパートナーと協働で実施しています。

これらの取り組みを積極的かつ透明性をもってステークホルダーに公開しています。

 

 

 

 

大地震・自然災害・事故

 

(背景)

化学プラントでの事故や、自然災害が多く発生している昨今、大規模化学プラントを有する企業への安全操業に対する要求はますます高まってきています。

 

(リスクと影響)

・大地震や気候変動に伴う大型台風、洪水等の自然災害により、従業員、設備、サプライチェーン等の被害で、市場への製品供給に大きな支障をきたした場合、経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

・当社グループの工場で、火災・爆発事故等により従業員や周辺地域に大きな被害が発生した場合、経営成績に重大な影響を及ぼすとともに、社会の信用を失う可能性があります。

 

(対応)

火災、爆発及び化学物質漏えいを防止し、安全で安定な操業を維持するために社内監査に加えて外部機関による定期的な評価を通じて保安力の強化に努めています。大地震、大型台風、洪水等をはじめとする自然災害の発生を想定した対応体制の整備、設備対応並びに社員の教育・啓発、定期訓練を行い、緊急事態に備えています。

コーポレートリスクとして、日本の長期操業停止を想定した首都直下地震、南海トラフ地震、富士山噴火等に対する影響分析と対応検討を進めています。また、海外拠点のBCP強化に取り組んでいます。

 

 

 

地政学

 

(背景)

当社グループが事業展開している欧州や東アジアにおいて地政学リスクの高い状態が続いています。また、原材料調達を実施している国・地域においても地政学リスクが高まる可能性があります。

 

(リスクと影響)

地政学リスクの高まっている国・地域において、政治的・社会的情勢の不安定化、外交関係の緊迫化、そして、紛争等により、事業を取り巻く環境が悪化し、人的被害の発生、サプライチェーンの寸断による操業の一時停止、生活者の購買行動の変化が発生した場合、当社グループが目標とする売上高、利益が得られない可能性があります。

 

(対応)

地政学リスクの高まっている国・地域においてリスクシナリオを作成し、特に注意すべき国・地域に対しては、対応体制を整備し、政治的・社会的状況をモニタリングしています。社員の安全確保に関するガイドラインを策定し、また、原材料調達等のサプライチェーン寸断に伴う事業への影響を確認してサプライチェーンネットワークの強化を進めています。

なお、「地政学」は、コーポレートリスクとして取り組んでいます。

 

 

 

情報セキュリティ

 

(背景)

当社グループは、ITやAIを活用して事業や業務を効率的に進めるとともに、データを活用したビジネスを進めています。研究開発、生産、マーケティング、販売等に関する機密情報(トレードシークレット(TS))を保有し、また、販売促進活動、会員サイト運営やEコマースを進める上で、多くのお客様の個人情報を保有しています。

当社グループは、情報セキュリティポリシーのもと、TS・個人情報及びハードウェア・ソフトウェア・各種データファイル等の情報資産の保護を目的とした情報セキュリティの強化を図っています。

 

(リスクと影響)

・サイバー攻撃を含む意図的な行為や過失等により、機密情報や個人情報が外部に流出する可能性があります。また、サプライチェーン等の事業活動が一時的に中断する可能性があります。このような事象が発生した場合、信用の低下や、目標とする売上高、利益が得られない可能性があります。

 

(対応)

情報セキュリティの人的・組織的対策としては、日本と海外の情報セキュリティ委員会が花王グループ全体で規程や体制を整備し、PDCAサイクル(啓発活動、自己点検、改善目標の設定)によるTS・個人情報・情報セキュリティの保護推進活動を実施しています。また、CSIRT(Computer Security Incident Response Team)やSOC(Security Operation Center)を整備し、インシデント発生時の対応体制を強化しています。技術的対策としては、セキュリティ対策の戦略ロードマップを作成し、これに沿ってセキュリティ対策の強化を実施し、定期的に経営会議や監査役に報告を行っています。また、サプライチェーンのセキュリティリスクを把握するためにサードパーティ・ロジスティックス、サプライヤー、製造委託先のセキュリティ対策のヒアリングを実施しています。重大なインシデントに備えサイバー保険への加入も行っています。

新事業においても顧客・委託先・協業先等の取引先とTSや個人情報(RNA等の個人関連データを含む)の扱いについて契約で取決めを行い、さらに取扱いや運用のルールを作成し情報管理の徹底を図っています。

なお、コーポレートリスクとしてサイバー攻撃対応に取り組んでいます。

 

 

 

 

社会課題への対応

 

(背景)

気候変動、プラスチックごみ問題、水資源の枯渇、生物多様性の損失、有害化学物質による汚染、原材料調達を含むバリューチェーン全体における環境や人権問題、そして、高齢化社会の進行や衛生問題等の社会課題の増大は、環境や健康等に対する生活者の意識を高め、エシカル消費の潮流やサステナビリティに対する顧客ニーズの高まりをもたらしています。

これら社会課題の解決に向けて、中期経営計画「K27」を実行するとともに、ESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」(KLP)を推進しています。原材料の調達から生産、製品の使用、廃棄に至るあらゆる段階でのイノベーションを目指すとともに、社会・環境の両視点から花王が優先的に取り組むべき19の重点取り組みテーマについて目標を設定し、全社全部門がそれぞれの役割の中で取り組んでいます。それらの推進並びに進捗管理を通じて、社会のサステナビリティへの貢献を目指すと同時に、活動内容を積極的にステークホルダーに開示し透明性の高いエンゲージメントに努めています。

 

(リスクと影響)

・社会課題の解決に向けた取り組みが目標に対して不十分である、あるいは不十分と見なされた場合、製品やサービスを生活者や顧客に受け入れていただけず、目標とする売上高、市場シェアが得られない可能性があります。

・KLPでコミットメントしたKPIの進捗状況を十分に示せないと、「グリーンウォッシュ」※1 と捉えられる等企業価値の低下につながる可能性があります。一方、グリーンウォッシュを恐れ、積極的なESGに関する情報開示や発信を控えると、「グリーンハッシング」※2 として、社会、顧客からの信頼低下のリスクにもつながります。

・気候変動については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2)気候変動への対応(TCFD提言への取組)」で示した「主な事業リスクと機会」に記載している移行リスク(炭素税の導入・引上げ、プラスチック規制の導入、エネルギー価格の上昇、原材料価格の上昇)と物理リスク(異常気象の激甚化)があります。

・人権侵害や人権への配慮不足と見なされた場合、バリューチェーンの維持等の事業活動に支障をきたす可能性があります。

化学物質に関する規制変更に対して適切かつ迅速に対応できない場合、事業活動への影響だけでなく、社会、顧客からの信頼低下を招くリスクがあります。

 

(対応)

事業の成長と社会への貢献の両輪の実現を目指して、ESGコミッティのもとに、重点的に取り組むべきテーマを推進する4つのESGステアリングコミッティを発足させ、ガバナンス体制を強化しています。ESGステアリングコミッティは「脱炭素」「プラスチック包装容器」「人権・DE&I」「化学物質管理」からなり、テーマごとに役員クラスの責任者を置いています。テーマに関する機会とリスクを社会・環境・事業インパクトの面から分析・把握し、対応計画を立案、推進することで、ESGよきモノづくりの実施を確実に進めています。

気候変動に関する対応は、上記ガバナンス体制の下で実施しており、各リスクへの対応策は、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2)気候変動への対応(TCFD提言への取組)」で示した「主な事業リスクと機会」の「花王の対応状況」に記載しています。

人権侵害ゼロに向けて、バリューチェーン上のリスクアセスメントを実施し、リスクを把握し対応を進めるとともに、社員に対して人権問題に関する啓発を行っています。

また、コーポレートリスクとして、社会課題への取り組みに対するステークホルダー等の評価・要請をグローバルで把握することで、レピュテーションリスクの低減に取り組んでいます。

 

 

 

※1 グリーンウォッシュ

企業が、製品やサービスについて、環境及びサステナビリティに関する特徴を誇張もしくは大げさに主張したり、それらに関する活動について十分な根拠なく訴求すること。

※2 グリーンハッシング

企業が、グリーンウォッシュを恐れ、自社の環境に関する取り組みや気候変動対策についての開示や発信を控えること。

 

製品等の品質

 

(背景)

当社グループの品質保証活動の基本は、「花王ウェイ」で示された生活者・顧客起点の心を込めた“よきモノづくり”です。原材料から研究開発、生産、輸送、販売までのすべての段階において、徹底した生活者・顧客視点で、高いレベルで製品の安全性を追求し、絶えざる品質向上に努めています。社会においては、生活者の品質価値の多様化、化学物質の安全性への懸念や環境問題への意識の高まり、さらには、企業の透明性を促す情報開示要求等の変化が起こっており、また、クロスボーダーのモノづくりや商流がグローバルに進展しています。一方、各国・地域は、持続可能な社会や生活者保護の強化を目指して、新たな法規制の枠組み作りに動き出しています。

そのような中、当社グループは、市場の多様化と価値観の変化を機会と捉え、新規技術開発に挑戦し、新規分野への事業展開も計画しています。

 

(リスクと影響)

・重大な品質問題の発生はブランドの問題だけではなく当社グループ全体の信用低下につながる可能性があります。また、新たな安全性や環境問題の発生や各国・地域の急激な法規制の変更に対して適切かつ迅速に対応できない場合には、タイムリーな商品提供機会を失う可能性があります。

 

(対応)

当社グループでは、製品関連法規の遵守並びに自主的に設定した厳しい基準に従って、設計、製造を行っています。発売前の開発段階では、徹底的に試験、調査研究を行い、品質と安全性を確認しています。発売後には、生活者相談窓口を通じて、商品への意見、要望等をくみ上げ、さらなる品質向上に努めています。

化学物質の安全性懸念や環境問題に対する要求に先回りした商品開発の推進、積極的な情報開示による品質保証活動の見える化とステークホルダーとのコミュニケーション強化に取り組んでいます。さらには、各国・地域の新たな法規制に対する影響分析、法規制への適合性を迅速に確認できるシステムの構築に取り組んでいます。

また、コーポレートリスクとして、品質問題により重篤な被害が生じた場合に被害を最小化するための全社対応の強化と、重大品質問題発生防止に向けた社内啓発の強化を進めています。

 

 

 

 

レピュテーション

 

(背景)

ソーシャルメディアの発展と普及により、個人や企業のコミュニケーション手法は多様化し、迅速かつ広範囲に情報を伝えることが可能となりました。企業はソーシャルメディアを通じた、多様なマーケティング活動で、生活者とのエンゲージメントを高められる一方で、ネガティブな情報や誤解も瞬時に広がるため、企業やブランドの評判を損なう「レピュテーションリスク」に注意を払う必要があります。レピュテーションリスクは企業に財務的、非財務的損失を及ぼす可能性があります。

 

(リスクと影響)

当社グループでは、様々な情報発信やマーケティング活動を行っています。しかし、これらの活動で使用された不適切、又は不用意な表現に対してネガティブな評判や誤解がソーシャルメディア等を通じて拡散されると、レピュテーションリスクとなり、ブランドの価値や企業の信用を損なう可能性があります。

・事業活動には様々なリスクが伴います。これらのリスクが顕在化した場合、ソーシャルメディアを通じて企業の対応や姿勢が問われることがあります。顕在化したリスクへの対応に加えて、レピュテーションリスクにも対応が必要であり、適切な対応ができない場合、ブランドの価値や企業の信用を損なう可能性があります。

 

(対応)

当社グループでは、広告等の不適切な表現を防止するために、ESG等の観点を踏まえた事前チェックを行う体制を整備し、社内教育にも力を入れています。また、国内外におけるソーシャルメディアのモニタリングによるリスクの早期発見にも努めています。そして、リスクが顕在化した際には正しい情報や企業姿勢を公表することで、当社グループのレピュテーション(評判・信用)の維持に努めています。

レピュテーションリスク対応は、コーポレートリスクとして取り組んでいます。

 

 

 

パンデミック

 

(背景)

新型コロナウイルス感染症は、エンデミックとなり一般の感染予防対応となりましたが、今後も耐性菌による抗生物質が効かない感染症の再来等、新興再興感染症によるパンデミックの発生が危惧されています。

 

(リスクと影響)

・パンデミックが発生すると、当社グループの拠点やサプライチェーン上での集団感染の発生やロックダウン等により、製品やサービス提供に支障が生じる可能性があります。

・パンデミックにより外出等の日常生活ができなくなると購買行動にも変化をもたらし、化粧品市場等が縮小する可能性があります。このような事態が発生した場合、目標とする売上高、利益から大きな乖離が生じる可能性があります。

 

(対応)

パンデミックへの対応強化をコーポレートリスクとした上で、新型コロナウイルス感染症時の経験もふまえ、ガイドラインを改訂し、各国行動計画の策定や備蓄品の見直し等を進めています。

 

 

 

※  エンデミック(特定感染)

一定の地域に一定の罹患率又は一定の季節で日常的に繰り返し発生すること。

 

人財確保

 

(背景)

当社グループの「グローバル・シャープトップ」戦略を支える重要テーマは、最大の強みであり資産でもある「人財」の活力最大化です。しかし、グローバルでの人財の獲得競争は激化しており、また、個人のキャリアや働き方に対する価値観がこれまで以上に多様化しています。

 

(リスクと影響)

・大きな環境の変化を先取りし、各分野で必要とする高度な専門性を持つ人財や、変化を先導するリーダーとなる人財の獲得と育成が推進できない場合には、中期経営計画「K27」の遂行に影響を及ぼす可能性があります。

 

(対応)

社員活力の最大化に向けて、多様なバックグラウンドや専門性を持つ人財が、大きな挑戦と国や地域、組織を超えた共創により、能力と個性を最大限に発揮するための取り組みを推進しています。

多様な人財が集い、活躍できる場を整備(フレキシブルな働き方の推進、DE&I推進、社内公募制度等)することで、人財獲得においての優位性を維持できると考えています。また、自学共生の機会の提供(業務を通した経験の拡大、DX等の先端教育を自律的に学べるプログラムの導入等)や自律的なキャリア形成を促進することで社員のさらなる成長が期待できます。

これらの取り組みに加えて、持続的な成長を支える人財の配置・育成や効果的な組織運営について、経営トップをメンバーとする人財企画委員会で毎月議論し、推進しています。

 

 

 

 

流通環境の変化

 

(背景)

近年、デジタルツールの急速な進化やソーシャルメディアの普及に伴い、流通環境や生活者の購買行動はめまぐるしく変化しています。大手ECプラットフォームやメーカー直販ECをはじめ、ソーシャルコマース※1 やライブコマース※2 等新たなECチャネルが拡大したことで、流通は一段と多様化・複雑化しています。また、リアル店舗とECをシームレスにつなぐOMO※3 が進展し、生活者はこれまで以上に高い利便性とパーソナライズされた購買体験を求めるようになりました。

物流に関しては、ドライバー不足や燃料費高騰により、物流コストの増加が顕在化しています。さらに、ドライバー不足対策を目的とした物流効率化法の改正により、ドライバーの荷待ち・荷役時間の短縮やトラックの積載率向上等、荷主として物流効率化に取り組むことが求められています。

 

(リスクと影響)

・流通環境や購買行動の多様化・複雑化に十分対応できない場合、当社グループの販売・マーケティング活動が制約され、目標とする売上高、市場シェア、利益の達成が困難になる可能性があります。

・物流環境の変化に適切に対応できない場合、配送の滞りや、物流コストの大幅な増加等、当社グループの事業活動にも影響を及ぼす可能性があります。

 

(対応)

こうした環境変化に対応するため、当社グループではEC専業企業との連携や流通業とのOMO推進、自社によるライブコマースの実施等、生活者の購買行動の変化に合わせた取り組みを進めています。併せて、SNS上の花王公式アカウント「花王トクトクニュース」を活用した会員獲得を積極的に推進した結果、2024年は830万人(前年比2.2倍)まで拡大しました。会員への情報発信やキャンペーンを通じて店頭への送客を図り、流通業各社との共創を強化しています。さらに、生活者と直接つながる双方向デジタルプラットフォーム「My Kao」を展開し、生活者に役立つ信頼性の高い情報提供や、「花王公式オンラインショップ」及び、製品やより良いサービスを生活者と共創する「My Kaoメンバーサロン」等を運営しています。これらのダイレクトコミュニケーションを通じ、多様化する流通環境や膨大な情報が溢れる状況下でも、利便性向上だけでなく、花王ブランドへの信頼とロイヤリティ向上につながる活動を継続しています。

物流に関しては、国土交通省や経済産業省等が進める「ホワイト物流」推進運動に賛同し、物流効率化や生産性向上に取り組んでいます。自社での取り組みに加え、流通業や他メーカー、物流事業者とも連携し、トラック待機時間削減等のドライバーの作業環境改善、物流平準化、積載率向上等、持続可能な物流体制の構築を目指しています。

 

 

 

※1 ソーシャルコマース

SNS等を通じて商品・サービスを販売するEC形態。

※2 ライブコマース

インターネット上で動画をライブ配信し、視聴者とやり取りしながら販売するEC形態。

※3 OMO(Online Merges with Offline)

オンラインとオフラインの垣根をなくし、シームレスな購買体験を提供する手法。

 

事業投資

 

(背景)

当社グループは、企業価値と相関関係の高いEVAによる投資判断のもと、事業成長やサステナビリティのために積極的な設備投資、M&A等を進めています。これら投資を今後も進めるとともに、継続的なEVA改善を通して企業価値の向上に努めていきます。

 

(リスクと影響)

・投資判断時に想定していなかった水準で、市場環境や経営環境が悪化し、計画との乖離等により期待される効果が生み出せない場合、設備投資により計上した有形固定資産や、M&Aにより計上したのれんや無形資産の減損処理により、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(対応)

当社グループは、重要な投資に対して、期待される効果が計画から大きく乖離していないかを四半期決算毎に確認し、経営会議で報告しています。乖離した場合には、関係部門が必要に応じて今後の方向性や業績改善のための対策を検討しています。

 

 

 

 

コンプライアンス

 

(背景)

事業活動を行う上で、製品の品質・安全性、知的財産、環境保全、保安防災、労働安全、化学物質管理、取引管理、情報開示等の法規制等に対する企業の取り組みの強化が求められています。

 

(リスクと影響)

・世界的競争が激化する中で、差別化、販売スケジュールや製品納期の遵守、業績目標達成等の圧力により不正リスクが高まることが懸念されます。

・在宅勤務と出社を組み合わせたハイブリッドワークが普及し、働き方の多様化が進む中で、職場での接点が減少しています。加えて、コンプライアンスに対する過剰な警戒が職場のコミュニケーションを希薄化させ、人間関係や職場環境に悪影響を及ぼすことがあり、ハラスメントや労務管理上のコンプライアンスリスクが増加する可能性があります。

・当社グループ及び委託先等が重篤なコンプライアンス違反を起こした場合は、当社グループの信用、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(対応)

当社グループは、「正道を歩む」(法と倫理に則って行動し、誠実で清廉な事業活動を行う)をコンプライアンスの原点と位置づけ、すべてのステークホルダーの支持と信頼にこたえていくための指針とし、行動規範である「花王ビジネスコンダクトガイドライン」の継続的な教育やコンプライアンス通報・相談への適切な対応等の活動を進めています。ハラスメントや労務管理上のコンプライアンスリスクについては、ケーススタディ等を通じて気づきを与えています。さらに、職場での相互理解を深めるための取り組みとして、対話促進活動「対話フェス」も行っています。また、重篤なコンプライアンスリスクの低減にフォーカスした活動として、事業に適用される法令遵守推進を計画的に実施し、特に重要な法令についてはその実施状況をコンプライアンス委員会がモニタリングしています。重篤なコンプライアンス違反を発見した場合、すぐに経営陣に報告され適切な対応を行えるよう、風通しの良い職場の実現を目指した活動を推進しています。

 

 

 

為替変動

 

(背景)

為替相場の変動は、外国通貨建ての売上高や原材料の調達コストに影響を及ぼします。また、連結決算における在外子会社の財務諸表の円貨換算額にも影響を及ぼします。

 

(リスクと影響)

・当社グループの機能通貨である円に対して外貨の為替変動が想定以上となった場合、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(対応)

外国通貨建て取引については、外貨預金口座を通じての決済、為替予約や通貨スワップ等のデリバティブ取引により為替変動リスクをヘッジすることで、経営成績に与える影響を軽減しています。なお、投機的なデリバティブ取引は行っていません。また、主要通貨の変動と事業への影響をモニタリングし、適時、経営会議に報告しています。そして、必要に応じて経営陣指示のもと、関係部門は事業への影響を軽減する対策を検討しています。

 

 

 

訴訟

 

(背景)

当社グループは、グローバルで多岐にわたる事業展開をしており、様々な訴訟等を受ける可能性があります。

 

(リスクと影響)

・当連結会計年度において、当社グループに重要な影響を及ぼす訴訟等は提起されていません。しかしながら、訴訟等が提起された場合、その動向によっては、当社グループの信用、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(対応)

当社グループは、事業に関わる各種法令を遵守するとともに、安全・安心な製品の提供、知的財産権の適正な取得・使用、契約条件の明確化、相手方との協議の実施等により紛争の発生を未然に防ぐよう努めています。また、グローバルで、重要な訴訟の提起や状況に関する報告が迅速かつ確実になされる仕組みを構築するとともに、当社グループ各国の担当者及び弁護士事務所等と連携し、訴訟等に対応する体制を整備しています。

 

 

 

(3)主要リスクの中期経営計画「K27」との関連性

14の主要リスクのうち、「原材料調達」、「社会課題への対応」、「製品等の品質」、「人財確保」、「流通環境の変化」、「事業投資」を中期経営計画「K27」との関連性が特に大きいリスクと認識して対応しています。

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、経営成績等)の状況の概要及び経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は、以下のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末において判断したものです。

 

(1)経営成績の分析

注:以下、「実質」とは為替変動の影響を除く増減率を表示しています。また、数量等には製品構成差を含んでいます。

下記表内の2023年12月期と増減率の営業利益以下の下段数値は、2023年度に実施した構造改革に係る影響を除いた「コア利益」に基づいて算出しています。

 

売上高

(億円)

営業利益

(億円)

営業利益率

(%)

税引前利益

(億円)

当期利益

(億円)

親会社の
所有者に
帰属する
当期利益

(億円)

基本的
1株当たり
当期利益

(円)

2024年12月

16,284

1,466

9.0

1,510

1,104

1,078

231.94

2023年12月

15,326

600

3.9

638

462

439

94.37

1,147

7.5

1,185

883

860

184.95

増減率

6.3%

144.3%

136.6%

139.1%

145.7%

145.8%

実質3.3%

27.8%

27.4%

25.1%

25.3%

25.4%

 

 

当期の世界経済は、欧州や中東の地政学リスクや大国間の国際的な緊張によって回復が妨げられました。また、インフレの長期化と金融引き締めが消費や投資の回復を鈍らせました。日本では、物価高が続く中で賃上げの動きが広がり、内需の回復が経済成長を支える重要な鍵となっています。このように経営環境は不透明な状況が続きました。

当社グループの主要市場である日本のコンシューマープロダクツ(トイレタリー及び化粧品)市場は、小売店の販売実績や消費者購入調査データによると前期を上回りました。

当社グループは、花王グループ中期経営計画「K27」の達成のため、顧客の重大なニーズに、エッジの効いたソリューションで世界No.1の貢献をする「グローバル・シャープトップ戦略」を着実に推進しています。

売上高は、前期に対して6.3%増1兆6,284億円(為替3.0%増、実質3.3%増(内訳:数量等1.7%増、価格1.5%増))となりました。営業利益は、1,466億円(対前期866億円増)、営業利益率は9.0%となりました。税引前利益は1,510億円(対前期872億円増)、当期利益は、1,104億円(対前期642億円増)となりました。

基本的1株当たり当期利益は231.94円となり、前期の94.37円より137.57円増加(前期比145.8%増)しました。

当社グループが経営指標としているROIC(投下資本利益率)は9.2%となり、EVA(経済的付加価値)は、NOPAT(税引後営業利益)が大幅に増加する中、資本コストも若干増加しましたが、前期を183億円上回り332億円となりました。

 

当期の海外連結子会社等の財務諸表項目(収益及び費用)の主な為替の換算レートは、次のとおりです。

 

第1四半期

(1-3月)

第2四半期

(4-6月)

第3四半期

(7-9月)

第4四半期

(10-12月)

米ドル

148.22

円[

132.29円]

155.72

円[

137.30円]

149.44

円[

144.49円]

152.30

円[

147.84円]

ユーロ

160.99

円[

141.98円]

167.68

円[

149.50円]

164.04

円[

157.23円]

162.55

円[

159.01円]

中国元

20.63

円[

19.33円]

21.51

円[

19.58円]

20.84

円[

19.94円]

21.19

円[

20.45円]

 

注:[ ]内は前期の換算レート

 

〔セグメント別の概況〕
セグメントの業績

 

売上高

営業利益(上段)

コア営業利益(下段)

通期

増減率

通期

増減

(億円)

2023年
12月期
(億円)

2024年
12月期
(億円)

(%)

実質
(%)

2023年12月期

2024年12月期

(億円)

利益率
(%)

(億円)

利益率
(%)

 

 

ファブリック&ホームケア製品

3,491

3,757

7.6

6.8

507

14.5

684

18.2

177

 

 

510

14.6

174

 

 

サニタリー製品

1,734

1,686

(2.8)

(5.4)

(306)

(17.6)

73

4.4

379

 

 

(91)

(5.2)

164

 

ハイジーン&リビングケア事業

5,225

5,443

4.2

2.8

201

3.9

758

13.9

556

 

419

8.0

339

 

ヘルス&ビューティケア事業

3,929

4,240

7.9

4.1

405

10.3

344

8.1

(60)

 

428

10.9

(84)

 

ライフケア事業

563

559

(0.7)

(2.6)

(53)

(9.4)

63

11.3

116

 

(13)

(2.3)

76

 

化粧品事業

2,386

2,441

2.3

0.0

(54)

(2.3)

(37)

(1.5)

17

 

53

2.2

(90)

コンシューマープロダクツ事業

12,103

12,682

4.8

2.4

499

4.1

1,128

8.9

629

887

7.3

241

ケミカル事業

3,661

4,059

10.9

6.1

236

6.4

346

8.5

111

248

6.8

99

小  計

15,764

16,741

6.2

3.3

735

1,475

740

1,135

340

セグメント間消去又は調整

(439)

(457)

(134)

(8)

126

12

(20)

合  計

15,326

16,284

6.3

3.3

600

3.9

1,466

9.0

866

1,147

7.5

319

 

 

 

販売実績

(億円、増減率%)

通期

日本

アジア

米州

欧州

合計

 

 

ファブリック&ホームケア製品

2023年

3,003

451

38

3,491

2024年

3,279

443

35

3,757

増減率

9.2

(1.8)

(8.1)

7.6

実質

9.2

(7.3)

(14.5)

6.8

サニタリー製品

2023年

804

929

1

1,734

2024年

765

921

1,686

増減率

(4.9)

(0.9)

(2.8)

実質

(4.9)

(5.7)

(5.4)

ハイジーン&リビングケア事業

2023年

3,807

1,380

38

5,225

2024年

4,044

1,364

35

5,443

増減率

6.2

(1.2)

(9.5)

4.2

実質

6.2

(6.2)

(15.8)

2.8

ヘルス&ビューティケア事業

2023年

2,053

345

1,012

519

3,929

2024年

2,121

367

1,125

627

4,240

増減率

3.3

6.2

11.2

20.7

7.9

実質

3.3

0.7

3.2

11.2

4.1

ライフケア事業

2023年

421

1

139

1

563

2024年

402

2

152

2

559

増減率

(4.5)

234.2

9.4

32.0

(0.7)

実質

(4.5)

219.9

1.8

19.9

(2.6)

化粧品事業

2023年

1,535

500

77

274

2,386

2024年

1,665

391

79

306

2,441

増減率

8.4

(21.8)

2.6

11.8

2.3

実質

8.4

(26.7)

(4.6)

2.9

0.0

コンシューマープロダクツ事業

2023年

7,817

2,226

1,266

794

12,103

2024年

8,232

2,125

1,391

935

12,682

増減率

5.3

(4.6)

9.9

17.7

4.8

実質

5.3

(9.7)

2.0

8.4

2.4

ケミカル事業

2023年

1,339

867

611

844

3,661

2024年

1,384

1,050

683

942

4,059

増減率

3.4

21.0

11.8

11.7

10.9

実質

3.4

13.6

4.8

3.5

6.1

セグメント間売上高の消去

2023年

(388)

(32)

(1)

(19)

(439)

2024年

(386)

(37)

(1)

(32)

(457)

売上高

2023年

8,768

3,062

1,877

1,620

15,326

2024年

9,230

3,137

2,073

1,845

16,284

増減率

5.3

2.4

10.5

13.9

6.3

実質

5.3

(3.3)

2.9

5.2

3.3

 

注:コンシューマープロダクツ事業は、外部顧客への売上高を記載しており、ケミカル事業ではコンシューマープロダクツ事業に対する売上高を含めています。地域別の売上高は、販売元の所在地に基づき分類しています。

 

売上高 対前年同期比分析

 

増減率

(%)

 

為替

(%)

実質

(%)

 

数量等
(%)

価格
(%)

 

 

ファブリック&ホームケア製品

7.6

0.8

6.8

3.3

3.6

 

 

サニタリー製品

(2.8)

2.6

(5.4)

(8.1)

2.7

 

ハイジーン&リビングケア事業

4.2

1.4

2.8

(0.5)

3.3

 

ヘルス&ビューティケア事業

7.9

3.8

4.1

4.0

0.1

 

ライフケア事業

(0.7)

1.9

(2.6)

(2.9)

0.3

 

化粧品事業

2.3

2.3

0.0

(1.6)

1.7

コンシューマープロダクツ事業

4.8

2.4

2.4

0.6

1.8

ケミカル事業

10.9

4.8

6.1

5.6

0.5

合  計

6.3

3.0

3.3

1.7

1.5

 

注:ケミカル事業の売上高は、セグメント間取引を含んでいます。

 

売上高に占める海外に所在する顧客への売上高の割合は、前期の44.3%から44.5%となりました。

 

 

コンシューマープロダクツ事業

売上高は、前期に対して4.8%増1兆2,682億円(為替2.4%増、実質2.4%増(内訳:数量等0.6%増、価格1.8%増))となりました。

世界では、生活者の低価格志向が継続する一方で、品質や機能に優れたコストパフォーマンスの高い製品への需要が高まっています。日本市場では、インフレが継続し慎重な消費が続いています。中国市場では、経済の減速等により個人消費の低迷が続きました。このような中、DXによるマーケティング手法の高度化、高付加価値製品の提案やその価値に見合った価格設定等に取り組みました。

以上の結果、日本の売上高は、前期に対して、5.3%増8,232億円となりました。

アジアの売上高は、4.6%減2,125億円(実質9.7%減)となりました。米州の売上高は、9.9%増1,391億円(実質2.0%増)となり、欧州の売上高は、17.7%増935億円(実質8.4%増)となりました。

営業利益は、2023年から始めた構造改革の取り組み等により稼ぐ力が向上し、1,128億円(対前期629億円増)となりました。

 

当社は、〔ハイジーン&リビングケア事業〕、〔ヘルス&ビューティケア事業〕、〔ライフケア事業〕、〔化粧品事業〕を総称して、コンシューマープロダクツ事業としております。

 

〔ハイジーン&リビングケア事業〕

売上高は、前期に対し4.2%増5,443億円(為替1.4%増、実質2.8%増(内訳:数量等0.5%減、価格3.3%増))となりました。

ファブリック&ホームケア製品の売り上げは、前期に対して7.6%増3,757億円(為替0.8%増、実質6.8%増(内訳:数量等3.3%増、価格3.6%増))となりました。スクラム型の組織運営により商品開発のスピードアップと高付加価値化の推進が順調に進みました。

ファブリックケア製品の売り上げは前期を上回りました。日本では、10月まで猛暑が続き洗濯頻度の増加等により市場が伸長する中、衣料用洗剤等の新製品・改良品が好調に推移し、シェア・数量ともに拡大しました。また、衣料用漂白剤「ワイドハイター」が好調に推移し、柔軟仕上げ剤は回復傾向にあります。

ホームケア製品の売り上げは、前期を上回りました。日本では、食器用洗剤「キュキュット」の改良等により、シェアが継続して伸長したほか、「マジックリン」ブランドの新製品・改良品が好調に推移しました。特にトイレ用クリーナーが大きくシェアを伸ばしました。

ファブリック&ホームケア製品の営業利益は、684億円(対前期177億円増)となりました。

サニタリー製品の売り上げは、前期に対して2.8%減1,686億円(為替2.6%増、実質5.4%減(内訳:数量等8.1%減、価格2.7%増))となりました。

生理用品「ロリエ」の売り上げは、前期を上回りました。日本では、高付加価値の新製品「しあわせ素肌 もちふわfit」等が好調に推移し、売り上げが伸長しました。中国の売り上げは「スーパースリムガード」等の新製品が好調に推移し、前期を上回りました。ベビー用紙おむつ「メリーズ」の売り上げは、前期を下回りました。日本の売り上げは、中国向け等の輸出が減少したことで前期を下回りましたが、シェアは伸長しました。中国では市場縮小や競争激化の影響を受けました。

サニタリー製品の営業利益は、2023年に実施したベビー用紙おむつ事業の構造改革効果、ブランド力強化の活動に加え、ペットケア事業譲渡益の計上等により73億円(対前期379億円増)となりました。

ハイジーン&リビングケア事業の営業利益は、758億円(対前期556億円増)となりました。

 

〔ヘルス&ビューティケア事業〕

売上高は、前期に対して7.9%増4,240億円(為替3.8%増、実質4.1%増(内訳:数量等4.0%増、価格0.1%増))となりました。

スキンケア製品の売り上げは前期を上回りました。日本では「ビオレ」のメイク落としや、UVケア製品、シート関連の新製品等が好調に推移しました。「グローバル・シャープトップ戦略」のもと展開しているUVケア製品を含む「スキンプロテクション」のビジネスは計画通り進捗しています。また、2023年11月に買収したプレミアムスキンケアブランド「Bondi Sands」の売り上げも寄与しています。

ヘアケア製品の売り上げは前期を上回りました。日本では「ケープ」の新製品、リブランディングした「エッセンシャル」が好調に推移したほか、新ヘアケアブランド「melt」、「THE ANSWER」が計画を上回り、新プレミアム戦略を着実に推進しています。欧米では、「JOHN FRIEDA」の新製品が好調に推移しました。ヘアサロン向け製品の売り上げは、米国の「ORIBE」がEコマースを中心に好調に推移し、欧州では「GOLDWELL」も伸長したことで前期を上回りました。

パーソナルヘルス製品の売り上げは、前期を下回りました。

営業利益は、成長のためのマーケティング費用や欧米子会社で構造改革費用を計上したこと等により344億円(対前期60億円減)となりました。

 

〔ライフケア事業〕

売上高は、前期に対して0.7%減559億円(為替1.9%増、実質2.6%減(内訳:数量等2.9%減、価格0.3%増))となりました。

業務用衛生製品の売り上げは、前期を上回りました。日本では外食産業や宿泊施設等で厨房用洗浄剤や客室消耗品・清掃品の需要が高まりましたが、消毒剤の市場縮小が続き、売り上げはほぼ横ばいでした。米国では新製品による新規顧客の獲得等で、売り上げは前期を上回りました。

なお、2024年8月1日にキリンビバレッジ株式会社への茶カテキン飲料「ヘルシア」に関する事業譲渡が完了しました。

営業利益は、事業譲渡益の計上等により63億円(対前期116億円増)となりました。

 

〔化粧品事業〕

売上高は、前期に対して2.3%増2,441億円(為替2.3%増、実質0.0%増(内訳:数量等1.6%減、価格1.7%増)、なお、中国及び前期に実施した日本の化粧品ブランド統廃合による返品引当金等の影響を実質からさらに除くと約4%増)となりました。

日本の売り上げは、市場が順調に推移する中、「KANEBO」がけん引し、「ソフィーナiP」、「キュレル」、「SENSAI」等も好調に推移したことで、前期を上回りました。中国を除くアジアでは、OMO(Online Merges with Offline)の取り組みをより一層強化することで、「キュレル」、「KATE」等が好調に推移しました。一方、中国においては、市場伸長鈍化に加え競争環境激化が続く中、出荷抑制による流通在庫の適正化を実施しました。その結果、アジア全体の売り上げは前期を大幅に下回りました。欧州の売り上げは、「SENSAI」の最高峰シリーズや唇用エイジングケア美容液「トータルリップトリートメントスティック」が好調に推移したこと、また、「MOLTON BROWN」が堅調に推移したこと等により、前期を上回りました。

営業利益は、37億円(対前期17億円増)の損失となりました。

 

ケミカル事業

売上高は、前期に対して10.9%増4,059億円(為替4.8%増、実質6.1%増(内訳:数量等5.6%増、価格0.5%増))となりました。

油脂製品では、顧客の需要が回復基調にある中、新規設備の稼働、販売数量の増加、原料価格の上昇に伴う販売価格の改定により、売り上げは伸長しました。

機能材料製品は、自動車関連分野等の一部対象市場の停滞と海外での競争激化の影響が続いており、売り上げはほぼ前年並みとなりました。

情報材料製品では、ハードディスクや半導体関連等の対象分野の需要の回復を着実に捉えて、売り上げは伸長しました。

営業利益は、電子材料分野などの高付加価値製品の拡販等による増収と油脂製品を中心とした利幅の改善が貢献し、346億円(対前期111億円増)となりました。

 

(2)財政状態の分析

当連結会計年度において、企業結合に係る暫定的な会計処理の確定が行われたことに伴い、確定の内容を反映した数値を用いて前連結会計年度との比較・分析を行っています。

 

(連結財政状態)

 

前連結会計年度

2023年12月末

当連結会計年度

2024年12月末

増減

資産合計(億円)

17,695

18,672

977

負債合計(億円)

7,575

7,684

109

資本合計(億円)

10,120

10,988

868

親会社所有者帰属持分比率

55.6%

57.1%

-

1株当たり親会社所有者帰属持分(円)

2,116.01

2,296.69

180.68

社債及び借入金(億円)

1,385

1,311

(74)

 

 

資産合計は、前期末に比べ977億円増加し、1兆8,672億円となりました。主な増加は、現金及び現金同等物661億円営業債権及びその他の債権121億円棚卸資産109億円です。

負債合計は、前期末に比べ109億円増加し、7,684億円となりました。主な増加は、営業債務及びその他の債務225億円であり、主な減少は、引当金118億円です。

資本合計は、前期末に比べ868億円増加し、1兆988億円となりました。主な増加は、当期利益1,104億円在外営業活動体の換算差額486億円であり、主な減少は、配当金714億円です。

なお、親会社所有者帰属持分比率は、前期末の55.6%から57.1%となりました。親会社所有者帰属持分当期利益率(ROE)は10.5%となりました。

 

 

(3)キャッシュ・フローの分析

(連結キャッシュ・フローの状況)

 

通期

増減

(億円)

2023年12月

(億円)

2024年12月

(億円)

営業活動によるキャッシュ・フロー

2,025

2,016

(9)

投資活動によるキャッシュ・フロー

(1,093)

(459)

634

フリー・キャッシュ・フロー(営業活動+投資活動)

932

1,557

625

財務活動によるキャッシュ・フロー

(800)

(1,046)

(246)

 

 

営業活動によるキャッシュ・フローは、2,016億円となりました。主な増加は、税引前利益1,510億円減価償却費及び償却費884億円、営業債務及びその他の債務の増減額110億円であり、主な減少は、法人所得税等の支払額276億円、引当金の増減額123億円事業譲渡益106億円です。

投資活動によるキャッシュ・フローは、△459億円となりました。主な増加は、有形固定資産の取得による支出574億円無形資産の取得による支出101億円であり、主な減少は、事業譲渡による収入118億円です。

営業活動によるキャッシュ・フローと投資活動によるキャッシュ・フローを合計したフリー・キャッシュ・フローは、1,557億円となりました。

財務活動によるキャッシュ・フローは、△1,046億円となりました。安定的かつ継続的な配当を重視しており、またEVA及びROIC視点から資本効率の向上を目的として、自己株式の取得及び消却も弾力的に行っていきます。当期の主な内訳は、非支配持分への支払いを含めた支払配当金715億円、リース負債の返済による支出216億円、短期借入金の増減額143億円です。

当期末の現金及び現金同等物の残高は、為替変動による影響を含めて前期末に比べ661億円増加し、3,577億円となりました。

 

(4)重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社の連結財務諸表は、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(昭和51年大蔵省令第28号。以下、「連結財務諸表規則」)第312条の規定により、国際会計基準(以下、「IFRS会計基準」)に準拠して作成しております。この連結財務諸表の作成にあたって、採用している重要な会計方針及び見積りについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表に関する注記事項 3.重要性がある会計方針」及び「4.重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断」に記載のとおりであります。

 

(5)資本の財源及び資金の流動性についての分析

使用権資産を含む重要な資本的支出の2025年度の予定額は、約880億円であり、主に当社グループ内の資金を有効活用する予定であります。なお、計画については「第3 設備の状況 3 設備の新設、除却等の計画」に記載のとおりであります。

 

(6)生産、受注及び販売の実績

当社グループの生産・販売品目は、産業界向けのケミカル製品から一般消費者向けのコンシューマー製品まで極めて多種多様であり、それら製品の在庫をほぼ一定の必要水準に保つように、主として見込み生産を行っております。従って、生産実績は販売実績に類似しております。生産及び販売の実績については、「(1) 経営成績の分析」に記載のとおりであります。

 

(7)経営成績に重要な影響を与える要因

経営成績に重要な影響を与える要因については、「3 事業等のリスク」に記載のとおりであります。

 

(8)経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標については、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」、達成状況は、「(1) 経営成績の分析」に記載のとおりであります。

 

 

5 【経営上の重要な契約等】

合弁事業契約

国名

契約先

合弁会社名称

出資比率

※1

契約日

マレーシア

IOI Oleochemical Industries
Berhad

Fatty Chemical

(Malaysia) Sdn. Bhd.

70.0%

※2

1988年2月29日

インドネシア

PT Rodamas

PT Kao Indonesia

50.01%

1994年8月29日

 

※1 当連結会計年度末の出資比率を記載しております。

※2 出資比率は、間接出資比率であり、 Kao Singapore Private Limited(当社100%出資)が出資しております。

 

 

6 【研究開発活動】

私たちは、持続可能で豊かな共生世界を実現することを使命に、「未来のいのちを守る企業」として、人、社会、地球に貢献することを目指しております。研究開発部門では、多様な国や地域の生活者の様々な文化やニーズを理解し、独創的なシーズと組み合わせることにより、新たな価値や市場を創造する画期的な商品・技術の開発に取り組んでおります。

その一つの取り組みとして、重点事業のひとつであるヘアケア事業の変革をスタートさせました。「髪の生きる力を、人の生きる力へ」という事業ビジョンのもと、ヘアケアブランドのフォーメーションを感情ニーズに基づいて再編し、新ブランドを立ち上げました。休みながら美しく“休息美容”を提案する「melt(メルト)」、花王100年のヘアケア研究からたどり着いた補修成分を配合した「THE ANSWER(ジアンサー)」の2ブランドです。これらの変革を通じ、ヘアケア事業を成長ドライバー事業へと育成強化するとともに、各ブランドにおいて、常に生活者の期待を上回るモノづくりを推進していきます。

またケミカル事業においては、ゴムや樹脂製品の製造時に、製品を型枠からスムーズに取り外すための離型剤「ルナフローRA」を発売しました。木材等から得られる繊維をナノレベルまで微細化したバイオマス素材セルロースナノファイバー(CNF)を材料として活用し、優れた離型性が持続することが特徴です。製造工程での作業性向上のみならず、溶剤フリー・フッ素フリーで環境と作業者の両方にやさしい製品設計となっています。今後も、CNFを活用した離型技術を応用し、汚れをつきにくくする製品への展開も視野に入れて、取り組んでまいります。

当社グループ全体で、約2,800名が研究開発業務に携わっております。

当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は、621億円(売上高比3.8%)であり、主な成果は、下記のとおりであります。

 

コンシューマープロダクツ事業

〔ハイジーン&リビングケア事業〕

人々の生活スタイルや価値観の多様なニーズに応え、誰もが安心して快適に暮らせるための清潔・衛生商品を提供すべく、幅広い分野での研究開発を進めております。

ファブリックケア製品では、衣料用濃縮液体洗剤「アタック ZERO」シリーズを改良発売しました。ニオイ戻りの原因の一つとなる「バイオフィルム※1」を根本洗浄※2 し、除菌・抗菌洗剤※3 を超えた“無菌レベルの消臭力※4 ”を実現しました。

ホームケア製品では、台所用漂白剤「キッチン泡ハイター」の泡のボリュームや持続性を向上させて、密着泡を実現し、1998年の発売以来、27年目で初めて改良※5 発売しました。同時に、密着泡で除菌※6 ・漂白・消臭しながら、使用時の塩素臭を低減した「キッチン泡ハイター 無臭性」を新たに発売しました。

サニタリー製品では、生理用品「ロリエ」から、「ロリエ しあわせ素肌 もちふわfit」を新発売しました。からだに自在にフィットする「もちふわクッション」と、おしりのすき間にぴたっとフィットする「V字フィット」 で、やさしいつけ心地でモレにくく、多い日も肌をさらさらに保ちます。

当事業に係る研究開発費は、148億円であります。

※1:菌が作り出す多糖汚れ。

※2:汚れ落ちのメカニズム(根本)から考えた洗浄のこと。

※3:当社酸素系漂白剤・除菌洗剤・抗菌洗剤。

※4:ニオイ菌がいないレベルで嫌なニオイがしないこと。

※5:中身(液)において。

※6:すべての菌を除菌するわけではありません。

 

〔ヘルス&ビューティケア事業〕

世界の人々の肌や髪を深く知るとともに、人が本来持っている健康力を生かしたQOL(Quality of Life:生活の質)の向上を目指した本質研究と、革新的な技術と品質によるユニークで付加価値の高い製品の提案をとおして、健康美と清潔衛生を実現する研究開発に取り組んでいます。

スキンケア製品では、「ビオレ」から、「ビオレZero」を新発売しました。汗を乾かし続ける「高蒸散パウダー」がヴェールのように肌を包み込むことで、さらさら感が長時間持続します。朝、外出前に使用することで、通勤・通学、日中の活動時に汗をかいても快適が続きます。

また、蚊による感染症から「未来のいのちを守る」取り組みの一環として、蚊が肌にとどまることを防ぐアンチ・ランディングテクノロジーを備えた「ビオレガード モスブロックセラム」を、シンガポール、マレーシアで新発売しました。引き続き、社会課題の解決に向けた取り組みを推進していきます。

ヘアケア製品では、ヘアケア事業改革の一環として既存ブランドの強化も行いました。主力ヘアケアブランド「Essential(エッセンシャル)」において、新たに「Brighten Me Up!<ときめきが世界を変える>」をブランドコンセプトに、「Essential Premium(エッセンシャル プレミアム)」シリーズを新発売、「Essential」のベーシックシリーズの改良発売を行いました。また、年齢に応じた髪の本質ケアを行うブランド「Segreta(セグレタ)」では、「Segreta PREMIER(セグレタ プレミア)」を新発売、既存の「Segreta」ベーシックシリーズは、パッケージデザインを刷新するとともに、洗い流さないトリートメント「セグレタ シアーコート ヘアミスト」「セグレタ スムースフィット ヘアオイル」をラインアップに加え、改良発売しました。

パーソナルヘルス製品では、ブランド「めぐりズム」から、花王初の管理医療機器「めぐりズムメディカルアイケアマスク」を一部のECにて先行発売しました。乾燥による目の不快感に対する蒸気温熱の効果について学術研究を進めた結果、管理医療機器としての承認を得ることができました。

当事業に係る研究開発費は、221億円であります。

※:「医療機器」とは、薬機法第2条第4項で人もしくは動物の疾病の診断、治療もしくは予防に使用されること、又は、人もしくは動物の身体の構造もしくは機能に影響を及ぼすことが目的とされる機械器具等であり、政令で定めるものをいいます。その中でも「管理医療機器」は薬機法第2条第6項で適切な管理が必要な医療機器と定められています。

 

 

〔ライフケア事業〕

高機能な製品開発と、モニタリング技術を活用した一人ひとりへの精度の高いソリューションの提供を目指し、心身の健康をサポートし、人々のウェルネスの向上につながる研究を進めています。

「皮脂RNAモニタリング」に関連する活動の一環として、株式会社アイスタイルと、ビューティ&ヘルス産業のサステナブルな発展を目的とした「RNA共創コンソーシアム」を共同設立しました。美容健康サービスの「作る」「売る」「選ぶ」ための新基準制定や標準化、ビジネスユースケースの実証、ビジネス連携支援等の活動を推進します。

また、株式会社ヘルスケアシステムズ社を通じて、「皮脂RNAモニタリング」技術を用いて皮脂RNAの受託分析を行うサービスを開始しました。皮膚科学、健康科学、医療をはじめとする様々な領域の研究・製品開発への活用が期待できます。

当事業に係る研究開発費は、18億円であります。

※:肌表面から採取した皮脂中のRNAから、個人の違いだけでなく、加齢や疲労、病気等の体調の変化や、外的ストレスの影響を解析する技術。

 

〔化粧品事業〕

世界の人々の肌を深く知る本質研究による確かなエビデンスと五感に訴える感性研究を融合して、新しい美の価値創造を目指しております。

カウンセリング化粧品では、「KANEBO」から、リップ「ルージュスターヴァイブラント」を新発売しました。内から湧き上がるような血色感とみずみずしいツヤを纏い、脈打つような生命感のある仕上がりが続きます。また、美容液「カネボウ フュージョニング ソリューション」を新発売しました。肌の凹凸や動きにも追従する、均一でなめらかな浸透膜を形成し、うるおいを閉じ込めて、やわらかくなめらかな肌へ導きます。

「キュレル」では、保湿クリーム「キュレル 潤浸保湿 パウダーバーム」を新発売しました。髪の毛やほこり等の不快接触や摩擦から肌を保護するだけではなく、毛穴・凹凸をぼかしてなめらかに整えます。

「ソフィーナiP」では、保湿クリーム「ソフィーナiP ゴールデンタイムリペア 深夜浸透クリーム」を新発売しました。就寝前に使用することで夜間に保湿成分が角層細胞まで浸透し、翌朝のもっちりハリツヤ肌へ導きます。

当事業に係る研究開発費は、117億円であります。

 

ケミカル事業

油脂科学、界面科学、高分子科学等における研究開発の成果をさらに深化させ、幅広い産業界の多様なニーズに対応した特徴あるケミカル製品を提供すべく、研究開発に取り組んでおります。

佐賀県佐賀市が有する清掃工場から排出されるCO2を回収・精製できる設備を利用し、独自の植物工場「SMART GARDEN (スマートガーデン)」を構築しました。「スマートガーデン」では、使用電力や水使用量において環境負荷を低減しつつ、植物を効率よく栽培することが可能です。さらに、栽培した植物からエキスの抽出まで一気通貫で行い、高純度・高効能な植物エキスを得ることができる成分制御技術を開発しました。

油脂製品では、オレオケミカルや三級アミンにおいて独自の触媒・プロセス技術開発を進めており、機能材料製品では、環境負荷低減に対応した付加価値製品の開発を進めております。

情報材料製品では、ポリマー設計技術を駆使した超低温定着ケミカルトナー(LUNATONE)や独自開発のVOCレス設計の水性インクジェット用顔料インク(LUNAJET)で印刷分野でのさらなる展開を強化していきます。

当事業に係る研究開発費は、118億円であります。

※:印刷工程において排出されるVOC(volatile organic compounds:揮発性有機化合物)が(炭素換算で)700ppmC以下のものをVOCレスと定義。改正大気汚染防止法(平成18年)により、VOC排出規制が実施されております。